読んだ本の紹介です。紹介欄は読んだ後の感想や紹介したい部分を書いたものです。

過去ログ  (その5)170冊
                 平成16年1月〜平成16年12月           

No 読んだ日   書       名  著   者 おすすめ度
745 2004-12-24 サイバー・ミッション 小笠原 慧  ★★★★★
744 2004-12-22 信州高遠殺人事件 大谷 羊太郎  ★★★★★
743 2004-12-20 約束の地 志水 辰夫 ★★★★★
742 2004-12-20 蒼煌 黒川 博行  ★★★★★
741 2004-12-17 出口のない楽園 岩井 志麻子 ★★★
740 2004-12-15 パンドラ・アイランド 大沢 在昌 ★★★★
739 2004-12-8 ラストドリーム 志水 辰夫 ★★★★
738 2004-12-6 百年佳約 村田 喜代子 ★★★★
737 2004-12-4 そのときは彼によろしく 市川 拓司 ★★★★★
736 2004-12-2 蛍坂 北森 鴻 ★★★
735 2004-11-30 俯いていたつもりはない 永井 するみ ★★★★
734 2004-11-26 真夜中の神話 真保 裕一 ★★★★
733 2004-11-24 芥火 乙川 優三郎 ★★★
732 2004-11-23 朽ちた花びら 白川 進 ★★★★
731 2004-11-21 事件の年輪 佐野 洋 ★★★
730 2004-11-19 駅までの道をおしえて 伊集院 静 ★★★
729 2004-11-19 ちゃれんじ? 東野 圭吾 ★★★
728 2004-11-18 相克の森 熊谷 達也 ★★★★
727 2004-11-16 崩れる日 なにおもう 白川 進 ★★★★
726 2004-11-14 谷村 志穂 ★★★★
725 2004-11-12 天使の代理人 山田 宗樹 ★★★★
724 2004-11-10 異邦人の夜 梁 石日 ★★★★★
723 2004-11-7 血と骨 梁 石日 ★★★★★
722 2004-11-5 マッチメイク 不知火 京介 ★★★★★
721 2004-11-4 チルドレン 伊坂 幸太郎 ★★★
720 2004-11-3 上海迷宮 内田 康夫 ★★★★
719 2004-10-31 漂流トラック 安東 能明
718 2004-10-26 片思い 東野 圭吾 ★★★★★
717 2004-10-25 火のみち 上・下 乃南 アサ ★★★★★
716 2004-10-21 北の狩人 大沢 在昌 ★★★★★
715 2004-10-20 不祥事 池井戸 潤 ★★★★
714 2004-10-19 ブルータワー 石田 衣良 ★★★★
713 2004-10-18 M8 エムエイト 高嶋 哲夫 ★★★★
712 2004-10-17 FRY 新野 剛志 ★★★★★
711 2004-10-16 グラスホッパー 伊坂 幸太郎 ★★★
710 2004-10-15 幻夜 東野 圭吾 ★★★★★
709 2004-10-12 邂逅の森 熊谷 達也 ★★★★★
708 2004-10-10 カタコンベ 神山 裕右 ★★★★★
707 2004-10-9 狐闇 北森 鴻 ★★★★★
706 2004-10-5 犯人に告ぐ 雫井 脩介 ★★★★★
705 2004-10-2 Q&A 恩田 陸 ★★★★
704 2004-9-30 アフターダーク 村上 春樹 ★★★★
703 2004-9-28 釈迦の女 澤田 ふじ子 ★★★★
702 2004-9-26 箸墓幻想 内田 康夫 ★★★★
701 2004-9-23 三たびの銃声 有沢 創司 ★★★★
700 2004-9-22 女の街 松本 賢吾 ★★★★
699 2004-9-21 純白の証明 森村 誠一 ★★★★
698 2004-9-19 ある愛の詩 新堂 冬樹 ★★★
697 2004-9-15 深川黄表紙掛取り帖 山本 一力 ★★★★★
696 2004-9-13 わたしには家がない ハーバード大に行ったホームレス少女 ローラリー・サマー ★★★★★
695 2004-9-11 自殺自由法 戸梶 圭太 ★★
694 2004-9-9 世界の中心で、愛をさけぶ 片山 恭一 ★★★
693 2004-9-7 恋しい女 藤田 宜水 ★★★
692 2004-9-5 転生 貫井 徳郎 ★★★★★
691 2004-9-3 帰ってきたアルバイト探偵(アイ) 大沢 在昌 ★★★★
690 2004-9-1 秋の花火 篠田 節子 ★★★★★
689 2004-8-30 追憶のかけら 貫井 徳郎 ★★★★
688 2004-8-30 花籠の櫛 澤田 ふじ子 ★★★★
687 2004-8-28 人間の天敵 森村 誠一 ★★★★
686 2004-8-26 思いわずらうことなく愉しく生きよ 江國 香織 ★★★
685 2004-8-24 コイン・トス 幸田 真音 ★★★★★
684 2004-8-22 ダーウインの時計 響堂 新 ★★★★
683 2004-8-19 霞沢岳殺人山行 梓 林太郎 ★★★★
682 2004-8-18 親指さがし 山川 悠介 ★★★★
681 2004-8-17 ICO(イコ) ―霧の城― 宮部 みゆき ★★★★
680 2004-8-15 秋には墓標を 大沢 在昌 ★★★★
679 2004-8-12 パズラー 西澤 保彦 ★★★★
678 2004-8-12 不運な女神 唯川 恵 ★★★★
677 2004-8-10 天窓のある家 篠田 節子 ★★★★★
676 2004-8-9 ただ風が冷たい日 北方 謙三 ★★★★
675 2004-8-7 きずな 杉本 章子 ★★★★
674 2004-8-5 残照 小杉 健治 ★★★★★
673 2004-8-3 桜花を見た 宇江佐 真理 ★★★★
672 2004-8-1 虹の生涯 新撰組義勇伝 上・下 森村 誠一 ★★★★
671 2004-7-30 雛の家 久世 光彦 ★★★
670 2004-7-28 大川わたり 山本 一力 ★★★★★
669 2004-7-26 逃避行 篠田 節子 ★★★★★
668 2004-7-25 金融探偵 池井戸 潤 ★★★★★
667 2004-7-24 バードケージ 清水 義範 ★★★★★
666 2004-7-23 いつか白球は海へ 堂場 瞬一 ★★★
665 2004-7-22 夜は満ちる 小池 真理子 ★★★
664 2004-7-20 渋谷一夜物語 山田 正紀 ★★★
663 2004-7-19 気の発見 五木 寛之 ★★★
662 2004-7-18 最悪なことリスト トリイ・ヘイデン ★★★★★
661 2004-7-15 殺し屋シュウ 野沢 尚 ★★★★★
660 2004-7-13 幽霊人命救助隊 高野 和明 ★★★★
659 2004-7-11 棟据刑事の東京蛮族 森村 誠一 ★★★★★
658 2004-7-9 欅しぐれ 山本 一力 ★★★★★
657 2004-7-7 臨場 横山 秀夫 ★★★
656 2004-7-4 禁じられた楽園 恩田 陸 ★★★
655 2004-7-1 硝子のハンマー 貴志 祐介 ★★★★★
654 2004-6-30 誰か 宮部 みゆき ★★★★
653 2004-6-28 三億を護れ 新堂 冬樹 ★★★★★
652 2004-6-26 キッドナップ 藤田 宜永 ★★★★
651 2004-6-24 黄泉かえり 梶尾 真治 ★★★★
650 2004-6-22 草笛の音次郎 山本 一力 ★★★★★
649 2004-6-20 Rの家 打海 文三 ★★★
648 2004-6-18 ミルキー 林 真理子 ★★★
647 2004-6-16 あんたのバラード 島村 洋子 ★★★
646 2004-6-13 グロテスク 桐野 夏生 ★★★★★
645 2004-6-10 アイ・アム・ウーマン 谷村 志穂 ★★★★
644 2004-6-5 水戸の偽証 津村 秀介 ★★★
643 2004-6-3 メルトダウン 高嶋 哲夫 ★★★★★
642 2004-6-1 少年A 矯正2500日 全記録 草薙 厚子 ★★★
641 2004-5-30 タイム 深谷 忠記 ★★★★
640 2004-5-28 宇田川心中 小林 恭二 ★★★
639 2004-5-27 さよならの代わりに 貫井 徳郎 ★★★★
638 2004-5-26 検事霞夕子 風極の岬 夏樹 静子 ★★★
637 2004-5-23 嗤(わら)う闇 乃南 アサ ★★★★
636 2004-5-20 深追い 横山 秀夫 ★★★★
635 2004-5-18 記憶する心臓 クレア・シルヴィア/ウイリアム ★★★
634 2004-5-16 やさしい訴え 小川 洋子 ★★★★
633 2004-5-14 ブラックベリーやかた(黒苺館) 水木 ゆうか ★★★★★
632 2004-5-12 渚にて 久世 光彦 ★★★★★
631 2004-5-11 星々の舟 村山 由佳 ★★★★
630 2004-5-9 天下城 上・下 佐々木 譲 ★★★★
629 2004-4-30 黒の七夕 樋口 京輔 ★★★★★
628 2004-4-28 動機 横山 秀夫 ★★★★★
627 2004-4-25 パーフェクト・プラン 柳原 慧 ★★★★★
626 2004-4-23 パラダイス・サーティー 乃南 アサ ★★★★
625 2004-4-20 100万回の言い訳 唯川 恵 ★★★★
624 2004-4-18 影に潜む ロバート・B・パーカー ★★★
623 2004-4-16 さくら伝説 なかにし 礼 ★★★★★
622 2004-4-14 殺人の門 東野 圭吾 ★★★★★
621 2004-4-13 はぐれ猿一代記 原 次郎 ★★★★
620 2004-4-12 看守眼 横山 秀夫 ★★★★
619 2004-4-10 逆風の街 今野 敏 ★★★★
618 2004-4-9 青い月のバラード 加藤 登紀子 ★★★
617 2004-4-8 狼たちの野望 大下 英治 ★★★★
616 2004-4-7 安政五年の大脱走 五十嵐 貴久 ★★★★
615 2004-4-6 化生の海 内田 康夫 ★★★★
614 2004-4-4 夜の電話のあなたの声は 藤堂 志津子 ★★★
613 2004-4-3 藍色のベンチャー 上・下 幸田 真音 ★★★★
612 2004-3-28 "IT”(それ)と呼ばれた子 幼年期・少年期・完結編 デイブ・ペルサー ★★★★★
611 2004-3-24 約束の冬 上・下 宮本 輝 ★★★★
610 2004-3-22 手紙 東野 圭吾 ★★★★★
609 2004-3-20 落雷 上・下 ダニエル・スティール ★★★★
608 2004-3-19 忌中 車谷 長吉 ★★★
607 2004-3-18 夜回り先生 水谷 修 ★★★★
606 2004-3-17 悦びの流刑地 岩井 志麻子 ★★★★
605 2004-3-15 慟哭 小説・林郁夫裁判 佐木 隆三 ★★★
504 2004-3-14 残虐記 桐野 夏生 ★★★★
603 2004-3-12 夜盗 なかにし 礼 ★★★★
602 2004-3-10 しまなみ幻想 内田 康夫 ★★★★
601 2004-3-07 三つの墓標 小説・坂本弁護士一家殺人事件 佐木 隆三 ★★★
600 2004-3-04 点と線 松本 清張 ★★★★★
599 2004-3-03 回想・私の松本清張 霧の中の巨人 梓 林太郎 ★★★
598 2004-3-01 砂の器 松本 清張 ★★★★★
597 2004-2-29 17年の空白 西村 京太郎 ★★★
596 2004-2-27 冤罪 渡辺 涼夢 ★★★★★
595 2004-2-24 Pの迷宮 深谷 忠記 ★★★★★
594 2004-2-21 十三の冥府 内田 康夫 ★★★★★
593 2004-2-16 月の見える窓 新野 剛志  ★★★★
592 2004-2-13 密事 藤田 宜水  ★★★★
591 2004-2-10 炎と水 新堂 冬樹  ★★★★★
590 2004-2-7 熱欲 堂場 瞬一  ★★★★★
589 2004-2-5 山陰殺人事件 津村 秀介  ★★★
588 2004-2-1 美しき日々 上・下 ユン・ソンヒ  ★★★★★
587 2004-1-30 異聞 新撰組 童門 冬二  ★★★
586 2004-1-29 横山 秀夫  ★★★★★
585 2004-1-27 クライマーズ・ハイ 横山 秀夫  ★★★★★
584 2004-1-25 甘水岩 多田 容子  ★★★★
583 2004-1-24 影踏み 横山秀夫  ★★★★
582 2004-1-20 哀愁的東京 重松 清  ★★★
581 2004-1-18 強奪 箱根駅伝 安東 能明  ★★★★
580 2004-1-17 第三の時効 横山 秀夫  ★★★★
579 2004-1-15 真相 横山 秀夫  ★★★★★
578 2004-1-13 半落ち 横山 秀夫  ★★★★★
577 2004-1-5 晩鐘 上・下 乃南 アサ  ★★★★★
576 2004-1-1 ルーム 新津 きよみ  ★★★★★

読んだ本の紹介です。紹介欄は読んだ後の感じたままの感想や紹介したい部分を書いたものです。
745 サイバー・ミッション 1/ 8(土)
Date: 2004-12-24

おすすめ度 ★★★★★

 小笠原 慧 著 文芸春秋 発行:2004年10月

 麻生利津は上司から、荻野捜査官が無断欠勤をしているので訪ねるよう指示される。
 麻生はベッドの上に全裸で死んでいる荻野を発見する。死体は乳房の上から腹にかけて切り付けられた後が残っていた。そして、頭のある場所に頭部が見つからなかった。手には一目で異常人格とわかる男のカードが握らされていた。
 8ヶ月前から首のない死体が4件発生した。麻生は荻野の事件を調べるために新しい捜査方法を言い渡される。パートナーはハードディスクからモニターを通して現れるドクターキシモトだった。キシモトは麻生の声だけに反応するようにセットされていた。人工知能ロボットである。
 殺されたカメラマン、外科医、ファッションモデル、ジャーナリストらを殺した犯人と同一なのか。荻野は連続殺人事件の担当ではなかった。なのになぜ調べていたのだろう。
 モニターのキシモトは3年前に実在した40代後半の人物だと知る。
 手がかりは死者が握らされていたカードだった。
 麻生はやがて岸本の知り合いから事件を解く鍵を見つける。岸本は生きていた。
744 信州高遠殺人事件 12/23(木)
Date: 2004-12-22

おすすめ度 ★★★★★

 大谷 羊太郎 著 実業之日本社 発行:2004年11月

 姉の珠代がいなくなって心配した妹の美由紀。刑事の理絵と高遠に出かけた。戻ってきてからその場所でルポライターの助手の立石という男が殺されたことを知る。
 写真を引き伸ばしてみると立石は東京から美由紀と理絵をつけていた男だった。立石を雇った堀川に会う。堀川は資産家の娘と結婚寸前であった。高校時代の友人に誘われて居酒屋へ行ったとき、偕老同穴の話題になった。すると別の関にいた珠代が知っていると話に加わった。海老ぐらいの物体だという。見せてあげるというので昼間、そのマンションを訪ねることになる。しかし、珠代は携帯をかけ部屋が散らかっているから先に行って片付けてくるとマンションに入ったまま20分出てこなかった。堀川はマンションの管理人に聞くとそんな住人はいないという。仕方なく帰ったが、そのときの写真が元で結婚は破談になった。ラブホテルの多い場所で、女性が堀川の腰に手を回していた。ラブホテルへの出入りと見間違える写真だった。
 堀川は以来、珠代を探していた。堀川には人に言えないことがあった。資産家の娘と結婚をすることに決まりかけたとき、小野ユカと別れるために高遠の国道の断崖から突き落としたのだ。多分死んでいると思っていた。
 小野ユカは助けられていた。睡眠薬のせいで眠っていたが、恐怖のあまり一時的に記憶障害になった。
 堀川は相次ぐ、ユカと思われるものからの短い電話で、あの殺害場所に出かける。そこへ警察が来ていた。
 ユカを助けた老夫婦は緊急時の連絡先とした根岸に連絡をした。根岸は珠代と一緒に暮らしていた。事故後の様子を聞き、堀川への復讐に一役買った。 


743 約束の地 12/21(火)
Date: 2004-12-20

おすすめ度 ★★★★★

 志水 辰夫 著 双葉社 発行:2004年11月

 祐介は子供の頃祖父と洋館の大きな家に住んでいた。それは庭もあり森もあり池もある大きな家だった。祖父の持ち物ではない。そこは財団の事務所で岩村が買い取ったものであった。岩村と祖父は東京の大空襲の時に、母の下で泣いていた僕を引き取ってくれた。母はそのとき死んだ。
 その庭師や下働きのものも一緒に住んでいた。執事室が祐介と祖父の部屋だった。
 あるとき、黒い石の入った小包が届いてから祖父の様子がおかしくなった。用心深くなり、ときどきぼーっと考えごとをしているようになった。
そして、家のものが箱根に行ったとき、熱があって残った祐介と下働きの三浦とが留守番をしているときに、賊が入った。祖父は殺された。
 祐介は大学を出てイギリスへ留学した。祖父がトルコ人であることは小さいときからわかっていた。
 日本に帰ってきて、岩村から財団を継ぐように言われる。しかし、そのころから、自分の行く先々に身の危険や空き巣に入られた。財団は莫大な金を持っていた。株券や金も盗まれた。
 しかし、中国と取引のあった通帳はごみの中にあり助かった。数億が残っていた。あの家で働いていたある男の裏切りで財団は見る間に分解した。
 祐介はトルコへ行く。祖父を殺した男を捜しにきた。下働きをしていた三浦の娘ひかるも来ていた。トルコ人によるアルメリア人のゼノサイドが始まって、次々に犠牲者が出た。
 祐介はホーネッカーの腹部に拳銃を向ける。絶滅するまで苦しむがいいとわざと腹を撃った。
742 蒼煌 12/21(火)
Date: 2004-12-20

おすすめ度 ★★★★★

 黒川 博行 著 文芸春秋 発行:2004年11月

 芸術院の会員になりたいと野望を持つ室生は、金を積んでその座を狙っていた。芸術院会員になると権力が、そしてゆくゆくは文化勲章をもらって権威を持とうとしていた。
 選考に携わるものに絵や金の付け届けに余念がない。ライバルは4人いる。敵の動きも気になる。
 結局5千万円ほど使ってようやく2位に滑り込み芸術院の会員になれた。
 未公開株を無償で譲り受けた議員が逮捕された。その火は室生のところにも。芸術院会員が国会議員の収賄事件に関連していることが問題であった。資格の剥奪という規定はないが、文化庁に泥を塗るということに。室生の処遇は2つに分かれた。起訴か起訴猶予か。
 そして、すべての罪が自分にあるかのごとく調書に書かれた。室生は芸術院会員の退任届けをかいた。
741 出口のない楽園 12/18(土)
Date: 2004-12-17

おすすめ度 ★★★

 岩井 志麻子 著 メディアファクトリー 発行:2004年11月

 リリーは風俗嬢をしていた。仕事をしても3ヶ月も続かなく暴力を振るうヒモのような男と生活をしていた。
 今日も「お前が悪いんだよ」と暴力を振るった挙句に金を奪って外に行った男。金ぐらい稼げよと言えない自分。
 蚊の死体は色あせなかった。たたかれて壁に張り付いたままだった。それをみながらりりーはつぶやいた。
 職場の帰り男の倒れた脇にピストルを見つけた。リリーはそれをそっと持ち帰った。
 本屋さんでピストルの名は「のーりんこ」と呼ばれるものだった。
 リリーはそれを使ってヒモのような男を撃つ。そのままにして出勤をし、自分を指名するイガラシという男に「男を撃った」という。イガラシは「その死体を始末してあげる」と約束した。
 部屋で待つリリーにパトカーの音が近づいてくる。自分のこめかみに銃を突きつけ引き金を引く。しかし弾はもうなかった。

 他8編 ファミレスで拾われた男と暮らす女の話。冷蔵庫に押し込められた妻は自称小説家という狂った娘がいる。敵だらけの街にしかいられない女の話など。
740 パンドラ・アイランド 12/17(金)
Date: 2004-12-15

おすすめ度 ★★★★

 大沢 在昌 著 徳間書店 発行:2004年6月

 高洲は保安官として青國島にやってきた。人口は千人に満たない。村の半数の人は返還後に移住した来た人たちだった。
 穏やかな島だったが、飲み屋で知った草引老人が海で溺死となって見つかる。老人は靴をはいていなかった。乗っていたはずの自転車は別の場所から見つかった。
 保安官は調べていくうちに、この島には返還前にコカインを栽培していたことを突き止める。島には精製されたコカインが大量にあった。持ち出そうとした米兵は死んだ。コカインは村の財産として売られた後保管された。金額にして10億が金の地金百グラムの5千枚以上、5百キロに変えられた。そのことを知っているのは、村長、収入役、助役の3人であった。
 そして、死んだはずの前任の保安官柴田は実は生きていた。それをみた草引老人は殺されたことを突き止める。
 高洲保安官は島で唯一の医師オットーを疑い始めるが、そのオットーも背中を銃で撃たれて死んだ。オットー医師は柴田が風呂場で銃で顔を撃たれて死んだ時の死亡診断書には病死と書いた。
 柴田として死んだのは町から来たヤクザだった。
 
739 ラストドリーム 12/10(金)
Date: 2004-12-08

おすすめ度 ★★★★

 志水 辰夫 著 毎日新聞社 発行:2004年9月

 「だいじょうぶですか」と声をかけられた。ぼくは今どこにいるのか、自分の名前も思い出せない。ポケットを調べた。16万7千円があった。切符もなかった。ずぶぬれになっていた。青函トンネルの中だという。列車に乗っていた。
 隣りに座っていた老人は秋庭という。とっさに自分は藤井と名乗った。2人は函館で降り、山のほうへ向った。30畳はあるログハウスで泊まった。
 16戸が建っていた。2、30年前に見捨てられたようなところだった。
 しばらく秋庭と暮らす。宍倉という医師も加わり、山にも行く。このあたりは金の発掘をしていたことがあり、廃墟となった社宅もあった。
 宍倉はここに月に一度瞑想に来るという。藤井は自分のことを相談してみる。健忘症になっているという。一過性のものではないかとも。
 5日目、秋庭と一緒に東京へ向った。東京では別行動にした。藤井は阿佐ヶ谷のマンションに行った。そしてまた千歳に向ったのだが、記憶が途切れた。列車に乗って札幌に向うが、外は浜松町だった。
 やがて、藤井は自分が長渕でエビを扱う会社の社員だったことを思い出す。32歳の時にはバンコクにいた。マングローブを切り倒し、エビの養殖をしていた。なかなかエビは増殖できなかった。台湾にも手を広げた会社の方針に疑問を抱いた。妻が励ました。1ヘクタールで1トンの増殖に成功した。東京に戻った。ふたたびタイに行く。妻は妊娠していたが流産した。その妻の明子は癌で死んだ。それから1人だった。
 秋庭は逮捕された。14年前に妻を殺し逃げていた。妻とは心中しようとして自宅に火をつけた。自分は海に飛び込んだが死ななかった。
 秋庭が手紙をよこした。書かれていた所からカギをみつけ貸し金庫をあけた。白い石が入っていた。石は純度の高い金鉱石だという。それをあの山の開発に使って欲しいという。長渕は石を函館のログハウスの庭に埋める。
 
738 百年佳約 12/10(金)
Date: 2004-12-06

おすすめ度 ★★★★

 村田 喜代子 著 講談社 発行:2004年7月

 百婆は死んだ。夫の十兵衛もすでに天国にいるはずなのに見つからない。百婆は1人でさびしい天国だった。息子や孫のことが心配であった。百婆は朝鮮から日本にきた渡来人であった。死んで神になる朝鮮の言い伝えで百婆は大切に葬られた。
 日本式の49日法要の仕度をされていたが、うれしくもない。朝鮮のしきたりを受け継ぐことが徐々に薄れていくことに危惧を抱いた。
 日本人は素足で平然としているが、近郷の村では下帯1本で素っ裸である。村の女も化粧もせず、ツルリツルリとむける着物を着ていた。
 娘達をその日本人の嫁にやる相談をしていた。渡来人だけが固まっていればいずれ村はなくなってしまう。
 イチは窯焚きの熊吉の娘だが小さい頃の疱瘡の傷がひどく残っていた25歳になる。
 イチは忠次という男と結婚話が持ちあがる。忠次は死んで土の下にいるという。死んだ息子に冥婚をさせ後を継がせたいという。死者の花嫁は一生この世のものとは結婚できないという。イチは嫌がった。
 九竜窯の後継ぎ竜二の嫁にイチが決まった。渡来人が窯をつくるのに日本人の窯焚きの娘であったイチと結婚することで鑑札の取得ができた。我慢強く気立てのいいイチはすぐに渡来人に受けいられた。
 小吉と太郎次は夜這いに行く。おやじが戸口で見張っている家を通りすぎて庄屋のモンという娘のところへ行った。小吉は見張り役で外で待った。しかし、なかなか出てこない。寒い。小吉は怖くなって逃げ帰る。途中で戸口に立つおやじの家の前を通った。おやじにつかまり、無理やり娘のフキと夜這いをさせられる。しかし、小吉はその娘フキが忘れられなくなった。
 「結婚は親がする。家がする。おまえたちはその駒だ。先祖からそうやってきた。」と十蔵は怒鳴る。小吉はそれを聞いて「二度と帰らぬ」と出ていく。
 百婆は息子十蔵の苦しみを見ていた。十蔵は小吉とフキを添わせてやろうと考える。
 
737 そのときは彼によろしく 12/10(金)
Date: 2004-12-04

おすすめ度 ★★★★★

 市川 拓司 著 小学館 発行:2004年11月

 智史は何度も転校を繰り返して友人もいなかった。中学生になったとき、2人の友達ができた。1人は小柄で眼鏡をかけていてゴミの山ばかり見ている佑司と男みたいなしゃべり方をするがきれいな女の子花梨だった。
 放課後、3人はゴミの山の中で豪華なソファーに座って話した。14歳の時はじめてキスをしたのも花梨だった。
 そして、29歳になった。「あなたが店長さんでしょ?」と声をかけられた。智史は店の前にアルバイト募集の張り紙をしていた。彼女は森川鈴音といった。
以前はモデルをしていたと言う。智史の店は「トラッシュ」という水辺の生き物を扱う店だった。水槽を通して緑や赤の水草がゆれていた。彼女はオープンからクローズまで働くつもりだと言う。採用した。
 森川鈴音は成長した花梨だった。コマーシャルなどにもでるモデルだったが、ダイエットが辛くなったとやめたという。夢はケーキを食べることだった。
 さっそく、ケーキバイキングに連れて行く。おいしそうに10個以上食べ満足した。鈴音は妹の名前でそれを芸名にしたという。
 花梨と一緒に住むようになった。そこへ突然病院から電話が入る。「佑司が入院し、意識不明である」と。花梨と智史は病院に行く。道を歩いている最中に脳の血管が切れて倒れたと言う。ポケットには智史にだそうとした葉書があった。15年ぶりだった。
 佑司のアパートにいく。隣りの部屋の桃香が中に入れてくれた。桃香も心配していた。佑司は小さい頃母が離婚して出ていき、父と暮らしていた。父もすでになくなっていたんだろう。一人ぼっちだと言う。
 やがて、佑司は意識を回復し3人の再会を喜ぶ。佑司と桃香が結婚する。佑司は今もゴミの絵を書いていた。
 

736 蛍坂 12/ 9(木)
Date: 2004-12-02

おすすめ度 ★★★

 北森 鴻 著 講談社 発行:2004年9月

 短篇集5編
 「蛍坂」では、16年ぶりに三軒茶屋から下北沢へつづく通りを行ったところに緩やかな坂がある。見覚えの児童公園があった。「蛍坂と呼ばれている」と昔彼女が教えてくれたことを思い出す。
 ふらっと入った通りの奥の店。「スナックかバーか?」「ビアバーと称しています」と店主の工藤は言った。そして、自分の名前も覚えてくれていた。夏野菜を細切りにしてベーコンの炒め物が上手かった。彼女のことも覚えてくれていた。5年前になくなっていた。工藤の店にはそれから度々行くようになる。
 蛍坂というところはなかった。蛍子という水子供養の位牌が意味するもの。蛍子のことを知っていれば自分は中東に旅立たなかった。
 「孤拳」では、小学校の時にじいさんの部屋にあった孤拳という焼酎を飲んだ。ぶっ倒れたけどおいしかった。その幻の焼酎を探そうとそれを飲んだ友人は言った。
 そのことを工藤に話す。一緒に探そうと言った友人もなくなった。
 さりげなく出したカクテルは上手かった。「なんと言うカクテル?」「孤拳です」 
 そして工藤は開高健のエッセイの中に幻の焼酎のことが書かれていたことを話す。「孤拳」は存在しなかった。
735 俯いていたつもりはない 12/ 2(木)
Date: 2004-11-30

おすすめ度 ★★★★

 永井 するみ 著 光文社 発行:2004年9月

 緋沙子は母の志乃が35年前に始めたキッズスクール「ラウンドティル」を受け継いでいた。
 ラウンドティルはマスコミなどにも紹介された自由な保育で有名になった。
 希央の母の凛子が失踪した。お迎えに妹の舞子がきた。凛子は希央のためにキッズスクールを探すのに熱心だった。ネイルサロン「エビータ」の経営にも一生懸命だった。
 そして、凛子はK市の高層マンションの建築現場で死体となって見つかった。K市は舞子が倉井と結婚して暮らす為のマンションの場所でもあった。
 凛子の夫高柳は緋沙子をみて驚く。高柳と緋沙子は何年か前、ブリュッセルで保育園の研修に行った際に日本の建築家高柳の講演を聴く機会があった。外国で日本人にあったなつかしさから2人は親密になる。
しかし、日本に戻ってからは疎遠になっていた。緋沙子は希央がキッズスクールに入園する資料から、高柳の家族を知ることになった。
 園児の父兄と経営者という立場であったが、再び緋沙子は高柳と密会をするようになる。
 週刊誌に書かれ、緋沙子は別れることになる。緋沙子は妊娠していたが、高柳に知らせるつもりはなかった。
 凛子を殺した犯人もつかまる。
734 真夜中の神話 12/ 2(木)
Date: 2004-11-26

おすすめ度 ★★★★

 真保 裕一 著 講談社 発行:2004年9月

 アキコは夢の中で天使の歌声が耳に届いた。少女を思わせる澄んだ声が苦痛が遠のき心地よい。納屋を思わせる診療所でアキコは目を覚ました。飛行機は墜落し炎上したと言う。立った一人アキコが生き残った。
 村人が百人ぐらい集まり、上空をこうもりが無数に飛び交っている洞窟の前にいた。断崖下の穴蔵から一人の少女がでてきて歌声が静かに流れた。夢の中と同じ光景である。肩と胸の痛みが和らいでいった。
 「カリマンタン、カヤンクライ」地名なのか施設の名前なのかわからないが、アキコはそこに今いた。
 村の若者に連れられて川を下り町に出た。
 一刻も早く日本の家族に自分が助かったことを知らせたい。病院に連れて行かれた。傷が2週間前に負ったようには見えなく、最初は不審に思われた。村でのことは口外できない。必死にジャカルタの日本大使館に確認を頼んだ。ようやく信用してもらえた。
 カランクライ村は吸血鬼が住んでいるという噂だった。吸血鬼を退治する為には心臓に杭を打ち込むことだった。
 その村で助けられた人間のうち2人が殺された。2人とも心臓に杭を打たれていた。村のことを口外しないというおきてを破って、少女のことや不思議な体験を話していた。
 アキコはもう一度あの村へいこうと決心する。人に知られないように細心のの注意を払いながら村に向った。あの少女を救わなければと。
733 芥火 11/26(金)
Date: 2004-11-24

おすすめ度 ★★★

 乙川 優三郎 著 講談社 発行:2004年9月

 下総行徳で生まれたかつ江は8歳で売られ、下働き、娼婦、妾となっていた。21歳の時から囲われる身になって2回りもちがう男のためにつくす身を持て余した。大金を出して買ってくれた男は、泊まるでもなく一時を過ごすと帰っていった。
 かつ江はいつも年より地味な着物を買って楽しんでいた。
 9年後、小判20両で男とは別れることになった。男は病気だと言う。
 かつ江は、いろいろ買ってもらった着物や手持ちの金を元手に女郎を借りて商売をはじめようと思った。
 
732 朽ちた花びら 11/26(金)
Date: 2004-11-23

おすすめ度 ★★★★

 白川 道 著 小学館 発行:2004年7月

 東京の郊外にある国立大学に入った梨田は、湘南電車に乗ってなんとなく川崎にある競輪場に出向いた。そこで小学校で一緒だった清田に会う。学校時代に優等生だった梨田が競輪場にいたことに清田は驚く。
 競輪ははじめてであったが、120万円が転がり込んできた。清田は喜ぶ。お礼に清田に10万円をやった。
 姫子にかりた百万円を返すが、清田と麻雀をやり大敗した。麻雀をはじめて半年目だった。再び姫子に金を借りる。条件は学校は1年休んで店を手伝うと言うものであった。
 歌を流しにしている四郎と知り合う。四郎には香澄という妹がいた。香澄は演劇をやっていた。梨田は香澄と付合い始める。やがて同棲を始める。香澄は流産をする。
 学校へ通い始めた梨田は、姫子から中途半端ではいけない。香澄と別れてあげるべきだと言われる。
 しばらくぶりに会った四郎は香澄が心の病に陥っていることを聞かされる。見舞に行くが、香澄の手首に3本の線があった。香澄は別れたいといった。
 姫子から電話をもらった。また手首を切ったらしい。妊娠していたらしいが香澄と共にその子もなくなった。
 梨田は卒業した。就職して大阪へ行くことになった。麻雀に明け暮れた学生時代だった。
731 事件の年輪 11/24(水)
Date: 2004-11-21

おすすめ度 ★★★

 佐野 洋 著 文芸春秋社  発行:2004年11月

 短篇の10篇。
「墓への土産」では、幼稚園の理事長だった能登が死んだ。以前に、幼稚園の近くで小学校6年生の男の子が失踪した。公開捜査をしたが見つからなかった。元刑事だった市川は、阪井に言った「もう、本当のことを言ってもいいのでは・・・」と。あのとき、能登に頼まれて阪井は能登のアリバイを偽証した。
 しかし、最近、能登の敷地の古い井戸から白骨死体が見つかった。だぶんあの時の小学生だろう。
 「何か心当たりはありませんか」と問われたが、阪井は首をかしげてみせた。
 この話は家族にも誰にも言えない。墓まで持っていこう。それは中学1年の夏休み、阪井は能登に「俺は戦死してしまう。お前は俺の言うことを聞いてもいいじゃないか」とちんぽこを舐めろと言った。きっと能登はあの小学生にもそれを強要したのだろう。そして「お母さんにいいつける」とでも言われたのだろう。幼稚園の理事長と言う体面もなくしてしまう。とっさに・・・。

「楽しい瞬間」では、桂田が公園で刺されて亡くなった。通夜の席で3年前に桂田が3人の女子高校生に痴漢と間違えられて、拘留された。職も失った。外岡はあの時、桂田が何もしていなかったことを知っていた。でも、桂田も否認しつづけたが結局有罪になった。女性は弱い立場にいるという先入観からと、刑事の容疑を認めさせることが名刑事と奨励されていた背景があった。
 「あっ、この人」と呼び顔を両手に当て走り去る女子高校生。記憶があった。桂田さんの痴漢さわぎの中心的人物だった。外岡は警察に桂田の情報を提供した。痴漢に仕立てた人物が近所の越してきた。何らかをつき止めたからではないかと女子高校生が男友達に話したとしたら・・・。犯人が逮捕された。
犯人の職業は無職となっていた。犯人は元刑事だった。

730 駅までの道をおしえて 11/21(日)
Date: 2004-11-19

おすすめ度 ★★★

 伊集院 静 著 講談社 発行:2004年10月

 湘南・三浦海岸まで走る赤い電車が通っていた。そのわかれた線路は一度も電車がとおることも無く、草の中に埋もれていた。
 サヤカはルーと知り合ったのは1年半まえ。今週売れなかったらお払い箱にすると言われた犬だった。お店の前で、サヤカは犬に話しかけていた。「君ね、前向きじゃないとつまらないよ。犬だって人間だっておなじなのだから」と。犬はいつも床にうつぶせたまま顔を上げることはなかったからだ。
 犬はそのうち、サヤカにだけは吠えるようになった。店員は「ルーが人になつくのはめずらしい」といってくれた。
 サヤカは母に頼んで飼うことにした。
 いつもいく空き地でルーによく似た犬に遭う。でもルーではなかった。その犬をそばの喫茶店のおじいさんが洗濯のロープにつないでいた。おじいさんに「その犬はここ家の犬とはちがうのでは?」ときくと、おじいさんは「ここにいるときは、ルースという名前だ」と犬をなでながら言った。サヤカは微笑んだ。おじいさんも笑った。おじいさんの作ったジュースをもらった。おいしかった。おじいさんはコウイチローという息子がいるといった。だいぶ前の写真立てだった。「亡くなっちゃたの?」と聞くとおじいさんはすごく怒った。「コウイチローは死んでなんかいない!」と。
 サヤカはルーが突然いなくなってしまった。ルーといった原っぱに行って見た。おじいさんの家のルースが寄ってきた。ルーとルースにているね。
 おじいさんは「この前はわるかったね」とサンドイッチをご馳走してくれた。
 2年前におばあさんをなくして、誰とも話さなくなったおじいさんだった。サヤカにだけは親切にしてくれた。
 おじいさんとルースとサヤカの3人でどこかへ行こうと約束する。始発電車に乗って湘南の海に行った。
 浜辺では電車の中で会った少年がルーを連れてきてくれた。「コウイチローくんだよね」って言うとうなずいた。
 目が覚めた。夏休みの中で一番楽しい日だった。
翌日、おじいさんを訪ねると留守だった。入院したという。おじいさんは癌だった。「海はたのしかったね」といってくれた。おじいさんは亡くなった。
 サヤカはルースと一緒に過ごすことにした。
729 ちゃれんじ? 11/20(土)
Date: 2004-11-19

おすすめ度 ★★★

 東野 圭吾 著 実業之日本社 発行:2004年5月

 めずらしく随筆である。
 東野は44歳でスノーボードをはじめた。最初はガーラ湯沢で転んでばかりの初日だった。
 雪のシーズンが終わったら、船橋のザウスに行く事にした。しかし、このザウスも平成14年9月30日で閉鎖になる。
 ザウスは平日でも結構混んでいた。スキーヤーとスノーボーダーが一緒に滑っていた。
最終日の30日は午後2時40分までがスノーボード。スキーは午後3時からとなった。
 なつかしい曲がながれるなか、ザウスは終了した。
 2003年の冬は暖冬でなかなか雪が降らない、1ヶ月遅れの12月下旬でやっと滑れる程度であった。
しかし、湯沢では強風の為スキー場が閉鎖になることもあった。おっさんスノーボーダーは月の内の10日を滑って楽しんだ。おっさんというのはいつでも子どもに戻りたがっているものだ。
728 相克の森 11/20(土)
Date: 2004-11-18

おすすめ度 ★★★★

 熊谷 達也 著 集英社 発行:2003年10月
 
 マタギの集いに講師として美佐子は会場の様子から自分が場違いなことを言っていることを感じていた。
 講演のあと、吉本憲司から「山は半分殺してちょうどいい」という言葉が気になった。
 地方のタウン誌「みらい」の編集長をやっていた美佐子はピンチヒッターで行なった講演であった。
 東京に戻った美佐子はライターとしての仕事をする。またしてもマタギの仕事の取材であった。
 ふたたび講演した村を訪ねる。有害駆除のやり方、マタギとしての仕事の信念を聞くうちに、だんだんマタギの心がわかるようになる。
 山は半分殺してちょうどいい。山を殺すかわりに己も半分殺す。その言葉が実感してわかるような気がした。マタギ達はクマを仕留めても小躍りして喜んだりはしない。息絶えたクマを見る目は、皆穏やかではあるがどこか切なげだった。
 クマを仕留めた後、一気に駆け下りるマタギ達と行動をともにしていた美佐子は、道に迷ってしまう。
 コグマと遭遇し、寒さの中抱き合って夜を明かし救助される。母熊を亡くしたコグマが美佐子の手に吸いつく感触はなんとも切ない。
 クマの肉は上品ではないがおいしかった。内蔵も骨もいっしょくたに煮て食べる。
727 崩れる日 なにおもう 11/20(土)
Date: 2004-11-16

おすすめ度 ★★★★

 白川 道 著 小学館 発行:2004年9月

 梨田雅之は大学を卒業し大阪のS電気に就職した。寮というものは8畳1間に3人が一緒に寝起きをするというものだった。
 早速「赤トンボ」で賭け麻雀をする。岸和田競輪で260万円を儲け、その金で再び賭け麻雀をした。結果は10万を残して全部無くなった。
 会社に和枝の亭主が訪ねてきた。見るからにその筋とわかるものだった。上司から注意を受ける。
 2ヶ月で退寮届を出しマンション暮らしをはじめる。300万円を借りて、内の50万を和枝の亭主に渡した。会社を辞めたら300万円を即刻返すことになっていたが、梨田は7月会社を辞める。
 麻雀で知り合った辻野の会社で先物取引をする仕事についた。
 「赤トンボ」が店じまいをするという噂を聞いた。
 麻雀で1500万円を作り、「赤トンボ」をとりかえす。
 魚の仲買い人から一千万円で3ヶ月間の勝負をするという。相場に損失が出ると追加の保証金が必要になることから、その半分で勝負した。
 会社の本質を知った梨田はできるだけ客に損を与えないように配慮した。相場は高騰し梨田にも3000万近い利益を生んだ。
 大仁田は相場の手のうちを顧客に流して有利に持っていっていた。会社への裏切りを知った辻野は大仁田を探していた。その大仁田とつながっていた梨田はとぼけながら、同じように顧客の損失を最大限に押さえるようにしていた。魚仲買い人の宮部も相場で儲けた金で人が変わったように働き始めた。
 梨田自身も儲けた金7000万円を持って、会社を辞めようとしていた。近づいてきた男に刺される。「ナメた真似をしてくれたな」

726 11/14(日)
Date: 2004-11-14

おすすめ度 ★★★★

 谷村 志穂 著 河出書房新社 発行:2004年10月

 レイ子は手首を切った。救急病院に30過ぎの女性が3人集まった。レイ子はすでに5度目の自殺未遂だった。
 3人はハーフのメリー、ケイ、雀だった。
 雀は今、金持ちのパパのところに身を寄せていた。父親ではなく50過ぎの紳士の家だった。パパは別に大きな家を構えていた。雀のいる家は隠れ家のようなものだった。やさしくされて雀はしあわせだった。
 ケイは杉並の大きな家のお嬢様であったが、鴨川の山奥に男と住んでいた。
 雀は砂漠に木を植えるという事業に参加していた。パパにそのことを話すとそういうことにはお金は出せないと断られた。
 雀はベンケイのところへ行く。ベンケイは「ずっと待っていた」と両腕で抱きしめてくれた。
 おじいさんにあった雀は、老人に裸体を見せて20万円をもらう。お金ができたことでパパとよく行ったホテルにいく。プールサイドで声をかけられる。パパだった。パパはガンだという。お金を出すから側にいてほしいといわれるが断る。そんなのは悲しすぎる。
 代わりにレイ子がパパの最期を看取らせて欲しいといってくれた。
 雀はベンケイの子を宿す。ベンケイには内緒で産もうとする。
 皆が砂漠に向けて出発する日、ベンケイが雀と暮らそうと戻ってくる。
 
725 天使の代理人 11/14(日)
Date: 2004-11-12

おすすめ度 ★★★★

 山田 宗樹 著  幻冬舎 発行:2004年5月

 埼玉県川越市の桐山冬子は、女性が堕胎を簡単にすることに疑問を感じていた。告発のような形ではあったが、本を出版しようとしていた。徐々に書きなおして、自費出版にこぎつけた。「天使の代理人」である。
 埼玉シティ銀行の融資係川口弥生は、結婚はしないまでも子どもは欲しいと思っていた。インターネットで検索した結果、凍結保存の精子ドナーを使うことにした。
 テレビで「女の激論60分」で、梅木助教授は「産まない権利」を主張した。浜田女性問題研究所長は「胎児は女性の身体の中で育っているが、女性自身とは別の存在だ」という。冬子は「生きる為に命を授かったはず、年間に45万の中絶が行なわれるが、この数字の重さを考えて欲しい」と訴える。
 日野市で「佐藤有希恵」は間違って胎児を堕胎させられた。同じ日に堕胎の手術を申請していた佐藤雪絵と間違えられたのだ。医者からもらった慰謝料は20万円だった。
 雪絵は「天使の代理人」という女性から堕胎を思いとどまるように電話をもらっていた。
 山中と石森、宮下、それに冬子は「天使の代理人」として、堕胎の予約をした若い女性に堕胎を思いなおすように説得していた。
◆ストーリーは気軽に運んでいるが、中味は重い。
724 異邦人の夜 11/14(日)
Date: 2004-11-10

おすすめ度 ★★★★★

 梁 石日(ヤン・ソギル) 著  毎日新聞社 発行:2004年10月

 歌舞伎町の紅孔雀という店に榎本がやってきた。マリアが対応する。翌日もやってきた。榎本は不動産会社社長から五千万円を脅し取って持っていた。榎本とマリアはカナダへ行こうとしていた。以前、マリアは寝た客のポケットから財布を抜き取って逃走したことがあった。マリアを追う暴力団は財布の持ち主の子分たちだった。
 二人は車に押し込められ金を奪われる。マリアは運転をする男を簪のとがった先で刺す。高速道路でもみ合ううちに榎本は転落し、後続車に轢かれて死ぬ。車は運転を誤り転倒する。爆発寸前にマリアは五千万円の入ったバックを持ち出し逃げる。
 ホテルやウィークリーマンションを転々とした後、目を二重から一重にし、鼻も低く美容整形した。
 水商売のホステスになった。開店したが客がなくホステスも辞めてしまったという店を安く買い取る。
 マリアは日本人の阿部圭子という戸籍を使って日本人としてクラブのママになる。店にやってきた今日子は片腕となって働いてくれた。店は当初は順調であったが、陰りが見え始めるとフィリピンパブに衣替えする。
 一方、榎本に金をむしられた社長木村は、清水議員と組んで金を動かしていた。今度は博多のホテルの買収を頼まれた。みすみすダマされたとわかっていたが30億で手を打つ。清水議員が北朝鮮につながりがある。北朝鮮には木村の老いた母が暮らしているはずだ。どうしても会いたい。
 木村の娘は自分が韓国人と日本人との間に生まれたことを知る。娘は韓国まで行き、父の故郷を訪ねる。父と同じ名前の墓標を見つける。16歳で死んだことになっていた。
 父は16歳の時、貧しい暮らしを支える母に働かない父親が乱暴を繰りかえすのを見るに見かねて、父親を背後から殴り殺した。母の逃げろという指示で日本にやってきた。母は戦争の時に北朝鮮に行ったきり韓国には戻れなくなっていた。
 父の弟に会う。兄は16歳で亡くなったと言う。母の北朝鮮で3年前になくなっていた。
 日本に戻って父に問いただす。父と二人で韓国のその墓地に行く。父は泣く。自分がおやじを殺したと話す。そして韓国の警官に逮捕される。
 一方、マリアは阿部圭子の両親が娘を探していることを知り、財産を今日子の名義にする。店のマネージャーだった田崎と結婚をする。
 うまれ故郷に帰り、ゴミを拾って生計を立てる家族の為に家とこれから生きる為にレストランを開店させる。軌道に乗り始めた頃、日本人の刑事とマニラの刑事がやってくる。マリアは飛び降り自殺をしてしまう。事件は闇の中に。


723 血と骨 11/ 9(火)
Date: 2004-11-07

おすすめ度 ★★★★★

 梁 石日(ヤン・ソギル) 著  幻冬舎 発行:1998年2月

 大阪へ出稼ぎに来る済州島出身の朝鮮人が急増していた1930年頃、蒲鉾工場で働く金俊平。183センチ100キロの巨漢を持ち、猜疑心と狂暴性は極道からも恐れられていた。
 飛田遊郭の女郎・八重をめぐって原が入れ込んでいた知りながら、西村も加藤も八重を買った。原はそれを知り口論の末同僚の前で腹を刺し死んだ。
 金俊平は八重を買う。八重の魔性にとりつかれた俊平は八重を身請けする。家を用意し迎えに行くとすでに遊郭には八重の姿はなかった。
 怒った俊平は狂ったように八重の居場所を求める。
 済州島出身者が良く行く飲み屋で働く英姫。英姫に6歳娘春美がいた。2、3日おきにやってきては俊平は英姫と関係を持ち強引に結婚した。
 結婚後の俊平は酔って帰ってきては暴れ、揉め事を起こして警察に世話になった。一度は家を出て餓死寸前になった英姫も再び戻ってきて暮らし始めた。俊平は相変わらず女を外に作り、1、2ヶ月に1度しか帰えらなくなった。2人の間には長男、長女と次女がいた。英姫と子ども達はすでに俊平を父として見ていなかった。
 女に裏切られては次の女に手を出す俊平であった。
俊平は一緒になった女が下の世話もできなくなるとその女の世話をするための新たな女を囲った。やがて、俊平も足腰が立たなくなり、女に隠した金を見つけられいい様に使われる。女は俊平との間に生まれた子を置いて出ていった。
 もう身体が動かなくなった俊平は、娘3人と北朝鮮へ戻る。


722 マッチメイク 11/ 5(金)
Date: 2004-11-05

おすすめ度 ★★★★★

 不知火 京介 著  講談社 発行:2003年8月

 プロレスの試合中、ダウリス佐々木がタイガー・ガンジーにやられている。血染めのタオルが相当出血していることを示している。担架で運ばれたが佐々木は死んだ。
 直接の原因は脳内出血であるが、毒殺の疑いがあると噂された。
 佐々木の自殺説も出た。自分のタイツに猫爪カッターをしのばせていた。「俺はリングの上で死にたい」と言っていた佐々木であった。
 そして丹下五郎も240キロのバーベルを首に落し死んでいた。こちらも殺人の疑いがあった。
 本庄から武田が怪しいという情報を得た。武田はニューヨークマットに送り込まれる予定だった。
 武田は国道をポルシェで疾走中に大型トラックに巻き込まれて死んだ。プロレスを愛しながらプロレスラーになりきれなかった男であった。


721 チルドレン 11/ 5(金)
Date: 2004-11-04

おすすめ度 ★★★

 伊坂 幸太郎 著 新潮社 発行:2004年5月

 5編。そのうちの「チルドレン」から。
 武藤は以前に万引き事件を担当した少年が誘拐されたことを知る。無事に救出されたようだ。
 木原志朗という少年がマンガを万引きして送致されてきた。父親同伴の面接であった。面接室に向う前に同僚から文庫本を渡された。「トイレの落書き編」だった。木原親子のこの本をプレゼントする。
 木原の面接時に同伴した男は、誘拐後に報道された人物と違っていた。
 少年はこの男に誘拐をそそのかした。一千万円の身代金を受け取った男は姿を消した。少年はこの男と「トイレのらくがき」を読んで共鳴した。
 少年は後日、武藤が薦めた本をまたしても万引きをしていた。
 

720 上海迷宮 11/ 5(金)
Date: 2004-11-03

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著 新潮社 発行:2004年5月

 曾亦依(ソウ イイ)は上海大学卒業後、日本に中国語学校教師として来日していた。新宿で友人の賀暁芳が殺された。そこへ中国で父が殺人容疑で逮捕されたという。
 日本の弁護士から浅見に依頼するように言われた。曾亦依は浅見光彦に会い、父を助けてくれるように頼む。父は上海振興大学の学長選挙をめぐる争いから王孫武を殺したと疑われた。
 浅見と曾亦依は上海に向う。浅見は日本との違いに戸惑いながら推理を働かせ、ホテルの4階で目撃したとされる証言の信憑性が薄いことをつきとめる。
 父は釈放される。
 調べているうちに新宿の事件と王孫武の事件が同一犯の疑いが出てきた。
 そんな折、曾亦依が連れ去られる。中国の貧民街だった。そこで偶然、東京のコンビニで万引きの疑いをかけられた男にあう。曾亦依が男を助けたことがあった。その男が助けてくれた。
 死んだ王孫武は上海の開発に関して、開発プロジェクトを私物化しようと、黒社会とのつながりを持ち策謀は目に余るものがあった。その王と口論した父は疑いをかけられたのだった。王孫武事件は迷宮入りした。誰が殺してもおかしくない人物だった。
 曾亦依の友人を殺したのも王孫武だった。

719 漂流トラック 11/ 3(水)
Date: 2004-10-31

おすすめ度 ★★★★

 安東 能明 著 新潮社 発行:2001年10月

 蔵方千尋はトラック運転手でK2の社長をしていた。最近、コンビニの配送に誤配があったという。そのひとつひとつを御詫びにまわっている時、原因はわが社ではなくコンピュータシステムの手違いと思われた。誰かが混迷をさせるのCDを入れたようだ。
 そして、パートの女運転手の照子が配送中に事故でなくなる。荷を見てギョッとする。請け負った覚えのない新聞とおがくずにまみれた赤い汁をたらすものだった。
 千尋は小さいときに父を、3年前に母をなくしていた。父は運送会社をやっていた。
 千尋はボイスコントロールを使い、北村と名乗って警視庁の智田に55億円の金塊を用意するように交渉していた。日本の物流を略取すると脅していた。5トンの金塊をどうしようというのだろう。
 北村のトラックはマークされる。しかし、運転しているのは女性であった。
 排気ガス規制で都内にトラックは入れなくなる。そうすると物流はストップする。
 金塊は用意された。発信機を取りつけられていた。

718 片思い 10/26(火)
Date: 2004-10-26

おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著 文芸春秋 発行:2004年8月

帝都大アメフト部OBの西脇は同窓会の帰り、女子マネージャーだった日浦見月に会う。見月は性同一性障害だった。女の子に生まれながら男になりたかった。久しぶりにあった見月は太い声の男だった。よく見れば女にも見えなくない。今はバーテンをしているという。
 その見月が人を殺したという。ストーカーのようにつけまわしていた男だ。車の中でもみ合っているうちに首を占めつけていた。簡単に死んでしまった。男は戸倉という妻子の在る男だった。戸倉の部屋から見月ともう一人の女性の戸籍謄本が見つかる。何を調べていたのか。
 久しぶりにあった哲朗は、見月から人を殺したことを打ち明けられる。哲朗は見月にこれからは女で生きろという。
 10年の間、見月は広川という男と結婚をしていた。洋服やアクセサリーにお金を使うこともなく、ヒステリにもならない。妻や母親としてはよくやっていたが、子どもも1人設けた。それ以後はセックスも外でしてくれという。自分はそのことで怒らないからと。そうして家を出ていった。1年以上前だった。
 見月は哲朗たちに告白した後、行方がわからなくなった。
 哲朗は死んだ戸倉の周辺と見月のことを調べ始める。佐伯香里という女性も見月とおなじ性同一性障害であることを知る。香里はカオルと名乗り男性であったというものがいた。この女性と戸籍の交換をしようとしたのだろうか。
 見月は中尾と一緒にいた。中尾の母も見月と同じ病気だった。ふくよかな中尾は今はやせ衰えていた。死のうとしていた。見月を守るんだと口にしていた。
 哲朗は中尾の気持を変える事ができなかった。

717 火のみち 上・下 10/25(月)
Date: 2004-10-25

おすすめ度 ★★★★★

 乃南 アサ 著 講談社 発行:2004年8月

 満州から引き上げてきた家族は、父を戦争で失い、兄弟も7人いたのが4人になっていた。広島の叔母を頼って離れの小屋に住まわせてもらう。
 次郎は14歳、知恵遅れの弟9歳、妹の君子と病弱な母をみて「こうなったら私が働きに出るしかない」と19歳の姉が出ていった。姉の仕送りのおかげで一家はどうにか生活できた。
 母が死に親切そうに近づいてきた男に葬式のお金を出してもらったばかりに法外なお金を要求された。妹の君子を売れという。かっとなった次郎はその男を殴り殺してしまう。12歳になったばかりの君子だった。
 次郎は岡山の刑務所に入れられる。妹達は施設で過ごす。売春禁止令が出た後、姉からの送金も途絶える。
 刑務所の中で覚えた備前焼きの先生に出所後世話になる。焼き物に興味を覚えていた。好きなものをつくって良いと言われつくった作品が好評であった。
 妹の君子はやがて大学を行くのを断念し、女優になっていた。そして、知恵遅れの弟満男も見つかる。
 次郎の作品を買ってくれる喜多川の好意で窯を持たせてもらう。中国の青磁に見せられる。
 台湾に旅行に行った次郎は空色の瀬戸物に魅せられる。どうしても作ってみたいと失敗を繰りかえす。
 弟の満男も次郎の下で陶芸の道を歩き始めた。
716 北の狩人 10/23(土)
Date: 2004-10-21

おすすめ度 ★★★★★

 大沢 在昌 著 幻冬舎 発行:1996年12月

 秋田から新宿歌舞伎町に昨日ついたばかりの雪人は、若い女の子に声をかけられる。一緒に行ったキャバレーで22万円の支払いを要求される。持っていないと突っぱねるとチンピラ2人がやってきた。雪人のほうが強くてやられることはなかった。そこへ新宿警察の佐江が入ってきた。田代組の事を知りたいと雪人が言う。田代組は10年も前に解散していた。
 雪人は新宿警察につれていかれる。ほどなく雪人が秋田県警の刑事だと判明する。
 休暇を利用して警部補だった父が12年前に殉職した。父を殺した犯人となぜ殺したか知りたかった。
 秋田の山林で殺しがあった。営林省の職員が殺された。殺したのは新宿のヤクザ,田代組の苅部だった。刑事二人と苅部が警察署を出た後行方不明になった。3日後、荒川で秋田県警の刑事が背中を撃たれて死んでいた。それが雪人の父だった。苅部ともう一人の刑事はその後見つからなかった。そうしているうちに田代組の組長も殺された。組員はばらばらになった。
 雪人は歌舞伎町で田代組のことを訪ね歩いた。そのとき、元田代組の小倉が殺された。仕事もしないで覚せい剤中毒であった。お金の出所はどこなのか疑問に思った。小倉の骨は宮本が引き取った。小倉をかわいがっていたと言う近松も斎場にやってきた。
 雪人は護送の途中で刑事を撃ち、もう一人の刑事も始末して逃走している苅部のことを考えなおしていた。ディスコで鴨下という男を見た。どこかで会った顔である。そして思い出した。父と一緒に写真に写っていた行方不明の水野巡査であった。鴨下と名乗りやくざの仲間であった。雪人が声をかけるが人違いだと突っぱねる。
 鴨下をマークしていた雪人は鴨下の印刷工場を見つける。偽札を作っていた可能性がある。新宿警察に協力を依頼する。
 鴨下と新島は香港へ逃げる。偽札は中国札と米ドルの可能性があった。香港、台湾、中国に偽札の注意を呼びかける。案の定、偽札は出まわり始めた。
 偽札を作る為に手先の器用な水野巡査はヤクザに引っ張られたのだ。雪人の父の死は宮本も近松も関係していた。雪人をかばうように宮本も死ぬ。

715 不祥事 10/21(木)
Date: 2004-10-20

おすすめ度 ★★★★

 池井戸 潤 著 実業之日本社 発行:2004年8月

 花咲舞は、銀行の調査役と問題のある支店に出向き問題点を指摘し改善すべく指導していた。花咲は狂咲と別名をよばれていた。はっきりものをいい、すぐにかっとなることだった。
 花咲は、三千万の過払いのあった支店に出向く。ベテランの女子社員が立て続けに辞めていた。実情はコストを下げる為に支店長の嫌がらせで辞めたことがわかった。過払いのミスはベテランが不在になったことによるものが見受けられた。その支店で1億円を預けた客の対応で、作業が遅いと立腹した客が持ってきた現金を持ちかえろうとするところを花咲が押さえた。入金のデータを入力したところで別の仲間がすぐに1億円を引き出していた。現金を持ち去られては1億円の損になる。花咲の後で副支店長が金を客に返すようせかす。花咲はこの男もグルだと感づき男を取り押さえる。
 別の支店では金融庁の査察が入った。社員しか知り得ないダンボールを査察官が調べた。3日目、女子ロッカーまで調べる始末。花咲は、内部行員の情報漏洩だと指摘する。やがてその行員は銀行以外の出向命令が出る。
 百貨店の御曹司が銀行の融資係にいた。中小企業の融資申込みを決済日間近になっても稟議書をまわさない。赤字にもなっていないが融資ができないと突っぱねる。融資係は以前にこの社長に怒られた事を根に持っている様子である。融資不能の場合は1ヵ月前に知らせるのが通例であった。困った社長は決済日に商工ローンから借りて決裁にあてる。それを見た課長は融資を約束する。稟議書を回さない融資係の思いあがりに怒る。決裁を出すのは融資係ではない。花咲は御曹司の頬を殴っていた。

714 ブルータワー 10/19(火)
Date: 2004-10-19

おすすめ度 ★★★★

 石田 衣良 著 徳間書店 発行:2004年9月

 新宿のホワイトタワーは戸山の小高い丘の上に建つ。周司の住んでいるのは55階だ。父が残した土地にこのビルが建った。代わりに2億4千万円のこの部屋をもらった。
 同僚達が見舞がてらやってきて驚嘆した。周司は脳腫瘍ができ、頭痛と闘っていた。手術することもできない。つき抜けるような痛みが襲う。余命はあと1、2ヶ月である。
 同僚達が引き上げた後、利奈が戻ってきた。妻が会社の荻原とあっていると伝えた。周司は激怒した。それを教える利奈も妻にも。
 利奈はその後も時々やってきた。
 頭痛の時に周司は220年先の世界に行っていた。ココというライブラリアンに誘導されながら、青の塔にいた。塔の1層は1万人の居住者がいた。2層は3万人。上層は4万人であった。最下層は50万人であった。青の塔で反乱が起きる。
 現実世界に戻った周司は、医者から脳腫瘍が小さくなっていることを告げられる。
 「離婚してもこの家は渡さない」という妻にマンションを明け渡し、周司は利奈と生きる決心をする。
 ココは周司が飼っている猫だった。

713 M8 エムエイト 10/19(火)
Date: 2004-10-18

おすすめ度 ★★★★

 高嶋 哲夫 著 集英社 発行:2004年8月

 瀬戸口は月1回の割りで大瀬崎地震研究センターに出向いていた。このセンターは東都大学理学部に所管する日本で五指に入る地震の研究施設だった。
 瀬戸口は最新のコンピュータから東京地方に直下型地震が起こる、それも6ヶ月以内にM8.1の巨大地震がおこるというデータをはじき出した。その方程式は遠山元教授のものだった。
 遠山元教授に会うと「自信をもって君の先生に報告すべきだ。地震学者の最も重要なことは研究を社会へフィールドバックすることだ」と言われる。
 友達の亜紀子を通じて神戸選出の堂島議員に会う。そのデータを知らせるが、地震予知会の会長は遠山元教授の反発しあっていた植村であった。最新のコンピュータを使って再度計算しなおすと3日以内に東京地方に地震があるという。
 そうこうしているうちに東海地方にM6.4の地震が来る。東海地方の人が東京方面にくると大変なことになる。
 瀬戸口は都知事の漆原に会う。地球シュミレーションを使って説明する。都知事は訓練と称して召集する。そこへM5.5の地震が来た。しかし、2日以内にもっと大きな地震が来る。そしてそれは午後1時だと言う。
 遠山元教授はバラエティ番組の中で必死に地震がくるということを訴える。が、皆は本気にしていなかった。
 絶対地震が起こると言う背戸口の話に漆原都知事は決断する。東京都の防災マニュアルにしたがって、避難命令を発動する。演習警戒宣言を出す。1時を過ぎても地震はこなかった。1時20分、演習を中止するように副知事に伝えた直後1時27分地底部から突き上げる響きを感じた。
 死者5862人、家屋全壊4万3千。半壊11万。焼失家屋32万軒。焼失面積96平方キロメートルに及んだ。あのとき、演習をしていなかったらもっと被害は拡大しただろう。漆原はほっと胸をなでおろした。
一時退職していた遠山元教授は国の防災中央研究所の委員長に推された。瀬戸口も研究員といていくことになった。政府関係の責任者は堂島議員だった。
712 FRY 10/17(日)
Date: 2004-10-17

おすすめ度 ★★★★★

 新野 剛志 著 文芸春秋 発行:2004年8月

 広幸は3年前、両親の離婚に伴い母の実家の北九州に越してきた。その母が1ヶ月前自宅の階段から落ちて死んだ。普段から高血圧でめまいがするといっていた。祖父と2人になった。
 千恵理は飲んでは暴れる父を殺してやりたいと思っていた。包丁を取りに流しに立ったとき、偶然ゴミ箱から2次予選の知らせを見つけた。千恵理は歌手になりたいと履歴と歌を吹き込んだテープを送っていた。
 俊介は父の介護をしていた。夜中に弁当屋で働く母の帰りを待って登校した。ときどき1時間目は遅刻した。
 広幸は、相田から佳奈は5千円で誰とでもやらせてくれる女だと聞いたが無視した。佳奈と一緒に帰っていると相田が佳奈に「約束は守れよ」と言い放つ。
 河原で声をかけてくれた男が指名手配の男に似ている。男は橋の下で野宿をしていた。広幸は警察に届ける。男は逮捕された際、広幸に裏切ったことを咎めるような目をした。男は戸浦という。妻の浮気相手を刺し殺していた。
 渋谷のスクランブル交差点で佳奈は男に刃物で刺される。遠のく男に広幸は見覚えがあった。戸浦だった。広幸は追いかけていって、母子連れの少女にナイフをつきつけていた。ニュースになった。広幸は精神病院に入れられた。
 そのニュースを見て千恵理は、自分がある男に頼んだ人間を殺してしまったことを思い出した。
 佳奈は死んだ。妊娠3ヶ月だった。17歳だった。
 俊介は祥子から父の事を聞いていた、3歳の時から行方不明だと。図書館で古い新聞記事を見つけた。広幸にナイフを向けられた少女が祥子であった。戸浦は自分の妻の浮気相手と佳奈ともう一人殺したという。
 千恵理は秋山美咲という名でデビューしていた。そして松永という男に過去に放火で父親を殺したことをゆすられていた。
 しかし、松永は何者かによって殺される。
711 グラスホッパー 10/16(土)
Date: 2004-10-16

おすすめ度 ★★★

 伊坂 幸太郎 著  角川書店 発行:2004年7月

 鈴木は2年前に妻をなくしたがまだ指には指輪をしていた。鈴木は「令嬢」という会社で怪しげな健康食品を売る会社に契約社員として働いていた。妻はこの会社の寺原のバカ息子に殺された。復讐をそそのかされた時に、目の前で寺原の息子は車にはねられる。誰かがあのバカ息子を押したように見えた。後をつける。押し屋は子どもが2人いる平凡な家庭であった。
 押し屋とよばれる男をつける。
 鯨は政治家の秘書を自殺させるべく遺書を書かせていた。重鎮政治家は鯨に「自殺を強要させる能力を持っている」と言われていた。鯨はこう言う仕事で32人を自殺させてと言う。男がロープに首をかけた時、迷うことなくイスを蹴飛ばした。
 鯨は押し屋に負けたことがあった。自殺させる前に対象者は押し屋によって殺されてしまった。
 また政治家の秘書の自殺をさせる依頼が来た。
 蝉は茨城に住んでいる向き合っていた。「藤沢公園でホームレスにガソリンを振りまいて火をつけた奴がいた。お宅の息子だろう」上司の岩西に頼まれてこの家のものを全員殺しに来た。ナイフが夫人の身体に突き刺さる。
 鈴木は寺原の息子がまだ生きていることを知る。車にはねられても死んでいない。
 鯨と蝉も寺崎の息子を狙っていた。鯨に寺崎の別のビルのありかを教える。社員を痛め付けるビルだった。岩西はビルから飛び降りて死ぬ。
 鈴木も自殺しようと歩道に足を踏み出した。その前に男が車にはねられて死んだ。
 寺崎の長男が死んだ。
 

710 幻夜 10/15(金)
Date: 2004-10-15

おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著  集英社 発行:2004年1月

 葬式の後で叔父から父へ400万円の貸しがあるという。父は町工場をやっていたが資金繰りを苦に首吊り自殺した。3年前に母は病死していた。
 その晩、阪神淡路大震災が起こった。工場にいて免れた雅也。母屋がくずれ父の棺おけが棚から落ちていた。叔父は梁の下になって動かなかった。上着のポケットから茶封筒を抜き取った。そして、思考よりも先にためらいもなく瓦を叔父の頭に振り下ろしていた。そして立ち去ろうとした時、少女に出会った。今の状況を見ていたかもしれない。
 避難所で少女を見た。少女は夜道で暴漢されるところを雅也がすくった。
 少女は新海美冬といった。父も母もこの地震でなくしたという。
 東京に出てきた雅也は金型工場で働く。ときどき美冬に会った。彼女は銀座にある「華屋」という宝飾店で働いていた。そして、保険金を元手によく行く美容室で腕のいい青江と新しく美容室を開店する。オーナーは美冬である。雑誌などに働きかけ、青江はカリスマ美容師として一躍有名になり、店は繁盛する。
 次に美冬は雅也に宝石と彫金を加工して欲しいと頼む。今までにない宝飾品になりそれを売り出す。
 そうこうしているうちに美冬は華屋のオーナー秋村と結婚する。その頃、面白くない青江を1つの事件に巻き込まれる。独り立ちしようと思っていたところに警察沙汰になった。美冬に助けられ反抗的な態度は見せなくなった。
 秋村の姉は美冬の過去をいぶかった。偶然知った雅也と美冬の出身校やクラスメートを訪ねる。そして、美冬は別の人間だと知る。
 雅也は自分の魂も殺してしまった。美冬の都合が悪くなると人も殺した。当の美冬は結婚後も整形手術を繰り返していた。
 警察は美冬の身辺を捜査していた。

709 邂逅の森 10/12(火)
Date: 2004-10-12

おすすめ度 ★★★★★

 熊谷 達也 著  文芸春秋 発行:2004年1月

 大正三年ごろの、月山の山麓でマタギをしていた富治は25歳だった。冬山に入りニホンカモシカやクマを狩っていた。山の暮らしは貧しく一度は手にした土地も明治政府の税制で小作に転じた。両親と兄と姉と暮らしていた。姉に十分な嫁入り道具を持たせたいと父は山に入りミナグロというクマをしとめてしまった。ミナグロは山の神の使いであり、獲ってはならないクマであった。
 父はそれを機にマタギをやめた。50になったばかりである。
 川でサクラマスをつかんだところ、娘も同時にそれをつかんでいた。富治はそのマスを娘にくれてやる。同時にその娘が気になる存在になった。娘は富治が小作で世話になっている地主の娘文枝だった。やがて、文枝と富治は厳格な文枝の父の目を盗んで関係を続けた。そして、文枝は妊娠する。地主に見つかり富治は銀山の鉱山で働くことになる。文枝には帝国大を出た医者と結婚することになっていたと言う。おまけにその医者は文枝のお腹の子も一緒に面倒を見るという。
 富治は鉱山で働く、3年の約束であった。しかし、鉱山では働いた分だけ見かえりもあり、思ったより苦ではなかった。
 年季が明けた頃、またしても山形の大島鉱山で区長として働かないかと声がかかった。文枝の父の差し金だろう。その前に、文枝の様子を見に村に戻った。文枝は小さい子を手に引き、笑顔で夫の医者が帰ってきたのを迎えていた。幸せそうであった。
 富治は新しい鉱山で働く。子分となった小太郎は富治とは1つ年下だった。力のある男であった。休みの日には小太郎とクマ狩りを教えてやる。
 大正7年、鉱山に雪崩がおこり、小太郎は雪の下に埋もれる。富治に助けられ、山を降りる決心をする。
富治も少し遅れて小太郎に会いに行く。富治は小太郎の姉イクを嫁にし、マタギをしながら暮らす。
 そこへ文枝から会いたいと便りが来る。文枝の父は亡くなっていた。父の死後、富治との間に生まれた幸之助に辛くあたると言う。
 しかし、富治は・・・・

708 カタコンベ 10/11(月)
Date: 2004-10-10

おすすめ度 ★★★★★

 神山 裕右 著  講談社 発行:2004年8月

 弥生の父は5年前、ヒスイ洞とよばれる鍾乳洞を訪れていた。地底湖に潜ったまま戻らなかった。遺体のないまま葬儀を終えた。夜、一人の20歳ぐらいの男が訪ねてきた。自分の代わりに父がなくなったといった。残り少ないエアーを自分に託したが、自分は再び予備のタンクを持って戻らなければならないのに戻れなかった。そのために父が亡くなったという。
 新潟県青海町の黒姫山から南東に行ったマイコミ平の「新洞窟の調査」が行なわれる。
 父の亡くなった場所である。弥生はその調査に参加する。
 弥生は第1アタック班として最初に穴の中に潜った。三島を先頭に霧崎、梶本、柳原たちとロープを使って下っていった。途中、ロープをつないでいるハンガーがはずれ落下した。幸い、怪我をした程度ですんだ。しかし、地上との連絡は取れなくなった。
 鍾乳洞が広がっていたが、外は雨で雨水がどんどん入ってきていた。やがてはこの中も水没する。
 アタック班はどこかに避難場所はないか探す。
 東馬はアタック班に弥生の名を見つける。あの時、見殺しにしてしまった健一郎の娘である。どうしても助けなければならない。助けるのが自分の義務のように感じた。
 地上のでは洞窟の入口に落石がありダイナマイトで爆破すると言う。中の人間に少なからず危険が及ぶがそれしか方法がない。
 東馬は、地底湖と黒姫鍾乳洞はつながっている事を知っていた。そこから助けに行く。ケイビングの道具を身につけ湖に潜る。
 そして、弥生達のアタック班と合流することが出来た。しかし、湖から鍾乳洞に来る間に滝や急流があり、必死の思いでこちらにたどり着いた。もう戻ることは出来ない。
 前人未踏ということであったが、この洞窟は人が入った形跡が合った。あちこちにハンガーがある。古いのや最近のまで。そして、地底で死体を見つける。女性のものであった。
 あと3時間もしないうちにこの場も水没してしまう。
 カタコンベとは地下墓場という。
707 狐闇 10/10(日)
Date: 2004-10-09

おすすめ度 ★★★★★

 北森 鴻 著  講談社 発行:2002年5月

 陶子は骨董市で青銅鏡を2枚で90万円で落札した。2枚同じものが入っているはずが、1枚は違うものだった。1枚は依頼者の須田に売ったものの、1枚は三角緑神獣鏡であった。黒光りするこの鏡の魔力にとりつかれてしまった。
 後日、田中一正という男が訪ねてきた。やはりあの鏡を返してほしいと言った。
 翌日、陶子は粘土で鏡の型を取った。
 古代美術研究家の滝にあの三角緑神獣鏡を見せる。
 再び、田中一正に合い、陶子は鏡を返す。返礼に200万円と二度とこの鏡に関して口外しないという誓約でもあった。しかし、陶子は鏡に八咫鏡(相当な大きさを持つ鏡)であることを知った。
 別の日、村山槐多の絵を700万円で手に入れる。しかし1週間後に盗まれる。
 弓削妃神子と知人の林と会食した際にワインを飲み車で酔いを覚まそうとシートを倒した途端に異変が起こった。気がつくと病院にいた。あの後電柱にぶつかって事故を起こしたようだ。
 警察に誰かにはめられていると言っても信じてもらえないだろう。盗まれた絵も事故のあった車から発見された。警察は陶子を疑い始めた。狂言とでも言いたげである。
 明治の初め、堺県の税所篤が古墳の掃除と称して古墳を発掘したことがわかる。そして石室を掘り出した人物と関係者らしき写真が見つかる。
 税所篤の盗掘という後に大きな力からを感じる。
 発掘したと見せかけて実は、岡山県の山林でコピーを作っていたことが分かる。
 そして弓削一族が古代製鉄に携わった一族であった。金山彦神を語る男から美作庄を弓削庄にかえて住みついた。


706 犯人に告ぐ 10/10(日)
Date: 2004-10-05

おすすめ度 ★★★★★

 雫井 脩介 著  双葉社 発行:2004年7月

 神奈川県警の巻島は10日前から娘が出産の為に戻ってきていた。この朝、陣痛らしい徴候があった。病院まで送ろうとするときに電話が鳴った。
 5歳の男児が誘拐された。二千万円の要求だった。巻島は娘にタクシーで行くように伝え事件にあたる。
 指定された山下公園に母親が現金を用意して出かける。当日は花火大会で40万人の人出であった。
 翌日相模川の河川敷で男児の遺体が発見される。犯人からあざ笑うようなメッセージが送られる。
 子の両親もマスコミもいっせいに警察を非難した。
 以後4件も5歳から7歳の男児が雑木林や竹やぶから殺されて見つかった。窒息死や絞殺だった。
 テレビ局に「バットマン」となのる犯行声明が寄せられる。

 6年後、帰ってきたバットマンと称して再び巻島のもとに手紙が来る。
 孫の一平がいなくなった。巻島は山下公園に向う。そこには一平が生まれる日誘拐された子の父親が、一平の手を引いて待っていた。「お前のせいで健児が殺された。土下座して謝れ!」と怒る。そして、巻島は刺される。「犯人は30代、やくざ風、面識なし」と連絡したまま意識を失う。
 病院で気がついた巻島に刺した男の妻が面会に来る。巻島は妻にわびる。
 同僚が犯人がつかまったことと子の父親が出頭してきたことを話す。
 犯人はフリーターであった。

705 Q&A 10/ 2(土)
Date: 2004-10-02

おすすめ度 ★★★★

 恩田 陸 著  講談社 発行:2004年6月

 何人かに事情を聞くという形式で小説が成り立っている。
 東京の郊外の大型スーパー兼商業店舗で異臭騒ぎがあった。2002年2月11日2時過ぎであった。
 店内は敷地内の旭が岡団地の住民の買い物客でいっぱいだった。地下の売り場から階上に行こうとする客と階下へ行こうとする客でエスカレータ付近で人がひしめき合っていた。
 サツまわりの警視庁担当の笠原は、姉夫婦のよく行くスーパーであり、心配で現場に向う。
 警察発表は当初原因不明であったが、ニュースで猛毒ガスが発生したと伝えた。少し離れた小学校が避難場所になった。付近の住民にも非難の指示があったというが、夜はどのうちにも避難した様子はなく、部屋に明かりが灯っていた。
 事務員の41歳の女性は、1階に降りれば外に出られると思ったが、下からたくさんの人が逆流して外に出るのは大変だった。ガスだ。毒だと聞いた。
 小学校6年生の女の子は、黒っぽい男の人をみた。変な匂いがしたという。
 弁護士の男性もビデオをみて、脱出が30分かからなかったと知った。一人の女の子が具合が悪くなってそれをみた人が具合が悪くなったヒステリー現象ではないかと考えた。
 時がたち、宗教団体がかかわっていたことを知る。
今は、まだ小さい女の子が3万を超え、外国にも支部があった団体の教祖となっていた。
 あの事件は、死者69名、負傷者116名の大きな事故であった。
704 アフターダーク 10/ 2(土)
Date: 2004-09-30

おすすめ度 ★★★★

 村上 春樹 著  講談社 発行:2004年9月

 午前零時から朝7時までの出来事。鳥の目を通してその光景を上空から見ている。
 浅井マリは夜中に家を出る。ファミリーレストランで友人と会う。
 友人とラブホテルの管理室で画面に写された異様な光景にその部屋に飛んでいく。
 女性は裸で震えていた。すでに男性はいなく、女性の洋服も持ち去っていた。監視のビデオを巻き戻すと特徴のないサラリーマンの姿があった。
 女性は中国人の引き受け人に引き取られた。ビデオの画像から男をプリントアウトし、女性が助けを求める為にかけた電話に電話する。やがてフルフェイスマスクのバイク男が来る。
 無料で情報提供する代わりに「もし、見つかったら教えて!」と頼む。
 サラリーマンは夜中、パソコンに向ってキーボードをたたいていた。妻には仕事だと連絡をしていた。
 やがて、この男が帰宅する為に真夜中の道を歩く。背後にバイクの男がつけている。
 午前6時40分、マリは帰宅し、姉の寝るベットに滑り込む。
 午前6時50分、カラスが騒がしい声をあげ、生ゴミに群がる。
 午前7時前朝が始まる。
703 釈迦の女 10/ 1(金)
Date: 2004-09-28

おすすめ度 ★★★★

 澤田 ふじ子 著  幻冬舎 発行:2004年7月

 お雪と千草が知恩院の境内に近づくと読経の声が大きく響いていた。本堂の回廊の隅に寝ている娘がいた。粗末ななりをしていたが、千草は「お釈迦さまがあそこに寝てはる」と手を合わせて祈りつづける。
あの子は横着してあそこで寝そべっているとは口に出せなかった。
 菊太郎はその女の正体をさぐろうと知恩院にいく。そこへならず者たちが寝そべっている女を乱暴に引き摺り下ろそうとしていた。菊太郎は女が身ごもっているとみると止めに入った。
 女は質素な身なりをしていたが篤実な人柄がにじみ出ていた。表具師の女房であるが、お腹にいる我が子にありがたいお経を聞かせ、よい子になって生まれてきてほしいとお坊さんに話すと「好きにせよ」と言われた。
 寝そべっている姿を見た子もあれはお釈迦さまだといった。
 女に乱暴を働いた男2人を捕らえたところ親分の助五郎が飛んできた。そこで助五郎に定七を返す変わりに2人を返すと言う。
 定七は母親の薬代を作るために賭場に手を出し10両もの借金を作ってしまった。表具師の夫は定七に泣きつかれて、近江の長浜まで金策に行ったという。
702 箸墓幻想 9/27(月)
Date: 2004-09-26

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  毎日新聞社 発行:2001年9月

 ホケノ山古墳の発掘調査をしていた小池がダムで見つかった。死後2〜3週間経っていた。睡眠薬を飲まされてダムに投げ込まれたようである。
 浅見は奈良へやってきた。邪馬台国論争が九州説と畿内説に分かれ未だに決定的な確証はない。
 小池のあとを引き継いだ平沢も殺された。強盗事件と報じられていた。
 神の手と呼ばれている丸岡は「このあたりを」と言う場所を掘り返すと旧土器が出土すると言う。が、最近はこの神の手も神意どころか人為を疑われ始めた。
 ホケノ山古墳で画文帯神獣鏡が出土したという。そのことで俄然、この古墳が卑弥呼の墓である可能性がある。そのことはこれまでの学説をひっくり返すほどの大発見である。
 画文帯神獣鏡は少しはなれた箸墓古墳で見つかったはずでそれを誰かがホケノ山に埋めたのではないか。
小池は結婚もせず、70歳までひたすら考古学に没頭していた。死を覚悟して最期に会った人物は誰なのか。
701 三たびの銃声 9/25(土)
Date: 2004-09-23

おすすめ度 ★★★★

 有沢 創司 著  新潮社 発行:2001年6月

 NGO職員の和見はポル・ポト派がうごめくプノンペンにいた。チャムという男から拳銃を買わないかと持ちかけられる。チャムに銃を売るより自分たちの仕事を手伝わないかと持ちかけるが承諾しなかった。
 NGOの高野真裕子と共に和見は捕らえられる。チャムがポル・ポト派の一人であった。活動の為に真裕子はどうしても救わなければならない。
 和見は釈放される。六百万円を用意しなければならない。そうしなければ真裕子の命がない。
 そこへ和見が待っていた彩子がいた。結婚したいと思っていた女性である。彩子はすでに村尾という30歳の建築家に心を移していた。村尾とはアンコール遺跡研究会で知り合った。そしてアンコールの遺跡に捕りつかれていた。
 和見は六万ドルの身代金を使わないで真裕子を助けようと思った。真裕子の変わりに村尾をポル・ポト派に差し出す。
 蔵の中で和見は彩子を抱く。外では戦闘が始まっていた。村尾は死んだ。
 彩子は和見が六万ドルを使ってカンボジア人の内紛に見せかけて村尾が殺されたと思った。彩子は和見に銃を向ける。3発目も和見の顔の斜め上を通過した。彩子は殺意を持って銃をひいたのだが。
700 女の街 9/22(水)
Date: 2004-09-22

おすすめ度 ★★★★

 松本 賢吾 著  毎日新聞社 発行:2003年10月

吾郎は富山県諏訪町で風の盆を見ていた。おわらの唄と物悲しい胡弓の音に30年前を思い出していた。
 25歳の吾郎は、歌舞伎町でキャバレーのボーイをしていた。あこがれのホステス風子が暴力団の男に無理やりホテル街に連れ込まれそうになっていた。いやがる風子を吾郎は助けるつもりで男を鉄パイプで殴りつけた。ヤクザの仕返しが怖くて、めったやたらに殴ってしまった。
 風子を百人町の吾郎のアパートでかくまった。吾郎はあこがれの風子を狂ったように抱いた。
そして、吾郎は姿を消した。風子はその時の子ども五月を生んで風子の母と3人で暮らしてきた。
 吾郎は知り合った亮二が兄を探しに歌舞伎町に行くという。吾郎も30年ぶりに戻ってみようと二人で上京する。亮二の父は癌であった。兄を探して合わせたい。歌舞伎町で見たという情報だけを頼りに聞いてまわった。
 亮二の兄はヤクザからお金を借りて身動きのできない状態であった。吾郎の桁外れの度胸のよさに亮二の兄を無事連れ出すことが出来た。
 吾郎は風子に娘がいると聞いた。自分によく似ているという。子どもがいることは30年間知らないできた。娘は五月という。五月はヤクザの若い衆と一緒になろうとしていた。男の為に五月は人を指す。
 五月と風子と吾郎ははじめて顔を合わせた。五月は刑に服してやり直すという。
 吾郎は風子とその母と待つつもりだった。
699 純白の証明 9/21(火)
Date: 2004-09-21

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  中央公論新社 発行:2004年8月

 棟据は上高地の河童橋の近くで若い女性と会う。棟据は穂高を見上げながら言葉を交わす。
 T省の課長補佐塩山が遺書を残し8階のビルから飛び降りた。事故死と自殺の捜査が始まった。死体には腕時計が逆さまにはめられていた。
 塩山氏は汚職とは無縁の潔癖症であった。塩山の葬儀に上高地であった女性が焼香に来ていた。塩山が一人で飲みに行くバーのママだった。
 三栄の応接室に飾られた山の写真。それが最近別のものにかけかえられた。
 塩山の娘彩香は居石真吾と婚約をしていたが、父の死後二人の仲は冷え、婚約を解消した。
 その居石も山に登り遭難した。「政談」の主宰者岩上も登山家でありながら、転落死した。
塩山は学生時代に山岳団体に所属していた。4人の中に南野というT省の現役大臣もいた。
 彩香は、「男は死に際が肝心」と言っていた父を思い出していた。父は誰の犠牲になったのか。
 

698 ある愛の詩 9/21(火)
Date: 2004-09-19

おすすめ度 ★★★

 新堂 冬樹 著  角川書店 発行:2004年1月

 拓海はイルカの言葉がわかる。イルカのテティスと19年一緒に過ごしている。
 イルカは22歳から25歳ぐらいが寿命だといわれている。
 拓海は小笠原で祖父の留吉と一緒に暮らしている。
いまどきの若者には見られなくなった真直ぐな子である。
 音楽大学の流香は拓海の無邪気な笑顔が好きだった。新日本音楽コンクールの予選を9月に控えていた。入賞すればイタリアのミラノへ行き、国際音楽コンクールに出場できる。流香は声楽家を目指していた。流香には間宮という男が求婚していた。
 拓海の祖父留吉が死んだ。ひとりぼっちになった。祖父が作ったタコノキのブレスレットをもって、東京に来る。 9月15日の予選を聞くために。
 拓海は流香の父にも気に入られ、父の経営するホテルに泊めてもらえる。
 ミラノへ行く費用を作るために拓海はホストクラブで働く。
 流香は本選で声が出なくなる。拓海は側にいてやりたかったが、間宮が二人を引き離す。
 拓海は小笠原に戻った。イルカのテティスはすでに死んでいた。
 そこへ流香が拓海を追って小笠原にやってきた。
 
 

697 深川黄表紙掛取り帖 9/18(土)
Date: 2004-09-15

おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著  竹書房 発行:2002年11月

 5編の短篇。
 丹後屋はいつもは50俵しか頼まない大豆を今年は間違えて500俵を買い入れてしまった。
 3つのわけが重なってしまった。これまで間違いをしない手代が担当したこと。仲買いが蔵を作ったばかりだったこと。豊作続きで大豆があったことである。
 丹後屋謹招福大豆と称して正月2日から1袋1升300文で売りに出した。500袋に1つは金の大豆が正味1両分が、銀の大豆1つぶが20匁の値打ちがあるものも入っているという。
 1万3千の袋を作った。鐘7ツで全部が売りきれた。売りきれたあとも四千の客がきた。
 ところが6日の夜、あの大豆がクズ大豆という評判が出る。水に浮かべるとぷくぷく浮くという。
 丹後屋は2万もの人間に金を返すという。それには富岡八幡宮の招福升に入った豆腐を5万丁を振る舞う。江戸の豆腐屋500軒で100丁ずつ作らせる。升と紙屋の手配とで稼いだ1200両を豆腐に替えて江戸中に返すという。
696 わたしには家がない ハーバード大に行ったホームレス少女 9/17(金)
Date: 2004-09-13

おすすめ度 ★★★★★

 ローラリー・サマー 著  竹書房 発行:2004年8月

 母は結婚13年目に黄色い張り紙をしてちょっと家を留守にした。張り紙には「1週間旅に出ます」
 しかし、夫はその留守に散らかった部屋を写真に撮り、母親失格の証拠になり離婚された。4人の子ども達は夫の母親に引き取られた。
 旅から戻った母は、子どもたちを連れ戻しに行くが追い返された。
 一人になった母のお腹にはローリーがいた。母は叔母の家や住み込みの家政婦として働いた。
 しかし、9歳で家を失い、ホームレス救済所を転々とした。
 ローリーは、ボストンの沿線にあるクインジー市のハイスクールのとき成績はトップクラスだった。ハーバード大学の市民講座にも参加し単位を取得していた。習得した科目は8科目になった。
 3年生の時、レスリング部に入った。男子と一緒になり練習にのめり込んだ。そして最優秀スポーツ選手の20人に選ばれた。新聞のトップに自分が載っていた。家族のことや生い立ちを話した。それが2ページに渡って掲載されていた。
 4月、ハーバード大学から合格通知がきた。またまた紙面をにぎわした。
 ローリーは大学の寮に入った。ハーバード大学でもレスリング部に入った。
 レスリング部の目標は3つある。1つは試合に勝つこと。2つ目はチームワークの充実。3つ目は各人の持てる力の発揮であり、大会でチームが優勝する最大の目標である。この文を書いたローリーをコーチが感動してくれた。文章は用紙5枚分もあったのだ。
 卒業後は、小学校で教えながら貧困家庭の子ども達の問題に取り組んでいきたいという。


695 自殺自由法 9/17(金)
Date: 2004-09-11

おすすめ度 ★★

 戸梶 圭太 著  中央公論新社  発行:2004年8月

 酒屋に嫁いだ信子は29歳。結婚して4年になるが最近、夫の行動が怪しい。携帯で付合い始めた女がいるようだ。
 朝から晩まで1日15,6時間働く傾きかけた酒屋の従業員に過ぎない。子どもは姑に取られ、甘やかし放題である。「辛気くさいったらありゃあしない!」と姑に怒られる毎日である。
 ある日、決意してレジからお金を抜き取り家を出た。経営不振で閉まったままのホテルの近くの丘までいくと目に付いた看板に「ここで自殺しないでください。付近の住民の皆さんの迷惑になります。山形市」と書かれてあった。自殺者に対する慈悲や愛情がうかがえない。余所で勝手に死んでくれと自治体の本音がうかがえる。無料電話にひかれて電話ボックスに入る。勝手に電話が鳴りつづける。出ると「自逝希望者ですか?」とあわてて受話器を置く。ボックスの中のモニターに変な女が映し出される。息子に殴られて・・と泣き喚く女。信子は私みたいに本当にひどい目にあった人間とこんなバカ女と一緒にするなとモニターを殴りつける。
 面白いのはここまで、つぎつぎと死にたい人のパターンが出てくる。
 自殺自由法について世論調査が行なわれた。必要39%、必要ない41%、わからない20%であった。
 自殺自由法は短期間で廃止された。
694 世界の中心で、愛をさけぶ 9/15(水)
Date: 2004-09-09

おすすめ度 ★★★

 片山 恭一 著  小学館  発行:2001年4月

 アキと僕は中学2年生のとき学級委員だった。友達を見舞に行くということがあってから親しくなった。
高校に行ってからも一緒に下校する仲だった。
 友達の大木が仲をとり持って船で島のホテルで一泊した。
 修学旅行から帰るとアキは「再生不良性貧血」という病名で入院した。日に日に弱っていった。
 アキがオーストラリアに行きたいという。僕は祖父にお金を借りて12月17日に行く予定にした。しかし、当日の空港でアキは倒れた。
 そして12月末にアキの葬儀が行なわれた。
 祖父が50年前、好きだった人の為にお金を作ろうと懸命に働いた。暗いことにも手をだした。好きだった人は結核だった。戦後結核を治す薬ができあっけなくなおった。好きだった人は、別の人と結婚をした。祖父も別の人と結婚をしたが、好きな人の骨を盗りに行ったことがあった。僕と祖父は骨を少しだけもらって帰った。
 アキの骨を僕も持っていた。ずっと。
 10年後、彼女が出来、母校を訪れた時、僕はアキの骨をまいた。
 一生持っているつもりだった。しかしこの世界には始まりと終わりがある。アキが見えたような気がした。

693 恋しい女 9/ 9(木)
Date: 2004-09-07

おすすめ度 ★★★

 藤田 宜永 著  新潮社  発行:2004年8月

 大手ゼネコン江田章の代表として、県下最大手の建設会社の長男の結婚式が長野であった。もう人手に渡る前の軽井沢の別荘にいた。
 江田は10年前に妻をなくし独身であった。5200億の債務免除を東友銀行に願い出して会長の座に退いた。54歳である。
 社員達が路頭に迷うかも知れないのに、相変わらず豪邸に住み、夜な夜な美人を相手にしていると週刊誌でたたかれた。奈津子とのスキャンダルも報じられた。その奈津子と今日の結婚式で同じテーブルであったが、言葉を交わすまもなく別荘に戻った。
 奈津子は夜中に長野からかけつけた。夫は主婦に人気の俳優であった。
 3歳の時に父をなくした33歳の千鶴とも江田は付合っていた。
 六本木のバーで由香子に会う。26歳というが肉欲の対象にならない青臭い無防備な女だった。江田は興味を持った。男嫌いなのかと芝のレストランに誘った。何度か会い、ベットを共にしたが、後味の悪い思いだった。性的に未熟なのか不感症なのか、こんな思いははじめてだった。
 次第に江田の方が由香子に惹かれて行った。金にも結婚にも興味を示さない。精神的に依存してくる素振りもない。屈服させ手中に納めたかった。「結婚しよう」というと「結婚しないよ。誰とも。会いたい時に会いたい人に会っていたい」という。みごとに失敗した。

692 転生 9/ 8(水)
Date: 2004-09-05

おすすめ度 ★★★★★

 貫井 徳郎 著  幻冬舎  発行:1999年7月

 夢を見た。恵梨子と僕は芝生の上でのんびりと過ごしていた。ゴールデンレトリーバーが近づくと恵梨子は犬の背をなでていた。「犬ってかわいいね。ぜったい犬を飼うんだ」と恵梨子が言う。目が覚めた。
 僕は心臓の移植手術を受けた。ドナーは恵梨子という女性だろうか。
 ドナーは交通事故でなくなった女性と聞いた。退院後、ネットで手術日になくなった橋本奈央子ではないかと橋本家を尋ねる。ドナーだという。が、僕にはどうも違うように感じた。
 ストーカーに追いかけられる恵梨子の夢を見た。ジョギングの男性とすれ違う。ストーカーは先回りして自宅前で待ち伏せていた。そして何かが起こった。
 ドナーの家を訪ねた。すでに越したという。
 夢で見た世田谷美術館に行った。はじめて訪れたのに見覚えがあった。それに、川窪俊郎という画家を知っていた。下手だった絵もかなり上手く書けるようになった。ドナーは絵が上手かったのか。
 川窪俊郎の個展に行った。そこに脇田恵梨子の名を見つけた。そして夢の話しをすることが出来た。恵梨子の両親は半信半疑だったが、恵梨子は信じた。
 恵梨子の恋人北沢一哉と2人しか知り得ない夢の話。恵梨子は北沢の家に行く。北沢の父に会う。
 しかし、北沢一哉の死は手術の2日前だった。ストーカーに殺されていた。脳死の状態でないと手術できない。僕の心臓は一哉のものに間違いないのだが。

691 帰ってきたアルバイト探偵(アイ) 9/ 8(水)
Date: 2004-09-03

おすすめ度 ★★★★

 大沢 在昌 著  文芸春秋  発行:2004年2月

 高校生の隆はアルバイト先の社長から工事現場にあるユンボをみつけるよう頼まれる。夜中の二時に現場を案内する。そこへパトカーがくるが隆の親父のパトカーで上手く逃げることが出来たが中国人2人がつかまった。
 隆はバイトの内容を父親に話していた。
 建築現場で白骨死体が見つかった。超高級会員制クラブ「港倶楽部21」の跡地である。モーリスの死体である可能性があった。
 モーリスが特殊な武器を旧ソビエト連邦から買い付け、その後行方不明になっていた。
 モーリスを調べるうちに「六月の獅子」という組織を知る。反政府運動の亡命者も加わっているという。
 見つかったモーリスの死体は別人で、モーリスは生きているのではないか。すると買い付けた武器は・・・・。武器は核爆弾である。

690 秋の花火 9/ 4(土)
Date: 2004-09-01

おすすめ度 ★★★★★

 篠田 節子 著  文芸春秋  発行:2004年7月

 5篇の短篇
 「観覧車」では女子高校生に扮した主婦が、出会ったばかりの男と観覧車に乗る。途中で観覧車が止まり師走の寒い夜のことである。35歳の図書館員の女性であった。人に嫌われているという女性の悩みを聞く。
 「ソリスト」では、「ロシア音楽祭」を開催した修子はロシアの偉大なピアニスト、アンナを呼ぶ。しかし、きまぐれのアンナはなかなかこない。音楽祭は開始された。そして、途中にやっとやってきたアンナ。観衆はアンナのピアノに歓喜する。
 「灯油の尽きる時」では、義母を介護する女性が悩みを聞いてくれる男性と知り合った。それは人違いがきっかけだったのだが。リストラされたという男は橋本と名乗った。次にあった時に二人はホテルに行く。そして就職が決まり忙しくなりもう会えないという男。女は自宅に戻り、ボケた母に自分自身の思いを吐き出す。孤独を救ってくれた男に振られてしまったと。義母は「辛いね、女って」と涙を流していた。ボケてはいなかった。そして義母は「死にたい。でも死ねないのだよ」「わたしにはあなたしかいない」と。
その母の首にタオルを巻き、手に力をこめた。そして自分も洗濯用ロープに首を掛けた。
 「介護疲れの果ての姑嫁無理心中」の記事に、男は4回ほど会った女性を思い出していた。結局、力になってやれなかった。かわいそうなことをしたと。

689 追憶のかけら 9/ 4(土)
Date: 2004-08-30

おすすめ度 ★★★★

 貫井 徳郎 著  実業之日本社  発行:2004年7月

 大学の講師をしている松嶋のところへ突然、終戦直後に活躍した佐脇依彦の未発表の原稿が持ち込まれる。持ってきたのは40すぎの小柄な男であった。
 原稿をコピーして読み進めていくと、それは佐脇の手記であった。これを発表すれば一躍脚光を浴びることは間違いなかった。
 手記の内容は佐脇の小説を盗んで発表したという男のことも書かれていた。そして死のうとするまでの決意が込められていた。
 しかし、手記には当時存在しない歌舞伎町がでてくるほか、紙質もあたらしい。贋物ではないかという。
 手記に書かれた長谷川という人物の長谷川医院を見つける。そして、手記が贋物というのもウソではないかという。本当に何が嘘で何が本物なのだろう。
 扶実という女性が望まない妊娠をして子を産むがそれも事実のようである。
 贋作であるという紙質の違う部分の原本も見つかる。
688 花籠の櫛 9/ 4(土)
Date: 2004-08-30

おすすめ度 ★★★★

 澤田 ふじ子 著  徳間書店  発行:2004年6月

 二条麩屋町通りの小さな蕎麦屋に太兵衛夫婦は出かけた。忙しく働く女子衆の中に、花籠文様の象牙の櫛をしたお伊那を見ていた。
 櫛はどう見ても5両はする。相当名の知れた職人が手がけた品だろう。菊花や桔梗の葉茎に金が蒔かれるなど精巧に出来ている。どないな素情の子であろうか。
 「わしは養子やさかい勘定は女房からもろうてや」と冗談を言うとお伊那は「お客はん此間もそう言わはりました。りっぱな男はんどすさかい、蕎麦代ぐらい常にお持ちやしたらどないどす」とやり込められてしまった。
 太兵衛は「ああ怖かった。一発食らわされてしもうた」とさして気を悪くしたようすもない。
 夫婦はこのお伊那を又一郎の嫁にほしいとお伊那の素性を調べる。お伊那の両親は別々に、お伊那は父と弟は母と暮らしていた。父は清水坂に近いところでろくろを回す茶碗職人であった。
 お伊那の櫛は母の形見であった。
 太兵衛は母と弟を伴って紋付羽織袴姿で父藤吉に挨拶にきた。お伊那を小間物問屋の嫁に迎えるために。
 母はお伊那の頭に刺した櫛をみて涙を流す。
 
687 人間の天敵 8/29(日)
Date: 2004-08-28

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  文芸春秋  発行:2004年5月

 椎津一訓はホテルの後方課長である。課長とは聞こえがいいがいわゆる苦情処理係でホテル内では謝り屋と呼ばれている。
 今夜もひたすら謝った。新婚初夜のカップルの部屋をダブル部屋割りをしてしまったことによるミスだった。折角の初夜を縁起が悪いというものである。
 椎津の家族はこの父の仕事をよく思わなかった。一番嫌っていたのが妻だった。恥を常食としているような仕事が家庭でもそうだった。二人子どもは妻に習って「パパの食べ方が嫌だ」「入った後の風呂は嫌だ」と別々に食事をするようになり、風呂は最後に椎津が入るというスタイルになっていった。
 妻が新宿のホテル駐車場に止めてあった車の中で死んでいた。突然のことであった。
 妻の手にはめられた腕時計ではっとする。妻は左利きでいつも右手に時計をはめていたはずだ。妻は車の中で死んだのではなく、部屋で死んだのだろう。そして地下駐車場に連れてこられた。
 犯人は今ごろ、のうのうと日常生活を続けているのだろう。保身の為に逃げ出した男を許せない。妻の霊が浮かばれない。
 椎津は客のリストを手に入れ探し出す。295カップルのうちから一人ずつチェックしていった。
 母親を失ってから二人の子どもも神妙になり、父のその姿に協力をしてくれるようになった。
 車の中をもう一度調べた。パーティ券の切れ端が出てきた。景品を受け取らなかった15名のうちに、不審な二名の名を見つける。政権党西河龍太郎の入り婿の名前を。しかし証拠がない。
 
 
 
 

686 思いわずらうことなく愉しく生きよ 8/29(日)
Date: 2004-08-26

おすすめ度 ★★★

 江國 香織 著  光文社  発行:2004年6月
 
 長女の治子は34歳。家を出て12年になる。次女の麻子は結婚して7年になる。26歳のボーイフレンドもいる。
 三女育子は長女とは7つ、次女とは5つ離れていた。育子は江古田の父を訪ねた。育子が21歳の時に両親は離婚した。原因は父の浮気だった。母は「ずっと一人になりたかった」と離婚を喜んだ。母は離婚してから本ばかり読んでいた。育子はサリンジャーを母にプレゼントすると「どうしてサリンジャーなの」とつっけんどんである。
 麻子の夫邦一は4つ年上の大手のPR会社の営業だった。
 治子は熊木と一緒に暮らしていた。「結婚しないか」といわれる。熊木は治子ほど真面目な女性はないと思っている。「折角上手く行っているのに、なんでそんなことをいうの?」と怒られる。
 時折、母を囲んで三姉妹が集っていた。
「思いわずらうことなく、愉しく生きよ」とは父の言葉である。
 

685 コイン・トス 8/27(金)
Date: 2004-08-24

おすすめ度 ★★★★★

 幸田 真音 著  講談社  発行:2004年6月

 篠山孝男は53歳のガードマンである。ふらりと立ち寄った古い画廊で突然「タカさん」と呼ばれる。
振り返ると冴子だった。11年前、スタンレー・ブラザーズ証券でバリバリ働いて、人生で一番脚光を浴びていた頃に知り合った彼女だった。冴子は上司の秘書であった。今は画商として日本の水彩画人気にこたえていた。油絵が匂いを発するのに対し、日本画にはそれがない分人気があった。小さいギャラリーを持ちたいと、生き生きしている冴子がまぶしかった。
 二五セント硬貨を1つだし、「表がでたら今夜ニューヨークで、裏だったら東京で会おう」 裏が出た。
それからしばらくたった。冴子のギャラリーは開店寸前でダメになったという。ITバブル崩壊だった。
 その冴子が突然電話してきた「ジェット機がビルに突っ込んできた」と「逃げるんだ!」と指示を出したが、その後連絡は途絶えた。
 篠山はニューヨークのグランドゼロにいった。冴子を探した。見つからなかった。
 目黒区八雲のシュミット邸の警備をするようになった。ある日、黒塗りの車に乗った冴子がその家から出ていった。篠山は驚いて車を追いかけた。
 シュミットは冴子のことを知りたがった。冴子は記憶を失っているという。
 しかし、冴子にあった時、それは冴子ではなかった。見間違うほどよく似た人物であった。

684 ダーウインの時計 8/22(日)
Date: 2004-08-22

おすすめ度 ★★★★

 響堂 新 著 角川春樹事務所  発行:2004年6月

シベリアの永久凍土の中から男女の遺体と地球上のものとは思えぬ小柄な人間らしい遺体が発見された。そばにいたネズミのような死骸も発見された。
 しかし、男の方は臀部の中央から尻尾のように手が延びていた。まさしく赤ん坊の手のようであった。
 洞窟の中にいったん遺体を隠す。しかし、発掘した男とそれを手伝った男二人は何者かに殺される。
 バイカル湖近くで奇病が発生する。腹に口の出来たアザラシやこぶの出来た魚や人間。そしてすぐ死んだ。死体のこぶの中から小さい足のような物が出ている。アザラシが見つかった後、人間にも発症し腹こぶが出来たり、肩から小さい足が生えてきた。いずれもすぐ死亡していた。
 イルクーツクの大学ではこれをバイカルウイルスとして研究をはじめた。
 日本人の研究者がシベリアの永久凍土からでた遺体の研究にあたる。五万年前のネアンデルタール人のようであった。



683 霞沢岳殺人山行 8/22(日)
Date: 2004-08-19

おすすめ度 ★★★★

 梓 林太郎 著 ワンツーマガジン社  発行:2003年4月

 北海道・旭岳近くで男が殺されていた。顔を十文字に切られて死んでいた。少し前にも、霞沢岳で同じように顔を切られて死んだ事件があった。
 一人は三国油脂の社員で友部で、一人は中川金属の大下課長であった。
 大学を出ても就職先がない早苗は、面接の受けに行った中川金属の木下課長から「君を推薦してあげるから」と言う言葉に外で会い関係を迫られたが拒否した。そしてその会社では採用予定がない事を知った。友部は街で知り合った。リクルートスーツを着ていたので就職活動をしていると思われた。三国油脂で「わたしの縁故ということでは就職が可能だ」と飲まされたピンクのカクテルで意識が正常でないときに襲われた。しかし、待てども連絡はなかった。人事課に問い合わせるとその事実がなかった。友部は電話にも出てくれなかった。
 そのころ、評論家の坂本が連絡をよこした。「レポートを書いてくれ」という言葉に書き終えると、レストランやクラブに行き高級ホテルに誘うということを繰り返した。レポートと称して身体が目的とわかったとき、死を決心して両親あてにこの事実を手紙に書く。
 父親はこの3人の男達を許せなかった。「山へ行く」と家を出ていった。妻は単に山に行くということではないことがわかっていた。

682 親指さがし 8/19(木)
Date: 2004-08-18

おすすめ度 ★★★★

 山川 悠介 著  幻冬舎  発行:2003年9月

 武は由美の家を訪ねた。由美の母が迎えてくれた。「由美がいなくなって7年たつのね」由美は、小学校3年生の時からいなくなった。必死で探したが見つからなかった。
 「親指さがし」というゲームをした。由美が最初に話し出したことだった。別荘に行き、殺された女の人の気持になり、親指を探す。誰かに後から肩を叩かれても決して振リ向いてはいけない。振り向く前にローソクの火をふき消すように。振り向くと戻ってこれなくなるという。
 5人の小学6年生は別荘の中で引出しを開けたりしながらバラバラ殺人で親指だけ出てこなかったという指を探した。そして、由美だけが戻ってこなかった。
 大学生になった武は、もういちど、残った4人とあの別荘に行った。何もなかった。村の老人は二度と別荘に近づかないように言う。
 20年前、実際にバラバラにされた死体が見つかった。しかし、左手の親指だけは見つからなかった。箕輪スズという女性だった。
 武は、箕輪スズの通った小学校へ行く。同級生だった女性とも会う。スズは変わった子だった。不思議な力を持っていたという。武は帰りに車の後ろに座っている女の子に気を取られ事故を起こす。
 信久は近所の本屋の帰り女に鎌で殺される。そして死体をバラバラにされていた。
 智彦も殺された。武も車で見た女性は殺されたというスズの亡霊かもしれない。
 その箕輪スズが殺している可能性もある。
 由美はどうしているのだろう・・・。
 


681 ICO(イコ)―霧の城― 8/17(火)
Date: 2004-08-17

おすすめ度 ★★★★

 宮部 みゆき 著  講談社  発行:2004年6月

コンピュータゲームICO(イコ)を元に物語をノベライズしたものである。
 何年かに一度生まれるという角の生えた男の子が生まれた。男の子はイコとよばれ、生母から離され村長の家で育てられる。13歳になると生贄(ニエ)として霧の島へ送られる。ニエは神殿様に従って霧の島へささげられる運命にあった。
 トトはイコが一人で霧の島へ行くことが心配であった。ずっと友達で暮らしてきた。トトはそっと神官様に直訴しようと思った。イコ一人で行かせない為に。
そして風のない城塞都市へ踏み入る。そこは見渡す限り灰色に化した石化した世界だった。街は死んでいた。そこへ地から伝わる声がした。女の顔が空にあった。女が吹きかけた風がたちまち乗ってきた馬のたてがみや背中が見る見るうちに石化していった。
 トトは女から逃れやっとの思いで村に逃げ帰るが、村長の見ている間に石化してしまう。
 イコは霧の島へ行く。鳥駕籠の中にいる少女を救う。少女はヨルダという霧の島の女王の娘であった。
 ヨルダは父が母の魔神によって殺されたことを知る。母の恐ろしい正体と母が制覇しようとする闇の世界が決して正しいものではないことを知る。
 ヨルダとイコは力を合わせて母の魔神を滅ぼそうとする。
 

680 秋に墓標を 8/17(火)
Date: 2004-08-15

おすすめ度 ★★★★

 大沢 在昌 著  角川書店  発行:2003年4月

 房総半島で釣りをしていた松原は若い女性から声をかけられる。長い髪の美しい女性だった。
 日本画の大家横森という老人の別荘が燃えた。その別荘からあの女性が出てきた。松原は自分の家にかくまう。女性は内村杏奈と名乗った。言われた時刻に訪問すると火災になっていたという。しばらく一緒に暮らす。リサーチ社の男が訪ねてくる。杏奈を探していた。杏奈にはアメリカで成功し財を成した夫秋月がいたが杏奈は別れたがっていたという。
 杏奈がいなくなった。そして群馬の方で車が大破し炎上した。男女3人の焼死体が見つかる。車はベンツだった。杏奈ではなさそうであった。が焼死体の一人はリサーチ社の水垣であった。
 「いきています」と書かれたはがきが届く。消印が石垣島であった。彼女に間違いない。松原は、杏奈の友人の梨香と一緒に石垣島へ行く。
 秋月も誰かに狙われているようだ。松原はケインに会う。秋月はCIAにも狙われているという。
 松原は杏奈に会うことが出来た。しかし、杏奈は・・・・。
 

679 パズラー 8/14(土)
Date: 2004-08-12

おすすめ度 ★★★★

 西澤 保彦 著  集英社  発行:2004年6月

 20年ぶりの高校時代の同窓会通知が来た。「お前に会いたがっている女の子がいる」というが、その名前を聞いて驚く。記憶の中では彼女は20年近く前に死んだはずである。
 同窓会に出席する。3次会あたりでその女の子梅木万理子に交通事故死した記事を見たことを話す。万理子は20年前には児玉美保という子が亡くなっていた事を知る。
 美保のことを思い出す。蓮華の花を見ながら「人間誰もが花になりたがっているが誰もが花になれるわけではない。花になれるのは一部だけ。あるいは茎になり、根になり、土になる。土も花が咲くために必要だもの」といった。
 そうだ、新聞記事の切り抜きに万理子の事故死の記事を見たことを思い出す。新聞を調べる為に図書館へ行く。しかし、自分が見た記事はなかった。愕然とする。あの記事は何だったのだろう。
 美保が亡くなった場所にいく。印刷屋でその事件を覚えていた。亡くなる二ヶ月ほど前に新聞記事に似せた印刷をして欲しいと頼まれたと話す。
 万理子はお見合いを勧められたとき、美保に相談したことがあった。美保は万理子に対しての気持があれば記事を見て田舎へ飛んで帰るだろう思ったのだろう。会う機会を設けてくれたのだ。しかし戻らなかった。そして美保の名前すら20年間思い出しもしなかった。美保が母の名を語り、新聞記事を作って送ってきた。
 作家になりたいと担任に言った。「お前なんかになれるわけはない」とさんざんいやみを言われた。あの時、美保は励ましてくれたことを思い出す。
美保の墓参りをして俺は泣いた。
678 不運な女神 8/13(金)
Date: 2004-08-12

おすすめ度 ★★★★

 唯川 恵 著  文芸春秋  発行:2004年3月

 祐子は40歳になったばかりで夫をなくした。結婚してまだ1年だった。夫には姑と娘がいた。祐子は飲み屋をやって3年になる。
 夫が「お袋とマユミを頼む」と言い残し脳溢血で死んだ。マユミは二歳の時から姑に育てられていた。そのマユミが初潮がはじまったという。
 そこへマユミの実の母が引き取りたいと言ってきた。祐子は実の母と暮らすのが一番と思っていた。
 実母を前にしてマユミは祐子の袖を持って話さない。実母の目はマユミをかわいくて引き取るのではないという目をしていた。
 夫の保険金はマユミのものになっていたのだ。祐子は「何が目的?」とおののくような実母を尻目に祐子はマユミを連れて帰る。
 折角、近くの印刷屋の経営者が求婚してくれていたのだが。  他短篇7篇

677 天窓のある家 8/11(水)
Date: 2004-08-10

おすすめ度 ★★★★★

 篠田 節子 著  実業之日本社  発行:2003年9月

 36歳の秀子は夫から逃れる為に家を出て裁判の末に離婚した。そして越した先がかっての級友の香が大家のアパートだった。香の夫は歯医者だった。
 香の家には天窓があった。秀子の窓から天窓を通じて生活の一部が見えた。香は浮気をしているようだった。そして夫のほうも。偽の幸せごっこをしている。秀子は香の浮気を夫に知らせようと携帯を買い電話をした。
 ある時、香の家が留守のようだ。シャムネコだけがいた。シャムネコを灯油の入ったクーラーボックスに閉じ込めた。灯油でぬれた猫に秀子はライターで火をつけた。火だるまになったネコは部屋と狂ったように駆け巡り、そして再び外に出て秀子に飛びかかった。
 秀子は炎となったネコを跳ね除けようとするが、つめを立てたネコはなかなかはがれない。そうこうしているうちに自分も火だるまになった。
 香と夫が夜中に戻ってくると焼けた家とひび割れ茶色に変わった秀子の姿とネコの黒焦げの死体があった。夫婦は秀子の行動をまったく気がつかないでいた。
 

676 ただ風が冷たい日 8/10(火)
Date: 2004-08-09

おすすめ度 ★★★★

 北方 謙三 著  角川書店  発行:2004年6月

 街の空気が最近おかしい。不穏な空気が漂っていると感じた若月は久納兄弟に調べるよう言う。
 旅館組合の動きがおかしい。バレンシアホテルが博奕のカタにとられるようである。しかし、オーナーの中本佐知子がやるとは思えなかった。やったのは亭主の英三だろう。
 おかしな男がやってきた。弁護士もやってくる。英三は五億円も金を借りたことになっていた。
 金の流れは入り組んでいた。おまけにオーナーの中本夫婦は籍に入っていなかった。ホテルの乗っ取りだけではないようだ。
 拳銃が火を吹く。男達が自分の威信をかけて戦う。
 

675 きずな 8/ 8(日)
Date: 2004-08-07

おすすめ度 ★★★★

 杉本 章子 著  文芸春秋  発行:2004年7月

 6年ぶりにすれ違った女が、兄の昔の女だと気づいた万之助。女のことを気にして調べると、女は最近、子を産んだという。その子は一体誰の子だろう。
 そのことを遊び人の神谷に話す。神谷は女おぬいを調べると、現在は呉服太物店美濃屋の息子信太郎と一緒に暮らしていた。
 「不忍池中ノ島の愛連亭をよもや忘れてはいまい。以前の密かごとを表沙汰にされたくなくば、明昼八ツ愛連亭にまいれ」とおぬいに文をよこす。
 おぬいは万之助の兄とわかれた後、夫婦になった夫は、子の顔を見ないうちに死んだ。夫の死んだ後生まれた千代太を女手1つで育ててきた。
一方、信太郎は許婚が押し込み強盗に入られ辱めを受けた事を苦に自害した。その後、おぬいと知り合い、最近おみちという女子をもうけた。信太郎がおぬいのもとに通う形となっていた。次第に入り浸り千代太は信太郎になついていた。
 美濃屋ではおぬいの存在を面白く思っていなかった。しかし主の卯兵衛はひそかに千代太と会っていた。
 神谷と対峙したおぬいは、きっぱりとした態度で神谷の脅しを受け入れないばかりか、これで信太郎との間が壊れてもいいと腹をくくっていた。それには神谷も驚いた。それを聞いていた卯兵衛は、おぬいに信太郎の父と名乗り、神谷の前で千代太を美濃屋に奉公に出してはくれぬかと頼む。神谷もすっかり当て外れであった。
 卯兵衛の臨終の際「信太郎を頼む。千代太を美濃屋に・・・」とおぬいに言う。


674 残照 8/ 8(日)
Date: 2004-08-05

おすすめ度 ★★★★★

 小杉 健治 著  光文社  発行:2001年12月

 裕一は今日もいじめられた。明日は10万円を持っていかなければならない。生きていても地獄だ。死のうと思った。どうせ死ぬならあいつを殺してから死のう。翌日裕一は屋江島をナイフで刺殺した。裕一は15歳であった。二年で社会復帰した裕一は親戚の養子となり名前も変えた。
 戦争中に隠匿したヒロポンをうり、戦後の餓えをしのいだ仲間がいた。池袋を中心に闇市で金を儲けた。田川、三輪田、今村、関根、村岡と徳太郎である。寺坂は彼らに仕事の斡旋をするリーダーだった。
 そして田川が死んだ。彼は探偵社に自分のすべてのお金を使って6人を調べていた。
 銀行会長藤村、証券会社会長中西、デパート会長磯崎、大学名誉学長河島、建設会社社長大道である。自分たちの利益を最優先に考えたものたちである。
 田川はこの6人を処刑しようとしていた。それを知った徳太郎は自分たちで田川の思いを遂げてやろうという。
 エイズ薬害事件で無罪になった河島。徳太郎はエイズ事件を探し始める。
 銀行の藤村会長が自宅の庭で殺された。胸を刃物で刺されていた。「天誅 八月一五日」と書かれた紙が置かれていた。
 デパート会長の磯崎も自宅二階でで殺された。「天誅 八月一五日」の置き紙があった。
 調べていくうちに磯崎の死んだ日、玄関前でうずくまっていた老人がいたことがわかった。警察は徳太郎の周辺も捜し始めた。
 そして建設会社会長大道も殺された。高校生だった裕一は、寺坂の専属運転手となっていた。寺坂のグルフ仲間に死んだ会長たちがいた。
 寺坂は自分も含めて無責任国家を作った戦後の指導者という認識があった。はじめから死ぬつもりだった。裕一を使って殺人は次々に実行された。
 
673 桜花を見た 8/ 7(土)
Date: 2004-08-03

おすすめ度 ★★★★

 宇江佐 真理 著  文芸春秋  発行:2004年6月

英助は今年で18歳になった。母は英助がいせ辰に奉公へあがった翌年になくなった。
 母はなくなる前に押入れのつづらの中から印籠と短刀を出させ、「お前のお父っつあんは北町奉行の遠山様だよ。私が死んだらお前は頼る者が居ない。直接あの人に会いにいって話すんだよ」といってなくなった。14歳の時だった。しかし、遠山様には知らせず、英助もいつか会える日を励みにしていた。
 いせ辰には出戻りのお久美がいた。店の主は「お久美と所帯を持つ気がないか」と英助に聞いた。お久美はずばずばものを言うが、英助はうまく受け止めるすべを身につけていた。「英助は本当にあたしを女房にしていいのか」と問うた。英助は「お嬢さんさえよければ。」
 そして、自分の生立ちをお久美に話した。誰が遠山様の子だと本気にするものかと思っていると「英助のその思いを叶えてやるよ」とお久美は、これ見よがしの高島田に結った髪に赤色のどんすの着物を着て派手な格好で奉行所に出向いた。おかげで一晩泊まる羽目になった。お久美は解き放しになり、やがて南町奉行所から英助にじきじきに参上するよう沙汰があった。
 英助は遠山様を前に緊張していた。遠山様からの母との事を聞き次第に体に彫られた桜花を見たいと思いを口に出すと遠山様は断崖に1匹の虎の姿と山桜の彫り物を見せてくれた。英助の帰り道、お久美が迎えにきていた。多分もう父とはお目にかかることはないだろうと思うと、こらえていたものがあふれてきた。
 お久美との婚礼の折り、遠山様からお祝いが届く。

672 虹の生涯 新選組義勇伝 上・下 8/ 4(水)
Date: 2004-08-01

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  新人物往来社  発行:2004年3月

 史実にはない老人3人組の痛快な物語である。
 和多田主膳は紀州のお庭番であった。今は隠居の身で、嫁にも疎んじられていた。毎日お堀端で
糸を垂れて竿の先を見る日々を過ごしていた。
しかし、井伊直弼が桜田門外で襲われた際、主膳は雪の中血の後をたどり井伊直弼の首を取り戻す。名も告げず遠藤家に届けた。豪気なご隠居は一体誰かと噂になった。
 1年後、城からの迎えがあった。櫻井豊後守から直弼の首取り戻しの働きを褒められた。そして公儀として和宮様御降嫁の儀の警護を申しつけられる。主膳は倉地内記、梶野甚左衛門、古坂平四郎を誘った。4人は和宮様の警護にあたった。4人は相手が「老いぼれ」と見くびる隙を突いて次々に相手を倒す剣豪でもあった。駕籠脇を固め無事に江戸へ届ける。
 ふたたび京に行く。新撰組の土方は会津藩からの独立をもくろんでいた。それを察知した会津藩から4人は呼ばれる。芹沢を闇討ちした4人は土方、近藤、沖田を傷つけず新撰組の増長を押さえよという命を受ける。池田屋の戦いでは4人組は近藤らに加勢する。
 また江戸においては、沖田を救う為に偽の葬列を装い棺おけに沖田を隠して土方、近藤の元へ届けた。
その後、近藤が処刑される。主膳らは土方のそばに居た。土方が五稜郭で戦死した後、ふたたび江戸に戻る。
 主膳らの働きは三河屋だけが知っていた。
 


671 雛の家 8/ 3(火)
Date: 2004-07-30

おすすめ度 ★★★

 久世 光彦 著  中央公論社  発行:2004年6月

 津の国屋には3人の娘がいた。それぞれが3つ違いで一番上のゆり子が21歳。次女の真琴は18歳。三女菊乃は15歳だった。
 姉のゆり子は女らしくなった。いい人がいるようである。結城という男と親しくなった。19歳のときに実相寺で襲われた男である。結城は満州に逃げる。 
 次女の真琴はキムという男と関係を持ち良を産む。良が出来たことはキムには告げなかった。誰にも悟られないよう、ゆり子が計らって掛川に連れて行き出産した。キムは海を渡って帰ったようだ。
 三女の菊乃は人形師の鶴吉が思いを寄せていた。そしてその気持ちを知った菊乃と親しくなる。
店は祖母の吟がしっかりと切り盛りをしていたが、脳卒中で倒れる。ゆり子が跡を継ぐ。
 昭和20年3月の東京大空襲で津の国屋は消失してしまう。

670 大川わたり 7/31(土)
Date: 2004-07-28

おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著  祥伝社  発行:2001年12月

 大工の銀次は九歳の時家族と借金が元で離散した。父も兄も母も売られた。残った銀次は深川の大工棟梁初五郎親分の元へ小僧に行った。
 親分は仕事の合間に読み書き算盤を習わせてくれた。20歳の時にノコギリやノミも使わせてもらえた。「この子は手筋がいい」と褒められた。
 そして小僧から通いになった。27歳の時、賭場で20両の借りをつくる。借金の変わりに賭場のしきりを任せるといわれるが自分は大工である。「博打は好きだが賭場はつとまらない」と申し出る。猪之介は「20両を返し終わるまで大川を渡るんじゃあねえ」と言い渡す。
 銀次は神田佐久間町の堀正之介道場を訪れる。「修行の道場されあれば、他の金子は無用」と自ら洗濯もこなす正之介。昨年、屋根の普請を頼まれた。1日の終わりにねぎらいの言葉をかけられた。それだけであったが、覚えていてくれた。銀次は「度胸を鍛えたい」と申し出る。昼間は職人として働き、夕げに素振り500回をする、そして言葉を仲間うちからあらためるよう言い渡される。
 普請場では銀次の「あとの段取り通りにすすめてよろしいでしょうか」という言葉遣いに大工たちが驚いた。が、次第になれていく。
 1年後、銀次は正之介から論語も教えられ漢字も書けるようになっていた。そして、大工ではなく日本橋千代屋の呉服屋の手代を勤めてみないかといわれる。
 銀次は悩んだ末、呉服屋にいく。28歳の時である。
 銀次は仲間のやきもちにも似たいじめにも負けず、徐々に注文が増えていく。
 そんな姿を賭場の猪之介も見守っていた。銀次はあと8両で20両になる。
 

669 逃避行 7/26(月)
Date: 2004-07-26

おすすめ度 ★★★★★

 篠田 節子 著   光文社   発行:2003年12月

 ゴールデンレトリバーのポポはもう老犬である。もう九歳を過ぎている。そのポポがお隣りの小学生の男の子を噛み殺した。
 新聞やテレビが被害者の男の子の祭壇に飾られたランドセルなどを映し出し、犬よりも飼い主がわるいと報道している。
 しかし妙子にはわかっていた。ポポは悪くない。あの男の子は学校もいかず普段から塀を乗り越えてやってきてはポポに変なものを食べさせたり、おもちゃのピストルで銀玉をあてたり、コショウを振りまいたりと嫌がらせをしていた。今度もポポの顔の前で癇癪玉を鳴らしたのだ。怒ったポポが男の子に噛みついた。男の子は首を噛まれて出血多量で亡くなった。
 犬を保健所で始末するように夫からも世間からも急かされていた。
 ポポは悪くない。家族と同じなのだ。殺せるわけがない。
 妙子は夜、ポポを自転車に乗せ預金通帳と印鑑を持って外に出た。そして、肴を摘んだトラックに乗せてもらう。塩尻まで送ってもらう。塩尻ではトラックから荷を盗もうとした女にポポが噛みつく。すぐ八王子の人殺しの犬とわかって女が騒ぐ。テレビに映ったときはジョギングをしていて噛まれたとぬけぬけと話していた。ポポと妙子は逃げる。
 途中、神戸の方へ行くトラックに乗せてもらう。そして姪の所へ行く。しかし、夫の元へ連絡をされてしまう。またしても逃げる。
 オオルリ村の別荘地へたどり着く。今は暮らす人も少なく上手い具合に家財ごと貸してくれる家を見つける。
 ポポは久しぶりの山中でネズミなどを獲って食べていた。自分の食い扶持は自分で取って食べる姿に驚かされた。
 近くに陶芸をする定年後を悠々と暮らす男が居た。男は堤という。そこへ週刊誌の記者が迷い込む。やはり追ってきた。しかし、記者は猪に襲われるがポポが助ける。堤も手伝って、猪を仕留めた。
 ポポはだいぶ弱っていた。堤に獣医に連れていってもらう。そうこうしているうちに妙子が倒れる。ポポの様子に堤が掛け付ける。堤は妙子の夫に知らせる。
 妙子は死んだ。ポポは堤に引き取られる。男はミンダナオ島で誘拐されたK建設の元社員だった。無我夢中で働いたが、妻は去り、会社からは「君の能力を生かせる部署がない」ということで転籍か早期退職を迫られた。彼は裁判の末、結局退職した。
668 金融探偵 7/25(日)
Date: 2004-07-25

おすすめ度 ★★★★★

 池井戸 潤 著  徳間書店  発行:2004年6月

 元銀行員の大原次郎は、大家の天の湯という銭湯から相談を受けた。1千万円の融資を銀行から断られた。決して儲かってはいないが、融資を断られるほど経営は悪化していない。最近、アパートも建てたばかりである。
 大原はどうせ職探しをして暇を持て余していた。融資を断った銀行側の理由を確かめた。近くに温泉スパが出来る予定だという。そこへ五億円の融資がされることになっている。しかし、そのスパの出展をすすめる城南開発は粉飾決済の疑いがある。しかも、銀行支店長はその城南開発の傘下でバカラ賭博をしたつけがあった。それを指摘すると支店長は青くなった。
 1週間後、支店長は辞任した。おそらく天の湯の融資は降りるだろう。
 この事件がきっかけで天の湯の娘から金融探偵でもやったらどうかとすすめられる。
 やっと決まりかけた銀行で、最終面接まで残った。そこへ朔田という男がきた。川崎商業銀行から融資を受ける条件にすでに融資をしている一部を返済すると1億五千万円を貸すといわれた。必死で集めた五千万円を返した。ところが、融資は受けられなかった。ついては計画倒産の方法を教えてくれという。三千万の小切手を不渡りにする。
しかし、朔田は1ヶ月も前に殺されていた。
 大原はまたしても銀行の採用はなかった。が、川崎商業銀行の面接官と朔田と名乗った男が同じであった。
667 バードケージ 7/25(日)
Date: 2004-07-24

おすすめ度 ★★★★★

 清水 義範 著  NHK出版  発行:2004年6月

 駅でふらつく男性に気がついた。遥祐の目の前で線路に落ちた。電車が迫っている。一瞬、逃げる場所の隙間を見つけ、線路に飛び降り遥祐は男を助けた。
 幸い足を捻挫したぐらいで助かったが、男は名も告げず病院から居なくなった。
 小さい新聞記事が載った。遥祐は予備校をさぼって戻る途中の事故だった。
 しばらくして、予備校の前で線路に飛び込んだあの男に会った。御礼がしたいと近くのマンションに連れていく。「自分は本当は死にたかったのだが、もう一度生きてみようと思う。ついてはこの1億円を楽しく使って欲しい。しかも3ヶ月の間に」という。
 男は瀬戸川といい、土木会社の社長でもあったが、金を憎んでいる。金があれば幸せだと思っていた。しかし、妻は貧乏人の男と一緒になると出ていった。娘は自殺した。なにもかも嫌になって死のうと思った。
君に希望を託したゲームでもあるという。
 さっそく遥祐は、買いたかった時計やスニーカーを買うが、父親と二人暮しの自分はそんなには使えない。課せられた@楽しく使うことA他人に言わないことB3ヶ月で使いきることC寄付や募金をしないことD稼ぐ為には使わないE実際に使うことF1週間に一度様子を報告することであった。
 マンションを借りて、買い物をするが、それほど使えない。コンビニで知り合ったかわいい女の子真由は、「タリラン滞在記」のロケでネパールに行ったことを話してくれた。真由はタレントだった。
 浪人生の自分は真由の出ていた番組を見た。真由はもう一度ネパールに行きたいという。
 二人はネパールに行く。電気がやっとあるだけの貧困な国である。学校もない。人々は字が読めない。
 遥祐はこの国に学校を建てるNGOの設立を計画する。自分ではまともに取り合ってくれない。そこで社長の瀬戸川に会長になってくれるよう頼む。瀬戸川は引き受けてくれた。
 遥祐は浪人している自分のやるべきことが分かった。とにかく大学を卒業したい。そしてこの国の力になりたいと。残りのお金はNGOの設立資金に当てた。瀬戸川にも生きる望みがでてきたようだ。
666 いつか白球は海へ 7/22(木)
Date: 2004-07-23

おすすめ度 ★★★

 堂場 瞬一 著   集英社  発行:2004年4月

 海藤が入社後、最初の仕事が葬式の受付だった。間島水産社長が亡くなった。
 社長の死で会社の野球部は存続を危ぶまれた。チームごと引き取る先を検討中というが、覇気のないチームにはなかなかそういうところはない。
 潮灘セメントの内堀社長が視察にきた。うわさには聞いていたがひどいチームだと酷評する。負け犬には興味がない。だが勝てば考えてもいいという。
 海藤はどうせなら皆に張り切ってもらいたいが、口に出せば新人の身、仲間から「キャップテンでもないのにえらそうな口をきくな」と言われる始末である。
 海藤は大学を出て野球がやりたくてこの会社に入社した。野球をやるからには勝ちたい。
 ひとりで悶々としていたが、やがて理解してくれるチームメイトを見つけ、徐々に試合に勝つようになってくる。
 海藤の打った球がスタンドを越え海に落ちるかすかな音を聞いたような気がした。
665 夜は満ちる 7/22(木)
Date: 2004-07-22

おすすめ度 ★★★

 小池 真理子 著  新潮社  発行:2004年6月

 短篇7篇。
 「夜は満ちる」では 夫は風呂に入らない。垢のすえたような臭いがする。
 夫と知り合ったのは15年前、有名ではなかったが知る人ぞ知る評論家であった夫。25歳の私は宿無しのろくでもない生活をしていた。夫はうすぐらい部屋でものを書いていた。雑誌社でアルバイトをしているとき、夫の元へ原稿を取りに行き、そのまま泊まってしまった。家に帰るとお帰りといってくれる人がいる。帰る家があることに幸せであった。
 その夫が書斎を使うこともなくなり、うつろな目で車椅子に座ったままトドのようになってしまった。
 52歳の夫は心が壊れてしまった。
 夫の先妻の残したベットが開かずの間にあった。真夜中そのベットに睦み会う男女を鏡越しに見た。男はもう死んでしまった合田で、女は自分だった。頭の中には別のものを見ている。不思議な感覚であった。
官能にぬれた自分の顔があった。死んだ奥さんのベットを見つづけている自分。
 隣りの部屋で夫のはげしい咳が聞こえる。鏡に映った自分と目があった。
664 渋谷一夜物語 7/22(木)
Date: 2004-07-20

おすすめ度 ★★★

 山田 正紀 著  集英社  発行:2002年8月

 評論家鯖鰊榮太郎のグラビア写真の背景に写っていたスタンドを見ておれはあることを計画した。
あのスタンドは我が家に同じものがある。つきの悪いスタンドである。それを利用して鯖鰊をこらしめてやろうとしていた。
 ある日、カラオケに行った際に、トイレに立つ降りをして鯖鰊のブレザーからカギを抜き取った。そして急いで鯖鰊のマンションに行くと自分の家のスタンドと鯖鰊のスタンドを取り替え、ガスの元を開いた。音がしない程度に少し目に開きカギをかけて外に出た。
 鯖鰊は家に入り、あのつきの悪いスタンドをつけたり消したりするうちにガス爆発が起こるだろうともくろんだ。
 ところが、渋谷のセンター街の近道に入ると数人の男達のおやじ狩にあってしまう。ぼこぼこにされながら、中のひとりが「こいつは作家だ」という声に救われる。「面白い話しをしたら許してやる」という。短篇を聞かせることになった。
 そして短篇小説が数篇。「指輪」では夫の不倫相手を殺しその指輪を苦労してとった。指輪には刻印がなかった。夫は自分の結婚指輪以外、刻印が入っていないことに幸せを感じ満足だった。
「ホームドラマ」では不倫をした相手の家に無言電話をかけていた。見知らぬ人から花束が届いた。送り主の住所に行くとそこはお寺だった。そしてその送り主はお墓の下だった。そこへ女性が現れ「息子は生きているときにあなたのことが好きだった」という。以来食事をしたり、服を送られたりした。遅く帰ると非難もされた。だんだん束縛されることが嫌になり「あなたの息子は知らない。こう言うことは迷惑だ」とののしると、女性は刃物をかざして追いかけてきた。電話ボックスに逃げ込んだ。電話をかける。とっさにまわした番号は不倫相手であったあの無言電話を繰り返した先だった。「たすけてー」と。しかし、相手は無言だった。「家庭」を見返してやるつもりが、「家庭」に復讐されていた。
 午前六時、短篇のすべてを話し終えたが、いつのまにか若者は一人減り二人減りして、もう誰もいなかった。
 自宅に戻ってスタンドをつけた。鯖鰊のスタンドだと思ったが、それは自分のだった。ガス漏れ実験を繰り返した自宅にガスが充満して爆発してしまった。
663 気の発見 7/21(水)
Date: 2004-07-19

おすすめ度 ★★★

 五木 寛之 著  平凡社  発行:2004年5月

 気功家望月勇氏との対談集
望月勇氏は25歳でロンドンにわたり、32歳で気の世界に目覚める。インドやアシュラに修行に行く。
手をかざすことでその部分が熱くなり、病んでいた部分が完治する。患者は電気か何かを当てられているような気分になるようだ。
東京からロンドンへぎっくり腰になったから気を送って欲しいと頼まれたりもする。
 いやしろ地というのがあり、人々が癒せる場所に神殿とか住居を構えた。
 「気」の探究ははじまったばかりである。
662 最悪なことリスト 7/21(水)
Date: 2004-07-18

おすすめ度 ★★★★★

 トリイ・ヘイデン 著  早川書房  発行:2004年5月

 ディヴィットは、最悪なことのリストをずっとつけていた。歯医者に行くことが22位だったが、1位は自分に帰っていく場所もないことであった。 
 ディヴィットのこんどの里親はおばあちゃんだった。屋根裏にすむことになった。学校は歩いていける近い距離だった。でも5年生だという。僕は本当は6年生だった。字が読めないからいわれる通りにした。
 そのうちマドラインという女の子と友達になった。それは、僕がフクロウの卵を持っていたからだった。マドラインは孵化する機械を持ってきて、小屋の中で卵を孵化してみようと言った。
 僕とマドラインは学校から帰ると小屋で、指輪物語をマドラインが読んで聞かせてくれた。
 フクロウの雛が孵化した。マドラインのお父さんが獣医に見せた方がいいというので見せに行った。自然界のものを人間がむやみに手を加えてはいけないと言われた。
 僕とマドラインはネズミを小さく切ってフウロウに食べさせた。大人の鳥ぐらい成長した。
 マドラインのお父さんが僕に農場の手伝いを頼んだ。僕は引き受けた。僕はだんだんスムーズに話しが出来るようになった。
 フクロウが死んだ。分かっていた事だが僕は泣いた。
 お姉ちゃんが訪ねてきた。僕のお母さんが居る所を知っているという。でも、僕はここから出たくなかった。僕は断った。僕はここに居ることが気に入っていた。

661 殺し屋シュウ 7/21(水)
Date: 2004-07-15

おすすめ度 ★★★★★

 野沢 尚 著  幻冬舎  発行:2003年5月

 親父は狂犬だった。神奈川県警の暴力団担当の刑事だった。いつも酒の臭いをさせ、気の荒いすぐ暴力を振るう親だった。
 母親が気に入らないとなぐった。僕はいつも親父の顔色を見て過ごしていた。
 父親と母親は刑事と女子高校生という頃から付合っていた。その後、青年実業家といわれる匠とも親しくなり、3人がいつも一緒だった。
 その父親を僕は17歳のときに、父親の拳銃の玉をしかけたプレゼントで射殺した。即死だった。それを母は自分がやったこととして服役した。8年の刑だった。僕は匠に監護されながら大学へ行った。
 父親には夏木という相棒がいた。その夏木が殺された。たぶん父親がやったかもしれない。その罪は問われなくてすんだ。
 僕は大学へ行きながら、ラスベガスの郊外で、マフィアの小金をかっぱらって逃亡をする男を殺すように頼まれた。砂嵐の中を男の潜むモーテルへいく。命乞いをする男を射殺した。
 18歳の歌手椎名ゆかを射殺する仕事が舞い込んだ。ゆかはもう使い物にならない。謝礼の2000万円はゆか本人が払うという。
 シュートミーという新曲のサビのぶぶんで撃ってほしいという。ステージの上で死なせたい。椎名ゆかを殺したいのはほかならぬゆか本人であった。3500人の観客の中でゆかを銃殺した。観客は目撃者を別の奴を犯人として話していた。これでは自分は捕まるはずがないだろう。
 僕は修という名前からシュウと呼ばれていた。
 美加という風俗嬢にひかれた。最初は客としてであったが、そのうち、美加の客にも嫉妬を覚えた。
 しかし、美加を捨てた。
 次の仕事の際に、標的のそばに美加がいた。生きる望みもなくしたぼろぼろの美加は死にたがっていた。シュウは美加を救う。こうなったのも俺のせいだ。
 8年の刑期を終えた母が出所した。俺は美加を母に紹介した。母は喜んでくれた。

660 幽霊人命救助隊 7/21(水)
Date: 2004-07-13

おすすめ度 ★★★★

 高野 和明 著  文芸春秋  発行:2004年4月

 裕一は、高い崖の上に引き上げられたような気がした。そこには中年男と女がいた。彼らは死んでいた。「ここは天国だ」という。
神様が現れて地上時間の七週間で100人の死のうとする人を助けて欲しいと地上に送り込まれる。
 裕一はなんとなく首をつった。安西美晴は飛び降り自殺、市川春男は服毒自殺。八木老人は短銃自殺だった。
 新宿のあたりについた4人は揃いのオレンジのユニフォームを着ていた。しかし人々の目には止まらなかった。
 特殊なゴールグルをはめると自殺したい人の心の動きが信号となって見えた。赤信号でもっとも危険な状態であった。
 自殺したい人の身体の中に入り込むこともできた。耳元で自殺へのブレーキをかける言葉をかけたり、別のものに気が向くように仕向けたりしながらつぎつぎと助けることができた。
 七週間の間にノルマ通りの人を助けることができた。
 自殺者を救助することで自分たちの早まった行動を悔いた。自分の両親の悲しみを目の前にしていた。両親は悩んでいた。最後に救ったのは裕一の父だった。
こんどこそ天国へもどれるのだ。
659 棟据刑事の東京蛮族 7/21(水)
Date: 2004-07-11

おすすめ度 ★★★★★

 森村 誠一 著  双葉社  発行:2003年4月

 後1年で会社を退職できる身分になった男は、出社してもしなくてもよいという条件の中、これまでの自分を振り返りむなしい思いで歩いていた。男の声をかけられ、彼のダンボールハウスへ止まる。男は会社の高い地位を退いて気楽にホームレスをしているという。まわりのホームレスとは違ってこざっぱりとしていた。
 二人は新宿を歩いていると、チンピラにからまれた女子高生を助ける。女子高生は今朝新幹線に乗って家出してきたばかりという。
 3人はダンボールハウスで過ごす。そのうち、女子高生の行方不明が身代金を要求する誘拐事件に報道されていた。
 あわてたホームレスと女子高校生は警察に出向く。しかし、身代金は電車の窓から河川敷に向けて投げ捨てられたばかりだった。
 お金に困っていた青年は、1億円を手にしたが、となりのホステスが行方不明になり、警察が出入りする。結局、押入れに1億円を入れたまま外で殺害されてしまう。
 青年の家から身代金が出て来た。そして、となりのホステスが玉の輿に乗ると喜んでいたことを知る。二人の間の関係する人物は・・・。
 女子高生は父に言われるままお見合いをした相手は、都議会議員であった。そして、ホステスの携帯にあった名前でもあった。

658 欅しぐれ
  Date: 2004-07-09 (Fri)
おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著  朝日新聞社  発行:2004年4月

 江戸の履物問屋桔梗屋の太兵衛は筆道稽古場で知り合った渡世人の猪之吉と知り合う。太兵衛は猪之吉を誘って料理屋で飲み会う仲になった。猪之吉は霊巌寺で賭場の仕事をしているが、太兵衛の人柄に惚れ、太兵衛も渡世人である男の持つ命がけの仕事ぶりに惚れる。
 賭場に桔梗屋振出の200両の為替がまわってきた。桔梗屋が危ない目にあっているのではないかと太兵衛に話す。猪之吉はその為替を自分の手元に置き両替はしなかった。そして桔梗屋をねらう黒幕を調べ始めた。
 大吉は父の残した70両の金を元出に油屋をはじめた。27歳の時である。江戸は火事にたびたび見まわれることから、房州(千葉県南部)に畑を借り、その土地に蔵を建て油を火から護った。43歳の時に手元に20万両の蓄えもできた。桔梗屋の店構えをみて、是非にも欲しくなり、周旋屋に頼んだが、桔梗屋は周旋屋を追い返した。断られた大吉は騙り屋をつかって、2千足の雪駄の注文を出す。前金を渡されたり、確認に出向いた店にも注文した番頭も現れたことから桔梗屋も信用して注文に応じる。
 しかし、2000足ができあがるまで自分の身体が持つまいと案じた太兵衛は、猪之吉に自分の死後の桔梗屋を頼んだ。猪之吉は2000足も騙り屋の仕業だと教える。騙り屋をあざむくために、納品に向けての仕事を進める。
 太兵衛が亡くなった。猪之吉は江戸で屈指の履物問屋にふさわしい葬儀を出す。弔問の返しに雪駄が配られた。弔事・慶事に使えるよう鼻緒を2本つけた。弔問客は持ち重りのする香典返しに驚いた。誰もが満足げであった。
 桔梗屋の乗っ取りの片棒を担ぐ治作も弔問に行った。香典返しをみて、自分が手下に手配した井草や皮をつかった材料で作られていた。治作は血が上った。桔梗屋の渡世人にいかった。
 それより早く、猪之吉は治作を訪ね、桔梗屋の乗っ取りは辞めるように油屋に伝えろと言い放つ。すべて手のうちは見えていた。

 

657 臨場
  Date: 2004-07-07(Wed)
おすすめ度 ★★★

 横山 秀夫 著  光文社  発行:2004年4月

 短篇8篇
「赤い名刺」 FAXから配信された被害者の名前相沢ゆかり27歳をみた一ノ瀬は怯えた。ゆかりと最近まで付合っていた。「イッチャンの名刺を手帳に張ってあるんだ。しつこいお客さんにみせるとサーッと引いちゃうんだ」と無邪気に言っていた。
 ゆかりは結婚するといった。ルビーの指輪を見せてくれた。30までには結婚したいと言っていた念願が叶ったようだった。
 終身検死官の倉田は「12、3時間ぶら下がっていたと検死した。自殺に見せかけた殺してであろうか。いやゆかりは自殺するはずがない。裸にされてあちこち調べられるのはいやだといっていた。
 一ノ瀬はゆかりの手帳をそっとポケットにしまった。そこへ若い谷田部が入ってきた。皆、ドアが引き戸だと思ってドンという音を発したが、すんなり音も立てないで入った。
 一ノ瀬はゆかりの手帳を見た。赤いハートマークで塗る潰されて判読できなくなった自分の名刺があった。一ノ瀬は決心した。倉田にすべてを話し、ゆかりを自他殺不明にはしたくなかった。
 倉田は若いのがミスをしてくれたおかげで犯人がわかったといった。谷田部であった。妻子がいるのに独身といって遊んでいた。
 鍵をかけ明かりを消した部屋で死の準備をするのは、足紋から真っ暗な部屋は、なれていてもすり足でなければ動けない。しかし、足跡はすべてしっかりと踏んでいた。他殺だと直感した倉田だった。
 

656 禁じられた楽園
  Date: 2004-07-04(Sun)
おすすめ度 ★★★

 恩田 陸 著  徳間書店  発行:2004年4月

 大学時代さとしは響一と同じ講義をとっていた。異邦人のような気がしていた。
 映画の最後に KYOUITI KARASUYAMA という文字を見つけた。あの響一である。腐乱の始まった男女が明いたトランクの中で空を見つめているという気味の悪いものだった。
 和繁は久しぶりに淳に会った。話している内に淳は、昔カラスの絵の中に入った記憶がある。すごく大きい絵だったという。その絵を探して欲しいと頼まれる。
 会社に夏海という女性が訪ねてきた。淳の婚約者だという。すでに2週間も彼の行方が分からなくなったという。
 和繁とさとしと夏海は淳のアパートの流しの下から、預金通帳を見つける。大田黒民俗歴史財団というところから定期的にお金が振り込まれていた。大田黒民俗財団は淳とどういう関係なのか。
 淳が響一の映画「カーテン」にでているのを夏海が知る。カーテンは熊野古道で撮影された。3人は熊野に出かける。そして不思議な大変をする。

655 硝子のハンマー
  Date: 2004-07-01(Thu)
おすすめ度 ★★★★★
 
 貴志 祐介 著  角川書店  発行:2004年4月

 通用口には警備員がいて、各階にもセンサーが働いている重厚な警備をしているビルの12階で社長が殺されると言う事件が起きた。ちょうど昼食を済ませいつもの昼寝の時間である。
 社長の部屋に行くには暗証番号の必要なシリンダー鍵も必要であるし、センサーもある。怪しい者が入った形跡はない。密室の殺人である。
 疑われたのは時期社長の座を継いだ副社長であったが、社長は余命1年とされる病気を抱えていた。それを知っていた副社長はあえて危険を犯す必要がない。1年待てば社長のイスは容易く手に入る。
 警察も調べるがなかなか犯人の割り出しまで漕ぎつけない。
 社長秘書の純子は、介護ロボットを操作して、社長の殺害手口をあばこうとするが介護ロボットにはアームを操作するためのスペースが必要なことから、ロボットを使ったという説の立証には失敗した。
 ガラス磨きの男は、高校時代のとじこもりの同級生の名前をかたって働いていた。彼の家は金融業者に差し押さえられていた。自分に返済義務はないものの、しつこく彼をマークする業者。そして、偶然見た社長室の中で宝石を数える社長の姿。計画を実行することを思いつく。窓拭きの彼は犯人のリストにはなかった。
 そして・・・彼が金融業者から逃れるために傷害事件を起こしていたことも分かった。
 密室の犯行はどのようにして行なわれたのか。

654 誰か
  Date: 2004-06-30(Wed)
おすすめ度 ★★★★

 宮部 みゆき 著  実業之日本社  発行:2003年11月

 杉村は義父の経営する会社に勤めていた。社長の妾の娘と結婚をした。勤務先は新橋駅前の22階本社ビルである。
 通りかかった自転車をよけそこなって頭を強打し、元社員の梶田がなくなった。梶田には二人の娘がいた。会社で広報の担当をしている杉村は梶田の娘のひとり梨子から父の伝記を出版しようと思うと相談される。父が倒れる原因になった自転車の犯人はまだ出てこない。その犯人にもつきつけたい。父は65年間一生懸命生きてきたことを。
 一方、姉の聡美は自伝を出すことに反対で、自分が4歳の時に、誰かに連れ去られ、トイレに閉じ込められて長い間出してもらえなかったと言う記憶があった。その家には女性がいた。何もかもお父さんのさせいだ。と女性は口にしていた。父は誰かに狙われたのかもしれないという。
 伝記を書くにあたって昔の写真を見ていた。相談にも乗っていた杉村は、以前に給料の前借に来る女子社員の父親と名乗る男がいて苦労していたことを思い出す。あの女性がやめたあと梶田も辞めた。
 調査をするうち、梶田がなくなった近くのマンションにすむ女性があの女性であったことを知る。酒を飲んで暴れる父を誤って殺してしまった女性は、梶田に相談する。梶田は夜中に父の死体を車で山中に埋めに行った。そして、女性も梶田夫婦も会社を辞め、それぞれ別々に暮らした。住所だけは教えあっていた。30年たって、梶田がその女性に会いにきた。そして死んだことが分かった。
 聡美の誘拐の記憶は父が山から戻ってくるまで預かった女性のことで、父とは女性の父のことであった。
 やがて、自転車の学生も見つかる。
 高校1年の梨子は、姉の交際相手の家に押しかけたり、ホテルに誘ったりした。聡美はそのことを相手から聞かされ、結局別れたが梨子には何も言わなかった。そして、今度も妹は結婚したい相手と寝てしまった。

653 三億を護れ!
  Date: 2004-06-28 (Sun)
おすすめ度 ★★★★★

 新堂 冬樹 著  徳間書店  発行:2004年4月

 教育本の訪問販売をする河内は、いつも成約ができなくて営業成績もビリである。仲間や上司に馬鹿にされながら歯を食いしばって頑張っている。妻や子がいる。中古マンションのローンも残っている。
 そんな男がなんと宝くじで前後賞もあわせて3億円を手にした。すぐ妻の知られるところとなるが、トイレの天井に隠しビクビクの日を送る。
 そこへ悪徳詐欺師達がねらいをつけた。差しあたって河内を清純な女性に気を向けさせ、お金を取ろうともくろんだ。少女役、父親役、弁護士役、悪徳金融業者役とシナリオをつくった。おまけに成城に赤レンガ造りの豪邸を借りた。
 会社へ悪態をついて辞めた河内。外へ出るとそこへかわいい女の子が物を落したと探していた。ついお節介で一緒に探してやる。それが縁でお茶を飲む仲に。そして父親に合わすと河内を豪邸に誘い込む。そこへ悪徳業者が取立てに来る。目の前で好意をもつ女の子とその父親が窮地に立っている。助けられるものならと代債を口にする。
 それを元の同僚に相談すると騙されている。金は渡してはダメだと言う。手付で不動産に支払ってしまったとうそを言い代金の引渡しを伸ばす。
 持てない男が、清純な女性にほれられた。一夜を共にもした。三億がなくなってもいいと思うようになる。
 ところが、三億は詐欺師達の元より別の方向へ流れる。詐欺師が騙されてしまう。
 河内は宝くじにあたったばかりに、いろいろと巻き込まれへとへとになる。古女房でもいい、やりなおそうと家に戻るが、三億が手元にないことを知ると追い出されてしまう。

652 キッドナップ
  Date: 2004-06-26 (Sat)
おすすめ度 ★★★★

 藤田 宜永 著  講談社  発行:2003年8月

 母とケンカをした僕は、家のあちこちに小分けしてある金をつかんで家を出た。歯科医の父のところに寄った。父は歯科助手の香織といた。香織は父とも僕とも寝る女であった。父の小言を後にとりあえずホテルを取った。
 同級生の沙代に連絡した。沙代に僕の計画を話した。
 生まれ三日後、僕は病院から何者かに連れ去られた。そして1ヶ月半後犯人は捕まった。25歳の女性で黒江愛子だった。子どもに恵まれない為に嫁いだ酒屋から離婚させられていた。そして高田馬場の自動車販売会社でお腹を大きく見せながら、妊婦を装って産休を取った。そのあと、僕を誘拐した。
 僕はときどき、今の母よりもその誘拐した犯人とずっと暮らしていたらどうだったのか知りたかった。毎日母の言動にうんざりしていた。
 当時の新聞を図書館でコピーしてもらった。黒江愛子は群馬県桐生市の出身だった。兄が南葛西に住んでいた。まず南葛西に行った。黒江は福井市に越したこと知る。福井県の電話帳から黒江の家に電話をし、愛子の今の住所を聞いた。真鶴に住んでいた。結婚して櫻井となっているそうだ。
 バイクで真鶴に向った。愛子は食堂をやっていた。客を装って愛子を観察した。地味な女であった。訪ねてきた幸子という女がいた飲み屋をやっているようである。最近、愛子の食堂でバイトの子が辞めたらしい。
 幸子の店に飲みに行き、バイトをしたいと愛子の食堂で雇ってもらえないか仲介を頼んだ。僕は偽名を使った。年もごまかした。
 愛子のご主人が入院して人手が足りないことから雇ってもらえた。愛子の家の2階を提供してもらった。
 夏でかき氷やビールが飛ぶように出る。愛子も徐々に僕に昔の話をしてくれた。ご主人の病院にも一緒に行った。
 愛子のところに金の無心に来る美佳という娘がいた。ご主人の連れ子だった。美佳は僕を誘ってきた。美佳と寝た。美佳は僕のデイバックから僕の本名を知る。口封じに20万円を渡す。
 愛子が嫌っていた須田というじいさんは、いつも食堂を覗いていた。ある日、愛子が意を決して「この子との変な噂を立てないで欲しい」といえば、須田は逆上し「この子とできているのか」「人様の子どもを誘拐した。赤ん坊を盗んで臭い飯を食った女だ」と僕に教えようとした。しかし、僕は「誘拐した子どもは今お前の前にいるよ」と殴りつけた。須田のジジイは口をパクパクさせていた。
 後日、須田が入院した。全治3週間だと知る。自首しようと思った。愛子も僕の言葉にショックを受けていた。
 その時、母がクモ膜下出血で急死したことを沙代が知らせてきた。東京に戻る事にした。
 
 

651 黄泉かえり
  Date: 2004-06-24(Thu)
おすすめ度 ★★★★

 梶尾 真治 著  新潮社  発行:2000年10月

 5月13日朝、市民センターにかかってきた電話は「主人が今朝、家に帰っている」という。脳卒中で5年前に死んだ主人である。それから、あちこちで死んだ人が黄泉(よみ)がえりしている。
 2年前に死んだギフト用品販売の社長。また、雅人の父も35歳で死んでいるが、35歳のまま帰ってきた。27年前になくなっていた。
 秀哉の兄も24年前に海で死んだ。小学生のまま戻ってきた。秀哉は4年前に夫をなくした玲子から「相談したいことがある」と電話をもらった。気になってかけつけると玲子の夫が戻っていた。
 市民課で47件、市民センターで12件も死亡届け取り消しの相談が相次いだ。新聞にも取上げられた。
 死亡届取り消し相次ぐ熊本市役所 
 一世を風靡した女性ボーカリストマーチンも黄泉かえった。マーチンはふたたびアルバムを発売する。ニューアルバムは270万枚のヒットであった。
 そして、3月25日に熊本地方に地震が来るという噂が広まる。地震はこなかったが、黄泉かえった人々は消えてしまった。

650 草笛の音次郎
  Date: 2004-06-22(Tue)
おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著  文芸春秋  発行:2003年10月

 浅草寺の北に組頭芳三郎の元に佐原の兄弟から香取神宮の祭りを見に来いと飛脚が届けてきた。芳三郎は70人の若い衆から名代を出すことにした。芳三郎は源吉から音次郎を推される。音次郎は27歳である。優男に見えるが、その実匕首で刺された後を自分で糸と針で縫いつけた。医者の道庵を驚かせるほどみごとな手当てであった。
 音次郎は親分の名代で佐原に向うことになった。仁義の切り方も教えてもらう。行きかえり200日の旅の算段である。日に600文もあれば大丈夫だが2500文として多めの100両の大金が渡された。源七が使いやすいように細かい金に替えてくれた。
 早速、行徳船で奉行に手形を見せろといわれもたつき、怪しまれる。団子汁屋では荷物を置いたまま厠へいき、戻ると荷物がなくなっていた。慌てた音次郎に、店の主が見つけてくれるが叱られる始末であった。
 「荷物を持ってついて来い」と真夜中に枕を蹴飛ばされて起こされた。泊り客10人がまとめられ、有り金を出させられた。幸い音次郎は手元に10両だけを残し、残りは裏山に埋めていた。盗賊は5人であった。奪ったお金は全部で三百両あまりであった。
 賊が去った後、やってきた宿場番所役人の岡野に、音次郎は賊の人相書きを書いて見せる。音次郎はとびになる前に瓦版屋にいたことが幸いした。人相書きはみごとに書け岡野をうならせた。そして、被害を受けた客に音次郎は一人2両づつ渡した。困った時はお互い様だと。
 蔵の鍵を竹でつくって助けたこともあったが、その鍵がもとで番所につかまる音次郎だが、岡野に助けられる。
人相書きから賊が捕まった。
 旅を続けるうちに音次郎を慕う子分も2人できた。
 利根川の先で急な差し紙が届けられた。「賊の捕縛に尽力したことで褒美が出る、ついては、3月10日に奉行所に出向く為に8日には江戸に帰るよう」とのことである。
 江戸を出てから2ヶ月の旅であった。
 

649 Rの家
  Date: 2004-06-20 (San)
おすすめ度 ★★★

 打海 文三 著  マガジンハウス社  発行:2001年1月

 17歳の誕生日を迎えたある日、僕はRの家で暮らしてみたいと父に言った。Rの家は崖の上に建つ。祖母を含む6人がこの家で暮らすことを夢見て建てられたが、完成間近な頃、母の自殺で家捨てられていた家である。
 僕が5歳の誕生日のまえに母はこの家の前の海に入っていくのを目撃されている。死体はあがらなかった。21歳で父と結婚して28歳で死んでしまった。
 いまRの家で暮らしていると想像してみて、義母は痴呆で徘徊を繰り返し、76歳の老人は足腰が弱り、寝たきりになっている。子どもは男の子。何の役にも立たない。その上、伯父夫婦も同居すると言う。28歳の母は40歳になっているだろう。介護が彼女の肩にかかり、24時間奴隷のような生活がいつまでつづくという先の見えぬまま繰り返される。そんな暮らしに絶望を観じたのではないかと美由紀さんは言う。
 死体のない母の順子のことを調べ始めた。父の兄弟や従姉たちからも。
 そして、母が生きていることを知る。
648 ミルキー
  Date: 2004-06-18(Fri)
おすすめ度 ★★★

 林 真理子 著  講談社  発行:2004年1月

「ミルキー」では、中堅の出版社に勤める裕一は陽子と寝たことが数回ある。その陽子が出産後、職場復帰をするという。陽子はまた仕事ができることがうれしいらしい。裕一は離婚して4年になる。
 ある日、飲み会の後に二人きりになり陽子を求めた。嫌がる陽子に無理に迫ると、乳首を吸った。その時甘くねっとりとした母乳が出てきた。男が全く別のものを求めているのに女の体は我が子以外の者に反応してしまった。女の体のことは知らなかった。
 「ドミノ倒し」  夫がかわいがっている部下が離婚した。夫は部下のうちはいい家だし、相手の女性のうちもちゃんとしたところのお嬢さんだという。そんな二人が離婚したら大変だと騒いでいる。いまどきどんな上流のお嬢さんだって離婚している。別に大変でもなんでもないという妻。
 離婚したらいかんと口癖に言う夫。そんな夫との間に何度も離婚しようと考えたことがあった。義姉がそばにいるのに母を引き取りたいと言ったとき、きっぱりと断った妻を夫の家族は冷たい女だという。
 妻の心の中で「離婚」という言葉が渦を巻いた。夫がこれほど離婚を憎悪し軽蔑している。その男に離婚届をたたきつけてやりたい。今なら亡くなった父の遺産と自分の給与とでやっていける。私は「離婚した女」ということでびくともしない。自分のこの20年この時の夫の顔を見るためにあったのではないかと思うぐらいだ。

647 あんたのバラード
  Date: 2004-06-16 (Wed)
おすすめ度 ★★★

 島村 洋子 著  光文社  発行:2004年2月

 「あんたのバラード」 ナツキと純は赤坂のキャバレーで知り合った。クラブホステスと客という関係であった。純はバンドでは食えなかった。
 明日から入院という純はガンで声帯を取るが体調次第でまた戻るという。看病はするなと言い、すぐにとは言わないが「出て行ってくれ」と。サツキも泣いた。純がよく歌っていた「あんたのバラード」、今日はサツキが歌ってあげる。サツキは大阪へ帰ろうかと考えながら。
 「悲しい色やね」  野球選手の引退試合を見に行く。夫婦揃っていった。妻は引退選手と結婚すると思われた時期があった。延長11回で名投手は最後の試合を勝った。千切れんばかりの手を振った。夫婦はいいやつだから、選手に声がかけられなかった。
 「星屑のステージ」  18年前、5歳だった子を置いて家を出た。今、息子は23歳になっている。華子は入院した。病室で偶然息子の出ているテレビを見た。息子は自分を探していた。別れたとき息子はチェッカーズの歌を歌ったのを思い出した。今更会える訳がない。これでこの子と縁が切れると思った。誰が知らせたか、テレビ局から会うように言ってきたが会わなかった。
 息子の嫁が尋ねてきた。繊細なところはないが家をがっちり守っていきそうな女だった。息子には会えないが他人なら・・・ときたのであろう。息子は幸せに暮らすだろうと安堵した。

646 グロテスク
  Date: 2004-06-13 (Sun)
おすすめ度 ★★★★★

 桐野 夏生 著  文芸春秋  発行:2003年6月

 私は今40歳。妹のユリコの残した盲目の17歳の息子百合雄と渋谷の街角に立っている。ネットで売春をする百合雄が出ているらしく、女子高校生やOLの客が引きも切らない。
 私にはずっと1つ下の妹ユキコとの確執があった。それは両親が国際結婚だったために、白い肌と人形のような顔立ちのユリコに対し、自分は母似の顔であった。いつも姉妹は比べられていた。
 高校に入るとき、私は日本に残り祖父と暮らした。両親とユリコは父の国フランスへ戻った。戻ると数ヶ月で母が自殺した。母が死んだことでユリコも日本に帰るという。猛烈に反対した結果、知人の家で預かることになって日本に戻ってきた。そしてQ高校に編入した。平穏な私の生活は一変した。ユリコと姉妹だということを隠しても目立つユリコの美貌は校内で噂にならないはずがない。再び比較が始まった。無視した。
 私のクラスメートに医大を目指すミツルと社長の父を尊敬する地味な和恵がいた。ミツルは最初からのQ高校のお嬢様組みで内部者でいつも成績はトップだった。和恵は高校からのQ高校生で私と同じ外部者だった。
 それが、ユリコは2ヶ月前に渋谷の円山町で娼婦をしていたらしい。平成11年6月にユリコが、平成12年4月に和恵が殺された。ふたりとも同じ場所に立って娼婦をしていた。和恵は高校時代に猛勉強をして大学へ進んだ。そしてまれになれる有名企業の総合職となっていた。夜は娼婦、昼はエリート社員であった。一方ユリコは高校のときから淫乱で売春行為がばれて高校を退学になった後に、その道を転がっていった。私とは疎遠であった。ユリコの死後、息子百合雄のことを知った。引き取り手のない百合雄を私は引き取った。百合雄は母が街灯で身を売ることを当然と考えていたらしく、淫乱の血が受け継がれていたのだろうか。
母と同じく街灯で身を売る仕事を選んでしまった。
 

645 アイ・アム・ア・ウーマン
  Date: 2004-06-10(Thu)
おすすめ度 ★★★★

 谷村 志穂 著  幻冬舎  発行:2004年3月

 マユミは作曲の仕事をしていたが、今はヒット曲がない。カフェで知り合った黒人の青年ジャセフと恋をした。
 ジョセフには日本人の妻と子どもがいた。マユミはジョセフとの性に溺れていった。考えるとジョセフの携帯は時々つながらない。始終打ち合わせだと夜昼なしに出かける。
ある日、予約したホテルに戻ると別の女がいた。ジョセフもいた。騙されたことに気がついて、別れようとするがなかなか別れられない。
 ジョセフは自分と妻のほかにいろいろと女性がいるようである。詐欺師まがいの男である。しかし離れられない。
 貯金も底をつき始めた。ジョセフの妻も彼の尻拭いで田畑を売ったようである。
 そして、マユミは別れた。ジョセフの妻は彼を探していた。マユミに会って「どうしたら、忘れられたか?」と聞く。笑う気にもなれなかった。ジョセフはニューヨークへ戻っていった。


644 水戸の偽証
  Date: 2004-06-05(Sat)
おすすめ度 ★★★

 津村 秀介 著  講談社  発行:2000年10月

 1月24日、午前11時過ぎ三島市のアパートの外廊下で血まみれの男が助けを求めていた。階下に住む家主の老夫婦が通報した。男は左胸を刺され死んだ。借りた時は依田進と名乗ってアパートを借りた。本人のコートから運転免許証がでてくる。三浦邦彦と分かった。その後の調べで三浦は高齢者を狙う詐欺容疑で警察が追っていた人物と分かる。
 介護つき高級ケアホームに入所できると高齢者から6000万円を騙し取っていた。騙された男は首吊り自殺をしていた。三浦と一緒に美子という女がいるようだ。
 事件のあった日、美子は水戸の高校の同窓会に参加していた。
しかし、刑事たちは美子のその日を検証する。途中下車してお墓参りをしたというが・・・。
 そしてアリバイは崩れた。ひかりが熱海に止まることがあった。三島着10時31分で殺された三浦のアパートに行き、殺した好きに押入れから大金を奪って逃げた。そしていったん東京に戻り、水戸へ行くことが出来る。途中下車して墓参をしたというのは誰も見ていない。派手すきな美子の犯行であった。
 
643 メルトダウン

  Date: 2004-06-03(Thu)

おすすめ度 ★★★★★

 高嶋 哲夫 著  講談社  発行:2003年4月

 ケンの手元に図面が送られてきた。それは核爆弾だった。しかも新型のものである。送ってきた相手は2年前まで国立研究所にいた人物である。
 ケンは彼の手紙を読んだ。あと余命1年と宣告されたドクターウイリアムズは「私たちの作り上げた核爆弾が幾十万という人の命を奪った。今、死の床に臥して核兵器の真の知識を国民に知らせることが最後の義務だと思う」と書いてあった。
 ケンは「ある科学者の告白」と題して西海岸の地方紙「デイリー・カルフォルニアン」に載せた。
 政府が動き始めた。FBIも動いていた。ケンは5回の連載をやめなかった。
 大統領補佐官のカーリー補佐官が死んだ。ベンチに座ったまま死んでいた。他殺、自殺説で捜査が始まった。
 カーリー補佐官のパソコンのファイルから「第4の核」の存在が。
 ドクターウイリアムズの住んでいた山荘が焼けた。彼は大丈夫なのだろうか。

642 少年A 矯正2500日 全記録

  Date: 2004-06-01(Tue)

おすすめ度 ★★★

 草薙 厚子 著  文芸春秋  発行:2004年4月

 少年Aは「酒鬼薔薇聖斗」のことである。Aは平成16年3月10日ついに仮出所した。七年間の間に彼は完治したのであろうか。
 入所当時のAは抜け殻のようであった。そして死ぬことをよく口にしていた。
 別人格が起こしたものかという観察も行なわれた。心理テストも行なわれた。「共感力に乏しく対人関係に不安。人間関係の維持が困難」であったが、「責任能力あり」とされた。
 関東医療少年院では擬似家族、つまり母の役、父の役をする教官が接した。教官との交換日記も行なわれた。3年経った頃、Aは両親の書いた「この子を産んで」を教官から与えられた。しかしAの母親への気持は覚めたものだった。この頃、犠牲者の家族の手記「淳」や「彩香へ 「生きる力」をありがとう」なども読んでいた。Aは2冊の本を何度も読んでいた。
 そして、ロールレタリング(母へ手紙を書く。今度はAが母の気持でAにあてて手紙を書く)を何度も繰り返した。
 事件について直接話し合うようにもなった。これほど迷惑をかけた家族の元には帰れないとおもうようになる。罪の意識も育っていった。最後の1年は東北少年院で職業訓練を受けた。
 淳くんの家族は引っ越していた。Aの住んだ家は売れないで、まだあそこにある。近所の人はもう思い出したくないという。

641 タイム

  Date: 2004-05-30(Sun)

おすすめ度 ★★★★

 深谷 忠記 著  角川書店  発行:2000年3月

 松尾は出版社の嘱託員で自叙伝などのゴーストライターをしていた。
 23年前に人に言えない犯罪を犯していた。その事件の2年後に大学を卒業する年、「傷」という題で小説を書いた。それが「文芸界」の受賞第1位に選ばれた。その年は大賞はなく秀作とされた。
 高校時代の同級生の桐原から自叙伝を頼まれる。桐原は大学の教授をしており近々衆議院議員に立候補する予定だ。その桐原が最近、少女を車に引き入れていたずらをしようとしたと報じられた。
誰かの陰謀である。
 桐原には過去に、自分が証言しなかったことで無実のものが犯人にされた事件があった。23年前のことである。
 20歳の頃、桐原は洋子がすきだった。しかし、洋子は俊と付合っていた。俊は幼女いたずら事件の犯人として捕まった。だが、その時間に洋子と会っていたことを桐原は知っていたが、潔白を証明する証言をしなかった。俊は獄中で自殺した。洋子も後を追うように川で入水自殺をした。
 しかし、洋子は自殺ではなく、松尾やその友人が乱暴をして川に流し自殺に見せかけて殺してしまった。
 松尾の会社の三津田が何か知っているようであった。
 桐原の本が出来上がった。「政道 我が半生の記」である。しかし、一部の原稿が替わっていた。それには、23年前にタイムカプセルに埋めた洋子の手記が載っていた。
俊の潔白を晴らすために桐原が取った行動について書かれていた。
桐原は松尾に問いただす。しかし、松尾の知らぬところであった。
松尾の友人の一人が死んだ。あの事件に関わった仲間である。
事件は思わぬ方向へ・・・・。

640 宇田川心中

  Date: 2004-05-28 (Fri)

おすすめ度 ★★★

 小林 恭二 著  中央公論新社  発行:2004年3月

 宇田川界隈は、昔は江戸と武蔵野の堺で村であった。異人が品川に来たと言う、徳川の終わりの時代。
 はつは道玄寺の僧昭円と付合っていた。はじめてはつが好きになった男である。
 600年前、神泉寺にあった宝は近くの道玄寺に渡った。千両を出すから道玄寺にある鉦を盗んできて欲しいと栄三郎は頼まれる。はつと恋仲である昭円もこの仕事をさせようとはつを捕らえてしまう。
 一方、昭円は寺に訪ねてきた豪商の奥方の南里葵の相手をさせられ、挙げ句にその痴情を他の僧に見られてしまう。
 寺を出た昭円は、はつと会うことができた。脅かされているはつは昭円と鉦を盗もうとする。
 その昔から鉦を盗もうとする亡者が近くでうろうろとさまよっていた。
 葵は道円という道玄寺の貫主の愛人であった。それを副貫主の昭円が寝取ったと言うが、実は昭円と葵は親子で、はつと昭円は兄妹であったという。みな、道円が仕組んだことだった。

639 さよならの代わりに

  Date: 2004-05-27(Thu)

おすすめ度 ★★★★

 貫井 徳郎 著  幻冬舎  発行:2004年3月

 劇団員の和希は、コンタクトを落した不思議な少女とあった。捜すがコンタクトは見つからなかった。
 これがきっかけで少女萩村祐里と付合うようになった。祐里は劇団のことをあれこれと訪ねた。楽屋にも来るようになった。
 劇団員の圭織が背中をナイフで刺されて殺された。主宰の新篠が親交が深かったために疑われる。悪いことにナイフから新篠の指紋が検出された。新篠は絶対に殺していないという。
 祐里は不思議な力を持っていて、競馬に誘った和希は言われたとおりに買った馬券が次々にあたり、80万円を一瞬に儲けることができた。この祐里が新篠の孫だと言う。つまり未来から来たのだと。そして新篠は犯人ではないという。
 やがて、真犯人が出てきた。指紋のトリックも明かされた。犯人は劇団員だった。祐里は和希の前から姿を消す。

638 検事霞夕子 風極の岬

  Date: 2004-05-26(Wed)

おすすめ度 ★★★

 夏樹 静子 著  新潮社  発行:2004年4月

 昨年4月、釧路地検帯広支部に赴任した霞夕子は、大学時代の同級生の立石勝子から電話があった。
 隣家の高校教師の男性が車庫の中からエンジン音が聞こえるがなかなか出てこない、と言うものだった。
 夕子のかけつけ近くの駐在所の巡査も手伝って開いた小窓から中に入り車庫にいく。電動式のシャッターはしまったままであった。
車の中ではすでに男性は死亡していた。30代後半のサッカー指導もしていたと言う。CO中毒である。自殺の原因は見当たらなかった。
 事故死として処理されたが、その後、公園に倒れて死んでいた男が凍死と見られたがCO中毒とわかった。戸外でCO中毒は考えにくい。死んだ男と一緒だったという真由子を調べる。
 真由子の息子はサッカー部であった。なくなった教師とも付合っていた。運悪く真由子の家のガレージで鍵がなくて入れなく、CO中毒死した。教師の名誉の為にも、この家で事故にあってはならない。真由子は教師の自宅のガレージに運んだ。そしてシャッターが下りる前に外へ出た。そこを公園で死んだ男に見つかった。
 男とは一緒に酒を飲み、泥酔させてから教師と同じように自宅でCO中毒死させ、公園に連れていったという。凍死と判断されると思っていた。
 

637 嗤(わら)う闇

  Date: 2004-05-23 (Sun)

おすすめ度 ★★★★

 乃南 アサ 著  新潮社   発行:2004年3月

 音道貴子は隅田川東署の刑事である。この春ごろからエレベーターホールでナイフを突きつけて自宅に押し入られ暴行を受けるという事件が発生した。
届出があっただけで4、5件になる。
 今回、通報したのは被害者ではなく彼女を診察した医師からであった。被害者は28歳宏恵、洋品店店員である。秋には結婚する予定だった。いちばん傍にいて欲しい相手に相談できない。
 そこへマンションの踊り場で襲い掛かった男が逃走したと連絡が入る。名前は羽場昂一。貴子は思わず立ち上がった。昂一は拘束される。貴子は昂一と同居していた。
 被害者にもう一度様子を聞く。昂一は偶然通りかかっただけだった。被害者は護身方法身に付けており、とっさに加害者の腕を噛んだという。昂一には噛んだ後もなかった。
 再び別の場所でマンションから逃げ出した男を追う。現場近くに東西新聞社の車があった。音道は不審に思う。
 男は、20年間大物政治家に張り付いていた政治部の副部長である。別れたた妻の家のあたりをうろついていた。大物政治家が失脚したあと、男もさまざまな中傷をされた。女の恐怖に怯える顔を見たくなって犯行に及んだ。

636 深追い

  Date: 2004-05-20(Thu)

おすすめ度 ★★★★

 横山 秀夫 著  実業之日本社  発行:2002年12月

 秋葉は死んだ会社員の所持していた写真の女性に見覚えがあった。小中学の同級生で、キスもしたことのある明子だった。そばにポケットベルもあった。「コンバンハ オサシミデス」と明子は死んだ夫にメッセージを送っていた。
 秋葉は刑事であるが、葬儀に参列した。
 以前に深追いと報じられた事件があった。信号無視のライトバンを白バイで追いかけライトバンは電柱に激突して28歳の男が死んだ。以来、秋葉は冷えきった。
 明子にあった秋葉は、度々訪れるようになった。署内でも噂になっていた。明子からメッセージがまたポケベルにあった。「コンバンハ オムライスデス」
 明子は不倫で妊娠した時、それを知りながら夫が全部引きうけて結婚してくれた。しかし、生まれた娘を抱こうとはしなかった。そればかりか娘に虐待の跡があった。明子は悩んだ。夫は心臓が弱いがポケベルを持たせ、運転中にそれがなることによって発作を起こすのではと考えた。
 明子はポケベルに「モウユルシテクダサイ」とメッセージを残し、部屋に火を放つ。明子にとっての秋葉は執ように追いかける刑事の一人に過ぎなかった。

635 記憶する心臓

  Date: 2004-05-18(Tue)

おすすめ度 ★★★

 クレア・シルヴィア / ウィリアム・ノヴァック 著 角川書店 発行:1998年6月

クレア・シルヴィアは心臓手術のあと、心臓は単なるポンプの役割を果たすだけではないのだ。自分の中に誰かが存在していると感じる。
 術後、ケンタッキーフランドチキンでチキンナゲットが食べたくなったり、嫌いだったピーマンも食べるようになった。
 不思議な夢もみた。ティム・L という男を知る。男は車に乗っている。カーブを曲損ねて道路上を飛んでいる。車は崖から落ちていった。
 自分の手術の日、交通事故でなくなった人を調べた。そしてメイン州に行く。ミスター・ラサールとミセス・ラサールの家族に会いに行く。3人の姉たちにも会う。家族は心臓がクレアに譲られたことを知っていた。提供した人に会うことを医師に強く止められていた。家族はクレアにあったことを喜んでくれた。
 心臓の移植は提供してくれた若者の記憶を夢の中で、自然な行動の中で反応する不思議な力を持っていた。

634 やさしい訴え

  Date: 2004-05-16(Sun)

おすすめ度 ★★★★

 小川 洋子 著  文芸春秋  発行:1996年12月

 別荘に着いた時は暗くなっていた。何年も住まなくなった別荘に瑠璃子がやってきた。グラスホッパーのおかみさんが掃除をしてくれていた。
 夫には何も言わずに来た。夫に女の陰を見た。付合っている感じがする。一人で書物に専念する為というとおかみさんは納得したようだ。
 近所のすむチェンバロをつくっている新田の家があった。最近、結婚前にご主人をなくした女性が一緒に住んでいた。
 別荘の暮らしが始まり、近所との付き合いも始まった。
 やがて、新田に好意を持つ瑠璃子は一緒に住んでいる薫の留守に関係を持ってしまう。しかし、新田と薫が楽器を演奏しながら過ごす光景を見たとき、自分の行為が薄っぺらくみえた。ふたりはもっと深い関わりを築いていた。
 訪ねていくと「やさしい訴え」という曲をひいてくれた。その曲はまだ離婚前の自宅で隣の子が引いていた曲だった。
 瑠璃子は離婚を決心する。別荘も引き払って都会のマンションで暮らす。
633 ブラックベリーやかた(黒苺館)
  Date: 2004-05-14(Sat)
おすすめ度 ★★★★★

 水木 ゆうか 著  講談社  発行:2004年1月

 俊子は娘のりさ子の嫁いだ家に出向いた。人を寄せつけない黒い切妻屋根の洋館である。八角形の出窓とステンドグラスのある家だった。りさ子は訪問看護師として2年前はこの家の先妻の介護をしていた。
 筋萎縮症で先妻の小夜子は亡くなった。亡くなる前に親戚の叔母達のすすめもあり、残された娘こずえもなついていたことから恒彦と再婚した。いつかは大きなお屋敷に住みたいと思っていたりさ子は夢が叶ったように思った。
 夫恒彦は、りさ子の妊娠にもあまり喜ばなかった。母を家に呼び胸のうちを打ち明けた。しかし、流産をしてしまった。ぶどうっこと呼ばれる子だった。
 この家の庭にブラックベリーがはびこっていた。亡くなった小夜子が気に入っていた。今では屋敷に届きそうに繁っていた。
 隣りに住む老婆はりさ子の母俊子と親しくなった。りさ子は日に日に頭がおかしくなってきた。
 ブラックベリーのせいでこの家がだめになると狂ったように挟みで切り始めた。そして、根っこから人間の白骨が出てきた。
 隣りの老婆の妹だという。つまり、恒彦の母で、まだ若い頃出ていったといわれていた人だった。
 俊子は、ブラックベリーの木を枯らそうと、除草剤を根元に埋め込んでいた。出てきた白骨も一緒に埋めた。
 りさ子はブラックベリーのなかでうごめく黒い影を、小夜子の姿と思い込み斧を振りかざす。急いで部屋に入ったりさ子。もう誰もこの家を監視させない。自分のものなのだと清々していた。
 りさ子には、自分が斧で母を・・・などとは知る由もなかった。
 

632 渚にて
  Date: 2004-05-12 (Wed)
おすすめ度 ★★★★★

 久世 光彦 著  集英社  発行:2003年9月

 無人島に漂着した5人。16歳の男4人、女はカスミ一人だった。ツアーに参加したが途中で船が難破してしまった。
 5人は早速、食糧の確保と洞窟を見つけ生活を始める。全員の衣服を差し出し、それを皆の共有のものとした。
 滝を見つけ身体を洗うことができた。島の周りには魚がいた。ツチブタも何頭か見た。
 しばらくして男女2人が漂着してきた。7人になった。
 2年が過ぎた。島の暮らしも慣れてきた頃、皆が共同で家を建てた。七つの部屋と十二畳の居間のある家。島には石油も出ていた。
 カスミと冬馬の間に子どもができた。もう1組、宗近と未知との間にも。3年後、カスミと冬馬と息子静馬の3人はまだ無人島にいた。皆はすでに島を脱出していたが、3人は島の暮らしを楽しんでいた。

631 星々の舟
  Date: 2004-05-11(Tue)
おすすめ度 ★★★★

 村山 由佳 著  文芸春秋  発行:2003年3月

 暁が2つにもならないときに生母は亡くなった。父は以前に通いできていた家政婦の志津子がまた水島家にくるようになった。以前は独身だった志津子も今はヨチヨチ歩きの女の子沙恵を連れていた。
 暁はすぐになついた。長兄の貢は大学で家を離れていた。暁は志津子が血のつながらない母とは知らずに大きくなった。
 沙恵は高校2年の時に浪人生に乱暴された。慰めていた暁はその日、沙恵への気持が兄妹ではなく愛し合うようになった。
 それに気づいた父は動揺する。連れ子の沙恵は父と志津子の間に生まれた子だった。それを当人同士は知らなかった。
 下の妹の美希は、自分だけが両親との間の子だとわかっていたが、他の兄弟に遠慮してか一家の中でピエロ役を演じて育った。
 大人になってからの美希は不倫をしていた。
 志津子が危篤となった。十数年も家に寄りつかなかった暁も気が進まぬまま郷里に向った。しかし、志津子の臨終には間に合わなかった。それよりも気持は沙恵に会いたいという思いだった。沙恵は別の男と結婚をするという。
 義母の葬式でまた家族が集まった。沙恵も暁との思いを断ち切れないでいた。沙恵の婚約者から、沙恵は自分ではなく別の人を思っていると結婚の断りがきた。
 禁じられた兄妹の恋と奔放にいきる妹。父は死んだ2人の妻の互いのやさしさをなつかしんでいた。2人は天国でもいがみ合うことはないであろうと。

630 天下城 上・下
  Date: 2004-05-09(Sun)
おすすめ度 ★★★★

 佐々木 譲 著  新潮社  発行:2004年3月

 安土桃山城が燃えているのを市郎太は見ながら、石積職人として絶対に攻められぬ城を築くと夢みたが、難攻不落の城を築けなかったことを思った。
 織田信長が本能寺で明智光秀に撃たれて13日も経っているというのに。なぜ城が燃えている。
 佐久の志賀城に育った市郎太は十三歳の時、武田勢に攻められ、城を追われた。市郎太は従兄弟の辰四郎とその妹千草と一緒に人買いに売られた。市郎太と辰四郎は黒川金山に穴掘りとして監視の中にいた。千曲川で初めての従軍の折に辰四郎と共に逃げ出す。
 戸石城に住み兵法者三浦雪幹について学ぶ。堺の町に入ったふたりは異人ザビエルに城造りや戦いについて学ぶ。
 新しい師を訪ねていくが、断られ金もないことから、石積職人作兵衛の所で城を築く石積みとして働き始める。
 やがて親方の娘苗と夫婦になり、市郎太も親方を務めるようになる。
 学問ができる市郎太は頑強な石垣を築き、穴太の衆はあちこちで普請の声がかかるようになる。戸波という苗字も与えられた。
 信長から天下一の天下城を建てるための石積みを任される。
 やがて武田勢も滅び、辰四郎にも再会した。辰四郎は佐久へ戻るが、もはや誰も知る者がなく故郷ではなかった。 堺で市郎太や千草とともに晩年を過ごす。

629 黒の七夕
  Date: 2004-04-30 (Fri)
おすすめ度 ★★★★★

 樋口 京輔 著  講談社  発行:2002年7月

 小柳は仙台市の地下鉄工事の為に赴任した。前任の久保田が自殺した為に後任となった。
 久保田を知る小柳はその死が自殺ではないと感じる。身重の妻を残し工事の遅れぐらいで、八木山橋の上から飛び降るはずがない。
 この工事は一筋縄では行かないと口にもしていた。
 やがて、小柳は、地元の建築会社に流れる資金と、現場工事の手抜きや事前の地質状態を危ぶむ検査結果を無視した強引なやり方を目の当たりに見る。
 シールド耕法で掘りすすめられる。トンネル内にたまった水の処理に追われる。異常に多い水量を大学時代の友人は地下水道に穴をあけた結果だという。
 仙台市内では地震の徴候が見られた。この工事は危ない。
 8年前、由美を同じ大学のクラブ員だった千葉にとられた。事故の為に車椅子の生活になった由美は千葉と離婚し実家に帰っている。未だに由美を思う小柳は再会するが、その思いを口に出せない。
 地下鉄の工事にその千葉が力を貸してくれる。小柳は責任者として流れ出る水と戦う。しかし・・・

628 動機
  Date: 2004-04-28 (Wed)
おすすめ度 ★★★★★

 横山 秀夫 著  文芸春秋  発行;2002年10月

 警察手帳が盗まれた。紛失事故防止をねらって導入した勤務時間以外、手帳は所属の部署に保管する規則だった。貝瀬が提案した。
 刑事の手帳は「24時間365日警察官」とする刑事たちにはおおいに反発を招いた。しかし、あえてこうすることに決めた。
 内部の犯行に間違いない。30人の中に犯人がいる。
 「絵の具をこぼしたことをごまかす為にバケツの水をまいた」という話しを耳にして、ひらめいた。
 1冊の手帳の紛失を隠すために他のものを全部盗んだということを。29冊だけでも戻ってくれるといい。
 手帳は警察の敷地内にあるはずだ。そして、みつけた!
軍曹を言われる退官まえのものとまだ警察人生を歩き始めたばかりのものの2冊分がなかった。
 大和田の退官と共に迷宮入りになるだろう。なぜなら、大和田は若い巡査の将来に期待していた。

627 パーフェクト・プラン
  Date: 2004-04-25(Sun)
おすすめ度 ★★★★★

 柳原 慧 著  宝島社  発行:2004年2月

 良江は4度目の代理母をやっている。もうすぐ4人目が産まれる。昔は美人でキャバクラで働いていた。
 最初の子どもをそっと見に行った。水をかけつづけられてもじっと堪えている子俊成。母親は虐待をしている風だった。
 良江はとっさにその子を連れてきてしまう。それを知った、幸司は、赤星とともに龍生の父のいるアパートに向う。
 龍生はパソコンを使って、俊成の父俊英にメールをする。「近所のものだが、お子さんが虐待を受けているようなので預かっている。ついでに美容整形とES細胞のジェノック社株が値を上げている」と。
男達は俊英の株を扱っていることを知っていた。そして、インターネットでの取引を思いつく。俊英はすでに50億の損失を出していた。情報を不審に思いながらも、事実ジェノック社の株は動き始めていた。お互いが情報をメールで交換しながら株価は上がっていった。そして、危ないという情報を知った男達は俊英にすぐに売るように連絡する。株価は暴落するがかろうじて俊英は50億は確保できた。誰かが男達と俊英の取引を知っていた。
 男達もまた、一人1億T千万円の儲けができた。
 ひどく怯えていた俊成は、良江の接し方で落ちついてきた。俊成の自閉的な成長を男達も心配した。俊成と一緒に暮らすことでうつ状態だった龍生の父も笑顔が戻った。俊成には4歳とは思えない精巧な絵を書く才能があった。
 そのころ俊成の母親はだんだん精神がおかしくなっていく。警察も一度は誘拐と騒いだ母親がそれを取り下げたが、その後子どもの姿が見えないことを不審に思った。
 男達は警察が動き始めたことを知り佐渡島へいく。そこは良江の生まれ故郷だった。
 自閉症のこと誘拐をしたとは思っていない大人達。父親も男達への被害意識はなかった。皆が俊成を囲んで生活を楽しんでいた。
 佐渡へも警察が追ってくる。良江はもう誰も住まなくなった故郷の家で俊成といた。男達がやってきたときに陣痛が始まる。警察もやってきてそれに協力する。

626 パラダイス・サーティー
  Date: 2004-04-23(Fri)
おすすめ度 ★★★★

 乃南 アサ 著  実業之日本社  発行:1992年11月

 父と母の関係がごたごたしている。弟は婚約者が家の改築費用を負担するので建て直すことを計画していた。ここに住むようだ。
栗子は自分の居場所がないことを知り、高校の同級生の菜摘のところに転がり込む。
 菜摘はオナベで、お節介であった。二人はなぜか気があった。
 やがて、栗子は菜摘の店によく来る古窪に恋をする。しかし古窪は薬局の婿養子になる。栗子はふられた。
 ダイヤモンドは傷がつくと値打ちが下がるが、栗子の値打ちは地に落ちない。でも受けた傷はなかったことにはできないが、傷さえも自分の魅力としていこうと思う。
 30歳をパラダイスにしてやろうと・・・。

625 100万回の言い訳
  Date: 2004-04-20 (Tue)
おすすめ度 ★★★★

 唯川 恵 著  新潮社  発行:2003年9月
 
 津久見はキャバクラで飲みながら「ブスだからこれくらいはさせろ」と他の客にからまれて胸を鷲づかみにされている志木子を見ていた。そして、「こういう仕事は向いていないのではないか」と別の居酒屋を紹介する。
 居酒屋に移った志木子は奥さんにもご主人にもかわいがられて生き生きとしていた。
 志木子は17歳で子を産み21歳である。結婚の経験はなく、子供と2人だけで暮らしてきた。そして、津久見に子供の父親である伊島を探して欲しいと頼む。
津久見には子供はなかったが、妻が働いていた。妻の結子は会社で年下の男と関係していた。
 津久見がやっと見つけた伊島の同級生の連絡先が妻と関係のある陸人であった。陸人は彼女を伊島に取られてから、女性が信じられなくなっていた。結子が既婚者であることを知りながら、その関係が偶然出来上がってしまった。裏切られることを恐れてもいた。
そんな陸人のようすを伊島は感づき、結子に電話をかけてくるようになった。結子と伊島が会っているところへ、陸人が津久見を連れてくる。
 志木子のことを話すと「知らない」という。陸人は伊島の言いなりになって暮らしていたことが爆発し、殴りかかる。
 志木子はお店のご主人が倒れた。そして、養女にほしいと言われたことに応え、自分がお店を再開するという。
 結子も津久見とやりなおそうと考える。

624 影に潜む
  Date: 2004-04-18(Sun)
おすすめ度 ★★★

 ロバート・B・パーカー 著 早川書房 発行:2004年3月

 海岸で男の死体が上がった。35歳の白人だった。胸に2つの穴があった。ここで撃たれた可能性がある。
 男と女はビデオを見ていた。人が殺されると知ったときの瞬間の表情に性的な興奮を覚えるらしい。何度もビデオを見ながらセックスを楽しんでいた。
 16歳の少女を3人でレイプした事件が起こる。同じ頃、無作為に殺人を繰りかえす事件が起こった。
 犯人は誰なのか。町はパニックになる。
 警察官のジェッシイは長年の勘で、ある夫婦が犯人だと確信する。そして、影が自分にも忍び寄っていると感じていた。

623 さくら伝説
  Date: 2004-04-16(Fri)
おすすめ度 ★★★★★
 
 なかにし 礼 著  新潮社  発行:2004年3月

 室生寺の石段の中ほどに樹齢九百年という山桜の巨木がある。奈良で最古の桜だ。桜は人間の屍体をくって生きているといわれる。この桜の下で江戸時代、助六と揚巻という遊女が心中をした。
 その桜の下で私は響子に出会った。女子大生の響子と大学助教授の帯刀である。二人は結婚した。
 そして、22年。帯刀は昔捨てた女の娘亜矢と不倫をしていた。娘には不思議な力があった。情事を重ねている間に、夢を見る。それは死んだはずの母や祖父が出てくる。
 父が戦死したと聞いた母は、こともあろうに祖父と関係を持ち帯刀を産んだ。復員した父はそんな関係に気づいていた。父は自分が子種のないことを母に告げると線路に飛び込み自殺した。
 祖父はそれ以前になくなっていた。
 夢の中で、祖父と母はお互いが愛し合っていたことを知る。父が復員してきたあとも、祖父は母に関係を迫り、ふたりは悪いことと知りながらどうしょうもなくなっていた。祖父は情事の最中に母の下で息が切れたのだった。
 今、自分は心臓病を患い、妻との関係を疎遠にしている。それなのに亜矢との情事はやめられない。死んでも言いと思っている。
 妻は亜矢との関係に気がつく。
 

622 殺人の門
  Date: 2004-04-14(Wed)
おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著  角川書店  2003年9月

 田島和幸の父は歯医者をやっていた。寝たきりの祖母はお手伝いのトミさんが面倒を見ていた。母は祖母と折り合いが悪かったせいもあって、あまり介護をしなかった。祖母がなくなった。「殺されたのでは・・」という噂が広まった。刑事もきた。その後は両親も離婚した。和幸は父と暮らすことにした。
 噂が立ってから、級友がよそよそしくなった。近所の店では買い物をしずらくなった。
 そんな折、父が病院に入院した。酔っ払って帰る途中に誰かに頭を殴られたらしい。父はキャバレーの女に貢いでいた。殴られたことで手がしびれる後遺症が残った。患者が祖母の死のあとのうわさで激減したが、更に来なくなった。
 借金の為に土地を売り、以前の贅沢はできなくなった。
 和幸も働き始めた。中学時代の倉持はしかとする級友の中で唯一話をしてくれる友でもあった。
 家具屋で働くようになった和幸のところへ倉持がやってきた。ネズミ講ならぬ儲け話を持ってきて一緒にやらないかと言う。いわゆる純金ファミリーと称して、老人から金を騙し取るやり方だった。騙すことに罪悪感を感じて程なく辞めた。
 倉持が結婚をした。その後、自分も倉持の紹介で知り合った女性と結婚する。が、金遣いの荒い家事をやらない女だった。もめた末に離婚した。
 警察がきた。やめたはずの純金ファミリーを扱う会社が破綻し、まだ社員として預り証のネームに自分の名が書かれていたという。
 倉持がやったことだと想像ができた。その倉持を殺してやりたいと思った。その倉持が若い男に刺されて入院した。もう植物状態になるだろうと言われた。
 中学の頃五目並べをしたガンさんが見舞にきた。「倉持は生まれた時から金持ちに生まれると子供の頃から贅沢ができる。地元でも有名な歯医者の息子に嫉妬していた」という。
 倉持の見舞にトミさんもやってきた。そして分かった。あのうわさはトミさんがばら撒いたのだと。

621 はぐれ猿一代記
  Date: 2004-04-13(Tue)
おすすめ度 ★★★★

 原 次郎 著  草の根出版  発行:2004年3月

 早稲田大学の大隈講堂の前で雀荘「ノース・ウエスト」とビリヤードを経営する店主の一代記。
 岐阜の中学を卒業後、第二早稲田高等学院にそして早稲田大学へ進んだ。学生の頃、仲間3人で東京から静岡まで塩を買いに行き、塩のブローカーで儲けた事を皮きりに「はぐれ猿」ならぬテキヤをはじめる。高円寺に越してからは米兵と友人になった。大学は卒業し、高円寺から早稲田に移って雀荘を開店した。
 昭和26年結婚をし、昭和31年から35年まではレンタカーの商売もした。昭和36年ごろ、地上3階建てのビルを作った。3階から富士山が見えた。早稲田第二学生会館に食堂を始めた。当時は女子社員も10人いた。コックは3人だった。その後、食堂は無人の機械化に変える。漏電で食堂「稲不二」が焼失する。
 昭和42年ごろは駐車場をつくり、51年には貸しマンションを次々と建て、結婚50周年の2002年に早稲田ゼミナール前に地下1階地上8階の自宅ビルを建てる。
 自叙伝「はぐれ猿 一代記」を執筆。校正が終わった後、刊行を待たずして永眠。78歳だった。
 やりたい放題の奔放な人生。何事にも凝り性で一生懸命。近年はカラオケでテレビに出演する。ゴルフはホールインワンを出すなどの腕前だった。まだ早すぎる死であった。
 ◆私は、このビルの屋上で3年間を過ごしました。隣りのビルの早稲田大学第二学生会館は、上京したばかりの私の職場でもありました。ご冥福をお祈りいたします。(合掌)

620 看守眼
  Date: 2004-04-12(Mon)
おすすめ度 ★★★★

 横山 秀夫 著  新潮社  発行:2004年1月

 今年定年退職する人の原稿が1人分足りない。県警の機関紙の原稿である。留置管理係の近藤のものがない。
 山の手の主婦エミ子が突然姿を消した。そして30歳の宝石商が逮捕された。二人は不倫関係にあった。スーパーの駐車場で五分ぐらいはなして別れたというが死体なき殺人事件と騒がれた。しかし、証拠が不充分で拘留期限が切れると釈放された。
 エミ子の夫は釈放された宝石商が車に乗り込もうとする時、包丁を振りかざして襲ってきた。が、逆にもみ合いになり夫の方が腹を刺されて重傷を負ったのち死亡した。
 正当防衛で宝石商は不起訴処分になった。
 こともあろうに看守であった近藤は、その宝石商を捜査していた。刑事になりたかったが、なれぬまま定年を迎える。しかし、看守としての勘でひとり穴蔵刑事と家族にからかわれながら、宝石商を追っていた。
 人を殺した後の人間はぎらぎらしている。しかし、あいつは最初はなんでもなかったが、次第にぎらぎらしてきた。間違いない。あいつは最初はまっさらだった。後から人を殺そうと思ったに違いない。29年の看守の勘がそう思わせる。
 自宅まで原稿を取りに行った悦子は、その捜査に1日加わる羽目になったが、原稿は後日もらうことができた。
 寝たきりの義父を看させられ、夫からの暴力に堪えていたエミ子はそれらから逃れたかったのだ。事件に見せかけて蒸発したのだ。
必ずエミ子と宝石商は会うはずだ。そこを張っていた。

619 逆風の街
  Date: 2004-04-10 (Sat)
おすすめ度 ★★★★

 今野 敏 著  徳間書店  発行:2003年12月

 横浜みなとみらい署暴力犯係の城島と諸橋は潜入捜査官が死んだ記事をみた。暴力団を許せなかった。
 印刷屋の寺川は毎夜、闇金融からのとりたてに夜も寝られない状態であった。夜といわずやってきては大声でわめく、ドアを蹴るで妻との間もぎくしゃくしていた。
 銀行の融資がされなくて、目の前の手形を落とすために借りた200万円が300円に膨れていた。やつらはガスバーナーの火を顔に押し当て今にも焼こうとした。娘を見ては身体で返してもらうとソープに行くことをほのめかした。
 寺川は弁護士に相談した。中に入った弁護士は、交通事故に会った。やつらがやったに違いない。
 警察も弁護士もダメだと思った寺川は自暴になっていた。
 城島と諸橋は暴力団の恐喝被害を訴える寺川の事件を知る。気力をなくした寺川を叱責しながら、警察がかわって守ることを伝える。
 相手の暴力団は見覚えがなかった。井田という男は何者なのだろうか。捜査をすすめるうちに、上司から捜査の中止を言い渡される。しかし、原因を言わない上司に、城島と諸橋は無視して捜査を続行する。
 やがて、井田が殺されてしまう。井田は潜入警察官であった。地元の暴力団とのトラブルであろうか。
 井田は那賀坂組の笹松という手の粗い組員にやられていた。
それを知った諸橋と城島は怒りに燃える。

618 青い月のバラード
  Date: 2004-04-09(Fri)
おすすめ度 ★★★

 加藤 登紀子 著  小学館  発行:2003年4月

 2002年7月、夫藤本敏夫が亡くなった。癌だった。出会ってから35年。結婚生活は30年を超える。
 全学連の委員長だった藤本は服役した栃木県の黒羽刑務所だった。面接に行った。知床旅情がヒットした翌年、私は妊娠していることがわかった。事務所の社長である石井好子さんを訪ねた。
「歌手としてよりも女として幸せにならなきゃ」と励まされ、産む決心をした。
 刑務所に面接に行ったが会えなかった。弁護士に託した手紙に「私はあなたと結婚して子供を産むことに決めました」と書いた。
 そして面会が許された。2年後出所した彼は、東京の空気の悪さを嘆いた。一家は鴨川の大田代に土地を求め、農業やにわとりを飼っての生活を始める。標高300mの山中にわずか21戸という村である。3人の子供にも恵まれた。
 87年には「百万本の薔薇」もヒットした。藤本は有機農法を手がけた。加藤は東京と鴨川を行ったり来りしながら歌手生活を続けた。鴨川には彼の理想の王国がある。彼の遺体は鴨川へ運んだ。 

617 狼たちの野望
  Date: 2004-04-08(Thu)
おすすめ度 ★★★★

 大下 英治 著  廣済堂出版  発行:2001年12月

 青山学院大学の藤田晋は、トップダウンの組織的な仕事をするよりも自分で事業を起こしたいと思っていた。インテリジェンスのセミナーに参加し、人材派遣会社入った。そこで社員全員が真摯に仕事に立ち向かう姿をみた。
 藤田はインターネットを使って学生との情報を得て、インターネットの産業がベンチャー企業として新規参入できると思った。
 ホームページを立ち上げ、バナー広告を扱い始めた。
 1年後藤田は退職し、自分の会社を設立した。日高と組んでサイバーエージェントを立ち上げた。「インターネット業界の営業を代行」する会社である。営業代行をしているのはまだ藤田の会社だけであった。新聞の1ページいっぱいの広告も出た。
 ホームページの広告も取り扱った。クリックの回数で広告料を払うというシステムを作った。
 1年後に7人の新規採用を行なった。翌年は20人が目標だった。
 やがてインターネットでショッピングモールであるネットプライスを立ち上げることになる。株式にも店頭公開した。
 あのフジテレビのとなりにいつかフジタテレビをつくってやると。

616 安政五年の大脱走
  Date: 2004-04-07(Wed)
おすすめ度 ★★★★

 五十嵐 貴久 著  幻冬舎  発行:2003年5月

 井伊直弼の幼少の頃は鉄之助と言っていた。鉄之助には15人の異母兄弟がいた。17歳の鉄之助と弟だけは大名からの婿養子の話もなく、下級武士の苦しい生活を強いられていた。
 その鉄之助が江戸で見た美しい女性に目を奪われた。しかし、彼女は津和野藩主亀井様の側室であった。叶わぬこととあきらめた。
 24年後、その時の娘にまた出会った。聞けばあの女性の娘だという。昔は下級武士、今の自分は彦根三十五万石の藩主である。
早速、側室にとの申し出を津和野藩の姫美雪は断ってきた。
 あらぬ罪を着せ、津和野藩士51人と姫を捕らえ、絖神岳の山頂に連れて行く。日に2度の食事を与え幽閉した。姫が直弼のもとに行けば藩士を助けるというものであった。山は崖で片方は海に片方は反り建った絶壁である。もう一方は彦根藩の武士がふさいでいた。
 津和野藩士達は、今度、殿がくるのは三ヶ月後。それまでにここから脱走するための穴を掘る。掘った土は小屋の床下に隠した。林に出られるまでには百間の距離があった。
 藩士は交代で脇差を使って掘り進んだ。素手でつめを立てて掘るものもいる。
 やがて、殿がくるという前の日に穴は貫通する。
 姫も着物の間に挟まれた紙と竹を使ってばるんを造り、湯屋に入っていると見せかけて、巨大な円形のばるんの下の竹籠に乗って山を脱出する。
 井伊直弼はその2年後、桜田門外の変で46歳でなくなる。

615 化生の海
  Date: 2004-04-06 (Tue)
おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  新潮社  発行:2003年11月

 「大学のことは心配するな」と言っていた父剛史が「松前にいく」と出かけた。その父が加賀の海で、三日後水死体で見つかる。自殺か他殺か断定できないまま迷宮入りになった。
 ニッカに勤めるようになった三井所園子は、北海道にきた浅見光彦に会う。園子の父の死を解決したいという。
 父は小さい頃捨てられ養護施設で育った。三井所というのが本名ではない。三井倉庫の近くの建物で見つかったことからつけられた名である。唯一父の持ち物に、金太郎のような博多人形が一緒にあった。人形の底に卯の字の刻印があった。
 浅見は、三井所のルーツ探しを始める。育った養護施設を見つけた。昭和40年、中学二年の時に書いた作文が見つかる。コンクールで優勝していた。自分が孤児であり、一緒にあった人形が宝物であると書かれてあった。
 その頃のニュースもみた。アメリカ帰りのスター女優深草千尋が載っていた。
 人形の作者を調べるとその人形は20体作られ、うち18件はどこに売られたか明記してあった。その中の宇戸という名に心当たりがあった。宇戸は深草千尋の本名である。スターだった母は子供がいてはいけなかった。アメリカで産んだものの、2歳の時に捨ててしまった。何年かのち、コンクールで優勝した作文を見て我が子だと知る。
 剛史は母親を訪ねていったのだろうか。結末は意外な展開に。
 
 

614 夜の電話のあなたの声は
  Date: 2004-04-04 (Sun)
おすすめ度 ★★★

 藤堂 志津子 著  文芸春秋  発行:2004年2月

 水香は夜9時すぎに電話をした。別れた男の隣りの部屋にいる男へである。隣りの男は別れた本条に後姿がよく似ていた。正面から見たことはないが、背の高い男である。
 本条が忘れられなかった。彼のアパートの周りをうろつく日が続いた。正月に見合いをしたあと、すぐに結婚をしてしまった本条。
水香は37歳になって、いろんな男と付合ったがなぜか本条が忘れられなかった。
 でたらめな電話であったが、隣りの男は迷惑そうなそぶりもなく電話に出た。次の日も電話した。度々電話するうちにお互いが会うことになった。
 おもったより落胆をした水香にくらべ、隣りの男春原は、きれいな人だと喜んだ。徐々に自分に傾いているのを知っていながら、彼の善良さを踏みにじれない。
 水香からホテルに誘った。関係を持った後に、自分が本条と付合っていた女であることを打ち明ける。そして、別れを告げる。
 本条から電話が有ったのはその後である。また付合おうと。しかし、あれほど求めていた本条がそばにいても気持がときめかない覚めた自分に気がつく。

613 藍色のベンチャー 上・下
  Date: 2004-04-03 (Sat)
おすすめ度 ★★★★

 幸田 真音 著  新潮社  発行:2003年10月

 幕末の頃、彦根藩に召し上げられた湖東焼きと呼ばれる窯の物語。井伊直弼が暗殺された後は絶えてしまったが、深い藍色の陶磁器であった。
 二代目絹屋半兵衛37歳の元に21歳の留津が嫁に来た。絹屋は着物を扱っていたが、これからは陶磁器も扱いたいと半兵衛は思った。窯を造って本格的にやりたい。資金もかかることから乗合商いという何人かで共同ではじめることにした。
彦根澤町の商人西村や彦根城下の油屋島屋の協力を得ることができた。晒山に土地を見つけ窯を造った。許可願いには奉行もひと肌脱いでくれた。
 有田から昇吉という職人も雇い入れ、京の町でみた、薄くて白い陶器を作ることに力を入れた。白い生地に藍色の模様を入れた陶器である。
 失敗を繰り返しながら、順調に焼き物ができあがっていった。
若い井伊直弼の目にもとまった。半兵衛は直弼との会話が楽しみでもあった。
 2つ目の窯は、絹屋の店の近くに造った。途中、飢饉にあえぐ町民たちを雇いつつ、窯は成長していった。が、皿の裏に湖東焼というサインをしないほうがよいといわれたために、久谷や有田に負けない陶器ができても知られることは少なかった。
 井伊直弼の暗殺を聞かされて、動揺を隠せない。藩の意向を無視して火入れができぬ。しかし、湖東焼は絶やしたくはなかった。
  

612 ″IT”(それ)と呼ばれた子 幼年期・少年期・完結編
  Date: 2004-03-28 (Sun)
おすすめ度 ★★★★★

 デイブ・ベルサー 著 ソニー・マガジンズ 発行:2003年6月

 3冊の文庫本である。幼年期・少年期・完結編に分かれている。
 やさしかった母がデイビットが4歳の頃から徐々に変わり始めた。突然母が階段から僕を突き落としたり、僕の腕の関節をぬいてしまった。その度に母は「2段ベットから落ちた」と医師にウソをついていた。8歳の頃はもう名前では呼んでもらえなくてIT(それ)と呼ばれていた。僕は奴隷みたいに雑用をさせられた。バツとして食事を1週間も食べさせてもらえなかった。空腹を満たす為にゴミ箱の残飯を食べた。寒いガレージで寝かされた。何日も着たきりの服を着せられていた。
 母は次々と僕をひどい目にあわせた。ガスレンジで僕の腕を焼いた。これはマッチでいたずらしたとうそをつかれた。弟が生まれたときはオムツの便を食べさせられた。皿洗いが遅かったとナイフで腹を刺された。父は母を止めたが、もう手におえなかった。
 やがて母と父は離婚した。母はますますいらだっていた。僕は何日も食事をさせてもらえない。小学校へ行った時に友達の弁当から少しずつ盗んで食べた。それも見つかってしまうと、とおりの向こうの店で食べ物を盗んだ。手におえない子と思われたが新しい担任が、僕がなぜそうするのか理解してくれようとした。毎朝、保健室に行くことになった。そこでは、僕は本当のことを言った。しばらくして僕は児童相談所に保護された。
 裁判が始まり、僕は母の元に帰りたくないと言った。僕は母から離れ里親の元で暮らすようになった。しかし里親という制度が十分に理解されてなく、周りからのいじめがあった。僕は好かれようと人の気を引く為に万引きをした。
 中学の時、弟と偶然学校で出くわした。弟の身体にアザがあった。僕が居なくなって、母のうさ晴らしが兄弟に向いていることを知った。
 父は消防署を退職し、どこにいるか分からなかった。僕が航空隊へ入隊した時、父の居所がわかった。父は癌を患っていた。最後は僕に会う事ができた。
 僕はいつも知りたかった。どうしてあんなことになったのか。母は僕が小さい頃はやさしかった。どうして変わってしまったのか。
 僕が結婚して、再び兄弟や母と会う事があった。僕が12歳で母から逃れられたが、兄や弟はずっと母のいらいらやわめく姿に付合わされていた。
 母は死ぬ時に僕に言った。「デイビットのことを誇りに思う」と。でも、僕はその時、許すことはできなかった。

611 約束の冬 上・下
  Date: 2004-03-24(Wed)
おすすめ度 ★★★★

 宮本 輝 著  文芸春秋  発行:2003年5月

 留美子は22歳の時、引っ越してまもなく「空を飛ぶ蜘蛛をみたことがありますか。十年後の誕生日に僕は26歳になります。12月5日の朝、地図に示したところでお待ちします。あなたに結婚を申し込むつもりです。須藤俊国」と書かれた青い封筒をもらった。地図の位置は岡山県総社市の田んぼの中だった。
 留美子の父がなくなりラブレターをもらったすぐあと引っ越した。しかし、買い手はつかないまま十年後再び父が建てた家に戻ってきた。あの時の少年は25歳のはず。留美子は32歳であった。
 取り壊される旧家の廃材のいいところだけを父が頼み込んで譲り受けた。年代ものの立派な材木をあちこちの家から頂いた。 目の前には大きなお屋敷、隣りには庭のある素敵な家のそばにあって単調すぎる古めかしい家ができた。
 偶然、隣りの家の青年が俊国という名であることを知る。俊国の父との交流もでき、ゴルフを教えてもらう仲となった。
 留美子は10年前の約束の場所に、絶対に行こうと決心した。一方、俊国の父は息子から手紙のことを聞いて知っていた。俊国なら絶対行くだろうと思った。

610 手紙
  Date: 2004-03-22(Mon)
おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著  毎日新聞社  発行:2003年3月

 弟の直貴は俺より頭がいい、何とかして大学へ進学させたい。しかし、今の自分は腰を痛め無職である。何とかしたい。金さえあれば・・・!
 以前引越しの際に知った金持ちで一人暮しの家に盗みに入った。家人に気付かれ騒がれた為、あわててのどにドライバーを当ててしまった。強盗殺人を犯してしまった。父も母もなく、兄弟二人で暮らしていた生活が一変した。
 卒業まで数ヶ月だった。弟は気丈に高校だけは卒業した。式には出なかった。
 レストランの仕事をした。電器店の販売もした。隠していた兄のことが分かると解雇や他の部署へ異動された。
 やがて結婚をし子供もできた直貴は、保育園にいく子供にも兄の影響を受けていることを知る。転園を遠まわしに言い渡される。
 刑務所から兄の手紙が定期的に月に1度送られてくる。それさえも腹ただしくなった。弟は兄に決別の手紙を書く。「家族を守るために、もう手紙を送らないでくれ。強盗殺人犯の弟と言うだけで職を追われた。あなたの弟を捨てるつもりです。私と関わろうとしないでもらいたい。」と。
 被害者の家を訪問した。兄が刑務所から毎月手紙を送っていた。それに対して被害者の家族は最初嫌悪に感じた。次にこれは兄の般若心経だと割りきった。そして、兄へ決別の手紙を書いた後の手紙では「私は手紙など書くべきではなかった。犯人の自己満足にしか見えない不快きわまりないものだったに違いない。申し訳ありません」と。直貴は涙が止まらなかった。「もう、これでいいと思う。直貴くんこれでおわりにしょう。」と言ってくれた。  


609 落雷 上・下
  Date: 2004-03-20 (Sat)
おすすめ度 ★★★★

 ダニエル・スティール 著  アカデミー出版 2004年2月

 弁護士の妻アレクサンドラと投資を仕事とする夫サムには子供が居なかった。結婚して13年、妻は38歳。夫は45歳であった。
やがてやっと出来た子供は女の子でアナベルと名付けた。2人にとってそれは幸せこの上ないことであった。
 42歳になったアレクサンドラは乳がんのため乳房を切除する。科学療法をすることになった。髪は抜け落ち、痛みに堪えた。夫はベットに寄りつかなくなった。
 夫と若い女性との関係を知ったアレクサンドラ。夫は取引先の紹介で29歳のダフネと親しくなった。彼には家庭よりもダフネのことでいっぱいだった。
 アレクサンドラの苦悩を同僚のブロックは励ましつづけた。やがてブロックもアレクサンドラもお互いを必要と思うようになった。
 サムは共同経営者にだまされ、横領の容疑をかけられる。ダフネもグルだった事を知る。地位も名誉もなくしたサムからダフネは離れていった。
 アレクサンドラはブロックとの新しい生活を望みながらも夫サムの憔悴しきった姿に心を痛めていた。
 判決の日、夫には・・・・。そして夫婦は・・・・。

608 忌中
  Date: 2004-03-19(Fri)
おすすめ度 ★★★

 車谷 長吉 著  文芸春秋  発行:2003年11月

 67歳になる菅井は、「死にたい」と言う妻二三子を殺して押入れの茶箱に入れた。
 二三子は20年近くリウマチを患っていた。3年前からは脳の血管が切れ右半身不随になって寝たきりであった。菅井が食事や下の世話、身の回りのことを介護した。介護の疲れた夫を見て「もう死にたい」と言うようになった。
 妻の髪を梳かし、口紅を塗って電気を消すと一気に妻の首をしめた。自分も死のうと鴨居に革バンドをつるして踏み台に上った。しかし、死ねなかった。 妻の遺体を茶箱に入れ押入れにしまった。 翌日から菅井はパチンコやヘルスセンターに通うようになった。山田明美というマッサージ嬢と親しくなり、ラブホテルにも行くようになった。菅井は金融会社5社から30万づつ借金した。それを使ってしまえば死が待っている。
 酒を飲んだ勢いで茶箱を開けた。目玉が下に落ち眼窩の穴が二つ笑っているように夫を見ていた。部屋には腐臭がしていた。
 玄関のガラス戸に「忌中」と書いて内側から鍵をかけ、再び踏み台に登った。
 新聞に菅井の死を知らせる記事が出た。それには多額の借金と2ヶ月半も妻の遺体を放置していたとあった。
607 夜回り先生

  Date: 2004-03-18 (Thu)

おすすめ度 ★★★★

 水谷 修 著  サンクチュアリ出版  発行:2004年2月

 横浜市の高校教員である。1990年夜間高校の教師となったことがきっかけで夜回りが始まる。昼間の教師が夜の教師に代わることは少なかった。何か問題を起こしたかと思われた。
 横浜は広域暴力団の事務所がたくさんあった。部活を終えて帰る子は10時半だった。深夜の繁華街に遊びに行くことは危険であった。そして夜回りが始まった。
 シンナーを乱用していたマサフミ。小学校5年のときに母が倒れる。母子家庭だった。生活保護の知識もない。夜中にコンビニに弁当をもらいに行った。給食の残りを食べた。いじめにあった。マサフミはシンナーにふけった。そしてダンプにはねられ死んだ。火葬したマサフミの骨はほとんどなかった。シンナーは骨までも残さなかった。
 父親に性的暴行を受けて育った生徒。父親との間にできた子を2度も中絶している。おまけに暴力も受けていた。児童相談所に保護する。しかし、また失踪してしまう。3年後、再び会う。客から性病を移されて保険証を友人に借りるためだった。そしてまた消えた。今は1児の子を持つ母親である。
 著者も山形の祖母と暮らしていた。母は横浜で教師をしていた。貧乏であった。だから暖かい手を差し伸べたいと。
 カンボジア人の少年の引ったくり事件。リストカットをする少女。引きこもりの子。覚せい剤中毒の女の子など。

606 悦びの流刑地

  Date: 2004-03-17(Wed)

おすすめ度 ★★★★

 岩井 志麻子 著  集英社  発行:2003年3月
 
 父と母を流行り病で亡くした後、姉さんは料亭の中居として僕の面倒を見てくれた。僕は盲目となり、昼間一人暗い部屋で留守番をした。時々、おしっこの匂いがする女の子がやってきた。外には得体の知れない男が立ちつづけていた。
 姉さんの料亭の離れは女流作家が借り切って小説を書いていた。その小説を時々、持ってきて読んでくれた。
 小説は次のようなものだった。
 料理屋の中居をしていた悦子は川島と旅館を居抜きで買い取った。そこへ滞在客の山本が悦子と親密になり、川島を殺してしまう。川島の死体は加工して見世物小屋に置いた。誰もそれが人間とは気がつかない不気味なものであった。
 悦子は日本に帰りカフェの女給から女郎に身を落した時、金満家の未亡人泰子に出会う。泰子の家で暮らすようになる。そこへ山本がひょっこり戻ってきた。泰子と泰子の娘美保子と暮らし始める。山本は泰子にも美保子にも興味を見せる。偽の姉弟を演じる悦子と山本。美保子は母と山本との関係にも気づく。
 そこへ大震災があり、山本は美保子をかばうが悦子は焼死する。やがて山本は泰子を殺し庭に埋める。
 「姉さん」と呼んでいた女は美保子だった。小説は自分と美保子のことだった。山本は思い出していた。

605 慟哭 小説・林郁夫裁判

  Date: 2004-03-15 (Mon)

おすすめ度 ★★★

 佐木 隆三 著  講談社  発行:2004年2月

 地下鉄サリン事件ので捕まった林郁夫は、実行犯と聞いて警察が驚いた。当時彼は48歳で、大抵の実行犯は逃げ足の速い若いものがなることが多かったからだ。
 林が入信したのは、坂本弁護士事件が発生し、翌年には総選挙に25人を立てた真理党が惨敗してからだ。「社会的にもそれなりの立場を築いた人が出家することで、世間の目がかわるのではないか」と1989年2月に入信、1990年5月に出家した。
 オウムがそんなことをするわけがないと信じていた。そしてオウムの中では麻原を権威あるものとして認めた。命令が出ると内容を考えないで服従した。
 1995年5月6日午後9時30分頃、丸の内警察の取調室で林は「サリンをまきました」と供述した。千代田線新御茶ノ水駅近くでサリン2袋を突き刺して発散させ、231人に吸引させサリン中毒症を負わせた。
 麻原の命により自分の医師としての知識と経験を悪用した。他の信教徒たちも教義の呪縛から解き放たれ、その誤りに早く気付いて欲しいと、麻原のまやかしに誰はばかることなくお話する決意です。
 林は麻原を呼び捨てていた。自分で事実を語らなければならない。オウムに残っている人に麻原の裏の面を知らせたいと思ったという。そして青山弁護士のあと、和田弁護士を選任した。1998年林郁夫は無期懲役が確定した。

604 残虐記

  Date: 2004-03-14 (Sun)

おすすめ度 ★★★★

 桐野 夏生 著  新潮社  発行:2004年2月

 妻が小説「残虐記」を書いて失踪した。出版社あてに送るようメモがあった。妻は35歳。7年前に21歳年上の自分と結婚した。
 妻は10歳小学4年生のとき、工員安倍川健治25歳に誘拐監禁された。1年余りを工場の上にあるアパートで安倍川と当時10歳の景子は「みっちゃん」と呼ばれながら暮らした。
 小説の残虐記はそれを書いたものだった。安倍川は昼休みに差し入れを持ってきて、景子に裸になるよう強要し眺めながら自慰をする。夜は小学生のように景子と猫のまねをして遊ぶだけだった。
夏はクーラーをつけ真っ暗な部屋でも、それなりに過ごす方法を覚えた。隣りにヤタベという男がいると言っていたが、助けてくれることを想像しながら過ごした。
 電気代が多すぎると社長から怒られたとケンジが言っていた。ケンジは漢字が少ししか書けない。小学3年生までしか行っていなかったという。
 ある日、ヤタベさんが辞めたので社長夫人が掃除にきて、電気のメーターが回っている健治の部屋を不審に思い、ドアを空けて女の子を発見した。
 ケンジは捕まった。景子は1年ぶりに団地の我が家に帰った。しかし、自分は好奇の目にさらされていた。
 中学に入る前に両親が離婚し引っ越した。景子は母親と埼玉県に近い市に住み、新興住宅地で急速に人口の増えた新しい中学に通った。景子はやっと人々の目から開放された。
 景子は16歳で「小海鳴海」というペンネームで小説を書いた。「泥のごとく」はヤタベとケンジの事を書いていた。偶然、新聞を見たケンジは「みっちゃん」と呼んだ景子が小説家になったことを知った。
 閉じ込められたあの期間に景子はケンジに恋をした。ケンジもまた景子は大事な友達だった。
 景子の元にきたケンジからの手紙。22年8ヶ月の刑を終えて出所を知らせるものだった。以来景子は帰ってこなかった。
 検事であった自分と結婚した景子。事件と結婚したようなものだった。人間の邪悪な所為に絶えられなかったのであろう。事件の真実はわからないまま妻は失踪した。

603 夜盗

  Date: 2004-03-12(Fri)

おすすめ度 ★★★★

 なかにし 礼 著  新潮社  発行:2003年12月

 人が寝ているところへ忍び込んで盗みを働くことを「ノビ」というらしい。ノビがアメリカ人の家であった。
 柏田源吉はあと1年で定年を迎える。最近の3年間に解決されていないノビの事件が3件ある。いずれも外人宅である。
 柏田は「マリアの家」にいくことを楽しみにしていた。マリアの家は2歳から18歳までの子供たちが18人いた。マリアがやっている養護施設である。
 柏田とマリアはともに別の養護施設で育った。柏田は高校を卒業と同時に警察学校へ進んだ。10年前に妻をなくした。子はなかった。マリアと再開し、彼女の行き方に感銘した。ときどき慰問に訪れることが喜びとなった。
 マリアにプロポーズした。マリアは結婚はできないという。手紙がきた。マリアが15歳で犯されたこと、目の見えない洋一という子との出会い、外人相手のバーでの売春行為など、過去を告白するものだった。
 そして、柏田はこのノビがマリアであることに気がつく。現場に残された、少年とも女性とも思われるスニーカーの足跡。
 マリアを子供たちに分からないように連行する。
 柏田の退官式のあと、1年半の判決を受けたマリアは釈放される。身元引き受け人が柏田であった。柏田の名がすでに書かれた婚姻届けをマリアに渡す。

602 しまなみ幻想

  Date: 2004-03-10(Wed)

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  光文社  発行:2002年11月

 「全国お宝捜査隊」は、東京から3人の鑑定人が来島して、大三島公民館ホールで収録された。
 しまなみ海道は本州の尾道市と四国の今治市をむすぶ橋である。
 300年続いた城下堂は、多いとき50人の従業員を抱えていたが、現在は家族8人でも賄える規模の落ち込んだ。妻の美和は金策に窮していた。銀行の利子さえも汲々するありさまだった。
 そんな折、美和が海中から死体で見つかる。当時は自殺と片付けられた。中学入学前だった娘の咲枝も15歳になっていた。
 美和を自殺の直前に見たという啓子が、運転を誤って谷に落ち死亡した。
 浅見は現場に行き、美和も啓子も殺されたと直感する。娘の咲枝も母の当時の様子を聞くと、長細いものを風呂敷に包んで家を出たことを知る。祖父の掛け軸に違いない。
 偶然知ったタカエという名を頼りに、プロダクションの田替と接触する。浅見がそのことを知り、咲枝の身の危険を察知する。
 美和はやはり「狩野探幽」の掛け軸をもって出ていた。しかし、買いたいと言う美術商にも売る意思がないと伝える。どうしても欲しくなった美術商は啓子と組んで美和を眠らせ海へ投げ込んだ。
 「魂が入っている」という言葉で有名な美術商の家で咲枝がみつかる。

601 三つの墓標 小説・坂本弁護士一家殺害事件

  Date: 2004-03-07 (Sun)

おすすめ度 ★★★

 佐木 隆三 著  小学館  発行:2002年4月

 1989年11月4日午前3時、横浜の坂本弁護士宅へ6人の男が押し入った。早川、新實、村井、岡崎、中川、端本の6人である。「子供だけは・・」という妻も絞殺した。布団にくるんで、3つの遺体を乗せ富士山総本部へ戻った。麻原と石井久子が迎える。ドラム缶にしたいを入れ再び山中に埋めるために出発。ブルーバード2台とビックボーンに分乗する。
 子供は長野に、弁護士は新潟県に、妻は富山県に埋めた。
 オウムのバッチを落したのは中川だった。
 1989年11月15日、神奈川県警は、捜査員140人を動員して捜査に乗り出す。
 1990年2月、東京4区から麻原が衆議院議員に立候補する。「真理党」を名乗り、東京、神奈川、埼玉、千葉からも25人のオウム教徒が立候補した。
 1990年2月、岡崎はオウム真理教を脱会した。1995年3月20日に地下鉄サリン事件が発生した。岡崎はオウムのしわざに違いないと直感した。5月18日「自首したい」と神奈川県警に連絡する岡崎。
 9月6日、5年10ヶ月ぶりに3人の遺体が発見される。岡崎の自供によるものが大きかった。岡崎は逮捕される。
 岡崎、中川、早川、新實などの供述がでてくる。生々しい当日の様子が痛ましい。

600 点と線

  Date: 2004-03-04(Thu)

おすすめ度 ★★★★★

 松本 清張 著  文芸春秋  発行:1971年4月

 赤坂の割烹料亭「小雪」の常連客の安田は、官庁への納入が増えこのところ、この店のいい客であった。
 安田に誘われて小雪のとみ子と八重子は銀座で食事をした後、東京駅まで安田を見送りに行った。その時に偶然、店の仲間のお時が若い男と親しそうに話しながら向かいの電車に乗るところを見かけた。
 数日後、お時は××省の役人佐山課長補佐と九州の香椎の海岸で心中をした。
 心中ということで調べも甘く事件は片付いたかに見えた。しかし、××省の佐山課長補佐は汚職事件の渦中にいた人物である。お時にも心中をする動機がない。
 わざわざ東京駅まで送らせた安田という男の供述を確証していった。しかし、間違いなく口述どおり電車に乗って出張していた。
 佐山のポケットからお一人様という列車食堂の受領書があった。心中をするのに、一人だったのだろうか。そして、お時の方を調べると旅館の支払いは別の人物がしていた。安田の妻である亮子である。
 やがて、心中事件は別の殺しへと判明していく。

599 回想・私の松本清張 霧の中の巨人

  Date: 2004-03-03(Wed)

おすすめ度 ★★★

 梓 林太郎 著  詳伝社  発行:2003年11月

 梓と清張は1980年までの間に20年ほど親交があった。梓は妻子を抱え借金に追われながらあちこち転々としていた。そうした苦労話を清張は耳を傾けて小説のヒントにしていた。
 親しかった西川が入院した時、離婚を二度した為に二人の元妻に残した預金通帳を渡す役を頼まれたこと。妻が二人駆けつけたが、お骨は別の女性が引き取っていったこと。広告のセールスをしたこと。友達の保証人になって夜逃げしたこと。夜逃げした先が両親の隣り町であったが、訪ねてきた両親から恥かしいから家には近づくなと言われたこと。調査会社に勤めたことなど。
 残念ながら清張とのエピソートは少ない。自伝に終始している。

598 砂の器

  Date: 2004-03-01(Mon)

おすすめ度 ★★★★★

 松本 清張 著  文芸春秋  発行:1971年9月

 国電蒲田駅操車場に男の死体があった。始発の電車を動かす為に点検にきた若い男によって発見された。死後3時間ないし4時間だった。前夜12時から1時ごろであろう。試飲は扼殺であった。
 聞き込みの結果、駅近くのトリスバーで二人ずれで飲んでいたことがわかった。相手は30代か40代の男であった。殺された男は東北弁を話し、若い男が「カメダは今も相変わらずでしょうね?」と言っていた。被害者は事件後なかなか身元がわからなかった。
 「岡山県江見町××通り 雑貨商 三木彰吉」という名刺を出しながら、父が伊勢参宮にでたきり、3ヶ月も戻っていない。蒲田の事件が自分の父親かどうか確かめたいというものだった。
 被害者は三木謙一 51歳であった。遺体はすでに焼かれていたが当時の現場写真で確認された。
 三木は昔、10年ぐらい出雲の亀嵩で巡査をしていた。 出雲は東北弁に煮たズーズー弁を話すことがわかった。
 犯人はこの土地に関係があると今西刑事は考えた。
 活躍中の作曲家の和賀英良は、現大臣の娘田所佐知子と婚約をしている。彼の戸籍は父和賀英蔵、母キミ子の長男で大阪市浪速区に本籍を置いていた。両親はすでに死亡していた。
 三木が巡査時代に放浪の親子連れを世話をしていた。父はらい病の末期症状をしており、すぐに療養所へ収容し、連れていた長男秀夫は三木が保育園に入れ保護していた。放浪癖が身についていたためか秀夫はまもなく亀嵩を脱出していた。
 偶然見た映画館で30歳になった秀夫の写真を見た三木は東京に出たのであろう。当時7歳ぐらいの子供であった秀夫。
 戸籍は16歳の時に、秀夫本人によって再編されていた。当時は戦争で焼かれた書類も多く、本人の申し出を受け入れられたのであろう。
 らい病を患った父。その時代は隔離された大変な病気であった。
597 17年の空白
  Date: 2004-02-29 (Sun)
おすすめ度 ★★★

 西村 京太郎 著  実業之日本社  発行:2002年7月

 十津川警部の元に女性が訪ねてきた。大学時代に同窓だった曽根まゆみだった。広田トーイの一人息子と結婚したと聞いた。17年間会っていなかった。
「広田を助けて欲しい。主人が警察に逮捕された」という。大阪のラブホテルで若い女性がつづけて二件、手錠をはめ全裸で殺される事件があった。その犯人として逮捕されたという。
 十津川は休暇を取り、友人として大阪府警に事実を確認する。おもちゃの手錠をはめられ首をしめられて殺されていた。
 無実を確証できないまま帰郷した。
 東京の鶯谷のラブホテルで同様な事件が起きる。手錠をはめられ全裸で絞殺されていた。
 広田は釈放された。
 十津川の元に「天六のラブホテルで事件が起こる」と連絡が入る。女性が騒いだ為に殺されないですんだ。女性の証言から広田に似た似顔がかかれた。
 十津川が広田家を訪れる。テーブルの上に自分あての封書を見つける。鶯谷の事件はまゆみがやったことと広田が犯人であることがかかれていた。
 まゆみは海に身を投げる。広田は逮捕された。
596 冤罪
  Date: 2004-02-27(Fri)
おすすめ度 ★★★★★

 渡辺 涼夢 著  たま出版  発行:2003年12月

 AV女優が便器をまたぐ格好で、入口に背を向け水槽に上半身を預ける格好で死んでいた。このAV女優は現役の筧正太郎警視総監の娘美怜であった。
 美怜は自分を助け一緒に1年間暮らした城戸口が、別れた娘の手術費用に困窮していた為に1度だけAVに出演した。
 美怜の死を知り、坂戸口は嘆く。やがて一人の男がトイレからあわてて出ていったという証言を元に逮捕された。黒姫という小柄な男である。黒姫は1年8ヶ月前まで強姦の罪で収監されていた。しかし、その罪は女性の芝居によって冤罪であったにも関わらず認められなかった。今回も彼の行動を検証すると殺すには時間が不自然であった。黒姫はまたしても別の女に落し入れられてウソの証言をされていた。
 城戸口は山口の敏腕弁護士により殺された女性に残った体液と黒姫のDNA鑑定を請求。黒姫が釈放される。週刊誌が黒姫の前の事件も冤罪の疑いがあるということと、殺された女性が警視総監の娘であるということをすっぱ抜く。
 警察をやめAV男優をしている男が逮捕される。
 
595 Pの迷宮
  Date: 2004-02-24(Tue)
おすすめ度 ★★★★★

 深谷 忠記 著  角川書店  発行:2003年9月

 弥生は結婚してからも原因不明の発作に襲われていた。精神科の受診をしたところパニック発作特性PTSDといわれる。
 テレビで活躍している隈本医師のカウンセリングを受ける。小さい頃に受けた傷を思い出すように言われる。1冊の本を読むよう指示される。それに影響されたのか弥生は一瞬「幼い頃、裸の養父がのしかかってくる」という場面を想像した。それは現実にあったことだとカウンセラーは断定した。
 弥生は母も養父も遠ざけ悩んでいた。そんなおり、母がホテルで隈本医師を包丁で刺殺してしまう。取調べの間も母は黙秘を続けた。判事の夫の不名誉なことは守らなければならない。弥生とその家族も守らなければならない。
 マスコミは不倫だ。愛人関係にあったとあることないこと書きたてた。
 裁判の日、養父は証言台に立ち「わが子に対して性的虐待は談じてしていない」という。この証言をかわきりに妻も黙秘を止め、事件の全貌を話す。隈本は養父と結婚する前の母と付き合いがあった。そして隈本は自分をふった女に復讐するために弥生の潜在記憶を作り上げてしまう。母は懲役二年ですんだ。
594 十三の冥府
  Date: 2004-02-21 (Sat)
おすすめ度 ★★★★★

 内田 康夫 著  実業之日本社  発行:2004年1月

 なにわより じゅうさんまいり じゅうさんり・・・と歌いながら蕪島神社ですれ違ったお遍路さんが殺された。新郷村のピラミッドの近くであった。
 浅見が青森のピラミットと「竹内文書」に興味を持ってやってきた。「竹内文書」には「戸来」をヘライつまりヘブライに通じキリストの終焉の地であるという。ピラミットは三角形をした山であった。事件のことを知った浅見はこの殺人事件に関わることになった。
 お遍路は伊藤由衣といい、20年前に赤ちゃん取り違えで由衣の子は別の人のところへもらわれていった。
 赤い服を着た女性ともめていたという。そして次は本間教授が論文発表の直前に死んだ。その死に疑問を持った谷内洋蔵も材木が落ちて死んだ。第一発見者の山下も死んだ。
 アラハバキの祟りで亡くなったという噂もたった。
 卒論で十三湊をやることにした容子は、お遍路さんの歌をどこかで聞いたことがあった。母に聞くと異常に反応し、口に出せない。
 浅見はこの事件に八荒神社が関わっていることをつきとめる。妖艶な巫女睦子は40代の女性であった。宮司の湊の愛人と言われていた。
 浅見が容子の母親に会って巫女睦子のアリバイが崩れる。容子の母と睦子はよく似ていた。
 やがて、睦子も湊も毒殺された。殺したのは睦子の母親だった。睦子は宮司の子であった。16歳の時に巫女に産ませた子で、当時それを知った宮司の妻は自殺した。
睦子の母は16歳だった。いっしょに働いていた同じ年の秀子とともに子供を置いて逃げた。やがて秀子は死に母は秀子の名でその後は生きてきた。睦子と湊の悪事は噂に聞こえていた。同じ時に子を産んだお遍路と偶然出会った。
 そして宮司と睦子の成敗を考えたという。
593 月の見える窓
  Date: 2004-02-16(Mon)
おすすめ度 ★★★★

 新野 剛志 著  双葉社  発行:2003年11月

 キャバクラで働く女性麻衣が子供を預けたまま戻ってこないと義理の弟健二から電話が入る。キャバクラのスカウトマンの昌彦はすぐ健二のもとへ向う。
 麻衣は昌彦がスカウトした女性であるが、しっかりしていた。2歳の子を預けっぱなしで行方をくらます子ではない。
 事件に巻き込まれたと確信した二人は麻衣の行方を探す。
 キャバクラで一番指名をしてくれた江端を訪ねると、江端の息子が誘拐されたことを知る。麻衣が失踪した時期に重なる。
 江端の息子は人工透析の帰りに襲われた。今度の透析の日までには見つけなければならない。江崎の住むマンションの向い側で老人に会う。老人に見覚えがあった。通り魔に妻を殺されたときにテレビでインタービューを受けていた夫の顔だった。周りの人が協力してくれたら妻は助かったかもしれない。
 老人を探っていくと誘拐事件に関わっていた。しかし、複数でやっているのでどこにいるかわからないという。見つける手だては、あちこちにばらまいたカードを3つ合わせると居所がわかるという。警察が動き始めた。しかし、誘拐された子を遺体となって車から発見される。
 麻衣の元夫が誘拐事件に関わっていた。麻衣は救出される。

592 密事
  Date: 2004-02-13(Fri)
おすすめ度 ★★★★

 藤田 宜永 著  中央公論社  発行:2004年1月

 藤倉弥生は45歳になる。20年ぶりに会った邦暢から「今は80歳になった園城寺佐和の自伝を出そうと思っている。彼女のゴーストライターとなってくれないか」という。ゴーストライターとは、影の著者、つまり口述などをもとに本人に成り代わって書くことである。
 弥生は、前夫との間に生まれた20の女の子と実母と3人で暮らしていた。弥生には9歳年下の哲雄と付き合いがあり、結婚を求められていた。
 鎌倉の佐和の自宅に行く。そこで甥の浄人にであう。前夫と似た雰囲気を持つ浄人であった。毎週金曜日に佐和の話を聞くために訪問をする。やがて浄人と関係を持つようになる。
 哲雄との関係を清算し、浄人と暮らそうと考えた矢先に、佐和が急死する。ゴーストライターでなくてもよい立場にはなった。
 佐和の遺品を整理していると隣地に住む政治家で総理候補ともなった黒木と佐和の関係を知る。
 浄人には妻があり、妻の母とも関係があった事を知る。浄人の妻は3人がこれからも暮らしていくと告げる。

591 炎と氷
  Date: 2004-02-10(Tue)
おすすめ度 ★★★★★ 

 新堂 冬樹 著  祥伝社  発行:2003年10月

 14年前、熊本の中学で一緒だった世羅と岩瀬は今では東京で闇金融をやる商売敵だった。
 炎を氷で沈めるか、氷を炎で燃やすかの戦いであった。
世羅は、渋谷の喫茶店を根城に競馬好きに最高1回5万円を貸し、木曜日までに七万五千円にして返すというもの。取りたてはきびしかった。七福ローンといって競馬ファンの間で結構な稼ぎになった。そこへ銀行男の赤星が200万円を借りたいと行ってきた。近いうちに退職し退職金3000万が入るという。世羅は特別に貸し付ける。
 しかし赤星は期日がきても払おうとしなかった。裏では若狭からも金を借りていた赤星は、踏み倒すことを教えられた。
若狭の存在を知った世羅は、赤星を拉致する。退職の日まで拘束するつもりだった。
それを知った若狭は、銀行の所有する土地を勝手に使用し、短期賃貸借権を主張し七千万円を巻き上げようとする。交渉にでた銀行側に赤星の退職金を凍結し、こちらに渡すように交換条件をつける。
 銀行側は競売の日が迫っていることから、要求に応じる。
支払日の当日、赤星は銀行通帳と印鑑を持って銀行へ行く。しかし、不正を理由に退職金は支払われなかった。はめられたと知る。
世羅は銀行にも乗り込む。世羅と若狭の攻防はますますエスカレートした。
そしてついに、矢島組の手によって世羅の炎は若狭の氷の前に日本刀にえぐられ燃え尽きた。
 しかし、若狭も世羅の狂った子分に刺身包丁で何度も刺される。

590 熱欲
  Date: 2004-02-07(Sat)
おすすめ度 ★★★★★

 堂場 瞬一 著  中央公論社  発行:2003年10月

 夫の暴力から逃れようとした女がかけ込んだのは、青山家庭相談センターだった。生活安全課の鳴沢了は通報で出向く。
 鳴沢は古い友人と何年ぶりかで会う約束をした。夜勤明けだったがアメリカから一時帰国した内藤の家へ出向く。そこで家庭相談センターの相談員をしている優美に会う。内藤の妹だった。
 K社が出資すれば売上の何パーセントかを配当するという儲け話をでっちあげ、悪徳商法をおこなっている。儲け口に乗った老人達が騙されたと警察にやってきた。返金はしないばかりか、もっと大口の融資を持ちかけた。ヤミ金融を紹介された。
 警察が内定をすすめるなか、顔を見せない太田という男がK社のリストをくれた。太田は大きな力がバックにいるという。
 鳴沢は事件を捜査する。殴られ危険な目に会う。夫の暴力から逃れたいと言った女の夫もK社に関係していた。
 中国人のマフィアがバックにいることを知った。それは親友内藤の父を殺した相手でもあった。
 度重なる内藤家の出入りで鳴沢は優美やその息子とも親しくなる。K社への捜査が始まった。事件は解決に向う。

589 山陰殺人事件
  Date: 2004-02-05(Thu)
おすすめ度 ★★★

 津村 秀介 著 ワンツーマガジン社 発行:2003年10月

 保土ヶ谷、磯子、戸塚署内で4人の若い女性が襲われた。いずれも一人暮しだった。うち2人は乱暴をされた上に全裸で殺された。
 岡山で全裸の男の死体が発見された。昨年夏、暴力団の内部抗争で八千万円を持ち逃げされる事件があった。水島灘の小さい島で6つの死体がでてきた。逃亡した組員のうち3人はまだ逃亡中だった。
 そのうちの一人矢部は山陰にもどり家族を道づれに放火心中をしていた。
 週刊広場の記者の浦上は「夜のレポート」で「連続婦女暴行事件」を追っていた。モンタージュ写真と犯人の遺留品から容疑者が浮かび上がった。しかし、容疑者にはアリバイがあった。
 モンタージュに似た男は山陰本線で自殺した。「婦女暴行事件の犯人は自分です」という遺書もあった。
 しかし、浦上はこの男が自殺ではないと直感した。自殺した男の実家で山陰のツアーの団体旅行写真を見た。殺された若い女性と自殺した男が同じ記念写真に写っていた。1年前に放火心中で死んだ矢部の指紋が出てきた。矢部は生きている。ツアーの仲間と死んだはずの男は一体誰か。

588 美しき日々 上・下
  Date: 2004-02-01(Sun)
おすすめ度 ★★★★★
 
 ユン・ソンヒ 著  NHK出版  発行:2003年10月

 NHKが昨年秋に放映した韓国のテレビドラマをノベライズしたものです。
 ビクトリーレコードと影音レコードがあった。ビクトリーレコードの社長は、影音レコードの社長を殴殺し、それを交通事故に見せかける。そして影音レコード社長婦人を自分の後妻に迎える。
 二人にはそれぞれに子供たちがいた。母が死んで間がないのにすぐにやってきた義母に長男のミンチョルと妹のミンジは快く思っていなかった。しかし、義弟は成績もよく15年後は医大に進学する。
 長男は父の後を継いでレコード会社の企画室長になる。妹ミンジは大学受験に失敗していた。
 養護施設で育ったセナとヨンス。ヨンスはビクトリーレコードのアルバイトをする。セナは歌手を志望していた。妹に手を焼くヨンスを見た室長のミンチョルは自分の妹にも手を焼いていたので、ヨンスに妹の家庭教師になるかわりにセナを歌手になるチャンスを与えるという。
 ヨンスはミンチョルの家で家庭教師として働く。セナは歌手になる。が、歌手になれた経緯を知ったセナはヨンスを避けようとする。
 ヨンスはミンチョルとその義弟のソンジェと二人から愛される。ヨンス自身はミンチョルに好意を寄せていた。
 影音レコードの新しい社長となった元歌手のミミは、ビクトリーレコード社長婦人に近づき、ビクトリーレコードが影音レコードの墓の上に成り立っていると告げる。
 父が義母の夫を殺したことを知った長男や義弟、妹は苦しむ。父も世間から非難を浴びる。25年も前のことであるが、信用は失墜してしまう。義母ははじめて知った事実に自殺してしまう。
 ビクトリーレコードは倒産する。ミンチョルもヨンスとの婚約を破棄する。自暴になっているミンチョルをヨンス忘れられないでいた。
 そこへヨンスが倒れる。骨髄を移植しないと生きられない大病だとわかる。ミンチョルはヨンスとの結婚を決意する。そしてレコード会社の再建にたちあがる。
 影音レコード社長のミミも復讐を終え、業界を去る。日本から骨髄の提供者が見つかる。

587 異聞 新撰組
  Date: 2004-01-30(Fri)
おすすめ度 ★★★

 童門 冬二 著  朝日新聞社  発行:2003年11月

 一人の商人の息子を通して新撰組を見た小説である。 
 河井伊三郎は播磨国高砂の塩問屋の息子であった。「武士になりたい」と壬生の誠忠浪士組に入隊する。幹部には芹沢鴨、近藤勇、土方歳三がいた。
 伊三郎は当初土方からは蔑まれていると感じていた。伊三郎自身も土方の話は半分正しく半分は間違っていると感じていた。
 やがて伊三郎は隊内で組の金を扱うようになる。組の金とは別に金庫を作って無理しで個人的に金を貸していた。
 近藤勇の働きで壬生誠忠浪士組は公認される立場になった。
 松陰門下の三秀といわれた、高杉、久坂、吉田稔磨は「もっと人間は平等であるべきである」と実行したかった。
 しかし、吉田は沖田総司に殺される。組はだんだん別の方向へ進んでいく。
 1865年、伊三郎は公金横領の罪で土方によって斬首された。孝明天皇は「長州藩を征伐せよ」と怒る。

586
  Date: 2004-01-29(Thu)
おすすめ度 ★★★★★
 
 横山 秀夫 著 徳間書店  発行:2002年10月

 「わたしのゆめは、ふけいさんになることです」ひらのみずほ
小学校1年生の時に書いた作文である。平野瑞穂は巡査になって6年、23歳である。
 今は広報室公聴係である。以前は機動鑑識班の一員だった。引ったくりがあり、瑞穂が犯人の似顔絵を書いた。つかまった犯人は似顔絵に似ていなかった。課長の命令で似顔絵を書きなおす。そして翌日の新聞は「お手柄婦警、似顔絵で犯人ご用」であった。自己嫌悪がすざまじかった。半年間休職した。
 そして今はテレホン相談の仕事である。似顔絵は書いていた。電話がなった。「昔家が火事になって、伯父さんが父と母を・・・。怖いのです」という。さっそく調べると14年前、火事で6歳の子が両親をなくしていた。義理の弟の犯行として弟は無期懲役であった。しかし服役まもなく首吊り自殺をしていた。
 少女は20歳になっていた。瑞穂と接するうちに自分が両親から摂関を受けていたことで両親が居なくなればいいと火をつけたという。伯父がそれを知って助けてくれた。「このことは誰にも言ってはいけない」ときつく口止めされた。6歳の子は罪にはならない。しかし、過去と決別する為に警察に出頭したいという。瑞穂が付き添う。

 銀行で訓練で2人組みの強盗が金を奪う。行員は蛍光ボールを犯人に投げるという段取りだった。訓練終了後、同時刻に同じ場所で現金3千万円を奪って犯人逃走中。「本日は訓練にあらず」であった。
 まさに強盗であった。犯人は床にガソリンを蒔いて逃走した。瑞穂は現場の状況を思い出していた。若すぎる母親、子供を抱っこしていた。裸足にサンダルの老人。下膨れの行員。誰かがつながっているはずだ。
 瑞穂は運転免許センターで75万人の中から20才前後の若い女性を見つけ出す、あの時の赤ちゃんを抱いていた人物を。早速会いに行くが、子供はアルバイトで見ていたという。無関係だった。
 次に老人に会う。ドアを叩く刑事の声。老人は話し始めた。「孫娘が銀行に勤めていた。一昨年訓練と知らないで窓口で強盗と対面した孫娘は怖さに失禁してしまった。訓練が終わり、それを同僚達は笑い者にした。孫娘は銀行を辞め、拒食症になった。肺炎がもとで亡くなった。銀行をうらんでいる」と。今回の訓練を耳にして、仕返しをしてやろうと思った。

585 クライマーズ・ハイ
  Date: 2004-01-27(Tue)
おすすめ度 ★★★★★

 横山 秀夫 著  文芸春秋  発行:2003年8月

 日航機墜落から収束に向うまでの地方新聞社の多忙を描いたもの。
 昭和60年8月12日大阪行の日航123便ジャンボジェット機が群馬県上野村山麓に墜落した。
 北関東新聞は今回も地元紙としての地の利を活かして圧倒できると思った。しかし、全国紙は総力をあげて記者を群馬県に送り込んできた。資力も人的余裕もない北関東新聞はじり貧だった。
 悠木はデスクとして編集のトップを何にするかで連日激を飛ばしていた。
 柩にすがり泣き崩れる家族の記事、その下に日航のお詫び広告を載せるのは許せなかった。また、市民体育館に花輪が二つ、内閣総理大臣と、元内閣総理大臣の名が入った二つは、なぜかマスコミが許される場所の正面にあった。苦い汁がこみ上げてきた。
 圧力隔壁が破壊されたことが事故原因と知ったが記事にしなかった。毎日新聞がしりもち事故と圧力隔壁の破壊が原因と報じた。
 悠木は臍を噛む思いであった。たまらなく情けなかった。
 悲しみ路線で行こうという中で、ある少女の投書を載せた。「人の命って大きい命と小さい命がある。私の父や従兄弟の死に泣いてくれなかった人のために私は泣きません。たとえそれが、世界最大の悲惨な事故でなくなられた方の為であっても」と書かれてあった。翌日283件の抗議電話があった。しかし遺族からは1件もなかった。投書の女の子は遺族の方に謝りたいと電話してきた。悠木は励ます。
 日航事故から3年後、投書の女の子は北関東新聞社に入社した。他社が恐れるほどの敏腕記者に成長した。
 悠木は病気と闘っている親友安西の息子と山に登る。「山は降りるために登る」といった安西。安西はくも膜下で倒れた。やっと笑うようなしぐさを見せるように回復している。

584 甘水岩
  Date: 2004-01-25(Sun)
おすすめ度 ★★★★

 多田 容子 著  PHP研究所  発行:2003年11月

 狭尾川を挟んで2つの里があった。片方は百姓村、もう一方は湯治場だった。川の上流に口をあけた大蛇の頭形の岩があった。
その岩から甘い水が湧いているという。水は不治の病に効くという噂が広まったことから、この領域を2つの村が争い、小競り合いを繰り返していた。
 伊真も13歳の時に、隣り村が雇い入れた曲者によって殺された。同じ日に伊真と兄は父を殺したものを見つけ仇を取ることが出来た。それが切っ掛けで隣り村から、人柱をささげれば村を攻めないと言って来た。大人になりきらない伊真は、人質となって拷問を受ける。
 20才になった頃、伊真は甘水岩の近くで巫女に会う。人をも恐れぬ巫女に背後から犯してしまう。しかし、暴れることなく巫女は情報を提供してくれた。
 伊真は巫女によって人に対しての接し方がやわらかくなった。
伊真と巫女は甘水岩の近くで戦いのない暮らしを選んだ。
 
583 影踏み

  Date: 2004-01-24(Sat)
おすすめ度 ★★★★

 横山 秀夫 著  祥伝社  発行:2003年11月

 真壁修一は2年間の刑期を終え出所した。「ノビカベ」とあだ名される盗人だった。
 修一は両親とも中学校の教師だった。双子の弟がいた。修一は現役で法学部に入学できた。弟啓二は浪人生活となった。浪人中に弟は空き巣を重ね、それを悲観した母親が弟を道ずれに放火心中した。その二人を助けようと父までもが焼死した。
 焼かれて死んだものを更に火葬場で焼こうとする係官に乱暴を働き、傷害事件になり大学を退学になった。以来定職に付いていない。15年になる。
 修一の耳にはいつも啓二の声が聞こえる。お互いに会話が出来る。
 2年前の新聞に目を通した修一は、盗みに入ったら家の妻が物音に目を覚ましという部分が事実と違うことを知る。
 真意を探ろうとその家に行くが、競売にかけられて妻は離婚して出ていっていた。
 そして、つかまった日にあまりに早い警察の動きと、吸殻の山だったテーブルにライターだけがなかったこと。化粧品のビンがどれも空っぽだったことに、妻は亭主もろとも放火を考えていたのではないか。そして警察の中にそれを知ったやつがいたはずだ。
 担当だった刑事がドブ川で水死体で見つかる。30センチの水深である。誰かにやられたと直感する。
 調べるうちに競売にかかわった執行官の裏を知る。架空名義の通帳を見つける。修一は執行官に会う。
 務所仲間に頼まれたサンタクロースの役をやる。父親が娘の目の前で交通事故にあって即死した。父親はデパートで娘の欲しがる人形を盗んで警備員に追われていた。飛び出した父親にバイクがはねた。父親は盗人の仲間だった。修一がそのうちに入るとあきらかに自分の子とは別扱いの虐待を受けて娘は寝ていた。枕元にピンクのお礼の手紙があった。修一はプレゼントを置いて立ち去る。と、そのとき警官らしきものに追われる。
 後日、警官と思われたのは警備員だったことがわかる。父親を追わなければあの子の父親は生きていられたのにと今も心を痛めていた。いつもはそっと渡せたプレゼントだが、今年はもうしのび込めないので変わりを頼んだ。気になって様子を見に行ったという。お礼を言うつもりが警官と間違われ逃げられたと。

582 哀愁的東京

  Date: 2004-01-20(Tue)
おすすめ度 ★★★

 重松 清 著  光文社  発行:2003年8月

 インタビューの相手から、学生時代に新宿で「アリスの部屋」という覗き部屋があったことを聞かされる。ついてはそこのアリスと会えないかと頼まれる。フリーライターの僕は20年前のアリスさんを探す。
 アリスさんは見つかった。快く承諾してくれた。40歳の男はアリスに会って、お互いに喋り始める。僕はアリスをスケッチしながら待機していた。「ありがとう」と言う言葉を泣きじゃくりながら何度も言うこえが携帯を通して僕の耳に届いた。
 僕は「パパといっしょ」という絵本作家だった。今は書いていない。フリーライターが仕事になってしまった。
 閉園を伝える遊園地は昭和40年代はじめに造られた。最盛期の10分の1の入場者しかないという。遊園地で18歳の少女の話を聞きながらそのこの裸体画を書いていた。
 休憩3800円というラブホテル。昔は総鏡張りで回転ベットだった。今はベットとソファーがあるのみのシンプルなものだった。
部屋の様子をスケッチしながら写し取っていく。 
 絵本を書いて欲しいと何度も言われながら書けなかった。書いた絵は、覗き部屋の女優、18歳の少女の裸体、モーテルの部屋、虹、トランプの絵札、駅で迷子になった男の子、黒焦げのワゴン車だった。それが僕の絵本だ。

581 強奪 箱根駅伝

  Date: 2004-01-18(Sun)
おすすめ度 ★★★★

 安東 能明 著  新潮社  発行:2003年10月

 12月30日、神奈川大学の合宿所にファックスが入った。「みずのはあずかった。はこねえきでんにさんかするな。じんだいこうすけ」と書かれていた。
 女子マネージャーの水野友里が誘拐された。都留康介は、駅伝で走ることに賭けていた。走れば水野の命が危ない。
 12月31日 電波を通じて水野の姿が映し出された。日本テレビは映像のテストを行なっている時だった。犯人からプロデューサーに要求が入る。都留を3号車の中継車にのせろという。そして2億円の現金とスポンサーの宝石10億円分だった。
 神奈川県警が動き出す。部員の一部とテレビ局の人間しかこのことを知らなかった。テレビモニターを通じて、人質の友里の姿が映し出される。縛られている。
 画面の右端に酸素濃度を知らせる数値が出ているという。要求を蹴った時には操作1つで人質が死に至るという。
 1月2日、神奈川大学は13位で往路を走り終えた。警察はパソコンの画像から、民家を割だし捜査に向かうが無人だった。机の上にパソコンとモニターがあった。遠隔操作をしている。
 声の感じから犯人をつき止めた警察は海辺に向う。以前に捕まえたことのある人間だった。
 1月3日 往路は9区のあたりで区間最高タイムで走りぬけた神奈川大学は、直前に水野友里の救出を知る。
 都留康介はラストの区域を走る。品川から大手町まで、ゴールに向って疾走する。康介がテープを切った。
 
 

580 第三の時効

  Date: 2004-01-17(Sat)
おすすめ度 ★★★★

 横山 秀夫 著  集英社  発行:2003年2月

 タケウチ電器店の武内がエアコンを取り付けたあとも、他の電気製品をいじくるなどしてなかなか帰らない。
ゆき絵の主人はタクシーの運転手で朝まで戻らない。
武内がのしかかってきた。ナイフを着きつけられて恐怖を感じたゆき絵は堪えていた。
 やがてドアの開く音とともに主人が戻った。「助けて」という声に主人は武内に向っていった。そして金属バットに手をかけたが、背中を刺されて死んだ。
 時効の成立する15年後、アパートに警察が張り込んだ。本当の時効は7日後である。武内は台湾に7日間渡航していた。時効を知ってやってくる武内を逮捕する為に。
 3年前に武内から電話があった。あずさは俺の娘だろうと。娘は武内にそっくりな耳朶であった。
 刑事の森はあと7日待つことになった。そして7日も終わった。武内が電話してきた。追われる武内。それをみてゆき絵は「私が夫を殺した」と自供する。
 しかし、第一の時効が成立する前に起訴の手続きがされていた。それが第三の時効だった。犯人は武内ではなく、ゆき絵だとにらんだ刑事がいた。娘ありさは父だけでなく、母までも失おうとしていた。刑事の森はそのありさを引き取ろうと考えていた。

579 真相

  Date: 2004-01-15(Thu)
おすすめ度 ★★★★★

 横山 秀夫 著  双葉社  発行:2003年6月

 「真相」では、息子を殺した犯人がつかまった。10年経っていた。殺された息子は当時15歳だった。
 つかまった犯人から、息子は当時万引きをした息子と友人は逃げた。息子だけは男に目撃され3000円と時計を取上げられた。そのとき息子が男に捨て台詞を言った。その言葉に男がかっとなってナイフで下腹部を刺した。
 父親はその事実に「人殺しのごたくを真に受けて死んだ息子を傷つけるのか」と怒る。
 逃げた友人というのが今、娘と結婚をする男だった。

「18番ホール」  村長選に出る男は、14年前に18歳の女性を車ではね、山中に埋めた。
 選挙は相手のほうが有利に見えた。選挙は罠だったのか。男は18番ホールの近くの女を埋めた場所に向かった。 途中、またしても男をはねてしまった。
 彼の携帯に当選を知らせる電話が・・・。

「他人の家」  強盗を働くような人には私のアパートに住ませるわけには行かない。突然、大家に言われた貝塚は罪を償って、隣りの県に移り住んで半年だった。
 なぜ、俺のことが・・・。インターネットで古い新聞記事が検索できることを知った。罪を償ってもそれは消えてくれない。
 それを聞いた佐藤老人は、「私のうちに住みなさい」と言ってくれた。佐藤は7年前に妻が男と駆け落ちし、子供たちは親を見捨てている。よかったら貝塚という名前から、佐藤姓を名乗らないかといわれる。養子縁組をしてくれた。
 そこへ強盗を働いた昔の仲間が訪ねてきて、平和が壊れそうになる。必死で男に向い撲殺してしまう。そして、死体が見つからなければと床下を掘る。床下から、頭蓋骨が見つかる。たぶん、男と逃げたという妻のものだろう。貝塚はそれを知ってこの家を守ろうと決心する。
 

578 半落ち

  Date: 2004-01-13(Tue)
おすすめ度 ★★★★★

 横山 秀夫 著  講談社  発行:2002年9月

 連続婦女暴行魔の逮捕に向かっていた志木警視は、妻を殺したと自首してきた本部教養課の梶警部の取調べをするよう命じられ、急きょ戻った。
 12月4日に7年前に死んだ息子の命日に妻を扼殺した。「妻はアルツハイマーであった。墓参りに行ったことも忘れ、半狂乱になり息子の命日まで忘れている。もう人間じゃない。死にたい。息子を覚えている間に死にたいと何度も殺してと頼むので不憫に思ってこの手で絞め殺した」
「自首までの2日間、あなたはどこで何をしていたのか」と問うと梶は口を閉ざしたままだった。誰かをかばっている。
死体を放置して2日間の間に東京の歌舞伎町に行ったことがわかったが、それを報道すると警察官の人間性が疑われる。あくまでも死に場所を求めてさまよったことにしたい。
 佐瀬検事はその調書を読み、捏造の疑いを持つ。W県警が組織ぐるみで闇に葬ろうとしている。佐瀬は県警に出向き怒りをぶつけるが、それを東洋新聞記者の中尾が聞いていた。
 岩村刑事部長から「報道は自由だが、君らのペンがいくつもの命を握っていることを忘れるな」と言われる。
 志木は梶が50歳になったら死のうとしていることを感じる。死なせたくはない。
 梶はドナー登録をしていた。51歳の誕生日に登録が取り消される。どうせ、死ぬならもう一人助けたいと思った。
新聞に載った「歌舞伎町の一番小さなラーメン屋」で働く青年の骨髄移植に感謝する投書に、自分の息子は救えなかったが、自分の骨髄で救えたその青年に会いにいっていた。
移植のルールで名乗り合うことはしなかったが、身元は明かすつもりはなかった。人殺しの骨髄をもらったということが青年に知れない為に、彼は歌舞伎町へ行ったことも口にしなかった。
志木は歌舞伎町の青年を捜し、そっと梶に会わせる。青年は気がついていた。会った時からドナー提供者であると直感していた。
「僕にはお父さんが二人います。骨髄をくれた人もお父さんだ」という。
 梶は4年の懲役になった。

577 晩鐘 上・下

  Date: 2004-01-05(Mon)
おすすめ度 ★★★★★

 乃南 アサ 著  双葉社  発行:2003年5月

 母は高校教師だった男に殺された。殺された側の家族も、犯人の家族もそれぞれが崩壊の危機にさらされていた。
7年後、教師の妻だった女性は、中学生の兄の子のが長崎で自殺する。事件記者はお葬式の日に教師の妻に偶然であう。
 妻は幼かった子供を長崎の祖父母に預け、二人の子供たちは父も母も知らずに生活していた。母のことは東京の叔母であり、父のことは誰も教えてくれなかった。小学六年になった長男はやがて、東京の叔母に引き取られるが、叔母が母であることを知る。
 食事を作るでもなく男に依存して生きる母を長男は許せない。そして父のことも知りたいと思うようになる。
 一方、母を殺された家族は、父は後妻をもらいもうすぐ子が生まれるという。7年前高校生だった姉妹は突然の母の死に戸惑い、やがて成人して家を出ていた。家族はこころに重い傷を負っていた。
父の再婚を許せない真紀子。それを聞いてくれる記者。真紀子は徐々に明るさを取り戻してくる。記者は「連鎖」というタイトルで事件の後の家族の気持を仮名で特集する。
 高校教師は8年後仮出所していた。
 加害者の家族達の心の叫びを知るような思いである。
 

576 ルーム

  Date: 2004-01-01(Thu)
おすすめ度 ★★★★★

 新津 きよみ 著  実業之日本社  発行:2002年9月

 姉と7年も会っていなかった。突然姉の病気を知らせる電話が病院からあった。クモ膜下出血で意識がすでにない。
 姉はそのまま死んだ。7年前に姉は妹のお見合いを壊して出て行ってしまった。父はその直後に亡くなり、姉に連絡してももどらなかった。そして、母の時は知らせる事もしなかった。その姉が死んだ。
 姉の携帯していた運転免許書の住所のマンションに入ると猫がいた。猫を飼っていたのだろうか。ふと見ると得体の知れない骨があった。そうだ、あれは人間の骨だ。
 妹の友美は姉が生前何をしていたのか気になった。荷物の整理をしているとき、預金通帳から毎月振り込まれるお金があった。
 電話が鳴った。姉に成りすませて電話の相手と会う約束をする。姉のことが知りたかった。そしてホテルで男性に姉が死んだ事を知らせる。
姉はときどきこの男性と会っていたようであるが詳しい事が解らない。
 猫は逃がしてしまったが、後日「猫を預けた」と言う女が尋ねてくる。猫はいなかったとしらを切るが、しつこく返却を要求していた。ところがこの女が後日何者かに殺される。
 姉の処にある人骨が突然消える。だれか合いかぎを持つほど親しい人がいたのだろうか。
 人骨の事も猫の事も自分だけの胸にしまった。しかし、人骨の持ち主が警察に名乗り出た。人骨は母が産んだ子の骨で、それを娘が母の荷物を整理して見つけた。骨の置き場に困った所、姉が預かり料を払えば預かると言う。そして持ち主は月々の預かり料を払っていた。ある日、マンションの前で姉が死んだことを知ると骨のことが気になり、取り戻しに言ったという。その時に猫の持ち主に出会い、猫の事をしつこく問い詰められ、誤って庭石に頭を強打して死んだ。
 友美は人骨がありながら警察に届けもせず、猫は勝手に逃がしていなかったことにした。姉が「一番したたかなのは友美だ」と言う言葉を思い出していた。