読んだ本の紹介です。紹介欄は読んだ後感想や紹介したい部分を書いたものです。

過去ログ  (その6)93冊
               平成17年1月〜 平成17年6月          

No 読んだ日   書       名  著   者 おすすめ度
838 2005-6-30 約束の河 堂場 瞬一 ★★★★
837 2005-6-28 夏の魔法 本岡 類 ★★★★
836 2005-6-27 追跡ゴッホ 千野 隆司 ★★★★★
835 2005-6-26 魂萌え! 桐野 夏生 ★★★★
834 2005-6-24 ゴッホ 呪われた肖像 関口 ふさえ ★★★★
833 2005-6-23 ビジョン 森村 誠一 ★★★★
832 2005-6-21 優しい音楽 瀬尾 まいこ ★★★★
831 2005-6-19 風精の棲む場所 柴田 よしき ★★★
830 2005-6-17 玄冶店の女 宇江佐 真理 ★★★
829 2005-6-15 山背郷 熊谷 達也 ★★★
828 2005-6-13 ギブソン 藤岡 真 ★★★
827 2005-6-11 透明な旅路 あさの あつこ ★★★
826 2005-6-9 凍りついた香り 小川 洋子 ★★★
825 2005-6-8 人間の証明 森村 誠一 ★★★★
824 2005-6-5 アサシン 新堂 冬樹 ★★★★
823 2005-6-3 君を乗せる舟 宇江佐 真理 ★★★
822 2005-6-2 小説 盛田学校 上・下 江波戸 哲夫 ★★★★★
821 2005-6-1 奪還 第二章 蓮池 透 ★★★
820 2005-5-30 シーセッド・ヒーセッド 柴田 よしき ★★★★★
819 2005-5-26 樹の海 結城 五郎 ★★★★★
818 2005-5-25 槍持ちと佐五平の首 佐藤 雅美 ★★★★
817 2005-5-24 「藪の中」の死体 上野 正彦 ★★★
816 2005-5-23 聖悪女 土屋 隆夫 ★★★★★
815 2005-5-20 黙の部屋 折原 一 ★★★★★
814 2005-5-18 楽園に酷似した男 岩井 志麻子
813 2005-5-17 九月が永遠に続けば 沼田 まほかる ★★★★
812 2005-5-15 希望 永井 するみ ★★★★★
811 2005-5-13 聖殺人者 新堂 冬樹 ★★★
810 2005-5-11 蘭の影 高樹 のぶ子 ★★★
809 2005-5-9 夫の息子 藤堂 志津子 ★★★
808 2005-5-8 銀行仕置人 池井戸 潤 ★★★★
807 2005-5-3 ニッポン泥棒 大沢 在昌 ★★★★
806 2005-4-28 サウスポー・キラー 水原 秀策 ★★★★
805 2005-4-26 二十四時間 乃南 アサ ★★★★
804 2005-4-25 恩はあだで返せ 逢坂 剛 ★★★★
803 2005-4-22 反自殺クラブ 石田 衣良 ★★★★
802 2005-4-20 依頼人は死んだ 若竹 七海 ★★★★
801 2005-4-18 天使の梯子 村山 由佳 ★★★★
800 2005-4-16 眉山 さだ まさし ★★★
799 2005-4-14 環蛇錢 加門 七海 ★★★★
798 2005-4-13 毒針 山田 智彦 ★★★★
797 2005-4-12 偽りの館 折原 一 ★★★★
796 2005-4-10 烏女 海月 ルイ ★★★★
795 2005-4-9 震災列島 石黒 輝 ★★★★
794 2005-4-8 草原からの使者 浅田 次郎 ★★★
793 2005-4-6 吐きたいほど愛している 新堂 冬樹 ★★★★
792 2005-4-5 十四番目の月 海月 ルイ ★★★★★
791 2005-4-3 生誕祭 上・下 馳 星周 ★★★★
790 2005-4-1 TVJ 五十嵐 貴久 ★★★★
789 2005-3-30 蒼のなかに 玉岡 かおる ★★★★
788 2005-3-28 家族芝居 佐川 光晴 ★★★★★
787 2005-3-25 毒殺連鎖 津村 秀介 ★★★★
786 2005-3-22 迎え火の山 熊谷 達也 ★★★★
785 2005-3-20 銭売り賽蔵 山本 一力 ★★★★
784 2005-3-19 ローズマリー 上・下 ソン・ジナー ★★★
783 2005-3-18 十津川警部「オキナワ」 西村 京太郎 ★★★★
782 2005-3-17 ブラフマンの埋葬 小川 洋子 ★★★★
781 2005-3-15 火の粉 雫井 脩介 ★★★★
780 2005-3-12 死亡推定時刻 朔 立木 ★★★★★
779 2005-3-9 黒頭巾疾風録 佐々木 譲 ★★★★★
778 2005-3-6 邪光 牧村 泉 ★★★★
777 2005-3-3 方舟は冬の国へ 西澤 保彦 ★★★★
776 2005-3-1 正義の証明 上・下 森村 誠一 ★★★★
775 2005-2-26 ユニット 佐々木 譲 ★★★★
774 2005-2-23 幸福な食卓レた 瀬尾 まいこ ★★★★★
773 2005-2-20 エリカ 小池 真理子 ★★★★
772 2005-2-18 アキハバラ@DEEP 石田 衣良 ★★★★
771 2005-2-16 オレたちバブル入行組 池井戸 潤 ★★★★
770 2005-2-14 瑠璃の契り 北森 鴻 ★★★★
769 2005-2-12 哀しい罠 結城 五郎 ★★★★
768 2005-2-11 出口のない海 横山 秀夫 ★★★★
767 2005-2-9 天国はまだ遠く 瀬尾 まいこ ★★★★★
766 2005-2-7 マリッジ 森村 誠一 ★★★★★
765 2005-2-6 I’m sorry mama アイム ソーリー ママ 桐野 夏生 ★★★★★
764 2005-2-5 終着駅 白川 進 ★★★★★
763 2005-2-3 クリスマスローズの殺人 柴田 よしき ★★★★
762 2005-2-1 ホテリアー 上・下 カン ウンギョン   ★★★★
761 2005-1-26 パラレル 今野 敏  ★★★★
760 2005-1-25 間宮兄弟 江國 香織  ★★★★
759 2005-1-23 Fake フェイク 五十嵐 貴久  ★★★★
758 2005-1-22 桜さがし 柴田 よしき  ★★★★
757 2005-1-21 億万ドルの舞台 シドニィ・シエルダン   ★★★★
756 2005-1-20 キャッシュカードがあぶない 柳田 邦男  ★★★
755 2005-1-18 龍神町龍神十三番地 船戸 与一  ★★★★★
754 2005-1-17 冬のソナタ 上・下 キム・ウニ/ユン・ウンギョン  ★★★★★
753 2005-1-15 背広の下の衝動 新堂 冬樹  ★★★★★
752 2005-1-14 霧笛荘夜話 浅田 次郎  ★★★★
751 2005-1-13 アキハバラ 今野 敏  ★★★★★
750 2005-1-12 代筆屋 辻 仁成  ★★★
749 2005-1-11 梅咲きぬ 山本 一力  ★★★★★
748 2005-1-10 砂漠の船 篠田 節子  ★★★★★
747 2005-1-8 黒い蛇 柊 治郎  ★★★★★
746 2005-1-6 とせい 今野 敏  ★★★★★
838  約束の河
Date: 2005-6-30

おすすめ度 ★★★★

 堂場 瞬一 著  中央公論新社 発行:2005年1月

 カズ、ミノル、イズル、タカの4人は河原に捨てられたタイヤのない廃車のなかで遊んでいた。突然、黒いものが通り過ぎた後、車は燃え始めた。必死で外に出て仲間を引っ張り出したが、運転席にいたカズだけは死んだ。イズルは右腕を失った。小学校4年生のときだった。
 北見貴秋は、3ヶ月ぶりに自分の事務所に寄った。父がやっていた法律事務所である。ここで自分は司法試験を受けたが5回とも落ちた。事務員をやっていた。父が死に、自分は所長となったが、資格のないものがえらくなっても部下の弁護士たちが着いてくるわけがない。北見は薬に手を出し、病院に入れられ3日月後、退院してきた。
 イズルが自殺したという。2ヶ月前の9月25日に橋の欄干をこえ川に飛び込み自殺したという。イズルは小説が入選し、作家になった。最近、同級生の奈津と婚約をしていた。
 北見は、イズルが自殺したのではないと思う。
奈津も警察も自殺で片付けたようだ。
 納得しない北見は、本当のことを知るために調べ始める。そして、自分がもしかしたら、薬物中毒のさなかに殺したのではないかと思い始める。
 入院していた病院にいく。誰が連れてきたか、そしていつ入院したか知りたかった。躊躇する院長を質問を繰り返し、ついに聞き出した。連れてきたのはイズルで、入院したのは9月15日。入院後は、点滴や身体の消耗で、山の上に在るこの場所からあの橋まで行くのは困難である。
 すると誰か。そして、イズルの小説は実は島尾が書いたものだった。イズルからくるメールで海外の様子が大体わかった。それに恋愛的な部分を混ぜて書き上げた「極北」はイズルではなく島尾が書いたものだった。奈津はそれを知っていた。
 
837  夏の魔法
Date: 2005-6-28

おすすめ度 ★★★★

 本岡 類 著  講談社 発行:2005年6月

 高峰のところに、離婚後しばらく会っていなかった息子がやってきた。元妻の芙美子の話では昼と夜が逆転した生活をしていたらしい。自分から、父のやっている那須の牧場に行きたいといったそうだ。
 ところが、息子の悠平は朝になってもおきてこない。19歳にもなるのに。まだお客さんだと思うことにした。
 2日目からは食事の後の食器を洗うことをさせた。悠平は父とも言わず「高峰さん」とよぶ。「あんたなんかに父親ずらされたくないんだよ」と殴られたこともあった。元妻のうちに行った。15年ぶりだった。悠平とは4歳で別れたきりだった。悠平が高校のとき野球をやっていたこと。試合中に相手の4番エースにデッドボールを食らわせたが、次の試合に出られないほどの痛手で、優勝候補だったそのチームは負けてしまった。登校途中に相手校の生徒にわざとやったと言いがかりをつけられた。それが原因で登校拒否になった。担任の計らいで高校だけは卒業できた。
 野球をやっていた高校の友人も訪ねた。相手は左目の視力が戻らなかったという。
 15年前、妻の母と同居することになったことから、気詰まりを感じた高峰は外内科クリニックの絵里と親しくなった。それを妻が気がつき、3日もしないうちに弁護士に相談。子供の幼稚園にいている間に荷物を持って家を出た。妻の母親はすでになくなっていた。
 父の残した山林を牧場にしてやっと、軌道に乗り始めたばかりだった。
 そのうち、牧場で子牛が生まれた。この出産に悠平も手伝った。そして、生まれた子牛は悠平に任せた。エンジェルと名づけてペットのようにかわいがった。牧場の仕事も臭いといいながらも手伝った。
 森牧場の美季がトラクターに乗ってやってきた。悠平は興味を持ち乗せてもらう。そして、トラクターの免許を取りたいという。悠平にはトラクターだけでなく普通免許も取らせるようにした。午前中牧場の仕事が一段落するとマウンテンバイクで出かけた。
 隣町でBSEの牛が出る。こちらにも飛び火するかもしれない。悠平はエンジェルをつれて逃げる。きっと殺されてしまう。
 途中、牛に食べさせたクローバがいけなかったのか、様子がおかしい。村に電話を借りにいく。そこへ、子供が川で中州に取り残されたと聞く。悠平は20メートルの距離をロープを子供に託すために投げる。なんとか子供は救えた。高峰に電話した。獣医とともに駆けつけたが、エンジェルは死んだ。牛はBSEではなかった。子供を助けた感謝状が届いたが、自分がエンジェルを殺したと沈んでしまった。
 しかし、悠平はニュージーランドの獣医学科へ留学することになった。
 テーブルに置手紙があった。悠平からだった。
「どこかで見捨てられると思ったが、見捨てなかった。親父、ありがとう」
 
836 追跡
Date: 2005-6-27

おすすめ度 ★★★★★

 千野 隆司 著  講談社 発行:2005年5月

 磯市は、父を殺した菊田川菊右衛門に恨みがあった。父の角次郎は菊右衛門と一緒に板前の出仕事に出た帰り、ご祝儀でもらった銭も懐にあり、振舞い酒の酔いも手伝って、欄干を歩いて永代橋を渡りきるという賭けに出た。最初に角次郎が欄干に立った。ところが、いつもと違って角次郎は川に落ちてしまった。水死体であげられたのは、半刻後だった。
 その後、菊右衛門は菊田川のお梶と一緒になり、店の主になった。
 菊右衛門は、角次郎の妻にそれと無しに面倒を見た。角次郎と夫婦になる前は自分が妻に迎えたいと思ったほどだった。
 それをいいことに他のものは、やっかみ半分に菊右衛門が角次郎を殺したのだとうわさした。
 角次郎には、磯市とおひさがいた。磯市は一度は板前になったが、今はあれくれ、高利貸しの片棒を担いでいた。磯市は菊右衛門の娘おまきに心を寄せていたが、父を恨むような者と一緒にはさせまいと感じていた。
 高利貸しの使いで老いた父と娘を追い出した。娘は磯市をにらみつけた。その目が忘れられなかった。
 その娘が質屋の前でみかけた。後をつけた。二合の米を買い長屋に戻った。父親は寝込んでいるらしかった。ふたたび長屋を訪れたとき、二人の男に娘を連れて行こうとするところだった。思わず磯市は助け、自分の長屋に連れて行く。
 しばらく暮らすうち、娘はおせんで鳥目で夜になると目が不自由になることがわかった。
 一方、おひさは菊右衛門の息子笙太郎の後をつける怪しい男たちに気がつき、急ぎ足で後を追う。名を呼ばれたことで振り返った笙太郎は、殺されずにすんだ。そのことから、笙太郎は縁談を断り、おひさと一緒になるという。
 磯市の母の具合が悪くなった。菊右衛門の家に引き取られるが、まもなく死ぬ。枕元で磯市に母は、世間がうわさする仲ではないこと、角次郎の死んだ後、いろいろ親切にしてもらった、菊右衛門が角次郎を殺したのではない。誤って欄干から落ちたのだと話す。
 菊右衛門に対峙した磯市は、匕首をむけるが刺せない。菊右衛門は磯市を案じていた。刺したければ刺せばいいと。そこへ菊田川の商売がたきですでにつぶれた萩月の軍兵衛が菊右衛門を狙う。
そして磯市も。磯市はこのままでは殺されると応戦する。菊右衛門が石を投げて磯市に加勢する。
軍兵衛のからだに磯市の匕首が刺さった。
 磯市は島送りになる。港ではおひさや菊右衛門らが見送る。きっともどってこよう。もどって菊田川の人々と暮らそうと思う。


835  魂萌え
Date: 2005-6-26

おすすめ度 ★★★★

 桐野 夏生 著  毎日新聞社 発行:2005年4月

 夫が死んだ。風呂場で心臓麻痺だった。アメリカにいる息子が8年ぶりに帰ってきた。妻と子2人を伴って。娘に電話した。信じられないようであった。
 葬式後、58歳の敏子は息子から財産の分与の話が出る。アメリカから戻ってこのうちで住みたいと言う。あまりに勝手な言いぐさに頭にきた年子はプチ家出をする。
 駅前のカプセルホテルに泊まった。少し哀しくて声をあげて泣いた。そこへフロントの野田が隣からうるさいと苦情が在ると伝えに来た。
 ホテルの風呂で老婆に声をかけられた。自分の話をして1万円を請求された。自分の話の中に得るものがあっただろうと。老婆は宮里といい、フロントの野田が甥なのだという。
 その宮里が倒れた。病院に運んだ。以来、野田が行方不明になった。
 4泊5日後、家に帰った敏子は、友人から「息子夫婦と同居し失敗すると出て行くのは自分になる。若夫婦には学校の問題などが絡んで引っ越しにくくなるという。それを聞いた敏子は、しばらく自分ひとりで暮らすと言い張る。
 嫁の由佳里からお金を貸して欲しいと頼まれる。いったんは日本に帰ったものの商売がうまくいかない。子供もいろんな人種のいるアメリカから、周りが同じ色の人種だけだと違和感が在る。アメリカに戻りたいという。
 敏子は由佳里に200万円を貸す。由佳里は子供を連れてアメリカにわたった。妻と子を追っかけて息子の隆之もアメリカへ行く。
 夫がゴルフ会員権を持っていたことを葉書で知るが、その証書がない。頭によぎったのは、夫の愛人の蕎麦屋の昭子だった。案の定、証書は昭子の手元にあった。しかし、自分も少し用立てしたという。額面は500万円であった。昭子は証書を敏子に渡す。
 敏子は年上の塚本からホテルに誘われ、拒否して別れた。
 友人たちとの集まりで、塚本は昔、結婚サギにやられたと話す。
 自分が男に誘われてホテルに行ったが、思いとどまったことを書いた文がシニア雑誌に載る。それを塚本が見て、敏子が書いたのだろうという。
敏子は、どこにでもある話だと受け流す。まちがいない、佐和子が書いたのだろう。


834  ゴッホ呪われた肖像
Date: 2005-6-23

おすすめ度 ★★★★

 関口 ふさえ 著  徳間書店 発行:1993年11月

 ゴッホは37歳の夏、拳銃自殺を遂げた。くちひべを蓄えたほほのこけた顔のゴッホ。
 このゴッホに似た人生を歩いた画家がいた。小柴勝人37歳。多摩湖畔の雑木林で拳銃自殺している。
 彼は10年前からゴッホに深く傾倒し、2年前まで南仏アルルにいた。帰国した後、これからの活躍を期待される矢先に自殺した。
 自殺した日にちまで一緒だった。7月27日。
 親族たちはこの死にそれほどゴッホに魅入られてしまったことに驚かされた。
 日本で最大手の画商から、手紙にあった弟徹郎の肖像画の本物がみたいといわれる。
 肖像画は彼のアトリエにもなかった。兄が死んだことを弟の徹郎は自分のせいだと悩んでいた。
 そして徹郎は兄を殺したと言うようになった。
ゴッホが弟テオの肖像画を描かなかったように勝人も描こうとしなかった。ところが勝人は徹郎の絵を描いた。しかし、その絵は下にゴッホの絵の上に描かれていた。
 勝人は多摩湖畔に移ってから様子がおかしかった。拳銃を渡せばゴッホに取り付かれた彼は必ず自殺すると思った。
 徹郎も自殺を図った。しかし発見が早く命は取り留めた。
 探していた弟の肖像画を持っていた女性が殺された。
833   ビジョン
Date: 2005-6-23

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  実業之日本社 発行:2005年4月

 井川は単身赴任である。出張主婦という広告を見て申し込む。佳乃という若い女性が来た。ところが食事に取りかかるまえに、万年床を日に干し、台所やお風呂を掃除し、ゴミ類も片付けた。でてきた食事は大皿にもった煮しめ、てんぷら、酢の物、湯豆腐、サラダ、豚肉のリンゴ巻きなど、豪華な食事だった。
 以来、井川は佳乃を頻繁に依頼した。佳乃は外勤の娼婦だった。
 「一流会社経理課員失踪」の新聞記事を見つける。温泉に行ったときすれ違ったカップルだった。連れの女性は佳乃もしっていた。春菜はクラスメートだった。桐原と春菜は婚約していた。自殺するはずがないという。
 佳乃の父も同じ会社に勤めていて、会社の帰宅途中に車に轢かれて死んだ。犯人はまだわかっていない。
 佳乃の父は正義感の強いだった。会社の不正を正そうとして殺されたのだと思っている。
 父の会社EM社は裏でクラブを経営し、外国からの要人の夜の特殊接待に使っていた。
 井川はEM社に出向した。総務部の郵便課である。モナリザというクラブからの請求書を見つける。EM社は同属会社で役員に親族が当たっていた。
 佳乃は出張主婦の会社をやめ、井川の身の回りの世話にだけ来るようになった。
 井川にも妻や子がいた。その妻が疾走した。疾走前に天谷という男と付き合っていた。天谷は国際窃盗団とのつながりがあり、車の盗難にもかかわっていた。
 妻は盗まれた車の中に押し込まれ、そのまま転売されているのではないかと不安になった。
 広河は自分の娘が社長の長男の手がついていることに愕然とする。
 井川は疾走した妻は佳乃の父がひき逃げされるのを目撃したということを突き止める。
 それが天谷であった。
832  優しい音楽
Date: 2005-6-21

おすすめ度 ★★★★

 瀬尾 まいこ 著  双葉社 発行:2005年4月

 駅で自分を待っている女学生に気がついていた。「顔がみたいからって毎日知らない人に近づかれるとびびるよ」というと少女は鈴木千波で、女子大の2年だと言う。自分は永居で23歳。
 それから付き合いが始まり、図書館、水族館、植物園などに行った。千波の20歳の誕生日に辞書をもらった。いつも重そうだから、家用と学校用に分けているといいと。
 またに湿疹ができた永居は、そのことを黙っていたが、歩き方が変なことから千波が気づいていた。そうして、無理やり脱がされ、湿疹を監査を観察した後、翌日薬を塗ってくれた。股を広げた姿に「恋人って何でもありだね」と笑いあう。
 千波の家に挨拶に行きたいと永居はいう。付き合って半年がたつ。千波の家では両親がご馳走を造って待っていた。千波の兄が亡くなっていた。その兄に似ていたのが自分であることを知る。それで駅で待っていたのか。
 きっかけは何だっていい。今は二人は恋人なんだ。
 永居は、兄のだと言うフルートを見つけた。そして、そっと安いフルートを買ってきて練習をした。そして、千波の家に行ったとき、皆で演奏しようといった。千波がいつも口ずさんでいたティアーズ・イン・ヘブンをやることにした。
 お父さんはギター、千波はピアノ、お母さんはきれいな声で歌った。もう一度やろうと、結局4回もやった。
 帰り道、千波がお兄ちゃんはフルートは吹けない。タケル君は兄とは違う。タケル君大好き!という。


831  風精の棲む場所
Date: 2005-6-19

おすすめ度 ★★★

 柴田 よしき 著  原書房 発行:2001年8月

 龍之介は作家である。最近、西風美夢という17歳の高校を中退した工芸作家とメール友達であった。1年の付き合いの後、美夢の住む地図にもない北山の奥地へ遊びに来ないかと書いてあった。毎年7月に村の踊りを披露することになっている。それをぜひみに来て欲しいと。
 龍之介は犬のサスケを連れて出かける。
京都の山奥で人里からも離れ、ツキノワグマの生息地でも有る。
 龍之介は崩れた山道を越えてようやく風神村にたどり着いた。
 女性は12を過ぎて24歳までの間に舞の手に選ばれる。選ばれたもののうち不思議に4人に1人は1年以内に死ぬと言われていた。
 舞は2頭の雄の蝶に8頭の雌の蝶が舞うと言う情熱的な舞だった。龍之介はその美しさに感動した。踊り手はひらひらと入れ替わり常に動いていた。
 そして、玲子の姿が見えないことに気づき、皆で探すと、衣装の下から柳刃包丁で刺されて死んでいた。
 犯人は誰なのか。村にふらりとやってきたもう一人の男、根岸も疑われた。神社に仮住まいしていたがまだ若い。村の女たちは彼の誰にでも思わせぶりな態度にのぼせている女が多くいた。
 玲子はその根岸との駆け落ちをするために踊り手の女子たちがかばいあった。
 しかし玲子は逃げられなかった。龍之介は犯人が日向神社の主と見て日向に会う。日向は神社の裏に芥子の花を植えていた。アヘンのできるものだった。花に液体をかける真理。日向が猟銃を向けた。火を噴いた猟銃の放った先は燃え広がった。
 山火事が起こり、村人は村民会館に非難した。
後日、役場を尋ねた龍之介は、山神村は1969年に最後の人が引越し廃村になっていると聞かされる。
 自分のあったのは誰だったのだろう。偶然見つけた写真集に、白髪になったなつかしい顔を見つけた。題名は「母」。50代で死んだ写真家の母を写したものだった。 


830  玄冶店の女
Date: 2005-6-17

おすすめ度 ★★★

 宇江佐 真理 著  集英社 発行:2003年5月

元花魁のお玉は小間物問屋「糸玉」を営んでいた。元の旦那は「糸よし」という小間物問屋であった。糸よしは最近うまくいっていなかった。そこへ旦那が尋ねてきて「このごろさっぱり仕入れに来ない。恩をあだで返すものだ」と怒鳴られる。しかし、お玉は「旦那とは縁の切れた女です。今後一切旦那とかかわることをきりたいのです。」というと顔をあざができるほど殴られた。
 その顔を見て手習い所の青木先生は心配した。青木は武士であったが、仕官の口がなく手習い所で子供たちに教えていた。お玉はこの青木にひかれていた。
 一方、青木もお玉を思っていた。しかし、お玉は自分のこれまでの行き方では武士の女房にはなれないとわすれようと思っていた。
 青木に仕官の口が見つかり、三重の津というところにいくという。夫婦になって一緒にいかないかと誘われるが、お玉は辞退する。青木はひとり三重に行く。
 そして青木が再び訪れて、一緒にならないかと言う。「番頭と結婚する」と口走るお玉。青木はまたも一人で戻る。
 おはんから青木が労咳をわずらって長くないと聞かされる。お玉はそれなら帳尻が合うと、こんな女でも病の武士とならやっていけると三重にいく決心をする。
829  山背郷
Date: 2005-6-15

おすすめ度 ★★★

 熊谷 達也 著  集英社 発行:2002年9月

 栄治はもうすぐ港に入ると言うときに櫓がはずれ磯船が転覆する。
 栄治には栄二郎と栄三のせがれがいる。栄二郎は14歳のときから船に乗り、今年で5年目だ。弟の栄三はまだ中学生。
 船は手漕ぎからエンジンを取り付けるようになった。しかし、栄二郎の船はまだ手漕ぎである。
 今日こそ親父にエンジンを取り付けるように説得しようと考えていた。漁協に行けば金を借りられるかもしれない。
 しかし、父はまだ早いと納得しない。漁の初日に栄二郎は手漕ぎで漁場に向かう。漁協の機械船も競って向かう。栄二郎の掛け声で相手船に負けじと船をこいだ。これをみていつの間にか栄二郎が知らないうちにいい漁師になったと仲間たちは喜んだ。
 その夜、父の栄治は栄二郎に通帳を渡し、あんちゃんが言っていたように、お前は商船学校へ行け。おめぇのアンチャはいつも言ってた。栄二郎に学校さいかせてくれって。見たこともない桁の数字が並んでいた。栄治は新品の船さ買うより、お前が学校さいくために使った方がなんぼかええ。と。栄二郎は父の気持ちに感謝した。

828  ギブソン
Date: 2005-6-13

おすすめ度 ★★★

 藤岡 真 著  東京創元社 発行:2005年4月

 8月2日土曜日、高城部長は待ち合わせの時間になっても来なかった。以来、部長の姿は見えなくなった。
 部長の自宅のある豊島区立木町のあたりに聞き込みに行く。あの日、爆竹の音がした。その音は近所の住む30代の引きこもりの男がカラスを追い払うために鳴らしたものだと聞いた。
 部長の近所の車引きの加賀美も見えなくなった。部屋には、血のついたシャツが見つかる。
 3日の日、成田で部長を見たというものもいる。
 高城部長はCM製作会社のディレクラーだった。
 同じ頃、赤い消防車がゆっくりと走るのをみたと言う。
 高城は妻を亡くしてから、女性の後をつけるようになった。待ち合わせた日も、以前に痴漢騒ぎで助けた女性を見つけ後をつけた。
 日下部は尊敬する部長がそんなことをするはずがないと思った。
 部長の息子が、部長は階段から足を踏み外し頚椎骨折で死んだという。突き落としたのではないかと調べられた。
 バーンという爆竹とされた音は今泉の死体に群がるカラスを追うため健太が銃を発した音だった。健太もストーカー殺しの犯人として逮捕される。
827   透明な旅路
Date: 2005-6-11

おすすめ度 ★★★

 あさの あつこ 著  講談社 発行:2005年4月

 吉行は女を殺した。首を絞めた。まっくらな山道を運転しながら下っていった。雨にぬれてシャツが身体にぴったりとくっついていた。
 月が出てきた。車の窓をたたく音で、吉行は少年と少女を車に乗せる。聞けば吉行が行こうとしている村の先の尾谷村だった。少女は盛んに「かこ、家に帰る」と話す。兄弟ではないと言う。
 途中、和風の旅館があった。3人はそこに泊まる。宿帳に名前を書く。少年にもペンを持たせ書かせる。少年は吉行信洋と書いた。5つ違いの兄の名前だった。兄は山に薬草を取りに行ったまま帰らなかった。祖母は「信洋は山にひかれたんじゃ」といった。山は人を欲しがったのだと。
 少女は笹山和子といった。和子は無邪気だが、少年の方は少しさめた見方をする子だった。
 尾谷に向かっていたとき、車は落下した。
少年の声に気がついた吉行は、かこを探した。過去を負ぶい3人は尾谷についた。かこは霊園のように整地された区画に向かう。墓地には彼岸花が咲いていた。「かーしゃん」とかこが叫ぶ。
 墓参りに来た老婆に和子は「お母ちゃん」と呼ぶ。吉行はこれまで和子が母をどんなに待っていたかを知っている。抱いてやれ!っと抱いてお前を待っていたといってやれと思った。
 老婆は「和子が帰ってきた・・」というが、連れの女に「お姉ちゃんはほれあそこに・・」と彼岸花で埋まった石を指した。
 吉行はかこを抱きしめる。お母ちゃんはかこのことを忘れていなかったと。そして思い出す。笹山和子は自分が小さい頃、山に行ったまま帰らなかった子だと。
 吉行は生家へ戻った。20年以上戻らなかった家である。母が自分を見つけ喜んで父に知らせる声がする。

826   凍りついた香り
Date: 2005-6-9

おすすめ度 ★★★

 小川 洋子 著  角川書店 発行:1998年5月

弘之が死んだと言う知らせが入った。1年間共に暮らしてきた。エタノールを飲んでの自殺だと言う。
 涼子はプラハに飛んだ。空港ではたどたどしい日本語をしゃべる若者が待っていた。
 「気の済むまで遠慮せずに探してね」と通された弘之の部屋。弘之の弟と一緒に机やキャビネットを開ける。化学の実験室のような部屋だった。
 弘之は香りの研究をしていた。優れた調香師だったと思う。
 弘之の弟彰と母親の待つ家に戻った。母親は1日ドロフィーの間に座って過ごす人だった。家のことは彰がやっていた。
 弘之はチェコスロバキアのプラハで開催された数学コンテストで最高点を獲得した。高校2年生のときだった。信号待ちをしても信号を待つ時間の確率を話して聞かせる人だった。
 ビデオを見た幼い弘之が「問題の漢字が読めない」といいながら答えを導き出していた。
一位の人がチョコレート10キロ、2位の人は前の人の半分だとすると6位までの人では合計何キロのチョコレートが必要になるか、最後の人は前の人と同じ量になります、と言う問題を弘之は数式ではなく四角い升目を並べて解いた。
 涼子は東京の戻る前に、弘之の母の化粧を直してやった。母がいとおしそうにドロフィーの数々を磨くのも手伝った。弘之の骨を磨いているような気分になった。
 プラハから戻った涼子は、弘之宛にきた手紙を開いた。盲学校の25周年を祝う会だった。
 涼子は彰とともに盲学校へ出かける。弘之は19歳のときから7年間、この盲学校の寄宿舎に住み、子供たちに数学を教えていたという。
825  人間の証明
Date: 2005-6-8

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  角川書店 発行:2004年9月

 藤宮さやかは、知人を頼って北海道から上京したが知人はすでに転居していた。行くところもなく途方にくれていたときにチンピラに絡まれた。福永に助けられそのまま福永と暮らした。
さやかは、出て行く前にせめてものお礼にと福永と一夜を共にする。そして4年が過ぎた。
 頼光はタクシーで拾ったカメラから水町志織を知る。カメラを返した後、志織と付き合うようになる。志織は結婚相談所の仕事をしており、ときどき代役で花嫁になることもあると言う。実際に志織の花嫁の友人代表として頼光がスピーチに立ったこともある。
 松葉は車を盗んでは故買業者に売っていた。どんな車も松葉の手にかかれば難なく盗むことができた。松葉は日本に2台か3台しかないという車を盗んだ。故買業者に持ち込んだところ、日本では足が着きやすいので、外国行きだといわれる。ところが、その車に女が乗っていた。しかもすでに死んでいた。
 松葉は車と女をそのまま別の場所に放置した。
 ニュースになった殺された女性を見て、福永と頼光は驚く。あの女性に似ていた。
 志織は頼光に自分は生きている。自分に良く似た女性が自分の代わりに殺されたのだという。しかも女性の子供が志織をママと間違えて、寄ってきた。その子供りかはすっかり志織を母親だと思ってなついていた。
 志織は頼光と一緒に暮らし始める。そして、松葉もまた殺された女性のことを調べ始める。福永も。やがて、福永、頼光、松葉は共同して誰が殺したか調べ始める。
 松葉は料亭に働きに行く。そこは大物の政治家や医師が出入りする場所であった。
 志織は河本病院の院長とも関係があった。自分を狙うものが誰なのか、福永らを連れて病院を訪れる。そして河本の平静な態度に志織は自分を狙う一人であることを感じる。
 刑事の棟居は、最近、松葉の姿を見ないことを不審に思う。
 福永はりかを見たとき、自分の子だと直感する。りかも気がつく。しかし、福永は殺される。
 事件が解決したあと、頼光と志織とりかは親子として暮らし始める。
824   アサシン
Date: 2005-6-5

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  角川書店 発行:2004年8月

幼い頃両親が殺された涼は、先生に育てられた。スクールに入れられ、十歳のとき美川が連れてきた男を命令によって撃った。スクールの中等部に1年早く入れられた。そしてプロの暗殺者として特訓を受ける。夜襲訓練では不意打ちに寝込みを襲われた。血反吐が出るほど殴られた。
 射撃、格闘技、ターゲットを仕留めるだけの訓練は野生の狼のようにアサシンとなった涼。
 30近くになった涼は、梅沢組の梅沢を消すよう依頼される。ホテルに入った梅沢を追う涼。後数メートルに近づいたとき、梅沢は若い女性に刺される。とっさに涼はその女性を連れて逃げる。
 アサシンにとって同情は禁物であった。しかし、涼はその女性リオを放って置けなかった。
 自分のマンションにかくまう。リオの父親は梅沢に財産を取られ最近自殺してしまった。復讐のためにやった。
 涼は梅沢の傷が肺に達していることを知ると、犯人はリオではないと感じる。覚めた目をしていたやつ、梅沢組のナンバーツーが犯人だと確信する。
 しかし、梅沢組のやくざたちはリオが梅沢を刺すところを目撃している。草の根を分けても探すであろう。
 リオにはフランスに伯母がいた。国外に脱出するしかないとエールフランス航空に向かう。
 途中、涼は撃たれる。記憶が遠のいていく中、リオに電話で先に行くように伝える。手にはリオの好きな胡蝶蘭の花束があった。
823   君を乗せる舟
Date: 2005-6-3

おすすめ度 ★★★

 宇江佐 真理 著  文芸春秋 発行:2005年3月

 あぐりに縁談が持ち上がった。あぐりは次郎衛とも付き合っていた。男が出入りしていては面倒である。龍之進はあぐりを見た。あぐりは「父が下手人だからといってそんな目で見られるのは心外です。」という。もっともなことだ。
 龍之進は次郎衛があぐりを吉原に売るつもりだと知る。
 そしてあぐりは縁談を断り商家に奉公にいくという。龍之進は次郎衛の行動を思った。
 あぐりは次郎衛を信じているようだ。すでに40両を払ったと言う。そこへ作蔵が割ってはいる。作蔵は次郎衛に切られる。
 作蔵はあぐりに吉原に行っては父親が悲しむ。借金した男を殺したのも切羽詰ってのことで、みんなあぐりのためだった、仏壇屋に嫁ぐようにいう。
 あぐりの祝言の日、龍之進はあぐりの乗る舟になりたいと思った。惚れた女の舟になりたいと思った。

822  小説 盛田学校 上・下
Date: 2005-6-2

おすすめ度 ★★★★★

 江波戸 哲夫 著  プレジデント社 発行:2005年5月

 1999年11月8日、盛田昭夫ソニー名誉会長の合同葬が行われた。日本を代表する経済人でもあった。「タイム」は、20世紀に最も影響力のあった20人にも盛田は入っていた。
 ソニーはテープレコーダの製作に取り掛かっていた。磁気テープを一定の速度でヘッドの部分に通過させる。一定の速度でないときれいな音は出ない。ブーンというハム音をなくすこともできた。そうしてテープレコーダが誕生した。さらにテープレコーダの小型化へと開発を進めた。
 トランジスタラジオに悪戦苦闘する。ラジオの完成と共に1955年社名をSONYと変え売り出す。
 ラジオを2年間で10万台の注文を受けた。それには買い手の社名を入れることを要求された。ソニーはそれを拒否した。今は無名でも必ず有名ブランドにしてみせると。
 トランジスタはポケッタブルラジオとして人気がでた。年ごとに5、6倍の伸びであった。
 ソニーというチョコレートがデパートで売られていた。商号商標使用禁止申請を出した。
 人材を適材適所に配置して人間の能力を最大限に生かす、持てる力をフルに引き出したいと盛田は語る。盛田の「学歴無用論」が10万を越えるベストセラーになった。
 トリニトロンカラーテレビも好調な売り上げを示した。 
 家庭用VTRはビクターでも松下でも開発されていた。ソニーは一足早くベータを世に出した。
しかし、VHSの企画をした松下とビクターも売り出した。
 ソニーはウォークマンの売り上げを伸ばした。当初のウォークマンは録音できないものが売れるかと言われた。しかし、有名なタレントがウォークマンを聞く広告を出すと売れていった。
 11月30日早朝、盛田はテニスのプレー中に気分が悪くなり入院。術後8日目に方目を開ける。井深も92年4月に脳梗塞で倒れ車椅子生活をしていた。井深は盛田を見舞った。97年に井深は亡くなった。
 井深に遅れること1年10ヶ月後、10月3日盛田も亡くなる。6年前から覚悟していたと夫人は語った。

821   奪還 第二章
Date: 2005-6-1

おすすめ度 ★★★

 蓮池 透 著  新潮社 発行:2005年2月

 弟夫婦が戻ってきた。曽我ひとみさんの夫ジェンキンスさんも佐渡に渡った。
 これまでになかなか動かない政府に苛立ち、何もしない議員がパフォーマンスのために集会にやってくる。
 日本人の誰かが拉致されていたかもわからない。これは帰国した人たちだけの問題ではなく、日本全体の問題だ。
 まだ子供たちに会えないでいる頃、北朝鮮を訪れた日本人が子供たちの書いた手紙を持ってきた。レインボーブリッジの小坂氏である。氏はその後、北朝鮮とは廃タイヤのチップをおくるNGOの者だとわかる。民間人がたやすく会い、交渉できるのに、政府はもたもたと拉致問題が解決に向かわない。
 「北朝鮮のスパイ活動に加担してきたのはどういう気持ちで・・」「日本への工作活動はいつ・・」などの事情徴収を警察から受けた。
 北朝鮮に経済制裁せよというと、お前たちは家族が帰ってきてうれしくないのか、と言われる。
限られた家族だけが帰ってきても全員が元どおりに戻ってこないうちは喜べない。

820   シーセッド・ヒーセッド
Date: 2005-5-30

おすすめ度 ★★★★★

 柴田 よしき 著  実業之日本社 発行:2005年4月

 新宿二丁目で無認可保育園の園長をしている花咲は、私立探偵も副業としていた。
 春日組の若頭となっている山内から依頼があった。山内の自宅マンション前にベビーカーに載せられた赤ん坊が置き去りにされた。山内の子だと言う。置き去りにしたのは菅野美夏でデートクラブの子だった。
 花咲は親子鑑定を薦めたが、美夏にこの子を返せばいいと言うことだった。赤ん坊を渡せたら200万円の報酬で請け負う。赤ん坊はとりあえず、自分の保育園で預かった。
 美夏の同僚に美夏から預かったと言う荷物の中に高価そうなブローチが出てきた。美夏はデートクラブに入る前に雑誌社で働いていた。フラワーアーチストの千早春泉の取材中に高価なブローチがなくなったという騒ぎがあった。そのときは、あちこち調べたが出てこなかった。ブローチは保険で支払われた。それがきっかけで美夏はその会社をやめた。その後、千早春泉の息子隆司がそのブローチを持っていたことがわかる。隆司と美夏は付き合っていた。
 花咲は美香に会う。美夏はブローチの事件で千早春泉に山内を使って復讐しようとしていたと話す。しかし、隆司から認知をしてもらうことになった。花咲はブローチは処分し借金を返すように諭す。ブローチは花咲が山内の側近に渡すことになった。
 山内は癌で余命いくばくもない。置き去りにされた子が自分の子であればと花咲に調査を依頼に来る。しかし、花咲は断る。
819  樹の海
Date: 2005-5-26

おすすめ度 ★★★★★

 結城 五郎 著  角川春樹事務所 発行:2004年12月

 B病院からすい癌末期の患者が送られてくる。矢田という大学教授である。長谷はまだ医師となって日が浅かった。
 矢田は長谷の「僕は医師だから病んでいる人間に興味がある」と言う言葉と点滴がうまく入れられたのに気をよくして心を開くようになった。
 矢田の娘由里子もよく付き添って、長谷の仕事振りを見ていた。長谷は少しずつ由里子に惹かれるが、由里子には婚約者がいた。
 だんだん悪くなっていく矢田。がん告知をするかどうか親族に聞く。長男だけは反対をしたが由里子は先生に任すという。矢田は自分の余命を知りたがっていた。
 長谷は矢田に癌の告知と状況を話す。矢田の希望で使い慣れた机が自宅から運ばれた。4月の由里子の結婚式までは持たないだろう。
 もう痛みを和らげることは麻薬だけであった。他の医師が極力使わないように言う中、長谷は少しでも痛みをとりのぞきたいと頻繁に使っていた。そして、もう麻薬も効かなくなった。
 「もういいよ」という矢田。点滴にブドウ糖が入っていないものを使用する。
 そして矢田の死後、病院のある看護婦の告発で矢田の長男に長谷に安楽死の疑いがあると言う文書を送る。 
 裁判になる。長谷は罪は問われなかった。しかし、由里子は結婚式の前の日、長谷のアパートの前で待っていた。長谷は病院を変わり、埼玉の病院にいくという。由里子は着いていくという。
818  槍持と佐五平の首
Date: 2005-5-25

おすすめ度 ★★★★

 佐藤 雅美 著  新潮社 発行:2001年5月

 亥の刻(夜の10時ごろ)に宿の主人から起こされた相馬長門守の一行は、以前から予約をしていたと言う会津松平藩の沢田によって宿を脇本陣に移るように言われた。格式が違うことをにおわす沢田に逆らえず、しぶしぶ宿移りをした。
 その際に槍持ちが大事な槍を宿に忘れたと言う。すぐに取りに行かせるが「槍が侍の道具だと言うことは知っているだろう。忘れたハイ返すとはいかない。」と返してくれない。それを聞くと請書を書き「これを渡して槍をもってこい」という。するとまた手ぶらで帰ってきた。飛脚問屋から借り受けた人足と言えども槍持ちとして雇っていた男である。
 「誰が書いたかわからないものを持ってきても槍は返せぬ。主人自身がくるか、槍持ちの首を持ってくれば槍は返してやる」
 主人の弥三右衛門は槍持ちの佐五平の首を打ち、水で洗って風呂敷に包み本陣に向かった。
 「伝言が伝わっていないようで・・・」と対応する沢田に佐五平の首を投げつける。そしてひるんだ沢田の額を真二つに割る。
 しかし、道中奉行が中に入ってもみ消したのか会津藩の不名誉な事件は記録に残らなかった。
 弥三右衛門がその後どうなったかも定かでない。
817   「藪の中」の死体
Date: 2005-5-24

おすすめ度 ★★★

 上野 正彦 著  新潮社 発行:2005年4月

 首吊死体は顔面が鬱血することはない。下半身に死斑が出る。顔面が鬱血している場合は心臓に戻る静脈が紐などで圧迫により顔に鬱血する。顔に鬱血している場合は首吊でなく単に首を絞められたことによるものである。
 また焼死の場合、死体の下に血液反応がないか見る。

 芥川龍之介の「藪の中」の小説が語源で迷宮入りの事件を言うようになった。「藪の中」は、映画「羅生門」で心中をするつもりで夫の胸を刺し、自分も死ぬとほのめかした妻。巫女は盗人が妻を犯し妻が、盗人に連れて行ってくれと行っていたと言う。第一発見者の木こりにも嘘がありいったい誰が夫を殺したのかわからない。この小説は法医学的にも狂いもなく書かれている。
 つくば母子殺人事件は妻にテツアレー3個、子供たちには2個つけられていた。犯人は山の生まれのものである。海の生まれのものはやがて死体は浜に打ち上げられることを知っている。そして死体が浮くことも。死体を浮かないようにするには男一人ではできない重さが必要である。
 海に生まれたものは山に捨てればばれないと思うらしい。しかし山のものは人里は慣れるほど道は車が通らなくなるし、死体は重くて10メートルほどしか運べないことを知っている。
 火災の中で発見されたから焼死、水中で発見されたから水死とは断言できない。死体は状況からではなくあくまで死体所見から発見されなければならない。

816  聖悪女
Date: 2005-5-23

おすすめ度 ★★★★★

 土屋 隆夫 著  新潮社 発行:2002年3月

 両親が交通事故でなくなった後、3歳のとき近所の夫婦に引き取られて育った美緒は、高校の卒業を待たないで家を出た。
 美緒には下腹部に小さな副乳があった。それを浩一が「副乳のある女は淫乱だ、近寄る男を不幸にする」という。その浩一も新聞配達の途中でトラックにはねられ死んだ。
 美緒は熱海に行きクラブ紫苑で働く。美方で若いためにたちまち人気者になる。母が病気と偽り、せっせと貯蓄に励んだ。ためたお金で、一緒に暮らした東京のお姉ちゃんに小さい出版社を始めるお金を送ってあげたかった。
 そして九州にも行った。百万円がたまった美緒は東京の戻ってきた。生まれ育った神田のうちに寄った。しかし、育ててくれたおじさんたちのうちがなかった。探偵を使って調べると火事でやけ、お姉ちゃんは亡くなっていた。娘をなくしたショックからおじさんは口を利かなくなってしまった。奥さんの実家で暮らしていると言う。
 美緒は手紙と50万円を送金する。美緒が25歳だから姉は27歳だった。
 銀座で働くようになって、浩一と言う部長のお供で来る男に引かれる。しかし、部長の方が結婚しても言いというぐらい美緒に熱心であった。
 胆石を抱えていた美緒は道端で痛みが襲ってきて困っていた。そこへ浩一が通りかかり医者へ連れて行ってくれた。それが縁で美緒と浩一は深い関係になっていく。
 浩一の部長がなくなった。新橋のホテルで死んでいた。他殺とされた。犯人はまだ見つからない。そんな折、浩一と部長の奥さんがホテルに入っていくところを見る。タクシーに乗っていた美緒は運転手から「あそこは昼間アベックが行くところだ」と教えられる。
 浩一に妊娠したと告げる。一度はおろせと言うがいきなり結婚しようと言う。
 興奮する薬を使って性交したいといっていた浩一が、今日はそれを実行するのだろうと思っていた。浩一が用意したビールをさりげなく交換した。ビールを飲んだ浩一は死んでしまった。
 浩一は自分を殺すつもりだったことを知り慄然とする。そしてこともあろうに「部長を殺したのはじぶんです みお」という自分の遺書も用意してあった。みるほどに自分の筆跡をまねてあった。
 美緒は30になる前に末期がんで死ぬ。
815  黙の部屋
Date: 2005-5-20

おすすめ度 ★★★★★

 折原 一 著  新潮社 発行:2005年4月

 最初に「夜光時計」という絵を買った。古物商の店で。すでに指紋も埃もガラスについている。随分放って置かれた絵で、作者は石田黙で3万円であった。
 時計の上に女性が裸体で座っており、顔はきらきらとしたもので隠れていた。そう、女性が服を脱ぐために頭の方に持ち上げたままで止まった形である。足元には卵の殻半分が壊れてしまったような人のブロンズ絵が描かれていた。全体に黒っぽい絵である。
 美術年鑑を見ても石田黙の名前は見つからなかった。不思議な絵である。目が離せなくなった。
 インターネットで「白い静物」をみた。またしても石田黙である。ネットオークションである。最初千円だった価格が自分が参加し始めてからどんどん値上がりし、1万4千500円で落札できた。
 また出た「青い空」である。4万5千円で落札できた。美術年鑑にない人を知りたいと思った。後輩が見つけてくれた。78年の美術年鑑に載っていた。その住所を頼りに尋ねるが別の人が住んでいた。
 一方、暗い部屋で絵を描くことを強要されている男がいた。お前は石田黙だ。書け!書くんだ!と。
 そのうちオークションで競り合ううちに何枚かを落とせなくなった。価格は11万を越えていた。競り落とした女性に会う。
 三田村祐子の個展の通知が来た。何気なくいってみるとそこには石田黙の絵があった。落札できなかったあの絵だった。三田村祐子は別にもう少し大きな絵も持っていた。あって話すうちに石田黙をもっと知りたくなった。
 秩父で石田黙の個展が開かれると言う。三田村祐子と出かける。
 石田黙は昭和3年生まれの二科会の会員であった。石田黙の夫人に会うことができた。50歳前後の石田黙の写真に会うこともできた。

814  楽園に酷似した男
Date: 2005-5-18

おすすめ度 ★

 岩井 志麻子 著  新潮社 発行:2005年1月

 小説家として私の地位は高級の下、中級の上であると自負する岡山生まれの作家。
 韓国、ベトナム、日本の男とセックスばかりしてはそれをネタに小説を書くと言う暮らし。
 韓国では3階建てのビルの2階の2DKに男と住んでいる。私はもうすぐ40歳になる。韓国の彼は年下である。
 ベトナムの愛人ともまだ続いている。私が妊娠したと言うと3人で暮らしたいと言う。あなたの子ではないかもしれないといっても。
 韓国の男は日本語で読めば理想郷と言う名である。韓国で産むように言ってくる。
 35年以上住んだ岡山。東京に来て3年。私にはこれまでに3人の子を身ごもった。1人は産めなかった。前の夫との間にできた子は離婚の際に夫のほうが引き取った。もう声変わりがしそうな年頃である。

813  九月が永遠に続けば
Date: 2005-5-17

おすすめ度 ★★★★

 沼田 まほかる 著  新潮社 発行:2005年1月

 サンダルを引っ掛けてゴミを出しに行った文彦がその晩帰ってこなかった。あちこち電話したが手がかりがない。母親は警察に捜索願いを出す。
 母親は別れた夫にも相談する。元夫はクライアントであった亜沙実と再婚した。亜沙実は20年近く前、何人もの男との強姦により精神を喪失していた。そして妊娠し冬子を産んだ。冬子は望まれない子だった。元夫は二人を引き取るために離婚を迫って亜沙実たちと暮らし始めた。
 しかし、亜沙実は回復したかに見えたが深い傷を負っていた。亜沙実の兄は、元夫と結婚したことであの事件をずっと引きずっていると言う。むしろ関係ないところで暮らした方がいいとも。
 亜沙実は妊娠していた。元夫との間にできた子だった。しかし、亜沙美も家を出ていた。
 文彦の行方がわからないまま、亜沙実の娘冬子が自殺した。それを亜沙美に知らせなければと、亜沙実の働いている店に行く。そこでなんと、母親は文彦に会う。
 冬子の葬儀の後、文彦は亜沙実が父親から逃げてきたところをたまたまゴミを捨てに行って見つけた。以来、亜沙実を守ってきた。父が亜沙実にする治療は事件を思い起こさせるばかりだと感じていた。
 娘の冬子は教習所の教官と付き合っていた。それを文彦の母はその教官と深い仲になってしまう。文彦はそれに気がついていた。冬子から相談も受けていた。その教官はホームでから誤って落ち死んだ。冬子は自分が押したのではないかと周りから思われていると思い込む。悩んでいた。
 冬子の死後、元夫は亜沙実はあのままで言いといった。文彦が亜沙実を守っているあのまま。

812  希望
Date: 2005-5-15

おすすめ度 ★★★★★

 永井 するみ 著  文芸春秋 発行:2003年5月

 5年前のあの事件。70代の老婆ばかりを殺して頭を丸刈りにし「よくできました」というスタンプを押していた。殺したのは14歳の少年で友樹。両親と妹と暮らしていた。特異な事件で少年であったが、週刊誌にもインターネットにも顔写真が載った。
 そして5年。友樹は少年院から出てきた。すでに離婚した母と妹の待つアパートに。
 しかし、被害にあった祖母を殺された3人の友樹と同じぐらいの摩耶、晋、健司が友樹の退院を喜ばなかった。
 カウンセラーの環は友樹の母親と妹の唯のカウンセリングをしていた。母親は事件の後、出版社に言われるまま手記を発表した。父親は子や妻から逃げたいと自分の保身に回ってしまった。出版社の林は、友樹の母陽子に手記の続きを書かそうと考えていた。
 退院後、何者かに殴られ被害者になった友樹は、被害者として顔がテレビに出た。ネットでそれが5年前の「よくできました事件」の少年であることがばれる。ワイドショーが友樹の家族を追う。そして、カウンセラーの環も、いわれのない中傷に悩まされることに。
 環は刑事の海棠にも会う。海棠は、友樹が起こした事件も、環の父親は少年に3人組に絡まれ、鉄パイプを振り回して少年の一人が足に重症を受けた事件も詳細に知っていた。父親はナイフで刺されたことが原因で死んだ。しかし、世間は死んだ人に冷たく少年たちに同情的だった。海棠は少年たちが「親父狩り」をしていたことを突き止めていた。それが環の父だった。
 林は環の大学からの友人だった。しかし、友樹の事件の被害者の孫たちに近づいてなにやら画策していた。
 孫のうち、晋は自分がもう一度友樹を犯人にし、実刑を受けさせたかった。そしてそれを林も加担していた。しかし・・・・。


811  聖殺人者
Date: 2005-5-13

おすすめ度 ★★★

 新堂 冬樹 著  光文社 発行:2005年3月

ジョルジオは目の前で優しかった父が銃殺されるのをクロゼットの中から見ていた。やがてクロゼットからでて、父にしがみついて叫んでいるとき男たちに見つかり、一緒に来るかここに残るかと聞かれた。ジョルジオは男についていった。
 ジョルジオは日本に来ていた。シチリアのマフィアと日本の暗黒世界とのつながり。
 ジョルジオは日本人マフィアの片桐の命令でマイケルと共に日本に行きガルシアを殺せと命じられる。
 ガルシアは新宿にいた。かってはマイケルを兄のように慕っていた。
 日本での暗黒世界の抗争。ジョルジオに父の死をよみがえらせる出来事があった。いつもそばにいた太った男が目の前で肉塊になったとき、4人のうちの長身の男に目が留まる。ラズローネにトゥリガーを轢く。そしてジョルジオはラズローネの仲間に撃ち殺される。


810  蘭の影
Date: 2005-5-11

おすすめ度 ★★★

 高樹 のぶ子 著  新潮社 発行:1998年6月

息子の部屋に入った。6年間は息子は東京で暮らす。医学部に入った。美智子は自分の脳みそがすこしずつ失われていく気がしていた。洗濯物をたたむときも夫と息子のものと仕分けすることもなく、単純に作業をしているだけの毎日。
 夫がデンドロビュームを抱えて帰ってきた。患者の育てていたものだと言う。患者は腎臓病にかかっていた。そして癌にも。3年半入院し、20代後半で死んだ。
 美智子は夫の持ってきたその蘭に嫉妬していた。目が覚めた。目の前に女性がいた。「デン子ってよんで  」という。美智子はデン子と話す。デン子は入院していた夫の患者だった。
そして、美智子が昔やっていた翻訳をはじめようとはなすとデン子は頑張ってみるべきだという。
 夫は美智子の最近の様子に応援する思いだった。デンドロビュームを手に取り、その患者との3年半は忘れないだろうと思った。
 男の人に抱かれないまま死ぬのはいやだとしがみついた泣いた。1泊旅行に連れ出した。死んでいく彼女の願いを可能な限りかねえてあげたかった。それが、妻の憂鬱の原因だったかもしれない。
 

809  夫の息子
Date: 2005-5-9

おすすめ度 ★★★★

 藤堂 志津子 著  角川書店 発行:2005年2月

 三千花は15歳年上の彼と7年の不倫の末に結婚した。夫は前妻と息子たちに月に30万を払うことで離婚に同意した。
 三千花は夫の保険金の受け取りを前妻ではなく自分にしてくれるように頼んだが、「間接的に息子たちの面倒を見るためだからだめだ」と断られる。
 1年足らずで離婚するみっともないことはしたくないが、夫の前の家族への嫉妬がくずぶっていた。
 札幌駅のそばのホテルで三千花は仙道と浮気をはじめた。4ヵ月後分かれようかと三千花が切り出した。後日、仙道は三千花の自宅前で待ち伏せていた。ちょうど叔母のサクラの息子丈原を連れていたところだった。
 そのやり取りを夫にも聞かれていた。
 三千花は妊娠した。喜んで夫に話すと、夫は離婚の際にパイプカットをしたと言う。自分の子ではないので堕胎するように言う。
 三千花は丈原との1度だけの事を思い出す。
 5年度、三千花は丈原と結婚し、3人目の子が生まれるのを待っている。一方、15歳年上だった元夫は現在は20歳も年下の女性と付き合っていると言う。
808 銀行仕置人
Date: 2005-5-8

おすすめ度 ★★★★

 池井戸 潤 著  双葉社  発行:2005年2月

 横浜ワイヤレスが自己破産申告をした。東京デジタル投資を投資先として500億の不良債権を出したことになった黒部は、赴任して間がなかった。
 2ヵ月後、黒田は人事課付けになり名簿の修正の仕事をさせられた。左遷と言うより窓のない座敷牢である。
 そこへ英部長から東京デジタルの阿木社長と当行立花常務との関わりを調べるようにと言う。
 横浜ワイヤレスの融資話を持ってきたときは、すでに経営状態が悪化していたことを知っていた。五反田支店に貸し金庫を借りた立花。自宅は世田谷のはずである。何か理由がある。黒部は五反田支店を調査する。その中にはデジタルフイッシュの株券1500万円分が入っていた。公開されれば10倍20倍になるであろう。その株主名簿に阿木の名前があった。
 倒産した会社を調べていると山本金融研究所がかかわっていた。表向き多額債務者救済のNPOと言うが貸金業であった。助けると偽って搾り取るこの会社と阿木がつながっていた。
 そして山本がホテルで殺される。デジタルフィッシュの大沢も死ぬ。黒部のところに大沢の妻から届けられたものがあった。それは立花常務を特別背任の容疑で逮捕できるものだった。
 黒部は再び営業部次長を命じられる。

807 ニッポン泥棒
Date: 2005-5-3

おすすめ度 ★★★★

 大沢 在昌 著  文芸春秋  発行:2005年1月

 インターネットでソフトのプログラマーのページで見つけた情報と言うのを尾津は突然たずねてきた少年から聞く。自分は「アダム4号」と呼ばれているらしい。「ヒミコ」というソフトに「イブ」と呼ばれる女性と自分の「アダム4号」を使って封印を解かなきゃいけないという。
 「ヒミコ」は佐藤かおるでその住所をしらべたところでその少年は殺される。
 尾津は「ヒミコ」を訪ねる。そしてかおるの知人で昔、学生運動をした革命家でもある細田に相談する。細田は裏の事情に詳しい。そしてパソコンにも精通していた。
 やがて、細田が「ヒミコ」を追っている情報をつかむ。
 かおるの元の恋人の冬木もこれにかかわっていることがわかる。冬木はかおるを守ろうとする。
 何者かに尾津は拉致される。
 「ヒミコ」のソフトは膨大な利益を生む反面、危険なソフトでもあった。
 やがて、尾津も釈放される。拉致した関係者と契約を結ぶ。尾津は「ヒミコ」がバーチャルの神様ごっこのソフトだった。「ヒミコ」はアメリカ南北資料館のデータベースの中に隠されていた。
 CIAも巻き込んで大きな力が動いていた。それを作った青年は「ヒミコ」を消去する。何十億と言うお宝でもあった。
806 サウスポー・キラー
Date: 2005-4-28

おすすめ度 ★★★★

 水原 秀策 著  宝島社  発行:2005年2月

 自宅マンション前で何者かに殴られた。「お前のせいでいくら損したかわかっているのか。」と言われても心当たりがなかった。
 怪文書が回った。それには「沢村投手は暴力団との関係がある。沢村航を永久に野球界から追放を求める」と言うものであった。
 監督も仲間も自分に対して態度が違った。疑っているようである。自宅謹慎をしたうえ、一軍登録を消された。二軍での練習となった。
 女優の黒坂美鈴と出会った。二人は親しくなった。美鈴はオーデションを受けるという。
 監督は沢村を1軍に戻し、次の試合に沢村を登板させると言う。監督の首をかけての決断だった。
 塩崎のロッカーから怪文書のメールが出てきた。しかし、塩崎は自分ではないと言う。
 三度、怪文書が届く。沢村投手に八百長行為があると書かれていた。
 そんな折、またしても沢村は襲われた。監禁された。暴行も受ける。開放されたが、何のために誰がと模索する。
 自分が失脚した場合、誰が一番得をするか。三浦の関与を疑う。そしてその疑いは確信に変わった。刑事の高木と言う男も。高木は暴力団と関わりのある刑事から金銭を脅し取っていた。それは一人を自殺させるほどの半端なものではなかった。高木は職を失う。
 そして、協力してくれた年配の女性記者は、この事件を「サウスポー・キラー」として出版する。
 三浦も逮捕される。高木もアメリカへ飛ぶ。美鈴も去っていった。沢村はその年、最優秀投手の候補になった。


805 二十四時間
Date: 2005-4-26

おすすめ度 ★★★★

 乃南 アサ 著  新潮社  発行:2004年9月

「二十三時」では、十坪ほどの店内、安い化粧品とコールドクリームのようなにおい。20年前に来たことのある店であった。おかまのママがいた。11時を過ぎると門限があるのでショーまでは見られなかった。場違いのようなガキのようだったとママは自分を覚えてくれていた。
 「十二時」では定食をさだしょくと思っていたわたしは虎ノ門でコピーライターの仕事をしていた。お昼はコンビにもない時代でさまざまな制服のOLが巷にあふれた。辞めたいと思いながら3年続けたがOLを辞めた。五日後祖母が他界した。正午の「笑っていいとも」が始まった頃だった。
 「二時」では、初めて借りたアパート。神田川のそばにあった新築のアパート。友人を呼んだ夜、真上の部屋で男女の喧嘩。「出て行って!」と叫ぶ女。それなら出て行くと女の方が出て行った。階段をカンカンカンと音をさせながら。「逃げたね」と友人と話した。しばらくすると「畜生、畜生、○子ぉー」という男の鳴き声。
 「傘はさしていかなかったのか」という男の声。戻ってきたのか、男の独り言なのかウトウトする私が聴いた言葉だった。
 「一時」では、隣に越してきた家族とシェパード。シェパードのサムは老犬だった。ゼェッ、ゼェッという声を上げるようになった。心臓肥大だという。夜中に聞こえる。家人は何もしてやらない。そして老犬は死んだ。しかし、深夜勉強しているとその声が聞こえる。窓を開けてもいない。母も聞こえないという。私には毎晩聞こえた。大学受験が終わるまでそれは続いた。  
804 恩はあだで返せ
Date: 2005-4-25

おすすめ度 ★★★★

 逢坂 剛 著  集英社  発行:2004年5月

 御茶ノ水署の生活安全課の刑事斉木と梢田は錦華公園で開かれるがらくた市へやってきた。ずん胴の黒い小鉢に手を伸ばした。そこへ別の手がのびて鉢は取り合いになった。梢田が先に手をつけた。男はその鉢を1万円で買うという。梢田は見ていると抹茶を飲む茶碗である。
 初老の男は5万でその茶碗を5万円を押し付け持ち去ろうとした。梢田はそれでも売らなかった。初老の男は骨董探偵団に出ている羽村宗八だった。
 署内へ持ち帰り小百合に見せた。17世紀前半の道入の作だという。500万はするだろうと。
 そこへ親父に内緒で持ち出したので買い戻したいと男がやってきた。しかし、それは再開発の仕事中に見つけたものだった。
 小百合はその茶碗をこっそり署長の奥さんに斉木からのプレゼントだとして渡してしまった。
署長は気をよくしている。小百合は斉木と梢田が管内で只飲みしていることの聞き込み調査をする気であったことを茶碗で阻止したのだった。
 そのほかにヘロインを押収したは水に流された話など。

803 反自殺クラブ
Date: 2005-4-22

おすすめ度 ★★★★

 石田 衣良 著  文芸春秋  発行:2005年3月

 サンシャイン60通りに立つスカウトマンのタイチ。そのタイチが好きだった女の子が別のスカウトマンに誘い込まれ、暴行を受けたあとビデオを撮られた。リバティラインの者たちの仕業である。マコトは相談を受けGボーイズたちと事務所に乗り込み、テープや再生機器を押収した。うんざりするほどテープを見た後、その子のテープを見つける。そしてそれらのテープを再編し、マスコミに送った。リバティラインに捜査が入る。
 自殺志願者をあおって死んでいく若者たち。影にスパイダーマンの影が。反自殺クラブはそういう自殺しようとするものをやめさせるクラブだった。交通事故や自然災害などで親を亡くした子達は反自殺クラブのメンバーだった。
マコトはその反自殺クラブの訴えを聞く。自殺系サイトをつぶしても1万近いホームページがある。
黒いシェルパというハンドルネームに目をつける。六本木カフェであったという。
 反自殺クラブは下落合の白木クリニックの女医に相談をしていた。
 自殺サイトのスパイダーを突き止める。彼は新宿の雑居ビルでマコトたちの前で軽々と手すりを越え空中で上着を脱ごうとして笑いながら落ちていった。ポケットから彼は麻布二丁目に住んでいた。そしてその部屋は白木クリニックと同じアロマの臭いがした。
 白木クリニックの女医は反自殺クラブとスパイダーの自殺クラブとの相談に乗っていたのだ。
 女医は自分の患者が自殺して行き、絶えられない苦痛であったという。そして自分も死にたいと考えることもあった。一方で自殺をほう助し、一方で自殺を制止する。そのとき自分は一番安定していた。マコトの目の前で女医は果物ナイフで自らの太ももを突き刺していた。2リットルの出血だったが一命は取り留めた。
 自殺クラブはリーダーを失い崩壊した。

802 依頼人は死んだ
Date: 2005-4-20

おすすめ度 ★★★★

 若竹 七海 著  文芸春秋  発行:2000年5月

 葉村は29歳。長谷川探偵事務所の仕事を再開した。3年間やってきた調査の仕事。今回は松島詩織という一部に知れた有名人の警護。日に3万円で2週間。
 ところが、これはただ事ではない。早速に濃紺のワゴン車が詩織を轢こうとしたように見えた。突き飛ばして難を逃れた。そして事務所では延々とFAXが送られてきていた。
 宅急便に至ってはウジがわいた肉片が送り付けられたり、ビルの屋上から植木鉢が落ちてくる有様。よく本人がノイローゼにならないのが不思議だ。マンションに入ると知らない男が潜んでいた。ところがである。こうした一連の被害はどうやら詩織自身が人を介して雇った連中だった。自分が襲われて死ぬという設定だったようだ。ワゴン車の男は300万円で雇われていた。
 詩織の伯父が引き取り病院に入れることで片付いた。
 次の事件は、佐藤まどかのもとへ保健所から「あなたは卵巣がんを発病されている。至急に専門医に相談されるように」という手紙。受診する日は寝過ごしてしまった。別の佐藤まどかと間違えているのかもしれない。どうすべきかという相談を受けた。
 ところがその佐藤まどかが自殺した。睡眠薬を飲んでの自殺だったようだ。
 調べるうちにまどかが持っていた絵を狙って親戚の一人が病気を苦に死んだように見せかけて殺した事件だった。
801 天使の梯子
Date: 2005-4-18

おすすめ度 ★★★★

 村山 由佳 著  集英社  発行:2004年10月

 練馬区の片隅にある都立高校。俺は大学を卒業して2年ぐらいの斉藤先生がクラス担任だった。しかし、あれからすぐに先生をやめてしまった。同窓会にも出欠の返事も来なかった。
 その斉藤先生が、俺のバイトする喫茶店で彼氏からコーヒーを浴びせられた。会計は先生がした。そのとき「浴びたコーヒーの分までお客さんが払うんですか」ときいてもわからなかった。ロッカーに白シャツがあるというが大丈夫だという。つい斉藤先生と口走るとぎょっとして俺を見た。古幡だというと「あのフルチン」と驚いた。
 先生のうちに寄った。先生とは8つ違う。
 俺を育ててくれたばあちゃんが死んだ。ヘアスタイルのことで言い争った。ばあちゃんは後ろだけでもそろえてやるという。今流行りだといっても手を出そうとする。つい悪態をついた。その翌朝、ばあちゃんは冷たいタイルの上にうつぶせになっていた。父親に電話した。斉藤先生も心配してくれた。
 葬式の後、斉藤先生が俺のところに来るようになった。朝5時おきして自転車で先生の家へいったん帰り出勤する日が続いた。先生の付き合っていた彼は絵描きだった。池袋にそれを見に行った。現場で足を捻挫してしまった俺。彼氏は斉藤先生の絵をたくさん描いていた。
 彼氏はいった。これはあの人ではない。もうこの世にいない人だと。その絵は先生のお姉さんの絵だった。
 僕はばあちゃんのやり方を見ていたから散髪ができる。先生の髪をカットした。短くしたが似合っていた。
900 眉山
Date: 2005-4-16

おすすめ度 ★★★

 さだ まさし 著  幻冬舎  発行:2004年12月

 徳山市の吉野川の向こうに眉山が見える。
咲子のもとに病院から、母が錯乱したという。聡明な母が錯乱などするはずがない。咲子が駆けつけた。ケマーネジャーの啓子は錯乱とは違う、大正常だという。
 母は神田の生まれでけんかをしても収まるところへ収まればきれいさっぱり忘れるような人間だった。
 点滴を入れる際に2回目は、そこは痛いからやめてくださいといったのに無視して看護婦がそこに刺した。母は怒って、生意気な口を利く看護婦に向かって「あなたは患者を診ていない。あなたはお医者の顔を見ながら仕事をしている。あなたにお礼を言うのはあなたの後ろにいるお医者にお礼を言っているのだ。もっとプライドを持ちなさい。」といったという。神田のお龍といわれた母である。
 母はパーキンソンだった。そして医師から癌も見つかりあちこち転移している、夏が越せるかどうかと言われる。
 母は自分を女手ひとつで育ててくれた。母は気丈にしているが、だんだん弱ってきていた。
 病院で母と一緒に写っていた男性、その人に会った。こちらも車椅子、あちらも車椅子だった。あちらは母に気づいてじっとみている。咲子とも目が合った。しかし母はじっと前を向いたままだった。ずっと好きだった人、その人に迷惑をかけまいとしていたのだろう。そう、咲子は父と出会ったのだった。
 母は献体をしていた。献体とはなんだろうと、咲子は医師にあれこれ尋ねる。
 母の残した箱に「咲子の命が本当に本当に私のすべてでした」と書かれていた。そして「篠崎孝次郎」という名と文京区の住所があった。
 文京区をたずねた。何十年も前のはず、越していると思っていたがそこには「篠崎医院」の古い看板があった。
 

799 環蛇錢
Date: 2005-4-14

おすすめ度 ★★★★

 加門 七海 著  講談社  発行:2002年5月

 修の幼馴染の裕一が死んだ。29歳だった。しかし、裕一の骨はすべて燃えてしまったのか何のかけらもなかった。「お経がよくて体ごと極楽へいったのだろう」と灰を壺に収めた。
 その裕一が、修のアパートに訪ねてきた。ボロボロの老人になって。しかし、口から出る言葉は裕一しか知らぬことだった。修はアパートに入れ、風呂に入れさせてから自分のジャージーを着せた。裕一が言うには、自分がこうなったのは川口市にある椿神社の古墳を掘ったあたりから変なことがはじまったという。その証拠に古い古銭を持っていた。
 修は古銭商をたずね、その古銭を見て欲しいとたずねて回るがめぼしい情報はなかった。上野のサエキ・コインで30代後半の男がそのコインの情報を教えてくれた。カンジャセンだという。蛇が自分の尾をくわえているような絵があるだろうという。40年近く前にも先代がそのコインを見たといったことがあった。そのときは右手のない男が持ってきた。その男の家を訪ねる。40年前であったが、その家はあった。娘が守っていた。手のない男は自分の父親だという。コインにはのろいが宿っている。常陸坊海尊という男で人魚の肉を食べ化け物になったという。
裕一と修は椿神社へ行く。神社では頭のおかしい宮司がいた。古銭にまつわることを知りたい修は神社から書類を盗み出す。
 サエキコインの佐伯と話しながら修はコインのことを知る。
 裕一の身体を元に戻してやりたい。裕一は老人の中にいる。ドラキュラと似た化け物なのか。不老不死の食べ物は人魚ではなく人肉であると佐伯は言う。
 古墳の中で裕一と修は戦った。
 夢だったのか、裕一も佐伯もいなくなってしまった。
 
798 毒針
Date: 2005-4-13

おすすめ度 ★★★★

 山田 智彦 著  講談社  発行:1999年9月

 三富銀行専務取締役立石は淡口という男の接待を受け、「葡萄の壺」と言うクラブから直通の8階の特別室で女性と性交した写真を撮られてしまった。
 特別調査役銀次郎の元へ無断欠勤をしている23歳女子行員の調査を頼まれる。他にもセクハラで支店長を訴えるという事件も抱えていた。
 セクハラで訴えるといった女子行員の部屋にはヤクザまがいの男がいて本人には会えなかった。
 しかし、その女子行員大下はこともあろうに銀次郎のマンションにやってきた。泊めて欲しいということである。銀次郎は深夜でもあり泊める。銀次郎はソファーで寝る。セクハラで訴えるという大下の件は知り合いのヤクザの男が直接、支店長に交渉し、300万円をすでに取られていた。大下はそれがいやでヤクザから逃れるために銀次郎の元へ来たという。
 翌日から銀次郎は赤坂のホテルに泊まる。しかしホテルも別の女性が銀次郎を待ってやってくる始末である。
 淡口はその後姿を消したが、再び姿を現した。こんどは栗本と淡口の関係を知った銀次郎は、朝早い臨時常務会の席上に栗本とマリアンナの裸身のカラー写真をおいた。栗本は不信任された。

797 偽りの館
Date: 2005-4-12

おすすめ度 ★★★★

 折原 一 著  講談社  発行:2004年9月

文筆家と名乗る男は古い洋館の3階建ての家に来た。10ヶ月ほど前、この家で叔母が同居していた甥に殺されるという事件があった。
 この家に住み、その事件を詳しく調べてみようと思った。
 この家の主、富子は絹織物で財を得た男のお妾であった。その後富豪は死に富子にこの家が残された。富子には兄弟がいた。子はなく、財産を甥に残そうと一緒に暮らし始めた。そして3ヶ月で事件が起こった。甥が富子を殺したのだった。
 しかし、甥の智樹は逮捕後、自分は二重人格だといい、現在は病院に入っている。
 文筆家は飲みすぎて気分を悪くしていた長沼絹代と知り合い、その後お手伝いとして出入りしてもらっていた。
 智樹は日記をつけるという面を持っていた。どこかにあるはずだ。家中を探し、屋根裏からそれを見つけた。それによると智樹は叔母の部屋を屋根裏を使って様子を見ていた。日記には決行前までの様子が書かれていた。
 この文筆家にも母親がいた。こりもせず電話をかけてさびしさを紛らしていた。そしてその母親が施設から行方不明になった。文筆家にとっては自分の母親がいなくなってくれることを望んでいた。
 智樹の母が洋館を尋ねてきた。そして一緒に暮らし始める。母親に智樹に面会に行くように仕向ける。智樹は母と会い興奮する。
 智樹が病院を抜け出しこの家に戻ってきた。僕の中の行彦が叔母を殺したという。
 2年前から富子の妹春子とその娘美咲が一緒に暮らしていた。美咲を智樹は好きになってしまった。
 智樹が殺したのは富子ではなく美咲の母親の春子だった。文筆家と称する男は富子の息子行彦であった。智樹は再び叔母に手をかける。叔母は智樹が叔母の部屋を覗いていたことを知っていた。
 強欲な富子はそうそう死ぬわけがなかった。
796 烏女
Date: 2005-4-10

おすすめ度 ★★★★

 海月 ルイ 著  双葉社  発行:2003年12月

 珠緒のもとに美希が赤ん坊を抱えてやってきた。夫の村田が帰ってこないという。珠緒は美希に助けられた恩もあり、探すことを協力する。
 美希はクラブの客だった村田と結婚し家庭に入った。珠緒は夫の事業の失敗から闇金融に借りたお金の取立てに耐えられず、離婚し実家に身を寄せていた。美希の紹介ではじめたハンガー屋である。
 ハンガー屋とは店を持たず売れ残った洋服を格安で売る商売である。客は大抵祇園の水商売の女性である。夢を売る商売で生活感の無い高級な服が好まれた。
 珠緒はアートフラワーも店に卸していた。店を回りながら村田のことを尋ねていた。そこへ火事や殺人事件のあったところに帽子をかぶり黒いコートを羽織った烏のような女が立っていたという。あるときはその烏女は男だったというものもいた。
 14年前、鴻神社に強盗が入り放火して宮司一家が焼死した事件があった。
 烏女をさがしているといううわさが広まったのか、落ちぶれたサヤが珠緒に烏女の家を教える。そこは荒れ果てた廃屋のようなところに老婆が住んでいた。円山公園で殺人の後にみたとサヤはいう。
 かってのブルーベルベットの従業員が次々に死んでいる。村田もそこの従業員だった。店は鴻神社事件の後バレンタインという店に変わった。
 宮司一家に先妻がいてそこ息子が生きているはずだという。
 祇園に店を出さないかと珠緒に出資してくれるという南方。珠緒は手を広げて失敗した夫のこともあり地道に今のままでよいと断る。その南方が窃盗犯にまちがいない。ブルーベルベットでマネージャーをしていた安永が全部教えてくれた。
安永はガンでもう長く生きられない。
 珠緒は烏女はアートフラワーの店主佐保子なのかと疑う。しかし烏女はなんと安永の一人息子の勝一だった。勝一は南方に復讐するために生きていたという。村田はすでに神戸港の海底に沈んでいた。
795 震災列島
Date: 2005-4-9

おすすめ度 ★★★★

 石黒 輝 著  講談社  発行:2004年10月

 地元の住宅建設会社の後に阿布里住宅という不動産屋が乗り込んできた。影のある社員が1軒ずつ挨拶に来た。このあたりの土地を買い占めるようである。
 東海地震でいつくるか不安の日々を送っていた住民は、言い値で買うといううわさに、あちこちが引っ越して虫食い状態になった。
 そして組員が49人もやってきた。町会も奴等を追い出したい。犬の死骸が道路に捨てられたり猫の頭が門に載せられたりした。
 警官の黒澤はすっかりこの阿布里住宅の言いなりである。
 友紀が強姦された。近々結婚の予定であった。友紀は自殺した。親父と兄の真人は復讐のために阿布里住宅のヤクザたちを自宅に誘い込んで一緒に死のうと要塞作りをはじめた。同じ苦痛を味わわせなければ気がすまない。地下を掘り、阿布里との戦闘に備えた。爆弾もつくった。ボーガンも買い込んだ。
 地震があった後、組員たちはうまい具合に友紀の家にやってきた。この瞬間を待っていた親子は鉄製のシャッターを閉め、地下に浸水する水でやくざたちは次々に死んでいった。電気もショートし真っ暗になったシェルターに親父は向かった。
 津波が来て死んだヤクザたちも流れていった。
 事件の後真人は世の中に絶望し、呆けたようになっていた。死を覚悟した父が「いきて考えろ」といった。明石家の戦争は終わった。
794 草原からの使者
Date: 2005-4-8

おすすめ度 ★★★

 浅田 次郎 著  徳間書店  発行:2005年2月

「草原からの使者」では、「財産を1円たりとも分割をしない。だれかひとりに金と馬と土地をゆずる」という父の30年前の言葉。馬主でもあったことからダービーで賭けをする。ハイセイコーの活躍した時代。3人がそれぞれ馬券を100万円分買った。そして勝った。自分は財産を受け継ぎ、兄と弟には100万円の馬券で得た1億円を半分ずつ与えた。親の言葉なので遺産の争いはありませんでした。馬券を買うとき、老人がハイセイコーは負けるというしぐさをする。「タケホープ」といったような気がしていい加減に買った。
ところが的中し、タケホープが一着になった。あの老人は草原からの使者だったのか。
 このほか「宰相の器」「終身名誉会員」など貴重な体験を会員の前で話す。他の場所で決して口外してはいけない。会員たちは話し始める。


793 吐きたいほど愛している。
Date: 2005-4-6

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  新潮社  発行:2005年1月

 「半蔵の黒子」では毒島は経堂の駅前で高校時代の一宮にあった。一宮はオレの頬にある500円玉ぐらいのほくろをみてわかったのだろう。25年前の自分を思い出した。クラス委員の一宮、清掃委員の毒島。いつも一宮は自分をライバル視していたと思っている。俺にこのほくろと毒島半蔵という名前でなければ俺のほうが勝っているはずだった。
 初音も俺のものだった。でも「毒島君とは付き合えない。いま一宮くんと付き合っている」といった。このほくろを取るまで一宮にあずけておくよと分かれた。
 街ですれ違ったときに落とした雑誌を拾ってくれた美人の女性。初音かと思った。後をつけた。そして25年間持っていた初音の体操着とブルマを送りつけた。そして宅急便の男に隠れて訪問した。女性は拒否するが、毒島はもう初音と思い込んで話を進めてくる。そして、一宮の名前を出した途端にリュックから出刃包丁を出し目玉に刃先を突き刺した。そしてもう一方の眼も。女性はさらに性器を突かれ息絶えた。一宮も殺した。
 警察が別の殺人容疑で毒島を逮捕した。そばに一宮の死体が転がっていた。
「英吉の部屋」では、老いた父は娘のうちに引き取られた。妻は死に84歳の英吉は娘光子の元へ来て半年がたった。2ヶ月前、味噌汁が好きだった英吉にやっと味噌汁が作られた日、英吉の腕に煮え立つ味噌汁を振りかけられた。30度を超える猛暑。枕元にはペットボトルがあるが、硬くしまってキャップが動かない。「こんな暑い日に暖房をつけて平気ですか」と光子の夫が顔を出す。光子が暖房をつけていき、リモコンを手の届かないところに置いた。切ろうにもきれない。オムツも昨晩から替えていない。食事は厚いたくあんにステーキに餅という取り合わせ。おまけに英吉の入れ歯を抜き、「何も食事のときに洗浄しなくても・・」といえば「雑菌が身体に入ったらどうするの!」 言うだけ無駄だった。光子の夫は固いものばかりでは食べられないだろうとペットフードを英吉の頭を押さえつけ口に入れる。吐き出すと着火装置で針で刺されるような痛みが脳天を突き抜ける。身体が不自由でのた打ち回ることもできない。
 ある日、農薬を園児の父兄が忘れたという。一番寒い部屋に置かせて欲しいと置いていく。あれで自殺しろというのか。英吉は今生の別れに光子を呼ぶ。呼べば光子の機嫌が悪く、頬や首筋、肩にベルトの鞭がしなった。「預金がある」と光子を近づかせ、口に農薬を押し込んだ。光子は苦しみながらやがて静かになった。英吉は光子が落とした携帯で警察に電話する。「娘を殺しました」
光子を犯罪者にしたくなかった。けっして生き地獄のような生活に耐えられなかったわけではない。光子の将来を案じ自らの犯した罪を真摯に受け止めたかった。サイレンの音が聞こえた。

792  十四番目の月
Date: 2005-4-5

おすすめ度 ★★★★★

 海月 ルイ 著  文芸春秋  発行:2005年3月

美有は来月で3歳になる。脱サラしてリサイクルショップをはじめた桑島家。妻の樹奈は幼稚園受験の幼児教室に入会した。
 買い物をしている間に娘の美有がいなくなった。どこを探してもいない。
 樹奈の家に電話が入る。2千万円を引き換えに娘を返すという。警察も来た。犯人は金を持って指定場所に向かう役を樹奈に指定する。
 警察は樹奈をその役につかせるのをためらった。頭が悪すぎる。犯人に警察がかかわっていることが知れる恐れがある。しかし、樹奈に2千万円を持たせ、犯人との取引に応じさせる。
 指定された喫茶店に行くと次の喫茶店を支持する。電車で異動させる。ぐるぐると指定を変えた。そして、最後は袋の中は2千万円が空になっていた。どこかで袋を摩り替えた。
 警察はシャングリアホテルのクロークに預けたという紙袋をさがす。当日の催しに不審な点は無かったか捜査する。
 結婚式やパーティでピアノの生演奏をする奈津子は帰りを急ぐあまりタクシーとぶつかる。タクシーの運転手は女だった。それが縁で奈津子はタクシーの運転手早苗とも親しくなる。
 奈津子の働いているホテルで事件があったことが報道された。早苗もあの日、近いのにタクシーに載せた女を覚えていた。二人で犯人を捜す。
 クロークに入れる人間。
 奈津子は思い当たる人物と早苗が調べた美有の母樹奈の過去を知る。保母をしている時代に薬を飲ませなかったばかりに翌日死んだ園児がいた。
その保母がいまでは死んだ息子と同じ年の子がいる。幸せでいることが許せなかった。最大限のダメージを与えたかった。
 誘拐した娘はまもなく無事保護される。しかし、子供の記憶ではあいまいで解決できない。
 奈津子はその人物の話を聞いた後、「警察に行く理由はない」と告げる。自分も同じ立場なら同じ事を考えたから。

791  生誕祭 上・下
Date: 2005-4-3

おすすめ度 ★★★★

 馳 星周 著  文芸春秋  発行:2003年6月

 彰洋は不動産で財を成した波潟の一人娘早紀と付き合い始めた。波潟はそのことを知らない。
 早紀の同級生の麻美は波潟家に出入りするうちに早紀の父親と愛人関係になる。親子ほど年が違う。お金に執着する麻美は、早紀の父が金持ちと知って近寄って来たのだ。一時、家庭内がギクシャクし、早紀と麻美は疎遠になっていたが、彰洋と付き合うようになった早紀は、麻美に何かと相談をしていた。
 しかし、麻美は彰洋とも関係を持ち、さらに彰洋の上司、美千隆とも関係を持っていた。
 美千隆は彰洋を一時的に波潟の下で働かせ、奴の動きから、次のねらいをどこに絞っているか情報を得ていた。
 波潟には政治家や銀行員が取り巻いていた。土地の地上げでかなりの資産を作っていた。
 彰洋は早紀からも情報を得て、それを美千隆に流していた。彰洋には麻美の身体が気になっていた。早紀を抱きながら麻美を思っていた。
 やがて、早紀に男がいることを悟った波潟は誰が相手か調べるように彰洋に告げる。
 ふとしたことから波潟の妻が家を出る。早紀も父の暴力に憤慨していた。
 彰洋は早紀の母に、早紀との結婚の約束を了承してもらう。
 彰洋は波潟の動きをスパイしていることの後ろめたさと、美千隆への不審を感じ始めていた。
 コカインに手を染める波潟。薦められるうちに彰洋もコカインのとりこになる。これでは自滅してしまう。麻美に助けられる。
麻美はあと2年ぐらいで自分は飽きられることを自覚していた。早くお金を集めておきたかった。波潟を敵とする男さえ抱き込んで麻美はしたたかに金や品を要求していた。麻美はそれでも彰洋だけは裏切らないようにしていた。
 やがて、バブルがはじけ、波潟が脱税容疑で逮捕される。後釜には夫人が社長となった。
 彰洋も都会を去った。北国で漁をして暮らしていた。そこへまたもや美千隆がネズミ講をやらないかと近づく。

790 TVJ
Date: 2005-4-1

おすすめ度 ★★★★

 五十嵐 貴久 著  文芸春秋  発行:2005年1月

 六本木の旧社屋からお台場へ移転して間もないテレビジャパンが何者かに占拠された。
 地上25階建てのビルは今日から4日間の72時間テレビでにぎわっていた。
 迷彩服に身を固めた兵士たちは少佐と称する男と共に機銃をもってビル内にいる男たちに向けて「言うとおりにしないとビルを爆破する」と脅す。番組ははじまっていた。そして男たちに占拠されたことを報道する。
 22階から由紀子は誤ってビルの外に放り出された。死ぬかと思ったが、ゴンドラにつかまり自力で階下の窓を叩き割って再びビルの中に入ることができた。すでに女性たちは人質から解放されていた。
 由紀子は必死の思いで、犯人たちから自分の身を守る。一時、犯人に見つかりその階をくまなく調べられるが、由紀子はダストシュートの中に隠れて難を逃れる。生きなければ・・・結婚を約束した圭が人質になっている。ビルはコンピュータ化された最新のハイテクビルである。
 由紀子はコンピュータに消化器の液体をかけ壊す。
 男たちは二千億の現金を要求していた。現金はダストシュートから次々に落とされた。それを由紀子は見ていた。
 隣に立つプラチナタワーから警官が乗り込んでくる。早く警官に知らせなければ。
 犯人たちはテレビ局の車に似せた中継車で脱出するが、途中で警察に取り囲まれる。由紀子がその車に乗り、車を止めるべく車のマフラーにストッキングを押し込んでいた。
 テレビジャパンはこの事件の中継で80.6%の視聴率を上げた。解決までの10時間を含めてすべての人が見ていた。
789 蒼のなかに )
Date: 2005-3-30

おすすめ度 ★★★★

 玉岡 かおる 著  角川書店  発行:2004年5月

 シャルル・ド・ゴール空港で関西空港に向かう飛行機に乗り遅れた紗知。「編集長!」と声をかけられてふり返ると嶺だった。あすの関空行きの飛行機に乗れることになり、すでにお金を使い果たしている紗知に航空会社が用意してくれた無料の宿に泊まれた。
 しかし、紗知はその晩熱を出した。出発時刻前に訪ねてきた嶺に助けられる。
 パリから帰ってからの紗知は入院し、レーザー治療で病巣を取り除いた。そして、2度目の手術で今度は子宮の全摘出をする。
 編集の仕事に戻った紗知に、手がけていた雑誌が人と共にもっていかれた。隔週出していたものが無くなった。
 元の夫がたずねてきた。22歳の若い子と結婚するという。しかもすでに妊娠している。義母も孫の誕生を楽しみにしているという。
 夫のもとを去る前に、息苦しさから逃げ出し実家に戻った紗知を、母が病気をおして紗知をつれ「私がわがままに育てすぎました。娘と思って育てなおしてください」と誤りに行った。その後、入院した母に安心させるために二人は一緒にやり直すと二人で病院に母を見舞った。しかしすでに限界だった母はなくなった
 元の夫は紗知の入院の際も力になってくれた。もとは同級生だった夫。揖保川の流れる町だった。

 

788 家族芝居 )
Date: 2005-3-28

おすすめ度 ★★★★★

 佐川 光晴 著  文芸春秋  発行:2005年2月

僕のいとこの善男さんは北大構内の青テントで芝居をしていた。結婚して1女をもうけたのに、芝居にのめりこみ、おまけに浮気をして離婚した。
 その後、上京し早稲田の下宿屋に住んでいた。そして、下宿屋のご主人が亡くなり、遺言によりいつの間にか学生がいなくなりその代わりにお年寄りが集まるようになった下宿をそのまま年寄りを住めるようにして欲しいと頼まれた。
 下宿には75歳から85歳までのバアさんばかり7人いた。1人だけ介護保険のお世話になるバアさんがいるだけで、皆元気である。
 善男さんは口が悪く「今宵もババアどもに、この地上において、もはや何一つ役に立つことのない八方ふさがりのババアどもにさらなる不毛な1日をお恵み下さりましたことを感謝します。願わくは、ここにおりますババアでもを1秒でも早く、そしてまた一人でも多く、あなたのそばに召されませんことを、アーメン」と婆さんたちの前で言ってのけるのである。
 善男さんは介護福祉士の資格を取り、この八方園をグループホームにしたようである。善男さんは月に3万円ぐらいの報酬で納得しているようである。老人たちの一人当たりの費用は月10万円かからないようであった。うち家賃は2万円であった。介護保険の対象になるために「オヨネさん率先してボケてくれませんか、こちとら保険料も補助金も入らなくておまんまの食い上げだ!」と悪態をつくが、それよりボケないように細心の注意を払ってくれているのを知っているのである。
 僕は受験のために上京し、その八方園にお世話になった。
 ある日、公園に花見に行ったとき、弁当を盗む女の子たちを捕まえた。父に捨てられたジャバユキさんの子達だった。その子たちを善男さんは引き取り八方園に住むことになった。
 バアさんたちは孫ができたと喜んだ。他人ばかりの不思議な関係がうまく機能していた。
 善男さんは子供たちのことで相談した弁護士の娘さんと結婚することになった。善男さんの人柄に惹かれたようである。僕は八方園を出て善男さんに部屋を提供した。
 八方園をでてから、僕は生活が物足りなくなった。あの生活がなつかしい。他人同士の共同生活がどれだけありがたい場所かわかった。

787 毒殺連鎖
Date: 2005-3-25

おすすめ度 ★★★★

 津村 秀介 著   祥伝社  発行:1999年9月

 二日続けて新幹線で殺人があった。ふたつとも缶コーヒーを飲んで死んだ。青酸カリが検出された。小田原ー東京間である。
 二人目の犠牲者の際に身元が割れた。坂野信用金庫副長の高木文也37歳だった。前日に殺された男も同じ信用金庫副長の笠原宏次だった。
 二人とも鳥羽の賢島のホテルに泊まっていた。調べるうちに「手塚整体医学院」の理事長の影がちらついている。
 賢島のホテルのようなクリニックに大庭隆三が入院していた。殺された2人はここにきていた可能性がある。
 手塚整体医学院は5年前の創立時は木造二階建てだった。増築に増築を重ね現在は4階建てビルである。
 6年前に東北で信用金庫を舞台にした詐欺事件があった。そっくりの手口で坂野信用金庫でも偽札束事件があった。札束の中身は紙だった。それに手塚整体学院がかかわっている。
 理事長の手塚久生のアリバイを崩す。見つけた!鳥羽港から名鉄海上観光船にのり蒲郡に渡り、豊橋に行くそして、こだまに乗り静岡へ行くルートだった。静岡からひかりに乗れる。


786 迎え火の山
Date: 2005-3-22

おすすめ度 ★★★★

 熊谷 達也 著   講談社  発行:2001年8月

 工藤は山形の月山と湯殿山の麓の村に帰ってきた。妹の早紀が30過ぎてフリーライターでいることを真ん中の2文字を取るとただのフリーターだと揶揄する。
 工藤は裏滝と呼ばれる滝の裏側で小学校からの同級生由香と会う。由香は祖父を即身仏にしたと洞窟の中の祖父に合わせる。そして鬼がおりてくるという。工藤や由香の同級生正志の行う採燈祭を中止させたい。ミイラの多いこの地域はミイラによって守られている。由香も工藤も死んだ人が見える。そらん鬼(?乱鬼)の正体を調べるよう由香は言う。
 父が入院した。病院にいくと医師が意識障害と栄養失調だという。その医師は妹早紀の彼氏だった。
 由香が正志からレイプされたと訴えた。工藤は由香と正志を見たが正志はそのとき由香は鬼に魂をのっとられていると言った。半裸の形で呼びかけても答えが無かったという。
 由香は正志に鬼がとり着いているという。上役の罪のために冤罪で捕らえられた藩士の霊だという。怨念をもって鬼と化した。
 正志の鬼と由香は対峙する。狂乱状態で正志に襲い掛かる。工藤は止める。
 死霊の世界が蘇我、物部の時代から続いている。
 そらん鬼(?乱鬼)の正体は能除太子の怨霊だった。それを牛耳れるのは工藤と由香しかいない。霊が見えなければ勝てない。
 そらん鬼(?乱鬼)と対峙した工藤は工藤の中から出た影とそらん鬼がぶつかった。そらん鬼の苦痛に叫ぶとともに2つの影は消えた。

785 銭売り賽蔵
Date: 2005-3-20

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著   集英社  発行:2005年2月

 降り続いた豪雨で永代橋の土手が崩れた。生まれて間もない賽蔵は、母に盥に乗せられ直後に母は川の流れに飲まれてしまった。
 たまたま通りかかった銭売りの由蔵に拾われた。由蔵は26歳で一人身だった。おのれの子として届け育ててくれた。
 賽蔵が11歳のときから銭売りの仕事を手伝った。
 由蔵は賽蔵を「こしき」という魚をうまく食べさせる飯屋に連れて行ってくれた。サバの味噌にはうまかった。そこの娘おけいと賽蔵はいつしか一緒になりたいと思っていた。
 深川界隈を賽蔵は商っていた。ときどき亀戸の方から銭相場の情報が入るが、町の人のためになるべく親身に薄利でやっていた。
 深川が火事に見舞われた。早速亀戸から銭売りの拡大をもくろむ動きがった。しかし町の人は動じなかった。
 賽蔵は火事の後、おけいと所帯を持つと皆に話す。賽蔵が三井両替商を深川で始めるという。所帯を持ったからにはその店も手伝いたい。そんな折、こしきは何者かに放火される。亀戸の奴等の仕業であろう。
 人と人とがお互いに助け合って暮らす深川の心意気が好きだった。
784 ローズマリー 上・下
Date: 2005-3-19

おすすめ度 ★★★

 ソン・ジナー 著   琴 玲夏 訳  学習研究社  発行:2004年11月

 ジョンヨンは夫の健康診断で行った病院で、ついでに見てもらった自分の方は癌であった。そしてそれはすでに手遅れだった。
 二人の子供がいる。家の事は何もできない夫である。このまま残すわけには行かない。
 玄関先にあった植木鉢のローズマリー。枯れかけていたので捨てようとしていたが、そのまま忘れられていた。そのローズマリーがいつの間にか葉をつけていた。鉢を変え土を入れて植え替える。
 仕事に明け暮れていた夫は妻の異変に気づく。
 痛みに苦悶する妻。妻は夫のそばで天国に召される。
783 十津川警部「オキナワ」
Date: 2005-3-18

おすすめ度 ★★★★

 西村 京太郎 著 光文社  発行:2004年12月

 巣鴨のビジネスホテルで男が死んでいた。刃物で刺された後があるが、凶器が見つからなかった。ヒガサという血文字があった。ダイイングメッセージであろう。
 ヒガサをたよりに調べ始める。男は新宿のキャバクラで女性を探していた。写真を見せて聞いていたという。
 十津川警部は沖縄へ飛ぶ。比嘉という名が多い沖縄で何か見つかるかもしれない。
 写真から比嘉さきことわかる。妹のみどりに聞くと東京にいる姉と最近連絡が取れないという。
 沖縄の民謡酒場で知り合った戸田という男にみどりは姉の行方を捜してもらうことを頼む。
 戸田は東京から頻繁に沖縄に来ていた。
 姉が見つからなかったが働いていたというところが見つかったという。
 そんな折、みどりは姉を沖縄で見かけた。姉が働いていたという店に行くが働いていたという事実は無かった。戸田への不審が募る。
 午前二時ごろ女性が車にはなられて死んだ。おかしなことに道の向こうで手招きする男がいた。その男に向かって道を横断していて車にはねられた。はねた車はブレーキをかけていない。それよりもはねた後、向こう側の男を車に乗せて逃げ去った。
 女は比嘉さきこだった。十津川たちは戸田を追う。戸田は基地の中の病院にいた。マラリアにかかっていた。
 沖縄の病院に転送された戸田は十津川たちの調べに、東京で四輪駆動車の窃盗や拳銃の密売をみとめる。さきこはその仲間であった。
782 ブラフマンの埋葬
Date: 2005-3-17

おすすめ度 ★★★★

 小川 洋子 著 講談社  発行:2004年4月

 ブラフマンは裏庭のゴミバケツの脇にいた。ところどころに血がにじんでいた。まだ子供の尻尾のある四肢の短い動物だった。
 僕の部屋でバスタオルの上で傷の手当てをしてやった。ブラフマンは部屋の隅のダンボールの上でトイレをするようにしつけた。
 牛乳を沸かして飲ませた。粉ミルクも与えた。
 ブラフマンの傷は見る見るよくなった。
 元は出版社の社長の別荘だった。彼の遺言で芸術家たちに部屋を自由に使えるようになった。40人は泊められる。彫刻家、カメラマン、作家、装丁家、歌手などいろんな人がやってきてひと夏中いたり、数日で帰ったして使っていた。
 僕の仕事はシーツの洗濯、木の剪定、床のワックス掛けだった。
 ブラフマンと僕はときどき森へ散歩にいった。泉の中でブラフマンは泳いでいた。水の中が好きだった。
 その日も娘に車の運転を教えてやった。車は落ち葉を舞い上げた。何かが飛んで来た。あわててブレーキを踏んだ。ブラフマンが横たわっていた。出血はなかった。脇腹にタイヤの後が残っていた。お湯であっためたりしたがだめだった。
 ブラフマンの石棺を作った。スズカケの木の根元に埋めた。
781 火の粉
Date: 2005-3-15

おすすめ度 ★★★★★

 雫井 脩介 著 幻冬舎  発行:2003年2月

 友人として交際していた夫婦を撲殺、子供も絞殺したという理由で武内は裁判の最中だった。裁判官の勲は被告の終始穏やかな態度と背中に負った強い殴打傷が自分でつけられるには重過ぎることに武内の言うストッキングをかぶった犯人説を信用し無罪の判決を言い渡した。
 それを聞いて池本は裁判長に「何を考えているんだ。でたらめな裁判だ!」と食って掛かる。
 その勲の新居の隣にこともあろうか、武内が越してくる。最初のうちは妻の尋恵と武内は親しく話し、義母の介護の手伝いも頼むようだった。しかし、義母も武内と義姉が着ている時、食べ物をのどに詰まらせ死亡した。
 嫁の雪見は墓地に行った折、墓誌に書かれた水子の没年齢と水子地蔵に震える。このことは誰もしらない。おまけに、昔付き合っていた彼が近くの公園まで来た。雪見が出したという手紙を持っていた。自分の字であったが書いた覚えが無い。
誰かが、自分を陥れている。混乱した雪見はしばらく家を出る。
 そこで、雪見は裁判のときに叫んだ池本に会う。池本は武内の執拗な嫌がらせを忠告してきた。雪見はすぐさま義父の勲にそのことを伝える。しかし、証拠がないと相手にされなかった。
 となりのドーベル犬が殺される。武内が誤って殴打したとお詫びに30万円を持っていった。問題にならなくてすんだ。しかし、孫のまどかは武内の家によくいき、ヤクルトをもらっているようだ。そのころからまどかはおねしょをするようになった。
 勲は武内の昔からの友人という男に会う。男は武内の異常な性格をいろいろと話す。そして、あの裁判で争われた殺人は武内がやったことだという。背中の傷も学生の頃、武内が自傷癖がありよく自ら頭を打ち付けたり、手にボールペンを突き立てたり、バットで殴打していたという。武内の性格は異常であると話す。
 勲は嫁の雪見の話に耳を傾け始める。そんなおり、一家で河口湖の別荘に行くことになる。そこへ池本が行方不明であるという。
 別荘に着いた一家は、なんとそこでまた武内に出くわす。近くに武内の別荘があるという。
 尋恵は別荘の裏で木に吊るされた死体を見る。息子の俊郎に武内は襲い掛かる。そこへ勲たちもかけつけ、思わず勲は武内に大理石の灰皿で殴りつける。
 勲は被告人として裁かれた。武内を撲殺した罪で1年6ヶ月の判決を受ける。勲は35年間築いてきた信用が崩れたが、喪失感は無かった。なにより家族が明るく振舞ってくれている。
780 死亡推定時刻
Date: 2005-3-12

おすすめ度 ★★★★★

 朔 立木 著 光文社  発行:2004年7月

 渡辺美加が誘拐され身代金1億円が要求された。犯人の指定した川原への身代金の投下を警察は無視して通り過ぎた。
 小林昭二はアブラ(タラの芽に似ている)をとりに山に入ったところで女学生の死体を見つけた。臆病な昭二は現金4000円を盗んで逃げ帰った。
 社長の渡辺は1億円は犯人にくれてやるつもりだった。美加さえ助かればと。警察の中には渡辺からこれまで便宜を図ってもらったとことあるごとに現金を受け取っていた者がいた。
 いつ死亡したかを社長は気にしていた。身代金の受け渡しに失敗した警察の出方によってはこれまでの収賄を暴露すると脅す。
 警察は死亡推定時刻をさかのぼって誘拐された直後とした。
 小林昭二は逮捕される。強引な取調べで、警察の言うとおりの取調べ調書が作られる。そして、1審では死刑を宣告される。
 昭二の母は逮捕後、過労が元で亡くなる。父も行方不明になる。国選弁護人の川井は、控訴されたこの事件の矛盾点を見つける。
 冤罪だと思われる事件である。しかし、裁判では矛盾を正そうとする川井。裁判官にはその意志はなかった。結局2審も無期懲役になった。
 川井は老弁護士を訪ねる。再審判の新証拠を探すことだと励まされる。裁判の合議体が悪かったのだ。冤罪事件にあうたびに「禍福はあざなえる縄の如し」ということ、冤罪はひとり二人のミスではなく、大勢の人が寄り合って、さまざまな人間の営みが絡み合ってそれが冤罪にもなると諭す。
779 黒頭巾疾風録
Date: 2005-3-9

おすすめ度 ★★★★

 佐々木 譲 著 新潮社  発行:2002年8月

 蝦夷の地にやってきた恵然はアイヌに対する和人の横暴に驚いた。アイヌの青年シデハは些細なことで処刑される。
 この地を取り締まる大垣嘉門を好きになれぬ。悪徳のし放題である。
 恵然が暮らす寺の裏の馬場に珍しい馬がいた。ロシア人がおいていったという。鞍も黒い陣羽織も鞭もあった。トツケというアイヌの少年が世話をしていた。
 恵然はそれをまとい、トキノチ兄弟を救った。兄弟は親の病気が心配で一時、里に帰ろうとしたところを工事の遅れを気にする役人に捕らえられた。役人たちは一家の子供たち全員を強制的に連れてきていた。
 恵然は大垣に直接トキノチ兄弟を一時帰すように進言するが聞き入られなかったばかりか、10日後に処刑するという。
 処刑の日、黒頭巾が現れトキノチ兄弟を逃がしてやった。
 地獄山で疲れきったアイヌを和人5人が働かせていた。黒頭巾はアイヌをコタンに返し二度と引っ張らないことを約束させる。
 黒頭巾のうわさは広まっていった。
 恵然の前にトキノチが現れ、乗馬と鞭の使い方を教わりに来た。恵然のほかに黒頭巾になった。
 大垣は事件の後、寺にやってきて恵然にあう。今しがた馬に乗って戦った後とは思えぬ涼しい顔をしていた。番人も恵然は寺から出なかったという。恵然が黒頭巾と思い込んでいる大垣は歯軋りをする思いであった。
 せっかく逃がしたトキノチが大垣たちに追い詰められたと聞き、恵然は黒頭巾としての最後だと言い残しその地へ向かう。
 恵然はつかまり処刑を待つ身となるが、黒頭巾が刑場の外にも現れ恵然は処刑を免れ、大垣は恵然の投げた鞭が馬の足に巻きつき猛烈な勢いで引きずられ、絶叫とともに走り去った。
 大垣は死にこの地の悪事は葬られた。
 
778 邪光
Date: 2005-3-6

おすすめ度 ★★★★

 牧村 泉 著 幻冬舎  発行:2003年2月

邪光とは黒い綿みたいなものです。邪光を身体にへばりつけている人は邪悪な人なのです。それをやっつけるにはその人を殺すしかないのです。それは命を清めるためです。・・・そういいながら黎子の母は10人ほどの信者に7人も殺させていた。赤光宝霊会事件である。
 娘の黎子は真琴の住むマンションのとなりにやってきた。叔父と呼ばれる人が引き取った。10歳の子供である。
 ところがこの黎子が来てから次々に事件が起こる。マンションのとなりの戸部というおじいさんが包丁で刺され出血多量で死んだ。長い間、日照権で嫌がらせをしていた。殺人と断定された。
 ついで、マンションの管理組合長の八田が戸部を殺した容疑で逮捕された。八田は集めた修繕費や組合費を掠め取っていたらしい。
 黎子と同じ年の男の子がマンションから落ちて死んだ。母親は黎子に食って掛かったことがあった。黎子は知っていた。この母親はいつも男の子を折檻していた。それを取り繕うために外ではかわいがっている振りをしていたことを。母親が男の子を突き落としたことが判明した。
 真琴は黎子をときどきハンバーガーショップに連れていたり、夜出歩いているときに声をかけたりしてかわいがった。
 しかし、真琴は夫に愛人がいることを教えてくれた黎子に、恐ろしさを感じた。事件のときにいつもこの黎子がいる。人のココロを読むことができる。
 真琴は黎子を病院の屋上に呼び出し黎子を襲う。黎子と真琴は殴りあった末、黎子が屋上から闇に消えた。真琴は本当に殺したかったのは自分であった。夫のことは思い出さなくても黎子のことはいつも思い出していた。


777 方舟は冬の国へ
Date: 2005-3-3

おすすめ度 ★★★★

 西澤 保彦 著 光文社  発行:2004年8月

 ハローワークで十和人は男に声をかけられる。法外なアルバイトであった。失業中でもありその仕事を引き受ける。
 仕事とは別荘に住み、その住民として偽の妻や子と過ごすこと。いたるところにカメラやマイクが仕掛けてあり、24時間監視の中ですごすというものである。
 和人は妻となる栄子と玲衣奈という十歳の子供との3人の生活である。和人は末房信明として演技をする。栄子も玲衣奈も実の親子のように仲がよい。和人は父親として家族のために料理をする優しい父を演じた。
 やがて、栄子と和人は演技を超えて結ばれていく。
 なぜ、この演技が必要なのか疑問に思った。そんな折、別荘に不審な男が覗きに来る。男は和人のかっての高校の教師だった。和人はしらばっくれる。高い報酬を受け、今は父親になり切っていなければならない。男の度重なる侵入でこのバイトは終焉を迎える。
 玲衣奈は実のこの別荘の持ち主の子だった。別荘の完成を楽しみにしていた。完成前に交通事故で両親が死んだ。玲衣奈はひとり助かった。お金の力を借りて玲衣奈は夏休みを父と母と過ごしたかった。それを演じてくれる人とともに。
 外見的にも性格的にも本物に似た人材を見つけていたという。完璧すぎたと賞賛する祖母。その祖母と一緒に帰る玲衣奈。
 和人は夢を見ていた。玲衣奈と栄子と再び暮らす夢、それは厳しい冬の国。冬の国へ行く方舟に乗ることだと玲衣奈が言っている。
776 正義の証明 上・下
Date: 2005-3-1

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著 講談社  発行:2004年11月

 表参道の裏通りに築30年のアパート河合荘がある。1Kから3LKまでの10戸。そこに住む住民が事件に巻き込まれていく。
 山葉とゆかりは結婚し、この河合荘に住んだ。しかし、山葉がゆかりの貯金500万円を使ったことや、金遣いの荒さに驚いた。そして浮気相手のいることが決め手となってゆかりは離婚を申し出ていた。家庭内でギクシャクしていた。
 徳本は旅で知り合った志織と意気投合したが、なかなか志織は連絡先を明かさなかった。
 タクシー運転手の亀田は偶然、志織をマンションまで送っていき住居を知る。
 そのころ、私刑人という世の中の悪を闇のうちに処刑する人物がいた。
 山葉は愛人とすごしたホテルを出たところで首に小さな傷を残して死んだ。この手口は私刑人の仕業とおもわれる。ゆかりは編集者と会っていてアリバイはあった。山葉は大物政治家の秘書であった。
 八代は自分を拾ってくれた鍛冶社長に感謝していた。それが、山葉殺害容疑で逮捕された。鍛冶社長は弁護をしてくれないばかりか知らないと言い張った。八代は自分がただ利用されただけだと知る。
 ゆかりはおなじアパートの八代の逮捕に驚いた。直感で八代が犯人ではないと感じる。
 トムソンという外人が少女を引きながら逃げた。逃げなければいけなかった理由があった。
覚せい剤を持っていたのである。
 きん婆さんは金貸しをしていた。大物の政治家とヤクザの娘が結婚することになった。その結婚式に二人の生い立ちを写す画像に濃厚にキスをするシーンがあった。来賓は二人の愛に失笑した。しかし次の画面で相手は新婦と別の男性トムソンだとわかると、来賓は静まり返り、そして徐々に退席していった。披露宴は中止になった。
 これはアパートの住人菊名のやったことであった。菊名が闇の私刑人であることがアパートの住人にはわかった。
 トムソンは私刑人から少女の親に謝罪しなければ殺すと脅され5000万円と謝罪に行く。
 棟居刑事が捜査に乗り出す。
775 ユニット
Date: 2005-2-26

おすすめ度 ★★★★★

 佐々木 譲 著 講談社  発行:2003年10月

 祐子は刑事の夫から受ける暴力の回数が増えるごとに度を越していた。5歳になる晴也をつれて家を出ようと札幌に向かった。
 女性相談をうけ、職安に行った後、帰りのホームで転落した女性を助けようと波多野が線路に飛び降りる。続いて真鍋も飛び降りる。女性は助かった、波多野も真鍋も電車の来る前にホームに引きあげられた。祐子も手を引っ張って引き上げた。
その縁で波多野の工務店に真鍋を雇った。やがて祐子も賄いで雇われた。
 波多野は祐子が夫の暴力から逃げてきたことを聞く。一方、真鍋も7年前に妻と生まれて間もない子を17歳の少年に殺された。以来、生きる張りを失っていた。
 真鍋は17歳の少年が無期懲役になったが模範囚として7年で出所したことを知る。こいつに復讐してやることが張りになった。
 真鍋は探偵事務所にその少年川尻のことを調べさせる。自宅に戻っているという。拳銃を手に入れ待ち伏せる。川尻を見つけた真鍋は拳銃を向ける。そのとき、携帯が鳴る。真鍋は車に乗りもどる。真鍋は晴也に遊園地に連れて行く約束をしていた。 
 川尻は自分のことを聞きに来た男を突き止め、真鍋のことを知る。真鍋をやらないと自分が殺されると思った。
 真鍋は川尻に会い、復讐をしようと思ったがそれを思いとどまる。拳銃は海に捨てた。
 探偵の浅野が死んだというニュースが流れる。一方、女性相談所で相談員が殺されたというニュースも。祐子は夫の仕業だと思った。
 真鍋と祐子は逃げる。逃げた後、川尻も祐子の夫も工務店にやってくる。刑事という男に工務店の店員が祐子の行き先を教えてしまう。
 波多野は戻ってこのことを聞き、すぐに行き先の別荘に向かう。
 別荘で川尻が真鍋の復讐にくる。刑事の夫は川尻を打つ。妻にむかう夫を川尻が渾身の力を振り絞って撃つ。夫は倒れる。多分即死であろう。
 そこへ波多野が警察を連れてやってくる。川尻にはもう起き上がる気力もなかった。
 真鍋は祐子と晴也を抱きしめる。


774 幸福な食卓
Date: 2005-2-23

おすすめ度 ★★★★

 瀬尾 まいこ 著 講談社  発行:2004年11月

 「お父さんは今日でお父さんをやめようと思う」と父が宣言した。兄の直と私は驚いた。
5年前に父が自殺した。風呂で血だらけになって倒れていた。命に別状はなかったが、そのころから母の様子がおかしかった。父といると心が休まらない、苦しいと言い出した。結局、母は別にアパートを借りて住み始めた。
 兄の直は大学に行かないで青葉の会という無農薬の農業の仕事についた。兄は小学校から高校までずっと学年で1番だったのだ。記憶力は抜群だった。「大学にいっても無駄に時間を過ごしてしまいそうだ」といって断念した。
 私は高校。予備校にも通っていた。大浦君と友達になった。大浦君は私といると張り切れると言った。クリスマス近くにアルバイトを始めた。何かプレゼントをくれるらしい。私も大浦君にマフラーを編んでいた。
 その大浦君が死んだ。朝、新聞配達のときに轢かれたらしい。即死だった。私は泣いた。
 私の暗い気持ちを直の恋人、小林ヨシコさんは手作りのシュークリームを作って励ましてくれた。
 お正月があけて大浦君のお母さんが尋ねてきた。大浦君は死ぬ5日前にプレゼントを買い、うれしくて、なんども袋を開けてみていたという。
袋はしわくちゃだった。うすいピンクのカシミヤのマフラーだった。
 私もマフラーのプレゼントを持って大浦君の家に行った。「せっかくだけど、これを弟にあげちゃだめかしら?」と聞かれた。弟は大浦君に似ていた。「ありがとうございます。」と受け取ってくれた。
773 エリカ
Date: 2005-2-20

おすすめ度 ★★★★

 小池 真理子 著 中央公論新社  発行:2005年1月

 エリカは友達の蘭子の死を湯浅に教えた。湯浅は蘭子と不倫の関係にあった。蘭子は43歳。夫も娘もいる。湯浅とはホテルの展示会で知り合って付き合い始めて3年目だった。蘭子はクモ膜下出血であっけなく死んだ。
 告別式にエリカは湯浅と一緒に参列した。そのあと湯浅に誘われたが、蘭子が死んだという気持ちを忘れているかのような湯浅に対し、冷たくあしらう。
 ある日、エリカの元に401本の薔薇が届く。湯浅からだった。エリカの41歳の誕生日だった。悪い気はしなかったが、だんだん引かれていく自分に驚いた。
 食事に誘われるようになった。しかし、エリカはずっと独身だった。「初めてのエッチは延ばせばのばすほどその関係は長続きする」と若い子が話していた。エリカは湯浅と1ヶ月だった。
 エリカが恋しいと思うと湯浅から何の連絡もなかった。しかし、連絡があると夜中もかまわず会いたいという。
 エリカは向かいのマンションに住む男の子から、盗聴していることを告白される。それもずっと前から。そしてエリカはその男の子と付き合う。男の子は思いのほか純情だった。
 エリカは湯浅との関係を絶とうと湯浅の携帯番号を着信拒否にする。
772 アキハバラ@DEEP
Date: 2005-2-18

おすすめ度 ★★★★

 石田 衣良 著 文芸春秋  発行:2004年11月

 6人の若者がアキハラバ@DEEPを立ち上げ、最初はホームページのアクセス数をあげるためであったが、次第にサーチエンジンのベータ版を公開しようと考えた。
 彼等のページは人気がありかなりのアクセスがあった。6人が平均2.3時間の睡眠でサーチエンジンのクルークにかけていた。
 そこへ中込という男が6人をひとり2億円で契約しないかと持ちかけてきた。彼等はお金では支配されたくなかった。断った。
 程なく6人全員が空き巣に入られコンピュータ関係をごっそり盗られた。事務所にしていたコンピュータもやられた。中込に違いない。
 1ヶ月ほど放心状態でサーチエンジンのことは忘れた。そして、中込の会社で働く者からコンピュータの進入の協力を得る。
 自分たちで作ったクリークを取り戻すために、中込のビルに侵入する。
 中込は6人の若者たちが作ったものを土台に、新しい年の公開に向けて作業を続けていた。
 中込に不満を抱く社員も協力し、クルークはネットの世界に放たれた。クルークはデジタル生命体として人間との間で交流が可能になるものになる可能性を持っていた。

771 オレたちバブル入行組
Date: 2005-2-16

おすすめ度 ★★★★★

 池井戸 潤 著 文芸春秋  発行:2004年12月

 半沢は東京中央銀行の大阪西支店で貸付の仕事をしていた。浅野支店長が持ってきた西大阪スチールの融資の話がきちんと分析されないまま融資係まわされた。融資額は5億円である。しかも裸といわれる担保もとらないものであった。3日後に満額融資となった。
 その西大阪スチールが倒産した。東田社長は逃げるばかりだった。おまけにこの融資の責任は半沢になると本店からも支店長からも攻められた。
 半沢は西大阪スチールの取引先をたずねる。竹下金属の社長と手を組んで東田の粉飾決済を暴く。竹下金属の実質の売り上げは5億。西大阪スチールの帳簿は7億の売り上げがあった。
 東田が海外に別荘を持っていることを知る。さらにプライベートバンキングやニューヨーク、ハーバー証券の取引をつかむ。
 そして、東田と浅野支店長が同じ学校の同級生だとわかる。浅田のバックから5千万円の印字された預金通帳を見つける。5億円の融資の後だ。
 銀行側は半沢に責任を押し付けようとあの手この手を見せてくる。叱責と責任の転嫁だ。半沢はその間、東田の財産の差し押さえの方向に動いていた。
 銀行の査察でも決して自分のミスは認めなかった。半沢の責任にしてどこかへ出向させてしまいたい考えであった。
 半沢は浅田の悪事を暴き、本人を追い込む。浅田支店長は半沢の栄転人事をのみ刑事告発は免れる。
 そして、最後に自分の父親が銀行から受けた屈辱を半沢が父に代わって当時の担当であった木村調査役に土下座をさせていた。

770 瑠璃の契り
Date: 2005-2-14

おすすめ度 ★★★★

 北森 鴻 著 文芸春秋  発行:2005年1月

 「倣雛心中」では同じ人形が10ヶ月のうちに3度も同じ店に来た。人形を見た少女は人形が怖いといい、車椅子に乗った女性も、寝ている女性にも怖がられた。
 陶子は人形に仕掛けがあることを見つけた。元夫が撮ってくれた写真には変化はないが、下から見上げた人形の目に仕掛けがあった。陰の位置から憎悪の目に変化するのだ。男人形もあるはずだ。男人形は逆に上から見ると憤怒にゆがんだ顔に見える。二つが組になって100だったものが、850で売れた。
 陶子は目が悪くなってきていた。旗師には致命的だ。そのことをほかに知られては妙なうわさが立つ。サングラスをしてすごしていた。
 「苦い狐」では杉本深苗の復刻版が出回っていた。原本より印刷も紙もすばらしい。色もよい。昔50部だけしか作らなかった本である。誰が何の目的で作ったのか。陶子は復刻版を出してオリジナルを贋作にしてしまう意図を見抜いてしまう。
 「瑠璃の契り」では、切り子碗の作者佐貫皓一を調べる。佐貫は2年ほど前に死んでいた。インターネットで求める広告を出した。すると切り子の碗がもうひとつ存在することを知った。さらに、しの碗は3つあるはずだという。陶子は3つとも欲しくなる。
 他1篇の全4篇の短編集。
769 哀しい罠
Date: 2005-2-12

おすすめ度 ★★★★

 結城 五郎 著   講談社  発行:2000年4月

 島影は神代植物公園の近くで医院を開業した。開院5日前、父が疾走したという連絡が入った。父は従業員と水上温泉に旅立った。朝になっても戻らないので騒ぎになった。しかし父は見つからなかった。
 開院の日、父は猿が京温泉の赤谷湖で溺死体で発見された。外傷もなく自殺か誤って転落したとされた。母がひとりになった。医院にひきとり一緒に暮らす。しかし、母も赤谷湖へ出かけて死んだ。
 そして、開業したばかりの医院で抗生物質のショック死だった。事前に問診もアレルギー歴もなかった。事故発生後の処置も賢明にやった。このことで医院におちどがなく患者の家族に保証金が支払われらなかった。家族は納得せず、特に妻は医院に来てわめくようになった。「この先生に診てもらうと殺されるよ」
 島影医院は客足が途絶えた。看護婦の葉子も辞めた。
 妻と娘の彩子が玉突き事故で死んだ。
 島影は葉子を見かける。葉子は柿沼と暮らしていた。柿沼は病院でわめいた女の付添い人だった。なぜ葉子が事件の関係者と一緒に暮らしているか疑問に思った。
 調査を依頼の結果が届いた。葉子は島影と同じ小学校だった。両親が赤谷湖に身投げしたという。島影は赤谷湖にいく。自分の両親が善意で金貸しをやっていた。借りた葉子の両親は自殺した。葉子は東京に引っ越した。
 島影は自分の医院で起きたことが、葉子の復習だったとようやく気がついた。
 残されたもう一人の娘典子も危ない。典子と別居して暮らす。
 葉子が忍び寄ってきた。島影は死を覚悟した。赤谷湖の中で葉子と葉子の弟鉄馬と島影は鎖につながれて湖に飛び込もうとしていた。

768 出口のない海
Date: 2005-2-11

おすすめ度 ★★★★

 横山 秀夫 著   講談社  発行:2004年8月

 並木は3年ぶりに投げた。しかし思い通りではなかった。大学に入って故障続きだった。剛原に「俺は魔球を作る」と宣言する。
 その並木、剛原、津田、中村、大竹らはA大学野球部だった。昭和18年2月文部省が大学リーグを解散した。戦地へ行くことになった。
 並木は特殊兵器で「回天」とよばれる人間魚雷に乗り込むことになった。後ろには進まない。ただ突進するだけだ。それはひとり入れるだけの鉄の棺おけと同じだった。
 死を待つ日々が続く。郷里には美奈子という年下の女性が自分を待っている。生きたいと思う反面、死んでいった人にすまないという気持ちが強くなった。昭和20年8月15日無条件降伏をした日本。しかし、回天が海に向かって疾走した。人間魚雷という特殊兵器が存在したことさえ葬られてしまう。この世にこれが存在したことを知らせたかった並木はそれを実行した。
 引き上げられたとき、並木は死んでいた。足元に「魔球完成」のボールが転がっていた。
 80を過ぎた剛原は60年ぶりにボレロという喫茶店を訪れた。出てきた女性は奈美子にそっくりだった。それは奈美子の孫であった。いまでもおじいちゃんは並木さんという人に嫉妬していると話した。

767 天国はまだ遠く
Date: 2005-2-9

おすすめ度 ★★★★★

 瀬尾 まいこ 著   角川書店  発行:2004年6月

 部屋を片付けてお気に入りの鞄に少しだけの荷物を入れて家を出た私。貯金を下ろし120万円の大金がある。とりあえず北へ行く特急に乗った。終着駅でタクシーに乗り「北の端のほうへ行って」と頼み、着いた先が山の中腹にある民宿だった。タクシー代1万8千円だった。
 民宿「たむら」は意に反して30過ぎの男が出てきた。一人らしい。とりあえず泊めてもらうことにした。
 部屋に通されてひとりになった私は自殺をしようと思った。睡眠薬を飲んだ。明日は死んでいるかもしれないとテーブルの上に10万円を封筒に入れ宿宛にした。
 眠りから覚めた。とてもすっきりしている。「ご飯は今日食べる?」と聞いてきた。
 宿の男は薄いTシャツで素足であった。私は32時間もぶっ続けで寝ていたらしい。ご飯の後は宿の周りを散歩に出た。お昼に戻るとまた食事の用意がしてあった。お昼の後また村をうろうろした。夕食後は自分の部屋へ引き上げた。
 そのうち、何もしないことが悪いような気分になってきたが、「お客だから、何もしないでもいい」といってくれた。自殺しそこなったことを話したら、笑われた。宿の男も3年前までは都会で働いていた。突然、両親が交通事故で亡くなった。日に3台ぐらいしか通らない道で、土地のものでない人のスピードの出しすぎではねられたという。長男だからこの家に戻ってきたのだ。
 男は昼間は養鶏をやったり、畑をしたりしていた。海にも行くという。うっかり行きたいといったばかりに朝早く起こされていく羽目になった。明け行く海の景色はきれいだった。しかし船酔いにはまいった。
 夜寝られないと下に降りると「昼間の村の景色もいいが夜もいい」という。外に出ると満点の星が輝いていた。 
 結局、21日間泊まった。このままいたら、この村から抜け出せない気がした。宿の男が送ってくれた。野菜や卵、魚の干し物などをつめたお土産をもらった。荷物の中にマッチがあった。たむらのマッチだった。近いうちにこのマッチを頼りに訪れる日が来るだろうと思った。
 

766 マリッジ
Date: 2005-2-7

おすすめ度 ★★★★★

 森村 誠一 著   角川書店  発行:2001年7月

 山上潔は35歳独身。結婚情報誌の主催するパーティで茜と知り合う。茜はプロポーション抜群の美人で29歳だった。交際1ヵ月後に結婚した。二人だけの結婚式を挙げたいという茜の希望で瀬戸内海の小さな島であげた。
 山上は茜の淫乱なセックスに狂喜した。かとおもえばまったく肌も触れさせないときもあった。スリッパでゴキブリを踏み潰し、素手でゴミ箱に捨てるかと思えば、別の日はゴキブリを見て騒いだりしている。
 二重人格かと疑ってみた。そして、街で「なぎさではないか」と男に声をかけられるが「人違いでしょう」と顔色一つ変えず突き放す不自然さを不審に思った。
 ある日、茜は男とホテルに入っていくところを目撃する。山上は茜を不審に思う。
 そして、声をかけた男が殺された。茜は知らないと言い張る。そんな時、茜には双子の妹渚がいることを知る。渚は茜がいつも渚の名をかたり結婚相談所に出入りしていたという。
 茜がお互いに生命保険を掛け合ったらどうかと提案してくる。お互いを受取人にして5千万円の保険に入る。
 茜が殺された。腐乱して指紋も取れなかった。
 山上は茜を荼毘に付し、改めて渚と婚姻届を出した。淫乱な茜に対し、渚はしとやかだったはずだった。しかし、妊娠したと告げた後、ゴキブリを踏み潰す渚を見た。どこかですれ違ったのか、それを確かめるすべはない。
 渚の元の夫2人は次々に死んでしまったことを知る。殺されるという恐怖におびえた。
765 I’m sorry mama. アイム ソーリー ママ )
Date: 2005-2-6

おすすめ度 ★★★★★

 桐野 夏生 著   集英社  発行:2004年11月

 門田夫婦は結婚20周年の食事に出かけた。25才下の夫は焼肉を食べたがった。妻の美佐江は星の子学園の保母だった。ひ弱で泣き虫の稔をかわいがっていた。稔が18歳、美佐江が44歳のとき、2人は結婚した。
 焼肉屋で出会った店員が星の子学園にいたアイ子だった。遊びに来るように住所を渡した。
 夜遅くアイ子は美佐江のうちにやってきた。いきなりアイ子は美佐江に灯油をふりかけ火を放った。美佐江は焼け死んだ。
 アイ子はヌカルミハウスという娼婦宿で誰が生んだかわからない子だった。母さんとよばれるおかみさんが面倒を見ていた。いつも押し入れに隠れるように暮らしていた。
 母さんが死に、アイ子は星の子学園に入ってきた。小学校にも行ってなかった。学園に来て少し年上だが1年生として通った。アイ子は母の形見のハイヒールを大切にしていた。夜中にハイヒールに話しかけていた。「さくらを焼き殺した」と。
 アイ子はホテルで働いていた。客の財布からお金を盗むことは日常で時には泊り客も殺していた。バスタブに顔を押さえつけて殺した。しかし、その客は足を滑らせて死んだことにされた。
 昔かわいがってもらった栄美子のところへ行く。アダムという男が割り箸で城を作っていた。栄美子は留守のようだった。もしかしてアダムが栄美子を殺して庭に埋めたと思ったアイ子はアダムもマッカリに睡眠薬を入れて殺してしまう。
 そのとき見つけた清掃係募集の記事を見てホテルの社長宅へいく。
 そこへ「ホテル関係者の皆様へ」とういファックス入る。女の顔をした悪魔がいる。うそつき、泥棒、放火魔、詐欺師、人殺しであると雇わないようにと警告する文面だった。アイ子はそれは自分のことだとわかるが知らん顔をする。
 アイ子は、ホテル社長の息子を連れ出し、ホームレスに預ける。息子はそこも逃げ出し、クリーニング屋の人に通報され、無事に社長の元に戻ることができた。
 アイ子はアダムを殺した家に行き押入れからワープロを見つける。警告文は栄美子が出したことを知る。栄美子が帰宅するところを狙う。土の中に半分埋められた栄美子が「あなたを生んだのは私だ」というがアイ子は埋めてしまう。
 クリーニング店に御礼に来た社長夫人はそこにアイ子をみつける。アイ子は逃げる。追い詰められも、さらに逃げようと川に飛び込んでしまう。

764 終着駅
Date: 2005-2-5

おすすめ度 ★★★★★

 白川 道 著   新潮社  発行:2004年10月

 岡部は謙介を訪ねた。謙介は4つ下の45歳である。小さなカウンターだけのバーだった。
 謙介の姉真澄をバイクの後ろに乗せ事故を起こしたのが19歳のときだった。以来、謙介は天涯孤独になった。岡部の父は2歳のときに苫小牧に戻った。岡部は母と品川に残った。そのときに唯一の友達が真澄だった。
 岡部はヤクザの世界に身を入れていた。これまでに人を殺したことがないのがせめてもの救いであった。
 そんな岡部は喫茶店に勤める盲目のかほるに心を引かれた。一見、盲目とわからないほどの身のこなし方をする。明るいやさしい子だった。
 お互いの部屋を見せ合ったり、ケーキを食べる時間が楽しかった。
 かほるを盲目にさせた事件は、岡部の手下が起こした時限爆弾が原因だった。その事件でかほるの両親は死んだ。謙介はバーを始める前、弁護士をしていた。暴力団の男が近く出所するという。その男たちが、謙介の家族をひき殺した。家族を失って謙介も弁護士を辞めた。男たちが狙っていたのは謙介の命だったのだ。
 岡部は近いうちに足を洗おうと思っていた。かほると会っているうちに死神のような自分とは無縁な穏やかな日々に安堵していた。
 かほるは盲目でありながら、海の絵を描いてくれた。地平線に二本の線の入ったすばらしい絵だった。岡部はそれを大事にしていた。
 かほるの目を治そうとかほるの保護者に会う。かほるが事件のことを知っており、ヤクザの抗争に巻き込まれたことを知った。ヤクザという人たちがどんなものか岡部に近づいてきたという。最初は怖い人といっていたが、徐々に、いい人だというようになってきたという。いつも岡部の話がでる。岡部は自分がこういう生き方をしているが、かほるの目を直してやりたいと話す。
 岡部はアイバンクに登録する。かほるに移植するとは限らないが、力になりたいと思った。
 しかし、何者かに岡部は刺される。父の墓参りをするために傷を押して列車に乗る。電話でヤクザとの決別をしてもらい、かほるへ電話する。
 電話をしている最中に意識が遠のいていく。

763 クリスマスローズの殺人 )
Date: 2005-2-3

おすすめ度 ★★★★

 柴田 よしき 著   原書房  発行:2003年12月

 死体の周りにクリスマスローズの花を巻き散らかした事件が2件おきた。両方とも絞殺死体だった。首に巻かれたビニール紐のほかは遺留品はなかった。
 メグは探偵事務所をやっていた。だが、今月は苦しい。やむなく高原事務所に連絡したところ、3日の素行調査の仕事をもらった。夫が韓国へ行っている間、妻の行動を調べてほしいというものだった。
 さっそくメグは妻の行動を見張るために対象の家を見張り始める。新興住宅のひとつだった。夫は出て行き、妻はその後玄関回りを履きに出たまま外出の気配はなかった。夜になったが人が動かない。そして、窓が開いていることに気がついた。交代の太郎が来てくれた。太郎はコウモリに変身してその部屋に入った。浴室で血が流れている。男の腕が見えた。男は頭部から血を流している。午前4時4分、死を確認した。
 戻ってきて様子を聞き、確かに出て行った夫であるが、出て行ったきり帰ってきたところは見ていない。どういうことだ。そして、メグが確認に出向くが死体はどこにもいなかった。
 友人で警官の糸井がクリスマスローズ事件がまたおきたことを教えてくれた。被害者は女だった。あの見張っていた家の妻のほうだという。
 やがて、第一におきた被害者と風呂場で死んでいた男の関係がわかる。男は浮気をしていた。
男の死体はどこに・・・。

762 ホテリアー 上・下 2/ 6(日)
Date: 2005-2-1

おすすめ度 ★★★★

 カン ウンギョン 著  李 康彦/訳 竹書房  発行:2004年7月

 ハン・テジュンはソウルホテル総支配人として戻ってくる。支配人にソ・ジニョンがいた。ジニョンはテジュンがきたことで心強く思う。
 ソウルホテルは社長がなくなり、漢江流通会長がホウルホテルの買収に乗り出した。アメリカでM&Aを専門にするシン・ドンヒョク(ぺ・ヨンジュン)に依頼した。
 ドンヒョクはソウルホテルに来た。ジニョンをみて一目ぼれしてしまう。韓国人でありながら、小さい頃アメリカ人の養子にだされた生い立ちがある。ドンヒョクは人を愛するということがなかった。
 一方、若い娘がさまよっているのをテジュンは不審に思い、ソウルホテルに泊める。娘は漢江流通会長の娘キム・ユニであった。
 ユニはソウルホテルでウエイトレスとして働く。身分を知っているのは誰もいない。ユニはソウルホテルで自分の居場所を見つけ生き生きと働く。やがて父の部下の目に留まり連れ戻されるが、ホテルの仕事をしたいと申し出るが聞き入れられなかった。
 ユニは父とソウルホテル夫人との間に付き合いがあったことを知る。父はソウルホテルを買収しようとしていることを知る。その情報をテジュンに話す。テジュンはソウルホテルを守ろうと奔走する。
 ドンヒョクはソウルホテルに泊まり、ジニョンとの恋を実らせようとしていたが、小さな誤解からジニョンと会えなくなっていた。韓国で父と妹に会うことができた。手中にあるお金を使ってソウルホテルの株を買い占める。漢江流通会長との契約を解除しソウルホテルのために尽力する。
 ユニはアメリカに留学する。
 ドンヒョクはアメリカに帰る。やがてドンヒョクはジニョンのもとソウルホテルにやってくる。 

761 パラレル 1/26(水)
Date: 2005-1-26

おすすめ度 ★★★★

 今野 敏 著  中央公論社  発行:2004年2月

 池袋西口東京芸術劇場の裏で3人の若者が殺された。金髪にそめた未成年のようである。血溜まりなく武器もない。顔もきれいである。あっという間にやられたようである。
 横浜市緑区の路上でも不良らしき未成年が殺されていた。直前に黒いワンボックスカーが走り去ったのを目撃した会社員がいる。少年たちは少女を拉致していた。少女は全裸に近い形で車から出ていた。
 面会できる状態ではないが、高校生の賀茂晶の力を借りた。晶は能面のような顔をして相手を見つめるとこちらの質問に素直に従わせる不思議な力があった。少女は輪姦されたあと、あの場所に捨てられそうになった。そのとき黒い大きな車が来たという。
 少年たちの死は脳内出血のようなものだという。こういう殺し方は身体を鍛えた格闘技をやる人間ぐらいしかできない。
 警察は鬼龍光一というお祓い師から亡者が次々と亡者を増やし大変なことになる。その亡者を早く探す必要があると告げる。
 現実に亡者というものがいるのだろうか。
 釜井輔という国会議員が「犯罪被害を考える会」の顧問をやっている。馴染みの武道団体を使って非行少年たちを殺させたという。釜井も暗示をかけられていた。鬼龍がその暗示を解く。次々に起こる事件は関連はなく並列つまりパラレル殺人だった。
 中国武術の3人が逮捕された。そして柔道の団体も。そして以外にも統括していたのは女性だった。
 
760 間宮兄弟 1/26(水)
Date: 2005-1-25

おすすめ度 ★★★★

 江國 香織 著  小学館 発行:2004年10月

 間宮徹信と明信は32歳と35歳の兄弟である。2人で東京の2DKのマンションに住んでいる。父は徹信が14歳のときになくなった。母は静岡に住んでいる。
 2人の兄弟は母の誕生日に東京に呼び、お祝いをするやさしい兄弟なのだ。
 ところが、2人とも女性との縁が続かない。まだ独身である。兄は12回もお見合いをしたがいずれもその日のうちに断られた。
 ある日、兄弟はビデオレンタル店の店員や小学校の女教師などを呼んで自宅で食事会をやった。張り切って作ったカレーをご馳走した。
 なんとなく安心な居心地はいいのだが、彼氏にするタイプではないと彼女たちは思っていた。
 徹信は賢太と離婚をするかもしれない沙織をなぐさめる。しかし沙織は徹信の思いは、わずらわしくなるばかりであった。
 一方、明信は小学校の教師依子を思っていた。依子は明信はいい人と思うがまだ同僚の男教師の方が魅力的だと思っている。
 兄弟は次におでんパーティを企画するが誘いの言葉に女たちの心情を感じた兄弟はパーティを中止する。失恋の思いがした。
 兄弟はもう女の尻は追わないと決めてから心穏やかになった。
 心根のやさしい兄弟であったが、かっこ悪い、気持ち悪い、おたくっぽい、むさくるしいというのが兄弟を知る女たちの評価だった。

759 Fake フェイク 1/25(火)
Date: 2005-1-23

おすすめ度 ★★★★

 五十嵐 貴久 著   幻冬舎 発行:2004年9月

 太いフレームのめがねに組み込んだCPUカメラと骨伝導スピーカーを使って外部のコンピュータに試験問題を映し出し待機した別の者が解答し、本人にマイクで伝えるというカンニングをやってのけた。
 受験するのは東京藝術大学である。頭の弱いが美術には非常に関心のある高志は、どうしても大学に入りたいと思った。父親と名乗る男が土下座して探偵の宮本に頼んだ。宮本は一度は断るがたっての頼みで引き受ける。東京大学の現役女子大生の加奈に問題を解かせる。
 1日目はうまく行った。2日目に警察に捕まった。どうしてばれたのかわからなかった。
 そしてつかまった高志の父は港区議会議員だったという。しかし、頭を下げた男とは違っていた。
 加奈は学校を辞めた。高志はテレビ局のADになっていた。
 宮本は高志の父西村を訪ねた。狭いアパートに高志と2人で住んでいた。そして西村を陥れたのは沢田であることを知る。高志には永井と名乗り必ず大学に入れてやると近づいた。宮本には西村の父を名乗った男である。その沢田が赤坂でカジノを開いている。そのオーナーが沢田である。財界・政界のVIPが集まっている。
 加奈をそのカジノのバニーガールに送り込み、リベンジのための様子を探る。
 そして、西村の弟の持つ株券10億を用意し沢田のカジノに出向く。もし10億を取り戻したら失った未来を金で返してもらう。加奈が5億で、あと3人で5億。
 この間のようにカメラを用意しカードの動きを捉えていた。最初は勝っていたしかし、西村が負け始めた。そんなはずが・・・。そして高志が沢田に寝返ったのかと・・・。高志は父をナイフで刺す。ドタバタの末に加奈が金庫に入れた金10億を取り戻す。
 カジノは6階にも7階にもあった。空きテナントを借りた西村は階下にまったく同じカジノを作った。そして偽のカジノで10億のポーカーがはじまった。金庫に入れたお金は加奈が裏から盗み出した。高志の刺したナイフは手品用で西村の太ももは輸血用のパックが張ってあった。すべて演技だった。宮本の計画を心配した西村と高志のリベンジ方法だった。

758 桜さがし 1/24(月)
Date: 2005-1-22

おすすめ度 ★★★★

 柴田 よしき 著   集英社  発行:2000年5月

 中学の同級生だった4人。歌義と綾と陽介とまり恵は社会科を担当していた浅間寺を訪ねに北山に行った。
 途中脱輪した車に出会い、その車を助ける。車の持ち主の男女といっしょに先生のうちで1泊する。
 後日、その男女が心中したという。しかし、あの時死ぬような雰囲気ではなかった。きっと殺されたのだろう。4人は先生と相談し、思い当たる犯人にヒトヨタケの知識があれば写真が3日先の日付で写せないことを思った。
 まり恵は、司法試験に合格した歌義とも別れてしまう。
 綾は京都で4月の終わりごろ枝垂桜が咲く場所がないか聞かれる。それを聞いてまり恵と歌義も12年前に迷宮入りになっている事件を思い出す。東京で外科医が殺された。疑われたのはホステスと女医だった。世間はホステスの京都に桜を見に行ったという証言をウソと決めつけた。4月の終わりごろ咲く桜はない。ナンパされて連れて行かれたという。その後ホステスは交通事故に会い記憶を一部失われる。時効まであと3年。
 歌義とまり恵、綾は北山の名刹常照皇寺に4月下旬に咲く枝垂桜を見つける。ホステスの言っていた桜であった。・・・ということは犯人は女医なのか?
 
757 億万ドルの舞台 1/21(金)
Date: 2005-1-21

おすすめ度 ★★★★

 シドニィ・シェルダン 著   アカデミー出版  発行:2004年9月

 エディは南米のアマドールという国に「マイ・ファ・レディ」の巡回公演の端役に選ばれて身重の妻をニューヨークに残していく。
 公演を見ていたトーレス大佐はエディをみて将軍によく似ていたことに驚く。
 ボリバル将軍は近々手術をすることになっていた。その間国民に不安を与えないようにエディを影武者にしようとする。報酬は100万ドルである。エディは用が済めば殺されるとも知らずその役を引き受ける。
 このことはボリバル将軍とトーレス大佐しか知らない。そして、このことは誰にももらしてはならないと口止めされる。
 孤児院を訪れたエディは1日1杯のスープとコーンミールを与えるだけの子供たちに驚く。早速、1日3回食事を与えること。孤児院内に学校を開設することをそして、新しい責任者を採用することを命令した。
 次に農民に会ったエディは土地は将軍のもので収穫できたものは将軍から買う仕組みになっていることに驚く。満足に食べられる状態ではないという。早速、エディは紙に「本日から農民に土地を無償で与え、できた作物は自由に売ることができる」とサインをする。農民たちは喜ぶ。
 出版に関しては、検閲を行っていたことは廃止し、真実を報道してよいとした。
 そして、微罪で捕らえられているものに対し釈放をしてやる。今後一切死刑を禁止した。
そして、税金を一律10パーセントにした。これまで80パーセントの税金にあえいでいた国民は歓声をあげた。
 将軍の手術も無事終わった。こうしたエディのやり方を苦々しく思った将軍は退院したら真っ先にエディを殺すことを考えた。
 航空ショーで将軍が操縦するのが恒例とされていた。エディは優秀なパイロットの隣に座った。しかし上空で火災が発生、パイロットは先に降りてしまいエディは仕方なく飛び降りる。このままでは死んでしまうと人々が見ているとき、トーレスが助ける。
 エディは自分の将軍としての体験を芝居にしたらどうかとひらめく。早速パソコンにそのシナリオを打ち込む。
 ニューヨークのプロデューサーに送る。
 将軍を暗殺しようとするものが将軍のベッドに猛毒の蛇を放つ。そうとは知らず愛人のエビータがベットに入り蛇にかまれて死ぬ。
 病院でエビータが死んだこと知った将軍は怒る。
 赤ちゃんが生まれる前にニューヨークに戻ろう。プロデューサーがエディのシナリオに賞賛の声を上げる。
 エディは将軍が退院する前にニューヨークに戻ることができた。
 エディはブロードウエイで自分のシナリオの主役を演じ、賞賛される。
 

756 キャッシュカードがあぶない 1/20(木)
Date: 2005-1-20

おすすめ度 ★★★

 柳田 邦男 著   文芸春秋  発行:2004年12月

 日本では盗難にあった銀行のキャッシュカードについては、「あなたの管理が悪い」「ご主人がおろしたのでは・・」と疑われる始末である。
 補填はない。しかし英国の銀行では被害者の立場に立ってどんどん進めてくれる。保険料自己負担で預金者が保護される。
 日本はひたすら自己責任を問い続けている。ビデオの下ろした犯人が写っていてもそれを調べてくれるというところまではなかなかいかない。
 日本の預金者はひたすら泣き寝入りである。
「あんたが盗られたのはプラスチックのカードだよ。お金をとられてのは銀行だから銀行に被害届けを出してもらえ」という警官もいるほどである。「銀行側はATMに本物のカードを入れ暗証番号を入れた人に払った。それのどこがいけないのか」という始末。
 日本は預金者は保護されない。
 盗まれたことが夜わかっても銀行に電話すると、「本日の営業は終了しました。営業時間は午前9時から・・・」とエンドレスにテープの音声が流れるばかり。朝9時に電話すれば、すでに8時前から引き出しが可能な銀行もありすでに引き出された後である。
 犯人たちは磁気テープの暗証番号を読み取ることはたやすいらしい。一発で迷うことなく引き出している。クレジットカードも限度額いっぱいに引き出され、盗難にあったとしてもほとんどが泣き寝入りで返済分を払わされているのが現状である。
755 龍神町龍神一三番地 1/20(木)
Date: 2005-1-18

おすすめ度 ★★★★★

 船戸 与一 著   徳間書店  発行:1999年12月

 梅沢は出所したあと新宿の雑居ビルの地下で酒におぼれる生活をしていた。そこへ24年ぶりに高校の同級生がやってきた。今は長崎の五島列島の1つ龍神町で村長をしているという。2ヶ月前に京都から来た学者が死んだ。島では事故死として扱っているが昔の刑事の勘で調べてほしいという。表向きは妻のやっている尾崎海運を立て直すという名目で島に行く。
 島では大きな橋ができ、魚業権を取り上げられた漁師たちともう客もいなくなった飲み屋が点在していた。
 龍神町は隠れキリシタンと土地のものとでいざかいがまだ残っていた。この島の巡査も15年もいるという。しかし、この巡査は橋ができるとき、モーテルを建てぼろ儲けをしていた。それにこの男を敵に回すと住みにくい雰囲気を作っていた。
 小学校の女校長が死んだ。自殺に見せかけた絞殺だった。長崎から県警の刑事も来る。
 39年前、龍神池神社で群衆の前で義父が息子の嫁を手込めにするという事件があった。息子はいたたまれなくなったのか、その後姿を消した。嫁もその後なくなった。そのときに生まれた子は頭の少し足りない美津だった。村長の妻の妹である。
 村長の富次が死んだ。長崎に行くといって出たままであったが、島の八坂神社の近くの河原で後頭部を殴られていた。
 吸血蝙蝠にかまれた児童が亡くなった。昔隠れキリシタンが身を隠した洞窟に21匹いた。狂犬病として県から駆除班がきた。
 別の洞窟に簡体文字の新聞紙に包まれた仏像が7体あった。遣唐使がここに寄ったと捏造しようとするものの仕業だった。
 長崎からきた刑事も死んだ。
 美津に託した村長からの手紙。それは事件を解く鍵が書かれていた。死の直前に投函したものだった。
 

754 冬のソナタ 上・下 1/18(火)
Date: 2005-1-17

おすすめ度 ★★★★★

 キム・ウニ / ユン・ウンギョン 著 宮本 尚寛訳  日本放送出版協会  発行:2003年6月

 ユジンはサンヒョクとの婚約パーティの会場に向かう途中に、10年前の高校の頃に付き合っていたジュンサンをみつけ後を追う。ジュンサンはユジンをみてもわからなかった。違う人かもしれない。でもジュンサンそのものなのだ。よく似ている。双子かもしれない。
 ジュンサンに似た男はミニョンという。ユジンはずっと思い続けたジュンサンにあったことで興奮していた。そして人違いと言われてもジュンサンに間違いないと感じる。
 ジュンサンでなくてもミニョンという男性にどんどん心を奪われていく。そのことを知ったサンヒョクも悩む。
 ミニョンも母と写った写真の男が父親ではないかと大学に向かう。ミニョンには父がいなかった。
 サンヒョクの父とユジンの母とジュンサンの母は旧知の仲だった。
 ジュンサンとユジンは兄妹なのだという。なんということだ。
 しかし、サンヒョクの父との間にできた子はジュンサンだった。兄妹ではなかった。
ジュンサンは事故の後、母によって名前を変えられて生きてきた。ジュンサンは記憶喪失だったのだ。ミニョンも自分がジュンサンであることを知る。
 建築雑誌に載った家。それはユジンが設計した「不可能な家」だった。その家にユジンは向かう。目がみえなくなったジュンサンがいた。
 

753 背広の下の衝動 1/18(火)
Date: 2005-1-15

おすすめ度 ★★★★★

 新堂 冬樹 著  河出書房新社  発行:2004年11月

 短編4篇 
 「邪」では、千葉の郊外に家を買った男は、片道2時間かけて通勤する。真夏日に背広を着て営業周りをする。携帯電話で上司からやいやい言われ、妻からは娘のことで愚痴られていた。ふとみると十階建てのビルの屋上から飛び降りようとする男。それを制しようとする消防士たち。野次馬が集まっている。どうなるか心配で「車ではねられて病院にいる」とウソをついてまだその成り行きを見ていた。そして、また出た電話でそのウソもばれ、死にたい気分になる男。
 「嫉」では妻が娘の家庭教師と不倫していると思い込んだ男が、妻に睡眠薬入りのビールを飲ませる。翌朝、妻を放置したまま家庭教師に会いに行き妻が不倫ではなく夫のコレクションのために王冠をシアトルから取り寄せる相談をしていたと知る。そこへ娘の絶叫近い声で携帯に電話が入る。「ママが・・・!」

752 霧笛荘夜話 1/15(土)
Date: 2005-1-14

おすすめ度 ★★★★

 浅田 次郎 著  角川書店  発行:2004年11月

 暗い運河のほとりに霧笛荘はあった。古レンガに蔓が壁を覆った古ぼけた建物である。
 老婆は「今ならどの部屋も空いている」といいながら、ひとつずつ部屋をみせならが、前住者のエピソートを語ってくれた。それが7つの短編になっている。
 鏡の部屋では、美人の眉子が住んでいた。帽子をかぶってやってきたときは女優かと思ったという。眉子は社長夫人であった。同窓会に出たとき、華やかな同級生たちを見た。「不幸よね、籠の中に縮こまって幸せ、幸せっていいながら年をとっていくなんて」といわれる。
 眉子はそのときの名前が吉田よしこだった。その名前が嫌いだった。子供たちとデパートに行き、1時間後に玄関で落ち合うことを子供たちに約束しまず髪を整えた。そして洋服やバックや靴を買い、子供たちに帰りの電車賃を渡したまま戻らなかった。カードから現金を引き出し、霧笛荘にやってきた。隣人のヤクザな男に演じてもらった恋人。追ってきた主人の言葉を交わさなくてもわかる意思表示にヤクザに口止め料と離婚届を渡してくれた。
 眉子は開放された。
 窓の見える部屋にやってきたずぶぬれの自殺志願の千秋は、眉子のお得意様の医師から睡眠薬をもらった。それを飲んで死のうとした。眉子が見つけ死ねなかった。そして、後日眉子は残りの睡眠薬を飲んで死んだ。「ありがとう、千秋ちゃん」と書き残していた。
 眉子のとなりは朝日のあたる部屋で、ヤクザの鉄夫が住んでいた。眉子が誘っても乗ってこなかった。もらった金も怒って返してきた。口は悪いがいいやつだった。
 四郎は瑠璃色の部屋に住み、隣のカオルと仲良しになった。カオルはオカマで荷役人夫をしていたが、花が好きだった。やさしかった。

751 アキハバラ 1/15(土)
Date: 2005-1-13

おすすめ度 ★★★★★

 今野 敏 著 中央公論社 発行:1999年4月

 史郎は私立大学の理工学部に入学するために秋田から上京した。上京したその日に亀戸のワンルームマンションからすぐにあこがれの秋葉原に行った。
 ラジオ会館のショールームでミニスカートをはいたキャンペンガールに笑顔を向けられた。史郎も田舎者を隠そうとカッコつけて応対した。
 中を見て回ろうとおどおどとした様子が挙動不審に思われ、店員が目をつけた。まずマウスを手にとってみた。買うには店員に言えばいいのか、レジにもっていけばいいのかわからなかった。初めての東京である。そうしているうちに別のものにも興味を持ちMOに触ったと単に大きなベルが鳴った。史郎はびっくりした。
 店員は万引きだと史郎を引っ張ろうとする。そこへ上司がやってきた。店内を出たところで呼びとめられた。脇に持っていたマウスをすっかり忘れていた。やはり万引きということで警察を呼ぶという。そこへヤクザの菅井田が「警察だと!」と反応し店員と押し問答になった。ヤクザと口を利いたことがない史郎は聞かれるままに答えたとしても口を利いた。ひざが震えた。ここから逃れたい一心であった。
 逃げた! 前をあの笑顔のキャンペーンガールがいた。わらにもすがる思いで追いかけた。キャンペンガールはストーカーと間違え恐怖で逃げた。そして、誤解をされていることに気がついた。
 後ろからヤクザが追ってきた。エース・コンピュータ館に飛び込んだ。そこへ石館は休憩でこの館にやってきた。どういうわけか外国のマフィアと日本のヤクザの撃ち合いになった。おまけに爆弾を仕掛けたと煙まで出ている。
 史郎と石館ヘ隠れた。出れば自分を追ってきたヤクザがいる。
 外には在庫のコンピュータを外国へ売ろうとする仲間のトラックが止まっていた。
 田舎者のおどおどが万引きやストーカーに間違えられ、おまけに人質にもされてしまう。

750 代筆屋 1/12(水)
Date: 2005-1-12

おすすめ度 ★★★

 辻 仁成 著 海竜社 発行:2004年10月

 僕は小説家である。小説はさっぱり売れなかったが、代筆の方はまずまずの盛況だった。
 茅野君は名も知らぬ女子高生に恋をしていた。ラブレターの代筆を請け負う。出会ってしまえばそれはりっぱなはじまりとなります。なんて書いてもらった。ところが今度は相手の女子高生から好きなのは茅野君ではなくて同僚の青木君だと。茅野君を傷つけないように断る手紙を依頼される。そして彼は私のことをふーと呼び捨てにします。と茅野君があきらめてくれることを願ってその一文を入れた。しかし、二転三転して二人は付き合うようになった。何も知らない彼女は最初にもらった茅野君からの手紙とやさしさに負けたという。
 米寿をむかえたばかりという老婆に「別れのための手紙」を依頼される。本人は88歳。夫は90歳でもう65年も連れ添ったという。僕は65年間のすべてを話して聞かせてくださいといった。聞き取りに1週間かかった。そして、老婆は出来上がった手紙を「送るのをやめようかと思う」という。話を聞いてもらったらすっきりしましたと。僕は手紙は「90歳のあなたへ88歳のわたしより」という夫へ、うそ臭い感謝やその場限りの賞賛は必要ないと気づかせてくれましたと。
 手紙という代書の10篇の短編。
749 梅咲きぬ 1/11(火)
Date: 2005-1-11

おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著 潮出版社 発行:2004年12月

 深川の老舗料亭江戸屋の娘玉枝が9歳の時、突然3人組の男がやってきた。身なりは上物の着物を着こなしていたが爪の汚れていることを目ざとく見つけた玉枝はそのことを母親の3代目女将に話す。3人は後日30人の会席を予約して行った。
 素性のわからないものが難癖をつけ、江戸屋の長年の信用を不意にしかねない。
 虫1匹入れぬ用心さでかからなければならない。玉枝は虫を防ぐ方法は水の上しかないと考えた。母は近くの弁天池に急ごしらえに厨房をこしらえた。
 やがてやってきた男たち。食事が進むうち、お吸い物に虫が入っていると騒ぎ出す。
 女将は板場に連れて行く。土間は掃き清められ、ちりひとつ落ちていない。壁も拭き清められていた。それでも引っ込みがつかない男たちは、空っぽの板場をみて得心はできないという。ぞろぞろとお寺のほうへ向かう。男たちは、池を前にしてこれまでの相手とは器量が違うことがわかるが引っ込みがつかない。しかし、江戸屋のほうも13人の鳶たちが控えていた。
 女将は二度とこのような振る舞いをしないと約束するなら放免するという。男たちは髷を切られ解き放たれた。
 その後母が死に玉枝は15歳で4代目の女将になった。仲居頭の市弥等の力を借りて若くしてりっぱな女将になっていった。

748 砂漠の船 1/11(火)
Date: 2005-1-10

おすすめ度 ★★★★★

 篠田 節子 著 双葉社 発行:2003年10月

 近くの公園でホームレスが凍死した。まもなく幹郎の娘茜が警察に事情を聞かれる。高校生の茜は現場に他の高校生たちと一緒にいたらしい。
 ホームレスは浅草寺のお守りの観音様の像を探し噴水に飛び込んだらしい。男の懐にあった手紙から昭和34年ごろから新潟県からの出稼ぎだった。
 幹郎の両親も昔、都会に出稼ぎに来ていた。幹郎は祖母に育てられた。母や父の出稼ぎの現金収入でかやぶきの家はアルミサッシの窓と屋根は瓦屋根の家に建て替えられた。耕耘機が入り、冷蔵庫や洗濯機も揃った。幹郎も妹も大学に進んだ。
 母は大学に入る前に農薬を飲んで死んだ。何があったかわからなかった。
 祖母の死で故郷に戻った幹郎は、横手沢の敬太郎が都会の公園で死んだことを知る。敬太郎は父の友人であった。祖母の初七日もすまないうちに父も亡くなった。
 幹郎は父と母が出稼ぎのときにすんだ中野のアパートに行く。母を知る女性にあった。母は水商売ではなく、男達と一緒に日雇い労働をしていた。
 娘の茜が卑猥な漫画を描いて300万円を稼いだことで警察に補導される。茜が書いたという漫画を見て幹郎は驚く。
 茜は大学進学より美術学校を望んだ。そしてソフト会社の経営するデジタル・アーツ・・・・という専門学校へ入学できることになった。茜の漫画をみてソフト会社が卒業後、その会社に入ることを条件に特待生として受け入れてくれた。

747 黒い蛇 1/ 9(日)
Date: 2005-1-8

おすすめ度 ★★★★★

 柊 治郎 著 廣済堂出版社 発行:2004年7月

 たくさんのネタ元をもっている刑事は重宝がられ大切にされた。ネタ元つまり黒い蛇である。
 本多の妻は朝鮮人だった。結婚のとき、上司から韓国籍を求められた。妻は本多との結婚を望みそれに従った。妻の兄は10歳も年上で妹の結婚を喜んだ。そして、本多への情報協力が始まった。
 黒い蛇は、北朝鮮から密輸される覚せい剤を日本の暴力団に売り、資金を秘密裏に送金することだった。大阪府警はその覚せい剤を日本の暴力団が転売を始めたときから動き始める。
 黒い蛇のいつもの伝言文が違っていた。自宅に電話したが妻は捕まらない。不安の覚えた本多は妻を見つけた。そして、妻の兄は公園で何者かに刺された。自宅は何かを探したように物が散乱していた。
 別の若い課長がその黒い蛇の存在を突き止めようとした。手柄を上げることを封じようとした。黒い蛇は死んだ。誰が殺した。本多は上司の坂本が若い課長に襲い掛かるのを見た。刃物のように光るものを見た。本多自身も若い課長をやろうとポケットにナイフを忍ばせていた。
 坂本が責任を取るということがこういうことだったのかと目の前で起こることに本多は唖然とする。
746 とせい 1/ 8(土)
Date: 2005-1-6

おすすめ度 ★★★★★

 今野 敏 著 実業之日本社 発行:2004年11月

 ヤクザというのは地域の人々に信用されてこそ成り立つという阿岐本組。代貸を努める日村は親分に呼ばれてた。親分は、明日から出版者の社長になるという。
 「梅之木書房」が扱っている出版情報を担当者から得た親分。「週刊プラム」では暴力団の抗争を取り上げていた。読むと内容が少し違う。自分の知る範囲を教え、記事を書き直す。たちまち「週刊プラム」は完売した。チンピラの言いがかりも向かい合った親分には言葉も出ない。それより交通費と称して親分からお小遣いまでもらえたチンピラは恐縮してしまう。
 ファッション雑誌ではモデルの変わりに女の子に評判のいいタレントを使うことを薦める。渋っていた女編集者もそれに従う。するとファッション雑誌も売れ始めた。
 文芸の担当者には、「好きな作家に俺が読みたい作品を書かせる」というポリシーを持った男を部長にした。
 出版社全体の雰囲気が生き生きとしてきた。
 舎弟の真吉も出版社で万年筆でなにやらうれしそうに書いていた。
 同時に荻原精密加工の取立てを頼まれる。しかし、親分はあちこちから金を借りて倒産しそうな会社の追い込みはしたくなかった。要は金をもうけさせればいい。
 そこへ舎弟のテツがチョコレートのおまけのオートバイを見せる。これを作れないかと。荻原精密はこれをもっとうまく作れるという。その技術はフィギュア人形の量産にもつながるとテツは言う。今、ネットで1体50万もする。型抜きのエキスパートであれば会社は再生できる。荻原精密はテツが担当することになった。
 ところが、ヤクザが出版社の社長をすることをよく思わない刑事がいた。何かと難癖をつけて引っ張ろうとする。
 万年筆を折った刑事の挑発に乗った真吉は刑事を殴ってしまう。そして取調べでは目立たぬように痛めつけられて血尿を出していた。
 親分は荻原精密への放火の情報をききつけ、パトロールしていた。捕まえた犯人が刑事の息子であった。
 親分は社長の座を退く代わりに真吉を釈放するよう要求する。