読んだ本の紹介です。感想や紹介したい部分を書いたものです。

過去ログ  (その10)120冊

   平成20年1月〜 平成20年12月 
        

No 読んだ日  書      名 著   者 おすすめ度
1337 2008-12-29 銀のみち 一条 上・下 玉岡 かおる ★★★★★
1336 2008-12-26 土井徹先生の診療事件簿 五十嵐 貴久 ★★★★
1335 2008-12-22 元職員 吉田 修一 ★★★
1334 2008-12-20 いつかX橋で 熊谷 達也 ★★★★★
1333 2008-12-18 ささらさや 加納 朋子 ★★★★★
1332 2008-12-16 悼む人 天童 荒太 ★★★★★
1331 2008-12-14 乞食の子 頼 東進 ★★★★★
1330 2008-12-12 不連続の世界 恩田 陸 ★★★
1329 2008-12-8 くじら日和 山本 一力 ★★★
1328 2008-12-5 復活の条件 森村 誠一 ★★★★
1327 2008-12-1 犯意 乃南 アサ ★★★★
1326 2008-11-27 女王蘭 新堂 冬樹 ★★★★
1325 2008-11-25 今日の特集 戸梶 圭太 ★★★
1324 2008-11-22 枕女優 新堂 冬樹 ★★★★
1323 2008-11-20 空へ向かう花 小路 幸也 ★★★★★
1322 2008-11-18 越境捜査 笹本 稜平 ★★★★★
1321 2008-11-15 還らざる道 内田 康夫 ★★★★
1320 2008-11-11 TOKAGE 特殊遊撃捜査隊 今野 敏 ★★★★★
1319 2008-11-9 京女殺人法廷 姉小路 祐 ★★★★★
1318 2008-11-6 モダンタイムス 伊坂 幸太郎 ★★★
1317 2008-11-2 制服捜査 佐々木 譲 ★★★★
1316 2008-10-31 還るべき場所 笹本 稜平 ★★★★
1315 2008-10-29 カオスの娘 島田 雅彦 ★★★★
1314 2008-10-27 棟居刑事の殺人隙間 森村 誠一 ★★★★
1313 2008-10-25 覇王の番人 上・下 真保 裕一 ★★★★
1312 2008-10-22 警官の血 上・下 佐々木 譲 ★★★★★
1311 2008-10-20 魔女の盟約 大沢 在昌 ★★★★
1310 2008-10-16 いのちなりけり 葉室 麟 ★★★★
1309 2008-10-14 酔いどれ剣客 鳥羽 亮 ★★★★
1308 2008-10-12 不正侵入 笹本 稜平 ★★★★
1307 2008-10-9 闇の子供たち 梁 石日 ★★★★★
1306 2008-10-4 日無坂 安住 洋子 ★★★★
1305 2008-10-2 21 twenty one 小路 幸也 ★★★★
1304 2008-10-1 一朝の夢 梶 よう子 ★★★★
1303 2008-9-30 天空の祝宴 堂場 瞬一 ★★★★★
1302 2008-9-27 四角形の遺産 大沢 在昌 ★★★★
1301 2008-9-26 帝都衛星軌道 島田 荘司 ★★★★
1300 2008-9-22 夢は枯れ野をかけめぐる 西澤 保彦 ★★★★
1299 2008-9-21 夜騎士物語 新堂 冬樹 ★★★★
1298 2008-9-20 しゃぼん玉 乃南 アサ ★★★★★
1297 2008-9-19 グラニテ 永井 するみ ★★★★★
1296 2008-9-18 ジェミニの方舟 東京大洪水 高嶋 哲夫 ★★★★★
1295 2008-9-17 青春の十字架 森村 誠一 ★★★★★
1294 2008-9-16 9・11倶楽部 馳 星周 ★★★★★
1293 2008-9-15 見切り 小杉 健治 ★★★★
1292 2008-9-11 麻酔科医 江川 晴 ★★★★
1291 2008-9-8 地の日 天の海 上・下 内田 康夫 ★★★★
1290 2008-9-3 非正規レジスタンス 池袋ウエストゲートパーク[ 石田 衣良 ★★★★
1289 2008-9-1 インターセックス 帚木 蓬生 ★★★★★
1288 2008-8-30 花鯛 明川 哲也 ★★★★
1287 2008-8-29 あたり 山本 甲士 ★★★★
1286 2008-8-27 非常識家族 曽野 綾子 ★★★
1285 2008-8-25 ひかりの剣 海堂 尊 ★★★★★
1284 2008-8-22 誘拐児 翔田 寛 ★★★★
1283 2008-8-20 早刷り岩次郎 山本 一力 ★★★★
1282 2008-8-17 ミヤンマー 乃南 アサ ★★★
1281 2008-8-11 銀河不動産の超越 森 博嗣 ★★★★
1280 2008-8-6 楽園 上・下 宮部 みゆき ★★★★★
1279 2008-8-3 カイシャ デイズ 山本 幸久 ★★★
1278 2008-8-1 サハラ 笹本 稜平 ★★★
1277 2008-7-31 ノーフォールト 岡井 崇 ★★★★★
1276 2008-7-29 ファイアー・フライ 高嶋 哲夫 ★★★★★
1275 2008-7-27 遠ざかる家 片山 恭一 ★★★
1274 2008-7-25 いすゞ鳴る 山本 一力 ★★★
1273 2008-7-21 マラリア 桂 美人 ★★★★
1272 2008-7-19 ジパク 山田 宗樹 ★★★★★
1271 2008-7-17 冬の陽炎 梁 石日 ★★★★★
1270 2008-7-15 優しい悪魔 垣谷 美雨 ★★★★★
1269 2008-7-13 年下の男の子 五十嵐 貴久 ★★★★★
1268 2008-7-12 菜種晴れ 山本 一力 ★★★★★
1267 2008-7-10 ポジ・スパイラル 服部 真澄 ★★★★★
1266 2008-7-7 義弟 永井 するみ ★★★★★
1265 2008-7-5 オレたち花のバブル組 池井戸 潤 ★★★★★
1264 2008-7-3 ホーラ −死都− 篠田 節子 ★★★★
1263 2008-7-2 新世界 上・下 貴志 祐介 ★★★★
1262 2008-6-27 金融腐食列島【完結編】 第3巻 高杉 良 ★★★★★
1261 2008-6-25 びわ湖環状線に死す 西村 京太郎 ★★★
1260 2008-6-23 生命徴候あり 久間 十義 ★★★★★
1259 2008-6-20 やつらを高く吊るせ 馳 星周 ★★★★★
1258 2008-6-18 愛しの座敷わらし 荻原 浩 ★★★★★
1257 2008-6-15 荒野 桜庭 一樹 ★★★★★
1256 2008-6-13 東京島 桐野 夏生 ★★★★★
1255 2008-6-10 あぽやん 新野 剛志 ★★★★
1254 2008-6-8 国境の少女 ブライアン・マギロウェイ ★★★★
1253 2008-6-4 アドニスの帰還 安東 能明 ★★★★
1252 2008-6-1 ふたりの逃亡者 ボブ・メイヤー ★★★★
1251 2008-5-30 反転 闇社会の守護神と呼ばれて 田中 恭一 ★★★★★
1250 2008-5-25 警視庁情報官 濱 嘉之 ★★★★★
1249 2008-5-20 狐火の家 貴志 祐介 ★★★★★
1248 2008-5-15 瘢痕 霧村 悠康 ★★★★
1247 2008-5-10 歌枕殺人事件 内田 康夫 ★★★★
1246 2008-5-05 TENGU 柴田 哲孝 ★★★★★
1245 2008-4-30 風の音が聞こえませんか 小笠原 慧 ★★★★★
1244 2008-4-25 水上のパッサカリア 海野 碧 ★★★★
1243 2008-4-20 貸し込み 上・下 黒木 亮 ★★★★
1242 2008-4-15 少し変わった子あります 森 博嗣 ★★★★
1241 2008-4-10 連鎖する虐待 みひろ ゆう ★★★★★
1240 2008-4-5 光の指で触れよ 池澤 夏樹 ★★★★
1239 2008-4-3 商人龍馬 津本 陽 ★★★★
1238 2008-4-1 組織改正 江上 剛 ★★★★★
1237 2008-3-20 お家さん 上・下 玉岡 かおる  ★★★★
1236 2008-3-10 魔物 上・下 大沢 有昌 ★★★★
1235 2008-3-6 陪審法廷 楡 周平  ★★★★★
1234 2008-3-3 藪枯らし純次 船戸 与一  ★★★
1233 2008-2-28 棄霊島 上・下 内田 康夫 ★★★★
1232 2008-2-20 検証 もうひとつの武将列伝 井沢 元彦  ★★★
1231 2008-2-15 蒼の悔恨 堂場 瞬一 ★★★★★
1230 2008-2-10 不当買収 江上 剛 ★★★
1229 2008-2-5 名もなき毒 宮部 みゆき ★★★★
1228 2008-2-1 私はナース 渡辺 敦 ★★★
1227 2008-1-30 研ぎ師大吉 山本 一力  ★★★★
1226 2008-1-27 6時間後に君は死ぬ 高野 和明 ★★★
1225 2008-1-25 アンダーリポート 佐藤 正午  ★★★★
1224 2008-1-23 地の蛍 内海 隆一郎  ★★★★★
1223 2008-1-21 青春の守護者 森村 誠一  ★★★★
1222 2008-1-20 追伸 真保 裕一  ★★★
1221 2008-1-13 マザコン 角田 光代 ★★★
1220 2008-1-10 果断 隠蔽捜査2 今野 敏  ★★★★
1219 2008-1-8 金色の雨が降る 桐生 典子 ★★★★
1218 2008-1-6 金融腐食列島(完結編)消失 第2巻 高杉 良  ★★★★
1333  ささらさや
Date: 2008-12-18

おすすめ度 ★★★★★

 加納 朋子 著  幻冬舎  発行:2001年10月

 サヤには親戚らしい親戚はいない。やっと結婚したおとなしいサヤは生まれたばかりの赤ちゃんと僕と3人で買い物の帰り横断歩道を渡ろうとしていた時、信号が青なのに赤い車が突っ込んできた。夫の僕だけは死んだようだ。
 葬式を終えて、サヤは僕の骨を乳母車に乗せてユウスケと暮らす決心をしていた。
 子どものない姉夫婦から子どもを養子にという話しを拒んだ。そして、おばが残してくれた埼玉の家に行くことにした。
 乳母車を引いてその家に着いたサヤはこじんまりしたその家が気に入った。ところが電気の開始の通知をしなかったので旅館に泊まることに。旅館ではひ弱そうな親子に女主人が何くれと世話を焼いてくれた。
 翌日、家に戻ると隣の人がやってくる。旅館の女主人もやって来て、二人が友人だと知る。サヤの家でおばさんたちが集まって親切にしてくれた。
 時々、ささらさや・・と夫の声がする。子どもの為に強く生きなければとサヤは思う。
 おばさんたちが世話をしてくれた弁護士さんと事故のあとの相談をする。子どものユウスケはおばちゃんたちに可愛がられた。
 喫茶店のマスターがサヤに気があるようだといわれた。
 僕はユウスケの身体をかりてマジックを仕掛けた。ユウスケが始めて発することば「パパ」と言う言葉。教えもしないのに口にするだろう。サヤ、今度はおばあさんになってから会おうね。
1332  悼む人 )
Date: 2008-12-16

おすすめ度 ★★★★★

 天童 荒太 著  文芸春秋  発行:2008年11月

 週刊誌の記者の蒔野は、左ひざを地面につき右手を頭上に高く上げ空中で何かを捕らえるような格好をして自分の胸に運び、左手は地面すれすれにおろし、地面から息吹をすくうようにして胸に持っていく青年に目を留めた。洗いさらしのTシャツにジーンズの姿で背にリュックを背負っている。
 何をしているか訪ねると「悼ませていただいています」と答える。その場所は人がなくなった場所でもあった。
 蒔野は青年が「いえ、ただ悼ませていただくだけです」という言葉の裏に何が目的なのか知りたかった。青年は新聞やラジオで聞いたニュースから書き留めた弔いの人のところで何か拝んでいる様子である。生活は年に25万程度で足りるという。彼の出身地は横浜だった。
 横浜では母親の巡子がガンと闘っていた。放射線治療も終え、髪の毛が抜けた頭で自宅で療養となった。母は息子静人を待っていた。自分探しの旅に出てもう数年帰ってきていない。死ぬ前に一目会いたいと思った。妹の美沙は妊娠していた。彼と別れたが子どもは産みたいと両親を困らせていた。
 蒔野は横浜に静人の親はどういう人間か会ってみたくてやってくる。静人があのように悼む人になったきっかけを知りたいと思ったが、母親は特にないという。隠しているのかと疑問に思った。しかし母親は「静人に会ってあの子はあなたに何を残しましたか」と聞かれる。
 静人は、夫を殺して懲役4年で出所したばかりだという倖世から「私を殺して」と言われる。静人は倖世と一緒に悼みに連れて歩いた。
 蒔野が開設したブログに悼む人のことを載せた。母親の病気のことも知らせた。しかし、静人は信じないで悼む人を続けていた。会いたがっていた母親に会えるのだろうか。
1331  乞食の子
Date: 2008-12-14

おすすめ度 ★★★★★

 頼 東進 著  小学館  発行:2001年12月

今は台中市で会社の部長をしているが、子どもの頃は乞食をしていた。
 父は42歳の時、東進が生まれた。姉がいた。そして次々に避妊をしないものだから6男6女の12人もの子ができた。父は盲目で母は知恵遅れであった。
 父は盲目になってからは物乞いをしていた。そこへ養父母に捨てられた母と知り合い、一緒に暮らすようになった。目が見えないので首に鈴を付けて大きくなった。子どもの頃は、無縁仏を祭る百姓公廟で暮らした。風呂には何年も入ったことがない。もらった衣服をまとい、下着と言うものを着たこともなかった。子どもの物乞いに出る。留守番は知恵遅れの弟と母だった。
 雨に日でも台風の日でも出かける。10歳になって物乞いをしている時、おじさんが父に言った「どうして学校へ行かせないのか。それもと息子にも同じことを一生させるつもりか」と。
 それで皆から2、3年遅れて入学した。入学したときに東進は「父は盲人で母は知的障害でこれない」と話す。先生は両親の職業欄に家族経営と書いてくれた。
 姉は東進の学費を稼ぐために女郎屋に売られた。13歳だった。
 東進は学級委員になった。学校で模範となって頑張った。賞状をいくつももらった。高校へも進んだ。25歳の時、22歳の今の妻とであった。そして結婚した。妻の両親は反対だった。
 2年後に父が死ぬ。妻が妊娠した。30歳の時ようやく新しい家が持てた。私は工場長になった。
1330  不連続の世界
Date: 2008-12-12

おすすめ度 ★★★

 恩田 陸 著  幻冬舎  発行:2008年7月

 多聞は木のてっぺんにやせこけた茶色の着物を着た骸骨のような男を見た。これが「コモリオトコ」かと思った。
 ジャンヌにそのことを話し、そこへ行ってみるがいなかった。猫ではないか、見間違えではないかと言われる。
 桜並木を歩いていた時、骸骨のように痩せさらばえた男が木の上にいるのを見た。先に見つけたのはロバートだった。「木守り男だよ」ていった。その男は昔おじいさんの代に使えていた執事だという。
 別の日、老人が子どもに見入っていた。その顔が茶色に変わりあの木守り男になった。そして自分に向かって「またな」といった。
 多聞はびっくりするが、木守り男の存在を今となっては本当に見たかどうかわからなくなった。
1329  くじら日和
Date: 2008-12-08

おすすめ度 ★★★

 山本 一力 著  文芸春秋  発行:2008年2月

 男女の性差を感じさせない教育がなされているが、男女同権であっても男女同質ではない。母親が子どもに示す本能。女性の魅力的な容姿はしみじみ男女は同質ではないことを知る。
 自分の生まれた年の干支を気に入っている人は少ない。テレビの前で横になっているカミさんをみてトドだと思う。子どもは戌年がいいという丑年の子。血液型と干支はわが国の二大占い要素である。
 紫陽花の色は七色ではなかった。しかし、見たこともなかった淡い桃色と紫の花に見とれた。紫陽花の花言葉は「ほら吹き、移り気、高慢、無情、浮気」だそうだ。
 3ページの短編集。
1328  復活の条件
Date: 2008-12-05

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  光文社  発行:2007年9月

 外出した猫のミーが帰ってきたと思ったらバタリと倒れた。獣医に見せたが手遅れでそのまま死んだ。毒殺だった。学生の娘は妊娠した。相手は合コンで1回性交した相手で住所もわからないと言う。夫婦は堕胎をすすめ娘もそれに応じるが学校をやめ夜の商売に身を落とし家を出て行ってしまった。長男は交通事故にあって死んだ。そして、会社は倒産した。40歳になろうとする妻は離婚をし出て行った。
 一人になった石坂はある日、死んだ母の声を聞いた。「リセットすれば新たな世界が開ける」という。その方法は戻りたい頃に念じろと言う。
 目を覚ますと、娘や息子のいたいつもの朝だった。まず、ミーの死を防止しなければならない。猫にリードを付けて散歩をする。ドーベルマンに襲われそうになるが飼い主を楯にすればと飼い主のそばに突進した。その拍子に飼い主もよけ頭上から落ちてきたコンクリートからも守られた。
 飼い主の中岡は後日お礼に来た。コンクリートの落ちた現場に行ってみた。ミーのネームタグがあった。
 娘の合コンの日が迫ってきた。石坂はコンパの帰路を警戒した。中岡の連れていた犬で娘と一緒だった男は去っていった。
 息子の命日に当たる日が来た。事故現場に行った。息子と同じぐらいの青年にダッシュして歩道上に倒れこんだ。事故は防げた。
 会社の倒産に陥った簿記外の借入金の存在を疑う。決算書に現れない数字。監査法人もグルになっている。アドバイスした栗木は交通事故死する。
 このことを中岡に相談する。中岡は以前、ひき逃げ犯を見たと言う。同乗していた女性が石坂の会社役員の妻悦子だった。
 石坂は悦子に会い会社を救うべく経理の不正を知らせる。
 娘に妊娠させた男は、悦子の男でもあった。
 会社は経理の不正をした数田も捕まる。
いつの間にか虚像の世界からオリジナルな世界に戻ってきていた。妻も娘も息子もいる。会社も倒産から免れていた。
1327  犯意
Date: 2008-12-01

おすすめ度 ★★★★

 乃南 アサ 著  新潮社  発行:2008年8月

 罪を犯すまでのストーリーとその判例集。
 仕事を失って失業中の3人。うち一人が結婚式場の倉庫に眠る使われなくなった銀食器を盗もうと仲間に呼びかける。そして実行する。警備員を殴殺し、残した指紋を心配し火をつけて逃走しようとして出口に警官の姿を見つける。この場合強盗致死罪と放火罪、住居侵入罪が適用。死刑または無期もしくは5年以上の刑となる可能性もある。
 中学校へ赴任した教師風間は、隣に座る芦川から津田というものを知っているかと聞かれる。覚えていなかったが、以前の学校で一緒だった教師の津田だった。芦川はその津田と結婚したと言う。風間の座布団に画鋲がテープで止めてある。風間の靴に大便を入れてあったり、子猫の死骸を机の引き出しに入れるなどされた。
 そこへ津田から風間に会いたいと電話がかかる。海岸で待ち合わせるといきなり車に乗ったままの津田は海に突っ込む。驚いた風間は岸壁に向かう。津田は車から脱出して無事だった。
 聞けば芦川風間と知り合いだと言うだけでやきもちを焼き嫌がらせをしていたという。そればかりか、津田に多額の生命保険を掛けたので早く死ねと迫ると言う。果ては港まで連れて行かれ今すぐ死ねと迫られたと言う。自分の行為を一部始終見て欲しくて津田は風間に頼んだのだ。
 この場合、公務員なので公務執行妨害罪、殺人教唆罪、海に飛び込ませた殺人未遂罪となる。
 以下全12編。
1326  女王蘭
Date: 2008-11-27

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  祥電社  発行:2008年10

 立花はフェニックスを除く後の23店舗は中型店のキャバクラをこの5年間に拡大した。風俗王をほしいままにする藤堂に対抗するためにのし上がってきた。
 立花は日本一の店フェニックスのオーナー。一番の稼ぎ手の冬海は、藤堂の店から引き抜いた。未だに冬海の売り上げを抜くものが出てこない。
 そこへ夜の世界に踏み入れて1ヶ月の優姫が面接に来た。立花は即、雇い入れ破格の時給を付ける。その優姫はナンバーワンの冬海には及ばないながらも2位に躍り出た。
 優姫は、母が病死した後、父のラーメンヤを手伝っていたが、藤堂にうまく騙し取られた。そして父も死んだ。復讐の為に優姫は夜の世界に入った。
 熾烈な引き抜き合戦が横行していた。突然冬海も銀座に店を出すと辞めていく。つづいて3番手、4番手の子もずるずると辞めていった。
 そこへ5年前の恵美が現れる。店に来ないかと誘う。すると優姫をクビにすれば移ってもいいという。立花は優姫をクビにする。
 立花は5年前、父の入院費を稼ぐために始めた夜の世界。そして得た富と名声。もう引き返せないほどの漆黒の闇の中にいた。
 優姫は藤堂にナイフを向けて突進してきた。立花が止める。
1325  今日の特集
Date: 2008-11-25

おすすめ度 ★★★

 戸梶 圭太 著  中央公論新社  発行:2008年9月

 性犯罪常習者にGPS機能付の腕輪をはめさせ行政がチェックする。その様子を今日の特集としてその男性を追うという仕事をするテレビ製作関係者達はディレクターの穂積に従ってADの長嶋と明坂、カメラマンの野添たちである。
 ロケ対象は性犯罪の常習者村田に過去の罪を反省しているかのような印象を与える画像を撮りたいが、村田は半生の様子はない。スタッフの用意したセリフを切れ切れに言わせる。村田の母親に対してもやはり同じように同様に対応し画像を撮っていく。
 うまくいかないと穂積は殴る蹴る、罵声を浴びせる。AD達の給与から損失分を引く。AD達はこの仕事から抜け出したい。
 コスプレの女の子、漂着物でアートを作る男、アーティスト、ヘリコプター選手権の最年少出場者などを追っていく。
 遅れるとAD達の給与は減る。罵声を浴びせられる。取材対象者を怒らせる。なだめる役の人間もたまったものではない。
 鬱憤がたまった明坂は穂積を車に引きずり込むとドライブの果て地下室に連れ込みたたき殺してしまう。明坂は穂積と社長とがぐるになって自分の給与を減らしていたことに狂ったのだった。
1324  枕女優
Date: 2008-11-22

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  河出書房新社  発行:2008年5月

 鈴木弘子は女優になりたかった。高校3年の時オーディションに合格して上京した。しかし、なかなかセリフの多い役に恵まれなかった。
 整形もし、プロデューサーの川口に「俺の小便を飲め」といわれる。弘子は我慢し要求に答える。ところが約束の準主役は回ってこなかった。
 原作者の作家とも枕を共にする。が役はつかなかった。
 弘子は次にチーフプロデューサーの島本に誘われた際は、二人の関係をテープに隠し撮りしこれを楯に役を手に入れる。
 以来、CMの仕事も舞い込むようになった。2年後、夜中まで仕事をし、翌日は早朝から仕事が入るというスケジュールが続く。
 疲れていた。イライラしていた。無断で実家に帰る。整形した弘子を見て母親は自分の娘だと信じられない様子だった。疲れ果てて眠った。
 起きて外に出たとき、弘子の芸名を知る人々が声をかける。ふらふらと走ってくる車に向かう。闇に包まれる。
 
1323  空へ向かう花
Date: 2008-11-20

おすすめ度 ★★★★★

 小路 幸也 著  講談社  発行:2008年9月

 花歩は飛び降りようとしている男の子に声をかける。6年生の沢木春之だった。
 春之はハルと呼ばれていた。ハルは女の子を死なせてしまったという。そのことを親は何も聞かない。しかし、親は家から出なくなった。家の中は暗くなった。ハルのせいだ。
 花歩は、親の虐待からおじいちゃんの住むこのボロビルに越してきた。心に傷を持ったものだけが通じる気持ちがあった。
 ハルは皆の噂にも堪えている。意地悪はしてこないが無視されるようになった。
 井崎原のおじさんはハルを銭湯に誘ってくれた。
 ハルが殺してしまったという由希菜ちゃんは花歩の友だちだった。
 ハルと花歩はボロビルの屋上に花壇を作ろう。それは天国の由希菜ちゃんが見えるようにと願って。
 それを知ったおじさんとおじさんの若い友だちキッペイくんとが助けてくれた。
 またおじさんは由希菜ちゃんの事故のあった公園に行く。普通に遊んでいて起こった事故だった。由希菜ちゃんの両親はハルの両親に7千万円を請求した。
 屋上庭園は出来上がった。その間に花歩のおじいちゃんがなくなった。花歩はやがて養護施設に行くことに決まった。
 由希菜のお兄ちゃんの浩樹くんが突然やって来てハルの首を絞めた。片岡さんという大人が止めた。おじさんもキッペイくんもやってきた。
 ハルの両親と浩樹くんの両親も来た。おじさんは言った。「これからのこの3人の子供のことだけを考えて欲しい」と。これまでのことはこの土の中に埋めてしまおうと。
 浩樹くんのことは警察に届けなかった。その代わり両親に浩樹くんのケアをして欲しいとたのむ。
 この屋上庭園は花歩とハルが由希菜ちゃんの鎮魂のために造った庭だった。それは大人も驚くほどのかわいい庭になっていた。
1292  麻酔科医
Date: 2008-09-11

おすすめ度 ★★★★

 江川 晴 著  小学館  発行:2008年6月

 小学校中学校大学が一緒だった友人の結婚式に出た慧太は、偶然にも主賓で招待された教授の南関東医療センターに麻酔科医として赴任した。
 慧太は研修医の時、手術で気になっていた患者が出血で死んだ。死ぬ間際に恐ろしい顔で「お前、失敗したな」と言われたことが原因で、外科を目指さないで麻酔科医になった。
 病院の近くの寮に住み、仕事に忙殺されていた。
 慧太は看護婦の悠子に会いたいと思った。彼女も話があるという。悠子は田舎へ帰るといった。実は緒方医師と不倫関係にあり妊娠した。ところが緒方は看護婦のくせにその対応を怠ったことをなじられよそよそしくなったという。
 慧太は悠子と付き合っていたことを知った緒方が「神山慧太に君を渡したくない」という言葉を愛情だと勘違いしたという。
 慧太は緒方が他にも看護婦とホテルにはいるところを見てしまった。
 慧太は水沢瞳から「結婚に立候補してもいい」と言われる。新たな希望を持って慧太は寮を出ようと思った。
1291  地の日 天の海 上・下
Date: 2008-09-08

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  角川書店  発行:2008年6月

 随風は公方様と呼ばれる足利将軍家の落とし胤である。会津高田城主芦名の娘を母に、芦名家の重臣であった父に育てられた。11歳の時、仏の道に修行をしたいと出家を許された。
 随風は後の天海と呼ばれる人物である。
随風は矢矧川の岸部の舟に寝ていた猿のような吉という男に出会う。これが後の豊臣秀吉である。
 再びこの吉に出会ったときは近江国に入る頃である。このときは吉は随風に木下藤吉郎と名づけてもらう。うつものと評判の織田信長のことを随風がみたところではそのようではないと藤吉郎に教える。藤吉郎は織田家に仕える。
 1560年、随風は足利学校で今川義元の軍25000人が織田の軍2500人に敗れたことを知る。桶狭間の戦いである。
 1561年、信長は28歳、秀吉は25歳、家康は20歳、随風は26歳であった。
 信長は秀吉に目をかけ、桶狭間の前には秀吉は今浜(長浜)城を築城し、織田家の重臣であった。
 本能寺の変までの10年。信長は明智光秀の謀反により倒れる。秀吉は毛利勢と対峙したまま動けぬと思われたが、10日もたたないうちに大阪にいた織田勢を巻き込んで明智の天下は3日で終わった。8年後、秀吉は豊臣と名乗り天下を取った。
 随風は1590年、徳川の時代になってから天海と名乗った。 
1290  非正規レジスタンス 池袋ウエストゲートパーク[
Date: 2008-09-03

おすすめ度 ★★★★

 石田 衣良 著  文芸春秋  発行:2008年7月

 池袋でメイドの衣装に身を包んだモエにあった。ユニオンのために10日間働いて欲しいという。モエはユニオンは派遣会社ベターデイズで働く労働組合の代表だった。まだ20人しかいない。ユニオンの社員が次々に襲われるという。
 マコトはさっそく派遣会社の仕事に就く。すると落下した物にあたって怪我をするものが出たが、会社は救急車を呼ぶなという。タクシーでいけと。そのタクシー代は会社が出すわけではない。11000円ぐらいの仕事を7000円で社員にやらせる。何もしなくても会社は4000円が入ってくる。非正規社員には保険も労災も無い。
 マコトは家に帰らず、ネットカフェに泊まりその寝苦しさを知る。寝返りが打てない。数時間で目が覚める。足が伸ばせない。家で寝ることのありがたさを知る。
 マコトはユニオンの組合員であることを口にし不満をぶちまける。目立つようになった。襲われるが襲った奴から首謀者を聞く。ブロック長の倉敷だった。
 マコトはベターデイズの二重派遣を突き止める。
 モエに連れられて行った先は六本木ヒルズ。モエは社長の娘だった。社長が人をしあわせにするような派遣会社にするならモエも手伝うという。
 社長は決定権を持たない会長に退いた。その後は報道の通りどこからか社長は迎え入れられ、モエは担当重役になった。
 ネットカフェに泊まり歩いていたサトシは正規職員になった。
 
1289  インターセックス
Date: 2008-09-01

おすすめ度 ★★★★★

 帚木 蓬生 著  集英社  発行:2008年8月

 生まれた時に男性器と女性器の両方を持つ子が百万人に十人の割りで生まれてくる。両方とも不完全な形になっていることが多い。医師がどちらかに手術の手を加える。
しかし、市民病院の秋野翔子はこのまま高校生になってから本人がどちらの性で生きるか決めさせるのがいいと考えている。戸籍の性別欄には不明としておくというものである。
 世間やしきたり上の眼に親とその子は堪えなければならないが、それが一番良い選択だと翔子は親に伝える。
 産婦人科医の出産時の多量出血でなくなった裁判の際、医師側の証言をした岸川は生殖と移植について神の手を持つといわれいる名医である。
 翔子は岸川の誘いで岸川と同じサンビーチ病院に勤務するようになる。
 5年前にプライベートビーチで水死した女優の電子カルテを見た。水泳中に足がつっての事故死とされていた。
 その後、岸川の運転手が交通事故死した。サンピーチ病院を建てた半年後に死んだ岸川の妻の死。事故死を調べていた翔子には不審な死を嗅ぎ取った。 
 岸川は翔子のその行動に気づく。岸川が翔子に対峙したとき、翔子は全裸になり生々しい手術の後をみせ、自らがインターセックスであることを告げる。 
1288  花鯛
Date: 2008-08-30

おすすめ度 ★★★★

 明川 哲也 著  文芸春秋  発行:2008年7月

 魚のタイトルで4篇の短編
「花鯛」では、離婚して元妻と暮らしている娘が治彦のもとに訪ねて来た。
 船に乗り花鯛を釣りに行くことになった。しかし、治彦は船酔いをして吐いてばかりいる。娘も船の上で横になっている。それでも花鯛を釣らねばならない。
 娘の奈緒に釣り上げるようにいう。奈緒は懸命に釣り上げる。これまで見たことも無い50センチの花鯛だった。
 元妻と別れてこの7年間、治彦は毎月25万円ずつ仕送りをしてきた。娘は失恋したという。元彼と寝る時にクスリをやったと泣きながら話した。クスリは一度やるともう駄目だって。このことを母が知ったらと苦悩していた。

 「オニカサゴ」では、文彦は良太を預かった。10歳である。良太は昔、好きだということを言えなかった彼女の息子である。父親は文彦の2つ先輩の俊之である。
 船に乗ってオニカサゴを釣りに行く。良太を1週間預かってくれと頼まれた。良太は少し変わった子であった。ところがオニカサゴにかまれた。すぐに手当てをした。すると良太もかまれた。急いで手当てをした。
 良太は文彦に「昔、お父さんとお母さんとヒコさんと3人で暮らしたことがあったでしょう」という。玲子が良太に教えたようだ。良太に玲子の面影をみた。俊之と結婚してしまったが、玲子は良太を残して死んだ。
 つらいことがあったら、ものの名前をたくさん覚えなさいと教えたという。
 文彦は、良太に俺が死ぬまで一緒に釣りに行こうなという。
1287  あたり
Date: 2008-08-29

おすすめ度 ★★★★

 山本 甲士 著  文芸春秋  発行:2008年6月

 さかなの名前の章で6篇の短編
「おいかわ」では、会社をやめた新吾は釣りをしている男性に声をかけた。いろいろ話すうちに「奇蹟を起こしたければ釣りをすればいい」と教えられる。次の日、新吾は釣りに行く。つっていると女の子が興味を持ってきた。続いてその子の母親も。新吾は釣った魚をあげる。
 昨日の男性音羽がバーベキュー用の炭焼きコンロをもってきた。おいかわを塩焼きにするという。そこへ仕事中だという宮野が声をかける。釣る様子を見ている。
 3人で缶ビールを、昨日知り合ったばかりの人と今日知り合った人と飲み会う。
 音羽から、仕事を探しているんなら自分のところで働かないかと誘われる。

「雷魚」では、隣に住むアパートの男の子の背中に足跡があるのを見つける。母親が帰るまで待っているのだろう。泣いた後も見て取れた。
 ある日、潤平は外の男の子に声をかける。部屋に招き入れて夕食を共にする。釣りの話し、雷魚の話をした。次の休みに釣りの約束をする。母親はねているという。
 二人で釣る。雷魚も釣れた。しかし、いつも釣っては放してやる。
 就職の面接の日、ふと土手の先を見ると膝まで泥に浸かってうごけなくなっている男の子を見つける。面接に間に合わないが助けてやる。結局、仕事にはつけなかった。
 安アパートで隣の生活ぶりは良く分かる。母親は夕方帰ってきて、また出かける。夜中に帰る。
食べているものはレトルトかインスタントのもの。担任が訪ねてくる。男の子の作文に潤平とのことが書いてあったという。親戚が引き取るという話しもあると聞く。潤平は男の子に親戚に行った方がいいのではというと「僕は今まで守ってもらったから、今度は僕がお母さんを守る」という。この子の方がよっぽど器がでかいと感じた。
1286  非常識家族
Date: 2008-08-27

おすすめ度 ★★★

 曽野 綾子 著  徳間書店  発行:2008年7月

 東大工学部を出た叔父はヒューズも替えられない。「東大はそういう生徒を卒業させないようにすべきだ」という叔母。
 東大出ではない親父が運転免許1回でうからなかった。「運転免許は東大でないとうからないらしい」と叔父が言うと親父は「東大は運転免許を取るための予備校だったのですか」といった。
 東大出は自分が一番だと思っているからどんなときも結果的にはケンかにならない。
 今東光は、今の賽銭箱の仕掛けを見て泣けた。昔は地べたに置かれていて、賽銭釣りなどをしてのんきな悪さも出来たが、今は地下深くの金庫室みたいなところまで落ちていくので盗ることができない。
 3時間おきに洗顔し高いクリームを塗っていた美人の奥さんが入院した。見舞いに顔を出したら別人かと思うぐらい、そこには髪が薄く唇のしぼんだ老婆がいたのだそうだ。手術の時は全部取られるから入れ歯もかつらも。おまけに高いクリームの為に食べるものも食べないから、つけないときは肌は見られない状態に。
 食べるものを食べて安いクリームでいいから背筋を伸ばして生活していくのがいい。
1285  ひかりの剣
Date: 2008-08-25

おすすめ度 ★★★★★

 海堂 尊 著  文芸春秋  発行:2008年8月

医学部の剣道部、帝華大学医学部はこの10年医鷲旗を手に入れられないでいる。強敵東城大学に準決勝で破られる。
 帝華大学医学部清川吾郎は、東城大学に移るという高階顧問に「夏まで速水に稽古をつけないでもらいたい」と頼む。高階はこれをのむ。高階は清川の素質は素晴らしいが、だが才能ではない。才能は素質を磨く力だ。努力の差だと教える。
 東城大学に移った高階は、速水にこのことを話す。速水と高階の試合に負けたら、この約束を破って稽古をつけることに。しかし、速水が敗れる。
 帝華大学のマネージャーの朝比奈ひかりを選手登録しようと考えたが、ひかりの祖父は試合に出てはならぬという。清川とひかりは祖父を訪ねる。そして、清川は祖父と対決し許可が得られたが、祖父のもとで密かに3ヶ月修行をした。
 一方、東城大学には清川の弟志郎が腕を上げていた。高階は、主将の速水に部員や部のことに気を回すより自分を磨けという。速水は部を離れて稽古に打ち込む。代わりの主将には清川志郎がなる。
 試合の日、清川は、弟の志郎と対決する。清川の兄の方が勝つ。速水とひかりが対決する。ひかりははじめて恐怖を覚えて1対1のときに、棄権したいという。棄権すれば帝華大学の負けである。
 東城大学は代表戦を要求してきた。最後の1本は、東城大学の速水と帝華大学の清川吾郎の戦いとなった。接戦の末、清川が勝つ。
やっと帝華大学は医鷲旗を手に入れる。
 その後、天を行く清川、地を行く速水。伏龍清川、猛虎速水は医療のトップに上り詰める。
 
1284  誘拐児
Date: 2008-08-22

おすすめ度 ★★★★

 翔田 寛 著  講談社  発行:2008年8月

 昭和21年8月7日、誘拐した犯人を双眼鏡で追っていた刑事は、有楽町の闇市の手入れにまぎれて見失ってしまった。
 誘拐されたのは成城に大きな家を構える久我恵三の一人息子勇一5歳だった。散歩の途中、ねえやが目を放した隙にいなくなった。犯人は100万円を要求してきた。受け渡しは有楽町。
 昭和36年6月、良雄の母が病院で亡くなった。亡くなる前に、「お前は本当は私の子ではない。誘拐した子だ」といった。
 良雄の父は復員後、不思議そうに良雄の顔を見ることがあったがまもなく死んだ。良雄は母に育てられた。ずっと実の子だと思っていた。
 良雄は母の遺品を調べ、手帳に書かれた母の妹を訪ねる。良雄とは5歳の時に会ったきりだという。牛久に疎開していたことがあったと話した。疎開する前に、良雄は病気で危なかった。その後、母との疎遠になったという。
 牛久に行く。牛久では母は子どもを連れていなかったと知る。
 自分の生まれた後の誘拐事件を調べる。
 その頃、お手伝いをしていた下條弥生が殺される。殺される前に誰と接触していたのか。
 むかし、香坂由紀夫と俊子は、和田構造にだまされて喪失していたところに、久我恵三が香坂たちの持っていた機械を買い叩いて持っていってしまった。
 香坂は久我の子を誘拐し、100万円を騙し取った後、子どもは闇市に置き去りにした。牛久で香坂の隣に住んでいた良雄の母貞世は、よく切諌される子の面倒を見ていた。ある日、その子が持っていた新聞の切れ端から香坂親子の後をつけ、闇市で置き去りにした良雄を貞世は連れて逃げた。
 子を亡くしたばかりの貞世は、その子が死んだわが子によく似ていたことからわが子良雄として育てた。良雄を引き取ってからは知り合いから逃れるようにして暮らしてきた。
 下条弥生は香坂俊子の金を奪いそれをふたたび香坂俊子に取り戻される際に殺された。
 良雄は母の真実を知り、鼻をすすってくれる母を思い、自分にはこの人しか親はいないと思う。
1283  早刷り岩次郎
Date: 2008-08-20

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  朝日新聞出版  発行:2008年7月

 釜田屋岩次郎はどこよりも早く、今朝おきたことは夕方には知らせる早刷りを思い立った。
 江戸には音羽屋や初田屋という瓦版屋がいた。
1ヶ月以上も前に早刷り瓦版の仕度に取り掛かった。1枚十文。日に二千枚をする。売り手は20人。一人100枚を売る。広目は1枚に付20文を集めると算段した。
 読み手を大衆に絞り、長屋の女房連中である。誰でも読めるということ。文字の変わりに絵で書く。
 5月28日に見本の瓦版800枚が瞬く間にさばけた。そして6月24日には回向院の火事で「付け火の下手人はキツネ目」「左手にアザを隠す白木綿」と朱色で刷られた大見出しが瞬く間に売り切れた。
 早すりのおかげで下手人は捕まった。
 7月1日の早刷りも評判が良かった。ところが、瓦版屋には御公儀の役人のいい成りになっていては正しいことが書けない。岩次郎は初田屋に手を組もうと持ちかける。初田屋は案の定、音羽屋から書きたてて欲しいというネタを持ち込まれていた。岩次郎はその話を断ったということを話す。初田屋は新参者の釜田屋よりも下に見たことに音羽屋への怒りを覚えていた。
 「黒江町で四つ子誕生」が7月20日の大見出しになった。
 岩次郎は釜田屋の売れ行きが伸び、同業者との開きを聞かされ、どんな仕返しがあるか肝をくくってかからねばと思った。
1282  ミヤンマー
Date: 2008-08-17

おすすめ度 ★★★

 乃南 アサ 著  文芸春秋  発行:2008年6月

 ミャンマーがどこにあるかも知らないが旅に出た。
 アウン・サン・スー・チー女史の軟禁で知られる軍事政権の国である。
 上半身はシャツかジーンズで下半身はロンジーとよばれる巻きスカート、サンダル履きの男達。
 太陽が西に沈んだ直後には、瞬く間に闇が広がった。
 パオ族の住宅は竹を編んだものを外壁に貼り、屋根はやしの葉を葺いたのもでできていた。
135の民族が暮らしているという。9割のものが仏教徒である。
 ヤンゴンの空港では神奈川中央交通のバスが、別のところでは西鉄バスが、町の中には日本語が書かれた車が行きかう。
 パヤーと呼ばれる仏舎利塔をあちこちに築いたバガンはみどりの中にパヤーが乱立している。
 ピンウールィンに向かう途中で牛の糞を踏んだ友人の靴を店から飛び出した女性が丁寧に洗ってくれた。お礼にドロップをあげると、そんなことをして欲しくて洗ったのではないという風な固辞の仕方だった。お礼は日本では当たり前に行われるが、こちらでは違うようだ。それでも気がすまないのでしぶしぶと受け取ってもらう。
 ミャンマーではいつでも出家でき、いつでもそれをやめることも出来る。
 パダウン族に首長族がいる。観光用にインレー湖まで連れてこられて一軒の家で機織をして見せている。首がかゆいときはどうするのだろう。首に巻いてある金属を手にとって見た。ひんやりと重い。骨格を変形させるほどの重さを苦と感じないでいる。お隣のタイのカレン族では首長の反発の声が広がりつつあるという。

 小説ではなく写真が満載の旅行記である。
1281  銀河不動産の超越
Date: 2008-08-11

おすすめ度 ★★★★

 森 博嗣 著  文芸春秋  発行:2008年5月

 国立大学を出たのに就職先がなく、ほかが全部駄目だった時に行くように言われた下町の商店街の銀河不動産に就職した高橋。銀河不動産は40代の経理の女性と社長と高橋だけである。
 主にアパートなどの斡旋が多い。ある日、外車でやってきた女性はこの町に住む金持ちらしい。
 家が手狭になったのでどこかを借りたいという。高橋が案内をする。コンクリート打ちっぱなしの一軒家。築20年ぐらいの物件である。異常に天井が高い。真ん中に螺旋階段がある家である。間宮というその女性は、高橋がこの家に住むことを条件に家を契約してくれた。
 狭いアパートから急に広い一軒家。不動産屋にも近い。家賃は5万円でいいという。
 早速というか、仕方なくというか越してくる。
高橋が案内した客が、どう思ったのかいきなり娘を嫁にもらってくれとよこしてきた。
 仕方なく一緒に住むことになった。ご飯が出来ている。掃除がされているという環境が規則正しい生活をさせてくれた。そこへ父親も同居し始める。大家の間宮さんは快く承諾してくれた。
 最近マンションを買った若夫婦もマンションでトラブルを起こし、高橋のこの家に住むようになった。高橋の断れない性格と人への干渉を好まないことが人を呼ぶのであろう。
 社長が急死するが、間宮さんの応援で高橋は銀河不動産を続けられることになった。
 子どもが高校生になったとき、再び銀河不動産の本社に妻と行く。なつかしいあの家だった。
 すべては間宮さんのきまぐれの道楽からのあの家からの出発だった。
1280  楽園 上・下
Date: 2008-08-06

おすすめ度 ★★★★★

 宮部 みゆき 著  文芸春秋  発行:2007年8月

 前畑滋子は萩谷敏子の訪問を受けた。敏子にはトラックにはねられて死んだ息子がいた。息子等は中学校の入学前だった。
 等が残したスケッチブックには、等をはねた黄色いトラックが書かれていた。別のページには最近火事で焼かれた家が書いてあり、焼け残った屋根には風見鶏のようなものまでついている。家事のあと、この両親は床下に娘の遺体を16年も隠し続けていたと届け出て話題になっている。
 また、滋子が以前担当した事件の連続殺人事件の絵まであった。土に半分埋められたドンペリの瓶まで描かれていた。絵は幼稚な絵であったが、等は絵を描く時に頭に浮かんだことを描くノートと別にきちんとスケッチされた絵を遺していた。
実際の等は絵のうまい子であった。
 等の母はこのことを他人にしゃべった時、超能力があるのかといわれた。本当のところはどうなのか。実際にこういう事件があるのかと疑問に思ったようだ。滋子にこのことを調べて欲しいとやってきた。有名になったり、超能力の能力を試すのではない。
 滋子はフリーのライターである。連続殺人事件のコメンテーターとしてテレビにも良く出ていた。
 滋子はスケッチの不思議さに本を出すということはしないことを前提に敏子に協力する。
 家事現場に出かけて、事件の真相を聞いていく。16年も遺棄された遺体は脂漏化し、白骨化していなかった。亡くなった時は15歳であった。表向きには捜索願も出し行方不明であった。それが時効も過ぎたあと家事になり、両親は自分達が殺したと申し出た。
 スケッチに描かれた風見鶏も製作者も分かり、このうちのものであった。等がなぜこの絵をかけたのか。等の住んでいるところから随分離れている。あの山荘での連続殺人事件のスケッチもそうだった。
丁寧に調べるうちに、殺された娘は手がつけられない不良であったこと。娘は早くから男友達がいたことなどが分かってくる。

 
1279  カイシャ デイズ
Date: 2008-08-03

おすすめ度 ★★★

 山本 幸久 著  文芸春秋  発行:2008年7月

 二日酔いのまま出勤した高柳は会議前に書類を作ろうとしていた。
 高柳の会社はオフィスや店舗の内装を請合う会社で正式名はココスペースだ。
 吉祥寺北口の純喫茶一休に入った。20坪の店内は二年半前に改装した。ところがそろそろ閉店するという。気楽にやるつもりが目論見が外れたと店主は言う。
 大屋時枝は二十年以上経理を担当している。隈元は52万円のソフトを買う稟議書を出している。部長の印がさかさまでしかも、いつもの印ではない。明からに買って押したとわかる。
 大屋は隈元に直接会って話を聞こうとすると逃げた。追いかけて事情を聞く。すでにソフトは自腹で買って使っているという。稟議書が通らなければ自腹を切るという。大屋は決済前の領収書では出ないかもしれないといいながら領収書を預かる。
 大屋は今は総括室にいる。大屋に了承をとることを大屋詣でとよばれる。
 ココスペースは未払い金の回収もなかなか進まない。
1278  サハラ
Date: 2008-08-01

おすすめ度 ★★★

 笹本 稜平 著  徳間書店  発行:2008年4月

 灼熱の砂漠で気がついた私は自分が誰なのかわからない。日本語、英語、フランス語が出来るようだ。そばに軍用機。中にあった焼けた書類の中からパスポートを見つける。これが自分のものなのか。
 ヘリの音がしたので潅木に身を隠す。窪地に折れ曲がったヘリの脇に二つの死体。自分がやったのだろうか。
 いきなり声をかけられ振り向いた。そしてキャンプ地に連れて行かれる。自分は日本人で桧垣耀二だという。世界をまたに駆け軍の教育で実績を立てているという。
 アルジェリア大使館に向かう。日本大使館にもパスポートの発行を申請する。アルジェにホテルに向かう。自分は偽名でそこに滞在していたようだ。顔を見るなりキーをさ渡される。
 やがて、桧垣は外国人の妻がいることを知る。何のために自分は記憶が失われたのだろう。
 徐々にそれがわかり始めるころには、桧垣は日本に帰ることが出来た。
 妻のミランダとはアフリカの戦場で知り合った。
 桧垣はサハラ砂漠を緑に戻し、農業を工業をよみがえらせる希望を持って再びサハラに飛ぶ。
1277  ノーフォールト
Date: 2008-07-31

おすすめ度 ★★★★★

 岡井 崇 著  早川書房  発行:2007年4月

 妊娠38週目の徳本美和子が入院した。入院から4時間後、胎児の心拍数に異常が見られ緊急に帝王切開の必要に迫られた。柊奈智が執刀する。しかし、出産後お腹に出血が溜まるために再度手術をする。3日後も同じように血液が固まって血種を作りそれを除去する手術をするが美和子は死亡した。
 病院と産婦人科医長と奈智が被告となって原告から8500万円の損害賠償を求める裁判が開かれた。原告の代わりに弁護士が出席しての裁判が始まった。その後、奈智と医長の名は削られた。
 やがて、美和子の症状はフォンビルブラントという。血液の病気である。10万人に0.5人程度いるという。
 美和子の血液が保存されていたことからそのことが立証された。
 奈智は病院を去ることを決意する。美和子の墓参りに行った際に美和子の夫に出会う。
 美和子の夫は被告に奈智があることを知り、それを削ってもらったこと、先生を恨むとかしていない。むしろ感謝している。妻がフォンビルブランド病でなかったとしても恨む気持ちは無い。勇太を救ってくれた先生だからという。裁判の経過を聞いて驚いたという。
 弁護士から奈智に浴びせた暴言、担当医を悪者に仕立て上げた裁判に奈智は落胆していたが、家族は奈智を恨んではいなかった。
 医療事故は医療過誤と医療災害に別れるが報道の仕方によって医療過誤という錯覚を与えてしまう。力が足りなかったことが医療過誤にあたると原告側が主張してくる。結果が悪いと全て訴訟ではリスクの高い小児科・産科の医師は減少してしまう。
1276  ファイアー・フライ
Date: 2008-07-29

おすすめ度 ★★★★★

 高嶋 哲夫 著  文芸春秋  発行:2008年5月

 社長と間違えられてセネックス工業の研究主任の木島が誘拐された。身代金は5億円だった。
 木島は社長宅から出たところで若い男女に車で連れ去られ、車が行くことの出来ない山道を登り下った谷のような廃屋だった。途中で気を失った木島を犯人の男が担いで下山したようだ。
 廃屋では比較的自由だった。犯人の男は前金を500万円もらったという。
 ところが、犯人たちが誘拐したと思ったのは社長ではなく部下の研究員だったことから、上部からの指示が途絶えた。
 ラジオで木島の誘拐と同時に木島の研究費4億7千万円の使い込みを報じていた。それには木島も驚いた。
 上司の新谷に電話した。無事は伝えた。余計なことはしゃべれなかった。
 犯人の男の方は方針を変えて指示を待たないで行動を起こそうとしていた。木島は徐々に犯人の2人はサラ金の借金があること。この報酬で成功したらさらに500万円が入ることを知った。
 豪雨が山を襲い3人は逃げる途中で、男の犯人は濁流に飲まれた。そのとき「妹を頼む」と聞こえた。二人は兄妹だった。廃家は二人の生家だった。家も流された。
 犯人の妹良子と木島は東京に戻る。そして、会社の後輩の美幸にあった。会社の帳簿をデータがほしいというと美幸は協力してくれた。データを会計の明るい人に見てもらう。明らかにおかしい。4億円以上にもなる。
 木島は捕らわれた風貌から以前の木島とは違って見えることに気をよくして社長室に出向く。
 社長に直接話を持ちかける。社長は経理上の数値はすでに知っていた。会社を守るために株価を下げないためにどうすべきか思案していた。木島は敗北感を味わう。
 そして、もう一つの経理の使い込みをみつける。それは上司の新谷だと確信する。少し前に自宅近くに寄ったとき、新谷と木島の妻が外出するところだった。
 木島は新谷に会う。そして、この誘拐を計画したのは新谷であることを確信する。新製品の発表を延期するために。
 ふたたび、社長に会った木島は特許侵害の恐れのあるリストを提示し、社長から15億円を引き出すことに成功した。
 木島は交番に出向く。新谷もその前に自首していた。
 
1275  遠ざかる家
Date: 2008-07-27

おすすめ度 ★★★

 片山 恭一 著  小学館  発行:2008年6月

 歯科医の和也は今は一人暮らしである。折角建てた家であるが、子ども二人が大学に進学し出て行った。義母が風邪でダウンしたというので妻が介護を要する父も見なくてはいけないために広島の実家へ行ったきりだった。
 和也は47歳。特に女性に興味を持つことは無かった。
 兄の子の小学校3年生の姪が泊まりにきた。動物園に行ったり家の話をするが、姪の寛子は両親のそれぞれが好きだが、一緒だと嫌いだという。
 和也の兄はNHKに入っていたが、酒が元で入院した。最近は夜になると昔の話をぼつぼつとしてくるようになった。
 兄は和也の妻が不在なことを知らない。
 土曜日に次男が帰ってきたが、様子を見に来たようだ。妻が「お父さんは、お母さんから逃げている」といったという。
 妻からも手紙が来る。四国を巡礼しているとあったが、文面には「あなたが急に冷たくなり黙りこんでいる」「いつかあなたのところへかえるのか、二度と帰らないのか分からない」と書かれていた。
 兄は相変わらず、小さかった頃の話を電話でして来る。
 そして兄はアルコール依存症の病棟で無表情な顔をしていた。兄嫁も疲れたようなため息を漏らした。寛子だけはむじゃきになぞなぞを出して大人たちをとまどらせていた。
1274  いすゞ鳴る
Date: 2008-07-25

おすすめ度 ★★★

 山本 一力 著  文芸春秋  発行:2008年5月

 人物は関連するものも短編8編。 
「こいのぼり」
 吉之助は35歳。棟梁としては若いが両替商の伊勢屋の隠居所を請け負うことになった。
 吉之助は木材を選ぶにもなんども材木置き場を回った。伊勢屋の勘兵衛は、吉之助を見て普請の手際のよさを感心した。「職人さんたちに気持ちよく働いてもらうよう」と職人達に熱々の味噌汁が出された。サツマイモの山盛りも。3日に1度は持ち帰るように水菓子やまんじゅうが配られた。その気持ちが職人達が日暮れ近くになっても仕事をしまいたがらなかった。
 そこへ勘兵衛に孫が出来た。男の子だった。顔を崩さない勘兵衛であったが、このときは喜んだ。
 屋敷の庭に9メートルはありそうな丸太を立てた。絹のこいのぼりが3匹が舞い上がった。黒と黄金色、青鯉、赤鯉である。7人の孫がいるが男の子が生まれたのははじめてであった。
 伊勢屋のこいのぼりは深川中の評判になった。大横川からの風を受けてこいのぼりは泳いでいた。雨に日に見に来た客には柏餅3個が配られた。こいのぼりのおかげで伊勢屋は繁盛した。
ところが、10月2日に起きた地震で吉之助の一家は家の下敷きになってなくなった。
 勘兵衛の屋敷では地震で倒れたのは吉之助が建てたこいのぼりの丸太だけだった。
 今年も伊勢屋のこいのぼりを楽しみにしているが、勘兵衛は、立て直した丸太を見つめていた。お伊勢さんに詣でた時、吉之助のことを頼んでこようと決心する。
1273  マラリア
Date: 2008-07-21

おすすめ度 ★★★★

 桂 美人 著  角川書店  発行:2008年6月

 横浜の法聴寺、2年前に銃で自殺した父の残した書の文字は「妄心」。愛人に生ませた自分を引き取って育ててくれた。母と呼ぶ人とは血のつながりが無く資産家の書道大家の息子として生まれ、日本人離れをした風貌をした父であった。
 父の死は、神坂将史が検察官になって7年目の年であった。
 永平寺では唯慧は、身長180センチを越える青い目の修行者である。永平寺に来て1年半。唯慧の腹部には盛り上がった傷跡が人の目を引いた。しかし、唯慧は決してそのことは口にしなかった。
 アンジェロは灰色を帯びた青い目をしていた。父の将巳から伝統文化や日本語を勉強した。アンジェロは将巳が「妄心」と書いて死んだ姿に怒りを感じていた。幾人も殺したアンジェロは人の無言の死は裏切りに等しいと感じた。
 アンジェロ自身、7歳の時ローマの連れてこられた。誘拐された赤ちゃんが7歳になって戻ってきたとヴァチカン大聖堂のテレスに置き去りにされたが、7年後「僕はアンジェロ」というメモを持った少年が誘拐された家のまで見つかった。アンジェロと確認したのは乳母だった。
 神坂の家にアンジェロ、今は聡という子をローマから連れ帰った。35年前である。トーマス神父から託された。しかし、誘拐された時の写真を見てふるえた。目の色が違う。7歳で出てきたアンジェロではない。深いこい青い瞳の子。
 将史は弟の聡(アンジェロ)が翻弄されるに至った経緯を知る思いだった。そして父の残した妄心の意味も。
1272  ジバク
Date: 2008-07-19

おすすめ度 ★★★★★

 山田 宗樹 著  幻冬舎  発行:2008年2月

 麻生貴志はファンドマネージャーとして年収2000万円を得る42歳。
 妻は白金台に1億四千万円のマンションを買うと喜んでいた。
 高校の同窓会で貴志はミチルにあった。ミチルは水商売をしていた。お金をためたいと言っていた。貴志はそっとある銘柄を教える。そして指示のある日に売れといった。
 ミチルは900万円の儲けを出した。申し訳ないと思ったのか、ミチルは貴志を訪ねる。そして関係を持つ。このときの写真が妻や自分のところに郵送される。
 貴志はファンドマンとして他者に教えてはいけないことを破ったため解雇された。
 妻は浮気はしても貧乏になるのを嫌がった。結局離婚した。
 貴志はミチルを訪ねるがミチルの男から暴力を受ける。貴志はふたたび別の会社で働く。月給30万円であった。しかし、この会社も解散した。
 ファミリーレストランであった彰子と同棲を始める。
 ある日、目を覚ましたら病院だった。焼き殺されるところだったという。彰子の前の2人の夫は二人とも死亡していた。自分も保険金の為に殺されるところだったという。
 彰子は死刑が確定した。貴志は次に勤めたところの警備で誘導する車に轢かれ義足になった。
 そして、今はポケットに1471円しかない。路上に倒れた自分の前をミチルが男と通り過ぎていく。
1271 冬の陽炎
Date: 2008-07-17

おすすめ度 ★★★★★

 梁 石日 著  幻冬舎  発行:2008年6月

 姜英吉はタクシー運転手をしている。家族を残したまま関西から東京へ出てきた。
 大宮で客を降ろした帰り雑木林のそばで車が止まっていた。真夜中である。不審に思った英吉は車の中で死んでいる人間を見つける。3人のうち1人は助かった。
 助かった一人の姉の美津子が御礼に来た。美津子は「21世紀」というクラブで働いていた。
やがて美津子と関係を持つ仲になった。そして妹の美奈子とも。
 英吉はタクシーの中の忘れ物の鞄から2300万円の現金と宝石類と白い粉を見つける。
 迷った末に隠匿してしまった。白い粉はトイレに流した。このことを美奈子に話す。やがて美津子の耳に。そして美津子の夫の耳にも。
 宝石も金に替えようと鑑定員に頼む。中華銀行の小切手3枚と換金する。額面は9428万円を3枚。しかし、この小切手は偽物だった。
 鑑定員はすでに逃亡したあとだった。やがて鞄の持ち主が英吉たちを見つけ出す。英吉は後悔したが後の祭りだった。鞄の持ち主が逮捕されると英吉も逮捕された。懲役8ヶ月だった。
 その間に、美奈子は美津子を殺し、刑務所の中で自殺したという。
 英吉は残していた妻子の元へ戻った。
1270  優しい悪魔
Date: 2008-07-15

おすすめ度 ★★★★★

 垣谷 美雨 著  実業之日本社  発行:2008年6月

 タバコを吸い続けて20年の佐和子は、禁煙内科の三浦医師に出会い禁煙することになった。
 三浦は喫煙者の末路がどういうものかビデオを見せる。酸素ボンベを手放せない肺気腫の患者。動脈硬化で足を切断した男性。声がうまく出せない喉頭がん患者。
 三浦は一日1本の減煙からはじめるようすすめる。そして1本も吸ってはならない集中禁煙期間に入る。
これまで1箱半吸っていた佐和子はぎりぎり6本しか吸わなかった。2日目はゼロ。3日目もゼロ。そして3ヶ月タバコは吸わなかった。
 禁煙初日はコーヒーも飲んではいけない。野菜と果物を食べた。だんだん吸わないことに慣れてくる。
1箱300円のタバコ。そのタバコにはタバコ特別税が16円。消費税が14円。地方タバコ税が87円。国タバコ税が71円だという。つまり200円近くが税金なのである。日本全体で年間2兆円の税金だという。
 72歳の主人の母のところへ行く。なんと母は車椅子で酸素ボンベを携帯していた。喫煙の末路のあのビデオのようだった。
 お土産にもらった文旦、口に入れたら美味しかった。家族は去年のほうが美味しかったという。佐和子は本来の味覚が戻ったことを感じた。
1269 年下の男の子

Date: 2008-07-13

おすすめ度 ★★★★★

 五十嵐 貴久 著  実業之日本社  発行:2008年5月

 川村晶子は東久留米に2LDKのマンションを買った。3800万円。37歳になった。
 仕事は銘和乳業の広報部課長補佐である。
 青葉ピーアール社の定価表示が抜けていたことから謝罪に来た。期日も無いので印刷したシールを貼ることになった。
 ミスした相手の石丸嬢は来ないで派遣社員の児島が来た。真夜中から夜明けまで二人でシールを貼った。
 それが縁で児島は晶子に食事をおごってくれたりメールをくれるようになった。
 引越しの日、部屋には入らないものの何くれと手伝ってくれた。児島は14歳も年下の23歳。いくらなんでもと、クリスマスイブに別れを切り出した晶子だった。
 晶子は直属の上司の秋山部長から正式にプロポーズされた。しかし、晶子は丁寧に断る。
そしてその足で児島のアパートへ、不在を知ると町田の児島の実家へ向かった。
 頭の中では、年齢、お金、世間体、そんなものどうでもいい。彼はそれで言いと言ってくれた。自分が幸せと思えるものを掴み取るのだと確信する。
 夜の11時を回っていた。晶子はご両親に「達郎さんにお婿さんになって欲しい」と頼む。沈んでいた達郎は微笑が浮かんでいた。
1268 菜種晴れ

Date: 2008-07-12

おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著  光文社  発行:2008年5月

 房州勝山の菜の花に囲まれて育った二三は、遠縁の深川の油問屋の新兵衛の家に養女としてもらわれていったのが5歳の時だった。
 二三は、小さい頃から利発な子だった。5歳で親から教えられた天ぷらを養父母に作るとそのうまさに驚嘆した。
 二三は養父母に可愛がられた。しかし、二三が十六の時、勝山屋は大火事に見舞われ養父母とも焼死する。二三は奉公人や町のものにたくわえをほとんど提供した。大火事から9年後、父もなくなり、兄は嫁をもらった実家の母を、深川に招き親子で天ぷら矢を始める。庄次郎と夫婦になろうとした矢先、地震で母と庄次郎を失う。
 二十五歳になった二三は、砂村の農家でおかねと一緒に暮らす。おかねには勘当した息子がいた。二三は江戸に近いこの土地で菜種が植えられないかと考えていた。三十路を越えた頃、二三はおかねの土地に菜種の種をまく。自分には菜種があると自らを励ます。
1267 ポジ・スパイラル

Date: 2008-07-10

おすすめ度 ★★★★

 服部 真澄 著  光文社  発行:2008年5月

 諫早で恭吾の父は祖父母と母、妹と弟を手にかけ、自らも漁網で首をつって死んだ。心中は借金苦だった。
 恭吾は、諫早の海を元に戻したいと思っていた。干拓地に替える事業は水門を閉め、潮の流れを止めてしまった。漁を失った者たちはゼネコンに一時的に働いたものの、すぐに仕事はなくなってしまった。
 ポジティブ・スパイラル計画を打ち出したテレビ局が諫早湾の調整池の潮止めを開門させ有明の海をよみがえらせることを狙った。
 それには菱がよいと放送する。菱は水質は改善する。バイオマス・エネルギーへの道も開けるとタレントの恭吾は賛同し、それに積極的に関わっていく。
 そして恭吾は東京都知事に立候補する。
 2600ヘクタールの調整池に菱の種をまくという行為が愚行か美談かと報道される。放送は知事選の投票日である。
 投票は恭吾の名が多数読み上げられる。
1266 義弟

Date: 2008-07-07

おすすめ度 ★★★★★

 永井 するみ 著  双葉社  発行:2008年5月

 克己は5歳の時母を亡くしていた。それから4年後、父は再婚した。義母には16歳の彩という16歳の娘がいた。
 義母もやさしかったがそれよりも義姉の彩がなにかと克也をかまってくれた。よく勉強のできる義姉だった。彩はその後、弁護士になった。
 克也は父に期待されながらも医者にはならずスポーツクラブのインストラクターになった。
 義姉とバイクに乗って疾走した。しかし、事故にあって彩は足を引きずるようになった。でも明るかった。
 義姉から電話があった。妻子ある男性とホテルでのこと突然苦しみだした男性が死んだ。心臓を患っていた。克己は姉の為に男性を夜の道端に遺棄する。
 義姉のことが忘れられなくて克也は事件を起こす。彩は克也のために自分が自首するつもりだ。彩も克己が必要な人になっていた。
1265 オレたち花のバブル組

Date: 2008-07-05

おすすめ度 ★★★★★

 池井戸 潤 著  文芸春秋  発行:2008年6月

 近藤直弼はタミヤ電機に出向させられた。しかし、社長の田宮と経理の野田が近藤の行動を好ましく思わない。近藤はこの会社の二重帳簿を見つける。おまけに3千万の融資をまた貸ししていることを知る。銀行では涌かなかった銀行マンとしての信念がよみがえり、この不正に立ち向かう。
 半沢は担当になった伊勢志摩ホテルが投資に失敗して120億の損失を出した。貸し出した金は前任者の古里と貝塚と大和田常務が何食わぬ顔をして半沢のせいにしようとしている。
 近藤はバブル期に一緒に入った渡真利と半沢が手を組んで古里を呼び出し、「伊勢志摩ホテルに於ける運用損失発生の件」の書類を疎開先から持ってこさせる。また、タミヤ電機に融資した金がどこに送金されたかその伝票を見つける。
 大和田常務のところだった。タミヤ電機は大和田に頼まれて銀行から借りてやり、大和田の妻の洋品店に流れた。4年たっても1銭も返していない事実を突き止める。
 金融庁が検査に入った。疎開先の資料も徹底的に調べられる。
 しかし、これだけ金融庁が強気なのはおかしい。誰かが情報を流しているとしか思えない。
 金融庁の黒崎と岸川部長の娘が婚約していることを知る。岸川の証言から大和田の不正が明るみになる。
 近藤は銀行に戻れる代わりに大和田の不正を公表しないことを約束する。
 ところが半沢は、岸川と黒崎との関係の公表と引き換えに、大和田の不正を証言すると約束させる。
 取締役会でタミヤ電機の件は大和田の指示によると岸川が証言する。
 近藤は財務部長となった。
1264 Xwpa ホーラ −死都−

Date: 2008-07-03

おすすめ度 ★★★★

 篠田 節子 著  文芸春秋  発行:2008年4月

 ヴァイオリニストの亜紀は、互いに家庭がありながらホールの設計などをする聡史と15年間、年に2、3回会っていた。
 2人はアテネからパナリア島に行った。亜紀は聡史から海に沈んだヴァイオリンをもらった。一目見て高価な品だと分かる。海から引き上げ解体し再び作り直したものだった。ヴァイオリンにはベールをかぶった30代の女性の絵が書かれていた。
 島で亜紀は不思議な体験をする。82歳の老婆から亜紀の持っているヴァイオリンは20年前に沈んだ船に乗っていたものが持っていた。そのヴァイオリンは不幸を運んでくるという。
 聡史は交通事故にあう。徐々に様態が悪化しチャター機でアテネに輸送することに。
 亜紀は修道院に入る。命が助かるように祈る。
病床で聡史が口にした最後の言葉は自分ではなく妻に対するものだった。
 呪われたヴァイオリンを亜紀は火にかける。石の建物、ざわめき、腐臭。幻覚だ。
 亜紀は男の持っていたヴァイオリンを弾く。無数の魂が弦の上に響きあって解き放たれた。
 しばらく引き続けたあと、亜紀は教会などどこにもない静寂の中にいた。
 聡史には以来あっていなかったが、あの後すぐに息を引き取ったという。
1263 新世界より 上・下

Date: 2008-07-02

おすすめ度 ★★★★

 貴志 祐介 著  講談社  発行:2008年1月

 小学生の早季は不浄猫を見たというと、母は「祝霊よ。明日からは全人学級に入る」と言われた。小学校はもう卒業だという。25人いたクラスメイトも残り5人になっていた。
 連れて行かれた寺で呪力で炎を意のままに動かせることができたが、今後使わないように紙人形に封印された。
 覚も瞬も真理亜も守もいた。先に来ていた子から「バケネズミをみても近寄ってはだめ」と聞かされる。
 早季ら5人は森に迷い込む。バケネズミに追われる。覚と早季は、言葉がしゃべれるスクィーラというバケネズミにバケネズミ同士の闘争や毒ガスのことを聞く。2人を匿ってもくれた。あとの3人とははぐれてしまった。
 スクィーラのおかげで再び守たち仲間に会うことが出来た。
 14歳になった早季は、瞬から好きだったという言葉を聞かされる。土砂崩れに合い早季を助けるために瞬は命を落とす。
 10年後、バケネズミのために大勢の人が命を落とした。この記憶を風化させないために戦争記念館が作られた。ガラスケースの中にはあのスクィーラの姿もあった。早季はスクィーラに何度も助けられたことからスクィーラが復活させられないように遺体を炭化するまで焼いた。
 さらに3年後、覚と早季は生まれてくる子のために手記をタイムカプセルに入れる。 
1262 金融腐蝕列島 【完結編】 消失 第3巻

Date: 2008-06-27

おすすめ度 ★★★★★

 高杉 良 著  ダイヤモンド社  発行:2008年4月

 竹中は鈴木最高顧問に会う。鈴木は役員人事に介入するなどパワーはまだ衰えていない74歳である。
 竹中は鈴木顧問に「川口は旧協立銀行からの融資十数億円を踏み倒しており、夏川は総会屋である。JFG銀行に出入りすることを禁じてほしい」と伝える。鈴木は二人と緊密な関係を持っていた。未公開株でしっかりもうけさせてもらったことから竹中に怒りをぶつける。しかし、竹中も譲らなかった。おまけにこれを機に鈴木最高顧問にも退いてもらいたいと頭取は考えていると竹中に話す。しかし鈴木最高顧問の辞任は難しい。
 杉本常務のグリーン化作戦が浮上した。渡瀬常務はそのグリーン化作戦には反対のようだった。クーデター計画も辞さないということが耳に入る。渡瀬常務はJFG総研に出向という辞令がでるが、渡瀬は辞表を提出した。竹中は渡瀬と最後の日に会食をする。
 5千億の大型増資にセントラル自動車から500億を引き出させようとしていた。しかしセントラル自動車はその話には冷淡だった。
 北田顧問もJFGを去っていく。鈴木はまだ退任する気配は無い。 
1261 びわ湖環状線に死す

Date: 2008-06-25

おすすめ度 ★★★

 西村 京太郎 著  光文社  発行:2008年4月

 身寄りの無い重症の患者を預かる「希望の館」で森本久司が死亡した。森本が持っていた荷物の中から女の子の写真の裏には長女あかり7歳と書かれていた。一緒に入っていた紙には「売り手よし 買い手よし 世間よし」の言葉があったことから近希望の館の職員柴田が江商人のびわ湖近辺を訪ねることにした。
 すると手がかりは無いうえに「さっさと東京へ帰れ!」という脅しの電話もかかってくる。
 森本と同僚の青木が殺される。訪ねていった役場の女性職員も亡くなる。
 森本が生前、質屋に預けていたものが判明する。それが妻と社長の浮気のビデオテープだった。妻の浮気を知り、子どもが自分の子ではなく社長の子だと知った時、森本は行方不明になったのではないか。そして20年。希望の館で死んでしまった。
 やがて、妻と社長の存在も分かる。二人はお互いの伴侶がいなくなっても再婚もせず愛人関係を続けていた。
 青木と役場の女性を殺した犯人も見つかる。
 一人の善良な職員が思わぬ殺人事件を引き起こすきっかけを作ってしまった。 
1260 生命徴候あり

Date: 2008-06-23

おすすめ度 ★★★★★

 久間 十義 著  朝日新聞出版  発行:2008年4月

 川崎病で入院の女子高生が手術中に亡くなった。医師は麻酔医の鶴見耀子のミスを疑った。しかし耀子は決して自分ではないと事故調査委員会にレポートを提出した。このことで耀子は謹慎処分になり、復帰後は別の病院に出向させられた。
 事故調査委員の岩下は、耀子の父のことを知っていた。父も心臓外科医だった。岩下と耀子は急速に親しくなる。やがて耀子は妊娠するが、岩下から「島村教授のお嬢さんと結婚することになった」と告げられ妊娠を言い出せないまま渡米する。カルフォルニア アーバイン校で研修医として働いた後ロサンゼルスコンドミニアムに住居を移し生まれた男の子譲はハウスキーパーに見てもらった。
 心カテーテルの治療法を習得した。
耀子は7歳になる息子を連れて帰国する。日本で心臓外科でリードする鮫島総合病院に受け入れられる。
 心臓血液センターが立ち上げられ、そこに耀子は次長として赴任する。
 ラスベガスで見かけたIT関係の李美樹夫に出会う。美樹夫はミッキーと呼ばれていた。耀子は35歳。美樹夫は29歳だった。
 美樹夫のすすめで未公開株を買う。やがて、美樹夫は会社を立ち上げ東証に株式公開した。株価は5倍の勢いで上昇中だった。瞬く間に250億円を集めた。株価は200倍を越えた。
 耀子はオペのデモ観察をする。心臓カテーテル手術を行う。見事な手術だった。その様子をかっての恋人岩下が見ていた。
 美樹夫は病院買収に乗り出すが、思惑と違って追われる羽目に。親しかった耀子も報道陣の的になる。
 北海道に残した譲は、少年野球中に珠を受け意識不明になる。
 美樹夫がセブ島で死んだという知らせが来る。耀子は北海道にもどる。祖父が残した病院で心臓カテーテル治療を始める。
 以前に買った株を買いたいとオファーが来ていた。
 
 
1259 やつらを高く吊るせ

Date: 2008-06-20

おすすめ度 ★★★★★

 馳 星周 著  講談社  発行:2008年5月

 95年型ポルシェに乗ってスキャンダルの写真を撮ることを生業にしている栃尾は、二流タレントと売れなくなった元アイドルのスキャンダルの通報にすっ飛んでいく。女が去ったマンションで元アイドルの歌手の男が死んでいた。
 その事件を調べるうちに元歌手と二流タレントと金貸しの吉井秀人が同郷だった事を知る。
 吉井秀人は貸した金は必ず返してもらうといきまいていた。
 栃尾も吉井から仕事を頼まれる。今度は重久という20年前総理大臣を二期つとめ息子も2世議員。孫娘は岡本洋子と言うが政治家の家に嫁いだ。この孫娘と重久の関係を隠しカメラで撮る。しかしこの映像はあまりにも巨大な力に誰も手につけないだろう。
 吉井は新宿警察署の浅田巡査部長に500万円を貸したという。浅田は東明会との黒い噂もある皆が震え上がる人物だ。栃尾は代々木上原の近くのマンションに高木陽子とその子どもを囲っていた。月に20万はする瀟洒なマンションである。調べるうちに子どもは浅田の子だとわかる。浅田の子の舞に接触する。舞はいきなり栃尾に処女を捨てたいという。聞けば16歳になったら父親に犯されるという。もうすぐ誕生日だ。父親がわが子を・・・。栃尾は警察に挑発し追われるポルシェの中で舞を犯す。
 舞が父親に告げたことで栃尾は狙われる。しかし、舞は栃尾に関係を迫り毎日やってくる。
 次の事件でレスビアンの真弓の情報を得たくて舞を利用する。舞は真弓と関係をしながら栃尾を追っかける。
 栃尾は吉井から1億を受け取り、舞はその資金を運用して3億に増やした。舞は今では東大に通う大学生。東大生の現役の売春婦だ。寝物語で聞く情報を元に栃尾はスキャンダルを追う。
 
1258 愛しの座敷わらし

Date: 2008-06-18

おすすめ度 ★★★★★

 荻原 浩 著  朝日新聞出版  発行:2008年4月

 東北地方に転勤になった家族。最初に座敷藁氏に出会ったのは祖父の澄子である。75年暮らした信州に似た風景を見ながら3年前から東京の息子夫婦と孫達と暮らしている。
 座敷わらしは紺がすりの着物を着ていた。次に中学二年生の梓美だった。梓美は鏡を通して顔を見た。ひっとしか声が出なかった。怖くなって一人で寝ないようにした。
 つぎが弟の智也は裏庭の杉の木の根元にある祠のところに入る小さな子を見た。ときどきでてきて剣玉をしてみせると寄ってくる。口は聞けないが小さいので智也も警戒をしていない。
 梓美は図書館で座敷わらしの本を見た。なんとなく自分に似ている。おかっぱ頭だった。
 澄子と智也はこのことを他のものが怖がらないように内緒にした。
 ところが、母の史子が鏡を見て女のこのような着物を着た姿を見てしまった。史子が今夜は食事を作らないというので夫の晃一は仕事を放ったらかして戻ってきた。
 ファミリーレストランで妻の史子の「聴いて欲しい」という話を聞く。「こどもの顔を見た」と切り出した。夫は笑うが、家族の誰もが見ていたことを知る。現にレストランのウエイターでさえ、5人しかいないのに6人分の水を持ってきたし「6人様ですね」といった。
 晃一は自分だけが見えないのだと知った。近所のおばあさんの姉が90年前の子どもの頃、座敷わらしを見たというので一家で聞きに行く。
 座敷わらしは間引いた子(生まれる前に堕胎した子)が4歳5歳の姿になって戻ってくるという。悪さはしないが遊び方も食べ方も言葉も教えていないからしらないという。おまけに座敷わらしは自分に無い福をよぶという。
 梓美は友達に座敷わらしが出ることを話すと見たいという子が数人やってきた。弟を紹介すると後ろにいた座敷わらしが見えた子が2人いた。
 父の晃一はカメラに撮ってやろうと待ち構える。ある日、カメラを通して父も見えた。犬のそばで寝ていた姿だった。
 座敷わらしのおかげで皆がよく話すようになった。
 ところがここの越して3ヶ月もたたないのに晃一が本社に戻る辞令が出る。一家は仕方なく東京に戻ることに。帰りのレストランで、またしてもウエイトレスは「6人様ですね」と言った。

1257 荒野

Date: 2008-06-15

おすすめ度 ★★★★★

 桜庭 一樹 著  文芸春秋  発行:2008年5月

 荒野は中学に入学の日電車の中で「少年は荒野をめざす」という本を持った少年に会った。
 入学式を終えてクラスに戻った時、先生が委員長に指名したのがその男の子神無月悠也だった。そして女子は荒野が選ばれた。
 荒野の母は小さい頃亡くなり父は作家で家には奈々子さんというお手伝いさんがいた。
 ある日、奈々子さんは軽トラックで去っていった。
 6月はじめ荒野のパパは再婚した。相手は悠也の母だった。荒野と悠也は同じ家に暮らすことになった。早速クラスの子が「夫婦」だとからかう。
 悠也は夏休みの途中で留学が決まった。2年間アメリカへ行くという。
 悠也から荒野にときどき短い手紙が来る。
 悠也の母容子は荒野を大切にしてくれた。やがて悠也の母が妊娠する。バタバタしている最中に悠也が戻って来る。
 妹が生まれた。ところが父は編集者の女性と浮気をしているようである。
 容子さんは妹を連れて出て行った。戻ってきて欲しいと荒野は思った。
 悠也は留学後は東京の全寮制の高校に進学した。荒野は悠也に会った。金色のハートのネックレスをもらう。
 家の前で容子さんが入るのを戸惑っている風だった。荒野は「おかえりっ」といつも容子さんが荒野に言ってくれた言葉を口にした。
1256 東京島

Date: 2008-06-13

おすすめ度 ★★★★★

 桐野 夏生 著  新潮社  発行:2008年5月

 夫婦で出かけたクルーザーが大破し無人島に漂着した清子と隆は海を眺める日々を送っていた。
 3ヵ月後、与那国島の野生馬調査のバイトたちが23人も漂着した。島には清子1人が女性だった。
 夫の隆はやせ衰えてまもなく死んだ。島では清子の夫をくじ引きで決めていた。清子は46歳になっていた。
 島はトウキョウ島となづけ、ブクロ、ジュク、シブヤ、チバ等と名づけた村をグループで形成していた。仲間はずれにされたワタナベはドラム缶が捨てられている浜辺をトーカイムラとなづけていたところに追いやられた。
 そのトーカイムラへ中国人のヤンたち11人が漂着する。ヤンたちはドラム缶を器用に利用して船を作った。清子は脱出に誘われた。清子はGMと夫婦になったばかりだったが助かりたい一心で船に乗る。
 ところが10日ぐらい漂流して到着した島がもとのトーキョー島だった。
 今度はGMをはじめ見捨てたはずの仲間は清子に見向きもしなくなっていた。
 清子は妊娠していることに気づく。臨月を迎えるまで清子は一人で頑張る。
 島に投棄に来た日本人にワタナベだけは救われる。皆は新たなタバコの殻とペットボトルに島に日本人が来たことを知る。ワタナベがいない。救出を求めてくれるだろうか。皆は待つが来ない。
 清子の出産が近づいた頃、またしても島に7人ものフィリピン女性が来た。
 たどり着いたところは隆や掛けから落ちて亡くなった若いカスカベの骨のある場所だった。皆はここに近づかない。
 その場所には天然の船庫になっていた。船は中国人たちが直し始めていた。
 清子は出産する。男と女の双子だった。一人をフィリピンの女性に託した。清子は直った船で中国人と共に島を脱出する。
 港区に住む林千希は13歳。ママは林きよこという。60歳を過ぎている。ママは無人島で7年暮らしたといいます。今は占い師をしています。
 トウキョウ島では、弟のチータがヤンさんたちに今でも崖の方に行くなと言われて暮らしている。

1255 あぽやん

Date: 2008-06-10

おすすめ度 ★★★★

 新野 剛志 著  早川書房  発行:2008年4月

 遠藤慶太は空港のカウンターでチェックインの仕事をしていた。まだ新人の部類である。年はもうすぐ30になる。
 おばけと呼ばれるツアー客。ツアーで来日し途中から消えてしまう。今後のツアーをキャンセルするが、戻ってくるツアー代金の請求にも来ない。ツアー客と入れ替わってしまう客。
 再入国許可が無いのに出国使用とする客。二度と日本に戻れなくなるというのに。
 切符の手配は出来ているが、行った先のホテルが取れていないことが判明した客。先輩に怒鳴り飛ばされて遠藤は必死で相手先の国に交渉をする。出発直前にホテルも取れた。笑顔で出発する客。
 母親のような女性の搭乗につき合わされ、その日だけ搭乗が早まったことを知らない遠藤は女性を飛行機に乗せられない状態に陥る。
しかし、この客はいつも搭乗に間に合わない客という。
 そこへ昔の彼女が声をかける。遠藤はズボンからシャツを出して頑張っている最中である。
 彼女は新しい彼氏と腕を組んで搭乗していった。
 人のいい遠藤は、パスポートを忘れたという子どもだけを残して、両親達は出国していった。遺された子はおばあちゃんが迎えに来るというがなかなかこない。電話をすると動けなくなったので送って欲しいという。
遠藤は空港から子どもの家まで送っていく。
1254 国境の少女

Date: 2008-06-08

おすすめ度 ★★★★

 ブライアン・マギロウェイ 著  早川書房  発行:2008年4月

 アイルランドの国境にまたがって少女の死体が捨てられていた。少女は裸体であったがかろうじて裏返しにパンティがはかされていた。
 少女の手には指輪がはめてあった。もうすぐクリスマスが来るという日であった。
 少女が誰であるかすぐわかった。誰が殺したか捜査が始められた。
 少女の父親は血が繋がっていなかったことから父親が殺したかと疑われた。少女は決して素行のいいほうではなかった。
 指輪は25年前に盗まれたものであることが分かる。指輪の持ち主も判明した。しかし、指輪の持ち主もすでに殺されていた。
 捜査が進むに連れて思わぬことが判明してくる。
1253 アドニスの帰還

Date: 2008-06-04

おすすめ度 ★★★★

 安東 能明 著  双葉社  発行:2007年9月

 ブラジルでは日本に出稼ぎに来ていて帰国するとたくさんの金を稼いだと睨んで押し込み強盗が発生する。だから帰国をあらかじめ知らせないか、遠くの親戚に身を寄せるなどして身を守る。
 ところが中里章の一家は事前に漏れた帰還の情報から一家が皆殺しにされた。
 エルザは日本で拘留されたブラジル人の通訳をしていた。コンビに強盗があり捕まった少年の自供を警察に伝える仕事だ。
 エルザ自身も15年前、自分の服についた火であやうく死にそうになった。自分を抱きかかえて転げまわって火を消してくれた男マルコスがいた。遠のく記憶の中でジトという名を聞く。一味の大半は10年の刑だったが、ジトは30年の刑を言い渡されたがその時はすでに身を隠していた。
 エルザはジトを密かに探していた。ジトは腕に刺青をしていた。「鍵の形をした太陽」だった。
 そして、エルザはジトはゴメスではないかと思い始める。声も顔も違うが・・・。刺青を消したという人物もいた。
 やはり、ゴメスはジトだった。そしていつも身を守ってくれたマルコスもそのことを知ってエルザがジトを探していることを心配していた。

 
1252 ふたりの逃亡者

Date: 2008-06-01

おすすめ度 ★★★★

 ボブ・メイヤー 著  二見書房  発行:2008年5月

 ブロンクスの裏路地のアパートを見張っていたニーリー。ニーリーが見張っているのは石油技師の夫を持つハンナである。
 ニーナーの運命が激変したのはまだ十代だった1993年に書類をアメリカに届けるよう頼まれたベルリンの空港で持たされたのが時限爆弾だと分かった時だった。パニックに陥った時、ガントという軍人に救われた。
 ガントはアメリカ合衆国の秘密機関の工作員だった。ガントは特殊技術をニーナーに教えた。偵察、狙撃、暗号解読など。そして10年余りたったおり、ガントは山頂で命を落とす。ニーナーが葬った。
 ガントの最後の言葉にニーナーは動く。ガントを動かしていた組織は何なのか。
 ニーナーはハンナを見張っているうちに夫が不在を知る。ハンナは両親が交通事故死したあとは天涯孤独だった。ジョン・マスターソンと知り合い結婚。しかし夫はゴルフに出かけたまま戻らない。弁護士から夫からの離婚の申し出を知る。金も無く身ひとつで放り出されたハンナは、ニーナーと行動を共にする。
 ハンナの目の前で別れたがっていた夫が殺される。夫はハンナを守るために姿を消したが、追い詰められ再び家に戻されたところだった。
 ニーナーはハンナを伴って逃げる。緊迫感の無いハンナにいらだちながらも身を守り逃亡を続ける。
 やがて、ニーナーは自分を動かしている地下組織がコリンズ上院議員の命令だと知る。
 タリバンからパイプラインを狙撃されないために多額の金が動いたこと。逃亡をしながらすでに大勢の人が死亡した。
 ニーナーを動かしていた人物が現れる。
1251 反転 闇社会の守護神と呼ばれて

Date: 2008-05-30

おすすめ度 ★★★★★

 田中 森一 著  幻冬舎  発行:2007年6月

田中森一は、長崎県平戸の漁師の子沢山の家に生まれた。貧困であったが、親に10年だけ学校へ行かせてと頼んで高校からは定時制に行き、大学は岡山大学に入った。そして検事として撚糸工連汚職事件や平和相互銀行不正融資事件、三菱重工CB事件などを担当した。特捜検事として名をはせたが、やろうとすることにストップが掛けれらることに不満を持ち検事をやめる。1987年に弁護士に転身した。ヤクザや事件の主役の人たちの弁護にあたり、「闇社会の守護神」と呼ばれる。2000年に石橋産業事件をめぐる詐欺容疑で東京地検に逮捕、起訴される。2006年、東京高裁にて懲役三年の実刑判決。そして最高裁で棄却され刑が決定する。懲役3年だった。許永中と組んで石橋産業の手形裏書をし多額の金を騙し取ったというものだった。
 この本には山口敏夫議員や山口組のこと末野謙一など、田中が関わった人たちの名が出てくる。

検事が転職だと思った時代もあった。弁護士に転向してからはお金がどんどん舞い込んだという。
1250 警視庁情報官

Date: 2008-05-25

おすすめ度 ★★★★★

 濱 嘉之 著  講談社 発行:2007年12月

 黒田純一は今年で来た情報室の勤務になる。警視庁入庁は平成元年。巡査で採用され巡査部長、警部補試験、そして警視になった異例のスピード出世だった。
 一方、小学校の同級生だった北村と西村は「東大で会おう」と高校は別々のところで過ごした。
 そして見事二人は東大に入る。北村は1年間のアメリカに留学をした。大学在学中にふたりは司法試験に合格したが、先輩の薦めで警視庁に入庁した。
 情報部は今は「ゼロ」と呼ばれているが「サクラ」「チヨダ」と呼ばれた時期があった。
 北村は黒田のレポートを目にし、本部の公安に引っ張る。
 平成14年、北村は副総監が大阪府警本部長となったあと「情報室」が作られ黒田ら25名が従事した。
 この間に宗教団体の内定、東日本電力の内定をすすめ原子力発電所の贈賄疑惑が起こった。
 大物政治家の不正ではじまった事件は他の国会議員2人と官僚5人、地方自治体幹部など85名の逮捕者を出した。
 平成19年、北村警視総監と西村警視庁長官は定年で勇退する。
 黒田は小笠原警察署長として赴任する。そこへ朴からの電話を受ける。「大谷はもう不要な人間だった。」という。黒田はまだまだ世界を相手に対等ではない未熟さと言い知れぬ恐ろしさを感じる。
1249 狐火の家

Date: 2008-05-20

おすすめ度 ★★★★★

 貴志 祐介 著  角川書店  発行:2008年3月

 果樹園が並ぶ荒神村で娘が殺された。帰宅した父親が見つけ、放心しているところを父親の幼馴染の遠野が見つけ警察に通報した。
 家の中はほぼ密室状態。一階の北側の窓だけが開いていた。犯人はここから逃走したのか。果樹園の前の畑で近所の主婦がこの家に誰か来たかは見ていたというが、父親と遠藤の他はいないという。
 死んだ娘は中学生。柱に頭をぶっつけ脳内出血を起こしたようだ。
 長野県から警察が来て捜査が始まった。このうちで取られた物は隠していた24金のインゴット12本で30キロ分だった。しかし、犯人に結びつくものが無かった。
 家を出ている息子のアパートで女性が殺された。凶器は純金のインゴットだった。疑いは息子猛に向けられた。しかし猛は見つからない。
 父親は仏壇に二つの位牌を置いた。一つは娘のもの、一つは何もかかれていない。
 あの日、家に帰ると娘が倒れていた。そばに息子の猛がいた。「お前がやったのか」というと「ごちゃごちゃうるさいから、泥棒はやめろとかいうから」と言った。猛にインゴットのありかを見せ、その隙に猛の首に自分のネクタイを巻いた。とっさに猛の死体を便層にインゴットの重石をつけて鎮めた。インゴットは惜しくは無かった。そして、そのあと猛の家にインゴットの一つを置きに行った時、見知らぬ女がいた。この計画がばれては困るのでその女の頭にインゴットを振りかざした。
 もうこの家には住めない。売ることも出来ない。
1248 瘢痕

Date: 2008-05-15

おすすめ度 ★★★★

 霧村 悠康 著  文芸社  発行:2006年7月

 霧霞市民病院は老朽になり、近くに新しい病院が建築中である。
 その病院に美人の内科医南野由利香が赴任してきた。病院の中ではときどき、事故が起こる。怒るはずが無いと思っている事象でも死亡に繋がったりする。
 病院で亡くなった患者に一輪の薔薇が置かれるようになった。薔薇は白かったり赤だったりする。 
 ところが、特に赤い薔薇の場合は病院側の事故死が多い。誰が薔薇を手向けているのか。
 やがて、薔薇は由利香が手向けることが判明した。おまけに古いカルテも調べている様子である。由利香の姪は3歳で命を落とした。それも医療ミスと思われるものであった。
 カルテには医師の名前がなかったが、筆跡で陣内だとわかる。
1247 歌枕殺人事件

Date: 2008-05-10

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  実業之日本社  発行:2007年10月

 浅見光彦の家では毎年百人一首によるカルタ大会が開かれていた。
 そのカルタの「すゑの松山」はどこにあるのか。3年前に父親を亡くした。理絵の父親は偶然にも多賀城の末の松山の木の下で毒物によって殺された。犯人はまだ捕まっていない。
 浅見は宮城県の多賀城市に行く。12年前にも川崎町で野森恒子が殺された。恒子はいわき市の末の松山を調べていた。
 末の松山は実は日本に4箇所あるという。いわき市、宮城県多賀城市、岩手県二戸市、宮城県桃生郡須江である。この説は窪村教授が論文に書いている。
 浅見の歌枕殺人の謎解きが始まった。亡くなった2人とも窪村教授に会っている。窪村のアリバイを調べる。
 窪村にいつも行動を共にする浜田の存在を知る。そして窪村と浜田の関係について調べた浅見は窪村に疑惑を抱く。
1246  TENGU

Date: 2008-05-05

おすすめ度 ★★★★★

 柴田 哲孝 著  祥伝社  発行:2006年7月

 リンゴ畑の漆黒の闇の中で銃を持って奴を待つ。やってきた。クマではない。男だった。大男だった。昭和49年群馬県の寒村で凄惨な殺人事件が起きた。
 中央通信の道平は群馬県の須賀神社の近くに出向いた。26年前の事件について調べたかった。
 あの事件の起こる前に米軍のバンが通った。5世帯14人しか住まない村に40代の男が殺され、その男の家のものも2人が殺されていた。殺された妻の手からは、村のもの誰とも一致しない毛髪が検出された。
 当時は天狗が出たというものもいた。
 村のはずれに盲人の彩恵子がいた。夫の慎一は死体がないものの死んだとされていた。
 彩恵子は、200万円で買われてきた女だった。夫の死後、彩恵子は村の男達の共有財産だった。そのことを知った道平はショックを受ける。あれから27年がたっている。
 彩恵子の家は昭和49年に焼かれていた。現場に2つの遺体があった。
 道平はアメリカへ行く。彩恵子はアメリカで晩年を送っていたが51歳で亡くなった。
 彼女の残したものそれは、驚愕のものだった。
アメリカ軍がベトナムで捕虜した男はネアンデルタール人だった。アメリカ軍は、そのネアンデルタール人の子を残そうと盲目の女性を探した。そして選ばれたのが彩恵子だった。男は彩恵子の家の屋根裏に身を隠し、人目のつかないときにリンゴ畑を荒らした。
 2メートル7センチの大男は、武器を持った男に襲い掛かった。また彩恵子に近づく男達を次々に殺していった。しかし、争っているうちに倒れたストーブで全焼した際に焼け死んだ。
 彩恵子は助けられ、渡米した。その息子は米兵のボーマンに育てられていた。2メートルを越え、200キロはありそうな巨人となっていた。
 ネアンデルタール人は3万年の時空を越えて存在した。
 
1245  風の音が聞こえませんか

Date: 2008-04-30

おすすめ度 ★★★★★

 小笠原 慧 著  角川書店  発行:2007年8月

 川村美和は先日、保健福祉センターの相談窓口で受けた杉浦晃の家に向かった。晃の母が言うには晃は高校生の半ばから引きこもり、19歳の時に一時的に仕事をしたものの長続きはせず、2ヶ月と多々なうちに再び引きこもっているという。その後、精神科の入退院を繰り返していたが現在はアパートを借りて一人で暮らしているという。
 最初の日は居留守を使われて室内に入れなかったが、2度目はドアを開けてくれた。部屋に入り話しながら窓を開けた。締め切った部屋はすえた臭いがした。ゴミを片付けながら袋いっぱいになったところで「またきます」と帰っていく。それが何度か繰り返したとき、散髪に連れ出した。アパートの前にバイクがあることをみつけ、それに乗ってどこかへいこうと誘い出した。
 小さな池のほとりに来た。晃の一番気に入っている場所だという。
 徐々に晃は美和に心を開いてくれるようになった。美和の良く行く精神科の佐伯は晃のその変化に驚いた。美和はいきいきとしていた。
 晃は父親といった競馬場にも美和を連れて行った。少しだった賭けはどんどん的中し、かなりの額になった。美和は止めた。競馬はもうしてはいけないと。
 美和の母が亡くなった。晃は香典をもって現れる。支払いに苦慮していた美和に、晃の100万の香典は助かったものの、すぐに晃に返金した。
 晃も美和との会話が増えていった。佐伯からプロポーズを受けた。
 結婚が間近になったとき、美和は晃を伴って逃亡する。そして、美和と晃は薬を飲む。
 5年後、美和は佐伯から手紙をもらった。晃がその後、きちんと入院し治療に専念し、近々結婚をするという。
 美和は数年ぶりに晃を見つけた。佐伯がマイクを握って祝辞を述べている。美和はその様子を影から見つめる。
1244  水上のパッサカリア

Date: 2008-04-25

おすすめ度 ★★★★★

 海野 碧 著  角川書店  発行:2007年3月

 高校を卒業すると母は3度目の結婚をし、夫となった中国人の金持ちと中国に行った。僕は母が弁護士に託したお金で暮らすことになったが、弁護士の斯波は僕を留学と称してアメリカに連れて行き、サバイバルキャンプに置いて帰国してしまった。パスポートも取り上げられていたのでそこで7年半いた。再び斯波が現れて日本に帰国することになった。その際には全く別人の大道寺勉と言うもののパスポートを持たされた。大道寺は命と引き換えに戸籍を売った浮浪者だった。
 25歳になっていた僕は、日本に帰ると御徒町で自動車修理工となり、ときどき斯波が抱える問題の始末屋をするようになった。
 始末屋とはマンションの犬のうるさい家庭に何度も犬の鳴き声のテープを聞かせるだけの電話をし、ついにはその家庭は犬を手放してしまった。
あちこちの公衆電話から電話をしたので誰が電話をしたか分からない。この方法は勉が考えた。
 娘を事故死させられた父親からは、その相手が美人女優と婚約するとその会見場で子どもを使って「パパ、早くお家に帰って!」と言わせマスコミを賑わせた。男は酒を飲んだ上に交通事故で寝たきりの状態になった。仕返しが出来た父親は思い遺すことなく娘の元に行くために自殺した。
 ところがこの事故の男は闇社会の関係が多い服部の隠し子だったことから、勉はねらわれることになった。
 勉はこの事件の後は知り合って付き合っていた食堂の女性と高原の貸し別荘で、花を作り犬を飼って暮らした。3年後その女性が交通事故死した際に撮られた写真が元で勉の消息が分かり、斯波たちが再び現れる。
 斯波は金に困っているようだった。しかし、勉は人を信用しないことが身についていたために斯波も昔の仲間も信用していなかった。
 親しくしていた獣医の高畠が殺される。
1243  貸し込み 上・下

Date: 2008-04-20

おすすめ度 ★★★★★

 黒木 亮 著  角川書店  発行:2007年9月

 右近は宮入治から電話をもらった。妻の宮入悠紀子が脳梗塞で倒れて入院しているところへ、銀行のものが手形か何かに署名捺印させ、総額で21億円融資し、その不当性に裁判を起こし延々5年も続いているという。銀行側はその融資は右近が担当であったが今は連絡が取れないと言い続けてきた。やっと宮入は右近を探し、証言をしてもらえないかという。
 聞くと、元いた銀行の上司がその融資に絡んでいるが、自分は宮入悠紀子にあったことも、自宅まで行ったこともない。
 憤慨した右近は弁護士に連絡を取り、内情を聞く。右近は自分の立場は融資の担当をしたが、その後退職をし連絡が取れないとされていた。身に覚えのない融資と銀行側の説明のでたらめぶりに驚く。
 宮入氏は銀行に17億の使途不明金があるという。そもそも、脳梗塞の患者の枕元まで銀行が出向くのがおかしい。おまけに入院直後は元気であったというが・・・。
 結局右近の何でも取っておく正確が功を奏し、自分の疑いは晴れそうだった。銀行側は身を捨てて対面の取り繕いに躍起になっていた。
 そこへ国会議員の国会での追及。しかし、その議員もあらぬ疑惑で週刊誌のねたにされる。
 右近は終始、理路整然とした態度で裁判に臨む。
 外国銀行の3人の共同口座に右近の責任にしようとしている筒井の名前を見つける。
1242  少し変わった子あります

Date: 2008-04-15

おすすめ度 ★★★★

 森 博嗣 著  文芸春秋  発行:2007年11月

 小山は知人の荒木が行方不明だと聞き、荒木が以前話していた食事場所のことを思い出した。
 電話をすると門まで車で迎えに来てくれる。店は看板のない普通の民家のような時もあるし、以前料亭だったと思われる場所だったりする。料理は上品な味であった。静かな場所である。女将も無駄口は聞かない。
 何か物足りないというと一緒に食べる女性を紹介してくれる。しかし、女性は決してプライバシーを話さない。女性達はしぐさが卓越していて食べている姿を見るだけでも満足だった。
女性は毎回違う。お店の場所も雰囲気も毎回違う。いつも迎えの車が用意される。
 急に思い立っても1時間半ぐらいで用意できるという。
 女性はそれぞれに持ち味が違う。全く言葉を発さない女性でもこちらが話すわけではないが、なぜか楽しく食事が出来た。
 小山はこの感覚はなんだろうと不思議に思った。
 お上の顔も女性の顔もなぜか思い出せない。
 「又近いうちにきます」といって店を出た。
 小山は5回利用した。次に店を訪れた磯部は小山がなぜこの店に来たのだろうと思った。危険な感じを受けた。これで最後にしておけば印象が封印できると思った。
1241  連鎖する虐待

Date: 2008-04-10

おすすめ度 ★★★★★

 みひろ ゆう 著  新風舎  発行:2006年10月

 6年生の担任になった恵は、この前まで担任だった3年生のもえのことが気になった。消しゴムを盗ったということで注意されていた。もえはそんなことをする子ではなかった。そして初夏だというのに冬服を着ている。髪の毛も汚れている。
 恵の脳裏に虐待という言葉が浮かんだ。知人が教えてくれた虐待の項目があてはまる。
 別の日に恵はもえの身体を調べてびっくりする。無数の傷や打撲の後があった。間違いない。しかし、今の担任も校長も耳を貸そうとしない。
それどころか親に問い合わせている始末である。もえは、母子家庭だった。母親が10歳年下の男を自宅に住まわせるようになってもえに対しての虐待が始まった。
 食べ遺したとんかつをいったんゴミに捨てたものをまた拾って異臭を放っているものを食べるまで口に押し込む。布団たたきでたたく。食べ物を与えない。学校へも行かせない。窓のダンボールを張る。
 祖父母に助けを求めるも、母親は自分の小さい頃に受けた虐待を口にし、自分の行為を改めようとしない。それどころか更に虐待はエスカレートする。そして、死んだ。
 学校側は虐待は見受けられなかったとコメントする。
 恵は見殺しにしてしまったことを悔やむ。その怒りをもえの担任と校長にぶつける。二人は病気を理由に休校する。
 恵は教師を辞めることを考えるが、知人から逃げるだけでは解決しないことを諭される。
 そして、またもえの友人だった子が母親から虐待を受けていた。
1240  光の指で触れよ

Date: 2008-04-05

おすすめ度 ★★★★

 池澤 夏樹 著  中央公論新社  発行:2008年1月

 ネパールの奥に行っても毎日衛星回線を使って妻とメールをしていた林太郎は、妻がキノコをつれて出て行ったのが信じられない。もう半年になる。
 雷雨の日、びしょぬれになった会社の子をホテルに連れて行き、それが妻の知るところとなった。
 妻のアユミは保育園にキノコを迎えに行き、そのまま荷物と共にヨーロッパに旅立った。
 林太郎は残された息子の森介と一緒に暮らすが、森介はまだ小学生だった。
 林太郎はその後、女性との関係が復活した。しかし積極的だったのが女性の方で林太郎は常に家族のことが頭にあった。
 ついに、女性は別れていった。会社の子だった。妻が出て行ったことは会社に知れ渡っていた。
 会社人間だった林太郎は会社をやめる決心をする。
 森介が大学へ行くようになって、林太郎は畑をやろうと思った。息子の森介と親しくしていた女友達が岩手で有機農業をやっていた。
 林太郎と森介はスコットランドにアユミとキノコを迎えに行く。
 一家は日本に戻ってくる。
1239  商人龍馬

Date: 2008-04-03

おすすめ度 ★★★★

 津本 陽 著  日本経済新聞社  発行:2007年12月

 龍馬はジョン万次郎からアメリカの政治システムを聞く。武器の大きさも知る。
 龍馬は回漕業をやりたいと思った。アメリカの商業に興味を持った龍馬は身分のしばられない外国へも行きたいと思った。
 勝麟太郎に会う。弟子になりたいと申し出る。麟太郎は先の読める人物を紹介してくれる。越中守もその一人だった。
 龍馬は長州の藩士や薩摩藩士にも会う。長崎でグラバーにも会う。
 大政奉還のあと、龍馬は斬られる。しかし、龍馬を殺した今井信郎は特赦放免され、誰が殺したか分からないようになっている。
1238  組織改正

Date: 2008-04-01

おすすめ度 ★★★★★

 江上 剛 著  PHP研究所  発行:2008年4月

 長融銀が破綻し新しくできた新興銀行に勤める神野に、扶桑銀行からの返金を迫られている親子がやってきた。
 聞けば父親が急死し銀行の勧めで立てたビルを売却して14億の借金のうち7億を返済せよと迫られている。父が折角建てたビルを売るわけには行かない。家賃収入もある。おまけに残りのお金も娘の連帯保証人をつけろといってきている。
娘に借金の支払いで一生を終えさせたくはない。
 この話を受けて神野は社長に効率的な収益は上げられないが中小企業支援策を話す。社長は新商品委員会にかけるといいと提案してくれた。
 神野の先輩に離婚したシングルマザーの利沙子がいた。支配人に昇格した利沙子は銀行のフロアをインターネットカフェを設置し相談できるブースを広げる案を打ち出した。客に何度も窓口に呼び寄せるのではなく、中から客のそばに歩み寄るシステムを目ざした。外資系となった新興銀行は、人材もプロと呼ばれる銀行外から採用し、いかにモチベーションを高揚させ成果主義を取り入れる方向で動き始めた。
 そして3年半で1兆7千億の不良債権を解消した。ハゲタカといわれた新興銀行が真にお客様から信用される銀行に変わりつつあった。
 神野は利沙子と7つの年の差を越えて結婚することに。
 あの融資依頼の親子にも融資をし、扶桑銀行にお金を返済したいきさつを聞き、喜ぶ親子に安堵した。新興銀行は株式に上場すると発表した。
1237  お家さん 上・下

Date: 2008-03-20

おすすめ度 ★★★★★

 玉岡 かおる 著  新潮社  発行:2007年11月

 明治の中ごろ、神戸の港には大きな船が浮かぶようになった。よねは最初の結婚に失敗し、兄夫婦の勧めで鈴木商店の岩治郎37歳と結婚した。外国から砂糖や樟脳を買い入れ国内で販売をしていたが、それだけではなくあらゆるものを買い、三井、三菱をしのぐ勢いであった。
 岩治郎が54歳で亡くなったあと、よねは42歳に未亡人になった。子どもはまだ17歳。誰もが商売をたたむものと思っていたが、よねは夫の跡を継いで商売を続けるという。よねはお家さんとよばれ才覚を発揮する。
 仕入れのための船も作るという勢いでスエズ運河を通る半分は鈴木商店のマークをつけた船だったといわれる。
 倒産騒ぎのあった日糖の行方を見ていた金子は鈴木商店の進出を拡大する。台湾にも進出し、台湾銀行から多額の融資を受ける。
 その頃、店に来たお手伝いの珠喜は、よねのすすめる拓海を断り、思いを寄せていた田川の下へいく。田川は台湾にいた。しかし、田川には既に中国人の妻がいた。それでも珠喜は台湾の地で仕事を続けた。
 7年後拓海が台湾を訪れ珠喜に会う。やがて二人は結婚することになった。
 神戸の店は米不足が住民の不満を増発させ鈴木商店は暴動化した住民に放火され消失する。
 金子も懸賞金をつけられ指名手配となる。しかし、よねは金子を信じ解雇もしない。やがて鈴木商店は国家予算が15億円という時代に借金総額5億円を作って銀行取引をストップさせられる。
 事業の停止後、整理会社が昭和8年までに一切の債務を返済して解散した。鈴木商店は倒産したが破産はしなかった。誰一人泣かせてはいなかったのである。

1236  魔物 上・下

Date: 2008-03-10

おすすめ度 ★★★★★

 大沢 在昌 著  角川書店  発行:2007年11月

 カシアンという魔物が邪な心を持つ人間に乗り移り巨大な力を持ち人間離れした魔物のようになる。カシアンは閏年の二月二十九日に解き放たれる。それまでは人の中にいる。被害が拡散しないうちに手を打たなければならない。
 ロシアからやってきたイワンコフが持ち込んだものだ。イコンの絵が描かれている。
 麻薬捜査取締官の大塚は北海道でその事件を捜査していた。イワンコフが銃で撃たれる直前高森と対峙していた。
 カシアンは高森の中に乗り移ったと考えられる。乗り移られた人間は凶暴化する。大塚は高森が上京したことを知ると東京にやってくる。
 高森は男を友ずれにマンションから飛び降りる。高森は死亡していた。直前に走り去る車。乗り移られた男は長いまつげになる。銃で撃たれたぐらいでは死なない。
 やがて大塚の身体に乗り移ることに。


1235  陪審法廷

Date: 2008-03-06

おすすめ度 ★★★★★

 楡 周平 著  講談社 発行:2007年3月

 母が死に、孤児になったパメラはこれまで住んでいたスラム街の家を追い出され、一人路上で生活することになる。
 1年後親切な男性に声を掛けられ孤児院に入所できた。そこで7歳の時、クロフォード夫妻にもらわれて夫婦の子どもとして育てられることになった。
 ストリートで寝起きしていた頃に比べると雲泥の差である。自分の部屋もある。清潔なベット、美味しい食事、父と母。この夢のような生活は草長く続かなかった。
 母が夜勤の折、父はパメラが12歳になった頃から嫌がるパメラを押さえ込み性的暴力を振るうようになった。この生活を続けるためにパメラは必死で我慢する。社会的な地位のある養父のこと、本当のことを言っても誰も信じてくれないだろう。父も娘の言葉はうまくかわして世間を欺く方法を見つけるだろう。何よりも養母を悲しませてはいけない。
 しかし、15歳の時、パメラは同級生のケンイチに相談する。父からの屈辱を話すとケンイチは何とかしてやりたいと思うようになった。
 ケンイチはパメラに母の夜勤の日に反撃を宣言する。
 ケンイチは、パメラの父の拳銃のありかを知っていたのでそれを手に入れると、パメラのために父のクレイトン医師を銃殺する。
 ケンイチは捕まる。パメラは、母に本当のことを話す。
 ケンイチは、陪審員達によって結局無罪になる。ケンイチの父は日本に帰る決心をする。罪は許されても人を殺した頃は償わなければならない。ケンイチの父は仕事をやめこの地で暮らすことを断念した。
 ケンイチの元に陪審員の一人から手紙が届く。最初は有罪9人、無罪2人だったという。しかし、医師だったパメラの養父が行った行為はケンイチの友を助けようという動機を理解しての無罪だった。ケンイチに未来のある子どもであることも無罪に傾く大きな要因だった。
 パメラは、養母と一緒に暮らすことになった。一度親子になった以上、ずっと続けていくつもりだとパメラの養母は言ってくれた。
1234  藪枯らし純次

Date: 2008-03-03

おすすめ度 ★★★★★

 船戸 与一 著  徳間書店 発行:2008年1月

 中国山脈の中ほどにある赤猿温泉に城南経済興信所の高倉がやってきた。
 40年ほど前に旅の一座がこの村にやってきた。うち一人の27歳の女がここで暮らしたいと一座から抜けて旅館の下働きとして暮らし始めた。村の音子どもは別嬪だったこの女を皆で手込めにした。子どもが3人も生まれた。誰の子か分からない子だった。うち一人の子は小児麻痺で亡くなった。42歳になって女は首をつって死んだ。
 そして、その女の産んだ娘は母親と違って身持ちのしっかりした子だった。母親をなくしたときは13歳だった鈴子だったが、やがて成人して誰の子が分からない女の子を産んだ。やがて女の子が12歳の時、母親と同じように首をつって死んだ。純次は鈴子の弟である。
 純次は都会で植木屋や大工として働いていたが、この温泉に戻ってくるという。村人は復讐のために戻ってくると震えた。
 しかし、純次は故郷で姪の世話をしながら余生を送るという。つぶれたスナックをジャズ喫茶にするという。一人で店を直して開店した。
 店には村の年寄りがジャズの音楽に魅せられてやってきた。この曲を聴くと店に行きたいという衝動にかられるといういかがわしいものだった。
 村で殺人事件が起こる。高倉は自分が警察ではないものの純次の行動を見張るという仕事を超えて興味を持ち始める。
 殺人事件は、この村に皆が住み着いた頃の歴史を知ることとなった。1863年ごろ高杉晋作の奇兵隊組織した頃である。
1233  棄霊島 上・下

Date: 2008-02-28

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  文芸春秋 発行:2006年4月

 長崎半島のはずれに端島というのがある。遠めに見ると軍艦のようにみえる。かっては炭鉱で島いっぱいに建てられた鉄筋コンクリートの高層住宅のあとである。
 端島神社の宮司が海で水死体で見つかった。酔って足を滑らせた事故死とされた。
 浅見が長崎に渡った折、軍艦島のことを教えてくれた後口は信州の娘のところで暮らすという。
宮司の死に疑問を持っていた。
 静岡県の御前崎海岸で後口が殺された。最後に会った浅見が疑われたが、兄の職を知り無罪放免となった。
 浅見は折口が信州で出会った桧山をみて非常に驚いたことを突き止める。
 昭和48年にも軍艦島で人が亡くなっていた。その前後の自衛隊のヘリコプターで妊婦を運びその際に桧山もそれに乗っていたはずである。
 戦争が終わりかけの頃、女児を出産した女性に岡田和彦と署名した認知証明書とへその緒を後口の娘が持っていた。後口の死後、娘の夫が襲われる。
 浅見はそのへその緒を預かり、六十年も前の疑惑を解いていく。そして桧山が岡田ではないかと疑問を持つ。
1232  検証 もうひとつの武将列伝

Date: 2008-02-20

おすすめ度 ★★★

 井沢 元彦 著  実業之日本社 発行:2005年6月

 江戸時代鎖国になる前は朱印船で東南アジアで交易をしていた。山田長政はシャム(現在のタイ)に渡った。
 そして鎖国になった。山田長政がシャムにいたときには日本人はすでに1500人もいたという。長政は傷口に毒を塗られて死んだ。
 徳川家康は長寿を保ったから必然的に天下を取れる状況にあった。その家康の最後は鯛の天ぷらを食べて腹を壊したことが原因で死んだ。75歳だった。
 毛利輝元の三本の矢の話はウソである。長男は父より先に死んでいた。
 戦国の武士から高杉晋作まで54人の短編
 
1231  蒼の悔恨

Date: 2008-02-15

おすすめ度 ★★★★★

 堂場 瞬一 著  PHP研究所  発行:2007年6月

 真崎薫は退院して職場に行く。真崎は捜査一課の刑事である。連続殺人犯青井に刺されて負傷を負った。犯人は逃げ指名手配された。まだ捕まっていない。
 同じチームだった奈津を訪ねる。奈津は大きな宝石店の社長の娘だった。会社を継ぐように思っていた親の反対を押し切って刑事になっていた。
 奈津は真崎の負傷を自分のせいだと思っていた。
 奈津の父親に会う。真崎は奈津が警官には向かないが刑事に向いていると言う。
 犯人の青井が新たに借りたらしいアパートを突き止める。
 真崎は罠にかかったふりをして青井に近づく。奈津が人質に取られた。奈津は青井に向かって銃を放つ。青井は雨で増水した海に沈んだ。生きてはいまい。
 真崎は奈津に魅かれ始めていた。
1230  不当買収

Date: 2008-02-10

おすすめ度 ★★★★★

 江上 剛 著  幻冬舎  発行:2006年9月

 松下遼はエノモト加工の娘榎本彩と交際していた。彩の父にも気に入られていた。
 しかし、遼は銀行をやめ大沢に誘われて外資系TOBファンドに転職した。
 大沢はエノモト加工の株を買い占めようとしていた。怒った榎本社長は遼に彩との交際を禁じる。
 大沢のねらいは企業経営者に株主を甘く見るなと警笛を鳴らすことにあった。
 一方、榎本は会社は株主のものではない。株主は経営者と一緒になって夢を見るものだ。その夢を実現する責任がある。育ってもいない苗を引き抜いて売る農家がどこにあるかという持論を持っていた。エノモト加工は従業員はもちろん、地域や社会があってそこで続いている。それを絶やすことは出来ないと思っていた。
 しかし、短期的な利益を狙っての投資家も株式を公開している以上やむをえない。
 エノモト加工はWFBVFのバックアップを得て、合併後に非上場にすると発表した。
 大沢は株の値上がりを予想した。平均840円の株は徐々に1600円に。もうそろそろ手を引くと思っていたWFBVF側は、更なる銀行合併を控えこれ以上エノモト加工に加担できなくなる。大沢は1700円に吊り上げようとしていた。
 エノモト加工を心配する遼は、六本木ヒルズに住む江角にホワイトナイトになってもらいたいと頭を下げる。大沢もエノモト加工も裏切られない。
 銀行側は、企業買収を避けられればその申し出を受け入れた。大沢も株を高根で売り抜けられる。
 遼はこの件が落着した後、エノモト加工に入社し、榎本を越える経営者になりたいと思った。
1229  名もなき毒

Date: 2008-02-05

おすすめ度 ★★★★★

 宮部 みゆき 著  幻冬舎  発行:2006年8月

 杉村は9年前今多菜穂子と知り合って結婚した。菜穂子が今多コンツェルンの娘だとは知らなかった。娘婿ということを伏せ今多の広報部に入った。杉村は妻と子のためによき父親でもあった。
 広報部で新たに雇った原田いずみは半年もしないうちから周りの不満が出始めた。面接時の履歴や経験が疑わしい。以前に勤めていた会社に出向くとかなり問題があったようである。嘘八百をならべ、実の兄の結婚式で自分と兄がいやらしい関係にあったと被害者のように演技をしてしまった。結婚は破綻した。両親はいずみとの距離をとるために北海道に越してしまった。
 学歴も詐称し高校中退であった。そのいずみに解雇を通告したところ、知らぬ間に出入りしコーヒーに睡眠薬を混ぜ社員を眠らすという事件が起こった。
 杉村が担当窓口になり対処するが、いずみは相当にしたたかである。
 そのころ、コンビニのウーロン茶に青酸カリが入ったものがあり、死者が出る騒ぎになった。
 杉村がマンションから一戸建てに移ったところ、娘の体調が思わしくない。そこへいずみが入り込み娘を脅す。
 青酸カリの本当の犯人をみつけた杉村が警察に向かう途中に妻からの救助を求める声に、急遽自宅に向かう。
 いずみに対し、犯人の男は「人の命を奪っても何にもならない」という。犯人に気が向いている隙に娘を救助できた。杉村はいずみに体当たりする。吹っ飛ばされて気を失ういずみ。警察に通報する。
 杉村はいずみをみて毒があると感じる。名もなき毒があると。人間はあらゆる場所に毒が潜んでいる。内なる毒の名を知りたいと思った。
1228  私はナース

Date: 2008-02-01

おすすめ度 ★★★★★

 川辺 敦 著  早川書房  発行:2005年5月

 夢野純は高校を出てから7年目。この三俣台病院のナースになって4年になる。
 死後の始末をしていた先輩ナースの斉藤が死体に覆いかぶさるようにして背中を指され死んでいた。
 夢野は犯人を捜そうとするが、仕事の多忙で休止中である。病院には32歳の院長の息子の惣太郎がいた。長身で色白の優男である。
 そこへ河川敷で苦しんでいたホームレスの男が担ぎこまれる。夢野は異臭を放つ男を入浴させ洗ってやる。しかし、生きる意欲がなく変わり者である。徐々に夢野の言うことだけは聞くが、名前を名乗らない。仕方がないから名梨と呼ぶことにした。
 名梨の部屋には認知症の人もいて手がかかる。ナースの仕事の多忙振りが名梨の頑固ぶりでいっそう大変になる。その名梨が癌で余命僅かと診断される。
 名梨が亡くなった。夢野ではなく50歳の大野が名梨の処置をした。そのことに不審を抱いた夢野だった。ところがその大野も何者かに殺される。
 夢野は名梨の腹に書かれた安の字を見てダイイングメッセージだと思った。安藤惣太郎。夢野は惣太郎に追われる。
1227  研ぎ師大吉

Date: 2008-01-30

おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著  新潮社  発行:2007年12月

 大吉は新しい長屋に引っ越してきた。包丁研ぎ師である。
 大吉は鼈甲問屋吉田屋の娘香織は吉川家で奉公していたが、大吉も吉川家で奉公をしていた。
 大吉は5歳の時から父の研ぎ師の手伝いを始めた。14の春に龍斉に師事した。そして8年後、吉川家に勤めた。香織が大吉に気持ちを寄せているのを知り、主人からお暇を出されてしまった。
 その時の香織がこともあろうに、出刃包丁で刺したという。包丁は安次郎の作である。
 安次郎は持ち主を記帳していた。殺された利吉とかおりの父元五郎がもめていたことを知っていた。元五郎はその後、何者かに殺されたが、利吉が殺したと信じて香織が殺したのではないかと疑われているのだ。
 大吉は香織の無実を晴らせてやりたいと思うのだが、妙案が浮かばない。
 そこへ大吉の知り合い長助が十手持ちになった。大吉は香織の件を案じたが、長助の上司の長田が安次郎の身辺を探る。
 安次郎を調べた末に、本人から人を殺したと聞くことが出来た。
 今の大吉は香織よりも毎日飯を食べに行く七福の娘の方に思いを寄せていた。
1226  6時間後に君は死ぬ

Date: 2008-01-27

おすすめ度 ★★★★

 高野 和明 著  講談社  発行:2007年5月

 渋谷駅前で「6時間後に君は死ぬ」と声をかけられる。今日は美緒の誕生日である。気にしないで待ち合わせ場所に行くが「約束を忘れている」とさっきの男が言ったとおりになった。
 男はまだ近くにいた。自分に予知能力があり、未来が一瞬見える。美緒は胸を刺されて倒れているところが見えたという。のこりの6時間を一緒にいてくれるという。
 美緒は警察に行く。思い当たるストーカーに狙われていると思った。担当刑事に話をしてそのスートーカーの様子を見に行く。
その男はさっき引っ越したばかりだという。夜行バスで田舎へ帰るという。バス停で男に会うが、見ている前で田舎行きのバスに乗り込んで去っていった。
 時間が刻々と近づく。途中で予言をした男かと疑ってみる。友人から防刃チョッキを借りてつけた。
 ビルに入り込んで予定の時刻の前に予言した男がナイフを取り出す。びっくりしていると刑事が拳銃を持ってやってくる。
 予言どおりになるのかと思ったが・・・。
1225  アンダーリポート

Date: 2008-01-25

おすすめ度 ★★★★

 佐藤 正午 著  集英社  発行:2007年12月

 古堀は15年前の事件が気になり村里悦子を訪ねた。しかし、悦子は事件の当日、ディズニーランドに行ったといった。
 悦子の娘ちあきは当時4歳だった。ディズニーランドのことは覚えていないが手袋のことを覚えていた。母と同じ臭いのする女性にもらったという。
 二人は古堀のマンションの隣に住んでいた。マンションの駐車場で悦子の夫が金属バットで殴り殺されていた。第一発見者は古堀だった。
 古堀は時効になったその事件の記録を読み返した。
 ちあきの記憶どおりだとすれば雪の日に五反田にいた。ディズニーランドには行かなかった。
 五反田ではラブホテルで刺殺したいが見つかっている。
 古堀は交換殺人を疑っていた。
1224  地の蛍

Date: 2008-01-23

おすすめ度 ★★★★★

 内海 隆一郎 著  徳間書店  発行:2007年12月

 岡村寛次郎は岩手県南部の岩井に降り立った。39歳の岡村はこの地で亜炭層を掘る。旅館に宿を取り、山に向かう。
 山を知り尽くした佐忠を雇い、亜炭を運ぶために農家の馬そりを頼む。炭鉱を掘るための鉱夫も雇わなければならない。ボーリングを進めると、うまい具合に亜炭層がでた。
 付近の山林の手配も済み、徐々に活気付いてきた。その地元の土建業者との嫌がらせもあった。
しかし、岡村は誠意を持って対応に当たる。鉱夫として朝鮮人をやとったことが、仲間割れの気配を見せた。特に日本人が同じ給与では不満のようであったが、岡村は平等に扱った。そればかりか、逃げてくる朝鮮人の鉱夫も事情によっては雇った。飯場も出来、賄いもやとい、岡村の妻や娘も呼び寄せた。
 順調に見えた事業だが、落盤があり信用していた朝鮮人が犠牲になった。その上、鉱夫にも招集礼状が届き、働き手を奪われていった。そこへ地元土建業者の親分の逮捕で、あぶれた手下どもを岡村が雇った。
 昭和15年から終戦までのころで、玉音放送のあと、朝鮮人たちは国に帰る船に乗り鉱山を後にする。しかし、魚雷に触れて皆が命を落としてしまう。
 
1223  青春の守護者

Date: 2008-01-21

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  文芸春秋  発行:2007年7月

羽月は自衛隊一般幹部候補生試験に合格し陸上自衛隊の三尉になりレインジャー部隊に参加した。北海道に赴任し二尉に昇進したが除隊後大手警備会社に入社した。
 羽月には大学時代にマドンナと言われた女性と二人で穂高に登ったことがあった。大町玲であった。しかし、玲は早々に公認会計士と結婚をし北海道で暮らしているはずである。
 その後、羽月は独立しボディガードとなる。ある日目にした新聞に玲の事故死の記事を見つける。お悔やみに伺ったところ父親から「殺されたと思っている」と告げられる。
 そして、玲の妹の藍と玲の娘の鮎が狙われる。羽月は警護にあたる。
 狙っているものは巨大な影が潜んでいた。羽月らはグループを組んで狙ってくる相手がアキレスと分かるとハッサンを仲間に取り込む。アキレスのトップがテロリストと同席している写真を手に入れる。警察よりも羽月の方が情報をいち早く入手していた。
 玲が狙われたことへの復讐も含め羽月は立ち向かっていく。
1222  追伸

Date: 2008-01-20

おすすめ度 ★★★

 真保 裕一 著  文芸春秋  発行:2007年9月

 単身でギリシャに赴任した悟に、妻の奈美子は一方的に離婚届を送ってきた。悟は妻に手紙を書く。悟は妻がありながら10歳も年下の奈美子と交際し妻と離婚後結婚をした。
 その奈美子がギリシャに来ないばかりか手紙をで離婚届を送ってきた。事故があったという。何を背負っているのか。
 昭和29年に奈美子の祖母も同じような事故を起こし、子ども二人と別れなければならなかった手紙を悟に送る。手紙は祖父母のものだった。
 二人の手紙には誰も知らない真実が隠されていた。そして奈美子の場合も警察が処理した後、保険調査員によって明らかにされた真実があった。
1221 マザコン

Date: 2008-01-13

おすすめ度 ★★★

 角田 光代 著  集英社  発行:2007年11月

 11篇の短編
 「マザコン」では、自分よりも6つ年上だから大人だろうと思って結婚したが、精神年齢は小学生とそう変わらなかった。
 おまけに盆暮れにも顔を出さない母親との関係なのに妻から「マザコン」と言われた。頭にきて寝られそうにない。妻は若作りの母親の元にしょっちゅう行き来している。
 職場の女性の相談に乗ったことがきっかけでメールが来るようになった。妻にそれを見られた。クローゼットから荷物を取り出す妻は「別れてやる」と興奮する。僕は言い訳をウソも交えて必死に説明する。その時、僕は母を知らない。マザコンだといわれても仕方ないとふと思った。
1220  果断 隠蔽捜査2

Date: 2008-01-10

おすすめ度 ★★★★★

 今野 敏 著  光文社  発行:2007年4月

 息子の不祥事でエリートからはずれ署長になった竜崎は、大森管内で強盗事件があった。2人は捕まったが1人はまだ逃走中である。
 小料理屋で発砲事件があった。犯人が立てこもっているのかもしれない。竜崎が指揮し小料理屋をさぐる。換気口からいれたマイクロカメラで犯人の一人が中にいることが分かる。
 向かいのマンションに本部を置き警戒にあたる。しかし、電話口に犯人も料理屋の夫婦も出ないことに不審に思った。
 そのうちSATによる踏み込みで犯人は射殺され事件は解決に見えたが、竜崎は不審に思った。
 犯人の持つ銃の球数、硝煙反応などを調べるうちに犯人が銃を撃ったのではないことが分かる。
銃は料理屋の主人が撃った。
 そこへまた野間崎管理官が怒ってきた。とうに終わった事件を蒸し返していると怒る。しかし、竜崎は野間崎にいう。「頼まれもしない意見書を首席監察官に送ったのはどうしてか。」竜崎をよく思わない野間崎の行為に、そばにいた刑事部長もあきれる。
 外に向かって発砲したのも料理屋の主人で犯人を撃ったのも主人だった。犯人と主人は顔見知りだった。
1219  金色の雨が降る

Date: 2008-01-08

おすすめ度 ★★★★

 桐生 典子 著  光文社  発行:2006年5月

 奈生子は9歳のときに不思議な体験をした。きれいなお姉さんに出会った。それも神社で泣いていたときに。しかし、お姉さんは能面のようでもあった。
 友だちの妙子に相談したら、祖母も同じ人を見たという。その女はアヤという。身売りされ、23歳ぐらいで戻ってきて死んだという。それは日露戦争の時代だった。
 成人してから、奈生子は財布を落とした。届けてくれた桧山がしつこく奈生子によってくる。
 不思議なことにアヤは清人という男を思っていた。そのアヤがでてきて桧山に「あなたと一緒になりたくてやっと会えた。死に目にも会えなくて悔やんでいた」と話す。
 奈生子と桧山は逃げていた。ある女を殺してしまったあと、鉱山の穴の中に入り込んでしまった。迷路のような鉱山の中に。
1218  金融腐食列島(完結編)消失 第2巻

Date: 2008-01-06

おすすめ度 ★★★★

 高杉 良 著  ダイヤモンド社  発行:2007年11月

 竹中はスズキ工務店の鈴木から相談を受けていた。五井住之江銀行と竹中のJFG銀行との取引で、スズキ工務店の民事再生法適用申請を考えていた。竹中は資材を投げれば五井住之江銀行の借り入れが相殺できるという鈴木を押しとどめた。ススキ工務店はまだ立ち直れると読んだ。債権回収のために躍起になっている銀行側から竹中はスズキ工務店を援護する。
 功を奏してスズキ工務店からは20億の資金回収ができた。
 妻との離婚は、長男の理解や妻の両親の理解もあって書類を提出することができた。
 妻は相手の男の煮え切らない態度に以前ほどの離婚願望はなかったが押し進めた。
 竹中の離婚は上司の杉本の耳にも入ったが、妻の両親が同意していることや息子の同意が杉本には奇異に感じられた。竹中はいまさら妻の浮気が原因というのも伏せた。どっちもどっちである。今は竹中も麻紀との関係を隠していた。
 竹中は東京本部に戻れそうであった。