読んだ本の紹介です。紹介欄は読んだ後の感じたままの感想や紹介したい部分を書いたものです。

過去ログ (その8)167冊
平成18年1月1日〜平成18年12月24日
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No 読んだ日 書       名 著   者 おすすめ度
1098 2006-12-24 風味絶佳 山田 詠美 ★★★★
1097 2006-12-22 夜市 恒川 光太郎 ★★★★
1096 2006-12-20 前世ハンター 野崎 六助 ★★★★
1095 2006-12-18 四度目の氷河期 荻原 浩 ★★★★★
1094 2006-12-16 銀の弦 平谷 美樹 ★★★★
1093 2006-12-14 七夕しぐれ 熊谷 達也 ★★★★★
1092 2006-12-12 棟据刑事の荒野の証明 森村 誠一 ★★★★★
1091 2006-12-10 腐食の王国 上・下 江上 剛 ★★★★★
1090 2006-12-08 ダブル  永井 するみ ★★★★★
1089 2006-12-06 てのひらの宇宙 川端 裕人 ★★★★
1088 2006-12-04 鯉浄土 村田 喜代子 ★★★★
1087 2006-12-02 異常気象売ります 下 シドニィ・シェルダン ★★★★
1086 2006-12-01 灰色のピーターパン 石田 衣良 ★★★★★
1085 2006-11-30 求愛  柴田 よしき ★★★★
1084 2006-11-28 眠れぬ真珠 石田 衣良 ★★★★
1083 2006-11-26 月下の恋人 浅田 次郎 ★★★★
1082 2006-11-25 破婚の条件 森村 誠一 ★★★★★
1081 2006-11-23 ぼくだけのアイドル 新堂 冬樹 ★★★
1080 2006-11-21 膠着 今野 敏 ★★★★
1079 2006-11-19 図書館内乱 有川 浩 ★★★★
1078 2006-11-17 牡丹酒 山本 一力 ★★★★
1077 2006-11-15 北京の檻 幽閉5年2ヶ月 鈴木 正信 ★★★
1076 2006-11-13 水銀虫 朱川 湊人 ★★★★★
1075 2006-11-11 ヴェサリウスの柩 麻見 和史 ★★★★★
1074 2006-11-09 真夏の島に咲く花は 垣根 涼介
★★★★
1073 2006-11-07 冬の砦 香納 諒一 ★★★★★
1072 2006-11-05 あの日にドライブ 荻原 浩 ★★★★
1071 2006-11-03 導火線 松浪 和夫 ★★★★
1070 2006-11-01 彼女の命日 新津 きよみ ★★★★
1069 2006-10-31 永遠の0(ゼロ) 百田 尚樹 ★★★★
1068 2006-10-30 小説家 勝目 梓 ★★★
1067 2006-10-29 ヨンエの誓い イ・ヨンエ ★★★★
1066 2006-10-28 空白の叫び 上・下 貫井 徳郎 ★★★★★
1065 2006-10-27 瑠璃の海 小池 真理子 ★★★★
1064 2006-10-26 静寂の子 谷村 志穂 ★★★★
1063 2006-10-24 共犯者 小杉 健治 ★★★★
1062 2006-10-23 銀の砂 柴田 よしき ★★★★
1061 2006-10-21 狼花 新宿鮫\ 大沢 在昌 ★★★★★
1060 2006-10-18 行方不明者 折原 一 ★★★★★
1059 2006-10-17 タックス・シェルター 幸田 真音 ★★★★★
1058 2006-10-15 マネーゲーム崩壊 須田 慎一郎 ★★★★
1057 2006-10-13 1億百万光年先に住むウサギ 那須田 淳 ★★★
1056 2006-10-12 ブルーローズ 上・下 馳 星周 ★★★★★
1055 2006-10-10 空飛ぶタイヤ 池井戸 潤 ★★★★★
1054 2006-10-07 風の墓碑銘 乃南 アサ ★★★★★
1053 2006-10-04 運命の鎖 北川 歩実 ★★★★
1052 2006-10-03 未完成の友情 佐藤 洋二郎 ★★★★
1051 2006-10-01 ふみ子の海 市川 信夫 ★★★★★
1050 2006-09-30 町医者北村宗哲 佐藤 雅美 ★★★★★
1049 2006-09-29 月曜は赤 ニコラ・モーガン ★★★
1048 2006-09-28 夜のジンファンデル 篠田 節子 ★★★★★
1047 2006-09-26 魂の切影 森村 誠一 ★★★★
1046 2006-09-25 ドライブイン蒲生 伊藤 たかみ ★★★★
1045 2006-09-23 ミーナの行進 小川 洋子 ★★★★★
1044 2006-09-21 東京ダモイ 鏑木 蓮 ★★★★
1043 2006-09-19 伯林蝋人形館 皆川 博子 ★★★
1042 2006-09-18 ミラコロ 高山 文彦 ★★★
1041 2006-09-17 ひたひたと 野沢 尚 ★★★★
1040 2006-09-16 溺れる人魚 島田 荘司 ★★★
1039 2006-09-15 親指さがし 山田 悠介 ★★★★
1038 2006-09-14 魔女の笑窪 大沢 在昌 ★★★★
1037 2006-09-11 底なし沼 新堂 冬樹 ★★★★
1036 2006-09-10 悪忍 海道 龍一郎 ★★★★
1035 2006-09-09 時の”風”に吹かれて 梶尾 真治 ★★★★
1034 2006-09-08 見えない貌(かお 夏樹 静子 ★★★★★
1033 2006-09-06 町長選挙 奥田 英朗 ★★★★
1032 2006-09-04 明日の記憶 荻原 浩 ★★★★★
1031 2006-09-01 温室デイズ 瀬尾 まいこ ★★★★★
1030 2006-08-30 クッキ チョン・ソンヒ ★★★★
1029 2006-08-29 受命 帚木 蓬生 ★★★★★
1028 2006-08-26 第九の日 瀬名 秀明 ★★★
1027 2006-08-24 銀色の翼 佐川 光晴 ★★★★
1026 2006-08-21 君だけの物語 山本 ひろし ★★★★
1025 2006-08-19 エデン 五條 瑛 ★★★★★
1024 2006-08-16 夜をゆく飛行機 角田 光代 ★★★★
1023 2006-08-14 悪たれの華 小嵐 九八郎 ★★★★
1022 2006-08-11 愛さずにはいられない 藤田 宜永 ★★★★
1021 2006-08-09 日本沈没 第二部 小松 左京
谷 甲州
★★★★
1020 2006-08-08 せつないカモメたち 高樹 のぶ子 ★★★★
1019 2006-08-04 女ともだち 真梨 幸子 ★★★★
1018 2006-08-02 押入れのちよ 荻原 浩 ★★★★
1017 2006-08-01 千秋の讃歌 落合 信彦 ★★★★
1016 2006-07-31 女信長 佐藤 賢一 ★★★★★
1015 2006-07-29 トーキョー・バビロン 馳 星周 ★★★★
1014 2006-07-27 存亡 門田 泰明 ★★★★
1013 2006-07-25 ゆれる 西川 美和 ★★★★
1012 2006-07-23 霞ヶ関中央合同庁舎第四号館 金融庁物語 江上 剛 ★★★★
1011 2006-07-22 拒絶空港 内田 幹樹 ★★★★
1010 2006-07-21 月が100回沈めば 武田 ティエン ★★★★
1009 2006-07-19 チョコレートコスモス 恩田 陸 ★★★★
1008 2006-07-18 澪つくし 明野 照葉 ★★★
1007 2006-07-17 乱鴉の島 有栖川 有栖 ★★★
1006 2006-07-14 一応の推定 広川 純 ★★★★
1005 2006-07-12 奇蹟の村の奇蹟の響き 秋月 達郎 ★★★★
1004 2006-07-10 多摩湖 洞爺湖殺人ライン 深谷 忠記 ★★★★
1003 2006-07-05 ユグドラジルの覇者 桂木 希 ★★★★
1002 2006-06-29 宮廷女官 チャングムの誓い上・中・下 ユ・ミンジュ ★★★★★
1001 2006-06-27 道三堀の桜 山本 一力 ★★★★
1000 2006-06-22 毒蟲VS溝鼠 新堂 冬樹 ★★★★
999 2006-06-19 踊る天使 永瀬 隼介 ★★★★★
998 2006-06-14 夜の公園 川上 弘美 ★★★
997 2006-06-08 虹の彼方 小池 真理子 ★★★★
996 2006-06-04 私一人 大竹 しのぶ ★★★
995 2006-06-01 黒い太陽 新堂 冬樹 ★★★★★
994 2006-05-31 バイアウト 真山 仁 ★★★★★
993 2006-05-27 峠越え 山本 一力 ★★★★
992 2006-05-26 いつもの朝に 今邑 彩 ★★★★★
991 2006-05-24 弘海 息子が海に還る朝 市川 拓司 ★★★★
990 2006-05-20 逃亡 帚木 蓬生 ★★★★★
989 2006-05-15 栄光なき凱旋 上・下 真保 裕一 ★★★★
988 2006-05-08 在日修羅の詩 茂山 貞子 ★★★★
987 2006-05-05 叶うことならお百度参り 渡辺 一枝 ★★★
986 2006-05-02 いなかのせんきょ 藤谷 治 ★★★★
985 2006-04-26 暗い日曜日 朔 立木 ★★★★
984 2006-04-23 螺旋宮 安東 能明 ★★★★
983 2006-04-20 ひとりがいちばん! 橋田 壽賀子 ★★★
982 2006-04-18 悪魔の種子 内田 康夫 ★★★★
981 2006-04-16 STA、警視庁に突入せよ! 佐々木 敏 ★★★
980 2006-04-14 京都感情案内 上・下 西村 京太郎 ★★★★
979 2006-04-10 聖ジェームス病院 久間 十義 ★★★★
978 2006-04-08 被弾 阿木 慎太郎 ★★★★
977 2006-04-06 白虎村の惨劇 吉村 達也 ★★★★
976 2006-04-03 英雄先生 東 直己 ★★★
975 2006-04-01 くらがり同心裁許帳 井川 香四郎 ★★★★
974 2006-03-31 白蛇教異端審問 桐野 夏生 ★★★★
973 2006-03-28 黙過の代償 森山 赳志 ★★★★
972 2006-03-25 物狂い 土屋 隆夫 ★★★★
971 2006-03-22 かんじき飛脚 山本 一力 ★★★★
970 2006-03-19 あらしのよるに きむら ゆういち ★★★★★
969 2006-03-17 青山娼館 小池 真理子 ★★★★
968 2006-03-14 包丁人 轟桃次郎 鯨 統一郎 ★★★★
967 2006-03-13 賛歌 篠田 節子 ★★★★★
966 2006-03-11 顔をなくした少年 ルイス・サッカー ★★★
965 2006-03-09 顔をなくした少年 坂東 眞砂子 ★★★★
964 2006-03-07 梟首の島 上・下 小池 真理子 ★★★★
963 2006-03-06 陽が開くとき 幕末オランダ留学生伝 東 秀紀 ★★★★
962 2006-03-05 生きいそぎ 志水 辰夫 ★★★
961 2006-03-03 遮断 古処 誠二 ★★★★
960 2006-03-01 レンタル・チルドレン 山田 悠介 ★★★★★
959 2006-02-28 Cartain カーテン 谷村 志穂 ★★★
958 2006-02-27 モビィードール 熊谷 達也 ★★★★
957 2006-02-25 天女湯 おれん 諸田 玲子 ★★★★
956 2006-02-23 一場の夢 二人の「ひばり」と三代目 西木 正明 ★★★
955 2006-02-22 北緯四十三度の神話 浅倉 卓弥 ★★★★
954 2006-02-21 アラミスと呼ばれた女 宇江佐 真理 ★★★★
953 2006-02-20 悲劇週間 矢作 俊彦 ★★★
952 2006-02-17 月への梯子 樋口 有介 ★★★★
951 2006-02-15 シャイロックの子供た 池井戸 潤 ★★★★★
950 2006-02-13 外交を喧嘩にした男 小泉外交2000日の真実 読売新聞政治部 ★★★
949 2006-02-10 サスツルギの亡霊 神山 裕右 ★★★★
948 2006-02-07 闘争!角栄学校 上 大下 英治 ★★★
947 2006-02-05 新リア王 上・下 高村 薫 ★★★★
946 2006-01-29 夜回り先生の卒業証書 水谷 修 ★★★
945 2006-01-26 探偵は黒服 藤田 宜水 ★★★★
944 2006-01-23 うしろ姿 志水 辰夫 ★★★★
943 2006-01-21 砂漠 伊沢 幸太郎 ★★★★
942 2006-01-19 団塊諸君山もいいぞ 大野 剛義 ★★★
941 2006-01-17 瞽女の啼く家 岩井 志麻子 ★★★★★
940 2006-01-15 ハルとナツ 届かなかった手紙 橋田 壽賀子 ★★★★
939 2006-01-12 四月の雪 キム・ヒョンギョン ★★★★
938 2006-01-10 悪魔が舞い降りる夜 福原 康太郎 ★★★★
937 2006-01-08 金春屋ゴメス 西條 奈加 ★★★★
936 2006-01-06 HOKKAI 高樹 のぶ子 ★★★★
935 2006-01-05 十四歳の死刑囚 花柳 幻舟 ★★★
934 2006-01-04 犯罪有理だから、日本人を殺した 森田 靖郎 ★★★★
933 2006-01-03 タッチ ダニエル・キイス ★★★★
932 2006-01-01 さまよう刃 東野 圭吾 ★★★★★

読んだ本の紹介です。紹介欄は読んだ後の感じたままの感想や紹介したい部分を書いたものです。
1098 風味絶佳

Date: 2006-12-24

おすすめ度 ★★★★

 山田 詠美 著  文芸春秋  発行:2005年5月

6編の短編
 「間食」 
 雄太は中川とび建設に入った。3ヶ月ほど早く入った寺内は変わり者で通っていた。飲み込みも早いし性格もいいけど変人だという。雄太は寺内にくっついていった。
 雄太は15も年上の加代と暮らしていた。よく気がつく加代だった。どういういきさつかは明確には答えられない。
 加代がいても雄太は女を作っていたが長続きはしなかった。加代のことを寺内に話した。寺内は真剣に聞き、ふと「加代さんは誰にかわいがられているのか」と聞いた。雄太は絶句した。そんなこと考えたこともなかった。

 「風味絶佳」
 ミルクキャラメルを祖母の不二子は私の恋人と呼んでいる。脳みそは糖でしか栄養が取れないという。70歳の老人がこのキャラメルで脳みそのしわが増えたという。
 その祖母が自分のことをグランマとお呼びときた。
 ガスステーションでは「おばあちゃん、いつものとおりでいいですね」というと怒られた。「私はあんたのおばあさんではない!」と。そして「不二子と呼んでくれ」といった。そして皆が「不二ちゃん」と呼ぶようになった。
 不二子が必需品にしているキャラメルには「滋養豊富 風味絶佳」と書いてあった。
 
1097 夜市

Date: 2006-12-22

おすすめ度 ★★★★

 恒川 光太郎 著  角川書店  発行:2005年10月

 裕司は高校の同級生のいずみを誘って夜市に行く。古い墓地の先の岬の方で開かれる。
 刀剣を買った老人が払う古い紙幣は日本円ではなかった。ある店ではのっぺらぼうに呼び止められた。老化が早く進む薬を売っていた。回りのものに飲ませれば言いという。見るだけで通り過ぎた。夜市にはなんでもあった。
 裕司は昔、弟を連れてこの夜市にきた。野球がうまくなるというものを手に入れるために人攫いに弟を差し出した。弟はそれ以来戻ってこなかった。おかげで高校は野球で推薦入学できた。でもずっと憂鬱であった。
 裕司は今夜、72万円の全財産をもってやってきた。
 人買いに弟の特徴を言う。僕とお金で弟を買いたいと告げる。契約が成立した時、刀剣を買った老人が来て人買いを切る。人買いはうそをついていた。弟はすでに逃げていた。
 夜が明けた。いずみは岬にたたずんでいた。ハンチングを着た男が「彼の弟の話をしましょう」と語りかけた。弟は人買いから逃げた。そして自由を手に入れ、知識も手に入れた。片時も人買いと自分を売った兄のことを忘れたことはなかったと話す。
 夜市は3度しか行くことができない。
1096 前世ハンター

Date: 2006-12-20

おすすめ度 ★★★★

 野崎 六助 著  新潮社  発行:2001年7月

 美幸はそばで血の臭いを感じていた。滝浦幸生の血である。玉が身体にとどまっているのかかすったのかも分からない。血が流れ出て日の丸を作っていた。
 もう逃げられない。階段を上がってくる音がする。美幸と幸生は高さ200メートルのブリッジから身を投げた。
 どうしてこうなったのか。あれは7ヶ月前だった。カーネーション計画に加わった5人。幸生は人事部付で出向しているような存在だった。
 このプロジェクトは前世を探っていた。会社を害する人間を見つけ出すことだった。
 美幸はいきなり、男に連れ去られ、連れて行かれた先に「お方様」と呼ばれる女性がいた。しかし、美幸は「この女は駄目だ」といわれる。「もっと若い女を調達して来い」。美幸の身にも不適な魔の手がのびてきて・・・。
1095 四度目の氷河期

Date: 2006-12-18

おすすめ度 ★★★★★

 荻原 浩 著  新潮社  発行:2006年9月

 自分には父親がいないと感じたのは4歳の時だった。南山渉は、幼稚園の時から振り返ってみる。母は父のことを話さなかった。誰の子がわからなかった。
 渉ると母はよそ者であった。近所に親しい人もいない。母は研究室に勤めている。母が帰るまで一人で留守番をする。
 渉は小さい頃から集中力に欠け落ち着きがない子とされた。小学校からはぐんぐん背がのびた。
 髪の毛が黒くないことから外国の子と噂された。母は若い頃、ロシアに行ったことがある。
 渉は自分はクロマニヨン人だと想像しながら過ごした。
 サチという女子が転校してきた。渉と友達になった。サチもよそ者だった。
 渉は中学に入り、陸上部に入った。走るのは速かった。
 飼っていた犬が何者かに毒を食べさせられ苦しんでいた。獣医に連れて行く。
 家に張り紙がしてあった。「生命をもてあそぶ研究者は町を出て行け!」と。母が倒れた。
 夜、サチやウサギたちが来て、いたずらをするのが何者か待ち伏せた。犯人は理科の教師だった。教師はそれ以後学校を辞めた。研究者としての母に嫉妬していたのだ。
 サチと初めてキスをした。母は入院をしていた。そして、渉が高校卒業まであと4ヶ月の時、母は43歳で癌で亡くなった。亡くなる前に父の話をしてくれた。父はロシアの研究者だった。
 渉は父を訪ねてロシアに行く。

1094 銀の弦

Date: 2006-12-16

おすすめ度 ★★★★

 平谷 美樹 著  中央公論新社  発行:2006年4月

 片倉は小夜子との結婚を控えていた。田舎が嫌いという小夜子に田舎に住みたいともいえない。
 釣りに行った片倉は、岩に突き出た人間の腕を見つける。腕は岩から生えたようについている。手の第二間接に絆創膏が巻いてあった。上嶋もいま同じ位置にバンドエイドを巻いている。
 どうなっているのだ。とりあえず、警察に知らせる。警察も岩を科捜研に運んで調査を始めた。
 片倉は同じ山で自分そっくりな人物をみる。しばらく隠れて様子を見るが、ばったり出会ってしまった。相手も驚いていた。そしてふたりは殴りあう。片倉は自分そっくりの人物を殺してしまった。死体を隠そうと画策する。
 しかし、何者かが片倉が人を殺したことを警察に通報する。
 腕は上嶋の物とされた。しかし、上嶋はあのとき、自分と一緒にいたはずだ。岩を見て気持ち悪がっていた。
 片倉は見えない何かを感じていた。
1093 七夕しぐれ

Date: 2006-12-14

おすすめ度 ★★★★★

 熊谷 達也 著  光文社  発行:2006年10月

 仙台市のO町に引っ越してきた和也は小学校5年生だった。引っ越した先は1軒家であったがバラックと言ってもいいほどのあばら家だった。
 父は学習塾をやっていた。母もパートで働き始めた。近所のユキヒロは、おなじクラスだった。ユキヒロは学校から帰ると屋台のラーメンを手伝っていた。夜中1時ごろになることもあるという。学校へはよく遅刻してきた。
 同じ地域にナオミもいた。ナオミの父は刑務所で働いていた。「人殺し」だと人に言われていた。
 クラスをよく見るとナオミとヒロユキは友達が話しかけない。
 和也はエタ町という言葉を聞く。江戸時代のエタ、非人の差別のことである。
 和也とナオミは図書館で調べた。ほんとうに自分達の町がエタ町なのか。しかし、なかなかその文献はでてこなかった。最後に江戸時代の地図をみた。そこには確かに穢多という地名があった。自分達の町のある場所だった。暗い気持ちになった。
 和也は新聞委員会で記事を提出すると編集長がいい記事だとほめてくれた。さっそく発行に取り掛かった。しかし、職員室から呼ばれストップがかかった。「寝た子を起こすな」ということだった。
 和也とナオミはあきらめきれず、和也の父の学習塾でそっとガリ版刷りする。2000枚が出来上がった。ナオミが校内放送をする。その内容はビラに書いてあるので、屋上からまくとも言った。先生が止めに入った時にはほとんどまいていた。
 結局、家庭訪問をされた。しかし、親からは怒られもしなかった。その後、和也はふたたびT町に引っ越した。父が高校の教師に採用されたのである。
1092 棟据刑事の荒野の証明

Date: 2006-12-12

おすすめ度 ★★★★★

森村 誠一 著  双葉社  発行:2006年4月

 山名はワープ本社の開発部にいたが、突然末端子会社のゴルフ場に異動させられた。明らかに左遷である。
 直前に山名は妻と離婚していた。
 ゴルフ場には社長もやってくる。一緒に働く芝生管理の愛と親しくなる。愛の姉の由香が行方不明だという。
 由香は愛とは別に暮らしていたが、暮らしぶりは派手でもあった。
 姉の由香と写真に写るゴルフ場社長江頭とのツーショットが見つかった。
 愛は山名と社長の妻にその写真を送る。そして1000万円をたやすく手に入れることに成功した。山名は金を全額を愛に渡す。
 そしてふたたび500万円も手に入れることが出来た。山名は社長のそばに近い医師の村川に目をつける。由香と同じ時計をしていた。
 別れた妻と江頭が親しい関係であることを知る。山名はそれが左遷の原因だったと知った。
 会社をやめる覚悟で山名は愛に、由香の失踪を警察に話すと伝える。
 医師の村川のバックからコカインが見つかる。
 由香は殺されていた。江頭に近づき、いずれ淀君になろうともくろんでいたようだ。
 愛は山名と別れ一人で生きると告げる。
1091 腐食の王国 上・下

Date: 2006-12-10

おすすめ度 ★★★★★

 江上 剛 著  小学社  発行:2005年5月

 西前は東名銀行の部長から頼まれた用件で裕子を訪ねる。裕子は妊娠していた。部長の子だ。秘密裏に堕胎するよう話すつもりだった。しかし、目の前の裕子はそれを拒んだ。
 何度か裕子と会ううちに西前は生まれる子を引き取りたいと申し出る。「奥様が了解すれば」という条件で妻とも会う。妻と西前の間に子がなかった。裕子は出産後、子(愛と名づけた)を西前夫婦に託しイタリアに飛立つ。部長にはこのことは秘密にしていた。
 銀行は合併をし、東名富国銀行となった。事実上は東名の優位で進められた。しかし、パシフィックファイナンスの資料や行員の殺傷事件が表沙汰にされる。しかし、それも何とか切り抜ける。
 部長は頭取となった。西前は生涯頭取の部下であるとされていたが、徐々に腐食する内部にこれではいけないと頭取を失脚させる側に立つ。そして自分も辞めるつもりでいた。
 裕子がイタリアから一時的に帰国した。上野で美術展を開催していた。裕子は西前の計らいで愛と頭取にも会うことが出来た。そこへ刃物を持った男が頭取を刺す。
 愛はとっさに「お父さん」と呼ぶ。西前は目していたが、愛は自分の存在を知っていた。裕子が母であることも。
1090 ダブル

Date: 2006-12-08

おすすめ度 ★★★★★

 永井 するみ 著  双葉社  発行:2006年9月

 女性がトラックにはねられ死んだ。女性はミルクちゃんというフィギアを持っていたはずである。それが見当たらない。
 痴漢騒ぎで痴漢とされた森は次の日出社していた。週刊フィーチャーの多恵は不思議に思った。当然捕まっていると思った。すぐ痴漢男とされた森に取材を申し込んだ。森はふくろうの絵のついた名刺入れをなくしたという。相手の女性の虚言であったためすぐ釈放されたようだ。
 その森が地下鉄入口の階段から落ちて死んだ。
 痴漢騒ぎの際に妊婦が気分が悪くなったことを知った。妊婦がもしかしたら何かを知っているかもしれないと多恵は思った。
 妊婦から電話があった。多恵は会うとミルクちゃんのストラップをしていた。そういえば、この妊婦は名刺入れも持っていた。不釣合いな名刺入れ。妊婦は乃々香といった。乃々香は胸を触られようとしていた。おじいさんだった。
 ところがそのおじいさんが亡くなった。缶入りコーヒーに薬物が入っていた。おじいさんは田村という。
 多恵は乃々香のマンションのプレートの下に田村のプレートを見つける。おじいさんの家のものだった。
 まちがいない!犯人は乃々香だった。多恵は乃々香に会い自主を勧める。しかし犯人は別のところにいた。
1089 てのひらの宇宙

Date: 2006-12-06

おすすめ度 ★★★★

 川端 裕人 著  角川書店  発行:2006年8月

 妻が病院に入院した。まだ5歳のミライと2歳のアスカを僕が見る。
 ミライは「なんでお医者さんはママのビョウーキをなおせないんだ」と聞く。そして「バラバラにしちゃ駄目かな。そしてまた組み立てる」「そうしたら薬が身体までやっつけなくてすむだろう」という。「癌はやっつけてもいいけど、かあちゃんはやっつけるなよ」
 妻は癌である。再発をし生存率は低い。子ども達なりに母親が死ぬということを考えている。
 僕は出来るだけ、川にカメを探しに行ったり、町の中に化石を探しに出かけた。ミライはぼくそっくりにそれらに興味を示した。
 妻も頑張っている。子ども等もすべてを知り尽くそうと何にでも興味を示している。流れ星が彗星のかけらだということを教えた。「図鑑のお兄ちゃんはとうちゃんだったのか」と気付く。

1088 鯉浄土

Date: 2006-12-04

おすすめ度 ★★★★

 村田 喜代子 著  講談社  発行:2006年10月

 9編の短編
「からだ」では、人体の終末について、一人の青年がアメリカからやってきた。アメリカ人だった父は彼を連れて母国へ帰った。母は日本人だった。母親の再会を夢見て日本にやってきたが、いろいろ訪ねあて、やっとある病院で母が身元不明のまま息を引き取り臓器の一部が標本になっているということであった。青年は母の静脈や動脈が網目のようになって仰臥している透けて見える標本となっていた。
「庭の鶯」では、グリム童話「ねずの木の話」にでてくる継母が夫の連れ子をナベでスープに煮られる。少年は鳥となって お母さんが僕を殺しお父さんが僕を食べたと泣く
 福岡民話や長崎民話で父が京や江戸で働いている間に、こどもが継母に釜茹でにされ、木下に埋められる。父親が鳥に導かれるままそこを掘り起こすという話し。
 

1087 異常気象売ります 下

Date: 2006-12-02

おすすめ度 ★★★★

 シドニィ・シェルダン 著  アカデミー出版  発行:2006年11月

 常気象を発生させることができる技術開発を巡って、世界中で科学者たちの不審死が発生し、そのすべてにある研究所が関わっていることが明らかとなり、その謎を美女二人が解き明かしていくというストーリー。
 ダイアンとケリーはマンダリンホテルにいた。二人はともに科学者の妻である。何者かに狙われていた。
 ケリーとダイアンがホテルから出た直後、部屋の壁に大きな穴が開いていた。
 なぜ行く先々が分かるのか。二人はタナー・キングスレーから名刺をもらっていた。名刺にチップが入っていると気付いた二人は名刺を捨てた。
 ケリーとダイアンはお互いに電話でペントハウスで落ち合うことになった。しかし、二人が会うと電話はしていないことが分かった。誰かが自分達の声に似せてここにおびき寄せた。二人は階段から降り、地下鉄に乗る。
 二人は新聞で明日、死亡した科学者達の追悼式をする。あえて出席することにした。人気司会者のベンを呼んでいてカメラクルーも着ていたため二人はまたしても難を逃れることが出来た。
 しかし、二人はハリー・フリント上院議員の助けで無事脱出できたように見えたが・・・
 ハリーはタナーに合図され二人に銃を向ける。
 タナーを乗せた飛行機が竜巻に飲まれ爆発する。スイッチを押したのはタナーの兄のアンドリューだった。
1086 灰色のピーターパン

Date: 2006-12-01

おすすめ度 ★★★★★

 石田 衣良 著  文芸春秋  発行:2006年6月

 真島誠は依頼者が小学生のガキだったのに驚いた。ガキは三原学院の初等科5年だという。携帯で女学生のスカートの中身を写していた。シャッター音は消してあった。
 それを同じ学校の友人に知られ、高校生にも知られた。このままでは自分は退学になってしまうし、利益の半分をよこせと脅されている。写真は1枚3千円か7千円である。
 その男達に一人当たり15万円で話をつけてもらいたいという。誠は3人に会う。しかし3人は丸岡という男にも話してしまった。丸岡はぶちきれると何をするか分からない男だった。
 誠は丸岡を居酒屋に誘って飲ませた。そして11時過ぎに別れた。丸岡には女の子が寄って来て誘っていた。飲んだ丸岡はいい気になって女の子の言いなりになって店に入っていった。
 丸岡は散々酔った後、請求された金に腹を立て店で暴れた。その分も何倍にもなって請求された。丸岡は姿をくらませた。
 誠は依頼者のガキから自分のしたことを親に話すと聞かされる。
 足を怪我させられ調理師としての仕事を失ったという男の妹からの依頼で、怪我をさせた男を捜す。男は職もなくブラブラしていた。
 ときどき若い男と接触している。誠は怪我をさせた音川に会う。音川は金を巻き上げられるいじめられっこだった。渡す金がなく、あの時はじめて調理師の司を強請ったという。音川は当時18歳だったので少年院で過ごしすでに退院していた。
 誠は司にも会う。話を聞き、何か方法はないかと思案する。
 誠は司と音川を引き合わす。音川は司に泣いて誤る。音川は司の足になるという。
 後日、司はパスタバスを出すことにしたという。中型バスの店だ。音川も手伝っていた。
1085 求愛

Date: 2006-11-30

おすすめ度 ★★★★

 柴田 よしき 著  徳間書店  発行:2006年9月

 弘美は胸騒ぎがして由嘉里の家に向かった。ドアを開けると由嘉里の夫が弘美を呼ぶ。
 風呂のタイルは赤い絵の具でも流したようだった。由嘉里の死から10日後、由嘉里から葉書が来た。住所がにじんで誤配されたのが今頃届いたようだった。自殺した当日の消印だった。
 弘美は由嘉里が殺されたと直感する。
 弘美の考えたとおり由嘉里が離婚を口にしたことでかっとなった夫の姉に殺された。
 命日に墓参りに行くとよく会う人がいた。弓枝だった。弓枝は4歳の息子を亡くしていた。
 弓枝をたずねた弘美はマンションで男と心中しているのをみた。その日は墓参りの日である。またしても弘美は弓枝は殺されたと直感する。
 弘美は弓枝と一緒に死んだ塾の講師となった。誰が殺したか知るために。そして美人の須田恵里子が犯人だと確信する。
 弘美を殺そうとした恵里子は警察に捕まる。
 弘美はホームで突き飛ばされる。危ないところを梶本という探偵に助けられる。
 梶本は弘美をつけている者をつけていた。桑名美夜である。弘美が余計なことをしなければ、心中事件で片付けられていたのだ。
 弘美は梶本の探偵事務所で働く。弘美を取り巻く事件は続いていた。
 弘美は探偵に向いているのかもしれない。
1084 眠れぬ真珠

Date: 2006-11-28

おすすめ度 ★★★★

 石田 衣良 著  新潮社 発行:2006年4月

 内田咲世子は45歳独身、一度結婚の失敗した。新聞小説の挿絵を描いている。作品に行き詰るとフォルックスワーゲンで厨子の高台にある別荘に行く。銅版画の製作に取り掛かる。
 咲世子はカフェで倒れた。その時に手助けしてくれた青年徳永はカフェのウェイターだった。17歳年下だった。
 咲世子には卓治というボーイフレンドがいた。卓治には妻がいたが、自分のほかにも女性と交際しているようだった。
 ある日、卓治から付き合っていた亜由美のことが妻に知れ家庭が崩壊寸前だという。咲世子は自業自得だという。
 ところが亜由美は咲世子にも変な手紙をよこす。切手のない手紙がドアに挟んであった。
 咲世子を中傷する内容だった。亜由美は山陰の大金持ちの子で28歳。思い込んだ行動に卓治も恐怖を抱いていた。
 度重なる手紙に咲世子は仕事が手につかない。
 カフェに行くと徳永と親しくなった。咲世子は、歳の差を越えて関係を持つ。
 徳永が話してくれた椎名ノアとの関係。ノアは今は女優である。彼女が13歳の時に妊娠させた。そして中絶したという。
 それを聞いても咲世子は徳永が好きだった。徳永は映画制作の仕事をしていたという。監督もやった。
 徳永は咲世子を撮り始める。そこへ椎名ノアがやってくる。徳永を映画の世界に戻したいという。
 亜由美がホテルから飛び降りて死んだという。咲世子に嫌がらせの手紙を次々によこしていたのに死んでしまった。
 咲世子は、徳永と別れる。卓治は新しいギャラリーを開店させ咲世子の絵を飾るという。
 しばらくして徳永から咲世子を撮ったドキュメンタリーを映画祭に出品するという。
 その作品は最優秀賞をとる。
1083 月下の恋人

Date: 2006-11-26

おすすめ度 ★★★★

 浅田 次郎 著  光文社 発行:2006年10月

 11篇の短編
「情夜」では、村山は昼間から酒を飲んでいた。家賃はもう1年も払っていない。妻は子を連れて出て行って7年になる。51歳になる村山には、家賃は払えなくても酒は毎日飲めた。
 ある日、村山の手元に「村山様方 青山えり子様」という現金書留が届く。中に20万円入っていた。青山えり子に心当たりがなかった。
 そこへ都立大学を卒業し、証券会社に入ったという別かれた息子が訪ねて来た。妻が再婚するという。ついては離婚届を息子が代理で取りに来たのだった。そして、村山の方にも、知らぬ間に青山えり子という女性が住民票に記載されていた。
 息子が帰った後、村山は部屋を何ヶ月ぶりかで掃除した。ガラスも磨き網戸も洗った。
 夜、女性が訪ねてくる。

「告白」では、親友の奈美が「梓、おやじのことあいつというのはやめたほうがいいよ」という。
梓はおやじは父の親友で両親が離婚した後、母と一緒になったことを話す。すると奈美は「梓を捨てた人がお父さんで拾ってくれた人があいつなの。変ジャン。呼び方は逆さでなくちゃおかしいよ」という。そしてあいつをいい人だという。
 梓は知っていた。ミッキーマウスの通帳に毎月こづかい見たいに振り込まれるお金。1年生の時は千円。2年生になったら2千円。そして今、70万円を越えている。ほとんど使ったことがなかった。毎月25日に振り込まれるが、通帳に入るお金とは別に振込み料がかかるという。毎月毎月・・・。梓はあいつが振り込んでくれていると気付く。
 雪の日、迎えに来てくれたあいつに思い切って聞く。小遣いが途絶えたらあっちゃんが捨てられたと思うだろうと。梓は「もういいよ。70万あったら車買い替えられるよ。コートぐらい買いなよ」という。すると「このお金、定期に入れてお嫁に行く時のたしにしような」とあいつが言った。

 
1082 破婚の条件

Date: 2006-11-25

おすすめ度 ★★★★★

 森村 誠一 著  光文社 発行:1999年10月

 いつも同じ屋根の下でお互いが顔をつき合わしている惰性の生活に疑問を持った妻の昌枝は、夫に別居を提案する。
 夫の入った風呂には入れなくなり、先に入るようになった。歯磨きのチューブを別にした。一方的に夫を疎んじるようになった。結婚して7年目である。子どもはいなかった。
 杉並のマンションを出て中野と新宿の区界にアパートを借りて暮らし始めた。
 ある日、昌枝がマンションを訪ねると夫が死んでいた。あわててアパートに戻る。
 警察が訪ねて来たとき、夫の死をはじめて知ったように振舞った。
 夫には1億円の生命保険がかけてあった。夫が勝手に契約したことで昌枝は知らなかった。
 10年前にコスタリカのホステスが自宅のアパートで殺された。そのアパートに殺された夫も住んでいた。
 生命保険会社の中西は昌枝に何かと親切にしてくれた。1億円は昌枝に支払われた。しかし、昌枝は中西に少し金を用立ててやったが、これ以上は出せない。
 中西は睡眠薬入りのビールを飲み寝込んでいるところを昌枝が鼻口にビニールをあてあっけなく死んだ。
 刑事の棟居が訪ねて来た。夫を殺した犯人が見つかったという。逸見という男だった。
 
 
1081 ぼくだけのアイドル

Date: 2006-11-23

おすすめ度 ★★★

 新堂 冬樹 著  光文社 発行:2006年8月

 僕はバスケットのNBAのユニフォームを着て高取美千に会いに行く。みーちゃんは僕の恋人だと母に言った。
 しかし、みーちゃんはみんなのアイドルだった。
 僕はムシムシワールドに勤める店員だった。
 「キャバクラでもて男になる50か条」を読んでキャバクラに行った。しかし、トイレに立った時に耳にした言葉に愕然とする。「あのさぁ、ちょーキモイ男がいて、フリーの新規のくせに私を誘ってきたのよ。遊びなれていないオタクのくせに自分がいやし系キャラとでも思っているのか、気持ち悪い。昆虫屋のくせにインセクトなんてかっこつけちゃって」それを聞いた僕は脳が真っ白に染まった。「キャバクラでもてたいなら本に頼らず自分の言葉で盛り上げること」というページが最後に書かれていたのを思い出した。
 僕のみーちゃんは、デビューして2年だが、すでに42歳の株長者と結婚していたことが分かった。さらに驚いたことに14歳の娘がいた。
 その娘は桜子でムシムシワールドに時々出入りしていた。みーちゃんはなんとムシムシワールドの社長の妻だったのだ。
1080 膠着

Date: 2006-11-21

おすすめ度 ★★★★

 今野 敏 著  中央公論新社 発行:2006年10月

 啓太はスナマチ株式会社に入社して1ヶ月たった。三流大学を出て、10社ほどの面接を受け、やっと入った会社である。
 マルコウの納めるノリを30ケースと50ケースを1桁間違えて300ケースと500ケースを納品してしまった。
 いつもはやる気がなさそうに見える先輩の本庄は目を輝かせてマルコウに啓太を連れて行く。本庄の説得で品物は引き取ることなくそのまま納めることが出来た。
 突然、啓太は本庄と共に新開発のプロジェクトに入った。機密事項の秘守義務があった。メモを取ることも許されなかった。
 接着能力のない糊が開発された。新製品開発の失敗作である。これを何かに使えないかということだった。
 啓太は、パソコンのCPUトファンクーラーの接合面にシリコングリスとして使えないかと提案する。
 スナマチがスリーマーク社の子会社になるという噂が株価を急落させた。
 真奈美が啓太に近づいてくる。スパイかと疑った。最近、真奈美は専務とも親密そうである。
 真奈美が専務と親戚関係であることが分かる。
 啓太の案が商品化の方向に向かい、スリーマーク社に買収されるのを食い止めた。
1079 図書館内乱

Date: 2006-11-19

おすすめ度 ★★★★

 有川 浩 著  メディアワークス 発行:2006年9月

 郁の両親が武蔵野第一図書館の見学に来た。郁が勤める図書館である。何かと取り繕おうとしたが、両親は「いい職場だ」といってくれた。
 小牧教官がいつも面倒を見ている中沢毬江は突発性難聴がもとで耳が不自由になった子である。その子にこともあろうに難聴者に難聴者がヒロインの本をすすめたと査問委員会が人権侵害だと騒ぎ出した。ところがそれを聞いた毬江が小牧を救った。査問委員に向かって「障害を持った子がヒロインになる権利もないのですか。この本を楽しんだことが差別だなんて言われなくちゃならないのか。楽しんで読んでいるのに。差別をわざわざ探しているみたい」と言ってしまう。
 「週刊新世相」に少年の実名と顔写真が掲載された。日本図書館協会は、それぞれの図書館に判断を任せた。武蔵野第一図書館は、無期限で閲覧禁止にした。少年法に抵触することが、住民の知る権利よりも重視された。
 そのページを切り取って見せる館も在るという。別の記事の連載も閲覧できないことで見られない。他の記事はコピーで対応することにした。
図書館界はこの閲覧の問題で苦慮することになった。
1078 牡丹酒

Date: 2006-11-17

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  集英社 発行:2006年9月

土佐に入国した雄之助は、司牡丹の蔵開きをみることができた。江戸に持って帰った土佐の塩辛と司牡丹という酒はうまい酒だと宗佑に喜ばれた。
 雄之助には蔵秀という息子がいた。宗佑と蔵秀と雅乃は司牡丹を飲みうまさに驚いた。そして江戸のこの酒を広めたいと思った。
 4月、辰次郎と蔵秀と宗佑、雅乃は箱根を越えていた。捻挫した雅乃を気遣って、清水港から土佐まで船で行くことになった。
 土佐に着いた4人は、大正屋に向かう。大正屋は雄之助の勧めの宿である。
 土佐に落ち着いた4人は、父親を探す金太とも仲良しになる。
 大提灯は横1丈半(4.5メートル)高さ2丈半もある「油照りに 冷や乃 司牡丹」の下に雅乃が牡丹の花を描いた。見事なものだった。
 廻漕問屋にも出向き、司牡丹の2百石積みの大型船を調達した。あの大提灯をつけた船である。
 土佐から出た司牡丹は、江戸へ着くまで60日以上かかった。端麗辛口の司牡丹の評判は上々だった。
 しかし、一時それをねたむ人間から「土佐の酒を飲むのは命がけ」という噂が流れ売れなくなる。が、みかんで有名な紀文が紅葉狩りの大宴会の席で司牡丹を飲んでみせる。紀文が司牡丹を江戸に広めようとしたものと知り合いであることを人々は噂する。
 
 
 
1077 北京の檻 幽閉5年2ヶ月

Date: 2006-11-15

おすすめ度 ★★★

 鈴木 正信 著  集英社 発行:2006年9月

 中国大連に生まれ、中学も中国で学び戦争後も帰国しないで中国共産党軍に徴用され、中国医科大学へ行く。
終戦後8年たって帰国。帰国した後はNHKに就職したが3年で退職し兼松に入社する。
 中国との貿易に従事し、8年後突然北京監獄に投獄される。
 スパイ容疑であった。しかし身に覚えのないものだった。劣悪な刑務所ぐらし。
 1972年の田中首相の国交正常化になり、翌年、やっと釈放される。
 帰国後、再び兼松の中国貿易に従事する。天安門事件のあった1989年兼松を退職する。
 中国での取調べの様子や戦後の混乱ぶりがよく分かる。

1076 水銀虫

Date: 2006-11-13

おすすめ度 ★★★★★

 朱川 湊人 著  集英社 発行:2006年9月

 7編の短編
「枯葉の日」では、妻を殺した男が、自分の子を殺した女と出会う。
 女の腰には男の子が張り付いていた。自分の腰にも死んだ女房が張り付いているのが見えるという。女は罰は受けなくてはいけないという。自首することをほのめかす。
 男は明け方妻を殺し9時ごろ有り金を銀行から降ろして持ち歩いていた。

「しぐれの日」では、10歳の薫は雨宿りをしていた。アパートの2回から20歳ぐらいの女に声をかけられた。その女の部屋に行く。女は薫に親切にしてくれた。
 ご主人が帰ってきたが、薫がいることで再び駅の方にケーキを買いに行き歓待してくれた。
 猫のような鳴き声がした。それは5歳の子だった。「お友達になってくれる?」と女が言った。抱かれた子はビニール人形が熱でとろけたようだった。「怖いでしょう?」と女がいう。
 女は突然「兄妹で愛し合うのはいけないのよ」と言った。「愛し合うことがこの世で一番素晴らしいのだ」と男がなくさめる。薫は飛び出した。
いけないことだと思った。それからそのアパートには行かなかった。高校を卒業してあの町を出た。先日久しぶりにあのアパートのそばを通った。アパートは壊されて駐車場になっていた。
1075 ヴェサリウスの柩

Date: 2006-11-11

おすすめ度 ★★★★★

 麻見 和史 著  東京創元社 発行:2006年9月

ヴェサリウスは、1514年生まれのベルギーの解剖学の医学に貢献した人物だ。

 国立東都大学で解剖の実習が行われた。遺体は27体に百人の生徒がグループに分かれ実習する。
 そのうちの一つからチューブのような塊が出てきた。中を開くと3センチ×4センチの紙に「園部よ私は戻ってきた。Kを咎めよ。Tを罰せよ。最後にお前は沈黙するだろう」と書かれていた。
 千紗都は、園部教授の助手としてこの大学で実習生の指導に当たっていた。
 このことを葬儀屋から事務員としてきた梶井と調べることにした。まず、遺体の身元から調べた。
 遺体は日下部栄子という82歳でなくなった人だった。19年前に献体登録をしている。日下部を調べるうちに久世という医師にかかっていたことを突き止める。久世は19年前になくなっていた。栄子が手術したのは19年前である。
 久世は園部と同じこの東都大学にいたことがある。
 北教授が吐いた物をのどに詰まらせ死んだ。北教授は園部の恩師である。つまりメッセージのKである。咎めよという意味は何か。
 北教授が昔、献体登録のない遺体を腐敗処理してしまった。久世はその遺体を低温液保存に使っていた。久世が大学を辞めるきっかけになった事件である。
 久世はその後自分が北によって厄介払いをされたと知る。そして復習が始まった。久世には時間がなかった。癌に侵されていたのである。
 久世の子供をあちこちの女性に産ませた。そしてメッセージを残した。子供たちは成長し、医師を目指して大学に入ってきた。
 久世の子供、それは千紗都の実験室にもいた。
 
1074 真夏の島に咲く花は

Date: 2006-11-09

おすすめ度 ★★★★

 垣根 涼介 著  講談社  発行:2006年10月
 
 織田良昭は、16歳の時フィジーにやってきた。両親と共に8年前にこの島で「織田」という日本食レストランを開いている。
 この島ではフィジー人と同じぐらいインド人がいる。百年ほど前までイギリスの植民地だった。フィジー人が働く意欲のない民衆だと知るとイギリス人はとなりのインドから大量の労働者を雇い入れた。5年働けば自由にしてやるという条件で半ば強制的につれてきた。
 茜は会社で受け入れた日本からの団体客をもてなす仕事をしていた。茜は4年前に24歳でこの島に来た。そこで茜が感じたものは今までの人生で知らなかった感情である。
 茜は余ったお弁当をもらった。チョネという友達と食べようと思った。
 茜とチョネ、織田良昭とサティーは友達だった。4人で会うこともあった。チョネは勉強はからきしだったがサティーはよく出来た。良昭もヨシと呼ばれ学校一秀才だった。ヨシは大学に行かなかった。3年前にこの国に帰化した。
 フィジー人は多少怠け者でも時間にずぼらでも自分が堪えるべきだとヨシは思っている。この国はインド人のほうがまじめでよく働く。しかし、フィジー人には、百年たった今でもこの国は自分達だけのものだと思っている。自分の家に間借りした者がその家の持ち主以上の暮らしを始めたらいい気はしない。なんでも分け合って助け合って暮らしてきたフィジー人である。
 中国人やインド人はフィジー人からはよく思われなかった。日本人はおとなしい分、さほど嫌われなかった。
 中国人の経営する質屋で、60ドルで預かった品物を50ドルで引き取るというフィジー人が暴れだした。チョネの知る人物だった。騒ぎは大きくなった。
 それでなくても国会議事堂を占拠したクーデーターが起こり、52日間占拠しやっと収束したばかりだった。
 質屋の騒ぎは収まった。
 フィジー人には特有の明るさがあり、世界一早く朝を迎える国である。

1073 冬の砦

Date: 2006-11-07

おすすめ度 ★★★★★

 香納 諒一 著  祥伝社  発行:2006年7月

 警察を首になり高校の用務員兼柔道の顧問となった桜木は、プールの脇で女子高校生の全裸の死体を見つける。
 すぐさま理事長の村主校長に連絡を取った。死体は校長の姪の佳奈だった。
 佳奈と母親の富江は、かって夫の暴力から逃れるためにシェルターに一時保護されていた。シェルターでは子供と母親がいなくなったことで怒った男が暴れ非難していた母親が3人とスタッフ1人が殺される事件が10年前にあった。その中にいた啓は子供のいなかった理事長夫婦に引き取られた。そして目の前で母が父から銃殺された山本卓がいた。父もその後つれて逃げた弟を殺し自らも卓の目前で自殺した。現在、山本卓はこの学園に登校していた。
 学園では敷地に一部を売却する話が出ていた。
 事件の後、報道陣が詰めかけ授業にならないと判断し休校となった。
 怪文書が出回る。佳奈という生徒が売春していたというものだった。
 桜木はこの事件を調べるよう理事長に頼まれる。佳奈の部屋に行き、ベッドが斜めになっているのを不審に思った。そしてほこりがなくなっていた部分を見つけ、佳奈が自殺したと断定する。何者かがプールの脇に運んだのだ。
 理事長の姉である佳奈の母親は再婚し、自宅の見える場所に部屋を借り、佳奈は一人暮らしをさせられていた。部屋には双眼鏡があり、家の中の様子がよく見えた。
 佳奈の体から義父の金山秀夫の精液が検出され逮捕された。
 佳奈の葬儀に富江の前夫川上がきていた。川上は佳奈の部屋に入り込んでいた。
 川上は菅沼が佳奈をたぶらかしたといった。
 10年前、学園の女教師があることがきっかけで辞めさせられた。根本藤子である。その根本の父親が殺された。桜木は川上を追っていて瀕死の根本を見つけた。
 理事長の村主は10年前、啓の父親がわが子を裸にし写真を撮りそれでお金を得ていた。それを知った村主は「あんたはそれでも親か!」とののしった。父親は反対に村主を脅してきた。どうしても啓を育てたいならくれてやる。その代わりに金をよこせと。そして揉み合いになり気がつくと男は倒れていた。自首すればよかったが建設中のプールの下に死体を埋めてしまった。自首をしなければならないという。
 その村主理事長は菅沼陽司にナイフで刺されて死ぬ。
 理事長の反対派であった左近寺と金山秀夫は横領の容疑で逮捕される。
 

1072 あの日にドライブ

Date: 2006-11-05

おすすめ度 ★★★★

 荻原 浩 著  光文社  発行:2005年10月

 なぎさ銀行日本橋支店の牧村は、ある一言の失言から銀行を首になった。今でもあの上司の顔が浮かぶ。
 銀行は特殊なところだった。1時間前に出勤していないと遅刻とみなされる。上司より先に飲み会で箸をつけようものなら土下座させられる。
 口答えはもってのほかである。そんなところなのだが、同意を求めた上司に牧村は意味不明な言葉を発してしまった。しまったと思ったが遅かった。銀行を追われた。
 今はタクシーの運転手となった。妻は銀行員の給与を愛していたのか、銀行を辞めた途端に冷たくなった。
 営業収入はノルマの半分以下の日が続いた。2日に1日は休みだが、ほぼ24時間勤務だ。
 白金のかって自分が暮らしたアパートのそばを通る。4畳半風呂なしのアパートはまだあった。
 家賃は2万円でいいという。近く取り壊される。この部屋を借り、仮眠をとることもできる。この部屋から夢がいっぱいだったあの頃を思い出していた。
 そして、一緒に住んだ恵美を思い出し、現在のうちの近くにタクシーを止めてながめていた。何日かしてやっと恵美に出会う。格段とよくなっていたが、「おばちゃんいつまで家にいるの?」という言葉に顔を引きつらせていた。そっとその場を離れた。
 運良く、客がつき始めた。ノルマを達成するぎりぎりまで行く日が出てきた。
 銀行の日本橋支店長の徳田がタクシーに乗り込んできた。酔っていた。旭というので千葉の海まで行く。徳田は途中で寝てしまう。朝、起こして代金が5万2千円だという。徳田は部下だった自分の下の名前までは覚えていなかった。
 女房に電話をしないととんでもないことになるとおろおろする徳田を8時までに相方に車を渡さなければならないと先を急ぐ。
 運転しながら、自分の通ってきた道は、結局間違っていなかったと思うのだった。
1071 導火線

Date: 2006-11-03

おすすめ度 ★★★★

 松浪 和夫 著  徳間書店  発行:2006年9月

 深い海の底に沈んだものが確認された。市谷の駐屯地千葉茂則情報官の元へ報告された。
 その物体を引き上げるために秘密裏に行われたが、作業途中でそれが危険なものと察した隊員により小競り合いになり一人が死亡した。
 千葉は迎えに来たヘリに乗り太平洋を南下し蓬東島へ飛んだ。
 内閣情報調査室は、海底から引き上げたものを飛行艇に積み運び去ったことの報告を受けた。ヘリが一機不明になっている。
 千葉は水元総理に4つの要求をする。日米安全保障条約の破棄。在日米軍の全面撤退。イラクの自衛隊全面引き上げ。米国艦隊への燃料補給の停止であった。
 千葉は四天王と呼ばれるエリート中のエリートだった。なぜ千葉がこんなことを要求するか分からない。
 千葉は要求が受け入れられない場合、海底から回収した水爆を東京に向け発進するという。
 特殊作戦群第7班を使って、この国を守るために全力をつくすしかない。期限は明日の午後5時までである。原爆の66倍の威力を持つ。
 千葉らのたくらみに特殊作戦群が現地に飛ぶ。
1070 彼女の命日

Date: 2006-11-01

おすすめ度 ★★★★

 新津 きよみ 著  角川春樹事務所  発行:2006年9月

楠木葉子は、三鷹市の路上で刃物で胸を刺されて死んだ。35歳だった。
 シートに寝ている妊婦淵上早苗、その体に葉子は戻ってきた。元住んでいた家に行ってみた。
 裕司は葉子の妹の夏美と結婚をしていた。ちょうど夏美に声をかけられた葉子はとっさに野沢と名乗り海外から帰ってきたばかりだと偽って家に上がる。葉子を殺した犯人はまだ見つかっていないという。
 そして翌年の命日、今度は女学生の体を借りて実家へ行く。母は女学生を見て「葉子、葉子でしょう」と走りよる。しかし、これまで住んでいた家は別の人が住んでいた。母は認知症の症状が現れていた。
 3年目の命日は15年も人を殺して逃げている磯山敏江43歳の体を借りた。そのことを知った葉子は警察に行って罪を償うようにいう。そして捕まる。
 4年目は、お墓の近くにいると夏美と甥の孝一がお墓掃除に来た。「早く犯人が捕まってくれないと困る。命日ごとにへんなことが起こる」とお墓を洗いながら子に言って聞かせている。
 5年目、やっと犯人が捕まった。当時20歳の男だった。そして「もうここのはおねえちゃんの居場所はないのよ」と夏美が墓前で言っているのを葉子は聞いていた。
1069 永遠の0(ゼロ)

Date: 2006-10-31

おすすめ度 ★★★★

 百田 尚樹 著  大田出版  発行:2006年8月

 ジャーナリスト志望の姉が祖母の最初の夫の宮部久蔵の事を調べたいという。ニートをしていた弟の健太郎と調べる。
 最初に会った長谷川は埼玉の郊外に家があった。長谷川は祖父のことを臆病者だといった。命が惜しくてたまらない男だったという。二人は不快感を覚えた。
 次にであった四国の伊藤は、彼は勇敢な優秀なパイロットだったという。臆病というのには否定はしなかった。「妻のために死にたくない」と言っていたという。
 祖父は祖母とたった4年の生活で娘清子を設けていた。
 カミカゼは自爆テロリストという人がいる。
 入院中の井崎は、宮部さんは小隊長だが、部下にも丁寧な言葉を使う人だった。宮部は娘の写真を持っており、「娘に会うまで死ねない」という。搭乗の際も「井崎、死ぬなよ」といってくれた。
 永井らは米兵の死体のポケットから出てきたヌードの写真を皆で見たあと宮部がまた米兵のポケットに入れた。それを再びとろうとした兵士を宮部は殴ったという。写真は彼の奥さんだったのだ。裏に書いてあった。殴られた男もそれを聞き黙ってしまった。
宮部は出陣の前にある男に自分が死んだら家族を頼むと言う。
 戦争がもうすぐ終わろうとするころ、ゼロ戦は空母をめがけて海面すれすれを飛んできた。米兵の迎撃戦闘機を潜り抜け対空砲火も潜り抜けてゼロ戦は甲板の上で翼を吹き飛ばし燃えた。
 「われわれはこの男の敬意を表すべきだ」と水葬された。日本にサムライがいたとしたら、奴がそうだ。超人的なパイロットテクニックを持った日本人だった。
 宮部から頼まれた男は戦争が終わった後、家族を度々訪ねた。それが祖母の2度目の夫となった現在の祖父であることがわかる。

1068 小説家

Date: 2006-10-30

おすすめ度 ★★★

 勝目 梓 著  講談社  発行:2006年10月

 彼はという言い方だが自伝的小説である。
 彼は17歳で高校を中退して炭鉱で働く。しかし、労働組合の幹部としてストライキを決行した。会社は1週間後、倒産と閉山を勧告した。
しかし、会社は社名を変えただけで存続したが、組合の活動家たちは新しい社名の会社に雇用されなかった。近隣の鉱山にも危険分子として知らせが届いており採用されることがなかった。
 妻を連れて母の待つ家に戻った。200羽の養鶏を始めたが、彼は彼女ができた。妻も子もいるのに。彼女は読書サークルにいた女性だった。二人は東京に行く。
 彼は小説を書き始めていたが、運送会社で働いた。「文藝首都」という同人誌仲間と知り合う。その中に中上健次がいた。
 彼は13歳年下の若い女性と知り合う。またしても妻を裏切っていた。
 一緒に上京した女性も弁護士を立てお詫び料を払うことで分かれた。郷里に残した妻とも離婚した。
 若い女性は入籍前に子供を生んだ。そして彼と同じように小説を書くことに興味を見出していった。処女作は文芸誌に発表し書き下ろしも刊行された。そして夫である彼に縛られていると悟ったとき40を過ぎていたが離婚した。
離婚後も親戚同士としておつきあいをつづけるという関係をしてきた。
彼が70歳になった今も変わっていない。
1067 ヨンエの誓い

Date: 2006-10-29

おすすめ度 ★★★★

 イ・ヨンエ 著  日本放送出版協会  発行:2006年9月

 「チャングムの誓い」のチャングム役のイ・ヨンエ。
 大学を卒業後別の大学院に入学、演劇映画を専攻し、97年に映画界にデビューした。
 2003年から2004年に「大長今」に出演。韓国で大ヒットした。
 韓国では連続ドラマは1週間に2回放送されるのでハードスケジュールだった。
 この役を引き受ける決心をするまで2ヶ月かかった。その前に2年間の休業期間があった。復帰後の作品だった。
 70分のドラマを週2本書くというのに、台本は遅れたことはなかったが、覚えるのは本番2〜4時間で覚えなければならなかった。
 ハン尚宮を殺さないでという意見で7回で消えるはずが20回以上になった。
 2006年5月 NHKスタジオパークに出演。2002年に熱海の温泉街に行ったことがある。
 チャングムは演技面では心残りが在るが、いい脚本家といい監督に恵まれてヒットした。
 
 本の随所にイ・ヨンエの写真ページがある。
1066 空白の叫び 上・下

Date: 2006-10-28

おすすめ度 ★★★★★

 貫井 徳郎 著  小学館  発行:2006年9月

 中学3年生の男子が3人、それぞれに殺人を犯し少年院に送られた。
 久藤は担任の女教師柏木23歳の首を絞めて殺した。その前に何度か二人は性関係を持った。しかし、久藤は柏木に反抗的であった。そればかりか数人で柏木を強姦した。おとなしくなると思っていたが柏木はなれなれしく声をかけるようになった。ホテルにも誘われた。頼みもしないのに柏木の方から舐めてきた。それは久藤にとって不快なものだった。吸い付いた唇を離そうと渾身の力を込めて首を絞めた。金縛りが解けたようだった。
 葛城は一回りしか違わない義母に言われるまま義母の友人とホテルに行った。父は医師で4人目の妻がいた。葛城の家は裕福だった。使用人も離れに同居するという生活だった。葛城は熱心に勉強しなくても成績は優れていた。顔立ちも美男子であった。離れに住む使用人の中学生の子を殺した。日頃から心の中で鈍臭い馬鹿なやつだと思っていたが、そいつが葛城の作ったガンプラに手をかけ振り回した。かっとなりゴルフのパターでめった打ちしてしまった。
 神原は金遣いの荒い母親が勝手に男を作り出て行ってからは母の妹と祖母に育てられた。やがて祖母が亡くなり、祖母の残した金を巡って母親もやってきた。月々叔母の預金から多額のお金が下ろされていた。そして母親はそのお金を男に貢いでいた。神原をそれを知り、このままでは叔母ちゃんがかわいそうだと母親の家に火を放って逃げる。少年院で叔母ちゃんが喜んでくれると思ったのに神原を避けているようだった。
 3人の少年は少年院で陰湿ないじめに会いながら退院した。
 久藤は新聞配達をするが行く先々で新聞を盗まれ苦情が来ていた。やむなく辞めた。
 葛城は父親が与えたマンションで暮らし始めた。神原は叔母ちゃんの家ではなく近くにアパートを借りてもらい住むようになった。叔母ちゃんは母のところにいた男と同居しお金をいいように使われていた。バカだとののしった。叔母ちゃんは男に捨てられ金も残り少なくなって自殺した。
 久藤は金がほしかった。銀行強盗でもしようと葛城の力を借りる。神原も仲間に入れる。そして少年院で一緒だったほかのものたちも。
 金はうまく手に入れたが、神原は仲間から金を渡すよう要求される。墓地に隠した金を取りに行き、男達に追われ交通事故で亡くなる。
 葛城は仲間に自分の取り分をそっくり渡してしまう。久藤は柏木の父親から一生社会的に抹殺してやるといわれる。
 柏木の父親は、娘が殺された上に、児童に性的関係を持ったことでどういう育て方をしたかと面白おかしく報道された。何を言っても社会は聞く耳を持たなかった。被害者なのに汚名をかけられたまま2度娘は殺されたと思った。柏木の父親は久藤を調べた。人を介して嫌がらせもやった。極めつけは、成功したと思った銀行強盗も金を持ち出す自分の姿を写した写真を見せられた。
 久藤は警察に自首する。葛城は、自分の父と殴り殺した使用人の息子が父の息子だったことを知る。使用人の宗像に謝りながら殺してほしいと頼む。宗像は、私たちに詫びる気持ちが在るなら、生きて罪を反省できないでいる者たちに罪を犯すということがどういうことか一人でも多くの人に伝えなければならないといわれる。



1065  瑠璃の海

Date: 2006-10-27

おすすめ度 ★★★★

 小池 真理子 著  集英社  発行:2003年10月

 北関東ドリームバスが日立市に向かう途中、運転手の体調が急変しタンクローリー車に突っ込んだ。乗客は23人だった。バスは爆発炎上した。
 3台の乗用車も巻き込んで合計30人の死者がでた。
 萌の夫、孝明も41歳で36歳の妻を残して亡くなった。かろうじて残った衣服の柄と手の甲のほくろで確認された。
 年が明けて「北関東ドリームバス事故・被害者遺族会」が結成され、萌はその会に出席した。隣に座った石渡は10歳の娘を亡くしていた。
 遺族会の2回目のお知らせが来たが欠席した。会がまるで労働組合のような雰囲気だったのと闘うという言葉に違和感を持った。
 石渡から電話があった。彼も会に出席しなかったという。石渡は小説を書いていた。ぱっかりと穴の開いたような気持ちの二人は、店で飲みあうようになった。
 そして、萌は石渡のマンションに入り浸った。そんな折「二人は突然の事故で愛するものを失った二人だが、やはりどんな時でも、男は男、女は女ということだろうか・・・」と抱き合う二人が写真週刊誌に載った。
 萌の結婚前の彼はよかったではないかという。石渡はやさしかった。ポルノ小説も手がけていた。やがて、萌は、懸命に働くことで夫の死を紛らわそうとしていたのに会社は休みがちになった。石渡のそばにいることが多くなった。そして会社もやめた。
 石渡は部屋を掃除しておいてほしいという。きれいにした部屋で「死のうと思っている」と告白する。萌も一緒に死にたいと思った。石渡の仕事を片付けた。
 前日泊まった旅館の浴衣のヒモでお互いの手首を縛り、大バエ断崖で二人は瑠璃色の海に委ねた。夢を見ているような幸福感があった。

1064  静寂の子

Date: 2006-10-26

おすすめ度 ★★★★

 谷村 志穂 著  祥伝社  発行:2006年7月

 靖季の主宰するBURNSは、子供たちのための学習塾だったが、靖季は野遊びの天才というほど週末ごとに子供たちを川べりや山の裾野へ連れて行った。
 今では靖季のほかにスタッフ5人と事務員2名がいる。
 その会員の戸田という父親が海で溺れて死んだ。ひ弱な銀行員だった。
 すぐさま靖季は戸田の家に駆けつける。マスコミは戸田がBURNSの会員だったことから非難を始めた。
 そんな折、靖季の妻百合香は、戻らない夫を案じていた。そして、こともあろうに夫は亡くなった戸田の妻と親しくしていた。
 自暴になった百合香は、昔の彼のところで1夜を共にする。
 しかし、靖季は、だんだん戸田の妻に魅力を感じないどころか嫌悪を感じるようになった。
 そのころ、妻は妊娠していることが分かった。性交渉のない夫の知るところとなる。夫は妻の相手が誰なのかと思った。スタッフのダイなのか?と思ったとき、靖季を助けようとダイが近づく。
 自分に似ていない赤ん坊を抱きながら妻と娘と静かなところを求めて4人でいく。

1063  共犯者

Date: 2006-10-24

おすすめ度 ★★★★

 小杉 健治 著  双葉社  発行:2006年5月

 藤和カルチャースクールの講師瀬崎は、藤木令と飲んでいた。途中で瀬崎は中座し電話をかけた。30分ぐらいして席に戻り「お腹を壊した」と藤木に伝える。
 翌日、カルチャースクールの学長辻川が刃物で刺されて死んでいた。
 警察はすぐさま瀬崎にも事情を聞く。
 瀬崎は、別の男を頼んで辻川を殺し、その報酬として500万円を渡すと約束した梅津を呼び出し殺した後、車道から少し入った雑木林に埋める。
 梅津の死体は見つからずにすんでいた。ところが2ヵ月後に畑毛温泉で働いていた男を見て瀬崎は驚く。梅津が生きていたと思った。しかし、梅津は記憶をなくしていた。
 瀬崎は、梅津に記憶が戻りそうな場所に連れて行ってやる。
 ところが、その男は梅津ではなく、兄の康介だった。瀬崎は観念して梅津を殺したことを口にする。

1062  銀の砂

Date: 2006-10-23

おすすめ度 ★★★★★

 柴田よしき 著  光文社  発行:2006年8月

 珠美は藤子の見舞いに行った。藤子は51歳で流産したという。
 珠美は藤子の下で秘書として働いていた足掛け8年になるが、一時辞めていた時期があった。
 藤子は兄夫婦と姑のいるうちに嫁に行った。夫は学校の教師だった。姑との確執から藤子は妙子が保育園に入るようになって、パートで働き始めた。
 北海道を開発する不動産を電話で案内する仕事だった。しかし、これが原野商法といわれ、藤子も警察の事情を聞かれた。そこことが姑が藤子を家から追い出す口実となり子を置いて上京した。
子供を返してほしいという言葉も聴いてもらえなかった。藤子はその後、作家となり売れ始める。過去は伏せられ、OLからいきなり作家になったと扱われた。
 藤子の作品は珠美も好きだった。やがて秘書として藤子の家で一緒に暮らすようになる。
 珠美に恋人が出来たが、踏み切れないでいるとやがて恋人は藤子に盗られてしまった。
 珠美は藤子のもとを出た。しかし頼まれて再び藤子と暮らすことになる。
 藤子は諏訪の家を出るとき、夫が花屋のむすめと車に乗っていたのを見た。浮気していると感じた。しかし、夫は離婚後、再婚はしなかった。それどころか、あの女性が行方不明だという。
 娘の妙子も藤子に彼を紹介に来ていた。娘が結婚の話が出るほどに成長していた。
 珠美は藤子から多貴斗を盗んだのではなく、怒らせようとしたのだと言う。二人の間には何の関係もなかったと。
 しかし多貴斗は、行方不明のまま3年になる。
 珠美は知っていた。多貴斗は、自分と糸井川まで行き、復縁をせまる多貴斗に浜にあった廃鉄材があたり倒れた。珠美はそれなのに一人帰京した。
 死体が見つかることを祈ったが、翌日の暴風雨で波に消されてしまったのだろう。
 今の珠美は藤子の作品がクズのように思えた。
 藤子の死を知らせる携帯が鳴った。

1061  狼花 新宿鮫\

Date: 2006-10-21

おすすめ度 ★★★★★

 大沢 在昌 著  光文社  発行:2006年9月

 組織犯罪対策部が新設された。存在しない人間の犯罪にあたる。入国記録がない外国人の摘発は困難を極める。
 鮫島はオドメグを取り調べていた。ナイジェリアから薬物を持ち込む運び屋をしていた。そのオドメグから中国人の故買システムの存在を知る。仙田という男の指紋が消された。当初、存在したその指紋は次に検索したときには消されていた。
 明蘭は中国から日本に来た。早くお金をためて北京の大学にいく費用を作りたい。明蘭は身長166センチに美人であった。マッサージの店が倒産した。途方にくれる名欄の前に深見が現れた。店の顧客だった。深見は明蘭に日本人の戸籍と住むところの手配をしてくれた。そして盗まれたものを買い取る泥棒市場を手伝ってほしいと言われる。
 2年後、明蘭は深見の親切を知りながら何も求めない深見。広域暴力団の毛利と知り合う。毛利は明蘭を大切にしてくれた。
 鮫島が中国名と日本名古尾明子をもつ明蘭に気づいた。深見が鮫島の仲間を撃った。二人は追われる身になる。深見の別荘に身を寄せ、毛利と連絡を取る。深見と毛利は別荘で会う。明蘭は台湾に逃げるが再び毛利の手配で「菊池めぐみ」として横浜に戻ることができた。
 鮫島は深見のことを調べた。深見は「間野」でCIAの現地協力もしていた公安警察官であった。「サクラ」と呼ばれる諜報機関にいた。そして現在行方不明になっていた。
 鮫島は香田と暴力団綾知会幹部との密会現場に踏み込む。そこには間野と明蘭がいた。間野は香田を殺そうとしていた。しかし、間野の方が命を落とす。香田は辞職する。間野は仙田、深見と名乗りながら犯罪に手を染めていった。

1060 行方不明者

Date: 2006-10-18

おすすめ度 ★★★★★

 折原 一 著  文芸春秋  発行:2006年8月

 埼玉県蓮田市で滝沢家の一家4人が行方不明になった。一家の家では朝食前の仕度が整えられ、茶碗にご飯が盛られている。おかずも手付かずで残っていた。部屋の中は血の跡もない。81歳のよし子と隆太郎55歳、妻恵美子48歳、娘夏実25歳である。白いワゴン車もない。
 千葉に住む弟がこの不在に不審に思い警察に届け出た。近くにある黒沼も地元の人が捜査した。
 そして2ヶ月、僕は小説を書こうと滝沢家を再び訪問し、近くに住む滝沢房代から話を聞く。
 48歳の恵美子が失踪前に男の噂があった。一家心中か事故かワイドショーは連日報じていた。
 5年前にも吉沢家で滝沢家と同じような家族構成の家で何者かによって皆殺しにされていた。
 犯人はまだ見つかっていない。
 戸田市では通り魔が出没し、女性が背中を刺されるという3度目の事件が起こった。この通り魔は狭い通路と行く先に公園があるという共通点を見つけた。
 ある日、痴漢に間違えられた僕は、女装していた男に出会った。そして、アパートを突き止めた。女装男をつけているうちに、こいつが連続通り魔事件の犯人ではないかと思った。しかし、警察に言うわけには行かない。なぜつけていたかと問われてしまう。
 滝沢家の母親が入っていたという新興宗教の娘渋谷玲子は、母親の能力を受け継いだのか、沼の中に失踪した人がいると確信した。
 沼から男の死体が見つかる。しかし滝沢家の人間ではなかった。むしろビニール袋の中から吉沢家の人間の血液のついたナイフが見つかった。
 この男を殺した犯人は、吉沢家の皆殺しの事件とも関わっている。
 

1059 タックス・シェルター

Date: 2006-10-17

おすすめ度 ★★★★★

 幸田 真音 著  朝日新聞社  発行:2006年9月

 深田道夫は、社長の葬儀に出た。70歳を前に脳溢血で亡くなった。道夫は社長から絵を売却する金10億円を裏金として預かっていた。
 これは、社長と自分しか知らなかった。しかし、深田はこのことを社長の妻に話す。
 その10億がひょんなことから、買い手が寸前でキャンセルしてきた。そして仲介をした坂東は、別の顧客を見つけてくれた。15億円であった。それに気をよくした深田は、坂東のすすめるままに株に手を出す。株価は下がり1億5千万円を失った。これに深田は怒り、「なにがなんでも取り返せ!」と怒鳴る。
 坂東と組んで運用していた明日美は、夜昼かまわず株価を取り戻そうと必死で動向を見守った。
 その甲斐があって2ヵ月後、20億にもなった。2割を取り分としていたが、10億を社長の妻に返しても10億は、深田と坂東と明日美で分けようということになった。深田は気乗りがしなかったが、香港に口座を持てばバレないという強い勧めで結果的には従わざるを得なかった。
 深田は知り合った国税調査員の宮野友紀に好意を持った。友紀も離婚して間がなかった。友紀の母が子育てを手伝ってくれ、国税局に勤め続けることが出来た。
 子どものいづみも深田になついていた。
 ところが坂東が決別しようとする深田の気持ちとは裏腹に会社にも訪ねてくるようになり、借金を申し込んできた。1回は応じたものの、次はなかなか応じないで居ると、坂東は友紀やいづみのことも調べ上げ、離婚のことや元夫のことを話して聞かす。いづみの耳に元夫のスキャンダルを伝えると危惧した深田は坂東の言いなりに5億円を用意する。が、それではすまない口ぶりにかっとなった深田は道を渡ろうとした坂東にむけてアクセルを踏み込んだ。
 坂東はほぼ即死状態だった。深田も病院に向かう途中で息を引き取る。
 深田が書類に宮野友紀の名刺が貼り付けられていた。友紀が受け取った書類から隠された全容が解明されたのは3ヵ月後だった。

1058  マネーゲーム崩壊

Date: 2006-10-15

おすすめ度 ★★★

 須田 慎一郎 著  新潮社  発行:2006年8月

 平成18年1月16日ライブドアに強制捜査が入り、ライブドア事件の火蓋が切られた。
 そして1月23日堀江氏が逮捕された。やがて、ライブドアは上場廃止となり、廃止の前日の株価は94円。強制捜査前の8分の1だった。
 2月16日には永田氏の偽メール事件が起こった。堀江氏が武部幹事長の次男に3000万円振り込むよう指示したというメールだ。メールの出所が西澤孝氏としり、多くの人はその信憑性を疑った。
 6月2日には村上ファンドの村上世彰氏がインサイダー取引の容疑で地検の捜査を受けた。村上氏はライブドアの堀江氏の逮捕の後は自分にも捜査が及ぶと狼狽していた。
 拠点をシンガポールに移していた。しかし、拘留後21日の26日には5億円の保釈料で釈放された。
 堀江氏が釈放をもとめて何度も申請したのに対し、保釈料は堀江氏の3億とは違って高かったものの早い釈放であった。
 ライブドアはニッポン放送株の件でフジテレビとの和解で1470億円を手にした。株の投資を差し引いても440億円の利益を上げた。
 1月18日、沖縄に着いた野口氏は、翌日、ホテルで死体となって発見された。宮内氏につぐ堀江氏の側近であったといわれる。現金16万円も手元にあり、外から人が入りにくいところから自殺とされたが、野口氏の靴は泥で汚れていた。死ぬものが現金を残すために1泊3800円のカプセルホテルに止まるだろうか疑問が残る。
 22万人の個人投資家をだましたことになった。

1057  一億百万光年先に住むウサギ

Date: 2006-10-13

おすすめ度 ★★★

 那須田 淳 著  理論社  発行:2006年9月

 樹齢500年高さ25メートルの樫の木の古木がある。19世紀末、この木の洞に投げ込んだ手紙が祈った偶然相手の手に届いた。以来、この洞は手紙の中継点になった。
 それを、現代も行っていた。神社の裏手の桜の樹の下に埋められていた小瓶が洞の代わりになった。手紙は、一億百万光年先からきたウサギという精霊である。
 しかし、足立先生が少女に手紙を書いていた。少女は相手が足立先生とは知らない。ところが、足立先生が手を汚した。大月翔太がパソコンで代筆を頼まれた。
 少女はサスケ堂のケイだった。翔太は学校で出会ってもケイにそっぽを向かれる存在だった。
 マリーが逮捕された。山崎さんが忘れたバックに入れていたお金がマリーが帰った後なくなったという。マリーが大金を持っていたことで疑われた。なかなかマリーは警察から戻ってこなかった。ところが、マリーは足立先生の孫だという。
 マリーは別れたお父さんに会いに行こうとしていた。
 足立先生の息子はドイツ人の妻をもらった。マリーは翔太達の学校へ留学してきたのだ。
 やがて、マリーは釈放される。
 マリーの父、足立先生の息子の俊彦さんがかいた恋樹伝説 一億百万光年先に住むウサギの話が見つかった。
 そしてケイがいなくなった。翔太が探し当てる。ビジネスホテルに泊まっていたという。

1056 ブルーローズ 上・下

Date: 2006-10-12

おすすめ度 ★★★★★

 馳 星周 著  中央公論新社  発行:2006年9月

 元警部補だった徳永の所に元の上司の井口から電話があった。「娘が行方を捜してもらいたい」ということだった。10日間で50万出すという。しかし、井口の態度に徳永は断る。井口の妻が井口の出社後改めて徳永に娘の捜査を依頼した。
 娘の菜穂は一昨年結婚し、外資系のサラリーマンの妻になっていた。菜穂の家を訪れ、箪笥の中から革の切れ端を見つける。夫が教えてくれた妻の知人のリストをもとに田中美代に会うためにホテルに向かう。4人の女性が待っていた。菜穂の行方不明に驚いていた。
 しかし、徳永と別れたあとの4人はホテルの部屋に向かい、やがて着替えて出てきた。そのうちの一人を尾行する。広大な家に住む人間だった。
 菜穂のパソコンからメールを見ることが出来た。大半はあの4人の主婦で、もう一人菜穂の友人菅原舞から「菜穂、英ちゃんやばいよ、連絡して」というメールも見つける。
 井口の妻から、英ちゃんとは自分が産んだ子で井口が単身赴任していた時期に代議士の田中との間に生まれた子で精神に異常があり施設に預けていたという。英ちゃんのことは井口は知らない。
 舞に会い、英ちゃんに会うことが出来た。菜穂に連絡が取れた。別荘に居た。徳永と共に都内に向かう。
 その間に舞と英ちゃんが何者かに連れ去られる。
 徳永は菜穂と交換に舞と英ちゃんを渡すように公安にいう。しかし、駐車場でぶつかった車に舞は首の骨を折り死んだ。
 徳永はブルーローズという代議士田中の娘を中心とした主婦売春集団に、菜穂も舞もその仲間だということを知り、この事が親達の出世の妨げになるであろうと考えた。
 菜穂の失踪騒ぎは、井口の昇進を妨げようとする警察内部の人間も動いていた。
 舞が殺されたことで自暴になった徳永は、舞の死を報おうと公安を相手に立ち向かう。
 井口は妻を殺した後自殺する。

1055 空飛ぶタイヤ

Date: 2006-10-10

おすすめ度 ★★★★★

 池井戸 潤 著  実業之日本社  発行:2006年9月

 トレーラーからはずれたタイヤが歩道を歩いていた33歳の主婦に直撃し死亡させた。
 事故を聞いた赤松運動の社長赤松はすぐさま整備の門田をクビにした。しかし、門田の整備手帳には綿密に整備事項がチェックされていた。格別に厳しい内容だった。すぐさま赤松は門田のところに行きクビを撤回した。
 トレーラーは修理のためホープ自動車に運ばれた。
 後日、赤松は自社の整備不備はないと遺族に説明したことが、自分の非を認めない無責任な人間と怒らせてしまった。
 赤松は事故のあった車のハブを返すようホープ自動車に掛け合う。しかし、ホープ自動車は秘密裏に隠蔽しようとT(タイヤ)会議を開き狩野常務が指示していた。
 課長の沢田は、この事実を耳にし、3年前にリコールがあったばかりの当社の体質に違和感を持つ。実名で部長を通し社長に進言する。しかし、人事異動で暇署に追いやられる。T会議の内容を杉本が掴んでいた。杉本は地方に飛ばされる前に沢田に渡したものがあった。それがT会議の情報が載ったパソコンだった。
 沢田は、新しい車を作ろうと企画書を提出した。しかし、赤い×がついて戻ってきた。失格だという。提出者の名前だけで通してもらえなかった。沢田は警察に例のパソコンを届ける。
 一方、赤松は自分のところだけではなく、ホープ自動車の事故を調べる。週刊誌も取材に来て、どうやらホープ自動車のミスらしいと掴みかけたが、週刊誌は出るという日に別の記事に差し替えられていた。
 銀行からも融資を止められ切羽詰っていた。そこへ以前に同じような事故を起こしたという会社から仕事を回してもらえた。おまけに、銀行も紹介してもらいホープ銀行からはるな銀行へ売掛金を移すことが出来、当座の融資も受けられた。
 しかし、ホープ銀行からは全額返済を通達してきた。定期も凍結され、土地も担保になった。
 はるな銀行は、赤松に3億を融資し、ホープ銀行の融資を全額返すよう進める。
 ホープ自動車が家宅捜査された。そして狩野たちがつぎつぎと逮捕される。
 赤松はホープ自動車から和解の申し入れを受ける。そして、犠牲になった主婦の夫からも無礼を詫びる言葉が聞かれた。
 財閥系のホープ自動車は別の自動車会社と合併の話が進んでいた。

1054  風の墓碑銘

Date: 2006-10-07

おすすめ度 ★★★★★

 乃南 アサ 著  新潮社  発行:2006年8月

 60平方メートルのも満たない土地に目いっぱいに建てられた家が取り壊される。築50年は越えていると思われる。ユンボが土の中から人骨のようなものを掘り起こした。
 深さ70センチのぐらいのところに男女の骨と女性のお腹の辺りに小さい子どもの骨がある。妊婦のまま埋められたようだ。
 この家の持ち主は今川篤行82歳。今、隣の江戸川区の有料老人ホームに入っている。認知症で徘徊のために何度も警察にお世話になっている。口は達者で女好きである。今川の妻は10年前に他界。娘の季子が跡を継いでいる。骨の出た家は今川が若い頃、女性を住まわせるために建てた家で、その後は人に貸していた。
 改正刑事訴訟法が施行され、殺人や強盗致死などの最高刑の時効は25年となった。
 骨の具合から15年以上25年以下とされた。
 そして、墨田公園でその今川篤行が撲殺された。
 捜査本部が設置された。滝沢は女刑事音道と組むことになった。久しぶりであった。音道は以前、滝沢が女を軽視しているようにみえたが今回はいやに温和であることを不思議に思った。滝沢は前回の聞き込みでも根を上げずついてくる女刑事の根性を知っていた。
 滝沢と音道は今川が入っていたハッピーライフはなみずきの職員の事情徴収に当たった。
 事件の夜、夜勤を変わったという長尾広士は31歳、腕に小さな刺青もあるが、音道は先入観は持たないようにしたが、署に帰って調べると22歳前の間に強盗、万引き、暴力などを繰り返し最後は2年半の少年刑務所暮らしをしていた。
 広士が6歳の時、父と8歳の姉は何者かに殺された。広士も腹と背中に傷を負いながらも助かった。母はそれ以来、行方不明である。
 祖父母が豆腐やをやりながら広士を育てた。
 地元の小学校へ行き、当時のことをきくことができた。担任だった女教師は父親達は無理心中とされていたようだ。母親は駆け落ちしたとも。その日、母親の朋子は大きな荷物を持っていたという。
 朋子と親しかった女性は、当時田舎から従兄弟が出てきていると朋子が言っていた。
 宮城県からたしかに従兄弟の湯村慧が出てきていた。その後、行方不明になっている。
 人骨の1つは広士の母朋子であった。そして一つは湯村慧である。
 湯村は郷里が一緒だった桜井と一緒に住んでいた。桜井は金に困っていた。慧の財布からお金を黙って取ったこともあった。それをとがめられて殺した。そこへ臨月の朋子がやってきたという。

1053  運命の鎖

Date: 2006-10-04

おすすめ度 ★★★★

 北川 歩実 著  東京創元社  発行:2006年7月

 翔の母親が亡くなった。翔は探偵に自分の父親が誰か探してほしいという。翔のことを知る舞川響子は、生前、翔の母親のから翔に父親探しに決着させるために偽の父親に合わせる計画をしていたときく。
 翔の母は、体外受精の人工授精を受けた。人工授精斡旋業者から売買されていた日本人の精子を使った。精子は志方清吾という理論物理学者で小さい頃から才能を発揮した人物だった。しかし、志方はアキヤ・ヨーク病は中年になって発病し神経が侵され、知的能力も衰えるという現状不治の病であった。
 志方清吾の精子を受け継いだ者は他にも居た。岸野美由紀もそうだ。アメリカにも居た。
 アキヤ・ヨーク病にかかって死んだものがいた。高名な数学者だった。しかし、その息子は血液データから実子ではないことが分かった。
 志方清吾は現在は失踪中である。生きているか死んでいるかも分からない。
 翔はアメリカで自分の兄かもしれない人が見つかったという。人工授精児だという。父親は志方清吾だという。響子はその志方の行方を知った。
彼にしか分からない暗号でしか見られないメールを送った。はたして、志方からメールが来た。自分の子供たちがアキヤ・ヨーク病になる心配がないことを教えたかった。逃げずに捕まれというならそうしよう。だが、子供たちには本当のことは言わないでほしいと。

1052  未完成の友情

Date: 2006-10-03

おすすめ度 ★★★★

 佐藤 洋二郎 著  講談社  発行:2006年9月

 月坂順一が死んだという知らせをもらった。月坂の妻有美子には、私は好意以上のものをもっていた。
 私は、父が死んだことで母が郷里の石見銀山の山間部に伯父を頼って引っ越した。
 伯父の家で、新聞の集金に来た自分と同じぐらいの月坂に会ったのが初めてだった。中学で月坂をみて仲良くなり、自分も新聞配達を始めた。
 月坂の家に行くと母親の姿は見えなかった。むすっとした父親が居た。月坂は母親は韓国へ戻ったという。
 高校のとき、月坂も私も有美子に惹かれていた。有美子はお寺の娘であった。
 有美子が東京から戻ってきた時、月坂は有美子と結婚すると言い出した。私は泣いた。
 月坂が死に月坂の妹の口から聞いた月坂は、有美子の他に女性がいたという。そして子供まで。
 有美子が東京から帰ったとき、結婚できない人との間に出来た子を妊娠していた。月坂はそれを知って結婚した。子供はその前に堕胎してしまった。以来、有美子は子供が出来ない身体になった。
 月坂に子供が居たことは驚きだった。あれから30数年、死ぬ間際まで私のことを心配してくれた月坂だった。
1051 ふみ子の海

Date: 2006-10-01

おすすめ度 ★★★★★

 市川 信夫 著  理論社  発行:2006年8月

 ふみ子の目がおかしいと気がついたのは祖母のシゲだった。3歳の誕生日を迎えたばかりのころだった。目の前のシャボンを取るようにいうとふみ子はあらぬ方向に手を伸ばす。2歳の時は赤い花が見えた。
 医者に見せたがよくならなかった。ふみ子が学校へも行かず、年下の子が学校で習ってくる字がよめないもどかしさがあった。やがて、年下の子らも遊びに来なくなった。
 シゲは、ふみ子が利発な子なので盲学校へあげてやりたいと思っていたが、父親の怪我で思わぬ収入源が断たれてしまった。
 ふみ子は8歳で高田鍛冶町のあんまはり師の笹山キンの家に弟子入りした。キンは32、3であった。佳子12歳やキク15歳の弟子たちもよくしてくれた。
 10歳で笛を吹いて客をとった。その中に、瀬川卓司という危険分子といわれた人の按摩をした。その家に出入りしていたことで警察がふみ子を訪ねてくる。キンは「今夜限りで縁を切る」とふみ子を追い出した。
 ふみ子は家に帰らず、教会で寒さをしのいでいたところ寝込んでしまい病院に運ばれる。
 教会の牧師さんは盲学校の校長先生だった。ふみ子は念願の盲学校へ入ることが出来た。11歳の時だった。
 中学生になり、寄宿舎に入る。その頃、ヘレンケラーが日本にやってきて、ふみ子は高田盲学校の代表として上京し、雑司が谷の丘にあった東京盲学校でヘレンケラーに講演を聴くことが出来た。ヘレンケラーと握手もすることが出来た。
 16歳の時、ふみ子は東京の盲女子高等学園に行くことになった。
1050 町医北村宗哲

Date: 2006-09-30

おすすめ度 ★★★★★

 佐藤 雅美 著  角川書店  発行:2006年8月

 宗哲のところに15、6の若者2人が傷の手当てに来た。縫合をし二分を要求すると二朱でも高すぎるという。「気が済むだけおいていくがいいが、二度と顔をだすな」と言った。
 ところが、弥左衛門が昨日2人を連れてやってきた。杯を分けたわけではなくまだその手前だという。頭を下げる客人に宗哲は手当てに明日も来いと言う。
 勝四郎も宗哲の治療を受けた。駕籠代金を立て替えてもらった太兵衛の女房みつと宗哲のすすめた針灸に通ううちに深い仲になっていた。
 太兵衛が、おかげさまでと羊羹をぶら下げてきたことに宗哲は不審に思った。みつはいつのころか頭痛もちになり体が重くなってつらいといっていたが、お灸のおかげでよくなったという。
 みつは勝四郎の故郷に駆け落ちをしようと思っていたところだった。勝四郎が捕まり、みつは亭主の元に返された。
 宗哲の店請け人になっている半五郎に出て行ってほしいとえいという女がやってきた。
 半五郎にけしかけられて息子が怪我をしたという。宗哲が半五郎に正すと笑っていたが、家を移ると約束する。
 半五郎の家の前をえいの息子が毎日泣いて通る。呼び止めて木刀を持たせ、相手に不意打ちを食わせろと教える。そして、そのとおりにした。
 以前にえいが相手の親に掛け合ったところ「子供の喧嘩に親が出るものじゃない」と言われた。ところが今回、藤兵衛が大怪我をしたといってきた。えいは2年前のあの言葉をそっくり言い返した。気分がすっきりしたという。だから半五郎は店替えなどとんでもないといってきた。
 えいはその後、半五郎を何かと面倒を見た。半五郎は蝋咳であった。半五郎は百両持っていた。宗哲に20両、長屋の皆さんに30両、えいに20両、残りを残りを私のつるにしてほしいという。20両もあれば立派な墓が立つ。

1049  月曜日は赤

Date: 2006-09-29

おすすめ度 ★★★

 ニコラ・モーガン 著 原田 勝 訳  東京創元社  発行:2006年8月

 気がついたらルークは病院のベッドにいた。妙な気分だった。頭の中は思いもよらぬ言葉が口から出た。頭の中にドゥリーグがいた。自分と問答する。「月曜日は何色だ?」「赤!」月曜日に色なんかついていなかった。記憶が頭の中で立ち込める。
 金曜日から昏睡状態で、火曜日に目が覚めた。しかし、頭の中でドゥリーグが聞く「金曜日は何色か?」「考えに匂いがあるか、音楽に味もない。考えに匂いはないんだ」と僕は言った。
 木曜日、僕は水晶池にいた。池のそばに少女がいた。足を滑らせた。僕は助けられないままだったが、少女は自力で岸に上がってきた。
 あのシナモン色の肌の少女は誰だろう。
 ルークはめきめき回復した。教室に戻った彼を、ローチ先生は気にかけていた。。
 姉のローラが出かけたまま帰らなかった。ルークが小屋の中に田ローラを見つけた。ローラは救急車で病院に運ばれた。
 薄汚れた男に捕まり、ローラはナイフで脅され続けたという。男は手は出さなかった。
 ローチ先生は宿題をやってこないルークに対し忍耐に限界を感じていた。ルークはおかしな物語を書きローチ先生に渡した。見事なできばえだと言った。しかし、一つたりないものがある。それは読者が知りたいと思うかということであると。
 ぼくはそろそろ前を向かないとと思っていた。
1048  夜のジンファンデル

Date: 2006-09-28

おすすめ度 ★★★★★

 篠田 節子 著  集英社  発行:2006年8月

 短編6篇 どれも面白い。
「永久保存」では、市民センターに異動して来た林課長は総務畑を歩いてきたが、汚職事件を起こした白川助役とのつながりで飛ばされた。
 結婚式に行くという文子に2時数分前に地下倉庫から古い書類を持ってくるように言いつけた。おしゃれしてきた文子は埃とくもの巣で汚れあたふたと持ってきたが、書類が違うと別のを持ってくるように言った。
 机の上には自分宛の私信が開封され「このごろ会えなくて死にそう。すぐ来て、お願い」という文面を文子は見たはずである。その手紙が見当たらなくなった。課長はあわてて地下倉庫へ向かった。入れ替わるように文子が外へ出た。同時に戸が開かなくなった。課長は閉じ込められてしまった。
 そして次に日も課長は出勤しなかった。デスクマットの下にあった手紙を見て、皆は課長はこの手紙の主のところへ行ったと思い込んだ。妻さえもその手紙に怒った。
 課長はかけおち失踪事件とされた。
 システム化が進み、新しい書類からディス化された。地下の永久保存のことは忘れられた。
 3年後、建物を解体しようと地下をあけるとマネキンのようなものが・・・。

 「絆」では、山中湖のリゾートマンションを手切れ金代わりにもらった千秋は、ほどなく和室に出来たカビに驚いた。管理人から築14年で普通のマンションではないから壁に断熱材が入っていないところがあるといわれた。
 夜中にうなる冷蔵庫も生きているようで気味が悪い。思い切って捨てることにした。
 外に出しておいた。
 山中湖旭ヶ丘周辺のキャンプ地から行方不明になった小学生の男の子が行方不明だという。
 業者が冷蔵庫を取りにきた。持ち上げたところで子どもが転がり出た。「知らないわよ。どうして!」と千秋は叫んだ。
 子どもはこの部屋の元の持ち主、千秋と12年間も関係を続けた大宮の子どもだった。親の意に反し、子どもはキャンプよりも自分のリゾートマンションに泊まりたかった。そこにはすでに別の持ち主がいた。外に出された見覚えのある冷蔵庫に忍び込んだのだ。
 「子どもが入り込んだりしたら危険なので・・」という業者の言葉を思い出した。
1047  魂の切影

Date: 2006-09-26

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  光文社  発行:2005年7月
 
 妻が病死してから精神と生活の支えを失ったような山吉は、友人の荒木が送ってくれた写真集を見て衝撃を受けた。
 妻の陽子そっくりの女性が写っていた。写真歌集となっていた。
 魂の切影前に声もなし 我が作品はなにであったか
 乳房を切除した彼女の歌である。山吉は、急いで写真集の女性に手紙を書いた。一目でいいからあなたに会いたいと。
 手紙を送った3日後、彼女から電話があった。先生のご都合のよろしい日にお待ちしていますということだった。
 山吉は早速宮田美乃里に会いに行った。ベッドに横になっていた美乃里は31歳で、山吉と親子以上の差があった。癌で余命いくばくもない。
 山吉はたびたび宮田家を訪ねた。ベッドのそばで話をした。美乃里はフラメンコをしていたという。また、離婚を前提にして付き合った彼が居たが、10年待っても妻と別れる風でもなく、そのうち自分が癌であることがわかって別れたという。
 山吉にも妻陽子の前に女性が居た。山吉は若い頃は山に登ったという。この前は高山に行ってきたというと美乃里は一度行ってみたいという。
 山吉はキャンピングカーをかりて高山へ行く。疲れたようだったが、美乃里は喜んだ。
 自宅に戻ってから、山吉は美乃里にフラメンコを踊ってみないかという。スタジオを借り、練習をした。発表会も開いた。モルヒネも効かなくなった身体で美乃里は踊った。担当医も唖然として見つめた。彼女は華麗に踊り、踊り終えた時は病院に運ばれた。
 美乃里が最後の言葉を発した。それは妻の陽子の言葉と一致していた。
1046  ドライブイン蒲生

Date: 2006-09-25

おすすめ度 ★★★★

 伊藤 たかみ 著  河出書房新社  発行:2006年7月

 義兄が蒲生一家は馬鹿だとなめている。つまり僕と姉を侮辱しているのが気に入らなかった。
 姉は小さい頃、父が本当の父ではなく、自分達には別に父が居て迎え手に来てくれるかもしれないと言った。
 父はまずいドライブイン蒲生を経営していたが、おいしいとはいえない店だった。それに、だんだん父が店に力を入れなくなったばかりか、病気になって入院した。そして死んだ。
 父がいなくなった店で、姉がゲームをさせてくれた。アイスピックを突っ込むとお金を入れなくてもゲーム機は動いた。アイスピックは父が手を開いて、指の間をぬって指し、指にアイスピックが刺さらないかとハラハラしたものだった。
 中学、高校の頃にはぐれた姉も結婚したがうまくいっていなかった。
 姉は娘を連れ家を出ていた。今日は義兄の博志に会うという。僕は姪っ子の亜希子と車で待った。姉と博志は店の中で口論しているようだった。
 姉が車に残していったアイスピックで僕は博志の車のタイヤを刺していた。博志はそれを見ていた。
1045  ミーナの行進

Date: 2006-09-23

おすすめ度 ★★★★★

 小川 洋子 著  中央公論新社  発行:2006年4月

 朋子は、山陽新幹線が開通した翌日、新幹線に乗り芦屋に住む伯母の家に行った。1年間そこで暮らすことになった。
 伯母の母ローザはドイツ人だった。昭和2年に結婚し芦屋に洋館をたてて暮らし始めた。そして今は孫の小学六年生になるミーナと伯母さん、伯父さんと庭師の小林さん、住み込みのお手伝いの米田さんがこの家で暮らしていた。
 朋子はミーナの兄の龍一が使っていた部屋を使うことになった。龍一は留学をして外国に行っていた。
 朋子は中学生になる。伯父さんに新しい制服を作ってもらった。ミーナは小学生の割には小さかった。
 ミーナはかばのポチ子の背に乗って通学をしていた。ミーナは病弱で喘息を患っていた。
 朋子とミーナは仲良しになった。ローザも朋子に化粧品のクリームをつけてくれた。
 朋子は食事の時に、これまで母と二人で食べていたものとは違ってびっくりした。
 母が資格取得の勉強のために上京した1年だけ、伯母の家で暮らすことになった。皆が親切だった。ミーナに変わって図書館で本を借りてきた。図書館の人とも仲良しになった。
 やがて、成人になった二人。ミーナはスイスに居た。出版社を立ち上げ日本とヨーロッパの本を翻訳する出版社だった。
 ミーナの住んでいた洋館は人手に渡り、伯母達は今はマンションに住んでいる。洋館は壊され、化学会社の寮とマンションになっていた。ヤマモモの木だけが残っていた。

1044 東京ダモイ

Date: 2006-09-21

おすすめ度 ★★★★★

 鏑木 蓮 著  講談社  発行:2006年8月

 1947年ソ連イルクーツク州で捕虜だった日本兵は極限の地でごく少ない食料を与えられ、毛布一枚にバラックの建物で寝起きをしていた。
 首を日本刀のようなもので切られた鴻山中尉の死体が発見された。しかし、日本刀のような刃物はどこにも見つからなかった。
 平成17年11月。高津耕介76歳が、自主出版したい本があると薫風堂出版に連絡してきた。槙野は、高津の住む場所に出向いた。それは綾部駅から45分ぐらい歩いた場所にあった。ログハウス風の家に住み床はすべて土間だった。机とイス、ベッドが直接土間に置かれていた。テレビはおろか家具らしいものはなかった。
 300万ぐらいは出せる。句集を出したいが、宣伝に力を注いでほしい。本は百部もあればいいという。
 2度目の訪問をした時、高津は不在であった。翌日まで待ったが帰らなかった。机の上に「火急な用事で出かけなければならなくなった」と書いてあった。
 高津は新聞を切り抜いていた。同じ新聞からロシア人女性が水死体で発見の記事を切り取ったと知った。
 槙野はその女性を調べに舞鶴西港に出向いた。刑事の話から高津が女性を訪ねたことが分かった。女性を見て号泣していたという。
 高津はどこへ行ったのだろう。槙野は原稿を持ち帰り、上司の晶子と高津の句集を推察した。
 ロシア人女性の身元保証人の日本人男性も行方不明だと分かる。男性は鴻山秀樹35歳であった。やがて、ロシア人はマリアという元日本兵の捕虜収容所の看護婦だったことを知る。鴻山の子を身ごもったことも。
 マリアはある事実を鴻山の家族に知らせようとロシアからやってきて、その事実を告げられたら困るものがマリアを殺したと槙野たちは推測した。
 句集に書かれた句を紐解きながら、日本に帰った5人の仲間を訪ねる。句の中に鴻山を殺したことの真実があるのではないか。
 高津は日本に帰ってから質素に暮らしていた。一方富岡は薬剤師となり、やがて老人ホームにの事務長になっていた。
 老人ホームの菜園から旧日本軍の骨壷の破片が見つかる。高津の体の中に破片が飛び込んだというが捕虜の時代にはそれを取り除くすべもなかった。
 高津は生ゴミ処理機に肉片をとどめないよう粉砕されていた。58年ぶりに出会った高津を富岡は殺してしまった。
 ダモイとは日本へ帰れることだった。
1043 伯林蝋人形館

Date: 2006-09-19

おすすめ度 ★★★

 皆川 博子 著  文芸春秋  発行:2006年8月

 アルトゥールは1902年、ベルリンに生まれた。病弱な妹が居た。
 父はアルトゥールが9歳の時、落馬事故で亡くなった。召使も料理人も居なくなった。屋根裏部屋を下宿人に貸すことになった。下宿人は蝋人形を置いていた。
 やがて母親はいきつけの医師と再婚した。暮らすようになって義父は恐ろしい癇癪持ちであった。怖かった。アルトゥールが11歳の時、妹が死んだ。その時は、母が出産の最中だったので、アルトゥールが一人で付き添った。
 12歳になったとき、陸軍幼年学校へ入学した。母が産んだ子は風邪が元で病死した。義父の癇癪が帰省したアルトゥールに向けられた。アルトゥールはもう絶対家には帰らないと決心した。
 1930年アルトゥールは没した28歳だった。

1042  ミラコロ

Date: 2006-09-18

おすすめ度 ★★★

 高山 文彦 著  講談社  発行:2004年9月

敬介は羽田から飛行機に乗って30年ぶりに郷里に行こうとしている。
 高校の同級生百合子からもらった手紙に、映画館の喜楽館がもうすぐ壊されることになったという。
 敬介は、川のそばにすんでいた。船で向こう岸まで人を運ぶ仕事を父がしていた。少し荒れる日に、どうしても渡りたいという子供づれの大人3人がいた。父は、遠回りするよう言うが聞き入れない。仕方なく船を出したが、女の子が川に落ちた。向こう岸についてあわてて川下に走ったが、女の子は見つからず、後日水死体で見つかった。
 それ以来、父は酒を飲み仕事をしなくなった。母も精神を病んでいた。父が川に身を投げた。そして母も。まだ敬介が12歳の時だった。
 もう田舎へは帰らないと思っていた。なぜか足が向いた。
 ずっと台風の後、不通が続いていたという。10日前に開通したばかりの電車に乗った。同じ電車に盲僧と老人と孫のような娘と乗り込んできた。敬介は「進藤」と名乗った。しかし、隣に居た真理江は敬介を「甲斐さんでしょう?」という。敬介は仕方なくうなずく、そのうち、盲僧も甲斐ということばに、父に世話になったことを話し始める。
 敬介はあちこちに借金をして大学まで出た。奨学金など500万円を返さなければならなかった。手っ取り早く返せるようテレビの世界入った。南米から帰ったばかりであった。
 百合子にも会いたいと思った。そのうち、映画館で上映予定の「ひまわり」のフィルムがないと告白するものが出てきた。
 物語は帰りの列車の中の様子で終始する。


1041 ひたひたと

Date: 2006-09-17

おすすめ度 ★★★★

 野沢 尚 著  講談社  発行:2004年9月

 秘密の友人というホームページにアクセスし、「あなたの秘密を共有してくれる友人を求めていませんか?」というメッセージに轡田(くつわだ)は答えていた。
 同じような仲間がイタリアンレストランの密閉された5角形の部屋で5人が集まり語り始めた。
 轡田は、2年前に殺人を犯したことを話し始めた。西麻布のバーで知り合った女性は医者だった。2人は関係を持つようになったが、彼女の身体には12本の傷がありました。へその下には十文字の、乳房を横断する傷、下に延びる線は性器にも達していました。そして背中にも。傷は自分でつけたというが、背中の傷は自分では手が届かないものだった。
 轡田は、探偵に頼んで女医の身辺を調べさせた。そして母が居るという郷里をも調べた。別に付き合っているものも居なかった。
 女医は13番目の傷をつけてほしいと手にナイフを持ち轡田に握らせ、自らの身体をずらしていった。そして「早く逃げて!」という声に逃げた。警察から女医は死んだと知らされた。
 女医の佐和子の墓参りに行った。そこで佐和子の母親に会う。佐和子の傷は生まれたときからあった。傷をつけて生まれてきたという。決して佐和子の自傷行為ではなかった。

 河野加寿子は39歳。結婚して10年になる。小学校4年生の時、下校時にひたひたと足音がする。少年は待ち伏せてつけてきた。農機具をしまう小屋に連れ込み、ナイフをかざし「脱ぎなよ」と脅した。加寿子は脱いだ。少年は太腿の間をまさぐった。この経験が29歳まで男との接触を避けた。付き合っていてもその行為に挑む吐き気が襲ってきた。相手はあきれた。
 いつもナイフを口にくわえ脅した少年が頭にあった。夏休みを費やして、少年が着ていた学生服を探したが見つからなかった。次の年も、その次の年も。
 仕事上知り合った今の夫と結婚した。おびえる自分を包み込んでくれるような人だった。
 そして29歳の時、あの少年を見た。そして郷里の中学校へ行く。水泳部の部室であの少年の名前を知る。気を失った。
 少年は夫だった。29年間見守ってきたという。あの少年は、夫の息子だった。14歳だという。自分と結婚する前に夫は結婚していたといった。1ヶ月前、母親が死に息子と暮らすつもりだと。
 悩んだ末、夫とその息子と自分と3人で暮らすことになった。息子は私をママという。40歳になった。いつしかその息子に惹かれるようになった。息子も父親への復讐だったのかもしれません。15歳の誕生日のお祝いに二人は・・・
1040  溺れる人魚

Date: 2006-09-16

おすすめ度 ★★★

 島田 荘司 著  原書房  発行:2006年7月

 私はリスボンのアディーノ・シルバが暮らしていたアパートを訪ねた。アディーノ・シルバは、70年代に天才的な水泳選手でポルトガルに4つの金メダルをもたらした。しかし、その後車椅子の生活が30年以上も続き、5年前に拳銃自殺してしまった。51歳だった。
 なぜ自殺したのか知りたかった私は、彼女の住んでいたアパートを見せてもらった。
 アディーノは、オリンピックの後、彼女の銀行口座に大金が流れ込み、宮殿のようなアパートに住んでいた。アディーノは、コーチだったブルーノと結婚をした。しかし、急速に転落への坂道を転げ落ちた。精神を病み場所を選ばず発情し、一人で声を上げて達するのだった。
 リスボン大学のリカルド・コスタ教授はアディーノにロボトミー手術を行った。ロボトミーとは、人間を廃人同様にさせられることからアディーノは、この手術を受けたくないと夫に伝言を頼んでいたが、夫にはそれを伝えられることはなかった。
 トイレも食事も一人では出来なくなった。辛抱強く夫はアディーノの介護を続けた。しかし、自分も肺がんに侵され痛みに襲われた。
 アディーノは拳銃を口に入れ自殺した。その拳銃で手術をした教授も銃殺された。
 誰が犯人か聖アントニオの奇蹟と騒がれた。しかし、私は窓の外に走る電車から娘のアパートと1本の電車が繋がっていることを知る。
 私は、自殺に使われた拳銃が電車の屋根に乗せられ、父の元に運ばれるとその拳銃で教授を撃ち、再び父の家から妻の部屋に運ばれたと想像した。
 
1039  親指さがし

Date: 2006-09-15

おすすめ度 ★★★★

 山田 悠介 著  幻冬舎  発行:2003年9月

 武は20歳の大学生になっていた。今から7年前、小学校6年生の時、誰かが言い出した親指さがしということをやった。その時から一緒に居た由美が居なくなった。
20年前に箕輪スズという20歳の女性が山梨県天界村の屋敷で殺された。首、手、腕、足などがばらばらに切断されていた。しかし左手の親指だけが発見されなかった。犯人と思われる人は屋敷の近くで死亡しているのが発見された。
 武は天界村に出かけた。天界村の屋敷と親指さがしをした別荘が同じなのか。信久と知恵と智彦で別荘に行く。そこで4人は由美の声を聞く。「親指さがしって知っている」と。
4人は帰る途中に老人に出会う。7,8年前に女の子がフラフラと別荘に向かっていたという。
箕輪スズのことを調べていた武。そんな折、信久が殺された。身体をばらばらにされ、左手の親指だけがなかった。今度は智彦が殺された。家の近くでバラバラにされた死体が見つかった。またしても親指がなかった。
 小学校の屋上に由美が居た。近づくと「由美ではないスズだ」という。
また、
19歳の男子が殺された。スズは由美と一緒に死んだはずでは・・・
1038 魔女の笑窪

Date: 2006-09-14

おすすめ度 ★★★★

 大沢 在昌 著  文芸春秋  発行:2006年1月

 水沢は、地獄よりもおそろしい島を抜けた。この島を抜けたものはこれまでに2人しか居ない。
 水沢は冬子と呼ばれていた14歳の誕生日、地獄島に送られた。父と母は死に、祖母が母に復讐するために代わりに冬子が地獄島に売られた。島では九凱神社が島主が勤める。島は管理売春が行われていた。島には警察の手が出せない存在だった。
 島から生きて逃げ出せたものはほとんど居ない。冬子も来る日も来る日も男を相手にしていた。おかげで男を見る目は備わった。
 冬子を逃がしてくれたのは村野だった。島を抜け出した日が村野の命日だろう。
 36歳の冬子はソープ嬢から女実業家になった。裏の商売でCDのコピーなどを行っていた。
 豊国は美容整形の医師であった。少し前までそこそこ人気のあったタレントの顔を治していた。冬子にもメスを入れようとするが、寸でのところで逃げる。
 冬子を追って記者が付回す。豊国も自分を狙っている。
 島の番人がやってきた。どうして分かったのだろう。島に連れ戻そうとする。そこへ死んだと思った村野まで現れる。今は島の番人をしているという。
 再び島におりた冬子に女将は島は変わったという。中国人が入り込んでいた。
 冬子と女将の元へ「しきたりを破った者が居る」と番人がやってくる。しかし、火事と爆発が起こり、冬子はいったん韓国へ向けて逃げる。
 この島を手に入れるには九凱神社を無くすしかないと伝えると九凱神社から炎が上がる。
冬子はヘリで逃げる。
1037 底なし沼

Date: 2006-09-11

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  新潮社  発行:2006年8月

 蔵王は身長180センチ、80キロの筋肉質の凶暴なオーラをもつ。蔵王は、若い頃は世田谷の白亜の豪邸に住んでいた。父は街金融の金貸しだったが、菩薩様と呼ばれる利害抜きで融資を行っていた。社員も百人を越えていた。父は柔軟な笑顔を絶やさなかった。そんな父が洋品店を経営している岡田に500万円を貸した。そして踏み倒された。夜逃げしてしまった。岡田の友人はすでに破産を申し立てていた。ドミノ倒しのように債務者が30人が行方をくらました。その上、裁判所から法定をこえた金利の返還を求められた。家を売り、建設現場で働く父。母がキャバレーで働く姿を見た父は首をくくって死んでしまった。母は精神を病んでいた。
 20歳になった蔵王は、街の闇金融で働くようになった。
 思いやりや情を持っていたばかりに命を絶たなければならなかった父。債務者は自己中心的で卑怯な生き物であると教えられた。
 蔵王は、すでに完済している元債務者を始末しなかった借用書をネタに再び取り立てに使っていた。脅しと暴力でほとんどの者が恐怖から払うと約束をしていた。
 ハッピーウエディングというお見合い紹介所の日野は、お見合い料で月に千数百万円が入った。資産のありそうな男に美人の女性が近づき、うまくいきかけたところへ、「自分の婚約者と何をしている」と脅しをかける。
 日野は自分の会社が横槍を入れられたことで蔵王を陥れようと市之瀬に連絡をする。市之瀬は蔵王に金融のノウハウを教えたものだった。
 蔵王は市之瀬に屈せず戦おうとする。雨龍組をつぶそうと考えた。
 スタジオで雨龍組の四天王といわれる柳井の屍のすごさだった。腸が出ていた。そばの死体も眼球をくりぬかれたもの、鼻をそぎ落とされたもの、咽頭を真横に切られたもの。
 日野は頬がこけ奥歯を鳴らしながら震えていた。
金子が携帯を掛けていた。「任務を完了しました。」と。金子は蔵王の配下のものだった。裏切ったのは金子だった。
1036  悪忍

Date: 2006-09-10

おすすめ度 ★★★★

 海道 龍一朗 著  双葉社  発行:2006年6月

 加藤段蔵は、暗闇に目を凝らした。黒い影が2つ。あちこちに計6体。とっさに女の身体を影に預けた。ふんどし1つで仁王立ちした段蔵に襲い掛かるが伊賀者はあっというまに倒される。亡骸の上に褌で「伊賀之阿呆」と血色で書いた。
 段蔵は甲賀の刺客を倒した時も「甲賀之間抜」と書いた。
 段蔵は商家に盗みに入り大枚の銀子を盗ったが、殺しはしていない。
 段蔵は、18になった年、繖(きぬがさ)山の山頂に築かれた本丸に忍び込んだ。宝物蔵から「鈎(まがり)の小太刀」と呼ばれる宝刀を盗んだ。それを見た義父は段蔵をしばり、日に1度水を差し入れるだけだった。なぜこうされるのか。あの小太刀を持ち帰ったばかりなのに。ほめてもらえると思っていた。
 3日目、手が自由になると義父が寄って来た。「あれを元の場所へ返して来い。今度やったら息の根を止めるぞ」と言われる。なぜか、段蔵はその小太刀で義父ののど仏を貫いた。
 義父の亡骸を背負い、峠を降りた。三角頭巾を作り、数珠の代わりに手を合わせた。そして小太刀を胸元に添えた。遺体を筵に包み谷底に落とした。
 加賀の里へ向かった。途中、富田景政に出会う。武田晴信の署名花押のある文書を景政に差し出す。甲斐武田が加賀の一向一揆を指示するとあった。景政は驚く。
 後日、段蔵は加賀一向一揆の首領と目されていた実顕の首を景政の前に突き出す。 
1035  時の”風”に吹かれて

Date: 2006-09-09

おすすめ度 ★★★★

 梶尾 真治 著  光文社  発行:2006年6月

 恭哉は20分だけ過去へ飛んだ。タイムマシンで昭和36年に飛んだ。
 伯父の絵の後ろにかかれた昭和36年、絵は白藤礼子嬢に会うために。もう一枚書きたいと呼び出したところへ礼子さんは現れなかった。後で知ったが正徳百貨店に寄っていて火災にあったのだ。115人が犠牲になった。
 画廊喫茶はやしという場所もあった。正徳百貨店の前に行き、礼子さんが来るのを待った。あと40分のぎりぎりの時間に礼子さんは現れた。
 後日、恭哉は老婆とともに本屋に居た。伯父の敬輔の画集のある前に案内していた。礼子さんも恭哉も助かったのだ。
 他10篇
1034  見えない貌(かお)

Date: 2006-09-08

おすすめ度 ★★★★★

 夏樹 静子 著  光文社  発行:2006年7月

 母の朔子は、「妻がいない。」と娘の夫輝男からの電話で駆けつけた。輝男は前日まで出かけていた。朔子は娘の晴菜(24歳)とはメールで6月20日15時以降メールがない。電話も通じなかった。
 娘の晴菜が大菩薩峠の近くの桂山ダムで見つかった。足に重りがつけられていたため、立った様に浮遊していた。見つけたのはダムの水運用課の職員だった。左顎部に斜めの切創があった。
 晴菜は、ハコというネームでメール友達が居た。一時期3万円を越える通話料で夫から注意されていた。
 朔子は、晴菜の死後、この家でずるずると暮らすうちに洗濯機の脇の引出からもう一つのピンクの携帯電話を見つけた。20日直前のものだった。相手は望。着信記録ばかりで送信の方は削除されていた。この相手に会いに出かけたようだ。
 朔子はこの携帯を使って望に電話してみた。百合丘のマンションのゴミ捨て場に落ちていたとウソいい、会いたいと言った。
 男は朔子の指示したとおり週刊誌を持って指定の場所に現れた。しかし、朔子は都合が悪くなったと連絡し、男の後をつけた。
 男は菊名駅で下車した。ビルに入った。どう見ても男は30代である。男は再び出てきた。また電車に乗り橋本駅で降りた。住宅街に入り男は家に入っていった。表札には「永沢」とあった。
 再び、男と連絡を取り会うことにした。しかし、ホテルの中で朔子は殺された。
 「私が戻らなければこれを警察に届けてください」とメモの入った宅急便が届く。携帯が入っていた。
 永沢は捕まった。永沢の担当になったタマミは、まだ民事事件しか扱ったことがない若い弁護士だ。タマミは永沢と接見した。永沢の自宅には祖母と息子の3人暮らしだった。母親は離婚していた。息子の彰は大学受験を控えていた。
 永沢は、母子を殺したとして起訴された。
 タマミのところへ彰が訪ねて来た。晴菜を殺したのは自分だという。自分が本当の年齢を言ったところ晴菜は激怒した。日頃から結婚生活がうまくいかないとこぼしていた晴菜は、メル友の望に夫と離婚して新しい生活を夢見ていた。
 彰は、大学を卒業するまで結婚できない。常々「死にたい」ともらしていた晴菜は「先に殺して」と頼んだ。父に相談し、湖に捨てた。
 タマミは、朔子が復習をするために永沢に重い罪を着せようと自分の首を刺すように導いたのではないかと考えた。 

1033  町長選挙
Date: 2006-09-06

おすすめ度 ★★★★

 奥田 英朗 著  光文社  発行:2006年4月

 24歳の宮崎は東京都の職員であるが、3年目の今年は研修派遣で離島にやってきた。伊豆半島の沖に浮かぶ千寿島は、昔は流刑人の島だった。だからというわけでもないが、島の人々は気が荒い。
 島を2分する町長選挙が始まる。選挙違反の買収あり、報復ありでも東京都は何もいえない。
 そこへ金持ち風を吹かせる妙な医師まで島へやってくる。老人保健施設を作るという噂まで立つ。
 長年、選挙に負けた方は降格させたり、作業職に着かせるなど、要職は自分の支持者で固めた。
 宮崎も無理握らされたお金を、リュックに入れておいたら見つかり、反対派からもっと掴まされる始末である。返そうと試みるがうまくいかない。
 信じられないことに、特養ホーム建設を公約に掲げる方は棒倒しで決着した方の権利となった。
 両群合わせて400人が小学校の校庭に集まった。
  物語はここまで、他に3篇。
 野球界のオーナーで日本一の新聞獲得数を誇るチームの田辺(小説名)の物語。プロ野球への参入の失敗に終わった貴明の物語。女優の白木カオルの物語など。

1032 明日の記憶
Date: 2006-09-04

おすすめ度 ★★★★★

 荻原 浩 著  光文社  発行:2004年10月

 業界第5位の広告会社に勤める佐伯部長は、自分が最近記憶違いやスポッと忘れてしまうことに気がついた。先日も大事な会議を忘れて取引先に迷惑をかけた。
 メモをするが忘れている。夜眠られなくなった。
 妻の枝実子が病院に行こうという。病院では「さっき言った3つの言葉を思い出してください。」の回答が思い出せなかった。机の上に並べられたペン、時計、名刺、ハンカチ、ピンセットのうち1つはまともに応えられたがあとはつっかえて出てこなかった。医師は若年性アルツハイマーと診断した。
 渋谷で迷子になった。取引先が分からない。会社に電話して聞いた。無事着いたが「約束に5分遅れるって事は、他人の人生を5分奪うことなのだ。」と怒られる。
 営業局長に声をかけられる。「大丈夫か?体調が悪いと聞いた。内部の人間が心配している。」
誰が自分を落としいれようとしているのか気になる。
 局長室に呼ばれた。部長会議を欠席した。直接声をかけたという。忘れている。娘の結婚まであと1ヵ月半やめるわけにはいかない。「早期退職という形にしてはどうか」といわれる。そして自分が若年性アルツハイマーであると局長に話す。
 木崎陶芸工房に足を運んだ。娘の結婚祝を作るために。しかし、新作展に出品するという話も、立て替えてもらった代金も払ったかどうかも忘れていた。
 妻は医師から地方の人が入る保健施設を探していた方がいいといわれる。
 1月末、娘の結婚式は盛況に終わった。27年と勤めた会社をやめた。
 痴呆のナーシングホームを訪ねた佐伯は、20数年ぶりに奥多摩に行った。日向窯には老人が居た。酒を酌み交わしながら、老人は痴呆だと言われて無理やり病院に連れて行かれ、施設に入れといわれたと憤慨していた。佐伯も自分が若年性アルツハイマーだと話す。
 翌日、老人はもう自分のことを忘れていた。夕べから野焼きで湯のみを焼いた。面白い焼け方になっていた。
 山を降りる。つり橋のところで女性に会う。声をかけた。まず自分が名乗り、彼女の名前を尋ねた。「枝実子っていいます。」「いい名前ですね」彼女は少しだけ笑っていた。

1031 温室デイズ
Date: 2006-09-01

おすすめ度 ★★★★★

 瀬尾 まいこ 著  角川書店  発行:2006年7月

 6年生の時、前川優子はかわいかった。裕福で身体つきは華奢で髪も手足もすらりとしてきれいであった。そんな優子はいじめの標的になった。女子は完全に無視した。男子はばい菌呼ばわりした。二学期の終わりに転校していった。隣の小学校だった。みちるは、自分でも気づかないうちに立ち上がり「前川さん、ごめん」といっていた。
 中学になり、みちると優子は同じ中学になり友だちになった。
 3年生になり、伊佐瞬は、制服を着ないで赤いTシャツを着ていた。赤茶く髪を染めた連中が集まってきた。その瞬が、優子に「俺と付き合わないか?、妹に似ているんだよ」と言ってきた。
 優子は小学校へ行き、担任だった先生に会った。瞬の両親は離婚し、妹と弟を母がひきとり東北の方へ引っ越したという。
 みちるがいじめの標的になった。優子は声をかけられなかった。
 そして、優子の方が教室へ入れなくなった。相談室に通うようになった。
 みちるはいじめられても学校へ通った。先生から「つらかったら、学校へ来なくてもいいよ」といわれるが、みちるは反論する。
 みちるは伊佐瞬に時々会いに行った。学校に来ないでバイクに乗っていた。「学校へ行こうよ」という。
 2月の終わりに優子も学校へ行くようになった。瞬も来るようになった。
 優子たちが植えた花壇があらされそうになると、吉川先生が飛んできた。ナイフで脅しているらしい。瞬が「なめたことをする」と吉川先生にナイフを向けた。それをみちるは自分の頭にレンガを叩きつけ、血が流しながらとめる。
 卒業式の日、瞬が学校へ行く時前に「大丈夫か?」と寄ってくれた。瞬は学生服を着ていた。それは半年前の瞬とは違っていた。

 
1030  クッキ
Date: 2006-08-30

おすすめ度 ★★★★

 チョン・ソンヒ 著 田渕高志 ノベライズ NHK出版  発行:2006年4月

 クッキの父ヨンジェは医師だった。独立運動中に妻は砲弾を受け死んだ。ヨンジェはクッキと全財産を友人のソン・ジュテの預けて満州に向かう。
 クッキは、ジュテの家で厄介者扱いされながらも明るく生きていた。ジュテの娘シニョンはわがままに暮らしていた。歌手になりたいと思っていた。
 クッキは、女学校へいけると思っていたがいけないと分かると家を出た。そこへシニョンもソウルにいくと家出していた。
 クッキは、菓子屋のテファの店で働くことになる。そして太和堂でビスケットで作ったピーナッツサンド「まるっこ」を考案する。機械を入れ量産体制に入ったところで、豊江製菓が「チョコ・チョコ」を発売する。まるっこを妨害するために赤字を覚悟で卸し店に販売を始める。チョコ・チョコを買ったものは類似品を置かないという約束までとっていた。
 クッキのまるっこは売れなくなった。おまけにまるっこに虫が入っていたと報道される。
 クッキの父を師とあおいでいたミングォンは、クッキの窮状に手を差しのべる。
 豊江製菓が育てのおじさんのジュテの会社だと知る。
 シニョンは歌手となり、引退を決めた最後の舞台でクッキとミングォンの前で何者かに撃たれる。
 ミングォンは賄賂を渡したとして逮捕される。
しかし、それはミングォンを陥れようとしたジュテが手を回したことが分かる。
 ジュテはさらに、預かった全財産を手に入れようとクッキの父ヨンジェを日本軍人を使って殺害した。ジュテは投獄される。
 豊江製菓は倒産の危機に陥る。800数十人の従業員は、クッキの太和堂に業務委託され労働者の職は確保された。
 
1029 受命
Date: 2006-08-29

おすすめ度 ★★★★★

 帚木 蓬生 著  角川書店  発行:2006年6月

 舞子は、神楽阪の焼肉店に招待された。通勤途中で苦しみだした老人を助けたことがきっかけであった。老人は自分の勤める安売スーパーの会社の会長だった。
 平山会長は、舞子が韓国語が話せることから、会長の故郷、新義州で、北朝鮮への観光を勧めた。
 一方、津村は平壌の産院にいた。ブラジルで修行した津村は、中国で開かれた学会に参加した。そこで知り合った北朝鮮の要人から北朝鮮に誘われてやってきた。
 平壌の産院は、一般時では利用できないがごく限られた階層のものだけが利用していた。
 津村の腹腔鏡手術に、北朝鮮の医師団は目を見張った。
 舞子たちは、会長と新潟から北朝鮮に向かった。そして、休暇を申し出た津村と観光地で偶然を装って会うことが出来た。
 韓国から来た寛順と東源は、北朝鮮族を訪ねるという名目で北朝鮮入りした。78歳の老婆の家で厄介になる。老婆は「死ぬ前に自分の考えを話しておきたい」と話し始めた。この国の指導者は体制を維持するためにあまりに大きな罪を重ねた。悪人が国の首領にいることは人の世であってはならない。先代は金聖柱でソ連極東軍特別旅団の一将校に過ぎなかったが、金日成を名乗り、白頭山に立てこもり抗日戦争を闘ったとされた。出身地も塗り替えられた。この国の三千年にわたる歴史はこの親子で変えられてしまった。この体制は長く続いてはならない。国民の餓死、飢餓、脱北者への非人道的な処刑は許されるものではないと。そこで、不審者が家をうろついているのが分かり中断した。
 津村は食事会に招かれた。しかも国の指導者の招待だという。以前に産婦人科で受診した関係者が指導者の身内だったのだ。指導者の命令、つまり天命。それを聞くのが受命だと。
 津村が招待された食事会は9人ばかりのものだった。津村は、事前に最後の寿司には醤油をつけないようにと耳打ちされる。
 そして、それが出た後、最高指導者は倒れる。そこに韓国から来た寛順と東源がいた。
 津村は、導かれるままに逃げる。海にはモーターボートが待っていた。
1028 第九の日
Date: 2006-08-26

おすすめ度 ★★★

 瀬名 秀明 著  光文社  発行:2006年6月

 レナとケンイチは児島恭蔵教授の家を訪ねた。それはコンクリートの打ちっぱなしの家だったが、センサーと共に開き人の形をしたロボットがいた。チェスプレイヤーと呼ばれるロボットはレナとチェスをする。
 教授は「ロボットは人間に従うように作られている。自由意志によって行動できるロボットがチェスプレイヤーだ」という。
 警報が鳴り響き、レナとケイイチは教授の部屋にいく。四方に血が飛び散って布団も綿が出ている、本は崩れて床に散らばっている。しかし、教授の姿はない。天井のスピーカーから教授の声がする。「私は殺された。チェスプレイヤーによって」と。
 チェスロボットは、教授を殺したという。レナはロボットにいずれあなたは解体されると告げる。
 祐輔が警官とともに飛び込んできた。ロボットが机をかばおうとした。遺体は机の中にどろどろの塊となってビニール袋に入れられていた。
 ケンイチも実はロボットである。今はレナのパートナーである。物語はまだ4編つづく。
1027  銀色の翼
Date: 2006-08-24

おすすめ度 ★★★★

 佐川 光晴 著  文芸春秋  発行:2006年6月

 和夫は、埼玉県庁の近く「とんかつ雪村」の長男である。店は弟が継いで両親と共にやっている。
 成績も優秀だった和夫は大学に進んだ。ところが脳腫瘍で手術をした。しかし頭痛は治まらなかった。頭にはケロイド状の傷が残り気力が失われていった。学校に行かずビリヤードに出入りするようになった。また、石に興味を持ち、京都の寺に出かけては石を眺めていた。
 術後6年たっても髪が生えてこなかった。大学には退学届けを出し、うつ状態になっていた。
 ところが病院に勤務する美恵子と日本慢性頭痛友の会で知り合った。美恵子が36歳。和夫は29歳で籍を入れるだけの結婚をした。家族とは付き合わないという美恵子の希望で式もあげなかった。
 当初は美恵子がお金を出してくれ鍼灸師となった。お金を得られるようになると、今度は美恵子が病気になった。子宮ガンだった。さらに美恵子は落ち込んで行った。
 頭痛が起こると銀色の翼がみえるようになった。
1026 君だけの物語
Date: 2006-08-21

おすすめ度 ★★★★

 山本 ひろし 著  小学館  発行:2006年8月

 山本ひろしは生命保険会社に勤務していたが、会社の不正を隠蔽する姿勢を反論したところ、佐賀県に飛ばされてしまう。地域奉仕課長といっても毎日、市内のゴミを拾って歩く仕事だった。
 やがて、離婚した妻や口げんかをしたままふてくされていた息子達を見返してやりたいと小説を書こうと決心する。
 インターネットで探した佐賀県に在住のプロの作家山本甲士に小説の書き方を教えてもらおうと、彼のよく行くトレーニングジムに入り近づいた。山本甲士はアドバイスしてくれることになった。最初は児童小説から書いた。題名がえらそうではいけない。人物にメリハリがほしい。登場人物は少ない方がいい。などと。
 そして自信作を見せたとき、山本甲士はこの程度で満足してはいけないという。その言葉にひろしは憤慨し決裂する。
 離婚した妻や息子にも見せるが、面白いといってくれた。賞を取ることよりも自分の作品が本になることを夢見た。
 そして、また山本甲士と復活する。そして「心理捜査」というチュンソフト大賞をもらった。
 その後、まったくの素人が小説を書くという過程を小説にしたらどうかと話があった。
 自分の作品も入れながら書いてみよう。それが、この小説だった。小説修行の指南役とでも言える変わった物語である。

1025 エデン
Date: 2006-08-19

おすすめ度 ★★★★★

 五條 瑛 著  文芸春秋  発行:2006年8月

 ストリートギャングの涅槃というグループのリーダーの亞宮柾人は、どこにあるかもわからない特別矯正施設K7号施設に入った。この施設は、思想犯や政治犯が多かった。それに寄宿舎のようなきれいなつくりである程度自由であった。囚人は生徒と呼ばれ、自分達で起こした事件は自分達で解決するという姿勢をとっていた。めったに看守はやってこない。
 5日前に入ったという祭は、おなじストリートギャングの四頭会のリーダーだった。祭は3年、亞宮は2年の刑だった。
 亞宮はクリーニング工場で働き、皆が仲間を作るのだが、亞宮は誰の仲間にも属さなかった。背が高く所内のバレーボール大会に誘われて出場した。トスをあげる有馬との息も合い、優勝した。ところが、有馬は瀕死の重傷を負う。襲われたのだ。襲ったのは中国系の囚人達だった。
 この施設は21年前に起こった日比谷暴動の関係者が多かった。亞宮は図書館でその事件のことを調べる。そして宇賀神というリーダーがいたことを知る。宇賀神は事件の後、死んだ人の中にも捕まった中にもいなかった。宇賀神を良く知る人はいないが、カリスマとよばれるリーダーだったようだ。
 日比谷暴動とは、政治結社に家宅捜査に入り、パソコンやデーターを押収した。会員の10名が同ビルのテナントの人間34人を人質に立てこもり、そして34人を殺害し、犯人も自決した43人の遺体が突入した警官隊に発見された。
 その後、日比谷はパニックになり、ホテルや街が3ヶ月間あちこちで燃え続けた。生き残ったメンバーから優秀なリーダー宇賀神が首謀者だとされたが見つからなかった。
 亞宮は仲間のケンジから小包を送ってもらい、それを所内で売っていた。それなりに商売がうまくいっていたが、頭のいい奴等は何が面白くて真の楽園などを求めているのか。それも結束して。そいつ等が馬鹿に思えていた。
 中国人や韓国人、それに思想犯たちとの小競り合いがあちこちで起こった。所内で命を落とすものもいた。亞宮は所内の情報を集め、誰がやったか見当をつけた。しかし、手を出さなかった。
 熱くなった奴同士が暴れているのを傍観した。しかし、「亞宮、おまえは宇賀神ではない!」の言葉に我に返り、消火ホースを握っていた。
 亞宮はこの施設では異質であった。誰にも毒されず自分だけを信じていた。

1024  夜をゆく飛行機
Date: 2006-08-16

おすすめ度 ★★★★

 角田 光代 著  中央公論新社  発行:2006年7月

 里々子には、三人の姉がいる。有子、寿子、素子である。両親は酒屋を営んでいた。
 駅の北口にスーパーが出来るという。それでなくても暇な店なのに、どうなることやら。
 次女の寿子が書いた小説が新人賞に選ばれた。家族は喜んだ。賞金は50万円だという。悪いこともしていないのに新聞に名前が出たことで両親は喜んだ。
 里々子は女子大学の付属に通っていたが、3学期から都立高校に変わった。ヒルトンホテルでの誕生パーティやブランドショッピングもない世界に心から安堵した。
 長女の有子は、駆け落ちのようにして出て行った。寿子も2度目の賞の候補に選ばれた。編集者が何人もやってきて、受賞の瞬間を待つことになった。寿子は2年連続で受賞した。
 そして、このうちは創作意欲がわかないと引っ越していった。
 酒店は改装し、リカーショップヤジマになった。素子は大学を中退し店を手伝っていた。里々子は、予備校の近くにあるレインボーカフェでアルバイトを始めた。
 姉の有子が離婚すると言い出した。祖母も亡くなり、店は新しくなったが、客足は以前とおなじく遠のいたままであった。
1023 悪たれの華
Date: 2006-08-14

おすすめ度 ★★★★

 小嵐 九八郎 著  講談社  発行:2006年7月

 天明3年、友之助は14歳だった。浅間山が見える上野国鎌原村に住んでいたが、浅間山が噴火し、逃げ遅れた両親と祖母が押し寄せた泥に飲まれた。友之助は妹まきと寺に住んだ。明山という僧とまきが淫らなことをしていたが、まきが高熱を出し死んだ。
 友之助は、新八と名を改め江戸に出て花火屋の鍵屋の下っ端であった。勤め始めて3年半になる。
 花火師になる夢を持っていた。商売仇の玉屋の娘の夏は新八を慕っていた。
 善光寺行きが決まり、新八は出戻りのいとと忠吉と三助を伴ってでかけた。庄川の上の五ケ山で、夏をつれた玉屋と出会う。夏は喜んだが、用事を済ませて江戸へ戻るところだった。
 新八は、いとから花火の秘法を関係を持ちながら聞きだした。そしてそれがばれないようにいとを庄川の橋から突き落とす。
 江戸に戻った新八は夏と関係を持った。しかし、八丁堀を中心に大火事となり、夏の玉屋も危ない。新八は死を覚悟で夏を助けた。先代は焼け死んだが、仇の娘を助けたことが評判となり、新八は夏と祝言を挙げ、玉屋の三代目玉屋市郎兵衛となった。
 夏は火事の際にやけどを負い一目を避けるようになった。新八も夏を抱かなくなった。しかし、夏は妊娠する。新八は夏も責められない。夏は銀造と1回のことで妊娠したという。夏に言われ、生まれた子は女子であった。波奈と名づけた。
 水の事故で夏が死ぬ。波奈だけは助けようと水の中から子を持ち上げていた。新八は波奈を助けたが、夏まで手が回らなかった。
 新八はだんだん口数も少なくなった。しかし、花火のでかいのを挙げようとしていた。
 身体にドンと響く大きな花火が上がった。一尺七寸の大玉が夜空に五十尺まで広がった。人々はあまりの高さと大きさに声も出ない。
1022 愛さずにはいられない
Date: 2006-08-11

おすすめ度 ★★★★

 藤田 宜永 著  集英社  発行:2003年5月

 著者の自伝的小説で一番壊れていた時期を書いたという。
 藤岡芳郎は、高校は家から離れ東京練馬区の下宿に住むことになった。実家は福井県である。
 まだ私立高校に入ったばかりである。早速、新宿のゴーゴー喫茶にいく。そこで知り合った路子の部屋に行き童貞を失う。路子は銀座で働くホステスだった。
 福井に帰ったとき、佐々木と付き合っていた由美子が、東京では芳郎の下宿にやってくるようになった。下宿では女性を泊めることを大家が嫌がった。度重なり、母親が福井から出てきた。
 ほどなくして芳郎も由美子も下宿を出てアパートを借りた。まだ高校生だというのに、女にのめりこんで行った。
 やがて由美子とはケンカを繰返すようになった。が、タンポンを反対に入れて抜けなくなったという。芳郎はトイレで取ってやる。再び仲良しになるが、またケンカをしやがて別れる。
 春がもうすぐ来るという時期にもう由美子と会いたいと思わなくなっていた。芳郎はゴーゴークラブで知り合った女とホテルに行った。
1021 日本沈没 第二部
Date: 2006-08-09

おすすめ度 ★★★★

 小松 左京 谷 甲州 著  小学館  発行:2006年8月

 日本が沈没して25年が過ぎていた。沈没は「異変」とよばれ、海外に流出した日本人は、パプアニューギニア、中国、アマゾン流域、カザフスタン、アメリカ、ロシアなどに自治区を設けて暮らしていた。
 潜水艇で恋人を失った阿部玲子も今も小野寺の写真を持っていた。ニューヨークにいた。鳥飼外相に会い、ソウルに飛ぶ。そしてカザフスタンの日本人自治区で小野寺にであう。小野寺は昔のことは忘れていたようだが、玲子を見て思い出していた。
 日本は、海底における異変から、地球全体が危機に面していることを知る。地球は近い将来急冷化する。そして、30年以内に十億人規模餓死者が出るであろう。地球シュミレータを提示するのは極力控えた。そんな折、アメリカはある部分を伏せ気象のシュミレータを発表し、日本人をアンフェアだと報じた。
 中田首相はアメリカの軍事力に期待していたが、実際には愛国主義から一歩もでていないアメリカに失望していた。

1020 せつないカモメたち
Date: 2006-08-08

おすすめ度 ★★★★

 高樹 のぶ子 著  朝日新聞社  発行:2006年5月

 占部香代子は、36歳。コスモシネマ館に勤めていた。ある日、女子高校生がトイレに入ったまま出てこない。やっと出てきたら何も言わずに帰ってしまった。香代子はこの子はいじめられているのではないかと思った。
 ハンバーガーをたべている少女達を見た。あの子もいた。駐車場で少女は香代子に小石を投げてよこした。「私の前に現れないでよ!」
香代子は少女を自分のマンションに連れて行く。少女は父親と二人暮しで後、2年で自殺の方法を考えているという。少女はアヤという。
アヤは時々、香代子のマンションによっていく。
 香代子は、アヤの家の前に行く。中から父親が出てきた。妻の友人と勘違いしたらしい。思い切ってアヤの手首の傷のことを話した。
 アヤの父親真人とも話すようになった香代子。やがて、香代子と真人は肌を重ねる関係になった。
 アヤが家出した。離婚した妻と暮らす弟もいなくなったという。二人は自殺するつもりかもしれない。
 香代子も心配していたが、真人は元の妻と連絡を取りながら、二人の行き先を探す。
 二人はデパートの屋上にいた。まだ生きていることを喜んだ。父と母が二人に近づく。
 香代子はそれを見て、階下におり一人分の惣菜を買う。
 
1019 女ともだち
Date: 2006-08-04

おすすめ度 ★★★★

 真梨 幸子 著  講談社  発行:2006年6月

 三ツ原タワーマンションの最上階20階と2階201号室で殺人事件が起こった。
 最初は201号室で住んでいた満紀子41歳は殺された後性器をえぐられ子宮が奪われていた。
 2001号室の瑤子38歳は、ナイフで刺殺されていた。やがて満紀子の下着についていた精液や庭に着いた靴の後から山口が逮捕される。
 月刊グローブはこの事件を掲載した。山口の供述に不審な点があった。満紀子を刺した後、非常階段から逃げた際に、20階の瑤子に見られたと思い取って返し、瑤子を殺害したという。しかし、2階や1階からは20階を見上げて見られたという人影はよほどの体制をとらないとみられない。
 山口は留置所で首吊り自殺する。
 やがて、満紀子がインターネットで下着を売っていたことや頻繁に人工中絶を誘発する薬を買っていたこと、ご贔屓のスターをもとめてチケットを大量に買っていたことを突き止めた。
 一方、瑤子は人工中絶誘発の薬を外国から求めそれを2倍の値段でネットで売っていた。また、胎児の瓶詰めを買って、倍の値段で転売していた。瑤子は満紀子が頻繁に買うことを知っていた。
 義父武雄は、瑤子が死んだ翌日にマンションを訪れ、パソコンの中身を消去した。瑤子のこの商売を世間に知られては困る。
 山口が犯人になっていたが、瑤子は満紀子の性器を取ったナイフで自殺したという。                                                                                                        

1018 押入れのちよ
Date: 2006-08-02

おすすめ度 ★★★★

 荻原 浩 著  新潮社  発行:2006年5月

 9話の短編  
「押入れのちよ」築35年の月ケ丘マンション302号室に越してきた恵太は28歳。3万6千円にしてくれたのが気になる。安すぎる。風呂も付いている。
 やがて、そのわけが分かった。夜中に市松人形のような女の子が出てくる。勝手に冷蔵庫の中をあけている。
 恵太は声をかけてみた。14歳だという。生まれは明治39年6月9日。川越生まれだと。
 ちよはカルピスとビーフジャーキーが好きだった。
 普通は怖いのだろうが、ちよと話してみるとかわいい。死んだのは異国の地だと言う。からゆきさんだったようだ。
不動産屋が呼んだ霊媒師がきた。除霊をしてくれるという。恵太は断ったが、勝手にやって行った。ちよは消えてしまったのだろうか。
 2日後、ちよが出てきた。押入れに隠れていたという。
1017 千秋の讃歌
Date: 2006-08-01

おすすめ度 ★★★★

 落合 信彦 著  集英社  発行:2006年6月

 藤島正也は28歳、皇居を見下ろすビルの60階にいた。そこへ警視庁外事課からの訪問を受けた。佐川丈二が行方不明だという。佐川は6年前大学を卒業後、放浪のたびに出たと聞いていた。
 佐川はイスラエルの軍人で、しかも超エリート部隊のゴラニのメンバーだという。それには藤島も驚いた。
 佐川はワシントン市のホワイトハウスから1200メートルしか離れていない以前ホスピスだった屋敷にいた。屋敷の中では秘密の研究の警備に当たっていた。5人のうち面の割れていないものを買い物に行かせたが、外ではFBIが佐川たちの指名手配の写真が貼られていた。
 22歳のマーカスの話を聞き、佐川は耳を疑った。マーカスの母の名はエスターというイスラエル人。紐の部分が数珠で出来ているお守りを持っていた。母が去る時にくれたという。間違いない。マーカスは佐川の弟だった。マーカスもIQがずば抜けて高かった。
 マークスや佐川はプロジェクト・オメガの研究開発に携わっていた。プロジェクトは、破壊的なことが起こってもそれが自然現象と思われるような環境にやさしい兵器を作ることだった。
 佐川は自分の父親がワイゼッカーであると知った時、ワイゼッカーは目の前で銃殺されていた。そして佐川も。
 藤島はマーカスに必要な研究費は出すという。
1016 女信長
Date: 2006-07-31

おすすめ度 ★★★★★

 佐藤 賢一 著  毎日新聞社  発行:2006年6月

 信長が実は女だったという話。
信長が御長といい、下に弟2人がいる。母は側室に勝ちたいためにどうしても御長を男として世継ぎにしたのか。御長を信長という男としたのか。
 信長が女だと見抜いたのは斉藤道三である。道三は信長の妻帰蝶(御濃ともいう)の父親でもあった。御長は20歳にしてはじめて道三に犯された。
 信長は妻には、自分が女であると言っており、林佐渡が妻に夜這わるままに妻との関係を許していた。斉藤道三は陣死した。
 信長は権力の保持するため、伯父の織田信光も兄の秀俊、弟の秀幸も手を回して殺した。
 そして柴田権六勝家に、自分が女であると打ち明け関係を迫った。勝家は弟織田勘十郎信行の重臣だった。信長は信行に「お前の子をもらう。」と伝え、信行を殺させる。
 信長は33歳のとき、浅井長政に恋をした。長政は23歳であった。しかし、良かれと思ってやったことが長政の造反を買った。信長は長政を討つ。
 信長は光秀にも自分が女であることをしらしめた。御長として会うときと、髭をつけ信長として会うときとが頻繁にあれば見破られないはずがなかった。
 また秀吉は、信長に「女として生きられよ。」といわれる。「なぜわかった。」「しゃれこうべでわかりました。男はあそこまでやらない。」と。信長は朝倉義景、浅井久政、浅井長政のしゃれこうべを披露したことがあった。
 御長は、光秀に興味を持った。しかし、本能寺に泊まった折、光秀に裏切られる。御長は、女の姿で炎に包まれる。
 家康も信長が女であったことを知っていた。
1015 トーキョー・バビロン
Date: 2006-07-29

おすすめ度 ★★★★

 馳 星周 著  双葉社  発行:2006年4月

 稗田は歌舞伎町でカモになる男を物色した。消費者金融のハピネスの総務課長小久保がバカラ賭博をやっていた。小久保は飲み屋で刑事の大津と出会った。ビール券や仕立券で刑事から金融会社の辞めた社員が内部情報を持ち出していないか調べてもらっていた。
 稗田は冴子という女と暮らしていたが、最近、冴子は薬物に手を出していた。薬の効果で訪ねて来た稗田の知人とも寝てしまう。稗田もまた、ホステスの美和に狙っていた小久保に近づくよう仕向ける。
 やがて、小久保と美和は関係を持った。美和は店を持ちたいとお金をためていた。一方、小久保は、自分の借金が1千万円に膨らんだことや会社での冷遇に嫌気が差していた。こんな仕事から足を洗いたいと思っていた。
 冴子は、宮前と関係を持ちそれを稗田に知れてしまう。
 小久保は、会社の情報を持ち出し金に換えようとしていた。会社側は、流れ出した社内情報を食い止めるために金を用意し、小久保に交渉に当たらせた。2億円を持った小久保は、美和に電話し逃げようとする。
 しかし、戻らない小久保は、会社側から業務上横領で指名手配されていた。
 切符を買ってくる間に、美和は2億円の入ったバックを持って逃げる。小久保が美和を探す。その周りに得体の知れない男達が群がる。
 

1014 存亡
Date: 2006-07-27

おすすめ度 ★★★★

 門田 泰明 著  光文社  発行:2006年6月

 陣保五郎は、ご公儀から10日間の休みをもらって甲府に帰っていた。村の旧家で今は外務大臣の実家、尾野村家の通いの老女が殺された。直前に3人の男達を見た。
 同じ班の四朗のいる敦賀に行った五郎は、立ち入り禁止の山に向かう5人組を見た。そして近づき声をかけた。日本語をしゃべるが、本当に日本人か分からない。
 日本に来たアカデミー賞受賞俳優ローイ・ウェインが千代田区のホテルで射殺された。ローイが泊まろうとした部屋には、首のないカーキ色の服を着た男の死体があった。まだ客を通していない時だった。
 陣保は基地の営繕係であるが、レンジャー教官適任資格を持っていた。
 不穏な動きを感じた。隊員15名と夜間の警戒任務に当たった。
 京阪神が大停電に陥った。柏崎原発に襲撃した20人を掃討したが、機動隊員など39名が死亡した。狙撃した犯人達は100名。日本側も新潟県警機動隊100名、陸上自衛隊高田駐屯地から100名が応戦していた。
 犯人達は言う「この国は、いかにして守るかという強固な国防理念や義務感がない。スキだらけだ。」と。「そのすさみ精神がこの国を滅ぼすことになるかもしれない。」と。
 消息を絶ったイージス艦と汎用護衛艦が能登半島沖で国籍不明の原子力潜水艦に狙撃された。
1013  ゆれる
Date: 2006-07-25

おすすめ度 ★★★★

 西川 美和 著  ポプラ社  発行:2006年6月

 蓮美渓谷にいった。智恵子は、稔が危ないよというのを振り切って吊橋を先に進もうとした。しかし、稔が智恵子をつかんでいた。「触らないでよ!」と振り払った。
 智恵子は吊橋から落ちて死んだ。
一緒に行った猛は、兄の稔と智恵子の様子を見ていない。
 弁護士の伯父が稔の弁護をする。稔が突き落としたのか、事故だったのか。稔が落ちそうになった智恵子に手を差し伸べたという。
 しかし、猛は、前日の面会で椅子を投げつけるほどの兄の言葉や兄が通話孔をめがけてつばを吐いた諍いがから、見たことのないものをもっともらしく証言し、兄を7年間の刑に服す結果を作ってしまった。
 父は呆けたようになり、猛も面会に行かなかった。そして、出所の前日、アルバイトの洋平から明日出所することを聞かされる。
 猛は行かれないというが、母が遺した映写機をみて幼かった自分が稔に手を引っ張られながら、あの蓮美渓谷で遊ぶ姿を見る。泣いた!
 ポンコツの車で出かけようとする。ガソリンスタンドで洋平の運転する車で刑務所に向かう。
 入れ違いで出所者はもう誰もいなかった。帰途に着く途中、猛は稔を見つけた。ターミナルに向かうバスに乗ろうとする稔。猛は「おにいちゃん、家に帰ろうよ!」と叫ぶ。稔は猛に気づいたように見えたが、バスが二人の間を阻んだ。
1012 霞ヶ関中央合同庁舎第四号館 金融庁物語
Date: 2006-07-23

おすすめ度 ★★★★

 江上 剛 著  実業之日本社  発行:2006年6月

 東京オリンピックの年、初めて買ったテレビでオリンピックを見た。そのテレビが今、銀行によって持っていかれようとしている。哲夫は必死で抵抗した。父の会社が倒産したのだ。その後、父は近くの林でロープで首を吊った。昭和40年だった。
 哲夫は、高校を卒業する時「銀行より強い役所に行きたい」と進学をあきらめ、大蔵省に入った。
 哲夫は、今、金融機関の検査を行っている。検査官は旧大蔵省の検査局から移ってきた。
 哲夫の弟の直哉は、東大を出たあと、五輪銀行に入った。現在は五輪銀行と大東銀行が合併して大東五輪銀行である。直哉は急に出た辞令で広報グループ次長になった。
 金融庁は、大東五輪銀行新宿支店の検査を行った。先日までこの支店にいた直哉も立ち会った。
 しかし、銀行側は資料の一部を隠蔽した。怒った哲夫は、銀行内のパソコンも押収した。廃棄倉庫も調べた。行員が自宅に持って帰って操作したと見られることも見つけた。そして、スーパーエコーの貸付金5200億円の融資に、どこまで債権に対して銀行として引き当てるか注目のポイントになっていた。
哲夫は、原理原則を貫くと直哉に伝える。銀行側は検査に弁護士を同席させていた。改善策を質問しても的確な答えが銀行側から出てこない。
 旧大東銀行側と旧五輪銀行の派閥対立が起こっていた。
 哲夫がつぎつぎと銀行側に指摘していった。虚偽の回答をする、資料の改算があること。債権者の評価がすでに提出済書類と異なること。隠蔽の疑いがあること。資料があるべきところにないこと。などである。
 しかし、銀行側はまだ事の重大さに気がついていなかった。
 そして、銀行の不正が朝毎新聞にでた。それは大東五輪銀行大幅赤字決算へというものだった。
 直哉も奮闘するが上部には分かってもらえなかった。7月、直哉は銀行をやめ証券会社に移った。
 10月、大東五輪銀行は、金融庁に銀行法違反、検査忌避罪で刑事告発された。
 

1011 拒絶空港
Date: 2006-07-22

おすすめ度 ★★★★

 内田 幹樹 著  原書房  発行:2006年7月

 ド・ゴール空港から飛立った206便は、ホイールの一部の金属片を残し、タイヤがバーストしている可能性が出てきた。
 成田運輸整備室では、パリからの連絡を受け森川が対応していた。
 ところが、この206便がでたあと、パリ航空公団からターミナルの閉鎖を発表された。
 ド・ゴール空港で放射線を確認したという。お土産や手提げ袋から機内に持ち込んだと見られる。その機内が206便である。
 タイヤは2つが不良状態にある。そのうえ放射性物質が持ち込まれている。
 機長の朝霧からも問い合わせる連絡が入る。日本では成田に現地対策本部が設置された。
 そして、プルトニウムの水溶液の可能性が出てきた。ワイン200本が積み込まれたという。
 乗客の一人が具合が悪くなった。送り状からワインの関連会社ではない。個人が輸入業者からワインを扱ったことがあるか調べた。
 飛行機の燃料はあと3時間。成田には着けられない。指示により、北海道上空を飛ぶ。
 乗客の中からプルトニウムを測定するガイガーカウンターを作ることが出来ると、元中学校校長が申し出る。測定できれば、放射性物質だけ隔離できる。
 乗客の液体を保持しているものの検査をする。乗客から頼まれたというワインを持ったものがいた。幸いアルミの袋に入れられていた。具合の悪くなった客の吐瀉物からガンマ線が見つかった。
 三沢空港に着陸許可が出る。
 自衛隊機が伴走した。放射性物質はアポロ型にして投下することになった。巡視船も出た。
 投下した後、機体は三沢空港に無事に着陸した。
 
1010 月が100回沈めば
Date: 2006-07-21

おすすめ度 ★★★★

 武田 ティエン 著  宝島社  発行:2006年6月
 
 斎木耕佐は、市場調査のサンプル(普通の高校生のサンプル)として渋谷の会社に来ていた。
 部屋に入り、ひたすら遊ぶのである。入室後は、勉強をしてはいけない。他のサンプルと話をしてもいけない。
 しかし、斎木は友達の佐藤が消えたことから、同じビルから出てくる弓に声をかけた。弓は美人だ。最初は嫌がっていた弓も、斎木の話から一緒に探してくれることになった。
 佐藤がいなくなって1週間経つ。バイクを買い、誕生日に取りにいくことになっていた。しかし連絡がつかない。
 世間ではこのところ中学生の連続行方不明事件がおきている。
 佐藤はインターネットの掲示板でも尋ね人を出して調べた。そのうちに安芸ラーメン屋で佐藤が臆病で頼んだラーメンではない安いラーメンがでても間違っていると言えなかった。以来、高いラーメンを注文しても安いのばかり出された。ラーメン店は先に払う食券制だった。ラーメン屋にカモのされていたという。
 やっと佐藤の家を見つけたが、家族がかわるがわるインターホンに出るが要領を得ない。
 斎木と弓は、自分のバイト先の調査会社に忍び込む。しかし、佐藤のデータは見つけられなかった。
 4人目の中学生の行方不明者がでた。佐藤はその中にいない。なぜ報道されないのだ。この事件にかかわりがないのか。
 中学生行方不明事件の犯人が捕まった。斎木と弓の調査会社のガードマンだった。中学生は声も出せず言いなりになってたまらなく快感だったそうだ。中学生達は監禁されていたが保護された。
 弓はスカウトされ女優の道を進むことになった。
 佐藤に出会った。ハーレーに乗っていた。佐藤は人を殺したという。

1009  チョコレートコスモス
Date: 2006-07-19

おすすめ度 ★★★★

 恩田 陸 著  毎日新聞社  発行:2006年3月

佐々木飛鳥は、W大1年生。演劇部に入ろうといくつか見たが、偶然見つけた公園で練習をする青年達を見つけ「入れてほしい。」と頼む。
 劇団はW大の演劇部を脱して独自のグループを作っていた。そんな彼らが、初日から数日穴の開いた中規模の劇場で旗揚げ公演をすることになった。
 飛鳥がゼロ公演となづけ、「目的地」という芝居が始まった。
 飛鳥に目をつけたのは神谷も同じだった。初日の飛鳥の演技にひきつけられた。そして次に日もみた。内容が少し変わっていたが、飛鳥のもてる力は魅力的だった。
 神谷は女2人芝居のオーデションで、再び飛鳥に出会う。
 一方、響子は、女2人芝居を是非やりたいと思っていた。オーデションには年齢を問わず、いろいろな人がやってきた。そこで、響子も飛鳥に目をつける。
 2次審査では、響子が相手役となり、勝ち残った者達が演じた。響子は、最終的に飛鳥とこの芝居をやりたいという。
 飛鳥は、自分の能力に満足していなかった。しかし、神谷や響子は、飛鳥の力にこれまで感じたことのない感情を覚えた。

1008 澪つくし
Date: 2006-07-18

おすすめ度 ★★★

 明野 照葉 著  文芸春秋 発行:2006年5月

 短編7編 澪つくしは最終部にあり。
 「澪つくし」では、兄の伸一が胃がんで死んでから家を出た兄嫁蕗子から、娘を預かってほしいと頼まれる。娘澪はもう7歳になっていた。兄が死んだ折に身ごもっていた。
 一方、弟の邦男も娘が今7歳である。美輝という。本来なら、半分を蕗子が相続してもよいのに、実家に帰ってしまった。その思いもあって預かることにした。
 澪は、娘の美輝とも仲良くなった。しかし、澪は「このうちの人はもうすぐ死ぬ。」といったり、家の周りに気持ちの悪い虫が出てくるようになった。
 澪の家系は、母も祖母も卜占、祭祀を生業としていた。生きている人に引導を渡すこともできる。死者との橋渡しができた。
 妻は気味悪がり、やはり澪を義姉に返そうという。澪は戻っていった。
 机の上に、美輝ちゃんのことも、おじちゃん、おばちゃんも好きだから、もうこないね。と書いてあった。来れば引導を渡すことになろうとしっていたのだろう。
1007  乱鴉の島
Date: 2006-07-17

おすすめ度 ★★★

 有栖川 有栖 著  新潮社 発行:2006年6月

 犯罪科学者の火村と推理小説家の有栖川有栖と三重県の島のやってきた。
 どうまちがえたか烏島と鳥島を間違え烏島(黒根島)についてしまった。迎えの船は明日の昼でないと来ない。島に民宿もなく1軒あるだけの家に泊めてもらうことになった。
 その家は作家兼翻訳家の海老原の家だった。今日はなぜか大勢の人が集まっていた。11人もいる。そこへお世話になることになった。
 また、そこへリコプターで初芝真路がやってきた。ハッシーと呼ばれる31歳の起業家である。
 この島は木崎夫婦が普段住んでいる。家は海老原の家である。その木崎の夫の方が額を強打され死んでいた。洞窟では初芝が死体で見つかる。
 木崎と初芝がどちらが先に死んだか。
 火村は木崎のパソコンを開ける。「王様は死んだ。だから株を買い換える」という文があった。木崎がインサイダー取引をしようとしていたと火村は見た。
 海老原には若い妻がいたが、数年で死んでしまった。海老原は妻のクローン人間を造ろうとした。そして、自らのクローン人間も。
 二人を殺したのは誰か。
1006  一応の推定
Date: 2006-07-14

おすすめ度 ★★★★

 広川 純 著  文芸春秋 発行:2006年6月

 JR東海線膳所駅(大津市)で男性原田勇治60歳)が電車にはねられ死んだ。
 グローバル損保の村越は、定年まであと12日であった。保険会社の調査員をしている。
 電車にはねられた原田に保険金3000万円の契約があった。死亡診断書には自殺とはなっていなかった。その他不詳の外因となっていた。
 原田の家族に面会した。絶対に父は自殺なんかしないという。原田には臓器移植をしなければ直らない孫がいた。おまけに銀行から3500万円の借金が見つかった。孫に残すために自殺したのだろうか。
 調査員の村越は、警察に行きそのときの資料を見せてもらう。貼り付けられていた名刺から目撃者が家永であることを知る。名刺を手がかりに鳥取まで行く。妻らしきものに事情を聞くが、夫はやせていると言う。ホームでの目撃者は相撲取りのように太っていた。
 妻から夫の知り合いを紹介してもらい、大阪のホームレスを訪ねる。ホームレスから相撲取りのような男は土地のブローカーだと言う。しかし、男は人をだましたまま行方をくらませているという。
 村越は原田が死ぬ前に孫に人形を買っていたことを思い出す。その人形を借りて大阪の人形店に行った。原田は人形を買った日に自転車に乗った子を避けようと頭を打っていた。事故を目撃していた近くの医師は、応急手当をしたが、翌日来るはずであったがこなかった。レントゲンに打撲部にわずかな影がみつかった。医師はそれを気にしていたと言う。
 村越は、原田は嘔吐するために線路に近寄り転落したもので、保険金は支払うようになると報告した。
 自殺なら勢いをつけて線路の中央部に転落するが、力なく崩れた状態に似ていた。
1005  奇蹟の村の奇蹟の響き
Date: 2006-07-12

おすすめ度 ★★★★

 秋月 達郎 著  PHP研究所 発行:2006年6月

 昭和35年になって西ドイツ駐日大使から大麻町にドイツ兵の墓参りに行きたいという電話が入った。役場の職員はこんな田舎町にドイツ人の墓があることさえ知らなかった。大騒ぎのうちに探し出した。
 墓は坂東ドイツ俘虜収容所のあった先のため池の近くにあった。しかも線香もたゆたっていた。墓の周りは花壇も作られていた。役場の職員は感謝した。
 きけば、近くに住む引揚者であるが、外地でドイツの人にお世話になり、帰国して近くにドイツ人のお墓があることを知り、お参りしていたと言う。
 職員は喜んでドイツ大使館に連絡したが、当時のドイツ人のことを知る人を探した。
 坂東や徳島からも、助役も若い頃知っていると言う。
 大正3年ごろ車引きをしていた松五郎は、兵隊で青島にいたころ、はじめてパンを食べた。ビールも知った。
 松五郎が徳島へ戻ると、坂東にドイツ人の俘虜収容所が出来ることになった。五千七百余人しかいない村に、ドイツ人が千人も来ると言う。大正6年のことだ。
 そうして、ドイツ人と日本人が暮らす村に、いつしかベートベンの第九や歓喜の歌が聞こえるようになった。言葉は分からないが、心に響く音だった。
 日本人の結婚の折には、ドイツ人からお祝いにバイオリンが引かれた。
 ドイツ人がため池の辺りで交響曲第九番が演奏された。林の中で覗き見ていた日本人は無我夢中で拍手した。
 大正9年にドイツ人が引き上げるまで交響曲の交流が続いたという。

1004  多摩湖・洞爺湖殺人ライン
Date: 2006-07-10

おすすめ度 ★★★★

 深谷 忠記 著  実業之日本社 発行:2006年6月

東京の多摩湖の近くの民家で殺人事件があった。元プロ野球のエース日下部の妻沙織が自宅ベットで胸を刺され死んでいた。発見したのは夫の日下部稔である。
 日下部は妻の生命保険に1億円をかけていた。
 北海道・洞爺湖で殺人事件があった。湖に中西が浮かんでいた。日下部は北海道の出身である。
刑事は、北海道に飛ぶ。日下部が妻の殺害を中西に頼み、その中西を殺したと見た。
 しかし、日下部のアリバイがくずれない。日下部は沙織の妹とも仲がよい。
 調べていくうちに妻の沙織は生前浮気をしていたことが分かる。相手は日下部の高校時代の友人で今も同じ会社に勤める榎本だった。
 榎本は積極的に浮気を誘う沙織に負け、関係を持ってしまうが、この関係は清算したいと考えていた。
1003  ユグドラジルの覇者
Date: 2006-07-05

おすすめ度 ★★★★

 桂木 希 著  角川書店 発行:2006年5月

矢野健介は、リオ・デ・ジャネイロにいた。近所の仲間が弟のために金を工面するために2万ドルを盗んでつかまったという。金が必要らしい。そこへ5万ドルを2時間以内に用意すると言う男がいた。男は健介に「世界を駆けた闘いをやろう」という。
 野球場のように広い会社の中央にそびえる巨木がユグドラジルである。社名はユグドラン・ユニバーサルでる。ローリングはこの会社にヘッドハンテングされた。
 ジャックは華人である。本名は趙文濤という。シンガポールで育ち高校までをすごした。アメリカにわたり、ハーバードに入り、MBAを取得した。
 ハンナはロンドンにいた。ハンナの母は娼婦だった。警察の網に落ち母は捕まった。ハンナはガペンディシュに拾われハーバード大学を出た。資産運用の会社ELMキャピタル社の社長である。
 ブライアンは、ネットバンクの支配を考えていた。
 ブライアンは、矢野健介にネットバンクから手を引くようにいわれる。
 矢野は株取引の際のコンピュタの作動時間をより早く作動するように考えていた。
 矢野は、ネットワークの支配を進めていた。ネットワークを支配したものが世界を支配する。
 ハンナが欧州を相手にしていた。今度はアメリカである。しかし、趙はそのハンナを陥れた。ハンナは信用を失うだろう。父ガペンディシュはもう闘わなくてよいと言う。
1002 宮廷女官 チャングムの誓い 上・中・下
Date: 2006-06-29

おすすめ度 ★★★★★

 ユ・ミンジュ 著 秋 那 訳 竹書房 発行:2005年7月

 チャングムの母が最期につぶやいた言葉を覚えていた。「母さんはスラッカンの最高尚宮(チェゴサングウ)になりたかった。」チャングムはまだ8歳だった。母は、肩と脇腹に矢をうけまもなく死んだ。
 父は今上殿下の生母を殺した官軍として連れて行かれ処刑された。
 チャングムは、母を葬ったあと、道を尋ねた酒樽のある家に行く。口うるさい女将さんと背の低いやさしいトックおじさんの家だった。チャングムは2年間このトックの家で育つ。
10歳の時、大君媽媽の前で「宮女にしてください。」と頼む。翌日、身分の高い女性が迎えにきた。
 チャングムは官庁の大部屋に入った。しかし、身分の低い卑しい子といじめられる。ハン尚宮に仕えるようになり、百種類の山菜と味と香りを覚えた。調味料、薬味、などを舌に覚えさせた。チャングムは新しいことを覚えれば覚えるほど好奇心が強くなった。
 内禁衛のミン・ジョンホはチャングムの訓育場の隣の教書閣にいた。ミン・ジョンホから書経を貸してもらう。
料理対決の日、チャングムは小麦粉を盗まれてしまう。変わりにかぼちゃで饅頭を作った。クミョンの饅頭の方が選ばれたが、チャングムの饅頭を食べた大妃は、その応用力に感心する。
 王子が麻痺を起こして倒れた。高麗人参を与えたトックがつかまった。チャングムは医学書を借りてきて調べる。高麗人参と肉豆蒄の食べあわせが原因だと言うことを突き止める。それをチャングムは自分の身を持って実験したため舌の感覚を失う。
 チャングムが休暇中にハン尚宮は、王が消化不良で病状が悪化したと捕らえられる。チャングムはそれを聞き、王に救いを求めに塀を乗り越えた。王が起居する周辺に立ち寄った罪で済州島に送られる。ハン尚宮は処刑されてしまう。
 済州島でチャングムはチャンドクに出会い、薬草のあれこれを教えてもらう。ある時、攻めてきた倭冦の大将をチャングムは、脅されて治療する。再びチャングムは倭冦を助けた罪で窮地に立たされるがミン・ジョンホが救う。
 チャングムは医女試験に受かり、再び宮廷に戻る。ミン・ジョンホを想っていたクミョンは側室となっていた。クミョンは死産した後、病に伏せていた。なかなかよくならない。チャングムの見立てでは、一刻も猶予がない。医師の不在の折、チャングムはクミョンを治療の後、死んだ胎児が流れ出た。クミョンは回復に向かう。
 その治療の件でチャングムは恵民署に追いやられる。村では流行病で人々が死んだり苦しんでいた。ミン・ジョンホも村に来て現状を視察していた。その時、何者かになぐられ廃家に投げ入れられる。 チャングムが立ち寄った家に、何人もの苦しむ病人がいた。その中にミン・ジョンホを見つける。必死の介抱をする。ミン・ジョンホが回復するころ、チャングムが倒れる。ミン・ジョンホはチャングムを馬に乗せ都に向かうが、途中で捕らえられる。流行り病が死んだ牛の肉だとミン・ジョンホは訴える。同時に悪の温床となっていたチェ・パンスルも投獄される。
 チェ尚宮がその肉を食することになった。チェ尚宮は倒れる。やっと牛肉の食用の禁止令が出された。
 ミン・ジョンホとチャングムは釈放される。倒れたチェ尚宮をチャングムが診る。その折、提調尚宮から「お前の母親とハン尚宮を宮中から追い出した張本人であるが、職務を忘れてはならない。」といわれる。
 チャングムは、ハン尚宮の死よりも母とハン尚宮の汚名を晴らすことだと誰よりも積極的に看病する。
 やがて、チェ尚宮は「自分が大妃の御膳にトリカブトとセンキュウをすって入れるのをミョンイに見られたために殺した。」と口にした。チェ尚宮は謀反の罪で済州島に送られ、死ぬまで島を出てはならないとされた。クミョンは実家に戻され、首をくくり自害する。
 無念の誣告によって宮中を追われたミョンイには尚宮の位を、汚名を着せられたハン尚宮には最高位の尚宮を与えられた。
 チャングムは王の看病にあたる。敗血症と床ずれで化膿した部分を吸出し身体を清め針を打った。
 身分の違うミン・ジョンホと医女チャングムの仲が問題になり、二人を追い出すよう宮中が騒がしくなる。
 王は、ミン・ジョンホを左遷させる。王はチャングムを側室に望むが「自分には思いを寄せている者がいます。」と断る。
 王はチャングムを病床に呼ぶとチャングムに偉大なる女性と言う意味の大長今(テジャングム)の玉笏を贈る。そして「外で武官が待っている。その者の後についていきなさい。」という。ミン・ジョンホとチャングムは中国へ向かう。

1001 道三堀のさくら
Date: 2006-06-27

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  徳間書店 発行:2005年12月

 龍太郎は、今年で25歳である。父から受け継いだ水売りをしていた。
 永代橋の大川から江戸城まで堀で繋がっている。一石橋の先でお堀と繋がる。その先を西に向かったところが道三堀であった。道三堀は桜並木であった。
 江戸は御内府には水道が通っていたが、日本橋を越えた深川には水道がなかった。水道は大川を越えること出来なかった。深川の人々は、井戸水で洗い物をしたが、口に入れるときは水売りからかっていた。
 汐見橋のたもとでしのだという蕎麦やがあった。龍太郎は、そこの娘おあきを想っていた。蕎麦屋は流行っていたが、近くに大きな蕎麦やができるという話が持ち上がった。
 上州屋は息子のために蕎麦屋を新しくしようとしのだの近くで考えていた。
 上州屋はしのだの蕎麦を食べた。うまかった。これを息子に教えてほしい、店の方も頼む。それよりも、つれてきた駕籠やにまで気を配るしのだの配慮に感心した。
 しかし、しのだの主茂三は断る。店が大きすぎて責任がもてない、地道に目の届く範囲で商いをしたいという。
 上州屋は店を出すのをあきらめる。
 龍太郎はおあきと夫婦になるのを楽しみにしていたが、うっかり娼婦のところで夜明かししたことでおあきとの仲が開いていった。娼婦とはなにもなく一夜を過ごしたと言うのに。

1000  毒蟲VS.溝鼠
Date: 2006-06-22

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  徳間書店 発行:2006年4

 大黒は突然彼女に別れを切り出され戸惑った。大黒はもう一度彼女の志保とやり直したかったが、志保は松田健作という元の婚約者に依頼された木内という男にもてあそばれ捨てられた。が、志保は木内の前に長年連れ添った自分(大黒)を捨てたのだ。
 大黒は別れさせ屋の道に入った。性格も温和な自分とは違って凶暴で非情になっていた。
 木内が生きていると聞かされた。2年前に死んだはずだった。木内は溝鼠という異名を持つ。本当の名は木内ではなく鷹場英一だった。鷹場は姉の澪を愛していた。
 鷹場は、2年前、松田から頼まれた志保と男を別れさす依頼を受けていた。志保の男とは大黒のことだった。
 鷹場は志保に近づき、ほどなくいい仲になった。志保は大黒と別れた。大黒は鷹場の元にやってきた。大黒は鼻腔にワサビを詰められ、右手の甲に5寸釘を打ち付けられた。そして鷹場に左手にも5寸釘を打ち付けられ、志保の前に現れないと約束させられた。
 しかし、大黒も別れさせ屋をやりながら、仲間内から毒蟲の異名をつけられていた。
 志保は大黒の差し向けた男から陰部をめった付きされた。幸い命に別状はなかった。鷹場は志保に娼婦として働かせた。
 鷹場がマニラから戻って真っ先に志保を探した。やせ細った志保はうつろな目で「前金で・・お願いします」と蚊の啼くような声で言った。鷹場はそんな志保を抱くとやおら志保の顔を傷つけた。
 大黒は鷹場の姉の澪と一緒にいた。澪は顔をつぶされ体中にケロイドを作っていた。
 鷹場は呼び出された場所に行く。姉の澪に会う。一方、大黒は「前金でお願いします」という志保の変わり果てた姿を見た。
 大黒は鷹場に踊りかかる。しかし、鷹場は日本刀で大黒の生首を跳ねる。そして澪の口に銃口を放つ。志保の口の中をも撃った。返り血にまみれた溝鼠そのものだった。
999 踊る天使
Date: 2006-06-19

おすすめ度 ★★★★★

 永瀬 隼介 著  中央公論新社 発行:2006年4月

 消防士の遊佐満は、口をVの字に裂かれた焼死体をみて衝撃を受ける。これが終わりの始まりだと感じた。火事は赤羽の消費者金融の事務所だった。
 バブルのころ、新宿歌舞伎町のラブホテル街の奥に料亭があった。消防士の満は、16歳の時、父邦町章夫とこの華耀亭にやってきた。満の父は、事業に失敗し妻にも去られ、借金しても酒と賭け事に手を出していた。もうどうにもならなくなった時、華耀亭に送られた。陽のあたらない何度のような部屋だった。
 この華耀亭には、文子とその子どもの京介12歳も住んでいた。満は文子の優しさに母だといいなと思っていた。
 華耀亭は、真田という男がお宝の株が分かるという噂で練金術の先生とあがめられていた。
 真田は、料亭の土地を担保に5億円をかり、株の売買に手を出し、10億になった時、土地を買い転売を繰り返し膨大な利益を生んでいた。
 しかし、バブルの崩壊と共に先生は破綻した。そして狂気犯された先生は、日本刀で文子を殺し火災がおきた。
 父の邦町章夫も死体の中に包丁の先があったことから文子を刺した犯人として捕らえられた。父は留置所のなかで自殺した。
 その後、満は消防士になり、京介は探偵になっていた。
 歌舞伎町で火災が発生した。またしても口を裂かれた焼死体があった。
 真田を躍らせた水谷と中野と松岡だった。中野と松岡は火事で殺された。水谷は歌舞伎町のパールタワーにいた。
 満も京介もそのビルに。二人は燃え盛るビルの十階から飛び降りる。復讐は果たした。
 
998  夜の公園
Date: 2006-06-14

おすすめ度 ★★★

 川上 弘美 著  中央公論新社 発行:2006年4月

真夜中の2時半ごろ、リリは公園にいた。公園では道を歩く人、拳法のような身振りをする人、固まって歩く人などが通り過ぎていく。
 リリは夫の幸夫が好きではないとおもった。
 スーパーであれっと声をかけられた。振り向くといつも公園をマウンテンバイクで飛ばしている男の子だった。暁という。
 暁とリリは暁の部屋で抱き合った。
 リリは英語の教師をしている春名に会う。リリは心の中で春名に夫の幸夫を奪ってほしいと願っていた。 
 リリは外泊した。暁と過ごした。幸夫は別に何も言わなかった。
 幸夫は春名と会っていた。春名は一緒に泊まったことを喜んでいた。
 リリと幸夫は離婚する。リリは妊娠した。幸夫に「あなたの子ではない!」といった。
 おなかの子は女の子だと言う。暁にも告げないまま、リリは暁とも別れた。
997  虹の彼方
Date: 2006-06-08

おすすめ度 ★★★★

 小池 真理子 著  毎日新聞社 発行:2006年4月

 女優の高木志摩子に会った奥平正臣は、志摩子に一目ぼれをした。
 志摩子は、奥平の書いた「虹の彼方」を志摩子の主演する舞台で公演する事になった。虹の彼方は、それぞれが家庭を持つ男女が出会い、恋に落ち挙句に情死するという話だった。
 奥平は志摩子に会うことができるのが喜びだった。
 公演は1ヶ月で終了したが好評であった。その後、奥平と志摩子は虹の彼方と同じように不倫に陥る。
 志摩子の夫は妻の行動に気づき、奥平の妻も女の影を知った。そして、奥平の妻は、妻の友人から奥平の相手が志摩子だと聞かされる。
 二人は、仕事が一段落した7月に上海に飛立つ。5日後、志摩子の夫と奥平の妻はふたりの失踪届けを出す。
 日本の週刊誌は書きたてた。奥平は43歳、志摩子は5つ年上だった。もう離れられなくなった。
 志摩子は、以前にも映画監督と、俳優とスキャンダルがあった。
 奥平は志摩子に夢中になった。
 ふたりは21日ぶりに日本に戻る。しかし、奥平の妻は家を出たあとだった。志摩子の夫は、これからどうしたいかと聞く。志摩子は一人になりたいと応える。
 夫が出て行く車と奥平がこちらに向かう車がすれ違う。
996  私一人
Date: 2006-06-04

おすすめ度 ★★★

 大竹 しのぶ 著  幻冬舎 発行:2006年1月

 女優を始めてから2003年で30年になった。
 「ボクは女学生」のフォーリーブスの北公次の相手役で5700人の中から選ばれデビューした。17歳で「青春の門」の織江役を演じる。
 風邪薬「ルル」のコマーシャルをする。
 小学校2年生で埼玉に引っ越す。中学時代は勝気で目立ちたがり屋だった。
 1982年、23歳の時TBSプロヂューサーの服部晴治氏40歳と結婚。
 1987年服部氏胃癌で死去。長男二千翔は2歳だった。
 「男女7人夏物語」と「男女7人秋物語」でさんまと共演。その後「いこかもどろか」で映画にも。二度目の結婚をする。
 1989年いまるが誕生。まもなく離婚する。
 つづいて野田秀樹と同居するが、1999年別れる。
 2002年、いまるは中学1年生でカナダにホームスティする。つづいて二千翔もアメリカへ2週間の子どもたちの不在であった。
 野田と別れた後も野田の演出の「智恵子抄」に出演。
 「人生は楽しく短い祭りのようだった」といえるように生きていきたいという。
995  黒い太陽
Date: 2006-06-01

おすすめ度 ★★★★★

 新堂 冬樹 著  祥伝社  発行:2006年3月
 
 母が家を出、父は酒びたりになった。挙句に倒れた。入院費、手術費など多額の費用が必要になった。立花は高校3年の3学期が始まる前に中退した。
 午後4時から午前3時ごろまで働く、キャバクラで働いた。自給は1500円だった。
 キャバクラに似つかわしくない千鶴は、キャバクラではナンバー1だった。客の話を熱心に聞くし自分を崩さない。営業の電話やメールをしなくても、千鶴の席はいつも笑い声があがっていた。
 その千鶴に立花を曳かれた。しかし、千鶴は社長の藤堂の幼馴染であると言う。
 千鶴に客が抱きつき胸に触れようとしていた。それをみて立花が客とトラブルになる。
 社長は立花を別のところに連れて行く。長瀬と言う男は客とのトラブルをうまく処理していた。
その長瀬と立花が似ていると藤堂は言う。
 千鶴が立花に自分は藤堂と男と女の仲だという。立花は店をやめる。
 立花は1年以内に店を持つと決心する。藤堂の敵対する別の店に入る。
 そして立花は店を持った。元の店の女の子を引き抜く。立花がキャバクラ嬢をスカウトしたりして回転にこぎつけた。
 順調に行っていた。千鶴にも会い、店に来てもらうようになった。
 キャバクラ嬢の仲違いから、千鶴とも別れる。藤堂の店をつぶせたと思った。
 しかし、思わぬ失態が待っていた。負けまいとするあまり、女に売春を強要した事で刑事がやってきた。
994  バイアウト 上・下
Date: 2006-05-31

おすすめ度 ★★★★★

 真山 仁 著  講談社  発行:2006年4月

 アメリカ軍の戦闘訓練の際にミサイル回避電波が失敗した。ミリ波を用いたEMC装置の甘さだった。その装置は日本の曙電機が開発したものだった。「すぐにその会社を買い取れ!」と言う指示が出た。
 日光ミカドホテルの貴子は、政府系ファンドのふるさとファンドから支援を受けて再生に取り組んでいたが、そのミカドホテルも外資系の投資銀行が買いたいと言ってきた。
 鷲尾政彦は、1年ぶりに日本に戻ってきた。ホライズン・キャピタルを設立し、日本での企業買収をすすめていた。そしてアランの死を知る。ホームから転落したと言う。アランは酒が飲めなかったはずだ。事故死として扱われたが、不審を抱いた。
 鈴紡の化粧品を子会社化し、化粧品部門だけでも守ろうと鷲尾は考えた。しかし、鈴紡は、ニッポン・ルネッサンス機構に救済を申請した。ほぼ鷲尾の手に渡るはずが一転した。
 一方、日光の貴子のミカドホテルは、フランス系のリゾート会社に買い取られた。貴子は雇われ支配人になっていたが、ホテルは閑古鳥が鳴いていた。
 曙電機は、プラザグループが買収に動き出した。曙の諸星は解任された。鷲尾は記者達の質問に「諸星に帰ってきてほしい」と答える。
 一方で曙はシャインとの統合を進めていた。
 プラザグループがアメリカでの疑獄事件が発覚した。
 滝本は鷲尾に会い、曙電機のテレビ事業部の面倒を見る代わりに曙との合併を白紙に戻してほしいと言う。
 アメリカが狙っていたミリ波の技術は守られていた。器は売ってもミリ波は売らなかったのだ。
993 峠越え
Date: 2006-05-27

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  PHP研究所  発行:2005年8月

 1676年、江戸開府から73年が過ぎた年、深川冬木町で女衒の新三郎は一度に着物十枚を誂えるしゃれ者だった。
 新三郎が世話した女郎が梅毒だと知り塞ぎこんだ。
 江ノ島の藤沢宿で賭場で壺を降っていたおりょうと知り合う。
 とめの店のまんじゅうを200個仕入れ、ご開帳に備えた。しかし、初日に10個、次はもくろみの半分で百個が売れ残った。
 その百個を回向院に供える。
富岡八幡宮の永代寺の仲見世でまんじゅう屋を営む伊勢屋をたすける。
 回向院の門前に伊勢屋が来た折、おりゅうはまんじゅうに柿の葉を敷いて出す。
 伊勢屋はとめの店で伊勢屋の淡雪まんじゅうを売ることを許可した。500個のまんじゅうが売れた。
 そのまんじゅうに新三郎が、お茶とまんじゅうで8文、拝観帰りによれば4文で売るとビラを配る。
 おかげで評判を呼びよく売れるようになた。
 新三郎は暮れから熱を出し、ようやく熱が下がった正月5日、四天王と言われるてき屋の元締めたちに会うことが出来た。
 四天王は淡雪まんじゅうの柿の葉をしいた商法に感心していた。いっしょに酒を飲み交わすうちに新三郎は、骨休みに熱海と久能山にいくという。
それを聞き、四天王の親分達も一緒に行こうと話がまとまる。
 とめはそれを聞き、大山講の先達に引き合わせる。綿密に旅の計画を練り出発する。
 2月下旬に旅に出る。旅の先々で四天王の度量のよさと、四天王は新三郎の配慮の仕方に感心する。
992  いつもの朝に
Date: 2006-05-26

おすすめ度 ★★★★★

 今邑 彩 著  集英社  発行:2006年3月

 古いぬいぐるみの腹につくろった後を見つけた優太は、中から紙切れを見つける。
 それには「優太へ 本当のことを知りたければ岡山の袈裟村の福田ヨシという人物を尋ねてみろ  父より」と書いてあった。
 優太は、すぐに兄の桐人と千夏に相談する。そして母には内緒で岡山に行く。
 ヨシばあさんはうれしそうに迎えてくれた。そこで聞いたことは、ヨシばあさんの息子の子が優太というが首を吊って死んでしまったという。母に当たるヒサノは優太を産むとすぐに亡くなった。
 優太は、ヒサノが訪ねた先の沙羅という人に育てられたと言う。沙羅は優太の母だ。
 それ以上に打ちのめされたのは、父が残したというノートだった。それには、父は14歳の時、たったひとり沙羅と言う娘だけを残して牧師一家を殺していた。
 優太は母の本当の子ではないことにショックを受けた上に、本当の父が、今の育ての母の一家を殺したことだった。
 なぜ母は犯人の子などを引き取ったのか。
 帰京後、優太は兄にノートをみせ心のうちを話す。兄は父の幼かった頃の写真を見つけ、優太にそっくりなのをみせ、優太は間違いなくこのうちの子だと納得させる。
 しかし、新たな疑惑がわいてきた。桐人は、自分が優太という存在なのではないかと、岡山にいく。
 ヨシばあさんは、桐人の声に驚く。死んだ爺さんの声に似ていると言う。そして、隣のおばさんは桐人を澄子さんの若い頃に似ていると言う。
ますます、桐人は自分が優太であると確信する。
 桐人はいったん家に戻るがまた出かける。母も優太も心配する。
 優太は、兄が母の実家の牧師の家に行ったと直感する。優太が行くとやはり兄はいた。
 帰ろうという優太に兄は悩んでいた。優太という存在を忘れようと言う。優太はとっさに首を吊る。あわてた桐人は母に電話し、処置を仰ぐ。
 優太は兄の桐人のマンツーマンの人工呼吸を試みる。 
 優太は助かる。
 その後、桐人は医者になり九州の離島に行く。36歳で癌のために亡くなる。
 優太は千夏と結婚する。亡父の後をついで生物学者になった。
 母は画家で顔の無い少年の絵を描いていたが、桐人の肖像画を書いて絵の道を捨てた。最高傑作が描けたからだと言う。光に満ちた美しい絵だった。
991  弘海 息子が海に還る朝
Date: 2006-05-24

おすすめ度 ★★★★

 市川 拓司 著  朝日新聞社  発行:2005年2月

弘と真由美の間に生まれた弘海は、来年は中学生になる。妹の美和とも仲良しである。
 ある日、美和が弘海の脇の下の肋骨のところが赤くはれていると指摘した。
 スイミングスクールに通うようになった弘海。妹の美和は、弘海の手と手の間の薄い膜を見つける。「水かきだよね」と。
 弘海は、胸の絆創膏のことを女の子に聞かれた。里沙というこだった。
 弘海は体調を崩した。高熱が出てだるさがあった。
 長男の体調の変化を父親の弘は心配し、インターネットで調べる。似たような症状を持つ子がオレゴン州とジアトムというページで見つけた。
 弘海がジアトムは里沙の家のホームページだという。里沙と弘海は同じ病気を持っていた。
 弘は、弘海と妻を伴って市井家を訪ねる。市井家にはプールがあった。里沙も弘海も水の中の世界が住み易い場所であった。
 市井は、カリフォルニア州にいるデイブという大農場主に里沙を託そうかと考えていると言う。デイブは研究者でもあった。
 オレゴン州に住む少年もデイブを訪ねると言う。
 弘は、弘海も里沙といっしょにカリフォルニアに行かそうと考える。

990  逃亡
Date: 2006-05-20

おすすめ度 ★★★★★

 帚木 蓬生 著  新潮社  発行:1997年5月

 戦後、守田は田中軍曹から香港ではすでに密偵と憲兵狩りが始まっているという。一般の流民に成りすまし故郷に戻ろうと言われる。
 守田は特高だった。表向きは兵士の格好をしていないスパイを殺した。兵隊の格好をしていない以上民間人である。それを殺したとされるだろう。
 暴動が起きる前に守田と田中は軍隊から抜け出す。
 密偵をしてもらった中国人に匿って貰い、ころあいを見て中国人の格好をして船に乗り、守田は日本人収容所に行く。田中は別のルートに逃げた。
 そこから、守田は明坂と偽名を使い日本に帰国する船に乗ることが出来た。
 最初に日本の鹿児島についた。県庁も山形屋も無事だった。
 守田はすぐさま、妻の実家へ向かう。妻の瑞枝も子の善一もいた。善一は小学校2年生になっていた。
 守田は妻と子を連れ、守田の叔父の家に向かった。叔父の家では、瑞枝も善一も肩身の狭い思いをして暮らした。
 久保曹長の近くで店を出すことになり、やっと親子だけで暮らせるようになった。大豆、干し芋などを売るようになった。
 そうしているうちに、戦犯に関する報道が高まり始めた。自分のところにも刑事が来た。出頭命令が出ていると言う。
 守田は逃げた。妻や叔父の家の周りに刑事が張り付くようになったり、出頭させ取り調べたりした。
 守田は熊谷曹長と水戸の甲田を訪ねた。浜辺の近くで塩を作り、守田はそれを売り食を得ていた。
 その掘っ立て小屋でさえ、守田が妻から送られたオーバーを質入したことで警察に捕まる。
 守田は自分が戦犯であることを告げる。巣鴨へ送られるが、妻との面会も許可された。
 香港へ送られると覚悟した時、香港の法廷が先週を以って閉廷したので、守田は突然釈放される。
989  栄光なき凱旋 上・下
Date: 2006-05-15

おすすめ度 ★★★★

 真保 裕一 著  小学館  発行:2006年5月

 ジロー・モリタは、ロスの酒場にいた。2世である。父の死後、兄も死に母は次々と男を変えて生きていた。ジローは母とは疎遠になっていた。
 ケイトと付き合っていたが、ケイトは日本食堂カワバタのヘンリーと結婚の約束をしていた。
 ポールが母のことをかぎまわっていると感じたジローは、ポールを絞殺し運河へ重石を付けて捨てた。
 ジローは、自分はアメリカの国籍があり、アメリカ人だと思っていた。しかし、パールハーバーの日本軍の奇襲とともに、皆の見る目が違った。
日本人は暮らしにくくなっていた。そして、土地家屋を追われ馬小屋のような収容所に入れられる。
 ジローは日本語の堪能なところを見込まれアメリカ軍に入隊する。日本人に敵意を抱いていたジローは能力を発揮する。しかし、仲間達はジャップと軽蔑する。
 ケイトは投石による事故が元で死ぬ。ヘンリーもやがて軍に入り、ヨーロッパに派兵される。
 ジローは日本軍の機密文書を託され、作戦に使う。
 日本語で近づき、日本兵を陥れる。ジローの働きは広く轟いた。しかし、いつもポールを殺したことを気にしていた。
 そしてポールを殺したと申し出る。ジローの戦争時の働きを讃えられたが、判決は20年の刑だった。
 12年後、出所したジローは、戦時下でのヘンリーの死を知る。
 ジローは共に戦ったマットの家族を訪ねるためにハワイに行く。
 
988  在日修羅の詩
Date: 2006-05-08

おすすめ度 ★★★★

 茂山 貞子 著  講談社  発行:2006年3月

 昭和32年、小学校3年生の貞子は、雨の日靴が破けていることから下駄を履いて登校する。
 在日1世の祖父は異国にあって辛酸をなめていた。ようやく軌道に乗り始めた頃、日中戦争が勃発した。
 戦後、日本人の朝鮮人に対する差別は一向にやんでいなかった。
 19歳の姉、17歳の自分、弟がいたが遮断機の無い踏切で電車にはねられ死亡した。
 母と父はけんかばかりしていた。姉がいつも中に入って止めていた。
 貞子が18歳の時、ミスユニバースに選ばれた。その後は、クラブで働くようになる。
 父の建築会社もうまく行き、家を持てるようになった。
 22歳で三宮で店を出す。昼は喫茶店、夜はスナックとして営業した。
 23歳の時、2軒目の店も開いたが、警察の摘発に会いすぐに閉めた。
 昭和52年、韓国へ行く。税関で「半分日本人め!」という言葉を投げつけられる。
 帰国後妊娠していることがわかる。結婚後まもなく何も言わずに行方不明になった。
 昭和57年、夫が見つけてきた100坪のコンクリート建ての家に移る。
 平成3年には大阪国税局の査察を受ける。震災の後、父が癌で死亡。
 貞子は在日3世。日本の土になるつもりだ。
987 叶うことならお百度参り
Date: 2006-05-05

おすすめ度 ★★★

 渡辺 一枝 著  文芸春秋  発行:2006年3月

 子どものころのあだ名が「チベット」だった渡辺。
 18年努めた保母の仕事をやめ、1987年初めてチベットに行く。
それから、1995年には馬でチベットに行き、1999年には4度目のチベット。2002年は夫椎名も同行した。
 シュンバ村で5歳ぐらいの賢そうな女の子がいた。母も祖母も死に父親は誰だか分からないという。渡辺はその子に付けられたシロゥドルマは死に損ないのドルマという名前だった。
 ドルマはこの子の里親を探したが、結局施設に預けることになった。渡辺が現地の夫婦に託し連絡を取り合う。ドルマはテンジン・ドルマと名づけられた。モゥモといって渡辺を慕った。
 SOS子どもの村に預けることになった。新しくできた孤児院である。
 渡辺は2004年、ドルマに会いに行く。明るく成長していた。小学生になっていた。
986  いなかのせんきょ
Date: 2006-05-02

おすすめ度 ★★★★

 藤谷 治 著  祥伝社  発行:2005年12月

 四方八方が山に囲まれた戸蔭村は、隣の六路町と近隣の三町村との合併が持ち上がった。
 それに便乗して村長は、雛わらじ記念館を建ててしまった。しかし、合併はご破算になり、建築費24億円の負債を抱え村長は引責辞任をしてしまった。
 村ではかれこれ何年も選挙と言うものをやったことが無かった。対立候補が出ないよう事前に根回しがされてきた。
 しかし、雑貨店を営む深沢清春は、平山助役から村長に立候補するよう薦められた。
 その気になっていたところ、今度は建築業の方からクレームがでて、結局平山も立候補することになった。
 深沢は、中学しか出ていないが、村に永く住んでおり村を良くしたいと言う気持ちは強かった。
 一方、平山は村の代々の大地主で金の苦労はしたことが無かった。一ツ橋大学を出て村に戻り助役をしていた。
 深沢は金のかからない選挙をやろうと身内を招集して選挙運動を始めた。
 平山は立派な人らしい、景気のいい人らしい、頭のいい人らしいと評判になっていった。
 一方、深沢は村民を前に、都会風の発展よりも戸蔭村らしい発展をさせたい。山道を歩きやすくするとか、介護を役人任せにしないとか、年寄りに知恵を借りるとかそういう、地道な発展を訴えた。
 1641人の有権者がいる。深沢は当選した。
助役には平山にやらせることにした。
 村に古くからあるものを大切にすることは、村民の意識を高揚させる。誰からも相手にされなくなった老人にも相談に行くと、お年よりは記念館に足を向け、何かとアドバイスをしていく。
 村民のアイデアで発展していく兆しが見え始めた。
985  暗い日曜日
Date: 2006-04-26

おすすめ度 ★★★★

 朔 立木 著  角川書店  発行:2006年1月

 弁護士の川井は有名な絵描きの梶井舜の弁護を引き受ける。
 梶井は愛人の津島七緒を包丁でめったさ死したとされている。夫を探しに来た梶井の妻によって通報された。
 梶井は妻に「自分が殺した」と言った。
 川井が梶井を訪ねるとまったくの無一文で拘留されていた。他人が着たであろう古着のTシャツを貸与されていた。
 そして、梶井は川井に「検事の言うとおりに認め、死刑になってもよい」と言う。
 川井はもう一度供述書を読みながら、疑問点を挙げていった。七緒には息子亮がいた。14歳の中学生である。
 梶井はしていない殺人をしたことにして罪をかぶろうとしている。誰かをかばっているのか。
 川井は公判の際に亮がいることに気がつく。亮に会い、梶井の気持ちを伝えた。「もう、法廷に来てはいけない」と。
 川井は七緒の元の夫小野にも会った。大学で教鞭をとっていた。七緒は学生で小野のゼミにいた。父親のような存在になろうと小野は七緒と結婚した。
 15年前、七緒は「梶井と夜中じゅう一緒にいた。離婚してほしい」と言われたが応えなかった。亮が生まれ七緒を離したくないばかりに10年待たせた。そして離婚した。
 梶井と七緒は15年も関係を続けていた。そして、七緒は自殺した。しかし梶井は自分が殺したと言い続けた。
 懲役14年の判決が出た。亮は苦しみ泣いた。それを見て小野は抱きしめながら、この子は本当に自分の子だと思った。
 川井は、梶井に控訴しようと持ちかける。
 
984 螺旋宮
Date: 2006-04-23

おすすめ度 ★★★★

 安東 能明 著  徳間書店  発行:2005年11月

 10月の終わり、妻の年恵が白金台の都立庭園美術館近くにいいマンションがある。そのマンションに入るには、マンションの地下室に1ヶ月住まないといけないらしい。でも相場の3分の1で買えるという。
 高代は、1ヶ月休暇をとり地下へ入った。50メートルぐらい地下にあるマンションと同じ間取りの居室に二人は暮らし始める。
 光も届いていた。ただ、テレビもラジオも無い時間の分からない生活だった。
 そして、1ヵ月後やっと迎えが来て二人は購入したマンションに住むことができた。
 年恵は妊娠したようだ。地下の生活の折にできたようである。
 地下生活をしていたという島岡がマンションから飛び降りて自殺した。島岡は高代と年恵が地下生活の間、ビデオで見せられた先に地下生活をしたという人間だった。
 地下生活のことは口外してはならないといわれていたが、高校時代の同級生の源三に高代は話した。
 源三は、その地下に行ってみた。高代も島岡の死からいろいろな情報を得た。
 あの地下へ行ったものが子どもを身ごもったあと、どういうわけか125日目で子が死んでいた。
 年恵は女の子を産む。朋香と名づけた。125日目で死なせてはならない。
 マンションの地下水は秩父からの伏流水だと聞く。島岡が残した日高親子、叶城を調べた。
 高代は源三と坑の中を調べる。この坑もあと10日で埋められてしまう。
 見えない力に立ち向かう源三と高代。朋香を救えるのか。年恵は高代が地下に再び行ったことを感じる。夫に迫る危険を感じ、地下の坑にもぐる。
983 ひとりがいちばん!
Date: 2006-04-20

おすすめ度 ★★★

 橋田 壽賀子 著  大和書房  発行:2003年7月

 橋田が結婚したのは40歳の時、夫の岩崎嘉一は4つ下でTBSの社員である。昭和33年の時だった。
 すでに夫は平成元年に亡くなり今は熱海でお手伝いさん4人を午前中だけ雇い常時2人の人が来てくれる。
 熱海に住むようになったのは昭和42年「つくし誰の子」を執筆していた時だった。
 週末だけ戻ってくる夫も定年退職してから5年後に亡くなった。
 自分の意思をはっきり言葉にして言うと苦手だなという人は寄って来なくなる。
 去るものは追わず来る者は拒まずである。
 そして興味のあるものは試してみる。好奇心がなくなったら本当の「老後」である。
 子どもに裏切られない生き方には、期待するから裏切られる。「基本的には自分ひとりだ」という意識を持つこと。
982 悪魔の種子
Date: 2006-04-18

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  幻冬舎  発行:2005年11月

 秋田県の西馬音内盆踊りが開催されている場所で、突然男がふらふらと倒れ掛かり死んだ。男は彦三頭巾に藍染めの浴衣を着ていた。
 2日後に男の身元が分かった。茨城県の農業研究所の窪田一彦であった。
 茨城県の霞ヶ浦で男の溺死体があがった。男は長岡農業研究所に勤める上村浩だった。
 上村と会議の際にもめた西見文明が疑われたが、西見は無断欠勤はしたものの、すぐに復帰するや研究に没頭していた。
 西見に好意を持っていた由紀子は心配していた。
 浅見光彦は由紀子の友人から紹介され、事件の詳細を聞く。秋田の事件に似ていると感じた浅見は「花粉症緩和米」のことを調べ始める。
 花粉症緩和米は、風評により農業従事者になかなか受け入れてもらえなかった。おまけに花粉症での経済効果3千億円を脅かす。1700万人はいるといわれる花粉症の患者である。ティッシュペーパー、病院、製薬会社などは、米が開発されれば大打撃を受ける。
 そして農水省が圧力をかけ緩和米は浮いた。
 浅見は窪田があったと思われるライスプラントの吉松に会う。しかし、窪田は知らないという。
 その吉松も奥多摩渓谷の川原で死体となって発見される。
 遺書があったことから吉松は自殺とされた。浅見は吉松の部屋を見て、筆記用具どころか事務用品もないところから自殺を疑う。
 そして吉松にはすでに長男が死に、妻も死んでいたことを知る。おまけに飼っていた犬まで死んだ。遺書とされた文面から、犬の始末をお願いした際の吉松の文ではないかと疑う。
 この文書を持っていた課長が怪しい。浅見はQ薬品を訪ねる。
 もらった課長の名刺と遺書についていた指紋を照合してもらう。

981 STA、警視庁に突入せよ!
Date: 2006-04-16

おすすめ度 ★★★

 佐々木 敏 著  徳間書店  発行:2004年12月

 河合しのぶがつかまった。国家権力の卑劣な弾圧だとリーダーは「計画を1ヵ月後に実行する」という。
 午前6時10分、宿泊施設で目覚めた結城は、地下1階の廊下でずんぐりむっくりした男に出会う。一般職員だろうと思った。
 1階玄関でその男が別の制服警官に怒鳴られていた。
 男は亀田という。亀田は刑事になりたかった。中途採用であった。
 結城も中途採用であるが今は刑事である。
 8時25分 東京ベンディングサービスから納品の車が地下駐車場に入る。
 警視庁本部庁舎の出入りを禁止するという放送が入る。言わされているのは本日就任したばかりの警視総監である。
 そして「東洋の牙」と「イスラム聖戦士旅団」が本部庁舎を制圧したとスピーカーから流れる。
 犯人のテロリスト達と人質になった幹部職員たちの攻防が続く。
 河合しのぶの釈放を要求してきた。釈放後、犯人達は現金を持ち出す。
 中途入社のSTA達が活躍をする。
 警察の突入は午後7時20分であった。
980 京都感情案内 上・下
Date: 2006-04-14

おすすめ度 ★★★★

 西村 京太郎 著  中央公論新社  発行:2005年6月

 京都で1年間遊んで来いといわれた平松は、手元に金があるのに不動産屋が部屋を貸さない。そこへ通りかかった芸妓の小万が助ける。
 平松は無事に部屋を借り、調度品もそろえることができた。代わりに小万の都おどりのチケットを買う。
 都おどりを見に来ていた山本真理が死んだ。お茶に青酸カリが混入されていた。
 葛西弁護士に呼び出された平松は、小万と事務所に行く。散らかった書類に不審に思った二人は、金庫を開けて驚く。中で葛西弁護士が殺されていた。
 マンションで20歳の小林が死亡した。
 平松を狙って怪しげな連中が動き出した。1千万を持っていた平松は、再び多額のお金を父親から送られていた。
 十津川警部も京都にやってくる。十津川も遊びを知りたいと申し出る。京都で行方不明になった先輩の消息を知りたかった。
 後楽老人に連れられてお茶会に行く。倉田と会う。
 平松は歌舞伎の女形市村幸太郎と会っていた。
 影の実力者五条実篤が、ケンカをして死んだ弁護士がいると話す。
 五条は平松がアパレルメーカーの御曹司だと知っていた。京都で西陣の文化が壊れることが怖かった。五条は平松を狙っていた。
979 聖ジェームス病院
Date: 2006-04-10

おすすめ度 ★★★★

 久間 十義 著  光文社  発行:2005年12月

 杉並区にある聖ジェームス病院に勤める東翔平医師は、研修医で1年たったところである。
 松嶋という患者が運ばれた。腹痛を訴えて転げまわる状態だった。帯状疱疹を疑った翔平は、上司の高崎の判断で新薬のソリブラミンを使った。
しかし、高嶋は前の病院で抗がん剤の受けていた。苦しんだ挙句松嶋は亡くなった。娘の志穂は、翔平が一生懸命やってくれたことに感謝していたが、急に死んだことで不審に感じていた。
 看護婦が点滴を間違えるという事件も起こった。
 志穂には共同日報科学部の記者小島と小島から紹介された弁護士と会っていた。病院に内容証明を送付するという。小島は副作用死や事故死のキャンペーンをしている。
 志穂は自分の意に反して行動が進められることに不安を感じていた。それを医師の翔平に相談した。
 翔平は、松嶋の死を明らかにしたいと思う一方で、病院の体制から志穂に事実を話せなかった。
 小児科で子どもが死んだ。院内感染の疑いがあった。もとは白血病といわれた子である。しかし、病院では肺炎と診断した。両親は安堵した、しかし、喜びもつかの間、肺炎でなくなった。やはり、新薬のソリブラミンを使った。
 病院でも新薬に対する副作用の疑いを懸念した。
 東亜ケミファのソリブラミンの副作用とインサイダー取引が発覚した。
 教授の磯貝は逮捕された。高崎も北海道に行くという。
 志穂は翔平に手紙を書く。自分が高崎を以前から知っていたこと。それで父を任せたこと。父の死後なんの説明もないことから不審に感じたが、高崎から電話を受けたこと。翔平との別れが書いてあった。
 翔平は、幼い子の命を救うために頑張っていた。
978 被弾
Date: 2006-04-08

おすすめ度 ★★★★

 阿木 慎太郎 著  祥伝社  発行:2005年12月

 15年前、暴力団壊滅作戦で同じプロジェクトだったものが集まった。指揮官だった岡崎は壮絶な死を遂げた。ほかに2人も殉死した。その中に女性が2人、一人は石川玲子は射撃のオリンピック候補選手だった。もう一人は、地検から検事補だった有川涼子だ。岡崎は有川に会いたいだろうと想像できた。皆も5年ほど顔を見ていない。
 有川は独自にまだ活動を続けていた。岡崎が死を持って解決できたかに見えた相手は、したたかに形を変えて巨大化していた。
 最高級車マイバッハに乗る新和平連合会長の新田である。金融業にも手を広げ、いまや5千人の大組織になる勢いである。
 有川は新田の住む高級マンションの最上階で、家政婦としてもぐりこんだ。新田は拳銃の流れ弾を受け肩をやられた。しかし、夜には発熱をし、なかなか熱が引かなかった。家政婦の有川の指示で医師に連絡し、大事に至らなかった。新田は有川に対し恩義を感じた。
 しかし、新田の行動が盗聴されていると知り、ボタンに仕掛けられた隠しマイクから有川を疑うが、有川のその後は分からなかった。
 有川は新田の住むマンションの側に部屋を持ち、新田の行動を監視していた。無線で盗聴もできた。
 新田はロシアのマフィアとの提携ももくろんでいた。
 警察が有川の救済の会を調べ始めた。有川は折角の美貌を整形により醜くし、顔が割れていた暴力団との戦いに備えていた。
 そして、警察の手は新田の方にも伸びた。
977 白虎村の惨劇
Date: 2006-04-06

おすすめ度 ★★★★

 吉村 達也 著  徳間書店  発行:2006年1月

 広島の大田川中流域の山林で、廃病院の中から真っ黒いミイラが見つかった。
 見つけたのは肝試しに忍び込んだ中学生達だ。
 黒いミイラはモンゴルの泥炭層から出たものである。
 その頃、朝比奈と尾車という二人組みの男が、青い龍という5カラットのトルマリンと赤い鳥というガーネットの巨大原石を捜し求めている事実を知る。
 若い女性がSMホテルで死んでいた。連れが帰って大分立つのにでてこない。部屋に行ったところ逆さに吊られたまま死んでいた。
 別の日、手足を固定されたまま全身を激しくムチ打たれた男の死体が見つかる。小山内であった。
 白虎の伝説、イエローダイヤモンドをねらうものが小山内を襲ったと思われた。
 黒いミイラの腹の中に4つの宝石が埋め込まれていたという。
  
976  英雄先生
Date: 2006-04-03

おすすめ度 ★★★

 東 直己 著  角川書店  発行:2005年12月

 池田はかって同期だった武藤のボクシングを見ていた。武藤は勝った。世界チャンピオンになった。
 池田は夢破れ、現在は松江で高校の教師をしていた。しかも、教え子と淫行をする不良教師である。まだ誰にもばれていないことをいいことにタマキと関係を持っていた。
 小林暁美が失踪した。その頃、30代の男性の死体が見つかる。
 朱美は新興宗教にはまり、母親までも巻き込んで入信してしまった。怒った父親は、朱美を行かせまいと必死で止めるが失踪してしまう。
 再びであった時、朱美は拳銃で自殺してしまう。
 自分とタマキの淫行はまだばれないですんでいるようだ。
 
975 くらがり同心裁許帳
Date: 2006-04-01

おすすめ度 ★★★★

 井川 香四郎 著  KKベストセラーズ  発行:2004年5月

 南町奉行所の門前に老婆が訪ねて来た。老婆の息子小吉が死んで1年になる。月命日には訪ねてきて、「息子を殺した奴を見つけてください」と訴える。
 しつこさに酒井はくらがり同心の忠兵衛のところへ連れて行く。忠兵衛は、老婆に詳しいいきさつを聞く。
 息子は簪職人だった。幼馴染が借金のかたに女郎に売られる際に「必ず迎えに行く。」と約束した。好きな酒も減らし、懸命に働いて20両の金を造った。しかし、連れて来るはずのおさよも息子も戻らなかった。そして大川の土手から転がり落ちて死んだと知らせが入った。
 老婆は、息子は20両を持っていた。その金もない。きっと殺されたと確信した。
 忠兵衛も、あらためて大川に出向く、近くの店にも聞き込みに行く。そして、身請けするはずだったおさよの行方も調べる。
 おさよは、寅五郎に身請けされていた。しかし、寅五郎はおさよのいきさつを知らなかった。そして、子分の駒蔵を思った。駒蔵は逃げた。品川の近くで駒蔵は取り押さえられた。
 おさよは、寅五郎に「一生小吉を供養したい」と申し出ると、20両を渡し「古吉に身請けされたことにしろ」と離縁された。
 おさよは小吉の母の元へ行く。老婆は喜び「今度は私が母親代わりだ。ここからちゃんとしたところへお嫁にやってやるか。」という。
974 白蛇教異端審問
Date: 2006-03-31

おすすめ度 ★★★★

 桐野 夏生 著  文芸春秋  発行:2005年1月

 作家になって12年目に始めて出したエッセイ集である。
 自分の小説が傷つけられればすぐ、闘いを挑んだ。作家生命を失うかもしれないと思いながら挑んだ。
 「顔に降りかかる雨」はミステリーではなく、ロマンス小説だという。
 白蛇教異端審問は連載当初から波紋を呼んだ。
作品ばかりか、人格に対する批判、匿名批判である。ネットには名誉毀損、中傷デマとなって私を孤立させた。
 私は言葉を限りなく大事にする職に就き、言葉とともに生きている。私は私の言葉の名誉のために闘おうとしたが、相手は言葉などにまったく責任を感じない人だった。
973 黙過の代償
Date: 2006-03-28

おすすめ度 ★★★★

 森山 赳志 著  講談社  発行:2005年12月

 両親の命日に墓参りに行った昌平は、帰り道目を向けた先のマンション階段の踊り場で苦しむ男を発見した。
 30代の男性は刺されて深手を負っていた。救急車を呼ぼうとする昌平を制し、「これを大統領に渡してほしい」という。一緒に名詞も渡された。男は日本語と韓国交じりの言葉を発していた。
 昌平は韓国語が理解できた。
後日、名詞にあった祭という男を訪ねた。男は昌平の身を案じ、妹のいるマンションに匿ってくれた。他に預かった銀行の貸し金庫の鍵は昌平が直接大統領に返すように言う。
 韓国大統領が訪日中であった。福岡へも滞在するという。
 昌平は韓国大統領が自分の従兄弟だと祖父に聞かされていた。祖父は韓国で昌平の父以外に子がいた。その子を置いてきたしまった。たぶん大統領の父親がその置いておかれた子である。
 大統領を失脚させようと思うものたちが昌平の家で祖母と大統領の父の遺伝子が同じものだった。DNAを照合したものを燃やすために昌平の家は何者かに燃やされてしまった。
 大統領は自分が日本人の子であると分かると失脚することを恐れていた。韓国民が許さないだろうと。
 昌平はいろんな弊害を乗り越えて、大統領に会うことができた。祖父や両親の眠る墓の前に連れて行く。
 そして「大統領を辞めないで下さい。国民に日本人の血を引いていることを公表してください。」という。大統領は唖然とするが、「応えは遠からず態度で示す。」と約束する。
 大統領は自分の親が日本人の血を引いていると公表する。韓国中がこの問題で沸き返った。
 
972 物狂い
Date: 2006-03-25

おすすめ度 ★★★★

 土屋 隆夫 著  光文社  発行:2004年4月

女性が幽霊に襲われて首に爪の後のような傷をつけられる事件が起こった。幽霊は皿屋敷のお菊のような顔だったという。
 美容院の脇の井戸で首をつって死んだ女性が発見された。美容院の娘に夫を取られたと思った妻が自殺したものだった。
 後日、その娘が顔じゅう血だらけで井戸の側に倒れていた。娘はおびえていたが、命に別状はなかった。しかし、またしてもむすめは幽霊を見たという。
 司法書士の妻真代が死んでいた。発見したのは出前に行った女の子だった。
 中信毎日新聞社の堂前記者が偶然にもその3件の事件にいつも行き合わせている。不審に思った刑事は堂前を調べる。
 堂前は以前に身重の妻を亡くし、以来独身である。
 堂前の妻が死んだのは、自分の顔を見るなり恐怖を感じ階段から落ちたことによるものだった。鏡で自分の顔をみて、びっくりした。顔にいたずらをしたのは真代だった。堂前は許せなかった。
真代が妊娠したことを知り、復讐しようと真代の家に行った。そして絞め殺し、何食わぬ顔で出前を頼んだ。堂前には男女の声を発する特技があった。
 後の二人は、兄の薬局からクロロホルムを嗅がせ、幽霊のお面をつけて脅かしたものだ。
 これも何よりも妻の春美が遺した日記を読み、真代が妻の春美に屈辱的な苦しみを負わせていたことを知った。
971 かんじき飛脚
Date: 2006-03-22

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  新潮社  発行:2005年10月

 浅田屋の三度飛脚は8人。本郷1丁目から金沢の国許まで4の日に定期便が立つ。
 浅田屋が藩の文を運んでいるのは御公儀も承知してる。浅田屋の当主は、加賀藩の用人要之助から老中松平定信が土佐藩と加賀藩を狙い撃ちにしていると聞かされる。
 十分に注意することを浅田屋当主は番頭に話す。三度飛脚は江戸組と加賀組それぞれ8人いる。金沢と江戸間145里を走り抜ける。飛脚一人は4貫(16キロ)の荷を背負って走る。
 海岸で父が危篤で先を急ぐ母子に出会った。波の合間を走り抜けるつもりでいる。波に飲まれるともう命がない。母子は手を取り合って走りだした。それを見て飛脚の俊助が走り出す。母子に波が襲っていた。紐を引く健吉も手伝う。そして母子も一度引き返したのち、子は健吉が背負い走った。なんとか走り抜けた母子は、自分の家に飛脚の俊助と健吉を招く。ブリのあらと大根のに煮付けでもてなす。
 翌朝、ふたりは新しい藁沓とかんじきをもらう。夜通し母子が作ったものだった。
 飛脚の中で平吉が武家から文を受け取っていたと怪しい様子を耳にする。
 典膳配下の坂田らは、飛脚を狙いだした。飛脚らは村の牛達を味方につけ、坂田を倒すことができた。
 浅田屋は、庄田から黄金20枚を賜った。
970  あらしのよるに
Date: 2006-03-19

おすすめ度 ★★★★★

 きむら ゆういち 著  小学館  発行:2006年1月

 あらしの夜、子ヤギのメイは小屋に飛び込んだ。外は風と雨の音でゴウゴウとうなっていた。
そこへ、誰か小屋に入ってきた。暗くて見えない。
 メイは「すごい嵐ですね。」と声をかけた。相手は足をくじいてさんざんだと話し、それから暗がりの中で二人は話が弾んだ。そして二人は明日お昼を食べようと約束をする。
 メイは待ち合わせ場所に行った。小屋の前で合言葉の「あらしの夜に」という声がする。メイはニコニコしながら顔を出した。そこにはオオカミがいた。オオカミの方も驚いていた。
 しかし、二人は四葉のクローバを交換し合い、岩山でお弁当を食べることにした。
 メイは毅然とした態度をしていたが、内心びくびくしていた。オオカミの大好物はヤギなのだ。
 一方、オオカミのガブは、なぜか気のあったヤギを友達として受け入れるように振舞った。
 そして二人は、時々会うことを約束する。
 ヤギとオオカミが仲良くしているのを見て森の仲間は驚いた。そしてそれが噂になり、メイはヤギの仲間から自分達の居場所をオオカミに脅されて教えていないかと疑われる。
 ガブもいつもオオカミがどの辺りにいるのか情報を漏らしていないかと疑われる。
 お互いの仲間達がふたりにもう一度会ってみろという。仲間達はふたりの後ろで罠をたくらんでいた。
 二人は会う。そして、逃げる。二人だけで暮らすために。
 途中で川に落ち、二人は別々になる。
 メイはガブを探すが見つからない。そして、ある日、ガブを見つける。ガブは記憶をなくしていた。うまそうなヤギを見つけた。すぐにでも食いたいところを明日の満月まで待つことにした。
 そして、メイが話しかけているうち、「あらしの夜に」という言葉に、ガブが反応する。ガブの頭の中にあの日のことがよみがえる。
 ガブは思い出した。メイを見つめる目が違った。メイは泣いた。それで十分だった。
 どれぐらいの時間がたっただろう。ヤギはオオカミの胸に顔をうずめ息絶えていた。そしてオオカミも。丘の上に二つの亡骸が横たわっていた。
969 青山娼館
Date: 2006-03-17

おすすめ度 ★★★★

 小池 真理子 著  角川書店  発行:2006年1月

 高校時代の友人麻木子が死んだ。死んだ理由は実にくだらないことだった。
 麻木子は、青山の高級娼館で働いていた。客の要望で尻にボールペンを入れた。もっと奥にという要求に応じた。客は数日後、病院に運ばれたが腸に入ったボールペンは腸壁をやぶり手遅れだった。
 そのことを知った麻木子は悩んでいた。そして、首をくくって死んだ。
 奈月は、シングルマザーで2歳の子がいたが、留守を頼んだ母が目を話した隙にベランダから落ちて死んだ。
 奈月は、麻木子からきいていた青山の娼館にいく。マダムの面接を受け、奈月はレイラという名で働き始める。
 そこへ、麻木子が生前付き合っていた川端が来る。麻木子の死が大きなショックになっていた。
川端とは娼館であって話すだけだったが、やがて二人は互いを必要と思うようになる。

968 包丁人 轟桃次郎
Date: 2006-03-14

おすすめ度 ★★★★

 鯨 統一郎 著  早川書房  発行:2005年10月

 割烹「ふく嶋」の料理人桃次郎は名人といわれている。商売敵の「加賀屋」がこの店を狙っている。桃次郎と加賀屋の料理人と対決させる。負けるとふく嶋を売ると約束する。
 桃次郎は流しの板前である。求人広告でやってきた。
 刑事がやってきて事件の話をする。
 娘のために買ったMDコンポを若い3人組にとられた上になぶり殺される。
 3人の前に白衣の男が現れた。3人とも包丁で殺される。
 加賀屋との対決で刑事は試食する。桃次郎の作った料理が勝った。料理には銀杏のようなものが入っていた。人の指のような気もした。
 ストーカーに娘が殺された。精神の病気で犯人は意外に早く出所した。またしてもその男が殺される。プロの料理人のような切り方だった。男は腹の肉を切り取られていた。
 またしても対決の日、煮豆がおいしく勝った。豆の中にひき肉のようなものが入っていた。アレは何であろう。
 若い夫婦が我が子を虐待死させたようだ。白衣の男は夫婦を殺す。そして妻の乳房を持ち帰る。
 料理はざくろの味がした。またしても刑事が試食した。桃次郎は負けなかった。
 大学生の男性が殺された。男は包丁を持っていた。しかし、責任能力がないとして無罪になった。そしてその男は殺された。肝臓が切り取られていた。レバニラ炒めの対決は桃次郎が勝った。
 中学生の男の子は、もう金を出せないというと仲間から殺された。しかし、13歳以下は罪にならないと犯人等はうそぶいていた。
 白衣の男は男等を次々に殺す。そしてズボンを脱がせ3人の性器を切り取った。
 料理対決でソーセージを出す。不思議な肉の味がしたという。
 そして7人の料理人との対決に桃次郎がすべて勝った。
 刑事は、ふく嶋の休みの日に人が包丁で殺されることから桃次郎を疑い始めるが証拠がない。
 そして、桃次郎はまた姿を消していった。

967 賛歌
Date: 2006-03-13

おすすめ度 ★★★★★

 篠田 節子 著  朝日新聞社  発行:2006年1月

 小野は、柳原園子のヴィオラを聞き感動した。クラシックを聴いて泣くとは思わなかった。
 そして柳原園子の過去を調べた。14歳の時コンクールで優勝、ベルリンでも国際コンクールに入賞した。そして音大付属高校を卒業後アメリカへ行った。しかし、20歳の時に戻ってきた。
 アメリカでは園子の音楽は受け入られなかった。叱責する師に、絶望を感じ薬を飲み非常階段から中庭に向かい飛び降りた。
 帰国したが20数年間寝たきりだった。クリスマスの日、園子は父のためにヴァイオリンで賛歌を引いた。父は二日後なくなった。
 それから、園子は再びレッスンを開始した。そしてヴィオラも弾くようになった。
 天才少女と呼ばれた女性が、何年か後に人々の心に残るヴィオラの演奏でよみがえった。
 テレビ局で、小野は「心へ届け ヴィオラの響き 挫折から再生へ 三十年の軌跡」を放映した。大きな反響があった。
 しかし、それにはレコード会社社長熊谷の思惑があった。マスコミは次第に園子の名声をバッシングやスキャンダルを書き立てるようになる。
 園子は失踪した。小野に連絡が入ったときは園子は山中湖の別荘にいた。
 そして、園子は自殺した。園子はその演奏が専門家によって水準に達していないことが報じられた。

966 顔をなくした少年
Date: 2006-03-11

おすすめ度 ★★★

 ルイス・サッカー 著  新風舎  発行:2005年12月

 ディヴィットは、ロジャーとスコットとランディとベイフィールドさんの家に行った。
 ベイフィールドさんはおばあさんで、いつも杖を突いていた。その杖を盗もうと皆が考えていた。
 ベイフィールドさんがレモネードを入れてくれたのに皆はそのすきに杖を盗み、ひっくり返ったベイフィールドさんの顔にレモネードをかけて逃げた。その時「おまえの魂を吸い上げてしまうだろう。」とベイフィールドさんは怒鳴った。
 デーヴィットは、杖を返すべきだと悩んでいた。
 そして、皆がデーヴィットはおばあさんにのろいをかけられたという。ママはパパに僕が中ゆびを着きたてたことを報告した。「ママに謝りなさい」といわれた。なぜかその理由は教えてくれなかった。
 デーヴィットは、おばあさんのようにレモネードを顔にかけてみた。のろいが解けたように軽くなった。
 デーヴィットはおばあさんの家に誤りに行った。懸命にお詫びの言葉を述べた。おばあさんはドアを開けてくれた。おばあさんにのろいを解いてくださいと頼んだ。杖を返してほしいと繰り返し言われた。
 デーヴィットは仲間の一人一人に会い、杖を返すように言う。そして格闘の末、杖を取り戻す。
 デーヴィットは杖をおばあさんの家に届けに行く。おばあさんはお面をつくる有名なアーチストだった。世界中の美術館に展示してあった。
 呪いなんてかけられていなかった。大事なのは素直に謝ることだったとデーヴィットは気づく。
 
965 梟首の島 上・下
Date: 2006-03-09

おすすめ度 ★★★★

 坂東 眞砂子 著  講談社  発行:2005年12月

 東吉の父は寺子屋の師匠をしていたが、トンコロリという突然死で死んだ。
 兄の大洋は勉強ができ東京大学を目指して勉強ばかりしていた。
 父の死後、母のむめは小さいうちを借りて、商売を始めた。そのうち、母も勉学に興味を持ち、小さなつくり酒屋の次男で吾嶋にたくさん本を借り手読んでいた。
 兄は父の死後、母が吾嶋と親しくするのが気に入らず、出て行ってしまう。
 東吉は、高知新聞社に見学に行きそのまま入社してしまう。
 東吉の兄の大洋は東京大学に合格した。高知新聞が閉鎖された後、東吉は闇の新聞を作った。幽霊新聞を発行した。むめの家の二階で編集していた。
 そして東吉は、警察に追われる身になり、必死のむめの「知らぬ」という抵抗の隙に逃げる。
 東京の兄を訪ねた。兄は少しやせていたが熱心に教師に質問をしていた。東吉を見て喜んだ。
 むめは自分の家を開放して夜、勉強会を開いていた。
 やがて、むめは吾嶋との子を身ごもった。
東洋とは連絡が途絶えた。東吉も逃亡の身であったが、突然「日本政府の傘下にあることを好まず、日本国民として籍を置くことを好まず、日本政府脱管及び日本国民脱籍致度、此処に宣言致なり 岩神東吉」という新聞の広告欄をむめはみて驚いた。
一方ロンドンでは、留学生のイワガミが切腹自殺をした。この死に方が異国では自殺というよりも自分で腹を切るということが信じられなく、殺人事件としても捜査が開始された。留学生は他にも数人いた。日本は尊皇攘夷を唱え、新しい憲法をつくろうと沸いていた。国民の生活は新しい時代になっても苦しかった。
 むめの元へ光明が訪ねた。大洋の遺品を持って。明治6年、帰国命令が出て留学生は日本に戻ってきた。

964  レモン・インセスト
Date: 2006-03-07

おすすめ度 ★★★★

 小池 真理子 著  NHK出版社  発行:2003年7月

 澪が4歳の時、母は弟生んでまもなく他界した。その後、その弟が何者かに連れ去られとうとう見つからなかった。
 その弟が見つかったと伯母の美沙緒が言う。それも偶然のことから分かった。伯母の美沙緒は弁護士をしていた。ある事件の女性が証人としてつれてきた弟を見て、伯母は驚いた。すでに死んだ父にそっくりだったからだ。
 その後、弟の崇雄が伯母の事務所に訪ね、育ててくれた母が亡くなったこと。自分が誘拐されたことを話す。
 伯母は澪に弟にあわす。セロリと梅干が嫌いというところなど二人はよく似ていた。
 弟は昭吾という名前をつけられていた。話を聞き、家に出入りしていた硝子やの遠縁だと知る。硝子屋がこのことを知っていたのだ。
 美沙緒は、硝子屋へ出向くが、夫は入院しているという。入院先ですでに24年も前のことでいまさら蒸し返すつもりではないが、事実を知りたいという美沙緒に硝子屋は話してくれた。
 昭吾の母は、夫を繋ぎ止めたいばかりに妊娠しているとうそをつき、ずっと妊婦の格好をしていた。そして、遠縁のお手伝いさんから澪の家で赤ん坊が生まれたことを聞かされ盗み出した。
 昭吾の母はしばらくして離婚するが、懸命に愛情をかけて育ててくれた。
 亡くなる前に、誘拐した子だと昭吾に言い残した。
 それから、澪と昭吾はよく会うようになる。澪は付き合っている男がいたが、昭吾は別の感覚で大事だった。
一方昭吾は、美緒に引かれていく。
 二人でジャガーに乗り、レインボーブリッジに行く。しかし、なぜか二人は海をめがけて車ごと突き進んでしまった。海の底へ底へと落下していった。
963 陽が開くとき 幕末オランダ留学生伝
Date: 2006-03-06

おすすめ度 ★★★★

 東 秀紀 著  NHK出版社  発行:2005年12月

 1862年、幕府が最後に送った留学生15人。品川沖を出発してから1年近くたって、やっとオランダに到着した。
 オランダ人にとって刀を差し曲げを結った日本人が珍しかった。泊まるところで人だかりがした。ホフマンという日本語ができるものも付いた。
 チューリップを見て感動し、汽車に乗り感動した。
 ホフマンはシーボルトの助手だった。
 女給たちに笑われたとき、ひとり申し訳なさそうにする女性に出会った。サーラである。
 中島兼吉は、そのサーラに興味を持った。サーラに誘われてコンサートに行った。そしてさらに親しくなった。
 別の地に行き過ごすうちに、サーラが子を産んだことを耳にする。兼吉はすぐ自分の子だとわかる。
 ライデンの駅でサーラに出会う。子どもができたことを知るが、サーラは「私が愛していたのは亡くなった夫で兼吉ではない」という。
 兼吉は日本に妻子がいた。サーラに手紙を書いた。オダンダを去る前にもう一度会いたいと。
 サーラは自宅に兼吉を招く。マリーにも会う。
 留学生のなかには西周助、伊東玄伯などもいた。
962 生きいそぎ
Date: 2006-03-05

おすすめ度 ★★★

 志水 辰夫 著  集英社  発行:2003年2月

 短編8話
「人形の家」では、退職後部下の女性が訪ねて来た。妻は20年前に出て行ったきりだった。
 部下の女性の話から、八王子の奥の今熊山のことを知らないかとたずねた。知人を介してそこへ行くことになった。お籠り山というこっそり落ち延びるために使った道を探した。
 急斜面の杉山を登ると石製の箱らしいものが見えた。土に埋もれかけた中から、女雛が出てきた。玄関においてあったお雛様の片割れだった。20年ぶりの再会だった。妻は山を越えないでとうに死んでいたのだ。
「燐火」では、湯治場に着いた。婆さんが何かと世話を焼く。ちゃっかりたかっているだけだとわかった。この先に掘っ立て小屋を立てこもっている人をたずねたいと思った。3年たっていた。
婆さんが着いてきた。小屋は放置されて2,3年はたっているようだった。
 婆さんにこの小屋の主を知っているのかと聞く。おととし会ったという。
 帰り道、火とも言えない青白いものを見た。狐火だという。
961 遮断
Date: 2006-03-03

おすすめ度 ★★★★

 古処 誠二 著  新潮社  発行:2005年12月

 佐敷真市は、死の2週間前に手紙が届いた。真市は、特別養護老人ホームにいた。手紙はチヨの娘初子からだった。
 真市は沖縄で戦争を経験した。19歳の時だった。亀甲墓で燐保班長と出会う。「お前の逃亡を責めるつもりはない」という。
 壕の中には、女や子ども老人がいた。皆、兵隊姿の真市に冷ややかだった。中にいた2歳年上の普久原チヨがいた。
 チヨの夫清武は戦闘で確実に死んだと思う真市はそのことをチヨに言えなかった。
 チヨが初子を連れていなかった。村にかえる真市はチヨを連れて行く。チヨの家には土饅頭があり、「ハツコ」と刻まれたものも目に入らない。
 真市は「初子は米兵に連れて行かれた」という。
 途中、チヨとはぐれる。戦火をくぐって逃げる。再び出会ったとき、チヨは赤ん坊を連れていた。真市はチヨをかばう。
 赤ん坊は隣保班長が、チヨの行動を沈めるために他人の子を手渡したのだろう。
 米軍病院で清武に出会う。生きていた。
 戦後、真市は米軍キャンプで働いた。隣保班長が迎えに来るが村には戻らなかった。
 そしてホームに訪ねて来た清武に出会う。80歳になっていた。「お前がいなければ、俺も米兵に殺され、チヨも死んでいた」という。
960 レンタル・チルドレン
Date: 2006-03-01

おすすめ度 ★★★★★

 山田 悠介 著  幻冬舎  発行:2006年1月

 冬美と泰史は2年前に子どもを亡くした。以来、妻は塞ぎ込んでいた。折角買った家は寝に帰るだけになった。
 34歳の彼らに兄がレンタルチルドレンの話を持ってくる。
 捨てられた子たちを2週間レンタルするという。2週間で50万である。
 渋る妻を連れていく。亡くなった優そっくりの子を見つける。あまりにもそっくりであった。
しかし、その子は口が利けなかった。
 妻に明るさが戻った。夫はそれを見てすぐさまレンタルではなく購入の手続きをする。1千万円だった。
 幸せにみえた。しかし、優の皮膚がかさかさになり、お化けのようになっていく。
 泰史は優をレンタル会社に返す。
 夜、優が戸を叩いているようだ。怖くなって夫婦でマンションに越す。
 レンタルチルドレンの突然死などが話題になる。
 レンタルした家族が事故にあい、親が死亡したがレンタルの子は生き残ったという話を聞いた。写真を見せてもらうとなんと優だった。
 小俣は泰史に、優がなくなったときにPIがきて、優の事を聞いていった。そして優の髪の毛と皮膚の一部と肉をくれないかと。大金を詰まれ断れなかった。小俣はクローン人間の存在をにおわせた。
 忍び込んだ施設に優の名前のあるメモを見つける。
 優に会いたい。泰史は前に住んでいた家に行く。優がいた。優の部屋にぽつんと一人でいた。
優を抱き泰史はわびる。しかし、優は全身を痙攣させ息を引き取る。
 泰史はもう一度優のクローンを望んだ。
959 Cartain カーテン
Date: 2006-02-28

おすすめ度 ★★★

 谷村 志穂 著  実業之日本社  発行:2003年10月

 27歳の夫と33歳の妻大久保純子は新居の移った。結婚前に作った純子の借金を両家が返済した。300万ほどだった。
 カーテンを作るためにカーテン屋を呼んだ。気に入ったものを見積もってもらうと208万円だった。カーテン屋はシンプルなものを進めた。書斎は薄いグリーンのスクリーンにした。今度は40万であった。
 劇団に行った志穂は、チケットの代金などの借金を払う。20万だった。カーテン代の中から払った。
 カーテン屋が取り付けてくれた。夫は寝室のカーテンが紺のレースだけになっていたのを見て驚く。
 劇団に払ったことを話す。紺のカーテンにスプレーをかける。黄色や金、銀を。星のように見えてきれいだった。
 ほか7編
958 モビィ・ドール
Date: 2006-02-27

おすすめ度 ★★★★

 熊谷 達也 著  集英社  発行:2005年1月

 ドルフィン号はイルカウオッチングの船でなく、イルカの生態調査を行う船である。
 イルカのウオッチングだけでなくイルカと一緒の泳ぐドルフィン・スイムも希望すればできた。
 十人の客を乗せて、涼子は責任者として船に乗る。
 イルカの群れにシャチが突っ込んできて、客を船に上げた。湾内の入ったシャチに漁協も頭を抱える。
 雌シャチはモビィドールと呼ばれていた。イルカの群れを襲うそのモビィドールを捕獲した。
 しかしモビィドールは弱ってきているように見えた。涼子はそれを逃がすことにした。
 妻を海で失ってからもぐれなくなっていた葛西は、涼子の一緒にもぐるという提案でもぐることができた。
 しかし、涼子の方がアクシデントに見舞われ、葛西に助けられる。
 今回はシャチを逃がそうとする涼子を葛西が手伝う。その際に葛西がアクシデントを起こす。涼子は飛び込む。
 モビィドールは、網に掛かり、スクリューに巻き込まれている。
 シャチたちもやってきた。モビィドールの助けを呼ぶ声に応えたのだろう。
 葛西が網を取ってやった。モビィドールは他のシャチたちと海に戻っていった。
957 天女湯 おれん
Date: 2006-02-25

おすすめ度 ★★★★

 諸田 玲子 著  講談社  発行:2005年12月

 父親が家事で焼け死んだあと、湯屋を引き継いだおれんは、23歳である。すでに母も他界していた。
 おれんの湯屋天女湯といい、ご法度は承知の上で二階に隠し部屋があった。女湯からは隠し戸をゆけて行ける。おれんは番台で男女の仲を取り持っていた。
 そこへ負傷した武家が迷い込んだ。きっぷのいいおれんはその男を匿う。巷では辻斬りが横行していた。男はおれんが勝手に左近と名づけて隠し部屋に住まわせた。
 左近は弥助と与平から風呂焚きの仕事を教えられた。
 隠し部屋は亭主をなくしたおみきと武家の妻弓枝が使っていた。特に弓枝の申し出は多かった。おれんは同じ者との交わりは控えていた。そして、弓枝の度重なる申し出を断ると、大黒湯に行くようになる。
 辻斬りがつかまった。左近ではなかった。
 弓枝が、うっかりおれんに金を借りたと大黒屋に言ったことから、おれんの湯屋の庭に金が埋まっているのではと疑う。父親が死ぬ前に、大黒屋から取り立てた金だ。しかし、彫り返すが見つからなかった。
 左近は去っていった。
956 一場の夢 二人の「ひばり」と三代目の昭和
Date: 2006-02-23

おすすめ度 ★★★

 西木 正明 著  集英社  発行:2005年12月

 歌手美空ひばりの他に、もうひとり「美空ひばり」という人物がいた。
 昭和17年まで存在した大都映画で3本の主演をつとめた美空ひばりという女優だ。加藤和枝の二代目美空ひばりが出たのは、戦後である。
 山口組の田岡も戦前の美空ひばりも加藤和枝の美空ひばりも知っていた。
 平成元年6月24日零時28分、ひばりは順天堂病院でなくなった。
 昭和39年に小林旭と離婚した。1年半の結婚生活であった。
 昭和48年には、紅白歌合戦に出場できなかった。暴力団との関係と弟の不祥事も取り立たされた。
 田岡組長も56年にはなくなった。ひばりを陰で支えていた人物だった。

955 北緯四十三度の神話
Date: 2006-02-22

おすすめ度 ★★★★

 浅倉 卓弥 著  文芸春秋  発行:2005年12月

桜庭菜穂子と和貴子は、中学の時に両親をなくした。急遽、祖父母に引き取られ、大学まで進んだ。
 和貴子は地元に戻りラジオのDJをしていた。深夜零時からの番組を担当していた。
 姉の菜穂子は、博士課程終了後も大学に残り、今は助手をしていた。
 和貴子は、姉の同級生だった樫村と付き合っていたが、事故でなくなった。亡くなる時、「桜庭・・」とうわごとのように行ったという。その呼び方は和貴子に対してでなく、姉への呼び方だった。ずっと悩んでいた。自分が姉の彼氏を横取りしたのではないかと。
 姉はアメリカのシカゴへ行く話が出ていた。研究のために渡米する。
 妹和貴子は、DJの担当から外れることになった。最後の放送の日、寿退社になることを話す。
工藤君と結婚することになった。
954 アラミスと呼ばれた女
Date: 2006-02-21

おすすめ度 ★★★★

 宇江佐 真理 著  潮出版社  発行:2006年1月

 安政3年、10歳のお柳は、長崎で父の平兵衛がオランダ語の通訳をしていたのをこまっしゃくれたお柳は見ていた。
 長崎の出島で、お柳は通訳になりたいと思っていた。
 父のところは江戸から釜次郎が異人の最先端技術を習得するために来ていた。2年余りで江戸へ戻ってしまった。お柳は釜次郎を想った。
 父が死に、母を連れてお柳も江戸へきた。そして、偶然釜次郎に出会う。釜次郎はお柳を覚えていた。通訳として釜次郎と一緒に過ごす事になる。ただし、お柳は男の格好をさせられた。
 「コマンタレブ、アラミス」とフランス人に声をかけられたお柳。
 釜次郎は函館の方にも出向いた。お柳は妊娠していた。しかし、誰にも父親を明かさず育てた。
 子はお勝と呼ばれ、11歳になった。そして釜次郎に出会う。釜次郎はお勝をみてわが子であることを知る。
 お勝はアメリカに留学するのが夢であった。
 
953 悲劇週間
Date: 2006-02-20

おすすめ度 ★★★

 矢作 俊彦 著  文芸春秋  発行:2005年12月

 明治45年20歳だったぼくは、慶応の予科へ通っていた。
 父は外交官であった。母は小さい頃に亡くなっていた。中国に赴任した父、ついでオランダに。そしてベルギーの女性と結婚した。ぼくが7つか8つの時である。新しい母と妹ができた。
 17歳の時は駒込に住んでいた。慶応の文学部へ入った折、与謝野晶子や、永井荷風、森鴎外などと知り合う。
 父はそのころメキシコに赴任していた。ぼくもメキシコへ向かう。ホノルル経由で行く。
 マデロ大統領の家族とも親しくなった。
952 月への梯子
Date: 2006-02-17

おすすめ度 ★★★★

 樋口 有介 著  文芸春秋  発行:2005年12月

 僕は頭が少し悪いが母の残してくれたアパートの大家で何とか生活している。
 屋根は毎年、壁は3年ごとにペンキを塗る。水道の修理やペンキ塗りは自分でやる。
 部屋代は4万5千円から5万5千円。全6室。ユニットバスつきである。8年前に母が死んだが、近所の人たちが親切にしてくれる。
 スナック勤めの中年女性の栗村容子が何者かに殺される。鍵はかかっていた。
ペンキ塗りのために梯子を上っていた僕は、部屋の中で倒れている容子さんを見た。そしてそれが普通でないことを知った途端、梯子から落ちてしまう。急遽入院となった。
 警察が出入りした。他の住人達もそっといなくなってしまった。
 20年も住んでいた物船さん、フリーライターの団子木さん、大学助手の軽井さん、天貝老人、服飾専門学校生の青沼文香さんである。
 誰か帰ってきたときに住む家がなければかわいそうだとそのままにしていた。
 梯子から落ちたことで頭がよくなった僕は、アパートの人をたずねることにした。
大学で働いていると思っていた軽井さんは半年も前に辞めていた。
天貝さんの部屋からは指紋がひとつも出てこなかった。池袋で物船さんに出会う。物船は下着泥棒だと言う。
団子木さんは空き巣の常習犯で指名手配を受けていた。天貝さんと青沼さんは偽名であった。
韓国エステで青沼さんに出会う。僕を裸にしてサービスをしてくれた。本名は七沢遊都子であった。
天貝さんは、本名筒見吉太郎といい18年前に銀行輸送車襲撃犯であった。

ところが、梯子が月に届いた夢を見ていた僕は死んだことになった。
梯子から落ちて一度も意識が戻らなかったという。
951 シャイロックの子供たち
Date: 2006-02-15

おすすめ度 ★★★★★

 池井戸 潤 著  文芸春秋  発行:2006年1月

 融資先が倒産した。その融資をせかせた古川は、入行3年目の小山のせいにして責任を逃れようとした。
 社宅に住む友野は入行して5年目、昇進試験にまたしても落ちた。おまけに融資をする予定の会社は別の銀行の方が金利が安いと融資を断ってきた。上からは攻められるし、なんといっても10億円の融資は是非にも取りたい。金利の安いという銀行が国有化される。ふたたび融資の申し込みが舞い込んだ。友野は救われる。そしてシンガポールに栄転になる。
 100万円をとめる紙の帯が愛理のロッカーの中にあった文庫本に挟まっていた。100万円がなくなったと皆が探している時だった。愛理には覚えがなかった。皆が疑いの目を向けるが西木が救ってくれる。「帯封にさわっていない」という。西木は指紋を調べるという。そして指紋を凝視した。
 なくなった金は上司達がそれぞれ分担して立て替えた。
 西木は出社しなくなった。
 西木が調べていた指紋のついた帯封がなくなっていた。犯人はまだこの銀行内にいる。
 江島工業は2月に滝野が5億円を融資していた。しかし、田端はその住所はボロアパートで営業をしている様子も人間もいなかった。
愛理が融資の際に添付された印鑑証明が偽造であることを見抜く。コピーすれば複写となる文字が出るはずがない。
滝野は石本に頼まれてやっていた。
ATMの投入口から現金の詰め込みの際に細工し金を取っていた黒田は、検査官に指摘される。
西木はすでに殺害されているのか、生きているのか、10億円の連帯保証人になっていた聞く。
950 外交を喧嘩にした男 小泉外交2000日の真実
Date: 2006-02-13

おすすめ度 ★★★

 読売新聞政治部 著  講談社  発行:2006年1月

 北朝鮮に行くことを決めた小泉首相は、米国にも報告、同時に韓国、中国にも伝えた。核問題が解決しない限りは日朝が国交を正常化できない。訪朝までもう少し時間があれば、米国はそれを阻止したであろう。
 訪朝前、北朝鮮は補償問題を巨額の経済協力を要求していた。それは途方もなく巨額であった。
2002年10月15日24年ぶりに日本を地を踏んだ拉致被害者5人。2004年5月22日、7月9日ジェンキンス氏と再会。拉致問題の解決なくして国交の正常化はない。
 靖国問題についても、中国側が靖国にはA戦犯を合祀した参拝にこだわり、教科書にも侵略を美化していると反論する。しかし、首相は中国に言われて参拝を中止するわけには行かない。参拝にこだわっているのは中国と韓国だけで、他のどの国もこういうことにはこだわっていない。不戦の誓いと戦没者への哀悼の意を表すために参拝する。靖国問題が小泉首相のよいところをすべて帳消しにしてしまっている
949 サスツルギの亡霊
Date: 2006-02-10

おすすめ度 ★★★★

 神山 裕右 著  講談社  発行:2005年10月

 拓海には、父が再婚した時に相手が連れてきた英治という兄がいた。英治は柔道をやるスポーツマンだった。
 義母が死に、英治は少し荒れるようになった。そして、父と車に乗っていたとき、交通事故に会い、父は死んだ。
 英治と拓海は伯父のうちに引き取られた。しかし、拓海も中学を卒業すると伯父の家を出た。カメラマンになりたくて助手のような仕事をしていた。
 父の死から20年たったとき、伯父から電話があった。英治が南極で死んだという。英治は北アリゾナ大学に進み研究者になっていた。南極の隕石探査隊に参加し命を落とした。妻と2歳になる子がいた。
 拓海は南極観測隊に同行する。兄の死を確かめるために。そして、兄は隕石を守るために自らクレパスに身を投じたことを知る。
 拓海の行った南極では、セスナ機が燃え上がり、人が殺された。そして自分が殺した犯人のように疑われた。拓海の疑いは晴れた。犯人はでてきた。

948  闘争!角栄学校 上
Date: 2006-02-07

おすすめ度 ★★★

 大下 英治 著  講談社  発行:2001年1月

 大正7年角栄は新潟に生まれた。村の農家である。高等小学校をでて、昭和9年上京する。夜間に神田の中央工学校へ行き、土木の勉強をする。
角栄が19歳のとき、神田錦町に共栄建設事務所を設立。
 昭和17年坂本はなと結婚。18年には田中土建工業を立ち上げる。19年に真紀子誕生。
 27歳で選挙に立候補するが落選する。29歳で初当選する。
 長岡鉄道の社長に就任。電気機関車に切り替える。44歳の時大蔵大臣になる。
 そして54歳で内閣総理大臣になった。明治18年の伊藤博文総理から数えて40人目の総理であった。
947 新リア王 上・下
Date: 2006-02-05

おすすめ度 ★★★★

 高村 薫 著  新潮社  発行:2005年10月

青森から出た代議士を40年やっている福澤榮は、妻とは別の女に産ませた彰之の寂寺にやってきた。まさか訪ねてくるとは思わなかった彰之は驚く。対面は20年ぶりだった。対面は20年ぶりだった。
 彰之は、若い頃、永平寺で終業するが、途中で逃げ出す。夫と別れたがっていた初江と一緒になったが、初江は都会に出て行った。初江には、19歳の息子がいるが、不良で言う事を聞かない。まさか訪ねてくるとは思わなかった彰之は驚く。
 22年間福澤の金庫番になっていた英世が首吊り自殺をする。土地取引の聴取をうける前日だった。
 長男の優は、榮の意に反して知事選に立つという。長年の仮面をはがし、榮に反旗を翻した。福澤王国の崩壊を予想した。妻も嫁も子どもや兄弟もみな優に着くだろう。死んだ英世の息子も優の立候補を知っていた。榮を除き、皆が知っていた。
946 夜回り先生の卒業証書
Date: 2006-01-29

おすすめ度 ★★★

 水谷 修 著  日本評論社  発行:2004年12月

 3月で横浜市の高校の教師を辞めた。22年間の教師であった。
 その後、養護施設で5年間働いた。夜間高校は13年間であった。
 この7年で1159回の講演を行った。のべ57万人が聞いてくれた。小中学校は821校である。
 いまだにメールが来る。メールだけでも2万人を超えた。
 13年間の夜回りは北海道から九州まで73の夜の街を回った。

945 探偵は黒服
Date: 2006-01-26

おすすめ度 ★★★★

 藤田 宜水 著  角川書店  発行:2005年10月

 小説家志望でクラブのボーイをしている福光伸輔は、銀座8丁目の裏通りで女性の死体を見つける。
 女性は以前、コネッサンスという伸輔のクラブで働いていた遠山美咲だった。
 伸輔の友人の亜希は、美咲と親しかった。美咲はディスカウントショップの社長と付き合っていたが別れたがっていた。
 知った人が亡くなったことでなんとなく探偵のように調べる伸輔。
 亜希の父親が上京し、亜希の弟と父親と食事をする。伸輔には父親の仁志はどうしょうもない男だった。
 亜希の弟は引きこもりであった。それを伸輔が花屋に紹介し働くようになった。
 亜希の父親は女装の趣味があった。父親は美咲にそれを知られてしまい、争った末に殺してしまう。父親の不審な行動をつけていた弟は伸輔に疑われてしまう。
944 うしろ姿
Date: 2006-01-23

おすすめ度 ★★★★

 志水 辰夫 著  文芸春秋  発行:2005年12月

 7編の短編
 「トマト」では、商品券を換金し、警察に追われるが逃げ切った男。男は40年ぶりに中学の頃暮らした土地を通りかかる。
 叔父を頼って母と二人で朝鮮からやってきた。満足に食べ物もない時代だった。中学を卒業しても叔父にもらった給与の全額を渡していた。母はすでに家をでていた。男が18歳の時に母は死んだ。叔父に身体を強要されていたことをしり、叔父に謝らせようとしたが、いきなりとびかかってきた叔父を撃ち殺す。
 そして40年。男の安住の地はまだ見つかっていない。
 「もう来ない」では、17歳で郷里を出て50歳になり、33回忌の法要のために母の墓に参った。掘り起こして持ち帰るために。
 墓は担任だった坊主の教師が墓地の隅を提供してくれたものだった。50センチぐらい掘ったところから母の骨壷は出てきた。つぼの中は土も入って重くなっていた。パーマ屋の同級生に会う。父の残した借金に負われているという。でも、食べたいものを食べ、楽しく暮らしていくという友を見て元気付けられる。
943 砂漠
Date: 2006-01-21

おすすめ度 ★★★★

 伊沢 幸太郎 著  実業之日本社  発行:2005年12月

 大学に入った北村は、鳥井とともに呑みに行く。女の子二人がいる。一人はなんと鳥井の中学の同級生の南だった。
 仙台の町に、大統領さえ倒せば戦争を回避できると思っているプレジデントマンがいる。
 ボーリングをやっている時、サラリーマンには見えない男二人が一緒に混ぜてくれと来る。そしてボーリング対決になった。負けると50万だった。男はホストだった。ホスト礼一は170点、鳥井は130点だった。4ゲーム目、負けると200万円というところで、141点対140点になった。そして負けた。そこへ東堂が現れて、スプリットを取ったら今回の勝負無しにするという。結局ボーリングを知らない西嶋がピンを倒した。
 プレジデントマンが住んでいるというマンションを張り込んでいた西嶋と北村と鳥井は、車で乗り付けた男達を見つける。塀を乗り越えて入っていく。どうみても泥棒だ。その中の一人が、ボーリング場で賭けを申し込んできたホスト礼一だった。
 僕はインターホンを押し続けた。ホスト礼一たちは逃げた。鳥井は逃げる車のドアが開き、轢かれた。鳥井は肘間接がやられ、左腕を切断した。
ホスト礼一の仲間ホスト純のマンションを見つけた。見張ることになった。そこへ犬を連れた女性から、同じマンションの1室に大勢が出入りし、不気味だと住民が不安がっていると聞いた。603号室だという。そして東海林という家を狙っている。警察に通報する。
 
 
942 団塊諸君 山もいいぞ
Date: 2006-01-19

おすすめ度 ★★★

 大野 剛義 著  日本経済新聞社  発行:2005年12月

 61歳で初めて伊豆の山を歩き、69歳でヒマラヤのゴーキョ・ピーク5000メートルに登った。
 大学を卒業後、三井銀行に入行、50を過ぎてからは不良債権処理にあたった。
 平成10年にインドに行き、その際にエベレストがネパール側から見えると聞き行った。はるか向こうにベーゴマのようなエベレストを見た。
 雄大なエベレストの写真とは違っていた。その写真を撮った位置はゴーキョ・ピーク辺りだという。
 団塊世代は余命あと30年、平均寿命は20年、胸を張って生きてほしい。
 夢と勇気とサムマネーである。
941 瞽女の啼く家
Date: 2006-01-17

おすすめ度 ★★★★★

 岩井 志麻子 著  集英社  発行:2005年10月

 瞽女とは盲目の女たちのことである。瞽女屋敷には、三味線を弾いて歌うもの、按摩、死者を降ろす拝み手などがいた。
 瞽女屋敷は、盲目のすわ子様が嫁ぎ先から戻されて、不憫に思ったご主人がこの屋敷を立て、同じような盲目の女達を一緒に住まわせたことからはじまった屋敷である。
 私は、貧乏な百姓の家に生まれ、盲目だったために按摩の家にやられた。そうして按摩だけを覚えいたとき、いきなり旦那に手込めにされた。そのことが奥様にばれてこの屋敷にきた。
 瞽女屋敷には20人ぐらいの盲目の人達が暮らしていた。2人1組になり出かける。
 この家のすわ子様は、きれいな人だそうだ。すわ子さまの実家は広い家だった。訪ねるとご主人様が快く迎えてくれる。しかし、広い家だが不気味でもあった。
 すわ子様にも、仲間のお芳にも黒い影が着いて回る。牛の影だ。そしてときどき臭気がする。
 すわ子様は、親同士が兄妹とも知らず恋仲になり双子として生まれた子だった。すわ子様は盲目で、もう一人は異形の牛の顔をしたお芳だった。
 すわ子様が戻された後、妊娠していることがわかった。しかし、生まれた子は前の夫の子ではなく、ご主人様の子であった。それを知ったすわ子様は頭が一時おかしくなった。
 すわ子様は、佐々木の爺様に紹介された支那の国からきた若い少年の按摩を紹介された。少年の按摩はうまかった。いつしか二人は、結ばれる。少年が支那に戻りたがっていた。二人はいなくなり、村中が騒ぎになった。
940 ハルとナツ 届かなかった手紙
Date: 2006-01-15

おすすめ度 ★★★★

 橋田 壽賀子 著  日本放送出版協会  発行:2005年9月

 ハルはブラジルから70年ぶりに日本に戻ってきた。妹のナツを訪ねるために北王製菓に行くが、会わせて貰えなかった。ナツが出てくるのを待ってようやく顔を見ることができたが、ナツの表情は硬かった。
 3年たったら日本に戻ると約束しながら、戻らなかったことをナツは怒っていた。手紙の1通も届かず、放っておかれたと思っていた。
 しかし、ナツはいとこに会い、ハルからの手紙を受け取る。ハルからの手紙にお金が入っていたことで母が出しそびれたのだという。
 一方、ハルもブラジルに問い合わせ、もうなくなった駅舎の近くの日系人の店に手紙を預けてあったことを知った。
 お互いの姉妹は、70年ぶりにそれぞれの手紙を手にする。手紙を読み、ナツはハルを訪ね、温泉旅館でゆっくり二人で話す。移住しても苦労の連続だったこと。置いていかれたナツは、すぐにおばのうちを飛び出し、クッキーを売って会社を設立した。ナツは今は社長である。
 しかし、帰りの機内でハルはナツの会社の倒産の文字を新聞で見る。
 ハルは、70年たったけどナツにブラジルに来るようすすめる。ナツはブラジルに向かう。

939 四月の雪
Date: 2006-01-12

おすすめ度 ★★★★

 キム・ヒョンギョン 著  ワニブックス  発行:2005年10月

 インスは妻の事故を聞いて病院に駆けつけた。そこには憔悴した女性がベンチに腰掛けて今にも崩れそうだった。女性はソヨンだった。
 インスの妻と、ソヨンの夫が同じ車に乗り交通事故を起こした。妻の会社に電話したところ休暇中だったことがわかった。
 インスはまだ子どもがほしくなかった。ソヨンも理解していると思っていた。しかし、事故を起こした二人は意識が戻らない。
 一方、ソヨンも夫の事故で、女性が同乗していたことに動揺する。しかも持ち物の中から二人が親しいことを知る。携帯も女性に宛てたメールややり取りが残っていた。
 近くのモーテルに部屋を取り、入院中の伴侶を見舞っていた。
 やがて、インスは、ソヨンを食事に誘う。憔悴しきっていた彼女は少し落ち着く。
 ソヨンの行動をインスは見守っていた。寝ている妻を見ても裏切られたことを知ってからは、だんだん冷静ではいられなかった。苦しかった。この思いはソヨンも同じだった。
 二人はホテルでお互いを求め合う。しかし、患者のためにソウルへの転院を申し出る。
 二人の患者は死んだ。ソウルへ移ったソヨンとは連絡は取れなかった。インスも仕事に戻る。
 自分を取り戻そうとソヨンはもう一度インスとの思い出の地へ行こうと決心する。
938 悪魔が舞い降りる夜
Date: 2006-01-10

おすすめ度 ★★★★

 福原 廉太郎 著  光人社  発行:2005年11月

 服部は、10年前妻を突然のガス爆発で亡くしていた。それが、北の特殊部隊の報復だとは思わずにいられなかった。
 服部は内閣官房別室特命調査官に任命された。
 北はフセインの二の舞にはなりたくないから、核開発は一応やめたことになっている。国連の査察も受け入れた。食糧事情も悪いなりに安定してきている。
 服部は山本小夜子という女を捜した。小夜子は北の一味の金庫番であった。小夜子をつければ趙に会うことができると考えた。
 豊島区合同庁舎の前の公園で大勢の群集が集まっていた。発端はサラリーマンと大学生の弁当の屑の始末でもめたということだったが、西口公園でも群集がいた。群集は暴動化していった。機動隊が出動した。
 同じことが大阪でも起こった。北の人間ロケット基地は、長崎・虚空蔵山、福井・雲谷山、岡山の蒜山、そして茨城の筑波山にあるという。
 特殊部隊は東京に襲い掛かってきた。
 服部は、アメリカの意図を知った。アフガンや中東諸国と同じ運命を北に辿らせようとしていた。
 
937 金春屋ゴメス
Date: 2006-01-08

おすすめ度 ★★★★

 西條 奈加 著  新潮社  発行:2005年11月

辰次郎は余命2ヶ月の父から江戸へ行くよう頼まれる。江戸は、近くて遠い国、変わり者が住む国といわれ、日本の中に東京千葉神奈川の領土を合わせたほどの土地に、十九世紀初頭の江戸を再現し、百万人が暮らしていた。日本であるが、日本人にとっては外国であった。
 辰次郎は、松吉、奈美たちと一緒に小さな小船で江戸へ向かった。無論、電気もないあの江戸時代と同じ環境での生活だった。
 辰次郎は金春屋は長崎奉行の出張所でもあった。辰次郎が7歳の時に、江戸から日本国へ脱出したきっかけとなった流行り病について調べているようだ。
 近所に住む子ども達が次々と死んだ。辰次郎は、日本国へ着く前にその病は治っていた。途中で砂糖水を飲まされたことを思い出す。
 流行り病は、井戸水から発生した。あの頃、黒い犬のいる家の前で白い粉をみた。
 金春屋は、辰次郎にそのときの様子を思い出すように言う。
 38歳の慈斎は、諸外国の医術を江戸に入れようともくろみ菌をまいた。しかし、目論見は外れた。1415人がこの鬼赤痢でなくなった。
936 HOKKAI
Date: 2006-01-06

おすすめ度 ★★★★

 高樹 のぶ子 著  新潮社  発行:2005年10月

河村直二郎は北海のひ孫にあたる。直二郎は西洋アンティークの店をやっている。妻もいるが別居中である。
 矢野沙代子は、直二郎に北海を感じていた。北海とは高島北海で、日本の官僚としてエジンバラで開かれた万国森林博覧会に出席していた。また、北海は画家でもあった。風景画、巨木の根元の絵、植物の写生などを書いていた。
 沙代子は、北海の評伝を書こうと考えていた。
 北海が49歳の時、14歳の少女に刃物で刺されたことがあった。
 そのことを沙代子は詳しく知りたいと、当時少女がそのご引き取られた医師の遠縁などを探した。高山に今は90歳になるフミがいた。記憶をたどって話してくれた。
 木曾の山林で林業をしていた少女の両親は、山を皇室財産に確定され、貧しい生活を強いられた。そのことを官僚であった北海を、山を取った側のものと思い、両親の恨みを晴らそうとしたのではないか。
 北海に似た直二郎を見ながら沙代子は、北海に近づいていた。

935 十四歳の死刑囚
Date: 2006-01-05

おすすめ度 ★★★

 花柳 幻舟 著  現代書館  発行:2005年12月

 少年法は2001年に改正された。刑事罰対象年齢が16歳から14歳に引き下げられた。
 当時18歳の少年は、1969年死刑確定、1972年に執行された。
 未成年は死刑にならないというのは無知。
 現在13歳までに刑事罰の対象とする動きがある。
 1949年、現行法施行された。旧法では16歳以上に死刑が適用されていた。
 当時14歳の酒鬼薔薇事件で、1997年6月28日に逮捕された少年は昨年、少年院をでて社会復帰している。
 保護司が高齢化し、4人に1人は70歳を超える。
 著者は改正に終身刑を入れなかったことを残念に感じている。
934 犯罪有理 だから、日本人を殺した
Date: 2006-01-04

おすすめ度 ★★★★

 森田 靖郎 著  毎日新聞社  発行:2005年8月

柳は中国人だが、日本に気化した。永住権を得る代わりに中国籍を捨てた。90年北京から留学生として日本に来た。今は在日中国人向けの新聞社の編集長をしている。社主は趙である。
 華那は、天安門事件の後中国から蜜航船で日本に来た。地方の旅館の仲居をしたあと、日本人の77歳の藤本浩一郎と同居を始めた。藤本には娘がいたが、今は疎遠にしているという。なかなか籍を入れない。華那は藤本と口論の末殺してしまう。そして頭だけを山の中へリュックのまま捨てる。藤本の実家は大阪の一等地にあった。娘に成りすまし、遺産放棄の手続きをする。
 華那が行った役所への手続きミスから、藤本の娘のところへ役所から電話が入った。
 娘は父が死亡し、知らない間に中国名が加わっていた。
 見つかった死体が、父のものでないことを警察に言う。
 北島裕美警部補は柳と、男の死を不審に思った。そして華僑が建てた縁福寺の墓地にあたし曇られた土を見つける。掘り進むと白骨化した3つに分けられた人の遺体が見つかる。
 
933 タッチ
Date: 2006-01-03

おすすめ度 ★★★★

 ダニエル・キイス 著  早川書房  発行:2005年12月

 ナショナル・モーターズ社の研究開発センターで放射能が事故が起こった。
 バーニーは家に戻り、ニュースでは放射能事故はいかなる危険も存在しないと報じていた。
 しかし、二、三週間後、バーニーは手に火ぶくれができ始めた。そして病院にいくと、バーニー夫婦は隔離された。妻のカレンは髪の毛を切るように言われる。
 二人の過去三週間の足取りを克明に調べられた。そして、「あなたたちはどちらも子どもを作れなくなる」と宣言される。
 カレンの立ち寄った美容室で放射能汚染のが判明する。
 そして、カレンが妊娠していることがわかる。しかし、早産だった。わが子を見たいとカレンが申し出ると「ショックを受けるだけだ」といわれる。でも強引に対面した。四肢がなく肩とともに付け根があるだけの丸まった胎児であった。命のない塊だった。カレンは、本来あるべき腕の突起に触って泣いた。

932 さまよう刃
Date: 2006-01-01

おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著  朝日新聞社  発行:2004年12月

 誠がニュースを見たとき、すぐにアツヤとカイジの仕業と思った。
 荒川の下流で若い女性がビニールシートにくるまれて捨てられていた。遺体の身元から川口市の長峰重樹さんの長女絵魔さんと判明した。
 誠は思い余って長峰の家に匿名で電話する。「絵魔さんはスガノカイジとトモザキアツヤに殺された。」と。
 連れ込むまでは誠も一緒にいたが、父親に戻るように言われ家に帰った。事件はその後起きた。
 誠は絵魔を車に連れ込んだ2日後、アツヤのベッドで白い手を見た。荒川から死体が見つかる前だった。
 長峰は電話を受けて、忍び込んだトモザキアツヤの家で、絵魔の犯されるビデオを見た。そして、当日絵魔が着ていた浴衣を見つける。
 その時、アツヤが戻ってきた。長峰はアツヤを刺す。ぐったりとなったアツヤの死体から性器を切り取った。死体を見つけた刑事は、「こんな死体を見たことがない」というほど悲惨なものだった。
 包丁の指紋から長峰が指名手配される。しかし、長峰はもう一人のカイジに復讐心を向けていた。
 長峰はまたしても匿名の電話でカイジがながのにいることを知る。長野のペンションに泊まる。
 ペンションの女将の和佳子は、長峰が指名手配されている男だと知るが、自分のマンションにかくまう。
 警察は長峰の泊まったペンションにもやってきた。
 和佳子は長峰に自主を薦める。長峰も同意したと思った。しかし、そこへまたしてもカイジが上野にいると電話が入る。
 長峰は猟銃を持ち、カイジを狙う。