過去ログ  (その9)119 冊

平成19年1月3日〜平成19年12月28日
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No 読んだ日 書       名 著   者 おすすめ度
1217 2007-12-28 グラデーション 永井 するみ ★★★
1216 2007-12-25 長き雨の烙印 堂場 瞬一 ★★★★★
1215 2007-12-23 闇の底 薬丸 岳 ★★★★★
1214 2007-12-20 望みは何と聴かれたら 小池 真理子 ★★★★★
1213 2007-12-15 あじさい日記 渡辺 淳一 ★★★
1212 2007-12-10 パズル・パレス 上・下 ダン・ブラウン ★★★★★
1211 2007-12-03 任侠学園 今野 敏 ★★★★★
1210 2007-12-01 私の男 桜庭 一樹 ★★★★★
1209 2007-11-25 一瞬でいい 唯川 恵 ★★★★★
1208 2007-11-23 いつかキャッチボールをする日 鯨 統一郎 ★★★★
1207 2007-11-22 あなたの呼吸が止まるまで 島本 理生 ★★★
1206 2007-11-21 はぐれ鷹 熊谷 達也 ★★★★★
1205 2007-11-13 挑戦 巨大外資 上・下 高杉 良 ★★★★★
1204 2007-11-03 第四の闇 香納 諒一 ★★★★★
1203 2007-10-30 エズピオナージ 麻生 幾 ★★★★
1202 2007-10-27 約束の地で 馳 星周 ★★★★
1201 2007-10-23 名残の火 藤原 伊織 ★★★★
1200 2007-10-20 ロスト・チャイルド 桂 美人 ★★★★
1199 2007-10-16 清佑、ただいま在庄 岩井 三四二 ★★★★
1198 2007-10-14 夜明けの街で 東野 圭吾 ★★★★
1197 2007-10-12 深谷 忠記 ★★★★
1196 2007-10-10 晋作 蒼き烈日 秋山 香乃 ★★★★
1195 2007-10-08 検事 沢木正夫 公訴取消し 小杉 健治 ★★★★★
1194 2007-10-04 湿地帯 宮尾 登美子 ★★★★
1193 2007-10-01 聖灰の暗号 上・下 帚木 蓬生 ★★★★★
1192 2007-09-29 幻香 内田 康夫 ★★★★
1191 2007-09-25 いつか陽のあたる場所で 乃南 アサ ★★★★
1190 2007-09-20 青い鳥 重松 清 ★★★★
1189 2007-09-18 晩夏のプレイボール あさの あつこ ★★★
1188 2007-09-16 ドリーム 吉村 達也 ★★★★★
1187 2007-09-13 武士道シックスティーン 誉田 哲也 ★★★★
1186 2007-09-11 検事・沢木正夫 宿命 小杉 健治 ★★★★★
1185 2007-09-09 ゾラ・一撃・さようなら 森 博嗣 ★★★
1184 2007-09-07 やってられない月曜日 柴田 よしき ★★★
1183 2007-09-05 アラン島に消えた愛 小林 昌彦 ★★★
1182 2007-09-03 生きる 北野 武 ★★★
1181 2007-09-01 妖花一夜契り 森 真沙子 ★★★
1180 2007-08-29 当確への布石 高山 聖史 ★★★★
1179 2007-08-27 死してなお君を 赤井 三尋 ★★★★★
1178 2007-08-25 アサッテの人 諏訪 哲史  ★★★★
1177 2007-08-22 箕作り弥平商伝記 熊谷 達也 ★★★★★
1176 2007-08-20 歌舞伎町 炎の町 小沢 章友 ★★★
1175 2007-08-18 カシオペアの丘で 上・下 重松 清 ★★★★
1174 2007-08-07 玻璃の天 北村 薫 ★★★
1173 2007-08-06 眉山 さだ まさし ★★★★
1172 2007-08-04 破獄 吉村 昭 ★★★★★
1171 2007-08-03 再婚生活 山本 文緒 ★★★
1170 2007-08-01 独り群せず 北方 謙三 ★★★★★
1169 2007-07-30 戦力外通告 藤田 宜永 ★★★★★
1168 2007-07-27 中年前夜 甘糟 りり子 ★★★
1167 2007-07-25 疑惑 折原 一 ★★★★
1166 2007-07-23 影絵の騎士 大沢 在昌 ★★★★
1165 2007-07-21 百年恋人 新堂 冬樹 ★★★★
1164 2007-07-20 代行返上 幸田 真音 ★★★★★
1163 2007-07-15 オール 山田 悠介 ★★★★★
1162 2007-07-13 茶々と家康 秋山 香乃  ★★★★
1161 2007-07-11 金融腐食列島【完結編】 消失 第1巻 高杉 良 ★★★★
1160 2007-07-08 長野殺人事件 内田 康夫 ★★★★
1159 2007-07-06 微熱の街 鳴海 章 ★★★★
1158 2007-07-04 四文字の殺意 夏樹 静子 ★★★★
1157 2007-07-02 バイアウト 幸田 真音 ★★★★★
1156 2007-06-30 赤い夢の迷宮 勇嶺 薫 ★★★★
1155 2007-06-26 ふたつめの月 近藤 史恵 ★★★★
1154 2007-06-24 うつくしい私のからだ 筒井 ともみ  ★★★
1153 2007-06-22 実朝の首 葉室 麟 ★★★★
1152 2007-06-20 日本一不幸な男 新堂 冬樹 ★★★★
1151 2007-06-18 瓦礫の矜持 五條 瑛 ★★★★
1150 2007-06-16 守銭奴たちの四季 草野 洋 ★★★
1149 2007-06-14 夜想 貫井 徳郎 ★★★★★
1148 2007-06-12 千年樹 荻原 浩 ★★★★
1147 2007-06-11 メタボラ 桐野 夏生 ★★★
1146 2007-06-07 背負い富士 山本 一力 ★★★★
1145 2007-06-05 破裂 久坂部 羊 ★★★★★
1144 2007-06-02 ラ・ロンド 服部 まゆみ ★★★★
1143 2007-05-31 離婚美人 藤本 ひとみ ★★★★★
1142 2007-05-26 焼刃のにおい 津本 陽 ★★★★
1141 2007-05-23 ブレイクスルー・トライアル 伊園 旬 ★★★★
1140 2007-05-20 Gボーイズ冬作戦 石田 良衣 ★★★★★
1139 2007-05-17 くたばれ成果主義 江波戸 哲 ★★★★★
1138 2007-05-14 北京炎上 水木 楊 ★★★★
1137 2007-05-12 赤ひげの末裔たち 伊野上 裕伸 ★★★★★
1136 2007-05-02 夢を与える 綿矢 りさ ★★★★
1135 2007-05-01 明日のようにさわやかに 恩田 陸 ★★★
1134 2007-04-12 わるいやつら 上・下 松本 清張 ★★★★★
1133 2007-04-08 希以子 諸田 玲子 ★★★★★
1132 2007-04-03 地下鉄に乗って 浅田 次郎 ★★★★
1131 2007-04-01 警視庁から来た男 佐々木 譲 ★★★★
1130 2007-03-31 月光 誉田 哲也 ★★★★★
1129 2007-03-28 でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相 福田 ますみ  ★★★★★
1128 2007-03-25 使命と魂のリミット 東野 圭吾 ★★★★★
1127 2007-03-23 闇の釣人 本所深川七不思議異聞 長辻 象平 ★★★★★
1126 2007-03-22 壊れる日本人 ケータイ・ネット依存症への告別 柳田 邦男 ★★★
1125 2007-03-20 Kの日々 大沢 在昌 ★★★★★
1124 2007-03-17 RUN!RUN!RUN!(ラン!ラン!ラン!) 桂 望実 ★★★★
1123 2007-03-14 天唄歌い 坂東 眞砂子 ★★★★★
1122 2007-03-10 最愛 真保 裕一 ★★★★★
1121 2007-03-07 僕の行く道 新堂 冬樹 ★★★★
1120 2007-03-04 モノレールねこ 加納 朋子 ★★★★
1119 2007-03-01 椿課長の7日間 浅田 次郎 ★★★★
1118 2007-02-28 活断層 堺屋 太一 ★★★★
1117 2007-02-22 水底の光 小池 真理子 ★★★
1116 2007-02-19 まとい大名 山本 一力 ★★★★★
1115 2007-02-16 誘拐の誤差 戸梶 圭太 ★★★★
1114 2007-02-13 通天閣 西 可奈子 ★★★★
1113 2007-02-11 僕僕先生 仁木 英之 ★★★★
1112 2007-02-08 私の夫はマサイ戦士 永松 真紀 ★★★★
1111 2007-02-05 馬琴の嫁 群 ようこ ★★★★
1110 2007-02-01 最後の一球 島田 荘司 ★★★★
1109 2007-01-31 奸婦にあらず 諸田 玲子 ★★★★
1108 2007-01-28 夢からの手紙 辻原 登 ★★★
1107 2007-01-26 華の棺 西村 京太郎 ★★★★
1106 2007-01-23 周極星 幸田 真音 ★★★★★
1105 2007-01-20 かもめ食堂 群 ようこ ★★★★★
1104 2007-01-17 余命 谷村 志穂 ★★★★★
1103 2007-01-15 小川 洋子 ★★★★
1102 2007-01-12 青春の雲海 森村 誠一 ★★★★
1101 2007-01-10 氷原の守り人 澤見 彰  ★★★★
1100 2007-01-03 タルドンネ─月の町 岩井 志麻子 ★★★★★
1099 2007-01-03 パパとムスメの7日間 五十嵐 貴久 ★★★★



読んだ本の紹介です。紹介欄は読んだ後の感想や紹介したい部分を書いたものです。
1215  闇の底

Date: 2007-12-23

おすすめ度 ★★★★★

 薬丸 岳 著  講談社  発行:2006年9月

 二日前に学校から帰宅途中の女児が何者かに雑木林で首を絞められて殺された。以前に犯した内藤の手口に似ていた。
 男は内藤を訪ねた。何気ない話の途中で男は内藤を包丁で刺した。
 男には妻と娘の沙耶がいる。狂おしいほどかわいい。娘に危害が及んではならない。この幸福を守らなければならない。沙耶はパパっ子だといわれている。
 事件として警察は動き出した。長瀬も捜査に加わった。長瀬が小学校の時、妹が何者かに殺された。母はそのときに発狂し、実家に戻された。そして両親は離婚した。長瀬は父と暮らした。
 男の手帳には女児にいたずらを働いて刑に服したことのある人物の7人のリストがあった。木村もその一人である。男は木村を訪ね首を切り腹にSの字を入れそのDVDを警察に送った。そのときの差出人にサムソンと名乗った。
 世の中はサムソンのことで持ちきりだった。
サムソンはすでに3人を殺した。
 そんな折に長瀬あてにサムソンから手紙が届く。ホームページの「四季の花だいすき!」の掲示板にメッセージを書き込めと言うものだった。
警察はうすうすと犯人像を搾り出してきた。
 長瀬は小坂に会う。小坂は出所して所帯を持っていた。
 長瀬は犯罪を憎むサムソンに会いたいと思った。
 
1214  望みは何と聴かれたら

Date: 2007-12-20

おすすめ度 ★★★★★

 小池 真理子 著  新潮社  発行:2007年10月

 パリのモロー美術館でそいつにあった。そいつは33年ぶりだった。忘れもしない秋津五郎だった。この男に昔、助けられたのだ。
 私はN大に入学したが、大学はべ平蓮やあさま山荘事件の起こる前で不穏な状態であった。各地で闘争が繰り返された。
 私も革インターと称する仲間に入り、奥多摩のP村の廃家をかりて仲間達と革命を目指していた。ある時、仲間の女性が電話をしたことがきっかけで隣地の果てに死んだ。幸子だった。幸子の死体を夜中に山中に埋めに行く。男2人と沙織とで幸子の遺体を担いでいった。途中で沙織が待機することになったのをきっかけに逃走する。
 沙織は祐天寺の友達の家を訪ねたが留守だった。夜中じゅう走り回り持金もなく空腹と疲れで公園でうずくまっていた。
 秋津五郎が「行くところがないのか?」と助けてくれた。自分の住んでいる家に連れて行き休ませてくれた。何も聞かずに匿ってくれた。沙織を探す仲間達の追っ手が秋津の職場の店にも来ていた。
 秋津は洗濯をし食事を食べさせてくれた。女物の服も買ってくれた。沙織は21歳。秋津は2つ年下の19歳だった。やがて本当のことを話したが、秋津は平然としていた。
 半年ぐらいいて沙織は実家のある仙台に戻った。警察が来て死体遺棄で逮捕されたが保釈金を払い前科がついたが刑務所には入らなくて済んだ。
 その間に、革インターの仲間は次々に逮捕された。首謀者だった男は刑務所で首をくくって死んだ。
 沙織は32歳の時に今の夫と結婚した。過去の話をしたが別れないで娘が23歳になるが平穏に暮らしていた。
 パリで秋津に会った。偶然に。帰国後、迷った末に沙織は秋津に連絡をした。秋津は北鎌倉の古い家に住んでいた。
 秋津は一度結婚したが別れたといった。昔のように口に物を入れてくれる気のつく秋津に甘えていた。「望みは何?」と聞かれた。だが沙織は言葉に出来なかった。
1213  あじさい日記

Date: 2007-12-15

おすすめ度 ★★★

 渡辺 淳一 著  講談社  発行:2007年10月

夫は偶然妻のベットの中に隠されていた妻の日記を眼にする。もう数年も妻とは別々の部屋で過ごすようになっていた。
 久しぶりに妻の留守に寝転んだベットで見つけた。そしてその日記を読みすすめたいと思った。
 妻は自分が浮気をしていることを知っていた。妻の考えが、思いを知ることが出来た。
 妻がカルチャーセンターの教授に打ち明けている言葉から「ベットの相性が悪かったのでしょう」という夫婦の話にも驚かされる。
 源氏物語を例に出し源氏が紫を愛していたようだが、同時に他の女性も愛していたという話を男の本能だと教授に聞かされている。
 妻の日記に仮面夫婦とある。妻もやがて教授と浮気をしているようだ。日記を盗み見たことを口にするわけにはいかない。気持ちが逆転してきた。
 妻は少しずつ自分を出し始めた。
 しかし、妻は夫がひそかにこの日記を盗み見ていることを知っていた。

1212  パズル・パレス 上・下

Date: 2007-12-10

おすすめ度 ★★★★★

 ダン・ブラウン 著  角川書店  発行:2006年4月

 エンセイ・タンカドという元NSA暗号解読者がスペインのセビーリャで心臓発作で急死する。
 タンカドの恋人スーザン・フレッチャー休日だと言うのに呼び出される。
 タンカドは指輪をしていた。その指輪に暗号が書かれているはずである。持ち去った人物を探す。
 国家安全保障局(NSA)は厳重な警備の元に何重にもチェックを受けなければ中には入れない。その暗号解読施設には国を挙げての優秀な人材が揃っていた。スーザンも聡明な女性であった。
 そのNSAのコンピュータに異常が起きた。怒るべきはずのない故障である。
 タンカドの指輪の暗号を探すために死の直前に居合わせた老人や女性を探す。
 NSAのコンピュータがウィルスに犯されているのか。タンカドがNSAに突きつけた安全保障局の万全な体制への挑戦を解読しなければならない。
 指輪を見つけた。そして暗号の解読に必要な内容。それは広島と長崎に落とされた原爆の違いを調べることだった。時間がない。

1211  任侠学園

Date: 2007-12-03

おすすめ度 ★★★★★

 今野 敏 著  実業之日本社  発行:2007年9月

 阿岐本組は東京下町のちっぽげな組だ。全員で6人しかいない。しかし、広域暴力団にも属さないでいられるのは親父さんの力による。
 そのヤクザが放りだされた三鷹の私立高校の理事長をやることになった。親父さんも頼まれたら断れない。代貸の日村を伴って学校を訪れる。学校は荒れていた。窓はガラスがなく、廊下もほこりだらけ。花壇は草がはえ、塀は落書きがあった。
 親父さんは最初にガラスを修理した。50万は倒産寸前の学校には払えないから親父さんの懐から出た。日村は花壇の手入れをした。壁もペンキを塗った。
 ところがガラスがまた割られた。夜見張っていると3人の生徒が割っていた。その3人に日村はヤクザというよりも凄みを利かせて行動の良し悪しを教える。ビビった3人は日村の言うとおり廊下掃除をした。
 3人の生徒の親が弁護士を伴って校長室に怒鳴り込んでくる。そこでガラスを割ったことを知り、弁護士は引き上げる。
 3人の行動にダンスのうまい女生徒が手助けする。
 その女生徒を快く思わない別の女生徒は、日村らに大きな組の名をかたりヤクザの理事長を追い出そうとたくらむ。
 そこへやってきたヤクザの総代は理事長の阿岐本をみて驚く。阿岐本とは杯を交わした仲であった。話は急転して、学校は大学の付属となる話が持ち上がる。阿岐本らが学校を去るまでに、学校もきれいになった。生徒らは大人とすれ違う時に頭を下げるようになった。
1210  私の男

Date: 2007-12-01

おすすめ度 ★★★★★

 秋庭 一樹 著  文芸春秋  発行:2007年10月

 花は明日結婚してこの家を出る。花は24歳になった。
花が9歳のとき両親が奥尻の地震で死んだ。今の父は当時24歳だったが花を引き取ってくれた。父は海の保安員の仕事をしていた。花はこの父がなぜか本当の父だと言うことを知っていた。
花が16歳の時、父と抱き合っているところを知り合いの大塩の叔父さんにカメラで撮られた。
叔父さんは花に「本当の父親でもしていいことと悪いことがある。花とあいつとは離さなくてはいけない」というが、花は離れたくないという。
叔父さんはその日戻らなかった。沖合いの氷の上で見つかった。死んでいた。
花と父の淳悟は東京に出る。花は東京の高校へ通った。そこへ北海道から刑事の田岡が叔父さんのもっていたカメラを持って訪ねる。
淳悟が田岡を刺し殺してしまう。花が帰宅してそれをみて二人で押入れに田岡を隠す。
そのまま、ずっと田岡は押入れの中に置かれた。
私の男、それは父。自分の本当の父だと知っていた。自分には両親がいた。母とこの男と何があったのか。男と私は15歳しか離れていない。
父と呼んで15年。私は明日嫁に行く。父は3年前から無職である。どうして生きていくのか。この3年は花の給料で暮らしてきた。
彼とのマンションもきまった。結婚式に淳悟も出席してくれた。
新婚旅行から帰ったら父と暮らした部屋は空っぽだった。隣の女は父は死んだというがあの死体と共に消えていった。あの事件の時効はまだきていない。8年しかたっていないから。

1209  一瞬でいい

Date: 2007-11-25

おすすめ度 ★★★★★

 唯川 恵 著  毎日新聞社  発行:2007年7月

 稀世、未来子、英次、創介の4人は高校のとき浅間山に登った。雪の降っていた日だった。4人は山頂を目指していたが、途中捻挫した創介のために、英次が助けを呼ぶと言い残し一人で下山した。そこへ別の男達が創介を負ぶい、一緒に下山した。自分達がふもとについても英次は戻らなかった。翌日、英次は雪にまみれて死んでいた。
 創介は、自分のために英次が命を落としたことを悔やんだ。英次は下山する時、稀世に「いつか一緒になりたい」と言った。稀世も悩んだ。
 数年後、稀世は看護婦になった。未来子はリヨンの大学で学び、化粧品会社の広報部のスタッフとして働いていた。
 創介は、大学の通信教育を受けながら製材所で働いていた。
 さらに、月日が立ち、稀世は手を怪我をして、看護婦ができない。仕事をやめ郷里に戻った。その時、医師から結婚を申し込まれた。しかし、医師の母親から結婚をあきらめるよう諭される。結局、稀世はあきらめ、患者だった人の親の店で働き始める。
 創介と再会したのは、その店の立ち退きを迫る不動産会社の人間としての創介と店の責任者としての稀世であった。創介は、その頃未来子と親しくしていた。
 稀世は自分も思ってくれる人がいたが、創介の体が病魔に襲われていることを知る。創介の一時でもそばにいてやろうと稀世はホスピスを訪ねる。山に登って32年がたっていた。
1208  いつか、キャッチボールをする日

Date: 2007-11-23

おすすめ度 ★★★★

 鯨 統一郎 著  PHP研究所  発行:2007年10月

 36歳になる新島は東京レンジャーズの野球選手だ。妻と子どもがいる。
 子どもの隼は、父とは逆に野球はへたくそだった。野球チームに入っていてもキャッチボールさえさせてもらえない。いつも球拾いに回る。
 隼は本を見ながら自室で練習をする。
 あるとき、父がキャッチボールに誘ってくれた。球を受け取るコツを教えてくれた。取れた!。バッシッとグローブに当たる球の感触を忘れない。
 そして、父とまたキャッチボールがしたいと楽しみにしていた。
 ところが、隼は、重い心臓病で余命は1年と宣告される。施す手立てがないという。
 隼は、本物のヘリコプターが見たいという。新島は飛行場から隼の入院する病院の上を旋回した。息子が窓から見ていた。
 ある人から野球の八百長を頼まれる。息子の手術費用も必要だった。新島は断る。
 しかし、そのことが疑惑を広げた。新島は開放された時、隼にキャッチボールをしようと約束する。荒川にいきたいが、家の周りは得体の知れない連中が取り囲んでいた。
 新島は友人宅の屋上からヘリコプターで荒川土手に行く。隼とキャッチボールをはじめたが、隼はすぐに倒れ息を引き取る。
 1年後、新島は正当防衛が認められ無罪になった。
1207  あなたの呼吸が止まるまで

Date: 2007-11-22

おすすめ度 ★★★

 島本 理生 著  新潮社  発行:2007年8月

 顔を白くドーランで塗り、黒い雨合羽のような衣装をつけて父は舞台で踊っていたが、朔は寝てしまった。
 朔の父は団員との打ち上げで遅くなる。いつも12歳の朔はひとりで食事を作って待っていたり先に寝たりする。母はいなかった。
 学校で「ノルウェイの森」を呼んでいると男の子が「エロイ本を読んでいる!」とからかわれる。鹿山舞子が救ってくれる。朔は田島くんと鹿山さんがなにかと守ってくれる。
 お父さんの劇団にいる31歳の佐倉さんが優しくしてくれる。
 父が帰ってこない日、佐倉さんに電話した。佐倉さんがマンションに連れて行ってくれた。
 そこではじめてキスされた。
 後になって、佐倉さんを許さないと思った。そして佐倉に電話する「私は物語を書く人になって、あなたが周りの人を信じられなくなるように、佐倉さんのことを書きます。あなたを逃がさない。ぜったいに許さない」と宣言してしまう。
1206  はぐれ鷹

Date: 2007-11-21

おすすめ度 ★★★★★

 熊谷 達也 著  文芸春秋  発行:2007年10月

 岳央が最後の鷹匠と呼ばれる富樫聡一郎という老人に出会ったのは大学の時である。岳央が卒論に鷹のことを書いたのがきっかけだった。
 弟子にしてほしいと粘った末にようやく家のそばのテント暮らしではと屋根裏部屋を与えられた。
 師匠には跡取りとなる弟子はいなかった。孫は3人いるが鷹には興味がないようだ。
 ある日、師匠が軽トラで町まで行って遊んで来いと言う。その予定がないが、家にいてはまずいことだろうと出かける。
 夕方、テレビ局のものと鉢合わせになる。鷹匠の事を取材に来ていた。そのなかに大学の同級生久美がいた。岳央が一人前になったら取材をさせてほしいと言う。
 岳央は、弟子になって2年。まだほとんど鷹に訓練をしたことがない。師匠のやることを盗んで覚えるしかなかった。
 岳央は若い鷹を譲り受け山の中で飼い始める。しかし、絶食に失敗し、鷹は死んでしまう。その時、偶然にも鷹の巣から落ちた鷹の雛を育てる。
 鷹は気性が荒く、岳央にも襲い掛かる。しかし、根競べで鷹が折れ素直に従うことがある。
 岳央は、育ててやった鷹に目の上を食いちぎられ、頭髪の一部もちぎられながら食い込んだ爪でなおも岳央を襲おうとする姿に、とっさにナイフをむける。
 殺意を持った時、鷹から離れようと岳央は雪山に鷹を残して去る。
1205  挑戦 巨大外資 上・下

Date: 2007-11-13

おすすめ度 ★★★★★

 高杉 良 著  小学館  発行:2007年8月

 ヘッドハンターの福岡からの電話で池田岑行は、日本ワーナー・パーク株式会社が新聞で求人募集をしていることを教えてくれた。
 池田は、日本ライザーに採用される予定になっていた。 
 福岡は、池田の卓越した経理・財務の能力を生かしたいと思った。池田は日本ライザーを断って日本ワーナー・パークにはいる。代表取締役の佐藤との面談とアメリカから面接のために来日したメルグッツと意気投合したことによる。
 日本ワーナー・パークには池田の大学の先輩が経理部長でいた。そのことが後に軋轢となった。
 早速、池田は、経理本部長として金利の高い米銀から利息の安い邦銀に変えさせた。そのころから部内の空気が不穏に感じられた。
 藤田副社長と池田をよく思わないものが佐藤代表取締役のスキャンダルをでっち上げようと画策していた。
 池田は本部のマッキンランに手紙を書く。メルグッツが来日して藤田らの陰謀があきらかになり、藤田は会社を去った。
 日本ライザーとの対等合併の話が持ち上がる。 日本ワーナー・パークに入社して30年、池田は62歳になっていた。
1204  第四の闇

Date: 2007-11-03

おすすめ度 ★★★★★

 香納 諒一 著  実業之日本社  発行:2007年9月

 二年三ヶ月前、妻は秦野市のアパートで練炭を持ち込み、ネットで知り合った他の五人と心中を試みた。妻の恭子だけが死んだ。他のもののうち3人は別のネットで手に入れた青酸カリで死んだ。それらの姉や弟たちと新田は青酸カリを売った人間を訪ねる。しかし、その男も3ヶ月前に行方不明だった。
 新田にその頃から犯人と思われる男から電話がある。その頃、胴体のないバラバラ殺人事件が起こっていた。
 電話の主は新田のことをよく知っていた。そして、自分にも新田にも闇があると言う。第四の闇が。
 心中事件でひとり寝たきりになった男がいた。新田には電話の主が分かりかけた。
1203  エスピオナージ

Date: 2007-10-30

おすすめ度 ★★★★

 麻生 幾 著  幻冬舎  発行:2007年8月

 下北沢駅の近くで水越警部は車の中でモニタを確認した。この近くでロシア情報機関員がスパイ行動をしている。カミンスキーを追う。その遭遇の際に、必ず目立たない女の影があった。
その女を見つけた。小野寺美津江と小野寺敦史38歳と47歳の夫婦。マンションに住んでいる。美津江はスーパーのパートをしている。しかし、年収は2千万ある。美津江は地味ななりをしている。
 水越にひっかっかることがあった。美津江と敦の過去を調べる。数奇な運命をたどっていた。二人とも貧しい子ども時代をすごしていた。
そして数年前からマンションに住み年収も多い。
美津江を見張る。ロシアのスパイを探るために長年調査を続けてきた。 
 水越は執念を燃やす。美津江の出すゴミを見てどんな生活をしているかチェックする。
 やがて、美津江のマンションに男がいる可能性を見つける。
 そして、水越は敦史なる人物に不信感を持つ。過去の写真がない。いきなり金持ちになっている。この夫婦は何者なのだ。
1201  約束の地で

Date: 2007-10-27

おすすめ度 ★★★★

 馳 星周 著  集英社  発行:2007年9月

5編の短編
「ちりちりと・・・」では、金がなくなって自殺でもしようと郷里に舞い戻った男が川をのぞいていた。ちりちりと雪が降っていた。思いなおしてガソリンを入れる。偶然入った店で旧友に出会う。その男の話では帰らなかった我が家は家事に会い妹と母は死んだ。父が祖父の残した炭焼き小屋で暮らしているが、退職金と母の保険金で大金を持っていると言う。
 誠は疎遠にしていた父に頭を下げて金を借りるつもりはなかった。しかし、金がほしい。
 炭焼き小屋の近くで双眼鏡で父の動きを見る。外出した後、鍵を壊し中に入る。通帳には残高はなかった。しかし、質素な暮らしぶりに金は別に使ったわけではない。どこかに隠してあると直感した。あちこち探す。そして思い当たったのが墓の中。あった。ドラム缶に入れてあった。
そこへ父が銃を持ってやってきた。撃たれた。そして父は誠と知るが毒づいて、病院を・・・という誠を残してそばを去る。血があふれ出ていた。

「みゃあ、みゃあ、みゃあ」では、半分ボケた母親と暮らす美恵子は、毒づかれながら下の世話や食事の世話をする。飲み屋でちょっとこぼしたことが付き合いのある男に知られ、自分には荷が重いと離れていった。猫が子を産んだ。そのときだけはボケた母は意識がしっかりとして猫のお産を手伝った。
しかし、生まれた猫は引き取り手もなく、母が寝た隙にダンボールに入れ川に流す。母ネコを求めてなく猫の声はまるで自分のようだった。
1201  名残り火

Date: 2007-10-23

おすすめ度 ★★★★

 藤原 伊織 著  文芸春  発行:2007年9月

 堀江は友人の柿島隆志の死を知った。司法解剖されるという。
 柿島は3日前、夜道で集団暴行を受け意識不明で入院した。事件があったのは四谷だった。
 柿島はケイタイ飲料の若い取締役経営企画部長となっていた。
 柿島の死に掘江は疑問を持った。柿島が最後にあった人物を探し出した。丸山だった。丸山は締め上げるとその後に柿島は北島と言う男に会ったと言う。北島は暴漢に襲われたとき一人で逃げ出していた。
 柿島の妻の菜穂子は再婚である。かつて生まれて間もない子を誤って落とし死なせてしまった。それが原因で離婚した。このことを北島が知り、菜穂子に関係を迫った。柿島は菜穂子をかばい北島を避けた。やがて柿島と菜穂子は再婚した。
 北島は菜穂子への未練のために柿島を偶然を装って襲わせたのか。
 柿島の家が火事になる。堀江は柿島の家に向かう。途中で菜穂子の運転する車と出会うが、柿島家からは2つの遺体が発見される。北島と長浜の遺体であろう。菜穂子も事故死する。その後、菜穂子から堀江に手紙が届く。やっと柿島の復讐が出来たと書かれてあった。
1200  ロスト・チャイルド

Date: 2007-10-20

おすすめ度 ★★★★

 桂 美人 著  角川書店  発行:2007年6月

 大塚の監察医務院に銃を持った三人組が押し入った。速水は撃たれ神の腕の中にいた。神には不思議な力があり、必死に助けようと撃たれた肺の機能を心配しながら蘇生術を始めた。
 神ヒカルは5歳で渡米し、14歳でUCLAに入学、卒業後は日本に帰り、慶応医学部に入り医師免許を取得した。法医学の助教授になった。
 神が4歳の時母のそばにいる死神が見えた。母は何者かにガーデニング用の鎌で切られ死亡した。医師の父は不在であった。父は遺伝子研究をする学者であった。
 神の小さい頃からの友人智子に双子のレオとマオの子どもがいた。二人とも神になついていた。
レオとマオはなぜか神の兄に似ていた。兄は渡米し既に亡くなっている。智子には水野と言う夫がいる。
 この二人も神と同じような不思議な力があった。しかし、智子は二人を排除するようなしぐさを繰り返していた。
 速水は不思議で仕方なかった。傷は癒えていた。神の手が置かれた時、温かい霧のようなものが浸透し、痛みも苦しみもなかった。信じられなかった。
 速水には5歳の子春斗がいた。白血病であった。春斗に兄弟がいると救われる。骨髄移植である。しかし、それがいない今はなすすべがない。
 神は死んだ兄からの手紙でレオとマオのことを知る。そして骨髄の一致する二人の子から速水の子春斗に骨髄移植が行われた。
 神は速水から結婚を申し込まれる。
 

1199  清佑、ただいま在庄

Date: 2007-10-16

おすすめ度 ★★★★

 岩井 三四二 著  集英社  発行:2007年8月

 逆巻庄の荘園の新しい代官として赴任した僧の清佑は、代官が変わったことで貸し出されている夫食米や種籾を返さなくてもいいのではと村人が言う。「借りたものは返すのが筋!」と清佑は怒るが、村を歩いてみると貧富の差はいろいろである。人によって段階的に夫食米を加減した。
 村の端にある家に住むおきぬは14歳。6歳と4歳の弟と妹がいる。父は処刑され、母は以前に離縁され訪ねていっても迷惑顔で知らぬ顔を決め込んでいた。そのおきぬをねらって男達が祝言を挙げようとやってくるが、たいていがおきぬの家と田畑が目当てである。
代官の清佑が15歳までまてと急ぐ婚礼を押しとどめる。
 おきぬは15歳を過ぎると行商の大四郎にほれるが、訪ねていくと知らん顔の大四郎に失望する。
 80年前の証文に武田五郎左衛門が隣村の領主に土地を売ったという。本庄村の領主がこの村の領主になるのが当然と言う。清佑は、村人に知るものがいないか聞く。おきぬと目が合うが、政所の納戸から書類を探す。なかなか見つからない。
 ところが誰かが武田というのはおきぬの家のあたりにいたと言う。おきぬにきくと木箱から取り出した証文にはおきぬの曾祖父が武田からこの家を譲られたらしい。
 いろいろ調べるうちにこれはつくり沙汰だと思った。つくり沙汰とは証文を持っていない相手を訴えることである。
 代官は年貢をあつめるばかりではない。庄の四百姓たちが安心して暮らせるよう守るのも仕事だ。いくら感謝されなくても役目を果たさなければと思う。
1198 夜明けの街で

Date: 2007-10-14

おすすめ度 ★★★★

 東野 圭吾 著  角川書店  発行:2007年6月

 秋葉が派遣社員として渡部の会社にきた。歓迎会の折に秋葉が酔って服を汚したので渡部が自分の背広を掛けてやった。
 ところが、秋葉はその背広を自宅で洗濯し縮めてしまった。すみませんもないかわりにいきなりオーダーメイドの店に連れて行った。立腹した渡部は厳しい口調で秋葉にいう。秋葉は徐々に打ち解けてきた。渡部も食事に誘ううちに不倫関係になってしまった。
 秋葉は31歳。横浜に家があると言ったが、すごい豪邸だった。父と暮らしているというが、父にも紹介されたが普通の親子の様ではなかった。
 秋葉の母は既に死亡していた。母の妹が時々手伝いに来てくれていた。父の秘書の本条麗子さんがこの家でなくなった。15年前である。見つけたのは秋葉で、密室の殺人かと思われた。まだ犯人は捕まっていない。今年の3月31日に時効が成立する。
 付き合っていくうちに秋葉が殺し、父親がかばっているのかと思われた。
 そして時効の日、秋葉は父に告げる。本当の犯人は誰か。犯人なんていない。本条さんは遺書を残して自殺していた。
 秋葉のために渡部は離婚しようと考えたが、妻や子のことを考え決心ができないでいた。妻に秋葉のことを打ち明ける勇気もない。
1197 

Date: 2007-10-12

おすすめ度 ★★★★

 深谷 忠記 著  徳間書店  発行:2007年7月

 佳美は弁護士になって9年がすぎた。性暴力の問題に強い関心を持っているが、自分に何が出来るかと考えていた。
 「陽華女子大学教授の針生田耕介が教え子の大学院生を強姦しようとして告訴され逮捕された」と言うニュースが入った。針生田の妻となった珠季と佳美は昔同じ町に住んでいた。
 被害者の女性ヤンはタイの留学生だった。同級生の満枝が付き添って佳美と面談をした。針生田教授に慰謝料の要求ではなく謝罪を求めて提訴したいと言う。
 針生田教授は釈放されたあと、インターネットで自分は冤罪だと主張している。
 佳美は針生田の講演を聴いたことがあり、好感を持った。佳美もこれは冤罪なのではないかと考えていた。話を進めようとした矢先に、ヤンのほうから告訴を取り下げたいと申し出がある。これ以上あれこれ公表されたくないと言う。
 針生田が留置されている間に妻は貸し金庫から夫の筆跡で書かれた振込み人諏訪竜二が前田結花に送金した200万円の伝票を見つける。
 そして、後日焼け跡から竜二と結花と思われる焼死体が発見される。
 針生田は逆にヤンを名誉毀損で訴えた。ヤンにはショックだったようだ。
 霊園内に駐車してあった車の中から針生田の死体が見つかる。
 珠季が小さい頃おにいちゃんと慕っていた白井から針生田が竜二や結花を殺したのではなく、ある女が殺していたと珠季に伝える。
 佳美はヤンから事実を聞く。満枝からの依頼で被害者になったという。
1196  晋作 蒼き烈日

Date: 2007-10-10

おすすめ度 ★★★★

 秋山 香乃 著  日本放送出版協会  発行:2007年7月

 伊藤博文に「動けば電雷の如く、発すれば風雨の如し」といわしめた男高杉晋作である。
 晋作は22歳の時、16歳の雅子を嫁にもらう。晋作は小さい頃から癇の強い子で両親は早くに結婚させ落ち着かせようと考えた。
 中谷に誘われて吉田松陰の開いている松下村塾に行く。最初はあなどっていた晋作だが松蔭の外国に目を向ける話と日本という小さな国に言葉を失う。以来、家人が寝た後、3キロの道のりを毎晩松蔭の元へ通った。松蔭から「経済を学び、長州を内側から変えていってほしい」と言われる。
 江戸で井伊直弼が暗殺された報が入る。水戸と薩摩がやった。時代は動くと感じた。
 その頃尊皇攘夷派が台頭し高杉も久坂や桂と共に運動に加わる。
 御殿山に建設中のイギリス公使館を焼き払う。花見の名所に立てられたことに腹を立て、別の場所に移すよう申し出をしたが無視されたことによる腹いせであった。
 イギリス・フランス・アメリカ・オランダの連合艦隊が下関を砲撃する。晋作はその和議交渉にあたる。海外渡航を試みてイギリス商人と接触、下関開港を推し進めたため攘夷派、俗論派に命を狙われ、妾とともに四国に逃れる。
 2ヵ月後桂の計らいで長州に戻る。5月に薩摩行きを命じられた。その折に軍艦丙寅丸を単独購入する。
 徳川家茂の死去で大政奉還への動き始める。
しかし、晋作も肺結核のため27歳と8ヶ月でこの世を去る。

1195  検事・沢木正夫 公訴取消し

Date: 2007-10-08

おすすめ度 ★★★★★

 小杉 健治 著  双葉社  発行:2004年5月

 自分を雇ってくれた森島社長が倒れた。手術をしたが医療ミスで脳死状態となった。
 少年院出の刈谷は会社を引き受けてくれた後継者には雇ってもらえなかった。
 やむなく昔の仲間から紹介されたパブで働く。しかし、刈谷は久能興産社長宅に押し入り、久能十一郎を殺害された容疑で逮捕された。
 刈谷はやっていないと繰り返していた。弁護士の朝川が接見する。朝川は無実を晴らすと約束する。
 検事の沢木も刈谷を取り調べるうちに、ただのワルではないものを感じる。誰かをかばっている。朝川が森島社長の娘の美紀の話を持ち出すと刈谷は一転して自分がやったと自白した。そして美紀とは関係ないという。
 朝川は刈谷の真意を調べる。やがて医療ミスを繰り返す大倉総合病院と土岐万治という医療ジャーナリストの関係、そこで働いていた看護婦、岩田弁護士がホームから転落して死亡した事件が徐々に解明されてきた。
 刈谷は釈放される。公訴取消しである。刈谷は倒れた森島社長への見舞いに行っている。そして、沢木は刈谷から電話を受ける。駅に来てほしいと。駅で待つと刈谷から電話が入る。刈谷は腹からおびただしい血を流していた。「土岐万治だな」と沢木が聞くと刈谷ははっきりとうなづく。
 刈谷は大倉総合病院が久能興産から多額の借金をしており、久能十一郎が病院の経営に相当口出しをしていた。社長の恩義を返すために病院に復習をすることを決意したのではないか。刈谷は久能が医師たちに過酷な勤務を強いて医療ミスにつながったと考えた。
 刈谷は病院で死ぬ。自分が土岐に殺されることを覚悟して接触したのだった。
1193  湿地帯

Date: 2007-10-04

おすすめ度 ★★★★

 宮尾 登美子 著  新潮社  発行:2007年8月

 小杉は高知県庁の薬事課長の辞令が出た。国立の衛生研究所にいた小杉は高知に向かう。駅に着くと真赤なスーツを着た女性が紙をかざして待っていた。
 その夜、その女性と食事に行く。誘いを断って官舎に戻るが、翌朝 その女、明神薬局の瑞代が殺されていた。商売相手のバーのマダムは資金繰りに困っての自殺だと噂していた。
 小杉は「あの日のことを知っている」と意味深な言葉を掛けられる。
 薬局業組合の理事会に出席するが、薬価問題の調査をする必要があった。
 瑞代の妹笛子は、姉は自殺するような人ではないという。小杉が相談に乗る。笛子は姉の持っていた指輪をしている女性を見た。特徴のある指輪なのであれは姉のものに間違いない。尾行の末、その女は霞といい、男は磯崎という薬局業組合の副会長だった。どうやら小杉を陥れようとしていることを話している。
 小杉が高松に来る時に出会った女性は、K大の教授の夫人だった。焼き物の趣味もあり小杉も一つ頂いた。和服の似合うことから写真集を出したいと友人の写真家が言う。しかし、マスコミ嫌いで変人の夫が許さないだろう。ところがその夫の邑井一郎が死ぬ。青酸カリを飲んでいた。
 瑞代も青酸カリで死んだ。そして、小杉には、女性と寄り添う姿を撮った写真が送られてくる。
差出人はない。
 そうしているうちに、今度は邑井の夫人が死ぬ。小杉宛の遺書から、あの写真は霞と副会長と会長の日守の仕業だとしる。
 夫人は邑井との子が生まれないよう避妊薬を服用していた。それを日守が脅迫し関係を迫った。
邑井の死は自分が死ぬために用意したカプセルを夫が飲んだことによるものだった。また瑞代は、気分が悪いと言うので船酔いの薬を上げるつもりが青酸カリ入りのカプセルを飲ませてしまったことだった。動転してその場を逃げ去ったという。
 小杉はなぜ早く相談してくれなかったのか、過失致死罪で晴れてからでも自分の胸に飛び込めたのにと悔やんだ。
 
1192  聖灰の暗号 上・下

Date: 2007-10-01

おすすめ度 ★★★★★

 箒木 蓬生 著  新潮社  発行:2007年7月

 日本人の須貝は、12世紀から13世紀にオキシタン地方でカタリ派が異端者とされ火あぶり刑が行われたことを知った。それはトゥルーズの東にある町ではないかと思った。
 十字軍が南下しトゥルース伯爵領を攻撃していた。十字軍を率いているのはシトー会の修道院長であった。
 カタリ派は、同じキリスト教でも堕胎を許し、頭に両手を置くだけで洗礼とし、生まれたばかりの子ではなく十二三歳、もしくは十八歳の善悪を分別できる人間になって洗礼を受け、聖水はつかわない。形ばかりの信仰ではなく本当のこと、真実しか言わないカタリ派が迫害されてきた。
 見つかれば民衆の前で火刑された。
 須貝はそのカタリ派の信者の語るオキシタン地方の図書館で地図と手稿を見つける。
 須貝が学会で発表した後、図書館長は殺される。須貝は地図に書かれた箇所を探し、ついに700年前の手稿を見つける。それには続きがあり、別の印の箇所から第二の手稿が見つかる。オキシタン語で書かれていた。
 手稿には当時の迫害の様子が生々しく書かれていた。手稿の主は1316年に書いたレイモン・マルティだった。
 手稿は石灰岩の洞窟の峡谷の暗号をもとに、ケーるの洞窟を調べた。石函から羊皮紙の手稿が26枚見つかる。
 須貝はそれを写真に撮ったり、パソコンに内容を入力した。
 そんな時、手伝ってくれていたクリスチーヌが何者かに連れ去られる。探し当てた手稿と交換し助け出す。
 須貝はフランス警察に協力を求める。
手稿は第三のものも急斜面の岩だらけの平地から探し当てる。
 須貝はまたもや研究会で公表する。そこへフランス警察が図書館長殺しの犯人を追ってやってきた。

1192  幻香

Date: 2007-09-29

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  角川書店  発行:2007年7月

 浅見は栃木の幸来橋に来てほしいという手紙を受け取り栃木に出かける。しかし、国井由香は来なかった。川を見ていると男が近づき、質問にあいまいに答えると警察まで連れて行かれる。
 栃木にある旧県庁(現市役所別館)の堀で戸村浩二が殺されていた。香料を作る会社の社員だった。
 今度は西原マヤから手紙を受け取る。マヤは戸村と知り合いだった。国井和男という調香師に師事していた。由香の父である。10年前に日光で殺害されたと言う。
 浅見が調べると殺された戸村も昔、国井和男に師事していて、娘の由香とも親しかったと言う。
 昔、国井和男が出願した香水とそっくりのものを沼田皇漢製薬が出願していた。浅見が取材にいくとしばらくしてヤクザと思われる男二人に追い払われた挙句、車で付回された。浅見は警察署に車を止め難を逃れる。
 由香は父が最後に訪ねた湯西川に行く。そして、嗅いだ臭いにつられて行った先に大麻草をみつける。所有していた田所は警察官だった。大麻草は13年ほど前から息子が栽培していた。
 幻の香水に覚醒作用があったのだ。
1191 いつか陽のあたる場所で

Date: 2007-09-25

おすすめ度 ★★★★

 乃南 アサ 著  新潮社  発行:2007年8月

 巴子は下町の谷中に住むことになった。祖母が住んでいた家である。
 向かいのおばあさんがいつも何か惣菜を持ってきてくれる。頑固なおじいさんと暮らしていた。
 綾香が遊びにきた。綾香と巴子は刑務所で知り合った。綾香は夫の暴力に十年耐え、子どもにも危害が及ぶようになり、思いあまって寝ている夫の首をネクタイで絞め殺した。懲役7年。
 巴子は、医者の家に育ったが、大学の折、ホストに入れあげ貢ために母のものを売ったり家からお金を持ち出したりでは足りなくなり、歌舞伎町で見知らぬ男とホテルに行き、睡眠薬をつかって男が眠っている間に金を抜き取ることを繰返していた。22歳の時だ。
 以来二人は世間から隔離されて暮らした。
 家にはもどるなという両親の意思で谷中に住んだ。近くのマッサージ治療院の受付の職を見つけた。綾香はパン屋で働いていた。
 カルテをパソコンで管理するようになり、巴子もパソコンを打ち始めた。魔法のハコのようなパソコンに魅せられた。
 弟がやってきて、結婚することになったから姉は死んだことになっている。ついては戸籍を別にすること。相続廃除届けを出すよう言ってきた。その代わりとうざのお金と谷中の土地と建物をもらうことになった。
 治療院の先生からのセクハラも感じ始めた巴子は治療院をやめる。
 綾香も虎の子の70万円を中国茶の詐欺にかかり取られてしまった。巴子は綾香の落胆しながらも新たに道を見つける強さがうらやましいと思った。
 ある日の早朝、綾香の勤めるパン屋の前をとおると中から若い男の怒鳴り声。すみませんを繰返す綾香。綾香も巴子の知らないところで堪えている。巴子の前では明るく振舞う綾香を知った。
 巴子は、それを見なかったことにして夜綾香を誘う。そこへ盗まれた自転車が見つかったと言う知らせがくる。
1190  青い鳥

Date: 2007-09-20

おすすめ度 ★★★★

 重松 清 著  新潮社  発行:2007年7月

 8編の短編
「青い鳥」では、村内先生は主席簿を確認したあと「野口くんおはよう」と野口の席に声をかける。野口はいじめられてカーテンレールに首を掛けて自殺未遂をした。野口の家はコンビニエンス・ストアだったから皆が野口にものを要求した。
 後で知ったことだったが、野口はその要求に応えるべく小遣いで別の店で買って提供していたらしい。遺書が残っていた。遺書には3人の名前があったという。
 「勘弁してくださいよお」とへらへら笑いながらいう野口に皆はいじめていると気がつかなかった。
 その後、全員が反省文を書かされた。村内先生はその事件の後来た臨時の教師だ。知らないはずの野口に声をかける。何で声を掛けるのかとだれかがいうと「野口君はここにいたかったんだ。この教室にいたかったのだ。ずっと座っていたかったんだ。だから先生は呼ぶんだ」と言った。人を踏みにじって苦しめるのがいじめなんだとも言った。
 クラスはぎすぎすしていたが、けんか禁止になっていた。青い鳥BOXがもうけられ、投書箱が出来た。
 村内先生は、前に書いた反省文を皆に返し、今から読み直し書き直したい人は書いてください」と言った。僕は何を書いたか忘れていたが、今度は忘れないと思った。
 
1189 晩夏のプレイボール

Date: 2007-09-18

おすすめ度 ★★★

 あさの あつこ 著  毎日新聞社  発行:2007年8月

 野球少年の話の短編集
 「練習珠」では、真郷は小さい頃父が怒っているように見えた。その父が「大きくなったら野球をしたらええ」と本物の硬式ボールと玩具のようなグラブをプレゼントしてくれた。
 地元の高校に行った。野球部の監督から「この町から一緒に甲子園に行かないか」という言葉に強く引かれた。
 監督は真郷のことを肩を壊したから使い物にならないと思っているんだろうか。しかし、律は真郷を練習に誘ってくれた。
 「練習珠2」では、律が中学に入る前、真郷から「中学になったら一緒に野球やろうな」と言う言葉に心を動かされた。律はいじめられて学校へ行けなくなっていた。
 監督は「後ろに真郷がいる呼んで来てくれ」という。真郷は九回の裏ツーアウトでランナーで一塁ベースを踏んだ。「続けよ、真郷を還すんや」と律は声を張り上げた。まだ終わっていない。
1188  ドリーム

Date: 2007-09-16

おすすめ度 ★★★★★

 吉村 達也 著  PHP研究所  発行:2007年8月

 大学4年生の冬、僕はできちゃった婚で結婚した。責任を取ると言う形だった。そして4年半、息子が出来、妻は専業主婦でせっせと倹約している。人生の望んでいたものと違う現実があった。
 僕は22歳で結婚、そこでもう恋愛が出来ない状態になる。おまけに妻は息子を私立の学校へ行かせようという。入学金を聞いてたまげた。何百万を息子の入学のために費やすという。この先、僕は無策の後悔の日々を送ることになろう。
 妻が握っていた財布の紐を僕の手に取り戻した。やけになってキャバクラの玲花に23万を用立てるのを1桁間違えて230万円振り込んだ。預金はマイナスになっていた。
 玲花に連絡を取るが、玲花は74歳の大澤から妻に似ていると言う理由で結婚を迫られているという。お金を用立てるか、大澤を殺してほしいと頼まれる。そして玲花の行き先が分からなくなる。
 僕は、突然妻が家を出てしまい、息子の幼稚園の送り迎えもままならず母親に助けを求める。
 僕は子どもにも妻にも愛情を感じていない。
母親から息子の行方が分からなくなったと電話があるが、打ち合わせをキャンセルできずすぐには帰宅をしなかった。
 妻は男とホテルで密会していた。そして、男に自分の夫を殺してほしいと頼んだ。男はそれを拒否する。
 何気なくかけた我が家の電話に息子の行方不明を知る。
 一方、玲花は外国へ逃げようとしたところを大澤につかまり換金されていた。玲花は決して大澤を殺してしまう。それをみた子分に玲花も殺される。
 息子は母親が知り合いに預けたことが分かる。しかし、この狂言が元で僕の両親は離婚した。
 僕は偶然買った宝くじの当選を知り、それを妻に譲り離婚する。
 27歳で再び母親と二人の生活になる。妻が買った宝くじの残りの8枚に2億5千万円のあたりクジがあった。そのあたり券は妻が密会した男が持っていたが僕は取り返し、妻に与えた。妻が買った宝くじだ。妻に権利がある。合計3億あれば母子二人で暮らせるだろう。
 今、僕は夢を追いかけるしあわせがある。
1187 武士道シックスティーン

Date: 2007-09-13

おすすめ度 ★★★★

 誉田 哲也 著  文芸春秋  発行:2007年7月

 横浜市民秋季剣道大会で保土ヶ谷ニ中学の磯山は甲本という選手に負けた。全中で二位という磯山はあんな消化試合で負けたことが信じられなかった。
 東松学園高校女子部に進学した。そこにあの宿敵、甲本がいた。甲本は家庭の事情で苗字が変わり西萩早苗という。早苗は自分が負かした相手が磯山だとは気がついていない。
 顧問の小柴先生は「剣道は精神の終業、人格の終業、心身の鍛錬だ」という。磯山自身も宮本武蔵の書いた五輪書何度も読んでいた。
 そして、試合の日、またしても磯山は試合中に失神してしまう。左腕捻挫と頭を打ったらしい。
 11月の新人戦で県予選でベスト4になった。
磯山は早苗を気にしているが、早苗は磯山のこだわりを気にも留めない様子であったが、互いに仲を認め合っていた。
 早苗は新学期には転校していった。
 ところが、全国高等学校剣道大会で早苗は福岡県の代表で会場に来ていた。
 二人は来年もまた会おうと別れた。
1186  検事・沢木正夫 宿命

Date: 2007-09-11

おすすめ度 ★★★★★

 小杉 健治 著  双葉社  発行:2007年7月

 ホステスの美紀は北川という男を包丁で刺して殺したとして捕まった。しかし、検事・沢木には供述に素直に応える美紀に血の臭いを感じなかった。美紀は沢木に「検事さんは高松にいたことがあるか?」と聞かれた事が気になった。
 沢木の妻貴子は5年前、何者かに刺され28歳で死んだ。結婚して1年ぐらいしかたっていなかった。貴子は両親がなく、母親の妹である叔母に高校卒業まで育てられた。
 結婚式は2人だけで行ったが、貴子の葬式には叔母は来なかった。
 美紀と北川は付き合っていたが、別に女ができたことを知り包丁で刺したという。誰かをかばっていると沢木は感じた。
 調べていくうちに、貴子の母親秀子は今も生きており、末期がんを患っていた。秀子がやっていた店で美紀と北川は働いていた。なんと貴子の母親の付き合っていた男は、沢木の父親であった。
 貴子と沢木は異母兄妹ということになる。沢木は自分の秘密に幕を引かなければならない。沢木は貴子が出生の秘密で悩んでいたこと、自殺をするために母親に自分を殺させたことを知る。
 母親の秀子は亡くなり、美紀も口を閉ざした。沢木の父の遺骨は秀子が生前別の場所に移動させてしまいDNAの鑑定も出来ない。
 沢木の秘密は立証不可能となった。
1185 ゾラ・一撃・さようなら

Date: 2007-09-09

おすすめ度 ★★★

 森 博嗣 著  集英社  発行:2007年8月

 志木真智子から声を掛けられた。今はタレントの法輪清治郎がゾラという殺し屋から狙われていると言う。その前に、母の持ち物だった古い美術品「天使の演習」を清治郎から母に返してほしいという。僕の友人は法輪洋樹は清治郎のおいにあたる。
 それを知らせるべきか、僕は法輪に会う。天使の演習は存在した。僕は真智子の母に直接、清治郎と会うように言う。
 二人はパーティの日に会う。涙を浮かべてお互いが見詰め合った。
 しかしパーティーの日、清治郎は自室で何者かに銃殺される。天使の演習もそのときの黒い革の手袋の男に真智子の母の命と引き換えに渡された。
 直後、志木母子は日本を飛立った。警察が母子を重要参考人として捜査している。
 僕は真智子の母の使っていた車椅子の中に消音つきのゾラの拳銃が隠されていたのではないかと思った。天使の演習を持ち出すための一芝居だったのか。
1184 やってられない月曜日

Date: 2007-09-07

おすすめ度 ★★★

 柴田 よしき 著  新潮社  発行:2007年8月

 コネで入った寧々と弥々は、22階のビルのエレベータが2基しかないことにぼやいていた。
 寧々は、提出期限が過ぎた去年の領収書を持ってきた男性社員の不正を許せなかった。起こって捨てていった領収書を赤フェルトペンで「忘れ物」として張り出す。しかも、「この領収書は精算期限を過ぎている」と書いてセロテープで貼り付けた。
 火曜日、寧々は通販で買った下着を盗まれた。考えてみれば隣は空き室、下からは見えない。・・と言うことはお隣。お隣はOLである。しかし、チャイムを鳴らして耳を澄ますと助けを呼ぶ声が。室内に入り洋服や物のゴミの山のような部屋。買ったものと盗んだものがおびただしいほど置いてあった。手首を切ったお隣を寧々は救出する。自分の下着も彼女が盗んだと言う。
 弥々は、小さい頃から子役だったが今は芸能界を辞めて大学に行く彼に思われて結婚することになった。
 寧々は作った模型が社内報の表紙を飾った。皆が驚いている。作者はかろうじて伏せられた。やっと入れた社長室の写真を撮り、模型を作ろうと意気込んでいる。
1183  アラン島に消えた愛

Date: 2007-09-05

おすすめ度 ★★★

 小林 昌彦 著  イースト・プレス  発行:2007年7月

 大学生の徹は、大学の図書館で知り合った留学生のマッカーサーと出会って2人で「アイルランド研究会」をつくった。そこへ美人の学生の金井裕子が入会した。
 徹は裕子を一目で気に入り、いつしか同棲するようになった。裕子が妊娠する。徹は学生なので中絶を懇願し、裕子は悩んだ末に中絶する。そのさびしい思いをマッカーサーに打ち明ける。
 しかし、マッカーサーは優しく聴いてくれるものの触れることはしなかった。そしてマッカーサーがゲイだということを知る。
 失意のうちに裕子はアラン島に行く。マッカーサーもアラン島にいた。
 裕子を探していた徹は、律子とも同棲するが、裕子を探していた。アラン島にいることを知り、自分もそこへ行く。
 裕子の姿を見て徹は喜ぶ。しかし、裕子はもう徹の彼女ではないという。
 島の娘メアリーは男友達を探しているとき、マッカーサーと裕子が話しているところを誤解する。誤ってマッカーサーと裕子に触れ、200メートル下の海に身を落とす。幸い、誰もその現場を見いなかった。メアリーはすぐさま知人に連絡を取るが、本当のことを口にしなかった。
 通るがとっさに取った履物をそろえる行為で二人は自殺とみなされる。
 裕子は徹が唯一の恋人だったと言った。しかし、徹には裕子がマッカーサーの後を追ってアラン島に行ったことを思っていた。
 30年後、徹は律子と結婚し、アラン島をおとづれていた。
1182 生きる

Date: 2007-09-03

おすすめ度 ★★★

 北野 武 著  ロッキング・オン  発行:2007年5月

 父が倒れた時、介護に当たるものが次々と倒れ武が演芸の間を縫って病院で父のオムツを替えていた。亡くなった時には皆が「はあ、父ちゃん死んじゃった。よかったあ」と言う声がでた。
 監督には深作欣ニさんにお願いして映画を撮ろうとしたが、1週間テレビ、次の1週間で映画を繰返すというスケジュールに深作監督が降りた。それでやっちゃおうというのが処女作の「その男、凶暴につき」だった。映画はヨーロッパで受けた。ヨーロッパでの映画監督の地位の高さに驚く。
 ピアノやタップもやった。バイク事故以降に絵を描くようになった。
 コメンテーターのようなことが嫌で被り物をかぶったり白衣を着たりした。
 子供の頃貧乏で、目の前の食べ物が人と違った。「あれを食いたきゃ、勉強せい」という母さきの教えがあった。貧乏人が這い上がるには勉強しかない。勉強やれとうるさかった。
1181  妖花一夜契り

Date: 2007-09-01

おすすめ度 ★★★

 森 真沙子 著  徳間書店  発行:2007年7月

 7編の短編
 「睡蓮の宿」では、親子3人で行った宿は窓から睡蓮が見えるという。しかし、その近くは河童がでるという。
 妻が独り浴槽に入っていると浴室に書かれた何匹もの河童がのぞいているような気がした。戸が開く音がして夫が入ってきたと思ったが、いきなり抱きすくめられた。しかし夫だと思った男は何者か分からない。気がついたときには闇とセックスしたような気がした。
 そこへこれから温泉に入ると夫が入ってきた。妻の方は驚いた。
 部屋を出ると娘がいない。携帯が鳴った。娘が助けを求めていた。急いで駆けつける。親子は翌日にはきれいな睡蓮が見えるというのに早々にその宿を引き上げた。
 「冬躑躅」では、家庭教師に行った旧家で、偶然にも喪服姿の女性とそれを犯している男の姿を見た家庭教師はその家から逃げ帰った。
 事情を知らない家庭教師の文子は、迎えに来たその家の関係者から話を聴く。ご主人が脳梗塞で倒れた後、お手伝いさんが介護をしていたと言う。後妻を迎えたがお手伝いは後妻には介護をさせなかった。
 文子の前に家庭教師をしていた室井はそのお手伝いさんに好意を寄せていたと言う。あの日のことはレイプではなくプレイだと言う。そしてそれはその家の主が望んだことだと。

1180  当確への布石

Date: 2007-08-29

おすすめ度 ★★★★

 高山 聖史 著  宝島社  発行:2007年6月

 ワイドショーのコメンテーターをつとめる大原奈津子は衆議院補欠選挙で東京6区から出馬しようと決めた。30歳半ばである。
 出馬を決めた頃から「凶悪犯罪抑止連合会」なるものから「大原奈津子女史を推薦する」と言うビラがまかれた。奈津子は無視することにした。
候補者は他に数名。与党の推薦を受けた者もいる。
 やがて抑止連合会の首謀者が自殺する。奈津子との関係はないとホームページで公開した後だったため、奈津子には影響が及ばなかった。
 世論調査では奈津子が圧勝していた。2週間の選挙戦。蹴落とそうとする意図も感じられる。
 やがて開票。奈津子は3着だった。50パーセントは行っていると思っていたが、当選者6万、次点4万、奈津子3万3千票だった。
 奈津子のまわりに最初から当選させまいとする関係者がいたことが分かる。
1179 死してなお君を

Date: 2007-08-27

おすすめ度 ★★★★★

 赤井 三尋 著  講談社  発行:2005年12月

 敷島は北江から「娘の麗華が誘拐された」という。「使い古いした千円札を1万枚用意しておけ」という封筒が投げ込まれていた。3ヶ月も前のことである。敷島は検察を辞め法律事務所を開くがそれさえも3年前に法曹界からはじきだされた。今は探偵をやっている。
 昭和32年の夏である。麗華を調べるために預かった写真を元に菊江のやるおでん屋に入る。写真を見せその場所と写真の人物を聴く。居合わせた娼婦の夕子にもビールをおごる。敷島は喜楽館の夕子を訪ねると約束をする。
 遊郭に夕子を訪ねた敷島は、写真のバックの景色は「松島」という遊郭ではないかという。
 となりの松島の窓から降ってきた済をまるで囲ったリストを夕子はとっさに隠す。それを敷島に渡す。贈賄容疑のメモリストだった。
 リストが無いことに気がついた隣の娼婦館の女主は夕子が持っていることを疑い拉致監禁する。
 敷島が夕子を助け出すが、夕子は拳銃で撃たれことが原因で命を落とす。
 敷島は麗華がすでに殺され運河に捨てられていたことを突き止めていた。
 新聞記者の立松は、「売春汚職 宇都宮 福田両代議士の贈賄容疑濃くなる」を新聞トップで報じた。立松はリストの出所を追及されるために収監される。復帰後は取材現場からはずされ酒に溺れ病死する。
 敷島はリストに書かれた名前、売春防止法の汚職、代議士の汚職を嗅いでいた。
 敷島は結核のために入院していた病院にも警察の手が伸び、敷島は代議士の岸本を狙う。当確のでた選挙事務所に向かい岸本をめがけ引き金を引くが、拳銃は暴発し敷島自らの命も奪う。
 岸本は府議の買収と公職選挙違反で逮捕される。
1178 アサッテの人

Date: 2007-08-25

おすすめ度 ★★★★

 諏訪 哲史 著  講談社  発行:2007年7月

 叔父の住んでいた団地が立ち退きの期限になった。その3ヶ月前に行き先もわからず旅に出た叔父の変わりに片付けにいく。
 もともとは仕事仲間が借りていた団地を叔父が引き継いで借りていた。まだ前住人だった人の荷物も残る中、叔父の荷物だけ片付けにかかった。
 叔父は6年前に29歳で、24歳の朋子さんと結婚したが、4年後朋子さんは交通事故で亡くなる。
 結婚生活の間も叔父は突然「ポンパッ」と叫んだり「タポンチュー」という。その意味を聞くと「言いかえれば『チリパッパ・・』だ」と訳の分からないことを言っていた。
 こういった言葉は誰を驚かすわけでもなく、叔父がひとり言葉と戯れていた。ポンパだって本人には無意味な言葉でもあったようだ。タポンチューに置き換えられたのはそれさえも意味が無かったのである。
 叔父はエレベータ技師として働いていた。旅に出る2ヶ月前に既に会社をやめていた。叔父はまだ見ぬ先の「アサッテの男」だった。そしてそれは叔父の残した日記にも自覚して僕の感覚はどうかしてしまっていると思っていた。
 朋子さんが亡くなってからの言動はさらにアサッテが増してくる。
 「ポンパッカポン、ポンパッカポンパ、へえー、だって」呪文のようにつぶやく。

1177 箕作り弥平商伝記

Date: 2007-08-22

おすすめ度 ★★★★★

 熊谷 達也 著  講談社  発行:2007年7月

 明治37年に生まれた弥平は右足よりも左足の方が二寸短い。15歳の時、父から箕作り手一本でやるか売り手になるか決断を迫られた。弥平は売ってみようと決心した。箕つくりにも自信があった。
 生まれた家の三里四方から出たことが無かった。秋田から奥羽本線に乗り鷹巣で降り南下するつもりであった。一枚2円から3円と決めて家を回るがなかなか売れない。最初のうちはお茶も出してくれる農家もあったが話を聴くうち相手は顔を曇らせる。
 途方にくれていたところに、富山の薬売りから出来るだけ難儀そうに歩くこと。ニコニコ笑って身の上話をすること。挨拶に回っていますと口にするだけで箕を売りに来たといわないことを教えてもらう。自慢話はしないこと、自慢話は人を信用させない。
 やがて、箕をうりはじめてこの商売がサンカと呼ばれる差別を受けていることを知る。
 姉が嫁ぎ先からいきなり戻ってきたのも、どうやら父親が嫁ぎ先の親に箕のを送ったことが原因と分かる。
 箕を売りながら15歳の口の聞けないキヌに思いを寄せる弥平。弥平は渾身の出来の箕を桐箱に納めキヌの家を訪ねる。絹を嫁にもらうために。キヌの家も箕づくりをしていた。キヌは11歳の折、どこから来たか分からない愚連隊の連中に犯され子が出来たという。
 弥平はその子も一緒に引き取りたいと申し出るが親は丁寧に断った。キヌは弥平を嫌いではないらしい。
 キヌの住む20戸の小さい村に千人もの人々が押し寄せた。村が焼き討ちされる。弥平はキヌを助けに村に向かう。しかし、キヌの一家は箕を残し逃げた後だった。
1176 歌舞伎町 炎の町

Date: 2007-08-20

おすすめ度 ★★★

 小沢 章友 著  河出書房新社  発行:2007年7月

 自分には双子の弟がいた。二人は一浪して大学受験を終えたあとストリップ劇場に行った。
 ディープスロート・リリィというストリッパーにまな板ショーの相手をさせられた。
 その一週間後、弟はあの女に病気を移されたとうわごとのように言って高熱で脳が破壊され心肺停止で亡くなった。
 その女の名前を三十年近くたった今、目にした。あの時の女なのか確かめたくて店に入る。指名された自分は弟と同じ相手をさせられる。そのとき19歳の弟が食い入るように自分を見つめている青白い顔を見つけた。
1175 カシオペアの丘で 上・下

Date: 2007-08-18

おすすめ度 ★★★★

 重松 清 著  講談社  発行:2007年5月

 北海道の炭鉱の町、北都観音が見えるその丘に小学生の4人が夜空を見上げてこの場所が遊園地になるといいなと思った。
 シュンは炭鉱の社長倉田の孫だった。ユウとトシとミッチョはこの丘を「カシオペアの丘」と名づけた。
 昭和42年に炭鉱で坑内火災がおこり、トシの父親が坑内に閉じ込められ死亡した。
 そして小学校5年の時、トシはシュンの見ている前で崖から落ちて車椅子の生活になった。それをトシの母はシュンを許さなかった。シュンはトシを見舞うことも無く転校した。
 カシオペアの丘は遊園地になった。しかし、赤字続きで閉園になるとが危ぶまれていた。
 ある事件がきっかけでユウがテレビカメラをもってカシオペアの丘にきた。トシはミッチョと結婚してカシオペアの丘で働いている。シュンは北海道に行きトシに再会した。トシはあのときのままのトシだった。そこでシュンは自分が癌である事を告げる。シュンは妻と共にしばらく北海道で過ごす。
 カシオペアの丘はショッピングセンターに再生するという市長候補が圧勝した。
 
 
1174 玻璃の天

Date: 2007-08-07

おすすめ度 ★★★

 北村 薫 著  文芸春秋  発行:2007年4月

 資生堂パーラーで兄に食事をご馳走になったとき、若くして経済界の鍵を握るという末黒野貴明を見かける。我が家のパーティーにも来る。
 末黒野の自宅も先日完成し、披露パーティーをしたばかりだという。末黒野の家に招かれた。
 3階建ての洋風の建物だった。スロープが建物をらせん状に巻いていた。「バベルの塔みたい」とおもった。
 ステンドグラスに数羽の鳥が飛んでいた。雁の首の辺りに穴が開いていた。
 建築家の乾原はこのステンドグラスを作ったが気に入らないとビストルで穴を開けたという。穴の下には大理石像があった。
 段倉さんがステンドグラスから落ちた。誘蛾灯のように外からその光に寄せられたのかスロープから足を踏み外したのだろうか。
 外には足跡があった。下駄と靴の後、外は雪が降り始めた。
 私はステンドグラスに向けて拳銃を放ってもらった。ステンドグラスはジグソーパズルの一片が抜けるようにガラスは割れた。うまく丸い穴をあけてはいなかった。
 乾原は言った「この家は俺の理想の建築だ。この事件の設計者も実行者も自分だ」と。
1173 眉山

Date: 2007-08-06

おすすめ度 ★★★★

 さだ まさし 著  幻冬舎  発行:2004年12月

 母の名前は龍子、神田鍛冶町の生まれでちゃきちゃきの江戸っ子。神田のお龍と啖呵をきることもある。現在は70歳。パーキンソン病にかかり入院している。
 その母が「錯乱した」という看護婦からの電話で急いで徳島の病院に向かった娘の咲子。
 原因は点滴の針の刺すところが痛いからそこは辞めてという母の言葉を無視して同じ個所に射したことから「あなたの仕事は患者を見ていない!あなたの仕事は医者のほうを向いている」と怒ったという。
 廊下を歩きながらあの看護婦を慰める若い医師の言葉が龍子を再び怒らせた。「やい!若造、一体誰に向かって小生意気な口をおききなんだい。どうせベッドがすぐ空くからちょっとの辛抱だ!?そこの安っぽい女の色香に迷ったか、それとも本当のバカか!」と。
 母と医師とのやりとりは病院の噂になった。医師は理事長から母の献体の登録を聞かされ、なおさら反省したという。
 徳島で30年以上小料理屋をやってきた龍子は、女で一つで咲子を育てた。咲子は自分の戸籍が女となっていたことから他のことは違うことを悟っていた。
 母は賢一に自分が死んだら咲子に渡すようにという30センチ四方の箱を預けた。咲子はそれを受け取り中を見る。写真が入っていた。咲子の生まれる9ヶ月前の日付けがあった。「お父さん」と声を出した途端、声を上げて泣いた。
 母が見たいという演舞場に出かける。母は着物を着て車椅子に乗った。向こうから来る車椅子の男性は母をじっと見ていた。父だと思った。母は毅然と前を向いたままだった。父は咲子を見て涙を一筋流した。二人はすれ違った。
 その夜、母の様態が急変した。あと余命1ヶ月と告げられた。母の死んでから見てというあの箱を全部あけてみた。文京区の住所と名前が入っていた。篠崎孝次郎という名を焼き付けて上京する。篠崎医院と書かれた家を見つける。
 母の箱には「咲子の命が本当に本当に私の全てでした」と書かれた紙も入っていた。
1172 破獄

Date: 2007-08-04

おすすめ度 ★★★★★

 吉村 昭 著  岩波書店  発行:1983年11月

 佐久間清太郎は28歳の時盗みに入った家で家人に発見され殺人を犯す。2年後共犯だった男がつかまったことを知り自首する。
 昭和10年青森刑務所に移送されるが、看守の「お前はどうせ死刑だ」ということばに脱獄を決意。1年後、針金を手に入れ合鍵を作って脱走。
 3日後につかまった。16年には秋田刑務所に移送される。鎮静房から明り取りの天窓を伝って屋根に出て逃走。冬になると手錠がはずされたが、食事とトイレ以外は手錠ははずされなかった。
 その後、行方が分からなかったが、小管刑務所の戒護主任宅に突然現れ自首する。
 昭和18年4月25日網走刑務所に移送される。手錠も足錠にも鎮玉がつきボルトで止められるという厳重なものであった。冬でも単衣1枚という冷遇であった。入浴の時だけ、手錠、足錠がはずされた。
 それでも、味噌汁を手錠や足錠、独房の鉄枠にしみこませ腐食させ、天井によじ登り採光ガラスを割ってまたしても脱走。
 行方が分からず、熊に襲われたか、凍死しただろうと思われたが、3ヵ月後札幌市で職務質問され、その際、警官がタバコをくれたことから自ら名を名乗り自首した。
 GHQの命令で府中刑務所に移送。ここで鈴江府中刑務所長に出会い、鈴江の計らいで一般の囚人とおなじ扱いで手錠、足錠はとかれた。作業にも従事させる。模範囚となり、昭和36年12月に仮出獄となる。
 昭和48年に青森に一度帰るが、再び上京し、アパートや山谷でくらし、最期は三井記念病院で心筋梗塞で亡くなる。71歳だった。
 脱獄王白鳥由栄という実在の人物だった。
1171 再婚生活

Date: 2007-08-03

おすすめ度 ★★★

 山本 文緒 著  角川書店  発行:2007年5月

 最初の結婚をして十四年後には、二度目の結婚をして直木賞作家になって、うつ病になって今は41歳。都心のマンションに住み夫は関東のもう一つの家で暮らしている。たまにマンションにやってくる。マンションは直木賞の後にポンと買ったが仕事場でもある。
 眠剤を服用しながら日記をつける。何もしたくないというより出来ない。うじうじと悩む。
 調子のいいときはさっさと起きられるし、食事にも出かけられる。
離れていても結構、夫がやってくる。
この日記形式の再婚日記が復帰後の最初の仕事だった。
1170 独り群せず

Date: 2007-08-01

おすすめ度 ★★★★★

 北方 謙三 著  文芸春秋  発行:2007年6月

 利之は釣りをしている時によく会う老人が3人組の武士に襲われるのを助けた。孫の利助はそれを見て剣術も教えてほしいと頼むが料理に精進するよう諭す。
 利之は三願という料理店を出していた。息子夫婦にその店を譲り、隠居すると伝える。そして利之は三願ではだせない料理を出す店を出そうと考えていた。息子夫婦が三願別荘を建ててくれた。
 そこには、賄いの女2人を雇った。利助は料理を習うために3日に1日やってきた。料理は見て覚えろという利之の考えをそのまま利助も習得して行った。利助は10歳である。
 利之と利助が釣った魚を武士が強引に買おうと奪うような態度をとった。断ると刀を抜いた。しかし、利之は身を翻し武士をさける。武士は川に落ちた。
 初めて釣った魚を利助は自分で捌いて料理した。
 川で助けた老人は利之の店に食べに来るようになった。
 京から新撰組の者が大阪に入り込むようになった。やがて利之も土方たちと対峙する。が、土方が引き上げた直後、利之は気を失う。
 介護に当たったのは店のお藤であった。孫ほども離れた娘であるが、息子夫婦は気がついていて、お藤にそばで看病するよういう。
1169 戦力外通告

Date: 2007-07-30

おすすめ度 ★★★★★

 藤田 宜永 著  講談社  発行:2007年5月

 宇津木は失職して九ヶ月になる。あと5年もすれば退職の年齢だ。以前は婦人服のアパレスメーカーに勤めていた。
 宇津木の失職と交換に妻の恵里子が薬局で働くようになった。
 正月にクラス会があった。四十年ぶりに会った中学生の仲間11人が集まった。中学の時仲の良かった晶子とその後会うようになった。互いに離婚をする気が無いが関係を持つようになった。
 妻も支店を出すとかで帰りが遅くなった。同級生の仲間が晶子との仲を心配した。そしてひとりが妻と若い男が手を繋いで歩くのを見て宇津木に教えた。
 宇津木は妻にしばらくそのことを言わなかった。薬局の話をする妻はいきいきとしていた。
 大学で学生運動に熱心だった菱山の娘がキャバクラで働いていた。ファミリーレストランでその娘が兄に借金を申し込んでいた。
 宇津木は菱山にそれを伝える。菱山はその後、首をつって自殺する。贈収賄の事件で警察に取り調べられ逮捕間近だった。
 菱山の葬儀の後、菱山から宇津木に手紙が届く。久しぶりに息子と対峙できたこと、中学の頃晶子が好きだったことを書いてあった。
 宇津木の妻は若い男と住むために家を出た。離婚の意思は無いという。最期は宇津木と一緒の墓に入りたいと言った。宇津木は妻が出て行ったあと晶子と別れる。
 宇津木の辞めた会社から誘いがあった。もう一度働いてほしいと。
 
1168 中年前夜

Date: 2007-07-27

おすすめ度 ★★★

 甘糟 りり子 著  小学館  発行:2007年5月

 蘭子は契約社員になって10年。中堅の出版社に勤めていたが、一念発起して週刊誌の会社へ移る。ノーパン、SM、ヌードを掲載しながら牛乳パックでつくった小物いれを紹介する仕事よりは充実していた。
 夕子は整形美容の病院に事務で勤めていた。病院長の愛人になり高級マンションに住んでいた。しかし、愛人という関係も院長との関係も清算したいと思っていた。
 真澄は着飾って結婚式に参列した。真澄は夫がいた。
 真澄、蘭子、夕子はお料理教室に通っていた。料理教室は突然締められることになった。静先生が結婚をされるそうだ。うんと年上なのにいきいきとして魅力的だった。しばらくして3人が食事に行ったところで静先生が息子ぐらいの若いこと駆け落ち結婚し小料理屋をやっていた。
 蘭子も結婚することになった。真澄は若いこと浮気をする。夕子は院長と別れるために退職しマンションを出た。
1167 疑惑

Date: 2007-07-25

おすすめ度 ★★★★

 折原 一 著  文芸春秋  発行:2007年6月

 6篇の短編
「偶然」では、振り込め詐欺をもくろんだ男がのこのこと相手の老婆の家に金を取りにいくと、老婆は死んで自分は殺される。裏口から老婆の家政婦の西山房枝が500万円を盗んで出て行った。そこへ息子のマサオから婆さんと相棒を殺した犯人と思われていると電話が入る。その偶然に房枝はその場にしゃがみこんでしまう。
 「疑惑」では、近所で放火が横行した。高校に入り登校拒否になった息子は夜中に二階から出入りしているようだ。母親が息子が出て行った後部屋に入ると地図に×がついていた。放火の場所だった。母親は息子が放火犯だと思った。
 息子の後をつける。火が上がっていた。あわてて火を消し、走り去るところを人に見られる。
 放火犯は中年女性となって新聞に載る。思いあぐねた末、母親は自宅に放火する。火が燃えるところへ父親が帰り、家の中に息子がいるとわめく母親の言葉に家に飛び込む。父親は死ぬ。
 葬儀の後、息子は春から定時制高校にいくという。暴力亭主だったが保険金と火災保険が入る。
 娘はあの日合宿だった。息子は言った。放火犯は自分ではなく娘の方だった。娘は母親から悩みを打ち明けられるストレスから放火に走った。それに気がついたのがなんと息子だった。
 父と家を失い、もう二度とやら無いだろう。
1166 影絵の騎士

Date: 2007-07-23

おすすめ度 ★★★★

 大沢 在昌 著  双葉社  発行:2007年6月

 2048年の東京。路地裏で育ちホープレス・チャイルドと呼ばれた混血児で1割は戸籍を持たない。小説を書くヨシオ・石丸もホープレスの這いあがり者だった。
 ヨヨギ・ケンは私立探偵で十年ぶりにヨシオに会った。ヨシオは妻で女優のアマンダ・李を守ってほしいといってきた。
 ケンは巡査に所持品検査を拒否したために公務執行妨害で連行されるところを昔のなじみの池谷警視に救われる。
 ケンは2年前妻のエミィを「新宿病」と呼ばれる悪性の腫瘍で亡くし、平穏なオガサワラから新宿に戻ってきた。
 ホープレス出身のピーと呼ばれる者たちが警官の下で働いていた。
 テレビ界は統廃合を繰り返し今では三大ネットワークに集約されてしまった。
マスメディアが利益を得るために、シナリオに従って犯罪を起こしている。付随して保険金詐欺が横行していた。「クラッパー」と署名された爆破予告の脅迫も出てきた。それに女優のアマンダがかかわっているようだ。
 ケンにも危険が及ぶ。ついには原発に爆弾を仕掛けたという予告があった。


1165 百年恋人

Date: 2007-07-21

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  双葉社  発行:2007年4月

 愛子はいきなり現れた透に助けられた。透は若林家の人間だった。愛子は「百年恋人」という本を読み、明治に頃、財閥の娘ハルと公爵家の息子正一との恋を知った。二人は互いの家が反対をするが、恋を実らせようとする。正一は最後に自殺してしまうが、それをみてハルも自らを刃物で刺し後を追った。若林家と花柳家は以来、敵同士となってしまった。
 愛子の母は35歳で交通事故で亡くなった。自転車で出かけた母は急カーブで曲がってきた車に撥ねられた。車を運転していたのは若林家の人間だった。
 以来、父は覇気がなくなり、若林家の慰謝料で暮らしている。愛子には静江という姉がいた。透との関係を知った静江は愛子に学校へ行くことを禁じ、悟に家庭教師に来てもらうという。
 愛子は悟に襲われ、必死で抵抗する。ところが気づいた家人に悟は愛子が襲ってきたという。
 それどころか、透の父の愛人が産んだ子と姉の静江が好きあって子供を中絶したことを知る。余計に透との関係を清算させたがったわけが分かった。
 透と愛子が会っていた時、透の妹のエリカにそそのかされたリョウが透を刺す。
1164 代行返上

Date: 2007-07-20

おすすめ度 ★★★★★

 幸田 真音 著  小学館  発行:2004年3月

 昭和41年に始まった年金代行システム。現在低金利時代が始まり、運用が期待できなくなると将来の年金支給に不安が残る。企業は代行を続けることが困難になり、国に代行の返上を申し出るところが増えてきた。返金するには積み立て分を現金でしかも、事務処理の段階で入力ミスからか国の帳簿と企業の帳簿との照合の際に食い違いがあった。国にあわせなければならないというが、1件1件あわせていくと社員にとっては大事な年金を国に合わせたら社員が明らかに不利になる。
現金の調達で株を売ると株価が一気に下がる恐れもある。
河野は義父から相談された段階で、義父の苦悩を思った。妻の理美は、仕事の多忙を理由に別にマンションを借りて出て行っていた。
1163 オール

Date: 2007-07-15

おすすめ度 ★★★★★

 山田 悠介 著  角川書店  発行:2007年5月

 母からの宅急便が届く。米、うどん、スナック菓子が入っていた。健太郎は一時はアパレル関係の仕事に就いたが1年もたたないうちに辞めた。
 職を探していた折、電柱に張られた何でも屋の張り紙を見て応募する。
 雑居ビルにある何でも屋は、社長とほかに2人がいた。最初の仕事は犬を2時間預かることだった。女性は2時間後5千円を置いていく。
 別の日、ゴミ屋敷の私の家を片付けてというメールが届いていた。5百万円という報酬だ。トラック2台で3人で駆けつける。ゴミを片付けながら押入れから老婆が見つかる。手には鍵があった。老婆は死んでいた。鍵は金庫の鍵だった。無事に5百万円を手にする。
 その直後、田舎から母が訪ねてくる。アパレル関係という仕事がうそだとすぐにばれる。
 母は「情けない」と激怒する。「偉くなれというのではない。夢を追っかける姿を思うのが生き甲斐だった。」と母は帰郷する。しかし、そのあと社長宛に母から手紙が届く。「仕事をうれしそうに話す姿。いきいきとした顔で働く姿にむしろ応援してやらなければならなかった。息子をよろしくお願いします。」というものだった。
 健太郎は何でも屋の仕事が面白くなっていた。
1162 茶々と家康

Date: 2007-07-13

おすすめ度 ★★★★

 秋山 香乃 著  文芸社  発行:2007年4月

 太閤秀吉が亡くなった。秀頼はまだ6歳。母の茶々は、二度の落城を経験している。父浅井長政が信長に滅ぼされた時、二度目は養父柴田勝家が秀吉に挑んで敗れ去った時である。
 茶々は、18歳で大阪城に引き取られ20歳で秀吉の女となった。そして父の仇の子を産むことになった。いつか浅井家を復興させることを夢見ていた。
 しかし、太閤が死に家康が不穏な動きを見せている。城内も主だったものが次々に滅ぼされていた。日本を二分した大きな戦いの後、茶々は、これ以上を犠牲者を出すまいと家康に人質を申しでるが断られる。
 秀頼が21歳になった折、もはや持ちこたえられなくなった。大阪城で秀頼は果てる。
 茶々は、秀頼の死後自害する。茶々は淀君といわれながらも実際は多くの人に慕われていた。
1161 金融腐食列島【完結編】 消失 第1巻

Date: 2007-07-11

おすすめ度 ★★★★

 高杉 良 著  ダイヤモンド社  発行:2007年5月

 協立銀行の広報部長だった竹中は、急に中之島支店長に命ぜられた。本社からでる左遷に近いものだった。
 竹中の家族は娘と高校生の息子孝治がいた。孝治は、母の携帯をみて母の浮気を知り、母を避けるようになる。
 竹中の転勤に伴い、母を連れて行くよう進言したのは孝治だった。母の知恵子はしぶしぶのように大阪にいく。
 しかし、竹中は知恵子の浮気相手も知ると、二人のいさかいは多くなった。
 知恵子は離婚を前提に家を出る。大阪に行ってまだ2ヶ月しかたっていなかった。しかし、浮気相手の三上は突然の離婚話に戸惑う。離婚はしない安定した遊び相手だったはずである。知恵子ははっきりしない三上をせめる。
 やがて、知恵子の両親にも知れることとなる。
そのころ、竹中もかつての部下で今は銀行をやめビジネススクール受験の準備をしている麻紀と知り合う。二人は急速に親しくなりホテルで密会をする。麻紀は30歳前、竹中は53歳である。
 息子は一浪して一ツ橋に入った。知恵子とは別居したが、まだ離婚は成立していない。

1160 長野殺人事件

Date: 2007-07-08

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  光文社  発行:2007年5月

 直子は税務課の職員であるが、徴税吏員でもあった。滞納処分に関する職務権限が与えられた職員であった。
 税金を滞納した岡根寛憲の家を訪ねた直子は、応接間に通された。説明する直子に、岡根は信州人だろうと言い当てた。そして滞納分は支払うと約束をしてくれた。ついでに「あんたは長野県人としてあずかる義務がある」と書類を押し付けた。一ヶ月間預かることにした。中身は見ないほうがいいという。
 ところが、その岡根が遠山川で死体となって発見された。直子は、あのあと結婚していた。夫に話すと同級生だった浅見に相談することにした。
 浅見光彦は、その書類を見て大変なものを預かったと思った。長野オリンピックの際の帳簿のようだ。使途不明金が取り立たされたが、帳簿が見つからなかった。
 芥川賞もとった秋吉知事になる6年も前のことである。
死んだ岡根は企画室長で一時は知事の側近でもあった。岡根は秋吉と喧嘩別れで辞めたように聞いたが、秋吉は「独善的といって袂を分かって去った」と説明した。
 岡根の死んだ場所から再び渡部という48歳の会社員の死体が見つかる。
 渡部は直子のところに岡根から何か預かっていないかと聞いてきた男だ。
 そして、またループ橋の下に死体があった。信濃日報の記者だった。
 浅見が長野に出向く。捜査本部のある廃校となった学校に行く。善光寺となのる男に書類があることをつげおびき出す。善光寺とは・・・。
 岡根はその書類が秋吉の苦境を救うために必要だと思っていた。喧嘩別れしたことが定説になっていたが、岡根は秋吉を推していた。
 選挙で秋吉は新人の岩田に敗れる。

1159 微熱の街

Date: 2007-07-06

おすすめ度 ★★★★

 鳴海 章 著  小学館  発行:2007年5月

 寺田政道は背中に観世音菩薩の彫り物がある鷹科と日系ブラジル人の扶利夫を使って、ショベルカーで穴を掘る。
 穴には以前に埋めた死体が腐敗し膨らんでいた。それに摂食したらしい、ものすごい臭いと共に液体が飛んでいた。「同じ場所に埋めろ」といわれ、頭を勝ち割った死体はビニール袋で被った。これほどまでにつぶした奴は、脳みそが異常に臭いということを知らないらしい。以前の2つに並べて合計3つの死体を埋めた。
 報告に行くとガソリン代のつけを貯めた奴から集金の仕事が入る。焼酎を飲んでいた男の部屋から、冷蔵庫の製氷室に隠された10万円を見つけた。殴られた男は「むすめが、来年ガッコなんだ・・・」とすがりついたが振り払った。
 アパートのドアの前に座り込んでいる子どもが猫を突き出した。子どもを部屋に入れたやる。トーストにかじりつき、ゆで卵もほおばっていた。
「知らない子に飯を食わせるの?」と女に言われながらもなぜか猫を抱いた子は追い出せなかった。
 寺田は背中に虎の彫り物をしていた。それをみて子どもは「猫」といった。「馬鹿、虎だ」。
 子どもは寺田の胸元で寝た。子どもは雄太といった。
 雄子という女を思い出した。家は散らかしているうえに猫を飼っていた女だ。
 民夫に電話した。ガキを預かってくれと。そして、その民夫は妻と子ども二人と共に惨殺された。雄太の姿は見えなかった。
 寺田は何者かに狙われていた。扶利夫も胴体を二つにされて死んだ。
 そこに雄太が出てきた。手を握ってきた。寺田は、雄太とともに生きていこうと決心する。
 
1158 四文字の殺意

Date: 2007-07-04

おすすめ度 ★★★

 夏樹 静子 著  文芸春秋  発行:2007年2月

 6篇の短編
「ひめごと」では、母からメールで七時ごろ手があいたら掛けてというので掛けるが応答が無い。心配になってみずきは母の住む伊豆多賀にむかう。母は家の中で死んでいた。室内は荒らされていた。
 死亡推定時間は2時から6時ごろだという。1時38分のみずきからの携帯電話にはでた。その直後に殺されたという。しかし、7時ごろ・・というメールは母が送ったのではないのか。
 母は赤い紅葉の下で他の男と写っていた写真があった。葬式の日、遺影を見、遠慮がちにお棺に近づいて母の顔を見ていた。そして「学校の後輩です」と挨拶をしたあの男だった。
 母が伸ばしていた爪は、短く切られていた。
 みずきは男の後を追い話を聞く。父の留守に10日か2週間おきに会っていたという。
 警察から犯人が捕まったと電話があった。大学生のおいであった。サラ金の借金の返済に困り訪ねたが、やさしい叔母なら何をしてもおこらないだろうと抱きついたところ激しく抵抗され両手で口を塞いだという。
 みずきは後輩と名乗った男に連絡する。母の爪は会うたびに切ってあげたと男が言った。
1157 バイアウト

Date: 2007-07-02

おすすめ度 ★★★★★

 幸田 真音 著  文芸春秋  発行:2007年5月

 広田美湖は、中堅の証券会社に勤めた後、今のラーンス・ブラザーズ社に入社して3年になる32歳である。投資や企業買収など、株を売買する部門にいる。
 ヴォーグ・ミュージックは、かっての父だった三枝篤の努める会社だ。まだ幼かった美湖は父に連れられ、社長の波野に会っていた。
 美湖が8歳の時に両親は離婚した。忙しい父に代わって母は波野との食事会に誘われた。その頃から母は父との口論を繰返していた。母は自分が波野に差し出されたと思っていた。
 離婚後、祖父の家に引き取られ、祖母の死後、母もアルコール依存が祟ったのか亡くなった。父は葬儀には来なかった。
 美湖は、そのヴォーグの株をターゲットにした。
 25年ぶりに父と対峙した。しかし、美湖は父を許せなかった。ヴォーグの株を買いあさっていることを知られてはならない。
 美湖は相馬コンサルディングの相馬に情報提供していた。
 25億円、美湖は父から奪ってやろうと試みているヴォーグ株。
 波野が倒れたという。父は美湖を強引に波野の枕元に連れて行く。美湖は波野と母との間に生まれた子だった。
 美湖は、波野夫人から自分に何かあったらと波野が書き付けた書類を読み、美湖にヴォーグ社の株の22パーセントに当たる株を託した。
 企業買収の表明の後は240億に膨れた株は、それが失敗に終わった途端に株価は急落をした。
 三枝は救われる思いだった。
 美湖は託された株を売れば5倍になったがそうはしなかった。相馬は勝ち逃げしようとしているが、美湖はそうはさせないと東京地検特捜部に電話する。
1156 赤い夢の迷宮

Date: 2007-06-30

おすすめ度 ★★★★

 勇嶺 薫 著  講談社  発行:2007年5月

 小学3年の時、7人でオバケ屋敷と呼ばれる家に入り込んだ。白い壁の緑の屋根のアメリカの田舎のような建物があった。不思議な臭いがした。
地下室で猫の死体を見つけ、あわてて飛び出した。皆の宝物を入れたバックを建物に忘れてきたことに気がついたが戻れなかった。
 そして25年。その家の持ち主OGから招待を受ける。OGはあの頃、40代だった。大柳爺のことである。今は70歳近くだろう。金持ちだった。OGの家族は食中毒で皆が亡くなった。
 ヘリコプターでOGの家に招かれた。リフォームしたというOGの家は屋上にヘリポートのあるビルになっていた。
 最初にCちゃんが殺された。部屋で首をつっていた。魔女が包丁を持って外に出た。その魔女も襲われる。次にココアは山中で雨の中の崖の渕で足を滑らせて転落する。
 ウガッコは死体を見るのが好きだった。ウガッコはOGの家の支配人吉良からどちらかたくさん殺した方が勝ちだというゲームに誘われていた。
 ところがそのウガッコも何者かに胸に包丁をつきたてられる。
 僕は寝かされていた。僕が言ったことは妄想だとされた。死体は見つからなかった。僕は狂っている。
 ゴッチは墜落死体で見つかる。僕はOGに自首をすすめるが笑っていた。
1155 ふたつめの月

Date: 2007-06-26

おすすめ度 ★★★★

 近藤 史恵 著  文芸春秋  発行:2007年5月

 「明日から来なくていいよ」と言われた久里子は、正社員になって2ヶ月足らずである。輸入服飾雑貨の会社だった。久里子は、家族に内緒で時間をつぶした。
 犬の散歩の途中でよく会う赤坂老人に会社をやめたことを相談した。赤坂は久里子のためにどうして辞めされられたか聞いてくれた。しかし、久里子は自分で突然辞めたことになっていた。皆、好意的で急に辞めたのを不思議がっていた。
 久里子は弟にリストラされたと話す。やがて両親にも。
 男友達だった弓田がイタリアのナポリから帰ってきた。離れている間に少しギクシャクする。弓田は近所の明日香を紹介してくれた。相談に乗ってほしいという。明日香は「人を殺すかもしれない」という言葉に、久里子は必死に止める。
 赤坂老人に相談すると「怒りは別の感情ではないか」という。
 明日香の殺したい人はネットで見つかった。過激ダイエットしている子に気持ちとは裏腹に励ましていた。痩せすぎて馬鹿みたいと思いながら、精神力があってすごいと書き込んでいた。
 明日香と話友達になった。弓田が帰ってきたとき思い切って久里子は好きだと打ち明ける。
 赤坂老人が交通事故にあった。久里子が見たとき、老人はひき殺されそうに見えた。
 赤坂老人はいつも歩道橋の上から下の車の流れを見ていた。老人は回復しないのに姿を消す。刑事が老人を追う。
 やがて、赤坂が窃盗犯達を知っていて殺されかけたことを知る。
1154 うつくしい私のからだ

Date: 2007-06-24

おすすめ度 ★★★

 筒井 ともみ 著  集英社  発行:2007年4月

 舌、乳房、手首、髪、爪、鼻、えくぼ、うなじ、声・・・など20項目に渡り、それを題材にした短編。
 舌では、太ったアヤコは28歳。まだバージンである。初恋の男の子に「デブの女性は趣味ではない」といわれてから男の子に好かれるわけがないと思っていた。そんなアヤコがカウンターとテーブルが3つのバーに飲みに行くようになる。マスターのジュンがある時自分の部屋に誘ってくれる。初めてのキスをする。
 乳房では、サキのあだ名はエグレ。乳房が無いのでエグレていると言うもの。そんなサキにタクロウが小ちゃくてかわいいオッパイダね」といってくれたのに、うれしさとは裏腹に怒ってしまう。そのタクロウが別の人と婚約をした。サキは自分の胸に触ってみる。今度好きな人が出来たら素直に差し出してみようと思う。



1153  実朝の首

Date: 2007-06-22

おすすめ度 ★★★★

 葉室 麟 著  新人物往来社  発行:2007年5月
 
 実朝の首をとった公暁は、今度は自分が天下をとると考えていた。実朝の首を源太郎に三浦義村邸に届けるよう命ずる。源太郎は実朝の首を由比ガ浜の浜に隠す。
 北条家では実朝の首の無いまま葬儀を行っていた。政子は実朝の首を捜すよう命ずるが、なかなか見つからない。
 源太郎は由比ガ浜に向かい首を掘るがない。そこへ男がやって来て着いてくるようにいう。鎌倉から離れた波多野に連れて行く。
 公暁に実朝の首を取るよう命じたのは北条義時と三浦義村であろうか。しかし、公暁に実朝の首を取るように命じたのは頼茂であった。
 政子は鎌倉の安泰のために夜中、三浦義村を訪ね説得した。将軍は皇族から迎えた。
 鎌倉は滅亡にいたるまで武家でありながら皇族から将軍を迎え続けたのである。将軍の座を巡る争いを避けるためだった。
1152 日本一不幸な男

Date: 2007-06-20

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  中央公論新社  発行:2007年5月

 まどかの誕生日に指輪を買ってやろうと三沢は売り場まで何度も押しかけた。その指輪が別の人に売られそうになった。あわてて買ってしまう。
 が、そのとき、何ものかに連れ去られる。
 三沢は車で連れ去られる。コンクリートに囲まれた空間。二段ベッドが2つある。
 まどかが捕らえられ、自分が言うことを聞かないとまどかに危険が及ぶ。
 まどかは、自分には不釣合いな素敵な女性だった。この女性を逃すと自分にはもう女性とのめぐり合いはないと三沢は思っていた。
 役所という男とメイ子が同室だった。役所も娘が捕らえられているという。
 連れ去られた三沢は、テストと称して理不尽なことをさせられようとしていた。それは、ホームレスを殴って来いとかコンビニで飲料水を万引きして来いというものだった。まどかは捕まっているようだ。
 捕らえられた生活は自由なようで自由ではない。なんとかこの場所から脱したい。
やがてこのグループのリーダーが見えてくる。しかし、本当のリーダーは別にいた。
そして、思わぬ結末がまっていた。
 
1151 瓦礫の矜持

Date: 2007-06-18

おすすめ度 ★★★★

 五條 瑛 著  中央公論新社  発行:2006年6月

 神楽は6年前に大学で就職活動に忙しい妹が自分のところに向かう途中にストーカーに殺された。
 大野は14年前、大学生の時、家宅捜査された。本当は無実だった。窃盗の疑いであったが、やってきた警官に自分の大事にしているゲームを踏みつけられたことに腹を立て、無言で警官を刺してしまった。
 神楽はコモン・フューチャーという市民権利の保護のための活動をしている財団法人の会社である。
 ユナは韓国生まれ、18歳で日本に来たが、ソープでの仕事をさせられた。逃げ出した折、矢口と知り合った。しかし、矢口も窃盗団の一味で警察が追っていた。自宅にやってきた警官にユナは店でやっていたことをやらされた。ユナは警官に復讐を誓った。しかし、警察に訴えても無理だ。彼らは内部の人間を調べたりしない。
 13年前に岸田は下着を盗んでつかまった。仙台を離れ2年遠回りして大学に入った。あの時警官が自分の肩をたたかなかったらと思う。
 インド人のジジは8年前に日本に来た。インドと違って差別の無く、才能で金を稼ぐことが出来る。ジジは日本で金の力を知った。偽のパスポートを作って再び日本に来た。
 停電でパソコンも、セキュリティシステムも止まってしまうことを知った。
 停電の間に銀行が2つ襲われた。被害総額は2つの銀行をあわせて8億円だった。
1150 守銭奴たちの四季

Date: 2007-06-16

おすすめ度 ★★★

 草野 洋 著  雷韻出版  発行:2005年11月

 日本のゴルフ場王佐江木万蔵と愛人の間に生まれた糸田英太郎は43歳。競艇のドンといわれた笹川良一の妾腹の子梅子と結婚していた。
 糸田は参議員選に出馬の際にのっとった相模工大の理事長の肩書きを生かし当選する。
 父の万蔵の1周忌には日本興業の社長に就任した。
 佐江木の娘の由紀が襲われ裸の写真が関係者に送られる。それを仕掛けたのがなんと糸田だった。大学関係者からの糸田を解任を要求する文書も配布される。
 糸田の後援会長年に渡って白タクを続けていたことから議員辞職を中曽根から打診される。1996年だった。参議院議員を経て衆議院議員に当選3回だった。
1149 夜想

Date: 2007-06-14

おすすめ度 ★★★★★

 貫井 徳郎 著  文芸春秋  発行:2007年5月

 雪藤一家は、長距離トラックに追突され、車は炎上し妻と娘は死んだ。かろうじて外に出た雪藤だけが助かった。
 最近、雪藤のミスが目立つ。カウンセラーに相談もする。
 駅前で雪藤の定期入れを渡された時、「あまりにかわいそうで・・」と泣いた女性から言われた。その言葉が気になり再び女性にあったときに女性の勤める喫茶店に行った。女性は二十歳前後だった。
 女性は天美遥という。人の物に触れるとその人の状況が分かるという特殊能力を持っていた。
 定期を手にして雪藤の不幸な事件を知っていた。喫茶店には口コミで何人かはその力を頼ってきていた。鑑定料はもちろん取っていない。
 雑誌に小さくそのことが載った。少し客が増えた。再び雑誌に載ったときは大きく取り上げられたため、喫茶店だけでの鑑定は難しくなり、雪藤は遥の言葉で救われるものが多いはずと自分のマンションの1室を鑑定用に提供する。
 遥に見てもらった人がボランティアで世話を引き受ける。だんだん雪藤のマンションは賑やかになる。
 わずかな鑑定料をとり増えたボランティアを輪番制にした。
 娘に家出された母の嘉子は、娘の彼氏が勤めるという居酒屋を当たるがなかなか見つからない。
 街角の占いに見てもらうが分からない。雑誌で見た遥に会いに行く。遥は嘉子をみて驚き「何も見えなかった」「お力になれそうにありません」と断る。嘉子は遥に対し、インチキ教祖は相手を色仕掛けでたぶらかしているのだろうと腹が立った。なんで自分には占ってくれないのだ。
 遥はその日以来、悩んでいた。組織が大きくなり、遥の講演会を開く日になった。物に残る記憶を読み取る力を持ったのは小学校4年からだったという。講演の最後に嘉子が会場に入ってくる。
壇上に上がり遥を切り付ける。
 嘉子は連行される。遥は警察に嘉子の家の庭を掘れという。庭から若い女性の白骨が出る。 
1148  千年樹

Date: 2007-06-12

おすすめ度 ★★★★

 荻原 浩 著  集英社  発行:2007年3月

 浅子一族から逃れるために公惟は妻と子を連れ山中に逃げ込んだ。もう5日も飲食していない。山肌を這いずるようにして登った。山も頂上から人家が見えるはずだった。やっとの思いで山頂に着くと妻は眼下みえる樹海を海と見て果てた。やがて公惟も。子はくすの実をしゃぶり目と閉じた。その口から1日中しゃぶり続けたくすの実が転がり出た。
 神社にある大きなくすの木。雅也級友達に使い走りさせられた。その代金も雅也が出す。もう自分の金は無い。母のサイフからも抜き取った。こんなこといつ間続くのか。雅也は死のうとくすの木に縄を下げた。子どもの声を聞いた。男か女かも分からない髪を伸ばした子だった。雅也は死ぬのをやめた。
 くすの木は人のいない荒れた神社に立っていた。そこは待ち合わせ場所であった。啓子も博人を待った。
 くすの木の下に埋めたタイムカプセル。
 雅也の級友だった岸本は堀井に痛めつけられ埋められようとしていた。くすの木のある境内。
 堀井の指示で街路樹が植わるほど大きく掘った時、丸い石のようなものが出てきた。頭蓋骨だった。堀井は女みたいな声を発して逃げた。
 くすの木は天然記念物の指定の話もあった。しかし、樹齢千年の木は、枯枝を頭上から落としけが人が出た。
 岸本市長の下で働く雅也は、くすの木を見上げた。20数年前に縄を掛けた枝が折れ、死ぬことをやめた。枝の折れた場所は瘤になっていた。
 くすの木は3度目の落枝事件の後、伐採されることになった。社務所のガラスに親子3人の姿を見た。目をこすったがその姿は消えた。

1147  メタボラ

Date: 2007-06-11

おすすめ度 ★★★★

 桐野 夏生 著  朝日新聞社  発行:2007年5月

 森の中を必死で歩いた。真っ黒な闇の中。懐中電灯を持つ若い男に出くわした。助けを求めた。
 若い男は独立塾から抜け出した伊良部昭光という。僕は名前が浮かばない。記憶喪失なのだろうか。昭光がギンジという名前をつけてくれる。
 コンビニに行き水を詰める。女店員にいくところがないならとアパートに連れて行ってもらう。
 ミカは27歳で聡美という同居者がいた。男2人、女2人の奇妙な生活が始まる。
 ギンジは石材店にアルバイト先を見つける。17歳の昭光は自分をジェイクと呼ばせる。
 ギンジは石材店で住み込みは断られるが専務の家で同居を始めることができた。主に墓の掃除だった。
 ジェイクはアルバイトを見つけては長続きせず、とうとうホストになった。ギンジとジェイクはなかなか会えなくなった。
 ギンジはまもなく訪ねて来たミカによってウソがばれクビになる。専務に腕をつかまれたことで自分が自殺志願者で集団自殺をしようとしたところを逃げたことを思い出す。
 ギンジは空港でいくあてのない顔をしていたら声を掛けられた。ゲストハウスに行く。オーナーの釜田に自分が記憶喪失だと告げると親切にしてくれた。
 ギンジは、自分がなんという名前かまでは思い出せない。しかし、訪ねて来た女性から本名を聞く。そして思い出す。
 ギンジは香月雄太だった。父の暴力が元で母が家を出、その後学費も払わなくなった父が首をつって死んだ。母は父の位牌だけを持ち、アルバムは雄太に押し付けて男のもとへ戻っていった。
 その後、雄太はアパートを借りる。アルバムには自分にそっくりな男が子を抱いて写っていた。
 だんだん父親に対する死んでくれて助かったという気持ちが逆になっていった。そして生きていてもしょうがないと自殺のサイトにアクセスしたことを思い出す。
 今、ギンジとしてゲストハウスにいる。オーナーが選挙に出ると張り切っていた。そこへジェイクがつかまっていると連絡が入る。借金を返せなくなっているという。ギンジは選挙資金を持ち出し、ジェイクの救出に向かう。
1146  背負い富士

Date: 2007-06-07

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  文芸春秋  発行:2006年4月

 元旦に生まれた子は騒動を起こすといわれながら長五郎が生まれた。同じ日に音吉も生まれた。
 二人は仲良しだった。長五郎は利発な子だった。4歳のときに子のいない伯父の甲田屋の養子となった。甲田屋は米の買い付けやであった。
 16歳の時、長五郎と音吉の二人は、452両をもって江戸へ向かった。
 江戸では二人は出会茶屋に宿を取り、江戸の内情を見て歩いた。1週間もしないうちに二人の出発を応援してくれていた源次郎が江戸まで出向き帰るよう頼まれる。長五郎と音吉は再び清水に戻る。2週間で161両の大金を使っていた。
 甲田屋は二人が出奔したことが清水中に知れ渡っているため、もう一度その残りの金を渡し、元の金額になるまで帰ってくるなと言い渡す。
 長五郎たちは浜松を逗留場所に定め寺の納屋で米の相場を張った。辰丙が詳細に天候を調べその年の不作を予言した。読みどおり590両を越える儲けを得た。
 江戸が地震で打撃を受けた。長五郎と音吉たちは米を積み江戸を目指す。
1145  破裂

Date: 2007-06-05

おすすめ度 ★★★★★

 久坂部 羊 著  幻冬舎  発行:2004年11月

 松野にノンフィクション大賞の知らせは届かなかった。医療ミスについて書いたものであった。しかし、最終の選考まで残ったという。次を狙う意欲をもった。
 麻酔科の医師江崎はその松野に情報を提供する。
 峰丘茂は阪都大学で心臓外科手術を受けた。術後5日で亡くなった。江崎は手術の際、記録係りを務めた者から針が心臓の下から出てきたのを見たという証言を得る。
 江崎はカルテやレントゲン写真を調べる。しかし針の影は見えなかった。
 医療裁判を起こした娘の枝利子は真実が知りたいという。
 執刀した医師はエリート医師だった。江崎は患者の娘の枝利子の力となる。
 そんな折、松野が何者かに殺される。
 裁判が進むにつれ、レントゲン写真から特殊なソフトを使うと針のレントゲンが浮かび出た。針が内臓を突き破り出血が原因で死に至らしめたと考えられたが、実際の傷口が若干ずれていた。
 結局、裁判は僅か50万円の慰謝料を支払う判決だった。
 後日、針と傷との間、3センチは意図的にずらされて報告されたものだと分かる。
 厚生労働省の佐久間は、超高齢化で介護と治療は本人の苦痛を増すだけで、老人医療の現場ではポックリ死や安楽死が求められているという。
 その佐久間の父親も安楽死してあげたという。さらに心臓を破裂させる苦しみのない理想の突然死という記事を書かせ週刊誌に載せる。
 ところが、佐久間に収賄の疑いが起こり、突然心筋梗塞で倒れた。意識はあるが、手も足も口もきけないとじこめ症候群になった。肺炎などを併発しない限り長期に生存するという。寝たきりになったら生きている意味がないと言った佐久間が皮肉なことである。
1144  ラ・ロンド

Date: 2007-06-02

おすすめ度 ★★★★

 服部 まゆみ 著  文芸春秋  発行:2007年5月

 父は銀行に勤めている。父の持つハンカチは白いリネンのイニシャル入りだった。
 中学生の時、女の子のうなじが気になりだした。特に河合のうなじはなまめかしかった。
 僕が大学に入り、再び河合に出会ったとき、河合は父と同じビルの美容室で働いていた。
 雨の降り始めた日、河合の部屋に行った。洗濯物を取り込む河合を無理やり押し倒して犯した。その部屋にあったハンカチは父のものと同じものだった。それを問い詰めると河合は翌日、自宅マンションから飛び降りて自殺した。河合が飼っていた猫を父が連れてきた。父は平静を装っている。僕は河合と父との関係を知っていたら会わなかっただろう。
1143  離婚美人

Date: 2007-05-31

おすすめ度 ★★★★★

 藤本 ひとみ 著  文芸春秋  発行:2007年4月

 27年間の結婚生活で夫婦の生活を振り返った美緒は、テレビで熟年離婚を見ながら思い切って離婚しようかと考えた。
 結婚をした当初から夫は給料を同居の自分の母に渡し、勤めに出た美緒も自然とそうせざるを得なかった。「私が預かって貯金してあげるから」と言われた。
 度を越す夫の母親への依存度は仲人に相談しても自分の母に相談しても自分のほうが分が悪い。
 そして義母が亡くなると分かったことは、夫は給与の半分を小遣いとしてもらい、それは自分の小遣いとは比較にならないぐらい多かった。夫の給与は義母の貯金に回されていた。結果的に自分は、夫と義母を養っていたという事実である。愕然とした。
 実家の父が認知症になり同居するようになった。夫は管理職になり相変わらず、子どもにも妻にも関心を示さず、家庭とはいえない状態であった。娘達も離婚を勧める。
 年金を半分もらうことと、娘の大学の費用を出すことを交渉する。離婚に同意した夫は、妻の見つけたマンションに越していった。
 妻は以前に勤めていた役所にアルバイトとしていくようになった。
 離婚したり死別した人たちのクラブ「パラディ倶楽部」にも誘われた。
 モネの絵画展に行った。そこに倶楽部で知り合った人がいて話しかけられる。
 元夫はすでに女性と暮らし始めているようである。
1142  焼刃のにおい

Date: 2007-05-26

おすすめ度 ★★★★

 津本 陽 著  光文社  発行:2007年3月

 紀州和歌浦外浜の浜子(人足)の長右衛門は12歳。父が早くになくなったので母と暮らしている。皆からチャモと呼ばれていた。
 法福寺の道龍に軍隊に入れと月に決まった小遣いと武芸を教えてくれるという。
 長右衛門は侍になれるかもしれないという夢を持って法福寺隊士となった。
 道龍は民兵の育成を思いつき、根性の腐った藩士に見せてやりたかった。道龍は激しい稽古を繰返した。長右衛門は夢中でついて行った。
 道龍は岡山学習館文武場に長右衛門を連れて行く。打って打って打ちまくれという道龍の言葉に相手に二本をとった。長右衛門が勝った。
そして2年、和歌のチャモは藩士に知れるようになる。
 攘夷派が京都から大和五条あたりに立てこもっているとの報で道龍は法福寺隊を結成しそれに立ち向かう。長右衛門が15歳の時である。
 長右衛門は機敏な身のこなしで腕を上げていった。人を切るのは豆腐をきるのと同じ手ごたえのないもろいことも知った。
 戦が終わると再び紀州に戻った。20歳になった長右衛門は、一つ年上の小春が長右衛門に思いを寄せる。
 慶応二年には法福寺隊は八百人を超えていた。しばらく会わないと小春も心配で気をもんだ。
 法福寺隊は京都にいた。長右衛門は坂本竜馬のいる近江屋の二階に押し入り竜馬の額に刀を打ち込む。
 明治四年、廃藩置県で紀州藩の隊士は解散した。長右衛門は小春と鮮魚を商う問屋を興した。


1141  ブレイクスルー・トライア

Date: 2007-05-23

おすすめ度 ★★★★

 伊園 旬 著  宝島社  発行:2007年1月

 セキュア・ミレニアム株式会社が公募した「ブレイクスルー・トライアル」はみごとセキュリテキを突破し所定のマーカーを得たものに高額の賞金を出すというものだった。その屋敷とは二階堂一真の家だった。
 大学で一緒だった丹羽がそれに参加しようと門脇を誘った。
 丹羽は遠屋敷一真の妾腹の子だという。遠屋敷は門脇の会社の会長でもあった。
 丹羽には彼女がいたが出産時に女の子を出産した後亡くなった。女の子は遠屋敷の実子の子のない夫婦に引き取られた。丹羽は経済力を身につけ我が子を取り戻そうと考えていた。
 一方、門脇は両親を交通事故で一度に亡くした後、借金のあった会社を一緒にやっていた二階堂が肩代わりしてくれ、子どもにまで負債は及ばなかった。高校生になりその恩に報いたいと二階堂に連絡を取ると、門脇という人間になることだった。門脇という名で大学にも進んだ。そこで知り合ったのが丹羽だった。その後、二階堂の競合相手の会社に就職することを要求された。そしてその内容を報告することだった。
 門脇は二階堂に早く借金を返したいと思っていた。
 門脇はこのゲームに参加するに当たって丹羽に事実を話す。
 丹羽はゲームの折に誰も入れないという5階の部屋に入る。そこは自分が育った家が移築されたかと思うぐらいそのままだった。母は仕事を変え男を変えたとき、処分したはずのものがそのまま残っていた。そして思い出した。母と自分とあのときにもうひとりの存在に。
 結局、門脇がマーカーを手にする。丹羽は大きくなった我が子と会えることになった。
1140  Gボーイズ冬作戦

Date: 2007-05-20

おすすめ度 ★★★★★

 石田 衣良 著  文芸春秋  発行:2007年4月

 要町のテレホンマンでは、振り込め詐欺から抜けたい男を救ってほしいと電話が入る。マコトは西口公園でその男と待ち合わせる。
 男はヨウジといった。それによると要町のワンルームマンションで電話詐欺を行っているという。泣き役の子、警官の子、保険会社、弁護士といろいろと役者がいるという。月のノルマは1千万円。プリペイド携帯で電話をかける。社長が26歳、昔はワルだった。上納金として売り上げの30%を巻き上げる。辞めるというとリンチかどこかに埋められるという話である。マコトはとりあえずその会社に行く。ワルなら自分を知っていると思った。しかし、知らなかった。脅すように聞いた上納先は氷高組だという。おじきに話すとつながりはないという。社長は後ろ盾を持たなかった。マコトはヨウジにそれを話すとヨウジはひとりで社長と掛け合い、入院する羽目になったが抜けられた。
 マコトは社長の浅川の欲深さを部下に暴露する。あとは部下達が制裁をするだろう。
 ダサい男キヨヒコが絵を買わされた。3枚150万円。池袋の東口だそうだ。キヨヒコとマコトはそれを売った店に出向く。この絵の値段を知りたいと3時間も粘る。

 
1139  くたばれ成果主義

Date: 2007-05-17

おすすめ度 ★★★★★

 江波戸 哲 著  飛鳥新社  発行:2007年4月

 金属バットをもって店内に立てこもった赤城は「くたばれ成果主義!」とわめきながらヤジマ電販にいた。
 赤城は大手コスモ電機の社員である。すぐに警察に捕まるが、コスモは赤城を病気扱いにし、マスコミ対策を行った結果、赤城の思惑に反して事件は小さなものだった。
 コスモ電機は成果主義を取り入れ世間の注目をあびようとしていた。フレキシブル成果主義というネーミングを商標登録までしていた。
 元は6年前から伊原が口にしていたものを人事部長の黒崎が真似た。社長もそれを推奨していた。
 赤城はコスモ電機をよくする会と称した掲示板をネットに進出させていた。赤城は第二資料室という急ごしらえの係に追いやられた。
 人事課長の下田は、渡されたリストに自分の名があるのに気がつく。リストにはパットしない連中ばかりが載っていた。やがてそのリストの中にあったものがヤジマ電販に出向させられる。
 皆が落胆している中、三沢は率先して販売の研修をやろうと持ちかける。研修の日、なんとヤジマ電販の社長が顔を出し、「円熟した皆さんにお手伝いを頂くことになった。よろしくお願い致します」と45度の頭を下げた。皆は打って変わってやる気を見せた。
 下田も自分の気持ちの小ささを思い知った。
 コスモ電機の成果主義の発表は、開催者の意図をはずれ思わぬ反論を買い恥をさらすものだった。新聞も疑惑を付いたものだった。会社の人事は一掃されることになった。三沢も社に戻るがヤジマ電販からも誘いの手が差し伸べられた。
 
1138  北京炎上

Date: 2007-05-14

おすすめ度 ★★★★

 水木 楊 著  文芸春秋  発行:2007年4月

 1989年の天安門事件から25年が経った。この20年間に中国から海外に出た学生のうち半数は戻ってこない。現地で気化したものが多い。
 地方では反政府の武装化が日常化していた。
都市は「民工」とよばれる出稼ぎ農民であふれていた。民工が家を買い定住すれば戸籍を与えるという緩和策も出されたが、中国では都市戸籍と農民戸籍が峻別されていた。
 日本人の田波は東西新聞記者である。中国の現状を日本に伝えていた。
 区役所どおりで暴動があった際知り合った赤尾に自宅に招かれる。定年後の余生を中国で暮らしているという。こちらは月6万でくらせるという。
 友安中病院の劉は、父親が友人と興したこの病院に身をおきながら「張偉布」として革命に携わっていた。
 田波の妻の鳴風は中国人である。何かを手伝っているらしく家にはあまりいなかった。それを田波は咎める事もなかった。
 田波は事件に巻き込まれる。赤尾から依頼された件を警察に暴露したと誤解され捕らわれるが劉が命だけは助ける。
 田波は鳴風がかつて劉の婚約者でもあったことを知る。
 川に落ちた田波を中国警察に助けられる。劉は北京の空からビラをまく。そのヘリは追撃され炎となって撃沈する。
 中国の一党独裁の共産党が倒れる。天安門に人々は押し寄せていた。
 2015年 中国連邦共和国が発足した。「中華人民共和国」は66年の命を終えた。
 (架空小説である)
1137  赤ひげの末裔たち

Date: 2007-05-12

おすすめ度 ★★★★★

 伊野上 裕伸 著  文芸春秋  発行:2007年4月

 北とぴあからみえる岡倉病院の院長は出来の悪い息子に頭を悩ませていた。後とりは一人息子だけである。医学部へいけるほどの能力もない。
 そこで耳にしたのが協和大学である。裏口の噂の堪えない大学であった。関係者から協和大学のジッツを受け入れる代わりに引き受けましょうという答えが戻ってきた。ジッツに反対した医師を常用薬の操作で死亡させ思い通りに息子は協和大学へ入学する。
 都北病院が売りに出されていたのを島本は買った。脊髄のことを知り尽くしていた島本は、運ばれてくる交通事故患者を引きとめ、暴利を得ていた。競艇仲間の交通事故者を入院させ、花見に公園に出かけるのも目を瞑っていた。保険会社から調査に来ても調査員を説得できるすべを得ていた。しかし、四人は警察に捕まり保険金詐欺を自供した。その妻達が生活費を無心に島本の元へやってきた。島本への逮捕はなかったが行く先の暗さを思い知った。
 若木はモダンでおしゃれな精神病院を開業した。鉄格子の病院ではない。しばしばテレビにも出演した。
 摂食障害で入院した25歳の女性。19歳のときからその病気は始まっていた。保険調査員が「本人のなまけ病ではないか」と問うてきた。患者はりっぱな病気だと説明する。やがて回復に向かった女性は結婚式に招かれる。緊張で犬食いが始まった。院長の分まで食べた。そしてトイレに吐きに入った。院長も24時間病院に泊り込んでの日々に妻が「あなたも変だ。患者さんと同じだわ」となじる。
 川堤を歩いていた院長と摂食障害の女性。女性は突然ダンプに挽かれて死ぬ。院長は理事長となり、新しい院長は別の人に代わった。
 
1136  夢を与える

Date: 2007-05-02

おすすめ度 ★★★★

 綿矢 りさ 著  河出書房新社  発行:2007年2月

 幹子は30歳を過ぎていた。付き合っていたトーマは27歳。トーマはフランス人の母を持つハーフである。トーマは結婚は出来ないと言っていたが、幹子に押し切られ、妊娠したことにより結婚した。
 夕子が生まれた。二人はしあわせに暮らしているかに見えた。夕子は幼稚園に通い始める頃は雑誌のモデルとして起用され始めた。夕子の成長と共に幹子の夕子への愛情は益々増していった。
 夕子はチーズのCMを始めた。夕子の成長に合わせそのCMは続いた。
 夕子が中学生の頃、父と母の仲がおかしくなったが離婚はしなかった。高校に入り、自分の私生活がネットに登場するようになる。クラスの誰かがリークしているのだ。
 高校になり受験勉強に精を出すが、結局どこも受からなかった。受験勉強に専念すると仕事を一時休んだ。しかし、20歳の正晃と知り合うとホテルにも行くようになる。
 スキャンダルをもみ消す事務所。ところがつぎつぎにおこることから事務所もさじを投げた。
 夕子は決していい加減ではなかった。正晃にだまされていると母に言われて気がついた。正晃は自分を愛してなどいなかった。
 夕子は入院した。雑誌記者は出回るスキャンダルを問うが母が制する。雑誌記者はやせ細った夕子をみて、もはや人は夕子をテレビでみたいとは思わなくなっていると感じた。やせて笑わなくなった女の子に。
1135  明日のようにさわやかに

Date: 2007-05-01

おすすめ度 ★★★

 恩田 陸 著  新潮社  発行:2007年3月

 14篇の短編集 
 「朝日のようにさわやかに」
 タウンハウスといわれる何軒もの家がぴったりとくっついて立てられている建物に住んでいた。1階が商店になっていた。中2階の狭い部屋で子どもの布団を敷くのがやっと言う部屋である。
そこで隙間から男女の声が聞こえてきた。内容は分からないが秘密めいたひそひそ話しである。
 子供心にどきどきした。声は毎日聞こえるわけではなかった。
 何日かあと、美しい男女に出会った。連れ立って歩くカップルは仲睦ましかった。女は飲食店経営で男は翻訳をしているという。私はふたりを想像しながらあの声を聞いた。
 しかし、ふた月後、それが間違いであったことが分かった。外であの女性がヒステリックに叫んでいた。聞けば男は不機嫌なタバコ屋のおばさんと駆け落ちをしたという。
 若い女はタバコ屋の老夫婦にも罵声を浴びせて非難した。先入観にだまされてはいけないと思った。
 
1134  わるいやつら 上・下

Date: 2007-04-12

おすすめ度 ★★★★★

 松本 清張 著  新潮社  発行:1961年3月

 32歳の戸谷信一は父から受け継いだ病院が思わしくない。病院は火の車であったが、信一の趣味は九谷焼をあつめるなどの贅沢な趣味があった。
 婦長の寺島トヨは父の妾であったが、父の存命中から信一と関係があった。ちかごろ信一はトヨを不気味に思うことがあった。
 金のありそうな藤島チセには、石見銀山の近くで泊まり、信一が投資を持ちかけて頻繁に金を借りるようになった。
 横武たつ子の夫は病気で伏せており、信一に死に急がせようと薬を調合してもらっていた。しかし、信一が調合したのはただの風邪薬だったが、薬を毒薬とおもっているたつ子は信一との関係に逆らうことができない。
 しかし、信一の結婚したい本命は27歳の有名な洋装店のマダム隆子である。信一が誘っても何かと断り続けていた。隆子のことを下見沢が持ちかけてきたことから、隆子との仲を取り持ってもらう。
 なんとか結婚というところに届きそうでもあった。
 そこへたつ子の夫が死んだ。親戚中がたつ子と信一の関係を不審に思っていた。たつ子は病院にきて騒ぐ。寺島トヨがたつ子を眠らせる。そしてそのまま死亡した。
 お金を工面したい信一はチセを訪ねるが、最近はなぜか金を渋る。
 隆子からの返事に下見沢が、見せ金でもいいから作るしかない。差しあたって土地を担保に金を借りるしかないといわれる。銀行に振り込まれた通帳を見ながら、隆子との結婚を夢見る信一。
 ところが、いざというとき銀行の預金は下ろされていた。おまけに信一も横山たつ子の夫の死に不審な点があると警察に連行される。
 護送の車の窓からみえたもの、それは下見沢と隆子の名が書かれた建設予定地だった。
1133 希以子

Date: 2007-04-08

おすすめ度 ★★★★★

 諸田 玲子 著  小学館  発行:2006年8月

 希以子は根岸の裏通りの家と家の間が一尺あるかないかの隙間に廂合が好きだった。
 大正3年5歳の希以子と義姉の美沙緒12歳だった。希以子の母は男と駆け落ちをしていなくなった。その後、父親が育ててくれた。しかし、そばには美沙緒の母のマツが希以子をかわいがってくれた。
 美沙緒は美人で自ら芸者になりたいと言い出した。親が止めるのも聞かず芸者になった。そして18歳の時、40歳の仙台の金持の後妻に嫁いだ。
 美沙緒の嫁いだ先の先妻の息子市太郎14歳だった。希以子は、市太郎となぜか連帯感が芽生え親しくなった。
 希以子は卒業後、電話交換手になったが、すぐに美沙緒に習って芸者にもなった。
 市太郎はやがて満州に渡る。希以子はその間に子が出来たためにある男と結婚をするが、すぐ別れる。
 また、別の男に手込めにされたりで、2人目の子も身ごもった。お金を稼がなくてはならない状態になり満州に渡る。
 市太郎が待っていてくれた。世帯を持ってすぐに日本に一時帰国した希以子が、もどってみると市太郎は収監されていた。
 希以子は牧師の世話になりながら、必死で働く。自分の知らないうちに市太郎は日本に帰国していた。美沙緒に二人の間を裂かれてしまった。
 やがて、美沙緒の夫も金回りが悪くなり、帰国した希以子のところに転がり込む。50過ぎた美沙緒は今更ながら隙間風の入る家に住むことを嘆いた。


1132 地下鉄に乗って

Date: 2007-04-03

おすすめ度 ★★★★

 浅田 次郎 著  講談社  発行:1999年12月

 高校の同窓会で25年ぶりにクラスメートにあったが、自分を覚えているものはほとんどいない。帰りに地下鉄の赤坂見付の出口から外へ出るとなんと、そこは昔の新中野の駅だった。なつかしい見覚えのある町だった。今年は東京オリンピックがあるという。テレビが20万もする。
 おそるおそるうちに電話すると小学生の弟が電話にでした。母も出た。映画のキューポラのある町が250円の入場料だ。
 兄が地下鉄で轢死してからは母は地下鉄に乗らなくなった。兄はあの時何があったのか。父は成り上がりで急に羽振りがよくなり外に女を作りながら家に戻ると母を罵倒した。
 あの後、僕と母は家を出た。弟の圭三に父を任せてしまった。今更、家に帰れない。
 あれから40数年たっている。でもタイムトンネルを越えた。死んだ兄も当時のまま存在した。
 デザイナーのみち子と社長と真次は、下着メーカーとなった会社を興していた。
 みち子と真次は会社のほかにプライベートでも親密な仲になった。自分がタイムスリップしたと話しても聞いてくれた。驚いたことにみち子もタイムスリップした。
 今度は配給がストップした戦後だった。薄汚れた人々に混じって現在の真次がいることで不審がられる。アムールという男はせっせと進駐軍から仕入れた金で商売をしていた。アムールのもっと若い頃にもタイムスリップした。
 不思議なことばかりで。母は自分が家を出た原因が兄が父と血の繋がらない子だと兄に話したことで、ショックを受けた兄は死んだ。
 父は兄が血の繋がらない子であっても勉強も出来、兄と父の関係を疑うような態度は見られなかった。
 やがて、みち子のことも知ることに。みち子は自分にとって妻とは違う存在だったが、この世に生まれてくることのなかった子でもあった。
 地下鉄が開通した年の頃にもタイムスリップした。
1131 警視庁から来た男

Date: 2007-04-01

おすすめ度 ★★★★★

 佐々木 譲 著  角川春樹事務所  発行:2006年12月

 「この子を助けて」と交番に助けを求めた女性2人。一人はタイ人の16歳。しかし、警官はタイ人の身元引受人に渡してしまう。身元引受人は暴力団の関係者だった。
 非常階段から落ちて死んだ男がいた。酔って落ちたとされた。
 警視庁採用の藤川警視正は北海道警察本部にやってきた。特別監察にきたのだ。
 津久井もよばれた。津久井は百条委員会で道警の不正について証言した。藤川は津久井に協力を求めた。
 百二十人を動員して風俗店の摘発をした。結果的には2件だったが以来、浄化できていると杉野は答えた。
 日本人の人身売買が外国で大きく報道された。国連でも取り上げられた。北海道警察が保護を求めたが人身売買組織に引き渡したという。この背景を藤川は調査に来た。
 一斉摘発の際、キャッチバーや違法カジノは営業をしていなかった。
 薄野交番あたりの飲食店に入る。警察の取り締まりに不公平を訴える者もいた。ある店では「このことはスーさんも知っているのか」と口走った。スーさんと呼ばれる人物は誰か。
 非常階段から落ちる瞬間を携帯の動画で撮っていた若い女性が殺される。動画は別の警察官にも添付メールで送信されていた。
 札幌ジャイアンツのメンバーと無双会とのつながりを確信する。そしてスーさんとよばれる山岸数馬の存在を知る。
1130 月光

Date: 2007-03-31

おすすめ度 ★★★★★

 誉田 哲也 著  徳間書店  発行:2006年11月

 結花は姉が死んだ原因がただの事故死ではないのではないかと思う。姉は男子生徒とバイクに乗って隣の市で事故死した。男子生徒がひき殺したという説もある。
 男子生徒は鑑別所をでた。バイク店で働き始めた。
 音楽教師羽田は、月光をひくピアノ音にひかれて音楽室に来た。女生徒ははにかみながらうまくないことを弁解した。それが、結花の姉の涼子だった。羽田は妻が成功し外国暮らしが多く、夫婦仲は冷えていた。涼子に接するうちに親密な仲になった。音楽準備室で密会を繰返すうち、それを男子生徒が携帯写真に撮っていた。
 男子生徒2人から脅された涼子は、男子生徒たちの玩具と化した。羽田とは避けるようになった。そして、あの事故が起こった。
 羽田も涼子の妹が事件のことを知りたいということに協力をする。
 結花は鑑別所から出た菅井に会う。菅井は自分が涼子を撥ねたことを詳しく聞かれることもなかった。涼子との関係も話さなかった。
 菅井は結花に事実を伝える。それでも許せないなら自分を殺してもいいと。
 結花は思わずドライバーを菅井に向けるが、割り込んできた羽田の腹を刺してしまう。羽田は自分が転んで刺したことにするよう話す。命の別状はなかった。
 菅井はその直後、殺される。めったざしされたようだ。結花は驚く。菅井といっしょに涼子をおどした男を怪しむ。その男はあの携帯を捜していた。携帯には羽田のほかに、自分達と涼子のみだらな行為が写されていた。今ではCMやモデルとして活躍している自分にあれが出てきては困るのだ。
1129 でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相

Date: 2007-03-28

おすすめ度 ★★★★★

 福田 ますみ 著  新潮社  発行:2007年1月

 生徒の家の家庭訪問から事件は始まった。13日の予定のはずが12日の今日だと言う。8時ごろになるので明日ではというのを構わないというので訪問する。しかし、対応した母親は子どものことよりも終始、自分はアメリカにいたということひい祖父ちゃんがアメリカ人だとか、母親自身も帰国子女だといった。物静かな印象は受けた。
ところが、後日このことが「血が混じっている」と延々とアメリカ批判をしたとされた。
 おまけにその日を境に生徒に対しいじめや体罰を行うようになった生徒の両親が校長に訴えた。
 校長は教師の言うことを聞かず「体罰はあった」と教育委員会に報告した。そして朝日新聞には「小4の母「曾祖父は米国人」教諭、直後からいじめ」と報じられた。マスコミ取り上げさらに週刊誌には「死に方を教えてやろうか」と殺人教師にまでされてしまった。まったく身に覚えのないことだった。
 教諭は6ヶ月の定職になった。しかし、辞めれば事件を認めたことになると担任をはずされ、教育センターでの研修を受ける日々が続くが辞めなかった。
 裁判になった。平然とうそをつく母親に呆れるばかりだった。やっと見つかった弁護士も状況が不利だが頑張って見ようといわれる。
 裁判をするうちに、体罰をするところを見たという生徒がいない。母親はアメリカで飛び級したという母親は小学校から高校まで福岡市内の学校を卒業している。戸籍にも外国籍の人物が存在しないこと。アメリカの学校を追及するとアメリカでは学校へ行っていなかったという。1年に何度も渡米していたとされる時期は、祖母は炭鉱住宅にすみ、雑貨屋を営んでいた。近所の人もアメリカにいったという話は聞いた事がないという。
 人種差別をしたという根拠の混血は疑わしい。おまけに昭和45年ごろは初任給3万円に対し渡米運賃は20万円。一家で出かけるとなると120万円を度々出していたとは考えにくい。
 そして生徒はPTSDであるといい、その主治医も生徒の状況よりも母親の言葉を鵜呑みに診断している。
 しかし、新聞に報道された内容と著者が調べた内容にギャップがある。生徒の通う学校の母親達は先生がかわいそうだという。事実と違うことも感じていた。著者はそれを新潮45でこの事件は調べるほどに冤罪だと報じた。
 結局、裁判では体罰のみがやったとされたがいじめ行為は相当に軽微であり、「血が穢れている」という発言はなかった。それにより生徒がPTSDを発症したという主張は退けられた。
1128 使命と魂のリミット

Date: 2007-03-25

おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著  新潮社  発行:2006年12月

 夕紀は父を執刀し死に至らしめた西園医師のもとで研修医として働いている。最近、西園と母が親しそうだ。
 夕紀の父は刑事だった。中学生を追いかけ交通事故で中学生がなくなった。その中学生の父親が西園だった。父は血管に瘤ができ破裂の恐れがあった。その手術の執刀をしたのが西園だった。
 夕紀はそれを知り、父の死はもしかすると医療ミスか故意かと疑った。自分の息子を殺した刑事の手術をする。父の死は復讐だったのかと夕紀は思った。
 夕紀の病院にアリマの島原社長が入院した。その日に、見慣れない青年を見た。
 病院が脅された。医療ミスを認めよという内容だった。しかし犯人の要求には応じなかった。
 島原社長の手術の日、病院の電気が停止する。非常灯も止まった。警察は病院へのいやがらせと見ていたが、七尾刑事は別の見方をした。不審な青年はアリマの社長を狙ったのではないかと。
 宣伝をした車が立ち往生し救急車の行く先を塞ぐ事件があった。譲治の恋人はその救急車に乗っていたが、病院にもう少し早く着けば助かったかもしれないといわれた。
 譲治は恋人の仇を取るため、自動車会社のアリマの社長を狙った。しかし、一人の刑事の地道な捜査から譲治が浮上する。犯人は犯行を思いとどまる。停電は解消した。
 停電になった日、西園は執刀し夕紀に助手を頼む。一時は危険を伴ったが島原の手術は終わる。
 夕紀は懸命な姿を見て西園への疑惑を解く。直後西園が倒れる。二人目の父までも失わないために夕紀は「死なせない」と立ち向かう。 
1127 闇の釣人 本所深川七不思議異聞

Date: 2007-03-23

おすすめ度 ★★★★★

 長辻 象平 著  講談社  発行:2007年1月

 生類憐れみの令の綱吉の時代。とうとう釣りも禁じられてしまった。闇にまぎれて釣るしかない。
 長四郎は、12歳の時、亡くなった父から譲り受けた竿を70過ぎの名竿師に頼み3つに分けて繋げるようにしてくれた。布袋竹の立派なものである。そして16年。人の住まぬ屋敷のそばの川で釣っていた。
 お与満は密漁した罪でつかまった父が獄門首になった後、譲り受けた竿は、丸竹の竿で振るとするすると長く伸びる振り出し竿だった。父を失い母は江戸払いとなったため、それから20年、お与満はひとりで生きてきた。
 ふたりは荒家に住み、夜闇の中で釣りをした。金持ちが魚を買ってくれた。お与満は屋台蕎麦屋の銀七という仲間もいた。蕎麦屋の屋台に魚を隠して運ぶのである。
 出雲という太った役人がいた。女好きですぐ手を出す。その出雲が闇の釣人を追っていた。
 やられそうな折に、別のものが助けてくれるなどし闇の釣人は難を逃れていた。
 ところが、銀七も討たれてしまった。長四郎とお与満は出雲を討つ事にした。長四郎は出雲と対峙した折、もはやこれまでかと思われた窮地でお与満の釣り竿に助けられた。
 二度目の折、出雲は鉄砲を長四郎に向けた。しかし、このときも誰かが出雲の腕を切り離した。出雲の身体から腸が飛び出していた。周りには腹をすかした野犬が群がっていた。野犬は出雲に飛び掛った。
 長四郎とお与満は助かった。綱吉の死後、家宣は生類憐れみの令を即日廃止した。
1126 壊れる日本人 ケータイ・ネット依存症への告別

Date: 2007-03-22

おすすめ度 ★★★

 柳田 邦男 著  双葉社  発行:2005年3月

 筆者はワープロもパソコンも使わない手書き派である。
 ケータイ依存症は若者だけではなくビジネスの世界にも蔓延している。
 これらを使い始めると日に何度か自分宛のメールが入っていないか確かめないと不安になってくる。
 パソコンの虜になると目と両手が奪われる。自分が依存症の罠にとらわれていることに気づかない。
 ゲーム、ケータイ、ネットと人間形成に与える影響に危惧する。
1125 Kの日々

Date: 2007-03-20

おすすめ度 ★★★★★

 大沢 在昌 著  双葉社  発行:2006年11月

 木は広尾のあたりで雑貨屋を営むケイという女のアンティークショップを見張っていた。
 そこへ丸山組の息子が店先に車を止めた。ケイをひとめみて木はひかれ始めている自分に気がつく。しかし、この女は3年前に丸山組の組長がさらわれ8千万円の身代金が支払われた。組長は戻ったものの8千万と犯人が消えた。
 1ヵ月後、犯人と思われる人物が東京湾から死体で見つかる。犯人はケイが結婚しようと思っていた李という男だった。李は黒孩子で戸籍のない中国人だった。
 この計画の仲間だったヤクザの2人は別の容疑で刑務所に入り、3年の刑をおえて出所したところで木に捜査を依頼してきた。ケイがお宝を隠し持っているのではないかと疑っていた。
 木はケイと親しく食事をする仲になり、金を持っていないことを確信する。
 この事件を捜査するうちに、そもそも計画を指令するものがメール男だという。メール男の正体も2人は知らない。
 やがて、木は事件の黒幕を掴む。李は生きていた。
1124 RUN!RUN!RUN!(ラン!ラン!ラン!)

Date: 2007-03-17

おすすめ度 ★★★★

 桂 望実 著  文芸春秋  発行:2006年11月

 優は全国高校駅伝大会で東京都代表として3回出場し、3回とも区間最高記録を出した。大学に入学し陸上部に入った。
 優はDNA検査を受けた結果、普通の人より心臓のサイズは大きく、脈拍は普通の人の半分程度で長距離選手として最高の遺伝子を持っていることが分かった。
 父も長距離選手で6年前から父と夜の練習を始めた。6時に帰宅する父は2時間程度の練習を共にやった。
 2つ上の兄は医学生である。その兄が駅のホームから転落して死んだ。その後、兄が体外受精児だということを知る。
 しかし、優は父のリベンジのために遺伝子を操作して体外受精児として生まれてきたのは自分ではないかと思うようになる。
 仲間意識が薄い優は、大学では自分だけが浮いた存在だった。
 優は一人暮らしを始める。風邪を引いて寝込んだとき、チームの岩本が看病に来てくれた。その岩本が駅伝の補欠になった。優は駅伝を棄権した。ドーピング検査でパスするかわからない。遺伝子をいじくっている不安がある。遺伝子操作には予想できない副作用がある。真性多血症になる危険が高い。父は息子の命よりも価値のあるものを求めていたのだろうか。
 優は岩本の練習に付き合う。DNA鑑定の結果自分の両親との確率は50%と出た。遺伝子がいじられていることが明らかになった。
 僕はもう選手として走らないと決めた。
1123 天唄歌い

Date: 2007-03-14

おすすめ度 ★★★★★

 坂東 眞砂子 著  新潮社  発行:2006年7月

 薩摩藩の杢右衛門と亥次郎は琉球国のずっと南の島に流れ着いた。杢右衛門は島の中でも侍としての威厳を保とうとするが、島は侍たちをイヌと称し島民の食べ残しを与え和合する気配はなかった。杢右衛門は島民の前で切腹するが、呆れさげすまれたようだった。介錯に使う刀もなく苦しんだ挙句死んだ。
 亥次郎は木の実を取ったり先に流れ着いた南蛮人や倭人の暮らしぶりを見ていた。
 島には天唄歌いという占い師のような女性がいた。亥次郎たちが遭難した折も「イヌたちがくる」と予言していた。
 倭人の仲間が船を盗み島を離れる。その際にいさかいがあり天唄歌いが殺された。天唄歌いは蒸し焼きにされ島民たちによって食された。
 イオは天唄歌いの肉を食した後、自分が天唄を歌い続けた。
 亥次郎は時折、島民の女と交わった。亥次郎はとろけ頭と島民に呼ばれていた。
 倭人が抜け出した後、薩摩藩の船がやってくる。薩摩藩は琉球国も自分の国として治め始めた。この島も薩摩藩のものにしようとしていた。
 亥次郎はこの島はこの島のままにしておいた方がいいと思った。
 薩摩藩と島民の戦いが始まった。亥次郎は自分に情けを掛けてくれたハヤの死体を母親の元へ届ける。
 薩摩藩は食べ物を求めて島民の中に攻め入った。島民は散り散りになった。
 亥次郎は薩摩にもどり、霊島漂流記を書いた。17世紀の後半だった。沖の鳥島の南に多摩島というのがある。この島と霊島と同じではないかと思われる。
1122 最愛

Date: 2007-03-10

おすすめ度 ★★★★★

 真保 裕一 著  新潮社  発行:2007年1月

 姉が事件に巻き込まれた。貸し金融のビルでガソリンに引火した火災で姉が大やけどを負い病院に運ばれた。
 姉とはもう十年以上会っていない。その姉が昨日、籍を入れたばかりだという。主人となった男は姿を消した。
 悟郎は小児科の医師である。養父母に引き取られ、姉は十八歳でその家を出たきりである。
 姉に何があったのか悟郎は姉のアパートを訪ねる。決して豊かではない生活をしていた。預金が引き出されていた。1年余りで750万円が引き出されていた。
 区役所に行き姉の結婚相手の実家を訪ねる。伊吹正典の母は頭を下げ中に入れてくれた。姉はこの家に援助をしていた。伊吹は前妻を殺した罪で9年間服役をしていた。前の妻は結婚前から続いた男を夫の目を盗んで家の中にまで入れていた。かっとした正典は妻を殺してしまった。出所しても職についてもすぐに解雇されていた。家も手放し、正典の父も病に倒れた。貸し金融会社にも借金があった。
 姉の千賀子は正典の母の話を聞き手を差し伸べるようになった。
 姉の足跡を調べるうちに姉に付きまとった刑事がいたことを知る。刑事の小田切は姉に好意を持った。しかし、姉は前科のある男を選んだ。男の会社にまで詰めかけ、前科をばらし執拗に付回した。それでも姉は自分より前科のある正典を選んでしまった。結婚届は姉が提出していた。
 正典と連絡が取れた。悟郎は別の放火殺人の片棒を担がされその仲間から逃げていた。
 悟郎は自首を勧める。そこへ小田切がつけてくる。
 悟郎はまっすぐで向こう見ずな生き方を賞賛する。医師として姉の最期をみとる。

1121 僕の行く道 )

Date: 2007-03-07

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  双葉社  発行:2005年2月

 大志は小学校の3年生。小学校へ入学の時は皆がお母さんと一緒だったのに大志は父が入学式にきた。
 父は母がパリに勉強に行っているのでなかなか日本に帰れないという。会いたいと思った。母からは週に1度、手紙が来る。大志が書くと父があて先を書き出しておいてくれた。
 拾ってきたミュウという猫と大志は留守番だった。夕食は叔母さんが作ってくれた。
 ある日、本の間に挟まれた写真を見つけた。それは国語の教科書にあった二十四の瞳の銅像と一緒だった。コスモスの丘で撮った写真。それは去年の10月だった。母はパリに行っているはずなのにと疑問に思った。
 博士という6年生の俊也兄ちゃんに相談した。小豆島に会いに行こうと思っていることを話した。俊也兄ちゃんは明後日、ボーイスカウトで河口湖へキャンプに行くと言う。それに一緒に参加したことにして大志は小豆島へ行くと親に心配掛けないですむと言うことになった。
 俊也にいちゃんもおこづかいからお金を出してくれた。新幹線の乗り方も聞き、ミュウをつれて東京駅から岡山へ向かった。
 4時間立ったら降りるんだよっていわれて降りたら大阪だった。こだまに乗ったのだ。間違えたようだ。少女に会った。少女は自宅に招いてくれた。由美の母が岡山への行き方を教えてくれた。その家で一泊して岡山へ向かった。
 台風でフェリーがでないという。小屋に駆け込む。夜中に目を覚まし外を見るとおじいさんのようすがおかしい。海に落ちて死んじゃうと必死に止めた。おじいさんは自宅に連れて行って風呂に入れてくれた。生きていてもしょうがないと死のうと思ったらしい。でも思いとどまってくれた。
 おじいさんに送られて小豆島に着いた。コスモスの丘へ行く。コスモスは咲いていなかった。
 丘で知り合った人に連れられて光彩園にきた。そこへ里美叔母さんも来ていた。びっくりした。
 パジャマを着た女の人のそばに連れて行き「あなたのお母さんよ」と教えられた。無表情で一点を見つめたままだった。母は28歳でアルツハイマー病を発症していた。手紙は里美叔母さんが書いてくれていたと言う。大志は母のひざで泣いた。その時母が大志を抱いた。
 また必ず来るからと大志はもうさびしくないと思った。


1120 モノレールねこ

Date: 2007-03-04

おすすめ度 ★★★★

 加納 朋子 著  文芸春秋  発行:2006年11月

 デブで不細工な野良猫が居つくようになった。客用の座布団で昼寝をしたり、取り込んだ洗濯物の上で寝ている。
 母はネコ嫌いだった。ねこを見つけておっ払いながら自分の物だけまた洗濯をしていた。
 その猫の首に赤いくびわがあることに気がついた。飼い猫だろうと僕は「名前は何ですか?」と書いたら何日まあとに「モノレールねこ」という返事が返ってきた。うれしくなって僕は猫の首輪に返事をつけた。「僕は小学校の5年で○○小学校です」とそうしたら返事が来た。別の学校だった。「ぼくはサトル」あいては「タカキ」だった。猫を介しての僕たちの文通が始まった。
 そしてある日、その猫が国道を渡ろうとしてはねられたことを知る。
 十数年後、僕はインストラクターの高木瑤子先輩にしごかれていた。瑤子先輩と出かけた日、塀の上の猫を見て思わず「モノレールねこ」とつぶやいた。
 先輩は目をまん丸にして「大沢サトル?」といった。「ひょっとしてタカキというのは高木さん?」と。僕はタカキさんとは男の子だとばかり思っていたと伝えた。
 僕はあの赤い首輪を探し出して封筒に入れた。「今度デートしてください」と。「バーカ」と返事が返ってきた。
1119 椿課長の7日間

Date: 2007-03-01

おすすめ度 ★★★★

 浅田 次郎 著  朝日新聞社  発行:2005年9月

 デパートの花形、婦人服売り場の初夏のフランドバザールの初日が終った。椿山課長は閉店後の料理屋で、いきなり吐き気を覚え洗面所で気を失った。
 気がつくと受付の老女が「椿山さんこちら、昭光道成居士とよみます」という。椿山は自分が死んだことを知った。しかし、あまりにも急すぎた。おまけに審査官たちは自分を「淫乱の罪」という。同時入社の女性と淫らな関係にあったと言うが、そんなはずはない。椿山には妻がいる。
 しかし、美女の肉体を借りて現世に7日間だけ帰れることになった。しかし、自分のことを相手に気づかせてはいけない。
 椿山は我が家に行く。朝だというのに部下の嶋田が俺のパジャマを着ていた。もちろん椿山は女性の姿になっているので妻は分からない。椿山は裏切られたような気になった。
 椿山は会社に行く。淫乱の罪といわれた知子とも出会う。知子は椿山との結婚を望んでいたが椿山が年下の由紀と結婚してしまった。
 知子はうまの合った椿山が忘れられないでいた。そんなことを生きているうちに知っていたらと悔しがる。
 もう一人、やくざの親分は間違われて殺された。遺した舎弟たちが気になる。舎弟のために定期預金も遣ってきた。金めぐりが悪く、他のヤクザからは笑いものになっても、まっとうに生きていた。
 舎弟には足を洗ってもらいたいと思った。舎弟を訪ねる。自分を慕って途方にくれていた。足を洗うように、また親に会うように伝える。
 椿山も遅れないように現世から戻ってきた。極楽浄土できそうだ。
1118 活断層

Date: 2007-02-28

おすすめ度 ★★★★

 堺屋 太一 著  アメーバブックス  発行:2006年12月

 沖縄の小さい島に石油備蓄基地を作ろうとしたことで誘致に頭を下げた村長も村議会議長も今では耳を貸さなくなっていた。
 どうしてこうなったのだ。基地さえ出来れば、この村に9億の税収が入る。600億の費用と5年の歳月がかかる予定だった。
 この担当になったのは39歳の桐野である。桐野は三共商事の社員だった。
 埋め立てが進むうち、村民から自然と生活を守る会が結成され、基地の建設に反対を叫び始めた。
 桐野は徐々に広まるこの運動を、誰かバックに大物がいるとにらむ。
 島に続々とやって来て反対集会を行う。おまけに島では稲作が出来ないにもかかわらず、ムシロ旗や今、村では誰もはかないもんぺ姿の女性までいる。明らかに操作されている。
 新聞や週刊誌が基地が爆発した時の恐ろしさを唱え始める。そんなことが怒ろうはずがない。2重3重にもガードをするシステムになっている。
 生態調査員の牧と言う男が糸をひいいていると思った桐野は牧と直接話し合う。ところがこのときのテープが操作され、あたかももうけ主義のテープに作りかえられていた。
 村民の不安をあおり、好意的だった村長も口を濁して埒が明かない。
 桐野は牧の正体を知り、愕然とする。牧は島を去る。去る前に闘う方法を桐野に言う。
 1.巨大な危険性をのべる。2.既発事故を列挙する。3.既発事故を巨大事故に繋げてのべる。4.最悪事態を空想図化する。そして、著名人、文化人、教師、医師を主導者に引き込むことであると。牧は反対運動のプロフェッショナルであった。
 
1117 水底の光

Date: 2007-02-22

おすすめ度 ★★★

 小池 真理子 著  文芸春秋  発行:2007年1月

 東京タワーがみたくなって、至近距離でみられるホテルに泊まった。高層ホテルの22階である。6つ年下の浩之と泊まった。共に家庭を持つ身である。自分は44歳。男は38歳。
 東京タワーの灯も落ち、赤い点滅灯だけになった。真っ暗になったが、深夜の都市は、水底のように青白い光があった。

短編集のひとつである。
1116 まとい大名

Date: 2007-02-19

おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著  毎日新聞社  発行:2006年12月

 火消しの徳太郎が火の通りを防ぐために平田検校の屋敷を壊した。怒った平田は「火が収まらなかったらその責めを負え」と徳太郎に言う。
 火が鎮火して戻る時、振り返ると怖し遺した平田の納屋から火が上がっていた。納屋には菜種油が詰め込まれたいた。下男が暖を取るため引き入れた七輪を落としてしまった。
 徳太郎は取って返し火事場へ向かう。そして納屋に飛び込んだ。
 徳太郎の死に七千人の弔い客が集まった。「徳太郎は自分の命と引き換えに納屋の火を納めた」とうわさしあった。
 磐田は徳太郎の子ども鉄太郎に50両の香典を持ってきたが、鉄太郎から「カネをもらうより本気でおまいりしてもらいたい」と言われる。
 十年が過ぎ、元服を迎えた鉄太郎も火消しの頭となった。
 さらに6年がたち、鉄太郎はひのきと祝言を挙げる。しかし、結婚式の最中に火事があり、花婿の鉄太郎は火消しに出向いてしまった。
 ひのきは火消しの女房とはこういうことだと自分の両親に分かってもらうために、むしろそれでよかったと思った。
 鉄太郎の母おきぬは、嫁と息子のために活きのいい魚を買い船で戻る途中振り落とされ、しっかり握った魚のために命を落としてしまう。
 その日も、鉄太郎は火消しに出向いていた。
1115 誘拐の誤差 )

Date: 2007-02-16

おすすめ度 ★★★★

 戸梶 圭太 著  双葉社  発行:2006年11月

 礼乎10歳は畑の脇の側溝に衣服を剥ぎ取られて押し込まれた。寒さで声も出ない。どうしてこうなったか。
 拾ったスケボーで遊んでいたところ、須田の息子おやじの車とぶつかった。おやじは怒って礼乎をスケボーでなぐったあと衣服を剥ぎ取り側溝に押し込んだ。
 礼乎が気がついたら車の後部座席にいた。おやじはどこかへ電話していた。「ガキを殺っちまった・・」
 礼乎は自分が死んだ様子を上から見ている。須田おやじは仲間のパシリのコウジをよびつけ、僕をゴミ山に捨てた。
 須田おやじは死んだ僕の始末をコウジに頼んだ後パチンコをしていた。
 コウジは僕の携帯で自宅に1億円を要求するメールを送った。
 学校の体育館で僕のお別れ会が開かれていた。まるでVIP待遇だった。
 コウジは須田のおやじから覚せい剤を飲まされてハイになっていた。おまけに車にあった覚せい剤まで食べてしまった。須田はコウジの口に手を入れ吐き出させようとした。コウジは首から上が紫に変わって麻痺していた。動きが止まり死んだ。
 須田のおやじはパチンコをしていた。コウジの死体がない。僕が探すと、病院跡の4階の病室にいた。
 須田はその後、家に戻り自分の父親を突き飛ばしていた。後頭部がテレビにあたり、さらに重量のあるこけしが目を直撃した。鼻血がのどに詰まったようだ。父親は入院した。金がない。ATMに来た教師を半殺しにしてカードを奪う。金はパチンコですってしまった。
 スズキと言う男が僕を殺したと言う。捜査本部は解散した。それでも須田というろくでもない男は捕まらない。
1114 通天閣

Date: 2007-02-13

おすすめ度 ★★★★

 西 可奈子 著  筑摩書房  発行:2006年11月

 40を過ぎた僕は通天閣の見えるアパートに住んでいる。一緒に住んでいたマメがニューヨークに行ってからひとり暮らしになった。
 部屋の中は散らかっている。コンビニでおにぎりとそばばかり食べて脚気になったこともある。
腹が減ってコンビニに行くか、ラーメン屋にいくかである。ラーメン屋では塩焼きそばを食べる。店員に覚えられ、「いつものですね」と言われる。
 マメから電話がかかってきた。二人の関係を終わりにしたいという。
 向いのアパートにドアにジムキャリーはMr.ダマーのポスターを貼った冴えない男がいた。その男がこともあろうに通天閣に登って身投げをしようとしている。大勢に人が集まっている。
 「俺なんてぇ おらんでもええのんよー」と泣き叫んでいる。僕は見覚えのあるその男に向かって叫んだ。「お前が必要やっ、しなんどいてくれええええ」っと。男は降りてきた。周りから拍手が起こった。男は「そんな趣味はないんよ」と言った。
 44歳になって前歴がついた。自転車窃盗だ。何気なくまたがった自転車に子どもが「その自転車カッコええなあ」と何度も言うのでくれてやった。
 そうそうマメは男だった。
1113 僕僕先生

Date: 2007-02-11

おすすめ度 ★★★★

 仁木 英之 著  新潮社  発行:2006年11月

 22歳になった王弁は、父から頼まれたものをもって仙人の住むと言う山にいく。粗末な庵の中にいた十代の半ばほどの少女がいた。どうやらそれが仙人のようだった。王弁が僕僕先生とよぶ人だった。
 仙人と王弁は父に会うために里に下りてきた。父の前では仙人は白いひげを生やした老人になった。不老不死の仙人を父は恭しく向かえた。
 やがて、王弁は仙人と旅に出る。仙人はものすごい速さで進むことが出来る。王弁は馬にまたがり後を追う。
 しばらくぶりに戻った王弁は父が急に老け込んだことを心配する。
 30前になった王弁は周囲のものから仙人といわれていた。王弁自身は普通の人間だと思う。
 僕僕先生が去って5年がたっていた。懐かしく思い出しているとどこからか声がして王弁を雲の上に引っ張りあげてくれた。
1112 私の夫はマサイ戦士

Date: 2007-02-08

おすすめ度 ★★★★

 永松 真紀 著  新潮社  発行:2006年12月

 ケニア共和国。乗り継いで丸1日かかる。ここで暮らし始めてもう10年になる。
 2005年4月に結婚し、夫ジャクソンは推定30歳でケニアの西のエナイボルクルムという村に住む。私は添乗員の仕事をしながら結婚生活を続けている。第二夫人である。
 出会ったのは早川千晶さんという日本人女性がマサイ最大の儀式エウノトをみるために尽力してくれた。そこで7頭のライオンと像を殺したマサイの戦士のジャクソンと知り合った。
 祭りは数ヶ月に渡り準備が進められ、1週間続いた。クライマックスの1週間を見ることが出来た。
 2ヵ月後、千晶さんが写した写真を持ってふたたびマサイにいく。ジャクソンに再会した。そして2週間の間に、村に招かれた。長老がジャクソンの第二夫人として迎えたいという。
 私は仕事を続けたいことを話した。仕事は続けながら結婚してもかまわないと言う。しかも第1夫人もこの結婚に賛成してくれていると言う。
 私はマサイ戦士の嫁になることを決心した。妻は、結婚の証に草葺の天井の高い家を建てる。私は角に悪魔が住むと言われるので丸いトタン屋根の平家を建てた。家は20万ぐらいしかかからなかった。しかし1年以上たっても7割しか出来なかった。
 ジャクソンには推定26歳の第一夫人との間に3人の子がいる。
 私は今、シャワーもトイレもないところでマサイ族の生活を体験してもらうツアーをしている。
こうした経験がツアーの方に喜ばれている。
1111 馬琴の嫁

Date: 2007-02-05

おすすめ度 ★★★★

 群 ようこ 著  講談社  発行:2006年11月

 医師土岐村元立の三番目の娘として生まれたてつは、幼い頃から三味線や踊りを習っていた。
 22歳になって人気戯作者の曲亭馬琴の息子で医師の宗伯との縁談が持ち上がった。
 やがて、てつはみちと名を変え宗伯と夫婦になるが、宗伯はすぐに熱を出し寝込むのである。馬琴は歌舞音曲が嫌いであった。姑は癇癪持ちだった。えらいところに嫁に来たと思った。
 みちに子が授かるとけちな馬琴は孫のために端午の節句の吹流しを注文した。それがなんとものすごく大きかったのである。
 孫の誕生で少し活気付いたようであったが、相変わらず宗伯は出かけては寝込みを繰返していた。薬作りや家事でネコの手も借りたいほど忙しいみちであった。
 そのうち宗伯が死んだ。親より先に死んで姑が嘆いた。嫁のみちが殺したとでも思っているようである。姑は嫁いだ娘のところで暮らし始めた。馬琴は、自分も老い先が短いことを自覚し、みちに戯作の代筆をさせる。姑も娘のうちで亡くなった。やがて馬琴もなくなる。
 みちは嫁入りの時に持ってきた三味線を取り出して引いてみる。二十何年もひいていなかった。
娘も成長したが、50歳になってみちは曲亭琴童のなで戯作を書いた。
1110 最後の一球

Date: 2007-02-01

おすすめ度 ★★★★

 島田 荘司 著  原書房  発行:2006年11月

 竹谷は、浜松商業二年生の時、甲子園に出場した。早稲田実業に武智という4番バッターがいた。竹谷は翌年も甲子園に出たが二回戦で敗退した。
 竹谷の家は、父親がローンの負債で首をつり自殺した。母がひとりでは生活できない。竹谷は会社に入った。K楽器に入った。武智はN自動車に入ったもののすぐにマリナーズに入団した。
 K楽器の野球部は存続できなくなった。竹谷もマリナーズの入団テストを受けた。そして武智は1軍に竹谷は2軍であった。
 翌年、武智からバッテング投手にと話が来る。悩んだ末、球団に残ることにした。
 そして、武智が野球賭博をしたという容疑で捕まった。武智の父がハワイのホテルで飛び降り自殺した。武智の父と暴力団の親分とは仲良しだった。武智の容疑が晴れて、竹谷は呼び出される。
 武智は竹谷に感謝していると言う。球団からは永久追放を言い渡されていた。
 武智の会社も道徳ローンからの借金で苦しんでいた。借りた金が膨らんで4億になっていた。
 竹谷は450万円だった。そこへ男達が武智を連れ去った。武智がカビンを撃ってくれという。何を言っているか分からなかった。
 道徳ローンの屋上に行く。小屋と小さな鳥居。人工芝にネットが張られていた。小屋の前に白い粉とポリタンク。紙くず。竹谷ははっとして隣のビルに行く。花瓶を倒せと言うことが分かった。
竹谷は花瓶に向けて最後の一球を投げる。花瓶に命中すると同時にオレンジ色の炎が上がった。
 屋上の小屋に、当日手入れが行われると分かった道徳ローンの社員達は屋上の小屋に違法な証書類を一時的に隠したのである。それが燃えた。数十人の自殺者を救ったことになった。
1109 奸婦にあらず

Date: 2007-01-31

おすすめ度 ★★★★

 諸田 玲子 著  日本経済新聞社  発行:2006年11月

 たかは30になる。父は上人、母は巫女で彦根城から二里ほど離れた多賀神社でそだった。神社は秘薬やお守りを売り歩く防人によって成り立っていた。防人とは山伏である。
 たかが今、気を寄せているのが井伊直弼。会うのは月に1度である。たかのほうが年上である。
その直弼に「たかには子も亭主もいる」と告げ口をしたものがいる。直弼はたかに問う。たかは亭主とは別れ一人身であるという。直弼はその話しの後、側室をもらう。17歳の娘だった。
しかし、その後も直弼との仲は続いた。たかは妊娠する。このことを直弼に告げずにたかは別れた。
 そして直弼の兄の主馬と関係を持つ。
 十数年後、直弼は主馬の文を持ってたかを訪ねる。直弼はあのころのように時間が止まればと願った。
 直弼は大老になり、後に暗殺される。たかは江戸へ出向く。
 長野主膳の妾として生き晒しの目に会う。3日目に降ろされ助けられる。
 たかは55歳になった。息子の帯刀も死に主膳も直弼も死んだ。


1108 夢からの手紙

Date: 2007-01-28

おすすめ度 ★★★

 辻原 登 著  新潮社  発行:2006年11月

 6篇の短編。
「川に沈む夕日」では、染物屋治兵衛は、きのう金の苦心に出歩き、今日は半月ぶりに小春に会いに行こうと思っていた。
 妻や子がいるが島原の小春の身体をおもうといてもたっても居られない。
 妻の父が娘と孫を連れに来た。女にうつつを抜かし仕入れのお金も使ってしまう亭主などに任せて置けないというのである。
 妻子が心配する中、いそいそと出かけてしまう。
 そして女との床の最中に隣の部屋から聞こえてくる話に治兵衛が飛び出す。江戸一体が焼けたと言う。米を百石を買い、菜種油を買い、10万両をもうけた。小春に千両を贈る。

「夢からの手紙」では、妻から手紙で怖い夢を見た。お面をつけた男衆の中にあなた様がいる。胸騒ぎがするという。
 孝介は柏木に出会う。柏木は父親が急死したが、その父に横領の嫌疑で家督相続は許されなかった。姿をくらました柏木に7年ぶりにあった。医術を学んでいたと言う。
 大寺の別院で白装束で面をつけて集まる秘密の結集があると言う。孝介は柏木から強引に聞き、中に入る。人数が一人多いことから散会になった。翌日、孝介は耳打ちされた山門に出向く。柏木が池の中で死んでいた。
 孝介は妻に手紙を書く。お前の夢は正夢だったと。
 
1107 華の棺

Date: 2007-01-26

おすすめ度 ★★★★

 西村 京太郎 著  朝日新聞社  発行:2006年11月

 江本夏子は志賀に京都を案内した。志賀は「古事記」「日本書紀」のほかに日本に歴史書があったと確信しているという。日本は北方からの民族と南から海洋民族がやってきている。邪馬台国も突然消えてしまっている。大和朝廷の支配を受けるようになって、邪馬台国のことは消滅してしまった。現代の歴史書とは違ったものではなかったか。と考えていた。
 蔵田は夏子が志賀を京都を案内していることを危惧していた。
 やがて、志賀の歴史研究が連載される。しかし心臓病で突然死ぬ。
 犬猿の仲と思われた蔵田が志賀の葬儀委員長になっていた。夏子は驚く。
 その蔵田も心臓発作でなくなった。
 夏子は映画俳優の永井健太郎の伝記を書き始める。永井と同じように自宅にお手伝いさん5人と料理人を置いた。若いお手伝いさんたちは掃除を嫌がりそのうち互いに自我が出始める。夏子は仕方なくお手伝いを減らしていった。
 その夏子が、蔵田の死後ほどなく喘息の発作でなくなった。
 葬儀の日、誰もかれも夏子に怒られたことをうれしそうに話をしていた。
1106 周極星

Date: 2007-01-23

おすすめ度 ★★★★★

 幸田 真音 著  中央公論新社  発行:2006年5月

 織田一樹は、上海で突進してくる自転車の前を行く人を助けた。日本人の倉津だった。
 一樹は26歳で10人の社員を抱え、380億の受託資産を持つ株取引をしていた。
 はじめて株を買ったのは中学の13歳の時、小遣いで貯めた42万円だった。
 一樹が株を買うときは、徹底してその会社を調べた。その一人に一部上場の岩根剛造がいた。岩根は一樹と毎朝のジョギングで知り合った。やがて自宅に招かれるほどの中になった。岩根はこんな息子がいたらと思うほどだった。
 一樹は、再び倉津とであう。倉津は銀行マンだった。中国と日本を行き来する一樹は、倉津に自動車ローンの証券化ビジネスの計画を話す。
 倉津は、それを利用しようとする。一樹は、上海で知り合った未亜とであう。未亜は一樹が子どもの頃から顔見知りの夏琳と友達だった。
 夏琳も証券取引にたけていた。しかし一樹とはどういうわけか犬猿の仲だった。
 未亜は妊娠する。一樹にそのことをいえないまま出産する。未亜を心配した医学生の凱がその子と一緒に暮らそうという。
 一樹は、倉津の裏切りを知り、倉津が中国で買収しようとする土地で集会を企てる。
 対面を重んじる銀行が、びっしり集まった中国人の反対に竣工式の祝は吹っ飛ぶ。
 一樹は、夏琳が倉津から裏切られたことを知り、二人で結束する。
 夏琳は、父が岩根である。父が結婚を勧めてくれていた相手が一樹であることを知る。
1105  かもめ食堂

Date: 2007-01-20

おすすめ度 ★★★★★

 群 ようこ 著  幻冬社  発行:2006年1月

 サチエは38歳になったばかりだ。フィンランドに一人で来て「かもめ食堂」を開店した。
 当初は、近所の人たちが店の中をのぞき、「こども食堂」と噂していた。最初の客は、トンミという日本のアニメーションの「ガッチャマン」をみて日本に興味を持った子だった。以来、毎日やってきた。
 サチエは、カフェで文庫本を持った女性に「ガッチャマンの歌を知っていますか?」と聞く。女性はよく知っていて手帳に書いてくれた。そして、サチエはその女性ミドリを自宅に招く。ミドリは21年間勤めた会社をやめ、たまたま指差したフィンランドにやってきた。
 サチエのうちからかもめ食堂に通うようになり、献立の絵などを描き手伝ってくれる。
 近所の人は、背の高い女性が、子どもに来ている姿を不思議そうに見ていた。やがて、店の中にも入ってくるようになった。
 おにぎりを勧めるが、海苔は紙のように見られていた。
 トンミはガッチャマンの歌が完璧に分かったことでたいへんな喜びようだった。
 そこへ、荷物が着かないと言う日本女性マサコもやってくる。3人でかもめ食堂で働く。
 かもめ食堂は徐々に流行りだした。
 サチエは、日本から来る前に一億円の宝くじに当たっていた。食物科のある高校に行き、大学の時も積極的に料理教室に通っていたのだ。
 サチエは、母が死に「人生すべて修行だ」という父と暮らしていた。父は快く送り出してくれた。
 近所の人はサチエが38歳だと言うと、驚いていた。20歳も若く見えたという。
1104 余命

Date: 2007-01-17

おすすめ度 ★★★★★

 谷村 志穂 著  新潮社  発行:2006年5月

 38歳になる滴は、結婚して十年目で妊娠した。自分は外科医である。夫とは同じ医大で知り合った。滴はすぐ国家試験に合格したが、夫は卒業後、写真を撮る仕事に見入られ国家試験は受けなかった。
 滴は病院に勤務し、夫は仕事のない日は家事をするという生活をしていた。
 妊娠を喜んだが、滴は自分が乳がんを再び再発していることを知る。抗がんの治療を受ければ子は救えない。産もうと決心した滴は、夫に来た鳥島行きの仕事を進める。3ヶ月はかかる。
 滴は夫の留守の間に、病院をやめ出産に備える。
 無事に赤ちゃんが生まれた。瞬太名づけた。夫は病院にやってきた。妻が癌であることを知る。余命は1年。滴に癌の花が咲いた。
 夫は奄美大島へ転地する決心をする。親子3人で海を見ながら過ごす。
 1年といわれながら6年生きた。妻が死んで夫は医学の勉強を始めた。そして2年後、合格の通知が来た。瞬太は8歳になっていた。
1103

Date: 2007-01-15

おすすめ度 ★★★★

 小川 洋子 著  新潮社  発行:2006年10月

 7編の短編
 「ガイド」では、ママは町に2人しかいない公認の観光ガイドである。離婚して以来、僕はママと二人暮しである。
 ママの持つ旗がなくなった。ママは仕方なく折りたたみ傘を旗の代わりに持っていった。
 ある日、僕はママと一緒にツアーに参加することになった。ママとなるべく顔をあわせないようにしながらバスに乗る。ところが途中で僕の隣に座っている人が集合時間になっても戻らない。ママは困って僕に探してくるよう頼む。そしてタクシーで次の場所まで行くようにいう。
 僕は川を見ている取り残された小父さんを見つけた。僕はママのガイドぶりを見ていたので、僕なりにガイドしながら次の集合場所までいく。タクシーの運転手さんもそのガイドぶりに感心していた。
 何事もなかったように、ママと合流した。小父さんは題名があると記憶しやすい。「思い出を持たない人間はいない」という題名をつけてもらった。
 僕は稼いだお金で、いつも親切にしてくれるシャツ屋のおばさんにママの旗を作ってくれる様頼む。
1102 青春の雲海

Date: 2007-01-12

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  中央口論新社  発行:2006年9月

 棟居は、山にいた。後立山のコースを歩いていた。途中で知り合った勢津子は行方不明の夫を探しにきた。山に来て夫は山には登っていないと確信する。
 勢津子の夫は家業の書店を継いでいた。夫がいなくなり、勢津子が変わって切り盛りしている。
 夫の正輝は人生をリセットして生きたいと扶佐子と一緒に暮らしていた。最近、扶佐子の兄の福山幸治は最近死んだ。家を出たまま路上生活をしていた。新聞記事でそれを見た扶佐子は正輝に兄の戸籍をとりよせ、兄妹として生きる道を考え始める。
 兄の福山は8年前に金貸しの老婆を殺した男女の一人だという通報を受け棟居が調べる。殺される直前、老婆が「ぼんちゃん」と呼んだ。それをめいの智美が聞いていた。
 棟居は、ある写真から神戸の町を思い出す。そして、勢津子が山の上で開いた朝枝美華のサイン会で棟居は、「ぼんちゃん」とよぶ声を耳にする。
 ぼんちゃんは湯沢汎子というプロデューサーであった。
 R国大統領フラノフが急死した。最後に相手をした百合子は顔色を失う。その百合子も殺された。棟居は、勢津子を訪ねる。
1101 氷原の守り人

Date: 2007-01-10

おすすめ度 ★★★★

 澤見 彰 著  理論社  発行:2006年12月

 1899年の夏、一樹は、アメリカからカナダ・アラスカの国境近くにいた。ゴールドラッシュで沸く金の発掘を夢見て、黄金の夢を見て幼ななじみの貞二や三郎を伴ってやってきた。
 しかし、一樹は一足先にアメリカにいたおかげで英語が話せる。船の上で配られた契約書は、説明とは違うものだった。それに貞二と三郎はサインし渡してしまった。抗議をした一樹は海に放り出される。
 幸いイニュイの老人に助けられる。気がついたときはテントにいた。老人は犬を飼う少し怖いぐらいの人だった。
 一樹が回復すると、老人の狩りを手伝いたいと申し出る。冬になる前に動物の毛皮を売っておかなければならない。
 アザラシの肉を食べながら冬を過ごす。
 一方、貞二と三郎は金山の発掘で過酷な労働を強いられていた。牛耳っているのはヨハン・ザックスという男だった。
 一樹の村にもよそ者の男達が留守を狙ってやってきた。一樹は立ち向かうが窮地に陥った時、老人が助ける。
 町に毛皮を売りに行き、ザックスがこの町にもやってきていることを知る。その隙に貞二や三郎を助けたいと思った。
 一樹は金の発掘場に行き、二人を助け出す。ついでに一緒にいた労働者を解放する。
 一樹は、氷原の村で生きる決心をする。
1099 パパとムスメの7日間

Date: 2007-01-03

おすすめ度 ★★★★

 五十嵐 貴久 著  朝日新聞社  発行:2006年10月

 最近のパパが汚く感じる高校2年生のムスメの小梅は口も聞いていない。
 ところが電車が横転する事故がおきた。偶然、小梅とパパは同じ電車に乗り合わせていた。体が宙に浮くのを感じた。
 気がついたらムスメとパパは体が入れ替わっていた。頭の意識は私なのに身体はパパなのだ。このことに気がつき私もパパも困ってしまった。
 妻にも不思議がられながら、入れ替わったこと話さなかった。
 パパが小梅の代わりに高校へ行き、小梅はパパの格好で会社に行った。
 パパは会社で新しい商品開発を進めていた。しかし、ターゲットを高校生に絞っている割には高校生のことを何もわかっていない。1万円ぐらいの小遣いしかもらっていないのに2千円の製品は高い。もっと安くすることを提案し、会議を混乱させてしまう。
 一方、小梅になったパパは先輩との初デートで映画を見て眠ってしまった。3回も見ていたという。それでも先輩には見放されなかった。
 パパの会社の女性がナイフで小梅を襲う。今は小梅でも中身はパパ。偶然通りかかった小梅はパパの身体で小梅をかばう。そして、ふたたび二人は入れ替わった。元に戻ったのだ。
 お互いのことが気がついた7日間だった。