読んだ本の紹介です。紹介欄は読んだ後の感想や紹介したい部分を書いたものです。

過去ログ  (その7)93冊
               平成17年7月~ 平成17年12月         

No 読んだ日  書      名 著   者 おすすめ度
931 2005-12-20 蒼火 北 重人 ★★★★
930 2005-12-18 はぐれ牡丹 山本 一力 ★★★★
929 2005-12-16 リベンジは頭脳で シドニィ・シェルダン ★★★★
928 2005-12-14 いま、会いにゆきます 市川 拓司 ★★★★
927 2005-12-12 つきのふね 森 絵都 ★★★★
926 2005-12-10 連鎖の追跡 笹沢 佐保 ★★★★
925 2005-12-8 暗礁 黒川 博行 ★★★★
924 2005-12-5 悪党たちは千里を走る 貫井 徳郎 ★★★★★
923 2005-12-3 警視庁幽霊係 天野 頌子 ★★★
922 2005-12-1 幽霊探偵 梶尾 真治 ★★★★
921 2005-11-30 吼える駐在 飯塚 訓 ★★★
920 2005-11-28 恋せども、愛せども 唯川 恵 ★★★★
919 2005-11-26 にぎやかな天地 上 宮本 輝 ★★
918 2005-11-24 容疑者Xの献身 東野 圭吾 ★★★★
917 2005-11-19 だいこん 山本 一力 ★★★★
916 2005-11-17 あなたが名探偵 泡坂 妻夫ほか ★★
915 2005-11-16 虹色にランドスケープ 熊谷 達也 ★★★★
914 2005-11-14 亡命者 ザ・ジョーカー 大沢 在昌 ★★★★
913 2005-11-12 楽園の眠り 馳 星周 ★★★★
912 2005-11-10 検事・沢木正夫 第三の容疑者 小杉 健治 ★★★★
911 2005-11-8 懐郷 熊谷 達也 ★★★★
910 2005-11-5 スイッチを押すとき 山田 悠介 ★★★
909 2005-11-3 東京奇譚集 村上 春樹 ★★★
908 2005-11-2 ハルカ・エイティ 姫野 カオルコ ★★★
907 2005-11-1 アンボス・ムンドス 桐野 夏生 ★★★★
906 2005-10-31 福音の少年 あさの あつこ ★★★★
905 2005-10-30 鎮火報 日明 恵 ★★★★
904 2005-10-38 保育園民営化を考える 汐見 稔幸ほか ★★
903 2005-10-26 葉桜の季節に君を想うということ 歌野 晶午 ★★★★★
902 2005-10-24 隠蔽捜査 今野 敏 ★★★★★
901 2005-10-22 逆説探偵 鵜飼 否宇 ★★★
900 2005-10-21 2005年のロケットボーイズ 五十嵐 貴久 ★★★★
899 2005-10-20 辰巳八景 山本 一力 ★★★
898 2005-10-18 噂の女 神林 広恵 ★★
897 2005-10-15 何があっても大丈夫 櫻井 よしこ ★★★★
896 2005-10-12 バリでの出来事 上・下 キム・ギホ ★★★
895 2005-10-8 グッドラック アレックス・ロビラ ★★★★
894 2005-10-7 保育所民営化 田村 和之 ★★
893 2005-10-6 虎を鎖でつなげ 落合 信彦 ★★★
892 2005-10-3 1303号室 大石 圭 ★★★★
891 2005-10-1 八丁堀春秋 花家 圭太郎 ★★★★
890 2005-9-28 永遠の旅行者 上・下 橘 玲 ★★★★
889 2005-9-26 東京DOLL 石田 良衣 ★★★★
888 2005-9-24 お神酒徳利 深川駕籠 山本 一力 ★★★★
887 2005-9-21 埋み火 日明 恩 ★★★★
886 2005-9-19 後ろ向きで歩こう 大道 珠貴 ★★
885 2005-9-17 千日紅の恋人 帚木 蓬生 ★★★★
884 2005-9-15 でごの花の下で 池永 陽 ★★★★
883 2005-9-14 さよならバースディ 荻原 浩 ★★★★★
882 2005-9-13 スパイラル・エイジ 新津 きよみ ★★★★
881 2005-9-12 査察機長 内田 幹樹 ★★★
880 2005-9-11 孤宿の人 上・下 宮部 みゆき ★★★★★
879 2005-9-10 天使がいた三十日 新堂 冬樹 ★★★★★
878 2005-9-9 不思議の国のトットちゃん 黒柳 徹子 ★★★
877 2005-9-7 天使のナイフ 薬丸 岳 ★★★★★
876 2005-9-5 ポセイドンの涙 安東 能明 ★★★★
875 2005-9-2 永遠の誓い 佐川 光晴 ★★★★
874 2005-9-1 今ここにいるぼくら 川端 裕人 ★★★★
873 2005-8-31 座礁 巨大銀行が震えた日 江上 剛 ★★★★
872 2005-8-29 ダウン・ツ・ヘヴン 森 博嗣 ★★
871 2005-8-28 エデンの東 上・下 ジョン・スタインベック ★★★★★
870 2005-8-25 ロズウェルなんか知らない 篠田 節子 ★★★★
869 2005-8-24 震度0 横山 秀夫 ★★★★
868 2005-8-22 黒笑小説 東野 圭吾 ★★★
867 2005-8-20 夜夢 柴田 よしき ★★★
866 2005-8-19 海に沈む太陽 梁 石日 ★★★★★
865 2005-8-17 悪刑事 森巣 博 ★★★★
864 2005-8-16 夜のピクニック 恩田 陸 ★★★★
863 2005-8-15 蒲公英草紙 恩田 陸 ★★★
862 2005-8-12 鬼哭青山遥かなり 北山 秋彦 ★★★★★
861 2005-8-10 アリソナ無宿 逢坂 剛 ★★★★
860 2005-8-7 ソルーマン レター 高嶋 哲夫 ★★★★★
859 2005-8-5 駆けこみ交番 乃南 アサ ★★★
858 2005-8-3 乱調 藤田 宜永  ★★★★
857 2005-8-1 死神の精度 伊坂 幸太郎  ★★★
856 2005-7-31 ビネツ 永井 するみ  ★★★★★
855 2005-7-29 義珍の拳 今野 敏  ★★★★
854 2005-7-27 死化粧(エンゼルメイク) 小林 光恵 ★★★★
853 2005-7-24 シリウスの道 藤原 伊織  ★★★★
852 2005-7-24 とげ 山本 甲士 ★★★★★
851 2005-7-22 灰色の北壁 新保 裕一 ★★★★
850 2005-7-20 警視庁 捜査一課殺人班 毛利 文彦 ★★★
849 2005-7-18 黄昏に歌え なかにし 礼 ★★★
848 2005-7-15 信長の棺 加藤 廣  ★★★
847 2005-7-12 赤絵の桜 損料屋喜八郎始末控え 山本 一力 ★★★
846 2005-7-10 暴走刑事VS広島やくざ 大下 英治  ★★★
845 2005-7-8 ルパンの消息 横山 秀夫  ★★★★★
844 2005-7-7 館島 東川 篤哉  ★★★★
843 2005-7-6 小さな小さなあなたを産んで 唐木 幸子  ★★★★
842 2005-7-5 夏の椿 北 重人  ★★★★
841 2005-7-4 ザ・ピルグリム 島村 洋子  ★★★★
840 2005-7-3 天国の階段 上・下 パク ヘギョン脚本 ★★★★
839 2005-7-1 鯨の哭く海 内田 康夫  ★★★★

読んだ本の紹介です。紹介欄は読んだ後の感じたままの感想や紹介したい部分を書いたものです。

931 蒼火
Date: 2005-12-20

おすすめ度 ★★★★

 北 重人 著  文芸春秋  発行:2005年11月

 江戸で相次いで飴売りなどの商人が殺された。皆、死の直前、大きな商いをするようなことを周りのものに話していた。手口は、一太刀で切りつけ殺していた。周乃介は危ない喧嘩出入りはやめろといわれていた。
 周乃介は、幼い頃母を亡くし父からも勘当され、座敷牢に押し込められていた。牢から出た周乃介は、それから十数年間、無頼暮らしをしていた。今は市弥という女もいる。
 周乃介は、行商人たちを斬る奴を追っていた。
新兵衛は、妻を斬った昂ぶりでそれから逃げようと人を斬り、人を斬らねばならないようになっていた。
 市弥をさらわれ、周乃介は新兵衛と立ち向かう。

930 はぐれ牡丹
Date: 2005-12-18

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  角川春樹事務所  発行:2002年3月

 一乃は鉄幹と所帯を持つと言った時、怒った父親から勘当された。
 一乃は野菜の棒手振をはじめた。活きのいい野菜を仕入れにおせきのところで買っていた。ところがおせきの家の側の竹やぶで一分金を見つけた。気になった一乃はそれを持ち帰り、嘉兵衛さんに見てもらう。贋金であった。一乃は拾ったことを伏せていた。
 町の中から女が連れ去られた。ひとり千両でロシア人に売られるらしい。贋金つくりの男達は金を集め改寿していた。
 享保大判を偽で造っていた。清吉は生まれてくること妻のために、墨書きをしていた。享保大判は八千枚ほどしか造られなかったが、いまは偽で五万両は造ろうとしている。
 清吉はつかまってもいいように日記をしたためていた。それを一乃たちの手で知ることとなり、贋金つくりの一味の家を知った。
 水門を通って金が運び出される。

929 リベンジは頭脳で
Date: 2005-12-16

おすすめ度 ★★★★

 シドニィ・シェルダン 著  アカデミー出版  発行:2005年11月

 ジェリー・デービスは、妻を銃殺された。犯人は総勢12人のギャング団。妻は昨日越してきたばかりである。前に住んでいた住人と間違えて殺された。
 犯人は一度は捕まったが、裁判で無罪になり釈放された。捜査令状を取らなかったうえ、警察が見つけた銃も証拠能力がなかった。
 ジェリーは、折角見つけた犯人を自分ひとりで復讐しようと思った。
 ジェリーはギャング達が集まるクラブハウスに忍び込み盗聴器を仕掛けた。
 ギャングたちは動物名で呼ばれていた。ネズミがイタチの女に気を寄せていると思わせて、ジェリーは大量の花を贈る。イタチは女に不信感を持つ。そしてネズミはイタチに銃殺される。頭のいいジェリーは仲間同士の抗争を狙っていた。
 食料品店の老夫婦を襲った事件を、ジェリーは警察に「ウサギという男に賞金をどこへ送ったらよいか聞いてくれ」と電話する。
 ウサギはゾウを密告したことを理由に射殺される。
 銀行が襲われ、犯人達は50万ずつ持って逃げた。急に金を使ってはバレるとギャングの仲間は自制しているのに、シマウマの家へ毛皮やピアノが届いた。それを送ったのはジェリーだったが、疑われたシマウマはボスにやられる。
 競馬で大穴をあてる八百長を聞き、ジェリーは電話に残ったテープをすりかえて、損をさせ、担当だったクマはボスに殺される。キツネは毎夜、夢に悩まされた。夢はジェリーが仕組んだことだった。キツネは精神科医へいく。そこで精神科医を装うジェリーがボスにキツネがギャング団のことを話したとウソをいい、またしてもキツネは始末される。次々とジェリーはギャングの仲間を追い込んでいった。ジェリーの目的は完結した。
ハバー警部はジェリーの行いを知っていた。1ヵ月後市長からジェリーは表彰される。
928  いま、会いにゆきます
Date: 2005-12-14

おすすめ度 ★★★★

 市川 拓司 著  小学館  発行:2003年3月

 雨に煙る灰色の風景の中に澪は現れた。澪は約束どおり6月の雨の中、会いに来てくれたのだ。
 澪は1年前に死んだ。5歳だった息子の佑司と29歳で司法書士事務所に勤める巧とを残して。
 澪は記憶をなくしていた。佑司はママの様子がおかしいのに気づくが、「ママは頭をぶつけて記憶をなくした」と教える。
 3人での暮らしが始まった。毎晩、巧は澪に学生時代の話を聞かせた。1年前になくなったことだけは言わなかった。
 澪は6週間いた。そしてふたたび消えた。澪はその間に巧にひかれた。
 佑司も、自分のせいでママが死んだと思っていたことを澪に伝える。澪は佑司にそんなことはない。最高の宝物だという。
927  つきのふね
Date: 2005-12-12

おすすめ度 ★★★★

 森 絵都 著  講談社  発行:1998年7月

 さくらは万引きをした。一緒にいた梨利は逃げた。さくらは店長に5時間も説教された。智は、そんなさくらを従業員用の出口から逃がしてくれた。
 さくらは、店から出てきた智のあとをついて智の部屋で過ごす。以来、さくらには智のそばにいることが安らぎだった。
 智はちょっとかわっていて、懸命に宇宙船の設計をしていた。ぼくの任務は宇宙船を作ることだと没頭してしまう。智は店長の甥だった。両親がなくなり、店長の下で働くようになった。
 さくらをつけて勝田がやってきた。智の行動に驚くが仲良しになる。勝田は梨利のことが好きだった。さくらと梨利が離れてしまったことを修復しようとしていた。
 いよいよ智がおかしくなった。店長に相談すると智と一緒に生活してくれたが、病院に入れるしかないという。
 智がいなくなった。梨利とさくらと勝田が小学校の屋上で智を見つける。
 智は病院に行かなくちゃ行けないし、生きようか死のうか考えていたという。消防車がやってきた。
 
926 連鎖の追跡
Date: 2005-12-10

おすすめ度 ★★★★

 笹沢 佐保 著  幻冬舎  発行:1996年7月

 小山良一が死んだ。見つけたのは母屋に住む妹である。部屋の鍵はかかっていた。しかし、良一は財布が見当たらなかった。22万円入っているはずだ。
 そして、1年半後、新しいマンションで佐伯ユリ子が死んだ。見つけたのはマンションの管理人だった。
 二人の共通している点は、14年前に3年ほど同じ邸宅で働いていた時期があった。運転手とお手伝いをしていた。
 邸宅は取り壊し、2年前に立て替えられ、見城可奈子25歳で独身の娘が独りで暮らしていた。
 可奈子が11歳の時、母は何者かに自宅で殺され、父もその後追うように心筋梗塞でなくなった。母を殺した犯人は見つからずじまいだった。
 調べていくうちに、ユリ子はこの可奈子へ金を要求する電話をしていることが判明した。母が死んだ事件の秘密を握っていたという。
 可奈子には両親が養子に迎えた男の子旭日という弟がいた。血がつながらないでも姉と弟として仲がよかった。互いにひかれながらも姉弟として過ごしていた。母が結婚してから、父はそのことに気づき、母を責める。
 母と父は口論が絶えなかった。そんな折、母が何者かに殺された。
 可奈子は母が死んだ折、父からの言葉どおりを刑事に伝え、以来失語症になった。父が死んで失語症も治った。
 可奈子は父が母を殺したことを知っていた。それを使用人たちは脅したのである。
 母が弟のところへ行くと決心したことでかっとなった父が母を殴った。旭日もその後自殺した。
 可奈子は剣道三段、合気道もならっていた。使用人達は、母の死を不審に思い金を要求した。護身用に鍛えたものが、まさか死を招くとは考えもしなかった。

925  暗礁
Date: 2005-12-8

おすすめ度 ★★★★

 黒川 博行 著  幻冬舎  発行:2005年10月

 奈良県警幹部が収賄の疑いが明らかになった。奈良東西急便と十年にわたる疑惑である。東西急便は収益の42パーセントを人件費に当てるなど破格の給与体系をとり全国規模のネットワークを築きあげ急成長を遂げていた。
 二宮は麻雀に誘われ61万円の分け前をもらった。二宮は桑原と組んでヤクザを仕事にしていた。桑原は中川という刑事から、東西急便の事件に柴田と青木が絡んでいると聞かされる。
 そんな折、東西急便の奈良店のビルが放火される。二宮はこの火災はコンピュータを燃やしてしまえば癒着のデータが消えると考えたやつがやったとにらむ。
 収賄で取り調べられていた奈良県警の柴田は、母親の眠る墓地の駐車場で車ごと燃える焼身自殺を図った。柴田は2400万円を受け取ったとされた板。しかし、桑原は東西急便に登録された奈良県警の警官12人分に月々32万円を振り込まれていた。給与は12人には渡らずある口座にプールされていた。それは9200万円にもなる。柴田が死んだことで青木がそれをもっている可能性が高い。
 青木は沖縄へいた。二宮と桑原も沖縄へ飛ぶ。青木は通帳のほかCD-Rにデータを入れていた。
924 悪党たちは千里を走る
Date: 2005-12-5

おすすめ度 ★★★★★

 貫井 徳郎 著  光文社  発行:2005年9月

 東北自動車道を通り、北本でおりた。高杉と園部はひときわ目立つ豪邸にやってきた。
 主人の金本に、高杉は徳川埋蔵金をでっち上げ、詐欺を働こうとしていた。そこへ先客の美人の女性に出会う。彼女はこの家にルノアールを売りに来ていた。古文書の一部でも見せていただければという提案に高杉はたちは逃げ帰る。
 次に高杉と園部は、金持ちの家の犬を誘拐して身代金を盗ろうとたくらんだ。
 成城の邸宅街をあるいていて、小学生が犬の散歩をするのに出くわす。そして渋井邸を狙ったところ、そこから出てきたのはまたしても北本の金本邸にいた女性だった。
 高杉はしつこく、ルノアールのリトグラフを売ったことを攻めた。そして、同じ穴のムジナ同士で、手の内を披露してしまう。今度はあのうちのペットを誘拐しようと狙っていると話す。
 女性は高杉のマンションでコーヒーを飲んだ。そこへ、渋井の小学生の息子がやってくる。
 男と女は初めて小学生の渋井によって高杉と三上が本名だとわかる。
 小学生の巧は、頭の回転がよい子だった。いっそ僕を誘拐したらどうかとまで言う。
 以来、たびたび高杉のマンションにやってきていた。
 その巧が誘拐された。高杉のところへメールで巧を誘拐したと入る。
 高杉たちは、渋井の家にも連絡をする。誰が誘拐したかわからない。このままでは巧の命が危ないと奔走する。
 巧のメッセージを思い直してみると、風邪ではないがくしゃみが出るという。馬糞アレルギーだといったことがあった。北本の金本に思い当たった。
 高杉は北本へ向かう。巧は無事助け出される。金本はルノアールの絵から、三上の周辺を探っていた。そして高杉のマンションに向かう巧を誘拐した。
 金本も見かけだけで、やはり金に困っており火の車だった。

923 警視庁幽霊係
Date: 2005-12-3

おすすめ度 ★★★

 天野 頌子 著  祥伝社  発行:2005年10月

32歳の柏木警部補は、霊と話ができる特異な刑事だった。幼稚園児ひき逃げ事件から1週間たったが有力な情報がない。そこで柏木が呼ばれた。
 柏木は夜のアスファルトの上で、翔太を呼んだ。轢かれた翔太はきょろきょろとしていた。
そして、話の中から車にピンクの帽子をかぶった虎の絵を思い出す。猛虎引越し便のトラックを調べた。轢いた犯人は見つかった。
 洋館のお屋敷で老婦人が階段から突き落とされて亡くなった。
 早速、柏木と女子高校生の幽霊と屋敷に出向く。老婆は薫子で、階段の途中から後ろから押されたために落ちたという。押した犯人はわからない。当時屋敷には、長男夫婦と孫の龍一と達也と長女の綾香とお手伝いさんがいた。
 調査中の家に老婆の妹の園子がやってきた。
調べていくうちに綾香の同級生の智美が、自分が誤って老婆を押す形になったという。
 柏木は老婆の幽霊と話をした。なんと智美は長男の子であった。
 智美が誤って老婆に触れたことを皆が知って隠していた。
922 精霊探偵
Date: 2005-12-1

おすすめ度 ★★★★★

 梶尾 真治 著  新潮社  発行:2005年9月

 新海は妻を亡くしてから、気力を失い引きこもりのようになった。マンションの1階の喫茶「そめちめ」でマスターとママが心配してくれていた。
 新海には人の背後霊が見える。妻をなくしてから得た不思議な力である。マスターとママの後ろにはなぜか自分が20歳の時になくなった両親の霊がついていた。
 新海はママからの依頼で、山野辺という男の妻を捜すことになった。
 妻が出て行ったときの情報を得るために、久しぶりに身を整え外出した。
 ホームレスの荒戸に出会った。荒戸の背後霊は3人いた。そのうちに一人の霊が新海の持つ塩をみて、二人の霊は邪で塩を嫌うと告げる。新海はおもむろに荒戸に塩を振り掛ける。二人に霊は抜けた。
 それから、荒戸は以前流しで歌っていたこと。レコードも出したことを話す。
 新海が荒戸に出会ったとき、新海が渡した2千円から宝くじが当たり、100万円に、その中からまた10枚のスクラッチくじをかったところ、また100万円が当たった。
 橋の下の暮らしからビジネスホテルへ移った。身を整え、新海とのみに行ったスナックでカラオケを歌った荒戸は、客が大拍手をする。気をよくしてもう一曲歌った。
 その歌を聴いた肥之国放送のディレクターが寄って来た。荒戸はレコードを1枚渡す。
 ところがラジオから荒戸の歌が流れると大きな反響を呼んだ。人気が出てきた。
 山野辺の妻は不思議なカードを持っていた。唐獅子とも麒麟ともちがう、四足獣のえがコピーをすると浮かび上がってくる。
 その不思議なカードは、あるマンションの郵便受けに貼り付けられ、そのマンションから出入りする人々は明らかに妙であった。
 カードを燃やすとあの獣がもだえながら消えた。
 新海は追われる身になった。同じマンションの女の子を助けたことから女の子と一緒に探偵をしていた。逃げているところを荒戸に助けられる。
 荒戸はテレビでカードの危険性を訴える。見つけたらすぐ燃やすようにと。
 新海が迷い込んだ妙なところ。そこにはなんと死んだはずの妻那由美の姿があった。妻は死んでいなかった。そして・・・。

921 吼える駐在
Date: 2005-11-30

おすすめ度 ★★★

 飯塚 訓 著  文芸春秋  発行:2005年9月

群馬県巡査里見雄大は、須田貝巡査駐在所に勤務を命じられた。
 須田貝は水上の奥、ダムが完成するまでの任務だった。藤原郷の奥の隠れ里で、長い間下流の地域にも気づかれないでいたところである。
 雄大は、結婚して5年目に2人目の子が生まれ、親子4人で赴任した。
 1ヵ月後、作業員の中に指名手配犯を見つける。雪の中を逃げる男が雪に埋まった。雄大は助ける。男には妻子がいた。逃げないでやり直せという。
 駐在はかんくと呼ばれていた。村の子はかんくと聞くと連れて行かれるとべそをかいた。が、次第に村に溶け込んだ雄大に慣れていく。
 宝川温泉の上流にテントを張って住む親子3人がいた。死ぬために来たという。雄大は自宅に連れ帰り、あたたかい味噌汁を振舞う。ご飯に岩魚の塩焼きを、泣きながら食べる。3人は雄大の計らいで熊谷組の炊事係りとして採用された。
 雄大は大学を出ていながら、生涯を巡査で通した男である。
920  恋せども、愛せども
Date: 2005-11-28

おすすめ度 ★★★★

 唯川 恵 著  新潮社  発行:2005年10月

 理々子は、ホステスをしながら執筆の仕事をしていた。まだ売れない。そこへ突然、今野由梨のアシスタントをやらないかとの話がきた。今野は3年前、理々子が脚本コンクールで佳作を取った際に、一緒だった子だ。
 プロデューサーの品田は、今野のアシスタントになって30分を1ヶ月間、16回の脚本を依頼された。すでに配役は決まっていた。
 理々子が今野の家に行った時、応対したのは今野の母だった。パジャマ姿の今野はろくに挨拶もしないで自室にこもったきりだった。
 理々子はわれながらよくできたと思う脚本を書いた。次の日、少し赤が入っていたがほぼ自分の原案通りだった。2回目、3回目と続けるうちに、今野のわがままと母親との言い争いが気になった。そして次に回は、母親と主人公とが同じ男性とが付き合っているストーリーにした。
 プロデューサーも今野も、いきなりの方向転換に難色を示した。その回は、平凡な流れに直した。品田は最後のテロップででも自分の名前を出してくれるといった。
 うきうきと理々子は、友人や友達に話す。
 一方、理々子と同じ家に育った雪緒は、妻子ある男性と付き合っていた。
 そこへ、帰ってくるように母からの伝言が入る。金沢に戻ると、祖母と母が同時に結婚するという。祖母は息子夫婦にも納得してもらっての結婚で、母も別の話があった。
 しかし、母は急に結婚をやめると言い出した。 山﨑が訪ねてきた時、母から「席がないのでお帰りください」と拒否された。理々子は、山﨑を追い、真相を聞き出した。母は山﨑の子ども達に反対されていたのだった。
 母は結婚をあきらめ、店の改装をした。そこへ祖母も結婚できなくなった。相手の人が脳梗塞で倒れたという。介護だけの結婚では申し訳ないからこの話しはなかったことにしてほしいと申し出あった。
 理々子の脚本は、いつしか朱も入れられなくなって、書いた通りが放映された。品田からの名前の公表もなかった。
 祖母は脳梗塞で倒れた人と結婚式を挙げた。
 理々子は自分の実の母に改装記念にエプロンを頼んでいた。初めての対面に実の母も喜んでくれた。ぜひ、母のお店にも来て欲しいと頼む。
 雪緒が好きになった同級生の純市は、なんと、異母兄弟だった。純市の父は、雪緒と母を捨てた人だった。雪緒の母はその後死んだ。雪緒は、理々子の家にもらわれて育った。人が考えるほど複雑ではなく、気兼ねのない生活だった。
 理々子の脚本でドラマは視聴率5番目だった。品田にまたアシスタントを頼まれるが、「信用できない人とは仕事をしない」という。
919 にぎやかな天地 上
Date: 2005-11-26

おすすめ度 ★★

 宮本 輝 著  中央公論社  発行:2005年9月

 祖母が脳梗塞で倒れ、臨終の間際「ヒコイチ、ヒコイチ」と僕の方に手を出し、僕の顔をさすった。ヒコイチが誰なのかわからなかった。
 祖母の葬儀に来た96歳の老人は、大前政彦であった。苦楽園口駅の近くでトーストパンの製造をしていた大前道明の父が大前彦一だそうだ。
 彦一は僕のおじさんに当たる人らしい。
 僕は「日本の発酵食品」という本を非売品の限定本でつくることになった。日本の伝統的な発酵食品についての本である。大学の教授や丸山が推薦する人物に取材に当たった。醤油の醸造所なども訪ねた。
  
    下巻には手が及ばず・・・あしからず
918  容疑者Xの献身
Date: 2005-11-24

おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著  文芸春秋  発行:2005年8月

 石神は清澄庭園の近くにある私立高校の数学の教師である。いつも弁当を買う「べんてん亭」の靖子は偶然、石神のアパートの隣に住んでいた。
 靖子は8年前に富樫と結婚したが、すぐに富樫の職がなくなり家でぶらぶら過ごすようになった。靖子には前の夫との間に美里という娘がいた。富樫は美里もかわいがってくれたが、生活に行きづまり結局離婚した。
 その富樫がいきなり弁当屋に現れた。夜、自宅にも訪ねてきた。金をせびる以前の富樫を思い出した。金を渡して追い立てるように帰るよう促していた時、美里が富樫に銅製の花瓶を振り上げていた。靖子はとっさに富樫の首にそばにあった炬燵のヒモで首を絞めた。
 物音に気がついた隣の石神が現れた。石神は靖子たちの行動を悟っていた。石神はとりあえず、石神の死体を自分の部屋に運んだ。
 石神は刑事たちのアリバイ調査に靖子には映画の半券とカラオケに行ったことを指示する。
 やがて、死体から、靖子の元へも刑事がやってくる。刑事の一人は石神の同級生だった。石神の頭脳のよさを知っていた。
 やがて、捜査は靖子のアリバイ崩しにかかる。そして同級生の刑事湯川に、富樫を殺した犯人が男だと推理し、石神ではないかと疑う。
 石神は靖子に好意を持っている。親子が安泰に暮らせればと願い、石神は自首する。
 しかし、石神の思惑とは違って、靖子親子も「自分だけ幸せになれない」と自首してくる。
917  だいこん
Date: 2005-11-19

おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著  光文社  発行:2005年1月

 つばきは、小さい頃からかいがいしく働く母を見て、自分もそうなりたいと思っていた。9歳の時、つばきの炊くご飯はおいしいと評判になった。
 つばきの家は父が大工をしながら母はつばきの下に2人の娘をもうけていた。父が作った借金が膨らみ、毎月取り立てに来る伸助が嫌いだった。あいつが来たあとは、父も母もケンかを始める。
 3月の目黒行人坂の大火で江戸の大半を焼き尽くした。幸いつばきの家は焼けないですんだ。
 そこへ伸助が「貸した金は帳消しにする」といってきた。
 つばきは、炊き出しの手伝いに行った。そのあと、番小屋の弁当も作った。
 つばきは17歳の時、183両を蓄え、一膳飯屋をやるつもりだ。
 大川端の側で履物やだった店を借りたいと思った。裏の空き地には10坪の畑があった。ここに大根を植えて見たいと夢が膨らんだ。
 つばきは赤飯をたき、店の持ち主安次郎にあう。赤飯を食べた安次郎は店を譲ってくれた。つばきが「だいこん」を最初に立ち上げた日である。
 ひとり40文でご飯もおかずも食べ放題にした。野菜もアラの煮付けも大皿に山盛りにして盛り付けた。当たった。客同士が譲り合うようにして席は埋まっていった。
 その後、年寄りたちへの弁当届け、仕入れの野菜や魚を桃太郎の漆塗りの荷車を子どもに引かせ、一膳飯屋だいこんの旗を立て、河岸と店を往復させた。
 立ち寄った店でところてんを食べたつばきはそのおいしさにひかれた。ときどき、足を運ぶうちにこの人に年寄り達への弁当の差配を頼むことにした。
 小網町の方で蕎麦屋をやっていた家を借りることにした。つばきが50両、おそめが50両、日本橋の大棚の菊之助が50両だし、弁当屋が開業した。おそめが仕切ることになった。
 25歳になったつばきは、さらに浅草材木町に料亭を居ぬきで買った。
 
916 あなたが名探偵
Date: 2005-11-17

おすすめ度 ★★

 泡坂 妻夫ほか 著  東京創元社  発行:2005年8月

7編の短編。巻末に解答編がある。
 「蚊取湖殺人事件」では、健康保険証を持たない患者が翌日、クビを包帯で締められ殺されていた。ちょうどスキーで捻挫した女性が使った包帯の切れ端と殺されたものの切れ端と合うかどうかが、犯人を見つけるのに役立った。
 「お弁当ぐるぐる」では、失業中の夫は弁当をつくってもらい、妻は外で働いていた。保険の外交員が夫の死体を見つける。しかし、弁当は空っぽであったが胃の中には何もなかった。弁当は誰が食べたのか。
 「大きな森の小さな密室」では、高利貸しの男が殺された。密室になっているが、果たして犯人は?
915  虹色にランドスケープ
Date: 2005-11-16

おすすめ度 ★★★★

 熊谷 達也 著  文芸春秋  発行:2005年10月

 短編7編 オートバイやバイクの話
 「旅の半ば」では、リストラされ、就職も思うようにいかない浩史。45歳という年齢で妻も子もいる。家のローンも残っている。失業手当が切れると生活のめどが立たない。妻はパートに出始めた。
 生命保険を解約しようとすると外交員が「今は解約するともったいない」という。
 そのままにして、浩史は旅に出た。北海道にバイクでツーリングだ。頭の中は事故に見せかけて自殺することだった。しかし、シカをよけて自分は転んでしまった。自殺をあきらめてお土産を買おうと踏み出した途端、意識が途切れた。転倒の直後、もろくなっていた血管が今破裂したのだと。
 「冴えない肖像」 二輪のロードレースに日曜日に出なければいけない眞也は、郷里から父が危篤で、すぐ帰れといってきた。
 父とは中二のときバイクを乗り回してはたかれた。16歳で免許を取ったら、「乗らないと約束したはずだ!」と怒られた。わざと地元の大学ははすして東京の私大に行った。
 父が訪ねてきた時、父は部屋にあらがないで帰った。部屋の中にあるヘルメットやつなぎをみて固まっていた。あれは入院する1ヶ月前だった。
 レースに出た。しかし、スタート時に親父の顔に見えた。スタートをミスったが、その後も不運が続いた。
 レースの後、監督に父の危篤を告げた。すぐ帰るように駅まで送ってくれ、3万円を握らせた。家に着くともう線香の臭いがした。
 父はあのスタートの時刻に亡くなっていた。
 父の知り合いが見せたいものがあると連れて出た。バイクにのる父の写真がたくさんあった。おまけに乗っていたバイクも大事に保管されていた。父は事故を起こし以来バイクに乗らなくなったのだという。20年も前のことだった。バイクをもらうことにした。

914 亡命者 ザ・ジョーカー
Date: 2005-11-14

おすすめ度 ★★★★

 大沢 在昌 著  講談社  発行:2005年10月

 六本木のバーで飲んでいると白人がジョーカーを訪ねてやってきた。30代の別れた妻を探して欲しいという。彼女はCIAに追われているという。
しかし、ジョーカーは自分を利用したが、援けもしてくれた。香港経由でイギリスに帰っていった。
 天安門事件の後カナダに逃げた奏は、インターネットで元宵というハンドルネームを見て、一緒に闘った淑花だと思った。
 彼女にメールを出すが返事がない。逃げた当時は19歳。今は34歳のはずだ。ジョーカーは探すことになった。彼女は在日中国人の有力者の愛人になっていた。
 ジョーカーは奏が会いたがっていることを伝える。
 淑花のだんなの武は、ジョーカーに銃口を向けた。相手は6人いる。ジョーカーも武の額を撃っていた。そして奏と淑花に逃げろと命じる。
913  楽園の眠り
Date: 2005-11-12

おすすめ度 ★★★★★

 馳 星周 著  徳間書店  発行:2005年9月

 池袋西口のラブホテル街を一人で歩いている男の子を見つけた。妙子は声をかけるが、父も母も周りにいない。深夜である。妙子はとりあえず池袋東口のビジネスホテルに二人で入った。
 子どもは言葉を発しない。ハンバーガーはむしゃぶりつくように食べている。二人で風呂に入った。子の身体は無数の内出血の跡があった。虐待を受けて育った妙子はすぐにこの子も虐待を受けていたことを悟る。
 一方、麹町警察署の刑事友定伸は、池袋の託児所から雄介がいなくなったと知らせを受ける。
 ホームレスに聞くと、高校生ぐらいの女の子が連れて行くのを見たという。
 友定は雄介への虐待を知られたくはない。一刻も早く探さなければとあせる。妻は雄介を置いて出て行った。二人になって友定は雄介に危害を加えることでうさ晴らしをしていた。決してにくいわけではない。口を利かない雄介の涙を流さない雄介のその姿が暴力にさらに拍車をかけさせる。
 妙子は川口市に実家があり、父の虐待から逃れるために池袋に来て、援助交際をしていた。
 最近、妊娠したことを知り相手の幸治に伝えるといきなり腹をけられた。流産した。救急車で運ばれた病院から抜け出す。そして見つけたのが雄介だった。
 妙子は雄介が口を利かないので紫音となづけて守ろうと決心した。金がないので援交をつづけるしかない。公団住宅に住むヒデを訪ねた。稼いでくる間この子を預かってほしいと。
 後何回か稼げばふたりで住む部屋か借りられる。
 一方、友定は昼間、救急車で運ばれた女の子が子を連れて行った子と似ているとの情報から、病院にいく。しかし見つからなかった。
 相手の男、幸治をみつけ、妙子のことを知る。そしてついに、妙子の携帯にメールする。連れている子を返すように。
 ヒデのところも危ないと感じた妙子は逃げる。友定はヒデのところへもやってきた。
 紫音は熱を出している。ホテルに入り、熱を冷まさせる努力をする。しかしなかなか下がらない。ヒデの紹介でもぐりの医者に見てもらう。
 扁桃腺がはれていた。すぐなおるという。そこへ友定がやってきていた。またしても逃げる。
 紫音が熱が下がり、こんなにも守っているのに心は自分に向いていない。つい怒ってしまう。紫音はママ、ママと泣き喚く。デパートのトイレで妙子は紫音のしりを打つ。そこへ友定がとびこんできた。「痛いよ。パパ」という友定は言葉が出るようになった。
 友定は幼児虐待がばれ警察を退職した。警備員になった。
 再婚した妻もまた4ヵ月後に出て行ってしまった。雄大は鼻から血を流し、目の周りにあざができていた。「誰がこんなことを・・」「ママ、ママ」雄大は壊れた人形のようにその言葉を繰り返した。
 
 
 

912  検事・沢木正夫 第三の容疑者
Date: 2005-11-10

おすすめ度 ★★★★

 小杉 健治 著  新潮社  発行:2005年5月

 堂本圭次郎は20年前の東北地方の高校球児である。甲子園にも出場した。プロに入り3年目に肩を壊し辞めた。そして再び注目をあびたのは覚せい剤と詐欺事件であった。老夫婦を殺して預金通帳を奪ったという罪である。
 堂本のやっていたエースというスナックで松永と高木は憧れの堂本に会った。
 堂本の冤罪を晴らすために二人は新田弁護士に依頼した。
 沢木は地検の事件係に勤務していた。目黒区の公園で男が死んだ。沢木はこの男に夕べ11時半ごろ信号のところであった。「クニ、俺だ」と電話をしていたのを覚えていた。
 死んだのは糸崎という男だった。その事件の後栗林という男が参考人としてつかまった。栗林は自分の恋人を上司の糸崎に奪われていた。おまけに50万円を貸していた。
 堂本の公判に高木と松永は傍聴していた。岡谷と世羅の被告人2人は堂本に罪をなすりつけようとする証言をしていた。
 栗林が自殺した。沢木は「クニ」と呼ばれる人物を探すことにした。糸崎がクニと呼ぶ男をさがす。米沢まで行き、糸崎がクニとよぶ国城という男を突き止めた。国城はいじめられていたようだった。母一人子一人で育った国城は、金を持ってくるように言われた同級生の江間に、金の変わりに刃物を持って行き、いきなり江間を刺した。
 母は引越し、国城は少年院に行った。20年以上も前の話である。糸崎と国城はつながった。
 そして、高木も交通事故でなくなる。新田弁護士は実は養子に行き苗字も名も変えていた。
911  懐郷
Date: 2005-11-8

おすすめ度 ★★★★

 熊谷 達也 著  新潮社  発行:2005年9月

 短編が7編
「鈍行列車の女」では、東北本線の駅まで雪の中を1時間ほどかけてやってきた昭子は、上野までの切符を買った。鈍行で行くのである。出稼ぎに行った夫の雄一郎を探すのだ。
 昭子は6年前に19歳で結婚した。1年後に女の子が生まれた。こちらでは孫が生まれると舅夫婦は隠居する風習であるがそれもせず、昭子の義母は財布すら渡すつもりはない。
 人から小遣い稼ぎに土方に出て、それを自分で使える唯一の自由になる金だと聞いた。早速昭子も土方に行くが、日当が入った日は、舅は手を出してそれを待っていた。結局、土方に行っても同じとわかり、行かなくなった。
 昭子は雄一郎のもとへ行くために、舅の財布から5千円を盗み出かけた。
 上野に着いた昭子に、親切そうに近づいた男を振り切って道に迷ううちに、目の前に偶然、雄一郎がいた。声をかけるのをためらったのは、雄一郎がストリップ劇場と書かれた場所から出てきたからだ。
 しかし、後をつけている昭子を露天で酒盛りしている男達に絡まれる。「お父ちゃん」と叫ぶ。
雄一郎は昭子を助ける。
 東北に帰る切符を買ってくれた。今度は特急「はつかり」に乗っていた。
 雄一郎は、昭子に「来年になったら、おまえも一緒に出稼ぎに出てみるか」といってくれた。
910  スイッチを押すとき
Date: 2005-11-5

おすすめ度 ★★★

 山田 悠介 著  文芸社  発行:2005年8月
 
 新宿にある青少年自殺抑制プロジェクトに南洋介は出かけた。この施設に収容されて11ヶ月。十人目の子がスイッチを押した。
 2007年、若者の自殺は後を立たず、翌2008年、人権保護団体からの猛烈な講義を受け、政府は青少年自殺抑制プロジェクトを立ち上げた。
 全国から無作為に選出された子らが、高ストレス環境におき、その精神状態を解明するというものであった。子ども等には体内に特殊電子機器をとりつけ、四角い箱を渡される。箱は体内の電子機器に作動する。スイッチを押すことはつまり心臓が停止するように作られていた。
 子ども達は次々にスイッチを押し、すでに11人が死んだ。
 洋平は27歳、この仕事についてもう2年になる。横浜の施設に異動になった。監視員として。
 4人の子どもが気になる。3人の男の子に1人の女の子。まだ希望を捨てていない。7年も収容されているという。自分は国のおもちゃだと言い切る。
 4人は、車椅子の小暮、高宮、新庄、池田だ。自転車の鍵を落とした池田。友達に借りた自転車の鍵だ。その友達も施設に収容されている。矢田遥かに渡して欲しいと洋平に頼む。
 洋平は直接渡せなかったが、人を介して渡した。ところが無表情だった矢田は、鍵を手にした後は泣いてばかりいた。そして母の死を知らされた遥かはスイッチを押した。
 洋平は車を乗りつけ、小暮と高宮と新庄を連れ出す。そして「みんなのいきたいところへ行く」という。小暮は家族に会いたい。美術館の前で両親に会う。警察に追われた。皆逃げる。しかし小暮は疲れたとスイッチを押す。
 新庄は弟と母に会えた。パトカーのドアが開いた時、新庄はスイッチを押した。
 高宮は静岡に向かう。小学校に通っていたころのアパートは平地になっていた。母といった横浜動物園に行く。そして伊良湖岬に行く。
高宮は孤児院に行き母の過去を知る。愕然とする。洋平は、自分の妹が高宮真沙美だったことを知る。そして洋平も15年間囚われた身だった。自由になって最初の仕事が監視員だったのだ。
洋平と真沙美は母に会う。そして二人ともスイッチを押す。
 

909 東京奇譚集
Date: 2005-11-3

おすすめ度 ★★★

 村上 春樹 著  新潮社  発行:2005年9月

ピアノの調律師の41歳のゲイの話によると、大学の時に女性とセックスしたが気持ちのいいものではなかった。女性が興奮した時に発する臭いがどうしても好きになれなかった。彼女に「自分はホモセクシャルだ」と打ち明けた。ところがそれを皆が知るようになった。それが原因で特に家族中で一番仲の良かった姉と仲違いしてしまった。
 書店のカフェでコーヒーを飲みながら、同じ本を読んでいた女性と話すようになる。毎週火曜日に同じところで本を読んでいると彼女がやってきた。
 彼女はレントゲンに影がある。入院しなくてはいけないといった。
 耳たぶにほくろがある女性を見ながら彼は姉を思い出した。
 10年ぶりに電話した。姉はこちらに来るという。駅まで迎えに行った。姉は明日から入院するという。
 姉は乳房を切除した。幸い癌の転移はなかった。
 姉と同じところにあるホクロ。その彼女を見て姉とのきっかけができた。きかけって何よりも大事なんだな。
 その後、あの彼女はどうしたか知らない。姉とは仲直りできたことを感謝した。

 ほか短編4編
908 ハルカ・エイティ
Date: 2005-11-2

おすすめ度 ★★★

 姫野 カオルコ 著  文芸春秋  発行:2005年10月

 大阪のヒルトンホテル35階のティーラウンジでコーヒーをのむハルカ。西洋人と東洋人の中間の顔立ちのハルカ81歳である。
 姪の秋子から「ヤングサンデー」の記者にハルカのことを話したところグラビアに出てもらいたいという。元祖モダンガールとして。
 ハルカは、女子師範学校を卒業した20歳のとき、陸軍士官学校を出た22歳の大介とお見合い結婚した。結婚するまでに2度会ったきりであった。
 結婚後すぐに離れ離れになり、4年後渥美半島に大介を訪ね一緒に暮らす。みかん畑の中の官舎だった。やっと新婚らしい生活ができた。そして妊娠し、恵が生まれた。
 やがて終戦になった。ハルカは淋病が移り夫の浮気を知る。
 大介は株でもうけた金で会社を設立した。しかし、会社は不振であった。
 終戦から9年後、小学校の敷地内に幼稚園を設立した。ついては職員を募集という記事を見た。ハルカは応募し、幼稚園の先生になった。33歳の時である。自転車に乗って通勤した。それを義母がほめてくれたのである。「ハルカはようできた嫁御だ」と。
 大介はまた浮気した。音大の学生だった。義父が頭を下げてハルカに誤る。しかし、ハルカは大介の浮気は初めてではないと許す。
 56歳の時、義父母が続いて亡くなった。
 大介が新大阪ホテルに食事に行こうと誘ってくれた。銀婚旅行だ。

907  アンボス・ムンドス
Date: 2005-11-1

おすすめ度 ★★★★

 桐野 夏生 著  角川書店  発行:2005年10月

 7編の短編集
 「アンボス・ムンドス」では、26歳の小学校教師が、46歳の教頭と恋仲になった。教頭には妻がいる。
 夏休み、二人は示し合わせてキューバに行った。その間に、担任の子ががけから落ちて死んだ。いつも自分のことを浜崎あゆみから来ているのか「あゆ」と呼ぶ生徒だった。陰口の好きな子でいじめっ子でもあった。
 担任と教頭に連絡するが連絡が取れない。いつしか、子どもの死亡より、不倫教師ということで騒がれた。死んだ子もの家族も生徒の親も同僚も冷たかった。
 謹慎させられた私は、教頭に合うこともできない。そして、謹慎が解け出勤した日、教頭の姿は見えなかった。私は子ども達に、事件の日のことを聞いた。一緒だった子ども達は、口をそろえて下を覗き込んでいるうち落ちたという。示し合わせているようでもあった。警察の事情を聞かれたことで完全に演じているようでもある。
 翌日教頭は自殺した。
 私は小学校を退職した。今は塾の教師をしている。子ども達が自分と同じ年齢になったらこのことをどう思うか知りたいような気がした。
 アンボス・ムンドスとは両方の世界という意味で泊まったホテルの名前だった。
 「植林」では薬局の量販店出働く女性。臭いといわれ、家には兄夫婦も転がり込んで行き場がない。自分が部屋にいるとあからさまに同僚達がいやな顔をする。ところが昔、自分をかわいがってくれたおじさんたちを思い出す。そして、自分は変わろうと決心する。臭いといわれた男の子には「あんたも臭いよ。」と言い返す。女の子の集まっているところでは「うるさい!私を舐めるんじゃない!」と怒鳴ってしまう。挙句の果てはよく行くコンビニの店主の子には「本当のお母さんは私、今のお母さんは怒ってばかりいる。本当のお母さんではない」と言ってしまう。独身で結婚もしたことのない自分である。子どもは驚いて父親に駆け寄る。知らぬ振りをして店を出た。

906  福音の少年
Date: 2005-10-31

おすすめ度 ★★★★

 あさの あつこ 著  角川書店  発行:2005年7月

 1ヶ月前、アサヒコーポで火事があった。9人が焼け出された。
 秋庭はその現場にやってきた。ニュースで被災者の写真を見た。あの少女にみおぼえがあった。
 火災の現場で高校生たちに会う。アサヒコーポの近くの緑水園に泊まっていると言う。
 少年は秋庭のことを覚えていた。記事をかいた名だった。
 少年の柏木と永見は、アサヒコーポが火事の時、緑水園で焼けるのを見ていた。その炎の中に同級生の藍子がいた。藍子と家族は死んだ。
 秋庭は藍子がスイートルームを使った援助交際をしていたことを知っていた。1泊20万だった。それができる男、機桐潮国会議員だった。
 図書館の本に藍子あてのメッセージを見つける。「君ほど清楚で淫乱な女は初めてだ。 旗」と書いてあった。機桐に間違いない。藍子は殺されたのだ。
 秋庭は少女達のあからさまな性の現場の取材をしていた。そして藍子を見たのだった。
 1ヵ月後、藍子から柏木に手紙が届く。それは幼い頃藍子と自分が写った写真だった。忘れないでほしいというメッセージなのだろう。
 柏木はひとりで旗桐に会い、なぜ殺したかを聞く。
905  鎮火報
Date: 2005-10-30

おすすめ度 ★★★★

 日明 恵 著  講談社  発行:2005年9月

 赤羽台消防出張所に勤める雄大は、火災現場へと急いだ。被災した人たちがはだしのまま、下着のまま駆け出してくる。そこへその人たちを追ってくる者が捕まえると殴り倒したり捕まえたりしている。警察が摘発した外国人の住むアパートでの火災はこれで4件目だ。摘発されていたのだ。ここの住人は全員が不法滞在だった。
 火事の現場で2度、同じ男をみた。若林という男だ。話を聞くと、若林は従業員は2人ぐらいの小さい工場をやっていた。給料の安い外国人労働者を雇わないかといわれた男に従った。しかし、警察に不法滞在の者を使ったとして逮捕されてしまった。会社は人手に渡った。しばらくして元の自分の会社を訪ねたところ、外国人労働者がいた。忠告しなければ、自分と同じ目にあってしまうと思った。しかし、出てきた責任者はあの男だった。まんまとだまされたことに気がついた。
 若林は以来、外国人労働者を見つけると入管や警察に通報していた。そして、その場所に実際に行き摘発の様子を見ていた。
 今回も火事の前に摘発があったばかりだった。
 爪に火をともすようにして稼いだお金を国に送るために、滞在期間が切れても国へ帰れない外国人。捕まれば強制送還されるが、その金は自分が払わなければならない。
 雄大は消防士をやめたかった。そこへ車に乗り込んだ男がガソリンをまいて自殺を図ろうとしていると通報がある。雄大は自暴的に「死にたければ死ね」という。おろおろする家族、とりまく近隣の人たち。男は仕事をリストラされ、仕事が見つからず、保険金を家族に残せると思った。
 雄大は「お前が焼け死んでも家族は犯罪者の家族になる。放火は犯罪だ。」という。
 雄大は車の鍵が開かないことから、車のガラスに放水する。穴が開いた。無理やり引きずり出す。
 雄大の父は消防士で人を助けたあと死んだ。雄大がまだ小学生の頃だ。父と一緒に働いていた仁藤は何かと雄大に気を配る。父が死んだことを悔いて仁藤は殉職を想っているようだ。雄大は仁藤に死んではならないと伝える。
 雄大はやっぱり消防士を続けようと思う。

904  保育園民営化を考える
Date: 2005-10-28

おすすめ度 ★★

 汐見 稔幸ほか著  岩波書店  発行:2005年5月

わが国の認可保育所の数は22391箇所(2003年)、うち公立保育所は12236箇所。
 公立保育所を民営化に変更しようとする自治体が増えてきた。
 待機児童数の増加、不況による税収不足でどの自治体も財政が危機的状況にある。
 公立と私立では保育士給与の差が大きいとされている。公立保育所では長く働き続けられる環境ができており、保育士はやめる人が少なく、民間より高齢化している。
 公立保育士の平均年齢は37歳、給与が301723円に対し、私立では平均年齢は31・4歳、213950円である。
 ここで、国は福祉国家政策を変更し、市場を開放し競争的に運営する民営化が進められてきた。
 公立よりも民営のほうがコストダウンできると考えられている。
 
903 葉桜の季節に君を想うということ
Date: 2005-10-26

おすすめ度 ★★★★★

 歌野 晶午 著  文芸春秋社  発行:2003年3月

 古屋節子は何でも買ってしまう性格だった。万能野菜カッターからティーカップなど、さらには安売りの卵を何回も並んで買い、冷蔵庫で腐らせてしまう。夫はすでになく息子も独立して、足立区の都営住宅で年金暮らしをしていた。
 節子はアルカリイオン水2万円分をプレゼントという触れ込みに参加し、蓬萊倶楽部から進められるままに品物を買い現在では超高利貸しに金を取り立てられている始末である。すでに数千万の借金に膨らんでいた。
 節子は蓬萊倶楽部の関係者に言われるまま、温泉旅行に行き、老人に近づき暗がりに連れて行く仕事を手伝った。翌日老人は死体となって発見された。
 広尾駅のホームで線路にうずくまる女をみた。成瀬将虎は、ホームに飛び込み女を助ける。さくらという女だった。
 将虎は若い頃探偵事務所の仕事でヤクザの世界に送られたことがった。寝泊りしていた兄貴が風呂場で死んでいた。腹の中の内臓も外で出ている悲惨な状態だった。そんなことを思い、人には死んで欲しくなかった。
 さくらは将虎のもとにお礼に来た。ときどき食事をする仲になった。
 蓬萊倶楽部の内定をしていた将虎は、清掃人として部屋に入ることができた。机の上に1年前に死んだ安藤士郎の生命保険証書があった。不信に思い書類を広げると受取人がさくらになっていた。
 さくらは蓬萊倶楽部に操られていた人間だった。助けた時に名乗った安藤士郎を本名だとおもって工作していたのだ。
 安藤士郎には分かれた妻と娘がいた。将虎は探し当て、生命保険料を渡してやりたいと想っていた。
 さくらの招待は節子だった。さくらは死んだが恩給をもらうために蓬萊倶楽部が節子にさくらとして年金の受け取りを指示していた。死体は蓬萊倶楽部が処分した。
 久高隆一郎という老人も強引に誘い出し、蓬萊倶楽部のやり方に疑問を感じたまま車で轢かれた。誘い出す役目を節子はやらされたという。そして自分は生命保険をかけて殺されるところだった。
 将虎は70歳でまだ探偵だった。
902 隠蔽捜査
Date: 2005-10-24

おすすめ度 ★★★★★

 今野 敏 著  双葉社  発行:2005年9月

廃工場の敷地で30代の男性が銃殺された。殺された保志野俊一は、1980年代おわりに足立区綾瀬で起きた誘拐・監禁・強姦・殺人・死体遺棄の事件の犯人だった。社会復帰し、暴力団の組員になっていた。
 さいたま市内のつぶれたスナックの跡で水戸信介が銃殺された。またもや綾瀬の事件の共犯者であった。
 警察は徹底して綾瀬事件の加害者の周辺を調査した。
 警察庁長官官房総務課長の竜崎は、マスコミ対策に追われた。小学校時代の同級生の伊丹を見舞った。事件は伊丹の元で捜査されていた。伊丹は警視庁の刑事部長だった。竜崎は東大を出て、伊丹は有名私立大学を出ていた。
 小学校の頃、竜崎は伊丹のとりまきの子達にいじめられていた。伊丹は頭もよく女の子にも人気があった。竜崎は懸命に勉強した。
 警察庁で伊丹と再会した。同期の22人のうちにいた。
 早めに帰宅した竜崎は息子の部屋を空けた。タバコではないものを吸っていた。小さなプラスチックの筒状のケースがあり、ヘロインと確認した。息子は私立大学に受かったが、竜崎が将来のために東大しかだめだと浪人させていた。
 竜崎は眠れぬ日が続いた。しかし、隠蔽してはならない。息子を自首させよう。自分の立場が悪くなってもクビになることはない。
 伊丹に相談した。息子のことはもみ消せという。そうは行かない。
 そして3つ目の事件がおきた。宇部隆夫が殺された。撲殺だった。
 事件は4月26日、5月8日、5月16日である。丸をつけていると竜崎は見覚えがある規則性が見て取れた。警察官ならだれもがなじみのパターンだった。
 犯人は警察官だ。竜崎は伊丹にそれを告げる。伊丹は現職警官だったら、事件をもみ消すことを考えていた。それは上司の指示でもあった。
 竜崎は伊丹にもみ消してはならないと進言する。
 竜崎は伊丹に息子は自首させると告げる。竜崎は上司にもみ消しの工作を画策している様子だが、断じてそれは避けるべきだ。先の国松長官狙撃事件の犯人が内部警官だった。いまだに迷宮入りになりそうだ。 今回は、犯人は自供している。
 先の国松長官の事件では刑事局が失敗している。今回は正しい判断を下すべきだ。牛島参事官に警察全体の権威を失墜させてはならないという。
 伊丹に事件の解明に全力を尽くすのだという。被疑者の権利に抵触しない限り、どんどん情報をマスコミに開示すべきだとも。
 伊丹は悩んだ。胸騒ぎを覚えた竜崎は伊丹の家に行く。案の定、銃で自殺を図ろうかと悩んでいた。竜崎は伊丹に死んではならないと諭す。
 翌日、会見をする。警視庁の刑事部長に対し隠ぺい工作をした坂上は飛ばされることになった。
 竜崎の息子が自首した。
 竜崎は大森警察署長に転任になった。
 
 
901 逆説探偵
Date: 2005-10-22

おすすめ度 ★★★

 鳥飼 否宇 著  双葉社  発行:2005年8月

 公園で月俣警部補の死体が見つかった。翌日、月俣警部補からコンピュータのワープロソフトで書かれた遺書が届いた。自筆ではないことから、本物かどうか疑われたが、追伸に書かれた、朝岡組のアジトの場所やその場所に隠された覚せい剤や拳銃のありかを記してあった。
 捜査の結果、その場所から覚せい剤等が見つかった。そのことから、これは当人しか知り得ないものとされ当人の遺書とされた。
 しかし、遺書は格報道局、新聞社にも蒔かれていた。それには、最後のアジトの場所は書かれていなかったが、自分は暴力団と癒着があり、今回の監査で発覚するだろう。その前に自決してお詫びするというものだった。
 しかし、これは朝岡剛司は、山ノ井組の息子でありながら、朝岡組に入った。以来、組同士の抗争が続いていた。山ノ井の会長が刺された。山ノ井組は壊滅状態になった。山ノ井の息子は朝岡組の若頭でありながら暴力団から足を洗いたかった。月俣警部補は、暴力団を利用しているつもりが利用されていたのだった。
 朝岡剛司の目論見とわかりながら、2つの組を崩壊させたことから、逮捕は見送ろう。
 獅子身中の虫が獅子身の中の虫をかばった。
900  2005年のロケットボーイズ
Date: 2005-10-21

おすすめ度 ★★★★★

 五十嵐 貴久 著  双葉社  発行:2005年8月

 受験期に交通事故に会い、1ヶ月入院した。今から受けられる高校を受け、やむなく王島電機大学の高等部に入った。工業高校である。
 「いやなら辞めた方がいい」と1年先輩のダンナに言われた。カミノ電気機の四男で将来この高校の校長になるだろうという人物だ。
 そこへ担任から、出席日数の足りない女の子と一緒にキューブサット設計コンテストに出るよう言い渡される。四角い人工衛星のことだという。もう13回も続きているコンテストだった。退学したくなかったらやるしかない。
 友達のゴタンダとドラゴンにも相談した。とにかく設計図を引ける者を探すことになった。
 学校では鳥人間コンテストに出る鳥人間部まである。
 世界中で一番頭がいいと信じている大先生こと2年の成田が設計図をひいいてくれるという。成功報酬で賞金の半分で引き受けてくれた。
 ところがそれが入賞した。優秀賞で80万円になった。
 しかし、テレビの企画で実際にそれを作らなければならない。
 梶屋は家が製作所をしていて工場がある。今は父がうつ状態になったので祖父が一人でやっている。
 さっそく、梶屋の家が製作する場所になった。工場にパソコンや材料を買い込んで製作に取り掛かる。300万円を祖父が満期になった保険で出してくれることになっていた。しかし、祖父が脳卒中で倒れ入院した。制作費は入院費に消えた。
 後には引けない、そこへダンナが出資してくれた。皆懸命に作った。
 ところが当日はうまく作動しなかった。
 10年後、梶屋は宇宙利用推進準備室にいた。

899 辰巳八景
Date: 2005-10-20

おすすめ度 ★★★

 山本 一力 著  新潮社  発行:2005年4月

 深川に武蔵屋が創業したのは佑助が22歳の時である。佑助は焼き方に就けたのは12年奉公した時である。
 佑助は赤坂村から尾張町まで日に2回、煎餅250枚ずつを担いで運んだ。
 佑助が18歳の時、江戸は明暦の大火に襲われた。あるじはまだくすぶり続ける中を、煎餅を焼き被災者に布施した。おまけに佑助に尾張町で店を続ける元手に75両を残した。佑助が21になる前にあるじは没した。他のお金は菩提寺に寄進していた。
 佑助の娘のおじゅんに縁談が持ち上がった。おじゅんはつりあわぬ増田屋へ行くことを悩んでいた。深く思っている西悦は見習いの僧であった。
おじゅんは西悦に増田屋に嫁に行くことを告げる。

898 噂の女
Date: 2005-10-18

おすすめ度 ★★

 神林 広恵 著  幻冬舎  発行:2005年9月

 四大に行ったら婚期が遅れる。という両親のアドバイスで短大へいく。卒業後、出版の仕事がしたいと上京。
 「学歴不問」という「噂の真相」へいく。新宿5丁目のマンションの一角だった。6人の少人数の会社だった。噂の真相は9年目に入っていた。編集長の岡留に面接し、合格した。22歳の時である。
 25歳の時、デスクになる。やれないと断ったが、無理やりやらされた。
 そして、27歳の時、和久峻三の結婚回数やいろいろ私的なことを記事にした。和久は弁護士だった。名誉棄損で訴えられた。それが延々と10年以上もかかる裁判となった。高裁で岡留に懲役8ヶ月、神林に懲役5ヶ月と出た。控訴した。
 そして、2005年3月最高裁で上告を棄却すると有罪判決が出た。
 噂の真相は2004年3月10号を以って休刊した。スタッフは3月31日で退社した。25年の歴史に幕を閉じた。
  

897  何があっても大丈夫
Date: 2005-10-15

おすすめ度 ★★★★

 櫻井 よしこ 著  新潮社  発行:2005年2月

 ベトナムで敗戦になり、日本に両親が引き上げてきた時は、兄が3歳、よしこは生まれたばかりだった。
 母の郷里の小千谷に落ち着くが、まもなく父は東京で仕事につく。父は東京にも別に家庭を持ってしまった。
 母は誰のことも悪く言わない人だった。「自分だけには本当のことを言って」というが、「神様は誰にも幸せになって欲しいと思ってらっしゃるから、人のことは悪く言うことはできない」と言った。
 父の愛人の姉に当たる人が尋ねてきた。そのひとの父親は料亭のお内儀の元に居ついてしまったという話や苦労した話を聞かされた。その人に父との連絡役を頼んだ。
 よしこの大学の入学費用を父から出してもらう頼んだ。
 よしこはハワイ州立大学に入学した。父はハノイに日本料理店を出していた。
 帰国し、クリスチャン・サイエンス・モニターの東京支局で働く。ジャーナリストの始まりだった。金大中氏の連行事件は、米国記者とよしこで取材した早坂氏を怒らせてしまった。
 3年後フリーの記者になり、新聞社に記事を送る仕事をした。
 そして1980年「きょうの出来事」のニュースキャスターになった。以後16年間勤めた。
896 バリでの出来事 上・下
Date: 2005-10-12

おすすめ度 ★★★

 キム・ギホ 著  竹書房  発行:2005年7月

 P財閥の次男坊ジェミンはバリであったスジョンが忘れられない。ジェミンにはすでに婚約者がいる。
 一方、婚約者のヨンジュはバリで昔の彼のイヌクと会っていた。ヨンジュはイヌクに結婚をすることを告げるが、結婚は親が決めたもので、相手を好きになったわけではないと言う。
 そこへヨンジュを探していたジェミンが来る。イヌクとも会い、自分の会社で働いているということを知る。
 韓国へ帰ったジェミンは、職を求めてやってきたスジョンはジェミンの会社で受付の仕事に着くことができた。
 スジョンがアパートに戻った時、なんと隣の部屋がイヌクの部屋であった。イヌクはスジョンに優しかった。
 イヌクを訪ねてきたジェミンはスジョンが一緒なのに驚く。
 すぐさま別のマンションを借り、スジョンに住む様に言う。ためらっていたスジョンもあまりに違う部屋に住む。ジェミンが手を出すわけでもなく、ただそばにいるだけでよいという。
 ジェミンとヨンジュの結婚が先延ばしにされたり、婚約を破棄したいとジェミンが言ったりするが、結局二人は親の力に負けて結婚式をあげる。
 結婚してからもヨンジュはイヌクを訪ねる。近くにスジョンがいるのをはらただしく思う。
 やがて、スジョンの兄がお金に困り、スジョンはジェミンに3千万を借りる。それをしったジェミンの母はスジョンをクビにする。
 スジョンの失業を知ったヨンジュは母の経営するギャラリーで仕事を与える。それを知ったイヌクやジェミンは驚く。すぐやめるように言う。
 やがて、スジョンはヨンジュの母にも嫌われやめる。
 ふたたびバリに行ったスジョンは、追いかけるようにやってきたジェミンと会う。
 ジェミンは思い通りにならないスジョンを銃で撃ってしまう。そして自分も銃で・・・・

895 グッドラック
Date: 2005-10-8

おすすめ度 ★★★★★

 アレックス・ロビラ 著  ポプラ社  発行:2004年6月

 64歳になる初老の男は、セントラルパークにいた。マックスの隣に腰掛けた男はマックスと同年輩だった。どこかで見たことがあった。そして男は「もしかしてマックスかい?」と声をかけた。少年時代親友だったジムだった。
 ジムは莫大な遺産を祖父から受け継いだが、自分の代で破産してしまった。運がなかったという。
 マックスは「運」と「幸運」は別のものだという。幸運は自分の手で作り出すことができる。
 そしてある話をマックスは始めた。

 王は「この国を平和へと導いてくれ」とマーリン宮廷魔術師に言う。マーリンの号令で国じゅうの騎士達があつまった。「今日から7日の間に魔法のクローバが生えるという。それを取ってきてもらいたい。クローバは丘を12ほど越えた「魅惑の森」にはえている」
 そういうと広場に残ったのはたったふたりだった。黒いマントのノットと白いマントのシドだった。ふたりは別々に馬を走らせ魅惑の森へ向かった。
 シドは森に住む大地の王子ノームに出会う。ノームはこの森にはクローバなど生えないという。「なぜ生えないのか」ときくと「土を入れかえなければならない」という。
 「新しいものを手にするには新しいことを自ら行わなければ成らない」という。
 カウルズの森へ行けば牛の糞のいい肥やしになる土があるという。
 シドはその土を持って森へ戻る。開けた場所に草を抜き根を掻きだして持ってきた土を敷き詰めた。
 ノットは湖の女王に出会った。女王は「この森にはクローバは生えない」という。次の日、シドは植物が育つには水が必要だと湖に行く。女王から水が出る口がないという。シドは水流を彫ることを約束する。土を敷いた場所まで剣を逆さにつるし馬に土の場所まで走らせた。剣でえぐった溝ができた。
 木の女王にきいた。5千年も前から、クローバなど見たことがないという。しかし、木の女王はクローバを育てるのに日影と日向を半々にすることを教えてくれた。
 すべての石の母ストンにであう。ストンはクローバは石ころの転がっている場所には生えないという。さっそくシドは石ころを取り除いた。
 6日目、シドはノットに出会った。ノットは歩き回っているとクローバが見つかるかもしれないという。
 森の中で悪名高い魔女のモルガナに出会う。モルガナはノットに「クローバは城に生える。マリーンにだまされたのだ」という。
 ノットは怒り狂って城へ戻る。しかし、城の庭園は白いタイルで覆い隠されていた。ノットは自分が間違っていたと知る。
 シドは目の前に生えたクローバを摘んで城に戻る。マリーンは「そなたが幸運をつかむことができたのは、自ら幸運を招こうと下ごしらえの努力したからだ。」という。
 
 ジムはたったいまマックスが聞かせてくれた話を胸の中で思いなおしていた。54年ぶりに再会した友達。ふたりにはもう言葉はいらなかった。

894 保育所の民営化
Date: 2005-10-7

おすすめ度 ★★

 田村 和之 著  信山社  発行:2004年7月

 1963年、厚生省は私人による保育所の新設については、社会福祉法人に限定した。しかし、2000年3月、社会福祉法人以外でも設置できるようになった。
 保育所は公設民営化や民営化が進んでいる。公立保育所の廃止によりそれを受け継いだ民営化などである。
 1997年、保育所は措置から契約へと改革されたとはいえ、保育所入所決定は市町村で行われている。

893 虎を鎖でつなげ
Date: 2005-10-6

おすすめ度 ★★★

 落合 信彦 著  集英社  発行:2005年6月

 城島は織田から、勝利の率が百分の一しかない仕事を請け負ってくれないかと話す。
NSAが持ってきた仕事である。
仕事は中央アフリカ共和国サミュエル・ポータに雇われた。
 マニラをたって2日目、ヴェトナム領に入った。バクロンヴィ島に到着した。この周辺に油田がある。しかし中国船に襲撃される。
 

892 1303号室
Date: 2005-10-3

おすすめ度 ★★★★★

 大石 圭 著  河出書房新社  発行:2005年8月

 13階建てのマンションの最上階にユカは越してきた。挨拶に行った折に、隣のうちの女の子が「前に住んでいた人は、ベランダから飛び降りてグチャグチャになって死んだ」そして「その前にいた人も・・」という。
 ユカは気味が悪かった。でもこの部屋で死んだわけではないと割り切った。
 テーブルの下にイヤリングが落ちていた。そしてそのとき臭いにおいがした。肉が腐ってドロドロに崩れていくような臭い。
 誰かの視線を感じる。そして夜中にギシギシという音。冷蔵庫の中のペットボトルに口紅が付いていた。口紅をユカは持っていなかった。
 そして翌日、外から自分の部屋に明かりがついているのを見た。そして人が横切るのを見た。
 翌日、熱のために早引きして職場から帰ったユカは亮太が仕事の後すぐに来てくれるのを待ちながらねた。しかし、シャワーを使う音、シャワーの排水口に長い髪の毛が残っていること、ギシギシという人の歩く音を聞いた。振り返った。そこに「それ」がいた。
 亮太はマンションを見上げた。人が身を乗り出して落ちてくる。それは見覚えのあるユカのパジャマの柄だった。
 次に沙弥香が子犬を一緒に越してきた。やはり、臭い臭いがした。犬もおびえていた。引越しの翌日、犬はベランダから落ちて死んだ。
 健一郎はマンションから身を乗り出す沙弥香をみた。そのうしろにいる「それ」もみえた。沙弥香は落下して死んだ。
 妹の死後、姉の真利子はマンションにやってきて荷物を片付け始めた。しかし、その真利子もやがて落ちる。
 マンションに最初に入った母子が暮らしていた。しかし、母親が死んだ後、娘は死んだ母を寝かせたままで、死臭を消臭剤で消していた。
 臭いに気がついて管理人がやってきた。しかし、花瓶が後頭部にぶつかり死んでしまった。そしてベランダから管理人を突き落とした。
 警察が来る。あわてて母親の死体と布団を押入れに入れた。消臭剤をまき、窓を開け放して難を逃れた。その後も、人に見られたくなく、夜にコンビニに行った。部屋はゴミだらけになった。うじが這うようになり、幸世も飛び降りて死んだ。

891 八丁堀春秋 10/ 8(土)
Date: 2005-10-1

おすすめ度 ★★★★★

 花家 圭太郎 著 集英社 発行:2005年8月

 おふさが十両を越える金を盗んだと自ら名乗り出た。小山田は死罪にして欲しいというおふさの話をきく。おふさは亭主をなくした後は乳飲み子を抱えて針仕事などをして暮らしていた。近所でも評判のよい親子であった。
 おふさがいつも行く重兵衛の宅で、女房の留守に重兵衛に犯される。恩のある重兵衛夫婦に申し訳ない。おふさは身ごもってしまった。重兵衛にもいえず、死のうとするがなかなか死ねない。思い立ったのが十両以上を盗めば死罪ということだった。かって知ったる重兵衛の家で手文庫から金を盗んだ。
 それをきいた小山田は、子は知り合いの大名屋敷に奉公しながら産めと言う。そして子は小山田が引き取ると。子にも内緒で勤めに出ることにした。
 しかし、蜂の巣に槍を突っ込んだ悪童達の仕業で逃げ遅れた男の子に蜂が襲った。おふさはそれを見て男の子に覆いかぶさり自ら蜂に射され続けて死んだ。
 むすめのおしゅんは小山田が引き取り、手嶋屋に奉公に出ていた。おしゅんはときどき小山田がいうじゃれごと「一人前に成ったらいつでもお前を嫁に迎えてやる」という約束を待っていた。おしゅんにきた縁談にも先約があると断った。
 小山田は22歳のおしゅんと夫婦になった。親子ほど違う。おしゅんは小山田が母にしてやったことを知っていた。
 もうひとり、おふさという名の19歳の子がいた。父親が卒中で倒れお金もそこをつき、食べない日が続いた。長屋のものが何かと世話を焼く。ついに高利の金にも手を出し、金貸しが催促にやってきた。
 そして谷中へ引越し囲い主のいる生活が始まった。しかし、旦那は一人ではなく、3人で順に1週間おきにやってきた。おふさは驚くが父を抱え我慢するしかなかった。借金は30両にもなっていた。やがて父は死に、おふさはその家を逃げ出す。永代橋から身を投げようとした。「娘さん、水はまだ冷たいよ」と手嶋屋が声をかけた。
 そして、話を聞いた手嶋屋は、その3人の男を突き止めた。なんと一人は寺の住職だった。もう一人は旗本のせがれであった。住職と直次郎と丹三郎であった。
 采女善兵衛は住職に会い、おふさを自由にしたいと言う。貸した金が40両、それにあと40両出せばよいと言った。40両は5日後に持ってくることにした。
 そして再び40両をもって行くと、善兵衛は「おふさが36両の借金しかしていない。80両と聞いて逆上し、訴えるという。どうせ死のうとした子で何をするかわからない。おふさに百両を払ってほしいという。手前がお持ちした80両にたった20両足すだけではないかという。
 善兵衛は、立て替えた80両を引いた20両をおふさの嫁入りの時にでも使うことにした。
 他の直次郎も女房の頭のあがらない生活をしていた。丹三郎は病死した。
 
890 永遠の旅行者 上・下
Date: 2005-9-28

おすすめ度 ★★★★

 橘 玲 著 幻冬舎 発行:2005年7月

 恭一は、日本の大手の弁護士事務所に5年間勤めたがやめてハワイにいた。すでに3年になる。その恭一のところへカナイが「麻生という老人から20億の資産のすべてを孫娘に相続したい。ただし、相続税をまったく払わない方法で頼む」ということだった。報酬は一億円である。
 恭一は早速東京に行く。カナイによると麻生氏は病気で熱海の病院に入院しているという。屋敷には孫娘のまゆだけだと。病院に出向くが面会は叶わなかった。
 麻生には悠介という息子がいる。妻がなくなりそばでまゆが泣いていた。悠介は妻を殺したのはまゆではないかと二人でアメリカへ逃亡する。
 アメリカで悠介は何者かに脅迫されていた。まゆをホテルに残し行方不明になる。祖父の麻生がまゆを引き取り、その後の悠介は生死が不明であった。
 屋敷に出向いた恭一は、草が生え荒れ果てた様子をみる。中に入りまゆに会う。まゆはやせて汚れていた。部屋中にゴミが散らかっていた。
 部屋を片付け、食事を与え、入浴させてまゆを連れ出す。屋敷は親戚の権田が見張っていた。後見人と称してまゆの財産を自分の借金の返済に充てようとしていた。
 まゆは精神を病んでいた。恭一はかつての知人の智子に協力を頼み、まゆを病院に入院させる。
 まゆは回復に向かった。退院して祖父の麻生氏に会う。麻生氏はまゆをみてめきめきと回復していった。
 アメリカにいるという父親は死を間じかにしたホームレスとなっていた。まだ意識のある時にまゆに会うことができた。父親はまゆをかばっていた。しかし体力がなくやせ細って死んだ。日本に祖父とまゆとで弔った。
 まゆがいなくなる。廃墟になったホテルで見つける。まゆは父親を脅していた長井に連れ去られていた。昔、長井はまゆの母親を殺し、おびえるまゆに包丁を持たせ「君が殺したんだよ」といった。長井も精神を病んでいた。
 恭一はまゆを助ける。
父の負債は150億であった。まゆはアメリカに留学する。日本の非居住となったまゆには日本の税法が及ばない。父の負債を祖父が譲り受けた。

889 東京DOLL
Date: 2005-9-26

おすすめ度 ★★★★

 石田 衣良 著 講談社 発行:2005年7月
 
 深夜の二時、MGはコンビニに行った。レジを打つヨリに興味を持った。いま作っているコンピュタゲーム「女神都市パートⅣ」の精霊のモデルにしたいと思った。
 ヨリは美容師になるための資金集めにコンビニのバイトをしていた。1ヶ月50万円でモデルを頼む。
 MGは相楽一登という年収が5千万円から2億円を行ったりきたりするゲームの企画・原案・シナリオを作ったりする仕事をしていた。
 ヨリのしぐさやまなざしは女神そのものだった。早朝に深夜に湾岸地帯で写真を撮りまくる。
 次第にヨリとMGはお互いが引かれていく。MGには裕香がいた。ヨリにも暴走あがりのヨシトシがいた。
 ヨリには不思議な力があった。一瞬にいろんな幻視ができた。それは予言にもにて当たっていた。
 MGの開発している「女神都市パートⅣ」が大手ゲーム会社エッジが買いたいという。ヨリはそれを阻止する。エッジが必要なのはこのソフトとMGだけだと。エッジの経営が落ち込んでいることも暴露する。
 ヨリは「私は人形だったけど、見る人の心に何かを残すことができるとわかった。もう少し完璧な人形になりたい」という。


888  お神酒徳利 深川駕籠
Date: 2005-9-24

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著 祥伝社 発行:2005年7月

 新太郎と尚平は深川黒江町で駕篭かきをしていた。
 尚平にはおゆきという結婚してもいいような仲の女がいた。しかし、尚平は新太郎に遠慮してなかなか二人の仲は縮まらなかった。そのことを新太郎は気をもんでいた。二人には早く一緒になってもらいたいと思っていた。
 女を浜町河岸へ送った後、新太郎と尚平は蕎麦屋に入った。そばは待たせた挙句、ぬるくてまずいものだった。小銭がなく小粒の一匁銭をだす。その帰り土手の下にうずくまる女を見つけた。産まれそうだと言う。人家もなくやむなく、先の蕎麦屋に連れて行く。親爺は布団を敷いて家に上げてくれた。新太郎は蕎麦屋に教えてもらった産婆を呼びに行った。そして産婆をおんぶしてもどってくる。
 そこへ半鐘がなる。どこか火事だ。見るが煙も炎もみえない。篠田屋の油が燃えている。火事を広げないために新太郎と尚平は家を叩き壊す。そこへ火消しがやっと到着した。
 新太郎たちが駕籠で運んでいる時、女が倒れ掛かった。客の木兵衛がその女を助ける。女には連れの坊やがいた。
 木兵衛はもとはみなしごであった。困った人を見ると必ず助けた。女と子はもとは油樽を運んでいた車力の夫がいたという。一月まえから行方知れずになった。
 木場の材木商の丸木屋を襲う話を偶然きいた新太郎たちは、丸木屋に教える。
 金を強請りとろうというのか、丸太を燃やしたいのか。見張りの者たちはいつもどおりだった。
 そこへおゆきが捕まったという。尚平は穏やかではない。新太郎とおゆきの行方を捜す。
 おゆきは・・・・
887  埋み火
Date: 2005-9-21

おすすめ度 ★★★★

 日明 恩 著  講談社 発行:2005年8月

 消防士の雄大は武本公務店の裕二と夜中にパトロールしていた。
 武本公務店に頼まないピザが50枚届けられたり、注文のキャンセルが入ったりしている。それもキャンセルした覚えのないものだった。新築現場が放火されては困る。
 一方、雄大は相次ぐ不審火で疑問を抱いていた。
 篠原すづ宅が火災になり、本人が死んだ。水槽にニホンイシカメをかっていた。火災は午前3時ごろだった。ミニヒーターとコードの接続部分が空中に露出していた。ショートして出火したとされた。パンジーを持ってすづ宅へ向かう老人がいた。
 北区西ヶ原で民家出火、寺本誠司78歳と妻77歳が死んだ。テレビのコンセントから出火した。たまった埃が湿気が加わりスパークして出火したとされた。寺本はあのパンジーの老人だった。
 そして、五十嵐宅が燃えた。てんぷらの揚げ油を吸わせた新聞紙から出火したとされた。
 しかし、五十嵐さんとすづさんは仲良しだったという。
 雄大は、赤羽会館のちかくでチビを見つけた。寺本氏の孫かと思ったが違った。
 雄大はチビが老人達の出火にかかわっていると見抜く。チビを捕まえて問いただす。「要らないのだ、僕もあの人たちも」という。チビは老人達の悩みを聞いていた。寺本氏は金持ちだった。しかし、両親と兄がやっていた酒屋がつぶれた。兄は当然のように金の無心に来た。本当は貸すつもりだった。しかし兄の「今まで親の面倒を見てきたのだから俺に借りがある。正当な請求だ」と。それを聞いて貸す気がなくなった。おまけに兄に残した両親からの財産の分配訴訟を起こした。半分は寺本氏のものになった。しかし、事業を起こして失敗した。自分の凋落を兄に知られたくはない。そしてプライドのために失火を装った自殺だった。
 「親族の言うとおりにしないといらないといわれた老人たちと、自分は同じなんだ。同情して手を貸した」 たった13歳のチビが世をはかなんでいる。
 もうひとり失火のヒントを与えたという高橋老人のところへ行く。雄大とチビで火を消す。
 高橋老人は「親の言うとおりにしたくないとかえらそうなことを言うな。何一つ世話にならないで稼いで暮らしてからそういえ!」と怒鳴られる。そして納屋に立てこもる。雄大は「生きていて欲しいと願う人がいる。その人のために助けた。」と怒鳴る。
 チビをつれて辛い中華屋に行く。チビはこれからも雄大に会いたいという。
 夜中に火をつけようとした男を捕まえた。それは元武本公務店に働いていた男だった。
 これで火事の出動は減るだろう。
注意)公務店は文中のままです。工務店ではない。
 
886  後ろ向きで歩こう
Date: 2005-9-19

おすすめ度 ★★

 大道 珠貴 著  文芸春秋 発行:2005年7月

 NPOの活動のセミナーになんとなく参加した小鳩は、そこで元夫の山伏と出会う。山伏は小鳩の暮らしぶりをそれとなく人から聞いていた。
 山伏とは高校時代からの付き合いですぐ結婚した。そして山伏がそろそろ別れましょうと6年後に離婚した。小鳩は再婚し、子どもにも恵まれた。今は46歳。山伏はその後は結婚していないという。
 主人も子どももいないときに山伏はやってきた。小鳩は六義園にいく。誰もいなくて、木に囲まれて「なにかむずむずしてきた」という。松ノ木の後ろのほうで二人は抱擁する。
 三ヶ月がたった。もう山伏は豊島区にもいないだろう。
 夫と娘はモデルルームでこんな家がいいとはしゃいでいた。

885 千日紅の恋人
Date: 2005-9-17

おすすめ度 ★★★★

 帚木 蓬生 著  新潮社 発行:2005年8月

 時子は父が残してくれたアパートを管理していた。扇荘は2階建て2棟で、6畳と4畳半と風呂付の部屋であった。
 アパートの住人はさまざまで、張ったロープに洗濯物を二重に三重に干すもの、足の踏み場もないほど散らかっているところ、姪御がきちんと住人に代わって家賃を払ってくれるところ、夫婦者や独身者であった。
 時子はホームヘルパーの資格を取り、近くの特養のサンライズにパートで働いていた。
 有馬が201号に越してきた。スーパーで働く男性だった。越してまもなく有馬の領収書が入っていたゴミを戸口に置かれた。アルコールを飲まないが、缶が一緒に入っていた。時子は分別して新しい組長のところへゴミが本人のではないと説明に行った。
 時子たちのカラオケ発表会があった。有馬が来てくれた。時子が歌っている時、バラの花束をくれた。
 時子は有馬に誘われて、母を連れて鵜飼を見に行った。母も喜んだ。
 有馬が腹痛で苦しんでいた。時子は医者に聞いた方法で介抱する。有馬はすぐに回復した。
 写真機をもって棚田に行くという有馬に時子は着いていく。田んぼの中で海苔巻きを食べる。
 ある日、有馬が時子に結婚して欲しいという。時子は2度の×がある。おまけに有馬よりも年上である。うれしい反面、広島へ行くという有馬についていけないと断る。
 有馬は転勤を断って、再び時子にプロポーズする。扇荘や母親から引き離さないで一緒になろうという。時子はうなづく。
 扇荘の空き地に花壇を作った有馬は千日紅を植えていた。長持ちのする花だという。
884 でいごの花の下に
Date: 2005-9-15

おすすめ度 ★★★★

 池永 陽 著  集英社 発行:2005年8月

 燿子は沖縄に来た。嘉手川を探しにきた。嘉手川は「楽になりたい。御獄に戻って眠りたい」とかいた置手紙と使い捨てのカメラを置いていなくなった。
 燿子は妊娠していた。嘉手川の子である。
沖縄では圭という混血の中学二年生と友達になる。圭には同級生の彼女がいた。
  燿子はいったん東京に戻ったが、再び沖縄に行く。
 沖縄では骨を洗う風習があるという。長男の嫁の役目だが、燿子は自分が嘉手川の骨をあらうつもりだ。
 
 嘉手川の残した手紙にあった御獄を探した。洞窟の中に干からびた右手があった。嘉手川の手だった。これを土に埋め3年たったら骨洗いをするつもりだ。
 数日後、崩れた崖から、人の骨がみつかる。それは60年前の骨だった。
 嘉手川が使い捨てカメラに残していた写真は、砂場で遊ぶ小さい子の写真だった。「あの人は、子どもを欲しがっていた」燿子は声を上げて泣いた。
883  さよならバースディ
Date: 2005-9-14

おすすめ度 ★★★★★

 荻原 浩 著  集英社 発行:2005年7月

 バースディはピグミーチンバンジーである。東京霊長類研究センターで3歳のバースディの知能を証明するために7人の見学者がやってきた。
 最初は落ち着かなかったバースディもキーボードを指で押し、94の語彙がわかる。
 怖いのはどれ?「わに」 どこが怖い?「は」
そして「わに かむ ゆび」とバースディが打った。見学者からもどよめきが起こった。
 バースディはここに来て6年たった。
真は由紀にプロポーズする。由紀は「少しだけ待って欲しい」という。その由紀が4階の研究室から落ちて死んだ。バースディはその部屋にいた。
 真はバースディから、その日の様子を聞きだす。電話を見せるとバースディは「ひと いう はこ」とキーを押した。そして「ゆき め みず」「ゆき き みる」そして誰と話をしていたかと聞くと「ぶた」「はな」と帰ってきた。大友教授だ。
 この研究センターに研究中止の命令が来た。真はSES会長に会いに行き、バースディ・プロジェクトの存続を訴える。
 研究センターに下りていた多額の研究費が流用されている。
 真は由紀が書いた告発文を見つける。死んだ安達を陥れたものを許せないとかかれていた。
 バースディは「 ゆき めがね すき まこ すき ゆき だめ」という。由紀は安達教授が好きだったのか。由紀が悩んでいたことを知る。
 真はバースディをアフリカのジャングルに連れて行こうと思う。


882 スバイラル・エイジ
Date: 2005-9-13

おすすめ度 ★★★★

 新津 きよみ 著  講談社 発行:2005年5月

 いきなり高校時代の雪乃が訪ねてきた。美樹は3年前に20年ローンでこのマンションを買った。失恋したばかりの時、雪乃に偶然会い「近くまで来たら寄ってね」といった。
 雪乃は来るなり「私、人を殺してきた」という。下北沢の彼の家で彼を殺した。
 雪乃は妊娠していた。自首するよう進めるが、何かを考えているようだった。
 美樹のマンションに最近別れた彼の妻暁子がやってきた。暁子は雪乃を美樹と間違えていたようだ。夫が持っていた合鍵を返しにきた。
 しばらくして、雪乃は雑誌を見て、美樹が別人であることを知る。美樹に直接会う。美樹は同居の女性はルームメイトだという。そして殺人を犯したものであることも告げる。
 美樹は雪乃に陣痛が起こったら救急車を呼ぶことにしていると告げるが雪乃は断る。
 そこへ暁子が知り合いのマンションが空いていると連れて行く。マンションは暁子の義理の妹みどりの持ち物だった。今は海外にいる。
 雪乃の出産は、暁子と暁子の義母とでマンションで出産した。生まれた子はなぜか、みどりに似ていた。そして、生まれた子はみどりの子として届けることに。雪乃から暁子宛に手紙が届く。それにはこれから警察に出頭する。私が殺人犯だと知らずに関わった人に迷惑をかけたくないからと。
あれから2ヶ月がたっていた。

881  査察機長
Date: 2005-9-12

おすすめ度 ★★★

 内田 幹樹 著  新潮社 発行:2005年7月

 明日はニューヨーク路線の定期審査がある。同期の宮田から電話があり、ビュッフェで会う。すると査察機長が氏原だと聞くとすごいらしい。思ったより厳しいらしい。
 査察官の氏原は26歳で機長、28歳でジェットの機長になった伝説の人である。
 事前に出された答案は93点で平均97点であった。少し下である。
 成田からニューヨークの査察飛行が始まった。そばに誰かが監視しているというのは非常にやりにくい。5分遅れて離陸した。
 飛行中の対応、操縦のテクニック、行き先の天気などの情報を得ながら飛んでいく。
 無事にニューヨークに着いた。12時間以上の飛行だった。氏原が「合格です。お疲れ様」といった。
 クルールームで氏原と村井はビールを飲む。氏原は「どうも私は人当たりが悪いらしい。受審者が堅くなる。チェッカー失格だね」と笑った。
 うまい人ほど事故の近くにいると昔から言われている。「自分の家族を乗せられるかどうかが安全基準である」と氏原は言った。
 村井の着陸に家族を乗せてもいいと判断してくださった。機長は乗客の命を肌で感じているべきなのだ。
 
880 孤宿の人 上・下
Date: 2005-9-11

おすすめ度 ★★★★★

 宮部 みゆき 著  新人物往来社 発行:2005年6月

 ほうは十年前に江戸で生まれた。萬屋の若旦那との間にできた子である。しかし、母はほうを産んだ後、亡くなった。萬屋に引き取られたが望まれた子ではなく、若旦那が「この阿呆めが」と口癖に言う阿呆の「ほう」という名前がつけられた。そして金貸しの老夫婦に引き取られ、次に讃岐の丸海の藩医である井上家に引き取られた。ほうを琴江お嬢様はかわいがってくれた。この家で文字や礼儀を教えてもらった。
 雨が降っている時、畑にいたほうと盛助は、美弥さまがお屋敷の方へ行くのが見えた。
 美弥と一緒に部屋にいるはずが琴江は死んでいた。美弥はいなかった。毒を盛られたようであった。
 しかし、井上家は病死とした。ほうは美弥が毒を盛ったと使いに出された家で、美弥をみつけ思わず口にしてしまう。ほうは井上家から出され、一時宇佐という娘のところで暮らす。やがて涸滝の屋敷に奉公に出される。その屋敷は丸海では鬼だ、悪霊だと言われている加賀さまが幽閉されている屋敷だった。
 ほうは加賀さまの屋敷で加賀さまから字や言葉を直接教えてもらうようになった。阿呆のほうと言っていたが、加賀さまは「方」と書いてこれからはこれが名前だと言って下さった。
 宇佐は方から聞いた話から、琴江は美弥に殺されたと知る。美弥は琴江の許婚新之介を我が物にするために琴江を毒殺したのだった。
 そのことを渡部も知っていた。琴江の敵を討つべく日高山神社に詣でる美弥を切り殺した。そして渡部も美弥の身内によって殺された。
 落雷によって日高山神社も消失した。日高山神社には雷獣がいるという。雷獣は加賀さまでもあると人々はうわさした。
 丸海は相次ぐ落雷、流行病や喧嘩や物盗りが増えていった。火事が発生した。加賀さまはほうにここから逃げるように命令する。
 加賀さまの屋敷は焼けた。ほうは井上家に戻る。そこには宇佐が瀕死の状態で寝かされていた。ほうの声を聞きながら宇佐は息を引き取った。加賀さまのそばにいた砥部先生が訪ねてきた。加賀さまがつけた名前、宝と書いてあった。
宝はすなわち「ほう」ともいう。ほうの命は宝だと命名してくれたのだった。
 加賀さまの屋敷のあったところにお社が建つという。丸海を守る加賀殿としてまつられることになった。
 ほうは知っていた。加賀さまは鬼ではないと。

879 天使がいた三十日
Date: 2005-9-10

おすすめ度 ★★★★★

 新堂 冬樹 著  講談社 発行:2005年6月

 30歳の日吉は、1年前のクリスマスイヴに妻を交通事故で亡くした。同じ年の妻だった。
以来、何もする気力もなく家も手放し、風呂のない安アパートに暮らしていた。
 同じクリスマスの日、もうこの苦しみも終わりにしたいと公園のベンチで死を待った。
 そこへ犬が飛んできた。その犬はかって配達先で虐待されて人間を恐れるような犬だった。配達のたびに日吉はクッキーを与えた。徐々に慣れてきた。お手伝いさんから、「この犬は奥様から虐待されている。前の奥様の犬だったから」という。
 マリーという犬が来てから、日吉の生活は変わった。マリーは部屋中に散らかった衣類やゴミを部屋の隅に運んだ。目を覚ますと片付いていた。
流し台も洗うことを見張るように見つめていた。
 犬を飼ってはいけないアパートだった。静かにみつからないように気をつけた。
 日吉は、ラーメン店の皿洗いの仕事を見つけた。履歴書を見て女将さんは自分の曲を覚えていてくれた。日吉は音大を出てクラシックの勉強をしてかつては曲作りをしていた。
 お手伝いさんが訪ねてくる。マリーがここにいることを目をつぶってくれた。
 しかし、1週間後奥様がマリーを返すようにやってきた。マリーを連れて逃げようとラーメン屋の女将さんに相談する。逃げては同じだと諭される。
 翌日、ご主人が犬を取りにきた。マリーは病気を抱えていた。もう余命は短いという。虐待させないと引き取っていった。が、マリーは夜アパートの前に来ていた。
 日吉はもうマリーは返さないと決めた。ご主人がやってきてマリーのすきなようにしてやりたいと許してくれた。
 マリーが行った事もない方へ日吉を連れて行く。そこは恩師の家であった。恩師は快く迎えてくれた。もう一度鍵盤を障る気がないかと言ってくれた。1週間考える時間が欲しいといった。恩師はいつまでも待つといってくれた。帰ろうとするとマリーの姿がなかった。
 マリーは公園のベンチの下で冷たくなっていた。
 11ヵ月後、日吉は音楽大学で教鞭をとっていた。
 マリーと妻の夏乃とを思いながらクリスマスに降る雪を見つめていた。

878 不思議の国のトットちゃん
Date: 2005-9-9

おすすめ度 ★★★

 黒柳 徹子 著  新潮社 発行:2005年5月

 お兄ちゃんと呼んでいた渥美清さんに黒のスエードの洒落た靴を買ってもらった。「買ってやるよ」と言ってくれる人がいなくなった。
 アフガンの子どもたちはタリバンの時代には女性は教育を受けられなかった。先生が自宅に行ってそっと教えていた。大きくなったら女の子は「お嫁さんになりたい」という子もいるかと思ったが、絶対に主婦はいやだ、職業婦人になるという。
 黒柳さんは自分のヤナギという字を木へんにカタカナのタを書いて卩を書いていた。
不思議発見のドラマで草野さんからなんと読む字ですかと聞かれて、それが間違いであることを知った。サインもずっとその間違い字で書いてきたという。
 スマトラ沖地震で800人いた小学校の生徒は地震後180人になってしまった。

877 天使のナイフ
Date: 2005-9-7

おすすめ度 ★★★★★

 薬丸 岳 著  幻冬舎 発行:2005年8月

 桧山は、大宮の氷川神社参道そばで「ブロードカフェ」を経営していた。
 4年前妻の祥子は当時中学生だった少年A、B、Cの三人によって自宅マンション1階で殺された。まだ娘の愛美はまだ乳飲み子だった。
 毎朝、駅前のビルの中にある認可保育所に愛美を預け店に向かう。保育士のみゆき先生に愛美はなついていた。
 店ではアルバイトの仁科歩美も慣れてきた。
刑事がやってきた。近くの公園で昨夜少年が死んだという。沢村和也、少年Bである。妻を殺された時、桧山は「国家が罰を与えないなら、自分で犯人を殺してやりたい」といった。テレビでそれは報道された。
 その少年Bが死んだ。警察は桧山を疑った。桧山はすでに社会復帰している少年Aや少年Cにあって、本当に更正したのか知りたかった。
 桧山は沢村の入っていた施設に行く。案の定プライバシーを盾に教えてもらえなかった。
 少年Aの八木が住んでいた所沢の航空公園の近くに行ってみた。すでに引っ越していた。少年Cの丸山は、病院の見舞いにも頻繁に行く優しいこだったという。「家も被害者だ」と母親は人にもらしていた。
 マスコミは沢村を殺した犯人と桧山を結び付け始めていた。そこへ少年たちに囲まれた桧山は暴行を受ける。その中にいた少女ユリが逃げた後戻ってきた。沢村を殺したのが自分でないことをいう。ユリは沢村が殺される前に桧山に贖罪しなければならないと言っていたと言う。
 丸山が線路に落ちた。突き飛ばされたという。傍にいた桧山がまたしても疑われる。
 妻の遺品の中から群馬県吾妻郡の小柴という人の手紙があった。檜山はそのうちを訪ねる。妻の実家も近くにあったが今はない。妻が小さい頃小柴の悦子という子がいた。悦子は少年に乱暴され殺された。その時妻の祥子は犯人の首のところにあるあざを忘れなかった。
 祥子は中学3年の時、愛美の保育士みゆき先生と知り合いだったという。みゆきに問い詰めると夜池袋で中年の男に絡まれ、祥子は持っていたナイフで刺した。男は死んだ。祥子は少年院に行っていた。刺した男は高校教諭の滝沢だった。
 桧山のところに八木から電話があった。さいたまスーパーアリナで会う約束をした。しかし、愛美の様態が急に悪くなり、病院に駆けつけた。
 八木は殺された。病院にいたアリバイがあり、警察は引き上げた。
 八木は面白いものを見せてやるといったはずだった。そこへビデオが送られてくる。少年3人が幼児の下半身を裸にしていたずらをしているところが写っていた。局部に刃を突き立てていた。幼児は絶叫した。ともて見ていられなかった。
 桧山はこれを写したものが少年たちを牛耳っていたのではと疑う。
 少年Cの丸山にあった。ビデオの事を聞く。
 祥子は生前500万円ものお金を引き出していた。祥子が刺した滝沢の家を訪ねる。滝沢の妻は再婚していた。滝沢の娘は重い病気になり、家を抵当に入れたが足りず、ボランテアやコシバエツコ名で1千万の寄付があった。渡米し手術は成功した。娘は健康になったという。
 桧山の留守に愛美を人質にして丸山がビデオを返せと立てこもった。加担していたのはアルバイトの歩美だった。二人は同級生だった。ビデオを撮ったのは歩美だった。歩美は父を殺されたはらいせいに祥子を殺すことを三人に話した。ビデオを脅迫のネタにして。その歩美は祥子の寄付を受けて健康を取り戻したというのに。
 少年たちの弁護士の相沢に会った。更正を力説する相沢だが、祥子は幼い悦子を殺した少年だと知った。そして相沢に500万円を出すよう脅迫したという。相沢は仁科歩美に手紙を出した。父を殺した人間が幸せに暮らしていると住所や写真を添えて。相沢は蒼白になる。

876 ポセイドンの涙
Date: 2005-9-5

おすすめ度 ★★★★

 安東 能明 著  幻冬舎 発行:2005年7月

 青函トンネルの作業抗のなかで、政人と三上は現れた内田をショベルカーで跳ね飛ばし、さらに死んだ内田をトンネルの支保工と支保工の溝に立たせコンクリートを吹きかけた。誰にも気づかれないで外に出た。中学生の時である。
 三上はデザイナーとしてパリコレクションで成功し5年ぶりに函館に帰ってきた。この地に店を出そうとしていた。
 そこへ25年前の内田の死体が発見された。ポケットの乗車券から内田と判断された。
 政人は第二宝水丸を昭和51年に沈没させ、保険金700万円を受け取っていた。それを調べていた刑事の菅沼が刺される。
 三上は内田の娘由貴に手紙を書く。25年前に殺したのは自分だと。由貴は政人を訪ねる。
 政人と三上と早川はトンネルの中で湧き水でトンネルが水没しかねない状態の中にあった。
 三上は逃げろと政人に呼びかけるが、何かを決心したように聞く耳を持たなかった。
 三上は由貴とパリに行く。政人と早川は見つからなかった。
 25年前、政人の船が燃えるのを内田は見ていた。それで政人によって殺された。
 

875 永遠の誓い
Date: 2005-9-2

おすすめ度 ★★★★

 佐川 光晴 著  講談社 発行:2005年6月

公彦は埼玉県庁の職員で、美雪は志木市の保育士だった。今日、二人は父と姉に結婚の承諾を得たばかりだった。
 美雪の家は代々代用教員の家であった。父は現在も志木市の中学校の校長でったし、4つ上の姉も志木市のとなりで中学校の教師であった。母も学校の図書館の司書だった。美雪は教師になるより姉の勧めで保育士になった。
 美雪は父に合わせるために、公彦の洋服を選んでやった。
 公彦は県庁の仕事より、中学校の数学の先生になりたいと転職する。うまく志木市の中学校の教師になれた。
 教師になって2年目事件は起こった。トイレで女生徒は全裸に近く、男子生徒3人が下半身を露出していた。コンドームが2個落ちていた。この事件は女生徒が別の男友達から言われて性の修行をしていたようだ。
 忘れかけていた頃、この事件に不満を抱いたものから公彦の家に嫌がらせのファックスが届くようになった。
 そんな折、美雪は公彦の公立中学への転職に父の存在が大きかった。自分ひとりの力ではないと食って掛かった。そのことが二人の仲を険悪にした。
 数日後、公彦は美雪の保育園に訪ねていき、子どもたちの前で二人が仲直りするにはどうしたらいいかなと語りながら、子どもたちに言われるままジャンケンをしてすごす。
 なんとなく距離が縮まったようであった。美雪は口に出したことを後悔していた。
 
874 今ここにいるぼくら
Date: 2005-9-1

おすすめ度 ★★★★

 川端 裕人 著  集英社 発行:2005年7月

 小学校一年生の博士は、家の周りの小川で遊んでいた。そこへ6年生の男の子たちが通りかかる。川の始まりを見つけに行くという。博士もついていく。母は家の前200メートルの間でしか遊ばない博士の姿が見えないので心配する。
 やがて、そろそろ帰らないと暗くなる。ムルチが「博士は帰れや」という。博士はひとりで帰る。家では母や近所の人が心配してくれていた。
 ムルチはひとり川の始まりを見つけに行ったまま帰らなかった。消防の人も探した。
 5年生になってサンペイ君となかよしになる。サンペイはほら吹きとクラスのみんなに言われていた。しかし、サンペイの言っていたようにでかい魚が釣れた。ヌシだ。博士はその魚をクラスのみんなに見せる。「サンペイ君はほら吹きとちがうで!」と博士は言った。
 博士が小学校4年の時、朝早く里山に行った。妹が付いてきた。体長10センチのオオクワガタや虹色のカブトムシが取れた。オニバが盗ったもん置いていけ!と怒る。
 急いで家に帰ったが、母が「大きすぎて気味が悪い。返してきなさい!」と怒られる。
 博士は妹とまた返しにいく。オニバは犬にもほえないように命令し、別のクワ方をくれる。そして毎日様子を見に来るように言う。
 犬のルークが死ぬ。オニバはこれで一人ぼっちだった。
 博士は田舎へ家族と行くことになった。オニバが気になった。かえってすぐに妹とオニバのところへ行く。オニバは死んでいた。クワガタがオニバの肉を引きちぎっていた。

873 座礁 巨大銀行が震えた日
Date: 2005-8-31

おすすめ度 ★★★★

 江上 剛 著  朝日新聞社 発行:2005年6月

 1996年、渡瀬は大洋産業銀行の広報次長だった。赴任して3年、最近になって当行が総会屋富士倉に46億円と富士倉ビルに29億円の融資があった。総務部長の川田は「関心を持たない方がいい」という。
 渡瀬は真相を究明しようと奔走する。融資は総務部が関与していた。
 国税、SESC(証券取引等監視委員会)が東西証券を取り調べているという。富士倉との関係もやがてこちらに飛び火してくるだろう。
東京経済情報という情報誌の川室も渡瀬に、情報を提供してきた。
 5200万円の手形貸し付けに総会屋が絡んでいるとケイサン新聞に載った。渡瀬は、押しかけた記者たちを前に、たかが5200万円でこの騒ぎ、富士倉のあわせて75億円の事実を知ったらこうはいかないと感じる。
 1997年5月、とうとう東京地検の捜査の手が入った。東西証券の総会屋利益供与の関連の捜査だという。パソコンの中、女性のロッカーの中まで調べた。会長、頭取など首脳陣は一掃された。そして大洋産業銀行と扶桑銀行、日本興産銀行と合併しミズナファイナンシャルグループが結成された。
 渡瀬はその1年後銀行を辞めた。そして、コンサルタント会社が主催する勉強会にて講師を努めた。
 会社は株主のものだというインターネット企業がテレビ局買収の際に発した言葉だが、会社は社会のものですと渡瀬は主張する。
872 ダウン・ツ・ヘヴン
Date: 2005-8-29

おすすめ度 ★★

 森 博嗣 著  中央公論新社 発行:2005年6月

 空の上で相手の動きがおかしい。クサナギは相手の顔がみたいと思った。飛行機に乗っている奴は灰色のひげを生やした年配の男だった。
 その男がジョーカと呼ばれていた。トップエースと呼ばれていた男をクサナギは墜としたのだった。
 飛行機を降りて首の当たりが痛かった。入院する羽目になった。夢の中でも空を飛びたいと思った。
 退院後、国家プロジェクトだという飛行機に乗る。しかし、その飛行はクサナギの心を乱した。

871  エデンの東 上・下
Date: 2005-8-28

おすすめ度 ★★★★★

 ジョン・スタインベック 著  早川書房 発行:2005年5月

 アダムはコネチカット州の農家に生まれた。父は厳格な人だった。母が亡くなり、父は再婚した。1歳年下の弟チャールズは生まれつき運動神経がよく本能的な鋭さを持っていた。小さい頃はアダムはチャールズにボコボコニされた。
 チャールズは父が兄のアダムを自分よりかわいがることに嫉妬していた。自分もかわいがられたかった。アダムは父の希望で軍隊に入る。チャールズは農場を受け継いだ。
 アダムは二度目の軍隊も5年後には除隊した。しかし家に帰らず浮浪者になり投獄された。アダムは二度目の釈放を3日に控えた日に逃亡する。弟チャールズに送金してもらい故郷に帰る。
 そこへ娼婦のキャサリンが雇い主のエドワードから逃れアダムたちの家に助けを求める。
 キャサリンに恋をしたアダムはすぐさま結婚をしカルフォルニアに行く。サリーナスに開拓の夢を馳せる。
 キャサリンは妊娠していた。子どもを出産した後、止めるアダムを銃で撃ち肩に怪我をさせながらも出て行く。
 父が死に莫大な財産が二人に入った。しかし、アダムはキャサリンが去ってから生きる目的をなくしていた。
 見かねた村の長老のサミュエル・ハミルトンは、アダムに子どもの名前をつけるように言う。子どもは双子だった。アロンとケイレブ(キャル)と名づけた。
 子どもが11歳になったとき、アダムはこのままでは自分の父親と同じことを子どもたちにしていると気がつく。子どもたちに接し始める。そして思い立って弟のチャールズを招こうと手紙を出す。しかし、弁護士からチャールズの死を知らせる手紙が来た。
チャールズの遺産の一部はキャサリンに贈られる。アダムはサミュエルから聞いていた店にキャサリンを訪ねる。会ってアダムはキャサリンを忘れられると思った。
 アロンは大学に行き、キャルは農場を継ごうと考える。
 大学でのアロンはアブラと仲良しになる。
 そのころ、父アダムは冷凍品に目を向ける。キャベツをニューヨークまで運ぶが、途中の思わぬアクシデントに街に着いたときにはキャベツは悪臭を放っていた。以来アダムは笑いものになる。
 キャルは父のその失敗を挽回しようと先物取引で大金を設ける。父に贈るが喜んでもらえなかった。キャルはお札をもやす。
 キャルは母親のことを耳にし、会いに行く。キャシーはケイトと名を変えて娼婦宿のマダムをしていた。キャルはこのことをアロンには教えなかった。
 ふたたびアロンは家を出る。母のケイトは死んだ。そしてアロンは戦死する。父のアダムも倒れる。

870  ロズウェルなんか知らない
Date: 2005-8-25

おすすめ度 ★★★★

 篠田 節子 著  講談社 発行:2005年7月

 駒木野町大カラオケ大会で鏑木啓吾が優勝した。一位の商品は土地付き一戸建て住宅だった。
しかし、その住宅は元はスキー民宿として使われていた古い家だった。鏑木は行くところもないので住むことになった。
 靖夫は実家がきぬたや旅館を経営していた。スキー場がなくなってからは宿泊客もない。
 村があげて呼んだ観光客からは不満の声が上がる。町長の長い挨拶、昼食がないものが出たり、酒をかけられたりで旅行業者から次は扱えないといってきた。
 靖夫は町の活性化のために、ストーンサークルでもつくるかと土を掘り起こしていたところ、巨石が出てきた。ユンボをつかってほってみると7メートル×3メートルの船の形をした石であった。そして石の割れ目に神社のご神体を埋めようと計画した。
 四次元体験ツアーで参加者を募った。受け入れ枠の50人を超えた。80人を超える予約が集まった。これは役場の力も借りないとと思いながら自分たちだけでやろうとした。
 「駒木野町UFOフェテバル」と名づけた。テレビ局もきた。そこへタレントのさゆりが行方不明になった。それが失踪事件として取り上げられ、おまけに靖夫たちのやらせ報道とされた。
 靖夫は取り調べのために2日留置される。村人の自分を見る目も厳しかった。
 そんな折、全国的に駒木野町は有名になり、ツアー客の申し込みが増えた。200人を超す人が集まりUFOフェステバルは賑わった。中国からもツアーの申し込みが来た。

869 震度0
Date: 2005-8-24

おすすめ度 ★★★★

 横山 秀夫 著  朝日新聞社 発行:2005年7月

 阪神大震災があった日、東京は震度1であった。N県警の警務課長の不破から連絡が取れない。次の昇進に名前が挙がるほど信頼がある。
 東山市の路上に不破のマイカーが乗り捨てられていた。捜査の際、不破はソバージュの女性を乗せていた。さらに、不破は昔、妻とは別の女性との間に子どもができていると。
 そして4年前の県議戦のおり、建設会社の息子の当選にからみ不破が相手陣営を叩かせた疑惑がある。
 不破の自宅も調べられる。不破の持っていた手帳に何か書かれていないか。しかし、引き出しはからっぽであった。
 マスコミに不破の疾走がわかると騒ぎを大きくする。
 そこへ妻がやってくる。妻はとんでもないことを口にする。それを公開すると警察はひっくり返る。本部長や警務部長は自分たちの保身に躍起になっている。準キャリアの堀川警備部長は不破の妻に会い、事実を話すように促す。

868 黒笑小説
Date: 2005-8-22

おすすめ度 ★★★

 東野 圭吾 著  集英社 発行:2005年4月

 「もうひとつの助走」では、新日本小説家協会から賞の選考で「小説灸英」編集部の神田はレストランにいた。寒川はいつも着慣れない背広を着てやってきた。選考の結果がなかなかこない。そこへ電話があった。神田は電話口でガッツポーズをしていた。それを見た駒井は寒川に「先生、おめでとうございます」といってしまう。寒川は倒れこむ。
 「過去の人」では灸英社文学賞の授賞式に前年の受賞者の熱海が出席したが、向こうが自分のことを知っている可能性があると感じていたが、担当の神田に1年間に受賞する文学賞は400ぐらいあると聞いて驚く。そして寒川も来ていた。神田らは寒川をまこうと考える。そして、今日の受賞者は、授賞式が終われば過去の人なのである。
「選考会」では、寒川が灸英社推理小説新人賞の選考委員にしてあった。他の者が推す作品を寒川は文章がまずい、尻切れトンボといった。最後の1行でこれまでの世界が逆転してしまうのに気づいていない。寒川は感覚が鈍って将来性のない作家のグランプリになった。選考会はだめな作家をえらぶ出版社の選考でもあった。

867  夜夢
Date: 2005-8-20

おすすめ度 ★★★

 柴田 よしき 著  祥伝社 発行:2005年3月

 「月夜」では、山道を運転中に女性に会う。足を怪我しているようで血が出ている。ともかく警察へと助手席に乗せて走る。
 しかし、女性は方向を指示し、自分は女優だ、せりふをしゃべらなければ、と巨大な黒い舞台で演じ始めた。そしてこちらにも俳優というのならせりふを言いなさいという。わたしは「わたしは高村一太郎だ。完璧に演じられる。高村は今人を殺している。アリバイを作ろうとしている。」と訴える。拍手が沸いた。
 翌朝、狐が死んでいた。片足が千切れていた。
そして、石室には高村一太郎がいる。しかし、高村は今朝人殺しで逮捕された。

 「願い」では、19歳の私は願って願ってやっと一樹と知り合えた。一樹は欲しいものを声に出して言わないとやらないとじらした。
 一樹は会社をやめ真っ赤なポルシェを買った。「その助手席は誰にも乗せない。君のものにする」といってくれた。一樹に500万円を貸した。ボーナスで100万ずつ返すといった。それからは2週間おきに会った。車のローンで月15万。駐車場で6万だという。しかし一樹は働いているふうではなかった。
 経理部に努めていた私は2年間で7千万円を横領したことになった。会社はすでに一樹のことを調べ上げていた。一樹に渡したといえと迫られる。一樹はソープ嬢やホステスと取り入り貢いでもらっていた。おまけに先月一樹は入籍をしていた。相手の女性は妊娠6ヶ月である。都内のマンションに全額払って入居している。
 金を渡したことを認めればその物件を差し押さえられるという。自分も執行猶予になるだろうと。しかし、わたしは彼の車に赤い車になった。願いは叶った。これでいつでも彼と死ねると。

866  海に沈む太陽 )
Date: 2005-8-19

おすすめ度 ★★★★★

 梁 石日 著  筑摩書房 発行:2005年6月

 輝雅の母は鉄工所を経営する曽我謙治のめかけだった。輝雅のほかに4歳上の姉と二人の妹がいた。道頓堀の長屋から六甲山のふもとの一軒家に移った。しかし、謙治が亡くなり、母と自分の生活は貧しくなる一方だった。農家の家の納屋に住み、馬小屋に移り、そして追い出され、棺桶屋の2階に曲がりできた。母が働き始めた。姉も芸子として働きに出た。
 輝雅は通っていた高校を中退し、18歳と偽って船員になる。横浜から那覇、フィリピンなどを航行した。ケンカと酒を覚えた。この頃から輝雅はアメリカへあこがれた。
 1年半ぶりに横浜に帰る。大阪で自分をいじめた旧友に会うが自分よりも小さく戦意を消失する。
 宗右衛門町のはずれでカウンターバーを任される。裏で密輸の宝石を売ることが条件だった。
 その店にきた女子大生の美奈子と知り合う。美奈子は輝雅にひかれる。そして美奈子の家を訪問する。美奈子の父はN生命の社長だった。分不相応であったが二人は結婚する。
 しかし、輝雅はアメリカ、ことにニューヨークに憧れ、渡米する。
 友人の友達を頼って寝るところだけは確保できたが、なかなか働き口が見つからなかった。
 一般家庭のメイドのような仕事をやったり、広告会社などの仕事に就く。しかし、自分がうまいと思っていたデザイナー、絵を書く仕事はうまくいかなかった。
 やっぱり日本に帰ってもう一度やり直そうと思う。

865 悪刑事
Date: 2005-8-17

おすすめ度 ★★★★

 森巣 博 著  徳間書店 発行:2004年10月

 赤坂署捜査課の名和平太警部補は昇進試験に一発で合格した。しかし、その後は落ちこぼれ同然であった。今は7年前の後輩の下で働く。
 昇進も手柄も関係ないと割り切って、ちょっと公序良俗に反する行為をする。見つからなければいいという具合である。
 今日も女子高校生の麗ちゃんを相手にホテルで4度5度と攻めまくる。そして麗ちゃんには一銭も払わないのである。お金を払えば法に反するとか何とか言ってごまかす。
 麗ちゃんがシャネルのバックが欲しいという。ビール券やタクシー券を金券ショップで変えてバックをプレゼントする。ところがなかなかホテルにいけるチャンスがない。
 違法カジノ連続強盗事件と女子高校生殺人事件の捜査で忙しい。女子高校生の事件の件で麗ちゃんの友人からも事情を聞く。
 女子高校生たちは氷川という男とのホテルの出来事をつぶさに話す。麗ちゃんは氷川とも援交していた。怒りに震える平太であるが、自分が麗ちゃんと援交していることを公にはできない。
 勤務中いつも麗ちゃんとの関係を想像している。
 そんな平太が田福晋三を賭博法で逮捕した。本丸は女子高校生殺人事件の容疑である。
そのことで平太は警視正の三階級特進の栄誉を受けた。
 
864 夜のピクニック
Date: 2005-8-16

おすすめ度 ★★★★

 恩田 陸 著  新潮社 発行:2004年7月

 西脇融は高校3年である。同じクラスに甲田貴子がいる。貴子と融は異母兄弟であった。つまり、父親が同じだった。貴子の母は融の父と別れる代わりに貴子を生んだ。以来、貴子は父を知らないで高校生まで育った。
 貴子は融と同じクラスになったことを驚いた。融は貴子を嫌っていると思っていた。
 夜にピクニックする学校行事の歩行祭があった。貴子と融はグループが一緒になってしまった。
 そして、融は貴子と普通に話せることに安堵した。いつみても貴子親子は明るく暮らしているように見えた。融の家庭はその後父をなくし、母も父が外に子どもを作ったことで夫婦仲も冷えていた。その原因が貴子たちにあることで融は貴子を避けていた。
 融は歩行祭の終わりに貴子の家に挨拶に行くと約束する。ろくに挨拶もしなかった二人は互いに認め話し合える仲になった。
 夜中に歩き続ける歩行祭は終わった。


863 蒲公英草紙
Date: 2005-8-15

おすすめ度 ★★★

 恩田 陸 著  集英社 発行:2005年6月

山を越えれば福島という阿武隈川沿いの平野が峰子の故郷だった。
 峰子の家は大きなお屋敷の脇の借地に、祖父が医者だったころから住んでいた。
 お屋敷の中には大勢の人が出入りしていた。
峰子はお屋敷の聡子おじょうさまの話し相手ということで屋敷の中に招かれた。聡子の二番目の兄は中学校へ通っていた。聡子には5人の兄弟がいた。病気がちな聡子は峰子が来るのを楽しみにしていた。
 やがて二人は、仲良くなり一緒に女学校いこうといわれた。お人形のような聡子であった。
 ある日、村はずれの家に聡子と峰子は出かけた。行く先には子どもたちだけが留守をしているうちがあった。大人は何日も稲刈りの手伝いで家を空けていた。
 村はずれの家に着いたとき、雨が降ってきた。その雨で裏山が崩れ、音に気がついた子どもたちとお寺に逃げる。聡子が戸板に載せて子どもたちを運ぼうといい、進んでいるうち、子どもたちをお堂に届けた時、聡子に力のこもった大きなものが近づいてきた。聡子は姿が見えなくなった。
 峰子は気を失う。聡子の家は村の人たちの避難場所となった。聡子は村に人に負ぶわれて帰ってきた。しかしすでになくなっていた。
 蒲公英草紙と名づけたこのノートは、昔を思い起こしてくれる。
862 鬼哭青山遥かなり )
Date: 2005-8-12

おすすめ度 ★★★★★

 北上 秋彦 著  NHK出版 発行:2005年6月

 九段下で地下鉄を降りた老婆は横断歩道を渡った後、吐瀉物を吐いて息絶えた。最後の言葉は「さいじ」であった。
 老婆はトリカブトを含んだ物を食べたのが死因であった。
 紅は広瀬と組むことになった。広瀬は55歳。紅は女性で父親と娘のように歳が違っていた。
 老婆が訪ねようとした先は檜山建設ではないか。秋田からこの地に本社ビルを建てたばかりだ。花岡事件の関係者から抗議がくるのではないかと疑った。
 ほどなく、死んだ老婆は大館市花岡で相澤キクノであった。「さいじ」は失敗を意味する言葉だった。
 花岡事件、それは太平洋戦争末期、中国人労働者を強制的に連行し、わずかな食べ物を与えるだけで鉱山で働かせていた。水も与えずこき使う毎日だった。中国人986人のうち419人がなくなった。飢えと暴力を受ける毎日だった。
 そんな中、范貴鳳が死んだと聞かされる。800人の中国人と日本人9人をやっつけようと蜂起した。しかし、中国人は一人残らず連れ戻された。それを仕切っていたのが桧山組である。
 進駐していた連合軍によって中国人は解き放たれた。
 老婆はこの檜山組に復讐にやってきた。老婆のもとには死んだといわれた范貴鳳の墓があった。それは家の中にあった。墓標には20年11月24日と成っていた。くしくもその日は花岡から中国に向かう同胞たちの旅立ちの日であった。
そして、隣に相澤キクノ 17年6月とあった。
キクノは自分の墓碑名を刻んで九段下に出かけたのだった。
 趙雄龍は花岡事件を経験し中国に帰らず日本に残った人物である。キクノを訪ね范貴鳳の墓を知りたかった。刑事の紅とともにキクノの家で墓を見つける。

861 アリゾナ無宿
Date: 2005-8-10

おすすめ度 ★★★★

 逢坂 剛 著  新潮社 発行:2002年4


 マニータはラスクマンに連れられてベンスンの町で買い物をしていた。まだ鉄道が通っていない時代に荷物は馬車に積んで運ばれた。
 ザグワロと呼ばれる男が暴れん坊2人を保安官の来る前にやっつける。
 レストランで流れ者のストーンに会う。
マニータは南北戦争のあと、ゲリラに襲われ、ケンタッキーからインディアンに援けられた。6歳の時だった。スー族と暮らした。10歳のときスー族が皆殺されたとき、騎兵隊に拾われた。マニータは白人の子とわかりラクスマンに引き取られた。
 暴れ者の裁判でマニータとサグワロトストーンは仲良くなる。サグワロは日本人だった。6年前に太平洋をわたる船倉に倒れていた。何一つ覚えていない。ストーンは賞金稼ぎであった。このあたりにフランクローガンというお尋ね者がいるという。
 夜中、マニータはラクスマンがローガンであると見抜く。ラクスマンは賞金より多くを持っていた。ラクスマンをストーンは撃ち殺す。
 マニータはストーンについていく。ストーンははじめて本音で話せる相手だった。サグワロも仲間に入り、3人で一緒に行動する。
 仲間が3人になったら稼ぎは3分の1だとストーンは嘆く。それでも3人は一緒に行動した。


860  トルーマン・レター
Date: 2005-8-7

おすすめ度 ★★★★★

 高嶋 哲夫 著  集英社 発行:2001年5月

 公園で男3人が一人の坊主頭の男に絡んでいた。通りがかった自分に男たちは向かってきた。傘で応戦した。殺されると思ったときマンションの窓が開きいくつかの顔が覗いていた。男たちは逃げた。
 横に落ちていた雑誌を拾った。英語版のニューズウィークだった。無意識のうちに持ち帰った。
 後日持ち帰った雑誌の中に封筒があった。アルファベットがびっしりと書かれていた。
 「戦争・決意・大統領・原子・日本」のスペルが読める。元記者の直感でこれは気になる言葉だった。
 昔付き合っていた美弥子に連絡をした。美弥子は工学博士の佐々木のところへ連れて行く。
 トルーマンの自筆のラウレターに間違いないと思われた。
 当時アメリカは日本人を「出っ歯でずるがしこい悪魔」と称していた。
 文体を自分がチェック、美弥子を通じて河田教授も手紙を見せた。本物だという。
 この手紙を世に出すべきかどうか迷った。
 60年も過ぎているが、原爆は絶対悪だと思っている。日本はアメリカの属国ではない。悪いものは悪いとはっきりさせるべきだ。
 美弥子と自分の乗っていた車が炎上する。美弥子は手紙にこだわって炎のなかから手紙を持ち出し握り締めていた。
 しかし、トルーマンの手紙は偽ものだった。
針葉樹と広葉樹の50%混合パルプが半世紀前のもの。しかし、紙の繊維からグアラコール・クロルフェラマイドが検出される。これは1986年に合成されたものであった。20年前の薬品が混ざっていた。

859  駆けこみ交番
Date: 2005-8-5

おすすめ度 ★★★

 乃南 アサ 著  新潮社 発行:2005年3月
 
 マンションでもう1時間も騒いでいると警察に通報がきた。高木は自転車で駆けつける。ドアの外でわめいていたのは女性だった。警察の問いに住人がドアを開けた。中に別の女の子がいた。女の子は「最低!」と怒って帰ってしまう。
 高木は、トラックと乗用車の事故で、偶然指名手配中の殺人犯を捕まえる。
 消毒の臭い駕する部屋を調べると、すでに死んだ2人がいた。そばに老婆がいた。死体にクレオソートをぬって防腐してあった。死んだのは孫娘と嫁であった。二人は自殺したようだ。4ヶ月間死体の管理をしながら老婆は過ごしていた。
 総会屋の瀬下は、「愛犬を下記により保護しています。ついては必要経費を振り込み・・・」と勝手にペットをさらってきては、振込み依頼をしていた。しかし、取りに来ないものもあった。
またしてもそれに対応する高木巡査であった。

858  乱調
Date: 2005-8-3

おすすめ度 ★★★★

 藤田 宜永 著  講談社 発行:2005年6月

 村井は息子の住んでいた部屋を見たいと思った。尋ねて行くと女子高校生の深雪が部屋に入れてくれた。
 深雪は息子鷹也のファンだという。息子はこの部屋で自殺した。鷹也は紅白まででたミュージシャンであった。村井は鷹也がまだ小さい頃離婚した。鷹也に会ったのは4ヶ月前、ロンドンでレこーデングにきた鷹也とあった。
 鷹也を自殺に追い込んだ原因は何なのだろう。
村井は鷹也の部屋に住む深雪にひかれる。深雪はまだ女子高校生だ。
 深雪とのことが週刊誌に取り上げられる。少女買春と書きたてられた。村井は航空会社のパリ支店長だった。休暇で日本を訪れた。
 結局、村井は会社をやめ、元のカメラマンに戻った。
857 死神の精度
Date: 2005-8-1

おすすめ度 ★★★

 伊坂 幸太郎 著  文芸春秋 発行:2005年6月

 私は死を扱う仕事をしている。
目の前を22歳の女性が歩いている。くたびれたような悲壮感がうかがえる。
 彼女にドロが跳ね上がった。私はお詫びに食事に誘う。暗い疑い深い女性だった。有名電気メーカーで苦情受付の係りをしているという。苦情の客から歌を歌えと言われたこともある。
 その男と会う羽目になった。カラオケに誘われそうになるところを私は助けた。
 しかし、その男はなんと天才プロデューサーだった。彼女の声にひかれたと言う。
 私はふたりの死を見送ることにした。
856 ビネツ
Date: 2005-7-31

おすすめ度 ★★★★★

 永井 するみ 著  小学館 発行:2005年6月

 エステシャンの麻美は客の京子からぜひうちに来てほしいといわれ「ヴィーナスの手」に移る。
 麻美の手は、ゴットハントつまり神の手といわれる手を持っていた。客はマッサージを受けながらその気持ちよさに陶酔してしまった。
 京子の夫は富山で鯉のエキスを使ったクリームの研究をしていた。息子柊也もそれを手伝っていた。柊也にとって京子は継母であった。
 麻美の手を持ってふたたびヴィーナスの手は雑誌に載るようになった。
 OLの舞と綾乃がエステに来る。二人は張り合っているようだ。舞は京子の夫安芸津と客のみどりが一緒のところを見て、安芸津にエステの特別待遇を要求する。柊也が食事に誘い、でそれをもみ消そうとした。
 麻美が来て京子がなにかと麻美を頼る様子を見ていた結花は面白くない。
 結花は麻美に期限切れのオイルを渡し、使うようすすめる。そして麻美が鯉エキスをつかってマッサージをした客に、見えない後ろがかぶれていると近づく。
 エステに行って肌がかぶれたとテレビで取り上げられた。ヴィーナスの手は客足が遠のく。結花も辞めた。
 麻美はこの店にいたサリというエステシャンにテクニックが似ているといわれた。そのサリは強盗に刺殺された。
 麻美の努力でまた客足が戻る。
 

855  義珍の拳
Date: 2005-7-29

おすすめ度 ★★★★

 今野 敏 著  集英社 発行:2005年5月

 義珍は体が弱く外で遊んだことがない。幼い頃友達にいじめられた。長吉が鍛えれば強くなるという。義珍は安里安恒から唐手を習うことに成った。先生のやる型を懸命に覚えた。
 これまでと違って背筋がピンと張っているといじめた仲間が言った。
 沖縄がヤマト世になるという。義珍の家は貧しかった。ヤマトに対する恨みと憎しみがあった。
 義珍は医学校に入るために、戸籍を3歳若くしたり髪を切った。それをみて父親が「そんな思いをしてまでいくことはない」と怒る。
 結局、義珍は師範学校に進み教師になる。そして、安里先生から糸洲安恒のところへ行くよう薦められる。糸洲の型は安里と違っていた。人に襲われても息も上げず相手を交わしてしまった。
 沖縄から本土に移り、義珍は空手を子供たちに教えた。軍事訓練に空手が取り入れられた。
 やがて日本空手協会本部道場が作られた。年間の会員は千人を超えた。
 

854  死化粧(エンゼルメイク)
Date: 2005-7-27

おすすめ度 ★★★★

 小林 光恵 著  宝島社 発行:2005年6月

 亡くなった後、口がどうやっても閉じない場合、顎をしばって口を閉じさせる。そうすると顔が浮腫んだ状態になる。手も同じ。合わさらないと縛ることがある。家族はその姿をきらう。
 父親の唇の色が違うと幼い長男がさけぶ。看護婦は口紅を変え直す。とうとう10回ほど塗ってやっと、「父さんの色だ!」といった。
 母親の場合、死化粧をすると10歳若く見えた。苦労続きだった母は化粧さえしなかった。泣けた。
 人が死ぬと肛門に脱脂綿を詰め、口の中にも体内から出ないように脱脂綿を詰める。鼻にも。そうした処置は病院で亡くなる人が7割を超えた今は、看護婦がする。
 そして、今は男性も死化粧をする。
853 シリウスの道
Date: 2005-7-24

おすすめ度 ★★★★

 藤原 伊織 著  文芸春秋 発行:2005年6月

 大手広告会社の辰村は、銀行を辞めて途中入社した戸塚の上司だった。戸塚は父親が代議士ということを語らない誠実な男だった。
 中学の同級生で仲の良かった勝哉と明子がいた。明子は父から性的暴行を受けていたことを知った勝哉と辰村が、包丁を買い明子の父を本気で殺そうとした。対峙したとき、酔っていた父は自ら足を踏み外し石段に倒れた。即死だった。
 二人は橋の上から使わなくてすんだ包丁を捨てる。25年前のことである。
 その明子の夫が取引先の会社にいた。辰村に相談があるという。妻を誹謗する手紙だった。それには幼い頃の父との関係をほのめかすものだった。それを知っている人間は限られていた。
 手紙は3通届いた。辰村は勝哉にあいたくなった。
 上野公園で絵を描いていたことを突き止める。そして、勝哉にあう。勝哉はあの手紙を自分が書いたという。あの手紙を信用するような亭主なら亭主の資格はないと。しかし、明子がすべて話してあったというと勝哉は驚く。4通目はないと勝哉はいう。
 
852  とげ
Date: 2005-7-24

おすすめ度 ★★★★★

 山本 甲士 著  小学館 発行:2005年3月

 南海市役所相談室主査の倉永晴之は、市民から池にワニがいると情報が入った。別のところでは池に牡丹浮き草がはびこっている。このままでは池一面を多い尽くすのは時間の問題だという。
 倉永は飲み屋に行く、先客がいた。市長や三池総務部長や環境課長などがいた。それに合流したような形になって飲んだ。そのとき、市長が倉永を押し倒した。倉永は消火器に頭をぶつけ、5針縫った。市長からは謝罪の言葉がないばかりか、この事件に蓋をするのが周りの幹部連中だった。
絶対泣き寝入りしないと倉永は思った。
 そこへ倉永の妻が飲酒の上追突した。警察にも届けてしまった。職員として諭旨免職になった。
 市長が職員に暴行をしたという事実が新聞に載る。倉永は第三セクターに出向させられた。そのセンターの不正を女子職員が警察に通報し、責任者が逮捕された。
 倉永は市長と一席設けることになった。酒を飲んで寝込んだ市長。そこで倉永は工作し再び市長に殴られたと訴える。
 市長は次期市長選に出馬しないことになった。
 倉永は退職する。ちょうどテレビのコマーシャルにでている男に似せて髪をカットし、めがねをかけた。そして、毎日ゴミ拾いを繰り返した。
 ゴミ拾いをするおじさんとマスコミに取り上げられる。
 倉永は市議選に立候補する。その最中に、公園管理事務所を放火しようとした男を捕まえる。
倉永は6位で当選した。
 

851 灰色の北壁
Date: 2005-7-22

おすすめ度 ★★★★

 新保 裕一 著  講談社 発行:2005年3月

 3篇から成る。灰色の北壁は2番目に収録。

 7千メートルの北壁。ゴールは後数百メートル。体感温度は零下30度をはるかに下回る。涙が凍り付いて目を動かすのも抵抗感がある。
 7800メートルをこえたところで、かなりの規模の落石でその一部が刈谷の頭を直撃し即死した。彼は5年前の「灰色の北壁」と題してカスール・ベラーの冬山を制した記事が載った。
 しかし、御田村良弘が1975年8月8068メートルの山を無酸素単独で制した。
 そして、19年後刈谷修がその山を制した。1999年9月22日である。ところが、季節が少しずれているのに登頂の写真が似ていた。そのことを小説家が取り上げた。刈谷の写真が偽物ではないかと。
 刈谷は再び北壁に挑戦した。そして亡くなった。しかし、彼は写真家でもあった。19年前に御田村が制した山は、刈谷がその場に立ち突き刺したはずの日の丸がなかったこと、山頂から写した写真が19年前の写真と微妙に違っていたことに気がついたのではないか。そして、偽の写真を発表したのではという疑念が持たれた。
 御田村に対峙した小説家は、御田村から「今度は私が行動で示さなけらばならない」と肩を落とした。

850 警視庁 捜査一課殺人班 7/27(水)
Date: 2005-7-20

おすすめ度 ★★★

 毛利 文彦 著  角川書店 発行:2005年5月

 小田島が誘拐された。詐欺事件の共犯者から殺害されている可能性もある。小田島は誘拐される前まで事情聴取をうけていた。3億9千万円の詐欺事件である。インサイダー取引をほのめかし顧客から受け取ったそのお金をもって証券会社課長代理が疾走した。この事件に小田島が絡んでいた。その小田島が誘拐された。
 小田島宅に指先が送られてきた。捜査班は病院を当たり、指の治療に来た男女を突き止める。
 そして、女の方は小田島の愛人であった。愛人の自供から誘拐は狂言だとわかる。
 八ヶ岳山ろくから、課長代理の遺体が発見される。小田島は無期懲役となった。
849  黄昏に歌え
Date: 2005-7-18

おすすめ度 ★★★

 なかにし 礼 著  朝日新聞社 発行:2005年3月

 満州から引き上げえても貧しかった。北海道では兄が借金をして網を買い、ニシンを取った。兄が欲を出したせいで、ニシンは二束三文になった。借金を残し兄は姿を消した。
 礼は、歌謡曲の歌を書かないかと持ちかけられる。裕次郎の映画の主題歌も依頼された。
 黛じゅんのハレルヤも大当たりした。「知りたくないの」「「恋のフーガ」も。「天使の誘惑」はレコード大賞を取った。
 礼はリマという女におぼれた。それを妻の百合子はしらない。明るく屈託のない妻だった。
 やがて、リマは離れていく。それを追う礼。

848  信長の棺
Date: 2005-7-15

おすすめ度 ★★★

 加藤 廣 著  日本経済新聞社 発行:2005年5月

信定は日記、史料、稀覯本などを桐箱に油紙を敷いた上に詰めた。西光寺に運び入れるつもりであった。
 城の女衆の一行を見送った。信長の側室たちは皆、胸が出た腰のししむらの大きな女ばかりであった。信長は側室に母を求めていたのではないか。安土城は無人となった。
 信長は美濃街道に向かったとき、何者かに篭に押し込まれ連れて行かれた。
 目を覚ますと70近い老婆がいた。食の支度をしてくれていた。が外に出ようとすると立ちはだかった。
 信長の亡骸が見つからなかった。ところが、抜け穴が塞がれていた。塞がれた箇所を開けると、黒煙とともに、横たわる信長を見つけた。
 真っ黒に汚れた綸子の部屋ぎ、左手に弓用のなめし皮をつけていた。小刀で壁を開けようとした後があった。
847  赤絵の桜 損料屋喜八郎始末控え
Date: 2005-7-12

おすすめ度 ★★★

 山本 一力 著  文芸春秋 発行:2005年6月

 寛政元年の棄損令発布直後で江戸の町は不景気が続いていた。札差の伊勢屋は8万3千両も帳消しにされた。
 そんな折、米屋の後ろ盾に喜八郎がついていることを知った。喜八郎は、押上村に湯屋をひらく鋏屋と青山家とのつながりを調べていた。鋏屋は「ほぐし窯」なるものをつくり、赤絵を用いた高価な有田焼の傷物を焼きなおして値打ち者に見せかけるとにらむ。
 仕事を求めるおまきは人別帳の写しのほかに請書がいることを手代にとがめられ、おまけに「そんなことも知らないおとっつあんもしょうがない人だ」といわれたおまきは「会ったこともないおとっつあんのことを、とやかくいわれるのは真っ平だ」ときびすを返した。
 それを見ていたおちょうから蕎麦屋の働き口を世話してもらう。
 しかし、店の主人とけんかをしてまたやめてしまう。四つ半にならないと店を開けないのだが、早々と老人がやってきて帰ろうとしない。それを追い返そうとする主人ともめたのだ。
 老人は鳶の頭嘉次郎だった。組を引き継いだ庄次郎に嘉次郎はおまきを世話役に雇ってくれと頼む。以来おまきは嘉次郎の世話役になった。
 散歩の途中、嘉次郎は「若いつると絡まりあっている限り年寄りのつるはかれずにすむのだ」と教える。また途中で土嚢を積む作業を見て、「だめだ、縦横互い違いに積まないと土嚢はもたない」と教える。

846 暴走刑事VS広島やくざ
Date: 2005-7-10

おすすめ度 ★★★

 大下 英治 著  実業の日本社 発行:2005年6月

 梶原は昭和22年8月1日に広島県東警察署に配属された。父は戦争を経て、満州から日本に帰国した後は、警察をやめ八百屋を開いた。息子は1メートル81センチ、92キロの巨体である。
父の言うことも聞かないと元の同僚に話したところ、「警察に入れろ」といわれ梶原は20歳のときに警察に入った。
 闇市で無謀にのさばる台湾や朝鮮人とも気迫の取締りをし、梶原にははむかわない方がいいと言わしめた。ヤクザがはびこる町。村上組の仲間を殺した山上は警察に包囲される中、五右衛門風呂の中で銃で自殺した。山上の持っていた血の着いた拳銃を梶原は自分で持ち始めた。
 稲川親分に熱海で歓待も受ける。33年には結婚し、40年には22の暴力団が解散した。
 昭和41年に梶原は退職する。19年間の警察だった。
845 ルパンの消息 7/14(木)
Date: 2005-7-8

おすすめ度 ★★★★★

 横山 秀夫 著  光文社 発行:2005年5月

 15年前、高校の女教師が屋上から飛び降りて自殺した。時効間際になってこれは自殺ではない、高校生3人による殺人だというタレ込みがあった。
 3人は取調べに素直に応じた。供述によると、ルパンという喫茶店に出入りしてた高校生の喜多と橘と竜見の3人は金庫の仕舞われている期末試験の問題を盗もうと計画した。
 昭和50年12月9日、金庫を開けた3人が目にしたものは女教師の死体だった。窓ガラスをあける音、人が走り去る音を聞いた。3人は再び死体を金庫の戻し学校を出た。午前3時を回っていた。
 11日の昼前になって、植え込みに落ちた女教師の死体が発見された。屋上に靴がそろえてあり、遺書もあったことから自殺と断定された。
 3人は女教師が殺されたことを知っていた。誰が殺したかわからない。
 そんな折、仲間の一人相馬が自殺した。両親に蒸発され、幼い妹とボロアパートに暮らしていた。喜多は汚れた服を着、おなかをすかしている妹にラーメンをおごったことがあった。
 3人の供述から、女教師は別の女教師とレズビアン関係にあったことがわかる。アパートには男性は訪ねてこないが女性は来ていたと言う。
 12月10日で時効になった3億円犯人と言われた内海一矢。3人は内海がマスターである喫茶店ルパンに出入りしていた。
 学校にある金庫は卒業生の記念品だった。
 15年前、自殺と断定されたために、指紋の採取はされなかった。あらためて、15年たった今、金庫が調べられた。金庫の内部には女教師の指紋が見つかった。
 そして、他にXFの文字のついたお札の紙切れが見つかった。
 内海の逮捕した。3億円の時効の日、偶然にも女教師の事件があった。金庫の取りに来た内海は教師を屋上から投げ捨てた。そして自殺に見せかけたのだ。女教師殺人の時効は過ぎていた。しかし、内海は韓国へ3日間だけ行っていた。時効は3日のびた。
 3人は釈放された。喜多を調べた婦人警官は相馬の妹だった。妹が持ち込んだことで犯人が逮捕できた。
844  館島
Date: 2005-7-7

おすすめ度 ★★★★

 東川 篤哉 著  東京創元社 発行:2005年5月

 巨大な螺旋階段を持つ六角形の別荘である自宅で、建築家の十文字氏がなくなった。
階段にあった彼の死体から、転落死ではなく、墜落死だと断定された。
 とすると、この螺旋階段からは一気に4階から1階に落ちるような場所はない。階段を伝って降りるしかない。窓から落ちたにしては、どの窓にもその形式がない。
 1月4日の発見以来、刑事の相馬も十文字家に足を運んだ。小早川沙樹もおばの要請で飛んできた。沙樹は探偵であった。
 この家には、おばと3人の息子がいた。医師の吉岡もたびたび訪れていた。
 親戚の奈々江をめぐって、信一郎36歳と次男正夫34歳、三男三郎27歳がいるが、実質的な後継者は長男と三男であった。
 展望室で信一郎と三郎がねていたところ、長男だけが死んでいた。そして、その窓や扉は閉まったままだった。
 十文字氏の死体も墜落したにしては、出血の痕跡がまわりの階段や壁には見られなかった。
 この館が螺旋階段ごとねじのように上下することがわかった。展望室の十字の廊下は周りの部屋が消え、360度見渡せるようになっていた。
 そして、前日酔っ払っていた十文字氏は、展望室から、螺旋階段の真下に落ちてしまった。
 その場所は多量の血痕があった。
それは、第一発見者の吉岡医師が、この家の仕掛けをしり、元のように戻すには十文字氏の死体がじゃまになった。そして階段の在る場所まで運んだ。
 信一郎は、この家の仕組みを知り、吉岡によって殺された。
 奈々江も十文字家との結婚の意志はないと断る。 
843 小さな小さなあなたを産んで 7/ 7(木)
Date: 2005-7-6

おすすめ度 ★★★★

 唐木 幸子 著  読売新聞社 発行:1999年2月

 私は41歳で初産。8ヶ月目から子供が大きくならなくなった。妊娠中毒症になり、血圧は上が180、下は120だった。急遽帝王切開で出された。子供はまだ678グラムだった。
 真っ赤なやせ細った赤ちゃんだった。保育器に入り、点滴の管が頭に刺さっていた。
 母親は退院するが、子供はまだ5ヶ月ぐらいは入院を要した。
 子が退院できたのは2676グラムになった120日後だった。やっと家族で一緒に暮らせる。

842 夏の椿
Date: 2005-7-5

おすすめ度 ★★★★

 北 重人 著  文芸春秋 発行:2004年12月

 定次郎は雨の降る水しぶきの中を急いでいた。黒い塊が腰にまとわりついた瞬間、熱いものを感じた。刺された。暗闇にまぎれて川岸にあった小舟に乗る。
 定次郎の叔父は、帰ってこない定次郎を心配し、大家の大木屋を訪ねたが、行方はわからなかった。
 数日後、定次郎は舟の上で見つかる。すでに死んでいたが、懐に履物をいれ、金もそのままあった。
 越後米買上げの不正をつかんだ定次郎が、柏木屋に執心していたと聞く。
 あす柏木屋に金を返すという家を全焼してしまい、返すはずの700両もなくなってしまった。家のものは死に、柏木屋は金を受け取っていないという。その土地は柏木屋のものになった。
 定次郎が調べていたのは、小千谷で金貸しをしていた老婆が火事で焼け死んだ。いつも手元にあったという4、5百両がなくなっていた。そのとき子供が2人いた。ひとりは耳のつぶれた千次である。千次は三国街道の浦佐で本堂修復に芝居を呼んだ。その際、皆が酒を飲んで眠る中、寺から炎上し、興業で集めた30両がなくなっていた。千次らはいなくなっていた。
 柏木屋に金を返すという小石川惣兵衛も返すという前日に殺され、土地を取られた。その娘沙羅が定次郎が熱を上げていた相手だと知る。沙羅は売られて遊び女となっていた。定次郎は、沙羅の敵を打つために柏木屋に近づいたとわかる。
 周乃介は病んだ沙羅を引き取り、死後の弔いも出してやった。周乃介は柏木屋に出入りする千次を斬る。柏木屋も捕縛される。そして伝馬町の牢屋で病死した。きっと一ツ橋のあたりから始末されたのであろう。
 

841 The Pilgrim ザ・ピルグリム 7/ 4(月)
Date: 2005-7-4

おすすめ度 ★★★★

 島村 洋子 著  中央公論新社 発行:2005年4月

 直人は四国へお遍路に行った。いたずらはするし、うそをつくといわれた。母がお遍路に出したのだ。1ヶ月間、学校を休むつもりだ。白い鞄を掛け、編み笠をかぶり、南無大師遍照金剛と書かれた杖を持って鞄にはお線香と納経帳と納め札が入れて在る。
 お遍路は82歳の老夫婦から直人の11歳までの12人だった。30代の夫婦、OLの3人組、近所のおばちゃんのようなタイプなどであった。
 室戸岬の辺りで、キリンを見る。こんなところにいるはずがないと思うと確かめたくなった。
 キリンは若いお姉さんと一緒だった。お姉さんはキリンと一緒にいることを内緒にしておきたかったようだ。ニュースで「徳島自然こども園」のキリンのダーニがアルバイトの女性と行方不明であると伝えていた。
 キリンのいた動物園は閉鎖になるという。キリンは殺されるかもしれないと、連れ出してしまった。女性はキリンを守りたいと思った。途中で、トラックに乗せてもらい、逃げた。直人もキリンと一緒に1週間、お遍路のツアーから離れて行動した。
 途中でこのままではお姉さんにも迷惑がかかると、ツアーに追いついた。
 母親がいなくなった直人を心配して迎えに来た。
 直人は中学になり、夏休みダーニがひきとられた富山の動物園に会いに行く。
 キリンと逃げたお姉さんは、大学を出て今は神戸の動物園で働いていた。獣医の彼と結婚するらしい。
 「お遍路に行って、よくなった。お遍路って効果あるのね」と担任の先生が言った。
840 天国の階段 上・下
Date: 2005-7-3

おすすめ度 ★★★★

 パク へギョン他脚本  金 重明 編訳  角川書店 発行:2004年12月

 チャ・ソンジュの母ミン会長とハン・ジョンソの父ハン・スハ教授とは幼馴染であった。そのため、ソンジュとジョンソは幼い頃から兄妹のように育った。
 一方、女優のテ・ミラはユリとテファという2人の子供を夫に押し付け姿を消した。夫は飲んだ暮れでだらしなかった。ミラの人気が出始め、夫への仕送りも自分の過去をばらされないためのものだった。
 そのミラがジョンソの父と結婚した。ミラは2人の子供たちも引き取り、ジョンソたちと暮らし始める。しかし、親の愛情を受けないで育ったユリはことごとくジョンソに反抗的だった。
 ソンジュはアメリカへ留学する。
そして、ある日、ユリはジョンソを車で跳ね飛ばす。気を失ったジョンソ。近くの車が燃え黒焦げになった遺体にジョンソの財布と首飾りを載せる。ジョンソは死んだことになった。
 ユリは気を失ったジョンソを飲んだ暮れの父のところへ連れて行く。自分がはねたことがわかると困ると哀願する。父親と兄のテファはジョンソを介抱する。記憶を失ったジョンソはキム・ジスとして兄妹として暮らす。
 アメリカから戻ったソンジュはジョンソのことが忘れられない。ホテルの壁画の仕事を頼みにきた女性にジョンソを見た。でも自分はキム・ジスだという。
 ソンジュは、顔や姿をみて、ジョンソに間違いないと思う。
 ユリとミラは、ジョンソをみて驚くが、記憶が戻らないことに安堵する。
 ソンジュは、ユリと結婚すると報じられていたが、ジョンソと結婚する。
 元夫や兄がジョンソの過去とユリの事故を公表する。母のミラは大きな裏切りに神経を侵される。
 しかし、ジョンソの目は見えなくなっていた。兄のテファはジョンソのために車にはねられる。テファの目を移植されたジョンソは目が見えるようになる。しかし、別の病が脳を侵し始めていた。ジョンソは幸せであった。「天国に先に行ったら待っていてくれ」というソンジュの背中に負ぶわれたまま天国に召される。

839  鯨の哭く海
Date: 2005-7-1

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  祥伝社 発行:2001年4月

 秩父祭りの夜祭の日の翌朝、ホームレス風の男が死んだ。その男は前日、祭りとは逆行するように歩いていた男だった。服には「seko」と書かれていた。
 浅見は鯨の取材を頼まれる。那智勝浦をとおって太地に行く。くじらの博物館や捕鯨船資料館がある。岬で見かけた女性が消えたような気がした。それを宿で話すと仲居さんは「お嬢さんでは・・」という。ここの娘と新聞記者とが断崖から飛び降りて自殺したという。7年前である。遺書があったことから心中とされた。しかし、娘香純の死体は上がらなかった。
 sekoの名がついたホームレスは最近、新宿中央公園にいたことがわかった。
 そのsekoが夜祭の日、喫茶店に入り、向かい側の店をじっと見ていたという。その店は2階にノルウエー貿易振興会があった。浅見はその2階に取材に行く。取材の後、再び階段を上ると「気をつけたほうがいいかもしれません」と誰かに電話していた。
 ふたたび秩父で殺人が起こる。湖で溺死だった。
 荒川に捨てると自分の住んでいるそばに流れ着いては困る人間がやったと浅見は言う。
 sekoは太地の背古徳二郎だった。背古はあの心中事件が在る2時間前に永野水産庁魚業交渉官と会っていたことがわかる。
 永野別荘の庭に香純は埋められていた。相手の新聞記者はやはり殺されていた。
 背古は事件の内容を知っていた。そして町を出た。秩父の夜、近づかないように進言した相手によって殺された。