読んだ本の紹介です。紹介欄は読んだ後の感想や紹介したい部分を書いたものです。
過去ログ (その5)170冊
平成16年1月〜平成16年12月
No | 読んだ日 | 書 名 | 著 者 | おすすめ度 |
745 | 2004-12-24 | サイバー・ミッション | 小笠原 慧 | ★★★★★ |
744 | 2004-12-22 | 信州高遠殺人事件 | 大谷 羊太郎 | ★★★★★ |
743 | 2004-12-20 | 約束の地 | 志水 辰夫 | ★★★★★ |
742 | 2004-12-20 | 蒼煌 | 黒川 博行 | ★★★★★ |
741 | 2004-12-17 | 出口のない楽園 | 岩井 志麻子 | ★★★ |
740 | 2004-12-15 | パンドラ・アイランド | 大沢 在昌 | ★★★★ |
739 | 2004-12-8 | ラストドリーム | 志水 辰夫 | ★★★★ |
738 | 2004-12-6 | 百年佳約 | 村田 喜代子 | ★★★★ |
737 | 2004-12-4 | そのときは彼によろしく | 市川 拓司 | ★★★★★ |
736 | 2004-12-2 | 蛍坂 | 北森 鴻 | ★★★ |
735 | 2004-11-30 | 俯いていたつもりはない | 永井 するみ | ★★★★ |
734 | 2004-11-26 | 真夜中の神話 | 真保 裕一 | ★★★★ |
733 | 2004-11-24 | 芥火 | 乙川 優三郎 | ★★★ |
732 | 2004-11-23 | 朽ちた花びら | 白川 進 | ★★★★ |
731 | 2004-11-21 | 事件の年輪 | 佐野 洋 | ★★★ |
730 | 2004-11-19 | 駅までの道をおしえて | 伊集院 静 | ★★★ |
729 | 2004-11-19 | ちゃれんじ? | 東野 圭吾 | ★★★ |
728 | 2004-11-18 | 相克の森 | 熊谷 達也 | ★★★★ |
727 | 2004-11-16 | 崩れる日 なにおもう | 白川 進 | ★★★★ |
726 | 2004-11-14 | 雀 | 谷村 志穂 | ★★★★ |
725 | 2004-11-12 | 天使の代理人 | 山田 宗樹 | ★★★★ |
724 | 2004-11-10 | 異邦人の夜 | 梁 石日 | ★★★★★ |
723 | 2004-11-7 | 血と骨 | 梁 石日 | ★★★★★ |
722 | 2004-11-5 | マッチメイク | 不知火 京介 | ★★★★★ |
721 | 2004-11-4 | チルドレン | 伊坂 幸太郎 | ★★★ |
720 | 2004-11-3 | 上海迷宮 | 内田 康夫 | ★★★★ |
719 | 2004-10-31 | 漂流トラック | 安東 能明 | |
718 | 2004-10-26 | 片思い | 東野 圭吾 | ★★★★★ |
717 | 2004-10-25 | 火のみち 上・下 | 乃南 アサ | ★★★★★ |
716 | 2004-10-21 | 北の狩人 | 大沢 在昌 | ★★★★★ |
715 | 2004-10-20 | 不祥事 | 池井戸 潤 | ★★★★ |
714 | 2004-10-19 | ブルータワー | 石田 衣良 | ★★★★ |
713 | 2004-10-18 | M8 エムエイト | 高嶋 哲夫 | ★★★★ |
712 | 2004-10-17 | FRY | 新野 剛志 | ★★★★★ |
711 | 2004-10-16 | グラスホッパー | 伊坂 幸太郎 | ★★★ |
710 | 2004-10-15 | 幻夜 | 東野 圭吾 | ★★★★★ |
709 | 2004-10-12 | 邂逅の森 | 熊谷 達也 | ★★★★★ |
708 | 2004-10-10 | カタコンベ | 神山 裕右 | ★★★★★ |
707 | 2004-10-9 | 狐闇 | 北森 鴻 | ★★★★★ |
706 | 2004-10-5 | 犯人に告ぐ | 雫井 脩介 | ★★★★★ |
705 | 2004-10-2 | Q&A | 恩田 陸 | ★★★★ |
704 | 2004-9-30 | アフターダーク | 村上 春樹 | ★★★★ |
703 | 2004-9-28 | 釈迦の女 | 澤田 ふじ子 | ★★★★ |
702 | 2004-9-26 | 箸墓幻想 | 内田 康夫 | ★★★★ |
701 | 2004-9-23 | 三たびの銃声 | 有沢 創司 | ★★★★ |
700 | 2004-9-22 | 女の街 | 松本 賢吾 | ★★★★ |
699 | 2004-9-21 | 純白の証明 | 森村 誠一 | ★★★★ |
698 | 2004-9-19 | ある愛の詩 | 新堂 冬樹 | ★★★ |
697 | 2004-9-15 | 深川黄表紙掛取り帖 | 山本 一力 | ★★★★★ |
696 | 2004-9-13 | わたしには家がない ハーバード大に行ったホームレス少女 | ローラリー・サマー | ★★★★★ |
695 | 2004-9-11 | 自殺自由法 | 戸梶 圭太 | ★★ |
694 | 2004-9-9 | 世界の中心で、愛をさけぶ | 片山 恭一 | ★★★ |
693 | 2004-9-7 | 恋しい女 | 藤田 宜水 | ★★★ |
692 | 2004-9-5 | 転生 | 貫井 徳郎 | ★★★★★ |
691 | 2004-9-3 | 帰ってきたアルバイト探偵(アイ) | 大沢 在昌 | ★★★★ |
690 | 2004-9-1 | 秋の花火 | 篠田 節子 | ★★★★★ |
689 | 2004-8-30 | 追憶のかけら | 貫井 徳郎 | ★★★★ |
688 | 2004-8-30 | 花籠の櫛 | 澤田 ふじ子 | ★★★★ |
687 | 2004-8-28 | 人間の天敵 | 森村 誠一 | ★★★★ |
686 | 2004-8-26 | 思いわずらうことなく愉しく生きよ | 江國 香織 | ★★★ |
685 | 2004-8-24 | コイン・トス | 幸田 真音 | ★★★★★ |
684 | 2004-8-22 | ダーウインの時計 | 響堂 新 | ★★★★ |
683 | 2004-8-19 | 霞沢岳殺人山行 | 梓 林太郎 | ★★★★ |
682 | 2004-8-18 | 親指さがし | 山川 悠介 | ★★★★ |
681 | 2004-8-17 | ICO(イコ) ―霧の城― | 宮部 みゆき | ★★★★ |
680 | 2004-8-15 | 秋には墓標を | 大沢 在昌 | ★★★★ |
679 | 2004-8-12 | パズラー | 西澤 保彦 | ★★★★ |
678 | 2004-8-12 | 不運な女神 | 唯川 恵 | ★★★★ |
677 | 2004-8-10 | 天窓のある家 | 篠田 節子 | ★★★★★ |
676 | 2004-8-9 | ただ風が冷たい日 | 北方 謙三 | ★★★★ |
675 | 2004-8-7 | きずな | 杉本 章子 | ★★★★ |
674 | 2004-8-5 | 残照 | 小杉 健治 | ★★★★★ |
673 | 2004-8-3 | 桜花を見た | 宇江佐 真理 | ★★★★ |
672 | 2004-8-1 | 虹の生涯 新撰組義勇伝 上・下 | 森村 誠一 | ★★★★ |
671 | 2004-7-30 | 雛の家 | 久世 光彦 | ★★★ |
670 | 2004-7-28 | 大川わたり | 山本 一力 | ★★★★★ |
669 | 2004-7-26 | 逃避行 | 篠田 節子 | ★★★★★ |
668 | 2004-7-25 | 金融探偵 | 池井戸 潤 | ★★★★★ |
667 | 2004-7-24 | バードケージ | 清水 義範 | ★★★★★ |
666 | 2004-7-23 | いつか白球は海へ | 堂場 瞬一 | ★★★ |
665 | 2004-7-22 | 夜は満ちる | 小池 真理子 | ★★★ |
664 | 2004-7-20 | 渋谷一夜物語 | 山田 正紀 | ★★★ |
663 | 2004-7-19 | 気の発見 | 五木 寛之 | ★★★ |
662 | 2004-7-18 | 最悪なことリスト | トリイ・ヘイデン | ★★★★★ |
661 | 2004-7-15 | 殺し屋シュウ | 野沢 尚 | ★★★★★ |
660 | 2004-7-13 | 幽霊人命救助隊 | 高野 和明 | ★★★★ |
659 | 2004-7-11 | 棟据刑事の東京蛮族 | 森村 誠一 | ★★★★★ |
658 | 2004-7-9 | 欅しぐれ | 山本 一力 | ★★★★★ |
657 | 2004-7-7 | 臨場 | 横山 秀夫 | ★★★ |
656 | 2004-7-4 | 禁じられた楽園 | 恩田 陸 | ★★★ |
655 | 2004-7-1 | 硝子のハンマー | 貴志 祐介 | ★★★★★ |
654 | 2004-6-30 | 誰か | 宮部 みゆき | ★★★★ |
653 | 2004-6-28 | 三億を護れ | 新堂 冬樹 | ★★★★★ |
652 | 2004-6-26 | キッドナップ | 藤田 宜永 | ★★★★ |
651 | 2004-6-24 | 黄泉かえり | 梶尾 真治 | ★★★★ |
650 | 2004-6-22 | 草笛の音次郎 | 山本 一力 | ★★★★★ |
649 | 2004-6-20 | Rの家 | 打海 文三 | ★★★ |
648 | 2004-6-18 | ミルキー | 林 真理子 | ★★★ |
647 | 2004-6-16 | あんたのバラード | 島村 洋子 | ★★★ |
646 | 2004-6-13 | グロテスク | 桐野 夏生 | ★★★★★ |
645 | 2004-6-10 | アイ・アム・ウーマン | 谷村 志穂 | ★★★★ |
644 | 2004-6-5 | 水戸の偽証 | 津村 秀介 | ★★★ |
643 | 2004-6-3 | メルトダウン | 高嶋 哲夫 | ★★★★★ |
642 | 2004-6-1 | 少年A 矯正2500日 全記録 | 草薙 厚子 | ★★★ |
641 | 2004-5-30 | タイム | 深谷 忠記 | ★★★★ |
640 | 2004-5-28 | 宇田川心中 | 小林 恭二 | ★★★ |
639 | 2004-5-27 | さよならの代わりに | 貫井 徳郎 | ★★★★ |
638 | 2004-5-26 | 検事霞夕子 風極の岬 | 夏樹 静子 | ★★★ |
637 | 2004-5-23 | 嗤(わら)う闇 | 乃南 アサ | ★★★★ |
636 | 2004-5-20 | 深追い | 横山 秀夫 | ★★★★ |
635 | 2004-5-18 | 記憶する心臓 | クレア・シルヴィア/ウイリアム | ★★★ |
634 | 2004-5-16 | やさしい訴え | 小川 洋子 | ★★★★ |
633 | 2004-5-14 | ブラックベリーやかた(黒苺館) | 水木 ゆうか | ★★★★★ |
632 | 2004-5-12 | 渚にて | 久世 光彦 | ★★★★★ |
631 | 2004-5-11 | 星々の舟 | 村山 由佳 | ★★★★ |
630 | 2004-5-9 | 天下城 上・下 | 佐々木 譲 | ★★★★ |
629 | 2004-4-30 | 黒の七夕 | 樋口 京輔 | ★★★★★ |
628 | 2004-4-28 | 動機 | 横山 秀夫 | ★★★★★ |
627 | 2004-4-25 | パーフェクト・プラン | 柳原 慧 | ★★★★★ |
626 | 2004-4-23 | パラダイス・サーティー | 乃南 アサ | ★★★★ |
625 | 2004-4-20 | 100万回の言い訳 | 唯川 恵 | ★★★★ |
624 | 2004-4-18 | 影に潜む | ロバート・B・パーカー | ★★★ |
623 | 2004-4-16 | さくら伝説 | なかにし 礼 | ★★★★★ |
622 | 2004-4-14 | 殺人の門 | 東野 圭吾 | ★★★★★ |
621 | 2004-4-13 | はぐれ猿一代記 | 原 次郎 | ★★★★ |
620 | 2004-4-12 | 看守眼 | 横山 秀夫 | ★★★★ |
619 | 2004-4-10 | 逆風の街 | 今野 敏 | ★★★★ |
618 | 2004-4-9 | 青い月のバラード | 加藤 登紀子 | ★★★ |
617 | 2004-4-8 | 狼たちの野望 | 大下 英治 | ★★★★ |
616 | 2004-4-7 | 安政五年の大脱走 | 五十嵐 貴久 | ★★★★ |
615 | 2004-4-6 | 化生の海 | 内田 康夫 | ★★★★ |
614 | 2004-4-4 | 夜の電話のあなたの声は | 藤堂 志津子 | ★★★ |
613 | 2004-4-3 | 藍色のベンチャー 上・下 | 幸田 真音 | ★★★★ |
612 | 2004-3-28 | "IT”(それ)と呼ばれた子 幼年期・少年期・完結編 | デイブ・ペルサー | ★★★★★ |
611 | 2004-3-24 | 約束の冬 上・下 | 宮本 輝 | ★★★★ |
610 | 2004-3-22 | 手紙 | 東野 圭吾 | ★★★★★ |
609 | 2004-3-20 | 落雷 上・下 | ダニエル・スティール | ★★★★ |
608 | 2004-3-19 | 忌中 | 車谷 長吉 | ★★★ |
607 | 2004-3-18 | 夜回り先生 | 水谷 修 | ★★★★ |
606 | 2004-3-17 | 悦びの流刑地 | 岩井 志麻子 | ★★★★ |
605 | 2004-3-15 | 慟哭 小説・林郁夫裁判 | 佐木 隆三 | ★★★ |
504 | 2004-3-14 | 残虐記 | 桐野 夏生 | ★★★★ |
603 | 2004-3-12 | 夜盗 | なかにし 礼 | ★★★★ |
602 | 2004-3-10 | しまなみ幻想 | 内田 康夫 | ★★★★ |
601 | 2004-3-07 | 三つの墓標 小説・坂本弁護士一家殺人事件 | 佐木 隆三 | ★★★ |
600 | 2004-3-04 | 点と線 | 松本 清張 | ★★★★★ |
599 | 2004-3-03 | 回想・私の松本清張 霧の中の巨人 | 梓 林太郎 | ★★★ |
598 | 2004-3-01 | 砂の器 | 松本 清張 | ★★★★★ |
597 | 2004-2-29 | 17年の空白 | 西村 京太郎 | ★★★ |
596 | 2004-2-27 | 冤罪 | 渡辺 涼夢 | ★★★★★ |
595 | 2004-2-24 | Pの迷宮 | 深谷 忠記 | ★★★★★ |
594 | 2004-2-21 | 十三の冥府 | 内田 康夫 | ★★★★★ |
593 | 2004-2-16 | 月の見える窓 | 新野 剛志 | ★★★★ |
592 | 2004-2-13 | 密事 | 藤田 宜水 | ★★★★ |
591 | 2004-2-10 | 炎と水 | 新堂 冬樹 | ★★★★★ |
590 | 2004-2-7 | 熱欲 | 堂場 瞬一 | ★★★★★ |
589 | 2004-2-5 | 山陰殺人事件 | 津村 秀介 | ★★★ |
588 | 2004-2-1 | 美しき日々 上・下 | ユン・ソンヒ | ★★★★★ |
587 | 2004-1-30 | 異聞 新撰組 | 童門 冬二 | ★★★ |
586 | 2004-1-29 | 顔 | 横山 秀夫 | ★★★★★ |
585 | 2004-1-27 | クライマーズ・ハイ | 横山 秀夫 | ★★★★★ |
584 | 2004-1-25 | 甘水岩 | 多田 容子 | ★★★★ |
583 | 2004-1-24 | 影踏み | 横山秀夫 | ★★★★ |
582 | 2004-1-20 | 哀愁的東京 | 重松 清 | ★★★ |
581 | 2004-1-18 | 強奪 箱根駅伝 | 安東 能明 | ★★★★ |
580 | 2004-1-17 | 第三の時効 | 横山 秀夫 | ★★★★ |
579 | 2004-1-15 | 真相 | 横山 秀夫 | ★★★★★ |
578 | 2004-1-13 | 半落ち | 横山 秀夫 | ★★★★★ |
577 | 2004-1-5 | 晩鐘 上・下 | 乃南 アサ | ★★★★★ |
576 | 2004-1-1 | ルーム | 新津 きよみ | ★★★★★ |
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658■ 欅しぐれ |
Date: 2004-07-09 (Fri) |
おすすめ度 ★★★★★
山本 一力 著 朝日新聞社 発行:2004年4月
江戸の履物問屋桔梗屋の太兵衛は筆道稽古場で知り合った渡世人の猪之吉と知り合う。太兵衛は猪之吉を誘って料理屋で飲み会う仲になった。猪之吉は霊巌寺で賭場の仕事をしているが、太兵衛の人柄に惚れ、太兵衛も渡世人である男の持つ命がけの仕事ぶりに惚れる。
賭場に桔梗屋振出の200両の為替がまわってきた。桔梗屋が危ない目にあっているのではないかと太兵衛に話す。猪之吉はその為替を自分の手元に置き両替はしなかった。そして桔梗屋をねらう黒幕を調べ始めた。
大吉は父の残した70両の金を元出に油屋をはじめた。27歳の時である。江戸は火事にたびたび見まわれることから、房州(千葉県南部)に畑を借り、その土地に蔵を建て油を火から護った。43歳の時に手元に20万両の蓄えもできた。桔梗屋の店構えをみて、是非にも欲しくなり、周旋屋に頼んだが、桔梗屋は周旋屋を追い返した。断られた大吉は騙り屋をつかって、2千足の雪駄の注文を出す。前金を渡されたり、確認に出向いた店にも注文した番頭も現れたことから桔梗屋も信用して注文に応じる。
しかし、2000足ができあがるまで自分の身体が持つまいと案じた太兵衛は、猪之吉に自分の死後の桔梗屋を頼んだ。猪之吉は2000足も騙り屋の仕業だと教える。騙り屋をあざむくために、納品に向けての仕事を進める。
太兵衛が亡くなった。猪之吉は江戸で屈指の履物問屋にふさわしい葬儀を出す。弔問の返しに雪駄が配られた。弔事・慶事に使えるよう鼻緒を2本つけた。弔問客は持ち重りのする香典返しに驚いた。誰もが満足げであった。
桔梗屋の乗っ取りの片棒を担ぐ治作も弔問に行った。香典返しをみて、自分が手下に手配した井草や皮をつかった材料で作られていた。治作は血が上った。桔梗屋の渡世人にいかった。
それより早く、猪之吉は治作を訪ね、桔梗屋の乗っ取りは辞めるように油屋に伝えろと言い放つ。すべて手のうちは見えていた。
657■ 臨場 |
Date: 2004-07-07(Wed) |
おすすめ度 ★★★
横山 秀夫 著 光文社 発行:2004年4月
短篇8篇
「赤い名刺」 FAXから配信された被害者の名前相沢ゆかり27歳をみた一ノ瀬は怯えた。ゆかりと最近まで付合っていた。「イッチャンの名刺を手帳に張ってあるんだ。しつこいお客さんにみせるとサーッと引いちゃうんだ」と無邪気に言っていた。
ゆかりは結婚するといった。ルビーの指輪を見せてくれた。30までには結婚したいと言っていた念願が叶ったようだった。
終身検死官の倉田は「12、3時間ぶら下がっていたと検死した。自殺に見せかけた殺してであろうか。いやゆかりは自殺するはずがない。裸にされてあちこち調べられるのはいやだといっていた。
一ノ瀬はゆかりの手帳をそっとポケットにしまった。そこへ若い谷田部が入ってきた。皆、ドアが引き戸だと思ってドンという音を発したが、すんなり音も立てないで入った。
一ノ瀬はゆかりの手帳を見た。赤いハートマークで塗る潰されて判読できなくなった自分の名刺があった。一ノ瀬は決心した。倉田にすべてを話し、ゆかりを自他殺不明にはしたくなかった。
倉田は若いのがミスをしてくれたおかげで犯人がわかったといった。谷田部であった。妻子がいるのに独身といって遊んでいた。
鍵をかけ明かりを消した部屋で死の準備をするのは、足紋から真っ暗な部屋は、なれていてもすり足でなければ動けない。しかし、足跡はすべてしっかりと踏んでいた。他殺だと直感した倉田だった。
656■ 禁じられた楽園 |
Date: 2004-07-04(Sun) |
おすすめ度 ★★★
恩田 陸 著 徳間書店 発行:2004年4月
大学時代さとしは響一と同じ講義をとっていた。異邦人のような気がしていた。
映画の最後に KYOUITI KARASUYAMA という文字を見つけた。あの響一である。腐乱の始まった男女が明いたトランクの中で空を見つめているという気味の悪いものだった。
和繁は久しぶりに淳に会った。話している内に淳は、昔カラスの絵の中に入った記憶がある。すごく大きい絵だったという。その絵を探して欲しいと頼まれる。
会社に夏海という女性が訪ねてきた。淳の婚約者だという。すでに2週間も彼の行方が分からなくなったという。
和繁とさとしと夏海は淳のアパートの流しの下から、預金通帳を見つける。大田黒民俗歴史財団というところから定期的にお金が振り込まれていた。大田黒民俗財団は淳とどういう関係なのか。
淳が響一の映画「カーテン」にでているのを夏海が知る。カーテンは熊野古道で撮影された。3人は熊野に出かける。そして不思議な大変をする。
655■ 硝子のハンマー |
Date: 2004-07-01(Thu) |
おすすめ度 ★★★★★
貴志 祐介 著 角川書店 発行:2004年4月
通用口には警備員がいて、各階にもセンサーが働いている重厚な警備をしているビルの12階で社長が殺されると言う事件が起きた。ちょうど昼食を済ませいつもの昼寝の時間である。
社長の部屋に行くには暗証番号の必要なシリンダー鍵も必要であるし、センサーもある。怪しい者が入った形跡はない。密室の殺人である。
疑われたのは時期社長の座を継いだ副社長であったが、社長は余命1年とされる病気を抱えていた。それを知っていた副社長はあえて危険を犯す必要がない。1年待てば社長のイスは容易く手に入る。
警察も調べるがなかなか犯人の割り出しまで漕ぎつけない。
社長秘書の純子は、介護ロボットを操作して、社長の殺害手口をあばこうとするが介護ロボットにはアームを操作するためのスペースが必要なことから、ロボットを使ったという説の立証には失敗した。
ガラス磨きの男は、高校時代のとじこもりの同級生の名前をかたって働いていた。彼の家は金融業者に差し押さえられていた。自分に返済義務はないものの、しつこく彼をマークする業者。そして、偶然見た社長室の中で宝石を数える社長の姿。計画を実行することを思いつく。窓拭きの彼は犯人のリストにはなかった。
そして・・・彼が金融業者から逃れるために傷害事件を起こしていたことも分かった。
密室の犯行はどのようにして行なわれたのか。
654■ 誰か |
Date: 2004-06-30(Wed) |
おすすめ度 ★★★★
宮部 みゆき 著 実業之日本社 発行:2003年11月
杉村は義父の経営する会社に勤めていた。社長の妾の娘と結婚をした。勤務先は新橋駅前の22階本社ビルである。
通りかかった自転車をよけそこなって頭を強打し、元社員の梶田がなくなった。梶田には二人の娘がいた。会社で広報の担当をしている杉村は梶田の娘のひとり梨子から父の伝記を出版しようと思うと相談される。父が倒れる原因になった自転車の犯人はまだ出てこない。その犯人にもつきつけたい。父は65年間一生懸命生きてきたことを。
一方、姉の聡美は自伝を出すことに反対で、自分が4歳の時に、誰かに連れ去られ、トイレに閉じ込められて長い間出してもらえなかったと言う記憶があった。その家には女性がいた。何もかもお父さんのさせいだ。と女性は口にしていた。父は誰かに狙われたのかもしれないという。
伝記を書くにあたって昔の写真を見ていた。相談にも乗っていた杉村は、以前に給料の前借に来る女子社員の父親と名乗る男がいて苦労していたことを思い出す。あの女性がやめたあと梶田も辞めた。
調査をするうち、梶田がなくなった近くのマンションにすむ女性があの女性であったことを知る。酒を飲んで暴れる父を誤って殺してしまった女性は、梶田に相談する。梶田は夜中に父の死体を車で山中に埋めに行った。そして、女性も梶田夫婦も会社を辞め、それぞれ別々に暮らした。住所だけは教えあっていた。30年たって、梶田がその女性に会いにきた。そして死んだことが分かった。
聡美の誘拐の記憶は父が山から戻ってくるまで預かった女性のことで、父とは女性の父のことであった。
やがて、自転車の学生も見つかる。
高校1年の梨子は、姉の交際相手の家に押しかけたり、ホテルに誘ったりした。聡美はそのことを相手から聞かされ、結局別れたが梨子には何も言わなかった。そして、今度も妹は結婚したい相手と寝てしまった。
653■ 三億を護れ! |
Date: 2004-06-28 (Sun) |
おすすめ度 ★★★★★
新堂 冬樹 著 徳間書店 発行:2004年4月
教育本の訪問販売をする河内は、いつも成約ができなくて営業成績もビリである。仲間や上司に馬鹿にされながら歯を食いしばって頑張っている。妻や子がいる。中古マンションのローンも残っている。
そんな男がなんと宝くじで前後賞もあわせて3億円を手にした。すぐ妻の知られるところとなるが、トイレの天井に隠しビクビクの日を送る。
そこへ悪徳詐欺師達がねらいをつけた。差しあたって河内を清純な女性に気を向けさせ、お金を取ろうともくろんだ。少女役、父親役、弁護士役、悪徳金融業者役とシナリオをつくった。おまけに成城に赤レンガ造りの豪邸を借りた。
会社へ悪態をついて辞めた河内。外へ出るとそこへかわいい女の子が物を落したと探していた。ついお節介で一緒に探してやる。それが縁でお茶を飲む仲に。そして父親に合わすと河内を豪邸に誘い込む。そこへ悪徳業者が取立てに来る。目の前で好意をもつ女の子とその父親が窮地に立っている。助けられるものならと代債を口にする。
それを元の同僚に相談すると騙されている。金は渡してはダメだと言う。手付で不動産に支払ってしまったとうそを言い代金の引渡しを伸ばす。
持てない男が、清純な女性にほれられた。一夜を共にもした。三億がなくなってもいいと思うようになる。
ところが、三億は詐欺師達の元より別の方向へ流れる。詐欺師が騙されてしまう。
河内は宝くじにあたったばかりに、いろいろと巻き込まれへとへとになる。古女房でもいい、やりなおそうと家に戻るが、三億が手元にないことを知ると追い出されてしまう。
652■ キッドナップ |
Date: 2004-06-26 (Sat) |
おすすめ度 ★★★★
藤田 宜永 著 講談社 発行:2003年8月
母とケンカをした僕は、家のあちこちに小分けしてある金をつかんで家を出た。歯科医の父のところに寄った。父は歯科助手の香織といた。香織は父とも僕とも寝る女であった。父の小言を後にとりあえずホテルを取った。
同級生の沙代に連絡した。沙代に僕の計画を話した。
生まれ三日後、僕は病院から何者かに連れ去られた。そして1ヶ月半後犯人は捕まった。25歳の女性で黒江愛子だった。子どもに恵まれない為に嫁いだ酒屋から離婚させられていた。そして高田馬場の自動車販売会社でお腹を大きく見せながら、妊婦を装って産休を取った。そのあと、僕を誘拐した。
僕はときどき、今の母よりもその誘拐した犯人とずっと暮らしていたらどうだったのか知りたかった。毎日母の言動にうんざりしていた。
当時の新聞を図書館でコピーしてもらった。黒江愛子は群馬県桐生市の出身だった。兄が南葛西に住んでいた。まず南葛西に行った。黒江は福井市に越したこと知る。福井県の電話帳から黒江の家に電話をし、愛子の今の住所を聞いた。真鶴に住んでいた。結婚して櫻井となっているそうだ。
バイクで真鶴に向った。愛子は食堂をやっていた。客を装って愛子を観察した。地味な女であった。訪ねてきた幸子という女がいた飲み屋をやっているようである。最近、愛子の食堂でバイトの子が辞めたらしい。
幸子の店に飲みに行き、バイトをしたいと愛子の食堂で雇ってもらえないか仲介を頼んだ。僕は偽名を使った。年もごまかした。
愛子のご主人が入院して人手が足りないことから雇ってもらえた。愛子の家の2階を提供してもらった。
夏でかき氷やビールが飛ぶように出る。愛子も徐々に僕に昔の話をしてくれた。ご主人の病院にも一緒に行った。
愛子のところに金の無心に来る美佳という娘がいた。ご主人の連れ子だった。美佳は僕を誘ってきた。美佳と寝た。美佳は僕のデイバックから僕の本名を知る。口封じに20万円を渡す。
愛子が嫌っていた須田というじいさんは、いつも食堂を覗いていた。ある日、愛子が意を決して「この子との変な噂を立てないで欲しい」といえば、須田は逆上し「この子とできているのか」「人様の子どもを誘拐した。赤ん坊を盗んで臭い飯を食った女だ」と僕に教えようとした。しかし、僕は「誘拐した子どもは今お前の前にいるよ」と殴りつけた。須田のジジイは口をパクパクさせていた。
後日、須田が入院した。全治3週間だと知る。自首しようと思った。愛子も僕の言葉にショックを受けていた。
その時、母がクモ膜下出血で急死したことを沙代が知らせてきた。東京に戻る事にした。
651■ 黄泉かえり |
Date: 2004-06-24(Thu) |
おすすめ度 ★★★★
梶尾 真治 著 新潮社 発行:2000年10月
5月13日朝、市民センターにかかってきた電話は「主人が今朝、家に帰っている」という。脳卒中で5年前に死んだ主人である。それから、あちこちで死んだ人が黄泉(よみ)がえりしている。
2年前に死んだギフト用品販売の社長。また、雅人の父も35歳で死んでいるが、35歳のまま帰ってきた。27年前になくなっていた。
秀哉の兄も24年前に海で死んだ。小学生のまま戻ってきた。秀哉は4年前に夫をなくした玲子から「相談したいことがある」と電話をもらった。気になってかけつけると玲子の夫が戻っていた。
市民課で47件、市民センターで12件も死亡届け取り消しの相談が相次いだ。新聞にも取上げられた。
死亡届取り消し相次ぐ熊本市役所
一世を風靡した女性ボーカリストマーチンも黄泉かえった。マーチンはふたたびアルバムを発売する。ニューアルバムは270万枚のヒットであった。
そして、3月25日に熊本地方に地震が来るという噂が広まる。地震はこなかったが、黄泉かえった人々は消えてしまった。
650■ 草笛の音次郎 |
Date: 2004-06-22(Tue) |
おすすめ度 ★★★★★
山本 一力 著 文芸春秋 発行:2003年10月
浅草寺の北に組頭芳三郎の元に佐原の兄弟から香取神宮の祭りを見に来いと飛脚が届けてきた。芳三郎は70人の若い衆から名代を出すことにした。芳三郎は源吉から音次郎を推される。音次郎は27歳である。優男に見えるが、その実匕首で刺された後を自分で糸と針で縫いつけた。医者の道庵を驚かせるほどみごとな手当てであった。
音次郎は親分の名代で佐原に向うことになった。仁義の切り方も教えてもらう。行きかえり200日の旅の算段である。日に600文もあれば大丈夫だが2500文として多めの100両の大金が渡された。源七が使いやすいように細かい金に替えてくれた。
早速、行徳船で奉行に手形を見せろといわれもたつき、怪しまれる。団子汁屋では荷物を置いたまま厠へいき、戻ると荷物がなくなっていた。慌てた音次郎に、店の主が見つけてくれるが叱られる始末であった。
「荷物を持ってついて来い」と真夜中に枕を蹴飛ばされて起こされた。泊り客10人がまとめられ、有り金を出させられた。幸い音次郎は手元に10両だけを残し、残りは裏山に埋めていた。盗賊は5人であった。奪ったお金は全部で三百両あまりであった。
賊が去った後、やってきた宿場番所役人の岡野に、音次郎は賊の人相書きを書いて見せる。音次郎はとびになる前に瓦版屋にいたことが幸いした。人相書きはみごとに書け岡野をうならせた。そして、被害を受けた客に音次郎は一人2両づつ渡した。困った時はお互い様だと。
蔵の鍵を竹でつくって助けたこともあったが、その鍵がもとで番所につかまる音次郎だが、岡野に助けられる。
人相書きから賊が捕まった。
旅を続けるうちに音次郎を慕う子分も2人できた。
利根川の先で急な差し紙が届けられた。「賊の捕縛に尽力したことで褒美が出る、ついては、3月10日に奉行所に出向く為に8日には江戸に帰るよう」とのことである。
江戸を出てから2ヶ月の旅であった。
649■ Rの家 |
Date: 2004-06-20 (San) |
おすすめ度 ★★★
打海 文三 著 マガジンハウス社 発行:2001年1月
17歳の誕生日を迎えたある日、僕はRの家で暮らしてみたいと父に言った。Rの家は崖の上に建つ。祖母を含む6人がこの家で暮らすことを夢見て建てられたが、完成間近な頃、母の自殺で家捨てられていた家である。
僕が5歳の誕生日のまえに母はこの家の前の海に入っていくのを目撃されている。死体はあがらなかった。21歳で父と結婚して28歳で死んでしまった。
いまRの家で暮らしていると想像してみて、義母は痴呆で徘徊を繰り返し、76歳の老人は足腰が弱り、寝たきりになっている。子どもは男の子。何の役にも立たない。その上、伯父夫婦も同居すると言う。28歳の母は40歳になっているだろう。介護が彼女の肩にかかり、24時間奴隷のような生活がいつまでつづくという先の見えぬまま繰り返される。そんな暮らしに絶望を観じたのではないかと美由紀さんは言う。
死体のない母の順子のことを調べ始めた。父の兄弟や従姉たちからも。
そして、母が生きていることを知る。
648■ ミルキー |
Date: 2004-06-18(Fri) |
おすすめ度 ★★★
林 真理子 著 講談社 発行:2004年1月
「ミルキー」では、中堅の出版社に勤める裕一は陽子と寝たことが数回ある。その陽子が出産後、職場復帰をするという。陽子はまた仕事ができることがうれしいらしい。裕一は離婚して4年になる。
ある日、飲み会の後に二人きりになり陽子を求めた。嫌がる陽子に無理に迫ると、乳首を吸った。その時甘くねっとりとした母乳が出てきた。男が全く別のものを求めているのに女の体は我が子以外の者に反応してしまった。女の体のことは知らなかった。
「ドミノ倒し」 夫がかわいがっている部下が離婚した。夫は部下のうちはいい家だし、相手の女性のうちもちゃんとしたところのお嬢さんだという。そんな二人が離婚したら大変だと騒いでいる。いまどきどんな上流のお嬢さんだって離婚している。別に大変でもなんでもないという妻。
離婚したらいかんと口癖に言う夫。そんな夫との間に何度も離婚しようと考えたことがあった。義姉がそばにいるのに母を引き取りたいと言ったとき、きっぱりと断った妻を夫の家族は冷たい女だという。
妻の心の中で「離婚」という言葉が渦を巻いた。夫がこれほど離婚を憎悪し軽蔑している。その男に離婚届をたたきつけてやりたい。今なら亡くなった父の遺産と自分の給与とでやっていける。私は「離婚した女」ということでびくともしない。自分のこの20年この時の夫の顔を見るためにあったのではないかと思うぐらいだ。
647■ あんたのバラード |
Date: 2004-06-16 (Wed) |
おすすめ度 ★★★
島村 洋子 著 光文社 発行:2004年2月
「あんたのバラード」 ナツキと純は赤坂のキャバレーで知り合った。クラブホステスと客という関係であった。純はバンドでは食えなかった。
明日から入院という純はガンで声帯を取るが体調次第でまた戻るという。看病はするなと言い、すぐにとは言わないが「出て行ってくれ」と。サツキも泣いた。純がよく歌っていた「あんたのバラード」、今日はサツキが歌ってあげる。サツキは大阪へ帰ろうかと考えながら。
「悲しい色やね」 野球選手の引退試合を見に行く。夫婦揃っていった。妻は引退選手と結婚すると思われた時期があった。延長11回で名投手は最後の試合を勝った。千切れんばかりの手を振った。夫婦はいいやつだから、選手に声がかけられなかった。
「星屑のステージ」 18年前、5歳だった子を置いて家を出た。今、息子は23歳になっている。華子は入院した。病室で偶然息子の出ているテレビを見た。息子は自分を探していた。別れたとき息子はチェッカーズの歌を歌ったのを思い出した。今更会える訳がない。これでこの子と縁が切れると思った。誰が知らせたか、テレビ局から会うように言ってきたが会わなかった。
息子の嫁が尋ねてきた。繊細なところはないが家をがっちり守っていきそうな女だった。息子には会えないが他人なら・・・ときたのであろう。息子は幸せに暮らすだろうと安堵した。
646■ グロテスク |
Date: 2004-06-13 (Sun) |
おすすめ度 ★★★★★
桐野 夏生 著 文芸春秋 発行:2003年6月
私は今40歳。妹のユリコの残した盲目の17歳の息子百合雄と渋谷の街角に立っている。ネットで売春をする百合雄が出ているらしく、女子高校生やOLの客が引きも切らない。
私にはずっと1つ下の妹ユキコとの確執があった。それは両親が国際結婚だったために、白い肌と人形のような顔立ちのユリコに対し、自分は母似の顔であった。いつも姉妹は比べられていた。
高校に入るとき、私は日本に残り祖父と暮らした。両親とユリコは父の国フランスへ戻った。戻ると数ヶ月で母が自殺した。母が死んだことでユリコも日本に帰るという。猛烈に反対した結果、知人の家で預かることになって日本に戻ってきた。そしてQ高校に編入した。平穏な私の生活は一変した。ユリコと姉妹だということを隠しても目立つユリコの美貌は校内で噂にならないはずがない。再び比較が始まった。無視した。
私のクラスメートに医大を目指すミツルと社長の父を尊敬する地味な和恵がいた。ミツルは最初からのQ高校のお嬢様組みで内部者でいつも成績はトップだった。和恵は高校からのQ高校生で私と同じ外部者だった。
それが、ユリコは2ヶ月前に渋谷の円山町で娼婦をしていたらしい。平成11年6月にユリコが、平成12年4月に和恵が殺された。ふたりとも同じ場所に立って娼婦をしていた。和恵は高校時代に猛勉強をして大学へ進んだ。そしてまれになれる有名企業の総合職となっていた。夜は娼婦、昼はエリート社員であった。一方ユリコは高校のときから淫乱で売春行為がばれて高校を退学になった後に、その道を転がっていった。私とは疎遠であった。ユリコの死後、息子百合雄のことを知った。引き取り手のない百合雄を私は引き取った。百合雄は母が街灯で身を売ることを当然と考えていたらしく、淫乱の血が受け継がれていたのだろうか。
母と同じく街灯で身を売る仕事を選んでしまった。
645■ アイ・アム・ア・ウーマン |
Date: 2004-06-10(Thu) |
おすすめ度 ★★★★
谷村 志穂 著 幻冬舎 発行:2004年3月
マユミは作曲の仕事をしていたが、今はヒット曲がない。カフェで知り合った黒人の青年ジャセフと恋をした。
ジョセフには日本人の妻と子どもがいた。マユミはジョセフとの性に溺れていった。考えるとジョセフの携帯は時々つながらない。始終打ち合わせだと夜昼なしに出かける。
ある日、予約したホテルに戻ると別の女がいた。ジョセフもいた。騙されたことに気がついて、別れようとするがなかなか別れられない。
ジョセフは自分と妻のほかにいろいろと女性がいるようである。詐欺師まがいの男である。しかし離れられない。
貯金も底をつき始めた。ジョセフの妻も彼の尻拭いで田畑を売ったようである。
そして、マユミは別れた。ジョセフの妻は彼を探していた。マユミに会って「どうしたら、忘れられたか?」と聞く。笑う気にもなれなかった。ジョセフはニューヨークへ戻っていった。
644■ 水戸の偽証 |
Date: 2004-06-05(Sat) |
おすすめ度 ★★★
津村 秀介 著 講談社 発行:2000年10月
1月24日、午前11時過ぎ三島市のアパートの外廊下で血まみれの男が助けを求めていた。階下に住む家主の老夫婦が通報した。男は左胸を刺され死んだ。借りた時は依田進と名乗ってアパートを借りた。本人のコートから運転免許証がでてくる。三浦邦彦と分かった。その後の調べで三浦は高齢者を狙う詐欺容疑で警察が追っていた人物と分かる。
介護つき高級ケアホームに入所できると高齢者から6000万円を騙し取っていた。騙された男は首吊り自殺をしていた。三浦と一緒に美子という女がいるようだ。
事件のあった日、美子は水戸の高校の同窓会に参加していた。
しかし、刑事たちは美子のその日を検証する。途中下車してお墓参りをしたというが・・・。
そしてアリバイは崩れた。ひかりが熱海に止まることがあった。三島着10時31分で殺された三浦のアパートに行き、殺した好きに押入れから大金を奪って逃げた。そしていったん東京に戻り、水戸へ行くことが出来る。途中下車して墓参をしたというのは誰も見ていない。派手すきな美子の犯行であった。
643■ メルトダウン |
Date: 2004-06-03(Thu) |
おすすめ度 ★★★★★
高嶋 哲夫 著 講談社 発行:2003年4月
ケンの手元に図面が送られてきた。それは核爆弾だった。しかも新型のものである。送ってきた相手は2年前まで国立研究所にいた人物である。
ケンは彼の手紙を読んだ。あと余命1年と宣告されたドクターウイリアムズは「私たちの作り上げた核爆弾が幾十万という人の命を奪った。今、死の床に臥して核兵器の真の知識を国民に知らせることが最後の義務だと思う」と書いてあった。
ケンは「ある科学者の告白」と題して西海岸の地方紙「デイリー・カルフォルニアン」に載せた。
政府が動き始めた。FBIも動いていた。ケンは5回の連載をやめなかった。
大統領補佐官のカーリー補佐官が死んだ。ベンチに座ったまま死んでいた。他殺、自殺説で捜査が始まった。
カーリー補佐官のパソコンのファイルから「第4の核」の存在が。
ドクターウイリアムズの住んでいた山荘が焼けた。彼は大丈夫なのだろうか。
642■ 少年A 矯正2500日 全記録 |
Date: 2004-06-01(Tue) |
おすすめ度 ★★★
草薙 厚子 著 文芸春秋 発行:2004年4月
少年Aは「酒鬼薔薇聖斗」のことである。Aは平成16年3月10日ついに仮出所した。七年間の間に彼は完治したのであろうか。
入所当時のAは抜け殻のようであった。そして死ぬことをよく口にしていた。
別人格が起こしたものかという観察も行なわれた。心理テストも行なわれた。「共感力に乏しく対人関係に不安。人間関係の維持が困難」であったが、「責任能力あり」とされた。
関東医療少年院では擬似家族、つまり母の役、父の役をする教官が接した。教官との交換日記も行なわれた。3年経った頃、Aは両親の書いた「この子を産んで」を教官から与えられた。しかしAの母親への気持は覚めたものだった。この頃、犠牲者の家族の手記「淳」や「彩香へ 「生きる力」をありがとう」なども読んでいた。Aは2冊の本を何度も読んでいた。
そして、ロールレタリング(母へ手紙を書く。今度はAが母の気持でAにあてて手紙を書く)を何度も繰り返した。
事件について直接話し合うようにもなった。これほど迷惑をかけた家族の元には帰れないとおもうようになる。罪の意識も育っていった。最後の1年は東北少年院で職業訓練を受けた。
淳くんの家族は引っ越していた。Aの住んだ家は売れないで、まだあそこにある。近所の人はもう思い出したくないという。
641■ タイム |
Date: 2004-05-30(Sun) |
おすすめ度 ★★★★
深谷 忠記 著 角川書店 発行:2000年3月
松尾は出版社の嘱託員で自叙伝などのゴーストライターをしていた。
23年前に人に言えない犯罪を犯していた。その事件の2年後に大学を卒業する年、「傷」という題で小説を書いた。それが「文芸界」の受賞第1位に選ばれた。その年は大賞はなく秀作とされた。
高校時代の同級生の桐原から自叙伝を頼まれる。桐原は大学の教授をしており近々衆議院議員に立候補する予定だ。その桐原が最近、少女を車に引き入れていたずらをしようとしたと報じられた。
誰かの陰謀である。
桐原には過去に、自分が証言しなかったことで無実のものが犯人にされた事件があった。23年前のことである。
20歳の頃、桐原は洋子がすきだった。しかし、洋子は俊と付合っていた。俊は幼女いたずら事件の犯人として捕まった。だが、その時間に洋子と会っていたことを桐原は知っていたが、潔白を証明する証言をしなかった。俊は獄中で自殺した。洋子も後を追うように川で入水自殺をした。
しかし、洋子は自殺ではなく、松尾やその友人が乱暴をして川に流し自殺に見せかけて殺してしまった。
松尾の会社の三津田が何か知っているようであった。
桐原の本が出来上がった。「政道 我が半生の記」である。しかし、一部の原稿が替わっていた。それには、23年前にタイムカプセルに埋めた洋子の手記が載っていた。
俊の潔白を晴らすために桐原が取った行動について書かれていた。
桐原は松尾に問いただす。しかし、松尾の知らぬところであった。
松尾の友人の一人が死んだ。あの事件に関わった仲間である。
事件は思わぬ方向へ・・・・。
640■ 宇田川心中 |
Date: 2004-05-28 (Fri) |
おすすめ度 ★★★
小林 恭二 著 中央公論新社 発行:2004年3月
宇田川界隈は、昔は江戸と武蔵野の堺で村であった。異人が品川に来たと言う、徳川の終わりの時代。
はつは道玄寺の僧昭円と付合っていた。はじめてはつが好きになった男である。
600年前、神泉寺にあった宝は近くの道玄寺に渡った。千両を出すから道玄寺にある鉦を盗んできて欲しいと栄三郎は頼まれる。はつと恋仲である昭円もこの仕事をさせようとはつを捕らえてしまう。
一方、昭円は寺に訪ねてきた豪商の奥方の南里葵の相手をさせられ、挙げ句にその痴情を他の僧に見られてしまう。
寺を出た昭円は、はつと会うことができた。脅かされているはつは昭円と鉦を盗もうとする。
その昔から鉦を盗もうとする亡者が近くでうろうろとさまよっていた。
葵は道円という道玄寺の貫主の愛人であった。それを副貫主の昭円が寝取ったと言うが、実は昭円と葵は親子で、はつと昭円は兄妹であったという。みな、道円が仕組んだことだった。
639■ さよならの代わりに |
Date: 2004-05-27(Thu) |
おすすめ度 ★★★★
貫井 徳郎 著 幻冬舎 発行:2004年3月
劇団員の和希は、コンタクトを落した不思議な少女とあった。捜すがコンタクトは見つからなかった。
これがきっかけで少女萩村祐里と付合うようになった。祐里は劇団のことをあれこれと訪ねた。楽屋にも来るようになった。
劇団員の圭織が背中をナイフで刺されて殺された。主宰の新篠が親交が深かったために疑われる。悪いことにナイフから新篠の指紋が検出された。新篠は絶対に殺していないという。
祐里は不思議な力を持っていて、競馬に誘った和希は言われたとおりに買った馬券が次々にあたり、80万円を一瞬に儲けることができた。この祐里が新篠の孫だと言う。つまり未来から来たのだと。そして新篠は犯人ではないという。
やがて、真犯人が出てきた。指紋のトリックも明かされた。犯人は劇団員だった。祐里は和希の前から姿を消す。
638■ 検事霞夕子 風極の岬 |
Date: 2004-05-26(Wed) |
おすすめ度 ★★★
夏樹 静子 著 新潮社 発行:2004年4月
昨年4月、釧路地検帯広支部に赴任した霞夕子は、大学時代の同級生の立石勝子から電話があった。
隣家の高校教師の男性が車庫の中からエンジン音が聞こえるがなかなか出てこない、と言うものだった。
夕子のかけつけ近くの駐在所の巡査も手伝って開いた小窓から中に入り車庫にいく。電動式のシャッターはしまったままであった。
車の中ではすでに男性は死亡していた。30代後半のサッカー指導もしていたと言う。CO中毒である。自殺の原因は見当たらなかった。
事故死として処理されたが、その後、公園に倒れて死んでいた男が凍死と見られたがCO中毒とわかった。戸外でCO中毒は考えにくい。死んだ男と一緒だったという真由子を調べる。
真由子の息子はサッカー部であった。なくなった教師とも付合っていた。運悪く真由子の家のガレージで鍵がなくて入れなく、CO中毒死した。教師の名誉の為にも、この家で事故にあってはならない。真由子は教師の自宅のガレージに運んだ。そしてシャッターが下りる前に外へ出た。そこを公園で死んだ男に見つかった。
男とは一緒に酒を飲み、泥酔させてから教師と同じように自宅でCO中毒死させ、公園に連れていったという。凍死と判断されると思っていた。
637■ 嗤(わら)う闇 |
Date: 2004-05-23 (Sun) |
おすすめ度 ★★★★
乃南 アサ 著 新潮社 発行:2004年3月
音道貴子は隅田川東署の刑事である。この春ごろからエレベーターホールでナイフを突きつけて自宅に押し入られ暴行を受けるという事件が発生した。
届出があっただけで4、5件になる。
今回、通報したのは被害者ではなく彼女を診察した医師からであった。被害者は28歳宏恵、洋品店店員である。秋には結婚する予定だった。いちばん傍にいて欲しい相手に相談できない。
そこへマンションの踊り場で襲い掛かった男が逃走したと連絡が入る。名前は羽場昂一。貴子は思わず立ち上がった。昂一は拘束される。貴子は昂一と同居していた。
被害者にもう一度様子を聞く。昂一は偶然通りかかっただけだった。被害者は護身方法身に付けており、とっさに加害者の腕を噛んだという。昂一には噛んだ後もなかった。
再び別の場所でマンションから逃げ出した男を追う。現場近くに東西新聞社の車があった。音道は不審に思う。
男は、20年間大物政治家に張り付いていた政治部の副部長である。別れたた妻の家のあたりをうろついていた。大物政治家が失脚したあと、男もさまざまな中傷をされた。女の恐怖に怯える顔を見たくなって犯行に及んだ。
636■ 深追い |
Date: 2004-05-20(Thu) |
おすすめ度 ★★★★
横山 秀夫 著 実業之日本社 発行:2002年12月
秋葉は死んだ会社員の所持していた写真の女性に見覚えがあった。小中学の同級生で、キスもしたことのある明子だった。そばにポケットベルもあった。「コンバンハ オサシミデス」と明子は死んだ夫にメッセージを送っていた。
秋葉は刑事であるが、葬儀に参列した。
以前に深追いと報じられた事件があった。信号無視のライトバンを白バイで追いかけライトバンは電柱に激突して28歳の男が死んだ。以来、秋葉は冷えきった。
明子にあった秋葉は、度々訪れるようになった。署内でも噂になっていた。明子からメッセージがまたポケベルにあった。「コンバンハ オムライスデス」
明子は不倫で妊娠した時、それを知りながら夫が全部引きうけて結婚してくれた。しかし、生まれた娘を抱こうとはしなかった。そればかりか娘に虐待の跡があった。明子は悩んだ。夫は心臓が弱いがポケベルを持たせ、運転中にそれがなることによって発作を起こすのではと考えた。
明子はポケベルに「モウユルシテクダサイ」とメッセージを残し、部屋に火を放つ。明子にとっての秋葉は執ように追いかける刑事の一人に過ぎなかった。
635■ 記憶する心臓 |
Date: 2004-05-18(Tue) |
おすすめ度 ★★★
クレア・シルヴィア / ウィリアム・ノヴァック 著 角川書店 発行:1998年6月
クレア・シルヴィアは心臓手術のあと、心臓は単なるポンプの役割を果たすだけではないのだ。自分の中に誰かが存在していると感じる。
術後、ケンタッキーフランドチキンでチキンナゲットが食べたくなったり、嫌いだったピーマンも食べるようになった。
不思議な夢もみた。ティム・L という男を知る。男は車に乗っている。カーブを曲損ねて道路上を飛んでいる。車は崖から落ちていった。
自分の手術の日、交通事故でなくなった人を調べた。そしてメイン州に行く。ミスター・ラサールとミセス・ラサールの家族に会いに行く。3人の姉たちにも会う。家族は心臓がクレアに譲られたことを知っていた。提供した人に会うことを医師に強く止められていた。家族はクレアにあったことを喜んでくれた。
心臓の移植は提供してくれた若者の記憶を夢の中で、自然な行動の中で反応する不思議な力を持っていた。
634■ やさしい訴え |
Date: 2004-05-16(Sun) |
おすすめ度 ★★★★
小川 洋子 著 文芸春秋 発行:1996年12月
別荘に着いた時は暗くなっていた。何年も住まなくなった別荘に瑠璃子がやってきた。グラスホッパーのおかみさんが掃除をしてくれていた。
夫には何も言わずに来た。夫に女の陰を見た。付合っている感じがする。一人で書物に専念する為というとおかみさんは納得したようだ。
近所のすむチェンバロをつくっている新田の家があった。最近、結婚前にご主人をなくした女性が一緒に住んでいた。
別荘の暮らしが始まり、近所との付き合いも始まった。
やがて、新田に好意を持つ瑠璃子は一緒に住んでいる薫の留守に関係を持ってしまう。しかし、新田と薫が楽器を演奏しながら過ごす光景を見たとき、自分の行為が薄っぺらくみえた。ふたりはもっと深い関わりを築いていた。
訪ねていくと「やさしい訴え」という曲をひいてくれた。その曲はまだ離婚前の自宅で隣の子が引いていた曲だった。
瑠璃子は離婚を決心する。別荘も引き払って都会のマンションで暮らす。
633■ ブラックベリーやかた(黒苺館) |
Date: 2004-05-14(Sat) |
おすすめ度 ★★★★★
水木 ゆうか 著 講談社 発行:2004年1月
俊子は娘のりさ子の嫁いだ家に出向いた。人を寄せつけない黒い切妻屋根の洋館である。八角形の出窓とステンドグラスのある家だった。りさ子は訪問看護師として2年前はこの家の先妻の介護をしていた。
筋萎縮症で先妻の小夜子は亡くなった。亡くなる前に親戚の叔母達のすすめもあり、残された娘こずえもなついていたことから恒彦と再婚した。いつかは大きなお屋敷に住みたいと思っていたりさ子は夢が叶ったように思った。
夫恒彦は、りさ子の妊娠にもあまり喜ばなかった。母を家に呼び胸のうちを打ち明けた。しかし、流産をしてしまった。ぶどうっこと呼ばれる子だった。
この家の庭にブラックベリーがはびこっていた。亡くなった小夜子が気に入っていた。今では屋敷に届きそうに繁っていた。
隣りに住む老婆はりさ子の母俊子と親しくなった。りさ子は日に日に頭がおかしくなってきた。
ブラックベリーのせいでこの家がだめになると狂ったように挟みで切り始めた。そして、根っこから人間の白骨が出てきた。
隣りの老婆の妹だという。つまり、恒彦の母で、まだ若い頃出ていったといわれていた人だった。
俊子は、ブラックベリーの木を枯らそうと、除草剤を根元に埋め込んでいた。出てきた白骨も一緒に埋めた。
りさ子はブラックベリーのなかでうごめく黒い影を、小夜子の姿と思い込み斧を振りかざす。急いで部屋に入ったりさ子。もう誰もこの家を監視させない。自分のものなのだと清々していた。
りさ子には、自分が斧で母を・・・などとは知る由もなかった。
632■ 渚にて |
Date: 2004-05-12 (Wed) |
おすすめ度 ★★★★★
久世 光彦 著 集英社 発行:2003年9月
無人島に漂着した5人。16歳の男4人、女はカスミ一人だった。ツアーに参加したが途中で船が難破してしまった。
5人は早速、食糧の確保と洞窟を見つけ生活を始める。全員の衣服を差し出し、それを皆の共有のものとした。
滝を見つけ身体を洗うことができた。島の周りには魚がいた。ツチブタも何頭か見た。
しばらくして男女2人が漂着してきた。7人になった。
2年が過ぎた。島の暮らしも慣れてきた頃、皆が共同で家を建てた。七つの部屋と十二畳の居間のある家。島には石油も出ていた。
カスミと冬馬の間に子どもができた。もう1組、宗近と未知との間にも。3年後、カスミと冬馬と息子静馬の3人はまだ無人島にいた。皆はすでに島を脱出していたが、3人は島の暮らしを楽しんでいた。
631■ 星々の舟 |
Date: 2004-05-11(Tue) |
おすすめ度 ★★★★
村山 由佳 著 文芸春秋 発行:2003年3月
暁が2つにもならないときに生母は亡くなった。父は以前に通いできていた家政婦の志津子がまた水島家にくるようになった。以前は独身だった志津子も今はヨチヨチ歩きの女の子沙恵を連れていた。
暁はすぐになついた。長兄の貢は大学で家を離れていた。暁は志津子が血のつながらない母とは知らずに大きくなった。
沙恵は高校2年の時に浪人生に乱暴された。慰めていた暁はその日、沙恵への気持が兄妹ではなく愛し合うようになった。
それに気づいた父は動揺する。連れ子の沙恵は父と志津子の間に生まれた子だった。それを当人同士は知らなかった。
下の妹の美希は、自分だけが両親との間の子だとわかっていたが、他の兄弟に遠慮してか一家の中でピエロ役を演じて育った。
大人になってからの美希は不倫をしていた。
志津子が危篤となった。十数年も家に寄りつかなかった暁も気が進まぬまま郷里に向った。しかし、志津子の臨終には間に合わなかった。それよりも気持は沙恵に会いたいという思いだった。沙恵は別の男と結婚をするという。
義母の葬式でまた家族が集まった。沙恵も暁との思いを断ち切れないでいた。沙恵の婚約者から、沙恵は自分ではなく別の人を思っていると結婚の断りがきた。
禁じられた兄妹の恋と奔放にいきる妹。父は死んだ2人の妻の互いのやさしさをなつかしんでいた。2人は天国でもいがみ合うことはないであろうと。
630■ 天下城 上・下 |
Date: 2004-05-09(Sun) |
おすすめ度 ★★★★
佐々木 譲 著 新潮社 発行:2004年3月
安土桃山城が燃えているのを市郎太は見ながら、石積職人として絶対に攻められぬ城を築くと夢みたが、難攻不落の城を築けなかったことを思った。
織田信長が本能寺で明智光秀に撃たれて13日も経っているというのに。なぜ城が燃えている。
佐久の志賀城に育った市郎太は十三歳の時、武田勢に攻められ、城を追われた。市郎太は従兄弟の辰四郎とその妹千草と一緒に人買いに売られた。市郎太と辰四郎は黒川金山に穴掘りとして監視の中にいた。千曲川で初めての従軍の折に辰四郎と共に逃げ出す。
戸石城に住み兵法者三浦雪幹について学ぶ。堺の町に入ったふたりは異人ザビエルに城造りや戦いについて学ぶ。
新しい師を訪ねていくが、断られ金もないことから、石積職人作兵衛の所で城を築く石積みとして働き始める。
やがて親方の娘苗と夫婦になり、市郎太も親方を務めるようになる。
学問ができる市郎太は頑強な石垣を築き、穴太の衆はあちこちで普請の声がかかるようになる。戸波という苗字も与えられた。
信長から天下一の天下城を建てるための石積みを任される。
やがて武田勢も滅び、辰四郎にも再会した。辰四郎は佐久へ戻るが、もはや誰も知る者がなく故郷ではなかった。 堺で市郎太や千草とともに晩年を過ごす。
629■ 黒の七夕 |
Date: 2004-04-30 (Fri) |
おすすめ度 ★★★★★
樋口 京輔 著 講談社 発行:2002年7月
小柳は仙台市の地下鉄工事の為に赴任した。前任の久保田が自殺した為に後任となった。
久保田を知る小柳はその死が自殺ではないと感じる。身重の妻を残し工事の遅れぐらいで、八木山橋の上から飛び降るはずがない。
この工事は一筋縄では行かないと口にもしていた。
やがて、小柳は、地元の建築会社に流れる資金と、現場工事の手抜きや事前の地質状態を危ぶむ検査結果を無視した強引なやり方を目の当たりに見る。
シールド耕法で掘りすすめられる。トンネル内にたまった水の処理に追われる。異常に多い水量を大学時代の友人は地下水道に穴をあけた結果だという。
仙台市内では地震の徴候が見られた。この工事は危ない。
8年前、由美を同じ大学のクラブ員だった千葉にとられた。事故の為に車椅子の生活になった由美は千葉と離婚し実家に帰っている。未だに由美を思う小柳は再会するが、その思いを口に出せない。
地下鉄の工事にその千葉が力を貸してくれる。小柳は責任者として流れ出る水と戦う。しかし・・・
628■ 動機 |
Date: 2004-04-28 (Wed) |
おすすめ度 ★★★★★
横山 秀夫 著 文芸春秋 発行;2002年10月
警察手帳が盗まれた。紛失事故防止をねらって導入した勤務時間以外、手帳は所属の部署に保管する規則だった。貝瀬が提案した。
刑事の手帳は「24時間365日警察官」とする刑事たちにはおおいに反発を招いた。しかし、あえてこうすることに決めた。
内部の犯行に間違いない。30人の中に犯人がいる。
「絵の具をこぼしたことをごまかす為にバケツの水をまいた」という話しを耳にして、ひらめいた。
1冊の手帳の紛失を隠すために他のものを全部盗んだということを。29冊だけでも戻ってくれるといい。
手帳は警察の敷地内にあるはずだ。そして、みつけた!
軍曹を言われる退官まえのものとまだ警察人生を歩き始めたばかりのものの2冊分がなかった。
大和田の退官と共に迷宮入りになるだろう。なぜなら、大和田は若い巡査の将来に期待していた。
627■ パーフェクト・プラン |
Date: 2004-04-25(Sun) |
おすすめ度 ★★★★★
柳原 慧 著 宝島社 発行:2004年2月
良江は4度目の代理母をやっている。もうすぐ4人目が産まれる。昔は美人でキャバクラで働いていた。
最初の子どもをそっと見に行った。水をかけつづけられてもじっと堪えている子俊成。母親は虐待をしている風だった。
良江はとっさにその子を連れてきてしまう。それを知った、幸司は、赤星とともに龍生の父のいるアパートに向う。
龍生はパソコンを使って、俊成の父俊英にメールをする。「近所のものだが、お子さんが虐待を受けているようなので預かっている。ついでに美容整形とES細胞のジェノック社株が値を上げている」と。
男達は俊英の株を扱っていることを知っていた。そして、インターネットでの取引を思いつく。俊英はすでに50億の損失を出していた。情報を不審に思いながらも、事実ジェノック社の株は動き始めていた。お互いが情報をメールで交換しながら株価は上がっていった。そして、危ないという情報を知った男達は俊英にすぐに売るように連絡する。株価は暴落するがかろうじて俊英は50億は確保できた。誰かが男達と俊英の取引を知っていた。
男達もまた、一人1億T千万円の儲けができた。
ひどく怯えていた俊成は、良江の接し方で落ちついてきた。俊成の自閉的な成長を男達も心配した。俊成と一緒に暮らすことでうつ状態だった龍生の父も笑顔が戻った。俊成には4歳とは思えない精巧な絵を書く才能があった。
そのころ俊成の母親はだんだん精神がおかしくなっていく。警察も一度は誘拐と騒いだ母親がそれを取り下げたが、その後子どもの姿が見えないことを不審に思った。
男達は警察が動き始めたことを知り佐渡島へいく。そこは良江の生まれ故郷だった。
自閉症のこと誘拐をしたとは思っていない大人達。父親も男達への被害意識はなかった。皆が俊成を囲んで生活を楽しんでいた。
佐渡へも警察が追ってくる。良江はもう誰も住まなくなった故郷の家で俊成といた。男達がやってきたときに陣痛が始まる。警察もやってきてそれに協力する。
626■ パラダイス・サーティー |
Date: 2004-04-23(Fri) |
おすすめ度 ★★★★
乃南 アサ 著 実業之日本社 発行:1992年11月
父と母の関係がごたごたしている。弟は婚約者が家の改築費用を負担するので建て直すことを計画していた。ここに住むようだ。
栗子は自分の居場所がないことを知り、高校の同級生の菜摘のところに転がり込む。
菜摘はオナベで、お節介であった。二人はなぜか気があった。
やがて、栗子は菜摘の店によく来る古窪に恋をする。しかし古窪は薬局の婿養子になる。栗子はふられた。
ダイヤモンドは傷がつくと値打ちが下がるが、栗子の値打ちは地に落ちない。でも受けた傷はなかったことにはできないが、傷さえも自分の魅力としていこうと思う。
30歳をパラダイスにしてやろうと・・・。
625■ 100万回の言い訳 |
Date: 2004-04-20 (Tue) |
おすすめ度 ★★★★
唯川 恵 著 新潮社 発行:2003年9月
津久見はキャバクラで飲みながら「ブスだからこれくらいはさせろ」と他の客にからまれて胸を鷲づかみにされている志木子を見ていた。そして、「こういう仕事は向いていないのではないか」と別の居酒屋を紹介する。
居酒屋に移った志木子は奥さんにもご主人にもかわいがられて生き生きとしていた。
志木子は17歳で子を産み21歳である。結婚の経験はなく、子供と2人だけで暮らしてきた。そして、津久見に子供の父親である伊島を探して欲しいと頼む。
津久見には子供はなかったが、妻が働いていた。妻の結子は会社で年下の男と関係していた。
津久見がやっと見つけた伊島の同級生の連絡先が妻と関係のある陸人であった。陸人は彼女を伊島に取られてから、女性が信じられなくなっていた。結子が既婚者であることを知りながら、その関係が偶然出来上がってしまった。裏切られることを恐れてもいた。
そんな陸人のようすを伊島は感づき、結子に電話をかけてくるようになった。結子と伊島が会っているところへ、陸人が津久見を連れてくる。
志木子のことを話すと「知らない」という。陸人は伊島の言いなりになって暮らしていたことが爆発し、殴りかかる。
志木子はお店のご主人が倒れた。そして、養女にほしいと言われたことに応え、自分がお店を再開するという。
結子も津久見とやりなおそうと考える。
624■ 影に潜む |
Date: 2004-04-18(Sun) |
おすすめ度 ★★★
ロバート・B・パーカー 著 早川書房 発行:2004年3月
海岸で男の死体が上がった。35歳の白人だった。胸に2つの穴があった。ここで撃たれた可能性がある。
男と女はビデオを見ていた。人が殺されると知ったときの瞬間の表情に性的な興奮を覚えるらしい。何度もビデオを見ながらセックスを楽しんでいた。
16歳の少女を3人でレイプした事件が起こる。同じ頃、無作為に殺人を繰りかえす事件が起こった。
犯人は誰なのか。町はパニックになる。
警察官のジェッシイは長年の勘で、ある夫婦が犯人だと確信する。そして、影が自分にも忍び寄っていると感じていた。
623■ さくら伝説 |
Date: 2004-04-16(Fri) |
おすすめ度 ★★★★★
なかにし 礼 著 新潮社 発行:2004年3月
室生寺の石段の中ほどに樹齢九百年という山桜の巨木がある。奈良で最古の桜だ。桜は人間の屍体をくって生きているといわれる。この桜の下で江戸時代、助六と揚巻という遊女が心中をした。
その桜の下で私は響子に出会った。女子大生の響子と大学助教授の帯刀である。二人は結婚した。
そして、22年。帯刀は昔捨てた女の娘亜矢と不倫をしていた。娘には不思議な力があった。情事を重ねている間に、夢を見る。それは死んだはずの母や祖父が出てくる。
父が戦死したと聞いた母は、こともあろうに祖父と関係を持ち帯刀を産んだ。復員した父はそんな関係に気づいていた。父は自分が子種のないことを母に告げると線路に飛び込み自殺した。
祖父はそれ以前になくなっていた。
夢の中で、祖父と母はお互いが愛し合っていたことを知る。父が復員してきたあとも、祖父は母に関係を迫り、ふたりは悪いことと知りながらどうしょうもなくなっていた。祖父は情事の最中に母の下で息が切れたのだった。
今、自分は心臓病を患い、妻との関係を疎遠にしている。それなのに亜矢との情事はやめられない。死んでも言いと思っている。
妻は亜矢との関係に気がつく。
622■ 殺人の門 |
Date: 2004-04-14(Wed) |
おすすめ度 ★★★★★
東野 圭吾 著 角川書店 2003年9月
田島和幸の父は歯医者をやっていた。寝たきりの祖母はお手伝いのトミさんが面倒を見ていた。母は祖母と折り合いが悪かったせいもあって、あまり介護をしなかった。祖母がなくなった。「殺されたのでは・・」という噂が広まった。刑事もきた。その後は両親も離婚した。和幸は父と暮らすことにした。
噂が立ってから、級友がよそよそしくなった。近所の店では買い物をしずらくなった。
そんな折、父が病院に入院した。酔っ払って帰る途中に誰かに頭を殴られたらしい。父はキャバレーの女に貢いでいた。殴られたことで手がしびれる後遺症が残った。患者が祖母の死のあとのうわさで激減したが、更に来なくなった。
借金の為に土地を売り、以前の贅沢はできなくなった。
和幸も働き始めた。中学時代の倉持はしかとする級友の中で唯一話をしてくれる友でもあった。
家具屋で働くようになった和幸のところへ倉持がやってきた。ネズミ講ならぬ儲け話を持ってきて一緒にやらないかと言う。いわゆる純金ファミリーと称して、老人から金を騙し取るやり方だった。騙すことに罪悪感を感じて程なく辞めた。
倉持が結婚をした。その後、自分も倉持の紹介で知り合った女性と結婚する。が、金遣いの荒い家事をやらない女だった。もめた末に離婚した。
警察がきた。やめたはずの純金ファミリーを扱う会社が破綻し、まだ社員として預り証のネームに自分の名が書かれていたという。
倉持がやったことだと想像ができた。その倉持を殺してやりたいと思った。その倉持が若い男に刺されて入院した。もう植物状態になるだろうと言われた。
中学の頃五目並べをしたガンさんが見舞にきた。「倉持は生まれた時から金持ちに生まれると子供の頃から贅沢ができる。地元でも有名な歯医者の息子に嫉妬していた」という。
倉持の見舞にトミさんもやってきた。そして分かった。あのうわさはトミさんがばら撒いたのだと。
621■ はぐれ猿一代記 |
Date: 2004-04-13(Tue) |
おすすめ度 ★★★★
原 次郎 著 草の根出版 発行:2004年3月
早稲田大学の大隈講堂の前で雀荘「ノース・ウエスト」とビリヤードを経営する店主の一代記。
岐阜の中学を卒業後、第二早稲田高等学院にそして早稲田大学へ進んだ。学生の頃、仲間3人で東京から静岡まで塩を買いに行き、塩のブローカーで儲けた事を皮きりに「はぐれ猿」ならぬテキヤをはじめる。高円寺に越してからは米兵と友人になった。大学は卒業し、高円寺から早稲田に移って雀荘を開店した。
昭和26年結婚をし、昭和31年から35年まではレンタカーの商売もした。昭和36年ごろ、地上3階建てのビルを作った。3階から富士山が見えた。早稲田第二学生会館に食堂を始めた。当時は女子社員も10人いた。コックは3人だった。その後、食堂は無人の機械化に変える。漏電で食堂「稲不二」が焼失する。
昭和42年ごろは駐車場をつくり、51年には貸しマンションを次々と建て、結婚50周年の2002年に早稲田ゼミナール前に地下1階地上8階の自宅ビルを建てる。
自叙伝「はぐれ猿 一代記」を執筆。校正が終わった後、刊行を待たずして永眠。78歳だった。
やりたい放題の奔放な人生。何事にも凝り性で一生懸命。近年はカラオケでテレビに出演する。ゴルフはホールインワンを出すなどの腕前だった。まだ早すぎる死であった。
◆私は、このビルの屋上で3年間を過ごしました。隣りのビルの早稲田大学第二学生会館は、上京したばかりの私の職場でもありました。ご冥福をお祈りいたします。(合掌)
620■ 看守眼 |
Date: 2004-04-12(Mon) |
おすすめ度 ★★★★
横山 秀夫 著 新潮社 発行:2004年1月
今年定年退職する人の原稿が1人分足りない。県警の機関紙の原稿である。留置管理係の近藤のものがない。
山の手の主婦エミ子が突然姿を消した。そして30歳の宝石商が逮捕された。二人は不倫関係にあった。スーパーの駐車場で五分ぐらいはなして別れたというが死体なき殺人事件と騒がれた。しかし、証拠が不充分で拘留期限が切れると釈放された。
エミ子の夫は釈放された宝石商が車に乗り込もうとする時、包丁を振りかざして襲ってきた。が、逆にもみ合いになり夫の方が腹を刺されて重傷を負ったのち死亡した。
正当防衛で宝石商は不起訴処分になった。
こともあろうに看守であった近藤は、その宝石商を捜査していた。刑事になりたかったが、なれぬまま定年を迎える。しかし、看守としての勘でひとり穴蔵刑事と家族にからかわれながら、宝石商を追っていた。
人を殺した後の人間はぎらぎらしている。しかし、あいつは最初はなんでもなかったが、次第にぎらぎらしてきた。間違いない。あいつは最初はまっさらだった。後から人を殺そうと思ったに違いない。29年の看守の勘がそう思わせる。
自宅まで原稿を取りに行った悦子は、その捜査に1日加わる羽目になったが、原稿は後日もらうことができた。
寝たきりの義父を看させられ、夫からの暴力に堪えていたエミ子はそれらから逃れたかったのだ。事件に見せかけて蒸発したのだ。
必ずエミ子と宝石商は会うはずだ。そこを張っていた。
619■ 逆風の街 |
Date: 2004-04-10 (Sat) |
おすすめ度 ★★★★
今野 敏 著 徳間書店 発行:2003年12月
横浜みなとみらい署暴力犯係の城島と諸橋は潜入捜査官が死んだ記事をみた。暴力団を許せなかった。
印刷屋の寺川は毎夜、闇金融からのとりたてに夜も寝られない状態であった。夜といわずやってきては大声でわめく、ドアを蹴るで妻との間もぎくしゃくしていた。
銀行の融資がされなくて、目の前の手形を落とすために借りた200万円が300円に膨れていた。やつらはガスバーナーの火を顔に押し当て今にも焼こうとした。娘を見ては身体で返してもらうとソープに行くことをほのめかした。
寺川は弁護士に相談した。中に入った弁護士は、交通事故に会った。やつらがやったに違いない。
警察も弁護士もダメだと思った寺川は自暴になっていた。
城島と諸橋は暴力団の恐喝被害を訴える寺川の事件を知る。気力をなくした寺川を叱責しながら、警察がかわって守ることを伝える。
相手の暴力団は見覚えがなかった。井田という男は何者なのだろうか。捜査をすすめるうちに、上司から捜査の中止を言い渡される。しかし、原因を言わない上司に、城島と諸橋は無視して捜査を続行する。
やがて、井田が殺されてしまう。井田は潜入警察官であった。地元の暴力団とのトラブルであろうか。
井田は那賀坂組の笹松という手の粗い組員にやられていた。
それを知った諸橋と城島は怒りに燃える。
618■ 青い月のバラード |
Date: 2004-04-09(Fri) |
おすすめ度 ★★★
加藤 登紀子 著 小学館 発行:2003年4月
2002年7月、夫藤本敏夫が亡くなった。癌だった。出会ってから35年。結婚生活は30年を超える。
全学連の委員長だった藤本は服役した栃木県の黒羽刑務所だった。面接に行った。知床旅情がヒットした翌年、私は妊娠していることがわかった。事務所の社長である石井好子さんを訪ねた。
「歌手としてよりも女として幸せにならなきゃ」と励まされ、産む決心をした。
刑務所に面接に行ったが会えなかった。弁護士に託した手紙に「私はあなたと結婚して子供を産むことに決めました」と書いた。
そして面会が許された。2年後出所した彼は、東京の空気の悪さを嘆いた。一家は鴨川の大田代に土地を求め、農業やにわとりを飼っての生活を始める。標高300mの山中にわずか21戸という村である。3人の子供にも恵まれた。
87年には「百万本の薔薇」もヒットした。藤本は有機農法を手がけた。加藤は東京と鴨川を行ったり来りしながら歌手生活を続けた。鴨川には彼の理想の王国がある。彼の遺体は鴨川へ運んだ。
617■ 狼たちの野望 |
Date: 2004-04-08(Thu) |
おすすめ度 ★★★★
大下 英治 著 廣済堂出版 発行:2001年12月
青山学院大学の藤田晋は、トップダウンの組織的な仕事をするよりも自分で事業を起こしたいと思っていた。インテリジェンスのセミナーに参加し、人材派遣会社入った。そこで社員全員が真摯に仕事に立ち向かう姿をみた。
藤田はインターネットを使って学生との情報を得て、インターネットの産業がベンチャー企業として新規参入できると思った。
ホームページを立ち上げ、バナー広告を扱い始めた。
1年後藤田は退職し、自分の会社を設立した。日高と組んでサイバーエージェントを立ち上げた。「インターネット業界の営業を代行」する会社である。営業代行をしているのはまだ藤田の会社だけであった。新聞の1ページいっぱいの広告も出た。
ホームページの広告も取り扱った。クリックの回数で広告料を払うというシステムを作った。
1年後に7人の新規採用を行なった。翌年は20人が目標だった。
やがてインターネットでショッピングモールであるネットプライスを立ち上げることになる。株式にも店頭公開した。
あのフジテレビのとなりにいつかフジタテレビをつくってやると。
616■ 安政五年の大脱走 |
Date: 2004-04-07(Wed) |
おすすめ度 ★★★★
五十嵐 貴久 著 幻冬舎 発行:2003年5月
井伊直弼の幼少の頃は鉄之助と言っていた。鉄之助には15人の異母兄弟がいた。17歳の鉄之助と弟だけは大名からの婿養子の話もなく、下級武士の苦しい生活を強いられていた。
その鉄之助が江戸で見た美しい女性に目を奪われた。しかし、彼女は津和野藩主亀井様の側室であった。叶わぬこととあきらめた。
24年後、その時の娘にまた出会った。聞けばあの女性の娘だという。昔は下級武士、今の自分は彦根三十五万石の藩主である。
早速、側室にとの申し出を津和野藩の姫美雪は断ってきた。
あらぬ罪を着せ、津和野藩士51人と姫を捕らえ、絖神岳の山頂に連れて行く。日に2度の食事を与え幽閉した。姫が直弼のもとに行けば藩士を助けるというものであった。山は崖で片方は海に片方は反り建った絶壁である。もう一方は彦根藩の武士がふさいでいた。
津和野藩士達は、今度、殿がくるのは三ヶ月後。それまでにここから脱走するための穴を掘る。掘った土は小屋の床下に隠した。林に出られるまでには百間の距離があった。
藩士は交代で脇差を使って掘り進んだ。素手でつめを立てて掘るものもいる。
やがて、殿がくるという前の日に穴は貫通する。
姫も着物の間に挟まれた紙と竹を使ってばるんを造り、湯屋に入っていると見せかけて、巨大な円形のばるんの下の竹籠に乗って山を脱出する。
井伊直弼はその2年後、桜田門外の変で46歳でなくなる。
615■ 化生の海 |
Date: 2004-04-06 (Tue) |
おすすめ度 ★★★★
内田 康夫 著 新潮社 発行:2003年11月
「大学のことは心配するな」と言っていた父剛史が「松前にいく」と出かけた。その父が加賀の海で、三日後水死体で見つかる。自殺か他殺か断定できないまま迷宮入りになった。
ニッカに勤めるようになった三井所園子は、北海道にきた浅見光彦に会う。園子の父の死を解決したいという。
父は小さい頃捨てられ養護施設で育った。三井所というのが本名ではない。三井倉庫の近くの建物で見つかったことからつけられた名である。唯一父の持ち物に、金太郎のような博多人形が一緒にあった。人形の底に卯の字の刻印があった。
浅見は、三井所のルーツ探しを始める。育った養護施設を見つけた。昭和40年、中学二年の時に書いた作文が見つかる。コンクールで優勝していた。自分が孤児であり、一緒にあった人形が宝物であると書かれてあった。
その頃のニュースもみた。アメリカ帰りのスター女優深草千尋が載っていた。
人形の作者を調べるとその人形は20体作られ、うち18件はどこに売られたか明記してあった。その中の宇戸という名に心当たりがあった。宇戸は深草千尋の本名である。スターだった母は子供がいてはいけなかった。アメリカで産んだものの、2歳の時に捨ててしまった。何年かのち、コンクールで優勝した作文を見て我が子だと知る。
剛史は母親を訪ねていったのだろうか。結末は意外な展開に。
614■ 夜の電話のあなたの声は |
Date: 2004-04-04 (Sun) |
おすすめ度 ★★★
藤堂 志津子 著 文芸春秋 発行:2004年2月
水香は夜9時すぎに電話をした。別れた男の隣りの部屋にいる男へである。隣りの男は別れた本条に後姿がよく似ていた。正面から見たことはないが、背の高い男である。
本条が忘れられなかった。彼のアパートの周りをうろつく日が続いた。正月に見合いをしたあと、すぐに結婚をしてしまった本条。
水香は37歳になって、いろんな男と付合ったがなぜか本条が忘れられなかった。
でたらめな電話であったが、隣りの男は迷惑そうなそぶりもなく電話に出た。次の日も電話した。度々電話するうちにお互いが会うことになった。
おもったより落胆をした水香にくらべ、隣りの男春原は、きれいな人だと喜んだ。徐々に自分に傾いているのを知っていながら、彼の善良さを踏みにじれない。
水香からホテルに誘った。関係を持った後に、自分が本条と付合っていた女であることを打ち明ける。そして、別れを告げる。
本条から電話が有ったのはその後である。また付合おうと。しかし、あれほど求めていた本条がそばにいても気持がときめかない覚めた自分に気がつく。
613■ 藍色のベンチャー 上・下 |
Date: 2004-04-03 (Sat) |
おすすめ度 ★★★★
幸田 真音 著 新潮社 発行:2003年10月
幕末の頃、彦根藩に召し上げられた湖東焼きと呼ばれる窯の物語。井伊直弼が暗殺された後は絶えてしまったが、深い藍色の陶磁器であった。
二代目絹屋半兵衛37歳の元に21歳の留津が嫁に来た。絹屋は着物を扱っていたが、これからは陶磁器も扱いたいと半兵衛は思った。窯を造って本格的にやりたい。資金もかかることから乗合商いという何人かで共同ではじめることにした。
彦根澤町の商人西村や彦根城下の油屋島屋の協力を得ることができた。晒山に土地を見つけ窯を造った。許可願いには奉行もひと肌脱いでくれた。
有田から昇吉という職人も雇い入れ、京の町でみた、薄くて白い陶器を作ることに力を入れた。白い生地に藍色の模様を入れた陶器である。
失敗を繰り返しながら、順調に焼き物ができあがっていった。
若い井伊直弼の目にもとまった。半兵衛は直弼との会話が楽しみでもあった。
2つ目の窯は、絹屋の店の近くに造った。途中、飢饉にあえぐ町民たちを雇いつつ、窯は成長していった。が、皿の裏に湖東焼というサインをしないほうがよいといわれたために、久谷や有田に負けない陶器ができても知られることは少なかった。
井伊直弼の暗殺を聞かされて、動揺を隠せない。藩の意向を無視して火入れができぬ。しかし、湖東焼は絶やしたくはなかった。
612■ ″IT”(それ)と呼ばれた子 幼年期・少年期・完結編 |
Date: 2004-03-28 (Sun) |
おすすめ度 ★★★★★
デイブ・ベルサー 著 ソニー・マガジンズ 発行:2003年6月
3冊の文庫本である。幼年期・少年期・完結編に分かれている。
やさしかった母がデイビットが4歳の頃から徐々に変わり始めた。突然母が階段から僕を突き落としたり、僕の腕の関節をぬいてしまった。その度に母は「2段ベットから落ちた」と医師にウソをついていた。8歳の頃はもう名前では呼んでもらえなくてIT(それ)と呼ばれていた。僕は奴隷みたいに雑用をさせられた。バツとして食事を1週間も食べさせてもらえなかった。空腹を満たす為にゴミ箱の残飯を食べた。寒いガレージで寝かされた。何日も着たきりの服を着せられていた。
母は次々と僕をひどい目にあわせた。ガスレンジで僕の腕を焼いた。これはマッチでいたずらしたとうそをつかれた。弟が生まれたときはオムツの便を食べさせられた。皿洗いが遅かったとナイフで腹を刺された。父は母を止めたが、もう手におえなかった。
やがて母と父は離婚した。母はますますいらだっていた。僕は何日も食事をさせてもらえない。小学校へ行った時に友達の弁当から少しずつ盗んで食べた。それも見つかってしまうと、とおりの向こうの店で食べ物を盗んだ。手におえない子と思われたが新しい担任が、僕がなぜそうするのか理解してくれようとした。毎朝、保健室に行くことになった。そこでは、僕は本当のことを言った。しばらくして僕は児童相談所に保護された。
裁判が始まり、僕は母の元に帰りたくないと言った。僕は母から離れ里親の元で暮らすようになった。しかし里親という制度が十分に理解されてなく、周りからのいじめがあった。僕は好かれようと人の気を引く為に万引きをした。
中学の時、弟と偶然学校で出くわした。弟の身体にアザがあった。僕が居なくなって、母のうさ晴らしが兄弟に向いていることを知った。
父は消防署を退職し、どこにいるか分からなかった。僕が航空隊へ入隊した時、父の居所がわかった。父は癌を患っていた。最後は僕に会う事ができた。
僕はいつも知りたかった。どうしてあんなことになったのか。母は僕が小さい頃はやさしかった。どうして変わってしまったのか。
僕が結婚して、再び兄弟や母と会う事があった。僕が12歳で母から逃れられたが、兄や弟はずっと母のいらいらやわめく姿に付合わされていた。
母は死ぬ時に僕に言った。「デイビットのことを誇りに思う」と。でも、僕はその時、許すことはできなかった。
611■ 約束の冬 上・下 |
Date: 2004-03-24(Wed) |
おすすめ度 ★★★★
宮本 輝 著 文芸春秋 発行:2003年5月
留美子は22歳の時、引っ越してまもなく「空を飛ぶ蜘蛛をみたことがありますか。十年後の誕生日に僕は26歳になります。12月5日の朝、地図に示したところでお待ちします。あなたに結婚を申し込むつもりです。須藤俊国」と書かれた青い封筒をもらった。地図の位置は岡山県総社市の田んぼの中だった。
留美子の父がなくなりラブレターをもらったすぐあと引っ越した。しかし、買い手はつかないまま十年後再び父が建てた家に戻ってきた。あの時の少年は25歳のはず。留美子は32歳であった。
取り壊される旧家の廃材のいいところだけを父が頼み込んで譲り受けた。年代ものの立派な材木をあちこちの家から頂いた。 目の前には大きなお屋敷、隣りには庭のある素敵な家のそばにあって単調すぎる古めかしい家ができた。
偶然、隣りの家の青年が俊国という名であることを知る。俊国の父との交流もでき、ゴルフを教えてもらう仲となった。
留美子は10年前の約束の場所に、絶対に行こうと決心した。一方、俊国の父は息子から手紙のことを聞いて知っていた。俊国なら絶対行くだろうと思った。
610■ 手紙 |
Date: 2004-03-22(Mon) |
おすすめ度 ★★★★★
東野 圭吾 著 毎日新聞社 発行:2003年3月
弟の直貴は俺より頭がいい、何とかして大学へ進学させたい。しかし、今の自分は腰を痛め無職である。何とかしたい。金さえあれば・・・!
以前引越しの際に知った金持ちで一人暮しの家に盗みに入った。家人に気付かれ騒がれた為、あわててのどにドライバーを当ててしまった。強盗殺人を犯してしまった。父も母もなく、兄弟二人で暮らしていた生活が一変した。
卒業まで数ヶ月だった。弟は気丈に高校だけは卒業した。式には出なかった。
レストランの仕事をした。電器店の販売もした。隠していた兄のことが分かると解雇や他の部署へ異動された。
やがて結婚をし子供もできた直貴は、保育園にいく子供にも兄の影響を受けていることを知る。転園を遠まわしに言い渡される。
刑務所から兄の手紙が定期的に月に1度送られてくる。それさえも腹ただしくなった。弟は兄に決別の手紙を書く。「家族を守るために、もう手紙を送らないでくれ。強盗殺人犯の弟と言うだけで職を追われた。あなたの弟を捨てるつもりです。私と関わろうとしないでもらいたい。」と。
被害者の家を訪問した。兄が刑務所から毎月手紙を送っていた。それに対して被害者の家族は最初嫌悪に感じた。次にこれは兄の般若心経だと割りきった。そして、兄へ決別の手紙を書いた後の手紙では「私は手紙など書くべきではなかった。犯人の自己満足にしか見えない不快きわまりないものだったに違いない。申し訳ありません」と。直貴は涙が止まらなかった。「もう、これでいいと思う。直貴くんこれでおわりにしょう。」と言ってくれた。
609■ 落雷 上・下 |
Date: 2004-03-20 (Sat) |
おすすめ度 ★★★★
ダニエル・スティール 著 アカデミー出版 2004年2月
弁護士の妻アレクサンドラと投資を仕事とする夫サムには子供が居なかった。結婚して13年、妻は38歳。夫は45歳であった。
やがてやっと出来た子供は女の子でアナベルと名付けた。2人にとってそれは幸せこの上ないことであった。
42歳になったアレクサンドラは乳がんのため乳房を切除する。科学療法をすることになった。髪は抜け落ち、痛みに堪えた。夫はベットに寄りつかなくなった。
夫と若い女性との関係を知ったアレクサンドラ。夫は取引先の紹介で29歳のダフネと親しくなった。彼には家庭よりもダフネのことでいっぱいだった。
アレクサンドラの苦悩を同僚のブロックは励ましつづけた。やがてブロックもアレクサンドラもお互いを必要と思うようになった。
サムは共同経営者にだまされ、横領の容疑をかけられる。ダフネもグルだった事を知る。地位も名誉もなくしたサムからダフネは離れていった。
アレクサンドラはブロックとの新しい生活を望みながらも夫サムの憔悴しきった姿に心を痛めていた。
判決の日、夫には・・・・。そして夫婦は・・・・。
608■ 忌中 |
Date: 2004-03-19(Fri) |
おすすめ度 ★★★
車谷 長吉 著 文芸春秋 発行:2003年11月
67歳になる菅井は、「死にたい」と言う妻二三子を殺して押入れの茶箱に入れた。
二三子は20年近くリウマチを患っていた。3年前からは脳の血管が切れ右半身不随になって寝たきりであった。菅井が食事や下の世話、身の回りのことを介護した。介護の疲れた夫を見て「もう死にたい」と言うようになった。
妻の髪を梳かし、口紅を塗って電気を消すと一気に妻の首をしめた。自分も死のうと鴨居に革バンドをつるして踏み台に上った。しかし、死ねなかった。 妻の遺体を茶箱に入れ押入れにしまった。 翌日から菅井はパチンコやヘルスセンターに通うようになった。山田明美というマッサージ嬢と親しくなり、ラブホテルにも行くようになった。菅井は金融会社5社から30万づつ借金した。それを使ってしまえば死が待っている。
酒を飲んだ勢いで茶箱を開けた。目玉が下に落ち眼窩の穴が二つ笑っているように夫を見ていた。部屋には腐臭がしていた。
玄関のガラス戸に「忌中」と書いて内側から鍵をかけ、再び踏み台に登った。
新聞に菅井の死を知らせる記事が出た。それには多額の借金と2ヶ月半も妻の遺体を放置していたとあった。
607■ 夜回り先生 |
Date: 2004-03-18 (Thu) |
おすすめ度 ★★★★
水谷 修 著 サンクチュアリ出版 発行:2004年2月
横浜市の高校教員である。1990年夜間高校の教師となったことがきっかけで夜回りが始まる。昼間の教師が夜の教師に代わることは少なかった。何か問題を起こしたかと思われた。
横浜は広域暴力団の事務所がたくさんあった。部活を終えて帰る子は10時半だった。深夜の繁華街に遊びに行くことは危険であった。そして夜回りが始まった。
シンナーを乱用していたマサフミ。小学校5年のときに母が倒れる。母子家庭だった。生活保護の知識もない。夜中にコンビニに弁当をもらいに行った。給食の残りを食べた。いじめにあった。マサフミはシンナーにふけった。そしてダンプにはねられ死んだ。火葬したマサフミの骨はほとんどなかった。シンナーは骨までも残さなかった。
父親に性的暴行を受けて育った生徒。父親との間にできた子を2度も中絶している。おまけに暴力も受けていた。児童相談所に保護する。しかし、また失踪してしまう。3年後、再び会う。客から性病を移されて保険証を友人に借りるためだった。そしてまた消えた。今は1児の子を持つ母親である。
著者も山形の祖母と暮らしていた。母は横浜で教師をしていた。貧乏であった。だから暖かい手を差し伸べたいと。
カンボジア人の少年の引ったくり事件。リストカットをする少女。引きこもりの子。覚せい剤中毒の女の子など。
606■ 悦びの流刑地 |
Date: 2004-03-17(Wed) |
おすすめ度 ★★★★
岩井 志麻子 著 集英社 発行:2003年3月
父と母を流行り病で亡くした後、姉さんは料亭の中居として僕の面倒を見てくれた。僕は盲目となり、昼間一人暗い部屋で留守番をした。時々、おしっこの匂いがする女の子がやってきた。外には得体の知れない男が立ちつづけていた。
姉さんの料亭の離れは女流作家が借り切って小説を書いていた。その小説を時々、持ってきて読んでくれた。
小説は次のようなものだった。
料理屋の中居をしていた悦子は川島と旅館を居抜きで買い取った。そこへ滞在客の山本が悦子と親密になり、川島を殺してしまう。川島の死体は加工して見世物小屋に置いた。誰もそれが人間とは気がつかない不気味なものであった。
悦子は日本に帰りカフェの女給から女郎に身を落した時、金満家の未亡人泰子に出会う。泰子の家で暮らすようになる。そこへ山本がひょっこり戻ってきた。泰子と泰子の娘美保子と暮らし始める。山本は泰子にも美保子にも興味を見せる。偽の姉弟を演じる悦子と山本。美保子は母と山本との関係にも気づく。
そこへ大震災があり、山本は美保子をかばうが悦子は焼死する。やがて山本は泰子を殺し庭に埋める。
「姉さん」と呼んでいた女は美保子だった。小説は自分と美保子のことだった。山本は思い出していた。
605■ 慟哭 小説・林郁夫裁判 |
Date: 2004-03-15 (Mon) |
おすすめ度 ★★★
佐木 隆三 著 講談社 発行:2004年2月
地下鉄サリン事件ので捕まった林郁夫は、実行犯と聞いて警察が驚いた。当時彼は48歳で、大抵の実行犯は逃げ足の速い若いものがなることが多かったからだ。
林が入信したのは、坂本弁護士事件が発生し、翌年には総選挙に25人を立てた真理党が惨敗してからだ。「社会的にもそれなりの立場を築いた人が出家することで、世間の目がかわるのではないか」と1989年2月に入信、1990年5月に出家した。
オウムがそんなことをするわけがないと信じていた。そしてオウムの中では麻原を権威あるものとして認めた。命令が出ると内容を考えないで服従した。
1995年5月6日午後9時30分頃、丸の内警察の取調室で林は「サリンをまきました」と供述した。千代田線新御茶ノ水駅近くでサリン2袋を突き刺して発散させ、231人に吸引させサリン中毒症を負わせた。
麻原の命により自分の医師としての知識と経験を悪用した。他の信教徒たちも教義の呪縛から解き放たれ、その誤りに早く気付いて欲しいと、麻原のまやかしに誰はばかることなくお話する決意です。
林は麻原を呼び捨てていた。自分で事実を語らなければならない。オウムに残っている人に麻原の裏の面を知らせたいと思ったという。そして青山弁護士のあと、和田弁護士を選任した。1998年林郁夫は無期懲役が確定した。
604■ 残虐記 |
Date: 2004-03-14 (Sun) |
おすすめ度 ★★★★
桐野 夏生 著 新潮社 発行:2004年2月
妻が小説「残虐記」を書いて失踪した。出版社あてに送るようメモがあった。妻は35歳。7年前に21歳年上の自分と結婚した。
妻は10歳小学4年生のとき、工員安倍川健治25歳に誘拐監禁された。1年余りを工場の上にあるアパートで安倍川と当時10歳の景子は「みっちゃん」と呼ばれながら暮らした。
小説の残虐記はそれを書いたものだった。安倍川は昼休みに差し入れを持ってきて、景子に裸になるよう強要し眺めながら自慰をする。夜は小学生のように景子と猫のまねをして遊ぶだけだった。
夏はクーラーをつけ真っ暗な部屋でも、それなりに過ごす方法を覚えた。隣りにヤタベという男がいると言っていたが、助けてくれることを想像しながら過ごした。
電気代が多すぎると社長から怒られたとケンジが言っていた。ケンジは漢字が少ししか書けない。小学3年生までしか行っていなかったという。
ある日、ヤタベさんが辞めたので社長夫人が掃除にきて、電気のメーターが回っている健治の部屋を不審に思い、ドアを空けて女の子を発見した。
ケンジは捕まった。景子は1年ぶりに団地の我が家に帰った。しかし、自分は好奇の目にさらされていた。
中学に入る前に両親が離婚し引っ越した。景子は母親と埼玉県に近い市に住み、新興住宅地で急速に人口の増えた新しい中学に通った。景子はやっと人々の目から開放された。
景子は16歳で「小海鳴海」というペンネームで小説を書いた。「泥のごとく」はヤタベとケンジの事を書いていた。偶然、新聞を見たケンジは「みっちゃん」と呼んだ景子が小説家になったことを知った。
閉じ込められたあの期間に景子はケンジに恋をした。ケンジもまた景子は大事な友達だった。
景子の元にきたケンジからの手紙。22年8ヶ月の刑を終えて出所を知らせるものだった。以来景子は帰ってこなかった。
検事であった自分と結婚した景子。事件と結婚したようなものだった。人間の邪悪な所為に絶えられなかったのであろう。事件の真実はわからないまま妻は失踪した。
603■ 夜盗 |
Date: 2004-03-12(Fri) |
おすすめ度 ★★★★
なかにし 礼 著 新潮社 発行:2003年12月
人が寝ているところへ忍び込んで盗みを働くことを「ノビ」というらしい。ノビがアメリカ人の家であった。
柏田源吉はあと1年で定年を迎える。最近の3年間に解決されていないノビの事件が3件ある。いずれも外人宅である。
柏田は「マリアの家」にいくことを楽しみにしていた。マリアの家は2歳から18歳までの子供たちが18人いた。マリアがやっている養護施設である。
柏田とマリアはともに別の養護施設で育った。柏田は高校を卒業と同時に警察学校へ進んだ。10年前に妻をなくした。子はなかった。マリアと再開し、彼女の行き方に感銘した。ときどき慰問に訪れることが喜びとなった。
マリアにプロポーズした。マリアは結婚はできないという。手紙がきた。マリアが15歳で犯されたこと、目の見えない洋一という子との出会い、外人相手のバーでの売春行為など、過去を告白するものだった。
そして、柏田はこのノビがマリアであることに気がつく。現場に残された、少年とも女性とも思われるスニーカーの足跡。
マリアを子供たちに分からないように連行する。
柏田の退官式のあと、1年半の判決を受けたマリアは釈放される。身元引き受け人が柏田であった。柏田の名がすでに書かれた婚姻届けをマリアに渡す。
602■ しまなみ幻想 |
Date: 2004-03-10(Wed) |
おすすめ度 ★★★★
内田 康夫 著 光文社 発行:2002年11月
「全国お宝捜査隊」は、東京から3人の鑑定人が来島して、大三島公民館ホールで収録された。
しまなみ海道は本州の尾道市と四国の今治市をむすぶ橋である。
300年続いた城下堂は、多いとき50人の従業員を抱えていたが、現在は家族8人でも賄える規模の落ち込んだ。妻の美和は金策に窮していた。銀行の利子さえも汲々するありさまだった。
そんな折、美和が海中から死体で見つかる。当時は自殺と片付けられた。中学入学前だった娘の咲枝も15歳になっていた。
美和を自殺の直前に見たという啓子が、運転を誤って谷に落ち死亡した。
浅見は現場に行き、美和も啓子も殺されたと直感する。娘の咲枝も母の当時の様子を聞くと、長細いものを風呂敷に包んで家を出たことを知る。祖父の掛け軸に違いない。
偶然知ったタカエという名を頼りに、プロダクションの田替と接触する。浅見がそのことを知り、咲枝の身の危険を察知する。
美和はやはり「狩野探幽」の掛け軸をもって出ていた。しかし、買いたいと言う美術商にも売る意思がないと伝える。どうしても欲しくなった美術商は啓子と組んで美和を眠らせ海へ投げ込んだ。
「魂が入っている」という言葉で有名な美術商の家で咲枝がみつかる。
601■ 三つの墓標 小説・坂本弁護士一家殺害事件 |
Date: 2004-03-07 (Sun) |
おすすめ度 ★★★
佐木 隆三 著 小学館 発行:2002年4月
1989年11月4日午前3時、横浜の坂本弁護士宅へ6人の男が押し入った。早川、新實、村井、岡崎、中川、端本の6人である。「子供だけは・・」という妻も絞殺した。布団にくるんで、3つの遺体を乗せ富士山総本部へ戻った。麻原と石井久子が迎える。ドラム缶にしたいを入れ再び山中に埋めるために出発。ブルーバード2台とビックボーンに分乗する。
子供は長野に、弁護士は新潟県に、妻は富山県に埋めた。
オウムのバッチを落したのは中川だった。
1989年11月15日、神奈川県警は、捜査員140人を動員して捜査に乗り出す。
1990年2月、東京4区から麻原が衆議院議員に立候補する。「真理党」を名乗り、東京、神奈川、埼玉、千葉からも25人のオウム教徒が立候補した。
1990年2月、岡崎はオウム真理教を脱会した。1995年3月20日に地下鉄サリン事件が発生した。岡崎はオウムのしわざに違いないと直感した。5月18日「自首したい」と神奈川県警に連絡する岡崎。
9月6日、5年10ヶ月ぶりに3人の遺体が発見される。岡崎の自供によるものが大きかった。岡崎は逮捕される。
岡崎、中川、早川、新實などの供述がでてくる。生々しい当日の様子が痛ましい。
600■ 点と線 |
Date: 2004-03-04(Thu) |
おすすめ度 ★★★★★
松本 清張 著 文芸春秋 発行:1971年4月
赤坂の割烹料亭「小雪」の常連客の安田は、官庁への納入が増えこのところ、この店のいい客であった。
安田に誘われて小雪のとみ子と八重子は銀座で食事をした後、東京駅まで安田を見送りに行った。その時に偶然、店の仲間のお時が若い男と親しそうに話しながら向かいの電車に乗るところを見かけた。
数日後、お時は××省の役人佐山課長補佐と九州の香椎の海岸で心中をした。
心中ということで調べも甘く事件は片付いたかに見えた。しかし、××省の佐山課長補佐は汚職事件の渦中にいた人物である。お時にも心中をする動機がない。
わざわざ東京駅まで送らせた安田という男の供述を確証していった。しかし、間違いなく口述どおり電車に乗って出張していた。
佐山のポケットからお一人様という列車食堂の受領書があった。心中をするのに、一人だったのだろうか。そして、お時の方を調べると旅館の支払いは別の人物がしていた。安田の妻である亮子である。
やがて、心中事件は別の殺しへと判明していく。
599■ 回想・私の松本清張 霧の中の巨人 |
Date: 2004-03-03(Wed) |
おすすめ度 ★★★
梓 林太郎 著 詳伝社 発行:2003年11月
梓と清張は1980年までの間に20年ほど親交があった。梓は妻子を抱え借金に追われながらあちこち転々としていた。そうした苦労話を清張は耳を傾けて小説のヒントにしていた。
親しかった西川が入院した時、離婚を二度した為に二人の元妻に残した預金通帳を渡す役を頼まれたこと。妻が二人駆けつけたが、お骨は別の女性が引き取っていったこと。広告のセールスをしたこと。友達の保証人になって夜逃げしたこと。夜逃げした先が両親の隣り町であったが、訪ねてきた両親から恥かしいから家には近づくなと言われたこと。調査会社に勤めたことなど。
残念ながら清張とのエピソートは少ない。自伝に終始している。
598■ 砂の器 |
Date: 2004-03-01(Mon) |
おすすめ度 ★★★★★
松本 清張 著 文芸春秋 発行:1971年9月
国電蒲田駅操車場に男の死体があった。始発の電車を動かす為に点検にきた若い男によって発見された。死後3時間ないし4時間だった。前夜12時から1時ごろであろう。試飲は扼殺であった。
聞き込みの結果、駅近くのトリスバーで二人ずれで飲んでいたことがわかった。相手は30代か40代の男であった。殺された男は東北弁を話し、若い男が「カメダは今も相変わらずでしょうね?」と言っていた。被害者は事件後なかなか身元がわからなかった。
「岡山県江見町××通り 雑貨商 三木彰吉」という名刺を出しながら、父が伊勢参宮にでたきり、3ヶ月も戻っていない。蒲田の事件が自分の父親かどうか確かめたいというものだった。
被害者は三木謙一 51歳であった。遺体はすでに焼かれていたが当時の現場写真で確認された。
三木は昔、10年ぐらい出雲の亀嵩で巡査をしていた。 出雲は東北弁に煮たズーズー弁を話すことがわかった。
犯人はこの土地に関係があると今西刑事は考えた。
活躍中の作曲家の和賀英良は、現大臣の娘田所佐知子と婚約をしている。彼の戸籍は父和賀英蔵、母キミ子の長男で大阪市浪速区に本籍を置いていた。両親はすでに死亡していた。
三木が巡査時代に放浪の親子連れを世話をしていた。父はらい病の末期症状をしており、すぐに療養所へ収容し、連れていた長男秀夫は三木が保育園に入れ保護していた。放浪癖が身についていたためか秀夫はまもなく亀嵩を脱出していた。
偶然見た映画館で30歳になった秀夫の写真を見た三木は東京に出たのであろう。当時7歳ぐらいの子供であった秀夫。
戸籍は16歳の時に、秀夫本人によって再編されていた。当時は戦争で焼かれた書類も多く、本人の申し出を受け入れられたのであろう。
らい病を患った父。その時代は隔離された大変な病気であった。
597■ 17年の空白 |
Date: 2004-02-29 (Sun) |
おすすめ度 ★★★
西村 京太郎 著 実業之日本社 発行:2002年7月
十津川警部の元に女性が訪ねてきた。大学時代に同窓だった曽根まゆみだった。広田トーイの一人息子と結婚したと聞いた。17年間会っていなかった。
「広田を助けて欲しい。主人が警察に逮捕された」という。大阪のラブホテルで若い女性がつづけて二件、手錠をはめ全裸で殺される事件があった。その犯人として逮捕されたという。
十津川は休暇を取り、友人として大阪府警に事実を確認する。おもちゃの手錠をはめられ首をしめられて殺されていた。
無実を確証できないまま帰郷した。
東京の鶯谷のラブホテルで同様な事件が起きる。手錠をはめられ全裸で絞殺されていた。
広田は釈放された。
十津川の元に「天六のラブホテルで事件が起こる」と連絡が入る。女性が騒いだ為に殺されないですんだ。女性の証言から広田に似た似顔がかかれた。
十津川が広田家を訪れる。テーブルの上に自分あての封書を見つける。鶯谷の事件はまゆみがやったことと広田が犯人であることがかかれていた。
まゆみは海に身を投げる。広田は逮捕された。
596■ 冤罪 |
Date: 2004-02-27(Fri) |
おすすめ度 ★★★★★
渡辺 涼夢 著 たま出版 発行:2003年12月
AV女優が便器をまたぐ格好で、入口に背を向け水槽に上半身を預ける格好で死んでいた。このAV女優は現役の筧正太郎警視総監の娘美怜であった。
美怜は自分を助け一緒に1年間暮らした城戸口が、別れた娘の手術費用に困窮していた為に1度だけAVに出演した。
美怜の死を知り、坂戸口は嘆く。やがて一人の男がトイレからあわてて出ていったという証言を元に逮捕された。黒姫という小柄な男である。黒姫は1年8ヶ月前まで強姦の罪で収監されていた。しかし、その罪は女性の芝居によって冤罪であったにも関わらず認められなかった。今回も彼の行動を検証すると殺すには時間が不自然であった。黒姫はまたしても別の女に落し入れられてウソの証言をされていた。
城戸口は山口の敏腕弁護士により殺された女性に残った体液と黒姫のDNA鑑定を請求。黒姫が釈放される。週刊誌が黒姫の前の事件も冤罪の疑いがあるということと、殺された女性が警視総監の娘であるということをすっぱ抜く。
警察をやめAV男優をしている男が逮捕される。
595■ Pの迷宮 |
Date: 2004-02-24(Tue) |
おすすめ度 ★★★★★
深谷 忠記 著 角川書店 発行:2003年9月
弥生は結婚してからも原因不明の発作に襲われていた。精神科の受診をしたところパニック発作特性PTSDといわれる。
テレビで活躍している隈本医師のカウンセリングを受ける。小さい頃に受けた傷を思い出すように言われる。1冊の本を読むよう指示される。それに影響されたのか弥生は一瞬「幼い頃、裸の養父がのしかかってくる」という場面を想像した。それは現実にあったことだとカウンセラーは断定した。
弥生は母も養父も遠ざけ悩んでいた。そんなおり、母がホテルで隈本医師を包丁で刺殺してしまう。取調べの間も母は黙秘を続けた。判事の夫の不名誉なことは守らなければならない。弥生とその家族も守らなければならない。
マスコミは不倫だ。愛人関係にあったとあることないこと書きたてた。
裁判の日、養父は証言台に立ち「わが子に対して性的虐待は談じてしていない」という。この証言をかわきりに妻も黙秘を止め、事件の全貌を話す。隈本は養父と結婚する前の母と付き合いがあった。そして隈本は自分をふった女に復讐するために弥生の潜在記憶を作り上げてしまう。母は懲役二年ですんだ。
594■ 十三の冥府 |
Date: 2004-02-21 (Sat) |
おすすめ度 ★★★★★
内田 康夫 著 実業之日本社 発行:2004年1月
なにわより じゅうさんまいり じゅうさんり・・・と歌いながら蕪島神社ですれ違ったお遍路さんが殺された。新郷村のピラミッドの近くであった。
浅見が青森のピラミットと「竹内文書」に興味を持ってやってきた。「竹内文書」には「戸来」をヘライつまりヘブライに通じキリストの終焉の地であるという。ピラミットは三角形をした山であった。事件のことを知った浅見はこの殺人事件に関わることになった。
お遍路は伊藤由衣といい、20年前に赤ちゃん取り違えで由衣の子は別の人のところへもらわれていった。
赤い服を着た女性ともめていたという。そして次は本間教授が論文発表の直前に死んだ。その死に疑問を持った谷内洋蔵も材木が落ちて死んだ。第一発見者の山下も死んだ。
アラハバキの祟りで亡くなったという噂もたった。
卒論で十三湊をやることにした容子は、お遍路さんの歌をどこかで聞いたことがあった。母に聞くと異常に反応し、口に出せない。
浅見はこの事件に八荒神社が関わっていることをつきとめる。妖艶な巫女睦子は40代の女性であった。宮司の湊の愛人と言われていた。
浅見が容子の母親に会って巫女睦子のアリバイが崩れる。容子の母と睦子はよく似ていた。
やがて、睦子も湊も毒殺された。殺したのは睦子の母親だった。睦子は宮司の子であった。16歳の時に巫女に産ませた子で、当時それを知った宮司の妻は自殺した。
睦子の母は16歳だった。いっしょに働いていた同じ年の秀子とともに子供を置いて逃げた。やがて秀子は死に母は秀子の名でその後は生きてきた。睦子と湊の悪事は噂に聞こえていた。同じ時に子を産んだお遍路と偶然出会った。
そして宮司と睦子の成敗を考えたという。
593■ 月の見える窓 |
Date: 2004-02-16(Mon) |
おすすめ度 ★★★★
新野 剛志 著 双葉社 発行:2003年11月
キャバクラで働く女性麻衣が子供を預けたまま戻ってこないと義理の弟健二から電話が入る。キャバクラのスカウトマンの昌彦はすぐ健二のもとへ向う。
麻衣は昌彦がスカウトした女性であるが、しっかりしていた。2歳の子を預けっぱなしで行方をくらます子ではない。
事件に巻き込まれたと確信した二人は麻衣の行方を探す。
キャバクラで一番指名をしてくれた江端を訪ねると、江端の息子が誘拐されたことを知る。麻衣が失踪した時期に重なる。
江端の息子は人工透析の帰りに襲われた。今度の透析の日までには見つけなければならない。江崎の住むマンションの向い側で老人に会う。老人に見覚えがあった。通り魔に妻を殺されたときにテレビでインタービューを受けていた夫の顔だった。周りの人が協力してくれたら妻は助かったかもしれない。
老人を探っていくと誘拐事件に関わっていた。しかし、複数でやっているのでどこにいるかわからないという。見つける手だては、あちこちにばらまいたカードを3つ合わせると居所がわかるという。警察が動き始めた。しかし、誘拐された子を遺体となって車から発見される。
麻衣の元夫が誘拐事件に関わっていた。麻衣は救出される。
592■ 密事 |
Date: 2004-02-13(Fri) |
おすすめ度 ★★★★
藤田 宜永 著 中央公論社 発行:2004年1月
藤倉弥生は45歳になる。20年ぶりに会った邦暢から「今は80歳になった園城寺佐和の自伝を出そうと思っている。彼女のゴーストライターとなってくれないか」という。ゴーストライターとは、影の著者、つまり口述などをもとに本人に成り代わって書くことである。
弥生は、前夫との間に生まれた20の女の子と実母と3人で暮らしていた。弥生には9歳年下の哲雄と付き合いがあり、結婚を求められていた。
鎌倉の佐和の自宅に行く。そこで甥の浄人にであう。前夫と似た雰囲気を持つ浄人であった。毎週金曜日に佐和の話を聞くために訪問をする。やがて浄人と関係を持つようになる。
哲雄との関係を清算し、浄人と暮らそうと考えた矢先に、佐和が急死する。ゴーストライターでなくてもよい立場にはなった。
佐和の遺品を整理していると隣地に住む政治家で総理候補ともなった黒木と佐和の関係を知る。
浄人には妻があり、妻の母とも関係があった事を知る。浄人の妻は3人がこれからも暮らしていくと告げる。
591■ 炎と氷 |
Date: 2004-02-10(Tue) |
おすすめ度 ★★★★★
新堂 冬樹 著 祥伝社 発行:2003年10月
14年前、熊本の中学で一緒だった世羅と岩瀬は今では東京で闇金融をやる商売敵だった。
炎を氷で沈めるか、氷を炎で燃やすかの戦いであった。
世羅は、渋谷の喫茶店を根城に競馬好きに最高1回5万円を貸し、木曜日までに七万五千円にして返すというもの。取りたてはきびしかった。七福ローンといって競馬ファンの間で結構な稼ぎになった。そこへ銀行男の赤星が200万円を借りたいと行ってきた。近いうちに退職し退職金3000万が入るという。世羅は特別に貸し付ける。
しかし赤星は期日がきても払おうとしなかった。裏では若狭からも金を借りていた赤星は、踏み倒すことを教えられた。
若狭の存在を知った世羅は、赤星を拉致する。退職の日まで拘束するつもりだった。
それを知った若狭は、銀行の所有する土地を勝手に使用し、短期賃貸借権を主張し七千万円を巻き上げようとする。交渉にでた銀行側に赤星の退職金を凍結し、こちらに渡すように交換条件をつける。
銀行側は競売の日が迫っていることから、要求に応じる。
支払日の当日、赤星は銀行通帳と印鑑を持って銀行へ行く。しかし、不正を理由に退職金は支払われなかった。はめられたと知る。
世羅は銀行にも乗り込む。世羅と若狭の攻防はますますエスカレートした。
そしてついに、矢島組の手によって世羅の炎は若狭の氷の前に日本刀にえぐられ燃え尽きた。
しかし、若狭も世羅の狂った子分に刺身包丁で何度も刺される。
590■ 熱欲 |
Date: 2004-02-07(Sat) |
おすすめ度 ★★★★★
堂場 瞬一 著 中央公論社 発行:2003年10月
夫の暴力から逃れようとした女がかけ込んだのは、青山家庭相談センターだった。生活安全課の鳴沢了は通報で出向く。
鳴沢は古い友人と何年ぶりかで会う約束をした。夜勤明けだったがアメリカから一時帰国した内藤の家へ出向く。そこで家庭相談センターの相談員をしている優美に会う。内藤の妹だった。
K社が出資すれば売上の何パーセントかを配当するという儲け話をでっちあげ、悪徳商法をおこなっている。儲け口に乗った老人達が騙されたと警察にやってきた。返金はしないばかりか、もっと大口の融資を持ちかけた。ヤミ金融を紹介された。
警察が内定をすすめるなか、顔を見せない太田という男がK社のリストをくれた。太田は大きな力がバックにいるという。
鳴沢は事件を捜査する。殴られ危険な目に会う。夫の暴力から逃れたいと言った女の夫もK社に関係していた。
中国人のマフィアがバックにいることを知った。それは親友内藤の父を殺した相手でもあった。
度重なる内藤家の出入りで鳴沢は優美やその息子とも親しくなる。K社への捜査が始まった。事件は解決に向う。
589■ 山陰殺人事件 |
Date: 2004-02-05(Thu) |
おすすめ度 ★★★
津村 秀介 著 ワンツーマガジン社 発行:2003年10月
保土ヶ谷、磯子、戸塚署内で4人の若い女性が襲われた。いずれも一人暮しだった。うち2人は乱暴をされた上に全裸で殺された。
岡山で全裸の男の死体が発見された。昨年夏、暴力団の内部抗争で八千万円を持ち逃げされる事件があった。水島灘の小さい島で6つの死体がでてきた。逃亡した組員のうち3人はまだ逃亡中だった。
そのうちの一人矢部は山陰にもどり家族を道づれに放火心中をしていた。
週刊広場の記者の浦上は「夜のレポート」で「連続婦女暴行事件」を追っていた。モンタージュ写真と犯人の遺留品から容疑者が浮かび上がった。しかし、容疑者にはアリバイがあった。
モンタージュに似た男は山陰本線で自殺した。「婦女暴行事件の犯人は自分です」という遺書もあった。
しかし、浦上はこの男が自殺ではないと直感した。自殺した男の実家で山陰のツアーの団体旅行写真を見た。殺された若い女性と自殺した男が同じ記念写真に写っていた。1年前に放火心中で死んだ矢部の指紋が出てきた。矢部は生きている。ツアーの仲間と死んだはずの男は一体誰か。
588■ 美しき日々 上・下 |
Date: 2004-02-01(Sun) |
おすすめ度 ★★★★★
ユン・ソンヒ 著 NHK出版 発行:2003年10月
NHKが昨年秋に放映した韓国のテレビドラマをノベライズしたものです。
ビクトリーレコードと影音レコードがあった。ビクトリーレコードの社長は、影音レコードの社長を殴殺し、それを交通事故に見せかける。そして影音レコード社長婦人を自分の後妻に迎える。
二人にはそれぞれに子供たちがいた。母が死んで間がないのにすぐにやってきた義母に長男のミンチョルと妹のミンジは快く思っていなかった。しかし、義弟は成績もよく15年後は医大に進学する。
長男は父の後を継いでレコード会社の企画室長になる。妹ミンジは大学受験に失敗していた。
養護施設で育ったセナとヨンス。ヨンスはビクトリーレコードのアルバイトをする。セナは歌手を志望していた。妹に手を焼くヨンスを見た室長のミンチョルは自分の妹にも手を焼いていたので、ヨンスに妹の家庭教師になるかわりにセナを歌手になるチャンスを与えるという。
ヨンスはミンチョルの家で家庭教師として働く。セナは歌手になる。が、歌手になれた経緯を知ったセナはヨンスを避けようとする。
ヨンスはミンチョルとその義弟のソンジェと二人から愛される。ヨンス自身はミンチョルに好意を寄せていた。
影音レコードの新しい社長となった元歌手のミミは、ビクトリーレコード社長婦人に近づき、ビクトリーレコードが影音レコードの墓の上に成り立っていると告げる。
父が義母の夫を殺したことを知った長男や義弟、妹は苦しむ。父も世間から非難を浴びる。25年も前のことであるが、信用は失墜してしまう。義母ははじめて知った事実に自殺してしまう。
ビクトリーレコードは倒産する。ミンチョルもヨンスとの婚約を破棄する。自暴になっているミンチョルをヨンス忘れられないでいた。
そこへヨンスが倒れる。骨髄を移植しないと生きられない大病だとわかる。ミンチョルはヨンスとの結婚を決意する。そしてレコード会社の再建にたちあがる。
影音レコード社長のミミも復讐を終え、業界を去る。日本から骨髄の提供者が見つかる。
587■ 異聞 新撰組 |
Date: 2004-01-30(Fri) |
おすすめ度 ★★★
童門 冬二 著 朝日新聞社 発行:2003年11月
一人の商人の息子を通して新撰組を見た小説である。
河井伊三郎は播磨国高砂の塩問屋の息子であった。「武士になりたい」と壬生の誠忠浪士組に入隊する。幹部には芹沢鴨、近藤勇、土方歳三がいた。
伊三郎は当初土方からは蔑まれていると感じていた。伊三郎自身も土方の話は半分正しく半分は間違っていると感じていた。
やがて伊三郎は隊内で組の金を扱うようになる。組の金とは別に金庫を作って無理しで個人的に金を貸していた。
近藤勇の働きで壬生誠忠浪士組は公認される立場になった。
松陰門下の三秀といわれた、高杉、久坂、吉田稔磨は「もっと人間は平等であるべきである」と実行したかった。
しかし、吉田は沖田総司に殺される。組はだんだん別の方向へ進んでいく。
1865年、伊三郎は公金横領の罪で土方によって斬首された。孝明天皇は「長州藩を征伐せよ」と怒る。
586■ 顔 |
Date: 2004-01-29(Thu) |
おすすめ度 ★★★★★
横山 秀夫 著 徳間書店 発行:2002年10月
「わたしのゆめは、ふけいさんになることです」ひらのみずほ
小学校1年生の時に書いた作文である。平野瑞穂は巡査になって6年、23歳である。
今は広報室公聴係である。以前は機動鑑識班の一員だった。引ったくりがあり、瑞穂が犯人の似顔絵を書いた。つかまった犯人は似顔絵に似ていなかった。課長の命令で似顔絵を書きなおす。そして翌日の新聞は「お手柄婦警、似顔絵で犯人ご用」であった。自己嫌悪がすざまじかった。半年間休職した。
そして今はテレホン相談の仕事である。似顔絵は書いていた。電話がなった。「昔家が火事になって、伯父さんが父と母を・・・。怖いのです」という。さっそく調べると14年前、火事で6歳の子が両親をなくしていた。義理の弟の犯行として弟は無期懲役であった。しかし服役まもなく首吊り自殺をしていた。
少女は20歳になっていた。瑞穂と接するうちに自分が両親から摂関を受けていたことで両親が居なくなればいいと火をつけたという。伯父がそれを知って助けてくれた。「このことは誰にも言ってはいけない」ときつく口止めされた。6歳の子は罪にはならない。しかし、過去と決別する為に警察に出頭したいという。瑞穂が付き添う。
銀行で訓練で2人組みの強盗が金を奪う。行員は蛍光ボールを犯人に投げるという段取りだった。訓練終了後、同時刻に同じ場所で現金3千万円を奪って犯人逃走中。「本日は訓練にあらず」であった。
まさに強盗であった。犯人は床にガソリンを蒔いて逃走した。瑞穂は現場の状況を思い出していた。若すぎる母親、子供を抱っこしていた。裸足にサンダルの老人。下膨れの行員。誰かがつながっているはずだ。
瑞穂は運転免許センターで75万人の中から20才前後の若い女性を見つけ出す、あの時の赤ちゃんを抱いていた人物を。早速会いに行くが、子供はアルバイトで見ていたという。無関係だった。
次に老人に会う。ドアを叩く刑事の声。老人は話し始めた。「孫娘が銀行に勤めていた。一昨年訓練と知らないで窓口で強盗と対面した孫娘は怖さに失禁してしまった。訓練が終わり、それを同僚達は笑い者にした。孫娘は銀行を辞め、拒食症になった。肺炎がもとで亡くなった。銀行をうらんでいる」と。今回の訓練を耳にして、仕返しをしてやろうと思った。
585■ クライマーズ・ハイ |
Date: 2004-01-27(Tue) |
おすすめ度 ★★★★★
横山 秀夫 著 文芸春秋 発行:2003年8月
日航機墜落から収束に向うまでの地方新聞社の多忙を描いたもの。
昭和60年8月12日大阪行の日航123便ジャンボジェット機が群馬県上野村山麓に墜落した。
北関東新聞は今回も地元紙としての地の利を活かして圧倒できると思った。しかし、全国紙は総力をあげて記者を群馬県に送り込んできた。資力も人的余裕もない北関東新聞はじり貧だった。
悠木はデスクとして編集のトップを何にするかで連日激を飛ばしていた。
柩にすがり泣き崩れる家族の記事、その下に日航のお詫び広告を載せるのは許せなかった。また、市民体育館に花輪が二つ、内閣総理大臣と、元内閣総理大臣の名が入った二つは、なぜかマスコミが許される場所の正面にあった。苦い汁がこみ上げてきた。
圧力隔壁が破壊されたことが事故原因と知ったが記事にしなかった。毎日新聞がしりもち事故と圧力隔壁の破壊が原因と報じた。
悠木は臍を噛む思いであった。たまらなく情けなかった。
悲しみ路線で行こうという中で、ある少女の投書を載せた。「人の命って大きい命と小さい命がある。私の父や従兄弟の死に泣いてくれなかった人のために私は泣きません。たとえそれが、世界最大の悲惨な事故でなくなられた方の為であっても」と書かれてあった。翌日283件の抗議電話があった。しかし遺族からは1件もなかった。投書の女の子は遺族の方に謝りたいと電話してきた。悠木は励ます。
日航事故から3年後、投書の女の子は北関東新聞社に入社した。他社が恐れるほどの敏腕記者に成長した。
悠木は病気と闘っている親友安西の息子と山に登る。「山は降りるために登る」といった安西。安西はくも膜下で倒れた。やっと笑うようなしぐさを見せるように回復している。
584■ 甘水岩 |
Date: 2004-01-25(Sun) |
おすすめ度 ★★★★
多田 容子 著 PHP研究所 発行:2003年11月
狭尾川を挟んで2つの里があった。片方は百姓村、もう一方は湯治場だった。川の上流に口をあけた大蛇の頭形の岩があった。
その岩から甘い水が湧いているという。水は不治の病に効くという噂が広まったことから、この領域を2つの村が争い、小競り合いを繰り返していた。
伊真も13歳の時に、隣り村が雇い入れた曲者によって殺された。同じ日に伊真と兄は父を殺したものを見つけ仇を取ることが出来た。それが切っ掛けで隣り村から、人柱をささげれば村を攻めないと言って来た。大人になりきらない伊真は、人質となって拷問を受ける。
20才になった頃、伊真は甘水岩の近くで巫女に会う。人をも恐れぬ巫女に背後から犯してしまう。しかし、暴れることなく巫女は情報を提供してくれた。
伊真は巫女によって人に対しての接し方がやわらかくなった。
伊真と巫女は甘水岩の近くで戦いのない暮らしを選んだ。
583■ 影踏み |
Date: 2004-01-24(Sat) |
おすすめ度 ★★★★
横山 秀夫 著 祥伝社 発行:2003年11月
真壁修一は2年間の刑期を終え出所した。「ノビカベ」とあだ名される盗人だった。
修一は両親とも中学校の教師だった。双子の弟がいた。修一は現役で法学部に入学できた。弟啓二は浪人生活となった。浪人中に弟は空き巣を重ね、それを悲観した母親が弟を道ずれに放火心中した。その二人を助けようと父までもが焼死した。
焼かれて死んだものを更に火葬場で焼こうとする係官に乱暴を働き、傷害事件になり大学を退学になった。以来定職に付いていない。15年になる。
修一の耳にはいつも啓二の声が聞こえる。お互いに会話が出来る。
2年前の新聞に目を通した修一は、盗みに入ったら家の妻が物音に目を覚ましという部分が事実と違うことを知る。
真意を探ろうとその家に行くが、競売にかけられて妻は離婚して出ていっていた。
そして、つかまった日にあまりに早い警察の動きと、吸殻の山だったテーブルにライターだけがなかったこと。化粧品のビンがどれも空っぽだったことに、妻は亭主もろとも放火を考えていたのではないか。そして警察の中にそれを知ったやつがいたはずだ。
担当だった刑事がドブ川で水死体で見つかる。30センチの水深である。誰かにやられたと直感する。
調べるうちに競売にかかわった執行官の裏を知る。架空名義の通帳を見つける。修一は執行官に会う。
務所仲間に頼まれたサンタクロースの役をやる。父親が娘の目の前で交通事故にあって即死した。父親はデパートで娘の欲しがる人形を盗んで警備員に追われていた。飛び出した父親にバイクがはねた。父親は盗人の仲間だった。修一がそのうちに入るとあきらかに自分の子とは別扱いの虐待を受けて娘は寝ていた。枕元にピンクのお礼の手紙があった。修一はプレゼントを置いて立ち去る。と、そのとき警官らしきものに追われる。
後日、警官と思われたのは警備員だったことがわかる。父親を追わなければあの子の父親は生きていられたのにと今も心を痛めていた。いつもはそっと渡せたプレゼントだが、今年はもうしのび込めないので変わりを頼んだ。気になって様子を見に行ったという。お礼を言うつもりが警官と間違われ逃げられたと。
582■ 哀愁的東京 |
Date: 2004-01-20(Tue) |
おすすめ度 ★★★
重松 清 著 光文社 発行:2003年8月
インタビューの相手から、学生時代に新宿で「アリスの部屋」という覗き部屋があったことを聞かされる。ついてはそこのアリスと会えないかと頼まれる。フリーライターの僕は20年前のアリスさんを探す。
アリスさんは見つかった。快く承諾してくれた。40歳の男はアリスに会って、お互いに喋り始める。僕はアリスをスケッチしながら待機していた。「ありがとう」と言う言葉を泣きじゃくりながら何度も言うこえが携帯を通して僕の耳に届いた。
僕は「パパといっしょ」という絵本作家だった。今は書いていない。フリーライターが仕事になってしまった。
閉園を伝える遊園地は昭和40年代はじめに造られた。最盛期の10分の1の入場者しかないという。遊園地で18歳の少女の話を聞きながらそのこの裸体画を書いていた。
休憩3800円というラブホテル。昔は総鏡張りで回転ベットだった。今はベットとソファーがあるのみのシンプルなものだった。
部屋の様子をスケッチしながら写し取っていく。
絵本を書いて欲しいと何度も言われながら書けなかった。書いた絵は、覗き部屋の女優、18歳の少女の裸体、モーテルの部屋、虹、トランプの絵札、駅で迷子になった男の子、黒焦げのワゴン車だった。それが僕の絵本だ。
581■ 強奪 箱根駅伝 |
Date: 2004-01-18(Sun) |
おすすめ度 ★★★★
安東 能明 著 新潮社 発行:2003年10月
12月30日、神奈川大学の合宿所にファックスが入った。「みずのはあずかった。はこねえきでんにさんかするな。じんだいこうすけ」と書かれていた。
女子マネージャーの水野友里が誘拐された。都留康介は、駅伝で走ることに賭けていた。走れば水野の命が危ない。
12月31日 電波を通じて水野の姿が映し出された。日本テレビは映像のテストを行なっている時だった。犯人からプロデューサーに要求が入る。都留を3号車の中継車にのせろという。そして2億円の現金とスポンサーの宝石10億円分だった。
神奈川県警が動き出す。部員の一部とテレビ局の人間しかこのことを知らなかった。テレビモニターを通じて、人質の友里の姿が映し出される。縛られている。
画面の右端に酸素濃度を知らせる数値が出ているという。要求を蹴った時には操作1つで人質が死に至るという。
1月2日、神奈川大学は13位で往路を走り終えた。警察はパソコンの画像から、民家を割だし捜査に向かうが無人だった。机の上にパソコンとモニターがあった。遠隔操作をしている。
声の感じから犯人をつき止めた警察は海辺に向う。以前に捕まえたことのある人間だった。
1月3日 往路は9区のあたりで区間最高タイムで走りぬけた神奈川大学は、直前に水野友里の救出を知る。
都留康介はラストの区域を走る。品川から大手町まで、ゴールに向って疾走する。康介がテープを切った。
580■ 第三の時効 |
Date: 2004-01-17(Sat) |
おすすめ度 ★★★★
横山 秀夫 著 集英社 発行:2003年2月
タケウチ電器店の武内がエアコンを取り付けたあとも、他の電気製品をいじくるなどしてなかなか帰らない。
ゆき絵の主人はタクシーの運転手で朝まで戻らない。
武内がのしかかってきた。ナイフを着きつけられて恐怖を感じたゆき絵は堪えていた。
やがてドアの開く音とともに主人が戻った。「助けて」という声に主人は武内に向っていった。そして金属バットに手をかけたが、背中を刺されて死んだ。
時効の成立する15年後、アパートに警察が張り込んだ。本当の時効は7日後である。武内は台湾に7日間渡航していた。時効を知ってやってくる武内を逮捕する為に。
3年前に武内から電話があった。あずさは俺の娘だろうと。娘は武内にそっくりな耳朶であった。
刑事の森はあと7日待つことになった。そして7日も終わった。武内が電話してきた。追われる武内。それをみてゆき絵は「私が夫を殺した」と自供する。
しかし、第一の時効が成立する前に起訴の手続きがされていた。それが第三の時効だった。犯人は武内ではなく、ゆき絵だとにらんだ刑事がいた。娘ありさは父だけでなく、母までも失おうとしていた。刑事の森はそのありさを引き取ろうと考えていた。
579■ 真相 |
Date: 2004-01-15(Thu) |
おすすめ度 ★★★★★
横山 秀夫 著 双葉社 発行:2003年6月
「真相」では、息子を殺した犯人がつかまった。10年経っていた。殺された息子は当時15歳だった。
つかまった犯人から、息子は当時万引きをした息子と友人は逃げた。息子だけは男に目撃され3000円と時計を取上げられた。そのとき息子が男に捨て台詞を言った。その言葉に男がかっとなってナイフで下腹部を刺した。
父親はその事実に「人殺しのごたくを真に受けて死んだ息子を傷つけるのか」と怒る。
逃げた友人というのが今、娘と結婚をする男だった。
「18番ホール」 村長選に出る男は、14年前に18歳の女性を車ではね、山中に埋めた。
選挙は相手のほうが有利に見えた。選挙は罠だったのか。男は18番ホールの近くの女を埋めた場所に向かった。 途中、またしても男をはねてしまった。
彼の携帯に当選を知らせる電話が・・・。
「他人の家」 強盗を働くような人には私のアパートに住ませるわけには行かない。突然、大家に言われた貝塚は罪を償って、隣りの県に移り住んで半年だった。
なぜ、俺のことが・・・。インターネットで古い新聞記事が検索できることを知った。罪を償ってもそれは消えてくれない。
それを聞いた佐藤老人は、「私のうちに住みなさい」と言ってくれた。佐藤は7年前に妻が男と駆け落ちし、子供たちは親を見捨てている。よかったら貝塚という名前から、佐藤姓を名乗らないかといわれる。養子縁組をしてくれた。
そこへ強盗を働いた昔の仲間が訪ねてきて、平和が壊れそうになる。必死で男に向い撲殺してしまう。そして、死体が見つからなければと床下を掘る。床下から、頭蓋骨が見つかる。たぶん、男と逃げたという妻のものだろう。貝塚はそれを知ってこの家を守ろうと決心する。
578■ 半落ち |
Date: 2004-01-13(Tue) |
おすすめ度 ★★★★★
横山 秀夫 著 講談社 発行:2002年9月
連続婦女暴行魔の逮捕に向かっていた志木警視は、妻を殺したと自首してきた本部教養課の梶警部の取調べをするよう命じられ、急きょ戻った。
12月4日に7年前に死んだ息子の命日に妻を扼殺した。「妻はアルツハイマーであった。墓参りに行ったことも忘れ、半狂乱になり息子の命日まで忘れている。もう人間じゃない。死にたい。息子を覚えている間に死にたいと何度も殺してと頼むので不憫に思ってこの手で絞め殺した」
「自首までの2日間、あなたはどこで何をしていたのか」と問うと梶は口を閉ざしたままだった。誰かをかばっている。
死体を放置して2日間の間に東京の歌舞伎町に行ったことがわかったが、それを報道すると警察官の人間性が疑われる。あくまでも死に場所を求めてさまよったことにしたい。
佐瀬検事はその調書を読み、捏造の疑いを持つ。W県警が組織ぐるみで闇に葬ろうとしている。佐瀬は県警に出向き怒りをぶつけるが、それを東洋新聞記者の中尾が聞いていた。
岩村刑事部長から「報道は自由だが、君らのペンがいくつもの命を握っていることを忘れるな」と言われる。
志木は梶が50歳になったら死のうとしていることを感じる。死なせたくはない。
梶はドナー登録をしていた。51歳の誕生日に登録が取り消される。どうせ、死ぬならもう一人助けたいと思った。
新聞に載った「歌舞伎町の一番小さなラーメン屋」で働く青年の骨髄移植に感謝する投書に、自分の息子は救えなかったが、自分の骨髄で救えたその青年に会いにいっていた。
移植のルールで名乗り合うことはしなかったが、身元は明かすつもりはなかった。人殺しの骨髄をもらったということが青年に知れない為に、彼は歌舞伎町へ行ったことも口にしなかった。
志木は歌舞伎町の青年を捜し、そっと梶に会わせる。青年は気がついていた。会った時からドナー提供者であると直感していた。
「僕にはお父さんが二人います。骨髄をくれた人もお父さんだ」という。
梶は4年の懲役になった。
577■ 晩鐘 上・下 |
Date: 2004-01-05(Mon) |
おすすめ度 ★★★★★
乃南 アサ 著 双葉社 発行:2003年5月
母は高校教師だった男に殺された。殺された側の家族も、犯人の家族もそれぞれが崩壊の危機にさらされていた。
7年後、教師の妻だった女性は、中学生の兄の子のが長崎で自殺する。事件記者はお葬式の日に教師の妻に偶然であう。
妻は幼かった子供を長崎の祖父母に預け、二人の子供たちは父も母も知らずに生活していた。母のことは東京の叔母であり、父のことは誰も教えてくれなかった。小学六年になった長男はやがて、東京の叔母に引き取られるが、叔母が母であることを知る。
食事を作るでもなく男に依存して生きる母を長男は許せない。そして父のことも知りたいと思うようになる。
一方、母を殺された家族は、父は後妻をもらいもうすぐ子が生まれるという。7年前高校生だった姉妹は突然の母の死に戸惑い、やがて成人して家を出ていた。家族はこころに重い傷を負っていた。
父の再婚を許せない真紀子。それを聞いてくれる記者。真紀子は徐々に明るさを取り戻してくる。記者は「連鎖」というタイトルで事件の後の家族の気持を仮名で特集する。
高校教師は8年後仮出所していた。
加害者の家族達の心の叫びを知るような思いである。
576■ ルーム |
Date: 2004-01-01(Thu) |
おすすめ度 ★★★★★
新津 きよみ 著 実業之日本社 発行:2002年9月
姉と7年も会っていなかった。突然姉の病気を知らせる電話が病院からあった。クモ膜下出血で意識がすでにない。
姉はそのまま死んだ。7年前に姉は妹のお見合いを壊して出て行ってしまった。父はその直後に亡くなり、姉に連絡してももどらなかった。そして、母の時は知らせる事もしなかった。その姉が死んだ。
姉の携帯していた運転免許書の住所のマンションに入ると猫がいた。猫を飼っていたのだろうか。ふと見ると得体の知れない骨があった。そうだ、あれは人間の骨だ。
妹の友美は姉が生前何をしていたのか気になった。荷物の整理をしているとき、預金通帳から毎月振り込まれるお金があった。
電話が鳴った。姉に成りすませて電話の相手と会う約束をする。姉のことが知りたかった。そしてホテルで男性に姉が死んだ事を知らせる。
姉はときどきこの男性と会っていたようであるが詳しい事が解らない。
猫は逃がしてしまったが、後日「猫を預けた」と言う女が尋ねてくる。猫はいなかったとしらを切るが、しつこく返却を要求していた。ところがこの女が後日何者かに殺される。
姉の処にある人骨が突然消える。だれか合いかぎを持つほど親しい人がいたのだろうか。
人骨の事も猫の事も自分だけの胸にしまった。しかし、人骨の持ち主が警察に名乗り出た。人骨は母が産んだ子の骨で、それを娘が母の荷物を整理して見つけた。骨の置き場に困った所、姉が預かり料を払えば預かると言う。そして持ち主は月々の預かり料を払っていた。ある日、マンションの前で姉が死んだことを知ると骨のことが気になり、取り戻しに言ったという。その時に猫の持ち主に出会い、猫の事をしつこく問い詰められ、誤って庭石に頭を強打して死んだ。
友美は人骨がありながら警察に届けもせず、猫は勝手に逃がしていなかったことにした。姉が「一番したたかなのは友美だ」と言う言葉を思い出していた。