読んだ本の紹介です。紹介欄は感想や紹介したい部分を書いたものです。

過去ログ (その12) 157冊

平成22年1月3日〜平成22年12月26日



No 読んだ日 書       名 著   者 おすすめ度
1580 2010-12-26 相場師 小説・本間宗久 西野 武彦 ★★★★
1579 2010-12-22 トッカン 高殿 円 ★★★★★
1578 2010-12-20 ブラックチェンバー 大沢 在昌 ★★★★★
1577 2010-12-18 地の果てから 上・下 乃南 アサ ★★★★★
1576 2010-12-14 稲穂の海 熊谷 達也 ★★★
1575 2010-12-13 リストラに乾杯! 汐見 薫 ★★★★
1574 2010-12-12 灰色の虹 貫井 徳郎 ★★★★★
1573 2010-12-07 風のなかの櫻香 内田 康夫 ★★★★
1572 2010-12-05 魔性 渡辺 容子 ★★★★
1571 2010-12-02 成り上がり 江上 剛 ★★★★★
1570 2010-11-29 残り火 西村 健 ★★★★★
1569 2010-11-27 ツリーハウス 角田 光代 ★★★★
1568 2010-11-24 交渉人・籠城 五十嵐 貴久 ★★★★
1567 2010-11-23 通りゃんせ 宇江佐 真理 ★★★★★
1566 2010-11-21 静けさを残して鳥たちは 片山 恭一 ★★★★
1565 2010-11-20 相棒 五十嵐 貴久 ★★★★
1564 2010-11-19 逃げる 永井 するみ ★★★★★
1563 2010-11-18 光媒の花 道尾 秀介 ★★★
1562 2010-11-17 自由時間 上・下 哈 金(ハ ジン) ★★★★
1561 2010-11-13 おはぐろとんぼ 江戸人情堀物語 宇江佐 真理 ★★★★
1560 2010-11-12 刑事たちの聖戦 久間 十義 ★★★★
1559 2010-11-11 戻る男 山本 甲士 ★★★★
1558 2010-11-10 老猿 藤田 宜永 ★★★★★
1557 2010-11-08 ひそやかな花園 角田 光代 ★★★★★
1556 2010-11-03 禁猟区 乃南 アサ ★★★★
1555 2010-10-31 図地反転 曽根 圭介 ★★★★★
1554 2010-10-29 エウスガディ 上・下 馳 星周 ★★★★
1553 2010-10-25 抱影 北方 謙三 ★★★
1552 2010-10-21 マルドゥック・スクランブル〔改定新版〕 冲方 丁 ★★★★
1551 2010-10-19 明日の風 梁 石日 ★★★★★
1550 2010-10-17 特異家出人 笹本 稜平 ★★★★
1549 2010-10-15 輝跡 柴田 よしき ★★★★
1548 2010-10-13 白川郷 濡髪家の殺人 吉村 達也 ★★★
1547 2010-10-11 烈壊 警視庁失踪課・高城賢吾 堂場 瞬一 ★★★★
1546 2010-10-09 優しいおとな 桐野 夏生 ★★★★
1545 2010-10-07 ブルー・ゴールド 新保 裕一 ★★★★★
1544 2010-10-04 悪道 森村 誠一 ★★★★★
1543 2010-10-03 新・青年社長 上・下 高杉 良 ★★★
1542 2010-10-01 自白 刑事・土門功太朗 乃南 アサ ★★★★
1541 2010-09-28 逸脱 堂場 瞬一 ★★★★
1540 2010-09-22 不等辺三角形 内田 康夫 ★★★★
1539 2010-09-19 さよなら渓谷 吉田 修一 ★★★★
1538 2010-09-19 あんじゅう 三島屋変調百物語事続 宮部 みゆき ★★★★
1537 2010-09-15 悪の教典 上・下 貴志 祐介 ★★★★
1536 2010-09-12 メモリーを消すまで 上・下 山田 悠介 ★★★
1535 2010-09-08 レッド・ゾーン 上・下 真山 仁 ★★★★★
1534 2010-09-04 窓の外は向日葵の畑 樋口 有介 ★★★★
1533 2010-09-02 キング&クィーン 柳 広司 ★★★★★
1532 2010-08-30 ブレイズメス 1990 海堂 尊 ★★★★★
1531 2010-08-25 世田谷駐在刑事 濱 嘉之 ★★★★
1530 2010-08-20 傷痕 矢口 敦子 ★★★★★
1529 2010-08-17 おれのおばさん 佐川 光晴 ★★★★
1528 2010-08-11 鈴蘭 東 直己 ★★★★
1527 2010-08-07 口は禍いの門 町医北村宗哲 佐藤 雅美 ★★★★
1526 2010-08-04 瑠璃でもなく波璃でもなく 唯川 恵 ★★★★
1525 2010-08-01 銀狼王 熊谷 達也 ★★★★
1524 2010-07-30 禁断 横浜みなとみらい署暴対係 今野 敏 ★★★★
1523 2010-07-28 写楽 閉じた国の幻 島田 荘司 ★★★★★
1522 2010-07-23 あれから 矢口 敦子 ★★★★
1521 2010-07-20 長生き競争! 黒野 伸一 ★★★★
1520 2010-07-15 小暮写真館 宮部 みゆき ★★★★
1519 2010-07-13 ブラック・ローズ 新堂 冬樹 ★★★★
1518 2010-07-10 吉備古代の呪い 西村 京太郎 ★★★
1517 2010-07-04 夜行観覧車 湊 かなえ ★★★★★
1516 2010-07-01 白い砂丘 長野 慶太 ★★★
1515 2010-06-30 神の手 上・下 久坂部 羊 ★★★★★
1514 2010-06-26 恋する空港 あぽやん2 新野 剛志 ★★★
1513 2010-06-21 民王 池井戸 潤 ★★★
1512 2010-06-21 おたふく 山本 一力 ★★★★
1511 2010-06-19 母 オモニ 姜 尚中 ★★★★
1510 2010-06-18 白と黒が出会うとき 新堂 冬樹 ★★★★
1509 2010-06-16 色東京塔 柴田 よしき ★★★★
1508 2010-06-15 インビジブルレイン 誉田 哲也 ★★★★★
1507 2010-06-13 京都駅0番ホームの危険な乗客たち 西村 京太郎 ★★★★
1506 2010-06-12 明日の空 貫井 徳郎 ★★★★
1505 2010-06-11 初陣 隠蔽捜査3.5 今野 敏 ★★★★★
1504 2010-06-10 天地明察 冲方 丁 ★★★★★
1503 2010-06-09 カッコウの卵は誰のもの 東野 圭吾 ★★★★★
1502 2010-06-08 ほかならぬ人へ 白石 一文 ★★★
1501 2010-06-07 裁判員 小杉 健治 ★★★★★
1500 2010-06-05 夕爆雨 東京湾臨海署安積班 今野 敏 ★★★★
1499 2010-06-02 ボーダーヒートアイダンド W 垣根 涼介 ★★★★
1498 2010-05-31 神苦楽島 上・下 内田 康夫 ★★★
1497 2010-05-27 亡国前夜 江上 剛 ★★★★
1496 2010-05-25 セシルのもくろみ 唯川 恵 ★★★★
1495 2010-05-25 オイアウエ放流記 荻原 浩 ★★★
1494 2010-05-24 走らんかい!岸和田だんじりグラフティ 中場 利一 ★★★★
1493 2010-05-22 贖罪 湊 かなえ ★★★★★
1492 2010-05-21 すれ違う背中 乃南 アサ ★★★★
1491 2010-05-19 夢ほりびと 池永 陽 ★★★★
1490 2010-05-17 早雲の軍配者 富樫 倫太郎 ★★★★
1489 2010-05-15 まねき通り十二景 山本 一力 ★★★★
1488 2010-05-11 ムーヴド MOVED 谷村 志穂 ★★★★
1487 2010-05-07 ロード&ゴー 日明 恩 ★★★★
1486 2010-05-05 竜の涙 ばんざい屋の夜 柴田 よしき ★★★★★
1485 2010-05-02 排出権商人 黒木 亮 ★★★★
1484 2010-04-29 壺霊 上・下 内田 康夫 ★★★
1483 2010-04-26 挑発 越境捜査2 笹本 稜平 ★★★★
1482 2010-04-23 心霊特捜 今野 敏 ★★★
1481 2010-04-22 DOWN TOWN ダウンタウン 小路 幸也 ★★★
1480 2010-04-20 ハング 誉田 哲也 ★★★★
1479 2010-04-18 スギハラ・ダラー 手嶋 龍一 ★★★★
1478 2010-04-15 ウインクで乾杯 東野 圭吾 ★★★★
1477 2010-04-13 ドラゴン・ティアーズ 龍涙 石田 衣良 ★★★★
1476 2010-04-10 真綿荘の住人たち 島本 理生 ★★★
1475 2010-04-07 R・P・C ロール・プレーイングゲーム 宮部 みゆき ★★★★★
1474 2010-04-06 小杉 健治 ★★★★★
1473 2010-04-05 ガラスの巨塔 今井 彰 ★★★★★
1472 2010-04-03 八日目の蝉 角田 光代 ★★★★★
1471 2010-04-02 夢曳き船 山本 一力 ★★★★
1470 2010-04-01 深重の橋 上・下 澤田 ふじ子 ★★★★★
1469 2010-03-31 感応連鎖 朝倉 かすみ ★★★★
1468 2010-03-29 少女 湊 かなえ ★★★★★
1467 2010-03-28 波枕 おりょう秘抄 鳥越 碧 ★★★★
1466 2010-03-27 ナニカアル 桐野 夏生 ★★★★
1465 2010-03-25 教室の亡霊 内田 康夫 ★★★★
1464 2010-03-22 張り込み姫 −君たちに明日はない3− 垣根 諒介 ★★★
1463 2010-03-18 Nのために 湊 かなえ ★★★★★
1462 2010-03-14 密約 外務省機密漏洩事件 [増補] 澤地 久枝 ★★★★
1461 2010-03-12 無理 奥田 英朗 ★★★★★
1460 2010-03-10 夜来者海峡 船戸 与一 ★★★★
1459 2010-03-08 ダブル・ファンタジー 村山 由佳 ★★★★
1458 2010-03-06 美女いくさ 諸田 玲子 ★★★★
1457 2010-03-04 幹線広告 三浦 明博 ★★★★
1456 2010-03-03 乱神 高嶋 哲夫 ★★★★
1455 2010-03-01 殺人者 深谷 忠記 ★★★★
1454 2010-02-27 虚報 堂場 瞬一 ★★★★★
1453 2010-02-26 救命拒否 鈴木 蓮 ★★★★
1452 2010-02-25 骸骨ビルの庭 上・下 宮本 輝 ★★★
1451 2010-02-23 たすけ鍼 山本 一力 ★★★★★
1450 2010-02-22 夜の終焉 上・下 堂場 瞬一 ★★★★★
1449 2010-02-21 ドント・ストップ・ザ・ダンス 柴田 よしき ★★★★
1448 2010-02-20 運命の人 T・U・V・W 山崎 豊子 ★★★★
1447 2010-02-18 灰の旋律 堂場 瞬一 ★★★★
1446 2010-02-17 引き出しの中のラブレター 新堂 冬樹 ★★★★
1445 2010-02-16 欧亜純白 ユーラシアホワイト T・U 大沢 在昌 ★★★
1444 2010-02-15 いかずち切り 山本 一力 ★★★
1443 2010-02-12 相棒に手を出すな 逢坂 剛 ★★★★
1442 2010-02-11 ごっつい奴 浪花の夢の繁盛記 江上 剛 ★★★★★
1441 2010-02-10 おそろし 宮部 みゆき ★★★★
1440 2010-02-09 イノセント・ゲリラの祝祭 海堂 尊 ★★★★
1439 2010-02-08 オリンピックの身代金 奥田 英朗 ★★★★
1438 2010-02-04 いつか響く足音 柴田 よしき ★★★★
1437 2010-02-02 シューカツ! 石田 衣良 ★★★
1436 2010-02-01 兇弾 逢坂 剛 ★★★★★
1435 2010-01-29 ギャングスタ 新堂 冬樹 ★★★
1434 2010-01-28 警視庁捜査一課刑事 飯田 裕久 ★★★★
1433 2010-01-26 凍土の密約 今野 敏 ★★★★
1432 2010-01-24 聖女の救済 東野 圭吾 ★★★★★
1431 2010-01-21 隠ぺい捜査3 今野 敏 ★★★★★
1430 2010-01-20 赤い指 東野 圭吾 ★★★★★
1429 2010-01-16 終極 潜入捜査 今野 敏 ★★★★
1428 2010-01-13 刑事 雪平夏見 アンフェアな月 秦 建日子 ★★★★
1427 2010-01-10 龍馬暗殺 最後の謎 菊地 明 ★★★★★
1426 2010-01-06 刑事 雪平夏見 殺してもいい命 秦 建日子 ★★★★★
1425 2010-01-03 刺客請負人 江戸悪党改め役 森村 誠一 ★★★★
1536 メモリーを消すまで 上・下
Date: 2010-9-12

おすすめ度 ★★★

 山田 悠介 著  文芸社  発行:2010年6月

2030年に日本人は脳にメモリーチップを埋め込むことを義務付けられた。チップには150年分の記憶が記録できる容量を持っていた。
 物語は2030年から65年たったころに起った事件である。
 MOC記憶捜査官の相馬誠は、ある日、森田本部長の姿に不信感をもった。黒宮と新郷は同じ年だが黒宮は新郷を利用するだけしているが、新郷は黒宮をよく思っていない。
 12歳の少年の記憶を全削除する日は落ち込んだ。少年は窃盗および傷害を繰り返していた。この少年はまた自立支援施設で1から覚えなければならない。
 荒川は面白い記憶チップを手に入れたという男からチップを買った。チップには若い黒宮が写っていた。なんと黒宮は女性に女児を出産させていた。黒宮は女性が産んだことに快く思っていない風で言い争っていた。女性はその後、女児を捨てた。女児はストリートチルドレンとなって浅草の路上で暮らした。
 兵藤統轄長はストリートチルドレンを静粛の名のもとに集団虐殺することを黒宮に指示した。それは相馬が知らないところで行われた。
しかし、その時、黒宮の娘リサとリサの友達コウキは逃げる。子どもたちはロープで首を絞められ殺される。そして燃やされた。
 長尾はこの事件を知り、相馬に相談する。しかし、黒宮に気づかれ長尾は記憶の一部を削除される。
 1ヵ月半後、相馬は栃木に異動になっていた
黒宮からジャーナリストとストリートチルドレンの殺害を頼まれた新郷はある細工をした。黒宮を陥れるために。新郷は小学校時代に黒宮にいじめられていた。自分が誰か黒宮には気がつかれていなかった。
 リサとコウキも捕まった。記憶を削除される前日にコウキは自殺する。リサは記憶を抜かれ呆けた顔をしていた。相馬はリサの記憶のコピーをもっていた。「頑張れ、リサ!」と相馬はチップを一生大切にすることを思った。
1535 レッド・ゾーン 上・下
Date: 2010-9-8

おすすめ度 ★★★★★

 真山 仁 著  講談社  発行:2009年4月

 「株式に上場している以上、敵対的買収から逃れる絶対的防衛策はありません」講演者がこう言っていたのを聞いていたアカマ自動車の社長室長大内だった。
 大内は鷲津の痩せ過ぎで170センチぐらいを見て「本当にこれが伝説的なハゲタカなのか」と思った。
 賀一華がITと不動産で儲けた金でアカマの株を買い占めようとしていた。アカマ自動車の社長古屋から依頼を受けた鷲津は
 アカマ社内に副社長を担ぎあげ、古屋社長を追い出そうとする動きがあった。鷲津は賀と会って決心をした「アカマ買収に乗り出す」アカマは賀がもうすぐTOBをかけるだろう。賀をあて馬にして様子を見ることにした。中国の国家ファンドCICと買収合戦を繰り広げるつもりだ。
 最高顧問の赤間周平が病院で死んだ。賀が友好なパートナーシップだと言うが、TOBを行う主体が百華集団であると聞いた。
 赤間太一郎が社長の経営責任をついてくるだろう。古屋は辞意を大内に告げる。賀も取締役として参加するようだ。古屋の辞める交換条件に大内を専務に推していた。鷲津に買収者と相まみえて社を守ってほしいと頼む。鷲津はホワイトナイトとなり百華集団のTBO防止をすると決意する。
 アカマ東京支社長が贈収賄容疑で東京地検特捜部に告発された。古屋は会社の存亡の危機に防衛対策委員会を設けたと発表する。
 百華集団はアカマのTOBを取り下げた。買い取った株も手放した。それを鷲津は買った。
大内と古屋は窮地を鷲津によって救われた。
 古屋社長は辞任し、東亜オートと中国颯爽汽車の統合会社のCEOに就任した。
1534 窓の外は向日葵の畑
Date: 2010-9-4

おすすめ度 ★★★★

 樋口 有介 著  文芸春秋  発行:2010年7月

 高校2年生の青葉樹(シゲル)は江戸文化研究会に入っている。顧問は若い若宮沙智子先生。部長は高原明日奈だ。夏休み前に文化祭の内容を決めた。その後、部長の高原は行方不明になった。家に帰ってこないという。シゲルは父親に相談する。父は警官だったが今はインチキ小説を書いたり、馬鹿につける薬をネット販売している。シゲルは同じ部員の紅亜(クレア)と高原の行方を心配する。
副部長の佐々木信幸のケータイが繋がらない。佐々木は千葉の富津の海岸で水死体で見つかった。外傷はなく誤って海に転落したとされた。
 シゲルには友達がいる。小学校の頃の女友だちで真夏である。交通事故で死んだが、死んだあと幽霊になってシゲルのそばに現れる。これまでどおりに話もする。真夏はクレアのことをなんか電波みたいなものを出すと嫌っていた。
高原は戻ってきた。千葉の別荘にいたそうで、念のために入院しているという。シゲルとクレアが見舞いに行く。若宮先生もいた。
 若宮先生が交通事故で亡くなった。職員会議で遅くなった日、初台駅からアパートに帰る途中だった。白い車にひかれ即死だった。
 シゲルは佐々木は高原明日奈に無視されているのに、しつこくつけまわしていたことを知る。そして推理する。佐々木は明日奈に殺されたのだろうか。
1533 キング&クィーン
Date: 2010-9-2

おすすめ度 ★★★★★

 柳 広司 著  講談社  発行:2010年5月

六本木のカウンターバーは12席しかない。この店で働き始めて半年の安奈は、元は警察官だった。柔剣道の段位不足だったが、逮捕術大会で優勝しSPになった。絶対失敗が許されない仕事だった。それが、1年前に辞めてしまった。
 六本木には無数のクラブがある。手に負えない客を安奈の働く店に連れてきては、ちょっとした手助けをする。それは術を用いて客を投げ飛ばすごとく身体を回転させる。酔った客は一瞬何が起こったかキョトンとしているが、後からじわっと恐怖感が起こる。
 常連の蓮花がアンディという男を連れてきた。アンディは有名なチェスの世界チャンピオンであった。13歳ですでに全米で60戦無敗だった。
 20年後、アンディは復帰記者会見で「アメリカの大統領はバカだ。チェスの駒の動かし方も知らない。9・11はバカを大統領にする国が自ら招いた自業自得だ」といい、大統領からの親書につばを吐いた。
 それをみた、かつてのキング$クィーンともてはやされたアンドレアは、姉があの事件で亡くなっていることからアンディが姉の死も冒とくしたと許せなかった。
 アンディは国家反逆罪に問われ、パスポートを失効された。今いる国から出られない。アンドレアはアンディを狙った。日本のヤクザにも、中国のマフィアにも断られたが、雇ったヤクザ崩れの男たちがアンディを追っていた。安奈はそのアンディを警護することになった。前の上司に情報を得て、アンディのことや狙っている男たちの正体を知る。

1532 ブレイズメス1990
Date: 2010-8-30

おすすめ度 ★★★★★

 海堂 尊 著  講談社  発行:2010年7月

 東城大学医学部総合外科教室に籍を置く世良は1年半の外部研修を終えて戻ってきた。高原の町、富士見診療所で高齢者を相手に焦燥の日を過ごしていた。その前に癌センターで多忙な日を送っていた。この落差に鬱のようになってしまった。
 その世良は駒井と垣谷と一緒に国際循環器学会に出席するためにニースに飛んだ。
世良はアマギに渡すよう佐伯教授から託された手紙を持っていた。アマギはドタキャンで講演会に現れなかった。
 アマギはカジノにいると教えられる。カジノで世良は天城に会えたが、手紙はカジノで世良が買ったら読むという。世良はなんとか勝った。手紙を読んだ天城はばかばかしいと手紙を放り投げる。世良と垣谷がその手紙を読むと「桜宮心臓外科センターのセンター長に推挙する」という病院長佐伯の文が書かれていた。
 いったん引き揚げるが、世良はもう一度天城に会う。再び賭けに勝つ。そして天城と共に日本に向かう。
 天城は佐伯の元教授室を使い、赴任して2ヶ月間、それぞれの手術を見て回っていた。病院全体を敵に回していた。
 天城はモンテカルロでは聖なる守銭奴と呼ばれていた。心が必要のない医療を目指し、カネで解決するものを解決する。こころは自分の技術で救える患者を手術する。資金繰りがショーとすれば倒産する。施設が生き残ってこそ病院経営だ。無駄をそぎ落とし自分の考える未来形の病院を作るという。
 天城の助手には世良がついた。世良も同じように周りから距離を置かれた。
天城は日本胸部外科学会で東京国際会議場で公開手術をするという。これには院内で反対が起こった。失敗すれば東城大学の名に傷がつくという。しかし、天城は自分の手術は全例生還している。費用は東城から出るわけではない。産油国の王族からでる。これまでに公開手術は5例も経験している。という理由から公開手術は押し切られた格好で決定した。
 そして、鮮やかな手術が公開された。早い。しかも的確に。外国の賓客が讃辞に訪れる。
モナコ公国がスリジエ・ハートセンターに出資する用意があるという。しかし、日本のウエスギ・モーターの上杉会長が心臓に爆弾を抱えている。天城の流儀によれば全財産の半分を提供するとなると150億円。天城は手術を1つするだけで病院の年間売り上げに迫る額だった。世良は天城の敵は東城大学病院とその背後にある日本の医療界なのだと思った。
1531 世田谷駐在刑事
Date: 2010-8-25

おすすめ度 ★★★★

 濱 嘉之 著  講談社  発行:2010年6月

 山手西警察署学園前駐在所勤務兼組織対策全国指導官の小林健は41歳。世田谷にある駐在所に勤務しながら、時には組織犯罪対策室と警視庁に出向いて仕事に当たることもある。駐在刑事が小林の代名詞だった。
加藤巡査部長が29歳の若さで殉職した。加藤には妻と男の子がいた。加藤の最期のことばに「二人を頼む」と残して逝った。加藤の三回忌を終えた後、小林は加藤の妻陽子と結婚した。そして4年、息子修平が小学校3年生になった。
正月三が日の間に一家三人が殺される事件が起こった。祖母が訪ねていくと息子夫婦と孫が死んでいた。おびただしい出血の跡があった。急きょ総勢45人の捜査員が動員した。
サバイバルナイフの鞘と犯行後、すぐ逃走せず冷蔵庫のものを食べ散らしている。スニーカーの足跡から、高校生なのではないかと疑う。
修平が友達の家に行った時、そのマンションに変なお兄ちゃんがいるという。妻の陽子も中国人の出入りがあることに不信を持っていた。
その間にも孫が友達からお金を借りて1千万にもなるというけど、そんなことがあるのかと相談を受けたり、自分の知らないところでカードが使われているという事件の解決にあたった。
そして、一家3人殺しの容疑者に息子修平が変なお兄ちゃんといった男に捜査が及んだ。
犯行当時高校生だった20歳の男だった。
 一家で墓参りに行く。小林は修平に殉職した加藤のことを話す。修平は「僕には父ちゃんとお父さんがいるんだ」と理解した。 
1530 傷痕
Date: 2010-8-20

すすめ度 ★★★★★

 矢口 敦子 著  講談社  発行:2009年9月

小田島が出所した。小田島に罪の一切を従兄弟の西川正実に押しつけた。反論しない西川は主犯とされ「目黒区一家殺人事件」の判決後、死刑になった。
 発端は小田島の妻をかくまったという弁護士宅に従兄弟西川を伴って訪れた小田島。幼い子を2人を含む一家4人を殺したというものだった。西川の妻は事件後生まれた息子知也を養子に出した。
 小田島は当時28歳で銀行員だった。すぐかっとなる性格で離婚を前提に妻は弁護士に相談していた。無期懲役と判決を受けたが18年で出所してきた。
 知也は、誰かに見られていると気がついた。知らない人から水晶玉を渡される。「幸福の玉よ。幸せでいてね」と渡された。
 忠義は房舎で西川を見ていた。澄んだ眼をしていた。
小田島は知也と会っていた。知也は大学の正門を出たところで声をかけられた。「君の本当の父親は11年前に死刑になった」という。知也は善太郎と妙子が実の両親でないことを知るが、黙って聞いていた。目黒区一家殺人事件を起こした人間が父だという。「明日も同じ場所で会おう」と言われる。
 知也は図書館でその事件のことを調べる。そして、桜井香子という名前に目がとまる。自分がつき合っている女性と同じ名前だった。
 知也は特別養子制度という方法で実親が書かれないために分かりにくい。桜井香子もそうだった。父は桜井香子という幼子まで殺していた。
 桜井香子の家に行った知也は香子の父と対面する。祝いのワインを飲まされ昏睡してしまう。夢うつつの中で桜井香子の兄にあたるのが、桜井香子の父だった。そして自分の娘に五条桜井香子と名付けた。
 目が覚めると鍵のかかった部屋にいたが、呼んでも聞こえないために知也はその家を出る。やがて、桜井香子の家は家事になる。そのまえに小田島が大学の構内で3時から4時の間に薬物入りの飲料で死亡していた。あの時、明日も・・と言われたのに小田島は待っても来なかった。
 実の母親が小田島に怪我を負わされて入院していた。あの水晶玉をくれた人だった。
6日後、知也は自宅に帰る。「さっさとあがってご飯にしようよ」という母。父や祖母をまぶしくみた。
1529 おれのおばさん
Date: 2010-8-17

すすめ度 ★★★★

 佐川 光晴 著  集英社  発行:2010年6月

 
陽介の父が逮捕された。大手都市銀行福岡支店長だった父は愛人にマンションを買い与えた際、顧客の金を横領したのだった。顔つきで新聞に報道された。陽介は進学校で有名な開聖学園の中学2年生だった。スキャンダルに巻き込まれるのを恐れ、学校側から退学を求められた。
 父が逮捕され、母の姉に当たる北海道にいる恵子おばさんのところへ行く。母と4つ上のおばさんは北大の医学部に合格した後、演劇にのめりこみ中退した。やがて役者仲間であった後藤と結婚したが、夫の浮気が原因で離婚した。その後も演劇を支援する活動をしていたが、数年前から児童養護施設からはじき出されたという児童を預かるグループホーム魴?舎を経営していた。中学生ばかり14人いた。
 母とおばさんは20年ぶりの対面だった。おばさんは化粧っ気のないサバサバした人だった。
 母は東京の介護施設で住み込みで働くようになった。陽介は北海道の中学に行き、勉強の遅れを図書館や以前の塾での問題集で補っていた。
 夏休み奄美大島へ中学2年生の6人とおばさんの知人の高校教師の石井さんの引率で小樽から舞鶴までフェリーで行き、山陰本線を通り、日豊本線、再びフェリーと4泊4日かけて奄美大島に着いた。おばさんの知人の和田さんの奄美にいられるのは10日間だった。
 豚の解体を見たり豚の飼育の手伝いをしたり、農家の手伝いをする者もいた。
和田さんの娘波子さんと友達になった。父のことも気負いなく話せた。博多で降りて父に会えたらと想像したが、母が倒れたという知らせに東京に向かう。幸い過労が原因でたいしたことはなかった。
 北海道に帰って、今度はおばさんが倒れた。かわりに母が手伝いに来た。母の料理はおばさんより美味しかったので皆が喜んだ。
 母は徐々に魴?舎に慣れていった。父の判決が出た。2年の実刑だった。家も処分し不足した分800万円ぐらいがこれから返済する分となった。父が愛人に与えたマンションを売却するよう頼んだが、すでに父と愛人とは決別しており聞き入れてもらえなかった。
 陽介は両親が離婚しないことを喜んだ。おばさんは元気になると再び「演芸をやりたい」と言い始め、ゆくゆくは母に魴?舎を譲りたい気でいるようだった。
 陽介は高校はどの学校にも入れるということと、成績が優秀な子を私立が無償で受け入れる制度もあることを知り安堵する。
1528 鈴蘭
Date: 2010-8-11

すすめ度 ★★★★

 東 直己 著  角川春樹事務所  発行:2010年6月

 マイクロバスに大音響を立てながら汚い言葉で罵り合う男。この男は犬猫を大切にしろといいながら札幌市の森の中でゴミと一緒に暮らしている。
 畝原は何でも屋でもある。テレビ局の依頼で調査を開始した。ゴミと暮す嶺崎のことを調べる。もともと、嶺崎の占拠している土地は誰のものか。どうやって暮しているか。
最近、女性と暮していたが女性は最近見なくなった。殺して埋めたのではないかと疑いを持つ。
一方、別件で自分の高校の教師が多額の借金をした後、行方不明になっている調査依頼が入る。この教師は直前に妻を線維筋痛症で亡くしている。
畝原は嶺崎に直接あって話を聞く。女のことは帰ってくるのを待っているという。敷地内に山吹とすずらんの花を植えた場所があった。あの下に死体が埋まっているのではないか。
官報に載った行旅死亡人欄で女性は末期の肺がんで礼文の沖で死んでいた記事を見つける。
 ゴミの山となっていたところは、市役所と清掃業者が撤去作業を開始した。 
1527  口は禍いの門 町医北村宗哲
Date: 2010-8-7

すすめ度 ★★★★

 佐藤 雅美 著  角川書店  発行:2009年8月

指物師植辰の女房がやってきて娘さちの病を恋わずらいと診断されたが、相手の幸平は弥左衛門親分の盃を受け植辰とは疎遠になってしまった。弥左衛門と親しくしているという宗哲を頼ってやってきた。しかし、幸平には好きな女がいる。さちではないという。
その幸平が親分の顔を立てようとしたことで命を失う。さちは日に日に明るさを取り戻していた。
 丸徳屋茂左衛門は女房が危ないと宗哲をたずねてきた。医者はこの江戸にごまんといるというのに。聞けば、茂左衛門の倅が命を落としたことで医者の吶庵先生を恨んでいた。その恨みが吶庵先生の「茂左衛門の家に病人が出ても決して診てはならぬ」といわれ、見てくれる医者がいない。宗哲は茂左衛門に医者の誤診や失敗は医者の世界では良くあること。侘びを言って吶庵先生に診てもらうように言う。
 後日、吶庵先生と茂左衛門が連れ立って宗哲の元へやってくる。
 
 宗哲の近くで最近開業した蘭方医の今村芳生は、近所の人を集めては寄席のように漢方は時代遅れでこれからは蘭学の時代だと講和をたれているそうだ。それでめっぽう流行っている。ところが、しばらくして宗哲がたずねるとその家が見つからない。聞けば、芳生の言葉を信じた直らぬ病nの者や難病で治療法も分からぬ者までが押しかけ、口は禍いの元、追い返すわけにも行かず薬代はかさみ、病人や病人の家族からも、やいのやいのと責められ夜逃げをしたそうだという。
1526  瑠璃でもなく波璃でもなく
Date: 2010-8-4

すすめ度 ★★★★

 唯川 恵 著  集英社  発行:2008年10月

 美月は結婚を考えていたが、相手は妻帯者だった。相手の朔也は4年前に結婚した妻英利子がいた。朔也はそろそろ子どもをと母から言われているが、英利子は最近、専業主婦から通っていた料理教室の先生の秘書にならないかといわれ働き始めたばかりだ。結婚前に大手保険会社で秘書の仕事をしていたのでぜひにと頼まれた。
 美月はどれだけ待てばいいのか不安だった。朔也はある日、英利子に離婚を切り出す。夫に女性がいることを知った英利子は美月に会う。美月はどんなことをしても朔也と一緒になりたいといった。
 英利子は離婚に同意する。しかし、直後に料理教室から解雇されてしまう。今更、朔也に頼れない。そこへ石川に誘われ、マネージメント会社を起業しないかと進められる。英利子は、結婚時にはインテリアにも凝っていたが、今は仕事場兼自宅でかまわない生活にも満足していた。
 美月は妊娠したようだ。すぐに結婚すべきではないと思っていたが、お腹が大きくなる前にささやかな結婚式を挙げた。
 子どもは璃音と名づけた。そのこも幼稚園に行くころとなった。英利子は元の夫朔也から会社の展示会に誘われれる。あれから5年も経っていた。「世間ではもう大人なのに頭の中では子どもだった」と二人は目を合わせて笑った。お互いに「結婚してくれてありがとう」と言えた。
 美月は二人目を妊娠していた。
1525  銀狼王
Date: 2010-8-1

すすめ度 ★★★★

 熊谷 達也 著  集英社  発行:2010年6月

二瓶は仙台藩白石領お抱えの山立猟師の一人であった。蝦夷地、北海道の開拓移民として渡ってきた。北海道に渡った当初は猟やめていたが、再び十年ほど前から狩に出るようになった。直接現金を得る手段であった。
 猟のことはアイヌに聞くのが一番であった。静内川の河畔近くにある古老の小屋を訪ねた。古老は二瓶が携えた酒を目当てにいろいろ語ってくれた。静内川の近くで銀色の狼を見たという。巨大な狼で獣の王者のようだったと見た人はいった。「銀狼王」と呼ばれている。古老は「カムイに手を出してはならぬ」という。カムイとは神のことである。しかし、話を聞いた二瓶は「主には悪いがその狼をこの手で仕留める」と決意する。
 早速、山に入った二瓶は、狼の餌となる鹿の群れを見つける。愛犬の疾風を伴って鹿の足跡を追う。そして、鹿とは違う足跡を見つける。銀狼王のものだ。その足跡を追って進んでいく。
 途中、別の狼と対峙するが、飛び掛られたときにしとめることが出来た。銀狼王の女房狼だった。やがて、銀狼王が現れる。息絶えそうな妻の狼に寄り添い、二瓶を見つめる。
二瓶は雪の中、銀狼王との距離を保ちながらどうしとめるかと思案する。
 銀狼王が、妻と一緒にこの地で死ぬ覚悟だということを感じ取る。睡魔と闘い、二瓶も首を食いちぎられる夢を見ながら、狼を見つめていた。
 そして、一瞬の好きに飛び掛られる。自分の左腕をかませたまま、右手で銀狼王の首をねじ上げた。自分の腕が食いちぎられるのが先か、狼の息の根が止まるのが先かの死闘の末二瓶は狼を仕留める。
 吹雪の中、古老の家に転がり込む。
1524  禁断 横浜みなとみらい署暴対係
Date: 2010-7-30

すすめ度 ★★★★

 今野 敏 著  徳間書店  発行:2010年6月

神奈川県警みなとみらい署の諸橋と城島が桜木町のスナックで飲んでいると横浜では見ない顔の男達が騒いでいた。静かにしてもらいたいとそいつらのそばに行く。坂東組の名をかたり横柄であったが、そのうちに一人が諸橋たちの身元に気付いたのか帰り始めた。下で部下がこの連中を捕まえる。加勢を頼まれて町田のほうからやって来たようだ。横浜に不穏な動きがある。
 田家川は「浜の用心棒」と豪語しているが、素性は広域暴力団坂東組傘下の田家川組の組長だ。その経済力を背景に神奈川県下の政治家や財界人と広く付き合いがあり、横浜の名主のつもりでいる。
 本牧埠頭で宮本という新聞記者がドザエモンであがった。少し前に大学生がヘロインの過剰投与で死んだ。この横浜に新たなヘロインの供給源ができたようだ。需要のないところに需要を作り出している。供給源の正体を突き止めなければならない。
 最近、中国から日本の警察に研修生が入った。横浜と上海、雲南省と藤沢が友好都市だからとかで中国武装警察の将校を受け入れたそうだ。雲南省はミヤンマー、ラオスの国境にありいまだにケシ栽培が行なわれている。諸橋は不安に思った。将校は蘇公栄と関係あるのではないか。
 田家川組の組員が殺された。宮本と同じ場所で見つかった。手口が同じだった。
諸橋は田家川に会う。同じ稼業の奴の仕業ではない。胡生光という蘇公栄の部下が怪しいという。チャイニーズマフィアとは違う組織の雲南コネクションが怪しいという。しかし、蘇とのつながりはつかめない。上層部は蘇公栄が黒幕であることを黙認しているのか。あくまでも研修だと言い張る上層部。大学生が死んで6日しか経っていないのに田家川の組員が死んだ。
 よりによって諸橋が蘇公栄の研修をすることになる。金曜日と月曜日だ。蘇は研修を始める1週間前に横浜に来ていた。それを追及すると観光だと言った。蘇に宮本の死はヘロインの供給源が中国だということを突き止めていたからだと、あえて蘇に伝えると態度が変化した。殺された宮本はかつてタイ支局にいた。雲南省とは目と鼻の先だ。
 山下町のビルに捜査員が配置された。李将喜を逮捕した。宮本を殺した容疑である。田家川は李将喜を使って諸橋を殺そうとしていた。
 李将喜は蘇のかつての部下だった。田家川は自分が逮捕されるとは思ってもいなかったようだが、諸橋は田家川に逮捕状が出たことを告げる。
1523  写楽 閉じた国の幻
Date: 2010-7-28

すすめ度 ★★★★★

 島田 荘司 著  新潮社  発行:2010年6月

 周囲が焼け焦げた紙に長い顔におちょぼ口の町の女の絵が描いてある。紙は現代のものではない。浮世絵の下絵か、それにしても醜女の図である。画という字に特徴があり、一と田で構成されている。よこ一棒に中央の縦軸が届いていない。この字の特徴は浮世絵史上、喜多川歌麿か写楽である。
 これを調べようと佐藤は息子と出かけた書店で手間取り、飽きた息子はさっさと六本木ヒルズに向かってしまった。あわてて飛び出し、車に戻ったが追加のコインが入らない。いったん出てバックして入れようとすると、出た隙に次の車に入られてしまった。すると車を出さざるを得ない。駐車場を待つ列に再び並んでやっとのことで車を駐車できた。
 その間に、子どもは六本木ヒルズの回転ドアに挟まりすでに事故死していた。まだ6歳だった。自宅に帰ると「人殺し!」と叫ぶ妻。義父も容赦のない言葉を浴びせる。佐藤は出ていけといわれ、やむなく妻が結婚前に住んでいたマンションに行く。
 葬儀は義父が喪主となって進められ、当然、ドア事故の訴訟を起す準備も進めていた。
この事故を当事者ではない学識経験者や技術者が集まって事故の究明をする会議がもたれた。その場に佐藤も出席を依頼された。女性の工学部の片桐教授もメンバーだった。
 しかし、心ここにあらずで、息子をなくし妻を狂乱させ、絶望した佐藤は死のうとした。片桐教授に助けられ入院する。佐藤はこの1週間食べるものも食べず、眠れない日が続いていた。
 少し体調が回復し、頻繁に見舞いに来てくれる片桐教授に今、自分が調べていることを話す。片桐教授も協力してくれる。
 佐藤がひらめいた事は写楽がもしかしたら、平賀源内ではないかという説だった。しかし、源内は写楽よりも15年も前に亡くなっていた。写楽は寛政6年5月から翌7年新春にかけての10ヶ月間に140余点の作品を残して忽然と消えた。およそ2日に1枚の製作であった。これだけのものを作りながらなぜ自分が写楽だと名乗り出ないのか。名乗らなくても写楽よりも名の知れた人物だったのではといわれている。歌麿、北斎、蔦屋工房の絵師たち、一九、蔦屋に出入りの彫り師や摺り師、狂歌人などである。のちに能役者斉藤十郎兵衛という説も有名である。
 佐藤が以前に書いた北斎の研究に揚げ足取りのような難癖がついた。佐藤をつぶすかのような書き方である。これには出版社も驚き、佐藤に次の世間を驚かす原稿はないかと迫る。佐藤は自分の写楽説をまとめるつもりであった。
 片桐教授の協力もあり、写楽のこれまでの作品が特に動きのあることに気付く。顔が大きく手が小さい。着物の色も斬新である。何枚も量産するというところに、もしかして、これは蔦屋工房が歌麿に書かせたものではないか。歌麿は自分が書いたことを伏せることを条件に従ったのではないか。歌麿を説き伏せられる人物は蔦屋重三郎しかいない。そして、下絵は外国人が描き、歌麿が直し、蔦屋工房で量産したのではという説が成り立った。外国人ならこれまで日本にはない画法で描ける。外国人、つまりオランダ人では・・・。そして28枚もの大量のシリーズ絵も可能な豪華版の絵ができているという事実。歌舞伎をはじめてみた外国人なら、見たままの驚異をそのまま現している技法に着目した。そしてそれを量産のために、敷き写しをしていたのではないか。オランダ人の江戸参府、異国人の歌舞伎の鑑賞記録などないか。片桐教授がオランダのハーグ中央文書館まで飛んでくれた。江戸参府年リストと4年おきにあった江戸参府がヘンミーの掛川で死んだ年とも命中していた。商館長だった3人の名前も分かる。そのうちのウィレム・ラスという人物が写楽の存在したころの人物だった。それらの外国人を対応した日本人名も記録が残っていた。
 ここまで分かれば、新たに本を出しても佐藤を誹謗しているK社に勝てる。

1522  あれから
Date: 2010-7-23

すすめ度 ★★★★

 矢口 敦子 著  小学館  発行:2009年3月

 千幸は看護師として働いている。付き合い始めて半年になる男友達笹本がいる。彼は弁護士で日夜駆け回っている。会えるのは半年でたったの4回である。その彼から指輪をもらった。プロポーズである。千幸が高校生のとき、大学生だった彼と一時期ある事件を調査したことがあった。ある事件、それは千幸の父が痴漢をしたといわれ、頭に傷を負って帰宅し、翌日救急車で運ばれ頭にたまった血を抜いたが、父は回復に向かうと思われた矢先に窓から飛び降りて自殺した。痴漢を見つけた男子大学生は父ともめた際にホームに落ちて死んだ。千幸はそんなこととは知らず、父が痴漢をするわけがないとその被害者の女の子や痴漢の現場を知っている人がいないか調査を始めた。それに付き合ってくれたのが、最近プロポーズしてくれた笹本だった。
 瑞江は卵巣嚢腫で偶然にも千幸の病院に入院した。瑞江はあの時、被害者だった子である。名札を見ても気がつかなかったが見たことがある人だと思った。そして、他の看護婦から10年前にいろいろあったことを聞く。父親は自殺し、中学生だった妹も自殺した。母の実家の千葉県に引越し、母の姓を名乗っていたが、その母も亡くなったという。
 瑞江は中学のとき母が再婚した。新しい父との関係をねたんだ母から追い出された。やむなく東京の大学にいる兄を頼ってきた。しかし、兄は学生の分際で株を始めてうまくいかずサラ金からも追われていた。兄と共謀して痴漢をしたと言いがかりをつけ男から金を巻き上げることを始めた。瑞江は兄が死んだとき、なぜか痴漢にしてしまった男の名前を覚えていた。心にひかかっていた。
 病院で千幸から「打ち明けたいことがある」といわれたとき、とっさに「辛い過去のことを語らないほうがいい。未来に視線を向けるべきよ」と瑞江はいった。千幸はつき物が落ちたように晴れやかな気分になった。
 千幸は笹本にいったん返した指輪をもう一度はめさせてもらおうと思った。
1521  長生き競争!
Date: 2010-7-20

すすめ度 ★★★★

 黒野 伸一 著  小学館  発行:2007年11月

 偶然コンビニで小学校時代の同級生に出会った。顔立ちに昔の面影が残っており、65年ぶりでも白石聡だと相手は気付いた。自分も相手が良くケンカをした吉沢弘だと分かった。
 吉沢たちは3ヶ月に一度の割で同窓会を開いていた。小学校4年から6年までクラス替えもなく同じメンバーだったという。白石は八幡神社の裏に中古の物件を買って1週間前に越してきた。町の変わりようは驚くほどだった。
 同窓会のメンバーは自然と長生きの賭けをしようということになった。一口4万4千円。二口は44万円。三口が440万円。4口が4400万円とした。ところが、同窓会の次に日亡くなった。動脈硬化だった。
 白石は長身の若い男から逃れようとしている20歳のエリを助ける。ほどなくエリが白石の家に転がり込んできた。行くところがないという。白石は妻をすでになくし行き送れた40代の娘智子がいたが、時々しか帰ってこない。二階の8畳間を貸すことにした。
 賭けの金も集まり始めた。博夫は4400万円を差し出した。皆はたいてい440万円だった。聡もそれぐらいにしようと思っていた。
 智子が帰ってきてエリがいるのに驚くが南極一号とエリのことを呼び、エリは智子に何を言われても聞き流している風だった。
 エリはHIVに罹っていた。すぐに一緒にいた男も検査するように言う。男は陰性だった。エリを取り返そうと何度か白石家に来ていたが、エリの病気であきらめたようだ。
 エリは日に日にやせ細り、とうとう死んでしまう。
白石の同級生も一人、また一人と亡くなり、最後は規子と白石だけになった。
規子には痴呆の義父がいて、少しおかしくなっている夫もいた。白石は、あの掛け金で義父を老人ホームに入れて楽になれという。しかし、規子は言うことを効かなかった。
 やがて、白石も肺がんの告知を受ける。放射線治療に耐えたが、まだ治療は続いていた。
そして明るい光の中にいた。夢ではなさそうだった。目が開かなかった。

1520  小暮写真館
Date: 2010-7-15

すすめ度 ★★★★

 宮部 みゆき 著  講談社  発行:2010年5月

 花菱英一は都立高校の1年生。両親が結婚20周年を機にマイホームを買った。マイホームと言ってもモルタルの二階建て築33年の「古家あり」の土地。壊すのはもったいないとリフォームして住むことになった「小暮写真館」だった。
 写真館のおじいさんは15年前に妻に先立たれ、80歳を過ぎて一人で店番をしていた家である。横浜の方に住んでいた娘さんがおじいさんの死後売りに出した。
 家の前にウインドウがあり、小暮写真館という看板も残っていた。部屋の中にはスタジオもあった。リフォーム後は、ウインドウもスタジオも面白いと残した。スタジオがリビングになった。
 女子高校生が写真を持ってきた。いわゆる心霊写真で大勢が写っている中で一人テーブルの下に女の人が写っていた。写ってはおかしい場所だった。フリーマーケットで買ったルーズリーフの中に挟まって小暮写真館の封筒に1枚だけ入っていたという。
 英一には店子力という小学校からの親友がいた。店子はテンコとよばれ、父親は歯科医を開業していた。英一はその写真に写る人を訪ねることにした。まず、ここを売った不動産屋から始める。
 不動産屋では少し変わった若い事務員がいた。社長は写真の人たちを知っていた。教えてもらった千川町へ行ってみる。2、3年前に家事で写真の中の7人のうち3人が死んだという。テーブルの下に写っていたのは、そこの家のお嫁さんだった。家事ある半年ほど前に出て行った。生きている生霊だ。英一はそのお嫁さんも訪ねた。元は学校の教師だったその人は、写真を見てつらい結婚だったことを話すが今は再婚していた。
 小暮写真館に死んだおじいさんが店番しているといううわさが流れる。英一の家には両親と弟の光がいた。光は頭がよく私立の小学校に通っていた。英一より8つ下だった。ピカと呼ばれていた。英一とピカの間に風子という女の子がいたが、小さいころに亡くなっていた。
 またしても心霊写真が持ち込まれた。テーブルに座る4人の後ろに縁側に座る3人。テーブルの人は笑っているのに縁側の人は泣いている。3人の身体越しに自転車が写っている。英一はまたしても調査を始める羽目になった。
1519  ブラック・ローズ
Date: 2010-7-13

すすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  幻冬社  発行:2009年12月

 朝、父を起こそうとドアを開けた。そこにはネクタイで首を吊った父の姿があった。唯が高校三年生の時だった。
 作家の河田泰三の元で唯は「サムライ刑事」のドラマ化を交渉していたが、映像化すれば作家の世界観が損なわれると納得してくれない。そこで唯は「トータルプロデューサーを原作者にさせると約束してこの「サムライ刑事」のドラマ化を取り付ける。
 主演は桂木直人22歳。女子中高生に絶大な人気を誇る引っ張り凧の若者だった。しかし、桂木は仁科チーフプロデューサーが別の作品に起用することを決めていた。そこを強引に唯がサムライ刑事に抜擢すると発表した。作家は主人公の刑事は45歳、22歳の若者ではイメージが違うとわめくが、唯は説き伏せる。
 桂木直人とまだ十代と思われる女性の性交シーンが撮られた写真があった。週刊誌に乗る前に唯がもみ消す。出所は主役を横取りされた仁科チーフプロデューサーだろう。唯は、仁科に「死に追い込んだ父の敵をとるためにテレビ局に入り、仇の懐に飛び込みじっとチャンスを窺っていた」とぶちまける。仁科の部下の圭介もその成り行きを聞いていた。そして「仁科さんではなく君をとる」といわれる。
 その桂木直人が交通事故にあった。急遽主役の変更を迫られた。仁科王国をつぶすために視聴率も上げなければならなかった。桂木直人とうわさのあった菊池真弓の起用も決まっていた。人気絶頂の芸人和田翔太に決めた。元暴走族で名をはせてもいた。
 サムライ刑事は初回35パーセントを上回った。6回目では37.7パーセントだった。さらに、わざと痴漢劇を電車内で起し「サムライ刑事が痴漢犯を捕まえる」と新聞や女性誌をにぎわせた。
 第8話が44.8パーセントになると唯は社長表彰を受けた。ところが、この喜びもつかの間「お前の天国も今週で終わる」と仁科が言う。仁科は桂木直人襲撃事件で解雇される。その仕返しが、なんとサムライ刑事の和田翔太の淫行写真だった。
 サムライ刑事は9話で打ち切られる。唯は仁科を「落とす」ことが狙いだった唯には非難を受けようとも悔いはなかった。
 父の11回忌、1ヶ月前にテレビ局を辞めた唯。父の墓の前で圭介が唯にプロポーズする。

1518  吉備古代の呪い
Date: 2010-7-10

すすめ度 ★★★

 西村 京太郎 著  双葉社  発行:2009年2月

 吉野文彦がホテルで死んだ。妹がホテルに電話してルーム係の男性が見つけた。文彦は古代史研究グループから招待状をもらって岡山から上京していた。7月10日のことである。
 しかし、その古代史研究会というものに問い合わせると、そんな招待状は出していないという。文彦は「吉備 古代の呪い」という小説を郷土新聞に連載していた。
 日本が倭と呼ばれていたころ、吉備は大和朝廷の時代、百済からの渡来人によって鉄の技術を得ていた。桃太郎伝説は平安中期に作られたおとぎ話であるが、吉備津彦の温羅退治から急速に広まったらしい。
 日本古代史研究会には佐伯賢生が会長を務めていたが3年前に癌で亡くなった。佐伯には明生という5歳下の弟がいた。同じように古代史を研究していた。この男が吉野文彦をだましたのか。小説を本にするという話で吉野は500万円を持って上京した。
 ところが8月になってその本が出版された。72歳の元代議士の五十嵐保と吉野文彦の共著である。10万部の出版であった。
 吉野文彦の妹の話によれば、佐伯賢生と名乗る人物が訪ねてきて文彦の小説をほめたたえ招待状を後日送ってきたという。
 十津川警部と亀井は岡山に行く。ニセの佐伯賢生を調べるために。 
 

1517 夜行観覧車
Date: 2010-7-4

すすめ度 ★★★★★

 湊 かなえ 著  双葉社  発行:2010年6月

 ひばりが丘には山側と海側があるが、坂を上がった山側の高級住宅地。そこに住む高橋家は御主人が医師で20年ぐらい前に越してきた。現在は両親と大学生の長男と女子大生の娘と高校生の二男がいた。その家で事件が起こった。妻が医師の夫を殴り殺したというのだ。その時、二男はコンビニに行っていたがその後、行方が分からない。長女は友達の家にいて、長男は実家から離れ学校の近くに住んでいた。
 高橋家の向かいの遠藤家は両親と高校生の娘がいる。40坪ほどの小さな土地で車庫にでもするのかと思ったら、細い鉄骨を建てあっという間に家が出来た。この地域に似つかわしくない家だった。遠藤家の娘は母親をババア呼ばわりし、大きな声で私立高校に落ちたのはお前のせいだと罵倒していた。建築関係の仕事をしている父親は娘に意見すらできない。娘の癇癪は度を越して手がつけられない。母親は家計の足しにスーパーに仕事に行っていた。母親はこの土地柄が気に入っていた。高級住宅地と言うことで満足していた。
 遠藤家の隣の小島さと子はせっかく二世帯住宅にしたが、息子夫婦が一緒に暮らしてくれない。30年以上も前からここで暮らしている。隣のババア呼ばわりをする家族がこの地になじまないと不満であった。
 事件の日、遠藤家は高橋家の悲鳴のようなものを聞いていた。しかし、他人のことに口をはさめないと黙示した。静まってからコンビニに行った。行く前に帰ってきた夫と顔を合している。コンビニでは高橋家の二男がいた。金が足りなかったのか、遠藤の母親から千円を貸してほしいと頼むが、千円札がなかったため一万円札を渡される。
 コンビニから戻ると高橋家にはパトカーが来ていた。どうなっているか分からず、次の日、警察が物音を聞かなかったかと尋ねたが、聞こえなかったと答えた。
 そして、ニュースで妻が夫を殺したとわかった。でも、二男の行動もおかしい。
 高橋家は嫌がらせのビラが貼られたり落書きがされた。娘は叔母のうちに身を寄せていた。
 事件があっても遠藤家の妻はパートを休まないで出かけて行った。夜になって娘と母親が口論になる。何が何だか分からなくなった母親は娘の口に食べ物を詰め込み、上乗りになり首を絞めていた。
 隣のうちの口げんかで外に出た小島さと子は、外に父親がいるのに止めもしないでおろおろしているのが腹だたしく、自分が意見をしてやるとばかりに遠藤家に行く。チャイムを鳴らしても出てこない。回って窓から見ると母親が娘の首を絞めている。とっさに痴漢防止のブザーを鳴らしたのを室内に放り込んだ。その音でやっと手を緩め、自分のしていたことに気がついた母親。ふりかえると父親はすでにいなかった。父親は会社に逃げた。娘はすんでのところで命拾いをした。小島は意見をする。
 そして、父親が考えた。夜中に前の家のビラや落書きを消すことだった。
高橋家の子供たちは落書きを消す人たちを見た。向かいの家の者が3人と高橋家の長女の友人が2人手伝っていた。
 二男は父が自分に過度の期待をし、勉強を厳しく強いるのに応え頑張っていた。百人中34番まで回復したのに、バスケット部を辞めろと言われた。下にゴルフパットを取りに行き、階下で父と母が口論になり、母親がコンビニに行くように言われたのでそれに従った。帰ってきたらパトカーがいた。家には入れず兄と姉と合流した。
 記者会見で二男は自分を助けるために母は危険を察知し、父を制するためにトロフィーで殴ってしまった。そして殺してしまった。どうか母を助けてくださいと訴えた。
 小島さと子は高橋家の保護者変わりとなっていた。
1516 白い砂丘
Date: 2010-7-1

すすめ度 ★★★

 長野 慶太 著  小学館  発行:2007年10月

 山崎和也は面接に行った日に社長から横浜ベイスターズの野球観戦に誘われた。採用された条件にアメリカで仕事をすることだった。アメリカには別れた妻ナンシーと娘のエリカがいる。エリカはまだ8歳だった。ナンシーとは14年も結婚生活を続けた。ナンシーも石井も20歳で、留学生だったナンシーは国文学を専攻していた。横浜の元町で婚約をした。
 和也の会社は200店舗の和食ファミリーレストランを持つ会社である。レストランはサマリンという。
 日本にいた時、妻と娘は帰宅した青山のマンションから居なくなっていた。失意のうちに渡米し、温泉街の三助をやりながら、日曜日に娘のエリカの会うことを楽しみにしていた。しかし、長引く滞在で不法就労者となり国外退去になった。そしてファリミーレストランのサマリンに雇われたのだった。
 入社3ヶ月後、和也はアメリカ・ニューメキシコ州のサマリンアメリカに着任した。此方の社長は30代女性の井上恵子だった。アメリカ人の夫と離婚してずっと此方に住んでいるという。他に二人アルバイトがいた。
 恵子はアメリカ最大のファミリーレストランチェーンのジョーンズ社に和也を連れていく。ジョーンズ社では2人の男が対応してくれたが、恵子の準備不足と和也の情報不足で相手を怒らせてしまった。和也は日本の本社との会議で帰国する。和也は高橋と石井の喧嘩を止めた。石井は部長職になり、高橋と順位が一段上になっていた。高橋の「垂直統合」という提案書が石井のごみ箱に入っていた。
 1ヶ月後、和也と恵子は日本の本社とジョーンズ社との間で提携の話をすすめていた。総論では大きく進んだが、詳細部で双方がことごとく対立した。
 ある日、恵子がサマリンアメリカ社の登記が吉村社長のものではなくアメリカ人のものになっているという。
 日本に飛ぶ。エリカを久しぶりに山梨の両親に見せられる。サマリンアメリカ社は新たに境副社長とグリスタインの作った会社として登記してあった。
 寝返ったとされた石井が自殺する。吉村社長からは身売り先を探してくれと頼まれる。
ジョーンズ会長から和也に電話が入る。新しいサマリンアメリカ社を解散させ、古いサマリンアメリカ社を復活させ、グリスタインは会長がクビにしたという。ジョーンズ社にサマリンを買ってもらう交渉をすすめた。
 ナンシーは再婚するという。夫となるのはテネシー州の男だった。7か月後にはエリカの次の子が産まれる。
1515 神の手 上・下
Date: 2010-6-30

おすすめ度 ★★★★★

 久坂部 羊 著  日本放送出版協会  発行:2010年5月

 古林章太郎21歳は末期の肛門癌で吐き気と体をねじ切られるような痛みと闘いながら、主治医白川の治療を受けていた。章太郎にはエッセイストの母がいるが、母の姉の晶子が何かと面倒を見ていた。育ての親と言っても過言ではない。楽にしてやりたいと晶子は思うが、医師は母親からの承諾が得られていないうえではそれを行うことは避けていた。苦しむ章太郎。章太郎が危篤だと言ったが、行けたら行くという返事にまつがとうとう最後まで母親は来なかった。半年の入院で母親は2回しか見舞いに来なかった。
 母親はエッセイを書きながらテレビのコメンテーターもしていた。章太郎の死後、いきなり白川が安楽死させたとテレビで取り上げた。これに端を発して、安楽死が必要な場合があるという意見と、安楽死は医師の放棄の表れだと反対する意見が出てきた。
 白川は安楽死させた医師として取り調べられる。医学の見識のある取調官が、白川のカルテの記入ミスや安楽死をしようとしていた状況をついてきた。しかし、突然に白川の不起訴が決まる。取調官は「先生にはよほど大物の後ろ盾がいらっしゃるのですね」と言われる。白川の不起訴を山名に問うが知らないという。白川は不起訴の後、白川の医師ぶりは好意的に書かれ始めた。「日本で一番かかりたい医師」の一位にも選ばれた。
 敗血症性ショックで入院していた鴨志田は3日目より回復の兆しが見られた。「24時間オンエアー」のテレビ番組で鴨志田の結婚記念日の11月23日に会わせて退院を設定し治療を急いだ。結果、鴨志田は回復どころか悪化するばかりだった。肝機能の低下で唇も牛蒡のように黒ずみもはや生きる死体のようだった。家族は人工呼吸器を止めることを望んだが、医師たちは「医師は患者に最良の医療を提供する義務がある」と血漿交換を行った。
 24時間オンエアーではこれまで延命治療を途中で控える医師を批判していた浅井医師は、鴨志田の症例を出し、これまでの持論を翻し、勇気ある撤退も必要である。いのちを見捨てるな、いのちの線引きをするなときれいごとを言ってきたが、理想主義ではどうにもならないことを目のあたりにしていると言いきった。この放送は「防止連」の敗北をにおわせた。
 担当医だった大塚医師は治療を中止すれば鴨志田の死が明らかだったと言った。そして数ヵ月後大塚は自宅で自殺してしまう。「反安楽死ドクター、自作の安楽死」と書き立てられた。その日は安楽死臨調の最終答申の日だった。
 白川は雪恵にプロポーズを断られて傷心していた。妻からも離婚の慰謝料を多額に要求されていた。山名の紹介で京洛病院から白金メディカルに勤務場所を変えた。が、ほどなく山名からいきなり白金メディカルを辞め山梨の診療所へ行くように言われる。安楽死反対派の新見医師からの依頼を受けていたことが山名の気に障ったようだ。
 一度は断った山梨の診療所も雪恵のアドバイスにより思い直して勤務することになった。
ここの仕事が「制度に縛られない思い通りの医療ができる」「患者の心をいやすことができる」ことを知る。
 雪恵が訪ねてきたとき、自分が山名医師の命令で連絡を取っていたと告げた。その山名も元首相佐渡原の安楽死に手を貸したあと、千葉の山の中で遺体となって発見された。
 安楽死法の成立を受けて「選択肢としての安楽死」という題でシンポジウムが行われ白川は進行役をやった。この法が出来るまでに医師や患者、関わった人たち12人が亡くなったことを白川は回顧していた。
 安楽死の薬「ケルビム」を開発した神武レジェンド製薬の村尾が「いい薬ですよ」と試供品を渡していった。
1514 恋する空港  あぽやん2
Date: 2010-6-26

おすすめ度 ★★★

 新野 剛志 著  文藝春秋  発行:2010年6月

 大航ツーリスト成田空港所に勤務する遠藤、グアム支店から派遣された枝元をOJTすることになった。が同じ年の枝元は覚えが悪い、ミスも多い、仕事は遅いで梅雨上げの時期になっても覚えてくれない。普通のOJTは3週間で済むと言うのに遠藤は頭が痛い。
 そこへハマ・コウというテロリストと同じ名前の客が搭乗者名簿にあった。隣の警察からその男が着たら連絡する様に言われた。ところが、その男が来て隣に連絡するも誰もいない。延々と待たせて、搭乗時間になってしまった。止む無く搭乗させる。その時、枝元はハマ・コウに「あなたがテロリストなら世界を変えてください。かんばってください」とメモを渡す。しかし、このハマ・コウはテロリストではなかった。後日、オーストラリア航空機事故で事故死する。あの時もテロリストではないとわかり警察は帰ってしまったが連絡ミスで枝元や遠藤が知らないでいた。
 妊婦が搭乗する予定であったが、待っている間に産まれそうになり地下のクリニックに運ばれ無事生まれる。この妊婦は予定日を過ぎているのに、予定日は1カ月先だと偽って搭乗しようとした。
 森尾晴子は遠藤の先輩である。遠藤はここにきて1年たった。森尾は隣の警察官の相田から付きまとわれていると相談される。困った遠藤は隣の警察の上司に相談する。相田からのストーカーはおさまった。
 枝元の本採用はしないことに決まった。その事を遠藤から江元に話すように言われる。本人を傷つけないように遠藤は空港所が近い将来なくなることやできるだけ早く次の道を考えたほうがいいことを伝えた。
 遠藤は森尾をレンタル農園に誘った。そしてさっと手を伸ばし森尾の手を握った。遠藤は恋をした。
1513 民王
Date: 2010-6-21

おすすめ度 ★★★

 池井戸 潤 著  ポプラ社  発行:2010年5月

 通常閣僚名簿は、官房長官が読み上げるが今回は武藤泰山首相が読み上げた。
 国会で質疑を受けていた泰山、合コンで女の子たちと飲んでいた泰山の息子翔はドンペリを飲んで幻聴を聞いたような気がして目が覚めたら泰山と翔が入れ替わっていた。というより脳波が入れ替わっているのだ。人から見れば翔は泰山に見え、泰山は翔に見えた。
国会中の泰山はマイクの前で野党の蔵本が答えを迫っていた。鶴田が「総理に変わって私が答えます」とその場はつくろってくれた。翔は早々に家に帰る。
 泰山もいきなり変わった周りの人にびっくりするが、総理の息子ということで殴られらる。家に帰るなり、翔は親父と間違えている母親から「一億円やるからいままでの女の子とは忘れてといったでしょう。ちょうだい」と言われる。
 泰山も帰ってきた。翌朝、翔は就職活動に行くのだが、泰山が行く。翔は泰山の代わりに国会に行く。「コーセーロードー大臣がお答えします」と難を逃れた。泰山はしょうの受ける銀行の面接を受けた。しかし、面接で民政党の悪口を言われて一席ぶってしまう。
 翔は国会で漢字を間違えて読んでしまった。惹起をワカオキと読み、未曾有をミゾユー、派遣をハヤリと有無をユウム、所存をトコロアリ、踏襲をフシュウと読んでしまった。あわてた隣の席の城山は叱責した。公認秘書の貝原も泣きそうな顔になった。
 テレビでは小中寿太郎が政治評論家の立場で「情けないの一言だ」と嫌味な関西弁で答えていた。
 自分たちが入れ換わった原因を考えた。歯科医に行った。しかし、その歯科医は存在しなかった。
 泰山の周りを怪しげな男がうろつき始めた。蔵本の秘書だと分かる。この入れ替わりに蔵本が関係しているのか。
 泰山は翔の代わりに学校へ来ていた。小中の授業を受けていたが、我慢ならなくなって「モラルと声高に叫ぶ前に、シリウスの女性に毎月五十万渡しているらしいじゃないですか」と食ってかかる。
 就職先の面接も片っ端から偉そうにふるまうので混乱を起こしていた。
 アメリカ大統領が来て、泰山は「マイウエイ」を歌っていた。そして、なんと元に戻ったのである。
 泰山は衆議院の解散を宣言する。
1512 おたふく
Date: 2010-6-21

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  日本経済新聞出版社  発行:2010年3月

 特撰堂は1674年創業の老舗である。二代目に変わった頃、将軍が綱吉から6代目家宣に代わっていた。しかし、家宣は在位3年で没し、家継は4年目にわずか8歳にして逝き、吉宗が八代将軍となった。特撰堂も3代目で4度も改元を迎えた。4代目は男子2人を設けた。長男は豊一朗、次男は裕治郎である。25歳で豊一郎は6歳下の嫁をとり、名も太兵衛と改めた。3年後、弟裕治郎も5歳年下の料理屋の娘みのりを嫁にもらった。
 武家に金を貸す札差に老中松平定信は棄損令を発布し借金の棒引きを行なった。札差はいっきに金貸しを渋り、金を使わなくなった。不景気に見舞われた。
 裕治郎は門前仲町に50坪の平屋を借りた。兄の太兵衛から500両が用意された。裕治郎は普請場で働く職人に弁当を作ることを思いつく。握り飯におかずである。それを深川には無数の水路がある。水路を使ってあちこちの普請場に運ぼうと考えた。
 最初は夫婦と船頭の富三郎と雇った夫婦の5人で始めた。50食の弁当を作った。おかずは日替わりで2品である。そのうち、梅干を入れることを教えられ梅干も入れる。屋号も梅屋、家紋は梅鉢にした。火の見櫓を見て、そこで働く人への弁当も考えた。本所深川で16組、火消し人足は千二百人以上いる。これを江戸府内の火消し人足にもとなると6千は超える。この儲けを横取りしようと企んだ奴がいた。
 梅屋の弁当を食べてしゃくりにかかったって死んだというものが出た。取り調べた医者は死んだものを放置したままったことや手足の硬直が硬いことから、これがうそだと見破った。
 不景気なのだが、兄の太兵衛は相変わらず売れるときと同様に仕入れをしていた。奉公人達も首を着られることなくいつもどおり働いていた。金を回さなければ、作ったものが潤わないとしてあえて使っている。裕治郎は、特撰堂のそのやり方を兄に改めるように進言するが、兄は兄で弟が渡世人の橋本堂と付き合っているのをいさめる。しかし、裕治郎は橋本堂の親分は知恵の詰まった全うな人だと譲らない。
 太兵衛は橋本堂に出向く。頭こそ下げないが、奉公人の不始末のわびを偽りのない気持ちで言う。太兵衛は橋本堂との話を裕治郎には内密に頼む。

1511 母 オモニ
Date: 2010-6-19

おすすめ度 ★★★★

 姜 尚中 著  集英社  発行:2010年6月

 鉄男(姜尚中の幼名)の母は2005年4月3日に亡くなった。母オモニの人生は戦争をくぐりぬけて3人の子を育て、時には義理の兄弟の面倒もみながらの人生だった。
 熊本空港に近い斎場で葬儀は行われた。「オモニ字が読めんで義姉に読んでもらったと」と「在日」という本を書いたとき喜んでくれた。
 鉄男の両親は釜山から50キロほどのところで生まれた。見合いを済ませた父が日本に帰り、まだ若かった母が追うように日本にやってきた。最初は巣鴨3丁目だった。東京大空襲に会い、熊本へ逃げた。熊本では叔父のテソンを頼っていった。終戦後、テソンは妻子を置いて韓国へ戻った。やがてテソンの妻子も鉄男たちの下を去り、両親は豚を飼ったり、廃品の回収で生計を立てていた。初めて生まれた子が春男というが幼い頃亡くなった。次に正男が生まれ、3男の鉄男が生まれた。母を姉さんと呼ぶ京子さんとその夫の岩本さんと一緒に暮らした。岩本さんも韓国の人だった。両親がすでに死んで釜山から下関へ着き、熊本に移り住んだ人だった。
 父が運転免許を取り本格的に屑屋を始めた。テレビで力道山が活躍の頃テレビも入った。
 叔父のテソンから20年ぶりに手紙が来る。妻子がある身なのに韓国で結婚したという。そしてオモニの葬式を済ませたと書いてあった。父は泣いた。
 30年ぶりにオモニは釜山に戻る。弟のサンチョルが迎えに来ていた。母は16歳のときに出てきて以来だった釜山の街。墓参りもした。日本の電気釜に聖徳太子を50枚つめて弟に土産として渡した。
 テソンにも会えた。テソンはその頃は羽振りも良かった。その後、テソンが日本にもやってきた。テソンは事業を起こしては失敗しとうとう誰にも見取られずに死んだ。
 第二の父親のように思っていた岩本が死んだ。1年も経たないうちに父がすい臓がんで亡くなる。古希のお祝いの年だった。
 2003年の母からのテープと1980年鉄男がドイツへいっていたとき母が鉄男へ向けたテープが母の一周忌の折に出てきた。「お前は先のことばみとるごたるが、足元も見らんと。お前とふたりだけの話がしたかったとばい。人のウラとオモテがようわかっとらんと」
1510 白と黒が出会うとき
Date: 2010-6-18

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  河出書房新社  発行:2010年4月

 恭司は城南病院の医院長に「この病院は余命1カ月の末期がんの患者だと思ってください」と、同じ光稜会の明応総合病院から5億円の資金提供をさせるよう両病院の理事長、院長に告げる。恭司は久我と組んで明応総合病院からの融資があるまでの1カ月でノンバンクや街金への手形を乱発し倒産させるつもりだ。
 明応総合病院は優良病院であったが、ハーバード大学出とウソをでっち上げ敏腕な経営者を装い、塚田を城南病院に送り込んでいた。このままでは2つとも共倒れになるだろう。
 恭司の父は胃潰瘍の悪化ということで死亡したが、実は医療ミスだったと母がトイレで看護婦たちの立ち話を耳にしていた。病院を相手取って訴訟を起こしたが無駄に終わった。そして数年後母も亡くなった。中学のころからぐれ始めた恭司は20歳のころ、医療コンサルタントを立ち上げた久我のもとで働くようになった。恭司は勉強した1日10時間以上である。久我の仕事は再建を餌に病院の乗っ取りであった。
 作家の依頼で看護婦の取材と称して恭司は早苗に近づく。早苗は評判のいい看護婦だった。早苗の父が肝臓移植しか生き残る道はないことを知っていた。アメリカの病院で移植手術を受けることをちらつかせ仲間に引き入れる。早苗は恭司の冷たい目が気になっていたが元来の正義感から悪いようには取らなかった。
 やがて、同僚から早苗もだまされていると忠告されるが、父の渡米が決まっていた。父は生きられることに希望を持った。ところが、渡米したはずの父が千葉の河原で死体で発見される。はだしで逃げ出したのか全身傷だらけだった。早苗はだまされたことを知る。
 そのことは恭司にも知らされていなかった。早苗を思う恭司は久我の事務所に行く。久我の機密書類を見つける。それを恭司は赤坂署に送る。久我は塚田に刺される。
 3年後恭司は出所した。久我は16年の刑だった。
1509  桃色東京塔
Date: 2010-6-16

おすすめ度 ★★★★

 柴田 よしき 著  文芸春秋  発行:2010年5月

 十数年前に三流大学を出て警察官採用試験に合格した黒田岳彦は、巡査部長試験に受かり27歳で本庁勤務となった。一度のミスで出世を絶たれてしまった。
I県とT県の県境の縹村(はんだむら)という過疎の村に捜査に来た。逃げた犯人の実家がこの村にあった。無人駅からバスは2時間に1本しかない。ミニパトに乗った小倉日菜子が迎えにきた。捜査課係長だという。8年前は学生だったと言うからまだ20代だろう。日菜子の夫も警官だったが交通規制中に撥ねられて死んだ。
犯人の真一は両親がすでに死んでいた。別れたはずの同級生のめぐみは東京で精神を病んで帰郷していた。日菜子は東京へ出て行った男は戻らないというが、岳彦の泊まることになっていた民宿の座卓に「明日出頭します」と書かれた紙があった。真一は出頭してきた。2ヶ月後日菜子からめぐみが妊娠したと連絡してきた。村では28年ぶりに生まれる子だった。
研修のために上京した日菜子は同級生だった達男の店に行った。そこへ黒田が現れて達男の婚約者香苗を逮捕した。香苗は元の夫を殺害した。
日菜子は黒田に東京タワーの見える六本木ヒルズに連れて行ってもらう。その夜、二人は携帯のメールを交換した。
隅田川沿いで60歳のホームレスの男が刃物で刺され殺された。被害者の本籍地が大杉村で日菜子のいる近くだった。すぐにメールをする。被害者石田は5年前にリストラされていた。退職金を村に寄付していた。実家の前にある渡れなくなった橋を直してほしいと。しかし、橋は直されないままであった。小さな橋だが3千万の予算が必要だった。村はそのまま放置した。日菜子に連れられてその橋を見た。住まなくなった3軒の家と壊れたままの橋があった。
日菜子の好きな場所に連れて行ってもらった。丘の上だった。丘の石塚にペンキでGとかいたところを見つける。気になった黒田は、日菜子と別れた後、再び丘に登りそこを掘った。拳銃が出てきた。将棋の駒のストラップも落ちていた。日菜子の同級生だった勝馬のものだった。日菜子に報告すると「彼にはできないわ!」と叫んだ。その後、日菜子から勝馬から手紙が来た。拳銃を警察に届けるよう書いてあったという。
黒田は日菜子を好きになっていた。日菜子もあたらしい出発のために小倉の籍を抜いた。
二人とも警官という仕事に向かっていた。根負けして東京を捨てるのは、自分ではないかと黒田は思った。
1508  インビジブルレイン
Date: 2010-6-15

おすすめ度 ★★★★★

 誉田 哲也 著  光文社  発行:2009年11月

 母が死んでから中学生の姉が母の代わりに家事をやってくれていた。その姉も高校を卒業するとアパートを借りて出て行ったが、19歳の時ネクタイで首を絞められ殺された。乱暴をされた跡があり、身体に残された体液が犯人のものとされた。父親が連日取り調べられた。父親は警官の拳銃を奪って自殺した。姉を殺した犯人は暗黙のうちに父親ではないかとされ、この事件は被疑者死亡で打ち切られた。
 しかし、弟の柳井健斗は姉のアパートに行ったあの日、ドアにカギがかかっていた。姉は母の死後、父から性的暴行を受けていた。それから逃れるために家を出た。決して父親には居所を教えなかった。父親がカギを持っているはずがない。姉には同棲していた男がいた。姉とは1つ年上の小林充というヤクザだった。姉の高校の先輩だった。
 9年後、刑事の姫川玲子は小林充の殺された事件を追っていた。血が四方八方に散らかり左目が一文字に割られている。刃は心臓にまで達していた。ところが、この事件で柳井健斗という人物については一切名前も捜査もしてはならないと上から通達がある。
 玲子はかってに図書館で調べた。9年前の父親の銃をうばっての自殺。玲子は、柳井が姉を殺したのは父親ではなく、当時同居中の小林充だと思い復讐のために殺したと考えた。
止められていても柳井を調べる必要があった。柳井のアパートの見える位置で借りたレンタカーから見張りを続けた。柳井は帰ってこなかった。柳井を訪ねた長身の男牧田から柳井の勤務先を聞く。今週は無断欠勤をしているという。連絡も取れない。
 暴力団組長藤元が銃殺されて見つかる。銃から柳井健斗の指紋が出る。
 玲子は牧田から柳井の情報を聞く。牧田に情報を提供してくれていたのが柳井だった。
携帯で牧田とやり取りをするようになり、玲子は牧田にひかれていった。ところが、牧田もヤクザだった。柳井健斗は自宅アパートで殺されて見つかる。遺書には「姉の恨みを晴らすために小林充とそれを擁護した藤元を殺したのも私です」と書かれていた。
 柳井健斗には同棲していた彼女がいた。妊娠していた。何かあったらこれを調べてくれと渡されたものがあった。健斗の勤務先だったパソコンを見る。そこには牧田が健斗から請け負った小林殺しの結果を報告する声があった。
 牧田を信じていた玲子は牧田に会いに行く。本当の真相は・・・・。
1507  京都駅0番ホームの危険な乗客たち
Date: 2010-6-13

おすすめ度 ★★★★

 西村 京太郎 著  角川書店  発行:2010年3月

 尋ね人の広告が載った。「N会の6人の仲間へ 次のスケジュールに従って集合せよ。
8001→1239→C→752=03/06」というようなものだった。
 この広告を持った女性がタクシーに乗って東京駅に向かう途中で大型ダンプと激突して亡くなった。手がかりはこの切抜きと名刺だけだった。名刺の男性は日頃からプライバシーに関して詳しく話すこともなく暮らしていたという。
 十津川警部と亀井刑事は5年前の安井首相が公邸で胸を刺されて死んでいた。そばにN会の佐伯大臣もうつ伏せで死んでいた。佐伯のほうは自ら刺したと思われる。N会とは政治や経済の私塾であった。事故死ということで処理された。報道は簡単で不明瞭なものだった。私塾の仲間は7人である。事件と同時に仲間も消えていた。
 そして、今回の尋ね人欄への広告に刑事が動いた。あの数字は何の隠語なのか。亀井は自宅で考えていた。ふと鉄道おたくの息子が「カシオペアに乗ってどこかへ行くの?」とその隠語を解明した。トワイライトエクスプレスの列車番号、京都を出発する時間、4号車、東室蘭につく時間、最後は3月6日を表している。
 3月6日は何事も起こらなかった。翌日、東京へ向かう寝台特急トワイライトエクスプレスの「カシオペアスイート」に泊まる老夫婦が2人組の男に監禁され縛られた上に眠らされ30万円を奪われた。翌朝老夫婦は車掌によって援けられた。脅しに使った拳銃は本物だったという。
 またしても尋ね人に広告が出た。アメリカ前大統領夫妻が札幌に向かうために乗り込むカシオペアに、原口首相夫妻も乗り込むことになった。
十津川と亀井も捜査に当たる。警察に電話してきた彼らが電話の最中にも列車内の一部を爆破してみせ、2億円を要求した。警察はメンバーの名前は全員把握していた。やはり5年前の真相をはっきりさせてもらいたいという狙いがあった。
主犯の佐伯の娘が自首してきた。警察は2億円の身代金強奪のみで送検しようとするが、本来の目的が2億円ではなく事件の真相であった。佐伯の娘は十津川に自分の要求をぶつけた。
1506  明日の空
Date: 2010-6-12

おすすめ度 ★★★★

 貫井 徳郎 著  集英社  発行:2010年5月

 栄美は17年間アメリカで育ったが、日本語学校へは行かないで地元の学校で英語で勉強した。自宅では日本語を話した。父親の転勤で日本に帰ることになった。日本へは数回観光でしかきたことがなかった。
 日本は平等社会だという。「学校へ入ったらアメリカの話はなるべくしないようにするんだ。訊かれたら応えてもいいが自分からは絶対に言っては駄目だ」と父から念を押された。
 高校三年六組に編入した。最初にできた友は菜都美だった。クラスで一番もてる飛鳥部くんも栄美が真っ先に覚えたクラスメートだった。飛鳥部君に誘われて4人で遊園地に行った。楽しかった。学校に慣れてくるとクラスに誰とも話さない子がいた。クロウとあだ名されていた小金井志郎くんだった。皆が避けている。嫌っている。理由を菜都美に聞くと志郎の父が大麻で捕まったからという。栄美は親は親、子とはちがう。自分は絶対普通に接しようと思った。
 あるときから、飛鳥部と約束をして会おうとすると邪魔が入るようになった。なかなか二人きりではあえなくなった。そうしているうちに飛鳥部の方からよそよそしくなった。
 大学生の山アは語学力を上げようと六本木で外国人相手に英語で道案内やアドバイスをしてチップをもらっていた。英語力はどんどん向上していった。猫の飼い主を探すのに黒人の男の子と仲良しになった。アンディという。アンディのおかげで山アは楽しかった。アンディも同じだった。二人は良く笑った。
 突然、知っている子がいると駆け出したアンディ。女の子を護っていた。
栄美は大学生になった。サークル選びも男の子達に誘われるのを警戒した。しつこくされているとき山崎に助けられた。
 山アはアンディが護ろうとしていた女の子だったことを知っていた。栄美は山アに御礼を言うとアンディの話になった。小金井くんがアンディだった。黒人との混血児だったクロウとよばれたあのクラスメートだ。
 栄美のことを「たった一人、普通に接してくれたクラスメートがいた」と喜んでいたという。栄美は小金井くんに会いたいと思った。山崎さんがアンディはもう死んだといった。
スキルス性胃がんだった。そして、小金井が栄美を助けようとしたのは飛鳥部からもだった。飛鳥部は知人に栄美に良く似た女の子がいた。ラブホテルや万引きで証拠写真を撮り栄美の家からお金をとろうと企んでいた。しょっちゅう妨害された電話や行動は小金井が携帯のチップの交換と飛鳥部への盗聴器をしかけて彼の行動を把握し、事前に回避するように護ってくれていた。
 山崎くんは栄美と同じ大学だった。アンディから渡されたバトンを受け継いだだけだという。このバトン今度は君に渡すよと言われた。明日は晴れると信じてバトンを渡し続ければいいと。
1505  初陣 隠蔽捜査3.5
Date: 2010-6-11

おすすめ度 ★★★★★

 今野 敏 著  新潮社  発行:2010年5月

 伊丹俊太郎は県警刑事部長から警視庁の刑事部長に内示が出た。私立大を出て出世は遅いが、現場に足を運びマスコミ受けもよい。現場主義で出世にこだわらないで行こうと決めていた。
小学校の同級生の竜崎伸也は東大法学部卒ですぐに大阪府警の後検察庁に入り、今は警視庁長官官房総務課長である。伊丹は同じ警視庁に入るので電話するがそっけない。
 竜崎は小学校の頃、伊丹にいじめられたと言っていたが覚えがない。伊丹よりも頭のよかった竜崎はいつも一人でいたのを覚えている。
 警視庁をサッチョウと呼ぶ。会津と薩摩と長州の白虎隊の悲劇は今もタブーになっていて福島では鹿児島と山口の出身者は冷遇される。連絡が届かない、誘われないである。
 2つの件で県警の裏金疑惑がマスコミに取り立たされている。野党議員もこの問題を国会で質問するそうだ。竜崎が伊丹に電話する。「これが俺の初陣なのだ。協力してくれ」という。福島ではなかったといったが、おおむねどこの県でもある。すぐに資金提供できるようにプールしておく必要があったからだ。竜崎には知っていることを教えるが、竜崎は裏金作りをについて長官に認める答弁をしてもらう、その上で是正措置を説明するという。
 竜崎は正論だけでは渡っていけない。責任をとらされ今は大森警察署長になっていた。
殺人事件が起きた大森署に捜査本部を置きたいが、署長が必要ないと拒否しているという。伊丹が電話すると「必要ない」、そして1時間待てという。1時間後電話すると犯人の身柄を確保したと言った。
 伊丹はインフルエンザにかかったようだが、捜査本部をおいている。休めない。人も足りない。竜崎のところはインフルエンザにかかった職員はいない。大森署から10人を借りる。すると竜崎もやってきて、伊丹に休めという。人を貸したが自分で陣頭すると乗り込んできた。
ありがたく伊丹は休む。伊丹は竜崎になぜ大森署ではインフルエンザに罹っていないか聞く。
刑事課こぞって予防ワクチンを受けたという。健康管理の問題だ。魔法にも等しい功績だ。
 放火事件があり、疑わしい一人を逮捕した。そこへ自分がやったという男が現れた。強硬に疑わしい最初の男を犯人だと言っている刑事は一人。冤罪だと厄介だ。伊丹は竜崎に助けを求めた。竜崎は二番目の男の精神鑑定をしろという。結果、供述の信ぴょう性に疑いが出た。自分がやったというのは嘘だった。伊丹は竜崎に感謝する。そして一人で犯人だと主張した刑事を誉めてやろうと思った。
1504  天地明察
Date: 2010-6-10

おすすめ度 ★★★★★

 冲方 丁(うぶかた とう)著  角川書店  発行:2009年11月

春海は45歳。日本の改歴に携わって22年がたっていた。貞享元年3月3日、帝は「大統歴」「授時歴」「大和歴」のうちどれを採用するか、その裁定に日本中の注目が集まっていた。
 22歳のころ、春海は渋谷の宮益坂にある神社に行き、絵馬に書かれた問題と違う筆跡で書かれた術や解答と合否を記している「明察」をみた。絵馬で堂々と算術勝負をしているのだ。
 その時、「神前ですよ、そこへ座らないでください」と庭を掃いていた娘に咎められる。
2度目に訪れたとき、なかったはずの答えが書かれていてそれを短時間で書いたと娘に教えられた。関という解答者に驚愕した。
 春海は12歳で初登城し、将軍となったばかりの家綱と御前で碁を打つ公務を行った。
13歳の時、父が死んで安井算哲と父の名を継いで名乗ったが、公務以外では渋川春海と名乗っていた。
 囲碁をしながらもあの関というものが気になって仕方なかった。三度渋谷に出向き、出題者が磯村塾であることを聞くと翌朝そこを訪れた。そこにはあの娘がいた。塾にはびっしりとあの絵馬の問題が貼られていた。春海より10歳は離れているだろう磯村は快く迎えてくれた。解答者の関孝和なる人物のことを「解答さん」と呼んでいるが、解答してはすぐ立ち去る。関は門下に入ることもなく問題を出す気もないという。22歳だという。春海と同年齢だった。磯村は、その男の書いた「規巨要明算法」という稿本を貸してくれた。
 春海は碁、神道、朱子学、算術、測地、歴術が興味のあることである。老中酒井はそのことを知っていて春海に「北極星を見て参れ」と言われる。
 出立まえに出向いた神社で、春海は自分の出した問題が解答不能と知り、切腹しようとしたところ「誰が掃除をすると思っている」と娘に叱り飛ばされる。娘はえんと言う。「1年待ってくれ」と言い残し再会を誓う。14名の観測隊で小田原に向かった。天測をしながら山陰道を通り、千葉にも北端の津軽にも行った。予定が遅れて24歳になった春海は磯村塾を訪ねるとえんは嫁いだという。
 春海が28歳の時、ことという娘19歳と結婚した。二代将軍秀忠の子、保科正之に「正しく天の定石をつかめば、天理歴法も誤謬なく天地明察となりましょう」と春海が言うと正之は「天地明察かよい言葉だ」とほほ笑んだ。その正之から改歴の仕事を命じられる。しかも、総大将である。推薦には水戸光圀もあの北限まで行った建部や伊藤の名まであった。春海は算術家にして歴術家の岡野井玄貞や松田順承にも協力を得るつもりだった。
 春海は30歳で「春秋述歴」を、ついで「天象列次之図」も発表した。33歳の時妻のことが病死した。
 これまでの暦が月蝕の予報を外した。改歴の気運はより高まっていた。
 12年ぶりに磯村塾に足を運んだ。そこにはえんがいた。妻を亡くしたことを話すとえんも夫を亡くしていた。そして再び1年10カ月待ってほしいと告げる。
しかし、春海の宣明歴が4度外れた。あと3歴勝負である。そして次に宣明歴は時刻を外しながらも合致した。授時歴は予報を外した。大老酒井に面会し、顔を上げられないでいた。
 関が春海に問題を課していた。それは日月の蝕交している幅の長さを問う問題であった。何年か前に解けない問題とした春海のそれと今回の暦を外したことにちなんだ設問であった。いてもたっても居れず関宅に赴く。激怒されながら渡された分厚い書面には授時歴の研究の考察であった。「頼めるのはお前だけだ」と関から春海に渡される。
 失意にいた春海にこのことは再度改歴の儀に挑む力になった。その勢いでえんを迎えに行く。「嫁に来てくれ」と。
 春海38歳の時、えんと再婚する。春海は45歳で帝は春海の大和歴ではなく、大統歴を選んだ。しかし、大和歴に自信のある春海は人の多い京都梅小路で「大和歴の確かさを民衆にわかってもらう」ために巨大な子午線儀を組み上げ、緋毛氈を引き北限出地の予測をした。民衆の前で秒まであてた。この公開討論は何日も続いた。
 そして、3月に大統歴が発布された年の10月、大和歴が採用されたのである。
春海は江戸に邸宅が与えられ束髪が許された。45歳のときである。
 その後、69歳で関孝和が没した後、数年後、春海は10月6日妻えんとともに同日没す。
1503  カッコウの卵は誰のもの
Date: 2010-6-9

おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著  光文社  発行:2010年1月

 緋田は新世開発スポーツ科学研究所の柚木から「親子の遺伝子からFパターンと呼ばれるものを持っているかどうか調べたい」と申し出があった。緋田の娘風美は、19歳でスキークラブに入っていた。緋田もオリンピックに何度か出た選手だった。風美はスキーを教えるとぐんぐん上達していった。全日本選手権で女子スラロームで中学生の時に優勝した。
 10年前緋田は、鏡台の引き出しに入っていた新聞の切り抜き「新潟市の病院で新生児不明」の記事を見た。妊娠した妻を残してサン・モリッツでの合宿に出掛けた。生まれ時ファックスをもらった。「1月17日午前10時25分女の子だった」だから、てっきり風美は自分の子だと思って疑わなかった。この切り抜きを見るまでは。妻は幼い風美を残してマンションのベランダから転落して死んだ。育児ノイローゼかといろいろ調べたが何も出てこなかった。
 そして、新潟の建築会社を営む上条から会いたいと連絡があった。話は「自分の知り合いの女性が、風美さんによく似ている、赤の他人とは思えない。その女性の血判を押した紙があるので、風美さんとのDNAを鑑定してもらいたい」というものだった。緋田の妻も新潟の出身だった。依頼した上条は帰りのバスで事故にあい意識不明になった。
 緋田は柚木にDNA鑑定をお願いした。そして、親子であるという結果が出た。緋田は血液が風美の母親のものだと教えた。柚木はそのデータにFパターンが含まれていると驚く。しかし、風美の母親が生前スポーツをしたという話はない。柚木はその遺伝子について調べ始めた。
 緋田は上条の妻にあった。しかし、風美には似ていなかった。DNA鑑定のことは伏せておいた。
 風美の周辺では、「緋田風美のワールドカップおよびすべての試合出場を停止せよ」という脅迫文が届いていた。差出人は分からない。
 緋田は、上条が事故にあったことから、誰のDNAなのか調べた。妻は出産したという病院では出産の記録がなかった。上条の息子が白血病だということを知る。骨髄移植のために風美との関係を知りたかったのだ。上条の知人の子とは・・・。
 風美にすべて話そうと決心した時、上条の息子から電話がある。もはやドナーは必要としないということだった。
 そして・・・。
1502   ほかならぬ人へ
Date: 2010-6-8

おすすめ度 ★★★

 白石 一文 著  祥伝社  発行:2009年11月

明生は名家の子であった。4代前の明治期に曾祖父の父の代に山口から東京にでてきた。
長州藩の曾祖父の父とその妻が司法大臣を歴任した一族の娘であった。そして重化学工業を中心に一大コンツェルンを築いた宇津木財閥の子孫である。3男であった明生は、長男や次兄が頭脳明晰であったのに対し勉強しろとは言われないで自由に育った。
 スポーツ用品メーカーに就職してから3年目、なずなと出会った。結婚の約束をするが、この時ばかりは両親が反対をした。明生には婚約者がいたからだ。しかし、その婚約者の渚は明生ではなく次兄の靖生が好きだった。
 なずなと明生は結婚した。なずなの父は南浦和の割烹を営んでいた。1年後、なずなは結婚前まで付き合っていた根元真一が離婚したと聞いて、「また彼のことが好きになった」と家を出て行ってしまった。
 3か月近くたって、明生はそのことを先輩の東海さんに相談する。飲みながら話を聞いてくれた。
 なずなが出て行って、一人になった明生はある日、腰痛を起こす。立てなくなって手元にあった携帯で呼び出したのが渚だった。渚は今度こそ靖生のいる京都に押しかけようと思うと話した。
 なずなが真一の元妻に保育園前で刺されたという。明生はなずなを見舞い、家に戻ってくるように言う。一旦は戻ったなずなだが、再び出て行ってしまった。明生は離婚届けを出す。
 渚が京都でトラックにはね飛ばされて死ぬ。そして東海さんも37歳の若さで癌で死んだ。
1501   裁判員
Date: 2010-6-7

おすすめ度 ★★★★★

 小杉 健治 著  NHK出版  発行:2010年4月

 練馬区桜台7丁目で並河富子56歳と娘の留美子34歳が刃物で刺されて殺された。
この裁判に裁判員として稲村久雄60代の電機メーカー部長をしていた、理髪店店主の西羽黒吾一50代、家電販売員の広木淳30代、看護婦の古池美保20代、スポーツインストラクターの金沢弥生30代、そして44歳の堀川恭平は最近妻が家を出行ったばかりで、輸入雑貨の会社をやっていた、この6人の裁判員が母子が刃物で殺された裁判を担当することになった。
 犯人は木原一太郎で昭和55年生まれの東京ソフトウエアの会社員であった。被害者宅からあわてて出ていくのを近所の主婦が見ていた。
 木原は留美子と出会い系サイトで知り合い、最初50万円を借金返済のために留美子に渡した、次に150万円が必要になったというので再び留美子に貸した。さらに300万円が必要になったというので、お金を持って練馬区の自宅にたずねた。ところが、留美子には恋人がいて木原とは結婚の意思がないことを告げられる。かっとなって台所に行き包丁で母の富子を刺し、次に留美子を刺して殺したというのが調書であった。
 西羽黒がメールの内容に「一度弘前に行ったことがあります。天皇誕生日だったと思う」とか「公園でアベックをみました」という個所で平成では天皇誕生日は12月23日、今ならカップルというがアベックとは言わない。ということはメールは母親の富子がやっていたのではないか。そのことを木原に告げると、かっとなったのではないかと指摘した。
 裁判は結審したのでもう一度裁判を開くことはできない。いまある資料から判定を出さなければならないという。
 堀川と古池は無罪という証拠も有罪と言う証拠もないので無罪だというが、後の4人は有罪とした。裁判官のひとりも無罪と主張したが結局5対3で有罪となった。
 「主文 被告人を死刑に処す」ということになった。
 裁判の後、被告だった木原は拘置所で首をつり自殺を図った。すぐに病院に運ばれたが意識不明の重体であると報じた。壁に自分の地で「むじつ」と書かれてあった。堀川は彼が無実のように思えた。また、西羽黒が新宿駅でホームから転落して電車に惹かれ死んだ。
西羽黒は木原の死を「自分が自殺に追い込んだようなものだ」と塞いでいたという。
 堀川は事件のあった現場に行ってみる。すでに家は壊され更地になっていた。近所の人からこの土地は富子のものではなく愛人だった男が死んだあと、家を出るように愛人の倅から言われてもめていたという。
 堀川は古池をともなって西羽黒の葬儀に出る。後日、裁判員たちが集まる。裁判制度の意味が損なわれないように気をつけられたいという裁判官からのことばだった。
 木原の弁護士に堀川はその後の様態を聞く。危険からは脱したという。
 広木はその3日後、心臓と腹部を刺されて死んだ。あの事件のあった近くで死んだ。
年が明けて病院に稲村を見舞ったが去年の暮れに死亡したという。癌だった。
 堀川は富子の愛人だった男の遺族を訪ねる。
1500  夕爆雨 東京湾臨海署安積班
Date: 2010-6-5

おすすめ度 ★★★★

 今野 敏 著  角川春樹事務所  発行:2010年1月

 東京湾臨海署の刑事は引っ越しで忙しかった。安積班も新しい事務所に移った。広くて明るい。新たに第二係ができる。安積班を解体するという案もあったが、そのままになった。
 第二係は相楽以下4人であった。安積班に対抗意識を持っていた。
 イベント会場で爆破の予告がインターネットの掲示板に載る。最初は予告だけで終わったが、次の書き込みは現実に起りそうな気配がするとネットに詳しい部下の須田が安積に伝える。
 安積は早速上司に相談する。安積の娘もそのイベントに参加するという。娘は制するのを振り切って参加するようだ。
 警戒に当たるが、人手が足りない。安積は相楽に協力を求める。爆発は怒った。負傷した4人に聞いたところ、トイレに仕掛けられた際に「この個室トイレは故障している」といった男がいたことを突き止める。
 さらに4人の供述に不自然なところを須田と村雨が見つける。トイレ故障を告げた男を「個室男」としてさらに調査をする。
1499 ボーダー ヒートアイランドW
Date: 2010-6-2

おすすめ度 ★★★★

 垣根 涼介 著  文芸春秋  発行:2010年4月

 渋沢カオルは4年前に中学を卒業の時点で大検の試験に合格していた。あえて高校にはいかなかった。その間、人に知られたくないことをしていた。今は東大生である。東大に入る勉強は半年前から始めたので通常の同級生より一浪した年齢になっていた。
 カオルはいつも最前列の中央に腰掛けて授業を受ける。
 慎一郎は祖父と大きな家で暮らしている。カオルと同じ東大生だ。母は再婚して家を出た。父は慎一郎が小6の時にベトナムで亡くなっていた。
 実家の欄が空白のカオルに興味を持った慎一郎はカオルが短大生との合コンで因縁をつけた若者に対する態度が学校で見せるカオルの態度とは違っていたのを思い出す。
 カオルは同級生から誘われ「ピンク・ピンク」という店に行く。そこでは「むかし、この渋谷に麻川組と言うヤクザがいました。六本木の松谷組と言うヤクザと2つのヤクザをつぶした“みやび”がいました」でショーが始まった。ワンラウンド無制限の殴り合いが始まった。その行為に若者が掛け金を出していた。おまけにその仲間が呼び合う名前は、「カオル」「ユーイチ」「アキ」などと自分たちが名乗っていたそのままを受け継いでパーティをしている。カオルはそれを知って顔つきが変わった。慎一郎はそのカオルを見ていた。
 カオルはアキに連絡をする。ユーイチやサトルも呼び、4人で昔の隠したい事件のことを相談する。あの事件の時16人が死んだ。暴力団同士の抗争となっている。
 みやびは2人の若者が立ち上げたこと。ファイトパーティを開催していたことを2ちゃんねるで調べたのは慎一郎の義理の妹アキラだった。3年前の8月で噂も急激に終息している。アキラはカオルを何かあると調べる。
 パーティで得たお金1億円はアキとカオルが半分ずつにして持っている。裏の金だ。カオルたちは警察に追われているわけでもない。
 しかし、もっとすごいことが分かる。死んだはずの父親が生きていた。

1498  神苦楽島 上・下
Date: 2010-5-31

おすすめ度 ★★★

 内田 康夫 著  文芸春秋  発行:2010年3月

 淡路センターテレビの松雪真弓が淡路島の団子ころがしの観音寺に行くが、そこで男が死んでいるのを見つける。三浦という島の拝み屋だった。
 浅見光彦は秋葉原で倒れた女性を抱き起こすが、「モスケ」という言葉を残して死ぬ。女性は淡路島出身の会社員中田悠理である。毒物による死のようだ。
浅見光彦は淡路島に行く。悠理は生前、くぐってはいけない石上神社の鳥居をくぐったことを話していた。光彦は石上神社と久留麻神社が太陽の道の線上にあることに気づく。三浦も石上神社のタブーに触れたのかと推察する。
 地元の刑事藤田とテレビ局の松雪が浅見に協力して事件の解明に当たる。
三浦と中田はシステム総合プロダクツという会社が関わっていた。三浦は自動車道建設工事の瑕疵に気づき、役員秘書をしていた中田は社内の情報を流出させたのではないか。
 淡路島には陽修会という宗教団体がある。それにかかわっているのが黒崎代議士である。陽修会から黒崎代議士に多額の政治献金が行われていた。
 東京の多摩川で男女の心中死体があがる。二人はそれぞれ中田と三浦の愛人同士だった。二人は陽修会で顔見知りの関係だった。
 浅見は黒崎代議士と会う。新宮という男が現れ陽修会を作ったこと。新宮が神の如く見えたこと。呪い殺すという理解できない不可解な事がある。しかし、陽修会には殺人の動機や犯人を特定するのは難しいと浅見は黒崎に会って感じた。
 淡路テレビのボス相島が陽修会を脱会したあと死んだ。淡路テレビが11年前の創設当時からの人事を遡って浅見は犯人の検討をつける。
 浅見はその犯人に車で連れ出される。
1497  亡国前夜
Date: 2010-5-27

おすすめ度 ★★★★

 江上 剛 著  徳間書店  発行:2010年3月

呉はタクシーの運転中に客から十万元の仕事の話を持ちかけられる。年収が六万元から七万元だった。呉は男とともに日本に来る。男はタカギといった。アメリカ人マイズもウォール街でタカギに声をかけられ日本に来る。
 呉には妹がいた。両親が家事で亡くなった後、日本人に引き取られて日本に渡って行った。妹に会えるかもしれないと期待した。
 将太は、駅構内で男が包丁を振りかざしているところに遭遇する。女性を守るために将太は男の手を押さえる。一旦離れた包丁は階段のそばで再び男のもとに滑り落ちてきた。将太は女性の顔を見て微笑んだ。男は何かを見てそれから自分の喉を突いて自決した。
 女性に分かれ際に「明日、ハチ公前で12時に会おう」と告げ将太は連行される。将太の兄は警察官僚だった。女性との待ち合わせに遅れた。すでにそこには女性はいなかった。
 将太は女性に会いたいと思った。
 真央は、自分を助けてくれた男性が気になっていた。自分は義父の勧めてくれた神島と結婚することになっていた。自分は中国から連れてこられた。義父の言葉に逆らえない。
 真央の義父大原一三は松濤のマンションで「憂国の会」という宗教団体を主宰していた。彼の後継者の神島と娘真央の結婚を望んでいた。この国を変えたいと思っていた。
しかし、この団体に集う若者は「正義」という漢字のTシャツを着用し、駅前の繁華街に白装束で集団で来て「死にましょう、死にましょう、誰かを殺して死にましょう」とつぶやき続けていた。
 将太は先日自決した男はこの団体の仲間ではないかと刑事にいう。兄の特命を受けて、将太はこの団体に接触する。そこで真央に出会う。真央は「私を守って!」と将太に頼む。将太は催眠術をかけられたようになって神島の指令通りに動く。
 この団体が立党表明し記者会見を開く。日本創生党を立ち上げる。党首は神島である。真央は創生教団という宗教団体の母神様という。軍隊を持ちアジアの国々と協力して恒久的平和を作るということを唱えていた。
 呉はタカギをつうじて真央に会い、妹だと確信する。
 創生教団は、オリエント自動車を占拠し工場長以下5人の幹部を殺した。そして、非正規職員だった教団の仲間が暴動を起こした。
 真央には不思議な力があった。神島とは違い「生きるのです。この世の中、誰一人かけても不完全になります。誰かとつながりなさい。」と説いた。「死にましょう。死にましょう・・・」と唱える若者に「死んではなりません。殺してはなりません。生きるのです」と説得する。
 皇居を囲んだ神島の一段は戦車を動かす暴動をもくろんでいた。しかし、真央は日野市へ向かっていた。国は治安出動を発令する。
 これを鎮圧できるのは真央の力だった。
1496  セシルのもくろみ
Date: 2010-5-25

おすすめ度 ★★★★

 唯川 恵 著  光文社  発行:2010年2月

 自宅の32階マンションの窓から銀座、大手町、皇居の緑が見え、車がミニカーのように見える。快晴の日ははるか向こうに富士山も見える。
 夫は大手自動車メーカーのエンジニアで41歳。子どもはこの春から私立中学に入っている。何かを始めようかと奈央は思っていた。
 そこへ友人の文香から「ヴァニティ」という女性雑誌の読者モデルの募集があると教えられる。文香が奈央も応募しようと誘う。
 モデルの審査に二十人ほどが集まった。奈央も急きょ5万7千円のワンピースを買って出席したが、洗練された他の人たちの服装に圧倒された。それでも折角だから一人ずつ5分〜10分の面接を受けた。
 後日、文香は「合格したけど断った。自分を世間に露出して何が面白いのかしら」と言い放った。文香は落ちたのだ。奈央は合格した。
 3人が合格していた。二人の合格者は確かに納得のセンスの持ち主である。自分はなぜと自信が持てなかった。そして、徐々にきれいになっていく読者モデルもあってもよいというので選ばれたことが分かった。
 「ヴァニティ」のモデルの先輩に息子と同じ学校の父兄のミーナがいた。奈央より年上である。ミーナは「ヴァニティ」の顔と言えるモデルだった。
 そのミーナが卒業するという。一緒に合格した者が注目され始めるが、雑誌の売れ行きは芳しくなかった。ついに、一緒に合格した者が辞めた。新たにモデルも入れ替えられた。
 奈央はダイエットを命令される。ミーナからプレゼントされた何着かの服はありがたかった。奈央の言った「ドレスアップして夫とデート」という企画も通った。直前になって夫が来られなくなり、編集長が代役をしてくれた。
 絶交状態になっていた文香から、「ジョワイユ」という新しい雑誌のモデルになったと電話が来る。奈央も誘われていたが断ったところだ。「ジョワイユ」はミーナが編集長となって創設したところだ。「ジョワイユ」の二番煎じというところで、「どこまで支持されるかしら?」と奈央は文香に言う。電話を切ってから奈央に闘志がわいてきた。

1495  オイアウエ漂流記
Date: 2010-5-25

おすすめ度 ★★★

 荻原 浩 著  新潮社  発行:2009年8月

 ラウラは南太平洋にある珊瑚礁に囲まれた美しい島である。トンガ王国からラウラに向かう飛行機に乗っていた日本人たち。定員20人も満たない飛行機が消息を絶った。
 飛行機に乗っていたのは、84歳のじっちゃんと孫の仁太小学校4年生。結婚したばかりの夫婦、会社の一行の副社長、部長、課長、それに賢司という若者、賢司の上司の主任の女性、外国の金髪男ミズ、機長と犬は、無人島に不時着する。
救命ボートに乗っていたのは9人と1匹だった。機長は飛行機とともに沈んだ。
海の中から非常食(FOODと書かれた包み)をみつけたが、数日しか持たなかった。ブランケットは6枚しかなかった。じっちゃんと仁太で1枚、夫婦で1枚。それでも工夫して9人で6枚のブランケットで寝た。椰子の実を見つけた。魚やカニをとって食するという生活が始まった。皆がそれぞれに探検をした。無人島であることを知る。8月の夏のころだった。
 賢司は仁太と主任の女性を連れて探検に出かける。ウミガメを見つける。産卵していた。ピンポン玉のような卵を食べようとすると金髪男が拒否した。こういう場合、生きていくために自然保護などと言っていられないと対立する。鍋の代わりにヘルメットを使った。
 キノコ、イノブタ、コウモリも食べた。3か月がたったが救助の兆しがなかった。
新婚の早織が妊娠していることが分かった。そのころから椰子を使って酒を作り始めた。
 じっちゃんの様子がおかしくなった。昔の部下の名前を呼び平静さを失っていた。認知症がおこっていた。
 筏を作って海に流した。SOSのフラッグだった。
そして、4月の6日か7日か8日のころ、空から島を見た。意外に小さかった。ヘリコプターの中に仁太はいた。
1494  走らんかい!岸和田だんじりグラフィティ
Date: 2010-5-24

おすすめ度 ★★★★

 中場 利一 著  集英社  発行:2010年2月

 現在7か月のお腹の子、早く法被を着せてやりたい。中の濱のだんじり男ヤマトは午前6時からだんじりを走らせる。「走れ!!走れ!!走らんかい!!」だんじりは疾走する。
 父はヤマトが熱を出してもだんじり、進路指導の日面接もだんじり、何をおいてもだんじり優先だった。ヤマトには母がいない。小さい頃がんで死んだという。
 岸和田の御輿会を訪ねたヤマトは父からいろんな人を紹介してもらった。そして、古い家の前に立ち、「今日からここに住む」と言った。だんじりを初めてみた。心を躍らせる物があった。祭りの後、近所の人が手伝ってくれて引っ越しが終わった。そのあと、大勢が集まってヤマトの家で宴会になった。
 ある日、ヤマトと同じぐらいの女の子が「2歳までこの家に住んでいた」と言った。そのことを父に話すとはぐらかされた。父は会社を辞めて岸和田に越してきた。以前にも住んでいたことがあった。しかし、この間の女の子七海が訪ねてきたとき「おっちゃん、この家に前に住んでいたん?」と聞くと父はあわててバツを手で作った。「住んでないよ」という。いつもと違うじゃないかとヤマトは思った。
 七海は時々、ヤマトを訪ねてきた。唇なんか自分によく似ていた。ある日、七海が自分には双子の兄がいたという。七海の母も七海の父は小さいころがんで亡くなったと言った。七海の母は保険の外交をしているという。
 車にぶつかりそうになった。オバさんはきれいな人だった。それが七海の母だった。
ヨソ者と喧嘩をしたあと、偶然七海と出くわす。思わずヤマトは「オレ、七海のこと好きだ」という。バレンタインの日、七海がヤマトの家でチョコレートをくれた。ヤマトは七海と初めてキスをした日、七海は引っ越すという。父親が二人を見つけあわてる。
 二人は自分たちが双子の兄妹とうすうす気が付いていたが、受け入れられなかった。互いに好きになっていた。でも父から言われた。男のお前が退いてやらんと七海がかわいそうだと。
ヤマトは七海と別れる決心をする。二人は兄妹であることを分かっていた。七海はヤマトのことを「一生好きでおる」と言った。
 6年後、七海はヤマトの曳くだんじりを見に来ていた。ヤマトは七海そっくりの妻をもらっていた。
1493  贖罪
Date: 2010-5-22

おすすめ度 ★★★★★

 湊 かなえ 著  東京創元社  発行:2009年6月

 エミリちゃんが殺された。小学校で遊んでいると脚立を忘れたという工事のおじさんに「手伝って」と言われエミリちゃんが肩車されてねじを回すことだった。
 なかなか戻らないエミリちゃんを見つけた時は更衣室で死んでいた。
 その時居合わせた4人(真紀、晶子、由香、紗英)は、その後エミリちゃんのお母さんの発した言葉に苦しめられる。
「わたしはあなたたちを絶対許さない。時効までに犯人を見つけなさい。それができないなら納得できるような償いをしなさい。どちらもできなかった場合はあなたたちをエミリよりもひどい目にあわせてあげる」
 15年がたった。紗英は同じ郷里の年上の男性と結婚した。事件以来生理も訪れない身体で一応断ったが、強く望まれて結婚した。ところが、彼はフランス人形のようなドレスを着せて触って楽しむ変態ごっこのようだった。我慢が爆発したとき紗英は彼を殺していた。
 真紀は教師になっていた。学校に押し入ったナイフを持った男に飛びかかり、プールに落ちた犯人を蹴りつけた。その行為が、いつの間にか風評は殺人者になってしまった。男がプール内で死んだのだ。PTA総会を開き真紀は事件の状況と隠れていた男性教師を非難した人たちへ、いざというときには誰も臆病になると説く。自分が飛びかかったのは過去の事件があったからだと。蹴ったのは1回だけ。児童を守るのが精いっぱいだった。その総会にエミリの母親も出席していた。真紀は檀上から「あの時の犯人は南条というフリースクールの男に似ている」という。
 晶子も15年後、フリースクールが放火された事件の南条が小学校の先生に似ているとカウンセラーに語った。兄の部屋にくまがいて兄嫁が連れ子で連れてきた小学校3年生の若菜ちゃんに襲いかかっていた。晶子はそのとき、エミリちゃんを助けなければとくまを渾身の力で締め上げた。
 由香はあの時交番に走った。15年後、由香は妊娠していた。相手は姉の夫だった。両親は不倫の子だと嘆いた。その姉の夫に階段から突き落とされそうになり、反対に男の方が由香に突き飛ばされた。由香はとうとう人を殺してしまった。
 エミリの母は、実は結婚前にエミリを妊娠していた。相手は南条だった。南条は飲酒の上交通事故を起こした。おそらく失職するだろう。南条と結婚の約束をしていた。そして女はその男から逃げた。
 娘と知らないで殺してしまった犯人をエミリの母は犯人に告げるつもりだ。
 
1492 すれ違う背中を
Date: 2010-5-21

おすすめ度 ★★★★

 乃南 アサ 著  新潮社   発行:2010年4月

 芭子は懲役7年の刑を受け20代のほとんどをどぶに捨てた。大学在学中にあるホストに夢中になり、周りからの忠告も耳を貸さず通い詰めた。親の財布から抜き取ったり、果ては見知らぬ男をホテルに誘い睡眠剤で眠らせる昏睡強盗を繰り返した。
 綾香は殺人罪で5年の懲役。DVの夫は綾香への暴力がようやく生まれたわが子にまで及ぶようになり、追いつめられて夫を殺害した。
 綾香と芭子は出所後、近くに住みお互いに携帯で連絡を取っていた。水曜と木曜は一緒に夕食も食べる仲だった。
 綾香は商店街の抽選であたった大阪へのバス旅行を芭子と行く。夜、街に出た二人は怒鳴られている男と遭遇する。男は綾香の高校の同級生だった。一緒に飲むが、別れ際「もう仙台に帰ってくるな。会ったことは誰にも言わない」と言われる。
 芭子はようやくペットショップに勤めるようになる。刑務所で覚えたミシンで犬の洋服を作ってみた。それが、店長も大いに喜んでくれよく売れた。勤務の後、自宅で犬の洋服を作ることに喜びを覚えた。
 綾香はパン職人になり、いつかは自分の店を持ちたいと思っていた。
 二人が行く居酒屋の店員のまゆみにDVのあとを見つける。やがて、夜中に芭子の家に裸足で助けを求めてくる。仕事を切り上げて帰ってみるとすでにまゆみはいなかった。
 まゆみにあって綾香はDVの様子を聞くが、コスモスのようにそのことを受け流している様子だった。ところが、後日、まゆみは夫と共謀して恐喝をしていたことで逮捕される。ホテルに誘いこんだところへ夫があらわれ「自分の妻に何をする」と相手に金を要求するというものだった。
 綾香と芭子は過去のことが知れることを恐れながらも二人は今の幸せをかみしめる。
 芭子は犬のウエディングドレスづくりも始めた。
1491 夢ほりびと
Date: 2010-5-19

おすすめ度 ★★★★

 池永 陽 著  文芸春秋   発行:2010年1月

 佐伯はふらふらと廃墟の家に入り込んだ。赤い建物に緑の蔦が覆っている。高校2年生で不登校の少女真世が迎えてくれた。人がいることに驚いたが、この家には5人いるという。
 大正時代に建てられたこの家を15年ぐらい前に手に入れたが自己破産した倉持は、7年前にここを離れたが半年ほど前に山岡夫婦と一緒に戻ってきた。数カ月あとに遠野というサーファーが住み着いた。リストカットを繰り返す真世も時々やってくる。
 佐伯はリストラされ、それを妻や息子に言えず毎日出勤するふりをして家を出ていた。仕事を探したがなかなか見つからなかった。
 廃屋は山岡が近くの電柱から電気を、屋敷内の井戸からくみ上げていた。佐伯も仲間に入れてもらい食費だけを出して住みこんだ。
 屋敷には遠野が波の来るのを見ている望遠鏡があり、それをのぞくと佐伯の家も見えた。
息子が出ていく姿、妻はなかなか姿を見せない。息子のサッカーの試合も望遠鏡で見た。
 佐伯は息子の学校がえりをつけた。思わず振り返った息子にサッカーの試合を見たことを告げる。会ったことをお母さんには内緒に頼んだ。
 真世は佐伯の妻がスーパーで働いていることを教える。そして、佐伯の自宅に男性が訪れている。妻のスーパーの店長だという。妻に会いたい。
 少し認知症でている倉持が庭を掘っている。何か埋めていたのを思い出すように掘っている。佐伯も手伝う。
 台風がやってきた。遠野はビックウエイブを狙っていた。20メートルを超える大波に遠野は飛び込む。サーファーとして波に乗っていた。
 屋敷の庭がすっぽりと斜面になっていた。崩れてしまった。骨が見えた。倉持の破産と同時に姿を消した妻は、もしかして庭に埋もれていたのではないかと思う。
 佐伯は妻に電話をかける。妻は泣いていた。妻にもう一度プロポーズする。
1490 早雲の軍配者
Date: 2010-5-17

おすすめ度 ★★★★

 富樫 倫太郎 著  中央公論新社   発行:2010年2月

 伊豆韮山の農民は明るかった。伊勢宗瑞が25年前に伊豆の支配者になってから田畑にそれぞれ決められた年貢高を取り立てるだけで残りは農民の自由になった。8百文の出来高でも当初4百文と決めた年貢しか取らなかった。
以前は8百文なら7百文は取られ、不作の時も容赦がなかった。それが当たり前のやり方だった。
伊豆の農民は宗瑞を韮山さまと呼び、収穫を増やせば自分のものになると必死で働いた。宗瑞は2年前に相模も納めるようになっていた。
廊下の掃除をしている小太郎が笑いをこらえている姿を目にした宗瑞は、論語の解釈の違いを小太郎が理解していることに驚いた。以天和尚に聞くと「小太郎は掘り出し物だ」という。13歳であるが、4年前に父が3年前に母が亡くなった。今は4つ下の妹と祖母とで暮らしている。風間五平の子だと聞かされる。五平は宗瑞も知っていた。
宗瑞は小太郎に足利学校へ行くように言う。宗瑞は小太郎を軍配者にしたいと考えた。
足利学校は全国に名を知られた最高学府であった。16世紀初頭から中期にかけて学徒3千を超えると言われた。
途中、武蔵の国で襲われそうになって助けられた者たちと足利に着いた。足利では法号で名乗る。小太郎は青渓と名乗った。四郎左は?宿で20歳。部屋にいた景岳は17歳。小太郎は14歳であった。衆宿に入る。本来畳1畳分が割り当てられるが、小太郎たちは2畳分であった。
 四書五経を郷里で学び終えていた小太郎は兵書と医書、そして易経を学ぶ。つまり第3段階目に入る。軍配者として入学したものは漢籍を自由に読みこなす読解力が必要だった。小太郎は郷里で2段階までを終えていたのである。
四郎左が山本勘助と名乗ったことがあった。勘助をよく知る人物から四郎左は命を狙われる。そこへ宗瑞が亡くなったと知らされる。
小太郎と四郎左と冬之助の3人は軍配者になって再開することを誓う。四郎左は京で学ぶという。小太郎は一旦、伊豆韮山に戻ったあと足利学校へ戻る。
小太郎は宗瑞の孫千代丸の軍配者となることを決めていた。
 やがて、3人は軍配者としての地位を確立していった。
1489 まねき通り十二景
Date: 2010-5-15

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  中央公論新社   発行:2009年12月

 深川まねき通りにまねき弁天の並びと向かいで14軒の店があった。
正月3が日、子どもが来ないことを怒っている徳兵衛は、まねきどおりでうさぎやという駄菓子屋を営んでいた。駄菓子を買いに来る子供に何かにつけて道理を説いた。子どもを本気でしかった。皮肉なことに子供には好かれていなかったのである。
 元旦の日、徳兵衛が仕入れた奴凧は1尺5寸もある大きなものだった。それを真三郎が眺めていた。「ちゃんが戻ってきたら買ってくれるから、とっておいて」と頼まれる。徳兵衛は売らないで取り置く。しかし、真三郎は母親と凧を買いに来る。寂しそうだった。徳兵衛は凧あげを手伝わせてもらうと材木置き場で凧をあげる。凧はあがる。その様子を見た子どもたちからは「うさぎやのおじさん、おっかなくないじゃん」と声が聞こえた。
 うさぎやには一人娘のおしのがいた。大工町に嫁いでいた。子どもは朝太一人であるがおしのは1つ下のかえでという女児を連れていた。かえでは捨てられた子であった。ひな祭りを知らないというかえでを連れてまねき通りの野島屋さんの振る舞いにきた。
 かえでの母親が子を返してほしいと頼みに来る。かえではおみつという名であった。
 塀吉が仙台堀に落ちた。孫が騒いで徳兵衛が飛び込んだ。途端に息を詰まらせた。が、すぐ引き上げられた。
 端午の節句に徳兵衛は町内の子に菓子の振る舞いをしたが、子どもらには内緒にと頼んだ。食えない因業じじいと言われているほうが楽だと思った。
 子どもたちがうさぎやに行くのはやめるというのを聞き、塀吉は毎年駄菓子の差し入れは徳兵衛からだと諭す。子どもたちは徳兵衛にお礼を言った。塀吉は知らぬ顔を決め込んでいた。
1488 ムーヴド MOVED
Date: 2010-5-11

おすすめ度 ★★★★

 谷村 志穂 著  実業之日本社   発行:2008年5月

 佐緒里はマンションの1階に引っ越した。弟が手伝ってくれた。いつか住みたいと思っていたマンションで、ちょうど引っ越して出ていく若い夫婦がいたのだ。1DKで月15万円の家賃。離婚したばかりの佐緒里にはちょっと高いが勤続10年でためた預金や慰謝料の250万円があった。
 佐緒里の夫から突然「離婚してほしい。相手に子供ができる」と言われた。25歳で結婚して5年、子供はなかったが子供を作るきっかけもなくなっていた。SEXをしなければ子はできない。すでにもう降ろせない段階に来ていると言われると離婚に応じるしかなかった。父が激怒したが、一人暮らしもいいかと思った。
 住み始めたマンションの庭に猫がいた。1階でどこから忍び込んだのだろうか、まだ生まれて間もない子猫である。佐緒里はマンションの契約をするときに「ペット飼育禁止」を不動産屋からくどいほど言い渡されたのだ。しかし、ミルクも飲めない、目も見えないようだ。仕方なく持ち主が見つかるまで預かるつもりで飼い始めた。
 案の定、マンションの住民から苦情が来る。猫を職場に連れていく。再び連れて戻りマンションで飼い始めた。
 職場では佐緒里は一番古株で皆が気持ちよく許してくれた。猫が縁で河田恵と親しくなった。
 河田の母が経営する花屋を母親が留守の間に解体してくれと頼まれる。佐緒里の実家は解体もしていた。ところが、解体をする日に母親が旅先から早々に帰宅していた。
 佐緒里は会社を辞めることにした。恵は怒った。しかし、佐緒里が恵の母の経営する花屋を手伝うと知る。
 佐緒里はマンションの住人に手紙を書き猫の飼育をしたことを詫びる。引っ越しの日の午前中にお茶会をしますと書いたが誰も来てくれなかった。この1階で1年4カ月過ごした。父の会社の社員が手伝って引っ越しが終わった。
1487 ロード&ゴー
Date: 2010-5-7

おすすめ度 ★★★★

 日明 恩 著  双葉社   発行:2009年10月

 恵比寿消防出張所救急出動隊は搬送後、帰社途中に乗せた喀血男性を路上で発見した。広尾病院に搬送するために走り出した途端、「動くなっ」と森と筒井に「いうことを聞かなければこいつを殺す」と口から血を吐きながら森の喉に刃物をあてていた。
 「こういうことはしたくなかったが、やらないと家族が殺される。両親と妻が殺される」と男が言う。男の指示に従い無線も切った。異常事態はセンターも把握したはずだ。
午後6時34分だった。
 大東テレビではイブニング・トゥディに「東京消防庁の救急車をジャックした。爆弾を積んで走らせている」と一報が入るが、通話切られた。徳居は受けた時間、情報提供者の氏名と連絡先を聞くように言われているが、それさえもないメモをもてあそんだ。メモを放り出した。怒られるのは分かっていた。ため息をついた。
 NHKニュースで「本日午後6時36分ごろ、東京消防庁の救急車がジャックされた模様、犯人はNHKだけでなく、警視庁とテレビ各局に同じ犯行声明の電話を入れたようです」徳居は口に出せなかった。
 救急車両の中では、警察の指示に従わず走行を続ける。テレビのニュースをつける。「マスコミは救急車を中継すること、一般車両の通行の制限禁止と警察の接近禁止。違反した場合は救急車を爆破する」 筒井は救急車とセンターのやり取りはどこの誰だかわからないやつが聞いているのかと驚く。犯人はゲームの参加者は多い方がいいとうそぶく。
 犯人は大田区蒲田総合病院へ行くことを命じる。到着すると次に順天堂大学医学部付属練馬病院へ8時26分までに着くように指示する。
 途中逃れようとした筒井がナイフで刺される。次に帝京大学医学部付属病院へ行けという。筒井の様態が悪化した。犯人は筒井を病院で降ろすことを承諾した。心肺停止になった。次に犯人は癌研有明病院に行けという。
 午後10時19分、事件の捜査本部に犯人が拳銃を所持し「私があの事件の犯人だ」と名乗り出てきた。
 犯人の息子の受け入れを断った2か所の病院が行くことを命じた中にあった。息子の死後、犯人の妻はマンションから飛び降りて死んだ。
1486 竜の涙 ばんざい屋の夜
Date: 2010-5-5

おすすめ度 ★★★★★

 柴田 よしき 著  祥伝社   発行:2010年2月

 東京駅の近く丸の内のはずれに「ばんざい屋」という小料理屋がある。美人の女将が素人ながら美味しいものを食べさせてくれる。そのばんざい屋は、あと1年ぐらいで立ち退くか高価なテナント料を払って新しくできるビルに参入するか迫られている。立ち退き料をもらって別の場所でやるしかないのかなと女将は思った。
 ばんざい屋に常連の一人進藤はメシ友の有美を誘って訪れる。有美ははじめてであった。女将が出してくれた黒豆ご飯が紫色の豆がきれいで美味しかった。豆を炒って炊き込んだという。他の客も一緒に食べた。有美は祖母が竜の涙といっていた水の話をする。それを飲むと病気もボケもしない。98歳でも元気だという。
 有美はメシ友の進藤が退社してアメリカへ行くという。好きだったのに。おまけに自分は乳がんかもしれないと通知が来た。入社してみると同級生だった麻由は出世していた。悲しくなってばんざい屋に行く。女将が竜の涙を作って勧めてくれた。六甲の水だという。
 麻由の部下の洋子は50代半ば、資料室にいる。麻由を見るたびに自分の若いころを思い浮かべる。麻由は小さいころから人との摩擦に耐えてきた。課長に昇進したが、自分に他人の心を読み取る力がもっとあればと思っていた。
 洋子は女将が作った淡雪羹と黒豆を煮たので作った和菓子を麻由に食べさせる。美味しさにびっくりする。
 進藤は女将さんが作ってくれた大根の柚子みそが好きだった。ブリ大根も好物だ。
常連の山岡は育った食文化の違うものと理解しあえるかと心配していた。その後、新しい客が来る。東洋人のようだが英語を話し、彼女の方は日本語を話している。「父の日記に美味しかったと書いてあった」とやってきた。山岡の娘だった。
 大根の煮物と納豆をオイスターソースで味付けてレタスに乗せたものを食べた。山岡が戸惑っている様子が目に浮かぶ。
 麻由は会社をやめる決心をした。上を目指すのではなく奥を目指すために、学生時代のゼミの先輩の会社に入る。丸の内の一流の会社の肩書よりも、ひたすらがつがつ働きたくなったのだ。給与が三分の二になっても。
1485 排出権商人
Date: 2010-5-2

おすすめ度 ★★★★

 黒木 亮 著  講談社   発行:2009年11月

 新日本エンジニアリング松川冴子はペナン島にいた。京都で温暖化防止の会議で日本は目標を達成するために、外国から「排出権」を買わなければならない。5年間で1兆円の国民負担である。
 ペナン島で養豚場から出るメタンガスを回収して排出権を得て、それで汚水処理施設を近代化にできないか。
 2週間後、冴子は中国に飛ぶ。発電事業をしている新彊能源投資有限公司を訪問する。排出権を売却すれば大きな収益を上げられると冴子は説明する。風力発電は一定量の安定した電力を得られない。
 インドでは独自にプロジェクトを立ち上げて排出権を売りに来る。
冴子は2カ月3度出張して新彊能源投資有限公司の風力発電プロジェクトとの会議録草案を作成した。中国側も毛筆でサインをした。翌週、中国側が合意できたと思った金額ではもっと経費が必要だと言ってきた。中国流の蒸し返しであろうか。メタンガス回収プロジェクト側が銀行とも話が付いているというが冴子は銀行と直接説明を受けたいと申し出る。
ところが、銀行は「そんな話がありましたかねぇ」という。おまけに宴会があるからと支店長は退席してしまう。1億6千万元の融資は危うい。総額8億1千元のプロジェクトは2割を自己資金、4割を国家開発銀行、残り4割のメドもまだ付いていない。
 社内では中国各地のプロジェクトに加え、アルメニアのゴミ処理場のメタンガス回収・発電プロジェクト、インドの油田・ガス回収プロジェクト、エジプトの風力発電のプロジェクトなどの調査、打ち合わせ契約に忙殺されていた。
 これまで対応した中国各地から問い合わせが殺到した。人事考課に環境という項目が入ったためだった。中国で富豪の国泰集団の王輝東から残り4割の3億3千元の融資の了解が得られた。ところがインサイダー取引で王が逮捕される。
そこへ、宴会があるので・・と逃げた支店長が国営銀行本店に栄転しその額を融資してくれるという。
 冴子は地球環境室長から分離独立した新会社をスタートさせる。社員は31人だ
1484  壺霊 上・下
Date: 2010-4-29

おすすめ度 ★★★

 内田 康夫 著  角川書店   発行:2008年12月

 浅見は伊丹千寿から母佳奈の行方と壺を捜してほしいと頼まれる。壺は高麗青磁と呼ばれる12世紀ごろの朝鮮の壺で値段の付けようもないほどの高価なものである。その壺は「紫式部」とよばれている。壺はもともと佳奈の嫁入り道具だったようだ。
紫式部と名付けたのは大勝涼矢で7年前に変死していた。その時のダイイングメッセージが「都とねたい」であったという。
 佳奈の妹琴絵は奥宮という暴力団員であった。壺が目当てで結婚したのではないかと言われていたが、7年前に離婚している。
 「伊丹勝男と諸橋佳奈を別れさせてください。佳奈が死ねばいい。−阿久津好子」という形代が安井金毘羅遇にかかっていたという。諸橋は佳奈の旧姓である。
 浅見は「奥宮琴絵」と奥宮泰三の名を見ながら、「・・みやことたいぞう」と言いかけたのではないかとも思った。しかし、「都のねたみ」ともとれる。
 上田京子が殺された。京子は琴絵を恐喝していた。佳奈は京子をつけていった。
1483  挑発 越境捜査2
Date: 2010-4-26

おすすめ度 ★★★★

 笹本 稜平 著  双葉社   発行:2010年2月

警視庁捜査一係鷺沼は六本木ヒルズの中ほどの3つの階を占めている飛田不二雄の会社に出向くところだ。パチンコとスロットの機械を扱う会社であるトビー興産社長本社オフィスである。飛田は総資産数千億に上り日本の富豪の五指に入る。
 7年前に飛田の従兄弟川端が殺人容疑で拘留されて玉川警察署から飛び降り自殺した。殺された被害者は鹿沼という電子部品会社のオーナーだった。
 飛田は叔母の息子川端とは30年も会っていなかったという。川端は成績はいいが放浪癖のある子で、大学を出た後も職を転々と変えた。欧米に留学して論文が高い評価を受けたが、日本で注目されることはなかった。
 その鹿沼とトビー産業から裏ROMの防止する研究に1億円の契約が交わされていた。
川端は捕まる前にホームレスをしており、隣のホームレスが「セブンシスターズ」と川端が発しているのを聞いていた。
 トビー産業が違法の裏ROMを組み込んだ台を発売し暴利を得ていると噂があった。
飛田を調べ始めると一係に異動の辞令が出て班長や捜査員が異動させられるものが出た。鷺沼は上からの圧力を感じていた。
 飛田の秘書から「田中弘毅」という口座に合計2億円を送金したことがあると証言を得た。田中を捜すうち、口座は田中の死後開設されていることが分かった。
銀行の調査から田中と名乗る男が口座を開設した時のいきさつで行員の協力でモンタージュが出来上がるとそれは警察内部の人間だった。飛田は警察関係者に並々ならぬ影響力を持っていた。それをあえて飛田の逮捕に踏み切ったのは新任の係長で尾木警部だった。飛田をワシントン条約違反での別件逮捕だった。マスコミの反応は早かった。
1482  心霊特捜
Date: 2010-4-23

おすすめ度 ★★★

 今野 敏 著  双葉社   発行:2008年8月

 岩切大吾は、神奈川県警刑事総務課で庶務や連絡係を一手に引き受けていた。
エレベーターの中で人が死んでいるという事件が起こった。六年前にも人が死んだエレベーターで死霊が取り付いていると利用しなくなっていた。R特捜班のメンバーが到着する。
3人のメンバーには霊感があった。特捜班のひとりはここに「いる」と言った。被害者の男は6年前に死んだ男と友人だった。殺したのは被害者の愛人の女だった。再びエレベーターを訪れるが、すでに死霊は居なくなっていた。
 R班に「気になる夢を見た」と若い手の刑事がやってきた。2度とも同じ場所で見たことも行ったこともない場所だという。しかし、R班の刑事はどこか無意識のうちに見ていたかもしれない。記憶をたどれと言う。次の日、未解決の資料の場所だったと報告してきた。
その場所に行ってみる。花束が置いてあった。交通事故と殺人事件が未解決だった。
花束の女性は事件を目撃したという。4桁のナンバーを覚えていた。事件は解決した。お礼に彼女に会いに行った。彼女はすでにこの世に存在しない人だった。
 女子高校生の遺体が見つかり殺人事件が発生した。参考人の母親は狐憑きだという。高級霊の天狐で、ついた人にさまざまな知恵や能力を与え、家を守るという。祖母の弘恵にそれがついていた。
1481  DOWN TOWN ダウンタウン
Date: 2010-4-22

おすすめ度 ★★★

 小路 幸也 著  河出書房新社   発行:2010年2月

 コーヒーショップ〈ぶろっく〉のカオリさんから餞別をもらったショーゴは、高校を卒業してこの街を出て東京へいく。
 あれは高校2年生になる春休みはじめて先輩のユーミさんにさそわれて、四条八丁目の間口2メートルもないコーヒーショップに行った。店のカウンターの中にはカオリさんがいた。ユーミさんはこの店で働き始めたという。5日後、再びぶろっくを訪れた時、入口の小さな黒板にこの間より5つ数が増えて736になっていた。
 コーヒーが運ばれた時、小さな声で「いただきます」と言った。「いいな」って言われて場がなごんだ。高校でショーゴは軽音楽部に入っていた。父も母も穏やかな人で怒られた経験がない。平和だった。
 この店にはリサさん、バンビさん、ミーさん、りょうさんなどが常連でいた。男子禁制と言う人もいたがショーゴは歓待された。
 少し行くようになって、ショーゴはりょうさんのお兄さんに似ていると言われた。カオリさんはそのお兄さんのために作った店だと言った。
 いきなり写真を撮られた。そのことをブロックで話すとケンゾーさんだという。お兄さんの友達だと。
 お兄さんは五月という名でサッキと呼ばれていた。そのサッキさんが外国で葬られていると聞いた。カオリさんがケンゾーさんと一緒に行くことになった。確認のために墓を掘り起こした。パスポートがあった。
 カオリさんは店に出られなくなったが10日ぐらいしてでてきた。小さな黒板に改めて1と書き込んだ。そして「今日からここが皆の帰ってくる場所」と言った。
1480  ハング
Date: 2010-4-20

おすすめ度 ★★★★

 誉田 哲也 著  徳間書店   発行:2009年9月

 刑事の津原英太は遥を見ていた。後輩の大河内は遥のことを思って食ものどを通らないほどだ。遥の兄の植草は津原の3つ年上の先輩刑事だ。植草は津原に遥に告白しろと迫る。遥も津原を思っているという。しかし、津原は大河内の思いを知って口に出せないでいる。
 ジュエリー・モリモトの店主森本が殺された。防犯カメラに事件の4時間後に不審な男が映っていた。
 職務質問の際に逃げた曽根明弘を取り押さえた。「森本は殺していないという」ところが、拘留期限間際に、「自分がやった」と自供した。自供通りの川から凶器のナイフが見つかる。
 まだ解決していないが、捜査を担当した安西特捜一係は5人も突然異動になった。植草は練馬署に、津原も杉並署に異動になった。植草が交番で首をつって死んだ。遥はマスコミに追われている。曽根がこれまでの自白は強要された、自分は何もやっていないと言いだしたのだ。
 津原は遥と会った後、何者かに殴られる。頬にあざのある馳という男だった。津原は馳を調べる。馳のあざは最近に焼かれたものだった。津原は森本殺しは馳ではないかと疑う。
そして、その犯行を隠蔽したのが刑事部長で、舅の立場をおもんばかって隠ぺいしたのではないか。植草は自殺させられたのだと。
 そして、大河内も首をつっていた。そのわきで遥も息絶えていた。津原は遥を抱きしめて号泣する。
 馳に対峙した津原は裏で指示していた人物が堂島だと知る。
1479  スギハラ・ダラー
Date: 2010-4-18

おすすめ度 ★★★★

 手嶋 龍一 著  新潮社   発行:2010年2月

 2008年9月、スティーブン・ブラットレーは、加賀の蒔絵師のもとに弟子入りして7カ月になる。
 アンドレイ・フリスクはシカゴからの電話で資産のすべてを失ってしまった。同じころ北浜の大阪証券取引所では松山雷児は、アメリカの金融商品の先物取引の異変に気づいていた。売りに転じていた。アンドレイは買い方だった。
 アンドレイは、ユダヤ難民となり、ポーランドからリトアニア、シベリアを横断し日本に逃れてきた。日本人チウネ・スギハラの発行してくれた通過査証が彼の一家を守ってくれた。日本の神戸に着いた。1940年、神戸の蛇骨湯で14歳のアンドレイと浮浪児の雷児は仲良しになった。アンドレイはアメリカへ渡ったが、北野で再会した同じユダヤ人の少女ソフィーを案じていた。雷児はソフィーが上海に渡ったことを聞き中国へ行く。
 ソフィーは家族のために富豪の老人に身をゆだねたのだった。雷児が一計を案ずるがうまくいかなかった。
 戦後、雷児は相場師になり大きな金を動かすようになっていた。またアンドレイもミシガン大学を卒業後眼科医となるが、学生のころアルバイトをした先物取引の奥深さに魅せられてトレーダーになっていた。
 スティーブンは神戸の銭湯やパン屋でアンドレイと雷児のつながりを突き止める。
 スギハラがまいた数千の種が全世界を塗り替えるスギハラ・ダラーとなってユーロドルのように羽ばたいていった。
 2010年春、雷児の葬式が本人によって行われた。生前葬である。スティーブンも招かれた。大きな液晶画面に60数年ぶりのアンドレイが写し出されていた。それに向かって雷児は生前葬にふさわしい商いをアンドレイに命じた。自由の国アメリカの市場の自由を守り抜く覚悟だった。アンドレイが世に出した商品S&P500を派手に売りまくった。日本円にして250億円分をわずか40分で売られていった。さらに売り続け1千億円を売って生前葬とともに終了した。相場師雷児の幕は下りた。
1478  ウインクで乾杯
Date: 2010-4-15

おすすめ度 ★★★★

 東野 圭吾 著  祥伝社文庫   発行:1992年6月

 コンパニオンをしている香子はパーティが終わって高見俊介に声をかけられた。高見不動産の息子か何かだろうか。同じコンパニオンの絵里が死んだという。同じように外に出たのだが、絵里は再び部屋に戻って毒物を飲んで死んだ。発見者は丸本で香子や絵里の会社の社長である。ボーイと部屋を訪れ中にチェーンが掛かっていたのでそれを切って入ると死んでいた。自殺とも考えられた。だが動機がない。
 絵里は実家が3日前にメッキ工場で青酸カリを取りに帰ったことが分かった。絵里は3年前まで名古屋に住んでいて恋人の伊瀬耕一という画家がいた。伊瀬は人を殺しその後自殺していた。殺した相手はなんと高見不動産の社長雄太郎であった。
 香子は絵里の知人の由加利に会う。由加利は丸木があやしいという。そしてこの由加利も扼殺された。
 伊瀬耕一が死んだ時、遺書があった。「高見雄太郎を殺したのは私です。絵里ちゃん一緒にビートルズを聞けて幸せだった」と書いてあった。刑事の芝田はドアチェーンのトリックを解明した。片方にセロテープで止めていたのだ。ドアチェーンを切ったやつがあやしい。
 レコードを聴いた芝田は曲からペーパーバック・ライターの曲の位置が変わっているのに気がつく。そしてテープの裏に本当の遺書が見つかった。絵里はツブラヤという男の正体を知っていた。それが丸本だった。
1477  ドラゴン・ティアーズ 龍涙
Date: 2010-4-13

おすすめ度 ★★★★

 石田 衣良 著  文芸春秋   発行:2009年8月

 マコトのもとにブラッド宮元のハンドレッドビューティで17人の女性が総額6千万の被害を訴えていると情報が入る。さっそくマコトはそのブラッド宮元の下で働くスカウトマンにとして潜入する。浮いた言葉で若い女性に声をかけていく。
 そのうち、マコトはブラッド宮元がテレビで顔が売れていることからあることを思いつく。それは朝の直立不動の朝礼から始まり、客をカモと言い、成績の良い者の表彰、悪いもののみせしめの暴力。発煙筒も飛んでくる乱闘騒ぎを映像に盗撮した。それを動画に投稿した。そしてテレビ局がワイドショーで流したのである。金は返ってこなかったが、ブラット宮元への彼女たちの復讐はできた。
 池袋の公園などの青テントが消えた。ホームレスが減ったわけではなかった。正常化作戦で公園内にテントが作れなくなったのだ。ホームレスはガードの下、大橋の下、鬼子母神参道、南池袋の歩道に流れていった。ホームレスたちはコンビニも不況で廃棄を出さないように調整するから食事にありつけることが少なくなった。そこへ、建築会社がホームレスたちから白手帳を取り上げていると聞く。白手帳とは雇用保険料として印紙をはる手帳でそれを持っていると失業保険がもらえる。建築会社は取り上げた手帳に印紙をはり、あとでがっぽり失業保険を搾取していた。マコトはガード下のガンさんが腕を折られたと聞いて入院先に訪ねる。そして、こんどの炊き出しの日に建築会社から白手帳を取り戻すために立ち上がろうと演説をした後、実際に会社に押しかける。マコトも加勢する。白手帳はホームレスたちの手に戻る。
 中国からの研修生が脱走しているという。5年間で4千人もいる。脱走して日本で働けば不法就労になり、強制帰国させられる。研修生は多額の借金をして日本に来ている。来日前に受けた条件よりも劣悪な低額賃金で重労働をさせられ、休みもままならないという。中間にピンハネをする企業があるからだ。マコトはひょんなことからクーという女性のために骨を折る。マコトの母も同情し結果的にはクーをマコトの妹として養子縁組をして日本での就労を助けてやる。
1476  真綿荘の住人たち
Date: 2010-4-10

おすすめ度 ★★★

 島本 理生 著  文芸春秋   発行:2010年2月

 大和は大学に合格した。母親の強い勧めで下宿することになった。真綿荘という。
西武線の江古田だった。学校も近い。荷物は先に送ってあった。2階に4部屋と風呂場。
1階にも風呂と2部屋と広い食堂があった。風呂は空いているほうを入ってよいそうだ。
大和は2階だった。椿と小春が向かいにいる。1部屋は空いていた。1階は晴雨と千鶴でふたりは内縁同士だと千鶴が言った。小春は太っているが、大学2年生でもともと恵比寿に住んでいたが事業に失敗した両親が地方へ引っ越し、自分は大学のために東京に残ったという。大家の千鶴は晴雨と17年間はセックスしていないという。晴雨さんは画家で引きこもりだという。
 椿はきれい好きだった。小春は荒野先輩と付き合っていた。小春が腹痛を起こして寝込んだ。大和は差し入れのバナナとヨーグルトを買ってそっと置いておいた。
小春はお礼に大学いもを作ってくれた。大和は小春に「好きだ」という。
 千鶴は昔、男に強姦されてからセックスができなくなっていた。その男と言うのが晴雨だった。
 ある日、晴雨の母親が倒れたのでしばらく真綿荘を出るという。晴雨は千鶴に養子縁組の書類を渡す。新しい束縛をするために。
1475  R.P.C  ロール・プレーイング・ゲーム
Date: 2010-4-7

おすすめ度 ★★★★★

 宮部 みゆき 著  集英社文庫  発行:2001年8月

 杉並の建売現場で女性の声のような悲鳴が聞こえたという通報があった。佐橋巡査部長が青いシートをはがしてみると男が倒れていた。そばに血のついたナイフが落ちていた。
 殺されたのは所田良介48歳で妻と16歳の娘一美がいた。
3日前、渋谷区松前町のカラオケボックスで21歳の女子大生が絞殺された。殺されたのはここで働く今井直子というアルバイトだった。今井直子は不倫をしていたという。不倫の相手が所田良介ではないかと疑いがもたれた。調べるとA子の相手が所田で直子は奪い取ったということが感じられた。
 所田一美が渋谷南署にやってきた。私立の高校に通い成績もトップクラスだと言うが、身なりはピアス、ネックレス、光沢のあるミニスカートというグレタ娘の恰好だった。
 所田のパソコンを見て捜査員は驚く。そこにはネット上の家族が存在していた。ハンドルネーム「お父さん」は所田で、ほかに「お母さん」「カズミ」「ミノル」がいた。カズミは一美ではない。まったくの別人だった。一美は「早く犯人を見つけてよ」という。
 一美は別室に呼ばれたネット上のミノルこと北上稔が刑事に質問されているところを別室から見ていた。カズミと名乗る加原律子もやってきた。おどおどした様子でときどき嘘泣きをする。ミノルはその行為を嫌がった。ネットの家族は最初は「カズミ、お父さんだよ」ということから所田と律子の間で行われていた。そこへミノルが加わった。さらにお母さんが加わった。家族はレンタルした掲示板で書き込みを続けていた。書き込みはチャットになることもあった。オフ会(実際に会って話す)もやった。
所田はカズミ宛てに「楽しかったからまた会いたい」とメールを送っている。
ネット上の家族が対面するのを見ながら一美の様子を捜査員が見つめていた。そして、一美は自分がカズミと会った。一美が殴って倒れたカズミの顔色が変わっていった。死んだと思った。男友達に助けを求めた。父の所田はカズミを殺したのは一美だと気が付いていた。そして、果物ナイフで一美は父を刺したという。
刑事から、窓の向こうの疑似家族は実は本物の刑事だと聞かされる。演じてもらっていたと。
所田のパソコンを見てある刑事が「俺がこの一美という女の子だったら、きっと怒る。怒らずにはいられない。誰も気づいてやれなかったのだろうか」と。それがこの疑似家族を演じるきっかけになったという。娘と同じ名前の疑似家族。絶対に親がやってはいけないことなのだ。と。
1474  崖
Date: 2010-4-6

おすすめ度 ★★★★★

 小杉 健治 著  講談社  発行:1989年2月

 千葉県で発生した女子校生強姦容疑者を追っていた市枝は、容疑者が県議会議員の父親の威光に護られていると感じていた。県議会議員の息子広木昇はここのところ外出はしない。なんとしても捕まえたい。市枝には刑事になる前に県議会議員の広木の秘書がかかわった事件を目撃している。他の刑事は広木に対して及び腰であるが市枝はなんとしてもはっきりさせたい。息子が外出するところを任意同行で捕まえた。
 同じ木更津で畑から白骨死体が見つかる。5年前に行方不明になっている土地成金の川北一蔵だった。
 妻の理沙子はクラブのホステスで川北が通いつめて口説いた。半年後に1千万円をもって行方が分からなくなっていた。
 41歳の常吉は兄弟を集め「結婚したい女性がいる」と岩崎理沙子を紹介した。叔父や兄弟は理沙子の素性を調べ反対をした。しかし、美人の理沙子を気に入っている常吉は耳を貸さない。家の改築まで進めている。常吉の家には5年前から幸という60歳ぐらいのお手伝いがいた。
 案の定、理沙この金遣いが始まった。つぎつぎと宝石を買い見せびらかしていた。理沙子を殺害しようと兄弟が画策をした。ところがその前に常吉の家が燃え、常吉が焼死体で見つかる。常吉は前日にガソリンを買っている。5億以上は女の手に入る。
 市枝は常吉の父繁蔵について調べていた。常吉と同じ年のお手伝いの幸の息子定男がいた。定男は繁蔵の息子ではないかと。
 37年ぶりに再会した幸と繁蔵。そしてお手伝いに入った。まもなく繁蔵が死ぬ。幸には人に言えない秘密があった。それは同じ頃に妊娠した繁蔵の妻の子と病院でひそかに交換していた。わが子には苦労しないで育って欲しいとの願いだった。はたして、幸は手元に置いた繁蔵の子どもをかわいがりもせず、繁蔵への復習のために粗暴に育てた。
 繁蔵が死に常吉に本当のことを話す。常吉は金に振り回される自分の環境を捨てたかった。理沙子と共謀して本当の息子を自宅に戻しそして火をつけた。焼死体は幸に長年育てられた定男のほうだったのだ。

1473  ガラスの巨塔
Date: 2010-4-5

おすすめ度 ★★★★★

 今井 彰 著  幻冬舎  発行:2010年2月

湾岸戦争のときに捕まった米兵パイロットの顔を見たとき殴られた後があった。米兵は戦闘機にカメラをつけていた。記録に残すためだった。米兵の両親を取材する。その後米兵の乗っていた戦闘機が墜落した現場を押さえたいとNHKの西はイラクの砂漠に飛んだ。
放送までに不眠不休の編集が続いた。当日に間に合わせた。反響を呼んだ。
西は「見終わった視聴者が余韻に浸り自分に問いかけ、家族と語り合う読後感が必要なのだ。そんな番組を作る」という意気込みがあった。
 その後、チャレンジXの番組を立ち上げた。企業名を出し、日本人が取り組んできた道を思い起こし今一度奮い立たせて欲しい。無名の日本人に光を当てたいと始めた。しかし、スタッフはたったの7人であった。徐々に視聴率が上がり、銀行の頭取を集めた場で講演依頼も来た。会長は西を応援する。スタッフは10名増えた。しかし、西の早い昇進に同じNHK内から追い落とそうとする邪魔が入る。西はNHKのために働いていると個人の手柄や昇進をもくろんでいることではないとつっぱねる。
 しかし、チャレンジXで取材した高校で教師がうその証言をし、それを放映してしまう。あとでアレはうそだといわれても結局NHKの落ち度となった。また、部下の使い込みが発覚、これがもとで会長は辞任する。
 西への風当たりは、エグゼブティブプロデューサーとなり、特別職になったことで更に強くなった。
 いわれのない中傷や一方的なデマがまことしやかに週刊誌や紙面をにぎわせた。すべてやっかんだ管理職が種をまいたものだった。
 西はチャレンジXの打ち切りを考えていた。5年続いた番組はエンデングを迎えた。
2008年、西は20余年勤務したNHKを退職する。
☆湾岸戦争は文化庁芸術作品賞を、プロジェクトXは菊池寛賞を受賞した。
1472  八日目の蝉
Date: 2010-4-3

おすすめ度 ★★★★★

 角田 光代 著  中央公論新社  発行:2007年3月

 希和子は元恋人の妻が夫を車で送っていく20分ほどの時間鍵がかかっていないことを知った。自分は子どもを堕胎したのに、妻は子を産んだ。一目子を見るだけでいいと思って忍び込んだ。ところが、赤ちゃんが希和子をみて笑った。思わず抱き上げてコートの下に隠し、駅とは反対の方向へ逃げる。
 開いていた薬局で粉ミルクとオムツを買った。公園でぼんやりしていると50過ぎの中村とみ子の家に誘われ9日間同居する。赤ちゃんには薫という名をつけた。その家で見つけたエンジェルホームのパンフレットを見つけ、水を売りに来た女性がその関係者だったことからそのホームに薫と一緒に入所する。希和子には親兄弟もいなかった。父の保険金3750万円を入所の際に差し出した。
 後日、希和子が誘拐と放火の疑いで指名手配されていることを知る。ホームの誰かに知られていないか気が休まるときはなかった。希和子は薫をつれホームを逃げ出す。ホームで一緒だった沢田久美の実家の小豆島を訪れる。
 モーテルの掃除を仕事をしながら与えられたアパートで暮らす。それを知った久美の母が二人を引き取ってくれる。
 新聞に写真が出たことでこれまでの生活が一変する。「この子はまだ朝ごはんを食べていないのです」と捕まったとき訴えた希和子。もうすぐ薫が4歳の誕生日の前にその日がやって来た。
 薫は本当の両親の元へ戻るが、回りから好奇の目で見られる。八王子から川崎に越したが自分が誘拐された子としてすぐ分かってしまった。そして再び立川に越す。
 薫つまり恵理菜は、両親が自分のためにギクシャクしていると感じていたが、大人になるにつれ、もともとこうだった夫婦でないかと思うようになる。
 ホームで小さい頃一緒に遊んだという小豆島の千草が訪ねてくる。小さい頃のことを聞かれるが覚えていない。あのことを客観視できる自分に千草は驚いていた。恵理菜もまた結婚できない既婚者との子を身ごもっていた。
 自分を誘拐したあの女性ももう出所しただろうか。懲役12年だった。
小豆島へ向かう恵理菜と千草の脇で、ぼんやりとしている女性がいた。希和子だった。お互いにまだ誰か気がついていない。でも希和子は薫が大きくなっていればあのくらいだと後姿を似ていると思いながら眺めていた。
1471  夢曳き船
Date: 2010-4-2

おすすめ度 ★★★★

 山本 一力 著  徳間書店  発行:2010年1月

晋平は蔵の基礎作事を引き受けてから壊し屋とは違う道具がいくつも必要であることが分かった。長雨が続き、左官も大工も日当で払うが仕事に出ない日は払わない。しかし、差配連中には雨風に構わず月に20日分の仕事分を渡していた。この長雨で金が足りない。伊勢屋に借りるか行ったり来たりしていた。そこへ、伊勢屋から出てきたやつが尋常ではい。大川端で立ち尽くしている。そして晋平は濁流に浸かった男を引き上げる。
 男は木場の材木商伊勢杉四代目の陣左衛門で、1月に2万3千両の材木が火事にあい店も焼けた。伊勢屋に4千両を頼んだが良くないうわさが飛び交って思うようにいかなかった。死のうと思ったという。
 晋平は陣左衛門を連れだって箱崎町の貸元あやめの恒吉をたずねた。晋平は「親分に4千両の博打を受けてもらいたい」と申し出る。うまくいけば4千両がもうかるが、失敗すれば4千両が消えるという話だ。陣左衛門は金貸しの因業さというよりも金貸しに踏みにじられるのが嫌だったという。陣左衛門と晋平は心の内を包み隠さず恒吉に話す。
伊勢杉は熊野から買い付ける杉に4千両払えば1千本の杉が届き、8千両が手に入るという。恒吉は金を貸してくれることになった。
 熱田湊に金を届けるにあたって恒吉は代貸の暁朗に尾張まで行くよう頼む。ところが、渡世人の仲間内では恒吉が木場の材木商を乗っ取ろうとして8千両の大勝負に出たと噂になった。
 6月10日暁朗は出発した。4千両を受け取った陣左衛門は2百両を晋平に渡す。座ったまま待つのではなく事を成し遂げようとする意気ごみから暁朗は尾張に向かった。
 暁朗は熱田塾に逗留し、材木商、廻漕商にも顔を出した。荒れる船にのりへどを吐いて船頭からの話も聞いた。
 7月7日熱田湊を出発した。百尺(30メートル)の千石船が10杯並んでいた。神奈川の手前で強風にあおられる。
 海の飛び込んだ男たちに交じって暁朗も飛び込む。海の上でも暁朗の度胸の良さに感心した。7月13日品川沖に無事に船が向かう。

1470 深重の橋 上・下
Date: 2010-4-1

おすすめ度 ★★★★★

 澤田 ふじ子 著  中央公論新社  発行:2010年2月

1441年山城国では土一揆がおこり、京では戦国乱世の兆しを見せ庶民は安穏に暮せなくなっていた。食べるものに困ったものが人買いに子を売り、人さらいも横行していた。
 牛と新蔵と千次郎は縄でつながれ新しい売主に売り渡される。5日前から小屋に閉じ込められたままだった。互いに親しくなり名乗りあった。
 牛は湯屋の主亀屋四郎兵衛に若い女3人とともに引き取られた。途中で新しい着物に着替え洛中で一番立派な湯屋だった。15歳の牛は釜番にももやお七、奈えは客の垢すりをする。食べることもままならない時、三度の食事と暖かい寝床が与えられた。牛は釜にくべる薪を拾いに鴨川に行く。鴨川では捨てられた死体にウジがわいていたり、まだ生きている病人も捨てられていた。大雨で山から流れついた大木や流木でかなりの収穫があった。
 牛は釜場頭から論語を手に入れてもらい、ひそかに勉強した。街に出ては張り紙に何が書いてあるか声をかけ教えてもらった。
 牛は20歳になったとき、いっしょにきたももから「好きだ」と抱きつかれた。ももはうしより2つ年上だった。
 牛が鴨川へ流木を拾いに行った際、5年前に一緒に縄につながれていた新蔵に出会う。新蔵は善阿弥のもとで社寺の作庭を学ぶ山水河原者になりたいとつかえているという。それにしても千次郎は盗賊の一味になっていた。
 牛はももが妊娠したと聞き、牛は朝早くももをリヤカーに隠し湯屋を出る。途中で牛の行動に不審を抱いた店の者から追われ二人は離ればなれになる。
 牛の窮地に松波伝蔵と足利家に仕える一色義直に助けられる。将軍家に仕える宇野屋に引き取られる。ももは京の路地を逃げ、長屋の傘の影で倒れた。沖九郎三郎の夫婦に引き取られる。傘張りをする夫婦だった。子が生まれてもまもなく沖九郎の妻七重が急死し、ももは沖九郎に頼まれるまま妻になった。そして二人の間にも子ができた。牛との間に生まれた子も実のこと変わらなく育てられた。
 お救い小屋から米を盗んだ童が牛に似ていたと伝蔵から聞く。
宇野屋には子がいなかった。一色さまから「これだけの若者を天馬に育てるのも人として冥加かもしれぬぞ」と言われたことを思い出していた。牛はおなごが嫌いかもしれぬと店の女たちは噂していた。
22歳になった沖頼助は東軍についていた。西軍は一色軍だった。牛は東軍の若者が自分と瓜二つなのをみた。背中に悪寒が走った。「その子を討つな」と言ったが遅かった。矢は頼助の胸に刺さっていた。
 牛は頼助がももの子であることを確信する。そして、すでにももも九郎三郎も亡く弟の平助がいた。牛は「平助をわしの子とする」と告げる。
1469  感応連鎖
Date: 2010-3-31

おすすめ度 ★★★★

 朝倉 かすみ 著  講談社  発行:2010年2月

 墨川節子は北海道の有名私立高校に合格した。入学式の日母の支度が遅く遅刻した。佐藤絵里香が一緒に会場に入ってくれた。自分たちの前に島田由季子がいた。由季子は全身を美容整形したかのように整っていた。すぐに絵里香が敵対心をあらわにしたが、節子は自分が太っているために下を向いていた。由季子は節子には優しかった。
 担任の秋澤が節子の成績が下がっていることに気を使ってくれた。そして「世間は広いのだ。お前の良さが分かるやつが必ずいる」と励ましてくれる。
 絵里香は敵対しながらも由季子の行動が気になる。秋澤の妻の初美が妊娠している。が、夫の浮気を調べ始める。ディスニーランドに行くことを知り、学校へ乗り込む。そこへいきなり絵里香が「妊娠している」と胸を張る。が、秋澤の注意に初美も事実ではないことを見抜く。
 しかし、由季子は秋澤が節子に信号を送るのをキャッチする。秋澤はデブ専門なのだ。
節子の脂肪が燃焼し始めた。もともと整った顔をしていた。磨きがかかってきた。付属の大学入学式の日、絵里香が由季子に言った。「全身美容整形ってかんじ」と節子を見て言った。
 時がたって、由季子は結婚した。夫は弁護士だ。妊娠もして今が一番幸せだとしみじみ思った。そして新聞の死亡欄に佐藤絵里香28歳 4月22日死去と出ていた。お気の毒にと思いながら笑みがこぼれた。
1468  少女
Date: 2010-3-29

おすすめ度 ★★★★★

 湊 かなえ 著  早川書房  発行:2009年1月

国語の小倉が新人文学賞を受賞した。「ヨルの綱渡り」という。この一部をプリントしてくれた先生がいた。敦子はこの文章は桜井由紀が私のことを書いたものだと知っていた。
 由紀は仕返しをするために、小倉のパソコンを持ってきた。中にあった女の子とのツーショット写真は無視して国語の全学年の成績表を学校関係者に一斉送信した。その事は大きな問題になり、3月で小倉は退職した。春休み交通事故で小倉は死んだ。あのヨルの綱渡りは全文読めなかった。
 敦子は、一学期分の欠席を補うために夏休みに老人ホームのボランティアをした。30半ばのおっさんと組まされて掃除をした。偶然、おっさんの家で雑誌に載った「ヨルの綱渡り」を全文読めた。原稿用紙100枚もある長いものだった。
 由紀は、病院でボランティアを始めた。由紀の左手には蚯蚓腫れの傷があった。祖母にやられたと言っていた。由紀の家はその祖母が痴呆で家の仲がごちゃごちゃしていた。
 4月から転校してきた紫織は親友の死を見たという。メールで助けを求められたのに99回無視した。星羅という子だった。
 ホームで老人が餅をのどに詰まらせるという事件があった。とっさに敦子が掃除機の吸い込み口を使って助けた。由紀のおばあちゃんだった。
 由紀は病院に入院している昴という子の父親を探して合わせようとしていた。それが、敦子と一緒に働いているおっさんだった。昴は成功率7%の手術をすることになっていた。
おっさんは、女生徒のイタズラで痴漢呼ばわりされ妻と離婚し職も失った。やっていないと言っても信じてもらえなかった。昴は父親が痴漢をしていなかったことを喜んだ。
 紫織は助けなかった星羅を思った。今、自分が悩んでいる。一瞬にして家庭が崩壊する。自分のまわりも友が離れていく。父親がわいせつ行為をしたという。紫織自身も嘘痴漢で高価なバックをせしめていたが、困ったときに相談する友はもういない。因果応報なのか。

1467  波枕 おりょう秘抄
Date: 2010-3-28

おすすめ度 ★★★★

 鳥越 碧 著  講談社  発行:2010年2月
 
 龍馬の妻だったおりょうは、明治8年30歳の松兵衛と暮らしていた。名をツルと変え、松兵衛よりも4つ年下ということになっていた。9つもサバをよんでいた。実際は35歳だった。三浦半島豊島村深田の長屋で夫の松兵衛は鎌倉や横須賀に反物や端きれを背負って行商に出ていた。おりょうが神奈川の湊で中居として働いていた時、松兵衛は客であった。33歳の龍馬が醤油屋の近江屋新助の家で中岡慎太郎とともに暗殺されて8年が過ぎていた。
 ツルはおりょうだったころにはしなかった料理や掃除や針仕事をして夫の帰りを待っていた。この暮らしに至るまで、龍馬を亡くしてからのおりょうには波乱の暮らしがあった。
龍馬が30歳、おりょうが24歳のとき京で知り合った。
 おりょうは龍馬に鹿児島、長崎、下関と連れていかれた。海援隊として亀山社中を興していた龍馬は大政奉還の草案も考えていた。
 龍馬の死後、おりょうは長崎や高知へ足を運んだ。しかし、坂本の家からは親族をよんでの結婚式をしていなかったことから妾と思われていたことを知り京に戻る。京では父も投獄され生活は苦しく蔵のものを売って暮らしをつないでいた。やがて妹とや弟も奉公の口を見つけ酒におぼれていたおりょうも東京へ出ていく。
 橋本久太夫から15円を返してもらい、薩摩へ帰国するという西郷隆盛から20円をもらい弟を呼び寄せ暮らし始めた。しかし、弟はなれない巡査の仕事に命を落としていった。失望したおりょうは東京から逃れるように三浦半島へ身を移した。
 松兵衛が妻のツルが坂本龍馬の妻だったおりょうと知ったころから仲がおかしくなる。おまけに龍馬とおりょうのことが新聞の掲載小説になった。松兵衛は龍馬の偉大さを思い知るのだった。
 松兵衛が50歳の時、妹の光枝が二度目の夫も失って姉を頼ってきた。妹は46歳になっていた。やがて光枝と松兵衛の仲を知りツルは家を出た。明治39年、坂本龍馬が没して39年後、おりょうも66歳で亡くなるが、松兵衛によって「坂本龍馬の妻」と墓碑に刻まれ三浦半島に葬られた。
1466  ナニカアル
Date: 2010-3-27

おすすめ度 ★★★★

 桐野 夏生 著  新潮社  発行:2010年2月

 林房江は、林芙美子の夫だった緑敏と結婚し17年後、夫の49日を終えて黒川久志にあてた手紙で、芙美子の残した家が新宿区で買い上げ、林芙美子記念館になると書いている。平成元年、房江が65歳の手紙である。
 昭和18年作家や映画監督や画家は徴用され南方や満洲へ派遣されるようになり、林芙美子もジャワ島に17日間かかっての船旅で訪れていた。その頃、芙美子は毎日新聞の記者斎藤謙太郎と恋に落ちていた。謙太郎には妻がいた。芙美子も画家の夫手塚緑敏がいた。謙太郎が26歳、芙美子が33歳の昭和12年に初めて二人は出会った。草津温泉での慰労会から二人は親密になる。
 当然、ジャワ島でも芙美子と謙太郎は会っていたが、謙太郎はスパイだと芙美子が罵った後別れることになる。
 昭和18年9月に帰国した芙美子は妊娠していることが分かる。夫には「もうじき子供をもらうつもりだ」と言い、信州の上田で出産した。そして乳児院からもらってきた子晋として育てた。ところが芙美子は昭和26年、47歳で突然死亡した。芙美子が死亡した後に斎藤氏が遺品から晋は芙美子が生んだ子であると知った。房江は芙美子が亡くなる2か月前に芙美子の家に手伝いに呼ばれた。晋はまだ7歳だった。
 晋は学習院に通っていたが、夏休みの終わりに蓼科へ行った帰り電車の中で転び頭を打って亡くなった。同じ年、謙太郎も亡くなっていた。
晋の13回忌を終えた後房江は緑敏と婚姻届を出した。緑敏は70歳、房江は47歳だった。最初のプロポーズから16年が経過していた。
1465  教室の亡霊
Date: 2010-3-25

おすすめ度 ★★★★

 内田 康夫 著  中央公論新社  発行:2010年2月

 梅原彩は教員採用試験に不合格になり、その後は産休代替えの臨時職員となって榛名山麓の中学校へ半年務めた。その後も病欠代替えの臨時職員で沼田市で勤めたのち、ようやく本採用になった高崎市の春日中学校で英語の教師になった。
 刑事がやってきて前任の学校の英語教師の澤教諭が亡くなった。自死ということになっているが、彩と一緒に写っている写真を持っていた。撮った覚えがない。合成ではないかと彩は言う。
 浅見は生徒の知り合いから「担任の先生が警察に疑われている」と連絡が入る。担任が若いということを聞き、とりあえず会うことになった。その後、沼田警察署に出向く。
澤の自殺は遺書がない、毒物の入手先が不明で他殺の疑いも持っていたという。
 自殺した澤には夫人のほかに一人娘日奈子がいた。出版社に勤めている。教員採用試験を受けるが8.4倍で全国平均より低いが試験の後友人との解答をしていたとき、明らかに自分より低い正解率の友人のほうが採用になった。猛特訓をして再度受けるが再び不合格だった。
 日奈子の父親が今度こそ大丈夫といった年も不採用だった。父親は名越県議に贈賄を送っていたのになぜ落としたのだろう。
 陸上部の顧問だった彩は、成績がふるわなかった山本は代表選手に選ばれなかったことでやくざの父親が怒鳴りこんできた。その父親が秋間川に浮いていた。死後10時間がたっていた。
 澤が生前、名越議員の写真を撮りまくっていた。名越への逆恨みで恐喝を働こうとしていたのかもしれない。名越と学校のそばの住む白い鎧窓の家の結との関係は・・・。
1464  張り込み姫 −君たちに明日はない3−
Date: 2010-3-22

おすすめ度 ★★★

 垣根 諒介 著  新潮社  発行:2010年1月

 次のファイルを見る東京女子大学でのスイス留学をしホテルマネジメントの専門学校にも行っている。28歳。帰国してホテルは半年で辞めている。その後1年ブランク、次の仕事は英会話学校入社である。英語も堪能な才女が1年のブランクは不思議だ。村上はこの女性の面接をした。今後この会社で向こう5年間の人員削減が行われる。
これを機に早めに行動を起こすほうが得策だと説明する。次の面接日に女性は辞めると告げた。武田は「ビューティフル・ドリーマー(夢想家)」とつぶやく。虹を追いかける人はしょせん虹とは実態のないものだから徒労に終わる。いろんな生き方を夢想することが快楽だから、止めることができない。
 ツーリスト会社の33歳の男。面接時に給料の3倍の収益を上げると公言して入社した男である。この男は1社と2社の間に1年間のブランクがあった。この間、オートバイを購入し分解し組み立てツーリングに出たという。人のふんどしで相撲を取るという仕事にうんざりしていたという。面接官はこの男に面接してのほほんとした態度が会社を舐めていることにはらわたが煮えくりかえる思いだった。が男は結局退職した。
 美人アナウンサーとお笑いタレントの密会を追っていた恵は、10時間待ってホテルから出てきた二人を写真にとらえた。「言い分があるようなら連絡を下さい」と名刺を渡す。ところが、帰社してみると恵の担当するフェイシスは休刊が決定した。恵はこのまま居残って念願の文芸に行くべきかどうか迷う。面接官から残る方向で行くか問われる。しかし、恵は結局辞めることにした。そして、フリースクープという雑誌にバイトとして入る。
1463  Nのために
Date: 2010-3-18

おすすめ度 ★★★★★

 湊 かなえ 著  東京創元社  発行:2010年1月

 大学4年生の望は一つ年上の安藤と石垣島にスキューバダイビングに行った。その時一緒だった野口夫婦に食事に誘われた。野口の家は52階建ての超高層マンションの48階に住んでいた。野口は大手商社に勤めていた。妻の奈央子は重役の娘でモデルのように美しかった。
 不思議だったのはセキュリティが万全なはずなのに、ドアの外にホームセンターで買ったようなチェーンがついていたことだ。安藤は野口さんと同じ会社に内定していた。
 会社に勤めるようになって、奈央子さんが不倫をしていたと噂になる。
 野口さんのところに再び招待される。5時25分に望一足先に野口宅を訪問。野口氏とチェスをする。6時15分安藤が到着するが最上階のラウンジで時間をつぶす。6時25分花が届けられる。6時50分料理が届けられる。
 ところが、7時20分、野口氏と妻の奈央子さんが死亡していると通報がある。警察は望、花屋にふんした西崎は望や安藤と同じアパートの住人である。西崎は俳優かとおもうほどきれいな顔をしていたが作家を目指しているという。
 成瀬は料理を届けた際、最初男の声でキャンセルと言われるが、次に望からインターホン越しに「成瀬くんでしょ、助けて!」と言われ部屋に向かい警察に電話した。
成瀬がついた時には、野口夫妻は倒れていた。いきなり野口がとびかかり、ひとりを西崎が手をかけたという。望それを見ていない。安藤は警察に通報した直後にやってきた。
 後でわかったこと。野口氏は妻奈央子に暴力をふるっていた。逃げないようにドアに鎖を外からかけていたこと。奈央子の不倫相手は西崎だったこと。刑が確定した。西崎は懲役十年になった。
 西崎は子供のころから虐待を受けていた。偶然訪ねてきた奈央子を望も安藤もいなかったことから西崎の部屋に招いた。奈央子の傷を見て互いに傷を舐め合った。奈央子は夫の暴力が愛のあかしと思いながら、それから逃れたいとも思っていた。野口氏を殺したのは西崎ではなかった。でもなぜ、西崎は自分が殺したと言ったのだろう。

1462  密約 外務省機密漏洩事件 [増補]
Date: 2010-3-14

おすすめ度 ★★★★

 澤地 久枝 著  中央公論射  発行:1978年8月

 昭和49年1月31日東京地方裁判所で「被告人蓮見喜久子。懲役6か月。1年間刑を猶予する。被告人西山太吉。無罪。どよめきが広がった。
沖縄返還協定に関して、社会党の横路孝弘委員が追及した肩代わり密約についての資料の電文コピーが当時外務省事務官であった蓮見喜久子が情交のあった毎日新聞記者西山太吉に渡したとされるものであった。これが公務員の守秘義務違反に当たる。新聞社は国民の知る権利を縦に戦っていた。二人の逮捕は言論の自由に対する挑戦と解すと、政治権力の介入だと騒がれた。
 しかし、本当に裁かれるべきなのは何か。二人は「ひそかに情を通じ」と機密文書漏洩のみが取り立たされた。
女は加害者という「そそのかし」観が作り上げられた。19や20歳の小娘ではない。四十代の大人の女性である。書類持ち出しをそそのかされたとは不自然である。女を人間以下に考える男のエゴ。性差別意識を叩くという論点から蓮見に痛ましさを感じただろう。
 佐藤政権は倒れると思った横路議員も、総理の「機密はない」の繰り返しでその件は闇から闇へ葬られた。取材のあり方も問われた。
法廷の質疑の様子、蓮見がテレビ出演した時の様子、手記などを引用し詳細に事件の成り行きが分かる。
 高等裁判所や最高裁判所の判決は短く出ている。昭和49年7月発行。53年8月に増補版を発行。西山氏有罪。懲役4か月。執行猶予1年。
1461  無理
Date: 2010-3-12

おすすめ度 ★★★★★

 奥田 英朗 著  文芸春秋  発行:2009年9月

 相原友則は社会福祉事務所で生活保護の担当をする公務員である。ゆめの市役所は生活保護不正受給者を減らしたい意向である。3歳と1歳の子を抱える母子は、家賃補助を含め月に23万円を保護費としてもらっている。実際に男が23万円働くのにどんな思いをしているか、腑に落ちない思いである。元の夫から養育費を出してもらうよう話す。
 加藤裕也は電気保安センターを名乗り配電盤を点検すると偽り、訪問先で漏電遮断機を高い値段で売りつけていた。原価は500円だが家によって2万〜5万円で取りつけていた。
 堀部妙子はスーパーの保安員をしていた。万引き犯を捕まえる仕事だ。もう一人の保安員と組んでレジで精算しない商品を店外にでたところで捕まえる。
 山本順一は市議会議員であるが、土地開発が本業でもあった。短大出の若い社員を愛人にしていた。
 相原は、パチンコ屋の前でカメラを構えケースの出入りをカメラに収めていた。パチンコ店の駐車場で若い主婦売春の実態をつかむが、自分も顧客になってしまった。
妙子は万引きした女の子が持っていた万心教のマスコットをみて、自分の信じている沙修会に誘う。ところがそれを知った万心教の者が万引きをしたと思い事務所で調べると取っていないことが分かった。誤認確認で妙子は職を失う。
高校生の史恵が車で連れ去られる。連れ去ったのは引きこもりの男だった。史恵をメイリンとよび、自分はノブヒコという。両親をババアやジジイと呼び離れにこもっていた。史恵がいることは知らないようだ。出ていくこともできない。自室でノブヒコはゲームをやっていた。
 裕也は山本と書かれた家で遮断機を20万円で売りつけた。もうすぐ建て替えで壊すというが、火災になってからではと巧みに買わすことに成功した。しかし、先輩の柴田が社長を殺したと車のトランクにつめて押しかけてきた。
相原はダンプカーに追いかけられる日が続いた。上司に打ち明けるには支障がある。仕事中にラブホテルに行ったことや買春がばれてしまう。
 山本順一は人妻を殺した兄弟から何とかしてほしいと依頼される。山で焼却するという話を聞く。逮捕されたら、以前のもみ消しを暴露すると脅かされる。おまけに、自宅の建築資金が1億9千万円にもなっていた。妻は何を考えているのだ。
1460  夜来者海峡
Date: 2010-3-10

おすすめ度 ★★★★

 船戸 与一 著  講談社  発行:2009年5月

 国際友好促進協会の蔵田雄介は、中国人女性項青鈴と結婚したばかりの田宮広男から妻が出て行ったと連絡が入る。預金通帳などは置いてある生活費として渡した3万円程度を持って出ているようだ。4日前のことである。この結婚には斡旋料、結婚式料、結納料、新婚旅行費など1千万円ぐらいの経費がかかっている。夫婦仲も悪くはなかった。
 この項青鈴の行方を捜す天盟会というやくざも蔵田に「絶対に見つけろ」と脅してきた。
 蔵田は5年前にこの秋田で国際友好促進協会を立ち上げた。花嫁輸入代行者となっていた。嫁を求める地方の青年と中国人女性を斡旋する。事業は軌道に乗り東北各県で支部を持ち60人ほどが働いていた。
 いつも天盟会の柏木が蔵田について回った。項青鈴が北海道に向かったと知ると部下の山沖に調べさせた。青鈴を追っている間に、ロシア人が車に撥ねられ死ぬ。日本人も首を切られて死んでいた。札幌や稚内に泊まったという情報を得る。
 青鈴は中国に10歳の子がいた。日本人と結婚するとき、その子は知人に預けられた。子供がいることは日本人夫は知らない。稚内では小屋から段ボールにいっぱいに入った多数の銃が見つかる。青鈴が天盟会のお金を2億円預かったまま行方をくらましているとわかる。
 国際友好促進協会ではお見合いが日本側の男性が不況のせいか次々とキャンセルしてくる。こうなってくると会は成り立たない。
 天盟会の関わりのあるヤクザの組が動き出す。日本人名の偽造免許証でレンタカーを借りた楊五栄が、日本人を車ではね、別の人間の首を切ったという。青鈴の子供の父親は楊だと言う。楊も日本で殺し屋をしながら3億円を稼いだ。しかし、もうすぐ船が出るという時、楊は刺されて動けなくなった。青鈴はその姿を見ただけで一人船に乗る。
 青鈴は日本人夫には未練はないという。お金がほしかっただけだと。
1459  ダブル・ファンタジー
Date: 2010-3-8

おすすめ度 ★★★★

 村山 由佳 著  文芸春秋  発行:2009年1月

 脚本家の高遠奈津は台詞が辛辣だと言われているが、実際は腰が低く人当たりも柔らかい。奈津には10年連れ添った夫がいた。奈津の仕事を補佐するためにディレクターの仕事を辞め、家事の一切を引き受け、最初に原稿を読んでくれるのも夫だった。その夫に奈津は最近別れたいと思うようなり口論の末家を出た。家を出るとき夫はとりあえず奈津に30万を渡した。仕事場として借りているマンションに落ち着く。
 演出家の志澤に「官能のつたえ方を芝居で表すのは難しい」、そして奈津に「官能と性愛を真っ向からとらえた愛憎劇を書かせたい」と言われる。何度かのメールのやり取りの後、志澤とホテルに行くようになった。そして「もう夫への依存はやめろ」と言われる。
 同じ大学だった3つ年上の岩井にロケ先で偶然出会った。同じ演劇部だった。酔っぱらった奈津は「先輩、友情のエッチをしませんか」と誘った。家を飛び出したが、志澤とは思うように会えなくていた。
 志澤より岩井のほうが男らしい。態度や立ち居振る舞い、揺るぎない優しさがそうさせる。奈津は岩井に志澤のことをぶちまけるが聞いてくれた。一緒にいて安心し癒されるのが岩井だった。
 久しぶりに夫とも交わる。「一旦離れてみるのも新鮮でいい」といったが、奈津はやはり別れてほしいと思った。
 出張ホストも松本もあっというまに幻滅を覚えた。出版社のパーティで一緒だった大林と出逢う。乱暴な行為で奈津と交わる。
 岩井からメールが来るが男とホテルにいるときだった。「都合が悪い」と月曜か火曜にしか会えなくなる。さらに遠のいていった。
1458  美女いくさ
Date: 2010-3-6

おすすめ度 ★★★★

 諸田 玲子 著  中央公論新社  発行:2008年9月

 信長の妹お市には、茶々、お初、小督(おごう)の三人の娘がいた。信長のもう一人の妹お犬は、佐治家の嫁ぎ二男一女をもうけた。一成は6歳の時、佐治家の当主となった。
小督は11歳で4つ年上の一成と夫婦になった。二人は従妹同士であった。一成との生活7年で、夫は戦の繰り返しで二人の間に子はなかった。伯父の信長の死が伝えられる。
 小督は姉の茶々をなぐさめようと大阪に向かう。茶々は信長の家臣秀吉に嫁いでいた。ところが、大阪城で小督が一月過ごすうちに、知らぬところで一成との離縁をしたこととされたのである。これは、秀吉の策略であった。
 小督は徳川家康の後継ぎ秀忠との縁組予定がひっくり返り、結局、秀吉の甥であり養子でもある秀勝24歳に嫁ぐ。小督20歳のときである。その時、小督は密会により一成と出逢った時の子を宿していたのである。どこからか聞こえてくる声に秀勝の知るところとなり小督の腹の子が、徳川の子か、太閤の子か疑ったのである。秀勝の子とされてはいたが月日が早く生れた子は女の子だった。しかも夫秀勝は朝鮮に向けた兵で巨済島で病死した。
 小督は生れた子を完子(さだこ)と命名した。忘れられない一成に会いたい一心で佐治家をめざす。隣の屋敷に入り佐治家が新たに妻を迎え子ができ、次の子も懐妊の様子に未練が吹っ切れた。
 小督は23歳で徳川秀忠17歳と結婚した。三度目の婚儀であった。
 秀吉が62歳で死んだ。徳川に嫁いで3年目だった。小督は父浅井長政、養父柴田勝家、前夫の秀勝も戦死した。秀吉の養女となった小督はまたしても養父を亡くした。
 小督は秀忠との間に娘ねねをもうけた。翌年、勝姫を生む。3歳でねねは玉姫と名を変え加賀前田家に嫁がせた。そして初子の千姫が7歳の時、大阪へ輿入れさせた。
 小督と秀忠の子は5人目でようやく男の子竹千代が生れた。その2年後国松が、つづいて和姫が生れた。
 大坂では千姫は逃れたが、姉は最後を告げられた。
1457  幹線広告
Date: 2010-3-4

おすすめ度 ★★★★

 三浦 明博 著  講談社  発行:2010年2月

 修介はライバルのウェブ制作会社イノセント社長住吉と組んで欧州チェコのビールのバドバーグのリニューアルキャンペーンをやることになった。予算は2億円。
 ライバル広告つまり、人から人へ情報を感染させていくという方法のキャンペーンスタイルだ。住吉は人柄も言葉づかいもぞんざいで強引である。とっつきにくいと言われる修介とは水と油だ。ショートムービーを4タイプ作ることにした。
 キャンペーンにタイアップさせる曲は宮城雅文という沖縄出身のシンガーだった。しかし、雅文の曲を聴いて鳥肌が立った。特別な威力があるような気がした。
 ウェブサイトへの導入に、鎧かぶと姿の若い女性にお付きとして黒いTシャツの女性軍団を無言のまま歩かせる。衆目を集めながら地下鉄に乗り、徐々に人を増やしながら乗り換えていく。そして最終は代々木公園に集結する。鎧かぶとには「いざ決戦!代々木公園」と書かれている。Tシャツにはウェブサイトのアドレスが書いてある。
 そして200人もの女性は衆人千人を優に超える人々を連れ公園に集まった。そこでバドバーグが振る舞われるという仕掛けだった。ニュースの少なかった時期で、メデアもこの異様な行動を報道した。キャンペーンは成功した。
 その後にテレビCMを流した。バドバーグは前年比2倍の売り上げる勢いだった。曲も評判になりダウンロードが増えた。
 ところが、山の手線で若い男が飛び込んだ。飛び込む前にバドバーグの名を繰り返し口にしていた。さらに、2人の男が自宅マンションから飛び降りた。一人は死亡、一人は重傷である。またしてもバドバーグの名を口にしていた。
 「呪いの映像」というのがウェブサイトを駆け巡った。修介は部下の女性に銘じてCMの画像を1枚ずつ確認した。「飲め!バドバーグ」「買え!バドバーグ」の文字画面が1秒の何分の一かの部分に出てきた。サブリミナル効果をねらったものだった。
 そこへ歌手の宮城雅文も死にたいというメッセージを彼女に送っていたという。さらに住吉が自殺を図ったと連絡が入る。見る映像だけでなく、聴く曲にも非可聴音が挿入されていることが分かる。バドバーグのCMや曲をダウンロードした人はそれを消すよう報道した。キャンペーンは中止された。
1456  乱神
Date: 2010-3-3

おすすめ度 ★★★★

 高嶋 哲夫 著  幻冬舎  発行:2009年12月

 九州博多・姪浜海岸で博多湾にそって建てられた防塁のあとからライオンの顔を持つ十字になった西洋の剣が出てきた。馬渡が実家の蔵で見つけたあの十字架と同じものだった。
 27歳のエドワードはイギリス人である。キリストの軍隊に参加し、インド洋をでて嵐に会い漂着したのが知らない土地だった。博多という地図にも載らない所だった。
50人いた部下も今では自分を含めて24人になってしまった。すでに故郷を出て2年になる。博多ではいったん藩主の家に保護された後、鎌倉というところに移された。北条時宗の時代である。時宗はエドワードの異教徒との戦いや外国の様子を聞く。2年前、博多は蒙古兵に襲われた。エドワードの船に積まれていた投石機に興味を示す。
 博多にまたしても蒙古が襲ってきた。鎌倉からエドワードも駆けつけるが、胸に矢を受ける。部下のザフィルの手当と日本人の祖元の薬で一命を取り留める。時宗は自分の身代りになってくれた礼を言う。時宗が頭を悩ませているのは民を惑わせている日蓮だった。
 エドワードは日蓮と会う。しかし、日蓮の言葉はイエスの言葉にも匹敵するものだった。
またしても蒙古が襲ってくる。エドワードは石の土塁を海岸に作り、九州全土の武士を集め、個人の戦いではなく銅鐸や太鼓の合図で統一した行動が必要だと進言する。
 5千いた兵士は半減した。なおも蒙古は攻めてくる。しかし、エドワードは蒙古軍を上陸させまいと必死に守る。嵐が来て蒙古軍は壊滅する。エドワードたちも行方が分からなかった。エドワードたちは先陣を切って戦い、皆命を落としたと時宗に伝える。
1455  殺人者
Date: 2010-3-1

おすすめ度 ★★★★

 深谷 忠記 著  徳間書店  発行:2009年8月

 平井が中学校へ勤務するようになって1年半。星崎一也の担任である。一也は施設の子「愛の郷学園」と他の生徒からいじめられているのだろうか。暗い顔をしていた。
一也はアルコール依存症の母親に育てられ虐待を受けて育った。その母親が退院すると聞き、遠くへ行きたいと新幹線にのろうとして東京駅で保護された。一也には父がいなかった。
 久保寺亮がパチンコ店をでて自宅に戻る道で殺された。金を取られた様子はなかった。久保寺の背中に「殺人者には死を!」と書かれた紙が貼られていた。久保寺には妻と中学三年の娘ゆふがいた。久保寺は、鈍器で殴りつけられた後首を絞められたようだ。ゆふは以前愛の郷学園に保護されていた。夫の暴力が妻だけでなく娘に及ぶのを恐れたからだった。ゆふは父親から性的虐待も受けていた。父親が殺されたのは、ゆふが副担任の彩子に話した後だった。
 一也が入院した。まだ熱いやきそばを頭から被ったということだったが、母親がフライパンで殴ったのだろう。その母親が農道脇の草むらで殺されていた。その死体の背にも「殺人者には死を!」とワープロで書かれた紙が貼ってあった。
 犯人は子供の時に虐待を受けた経験のある者ではないだろうか。
そして、3つ目の事件が起こった。南始が殺された。やはり背中に張り紙があった。南始の娘翔子は3歳のわが子を6日間アパートに置き去りにした罪で執行猶予中であった。しかし、南始もまた娘翔子に性的虐待を行っていたのである。
 彩子もまた、幼いころ性的虐待を受けていた。犯人は彩子かと警察は疑うが、犯人は別にいた。
1454  虚報
Date: 2010-2-27

おすすめ度 ★★★★★

 堂場 瞬一 著  文芸春秋  発行:2010年1月

東京のマンションで睡眠薬を飲んだうえ、ビニール袋をかぶって死んだ3人の若者。いずれも20代前半の青年である。
自殺を擁護するホームページも見つかる。ページの主は上山という大学教授である。
 東日新聞の長妻は取材に行く。長野支局から社会部の市川に呼ばれて本社で手伝うことになった。すぐさま上山の勤務する大学に向かう。上山は休職届を出していた。死亡した3人が上山のホームページにアクセスした形跡が残っていた。上山は記者会見で「自殺ではなく自死だ。自殺は自分を殺すことで、自死は死を選ぶことだ。自殺教唆などはしていない」という。ホームページはすでに閉鎖された。
 長妻は上山の取材に当たる。上山が自殺幇助容疑で逮捕された。それを産実にすっぱ抜かれた。
 飯田詩織という女性から「上山のホームページを見てメールを出し、返事をもらった」という女性に会う。
 産実はまたしても上山の妻が2年前に亡くなっていることを報じていた。市川はアメリカに出張し留守だった。再び詩織に会って上山とのいきさつを聞く。上山と会って3時間話したこと、何か教祖のような雰囲気を感じたこと、催眠術にかけられたように感じたことを話した。長妻は詩織の名前を伏せて記事にしたいという。了解が得られた。産実に追いつこうと焦った。そして報道した。ところが、詩織は自殺してしまう。詩織は上山に会っていない。自殺未遂で入院していた。社内は混乱した。謝罪文を一面に出した。
長妻は上山から会いたいと言われる。そして「あなたが苦しむことはない」と言われる。その直後、上山はそのビルから飛び降り自殺してしまう。長妻は、その意味が理解できなかった。2人の者を会った直後に亡くした。もっと世間は自分を責めるだろう。長妻は自宅謹慎処分になる。クビと宣告することを知った市川は、長妻をかばう。長妻は秋田支局へ転勤になる。
1453  救命拒否
Date: 2010-2-26

おすすめ度 ★★★★

 鈴木 蓮 著  講談社  発行:2010年2月

 救急医療センターの救命医若林がホテルで行われたシンポジウムで公演中に爆発が起こり死亡した。救助中、最後の言葉はブラック・タグをつけろというものだった。ブラック・タグは死を意味する。死因は頭がい骨骨折による外傷性脳障害であった。ただちに「大阪Sホテル爆破死傷事件」の本部ができた。他に重傷者が3名だった。観葉植物の間に爆発物が置かれていたようだ。心肺停止ではなかった医師がなぜその言葉を発したのだろう。
若林はここ5年間、かかりたい医師、かかりつけ医になってもらいたいのトップにあった。脳外科や外傷外科でも若林は聖人君子であった。彼を悪くいうものはいなかった。
 2年前に天満橋近くのスーパーで起こったガス爆発事故で死者2名が出た。重軽傷者は30数そのときの救命医でもあった。2年前の事故で玉木景子の家族だけは若林が亡くなったことに「自業自得」と言い張った。玉木景子は事故直前まで元気であった。それがブラック・タグを張られ治療をしてもらえなかった。張ったのは若林だったという。
 しかし、この事件を担当していた別の医師は即死状態だったという。後日、玉木景子の婚約者にもこの説明を若林はしている。記録によると玉木景子は後頭部の骨も骨折して脳障害を起こしていた。即死に近い状態であった。
 病院でどんなに頑張ってもヒロインはいつも若林だった。中杢はそれを口にしていた。中杢は救命に異動してから不眠に悩んでいた。医師免許至上主義の限界を感じていた。中杢に仕事をやめさせようと別れた妻は思ったこともあったという。
 しかし、爆破の犯人は中杢ではなく、中杢を助けようとする友の犯行だった。

1452  骸骨ビルの庭 上・下
Date: 2010-2-25

おすすめ度 ★★★

 宮本 輝 著  講談社  発行:2009年6月

 大阪の十三の淀川に面した場所に骸骨ビルはある。本当の名前は杉山ビルヂングで昭和16年に英国人により建てられた3階建てのビルである。が、今の6階建ぐらいの高さがある。施主は株で財をなした杉山轍太郎氏であるが昭和20年に急死した。昭和28年からは妾腹の子である阿部轍正がこのビルを引き継いだ。27歳のときである。それから平成元年までの間、結婚もせず、戦争で孤児になった子供たち6人を養子にし平成元年に亡くなった。阿部氏のあとはここで阿部氏と孤児たちを育ててきた茂木泰造氏が引きついたが、財産の譲渡は希望せず、ここに住んでいるものが新しく住む場所を見つける間の3年間を猶予していただきたいと居住していた。だが、すでに3年はたっていた。
 八木沢省三郎はこのビルにまだ住み続けている住人に穏便に引っ越してもらうための任務を負ってこのビルに越してきた。この跡地にマンション建設の計画も進められていた。
 このビルには1階は誰も使っていないが2階に5人、3階に6人がいる。粉新聞、彫金、探偵事務所、工業会社、運輸、デザイン工房、個人名が2名であるが、ほかに3人いた。
阿部は6人の子を養子にしたが進学が就職に孤児では支障があったためで、6人のほかにも子を養っていた。ビルの中庭に畑を作り、阿部のパパちゃんと茂木のおじちゃんと言いながら育っていった。阿部や茂木に最もかわいがられた桐田夏美が自分は小さい頃、阿部から性的虐待を受けたと告白した。これは杉山ビルと不動産屋の仲介をしていた宇田川に騙されて言わせたものであろう。茂木は阿部のその疑惑は宇田川と夏美の捏造によるものでその汚名を晴らそうと思っていた。ここにいて夏美が来ることを待っていた。
夏美が来ると思われるのは5月31日。しかし、夏美は来なかった。茂木は6月10日までに出ていくことになった。
 八木沢がこのビルに住んだ3か月の思いを書いたものである。
1451 たすけ鍼
Date: 2010-2-23

おすすめ度 ★★★★★

 山本 一力 著  朝日新聞社  発行:2008年1月

 深川黒船橋近くに鍼灸師の染谷治療院の染谷は腕の良さでツボ師といわれるほどであった。お灸を添えても熱く痛くなかった。
 近くに住むおちさは奉公に出されていたが今朝暇を出されて戻ってきた。利発な子であったが、大事な接待の弁当を急ぐあまり1つ無駄にしてしまったのだ。ところが、弁当のかまぼこが悪く、客たちはおう吐した。食べなかった四郎衛門は助かった。おちさの父が染谷治療院に食当たりの21人の男たちを向かわせた。おちさはてきぱきと治療を手伝う。迅速なおちさ父子に救われた。そして、皆が胃のむかつきを沈めて快方に向かった。四郎衛門はおちさに日暮れまでに戻るように伝える。
 米問屋の野島屋の当主仁左衛門から10歳の息子と嫁の菊乃の治療をしたことから、染谷は仁左衛門から通りに治療院を出さないかと言う。染谷は「人助けと金儲けは仲が悪い」と喜ばなかった。
 雨に日、お付きの者も連れないで出かけた仁左衛門は、大川の脇で乞食の母子を見送ったが、子供は駆け出し川に落ちる。母も負うが岸辺で動けない。仁左衛門は泳げないのも忘れ子供を助けるべく川に向かう。
 染谷治療院に運ばれた時、仁左衛門は息をしていなかった。子供は虫の息であった。染谷は仁左衛門の足先に針を打ち息を吹きかえらす。子供も助かる。このことで、仁左衛門と染谷の仲は深まる。そして、仁左衛門は染谷に300両で若い子たちに鍼灸を稽古する場を作らないかと持ちかける。染谷は了承する。
 天保4年の冷夏に米凶作が予想された。野島屋は1日一人当たり1合、一升百文で、買占めを恐れ、入用な分だけしか売らない努力をした。深川の人々も皆に行き渡るよう買いだめは恥だと結束した。しかし、米は不足した。そこへ仙台堀から深川の下屋敷に水路が使われた。
1450 夜の終焉 上・下
Date: 2010-2-22

おすすめ度 ★★★★★

 堂場 瞬一 著  中央公論新社  発行:2009年10月

 平塚と厚木をつなぐ国道129号線沿いにポツンと立つ喫茶店があった。店の名は「アーク」という。夜の9時から朝の9時までやっている昼夜逆転した店である。マスターの真野は人を避けるように口が重い。そこへ刑事の石田はときどき珈琲を飲みに来るようになった。
 ある日、珍しく朝8時半ごろ20歳ぐらいの女性がやってくる。次に石田も来たところで9時が閉店だと知って石田が出た後、女性も外に出た。ところがそこへ車が突っ込んできた。アクセルとブレーキを踏み間違えて女性を跳ねた。女性は救急車で病院に運ばれる。女性の身元を示すものは汐灘の地図と持っていたポーチぐらいだった。真野は、石田から女性の身元を捜すよう協力を依頼される。真野も自分の店の前で起こったことで20年ぶりに汐灘にいく。高校を回って調べるが手掛かりはない。真野はこの街の出身だった。    建築会社の社長だった父が殺され、看護婦の母も殺された。自分はまだ19歳だった。「殺されて当然」「後継ぎとして・・」降ってわいたこの現実から逃れた。なにもかも自分から切り離してしまった。厚木の喫茶店で閉店するというのを譲り受けて20年たった。儲けはないが暮らしていける。
 汐灘で高校時代の友人に会う。数人が集まってくれ、女性の捜査の協力をしてくれたが、手掛かりはなかなか見つからなかった。昔を知る人にも出会った。汐灘に踏み入れたことへの後悔もあった。厚木の店に戻る。
 弁護士の川上は、汐灘の出身である。昔父が真野建設の社長夫婦を殺した。事件は自分とは違うと敢えて弁護士への夢を貫いた。しかし、親が人殺しとわかると捜査の途中でも辞めざるを得なかった。だから、いつも先に自分の親は人を殺したと伝えた。弁護士仲間でも異質な存在だった。川上は、真野の息子が汐灘に戻り、聞き込みをしていることを知る。いつか会わなければならないと思った。そして、真野が探している女性のことで徳島に行く。
 やがて、女性の身元が分かる。最近まで渋谷の予備校に通っていたことを突き止める。
女性の意識が戻った。予備校で川上と真野は偶然遭遇する。そして・・・。
1449 ドント・ストップ・ザ・ダンス
Date: 2010-2-21

おすすめ度 ★★★★

 柴田 よしき 著  実業之日本社  発行:2009年7月

新宿2丁目で無認可保育園「にこにこ園」園長をするかたわら私立探偵の花咲慎一郎のところに、世田谷にある「若草」というケーキ屋の職人内野真哉について徹底的に調べるという依頼が入る。
園では浩太郎という5歳の男の子の父親並木俊太郎が金属バットを持った男に殴られ医大病院に入院したという。並木は妻が出て行き、浩太郎と2人暮らしだ。並木の生活は苦しいうえに妻が残した借金で昼夜を問わず働いていた。脳挫傷の疑いもあるという。
そこへ出版社の越智美紀子見舞いに来る。並木は見城俊太郎の名で作家をしていた。10年ぐらい前に並木が銀座のホステスと結婚するというころからの付き合いだという。
調査の内野については、都内の有名洋菓子店を経てパリにわたりコンテストに入賞するなどの腕を上げて帰国した。帰国してからパリで同居していた女性が死亡し一時は容疑者となったことがあった。ケーキ屋「若草」はどちらかというと昔からのケーキ屋でその懐かしさが地元で気に入られていた。店は大きくなく主人と母と娘で店を切り盛りしていた。
並木の殴打事件に浩太郎の母、つまり並木の妻久美が関わっていることを突き止める。
久美と内野と並木は同じ養護施設で育った。その養護施設あかね園は昔、漏電がもとで火事になった。園長が焼死した。
 あかね園の火事は子供たちの計画的な放火ではないかと思えるノートが見つかる。ノートは当時高校生の水沢裕也のものだった。裕也はとても賢い少年だった。
 内野が店の娘と結婚をすることを耳にする。花咲が聞き込みに行くとあっさりと店の内情も教えてくれる。儲けがでないケーキ屋をなんとかしたいと思っていること、パリで死んだ女性は図書館に勤めていたが実はアメリカの諜報員だったこと。何かの失敗で殺されたこと。ノートは小説のストーリーの下書きだった。
 並木がストーカー女に殴打されたことが分かる。出版社はこれを機に一気に波木の本を出版したい意向らしい。
1448 運命の人 T・U・V・W
Date: 2010-2-20

おすすめ度 ★★★★

 山崎 豊子 著  文芸春秋  発行:2009年6月

 毎朝新聞外務省詰めの弓成亮太は、昭和46年ごろ、沖縄返還交渉に3億2千万ドルと内定した対米支払いにさらに沖縄地権者への復元補償費として400万ドルを肩代わりとして上乗せするとしても、これを明文化できない。密約書簡として永久に非公開と確約されない限り日本案通り受諾できない。佐橋総理とニクソン大統領の間で6月17日調印式が行われる予定である。
 旭日は沖縄返還協定案の全文を紙面に打ち出した。弓成は力が及ばなかった。ところが、調印式にはニクソン大統領は出席しなかった。かわってメイヤー駐日大使が行使した。
 昭和47年2月、弓成は国会担当となり永田町クラブへ移った。そして社進党横溝議員から密約とした内容を裏付ける電文のコピーが紙面に出る。このコピーを提示したのは弓成であったが、なぜ横溝議員の手に渡ったかわからない。
 外務省は機密文書漏えい事件として震撼させる。そして外務省は徹底的に調べるという。弓成に渡した誰かが首ぐらいでは済まないと上司に脅される。弓成は声も出なかった。
弓成に逮捕状が出る。そして弓成に情報を流したとされた三木昭子事務次官も逮捕される。
国民の知る権利をたてに新聞社が弓成の釈放を要求。釈放後は三木と弓成との情を通じての漏えいと書きたてられる。そして休職扱いとされた。弓成の家では弓成の逮捕後、家宅捜査をされた上、釈放後はマスコミやレポーターの餌食にされた。息をひそめ、電話も出ず、夫婦間でもことばも交わさずいた。そして弓成は起訴される。外務省の機密文書を漏らした国家公務員法(守秘義務)違反の疑いであった。報道の自由が取材方法がいかなる場合でも無制限に認められるかが争われた。1審で弓成は無罪になったが、最高裁で懲役4月執行猶予1年に、三木昭子事務官に懲役6月執行猶予1年の有罪が確定した。
 1審で無罪になった後、弓成は新聞社に辞表をだし実家に戻る。三木昭子は離婚し、元夫への名誉を守るために手記を出した。女性議員たちは三木を支援をする動きを見せるが、報道する側は肝心な沖縄返還の裏工作を明らかにすることには目をそらしてしまった。
 最高裁は、「秘密文書を入手する手段で女性の公務員と情交を交わし、被告人の依頼を拒み難い心理状態に追い込み秘密文書を持ち出させた取材行為は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。報道機関といえ、取材に関し他人の権利・自由を不当に侵害した」とした。

 2000年夏、琉球大学我楽教授は沖縄返還に至る日米の政府交渉の最終結果を記述した米公文書の綴りを米国立公文書館から入手した。1978年、最高裁で「密約はなかった」と外務省高官が口をそろえた件は嘘だったのである。
 弓成は沖縄にいた。沖縄のひめゆり部隊、刻み続けられる犠牲者の名前の碑、そして、米軍の基地の問題。米兵の少女暴行事件、米軍機の墜落、昼夜を問わず飛行を続ける基地周辺の騒音、辺野古の移転問題。30余年たって身の潔白を証明された弓成は新たな高揚感がみなぎった。
1447 灰の旋律
Date: 2010-2-18

おすすめ度 ★★★★

 堂場 瞬一 著  PHP研究所  発行:2009年6月

 刑事を辞めたばかりの真崎薫は横浜にある男を訪ねた。細長い店の奥を飲んでいた矢吹である。40年前にロックをやっていたグループの一人だ。レコードは2枚出した。そして渡米したがすぐに舞い戻ってきて売れなくなっていた。矢吹を見つけてほしいと言ったのはプロダクトマネージャーの秋穂だった。横浜、みなとみらい、元町、川崎まで足を延ばしてやっと伊勢佐木町で見たという情報があった。4日かかった。
 秋穂に連絡した後、今度は矢吹から一緒にやっていた平島を見つけてほしいという。平島は20年前星楽器のアドバイザーをしていたことをつかむ。昔住んでいた家に行く。オーナーから伊東に越したことを聞く。伊東には弟夫婦が住んでいた。平島の住所を聞くと横浜にいた。無事に平島と矢吹を会わせる。二人は早速ギターを弾き始めた。
 真崎はその間に秋穂に連絡する。秋穂は二人をそのままにして大丈夫かという。あわてて二人の元に駆けつけると矢吹は血を流していた。平島はいなかった。
 真崎の車の中からコカインがみつかる。誰がいつ入れたのか。矢吹か?矢吹に連絡する。電話は途中で切れる。真崎が駆け付けた時、矢吹は撃たれていた。自分で撃ったという。そして死んだ。平島は行方不明だ。コカインは誰が・・・。
1446 引き出しの中のラブレター
Date: 2010-2-17

おすすめ度 ★★★★

 新堂 冬樹 著  河出書房新社  発行:2009年9月

直樹は函館の高校に通う3年生。父と別居中の祖父がここ数週間ほど3日に1度は電話で怒鳴りあっている。直樹は大学に行かないで漁師になりたいと思っている。どうせ父も母にも反対されるにきまっている。
 ラジオのDJの久保田真生に直人ははがきを送る。ラジオで放送される。その際に「おじいちゃんを笑わせる方法」を番組で募集をする。おまけにおじいちゃんを直接訪ねてしまい却って怒らせてしまう。
 真生は5年前、父と喧嘩をしてしまった。ラジオのパーソナリティをしている真生に、「もう30も過ぎているのだから辞めて結婚しろ、夢だけでは食うていけない」という父に、真生は捨て台詞を残して家を飛び出した。パーソナリティの仕事が軌道に乗っている。
 2か月前にその父が亡くなった。祖母が見せてくれた手紙。それは母がパーソナリティをやっていて父が出した手紙だった。母が同じパーソナリティだったことも驚いた。父は母のファンでもあった。そして真生に宛てた父からの心づくしの手紙を渡された。
 真生は直樹に手紙を書くことをすすめる。番組でも「引き出しの中のラブレター」という企画が持ち上がる。真生が自らそれに携わることを望んだ。
 そして、その番組あてに祖父からの手紙が届く。「40年お会いしていないあなたへ すまない気持ちでいっぱいです。あなたが幸せでいてくれることを願っています。恭三さんからの手紙・・・」
 直樹から父と祖父が仲直りしたことを聞く。
1445 欧亜純白 ユーラシアホワイト T・U
Date: 2010-2-16

おすすめ度 ★★★

 大沢 在昌 著  集英社  発行:2009年12月

 三崎は麻薬取締官である。刑事ではなく厚生省のお役人であるが司法警察権限を持つものである。辻村と二人で新宿の潜入捜査に当たっていた。中国料理の店に聞き込みに行った際、辻村は中国人に撃たれて死んだ。自分も銃を向けられたが気を失った。目が覚めたら誰かの家にいた。中国人の家だった。「息子の命の恩人だから助けた」という。三崎が3年前に助けた中国人の子の祖母の家だった。その中国人は、日本の坂本組と組み大きな取引を企んでいた。三崎はこれからの人生を助けてくれた徐に人生を預けることになった。
 徐は坂本組がホワイトタイガーと手を組むのを利用しようとしていた。ホワイトタイガーが誰なのか知らない。
 ロシア人のぺリコフも連邦司法省麻薬取締局員で、潜入捜査でホワイトタイガーを探していた。ホワイトタイガーは中国マフィアとは違う。ロシアにも北朝鮮にも進出している。
 三崎はペリコフに出会い、ホワイトタイガーが北京政府高官であることを知る。ホワイトタイガーの計画は中国発、日本経由アメリカ行きのヘロインルートを作り上げることだとわかった。
 ホイトタイガーは中国名チャン・パオチャンでアニタのまたいとこで、祖父どうしに血のつながりがあった。そのチャン・パオチャンは日本にいるとアニタは告げた。

1444  いかずち切り
Date: 2010-2-15

おすすめ度 ★★★

 山本 一力 著  文芸春秋  発行:2009年10月

 富岡八幡宮に参拝する半纏の色は火事場の炎のような紅赤を着た5人衆は稲妻屋の男たちだ。背丈は5尺六寸(170センチ)はある大男ばかりである。稲妻屋は証文買い屋である。5人とも貸元の弦蔵に仕えていた。
 海辺の大工町に山田屋という蕎麦屋がある。そこで担保も取らず金を貸していた。利息も質屋の半額で金を貸していた。蕎麦はまずいが金貸しで繁盛していた。その山田屋が稲妻屋の町内で取り立てをやっていたと聞いて黙っていられない。
 しゃがみ屋の匂当の与田検校を連れて山田屋に行く。与田は悪しき性癖を持っていた。人に迷惑をかけて慌てるさまを見ていることだった。与田には両足がない。樽に乗っているのが普通だった。小便も糞もやり放題だ。しゃがみ屋の本分は人から嫌われて「早くここから出て行って欲しい」と思われることだ。お上から検校として鑑札をもらっていた。
 与田は山田屋の女房を譲れという。山田屋は「それは出来ぬ」と断る。与田は本来の蕎麦に身を入れてやれと諭す。

騙り屋(かたりや)はとっておきのネタが自分に入ってくると相手に信じさせ、配当が大きく動き勝負を見極めていると思わせる。勧進相撲が始まる。札差たちの集まる回向院の賭博の胴元は今戸の芳三郎親分だ。胴元や呑み屋ともめ事を起こしてはならない。金儲けがしたくてしょうがないしたたかな連中に声をかけるのだ。
 和泉屋が仕立てた為替切手に天九郎と弦蔵が関わる。素直に2万5千両を払っておけばよかったと和泉屋に思い知らせるつもりだ。
1443  相棒に手を出すな
Date: 2010-2-12

おすすめ度 ★★★★

 逢坂 剛 著  新潮社  発行:2007年7月

 6篇の短編
「心変わり」
不動産会社社長の福島は愛人の志織28歳が最近、自分を避けていることに疑問を持った。そして志織に男がいないか調査をしてくれないかと頼まれた。常盤台の人形の家という小さなスナックに行くという話しを聞いたことがあるということだった。茶野木喬の名刺を出して人形の家のママと話をするようになった。1週間ほどして茶野木は知り合いのジリアンを誘い人形の家に行く。志織が現れた。ジリアンは志織の相手は酒屋の平沢だという。酒屋がわざわざ金を出してのみに来ないと。そして、ジリアンと平沢をつける。志織とともにマンションに消える。不動産会社社長福島に連絡してマンション前で待機する。平沢に別れてくれるよう30万を渡そうとするが、平沢は福島に「おれと志織は所帯を持つ。二度と顔を出すな」という。福島は女房に知れるのを恐れ退散する。
 しかし、茶野木のところへジリアンから「半分分け前を欲しい」と要求される。実は、平沢と志織はなんでもなかったのだ。志織の相手はなんと人形の家のママだった。

「昔なじみ」
鱶野は十条銀座で声をかけられる。将棋の町道場での昔の知り合いだった。警察手帳をみせて付き合えという。国田という刑事である。30分だけという約束でお茶を飲む。
次の日、同じ町道場で一緒だった杉島と10数年ぶりに出会う。国田の話が出る。杉島はトップ屋で国田にたかられたと言う。案外刑事というのも嘘かもしれない。早速、鱶野は十条警察に電話してみる。案の定、国田という刑事はいなかった。杉島も調べたが数年前に退職していることを知る。
 二人は共謀して国田を落としいれようとたくらむ。杉島が仲介して国田に麻薬の取引を持ちかける。代金は鱶野のもつ偽米ドル240万円分。一見して偽と分からないものである。取引場所は小さな橋の上。かくて取引後、サイレンの音がする。二人は逃げる。
 翌朝の新聞に「暴力団組長鱶野麻薬保持で逮捕」の文字が。鱶野の子分は後日、国田に出会う。国田はなんとまだ現職の刑事で、杉島もトップ屋ではなく刑事だったという。「ゴミを掃除するためには・・・」ということらしい。

1442  ごっつい奴 浪花の夢の繁盛記

Date: 2010-2-11

おすすめ度 ★★★★★

 江上 剛 著  講談社  発行:2010年1月

大正15年生まれの丑松は、広島の大竹海兵団に入段した。偶然同郷の茂一と一緒だった。体の大きい丑松と喧嘩の強い茂一。入段間もなく茂一たちは上等兵のしごきが待っていた。そして茂一はまだ白い飯を腹いっぱい食べないうちに自らの命を落とした。
 終戦を迎え広島から丹波へ戻った丑松はしばらく何もする気が起らなかった。醤油を大阪に運ぶ仕事に就いた。そして同じ隊だった菅原に会う。菅原は食堂をやっているという。大阪は闇市で何でも売れた。醤油屋をやめ大阪へ行く。途中で浮浪児の寅雄に出会う。リュックの醤油を持ち去られるところだったが、寅雄が返してくれる。
 丑松は菅原を訪ねる。妹と食堂を切り盛りしていたが、近所では前の持ち主を追い出したと噂していた。
丑松は、寅雄と1週間後に会う約束で会いに行く。醤油の売れた金を渡してくれたが、帰りに「この子売ります」という男の連れていた洋子という女の子を500円で買う。
 洋子は母親とはぐれあの男に面倒を見てもらったようだが生活が苦しく止む無く売ることにしたという。洋子は3.4歳だった。
 丑松は、寅雄から石鹸つくりを手伝わされる。石鹸はよく売れた。
菅原の店の前の持主川崎がやくざを連れて店を返せとやってきた。丑松が相手を追い払う。しかし、次にも金融会社湊の抵当に入れ川崎がやってくる。菅原は正当に譲り受けたと譲らない。
 菅原の妹弥生は湊に会い、お店を取らないでほしいと頼む。湊は弥生が気に入ったようだった。ところが、湊も川崎に刺される。
菅原の店は債権者への清算に売却されることになり、丑松はこれをビルにして1階喫茶と洋食、2階寿司と和食、3階中華、4階キャバレー、5階宴会場の構想を話して楳田信用金庫から50万円を借りる。
 やがて、丑松の構想は現実のものになる。
 丑松は終戦時に茂一の骨の一部を腰にぶら下げお守りにしていた。戦後の大阪で浮浪児と呼ばれる子供たちと対等に接し、一緒に石鹸や飲食店を始めたのだった。
1441  おそろし
Date: 2010-2-10

おすすめ度 ★★★★

 宮部 みゆき 著  角川書店  発行:2008年7月

 三島屋の裏庭に曼珠沙華がひと固まり咲いていた。川崎から来た17歳のおちかは、その曼珠沙華をみてこの花を刈らずにいてくれてよかったと思った。
 神田三島町で袋物を商う三島屋伊兵衛と妻のお民は、姪のおちかを預かる。川崎宿で旅籠を営む実家の兄夫婦の子である。実家で起こったある事件をきっかけに、他人との関わりを怖れるようになった。
 伯父の家で、奉公人として働く事で、悲しみを紛わせようとしていた。
 ある日、来客の予定があったが伊兵衛夫妻は急に外出をしなければならなくなった。伊兵衛がいつも碁敵を迎える「黒白の間」で、おちかが代わりに応対する。
 客は裏庭に咲く曼珠沙華を見て「曼珠沙華が怖い」という。そしておちかに客は身の上話をはじめる。曼珠沙華の間から人の顔が見えるという。ちかはただ話を聞いていた。
話し終えた客は長年抱えていた胸のしこりを吐き出して身が軽くなったのだろうと伯父はちかの報告を聞いて思った。
「私は忙しい、いちいち客に会ってなどいられない。おまえが私の代わりに話を聞いて、私が店を閉めてゆっくりしているときにその話を聞かせてほしい」と伊兵衛はちかに言う。
 安藤坂の屋敷に移り住んだおたか一家は、長屋暮らししか知らなかったのでいくつも部屋があり、土蔵のある家が広くて温かくきれいで申し分がなかった。が、約束の1年がたって出なければならなくなった。おたかはそこへちかも住まないかと誘う。伊兵衛は清太郎からその家はもうないとその場所に連れて行く。おたかがちかに話した話はもう15年も前の話だという。
 おちかは1日だけの女中の休みの日、女中のおしまに自分の身の上話をした。おちかは松太郎が良助を打ち殺すのを見た。松太郎は崖から飛び降り翌日発見された。
 おちかは「主、三島屋伊兵衛の命を受けて変わり百物語の聞き役を相努めます」と凛々しく微笑むのだった。
1440  イノセント・ゲリラの祝祭
Date: 2010-2-9

おすすめ度 ★★★★

 海堂 尊 著  宝島社  発行:2008年11月

検察庁の加納警視正に必死に訴える老婆。12歳の孫の死因に疑問を持つ。結果、宗教団体「神々の楽園」の信者リンチ死事件が発覚する。
病院長高階に厚労省の会議に出席することを頼まれた不定愁訴外来の田口医師も指名により会議に出席する。
田口は「病院リスクマネジメント委員会標準化検討委員会」のモデル事業に関する会議、「医療関連死モデル事業」に出席する。その会議は、医療事故を調査するための「医療事故調査委員会創設検討会」へと発展した。しかし、この検討会自体も有耶無耶にしようとする官僚や、自分達の立場を死守しようとする教授。
死因究明にエーアイを導入しようとするが、解剖至上主義者から解剖制度が破壊されると異論が出る。しかし、解剖率は2.8%、警察が扱う異常死の年間15万体のうち司法解剖、行政解剖率は9%である。
1439  オリンピックの身代金
Date: 2010-2-8

おすすめ度 ★★★★

 奥田 英朗 著  角川書店  発行:2008年11月

昭和39年8月29日、中野の警察学校で爆破事件が起こった。先週の土曜日22日にも渋谷区千駄ヶ谷2丁目の須賀警務部長宅でも同様の事件があったが、ガス爆発ということでもみ消した。オリンピック前で報道もされなかった。20日、草加次郎と名乗る男から「東京オリンピックを妨害します」という封書が警視総監宛てで届いたばかりだった。
 島崎国男は糀谷東斎場で兄の火葬をした。兄は秋田から出てきて建築現場で人足として1日16時間も働いていた。死因は心不全という。郷里で葬式の後、国男は兄の働いていた建築会社に雇ってもらう。東大の大学院生で体力のない男が人足として働くには違和感があったが、オリンピック前の遅れ気味の工事現場の人で不足で雇ってもらえた。
 現場はオリンピック選手村の工事現場だった。疲れたが、自分も兄と同じように1日16時間働いた。こんなことを兄が20年間も続けていたのである。兄の稼いだ金で自分は高校大学と進んだ。そして、兄の本当の死因がヒロポンによる中毒死だったことを知る。
 警察は草加次郎と名乗る爆発魔が東大生の島崎国男ではないかと見当をつけていた。それは、「無線と科学」という雑誌にタイマーの作り方が書いたところと草加次郎の手口が関係していると気づいた。警察は書店に島崎の写真を持って捜査に当たっていた。
 島崎は恩師浜野先生にも手紙を出していた。『近代主義の最大の武器が生産であるならば、それを批判せずして近代主義を克服することができない』ということを噛みしめていると書かれていた。
 島崎はいかさま博打で1万6千円をすってしまった。給料日に払わなければならない。心配した同郷の先輩が相手に話をつけるが、殴られてしまう。結局、その相手は国男たちによって頭を石で殴打し殺してしまう。
 島崎は同郷の村田に自分がやろうとしていることを話し、警察から8千万円を取ることを計画する。しかし、金は村田が持ち去る途中で警察に捕まる。
 警察は島崎の建築現場の仕事場にも監視の目を向ける。島崎は偶然、ダイナマイトを手に入れる。そして、オリンピック開会式の日競技場に忍び込む。開会式が行われる中、警備をしていた警察官は島崎の行動を寸でのところで右胸を撃ち、取り押さえる。
 
1438  いつか響く足音
Date: 2010-2-4

おすすめ度 ★★★★

 柴田 よしき 著  文芸春秋  発行:2009年11月

 3日で帰るという朱美がもう5日もたつのに戻ってこない。食べるものもお金もない。
絵理は母が癌で死んだあと、父が母のために多額の医療費を借金した上に風呂場で自殺してしまった。自宅と生命保険で借金は無くなったが住む家を失った。
高校の同級生の朱美に出会ったことがきっかけで、この郊外のマンションに同居させてもらった。
 そこへ、階下の里子さんが赤飯と肉じゃがを持ってきてくれた。涙が出た。里子さんは結婚した息子さんが隣町に住んでいるが、あることから息子の家に行けなくなってしまった。ご主人はすでに亡くなって独り暮らしである。せっせと肉じゃがを作って近所の配っていた。
 朱美は、両親が離婚した後、母は最近再婚し弟が生まれたという。父にも偶然出会った。父は両親が住んでいた郊外のマンションに戻っていた。そのマンションに住んでいた。父はどこへ行ったのかしばらく帰ってこなかった。
団地内の猫を撮っているカメラマンの克也。子供の示談金の無心で3人目の夫をホームに突き落とし2千万円を受け取ろうとした静子。ホームに落ちた夫は今年で13回忌である。いろんな人が住んでいるこの団地。
朱美は2日遅れて戻ってきた。絵理も仕事を見つけて出て行ったが、またこの団地に来たいと言った。
1437  シューカツ!
Date: 2010-2-2

おすすめ度 ★★★

 石田 衣良 著  文芸春秋  発行:2008年10月

 水越千晴は鷲田大学の3年生。就職活動が始まる。テレビ局は2月に新聞社は3月、出版社は5月である。
 仲間でシューカツブロジェクトチームを作り、模擬面接やグループディスカッションをした。個別に評価しあった。千晴はボロボロだった。
 アルバイトにファミリーレストランで働いていた。レストランでは先輩を差し置いて「正規職員に推薦できるのは水越だ」と言われる。
 テレビ局のインターン制度に応募してワイドショーを手伝う。被害者の顔写真を見つけろと言われる。仲間が助けてくれ手に入った。
 しかし、加害者は未成年で保護されるのに被害者はプライバシーが暴かれることに疑問を持つ。
 仲間の恵理子が関東テレビの3人のアナウンサーのうちの一人に内定した。
 千晴も受けたが4次面接で落ちた。しかし、国営のJBCで内定をもらう。もうひとつ文芸編集の文化秋冬に内定した。地方のニュースやドキュメンタリーを制作していくか、単行本を作り続けるか悩むところだ。
1436  兇弾
Date: 2010-2-1

おすすめ度 ★★★★★

 逢坂 剛 著  文芸春秋  発行:2010年1月

 禿富刑事とマスダと真利子が撃ち合って、禿富とマスダが死んだ。面倒を避けたい渋六興業と裏帳簿問題を表沙汰にしたくない神南署がこの事件を共倒れになったことにしてしまった。
 松国は禿富から預かった裏帳簿のコピーを次長に報告したが3か月たっても進展が見られなかった。痺れを切らして松国から問いただすが「警察組織は堅い結束で成り立っている」と次長はことを起こすことを避けた。
 松国は御子柴にあってその事情を話す。そして御子柴に渡したコピーも引き渡してほしいと頼む。禿富の遺志である神南署の不正を暴くことであったが、御子柴はそのコピーの引き渡しを拒む。
 朝妻企画課参事官は禿富が死んでほっとしていた。しかし、あのコピーがだれに渡ったか心配していた。浪川次長が松国から預かり処分したと聞いた。
 ある事件で誤認逮捕した笠原が御子柴の娘を誘拐し、引き換えに裏帳簿のコピーを要求してきた。御子柴は娘を助けるために要求に応じる。しかし、笠原はそれを歩道橋のそばで誰かに殴られコピーは持ち去られる。
 朝妻は新聞記者の早苗から裏帳簿の内部告発があったことを記事にすると言われる。早苗はある男にその書類を渡す。早苗をつけていた笠原は、書類が男に渡ったことを確認後、男からそれを奪い取る。書類は笠原から岩動警部に渡された。岩動はさらに、笠原に松国を襲うよう指示する。拳銃も渡された。笠原は車の中で松国を撃つ。さらに松国の家に行き夫人を脅しコピー帳簿を取り戻す。しかし、刑事の岩動に撃たれ、松国とともに始末される。
 御子柴は禿富の夫人司津子に呼ばれた。帳簿の作成主が朝妻であることを告げられ驚く。夫人は帳簿のコピーを持っているはずだ。
 司津子は岩動に狙われる。
1435  ギャングスタ
Date: 2010-1-29

おすすめ度 ★★★

 新堂 冬樹 著  徳間書店  発行:2009年6月

 大田区明王の通学路。今日は明王工業の入学式。遅刻だ。銀二は大井中学でパシリだった。今度はパシリなんかやりたくない。
 同級生の美人の由美にメロメロの白石力に出会う。力はイケ面だった。女がいないところでは強かった。
 1年生はそのほかに赤星という聖バレンタインを出たクリスチャンがいるがこれも強い。
 2年生の四天王のうちマスチフは力に、少年院帰りの白蠍は赤星に、タイソンはルシファーにやられていた。先輩で残るはサクラザカ先輩だけだ。サクラザカ先輩はイケ面で強い。しかし、なかなか手を出さない。そのサクラザカ先輩が赤星にやられた。
 銀二は力とくっついていた。赤星に力が挑む。銀二も力の負け方を見て参戦する。が、結果、力が勝っていた。
 そして、また新学期を迎える。強そうな新入生が入ってくる。 
1434  警視庁捜査一課刑事
Date: 2010-1-28

おすすめ度 ★★★★

 飯田 裕久 著  朝日新聞出版  発行:2008年11月

 高卒で警視庁の入った男が25年勤務して最後は警部補となって警視庁を辞職するまでのエピソートである。
 巻末に警視庁で使われる隠語集がある。パーとは警察手帳のこと。ハムは公安。ゲソは履き物。タタキは強盗。アカ落ちは服役を終えることだそうだ。
 工業高校を卒業し警視庁に入庁した。警察学校を終えた後、配属される。初手柄はヘルメットの窃盗犯だった。「警察官は決まった時間に帰るようではだめだ。警察官ならネズミを取れ」と言われる。その後拘置所の看守になる。拘置されている間は俗世間と離れ冷静になり、懺悔の気持ちが芽生えてくるという。
 口が堅く若い刑事をということで駆り出される。トリカブト事件では北海道で見張り続けた。
捜査一課に配属になると赤バッジになった。
 捜査一課はすぐに駆けつけない。社会的反響の大きい事件は別だが、通常は鑑識や機動捜査隊の報告を待って出動の有無を判断する。
 地下鉄サリン事件にも従事した。19年9月辞職する。
1433  凍土の密約
Date: 2010-1-26

おすすめ度 ★★★★

 今野 敏 著  文芸春秋  発行:2009年9月

 警視庁公安部の倉島は特捜本部に呼ばれる。ロシア大使館前で派手に宣伝活動をやっていた男が殺された。2件目の事件が起こった。ロシアとの密貿易をしていた男が殺された。3件目はロシア人ロシアの新聞記者が殺された。いずれも鋭利な刃物で一突きされていた。手口も似ていた。プロによる殺しだった。
 そして、刑事の西本の協力員だったロシア語学科の教授が殺された。アンドレイ・シコフについて調査を依頼した相手だった。
 倉島がホテルのバーで知り合ったロシア人女性タチアナから情報を得ていた。ところが、タチアナはロシアの情報部の少佐だった。
 フリーライターの小枝子は殺されたロシア人と親しかった。死ぬ間際に「釧路 留萌」と言い残していた。
 釧路・留萌ラインのことだ。第二次世界大戦後ソ連のスターリンがアメリカのトルーマン大統領に北海道を二分してソ連領とすることを要求したラインだ。破棄されるはずだった文書が持ち出された。それに関係した者たちが殺された。
 小枝子があぶない。小枝子の家からタチアナが出てくる。
1432  聖女の救済 1月26日(火)
Date: 2010-1-24

おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著  文芸春秋  発行:2008年10月

 パッチワーク教室を開いている真柴綾音と会社社長の真柴義孝夫妻は子供ができない。そのことを理由に離婚することが決まっていた。夫の義孝は「妻は子供を産んでこそその意味を持つ」という持論があった。夫は妻の経営する教室の講師若山宏美と不倫をしていた。
 数日後、若山宏美は自宅で死んでいる義孝を発見する。死因は毒殺。彼が飲んでいたコーヒーに、猛毒である亜ヒ酸が混入されていた。捜査にあたった草薙は被害者の妻綾音に惹かれる。
 一方薫は些細な事から綾音の犯行ではないかと疑念を抱く。そして綾音には犯行当日まで北海道の実家に帰省していたことがわかる。
 綾音が義孝を毒殺するためのトリックを暴くため薫は湯川に協力を申し出る。
 湯川も捜査に協力する。
 浮気相手の若山宏美は妊娠をしていた。
1431  疑心 隠蔽捜査3
Date: 2010-1-22

おすすめ度 ★★★★★

 今野 敏 著  新潮社  発行:2009年3月

 竜崎は大森署長である。そこへアメリカ大統領の来日で警備本部長の役が回ってきた。本来なら第二方面本部長がやるべきで自分がやるべき仕事ではない。警備企画部長の滑稽そうな顔を見た。何か企んでいる。しかし、野間崎管理官からの強い勧めだということだった。受けることにした。
 そこへ競艇場で指名手配犯を捕まえたという報がはいる。戸高である。勤務中に競艇に行っていたようだが、本人はパトロールだという。券を買ったことも認めたが勤務中での行動は控えるよう注意するが強くは言わなかった。「よくやった」とねぎらいも忘れなかった。
 大森署に警備本部が設けられた。秘書役に女刑事の畠山がやってきた。めずらしく、竜崎は畠山に心をひかれていた。
 トラックが事故を起こし運転手が行方不明という事件が起きた。戸高はそれを調べていた。
 そこへアメリカから来たハックマンは、モニターを見ながら羽田に不審人物がいることを突き止め、空港を閉鎖しろという。竜崎は閉鎖の前に、疑問を解こうとと飛行場に向かう。
 戸高から飛行場にいる不審人物がトラック運転手の行方不明者だと知らされる。ほどなく運転手が捕まる。が、アメリカから日本の警備に危機意識が不足していると指摘される。竜崎はそうは思わなかった。大きな山は越えた。
 無事にアメリカ大統領も送り出した。畠山とも何事もなく警備の任務を解かれ平常業務に戻った。
1430 赤い指
Date: 2010-1-20

おすすめ度 ★★★★★

 東野 圭吾 著  講談社  発行:2006年7月

 刑事の松宮は伯父の見舞いに病院を訪れた。伯父はベッドで時々検診に来る看護師と将棋をしていた。松宮にとっての伯父(母の兄)は父の死後母と自分の生活を心配してくれた恩人でもある。
 昭夫は18年前に妻と結婚し、3年後に息子が生まれた。当初は姑との仲もそれほどでもなかったが、ある時期から妻が昭夫の実家に行くことを頑なに嫌がった。孫の顔もそれ以来見せないまま、7年がたち父が死んだ。その後、母を昭夫の妹が実家に通いながら見ていた。母が骨折した時を機に昭夫夫婦は実家に移り住んだ。
 ある時、急いで帰宅するように妻からの電話で帰ると庭に幼い女の子の死体があった。
 殺したのは中学生の息子だった。すぐに警察にという昭夫に妻は息子をかばってそんなことはさせられないと怒る。
 昭夫は真夜中に公園のトイレに女の子を捨てた。
 刑事が来た。女の子の服についていた芝生をみて、近辺の芝生の家のある調査をしているという。たびたび来る刑事に昭夫は自首しようと決意する。が、こともあろうに、殺したのは認知症の母だと刑事に告げる。
 前夜に妻とぼけているからわからないと母の仕業にすることにしたのだ。母の指は口紅で赤かった。刑事はその指がいつから赤いのか疑った。
 母に手錠をかけるという刑事に昭夫は驚く。連行する際に母のいつも使っている杖を持たせる。そこには見覚えのある名札が下がっていた。昭夫が小学校のころ母に贈った手作りの名札だった。
 昭夫は涙があふれた。そして本当のことを告げる。取り調べで息子は刑事に怒られ身を震わせながら「親が悪い」とつぶやく。
 松宮の伯父が死んだ。将棋をしていた相手は看護師ではなく伯父の息子で、看護師はその指示で駒を動かしていたのだった。

1429  終極 潜入捜査
Date: 2010-1-16

おすすめ度 ★★★★

 今野 敏 著  実業之日本社  発行:2009年11月

 環境犯罪研究所に勤める佐伯は現職の刑事であるがここへ出向させられた。警察手帳も拳銃も取り上げられた。まさに民間人である。
 この事務所には所長と女性事務員が1名いるだけだった。
 岩井六蔵は、老後の生活のためになけなしの金をはたいて買った終の棲家のそばに不法投棄の場所があり、既に汚染された水や山から悪臭を放っていた。
 岩井は一人で戦い続けた。監視委員会を設けたが、連中はテレビ局が来たときは表に出てくるものの、ダンプで乗り付け不法投棄をする連中を前に文句を言うと暴力をふるわれるので何もしないでいる。
 栃木県の別荘地にある岩井の家が放火された。不法投棄を続ける暴力団の傘下にある保津間興産の嫌がらせだろう。
 佐伯はその保津間興産に社員として入社するが、ほどなく身元がばれてしまう。危険を察知したのが佐伯が以前助けたホステスのミツコからの情報だった。
 所長は佐伯に戻るように伝えるが、佐伯は捜査を続けたいと申し出る。相手がどんな手を使ってくるかわからない。捜査本部に機動隊を待機させ保津間興産のある足立区まで援軍が駆けつける。
 翌日の新聞を見て岩井六蔵は佐伯が約束を守ってくれたことに感謝した。
1428 刑事 雪平夏見 アンフェアな月
Date: 2010-1-13

おすすめ度 ★★★★

 秦 建日子 著  河出書房社  発行:2006年9月

 30代で余命宣告1年を聞かされた男は、自分の隠れ家として買ったばかりのマンションにいた。死を扱った映画やドラマを大量に見た。しかし、皆まやかしだと思った。
 豊島署内で生後3か月の娘瑠子が行方不明になったという届け出があった。母親は亀山冬美。110番通報から24時間後、雪平はその母親と対峙する。行方不明になって8時間後に110番通報をしている母親を雪平は問い詰める。
 外に出た雪平の目に同じ階の挙動不審の男を目にする。
 ネットの掲示板に「幼児誘拐進行中」の投稿があった。スレッドを立てた男が亀山と同じ階のあの男に違いない。
 赤ん坊の洋服が奥多摩で発見される。行方不明の瑠子のものだった。その周辺を捜査してみると女児の遺体が出てきた。一番若いもので9歳。年長で13歳の合計6遺体である。瑠子は発見されていない。いずれも家で少女で全裸であった。
 6人の少女は渋谷を中心にぶらぶらしており、家出の経験があった。
 7つめの遺体が見つかった。男だった。医師の早川だった。
 犯人は早川をつけていたところへ母親が赤ん坊を捨てるところを偶然見つけた。
 犯人は渋谷で行方不明になった番組を知っていた。女の子のおとした携帯に早川の電話番号があった。そして早川をつけた。
 雪平は犯人を突き止めた。でも物的証拠がない。
1427 龍馬暗殺 最後の謎
Date: 2010-1-10

おすすめ度 ★★★★★

 菊地 明 著  人物往来社  発行:2009年11月

 坂本龍馬は慶応3年11月15日夜、河原町の醤油商「近江屋」の母屋2階で刺客に襲われ生涯をとじた。33歳であった。同席していた中岡慎太郎も重傷を負って17日に絶命した。
 だれが龍馬を殺したのか。新撰組という説もあった。重傷を負った中岡が刺客が「コナクソ」という四国なまりの言葉を発したことや残された刀の鞘や瓢亭の下駄から新撰組に貸したものとされた。鞘も新撰組幹部原田左之助のものであった。
 「渡辺家履歴書」によると鞘は渡辺吉太郎のものであると記されている。さらに、見廻り組頭佐々木只三郎の命により渡辺篤、今井信郎と組の者で15日に龍馬の宿へ尋ね正座していた龍馬を斬りつけた。左右にいた両名も斬った。中岡も斬った。平伏す13、4歳の給仕は子供ゆえそのまま見逃した。近江屋では表戸に1名、階下に1名、4名が部屋に行き2階入り口に1名残し襲撃したという。部屋に入ったのは渡辺吉太郎、高橋安次郎、桂早之助で、2階入り口には佐々木只三郎が控えた。今井信郎と世良敏郎は見張りとして階下にいた。
 渡辺家履歴書は大正元年に執筆され大正4年に執筆者渡辺篤が死亡している。
 龍馬は15日午後8時過ぎに襲われ即死状態であったと思われるが、墓碑には11月16日闘死と刻まれている。中岡も16日闘被創翌17日死亡とある。11月16日が運命の死亡した日とされた。
1426 刑事 雪平夏見 殺してもいい命
Date: 2010-1-6

おすすめ度 ★★★★★

 秦 建日子 著  河出書房新社  発行:2009年10月

 多摩川の河川敷で男が殺された。口に中に丸めた筒のような紙がくわえられていた。紙には「殺人ビジネス始めます」「新規開業につき、最初の三人までは三十万円でご依頼お受けします」と書かれていた。
 そして、「私はこと××××は確かにフクロウに殺されました。××××は被害者の名前だった。佐藤和夫。雪平夏見警部補の元の夫の名だった。雪平はこの事件の捜査をする。元夫は近々結婚する予定だった。雪平と離婚して4年。娘の美央は夫が引き取った。
 葬式の日、娘は自分が引き取ると雪平は元夫の婚約者由布子に告げるが、すでに元夫の家に住み美央は由布子の世話を受けていた。
 2人目の犠牲者が出た。エレベーター内で殺された。「この価格でのご用命はあと一人です フクロウ」とあった。
 雪平は2年前に立て続けに起こった事件で二度も被害者を射殺した。記者会見でも突っ込まれたが雪平は「撃つ必要があったから撃った。撃った瞬間も今も何も感じていません」と言った。雪平は3年連続検挙率第一位だった。
 3人目の被害者が出た。今回は文章がなかった。被害者は初老の男だった。靴下に写真が入っていた。
 警察官僚の姪がストーカーにあっている。ストーカーをしているのはカメラマンの永井隆。同行して取り調べる。釈放後はメールを嫌がる姪に送っているようだ。
 姪の小田愛美のかわいがっていた猫が行方不明になる。猫の肉球が切り落とされて台所にあった。
 小田愛美はフクロウに殺人依頼をする。封筒を受け取った男を調べる。誰かに似ている。そして、この男を追っていた定年まじかの神無月刑事だった。10年前に寺の境内で高校生が殺された。クロとにらんだ福原という男はアリバイがあった。でも神無月刑事はまだ捜査を続けていた。
3人目の被害者は神無月刑事だった。雪平は神無月刑事の部屋を調べる。
 
1425 刺客請負人 江戸悪党改め役
Date: 2010-1-3

おすすめ度 ★★★★

 森村 誠一 著  中央公論新社  発行:2009年9月

 闇世界の人間は大抵知っている徳松でも見たこともない連中5、6人が向島でとぐろを巻いている。罠かもしれない。
 徳松の勘では柳沢吉保と癒着している証人丸目屋茂右衛門が海外から引っ張ってきたものに違いない。
 松葉刑部がお吉と徳松に一網打尽にすると告げる。命は取らず、船に乗っていた5、6人の蛇囚の両手の指を切り落した。
 そして日本橋にさらした。「この者ども品川沖で海賊を働き候・・」江戸の者たちは驚いた。
 この後、丸目屋は刑部に用心棒になってくれるように頼む。
 一方、柳沢吉保の方も刑部に用心棒を頼んだ。
 饅頭屋の丁稚が饅頭を届けたところ部屋に引き込まれ待ち構えていた多数の女に弄ばれたという。こういった被害が10件を超えた。刑部は呉服屋のおらく、塗物問屋のおさき、茶問屋のおとよを全裸にして日本橋にさらした。「この女ども、童子をあそびその身体をつぶしたのみならず、心までも傷つけ、さらに淫乱の女子を募り、役者、色若衆、色僧を呼び集めて白昼痴戯にふけり・・・江戸悪党改め役」と立札を立てた。
 この女たちにはあの蛇囚3人が用心棒としていたのである。
 暇になると、刑部のもとに仕事が舞い込んだ。