読んだ本の感想や紹介したい部分を書いたものです。


過去ログ (その13) 166冊

平成23年1月4日〜平成23年12月30日




No 読んだ日 書       名 著   者 おすすめ度
1746 2011-12-30 防波堤 横浜みなとみらい署暴対係 今野 敏 ★★★★
1745 2011-12-27 悪人 上・下 吉田 修一 ★★★★★
1744 2011-12-25 放蕩記 村山 由佳 ★★★★★
1743 2011-12-20 おまえさん 上・下 宮部 みゆき ★★★★★
1742 2011-12-19 遺体 震災・津波の果てに 石井 光太 ★★★★
1741 2011-12-17 司法記者 由良 秀之 ★★★★★
1740 2011-12-16 花明かり 山本 一力 ★★★★
1739 2011-12-14 邪馬台国 北森 鴻 
浅野 里沙子
★★★★
1738 2011-12-12 しらない町 鏑木 蓮 ★★★★
1737 2011-12-07 JUNK(ジャンク) 三羽 省吾 ★★★★
1736 2011-12-05 ダイジェストでわかる外国人の見た幕末ニッポンゴ 川合 章子 ★★★★
1735 2011-12-02 帝王、死すべし 折原 一 ★★★★★
1734 2011-11-30 刑事さん、さようなら 樋口 有介 ★★★★
1733 2011-11-27 ゴーグルの怪 島田 荘司 ★★★★★
1732 2011-11-26 美作の風 今井 絵美子 ★★★
1731 2011-11-25 多摩湖畔殺人事件 内田 康夫 ★★★
1730 2011-11-24 獅子の密使 今野 敏 ★★★★
1729 2011-11-23 排除 潜入捜査2 今野 敏 ★★★
1728 2011-11-22 追撃 今野 敏 ★★★★
1727 2011-11-21 警視庁公安部 青山望 完全黙秘 濱 嘉之 ★★★★★
1726 2011-11-19 水の柩 道尾 秀介 ★★★★★
1725 2011-11-18 朝鮮王朝「儀軌」百年の流転 NHK取材班 ★★★★
1724 2011-11-16 指名手配 特別捜査官 七倉愛子 新津 きよみ ★★★★
1723 2011-11-15 真友 鏑木 蓮 ★★★★★
1722 2011-11-14 ランウェイ 幸田 真音 ★★★★★
1721 2011-11-13 任侠病院 今野 敏 ★★★★
1720 2011-11-12 彼女はもういない 西澤 保彦 ★★★★
1719 2011-11-11 ドルチェ 誉田 哲也 ★★★★
1718 2011-11-10 家康、死す 上・下 宮本 昌孝 ★★★★
1717 2011-11-08 謎解きはディナーのあとで 東川 篤哉 ★★★★
1716 2011-11-07 虚像 上・下 高杉 良 ★★★★
1715 2011-11-05 小説企業内弁護士 中根 敏勝 ★★★
1714 2011-11-04 イ・サン −正祖大王− 4 リュ・ウンギョン ★★★★★
1713 2011-11-04 イ・サン −正祖大王− 3 リュ・ウンギョン ★★★★
1712 2011-11-03 悪道 西国謀反 森村 誠一 ★★★★★
1711 2011-11-01 いとみち 越谷 オサム ★★★★
1710 2011-10-31 越山 田中角栄 佐木 隆三 ★★★★
1709 2011-10-28 プラチナデータ 東野 圭吾 ★★★★
1708 2011-10-27 密売人 佐々木 譲 ★★★★
1707 2011-10-26 境遇 湊 かなえ ★★★★
1706 2011-10-25 知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物マ カン・ヒボン ★★★
1705 2011-10-24 愛ある追跡 藤田 宜永 ★★★★
1704 2011-10-23 巨大銀行システム崩壊 杉田 望 ★★★★
1703 2011-10-22 イ・サン −正祖大王− 5 リュ・ウンギョン ★★★★
1702 2011-10-21 光あれ 馳 星周 ★★★★
1701 2011-10-19 連戦連敗 深井 律夫 ★★★★
1700 2011-10-17 イ・サン −正祖大王− 2 リュ・ウンギョン ★★★★★
1699 2011-10-15 逃亡医 仙川 環 ★★★★★
1698 2011-10-12 警視庁FC 今野 敏 ★★★
1697 2011-10-08 白い鴉 新藤 冬樹 ★★★★★
1696 2011-10-05 夢で逢いましょう 藤田 宜永 ★★★★
1695 2011-10-01 薩摩スチューデント西へ 林 望 ★★★★
1694 2011-09-27 随筆 宮本武蔵 吉川 英治 ★★★★
1693 2011-09-24 イ・サン −正祖大王− 1 リュ・ウンギョン ★★★★
1692 2011-09-23 マスカレード・ホテル 東野 圭吾 ★★★★
1691 2011-09-22 無罪 深谷 忠記 ★★★★
1690 2011-09-21 県庁おもてなし課 有川 浩 ★★★★
1689 2011-09-20 特命回収 倉澤 遼 ★★★★
1688 2011-09-19 黄金特急 久間 十義 ★★★★
1687 2011-09-18 ガラスのターゲット 安萬 純一 ★★★★
1686 2011-09-17 緑の毒 桐野 夏生 ★★★★★
1685 2011-09-14 はぐれ猿は熱帯雨林で夢を見るか 篠田 節子 ★★★★
1684 2011-09-10 共鳴 今野 敏 ★★★★
1683 2011-09-07 チヨ子 宮部 みゆき ★★★★
1682 2011-09-05 化合 今野 敏 ★★★★
1681 2011-09-01 往復書簡 湊 かなえ ★★★★
1680 2011-08-30 コラブティオ 真山 仁 ★★★★
1679 2011-08-23 ソルハ 帚木 蓬生 ★★★★
1678 2011-08-21 覚悟の眼 萩 耿介 ★★★
1677 2011-08-19 やめられない ギャンブル地獄からの生還 帚木 蓬生 ★★★
1676 2011-08-17 鬼畜の家 深木 章子 ★★★★★
1675 2011-08-15 真夏の方程式 東野 圭吾 ★★★★★
1674 2011-08-11 蝿の帝国 軍医たちの黙示録 帚木 蓬生 ★★★★
1673 2011-08-07 刑事の骨 永瀬 隼介 ★★★★
1672 2011-08-05 天の方舟 服部 真澄 ★★★★
1671 2011-08-02 棟据刑事の代行人 森村 誠一 ★★★★
1670 2011-07-31 檻の中の鼓動 末浦 広海 ★★★★
1669 2011-07-25 宮本武蔵とは何者だったのか 久保 三千雄 ★★★★
1668 2011-07-20 月は怒らない 垣根 涼介 ★★★★
1667 2011-07-12 この女 森 絵都 ★★★★
1666 2011-07-10 銀の島 山本 兼一 ★★★★★
1665 2011-07-09 アンダルシア 真保 裕一 ★★★★
1664 2011-07-07 奇跡 中村 航 ★★★
1663 2011-07-04 鏡の顔 大沢 在昌 ★★★
1662 2011-07-02 絆回廊 新宿鮫] 大沢 在昌 ★★★★
1661 2011-06-30 ばらばら死体の夜 桜庭 一樹 ★★★★
1660 2011-06-29 三十光年の星たち上・下 宮本 輝 ★★★★
1659 2011-06-27 異境 堂場 瞬一 ★★★★
1658 2011-06-25 ナニワ・モンスター 海堂 尊 ★★★★
1657 2011-06-19 札幌方面中央警察署 南支部 誇りあれ 東 直己 ★★★
1656 2011-06-19 東京難民 福澤 徹三 ★★★★
1655 2011-06-18 トッカンVS勤労商工会 高殿 円 ★★★
1654 2011-06-17 赦し 矢口 敦子 ★★★
1653 2011-06-16 炎天の雪 上・下 諸田 玲子 ★★★★
1652 2011-06-10 カササギたちの四季 道尾 秀介 ★★★
1651 2011-06-06 天網 TOKAGE 2 −特殊遊撃捜査隊ー 今野 敏 ★★★★
1650 2011-06-03 苦節23年、夢の弁護士になりました 丸山 昌子 ★★★
1649 2011-06-02 たまゆらに 山本 一力 ★★★★
1648 2011-06-01 サレンヘヨ北の祖国よ  森村 誠一 ★★★★
1647 2011-05-31 蒼い猟犬 堂場 瞬一 ★★★★
1646 2011-05-26 さらば銀行の光 江上 剛 ★★★★
1645 2011-05-24 花の鎖 湊 かなえ ★★★★
1644 2011-05-22 眠れ、悪しき子 上・下 丸山 健二 ★★★★★
1643 2011-05-20 トンイ 上・下 キム・イヨン 
チョン・ジェイン
★★★★★
1642 2011-05-18 麒麟の翼 東野 圭吾 ★★★★
1641 2011-05-16 刑事魂 松浪 和夫 ★★★★★
1640 2011-05-14 保身 小杉 健二 ★★★★★
1639 2011-05-12 いねむり先生 伊集院 静 ★★★
1638 2011-05-10 リラを揺らす風 谷村 志穂 ★★★★
1637 2011-05-09 天魔ゆく空 真保 裕一 ★★★★
1636 2011-05-08 人質の朗読会 小川 洋子 ★★★
1635 2011-05-07 ジェノサイド 高野 和明 ★★★★
1634 2011-04-27 ジョン・マン 波濤編 山本 一力 ★★★★
1633 2011-04-25 ポリティコン 上・下 桐野 夏生 ★★★★
1632 2011-04-22 砂上のファンファーレ 早見 和真 ★★★★
1631 2011-04-20 再会 横関 大 ★★★★★
1630 2011-04-17 誰でもよかった 五十嵐 貴久 ★★★★★
1629 2011-04-10 ちょちょら 畠中 恵 ★★★★
1628 2011-04-08 密航屋 野村 宏之 ★★★
1627 2011-04-05 ウツボカズラの夢 乃南 アサ ★★★★★
1626 2011-04-01 誇り 今野 敏ほか ★★★★
1625 2011-03-30 軽井沢令嬢物語 諸田 玲子 ★★★★
1624 2011-03-27 ししゃも 仙川 環 ★★★
1623 2011-03-23 苦役列車 西村 賢太 ★★★
1622 2011-03-20 パラドック13 東野 圭吾 ★★★★
1621 2011-03-17 ほかげ橋夕景 山本 一力 ★★★★
1620 2011-03-11 世界でいちばん長い写真 誉田 哲也 ★★★★
1619 2011-03-10 リミット 五十嵐 貴久 ★★★★★
1618 2011-03-09 ダークゾーン 貴志 祐介 ★★★★
1617 2011-03-08 殺気! 雫井 脩介 ★★★★
1616 2011-03-07 カルテット3 指揮官 大沢 在昌 ★★★★
1615 2011-03-05 アリアドネの弾丸 海堂 尊 ★★★★
1614 2011-03-03 歌舞伎町セブン 誉田 哲也 ★★★★
1613 2011-03-01 阿修羅 玄侑 宗久 ★★★★
1612 2011-02-25 京大芸人 菅 広文 ★★★
1611 2011-02-23 婢伝五稜郭 佐々木 譲 ★★★★
1610 2011-02-19 カルテット2 イケニエのマチ 大沢 在昌 ★★★★
1609 2011-02-17 月下天使 高橋 克彦 ★★★★
1608 2011-02-12 Y氏の妄想録 梁 石日 ★★★★
1607 2011-02-11 交錯 警視庁追跡捜査班 堂場 瞬一 ★★★★
1606 2011-02-10 セカンドバージン 大石 静 ★★★★★
1605 2011-02-08 硝子の葦 桜木 紫乃 ★★★★★
1604 2011-02-06 月の恋人 道尾 秀介 ★★★★
1603 2011-02-04 やぶへび 大沢 有昌 ★★★★
1602 2011-02-03 螻蛄 黒川 博行 ★★★★
1601 2011-02-01 天下商人 高任 和夫 ★★★★
1600 2011-01-31 篝火花 かがりびばな 海野 碧 ★★★★
1599 2011-01-30 天使の報酬 真保 裕一 ★★★★★
1598 2011-01-29 フリーター、家を買う 有川 浩 ★★★★★
1597 2011-01-28 ST 沖ノ島伝説殺人事件ファイル 今野 敏 ★★★
1596 2011-01-27 沈黙の檻 堂場 瞬一 ★★★★★
1595 2011-01-25 烙印 天野 節子 ★★★★
1594 2011-01-24 首都感染 高嶋 哲夫 ★★★★
1593 2011-01-22 江 上・中・下 田淵 久美子 ★★★★
1592 2011-01-20 獅子のごとく 黒木 亮 ★★★★
1591 2011-01-17 エチュード 今野 敏 ★★★★
1590 2011-01-16 廃院のミカエル 篠田 節子 ★★★★
1589 2011-01-14 逃亡者 折原 一 ★★★★★
1588 2011-01-13 解告者 大門 剛明 ★★★★★
1587 2011-01-12 罪火 大門 剛明 ★★★★
1586 2011-01-11 ラティスの逆鱗 唯川 恵 ★★★★
1585 2011-01-10 カウントダウン 佐々木 譲 ★★★★
1584 2011-01-08 だいじょうぶ3組 乙武 洋求@ ★★★★
1583 2011-01-07 トリック シアター 遠藤 武文 ★★★★
1582 2011-01-06 ええもんひとつ とびきり屋見立て帖 山本 兼一  ★★★★
1581 2011-01-04 砂の王国 上・下 荻原 浩 ★★★★★


1746 防波堤 横浜みなとみらい署暴対係
Date: 2011-12-30

おすすめ度 ★★★★

  今野 敏 著  徳間書店  発行:2011年11月

 諸橋夏男警部はよこはまみなとみらい署勤務だ。神風会の岩倉真吾が加賀町署に引っ張られた。諸橋は岩倉が素人に手を出すとは思えない。取り調べもだんまりを決め何もしゃべらない。昔かたぎでみっちり修行を積んだヤクザだ。神風会はたった二人の老舗の組だった。秋祭りでテキヤを排除しようとした住民ともめたという。聞くと港北エンタープライズの喜多川にイベント企画をボランティアでお願いしたという。何の魂胆があってボランティアで近づいたか調べた。神風会の神野も岩倉がやっていないというのを信じている。
やがて、喜多川が相声会という指定団体系の第三次団体の組長だったことが分かる。諸橋は翌日釈放となった。なんだかんだといっても相声会の進出を防ぐ防波堤になった岩倉であった。秋祭りに神風会もお手伝いをさせてもらうことになった。
 鶴見で発砲事件があった。強い犬を育てるためにかませ犬を使う。弱小をどんぱちさせその騒ぎを収めるという形で大きい組織が動くというのである。今、横浜で抗争が起きれば誰が得をする。極東連合本部か。田家川組長に会いに行く諸橋。組同士の武装解除を申し出る。「横浜でのドンパチはゆるさない」と諸橋は告げる。
 ヤクザがけんかをしていると通報がある。駆けつけると岩倉が4人を相手にしていた。ビルの占有屋だ。相手は田家川の組のものだった。またしても岩倉はだんまりを決めている。結局、裁判所が競売にかける事で話が決まった。
1745 悪人 上・下
Date: 2011-12-27

おすすめ度 ★★★★★

  吉田 修一 著  朝日新聞出版  発行:2009年11月

 祐一は祖母の房江に中古の車を200万円で買ってもらったが、ほとんどが祖父の勝治の病院への送り迎えにもっぱら使っていた。祐一の母は、祐一が保育園に入るころに父親が出奔し、母自身も別の男を作り、祐一を祖父母に預けられたまま育った。
 土木作業員の祐一は出会い系サイトで知り合った佳乃と付き合っていたが、佳乃の方は金髪の祐一よりもバーで知り合った大学生の増尾圭吾と付き合いたいと思っていた。
 佳乃が三瀬峠で遺体となって発見された。佳乃の友達はあの日佳乃は増尾圭吾とデートだと話していたのを覚えていた。その増尾圭吾は行方不明だった。
 佳乃は保険の外交員をしている30歳であった。
 馬込光代は祐一と知り合ってホテルに行く。
 あの夜、佳乃を車に乗せた増尾は、三瀬峠に行った。佳乃はニンニク臭かった。そのことを指摘するとガムをかみ始めた。気に入らなかった。峠の上で佳乃を降ろした。肩を押し背中を思いっきり蹴りつけた。ガードレールにぶつかる音がした。増尾はそのまま行方をくらました。殺したかもしれないと思った。
 何度か祐一と会っていた光代は、祐一から「俺、人を殺した」と打ち明ける。あの日、佳乃は自分の目の前で増尾の車に乗った。祐一は後をつけた。そして、三瀬峠で降ろされた佳乃をみた。男が佳乃の背中をけるのを見た。男の車が去るのを待って佳乃に声をかけた。佳乃は、祐一がつけてきたことをなじった。そして、何もしていないのに「人殺し助けて!」と叫ぶ佳乃の必死でのどを押さえたのだった。人に聞かれたら、何もしていないのに人殺しにされてしまう。
 光代はいったんは祐一と警察に行こうとするが、昔のことを思い出し「私と一緒に逃げて!」と叫んでいた。二人はもう何年も使われなくなった灯台に入り込む。
 やがて、増尾は警察に捕まるが無罪と分かって釈放される。警察は祐一の祖母房江のところにやってきた。祐一はもう何日も戻ってきていない。房江は祐一を探しに出る。
 警察が灯台を目指してくる。祐一は光代の首に手をかけた。いくつもの懐中電灯が二人の姿を捉えた。
1744 放蕩記
Date: 2011-12-25

おすすめ度 ★★★★★

  村山 由佳 著  集英社  発行:2011年11月

  夏帆は母が人前ではよそいきの顔を作って上品を装ることや、兄や妹とはちがう接し方に嫌気を覚えていた。
 テレビのドキュメント番組でも家族が出るとゲスト本人を家族がほめると、それを見ていた母は「誰も彼もエエことをしゃべらはるのやろ。もしお母ちゃんがでたら、あんたの恥ずかしいことを片っ端から話したげるわ」という。恥を話されることよりも得々と語る母の姿を人に見られるのが恥ずかしかった。だから、小説で入賞しても決して母の話は避けていた。
 貯金箱を持ってガムを買いに行った。金の出し入れ口が硬く、お店の人にはずしてもらって十円払った。あとで母に見つかり、母は店にガムを返してこいと夏帆を連れて行く。店の人に「貯金箱を空ける前に子どもに諭して欲しかった」と母は告げる。店の人は「泥棒したわけではないのに、真っ青な顔してかわいそうに。叱るにも限度がある」と言い返されてしまう。
 中学に入り、テニスクラブで1日練習することになった。しかし、500円しかない夏帆に母に1500円貸してと言えるかどうか。やっといえたが、母は直前に言ったこと、前もって母と相談しなかったことに腹を立て金を出してくれなかった。
 その母が今では直前のことも忘れてしまう。認知症の高齢者である。「あんた、元気なんか。この親不孝者の放蕩娘。たまには顔見せてぇな」と電話してくる。さっき会って母の好きなお寿司を食べたばかりだというのに。このころになると夏帆も母を許せるようになっていた。「近いうちに行くから」と電話を切る。「ああ嬉し、早よおいで。母親言うのは娘が来るというだけで寿命がのびるねんで。まってるからな。一日も早よ来て」
1743 おまえさん 上・下
Date: 2011-12-20

おすすめ度 ★★★★★

  宮部 みゆき 著  講談社  発行:2011年9月

  南辻橋のたもとで人が殺され、人像がいつまでも残って消えなかった。そして、大黒屋藤右衛門も殺された。瓶屋新兵衛は布団の上にうつ伏せで背中を袈裟懸けに切られて死んでいた。3人の死に、同心井筒平四郎は本所の岡っ引きの政五郎の一の手下おでこ本名三太郎らと調べ始める。
 新兵衛には娘史乃がいた。新兵衛は王疹膏を3年前から売り出した。大雨で眼病とひふ病が流行し、12年前から隣人の栗橋医師にすすめられたためである。新兵衛は、5年ほど前、栗橋医師に20年前の事件を告白していた。20年前、あの頃、大黒屋で働いていた新兵衛は、一緒に働いていた吉松が新薬を編み出していた。そのおごりもあって吉松の仲間を小ばかにする態度に、風呂でおぼれたように見せかけて殺した。関わったのは藤右衛門、久助と自分の3人だった。
 栗橋のもとで助手をしていた松川哲秋は栗橋医師の死後、郷に帰ると告げて出て行った。哲秋は17歳、新兵衛の娘史乃は11歳の時だった。
 井筒平四郎やおでこは人像の被害者が久助だとわかると、3人がそろって同じところで働いていたこと、吉松の妻から、自殺をするような人ではない。新薬が出来たと喜んでいたということを聞き込む。だが、殺しの前後に怪しい人を見かけた人は見つからなかった。
 おでこたちは関係者を集め、推理した内容を聞かせる。そして、史乃が突然出奔する。
ほどなく、向島の北に舟でいくところの村、秋本芳斉の隠居所に2人で住んでいるところを突き止める。若い男は松川哲秋だった。5年後に人殺しとなって江戸に戻ってきていた。
1742 遺体  震災、津波の果てに
Date: 2011-12-19

おすすめ度 ★★★★

  石井 光太 著  新潮社  発行:2011年10月

 釜石市の被災地でみた遺体安置所になった旧二中に、民生委員を務める千葉70歳は12日に足を運んだ。ブルーシートの上に毛布に包まれた、納体袋にくるまれた、ビニールシートにくるまれた遺体が所狭しと置いてあった。警察官が4、5人に分かれて遺体を囲んでいた。海沿いの地区から上がった遺体だという。千葉はその地区の惨状をまだ確認できないでいた。自分も何かやらなければならないと、市役所に出向き葬儀社に勤めた経験から直接市長に「安置所の管理を任せて欲しい」と頼む。市長の許可を得て旧二中で働く。
 一方、歯科医の小泉65歳も津波を見たことがなかったが、保健所の職員と警察官に頼まれて遺体安置所での死亡診断書を書くことを依頼された。すべの遺体をDNA鑑定のサンプル採取をしていた。
 盛岡から来た西郷も歯科医54歳も岩手県の歯科医師会から頼まれて釜石の旧二中に行く。遺体の口をあけると口の中にぎっしりと黒い砂が詰まっていた。
 釜石市の火葬場は地震によって火葬場のベルトの故障、燃料不足、電機停止で稼動していなかった。次々と運ばれる遺体で急を要した。市は遠野市からベルトの部品を寄せたり、じか発電機を持ち込んだりして15日から火葬場は稼動できるようになった。しかし、それ以前の地震前に亡くなった方の処理をしなければならない。そうした遺体が20人ほどあった。遺体はすでに725番の番号が振られていた。17日から遺体が焼けるようになった。朝7時から稼動して夕方まで14体が可能だった。追いつけない。一時は土葬をすることに決まったが、土葬にすると何年か先に再び掘り起こして火葬する。遺族に二重の悲しみになる。腐敗して頭髪がへばりついた遺体を見たいはずがない。寺側も穴をすでに掘ったがそのままになっていた。そこへ秋田市、横手市、大仙市が、火葬場での受け入れを承諾してくれた。21日以降、そうした市への搬送が行われた。
 3月下旬になって、体育館の遺体は棺に収めることができた。全国の業者から千基以上のさまざまなお棺が届けられたのだ。
 そうして5月18日に千葉は旧二中の遺体安置所が閉鎖されることを聞いた。天井の高い体育館は読経が低く響き渡っていた。百数十体が身元が分からないままだったが、火葬されていた。
 
1741 司法記者
Date: 2011-12-17

おすすめ度 ★★★★★

  由良 秀之 著  講談社  発行:2011年10月

  港北警察署員は「お宅のあたりから大きな女性の悲鳴が聞こえた」と通報があり、大倉山の瀟洒なマンションを尋ねた。部屋の主の男は「今帰ったばかりだ」という。警察のしつこい確認の誘いに玄関だけ開けると署員は乗り込んできた。
 風呂場で女性が死んでいた。首を絞められていた。部屋の持ち主岡野は33歳の新聞社の司法記者だった。岡野は警察に連れて行かれるが、自分がやったものではないので「知らない」を繰り返す。しかし、被害者の女性もまた司法記者だった。新聞社は違っていたが、2度ほど飲んだことがあった。
 警察はこのマンションが特殊な鍵で暗証番号で開くようになっており、他に鍵の番号を教えていないことから持ち主を犯人と決め込んでいた。
 一方で、谷山議員がダムの受注のために大日本建設から1千万円の贈賄を受けたことをスクープしていた。
 織田は岡野逮捕を知った。1千万円をスクープした鬼塚のお気に入りの女性記者が殺され、岡野が逮捕された。岡野に捜査に関する情報を教えてやった。何か関係あるような木がしてならなかった。
 弁護士の長谷川は岡野から、1千万円スクープの件で、谷山に渡したという山下は1千万円を愛人に渡していたことが分かった。その日の通帳の写しも岡野は取っていたと話した。長谷川はこのことに驚く。特捜部にとってとんでもないことであった。
 鬼塚はその事実を知り、谷山議員の逮捕前に岡野の記事が出ないようにするために岡野から資料を取り上げようと岡野のマンションに忍び込んだ。暗証番号はサウナに行った折に預けた貴重品のロッカーで暗証番号を偶然見た。この番号とマンションの番号が一致した。
 女性記者桜井は岡野のマンションに入っていくキャップの鬼塚を見て、不審に思いあとをつけた。そして、殺された。
 谷山議員の冤罪がはっきりした。
1740 花明かり
Date: 2011-12-16

おすすめ度 ★★★★

  山本 一力 著  祥伝社  発行:2011年11月

 駕籠かきの新太郎と尚平は坂本村の庄兵衛の妻およねの桜見物にかごを出す。およねは足が不自由で余命も短いだろうことから、ゆっくり向かっていた。それを千住の駕籠かき寅が絡んできた。それに寅の客の村上屋六造も絡んできた。
 新太郎と尚平は我慢に我慢を重ねていたが、とうとう切れた。この勝負に出ることになった。ところが賭けてきた内容は村上屋は千両出すという。それを聞いた新太郎たちの駕籠かきの隠居木兵衛は、「賭けに応じてあんたの息の根を止める」という。村上屋は「掛け金はあんたのたくわえと旅籠の身代をそっくりだ」という。さらに村上屋が噛み付き、木兵衛に1万両出すようにいうと、「あんたが受けるというなら異存は無い」と木兵衛はいう。
 しかし、新太郎は後日、木兵衛を訪ね、この賭けを取りやめるという。木兵衛は面目がつぶれるが新太郎の心持を聞く。「木兵衛の面目はつぶれるが何人もの死者を出さないですみます」という。一家心中の早籠に乗ったも同然、「思いとどまってくだせえ」という。
木兵衛も機嫌を直す。
1739 邪馬台国
Date: 2011-12-14

おすすめ度 ★★★★

  北森 鴻  浅野里沙子 著  新潮社  発行:2011年10月

 雅蘭堂の越名と内藤は廃村の村を訪ねた。明治の初めの地図には載っているが、5年後の地図には消えていた阿久仁村である。廃村になって120年。その村で惨殺事件があったという。長火鉢の隠しからくりに入っていた「阿久仁村遺聞」という25話からなる話が書いてあった。跡形もなく消え去った村。一人の青年による村民皆殺しの事件。
 この遺聞を東敬大学准教授蓮丈那智に送った越名は内藤と研究室を訪ねる。遺聞の話から邪馬台国の話まで広がる。そして、邪馬台国は出雲にあると那智はいう。出雲大社こそが卑弥呼のいた場所であると。岡山の鬼の城・温羅伝説が邪馬台国の生き残りである製鉄民族であるという。
 そんな折、奈良の箸墓古墳が卑弥呼の墓?というニュースが新聞を賑わす。古くからこの説はあるが、卑弥呼が魏から下賜された鏡は天理市の黒塚古墳から34枚出土している。
内藤は邪馬台国にも阿久仁遺聞にも疑問を持っていた。
 阿久仁村は鉄に長けた村だった。この村で国家機密として大量の鏡が作られた。そしてこの村は2度滅びた。一度目は邪馬台国の時代。2度目は明治の初め、チベットに持っていく鏡を作ったために。そして阿久仁遺聞は昭和の初めに作られたものであった。
1738 しらない町
Date: 2011-12-12

おすすめ度 ★★★★

  鏑木 蓮 著  早川書房  発行:2011年11月

 ニュー千里アパート団地の帯屋史朗が孤独死した。84歳だった。死後1、2日脳溢血だ。アルバイトの管理人門川誠一29歳は遺品整理を頼まれる。管理人と言え週3日しかこないのだ。帯屋には遺骨の引き取り手もいない。アパートの入居時の保証人長塚を訪ねる。帯屋が死んだ事を知らせる。長塚に帯屋の遺品の古い8ミリフィルムが残されていたことを知らせる。処分するように言われる。遺品のノートにあった菊池を岩手県一関に訪ねる。「あのフィルムは残していては恐ろしい。処分すべきだ」という。帯屋は女性がリヤカーを引きながら笑っている姿であって恐ろしいとはなんだろう。遺品のノートを見せると「死にぞこない」という「特攻隊?」ときくと「そんなようなもんだ」という。
菊池が言うには帯屋は結婚したことがあったという。半年ほどで離婚したそうだ。あの女性が帯屋の妻だったのか。菊池宅から戻って再び長塚を訪ねた。長塚から8ミリフィルムを見せるように迫られる。二人で見る。
 ライフメンテナンスの甲山に相談した門川はフィルムを見てドキュメンタリーを撮ろうと言われる。帯屋の戸籍を調べる秋田県の十和田にいく。限界集落となった帯屋の実家は村ごと移転していた。帯屋の孫に会い、帯屋が結婚した相手、浅利ひさともあった。あのフィルムの女性ではなかった。
帯屋の遺骨は無縁仏に祀られることになった。長塚が門川に「一から映画の勉強をしてはどうか、入学金などのつまらん心配はするな」とすすめる。
1737 JUNK(ジャンク)
Date: 2011-12-07

おすすめ度 ★★★★

  三羽 省吾 著  双葉社  発行:2011年11月

 前田信二郎には小学校3年生の男の子と5歳の女の子がいる。妻も前田の本性をしらない。前田は擂り(スリ)であった。今日も財布を3つ盗んだ。盗んだ財布は現金だけを抜き取り、後は封筒に入れ自宅から遠く離れたポストに入れる。明らかに落し物かすられたか分かるようにしておく。前田が盗気を発しているグレーのスーツの男だ。狙っているのは鎖をつけた若者の後ろポケットの財布。横断歩道を渡り終わる間にその財布はなくなっていた。なくなったことに気がついた若者が騒ぎ始めたとき、スリの男は前田に向かって抱きつき、自分のポケットから「スリ取れ」という。若者の財布らしいのをすばやく抜く。男は警官の前で体を調べられるが出てこない。若者も諦めたようだ。
 男は前田に着いて来いというしぐさをする。前田は男から、自分の名前を呼ばれて驚く。あの抱きついたときに、免許証だけ抜き取っていた。たいした技である。
 仲間に入るように言われた。そして連れて行かれたところは雀荘だった。バーサンといわれる戦後の混乱期にスリを覚えた少女は今では、スリの元締めとなっていた。
 前田のすり方を見て、指に無駄な動きがあると指摘する。バーサンの頼みは出来るだけ拾ったが現金だけ抜いてその場に戻しておいたというふうに、すった財布は出来るだけすった近場にわかるように処分せよという。バーサンが言うには大掛かりな窃盗団がやってくるという。警察が本腰を入れて取り締まるように「祭り」が必要だという。仲間にすでにオッチャンと呼ばれるものがいたので、前田はオッチャン2号と呼ばれた。
 チームプレーでガード、実行、監視、渡し、処分の5つの工程をマスターし、街に出て働く。一瞬のアイコンタクトで動く。仲間が出来楽しくなった。バーサンは4人から5人で4組編成した。交番には10人前後の男女が詰め掛けていた。この4日同じような光景を見てきた。
 ボーヤと呼ばれる若者がいなくなった。見つけたときには右手の中指人差し指がばっさりと切られていた。「障害者手帳をもらおうか」と笑っていた。バーサンも心配していた。
前田が心配したが、ボーヤは「俺は両利きだぜ」と笑った。
1736 ダイジェストでわかる外国人が見た幕末ニッポン
Date: 2011-12-05

おすすめ度 ★★★★

  川合 章子 著  講談社  発行:2011年10月

S・W ウィリアムズは、
 異教徒の諸国の中で日本が一番みだらだと思った。婦人たちは胸を隠そうともせず、男たちは半端な布切れで前を隠した姿で町を出歩き、なんと銭湯の混浴に入っていることに驚く。つつしみを知らない。春画、猥談などが胸を悪くするほど度を越している。下田は貧しく、活気もない。次に行った函館は下田より美しく、屈強な男が多かった。函館には2週間いた。再び、下田に戻った。
役人の手にかかると一向に事務手続きがはかどらない。条約に追加する件で1年3ヶ月を要した。

イワン・ゴンチャロフは、
 味のないライス、味のない魚のスープ、卵の味のする糊のようなもの、生魚のすり身どれも味が薄すぎた。赤い焼き魚は、ここでは食べないで持ち帰るものだという。
 プレゼントもカーテンにも出来そうにない粗末な絹の織物だった。プレゼントは仰々しい箱に入ったものだった。また、陶器の花瓶や茶碗、漆塗りの机、人形、日本刀、刀の鍔など立派なものの他、しょうゆ15樽、米などが贈られた。

ワシーリイ・マホフは、
 1854年下田で地震にであった。津波に飲み込まれた下田。船は壊れた民家の上に停まっていた。廃墟になった下田。それなのに日本人は悲しみの変わりに笑みを浮かべ、過ぎ去ったことは悲しんでもいられないという。船も移動する作業中に豪雨と巨波によって海に飲み込まれてしまった。外国人に対し、乾かしたり、暖めたり、食事が取れるように奔走してくれた。日本人はみな親切でした。

シュリーマンは、
 日本人は世界で一番清潔な国民である。どんなに貧しくとも日に1度、公衆浴場に入っている。裸の男女が一緒に湯につかっている。
 歴代大君の霊廟に行きたいといったが、日本の役人はノーといったらノーなのだ。実行することは出来なかった。
 アジアの諸国が女は無知の中に放置されているのに日本では男も女もみな漢字と仮名で読み書きが出来る。物質文明を指すなら日本人はきわめて文明化している。宗教に関してはきわめて文明化していない。

エメ・アンベールは、
 江戸はとても治安のいい都市である。都市のいたるところに黒い門があり、夜の9時か10時には締められてしまう。
 日本の工芸品は趣味よく、江戸の職人は芸術家です。漆職人、陶器職人、象牙職人、人形職人などはヨーロッパでさえ驚かされるほど極限に達したものであった。
 ミカドや大君の宮殿や家具はヨーロッパの豪華さには及びませんが豪華なのではなく芸術的なのです。人々はみな陽気で、気質がさっぱりしていて物事に拘泥せず、子どものように天真爛漫な人ばかりでした。
 入浴では男女がごっちゃになって入っている。
1735 帝王、死すべし
Date: 2011-12-02

おすすめ度 ★★★★★

  折原 一 著  講談社  発行:2011年11月

  「ぼくは人を殺したい。痛切に思ったのは今日がはじめてだ。陰湿ないじめに耐えてきたが、怒りがもう限界に達した。いじめはだんだんエスカレートしていく。ぼくは復習する前に殺される。てるくはしぬ。輝久は死ぬ」
父親の野原実は洋服ダンスをあけた。中から前に倒れるように息子がグラっと傾いてきた。首をつろうとしていた息子。
 息子の日記を読んだ野原実は、担任の竹之内に相談するが、クラスではいじめはないという。
 息子の日記を読むようになった。笹山、潮田、大竹という名がでてくる。いじめているのは帝王とよばれる子らしい。
 野原輝久は、体中に傷ができていた。家族には内緒にしている。じっと復習をしようとたくらんでいた。父が時々学校を訪ねていることを知った。母は父が息子が学校でいじめを受けていることを気にも留めていなかった。母は少し暗い性格だった。
 公園のトイレで「てるくはのら」と胸に赤マジックで書かれた男が倒れていた。犬の散歩中の男が見つけた。輝久の同級生の大竹だった。命に別状はなかった。
 真島俊郎はノンフィクション作家である。小説を売り込もうと出版社の人に原稿を見せる。「てるくはのる」という犯行声明文をもとにした小説だった。もう8割がた出来ているという。
 野原実も襲われる。「これ以上深入りするな」と言われて意識を失う。入院した。退院してすぐに日記を読んだ野原は、息子が学校でやろうとする「校庭を血の海にする」という計画を知る。
 帝王は1年生のときに病気で死んだ山室学だった。山室の遺品を家に届けるように担任に頼まれる。野原は輝久が山室家を訪ねたことを知り、そのマンションに向かう。
 屋上で輝久はフェンスから身を乗り出していた。実はとっさに捕まえる。そして、誤って落下する。
 輝久は父親から虐待を受けていた。日記は読まれていることを知りながら書いていた。学校でのいじめはない。母は虐待を受けていた父から離婚をし、輝久を連れて野原実と結婚した。しかし、ふたたびその男も虐待をする男だった。
 父が死んで、母は明るくなった。父が虐待をしていた事実は誰も知らない。
1734 刑事さん、さようなら
Date: 2011-11-30

おすすめ度 ★★★★

  樋口 有介 著  中央公論新社  発行:2011年2月

 西川口駅西口はキャバレーやソープランドがある中国語や韓国語タイ語が飛び交う街だ。ヨシオは西口の「竹林」という焼肉店で働いていた。もう5年になる。給料は3万円だが、すでに貯金が70万円もある。1階が店、2階が6畳一間が3室在るアパートだ。そのアパートの1室に住んでいた。
 ヨシオは中学を卒業するまで施設で育った。両親に育てられていたときは、夫婦喧嘩が絶えなくオシオはいつもトイレでじっと静まるのを待っていた。いじめられても我慢し、大人の言いつけは素直に従う。うそはつかず、他人と争わない、存在感を無にしていた。
 そのヨシオが「竹林」に引き取られて運がよかったと思っている。
 本庄中央署須貝は部下の小暮と会っていた。小暮は近々結婚する予定だという。
親方の義兄で徳井明博が訪ねてきた。徳井からヨシオは3万円をもらった。給料と同じであった。徳井は刑務所に6年入っていたという。
 小暮が自宅で自殺したという。須貝は金も取られていないし、外から入られた様子もないことから自殺と断定した。須貝は小暮が近々結婚するという話を「しらない」ととぼける。
 久美がやってきた。常連の尾田と同棲していた。尾田は小説を書いていた。フーゾクの小説で久美が主人公で執筆中だった。
 利根川河川敷で男が殺される。殺された後がなかった。紐のあと、指のあと、刺し傷もなかった。久美はその男は尾田だという。痩せ型、30代半ばで遺棄された。久美はケータイもつながらないから間違いないという。警察に届けるのは拒んだ。
 久美はヨシオに尾田が使っていたパソコンを与える。そのうち、尾田が小暮を殺して首をつったのではないかと推察され、西川口の店に刑事がやってきた。
 ヨシオはパソコンの内容から、須貝をころそうと本庄に行き、須貝を自宅前で気絶させ、自動車の助手席に乗せ、手足を縛った。アルコールをまいてヨシオは、久美の両親が心臓発作で交番に突っ込んだとき、須貝が事実と異なる調書を作り、久美の両親は裁判でも負けた。絶望して両親は死んだ。娘の久美は両親の残した借金を払うためにソープ嬢になった。3年前のことである。久美を思うあまりにヨシオはライターで火をつける。やがて車は爆発した。「刑事さん、さようなら」ヨシオは駅に向かって歩いた。
1733 ゴーグル男の怪
Date: 2011-11-27

おすすめ度 ★★★★★

  島田 荘司 著  新潮社  発行:2011年10月

   タバコ屋の78歳の老女が殺された。凶器は時計の置物だった。8時41分で止まっている。発見はタバコを会に来た客だった。
 巡査の田中はその直前にゴーグルをした男を見た。黒枠の四角いゴーグルだった。老女の死を知り、ゴーグル男を職質しなかったことが悔やまれた。
 ぼくは中学生のころ妹と亀水の森へ出かけた。森には木の上に小屋があった。小屋の中で僕は自慰をしていたとき、現れた男によって性的暴行を受けた。恥ずかしいことだった。尻から血が出た。母親に分からないようにすぐ風呂を沸かして入った。夜になってもあの男の匂いが消えなかった。僕の家は母子家庭だった。母がスーパーで働いた金で妹と僕を養ってくれたが、美しい母はパトロンがいたのだと思う。ぼくは大学に入って、20歳を過ぎたころから家に戻らなくなった。母は男と住んでいた。妹は高校を中退して働いていた。
 母の榎本光子は、住吉化研で働いたことがあった。妊娠したのを期に辞めたという。その住吉化研にぼくは大学を卒業してから入社した。地元の企業だった。放射能を発するという危険な会社だった。入社してから、同僚2人が被爆して1人が亡くなり、一人が肉の塊となって入院中だった。
 住吉化研に勤めて4年目に、棗田という男の存在を知った。この住吉化研の敷地の一部は棗田という一族の土地だった。この土地の売却で得た金でスーパーを興し社長に納まった。この男を訪ね、遠めに監察するがあの男がどうか分からなかったが、部下を怒る顔と歯並びからあの男だ、中学生の僕に性的暴行を行った男だと分かった。
 津田一郎は、榎本光子をストーカーしていた。光子がタバコ屋の老婆を殴り金を盗んで逃走したことを知っていた。津田は光子のアパートの郵便受けの窓から部屋を覗いていたこともあった。
 光子は棗田というスーパーの男をパトロンにしていた。
僕はゴーグルが好きだった。水泳部だったせいもあるが、ポケットにいつもゴーグルを持っていた。気がつかないときにそれをはめていることもあった。
ゴーグルをしていたときに、棗田に襲われた。僕は棗田を許せなかった。ところが、その棗田が血を流して倒れていた。僕はその姿を見て更に復習の刃を突き当てていた。
 津田は警察に捕まっていた。ゴーグル男として。ところがその間に、棗田が殺される。犯人は津田ではない。
 棗田を殺したやつは、逃げるとき、人と出会った。僕であった。僕と同じ格好をした人間だった。 母光子は警察に捕まった。光子には若いころから補導歴があった。棗田から「殺してくれ」と頼まれたと供述した。光子も母親から万引きの方法を教わって大きくなった。光子は逃げるとき、本物のゴーグル男に出会ったという。このあたりには亡霊が出るといわれている。警察は、そのゴーグル男も亡霊かと思った。
1732 美作の風
Date: 2011-11-25

おすすめ度 ★★★

  今井 絵美子 著  角川春樹事務所  発行:2008年9月

 美音は目木の庄屋の次女であった。16歳のとき、圭吾の乳母が目木であったことから、その縁で圭吾の家に行儀見習いに来ていた。圭吾が19歳になって、父勘解由が急死した。圭吾の母於里久は津山藩御蔵奉行としてつとめた勘解由にかわり頭分は無理であると判断され、組付けまで格下げになった。禄高も百石削られて80石になった。於里久は美音に目木に戻るよう伝えるが、圭吾は美音と結婚したいと申し出る。於里久は、格上の身分の家から嫁をもらい、早くに元の親分に戻したい腹づもりがあった。美音を嫁とは認めたくはない。
 旭川沿いの百姓たちが黙々と稲刈りに従事していた。聞くと一月も完納日が早められたという。
 美音は大坂奉行安田三太夫の養女となり、安田より生瀬に輿入れするという段どりになった。郡奉行岩倉の計らいであった。於里久は村役人の分際で娘を武家の娘に出来たが不満であった。
 津山藩主浅五郎が逝去した。5万石の減知となった。20日深夜大庄屋と中庄屋が結託し、納めた年貢米をひそかに搬出した。百姓たちの知るところとなり庄屋の勝手にされては困ると騒ぎ出す。百姓たちは大庄屋と中庄屋の蔵を打ち壊した。
 津山松平家は家康以来の家筋格別である。江戸家老佐久間主計の働きで初代津山藩主松平宣富甥又三郎を養子に迎え跡目にした。又三郎は若干10歳であった。
 百姓一揆は鎮圧し51名の処刑者を出した。圭吾も禄召し上げになり松山にいくことになった。於里久は美音を責めたあと自害する。
 十年ぶりに美作を訪ねた圭吾の手には妻美音の遺髪があった。34歳でなくなった美音。土居村の五作の出所を尋ねた。美音の乳母の家のありかを聞く。美作の風は十年前も現在も変わることはない。
1731 多摩湖畔殺人事件
Date: 2011-11-25

おすすめ度 ★★★

  内田 康夫 著  角川書店  発行:2011年9月

 多摩湖畔で死体が発見された。道路から5メートルも離れていなかった。死体のポケットから小さな紙片が出てきた。電話番号のようだ221588と寺という字が確認できた。侍または持つという字も考えた。死亡推定時間は7月12日9時から翌日1時までの間。死後6〜70時間経っている。頭部に鈍器のようなもので殴られた後があった。
 東京茅場町にある橋本商事から「社長が13日に帰るはずがまだ返らない」とテレビで事件を報道後に社員が出頭してきた。死体は橋本圭一社長51歳で渋谷に自宅があった。丹波篠山に出かけるといって3千万円を持って出かけたという。金も見当たらない。
 橋本の娘千晶は車椅子での生活であったが、父の事件を聞き気丈にも父親が東京に戻ることが可能な電車の時間を言い当てる。そして紙片の電話も片っ端から電話して酒田市の海冥寺であることを突き止める。千晶は刑事の河内に電話する。
 河内は酒田市に行き、橋本が囲碁をしていたことを突き詰める。そして、男とハリのないハチの話をしていたことを突き止める。
 チキュウカイミバエが寄生した柑橘類がアメリカ産。アフリカからの輸入は規制外である。アフリカ船が酒田港に停泊していたことを知る。儲け話に橋本が乗り、3千万円と命を奪われたと見た。
 河内は胃潰瘍の悪化で吐血を繰り返していた。ところが病院から抜け出し、捜査に当たる。犯人とにらんだ「長野で空襲を見たという話」から小坂という男を訪ねる。そして河内は再び大量の吐血をする。ひるんだ河内は自分のせいで血を流したと勘違いし、犯行を自供した。
1730 獅子神の密使
Date: 2011-11-24

おすすめ度 ★★★★

  今野 敏 著  朝日新聞出版  発行:2011年1月

  少年が発見されたのは行方不明になってから九日目の朝だった。少年は行方しれずの間の記憶をなくしていた。
 ミュージシャン橘章次郎のもとに、アメリカの大富豪トーマス・キングからジャズコンサートへの出演依頼が来た。突然の出来事だった。橘は初対面の女性からサインを依頼された。そしてふたりで飲みに行く。気がついたら病院のようなベッドの上だった。人の声がするほうに近づく。話の内容から眠らされてここに連れ込まれたようだ。やつらはまだ橘が目を覚ます時間には早すぎると感じているようだ。眠らされながら自分のことを調べていたようだ。テープに取られた自分の声。「橘章次郎、28歳。ジャズマンで自分はピアニストだ。俺は先祖の血の恵みを受け戦うためにこの世に使わされてきた。獅子の神。海の神の力を持ったアレイの民。隠れているやつらはウォニの民だ。ウォニと戦うために遣わされた」と答えている。「我々、内閣調査室はこれ以上危険な駆け引きは避けなければならない」と。「この男はすべての器官の働きが極めて効率がよい。脳の状態が活発に行われている」と驚く。橘は特異体質だった。
 一方、トーマス・キングは橘の調査を命じる。日米政府筋を通じて彼のデータを要求するCIA。
 ところが、釈放されてからの橘はコンサートではこれまでと違ったピアノを演じる。興奮からは程遠いものだった。
 橘はグループのメンバーと渡米するつもりだったが、武田巌男にも渡米を依頼するが、断られる。もう若くないという。橘は是非にも武田を連れて行きたい。
 橘は何者かにつけられる。岸田麗子が橘を助ける。追っているやつらはソ連の国家保安委員会のエージェントだという。CIAの情報を彼らはどうやって入手しているんだろうか、すばやかった。
 橘が撃たれる。心臓も止まった。もうだめかと思われたとき、再び橘は目覚める。奇跡だ。軍用ジェット機でアメリカへ飛ぶ。
 アレイは海洋に広く活躍して後世の民族ともこだわりなく接触した。ウォニはたぶんオニです。日本に多くアレイ人が土着していた。そこへウォニが侵入してきた。アレイとウォニはこの地球の人類をめぐって長い長い戦いを続けている。
 キングは橘に語りかける。「地球は温度が上昇し続けるというもの。逆に冷温になり冷蔵庫のように冷えてしまうというもの。全面核戦争が起こるというもの。きわめて近未来に起こるもので、我々はふるさとの星を放棄しなければならないときが来る」「我々の目的は人類を救うことだ」とも。話を聞きながら橘は怒りを覚えた。キングの中に見る「邪魔者は消せ」という意識。橘は立ったままであるが、工場内で爆発が起きる。「あなたは俺の中の海神を怒らせてしまった」と橘はいう。キングは橘を撃つことを命じる。UFOが近づいてくる。
1729 排除 潜入捜査2
Date: 2011-11-23

おすすめ度 ★★★

  今野 敏 著  実業之日本社  発行:2008年10月

  マレーシアのベラ州にある村で日本人ヤクザの新市章吾に「村が鉱山のせいで子どもが白血病にかかった」と訴える母親。母親に抱かれた子どもを新市は匕首で2度刺して殺してしまう。パニックになった母親。村の老婆も何か訴えようとするが、首を切られて死ぬ。新市に付き添っていたマレーシア人も言葉を失う。
 後日、「私有地につき立ち入り禁止」の塀を壊し、抗議したアハマッドは新市に故意に車で2度轢かれて瀕死の状態で病院に担ぎ込まれた。ひき殺すつもりだったのだ。
 佐伯涼は本庁刑事部四課に配属になって10年、マル暴畑を歩いてきた。佐伯を育てた叔父夫婦、息子夫婦、幼い叔父の孫まで爆死させられた暴力団を憎んでいた。そして「環境犯罪研究所」に出向させられた。白石景子も英語、フランス語、スペイン語を話す才媛であった。所長はこの佐伯と白石にマレーシア行きを命じる。日本人ヤクザが「マレーシアン・レアメタル社」のある村で問題を越していることが発覚した。二人にその村に住み、実際の様子を調査することであった。
 二人はすぐ、マレーシアに飛ぶ。しかし、村では2人の死者を出し、さらに支援するアハマッドも瀕死の状態にした日本人をよく思っていない。佐伯は村人を守る村への慰留を申し出る。
 新市がやってきた。またしても、中に立った男にガソリンをかけて火をつけた。佐伯の術が届かない距離であった。男は命は取り留めた。
 佐伯は村人に武器となる手裏剣代わりの球と釘を提供してもらい、新市に立ち向かう。
新市に止めを刺す前に、村人に最後の止めを刺すように促すが、殺すつもりはないという。
警察に突き出す。1週間後、新市を含む4人の日本人は日本に移送される。
1728 迎撃
Date: 2011-11-22

おすすめ度 ★★★★

  今野 敏 著  徳間書店  発行:2010年7月

  柴田邦久は30歳を過ぎたばかりのフリーのジャーナリストである。バブルがはじけ、広告費を削る企業が続出し、雑誌が休刊や廃刊に追い込まれた。フリーでは食べていけない。柴田は借りられるところからかき集め、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボにやってきた。戦争中で交戦が行われていると思っていたが平穏であった。国境の方へ行くとまだ攻撃を行っているという。ツズラにいくとスパイと疑われるが、サカキ・マモルという日本人に助けられる。サカキという日本人がセルビア兵士として戦っていたことに驚く。世界の紛争地帯で本当に知りたいのであれば「シンゲン」という日本人を探せと教えられる。
 アフガンとパキスタンの国境境でカブールから逃げ出した難民に出会う。町は瓦礫の山だった。そこでシンゲンのことに聞いてみるとゲリラ部隊の兵士たちはシンゲンに新しい戦いの方法を教えてもらったという。彼らが見せた格闘技は武道や剣道ではない瞬時に相手を突くものだった。前に進む方法だった。カンダハルに行くと会えるというので行くがシンゲンはすでにメキシコに行った後だった。
 柴田はいったん日本に帰り、出版社から報酬を得て再びメキシコへ向かった。「サパティスタ民族解放軍」と政府軍の戦いに参戦し、政府軍を相手に戦っていた。再びシンゲンは多国籍軍の一員として働くために輸送機でザイールまで飛ぶ。柴田も兵士として後に続いた。銃を与えられて、シンゲンの合図の元に発砲する。
 柴田のカメラとテープレコーダを取り上げられた。金目のものがそれしかなかったのである。「返せ!」とわめいているとシンゲンが兵士たちを詰問する。カメラとテープレコーダは戻ったが、兵士の一人はシンゲンによって手を土砕かれる。
 ルワンダ愛国戦線にむけ、捉えられたバリディの救出作戦に行くという。シンゲンの援護射撃に柴田も加わる。死ぬ覚悟を決めて挑む。そして無事バリディを救出する。
 シンゲンは武田信明が本名だ。ルワンダ愛国戦線の制圧拠点を避けて進む。万事休すという状態に陥ったとき、上空からヘイコブターの音がした。シンゲンの見方のヘリだった。それに乗って脱出する。シンゲンから迎えのタクシーだと促される。メキシコまでとび、再び日本に戻ってきた柴田だった。シンゲンに関する記事は日本でも好評だった。柴田は猛烈に働いた。ある夜、高円寺の居酒屋でシンゲンに出会った。ルワンダはひどいものだったという。後日シンゲンから絵葉書が届く。「日本は居心地が悪い。ここは活き活きとしている」と書かれてあった。また紛争地帯にいるのだろう。
1727 警視庁公安部・青山望 完全黙秘
Date: 2011-11-21

おすすめ度 ★★★★★

  濱 嘉之 著  文春文庫  発行:2011年9月

  福岡のホテルで梅沢財務大臣が挨拶のあと、ジャンパー姿の若い男に刺される。1500人の聴衆がいる。SPたちは一瞬のことに驚く。男は捕らえられるが黙秘している。
 以前に取調べを完全黙秘し、名前もわからないまま「蒲田一号」と名づけられ、平成13年に刑期を終え出所している。懲役3年だった。その事件を聞いた警視庁公安部の係長の青山は、5人の組を3個編成してその事件を調べた。指紋、歯医者、掌紋などを調べた結果、今捕まっている男と蒲田一号の掌紋は一致点35%であった。指紋も変えていた。
 蒲田一号は出所後、北朝鮮系のパチンコ店で働いた後、1年ぐらいで突然韓国へ行く。帰国した折は整形手術をしていた。パスポートは韓国籍のものだった。青山たちは徹底的に調べ、この男が蒲田一号であることを確信する。そのことを黙秘の男に告げると動揺する。青山はこの一ヶ月の間の福岡へ入る空港、港、駅の防犯カメラからデータを解析した。
 岡広組の中でも東山会の経済ヤクザの宮坂に目をつける。1ヶ月に4回も韓国を往復している。
 今回この東山会の殲撲をめざし、政界、財界、芸能界を一網打尽にしたいと思った。
 完全黙秘の男は施設で育った。そして東山会に拾われる。名前も寝屋川太郎から新居一に改めた。韓国の在日三世ということで韓国に入国した。そして韓国語を身につけ、美容整形し帰国した。宮坂のマインドコントロールで動く駒となった。そして蒲田一号となった完全黙秘の男を演じ、さらに10年後に福岡での事件を起こした。
1726 水の柩
Date: 2011-11-19

おすすめ度 ★★★★★

  道尾 秀介 著  講談社  発行:2011年10月

  木内敦子はタイムカプセルに入れる文に、毎日自分にひどいことをしてきたことの仕返しだとして誰が何をしたかここに書きます。自分をいじめた全員の名前です」といじめの詳細を書いた。タイムカプセルは20年後にあける。
 敦子は両親が離婚し、幼い妹と母と隣の町から引っ越してきた。小学校4年生のときである。中学は学区域が同じでいじめは変わらず続くだろう。
 敦子たちが越してきた最初の日に旅館をやっている逸夫のところに親子3人で泊まった。それから逸夫は文化祭の買い物係が一緒だったこともあって敦子のことを気にかけていた。
頭をくしゃくしゃにしてでてくる敦子。お化け屋敷から出てきた敦子の手に懐中電灯を持っていないことに気づいた逸夫。買い物に行ったときに敦子のポケットから出ていた小さな縫いぐるみに、万引きしたことを知った逸夫。
 逸夫の旅館もあまりはやってはいなかった。祖母は昔金持ちの娘だったというが、泊まっていった客が祖母の幼馴染だった。話し声から祖母は金持ちではないことを知った。それどころか、祖母は小さいころ友達を谷底に突き落とした子どもとうわさされていた。祖母の父は首をつり、祖母は親戚のうちに引き取られた。まもなく、祖母の生まれた里はダムの底に沈む。祖母が祖父と結婚するとき事実を打ち明けるが、ずっとうそのまま突き通せといわれる。
 敦子はタイムカプセルの中の文章を取り替えたいと思った。逸夫に協力してもらって夜二人で穴を掘り取り替えることが出来た。
 文化祭で使った大きな人形を3体持ち帰えった逸夫は、祖母と敦子を伴ってダムに行く。ダムに人形を沈める。人形は自分たちだという。祖母も徐々に変わっていく。敦子もいつまでもいじめられてばかりではない。自分でカッターナイフで自分の腕を切る。この事件で7針も縫う手術になった。学校の知るところとなり、親に連絡するという担任に、戻ってきた敦子は自分が自らやったと言う。
 9ヵ月後、再び家族でダムを訪れたとき、ダムの水はぐっと減って屋根や道が見えていた。祖母は敦子に「たづちゃん、ごめんね」と泣きじゃくり子どものように繰り返した。
1725 朝鮮王朝「儀軌」百年の流転
Date: 2011-11-18

おすすめ度 ★★★★

  NHK取材班 編著  NHK出版  発行:2011年10月

  朝鮮王朝は1910年日韓併合により500年に及ぶ歴史に幕を閉じた。王家は李王家となる。1920年、日本人梨本宮方子と李垠が結婚。李垠は26代国王高宗の子である。
1919年26代国王高宗が死去し国葬となった。次の国王純宗は高宗の長男であったが、この方も国葬が1926年行われた。このとき「朝鮮王朝儀軌」によって儀式が行われた。
 純宗には子がなく、李垠は純宗の異母弟である。10歳で伊藤博文によって日本に連れてこられ、梨本宮方子と結婚し、皇室の礼を以って日本で暮した。この二人に最初の子が生まれた。晋である。晋は生後8ヶ月で亡くなり、次に1931年に玖がうまれた。1970年李垠が72歳の生涯をとじると李玖が第29代当主であった。2005年7月、李玖の急死で急遽第30代当主になったのが李玖の兄李?の子で9男李ナの長男李源である。生前後継指名のあった李源を李玖の養子とし第30代当主とした。
 「朝鮮王朝儀軌」は朝鮮王朝の貴重な記録である。これを日韓併合100年の2010年8月に返還を表明した。日本側はこの「朝鮮王朝儀軌」について知る人がほとんどいなかった。「朝鮮王朝儀軌」は宮内庁書陵部に大切に保管されていた。81種167冊の儀軌に及ぶ朝鮮王朝の500年に及ぶ行事の記録であった。
 ソウル大学奎章閣には3000冊近くの儀軌が残されているという。 
1724 指名手配 特別捜査官七倉愛子
Date: 2011-11-16

おすすめ度 ★★★★

  新津 きよみ 著  角川春樹事務所  発行:2011年10月

 特別捜査官の七倉愛子は帰国子女で幼いころから親の仕事の都合でアメリカで暮した。大学のころロシア語を学び、イタリア、スペイン語のほか、趣味で始めた中国語や韓国語もできる。しかし、バツイチの30代半ばであった。警察官には中途採用である。
 語学力が活かせると就職したが、実際は街頭にたって手配犯を見つける仕事だ。雑踏捜査とも街角捜査とも呼ばれた。卒業後は総合商社で働いていた。
 子どもができないことの治療もしないまま、いつの間にか夫に愛人が出来、子が生まれるという。愛子は離婚した。
 靴屋で店を覗く男に見覚えがあった。追いかけて捕まえる。ところが指紋を照合すると本人ではなかった。よく似ているのは一卵性双生児しかいないが、誕生日が違っていた。双子でも日にちが違うということも在る。
 そして、見つける犯人の方の男が殺されて、やはり双子であったことを知る。
「娘が誘拐された」という事件が起こった。誘拐したのは離婚を調停中の外国人の夫である。娘が習いたがっていたバレエ教室で見つかる。
 「自分と同居している男が犯人の藤森洋行に似ている。男の名前は藤井弘。事件のほかに別の事件にも関わっていると知り怖くなって通報した」という手紙が愛子宛に来る。
待ち合わせてその女性と会う。坂井瑞江は妊娠していた。
 そして、愛子は殺人犯の藤森洋行を捕まえる。
1723 真友
Date: 2011-11-15

おすすめ度 ★★★★★

  鏑木 蓮 著  講談社  発行:2011年10月

 京都太秦中学で三条隆史と向田伸人は仲良しだった。隆史の父親が撃たれて死んだ。死ぬ前に「拳銃が逆さに・・」という言葉を残していた。隆史と妹の奈緒と母で暮した。現場から立ち去り、いまだに行方不明の伸人の父向田刑事は三条巡査部長が最後にあった人物とされていた。そして、向田刑事が全国に指名手配される。
 隆史の父、三条巡査部長は犯人に逃げられ、おまけに拳銃まで持ち逃げされた。命を落としても得心も名誉の死もないものだと思ったが、警部補の特進と顕著な功績の在るものの賞を得た。しかし、母は四十九日を過ぎたころからおかしくなり始めた。奈緒は女優になるという。
 伸人のほうも事件直後から変わった。学校ではバイオレンス刑事といじめられ、人殺しの息子とされた。母親は自殺未遂を起こすが命は取り留めたが、過去の記憶はなくした。おまけにそのことを週刊誌に面白く書かれてしまう。
 18歳になった伸人は刑事の父を思い悪いことも出来ない。絵のうまかった伸人は太秦に映画のための絵を描く仕事につく。隆史は大学に進む。卒業後は父を殺した犯人を捕まえるために警察官になる。伸人の父がまだ見つからない。
 伸人は地方銀行の支店長の息子と結婚が決まっているという幼馴染の麻衣から告白され、伸人と麻衣は駆け落ちをする。誰も知らない土地で暮らすが娘が出来たのを期に京都に戻る。
 大友警部は伸人をずっと見守って励ましてきた。本当に父親が三条巡査長を撃ったとは思えなかった。
 隆史は、13年前に父の事件のあった瑞宝寺で、最近、発砲事件があり寺から預かったビデオが当時のものではなく、8年も前のものであることを知り疑惑を持つ。
 大友警部と隆史は寺の和尚をマークする。そのことを上司の木俣には報告しないで進めた。そして、木俣警部補の不審な行動に疑惑を持つ。父の手帳のメモには木俣に銃の手入れをお願いした記述もみつかる。そして、墓の中に隠された父の拳銃を見つける。
1722 ランウェイ
Date: 2011-11-14

おすすめ度 ★★★★★

  幸田 真音 著  集英社  発行:2011年9月

  真昼は2年先輩の村尾博之と別れた。博之と結婚するものと思っていた真昼は早々にグローバル物産に辞表を出していた。しかし、二人の仲はそうはならなかったのだ。まもなく博之は五洋商事の役員令嬢と結婚し、五洋商事に移っていった。
 真昼はやりたかった仕事につくことにした。ファッションの世界である。アレッサンドロ・レオーニ・ジャパンの丸の内店で働く。先輩の津田とミラノに買い付けに行く。初めてのミラノ。そこでアンドレアに親切にしてもらう。ファッションショーが始まる前に会場に入った真昼は、同じ会場に博之がいた。妻と子は東京にいて博之だけがミラノにいるという。
 買い付けから帰った真昼に、神戸店から品物が不足しているとクレームが入る。伝票を見ると神戸店のものが津田のところに回っていた。津田が故意に引き抜いたようだ。アンドレアに救いを求め香港から不足分を送ってもらい難を切り抜ける。
 チーフバイヤーの花井の手がける企業でバイヤーを募集しているという。津田は自分を売り込もうとしていた。ところが、花井が目にかけたのは真昼。結局、津田は真昼に熱湯を浴びせ消える。真昼のやけどはたいしたことはなかった。
 リベルテ銀座店に働くようになった真昼は、ほかの店員からいわれのない中傷に憤りを感じる。真昼はNHKスペシャルにテレビ出演が決まった。バイヤーの仕事ぶりを紹介するという。
 リベルテ銀座店の向かいにイヴォン東京店が開店した。それを手がけたのは博之だった。しかもそこには津田が働いていた。
 真昼はリベルテの商品選びが古臭い、ディスプレーが最悪、せっかくの商品が死んでいると花井に告げる。
 ファンドが不安定になった。博之の店は弊店に追い込まれた。そして、電車に飛び込んで死んでしまう。
 花井もクモ膜下出血で倒れる。リベルテも閉鎖になる。
 真昼はニューヨークに飛んだ。マンハッタンにいく。セリーンという女性とルームメイトになった。そこで津田に再会する。津田はハナという女性からの出資で店をやるので一緒にやらないかと真昼を誘う。真昼は自分はやりたいことがまだあると断る。
 ハナはなんと真昼のルームメイトのセリーンの母親だった。真昼は客が望んでいるものを提供したいとバイヤーだけでなくデザインも手がける。
 真昼は、セリーンの母のハナからの出資を受け店を持つ。そのころ、東京では父親が危篤状態だった。津田が真昼に頼まれたと見舞ってくれていた。津田は真昼に心からわびていた。
 そして、真昼の作品がニューヨークで大きく取り上げられると人手が必要になった。津田が手伝わせてくれという。真昼は津田とセリーンとスタッフを増やす。ハナから次は中国向けの安い服を提供するように指示される。高級服は徐々に衰退しはじめ、不況と中国の経済成長を見込んでアジアに向けてのファッションを手がける。
1721 任侠病院
Date: 2011-11-13

おすすめ度 ★★★★

  今野 敏 著  実業之日本社  発行:2011年10月

 阿岐本組の事務所は商店街を抜けてしばらくいったところにある。4階建てのビルだが、敷地が狭いのでたいしたことはない。「暴力団追放強化月間」のせいか最近商店街の目がよそよそしい。
 そこへ阿岐本が世田谷の病院の仕事を引き受けてきた。これまで、学校や出版社を引き受けたが、たまたま2つともうまくいったに過ぎない。
 話を受けた翌日に早速病院にいく。駒繋病院で3階建てであった。くすんで黒くなった病院。中に入ると薄暗くアルコールのにおいがした。
阿岐本のオヤジと日村とテツと健一を連れて行った。理事が4人とも辞めてしまったという。院長の高島一とおっとりとした院長夫人で仕事に口出しするタイプではなさそうだ。
そのほかに、沖縄から飛行機で来る医師結城外科医がいた。
 早速、阿岐本は病院の外壁をテツと健一に掃除するように言う。ところが、シノ・メディカル・エージェンシーというところが掃除の一切を請け負っているので、掃除はしないでくれという。この請負が他より高いことやバックにヤクザが絡んでいることを知る。
それでも、病院の外は関係ないと磨かせる。病院は白くきれいになった。次に暗かった照明を蛍光管の取替えで明るくした。看護師の表情が仏頂面なのを、花を差出し活けるようにいう。いつの間にか、看護師たちも明るくなってきた。
 シノ・メディカル・エージェンシーとの契約を解除することが必要だと思った。調べると関西の邪麻島組が関わっていた。
 あまり患者の来ない外来にホームレスや健康保険を持たない連中が詰め掛ける。阿岐本は嫌がらせだと思ったが、院長も医師も患者を必死に診ている。看護師たちも足りない人員でよく働いている。これは戦争だと思った。長くは続くまい。
 患者の詰め掛けはすぐになくなった。変わりに阿岐本の自宅ビルの前に再開発を求める連中からこの町を出て行くよう人が集まっていた。阿岐本はこちらの集団も邪麻島組を関わりがあることを見抜く。
 邪麻島組の親分と会い、病院を存続させるために契約を解除する旨を伝える。そのかわり自分たちも理事や監事をやめると告げる。
1720 彼女はもういない
Date: 2011-11-12

おすすめ度 ★★★★

  西澤 保彦 著  幻冬舎  発行:2011年10月

 鳴沢文彦の背後から聞こえるアサバ夫人の声。喫茶店で常連になって自分と同じ中高一貫教育校のOBだった。同窓会名簿を見れば住所が分かると思った。
 鳴沢には姉がいた。姉は優秀な成績だったが、自分は父親のおかげでこの学校へ行けた。姉は妻子あった教授との間に子を設け事故で死んだ。その甥が最近、鳴沢のところへ金の無心に来た。22歳の甥である。母親の死後、父も入院中だという。鳴沢は父も姉も亡くなり、父の会社から定期的に金も入ることから仕事はしていなかった。古い大きな家を売ろうとするが、どちらが建物を解体する費用を出すかでなかなか売れなかった。鳴沢は近くのマンションで暮していた。
 甥に古いうちを提供し、バンド仲間もその家で練習をした。
鳴沢は、女は換金性の高い商品だと思っている。女を拉致して殺すという行為を繰り返した。首を絞めたときに味わった解放感がえもいわれぬ感情を知った。
 犯人がスタンガンを使い、女を襲い、金もカードも手をつけず、被害者の携帯電話でその中の人物に1000万円を用意させる電話を入れるが、そのときにはすでに殺している。首にビニール紐を巻き、最後はシートに来るんで捨てる。ゴミのように。
 雑木林の中で首をつって死んでいる男を見つけた。甥の種村浩雄だった。男のDNAとこれまで殺された女性たちの体に残っていた精液のDNAが一致した。すべてこの男の仕業だったとした警察。鳴沢の計画通りだった。
 鳴沢には学生のころ同じ音楽部にいた秦絵が、最近住所録に住所が記載されないのが気になった。結婚したはずだった。
 公園でよく見かけるようになった早朝5時半にいる。間違いなくホームレスだろうと思っていた。鳴沢は勝手にダブルと名づけていた。それが、なんと秦絵だったとは。その秦絵を鳴沢はサバイバルナイフで刺殺していた。秦絵は性転換手術をしていたのだ。結局鳴沢は8人の命を奪ったのだった。
1719 ドルチェ
Date: 2011-11-11

おすすめ度 ★★★★

  誉田 哲也 著  講談社  発行:2011年10月

 魚住久江巡査部長は32歳。3年前は池袋署に勤務していた。今は練馬署である。刑事の金本健一と一緒に働いたことがあった。たった2年間だったが、練馬署にいないで一課にこないかと誘われる。魚住は独身だ。目白所管内の豊島区南長崎にアパートを借りて住んでいる。
 練馬区内で母親が失踪し、起きたら幼児が死んでいたという事件が起きた。父親からの通報である。翌日、子の母という女が出頭してきた。自分が子を育てていたというが母親は10ヶ月前にいなくなった。たぶん殺されていると。ところが、アパートを訪ねるといないはずの妻がいた。
 魚住は光が丘病院に向かう。暴漢に襲われ怪我をした女子大生。相手はよく見なかったという。魚住は42歳になっていた。捜査の末、女子大生の知人に襲われたことが分かる。
 11年前に科捜研の柚木と知人の奈津子が結婚した。幸せに暮しているものと思っていたが離婚した。奈津子からの希望だったという。柚木はアルコール依存症になっていた。直そうと必死の様子に自分が重荷になっていると感じた奈津子が離婚を申し出たという。
 江古田、南長崎、上落合と強姦未遂事件が発生した。被害届を出した女性は、バス停からじっとみていた男がいたという。男はすぐ捕まった。しかし、魚住が取り調べた結果、男は別の人を見にバス停に来ていた。男はホモだった。捜していた男の相手は男であったのである。すぐさま釈放した。強姦未遂の犯人は別のところで捕まる。
 夫が娘につけた名前が、昔付き合っていた相手の女性の名前だと知った妻は夫を刺す事件が起きた。魚住がこれにあたる。
 魚住は人が殺されてから捜査するより、殺される前に関わりたいと思った。
1718 家康、死す 上・下
Date: 2011-11-10

おすすめ度 ★★★★

  宮本 昌孝 著  講談社  発行:2010年9月

 家康は次郎三郎ら数人の家来を連れて三河高原の外れ額田郡桑田で雷雲のとどろく中を進んでいたとき、突然落馬した。家康は左半分に散弾を浴びて死んだ。勘六も死んでいた。
 家康には9歳の竹千代と8歳の亀姫がいる。 
 次郎三郎は広忠寺の僧侶恵最が家康に瓜二つということを知って酒井忠次、石川家成とはかって家康の死を誰にも知らさず、恵最を替え玉にして何事もなかったことにした。
 広忠寺では恵最が風邪が元で病死、恵最の兄勘六は弟の死に乱心し火をつけ恵最と勘六は灰になった。家康は異母兄弟を同時に失った事で頭を丸めたということにした。家康が26歳のときである。
 家康を偽者と見抜いたのが正室の瀬名であったが、新しい家康は口止めをする。次郎三郎がそのことを知ったのは後日である。
 家康の生母於大は気性激しい性格であった。於大の姉のおひろはなんと次郎三郎の母であるという。次郎三郎は死んだという母は生きていた。家康とはいとこ同士なのだ。おひろの話から家康の暗殺を企てたのは於大だという。
ところが、家康は6歳のとき、渥美半島から田原に上陸したところで後の恵最とすりかえられたのである。
 さらに、家康が生まれてまもなく、ほっぺとお尻にほくろがあった子は別のこと取り替えられたのである。ほくろのある子は妾の於久の子。今の家康にはほくろがある。そして、於大がおひろに命じて殺させた家康は実は、於大の子であったと於大に告げる。
1717 謎解きはディナーのあとで
Date: 2011-11-8

おすすめ度 ★★★★

  東川 篤哉 著  小学館  発行:2010年9月

 宝生麗子は宝生グループの令嬢であるが、現役の刑事でもある。麗子の上司に風祭警部は32歳。風祭も自動車会社の御曹司。麗子には執事の影山がいる。1ヶ月前から働くようになった。元は探偵か野球選手になりたかったという男である。この影山が事件を解いていく。
「殺人現場では靴をお脱ぎください」では、ブーツを履いたまま、頭を伏せ大の字に死んだ若い女性。なぜブーツを履いていたのかを解く。「お嬢様はアホでいらっしゃいますか」といってしまい麗子を怒らせるが、明快な謎解きで麗子をうならせる。
「殺しのワインはいかがでしょうか」では「お嬢様の目は節穴でございますか」といい、ワインのコルクと栓のトリックを指摘する。
「綺麗な薔薇には殺意がございます」では「それでもプロの刑事か、度素人」といいながら死体を運んだトリックを見つける。
「花嫁は密室の中でございます」では「いつまでお嬢様と呼べばよろしいのでしょう」といい、殺人現場の家の執事の呼んだお嬢様という言葉の意味から謎を解く。
「二股にはお気をつけください」では「そんなことだから「いらない存在」と馬鹿にされるのでございますよ」といい、シークレットブーツから犯人を見つける。
「死者からの伝言をどうぞ」では、「感謝します。もう少しで連行されるところでした」と影山に言わせる麗子だった。
1716 虚像 上・下
Date: 2011-11-7

おすすめ度 ★★★★

  高杉 良 著  新潮社  発行:2011年9月

 井岡堅固は48歳。世田谷の3LDKのマンションに妻48歳と娘2人(大学3年と中学3年)がいる。ワールドファイナンスに勤務する。ワールドファイナンスはノンバンクのリース業で総合金融業で大もうけした企業だ。
 昭和57年に入社した井岡は、経営企画室、財務部を経て事業開発部主任となった。ワールドファイナンスが消費者金融向けのローンをはじめたのは、産銀に勤めている友人からのアドバイスだった。井岡は早速、課長に相談するが社長が反対した。後日、山田相談役から具体的に検討するように言われる。反対した加藤社長とは井岡は距離を置いていた。
さらに井岡の嫌う人物は広瀬人事部長だった。ゴマすり男で部下に悪辣な言葉を投げかける男だった。投資事業部の野田が井岡に退職を申し出た。広瀬に言われた言葉がきっかけだったようだ。感情論である。井岡は慰留するがベルリン証券に決まっていると退職した。
 1年後、野田が書いた「アナリストレポート」でワールドファイナンスが取り上げられた。井岡は衝撃を受けた。案の定、ワールドファイナンスの株価は下落した。加藤社長が記者会見する。加藤はベルリン証券トップにクレームをつける。株価は40%も下落した。
あの時、広瀬が野田に一言詫びればと。井岡は企画室長の立花と連絡を取る。井岡も広瀬と離れたがっていた立花は「広瀬みたいな性質の悪いのは二人といない」と言う。
井岡は森川ファンドの担当部長となった。42歳のときだ。その後、部長に昇任した井岡は「和製ハゲタカ」を宣言する。ワールドファイナンスは不動産部門をつくり、大森製作所を購入する。1ヶ月前になっても資金繰りが付かなかった会社である。大森製作所は廃業した。日本一のデベロッパーを目指して、横浜のみなとみらいマンションの開発を手がける。日本郵政公社の「簡保の宿」も住之江不動産との競合の末、住之江不動産が手を引いたことから155億で落札した。井岡はワールド不動産理事になった。
2009年、国会で簡保の宿が一括譲渡に異を唱える議員がいた。それに国民が納得するか疑問だの声に、すでに2年かけて進行していた簡保の宿計画は白紙になり、契約も撤回された。株価も大幅に下がった。
ジョイナスコーポレーションの事業統合を進めていたタイロク会長になっていた立花はワールドファイナンスの融資を断られ辞任することになった。井岡も退職届を書いて立花に会った。しかし、立花は井岡に「二度と辞めるというな」と諭される。
1715 小説 企業内弁護士
Date: 2011-11-5

おすすめ度 ★★★

  中根 敏勝 著  法学書院  発行:2011年9月

  日本で弁護士は3万人ぐらいいるが、企業内弁護士というのはその1割にも達していない。茜は卒業後、開福銀行が出来た年に総合職として配属された。十数年前である。外為やディリーングを行う資本・マーケット本部の配属になり、そこで弁護士試験に合格した。銀行から望まれて、合格後同じ銀行へ復職した。以前は7時半に出勤していたが、今では8時45分からオフィスに入り、退社は9時前後になる。おおむね12時間勤務である。会社では法務相談が主で、経営や企画との打ち合わせもあった。職業欄には弁護士とは書かず専門職としている。給与は一般社員に少し色のついた程度である。自分の会社を設立するということも考えないではなかった。しかし、弁護士同士の会合には極力参加するよう務めていた。茜は会社では調査役という役名である。整理解雇、セクハラ、社外弁護士との関係、取締役の責任、役員の報酬開示など相談は引きもきらない。そして訴訟代理である。買収防衛とインサイダー取引についても注意しておかなければならない。
 ニューヨーク支店にも配属になる。
 数年後日本に呼び戻される。茜は法務部長に昇進した。銀行全体の意識改革、すなわち自分の部下の法務部の意識改革から始めようと決意した。
1714 イ・サン −正祖大王− 4
Date: 2011-11-4

おすすめ度 ★★★★★

  リユ・ウンギョン 著  竹書房  発行:2010年4月

 無頼漢たちは七牌市場に物を売りに行こうとする商人たちを襲い、市場に入れなくした。市場は空になり、鐘楼の市廛商人場は自分たちの品物を燃やしていた。そのうえ市廛商人は一斉に休業した。何者かが裏で補償をしているという事態を引き起こしているとホン・グギョンはサンに告げる。
 嬪宮金氏はソンヨンが描いた仏手柑やざくろの絵をまるで本物を見るようだと見入ってしまう。
 サンも父が書いた絵を見ていた。最後に王に届けよといった絵である。とうとう王に渡せないでいた。
 一方、都城に入ってくる品物を遮断していたのは市廛商人たちだった。大臣は品物が町に入らないこと、商人が商売をしないことを王に「世孫邸下の無謀な政策が政事を一瞬に覆すことになりかねない。やめるよう」進言する。
約束の1ヶ月が来た。王は世孫に「代案が理想に走りすぎた」というが、大臣たちに「世孫の失敗を責めるが、誰一人知恵を絞らない。政事は世孫一人がするものではない」と苦言を呈す。
 ホン・グギョンは市廛商人と老論重臣たちが結託した確たる証拠をつかんでおかなければならないとサンに言う。
 世孫が見ていた父の絵を、王に復習の機会を狙っている証拠だと和緩翁主は父である王に密告する。王は世孫にその絵と父の日記を持ってこさせる。それをみて、王は自分が息子を米びつに入れ餓死させたことを悔やむ。息子は無実だった。王は一人むせび泣く。
 王は自分の罪のない息子を飢え死にさせた非常な父親。王は思悼代子の遺品を苦しみながら長い間見つめていた。そして、それらの品を燃やしてしまう。
 そしてチェ・ジェゴンを呼び硯に墨をすると、わが子を食い殺したのは父である自分であったという気持ちをこめた詩をしたためる。それを重要文章をしたため封をした箱に入れた。考えた末に「余の息子は親孝行であった」とした。「余の息子は無実であった」とはしなかった。
 そして王は倒れる。意識を取り戻した王はサンに「余は大きな過ちを犯した。祖父を許してくれ。父親の分まで聖君になるのだ」といい息絶える。1776年3月5日。享年83歳であった。
 王が亡くなったことから、やつらは間違いなく反乱を起こすであろう。 
 ホン・イナンはソンウクという14歳の刺客を見つけてきた。16歳と偽って號牌上十六に配属させる。名もハン・ヨンホと名乗らせた。ソンウクはなんとソンヨンの別れ別れになった弟だった。
1713 イ・サン −正祖大王− 3
Date: 2011-11-4

おすすめ度 ★★★★

  リュ・ウンギョン 著  竹書房  発行:2010年2月

 テスはサンの窮状を知り、彼の護衛が出来ないかと考える。ホン・グギョンは4人の男に襲われるが偶然通りかかったテスに助けられ、テスの家で4日間目を覚まさなかった。
命を助けたお礼に武科の試験に受かる方法を教えてくれるが役に立ちそうか疑問だった。
 サンは王から「細目」四章を読んだか問い詰められる。その内容は英祖が粛宗と雑仕女との間に生まれたことが書かれていた。何を意図して言われるか答えに窮したおり、ホン・グギョンが「世孫邸下は四章を読み飛ばされた」という。サンの部屋から持ってきた書物には四章には葦の花が貼り付けてあった。工作したのはホン・グギョンとソンヨンであった。サンは救われるが、以後こういう王を欺く工作は無用だと諭す。
 サンは武科の試験に受かるようテスに弓を射る際に親指につける弓懸を与える。テスは右洗馬(雑務の武官)に任命される。
 貞純王后が嘉礼を挙げた当時は30歳になったばかりで、英祖は65歳だった。来年、英祖は83歳になる。子もなく王の死後はひとりで老いていかなければならない。息子を死に追いやる英祖たちとは根本的に違うのだ。どんな手を使っても今の地位を保持しなければならない。貞純王后はパクチョの武士たちを朝廷の軍隊にひそかに編入させるようたくらむ。
 王はコロリが蔓延している郡へ出かける。が行った先で熱を出して倒れる。サンは王を救おうとコロリに効く薬を編み出す。しかし、貞純王后も和緩翁主も王の熱が下がらないことにサンを責める。ようやく王の熱も下がった。
 国に銅が不足していることから鋳銭もできない。倭国から銅を仕入れようと考えたが、サンはあることから、手形の信用取引を思いつく。これなら銅がなくても取引が可能になる。大臣たちは賄賂が入らないことに難色を示すが、王はサンの話を聞いて1か月だけ様子を見るという。
1712 悪道 西国謀反
Date: 2011-11-3

おすすめ度 ★★★★★

  森村 誠一 著  講談社  発行:2011年10月

 綱吉が柳沢吉保邸で脳卒中を起こして急死した。吉保はすぐさま影武者を将軍として何事もなかったようにつくろった。影武者であっても手にした権力は本物である。
しかし、流英次郎はひとり影武者だと見破った。おそで以下英次郎と行動をともにした一行は影武者に忠誠を誓い、吉保と対決するために江戸に戻った。
 「生類憐みの令」は次第に緩和され、綱吉の秕政は是正されていった。英次郎は将軍から調べを依頼された。播州赤穂家の類縁、浅尾家は相次ぐ不幸、2年間で3人もの世継が死んでいる。外村監物は先代藩主義明公と幼少のころからウマがあい、義明公の計らいで古家老にそして御側用人となっていた。義明公亡き後も6代、7代、8代藩主の後見役として権力を振るっていた。義明公の側室おもよとの間に虎之助を設けたが、数日早く生まれた義宗公が当主に納まった。おもよから早く虎之助を当主にと言われていた。じつは虎之助は監物とおもよの間に生まれた子であろう。監物は風炎衆という忍者集団を使い、意のままに動かしていた。江戸からの隠密も未然に始末した。
 監物は綱吉の近頃の是正に疑問を持ち、風炎衆に将軍を撃てと命令する。英次郎がたどり着いたとき、何もない気配に風炎衆が不在であることを知る。早馬を使い江戸にとって帰す。将軍が狙われていると感じた。気を許しかけたとき、風炎衆は江戸城を襲った。しかし、英次郎たちの働きにより将軍は難を逃れた。
 上に立てば身の危険に晒されることに気づいたおもよは、もはや当主をと願わなくなった。義宗も英次郎の向けた医師の働きで健康を回復した。徐々に裁量を発揮し始め、監物の意に逆らうようになった。
 再び将軍は襲われるが、英次郎が助け出す。賊が襲う直前に逃げ出す監物を見て監物の差し向けた賊であることを知る。が、証拠がない。吉保も差し向けた影将軍が自分の意のままにならないことを悟った。
 やがて、監物の圧政に嫌気がさしていた反監物勢力は一気に不満が噴出した。監物は吉保からもらった「家中大御所並みとして処遇いたす」という念書を探ったが、その書付はすでに英次郎の手に渡っていた。監物の権威はこれまでであった。
1711 いとみち
Date: 2011-11-1

おすすめ度 ★★★★

  越谷 オサム 著  新潮社  発行:2011年8月

 いとは16歳。1か月ほど前から弘前市の高校へ通っている。そのいとが青森のメイド喫茶でアルバイトをすることになった。面接の時、どもって硬くなっておどおどしていたのに採用された。
 メイド喫茶は青森の雑居ビルの5階にあった。店には29歳の店長と自称22歳という幸子さんと本当に22歳の智美さんの3人がいた。バイト初日は「いらっしゃいませ。ご主人様」ということがなかなか言うことができない。特にド津軽弁で「ごスズンしゃま」となってしまう。制服を着て出迎えるのはいとの仕事だった。慣れるまで皆が見守るがなかなか言えない。来客があるたび、いっせいに話をやめて、いとの発する言葉に耳を傾けるようになった。そしてまたしてもうまく言えないと「はーぁ」とため息を漏らす。
 バイトのことは級友にも父にも祖母にも話していた。級友も店に3人できてくれた。
ある日、オーナーの成田が逮捕される。別の仲間とやっていた仕事に不祥事があった。オーナーはすぐに店長に店を譲り、メイド喫茶は成田の手から離れた。成田の逮捕で父と祖母にメイド喫茶だとわかって「いかがわしい店」と思われた。しかし、いとには普通の喫茶店である。幸子さんも智美さんもいい人だ。辞めたくはない。
 銀行が来て今後のことを話し合った。店は存続させることに決まった。
 店でコンサートをすることになった。いとは小さいころから祖母に教わっていた三味線をやる。その日は父も祖母も駆けつけた。いとが演奏を始めると包皮が裂けた。父が代わりの三味線を持ってきていた。いとはそれを使って思い切り演奏をした。三味線も弾んでいる。気持ちいい。客は乗っている。演奏が終わると拍手喝采だった。
 いとの母は乳がんで32歳で亡くなっていた。幸子さんは18歳で結婚し、子供を生んで20歳のころはもう母子家庭になっていた。智美さんは漫画をかいて激励賞を最近もらった。いとは入社3ヶ月たってやっと「いらっしゃいませ、ご主人様」がすんなりと言えた。
1710 越山 田中角栄
Date: 2011-10-31

おすすめ度 ★★★★

  佐木 隆三 著  七つ葉書館  発行:2011年9月

 田中角栄は大正7年生まれである。27歳のときに立候補するが落選。1947年、28歳のときに初当選する。39歳で郵政大臣、1972年(昭和47年)に総裁選で福田赳夫を破り総理大臣になる。本書はここまでの物語である。
 田中の実家はわらぶき屋根の生家は、父角次の死後、総ヒノキ造りの二階家建物面積4百平方メートルになった。
 昭和9年、15歳で東京に出てきた角栄は、いくつかの職業を転々とし、中央工学校の土木科へ通った。19歳で独立する。共栄建築事務所を立ち上げる。23歳で8歳年上の坂本はなと結婚する。昭和19年、25歳で田中土建株式会社を立ち上げた。会社は全国50社のひとつにランクされる。27歳で新潟県柏崎市に事務所を置き、新潟2区から立候補するも次点で落選する。
参考までに、この後1976年(昭和51年)ロッキード事件で収監される。1985年(昭和60年)脳梗塞で倒れるが、翌年の選挙ではトップ当選している。1990年71歳で政界引退。1993年(平成5年)75歳で死去。
1709 プラチナデータ
Date: 2011-10-28

おすすめ度 ★★★★

  東野 圭吾 著  幻冬舎  発行:2010年6月

 国民のDNAをデーターベース化してDNA捜査システムの構築が始まって10年が過ぎた。国民全員をデータベース化するのはまだまだ先である。
 特殊解析研究所の主任解析員の神楽龍平は犯人のプロファイリングを警察に伝える。渋谷で起きた女子大生殺人事件について「三親等以内に犯人が居る。犯人の性格は小心で臆病、忍耐力が弱い。反社会レベルは7」と。捜査員は沈黙した。
 直後、国会でもこのDNA法案が可決された。DNAから体格、顔の造作、先天的病気なども分かる。過去に犯罪を犯しているものはすぐに分かる。犯罪捜査に威力を発揮する。
 新世紀大学病院で入院患者2人が銃殺された。患者とその兄だった。病院のVIPルームでのことだった。神楽は死体を見て気を失った。気がついたときはベッドの上だった。
 神楽もこの病院に患者として出入りしていた。神楽は二重人格を持つ症状があった。
神楽はDNA捜査システムの最初の開発段階からかかわっていた。神楽は人格を反転させる薬を飲んだ。1週間に1度しか服用できない薬だ。しかし、今回はなかなか反転しない。
キャンパスにかかれた絵で見たワンピースの女の子が声をかけてきた。スズランという。スズランは神楽のもうひとつの人格リュウの恋人で結婚を約束しているという。リュウが絵を描いているときに一緒に居る女の子だ。神楽は病院に居るときは監視カメラで見張られていた。目の前の女の子を実際に会って見るのははじめてだった。
 神楽とスズランは失踪する。スズランの言う監視カメラは操作できるという。偽の情報を送り続ける方法だった。
 警察は、神楽が東京駅から暮礼路(ぼれろ)に向かったことを突き止めた。東京から北に向かった。神楽はスズランの要望でリュウにかわって教会で結婚式の真似事をする。
 捜査の手が自分に向いていることを知った神楽はバイクで逃げる。
DNA情報データの中に特殊なデータ「プラチナデータ」が紛れ込んでいる。それを上司の浅間は知っていた。リュウと殺された蓼科兄弟の関係は?

1708  密売人
Date: 2011-10-27

おすすめ度 ★★★★

  佐々木 譲 著  角川春樹事務所  発行:2011年8月

 釧路の港で人が浮かんでいた。函館セントラル病院で本棟の外側の植え込みの手間で人が倒れていた。飛び降りかもしれない。赤井川の山奥の谷の下のほうで車が燃えていた。焼死体は手錠がはめられていた。札幌の小学校から米本若菜ちゃん小二が連れ去られた。集合住宅で車上ねらいがあり、ガラスが割られパソコンが盗まれた。もう一台は鞄が盗まれた。
 釧路港の死体はタクシー運転手飯森周45歳。函館セントラル病院の死体は入院中の為田俊平66歳で転落しだった。米本若菜ちゃんの父親が米本弘志だが、東京の病院に入院している。死んだいいもりと為田は道警の協力者で捜査員との接触もあった。彼らが親しくしていた刑事はすでに定年退職していた。本部もしくは札幌方面の捜査員と親しかった。その捜査員の共通するところは「マル暴」だった。
 米本が入院先の病院から失踪した。
 3件の事件がごく一部の人間しかしらない時点でつまり機動捜査隊とそれに協力したごくわずかな刑事しか知らない。中間管理職ではほとんど知らないはずだ。3件の被害者は捜査員たちの個人的な協力者だ。
 不祥事で懲戒免職になった巡査部長水橋幸也の指紋が函館の病院で見つかった。
1707  境遇
Date: 2011-10-26

おすすめ度 ★★★★

  湊 かなえ 著  双葉社  発行:2011年10月

 高倉陽子は県会議員の夫と5歳になる裕太がいる。その裕太が何者かに連れ去られた。
「ムスコハアズカッタ。シラカワケイコクジケンヲ オモイダセ」と脅迫文が届く。FAXだった。白川渓谷事件とは犯人から警察に通報するなというにもかかわらず警察に通報し後日女子高校生の遺体が見つかった事件である。
 陽子は36歳、結婚して5年後にやっと子(裕太)に恵まれた。陽子は最近、絵本大賞新人賞をもらった。陽子は友達の晴美と境遇が似ていた。陽子は19歳まで自分が養女だったことを知らずに育った。パスポートを取るときに戸籍を見て知った。陽子はその後、図書館で働いているときに今の夫と知り合い結婚した。しかし、陽子の夫には親が内々に決めていた結婚相手がいた。後援会の娘亜希子であった。亜希子は今も夫の秘書をしている。夫はなくなった父親の地盤をついで県議会議員になって4年目である。
 一方、晴美は新聞記者をしている。晴美は生後間もないころ施設に預けられた。高校卒業までそこで育った。「朝陽学園」という施設でボランティアもしていたころ、晴美と陽子は知り合い仲良くなった。
 晴美が自分の宝物の青いリボンの話をしてくれた。母親が青いリボンとともに箱に入れられ門の外に置かれていたという。そのことを陽子は青いリボンの話とともに裕太に話して聞かせていた。陽子が絵が上手だったので手作りで絵本を作った。それを後援会の人が見つけ応募してしまった。
 裕太がいなくなる前に、不審な中年女性を見たという。陽子は警察にも知らせないで心配した。「ミツ子の部屋」というテレビ番組に出ることになっていた。陽子の夫正紀の不正献金問題が浮上していた。「シンジツガワカタララ アス ミツコノヘヤデ コウヒョウシロ」という犯人からのメッセージだ。
 陽子は番組中に自分が「自分が施設の出で、36年前の樅の木町殺人事件の加害者の娘である」と告白する。そして夫も不正献金疑惑について話す。
 その様子を不審に思われた中年女性橋本弥生も見ていた。自分の娘と思っていた青いリボンの話は、書いた作家自身の物語ではなくその友達の話だということを知る。
 裕太をあの日、迎えに行って預かったままだったのは晴美だった。警察に行くという晴美を陽子は押しとどめる。何よりも裕太に恐怖心もなく、「ママが選挙で忙しいからはるちゃんにお願いしたんでしょ」という。アイスも食べ絵本も読んでもらったという。
 晴美は取材で弥生のことを知り、陽子の母ではないかと思ってそれを知らせようとしたと告げる。後援会長に連れられて弥生が現れ、自分の子は晴美さんあなただと伝える。
1706  知れば知るほど面白い朝鮮王朝の歴史と人物
Date: 2011-10-25

おすすめ度 ★★★

  カン・ヒボン 著  実業之日本社  発行:2011年7月

 朝鮮王国は高麗王朝を倒して1392年に建国された。1910年の日韓併合の時まで518年で国王27代をかぞえた。豊臣軍の朝鮮出兵が1592年に釜山を攻めた。6年にわたって戦火が散った。1598年にようやく撤退した。14代の王宜祖のときだった。徳川家康は隣国は大切にすべきと闘いはしなかった。江戸時代は朝鮮から通信使が12回来日している。
 ハングル文字を作った4代の世宗(1418〜1450年)、チャングムのいた頃は11代中宗(1506〜1544)、トンイのころは19代粛宗(1674〜1720)、トンイの子ども21代英祖(1724〜1776年)で、イ・サンの祖父にあたる。22代イ・サン(1776〜1800年)の死後、1800年からは、イ・サンの子純祖(1800〜1834)が23代の王になるが、10歳で即位している。実際の実権は外戚があたり、このあたりから官僚の汚職が続発し政治は腐敗し内紛が耐えなかった。外国からも干渉され正治は弱体化し近代化は遅れた。
 対馬に近い済州島は流刑地だった。朝鮮王朝の女性の髪形は3キロもあるカチェというかつらである。
 韓国では1996年ごろから朝鮮王朝時代劇がヒットし始めた。そして史実よりも創作に重点を置き、作者は史実に囚われず自由に書いている。史実に大方あっていればいいようだ。
 室町幕府と朝鮮との関係は良好だったが、その後、日本は戦国時代になり疎遠になった。
1705  愛ある追跡
Date: 2011-10-24

おすすめ度 ★★★★

  藤田 宜永 著  文芸春秋  発行:2011年6月

 勤務医の医師42歳男性がマンションの自室で死んでいた。死因は失血死で室内は荒らされた後はない。遊びに来た女性23歳が発見した。
 岩佐一郎はホテルの近くで車を止めていた。デリヘリ嬢の送迎をする運転手である。元は獣医を開業していたが、娘が殺人事件の容疑者として指名手配され客も減った。娘から「自分はやっていない。警察は私がやったと思っている」と電話した後、行方不明となった。逃げると認めたことになるという注意も聞かずに。岩佐は娘の無実を信じていた。行き先の手がかりをつかむために、キャバクラに勤めているという情報から、探し回っていた。そして、運転手の仕事にありついた。デリヘリ嬢からの情報も娘を結びつける可能性があった。渋谷で娘瑤子に似た女を見つけるが見失う。
 刑事が2人、いつも岩佐を見張っている。刑事より先に瑤子を見つけたい。デリヘリ嬢のひとり、多佳子の愛猫の病気を見てやった。父親が面倒を見ている。多佳子と父親は疎遠になっていたが、猫の病気で多佳子が家に帰るようになった。
 岩佐と一緒に獣医師をしていた稲川から瑤子を伊勢市の駅近くで見たという電話を受けた。岩佐はすぐ伊勢に行く。別荘に瑤子がいた。岩佐は瑤子に問いかける。「お前がやったんじゃないんだろう」瑤子はうなずくが、すぐ警察がやってくる。女を追っていた川平と瑤子はボートで逃げる。ボートが転覆し、川平だけが捕まる。
 瑤子は刺繍館で働いていたという。トラックの幕やハンカチや風呂敷などを扱っていた。
岩佐は安中榛名にも出向く。
 徐々に死んだ勤務医のこと娘瑤子のことが分かってくる。
1704  小説 巨大銀行システム崩壊
Date: 2011-10-23

おすすめ度 ★★★★

  杉田 望 著  毎日新聞社  発行:2002年7月

 秋本安喜は34歳の日本産業銀行の銀行マンである。日本産業銀行は藤山銀行、第七幹業銀行と3行の合併が4月に実施される。金融庁担当であった。
 ところが痴漢と疑われ連行される相手は金髪の高校生だった。勘違いだったかもしれないというので釈放されたのは午後9時だった。保育園に息子を迎えに行く。妻は残業でまだ帰っていなかった。
 金融庁の山室美由紀は総務課の課長補佐だ。32歳だった。妻子のいる志田伸行と逢瀬を重ねていた。世間に知れたら金融庁の女キャリア官僚と大新聞の幹部社員との格好のスキャンダルになる。世間に秘匿にしなくてはならない。志田は朝陽新聞に経済部にいる。長男は大学生、長女は高校生だ。心配なのは高校生のゆきだ。不良というほどではないが金髪にして携帯で男友達と長話をしている。
 秋本はゆきからメールをもらう。あの痴漢と騒いだ女の子だ。しばらくは無視していたが、ファミリーレストランで偶然出会う。秋本は息子と食事をしていた。ゆきは一緒に座って息子と仲良しになってしまった。
 秋本は妻の美子から息子を迎えにいってほしいと頼まれるが、特別検査で忙しい。止む無くゆきに頼む。ゆきは秋本に自分を抱きたいかと尋ねるが、秋本は激怒する。
 銀行統合は発表され、みやびホールディングが発足した。不良債権問題がどの銀行にものしかかってきていた。巨大スーパータイメーも金融庁が処分を迫るであろう。
 ゆきは「あなたのお父さんと深い関係にある女」と名乗る女から「お父さんに伝えてよ。わたし、逢いたいと」と頼まれる。自分を抱こうとしない秋本にゆきは会いたいと思った。
 山室美由紀は志田と別れる。秋本の妻は離婚を申し出て出て行った。息子は秋本のところにいた。ベビーシッターでゆきが手伝ってくれた。ATMが故障する事件が起きた。行員仲間の津田が心配し、家にも同じ年の子がいると秋本の子を一時的に引き取ってくれた。
 秋本はゆきと息子の麻人と食事をした。ゆきの父親から手紙をもらっていた。新聞記者にしては軟弱な文だったが、ゆきが最近変わってしあわせそうな表情をしている、よろしく頼むと。父親が誤解していることにゆきは顔を赤らめる。19歳の女の子だ。
1703 イ・サン −正祖大王− 5
Date: 2011-10-22

おすすめ度 ★★★★

  リュ・ウンギョン 著  竹書房  発行:2010年8月

サンが王に即位して3日目に刺客が侵入する。宮中の外では反乱軍が攻めてきていた。テスが危険を察しすぐサンに知らせた。反乱軍と対峙したサンはそのものたちを処分する。
しかし、貞純王大妃は先代の王の継室であり、サンにとっては祖母に当たる。王室の長老でもあった。罰することが出来ない現実があった。和緩翁主は悪態をつくが庶女に降等し流罪に処した。玉座があるがゆえに異母兄弟、叔母と外戚など絶えず自分を亡き者にしようと挑んでくる。それでも身内に刀を振るうしかなかった。サンの心は苦痛に満ちていた。
それを見た孝懿王后は、ソンヨンのことを思い出し、あの子を宮中に迎えよう。夫に笑顔が戻るのであればと決意する。
サンが正祖に即位して8年が過ぎ、ソンヨンは子を産み世子の母となった。孝懿王后(サンの妃ピングン)は3歳になったソンヨンとサンの間に生まれた子を抱き、満足げに笑った。孝懿王后の計らいでいつでも息子文孝に接することが出来た。幸せであった。テスも喜ばしくて胸をいっぱいにしていた。サンにはこの上ない幸せな瞬間だった。
 しかし、麻疹で文孝も命を奪われた。そして担当した医官と貞純王大妃の悪事を知った常渓君は自殺する。遺書を残していた。サンはそれを見る。サンは次に狙うのは自分であろうと確信する。
再度懐妊したソンヨンを大妃が見舞っていた。大妃がいうには側室は高貴な家柄の学識の高い子を迎える。これを飲まなければサンに飲んでもらうことになる。ソンヨンは王妃が残していった毒薬の丸薬を飲み息絶える。サンはわが息子と臣妾ソンヨンの両方を失った。
貞純王大妃は「わが世を謳歌する。今まで侮蔑に耐えてきた。この日を指折り数えて我慢してきた、だからさっさと死ぬがいい!」とサンの首をつかんで言う。
 正祖イ・サンは1800年6月28日その生涯を閉じた。第22代王であった。朝鮮王朝は27代の王がいた。そのうち祖と付与されたのは7人だけだった。毒殺説が語られるほど早すぎた死だった。正祖が設置した奎章閣(キュジャンガク)はソウル大学図書館であるという。
1702  光あれ
Date: 2011-10-21

おすすめ度 ★★★★

  馳 星周 著  文芸春秋  発行:2011年8月

 徹は折角出席した十年ぶりの同窓会を中座した。追ってきた昌也は真新しい車に徹を誘った。スカイラインGT−Rだった。安月給で女房子どもを育てていると高嶺の花だった。
徹は原電でガードマンとして働いていた。9年になる。
 その昌也が自動車事故にあった。夜中にガードレールに激突してボディがくの字に曲がって横倒しになっていた。昌也はその中にいた。みつけた徹が通報するが、レスキューを呼んでいるうちに昌也は死んだ。昌也には30歳の妻と小学校へあがったばかりの娘がいる。昌也は高校のとき、大工になるといって珍しく学校へまじめに通っていた。学校だけはでないといけないと棟梁に言われたらしい。徹は水産加工会社に行くことになっていた。
徹は17歳のときキャバクラの女性と初体験をした。本名は美紀と言う女性だった。
 そのころ、中学時代の同級生がセッテングした合コンで真理と知り合った。そしてふたりで花換え祭りに行く約束をした。真理は信用金庫に勤めていた。
 今、徹は真理と結婚し、小学校2年生の娘がいる。娘から「パパ、離婚しないよね」といわれる。嫁の真理は徹の毎晩遅く帰宅と約束を守らないことで不機嫌になっていた。
 自分の分の夕食が作られてないこともあった。徹は昌也の妻と不倫をしていた。昌也の死後何かと世話を焼いているうちにそうなったが、自分は真理と子供を捨てる気はない。
 昌也の妻が自殺した。昌也の残した借金が多額にあったそうだ。保険金で片がついたといっていたのはうそだった。昌也は家で寝ているだろう妻に電話をするがなかなか出てくれない。帰路を急ぐ。
1701 連戦連敗
Date: 2011-10-19

おすすめ度 ★★★★

  深井 律夫 著  角川書店  発行:2010年11月

 1999年から2009年まで上海にいて39歳の男の研修セミナー報告である。江草は日本産業銀行上海支店の中国投資課に赴任した。チームメンバーは中国人が一人だけ。それではかわいそうだと関西の地銀さんが和尚さんを送り込んでくれた。和尚は大河内という25歳の金持ちの息子でカラオケが大騒ぎする破戒僧であった。
 日本人は中国人を嫌いといい、中国人も日本人を嫌う。中国人は自己主張が多く相手の立場を忘れたものの言い方をします。素直に非を認めることもない。謝らない。一方、日本人は中国人に対して蔑視をしている。中国は日本に対して根本的に理解の念がないから、日本の意図を組むということがない。はっきりものをいわない日本人は理解してもらえない。だから結果として日本人と中国人はかみ合わない。
 日本の浅間フィルムと河口フィルムを締め出そうする動きの中、中国最大のチャンスフィルムと浅間フィルムとは適正パートナーだと考える張建文。
 日本にいた杜愛蓮は、通行人の歩く方向が左右にきっちりと分かれているのに感心する。上海では通行人と車とバスとバイクがぐちゃぐちゃになる信号。セブンイレブンでバイトした際に「強盗が入ったら、レジのお金を渡してすばやく逃げろ。あなたの命より大切なものはありません」と教えられたことだ。なんとしても店の金や品を守るという中国とは違う。大嫌いだった日本が住むに連れ徐々に好きになっていった。
 「日本人は中国で悪いことをしてきたから中国の人を大切にしなくてはいけない」と母親にいわれて育った江草。そして「日本が中国に貢献できるのは銀行しかない」として中国業務に強かった日本産業銀行に入ったのだという。江草は中国を理解しようとずっと務めてきた。他の日本人とは違うものを中国人は感じていた。
 ところが中国投資課はことごとくパートナーを選ぶプレゼンテーションには失敗を繰り返した。
1670 イ・サン -正祖大王- 2
Date: 2011-10-17

おすすめ度 ★★★★★

  リユ・ウンギョン 著  竹書房  発行:2009年10月

 ソンヨンはテスの叔父パク・タロのそばで暮らしていた。イ・チョンの紹介で茶母として就職し今では図画署に入っていた。サンと出会ってから9年がたっていた。
 サンは夜中に何者かに襲われるが、ほかの者が駆けつける前に死体が消え、血の跡もなかった。そのことからサンは気が狂ったと思われていた。王はサンに清国からくる来賓の接待を任せられる。みやげ物も用意されるが、またもや白い反物が港で盗まれてしまう。サンは窮地に立つが、ソンヨンの漂白のやり方で色物が白い反物になることがわかり、難を逃れる。その際に、ソンヨンは清国の使者に幻の麒麟の絵を描いて客人を驚かせる。
 一方、サンは11歳のとき嘉礼により嬪宮金と夫婦となっていた。
進宴がはじまってもソンヨンはチョビに言われた顔料を作っていた。遅れて仁政門にたどり着いたが入れてもらえなかった。
 サンはテスと再開し、反物を盗んだ一味を捕らえるが、その罪人も消える。偽の命令書が出回ったのである。サンは軟禁令にしたがう。しかし、新たに降りかかった問題に図画署の残した記録画がサンへの疑いを晴らす。その後、やっとサンはソンヨンに出会うことができた。
 サンは伯母上(和緩翁王)がサンの父親の死に絡んでいたことを知る。和緩翁王は父の実の妹であった。それが、自分の命を狙う親玉だったと知った。
1699 逃亡医
Date: 2011-10-15

おすすめ度 ★★★★★

  仙川 環 著  祥伝社  発行:2011年8月

 鹿川奈月は喫茶店ポエムの店主増田遼子から「うちの息子の父親を探してほしい」と頼まれる。奈月は2ヶ月前に警察を辞めていた。37歳の奈月は一緒に住もうといってくれた男性がいた。その覚悟で料理も家事もできないでは困ると食材を買いにいき、鯵を3枚のおろすところで遼子が訪ねてきた。
 聞けば、12年も音信不通だった息子の父親に、ドナーをお願いしていた。息子は生まれつき重い肝臓病で一刻も早く手術をしないと命の危険があるという。すでに遼子の肝臓も提供しており、やむなく父親の佐藤基樹に連絡をした。ドナーになってもいいといったが、今日一緒に検査に行くはずが来なかった。勤務先の病院も無断欠勤をしているという。医師である佐藤が怖くなって逃げ出すとは思えない。
 奈月はすぐに実家のほうへ行ってみる。八高線の小さな駅だった。基樹の両親はすでに死亡し、かれこれ20年もあっていないという叔父夫婦は佐藤が医者になっていると聞くと「それは人違いだ。中学を卒業するかしないかで出て行った」という。そしてプリントした顔写真を見て別人だという。出て行って2、3年で健康保険証が必要だというので送ってやったという。
 棚田弘志は2階建てのアパートを見ていた。18年前に初めてこの阿倍野区へやってきた。棚田は父親の愛人の従弟の下山を突き飛ばして後頭部をしたたかにコンクリートに打ち付けていた。あのまま死んだのだろうか。下山の親友の黒澤という男に絶対見つかりたくなかった。その男が突然訪ねてくるとは、とにかく逃げようと逃げた。
 棚田は医者になるために何人かの女を踏みつけてしまった。綿貫弓枝もその一人だった。ホステスをしていて棚田に部屋と小遣いを提供してくれた。小遣いも月に20万ももらっていた。棚田は1年半で400万近いお金を貯めた。棚田はそれを大学へ行く費用にした。その弓枝を訪ねた。弓枝は棚田が心臓外科医になったことを喜んだ。
 棚田はパチンコ屋に勤めているとき、アパートの隣の男が死んだ。年も同じだった。その男が話した保険証のことを覚えていた。互いにどうせ天涯孤独の身。棚田は佐藤基樹と名乗って大学を受験した。 
 しかし、佐藤を追っていた者は黒澤ではなかった。
1698 警視庁FC
Date: 2011-10-12

おすすめ度 ★★★

  今野 敏 著  毎日新聞社  発行:2011年2月

 楠木肇は地域課の刑事だ。それが、組織犯罪対策部の山岡諒一と交通課のミニパトに乗っている島原静香と警視庁FC室の特命を言い渡された。FCとはフィルムコミッションという映画をはじめとするエンターテインメントの撮影に協力する任務だ。交通機動隊の服部靖彦もこのFCに着任した。交通整理や揉め事の調停、妨害に関しての対応にあたる。
 主演女優は野口美咲で20年ほど前にデビューした36歳。
 服部と楠木は「死んでいる」という声に行ってみる。ロケバスの中で人が死んでいるという。すぐに黄色いテープが張られた。鑑識が来て「絞殺だ」という。死んだのは助監督の江本弘幸だ。
 そこへ、野口美咲と助監督が言い争っているところを交通課の静香が見たという。ということは野口美咲が犯人か。しかし、ロケは続行された。ロケバスは麻布署の管内でロケをしていたことから麻布署が調べることになった。そして、プロデューサーも失踪した。家族から杉並署に行方不明の捜索願が出された。
 楠木は絞殺された死体が糞尿のにおいも垂れ流しもなかったことに疑問を持つ。服部が殺された助監督と楠木が話をしているのを見て驚く。
 楠木は監督に聞く。救急隊が来たときのフィルムを見せてもらう。すると監督は搬送シーンの死体は砂袋だという。
 本当に殺人事件が起こったのか。搬送する現場を見ていない楠木はロケバスにいたものを調べる。そして死んだはずの江本に撮影所でおきた殺人事件の演出をするふりをして遺体を遺棄した。プロデューサー殺しを隠蔽するための工作ではないかと感じる。
1697 白い鴉
Date: 2011-10-8

おすすめ度 ★★★★★

  新堂 冬樹 著  朝日新聞出版  発行:2011年9月

 光代は被告人の背中を見つめていた。小学校3年で養護施設「萌芽園」にやってきた水本友也は、父が蒸発したあとアルコール依存症になった母親から日常的に虐待を受けていた。
 その友也は、当時担当だった清水光代からはじめて愛情を得ることができた。光代も園児たちが受けた心の傷を完全には消すことができないが、痛みをなくすことはできると親にはなれないが親以上の愛情を注ぐことに努めた。
 後輩として入ってきた厚志も親から虐待を受けていた。友也と厚志は本当の兄弟以上に心を通わせていた。
 その友也が13年後、詐欺師「白い鴉」のリーダーとして仲間3人と合計2億9千万円を搾取した罪に問われていた。
 友也は銀行支店長の妻から500万円、商工ローンの経営者から3千万円。ホストクラブのホストから5千万円。大民党幹事長からは1億円などをだまし取り、そのうちの8千万円を銀行から融資打ち切りと返済を迫られた萌芽園の園長清水光代のところに届けられたのである。手紙も入っていた。「自分は生まれてきてはいけないのだと思っていた。ミッちゃんが 友ちゃんに出会えて本当によかったと言われたときは涙が出るほど嬉しかった。8千万円はいっています。そのお金で萌芽園は手放さなくてすむはずです。これは間違った表現の仕方だと思っている。この手紙を書き終わったら自首します。」とこれまでのお礼を書いてあった。
 友也の背中に向かって光代は「あなたはそんなコじゃないっ。おねがい、本当のことを・・」と叫ぶ。
1696 夢で逢いましょう
Date: 2011-10-5

おすすめ度 ★★★★

  藤田 宜永 著  小学館  発行:2011年2月
 
 日浦昌二は定年後歌舞伎町を訪ねていた。若い頃通ったものだ。昌二には昔、お笑い三人組と呼ばれた仲の良い及川三郎と滝沢誠一郎とも会った。 
及川はオウムのオードリーを捜して欲しいと不動産屋の清史から頼まれる。オウムは40年ほど前に行方不明になった。オウムは80年生きるという。まだ十分生きているはずだ。
依頼人は家政婦にオードリーを譲った。家政婦は姉に譲り、その姉が死んで付き合っていた男のものになった。その後、男の知人のものになり、男が付き合っていた女優にあずけたまま殺され、その女優も死んだ。死んだ男の遺族が持ち主なんだが、オウムに興味をもっているとは思えない。被害の出ていない窃盗事件に警察が乗り出すとも思えない。
 誠一郎の家に泥棒が入った。犯人は美代子の父親だった。見逃して欲しいと頼まれた昌二は好きな女の子の父親だったからやりきれなかった。
 及川が調査している段階で、あのオウムは大金の隠し場所を知っているという。数字で教えてあるということだった。
 そしてオウムは富島と名乗った男の仲間が手に入れていた。父親の遺品からオードリーヘプバーンの写真の裏に数字が書かれていた。その数字は139447何か。
 オードリーに会えた。オードリーは父がよく歌っていた「夢で逢いましょう」を口ずさむと353840と喋り出した。
それは東経と北緯で美佐の住まいから近いところだった。今は大通りになっている。
1695 薩摩スチューデント西へ
Date: 2011-10-1

おすすめ度 ★★★★

  林 望 著  光文社  発行:2007年4月

 1865年(元治2年)3月19日、薩摩藩が極秘裏に英国へ送り込んだ15人と使節団4人の留学を描いた小説である。
 当時の外国渡航は死罪であったので、近隣の島への御用ということになっていた。羽島の浦のひっそりとした寒村の入江から小舟で沖合のイギリス蒸気船に乗った。長崎のトマス・グラヴァー商会の船であった。19人の青年のうち一番の幼い13歳の長沢鼎であった。年長者では33歳の松木と新納、松木は御船奉行で新納は大目付であった。開成所諸生7人、開成所の読師が3人、医師1名、番頭3人、通訳1名、大目付1人などであった。
 一行が2箇月羽島の浦で停泊し出航する。船酔いに苦しめられながら、一行は最初に船で出される洋風の食事に驚き、乗船に際して刀を取り上げられ丸腰になったことに不安を感じながら香港に付く。船の中で髷を切り断髪をした。香港で西洋服を買い、停泊中のイギリス軍艦ユーリアラス号に招かれる。水洗便所の水で顔を洗い笑われる者もいた。
 この旅の費用は現在の金に換算して1人あたり270両、現在の金で実に2700万円であった。1等船室のイギリス人たちは皆途方もない金を出して乗っているのかと驚く。
 4月11日、シンガポールにつく。さらにボンベイを経由してスエズ運河を通りスエズについた。一行は初めて汽車に乗る。蒸気機関車は巨大な鉄の車輪に摩擦音に車両3両ほどの今で言う時速30キロの速さにも驚く。マルタのヴァレッタという街で初めて教会や80万冊を蔵書する図書館にも行く。5月28日いよいよイギリスに到着した。子供たちからはチャイニーズとはやし立てられる。ロンドンについた。ケンジントンホテルを仮りの宿とした。鉄工所の工場見学や農機具の操作などに時間を費やした。
 イギリスの新聞はこの様子を「おおよそ15人の日本人は喜び勇んで右往左往しながら見学して回るのを見るのは誠に興味深い光景であった。蒸気鋤の実見にはマシンの操作をたちどころにマスターし巧みに操ってみせた」と、日本人が並々ならぬ能力を持った真面目な民族であるかを知らしめたようである。
 ところが薩摩藩は次々と船を購入したため、留学費用を削減せよという通知が来る。それぞれがホテルから教授宅に間借りを余儀なくされた。1865年の冬、まっ先に帰国するものが出て、翌年から徐々に帰国者がでた。唯一、長沢だけはハリス教団に入りカルフォルニア州でワインを醸造して葡萄王と呼ぼれるようになった。

1694 随筆 宮本武蔵
Date: 2011-9-27

おすすめ度 ★★★★

  吉川 英治 著  講談社  発行:2002年3月

武蔵300年祭が昭和19年に開催された。吉川英治は武蔵の足跡を訪ねる旅に出た。

 武蔵の史証は実に少ない。昭和10年以降新聞に連載していた頃から史料は漁りつくした感じを持っていた。
 小説とあわせて読んだ場合、史実から見た小説。また小説から見た史実。どちらから覗いても面白さが得られよう。本は昭和14年に初出版されている。
 室町末期に竹山城下(英田郡大原下町)下庄村の平田将監は新免伊賀守に仕えた。将監の子に武仁という者あり、号に無二斎という。その子が武蔵であった。平田の祖先は播州の豪族赤松氏のわかれで土着人「地ざむらい」であった。宮本の姓は無二斎が晩年下庄からそこへ移っておのずと彼の姓になった。別に新免という姓ももっていた。
 母は播州の人で別所林治という人の娘であった。武蔵を産んだあと、佐用郡田住某に再嫁したというがよくわかっていない。
?
 武蔵は幼名弁之助のちに武蔵と称し、政名玄信(もとのぶ)などとも名乗った。号を二天といい晩年二天道楽と自署した物もある。
 岡山県英田郡讃甘村大字宮本が彼の生まれた郷土である。熊本藩細川護成氏が宮本武蔵生誕地と題字を石碑に書いている。
 武蔵は17歳で関ヶ原に行く。21歳で京都一乗寺村の下り松で吉岡憲法の一門と試合をする。29歳で巌流島で佐々木小次郎を打った。32歳で大坂の陣で西軍についている。
51歳から小倉の小笠原家に逗留している。55歳で養子伊織を具して天保2年5月19日に64歳(あるいは62歳)で死亡した。
本人の遺言によって死骸には甲冑を着せ太刀をはかせ六具をまとうて厳しく武装した身なりで入棺した。
武蔵の墓や碑は6か所あるが墓として確定しているのは熊本市外弓削村の武蔵塚である。「新免武蔵居士之塔」となっている。
五輪書序文に「生国播磨の武士新免武蔵藤原玄信、年つもりて六十」とあるが、母方が播磨なので云ったものか。祖先赤松氏の支流なることを云ったのかどちらかであろう」
―本文より抜粋―
1693 イ・サン −正祖大王− 1
Date: 2011-9-25

おすすめ度 ★★★★

  リュ・ウンギョン 著  竹書房  発行:2009年8月

  ソンヨンの両親は疫病に罹りソンヨンが11歳のときに亡くなった。父の友のチャン・テソンの推薦でソンヨンは宮女見習いとして宮中に入る。
 テスは叔父である内侍パク・タロの紹介でネシ見習いをするために宮中に入ったが、まだ去勢をしていなかったので、そのことをとがめられる。テスはおチンチンを切るのはためらわれた。逃げ出したかった。
 ソンヨンは先輩から言いつけられた用事をするために夜中にこっそり宮中をさまよい、テスは痛い思いをしたくないばかりに逃げ出すために夜中に宮中の庭にいた。
 イ・サンは父が米びつに閉じ込められ6日になるということを聞き、居ても立ってもいられず夜中に宮中の庭にやってきた。見張りのものに見つからないように父のいる米びつに近づきたかった。
 ソンヨンとテスとサンは鉢合わせる。そして、サンが水と餅をもって米びつに近寄る。ソンヨンとテスが見張り番をした。サンは父から宮殿にある絵を王に見せるように言われる。それを見せれば、王はきっと私に会ってくださるだろうと。
 サンは王に父は無実です。どうか助けてくださいとお願いするが聞き入れてもらえなかった。王が遠出をした。絵を見つけたサンは一刻も早く王に会おうと宮中から外へ出る。
 ソンヨンが道案内をしてくれる。そしてテスも。しかし、王に謁見している最中に父が死んだという知らせが届く。米びつに入れられてから8日目だった。
 英祖は先代時代から続いていた党争争いを根絶するために心血を注いでいたが、荘獻世子の義父であるホン・ボンハンを支持する扶洪はとそれに対抗する攻洪派との二大勢力の対立が英祖の神経を逆撫でしていた。世子の非行を告発させた人物は貞純王后の父キム・ハングで頑なに世子の即位に反対していた。その筆頭が世子の義父であった。婿を死に追い立てるべく英祖の前に米びつを差し出したのである。
 その後、サンの居た宮殿の庭から銃が大量に見つかった。サンは王に問い詰められるが、まったく知らぬことであった。ところが、銃には製造月日が記されており、それはサンの父が亡くなった後に製造されたものだったことが分かる。
 銃の密売を突き止めたテスとテスの叔父は何者かに狙われる。テス達はソンヨンを伴って舟に乗り都城を離れる。
1692  マスカレード・ホテル
Date: 2011-9-23

おすすめ度 ★★★★

  東野 圭吾 著  集英社  発行:2011年9月

 新聞やニュースで頻繁に報道されている3件の殺人事件は同一犯の可能性が高いとされていた。つぎにこのホテルで起きると警察が言っている。警察は詳しくは教えてくれないが十日以内に起ると言う。警察に常駐してもらうことになった。ホテルであるから、フロントに1人ベルデスクに1名ハウスキーピングに3人を配置する。
 フロントの山岸尚美と刑事の新田がコンビニなってフロントをすることになった。
ホテルでは、一度案内した部屋が気にいらないと難癖をつけ、尚美の機転でスイートルームに移った客がいたり、手袋をした目の不自由な夫人が、この部屋には霊がいるからと部屋を変わらせたり、2万円もするバスローブを持ち去ったりといろいろな客が来る。中には写真を見せつけ、この男には近づけさせないでとわめく女もいた。
ホテルは結婚式も行われる。花嫁が1晩の宿泊予定が急に前日も泊まると言ってきた。
 刑事たちの人を探るような眼をホテルマンとしてたしなめた尚美だったが、どこから犯人がやってきて何をするかわからない。徐々に刑事たちもホテルの仕事に慣れて行った。
この事件が最初に起きた場所は品川だった。次は千住新橋で三番目は葛西ジャンクション付近だった。地図上で示すとそのほぼ中間にあるこのホテルがあった。東京駅の近くである。そしてホテルと葛西ジャンクションを繋ぐ距離と同程度の距離まで延伸させると新宿西口があった。事件現場がほぼ十字の形に並ぶ。山岸尚美は新田そのことをに伝える。が新田は取り合わない。
 結婚式が行われた、新郎新婦の記念写真が撮られている時間だ。花嫁に渡してくれと頼まれたと手紙が来る。手紙には数字が書かれていた。この事件の特徴に数字を書いた紙が発見されたのである。
尚美は怪しいと思いながら女性を部屋に案内する。とそこにはあの目の不自由だと演技をした女性がいた。
1691  無罪
Date: 2011-9-22

おすすめ度 ★★★★

  深谷 忠記 著  徳間書店  発行:2011年8月

 貞子は孫を殺した嫁が松本に住んでいると聞き、松本にやってきた。一方、中央新聞の小坂はある家の前をウロウロする貞子を不審に思った。
 貞子の孫は11年前に裕太と久美の命を奪い、嫁も死のうとしたのだったが死に切れなかった、心神喪失という事で香織は無罪になり、精神病院に措置入院となった。生きていれば裕太は中学三年、久美は成人式を迎えるはずだった。あの嫁は幸せに暮してはいけないのだ。許せない。
 香織は判決の後、平沼が「Kさんを守る会」の事務を手伝うようになり、何度か香織を見舞った。香織は前夫と離婚をし、精神病院で過ごしていた。手紙のやり取りをはじめ、2年余り立って求婚したが断られた。それでもこの人を救おうと決めた平沼は手紙を通して付き合いそして結婚して松本に引っ越した。智也が生まれた。それでも人前を避け、ようやく公園ぐらいまではいけるようになった。それを貞子の知り合いに見つかってしまったのだ。貞子は香織の家に「この家の奥さんは人殺しです」と張り紙をした。
 小坂が江守に7年前に横断歩道を渡っていた幼さなかた息子を殺された。6年の刑だった。その江守がまたしても若い女性を刺して逮捕された。江守はシンナーを使用していた。
 香織は再び自分を見張るマスクとサングラスの女の脅威に精神を病んで入院することになった。香織が息子の智也を連れて外出しないばかりか、家にも誰もいないことを知った貞子は小坂に連絡を取る。
小坂は香織が精神病院に入院したことを告げ、自分は息子を殺した犯人を処刑したいと思っているという。しかし、公判のたびに前に座った刑務官によって、刃物で江守を公判中に刺すことが出来ないと知る。
 入院中に香織は智也の死んだ夢を見る。退院後すぐ、夫の実家へ迎えに行くが智也はいなかった。そして、死を決意する。
1690  県庁おもてなし課
Date: 2011-9-21

おすすめ度 ★★★★

  有川 浩 著  角川書店  発行:2011年3月

 高知県庁におもてなし課が誕生した。おもてなしの心で観光を守り立てようとすることを目的にした。入庁3年目の25歳の掛水史貴と課長の下元を含む12人の公務員がこれに当たる。県出身の有名人に観光特使になってもらいPRしてもらおうという意見が出た。
早速、掛水は高知県出身の作家の吉門喬介に電話でお願いをする。するといくつかのヒントと名刺のクーポンなんかを他のところでもやっていると情報をくれる。2度目の電話の時には、公務員ではない女性を一人入れてはどうかとアドバイスを受ける。また、高知県庁には「パンダ誘致」を提唱した職員が20年ぐらい前にいた。そういう人の意見も参考にしたらと言われる。
 掛水がパンダ誘致の元職員宅を訪ねるとそこの娘佐和にバケツの水をかけられ、けんもほろろに追い返される。しかし、名刺は置いてきた。
 総務部にいたアルバイトの明神多紀がパンダ誘致の職員とその内容を翌日にはまとめて掛水のところに持ってきた。それが縁で、多紀もおもてなし課に勤務することになった。
 作家の吉門が高知にやってきた。泊まるところはなんとパンダ誘致の元職員の清遠和政のところであった。なんと、義理の父だという。清遠は45歳で県庁を辞めた後、民宿をしていた。
 吉門と清遠も参加しておもてなし課の会議がもたれた。どうPRするか。「高知県は何もない。だが、光がある。」観光の光はひかりであることから、この言葉が出た。
 だんだん練っていくうちに、掛水と多紀の仲も接近して行った。清遠と吉門の関係も分かってくる。子どもあり同士で再婚し、離婚して妻が出て行った。妻の連れ子だった吉門もやがて出て行った。佐和は吉門を兄と慕っていた。
 ようやく、るるぶのようなPRの仕方をやろうということになった。その前に馬路村を訪れた掛水と多紀は案内板にやさしさを感じる。村全体が歓迎してくれていると感じた。多紀はトイレと案内板にお金をかけることを提案した。手作り感じのある観光地図の作成も考えた。徐々に盛り上がってきた。
1689 特命回収
Date: 2011-9-20

おすすめ度 ★★★★

  倉澤 遼 著  宝島社  発行:2009年11月


 商工ローン最大手のスーパーファンドSF社は、債権回収で急成長を遂げた。社長室長兼管理部長の倉澤は陣頭に立ち問題案件を次々と処理していく。9階の特別調査室は常に鍵がかかり、内線、外線からの連絡が遮断されている一角である。今週だけでも4回の徹夜をやった。もう過去二年分の残業代を請求すれば1000万円は楽に越える。
 支払いの滞りに、生命保険の解約返戻金の額を確認する。預金はしていないが生命保険の加入をしているものが多い。
 抵当物件の根抵当設定が抹消されていた。SF社からの9600万円の融資を受け、3ヵ月後の第1回の入金がなく調べたところ、すでに4回も転売されていた。最初の買った個人が2番目に買った不動産屋に知恵をつけられたに違いない。2番目の有田屋不動産に出向きどうやって抹消したか聞く。不動産屋は最初に4500万円を借り、3ヶ月前に8200万円を払って終わったという。SF社の実印を印鑑屋に頼み偽造した。それを使って債権者の抹消承諾書を作成したという。印鑑屋は150万円で請け負っていた。
 SF社の飛躍は金融機関の中小企業に対する貸し渋りだった。銀行はバブル後の不良債権回収に追われ、自己資金がやせ細っていた。ノンバンクのSF社は国からの認可を受けた民間の債権回収会社「サービサー」の許可申請を出した。1998年に誕生した制度である。大臣申請が決まった。SF社は全国に広がった。
 ところが仙台では日商工とSFの被害対策弁護団の初の全国大会が開催された。札幌では裁判は勝訴した。「スーパーファンドの悪辣さは司法の場で確認されている。弱者の財産収奪に血道をあげている」と弁護団の木下の言った言葉が倉澤の耳にこびりついていた。しかし、その後、弁護団事務長の和解金の使い込み、事務員への丸投げ、着手金をもらえば後は放置などで弁護団もたたかれた。
 そんな折、急速に資金調達力が悪化したSF社は突如破綻する。会長の資金隠し疑惑、2重3重の債権譲渡契約の発覚などがあげられた。
1688  黄金特急
Date: 2011-9-19

おすすめ度 ★★★★

  久間 十義 著  実業之日本社  発行:2011年8月

 デジキッズは1996年にインターネット作成などテクニカルサポートを主として創業した会社である。2000年には14億円以上を売り上げる企業となった。6月には株式公開をした。株価は9万8千円だった。社長の篤と副社長はひとつ年上で今年30歳の谷口だ。そこへ発足当時一緒に働いた水嶋かおりから上場を祝う花束が届けられた。会社の資金5千万円をかおりの父親から出してもらった。結局、かおりと篤の意見の対立から、離れていった。銀行から融資を受けてその金を返す。
 インターネット業界はソフトバンクの孫社長が2年前に株式公開していた。
デジキッズは出来るだけ安い料金でプロバイダを運営する目論見を持っていた。そこへ多嶋勝利のオリエンタル・デジコムがデジキッズと提携したいと申し入れてきた。オリエンタル・デジコムはモーゼ・ワンというゲームソフトの会社も吸収合併していた。
 デジキッズは提携を拒否し、オリエンタル・デジコムの株25%を買い占めたのである。
オリエンタル・デジコムの多嶋は歯軋りする思いだった。「窮鼠猫をかむ」である。
バブルの崩壊とオリエンタル・デジコムの株の急落であった。「デジキッズがオリエンタル・デジコムを買収する」「小が大を食う」と新聞各紙を賑やかした。次にデジキッズは太陽ラジオの筆頭株主に名乗りを上げた。太陽ラジオは太陽テレビの株55%を所有していた。寝耳水だったのが太陽ラジオと太陽テレビである。
 マネーゲームの一環と捉えることが出来ないかという篤に太陽テレビの鐘淵は「我々はマネーゲームで出来上がっている会社ではない」とにべもなく言う。
1687  ガラスのターゲット
Date: 2011-9-18

おすすめ度 ★★★★

  安萬 純一 著  東京創元社  発行:2011年7月

 3月27日世田谷のレストランで爆破事件が起こった。従業員5人とクラス会を開催していた20歳の男女14人が死んだ。
 足立区で爆弾マニアだった塾の講師小野田がアパートで過失死した。過酸化アセトンによるものだった。
 5月21日、八王子の白亜の別荘で女性ばかり5人が毒殺された。薬物は台所からヒ素系化合物が発見された。二十歳の女性ばかりだった。
 クラス会といい、この別荘の事件といい警察は同じものの犯行を疑った。
 そして、町田のマンションで男子ばかり3人が毒殺された。これも二十歳だった。
 クラスの中の誰かに復讐しようとしたものだろうか。
1686 緑の毒
Date: 2011-9-17

おすすめ度 ★★★★★

  桐野 夏生 著  角川書店  発行:2011年8月

 医師の川辺は妻のカオルが同僚の医師と不倫をしているという電話を受けて、町をさまよった。妻とはここ3年ほど夜の交渉はない。妻は救命救急センターで医師として働いていた。川辺はクリニックを友人と開業したが、現在は一人で無愛想な看護婦たちと開業している。
 妻は木曜日が休診日なので水曜は帰宅が遅い。川辺はマンションで女性が転寝しているのを見つけるとベランダから忍び込む。手にしたスタンガンで気絶させ、睡眠剤を注射し強姦した。すでに5度目のレイプであった。
 亜由美は実家に戻った。レイプされたことを家族には話せなかった。それでなくても3つ違いの姉が引きこもりになっている。姉に「象みたいに死ね」といってしまう。言ってしまってから「猫みたに死ね」だとおもった。どこかわからないところで死ねということだ。
 やくざのような格好をした男若宮伸吾には妹がいた。その妹がレイプされたと聞く。相手は医師のようだったという。スタンガンでやられ、注射を打たれた。妹は処女だったという。怒りを覚えた。妹の記憶にスニーカーと黒尽くめの服、医師のようだったという。
 モモカの部屋で寝ていた海老根は45歳。スーパーで働いていたが突如失業した。夜、男が忍び込んできた。いきなりスタンガンを押し付けられた。注射も打たれた。次に日の夕方起きると太ももに「お前じゃないが」「仕方がない」と両足に書かれていた。
 川辺の妻カオルは医師の玉木と不倫をしていたが、もともと女好きの玉木である。なぜか病院でうわさになっていたが、たまきに話すが一笑された。カオルは夫が黒いTシャツやズボンを洗濯籠に入れているのを見た。気をつけなくてはと思った。
 看護婦の栗原はセレネースという薬を使ったことがないのに医師の川辺から注文するといわれ怪訝に思う。
 亜由美は再びマンションに戻った。レイプされたことを匿名でネットで公開すると同じ悩みを持つ女性からコメントがあった。そして3人は会った。同じ手口だった。中野区弥生町、渋谷区本町、北新宿、区は違うが近い距離だった。看護婦の青山は川辺と同じクリニックに勤務していた。セレネースという薬についてうちでは使わないのに注文をしたと聞き、怪訝に思う。それを聞いて亜由美は川辺の妻の勤める救命救急センターを訪問する。
 そして、玉木とカオルのまで「川辺はスタンガンで脅しセレネースを注射して強姦するとんでもない男だ」と話す。反論できないカオル。そして「クリニックに行って確かめた」とも。カオルは夜、川辺に「別れたい」と「レイプされたという女性が訪ねて来た」告げる。
 川辺は外に出るとやくざ風の男に「妹をレイプしたな。ただじゃあ済ませない」とすごまれる。ネットでは川辺の車のナンバーと顔写真が、実況中継されていた。妻の病院まで行くが玉木は非番だった。ずっとやくざ風の男がつけていた。そして川辺はとび蹴りを食って倒れる。
1685  はぐれ猿は熱帯雨林で夢を見るか
Date: 2011-9-14

おすすめ度 ★★★★

  篠田 節子 著  文芸春秋  発行:2011年7月

  「はぐれ猿は、熱帯雨林の夢を見るのか」では、
藍子はファミレスもない地元の零細な工場の事務員となって2年になる。少し前までは取引先の技術者に事務所の一部を貸していた。特許に絡むとかで詳しいことは聞かされていないが、昼の注文をとるときだけ口を利く程度だった金森さんもその一人だった。ところが、金森さんたちは突然引き上げてしまった。
金森さんの机を掃除した。携帯ストラップのようなものが机に入っていた。バレンタインの日にチョコレートをあげた金森さんがお返しにくれたのだろう。藍子はポケットにしまった。
社長夫婦と定年間近の総務部長の殺風景な事務所になってしまった。夜、家に帰っても一人暮らしの藍子。モーター音がして家の回りを探してみるがわからない。ところが、部屋に戻るとラジコンカーのようなものが動いて、藍子のスカートの中をカメラで撮ったような気がした。逃げても追ってくる。110番すると巡査がやってきたが、そのときにはラジコンカーはなくなっていた。
 次の日もラジコンカーが音をさせていた。社長に話すとラジコンを遮断するものを貸してくれた。しかし、ラジコンは一時はひるむものの、またしても寄ってこようとする。
 外に出た。実家に駆け込む。翌日、社長にまた話すと、ラジコンカーはロボットではないかという。夜、ラジコンカーは藍子に近づいてくる。気を失った。そして気がついたら、まだラジコンカーはいた。外へ逃げる。宅配のトラックに乗せてもらおうとするがとまってくれない。次にやってきた車が止まったが、人気のないところに連れられ襲われそうになる。そのとき、あのラジコンカーが車のフロントガラスに張り付いた。男は驚く。その隙に藍子は逃げた。携帯で社長に電話した。真夜中ということもあったが助けに来てくれた。後日、金森さんがそれを取りに来た。猿の形態を知能として装備したロボットだった。
携帯ストラップと思っていたのはラジコンを動かすICチップだったのだ。

他に、「深海のEEL「豚と人骨」「エデン」を収録。
1684 共鳴
Date: 2011-9-10

おすすめ度 ★★★★

  堂場 瞬一 著  中央公論新社  発行:2011年7月

引きこもりになった将は21歳。父親から送金を受けてワンルームマンションに暮している。ある日、いきなり祖父に拉致されるように小田原に連れてこられた。将の父親の実家だ。祖母も亡くなり、今は祖父一人で暮している。将の母は祖母が亡くなる前に離婚していた。
 祖父は刑事を定年で辞めた後、地域の防犯係をしていた。中華屋のおばさんは店に雇った女の子がおかしいという。毎夜、男が訪ねてくるという。祖父の和馬は中華屋に頼まれて相手を調べることになった。将も無理に手伝わされる。女の子麗華を訪ねてくるのは中国人の王亮で、薬物の売人だという。
 近くのスタンドで三原という18歳の青年がいなくなった。和馬が訪ねると部屋は片付いていたが部屋に覚せい剤があった。 麗華と三原と一緒らしいことが分かる。
 近くで葬式があった。将も祖父の背広を借りて手伝う。そこの孫息子健太が亡くなった祖母は父親が殺したのではないかと和馬に相談に来た。
 将も祖母を父親が殺したかもしれないと思っていた。いつもはしない長い間病室にいたことを疑問に思っていた。
 三原が荷物を取りに戻ったのを機に、将と和馬が捕まえる。麗華と別かれるべきだと諭す。
 健太は家族が寝静まった時間に将と物置の祖母が使っていた酸素濃縮機を調べようとする。が、健太の父親に見つかる。健太の父親は祖母が殺してくれてと頼んだのだという。
健太の父親は警察に行くが逮捕はされないですんだ。和馬は将が父親のことを疑っているのならそれは間違いだ、娘の死は殺人ではない病死だと伝える。そして、直に父親にぶつかるように言う。
1683 チヨ子
Date: 2011-9-7

おすすめ度 ★★★★

  宮部 みゆき 著  光文社文庫  発行:2011年7月

 「チヨ子」では、ピンクのうさぎの着ぐるみを着るアルバイトに付いた。5年前に着たまま倉庫の眠っていたものである。手伝ってもらってやっと着用する。すると見えないものが見えてきた。白いウサギのぬいぐるみだ。チヨ子だ。6歳のときに大切にしていたものだ。手のところがパンヤがのぞいてほつれていた。小学校5、6年のころまで自分の部屋においていた。休憩時間に接着剤でパンヤのはみ出たところを直した。
 店長はガンダムが好きだろう。着ぐるみをきているとみんながぬいぐるみやキャラクターに見えてきた。一人だけ普通に見える男の子がいた。その子の後姿に黒い影があった。万引きをした少年が捕まった。あの男の子だった。
 母親に電話した。チヨ子がまだ物置にあるという。なぜか接着剤で手のところが補修してあったという。
 このウサギの着ぐるみ悪い人が見わけることができる。ふしぎだった。高い日給よりもよいものをもらったような気がした。
 「雪娘」では、小学校6年生のとき、雪子がもどらなかった。メーター検査場の傍の吹き溜まりで雪かきをしていた人に発見された。首に赤いマフラーが巻きついていた。殺されたのだ。
 廃校になるから集まろうといつも一緒だった4人が集まることになった。20年ぶりにあった4人。雪子を入れていつも5人だったのに。スキジは雪子の両親が霊能者に頼んだりして犯人を捜しているのをみて、あまりに気の毒で「ぼくがやった」といいそうになったという。
 そう、私が雪子を殺したのだ。私、前田ゆかりはマエちゃんと呼ばれていた。スキジと並んで帰るところが憎らしかった。スキジが雪子には真っ先に駆けつけるところも憎らしかった。いつも雪子と一緒にいた私は、優等生の顔を保っていれば誰にも疑われなかった。スキジは気がついていたのだろうか。20年間黙っていてくれたのだろうか。
 全5篇の短編。
1682  化合
Date: 2011-9-5

おすすめ度 ★★★★

  今野 敏 著  講談社  発行:2011年7月

 板橋区西台の西台公園で殺しがあった。被害者は麻布に住む32歳の男性生田忠幸で、第一発見者は田代裕一という35歳の不動産業者。田代の住所は渋谷区神宮前だった。
刑事の菊川は、いつも組んでいる6、7歳年上の警部補三枝とその事件を無線で聞く。午前3時15分ごろだった。現着は4時半。第一発見者の田代は六本木のホステスをこの近くまで送ってきたという。板橋署で50人体制の捜査本部が設けられた。
 第一発見者は黒っぽい背広を着ていた男とあったという。
 生田がシティー金融から借金をしていたことを突き止める。このところ支払いも滞っていたという。生田が「ソレイユ」のミミという女性を気に入っていたこと。ミミは西台に自宅があった。津久井美香という。アフターに誘われたが午前二時半ごろ別かれたという。生田は美香に店から西台までのタクシー代と西台から神宮前までのタクシー代を二万円、三万円と借りていた。これまでで合計30万円ぐらい美香が貸したという。おまけに美香を脅していたという。怖くなって美香は田代に相談していた。
 美香は、田代が包丁を持って生田に会いに行くところを尾行した。もみ合っていた。生田が倒れ、田代が逃げた。このチャンスを逃したらまた生田に付きまとわれると美香はとっさに生田を刺した。
1681  往復書簡
Date: 2011-9-1

おすすめ度 ★★★★

  湊 かなえ 著  幻冬舎  発行:2010年9月

 「十年後の卒業文集」では、山崎静香が悦子にあてた手紙で、山に登ったとき、自分の蹴った石がちーちゃんに当たり、ちーちゃんはバランスを崩して顔から転んだと告白する。それに対して悦子は静香に前方を行く千秋に腹を立てて転ばせようと石を蹴ったとしてもとても難しいことだと思う。あれは事故だと思う。転べと思って転んだと思うことは驕りだ。と返信する。浩一はちーちゃんと別かれた後、5年後静香と結婚した。千秋は二人の結婚式に出席したあと、あのころ、早い段階で浩一君とあわないと感じていたと静香に手紙を出す。
「二十年後の宿題」では、38年間の教員生活を終え、退職祝いをくれた大場に宛てた教師の竹沢真智子は6人の気になる子どものことを思った。6人とはピクニックに行き川に落ちた子どもを救おうと真智子の旦那さんが川に入った。旦那さんは泳げなかった。子どもは命を取り留めたが、旦那さんは死んだ。先生の結婚生活は7年だった。6人全員が幸せになっていると報告できるよう、6人の消息を知りたかった。大場は6人のうちの一人、藤井利恵が自分の彼女の山野梨恵であることを知った。そして、大場から結婚を申し込まれた梨恵は本当はうれしい気持ちを隠しながら竹沢に「こんな私が結婚してもいいのでしょうか」と手紙を書く。同情ではなくあの事故のことを知ってもらう方法はないかとも書いてあった。
他に「十五年目の補習」がある。
1680 コラプティオ
Date: 2011-8-30

おすすめ度 ★★★★

  真山 仁 著  文芸春秋  発行:2011年7月

 2001年の春、白石望は演説する男をみた。約束を破るやつほど饒舌だと思いながら目の前の男の言葉にうなずいていた。男は「政治とは約束だ。希望がかなう社会を作り上げる、それが私の約束だ」といった。
 同じところで神林裕太も聞いていた。「言葉とは力だ」と男が言う。祖父が県会議員をしていたことから政治家がどんなものか知っていたが、目の前の男は違っていた。
 男は宮藤で慶応義塾大学卒業後、米国ハーバード大学でMBAを取得し、ニューヨークで投資家として働いていた。実家は松本市の町医者でそこの次男だった。今回衆議院議員に当選した。彼には偉ぶった雰囲気がなかった。
 10年後、宮藤隼人は内閣総理大臣になり、白石は宮藤の政策秘書となっていた。神林は暁光新聞社に勤務していた。スクープを発表した。それは国が倒産しかけているサクラ電機の国有化決定の情報をつかんだ。
 官邸ではそのニュースの対応に追われた。3月11日東北地方に大震災と福島第一原発事故が発生していた。サクラ電機の傘下に在る原子力発電メーカー最大手のウィルバー・コムを狙っていたのだ。
 宮藤は高い支持率を維持していた。総理になって1年。それでも70%の支持率を保っていた。宮藤は原発の事故の発生第一報を聞くと福島県入りし県庁に泊り込んでいた。
 震災後3年たっても日本経済は停滞を続けていた。脱原発はできずとも糸口だけは捕まえるにいたった。しかし、産業復興のために原子力に頼らざるを得ない現実があった。「徹底した安全性を追及した原子力発電を創り上げなければならない」と宮藤は演説した。「人類が再び原子力発電による文明の発展と維持を選択しなければならないのであれば、私たちは逃げてはならない」とも。
 ウラン鉱脈欲しさにアフリカ西部のウエステリアに飛んだ。
「宮藤政権がウエステリアのクーデターを支援した」と外国メディアが報じた。裕太も独自に宮藤総理がアリ大統領に賄賂を渡したという疑惑を追っていた。
1679 ソルハ
Date: 2011-8-23

おすすめ度 ★★★★

  帚木 蓬生 著  あかね書房  発行:2010年4月

 ソルハとはアフガニスタン・ダリ語で平和を意味する。
 アフガニスタンに住むビビは5歳の女の子。母親とカブールの町に行ったとき、青い宝石を見た。それはツタンカーメン王の目になった石だという。青い光を放っていた。
 小学校に入ったビビはバラ先生に教えてもらう。英語とアラビア語が共通語だが、ダリ語でもパシュトゥ語でもよかった。学校は毎日楽しかった。ところが、ビビが9歳になったとき、学校で爆弾が破裂し級友が亡くなる。タリバンが元大統領とその弟を処刑した。そして男性は皆、タリバンの若者と同じようにあごひげを生やし、女性は全員ブルカをかぶらないといけない上に、外出するときは家族か親戚の男性と一緒でなければならなくなった。男性はターバンを頭に巻くこと。歌も踊りも凧揚げもギャンブルも、本を書くことも映画を見ることもインコを飼うことも禁止された。女性は化粧の禁止、学校へ行ってはいけない。女性は働いてはいけない。公共の場で笑ってもいけない。どんなときも顔を見せてはいけないということになった。
 ビビには父と母のほか兄と姉がいた。ある日、父がつかまるが面会のたびに叔父が警官に何か渡し、意外に早く出所できた。父は悪いことは何もしていなかったのに。
 ビビは姉に勉強を教えてもらいながら、勉強を忘れないようにした。母がバイクに乗った男に撃たれて死んだ。
 叔父さんの車でバーミヤンに行った。55メートルの石像は鼻の上がすっぽりと切り取られ、耳と口だけは残っていた。両手ももぎ取られ、足も傷ついていた。タリバン兵が壊したのだという。タリバン兵は、女、子供、老人に関係なく全員の殺戮を繰り返していた。
 ビビが12歳のとき、兄は大学に行かないで軍隊に入ると言い出した。タリバン兵と戦うのだという。
 アメリカ軍の爆撃が始まって、タリバン兵が逃げていき、2002年の1月から学校は再開された。9歳のときから6年間、ビビは学校へ行っていなかった。15歳になった今、小学校高学年生として勉強を始められた。バラ先生がまた教えてくれた。
 兄も軍隊から戻ってきた。外出もできるようになり、平和が戻ってきました。
1678 覚悟の眼
Date: 2011-8-21

おすすめ度 ★★★

  萩 耿介 著  日本経済新聞社  発行:2011年7月

 昭和8年2月、りつは三原山の火口に近づいていった。淑子と一緒だった。でも、ここにいてはいけないとりつは引き返す。目を閉じると末期の淑子の顔が思い浮かぶ。きれいだと思った。
 帰り道、気を失ったりつは男に助けられたが、男が連絡した駐在さんもやってきた。そしてりつが二人で三原山を目指したころを知っていた。「お前が突き落としたのではないか」と問い詰められる。りつは、淑子の前に、佳代の自殺にも付き合っていたのだった。
 佳代も三原山でりつとともにやってきて、火口に向かって歩き始めていた。りつがとめるのも聞かずに火口に向かって走った。佳代の彼氏が大陸で亡くなったことを知っていたかもしれない。
 新聞にはりつは「死の案内人」とされた。二人の自殺に付き添ったのだ。
佳代は学園の教師倉本透が好きだった。倉本も佳代に一目ぼれだといった。りつはそのことを知っていた。淑子も倉本を知っていたが、倉本は淑子の家が会社をやっていることを知り、金の無心をしてきた。倉本は生活援助を申し出ているという感覚でしかない。淑子の母にまで無心していく。倉本は淑子には邪険な物言いをする。淑子は思い切って「もう不愉快だ。二度とこないなら金を出す」という。
 りつは、淑子の自由奔放な生き方に目を丸くする。
その淑子が人間から離れるために死ぬという。
 1986年、りつは社長になっていた。孫ぐらいの年齢の若い女秘書と大島へ行く。
大東亜戦争の前にこの大島へ来たと秘書に言った。秘書はこの火口であの時代に900人もの人が身を投じて自殺したという。淑子と佳代が身を投じた火口へ向かっている。今なら「死んではいけなかった」と言える。が足は動かなかった。これ以上歩く必要がないのだ。末期の眼、それは美しさより尊さを感じた。
1677 やめられない ギャンブル地獄からの生還
Date: 2011-8-19

おすすめ度 ★★★

  帚木 蓬生 著  集英社  発行:2010年9月

 ギャンブル地獄から抜けられない。やめられないと思っているが、治療によってやめられるのである。
 ギャンブル地獄に陥る人の多くは、やめようとしてもやめられない。ギャンブルの問題を隠そうと家族や知人にうそをつく。いつもギャンブルのことばかり考えている。仕事や学業がおろそかになる。ギャンブルで作った借金を他人に肩代わりしてもらっている。ギャンブルをしないとイライラする。などがあげられる。借金とうそが二大症状で、本人はケロリとしているのに周りの家族は心労から病気になってしまう。
 借金の尻拭いをしたり、説教してもぬかに釘です。何の役にも立ちません。ギャンブル依存症は若年化し、男女を問いません。こうした人に利く薬はありません。借金の尻拭いは絶対にしないことです。
 唯一、自助グループという同じギャンブル依存症の者たちが作るグループが、週1回集まって「ギャンブルをやめて、どういうよいことがあったか」を話し合います。それと、月1回の通院が必要です。ギャンブル地獄に陥った人は、見ざる、言わざる、聞かざるの状態で、説教は受け付けません。自助グループにこうあらねばならないというものはありません。形式も内容も自由です。ただ、日本にはこの自助グループは数が少ないのが現状です。精神病院か保健福祉センターなどに問い合わせるのがひとつの手立てです。
ギャンブル地獄に陥った人も今の状態でいいとは思っていません。会合に参加すると少しずつ変わっていきます。週に1回出席することを続けます。欠席が続くと元のギャンブル地獄に舞い戻ってしまいます。
 自分たちがギャンブルに対して無力であり、思い通りに生きていけないことを認めるようになり、自分に対して過ちの本質を認めるようになり、自分たちの意思と生き方を自分なりに理解した力の配慮にゆだねる決心をするようになる。人とのかかわりで自分を変えようと動くようになる。
 ギャンブルをやめてから、生活や行動はどう変化したか、よいか、悪いか、驚いたか。ということを話し合ってみる。
 その日、その日をやっと生きていては、思いやり、謙虚、寛容、正直という気持ちとは裏腹になっていきます。
1676 鬼畜の家
Date: 2011-8-17

おすすめ度 ★★★★★

  深木 章子(みきあきこ) 著  原書房  発行:2011年5月

 由紀名の母親の郁江と兄の秀一郎が夜、車で外出し行方不明になった。車は神奈川県の海岸の崖から落ちたで発見された。母と兄の二人の遺体は見つからなかった。探偵の榊原は、元警察官である。由紀名の知人を通して頼まれた榊原は、保険会社がなぜ二人にかけた保険金一億円を支払わないのか調べていた。
 調べていくと由紀名の家族は変わっていた。開業医であった父親は由紀名が5歳のときにくも膜下出血で急死した。母親は元は看護婦で長男秀一郎を身ごもったことから身分違いと父親の両親が猛反対したが子供を縦に結婚した。子供は秀一郎、亜矢名、由紀名と3人もうけた。ところが41歳で夫が死亡するとあちこちに借金があり、一家は親戚を頼って一時茨城に引っ越すが、一番下の由紀名はその親戚に引き取られ、母親はこども二人を連れて東京に越した。由紀名はやがて引き取られた菱沼家の幼女になった。小学校へ行き始めると突然家が火事になり、養父母が亡くなり、由紀名は再び母親に引き取られる。菱沼の財産は由紀名の相続になり、屋敷のあったところや田畑は売り払われた。
 秀一郎は高校になると学校へ行かなくなり、引きこもるようになった。由紀名は火事の後遺症か暗い子で口もろくに利けなくなった。当然学校へも行かなくなった。まともなのは亜矢名だけであった。亜矢名は利発で勉強もできた。私大の理工学部に入学も決まった。ところが、引っ越した5階のマンションのベランダから転落し死亡した。母親は家主の老婆を責めて1億円の示談金を受け取った。ベランダの手すりが壊れていたらしい。
 一家は神奈川県の林の中の別荘を買って住み始める。母親と兄が夜、車でよくドライブに出かけていたようだ。そして、ふたりはそのまま行方不明になった。由紀名は再び養護施設に引き取られるが、18歳をすぎ、心の重荷だった母親がいなくなった事で明るくなったのか、一人で暮せると元いた新宿区のアパートに引っ越していった。
 榊原がいろんな人から聞いたところ、秀一郎は母親の操り人形で、中学生になっても一緒にベッドで寝ていたようだ。母親は金に執着し、亜矢名には普通に接するものの、由紀名には冷たかったようだ。由紀名は精神を病んでいたというが、榊原が会ってみると普通の女性であった。由紀名は養父から小学校に上がる前から性的な虐待を受けていたこともつかむ。
 ところが、調べるうちにもっとすごい驚愕の事実がわかる。神奈川の別荘で飼われていたシェパードに与えていたものとは・・・。死んだはずの亜矢名は実は生きていた。
1675 真夏の方程式
Date: 2011-8-15

おすすめ度 ★★★★★

  東野 圭吾 著  文芸春秋  発行:2011年6月

 客の一人が玻璃ケ浦海岸の岩場に落ちて死んだ。客は塚原という元刑事で近くにある別荘の仙波の家を覗いていたという。昨日、この宿に来たのは、主の甥の恭平(小学5年)と偶然一緒の電車だった湯川という大学準教授と死んだ元刑事だけだった。
 客は夜出かけたまま帰らなかった。その時間、湯川は女将さんと居酒屋へ、恭平は叔父さんと花火をした。やってきた玻璃警察署の西口刑事はこの宿、緑岩荘女将の成美と同級生だった。
 元刑事塚原は埼玉県鳩ヶ谷市に住んでいた。刑事は鳩ヶ谷市の塚原宅へ事件の手がかりを求めて出向くが刑事を辞めた後は仕事のものは皆処分していた。
 塚原が訪ねた仙波のことを調べた。仙波英俊は16年前に三宅伸子という元ホステスと飲んだ後、刺し殺してしまった。出所後は廃品回収の仕事やホームレスし、身体を悪くしていた。刑事の塚原が仙波を探し出し入院させた。塚原は仙波の殺しの事件の真相を聞いた。誰かをかばっているという思いがずっとしていたからだ。塚原は最後に口にした。娘をかばって身代わりで捕まったことを。
 塚原はずっと会いたがっていた娘に仙波の思いを伝えたくて玻璃ケ浦に来たのだった。ところが、宿で一酸化炭素中毒で死んだ。そして何者かに海岸まで運ばれた。
 湯川は警察が厨房やボイラー室などを調べたが異常はなかったことを耳にした。湯川は恭平から屋上に煙突があるということを聞いた。下からでは見えない。湯川はこの事件は簡単にいかないだろうと思った。


1674  蠅の帝国 軍医たちの黙示録
Date: 2011-8-11

おすすめ度 ★★★★

  帚木 蓬生 著  新潮社  発行:2011年7月

 15編の短編。手記のように書かれた戦争時の軍医の姿である。
「蠅の街」では、
8月15日を境に各紙面が一変した。広島、長崎に落とされた新型爆弾は原子爆弾だと報じるようになった。8月31日、京都帝国大学医学部を卒業したばかりの私はS教授から広島行きを命ぜられた。
 牛田駐在所の巡査部長は、やけどを負った大勢人々が道端や田畑に倒れ、屍になっていった。明けてもくれても屍を焼く仕事に追われたという。この牛田に臨床班、病理班などが集結し13名で治療に当たった。死体を解剖するとのどの奥まで黒い苔が厚く連なっていた。肺も腎臓も出血で彩られていた。脾臓や卵巣は小さく萎縮していた。
 街の中に出てみる。前を歩く汚れたシャツの背に蠅で真っ黒になっていた。自分の肩にも何度払っても蠅はたかったままだった。町を歩くと死臭がする。死体を動かすと誰かわからなくなってしまう。確認された遺体は遺棄場に運ばれるが、一家が全滅したところでは確認するものがいない。死体はそのまま放置されている。蠅が群がってくる。蠅はまだ生きているものにも卵を産み付けていく。それがウジになって人間を痛がらせる。
 川を埋め尽くした死体はなぜか、皆上を向いていた。9月17日にはほとんどのものが亡くなり、毎日出ていた死者もこのところはなく、軽症者のみになった。
 病理解剖標本とデータをできるだけもち、9月23日船便で岐路に着いた。

1673 刑事の骨
Date: 2011-8-7

おすすめ度 ★★★★

  永瀬 隼介 著  文芸春秋  発行:2011年6月

田村保一は巡回中に公衆電話をかけている男に出会った。若い30前、男・・。どこかがおかしい。受話器の中から「身柄を押さえろ、それが犯人だ」と聞こえた。電話の相手は同期の不破孝作だ。「ホイチ捕まえろ、そいつを射殺してもかまわない。ぶち殺せ!」と。
 保一は犯人を取り逃がしてしまう。このときの不破の言動が後々問題となり、不破は2週間の休職扱いとなった。まだ44歳である。保一はいつも不破に助けられながらなんとか警察を勤めてきた。不破は出世コースをはしり、早くに刑事になっていた。
 子供が殺されて耳の裏に十字架が刻まれている。4人目の犠牲者が出た。やりきれない。犠牲になったのは、2歳から4歳までのこどもたちだ。
 17年後、保一は自殺した。保一の残したノートから当時17歳だった男を捜査していた。男は栃尾で、保一の自殺した現場で会っていた。保一は自殺ではなく、こいつに投げ捨てられたのだ。
 不破は栃尾と対峙する。逃げる栃尾は途中で非常階段から落下して死ぬ。しかし、本当の犯人は現職の警官で2人の幼児を殺していた。それを利用としようとした刑事も。
 不破は当時の捜査本部の漏洩と報道局の裏取引をしる。下嶋に銃を向け不破は撃つ。法廷で全部をぶちまけてやる。警察も報道も腐っている。
1672 天の方舟
Date: 2011-8-5

おすすめ度 ★★★★

  服部 真澄 著  講談社  発行:2011年7月

 四畳半一間に住み、夜はキャバ嬢として働いた。京大農学部に在学中の七波は、友人の学生証を借りてアヤカという名で勤めていた。実家は東京と偽りながらも実家の新潟に月十万円を送金していた。実家は牧場や農場を営んでいるが、父の入院、借金を繰り返し、当面25万円が必要という。奨学金の返済もある。店で耳にした億単位の金を動かすことのできる仕事に興味を持った七波は、日本五本木コンサルタンツという会社に入った。相手国の政府から日本政府に支援の要請が入る。JICAを通じて競争入札が行われる。
 タンザニアに水田を作るプロジェクトを見た。トウモロコシ畑を壊し、ブルトーザで水田に変える。といっても、水が全体にいきわたるとは限らない。せいぜい3割程度がいいところだ。結局、もとのトウモロコシ畑になるだろう。国の意向は絶対だった。
 そこへまたしても実家が借りた金を金貸業者から督促が届いた。今度は60万である。別の業者にも30万の借りがあると母が言う。七波は名栗建設の宮里一樹に100万円の借金を申し込む。裏金が動いていると教えてくれた相手である。出世払いで借りた。
 川和田美里にゴフルクラブを譲られる。ゴルフも仕事のうちといわれ、七波は覚えた。
七波はナイジェリアに行く。次がベトナムだった。ベトナムでは宮里から3000万円の持ち出しを要求される。ラミネートに包み香港の空港を難なく通り抜けられた。
 日本人が海外の外国公務員に贈った金品も贈賄の罪になることになった。七波がホーチミンに来て11年がたっていた。ペーパーカンバニーの架空の現地コンサルを取るということに七波は誘惑された。
 2008年、ベトナム建築史上最悪というソンバック橋梁崩落事故が起こった。死者は62人。メディアも大々的に取り上げた。2千万円で146人の保障ができてしまった。事故原因は地盤が1本の支柱分だけが緩かったという。設計ミスは問われなかった。
 2009年、帰国した七波は当初の打つあわせどおり逮捕される。しかし、執行は猶予されて病院で女児を産んだ。任意捜査を受けながら起訴を待った。
 ところが、ベビーカーを押している七波はベトナム人と思われる男に刺される。
1671 棟据刑事の代行人
Date: 2011-8-2

おすすめ度 ★★★★

  森村 誠一 著  中央公論新社  発行:2011年6月

  新郎の島崎賢一が式の始まる時間になっても来ない。やむなく親族の依頼により披露宴一切の手配を代行している降矢に新郎役を頼まれた。新婦志織は「毎日クリエイツ」という雑誌の記者である。
 降矢は亡くなった妻に似た志織にまんざらでもないが、新郎に代わっての誓いの言葉まで代行としてやり遂げた。披露宴も続けて代行となった。
 新郎の捜索願が提出された。賢一のかわいがっていた猫も行方不明になっていた。新郎や飼い猫の行方を捜すのは自分の仕事ではないと思いながら降矢は気になっていた。
 ところが、新婦の末広家から降矢に正式に結婚を申し込まれたのである。降矢は仰天した。
志織が何者かに車で引かれそうになった。気配を感じてとっさによけ難を逃れた。猫を探していたところ、猫は正命教の加倉井という教主であったことがわかった。この正命教は連続老女襲撃事件の犯人と関連性があるように思われた。
その後も、志織はトイレで何者かに襲われかけたが降矢に救われた。志織らは研修とそうして敵をおびき寄せることを考えた。研修に使われたバスがハイジャックされる。降矢はこれをカメラに収めていた。ところが相手はバスジャック犯は降矢たちだと自分たちは被害者だと言ってきた。
棟据も動き出す。降矢の妻瑠璃は志織に間違えられて殺されたのではないかと思い始めた。
志織の花婿になるはずだった島崎は正命教の運転手をしていた。直前に接触事故を起こし、被害者を山中に埋めた島崎は、何らかの形で処分を受けたのであろう。
棟据らの捜査により正命教は捜査され、敷地内から賢一の遺体と十数匹の猫の骨が発見された。
降矢の妻瑠璃は猫斬り魔の写真を愛猫の遺骨の中に隠していた。それが、解決への糸口となった。
1670 檻の中の鼓動
Date: 2011-7-31

おすすめ度 ★★★★

  末浦 広海 著  中央公論新社  発行:2011年6月

 荒川沿いの埼玉県南部や23区北部を縄張りとした暴力団組織、関東勇和会の構成員がやっているデリヘルチーム率いている蘭子は、元は警察官だった。
 アキナが部屋に入って1時間もたたないのに、「子どもが生まれた」と連絡してきた。予定日よりも1ヶ月早い。客は金を払い出て行ったという。救急車を呼べない事情がある。蘭子はすぐ知り合いの産婦人科医に連絡を取った。
 刑事はラブホテルから電話があり、駆けつけるが、血痕や胎盤はあるものの、妊婦も赤ん坊もすでにいなかった。ところが、この部屋から出た指紋は、7年前に高麗川駅近くの公衆トイレで生まれたままの嬰児が発見された事件の母親とDNAが一致した。生み捨てた母親が今度はラブホテルで出産だ。7年前、嬰児は奇跡的に見つけた警官によって一命を取り留めた。
 蘭子が警察を辞めたのは3年前で死体遺棄。流産をした子供を冷蔵庫の入れていたのがバレた。27歳のときだ。警察を辞めた。今は不良先輩の紹介でデリヘルの運転手権監視役をしている。
 7年前に生み捨てられた子どもは、子どもが欲しくて不妊治療を繰り返していた刑事の子となっていた。その刑事濱川は、捜査の段階で生んだのが高校生の寺井理沙であることを知った。しかし、署には報告せず、直接理沙に会い保護された子どもを育てたいと申し出た。そして、濱川はその後、刑事を辞め警備会社に就職した。こどもは夫婦にかわいがられた。しかし、この5月新しい自転車で遊んでいる時、誤って転倒し道路に後頭部を強打し亡くなってしまった。そして母親も子を亡くした事で半狂乱になり自宅で縊死した。
 理沙は警察にも見つけられないまま、当時付き合っていた俊也と一度は分かれたものの、大学2年のとき、再び付き合い始めた。7年前、理沙は母を失い、自暴になっていた父に犯され産んだ子を遺棄したのだった。その後、父も自責の念で自殺する。
 理沙は大学を卒業後、俊也と結婚をした。理沙はつい最近、何者かに脅され、このデリヘルで仕事をするようになった。俊也は海外出張中だという。デリヘルでは理沙に1円も渡すことなく、巻き上げられていた。
1669 宮本武蔵とは何者だったのか
Date: 2011-7-25

おすすめ度 ★★★★

  久保 三千雄 著  新潮社  発行:1998年6月

 武蔵の祖父平田将監は、美作国の小房城主新免則重の家老職を務めた。則重から3代数えた貞重は竹山城を築いた。
 武蔵の父は平田(新免)武仁は則重から数えて4代目の新免宗貞の家老職を務めた。武仁の妻は城主宗貞の娘政であった。政は短命ですぐ、作用郡平福町の利神城別所の娘率子が後妻に入った。武蔵は政か、率子の子かはっきりしない。
武蔵は関が原の合戦に西軍として参加したとあるが、これもはっきりしない。
 武蔵没後9年に養子宮本伊織が小倉の手向山に建てた武蔵碑も、碑文を撰したのは細川家菩提の寺の和尚であった。
 吉川英治は武蔵として残されたもので事実と思えるのは6、70行に過ぎないという。
吉川の宮本武蔵は17歳の関が原合戦に始まり、29歳のとき、小次郎との対決であるが、フィクションであるがあたかも史実がごとくに読者が取り違えている。
 五輪書には生国播磨とはっきり書いてあるが、吉川は美作説を取り上げた。今では、天正12年(1584年)美作国吉野郡讃甘村宮本に生まれたのが通説になっている。
 播磨鑑には播磨国揖東郡鵤之庄宮本村とある。また播磨国印南郡河南庄米田村を唱える説もある。
 五輪書さえ武蔵が書いたのではないとされる意見もある。
 武蔵は62歳の天保2年(1645年)熊本城下の居宅で死去し、遺言により甲冑にまとわれて納棺され阿蘇の噴煙が見られる肥後国飽田郡弓削村に葬られたという。美作にも墓地があるが、後に伊織が分骨したというが、火葬ではないので疑わしい。
 武蔵は生涯対決したのは五輪書によれば60余度とあるが、対決は18回、うち二刀流を使ったのは1回だけだった。
1668 月は怒らない
Date: 2011-7-20

おすすめ度 ★★★★

  垣根 涼介 著  集英社  発行:2011年6月

 戸籍課の窓口の女性、それが恭子だった。肌の白い頭の小ぶりの頬の細い女だった。なぜか梶原はひきつけられた。役所は5時に終わるだろうからと職員の出入り口で待っていた。そして、5分だけの立ち話でもいいからと声をかけた。「警察を呼びますよ」といわれたが「覚悟の上で声をかけた」といった。「寝たいのですか、私と」「単にセックスをするためならストーカーまがいことをする必要はない」お茶だけという約束でデニーズに入った。
 週に2回、恭子の部屋を訪ねる。金を受け取らないから食費として週に5千円ようやく受け取ってもらえるようになった。梶原は金融業の後始末のような仕事をしていた。払えなくなった男はマグロ漁船に、女はお決まりの水商売に。しかし、その仕事も最近やめた。
 30歳の梶原は小さいころに父親と別れた。母親が働いて市営住宅に暮したが、火事のできない女だった。中学生になった梶原に、売春婦の息子という声が聞かれた。
 25歳の恭子とは会話が途切れても気にならない、気兼ねのない時間がすごせた。どちらかというと弟を扱うように、台所で食事を作ってくれた。
 34歳の警官和田も、今日と知り合って心の安らぎを覚えた一人だ。妻がいるが、家庭は破綻していた。恭子とはただ話すだけの関係だった。
 もう一人、恭子には20歳の弘樹という子がアパートに訪ねて来ていた。その恭子から先日関係を終わりにしたいと告げられた弘樹は、恭子の男に嫉妬した。恭子の部屋から持ってきたナイフ。
 弘樹は梶原と対峙する。梶原は恭子は自分のものだと言い放った。和田も恭子から別れを告げられた。偶然、遭遇した梶原と弘樹の対話から、自分の付き合っていた恭子だと知る。梶原の人柄に恭子を幸せにするとは思えなかった。梶原に職務質問をする。
 後日、弘樹は梶原を狙ってきた。誤って恭子を刺してしまう。事件にしたくない恭子は梶原をとめる。
 病室で恭子は梶原が自分との生活を真剣に考えてくれていることを知る。

1667 この女
Date: 2011-7-12

おすすめ度 ★★★★

  森 絵都 著  筑摩書房  発行:2011年5月

 神戸大学の学生の大輔に頼まれて小説を書くことになった礼司は、依頼主の社長のところに行く。ウエストホテル社長の二谷は、自分の女房のことを小説に書いてほしいという。二谷の妻結子は派手な服装でファッションセンスはちぐはぐであったが、人の目は引く女性であった。黄色のドレスに紫のパンプスを履いて胸にスパンコールが輝いている。幾重にも塗られた化粧顔であった。
 礼司は釜が崎に住む住所不定者であった。大輔のゼミの課題を礼司が手伝ったことで、ゼミの教授はその出来栄えが大輔の書いたものでないことを見抜いた。教授は二谷から奥さんの小説を書いてくれるものを探していた。礼司に白羽の矢が立ったのだった。礼金は300万、前金で100万円受け取った。
 礼司は早速1泊3千円のホテルに移り、借りたワープロを持ち込んで準備した。礼司はモデルとなる二谷の妻の結子に呼ばれる。結子は二谷の経営するホテルにも自宅にも住まず、三宮のホテルに住んでいた。しかもホテルの一番小さい部屋で。
 結子の話は次の日は、まったく前日とは違う話をする。内容がうそだとわかりかけた礼司は根気よく聞くことに徹した。父親が死に、結子と弟を連れ母が再婚した。再婚の相手がパチンコパーラー桜のオーナー桜川一郎だった。パチンコ店を19軒をあいりん地区に持っていた。
 結子は現在、27歳とも29歳とも聞く。全夫とのあいだに7歳の息子がいて時々会っている。結子の弟敦は興信所のような仕事をしている。
 結子と二谷は3年前に結婚した。社長も結子の詳しい過去は知らないようだ。結子は二谷と結婚するまで、簡単に男と寝るが1回だけで2度目は寝ないという。つぎつぎと男を変えていた。
 礼司は結子が自分と同じようにあいりん地区で育ったのではないかと感じた。小さいころの自分を温泉旅館の子と言ったり、車のジャガーを買ってもらったと写真を見せたりするが真実には思えなかった。結子は自分の生い立ちは勝手に作っていいといった。
 あいりん地区に結子を連れて行ったとき、昔ファンタを買ってくれたおじさんに会った。一時期、ここで過ごしたことは間違いではなかった。
 やがて、二谷社長がこの小説を書かせる目的が、結子の母親の再婚相手桜川の裏の顔を知ろうともくろんだ事とがわかる。二谷はこの地に巨大カジノを作ろうとしていた。それには桜川のパチンコ店が邪魔であった。
 礼司は書いた小説を二谷に渡すことを拒否した。礼司は小説を大輔の大学の教授に送る。
15年たって、その小説は見つかる。阪神大震災で崩れた資料の下に埋もれていたのが発見された。礼司も行方不明である。
1666 銀の島
Date: 2011-7-10

おすすめ度 ★★★★★

  山本 兼一 著  朝日新聞出版  発行:2011年6月

 明治43年、ザビエルの遺体は今でもインドのゴアに安置されていると聞き、私は興味を持った。死後358年たっても腐らず生きたまま祭られているという。すぐさまゴアに行き、ザビエル神父昇天の日ザビエルを見ることができた。日本人だというと「ザビエル神父 真実の記録」anjiro Japao と書かれた1554年に書かれたアンジロウの手記が出てきた。私はそれを写本し訳すことにした。
安次郎は薩摩藩の国侍を父に持っていたが、横暴で年貢の取立ては悪辣であった。その父が怒りのあまり女に足蹴りを食らわし髪をつかんで引き倒す姿に安次郎が止めに入り、刀を抜いた父に対峙し父を袈裟懸けに切り殺してしまった。安次郎は家臣の辰吉と港に停泊していた外国船に乗りマラッカにいった。「ザビエル神父に会えば行き方が変わる。貧しい人のため、不幸な人のために人生をささげている。決して自分のために生きている方ではない」と教えられる。マラッカで奴隷の中にいた三島清左衛門を見つけ助け出す。
ザビエルはキリスト教を広めるために日本に来た。日本はマルコポーロが黄金の国ジパングと呼ばれていたが、今はジャポンと呼ばれイワミと呼ばれる銀鉱山があり、良質な銀が取れると聞く。ポルトガル国王ジョアンの命を受けバラッタはザビエルとともにジャポンに行くことを決めた。
石見銀山の始まりは1309年、周防の国守大内弘幸が山に入り込んで見つけた。白山のごとく銀鉱石が一面に散らばっていたという。1526年に再び出雲大社に詣でた博多の商人が見つけ以来、大内、尼子、小笠原などが争奪戦を繰り返してきた。
三島清左衛門も戦いの末敗れて明船に売られたが10年ぶりにザビエルの船で帰ってきた。安次郎は妻や子に3年ぶりに会うことができた。1549年だった。父は病死したことになっていた。
 ザビエルは日本の農民が食するような貧しい食事を通した。肉や魚を食べずやせていった。1552年9月、バラッタは銀山を手に入れようとマラッカからポルトガルの大船団が出航したという。安次郎は自分を奴隷から救ってくれた王直に助けを求める。王直は平戸にいた。真夜中にポルトガル船を攻め、バラッタも捕らえた末に安次郎によって刺殺された。
その年の12月、ザビエルは一人残って布教活動を続けていたが命が尽きる。安次郎が看取る。翌年、ポルトガル人たちがザビエルの墓を掘り起こしたところ、ザビエルは生きているときと同じ顔をして棺の中に横たわっていた。屍はまったく腐っていなかったのである。「奇跡だ!」とポルトガル人は叫ぶ。安次郎はザビエルと一緒に再びマラッカに行く。
あなたは何をしに日本に来たのですか? 安次郎はザビエルの安置された寺院から離れることができなかった。
1665 アンダルシア
Date: 2011-7-9

おすすめ度 ★★★★

  真保 裕一 著  講談社  発行:2011年6月

 カナリア諸島で冷凍マグロにコカインをつめ、密輸をしようとした日本人に外交官黒田がすべてを話せば2年の懲役で済むようにするが、黙秘すれば8年から10年くらうだろうと司法取引を持ちかけた。男はあっさり応じた。すぐさまスペインに戻るという黒田。
 ところが、マドリードに住む日本人女性が、アンドラへ買い物に行きパスポートと財布をなくしたという。アンドラには空港はない。本城美咲という女性を黒田は車で迎えに行く。片道3時間だ。2002年からマドリードに住んでいることが確認取れた。彼女は絵を持っていた。デパートで買ったという。バルセロナのホテルに送るが、どこかへ行こうとしていた。不審に思った黒田は問いただす。彼女はフランスの銀行に勤めていたがアンドラに去年の10月から住んでいるという。本城美咲ではなく本当は新藤結香32歳だ。男の人に追われていた。知り合いもないので大使館に連絡したという。
 別荘地で二本の足を突き出して雪に埋もれた死体が発見された。アンドラから4キロほど離れたところだ。別荘は貸し別荘で1泊だけの予定でジャン・ロッシュというフランス人が借りていた。アンドラ国家警察犯罪捜査部が動き出した。
 黒田は本城美咲に連絡を取り新藤結香の事を聞いた。新藤は銀行に勤めていたころ元夫と離婚をし、息子のエドアルドは元夫に引き取られた。ところが最近、元夫が死亡した。元夫の死亡連絡はなかったそうだが、息子の親権を取り戻す裁判をしているという。それで狙われるという彼女の言葉もうなづける。
 アンドラはスイスと並び預金者の秘匿を守り通してきた。マネーロンダリングや脱税に利用されるケースが多い。
 新藤はジャン・ロッシュの殺人容疑者になっていた。黒田は新藤を乗せて絵を見に行く約束をしたという画廊に行く。元は自分の家にあった絵で処分されたと聞いて探していたという。息子と自分の思い出の絵だという。日本円にして百万円ぐらいの絵であった。
この絵を描いた画家と親しくなり養育権を失ったがかかれた絵は自分と息子だという。
 ホテルで待っていたスペイン軍警察に事情を聞かれることになった。
新藤は元夫が死ぬ前に120万ユーロを自分の口座に振り込んでくれた。息子に残すためジャン・ロッシュにその存在を知られ揉みあって殺したとされていた。
 黒田は絵の中の指紋から真実へと導き出していった。
1664 奇跡
Date: 2011-7-7

おすすめ度 ★★★

  中村 航 著  文芸春秋  発行:2011年4月

  小学校6年生の航一は春休みに大阪から鹿児島に越してきた。母の実家である。両親が離婚したためだ。二階の窓から桜島が見える。弟の龍之介は父親に引き取られ、福岡に住んでいる。
 航一の祖父は和菓子店をやってかるかんを売っていたが今はやめている。母と祖母がもう半年も会っていない龍之介の話をしていた。龍之介は自分から父親と暮らすと言い出したのだ。母は子供2人は連れて鹿児島へ帰る予定だった。
 父は電気工事の仕事をはじめた。バンド仲間と一緒に共同生活をしている。
ある日、航一は遮断機のところで電車が通過した直後、ばあちゃんが消えているのを体験した。どこにもいなかった。一緒にいた、たすくと真もこれは「奇跡」だと思った。一番列車ならもっと凄い事が起こるかもしれない。そして新幹線ならもっと・・・と。
 航一は龍之介にこの奇跡のことを話す。「バッホーンのゴロゴロゴローなかんじや」「4人がもういっぺん一緒に暮らすには、俺だけ頑張ってもあかんのやから」と弟と奇跡を起こそうとしていた。
 龍之介は熊本へ行く決心をした。航一も特急を使わないで川尻まで行く運賃を調べる。友達3人で往復1万2千240円だった。路線図を見て新幹線が見える一番列車のすれ違う場所を調べる。3人は漫画や塩ビの人形を売った。航一もスイミングの月謝5千円あまりを出す。鹿児島中央駅から川尻まで一人4080円だった。3人分買った。12駅進んで乗り換えてさらに27駅行き、熊本でさらに8駅行ったところだ。
 午前中の授業を熱があると航一とたすくと真の3人は保健室に行き早引けする。そして駅へ。一方、龍之介はれんととかんなと恵美の4人で川尻駅に行く。兄弟は飛びついて再会を喜ぶ。7人で新幹線が見える場所を探す。スーパーの屋上に行ってみるが見えない。
 れんとはお巡りさんといた。女優になりたいという恵美の演技でおばあちゃんの家を探す。知らない他人のおばあさんの孫に成りすまし助けてもらう。おばあさんのところで泊めてもらう。よく朝、おじいさんが運転する車で新幹線と一番列車の見える場所に連れて行ってもらう。朝6時53分、「さくら」と「つばめ」の2つの新幹線がすれ違った。7人はいっせいに願いことを叫ぶ。午前9時、博多行きのホームに7人はいた。
1663 鏡の顔
Date: 2011-7-4

おすすめ度 ★★★

  大沢 在昌 著  徳間書店  発行:2011年4月

 短編12編
「鏡の顔」では、店から出てきた男に以前出会っていた。言葉は交わさないが後姿に似たものを感じた。その男に再び出会った。男は女と店を出て行った。その後姿を沢原はカメラに撮った。連れの女は4年前に引退したトップモデルの彩子だった。
 いきなり衝撃を受けてエレベータで部屋に連れて行かれる。彩子は沢原のことをフォトライターでモダニズムという雑誌に連載していたことを男に明かした。
 2年前、結婚を口にすると彩子は断った。彩子の心臓を病んでいた。沢原はあの男を撮りたいと思った。
 彩子は病院に通っていた。そして入院したことを知った。沢原は病院に行くが会わずに自分の著作本を預けた。向かいの病棟の屋上から彩子の部屋にカメラを構えた。
 隣のビルから自分を狙う男を発見する。沢原はそのビル屋上で男と退治する。ピントが合い、彩子の病室があわただしい。そしてベッドを取り囲み合掌した。沢原は男に問う。誰が自分を殺せと頼んだか。彩子か。男は沢原が撃て!というが撃たなかった。男は顔を合わさないようにその場を離れた。
1662 絆回廊 新宿鮫]
Date: 2011-7-2

おすすめ度 ★★★★

  大沢 在昌 著  光文社  発行:2011年6月

 男が22年の刑期を終え出所した。彼の身元引受人には新宿のオカマの男だった。
45歳で収監され、今は67歳だ。彼をこの間奮い立たせていたものは、自分を逮捕し妻や子と別れ別れにした桃井刑事への復讐心だった。彼は愚連隊の目黒の持つ銃を取り上げ、自分の銃で目黒を銃殺した。
鮫島は房総の姫川を訪問した。姫川は須藤会を解散して出身地に引っ込んだ。鮫島は須藤会に属していた最近出所した男の行方を捜していた。最近出所した大柄な男が拳銃をほしがっていた。刑事に復讐するということ耳にしたからだ。男とは樫原という。
樫原が狙う刑事は鮫島の恩人といえる桃井刑事だ。鮫島を救うために犯人を撃った。鮫島は命拾いしたことがあった。桃井は鮫島の上司で課長だった。
姫川が殺された。飼っていた犬4頭と女房まで姫川の敷地内で埋められていたのを再度訪問した鮫島が見つけた。
姫川は栄勇会の吉田に襲われたと感じた。あの時、鮫島は吉田のこともそれとなく聞いたのである。吉田は栄勇会の若頭補佐だ。須藤会では松沢と名乗り、今は妻の姓を名乗っている。吉田の妻は残留孤児で現在も中国人と交流がある。
樫原の子供は当時2、3歳だった。樫原の逮捕後、妻とともに中国に戻った。樫原は自分を撃った男を銃殺し刑期12年だったが、刑務所内のトラブルで延長され22年になった。
樫原は中国から来ていた息子に会えた。妻は5年前にがんで死んでいた。
樫原は身元引受人になっていた笠置の店で桃井に対峙する。鮫島は撃たれた桃井に駆け寄るが・・・。しかし、桃井を撃ったのは樫原ではなかった。
 樫原は中国人の「金石」のメンバーの男を殺して銃を奪っていた。
1661 ばらばら死体の夜
Date: 2011-6-30

おすすめ度 ★★★★

  桜庭 一樹 著  集英社  発行:2011年5月

 古書店泪亭の上の10畳の部屋。丸窓が3つ、どれもはめ殺しの窓。部屋の中は黒く湿りこんでいる。敷き放しのせんべい布団がいつも敷いてある。そこの住人は白井砂漠だといった。吉野は以前にこの部屋に住んだことがあった。15年ぐらい前の27、8歳のころだ。大学院に行っていたとき、貧乏していた。大家の古本屋のご主人も知っていた。
 吉野は大家が不在の時間を見計らって砂漠を訪ねた。押し倒して関係を強引に結んでしまった。以来、時々やってくるようになった。砂漠はいつも金がほしいという。吉野は妻も子もいるが研究で金がかかると思っている妻に、給料を渡すことはなかった。カードローンで先取りのように借金をし、もっぱら給料はその返済に消えていた。
 大家が本を盗むものがいるというので防犯ビデオをつけることになった。初日にビデオについて使い方を研究すると砂漠は部屋にもってくる。
 そのビデオに吉野との行為が写っていた。砂漠は吉野に200万円ほしいといった。
吉野はレンタカーを借りて、砂漠と自分が育った小屋のような家に行く。吉野が結婚した後に、母はこの家で死んだ。吉野が一人で始末した。砂漠をここにつれてきたかった。そして、頭痛で朦朧としている砂漠に鉞を振り下ろし、ばらばらにしてしまう。砂漠はビニール袋に分散して入れられ、東北地方のどこかにあちこちに捨てられる。12月のことだった。
 2月の終わりごろ、死体が見つかった。死んだ女は安田美奈代33歳だという。まさかと思った。名前も違う、新聞の女の顔ははっきりわからない学生のころの写真だ。決め手は胸に埋め込まれていたシリコンの製造番号からだった。
 泪亭の主人はすぐ、吉野がやったのだろうと思った。そして、事件を報じた新聞を大量に吉野に送る。吉野は自分の殺した女だとは気がつかなかった。同じころ殺されたのかと思った。そしてネットでこの事件の女の写真が出た。金と裸の姿で写ったあの女だった。
 数ヶ月たって吉野は砂漠の人差し指の先とビデオのSDカードの入った瓶を捨てる。
2020年、自分の娘は20歳になっていた。50歳を過ぎたばかりなのに、吉野は70歳ぐらいにふけてしまっていた。
1660 三十光年の星たち 上・下
Date: 2011-6-29

おすすめ度 ★★★★

  宮本 輝 著  小学館  発行:2011年3月

 仁志は路地の奥、袋小路のようなところにある築50年の6畳一間の家を借りて住んでいた。去年の秋に隣の佐伯平蔵という金貸しのおじいさんから80万円を借りた。期限は6月10日。しかし、妻とはじめた革工房は思うように売れず、妻は材料や工具を持って出て行ってしまった。仁志は残った車を査定に出すと30万だという。とりあえず、期限前であるが佐伯にこうなったいきさつを話してしまった。すると、君の持っている車を売らないで使わせてくれないかと言われた。君の車に僕を乗せて目的地まで連れて行ってくれないか。日当も払うし車は売らなくてすむと仁志は快諾した。
 佐伯は金を貸した北里千満子のことを話してくれた。ご主人と死別して佐伯から金を借りていることを知り、月々少しずつ返していた。それは32年間も続いているという。いつも現金書留で送ってくる。貸したのは200万円だった。残りはあと8万円だった。千満子は、福知山市から久美浜町に越していた。千満子は笑顔で迎えてくれた。仁志は佐伯に言われたとおり、ご主人が32年前に書いた借用書を千満子に返す。まだ残金があるというのに千満子は驚く。勤務する工場の前の丘に2年たった木の苗56種類を2万本植えるという。それを仁志は佐伯の分と合計60本を植える。千満子の息子も着て植樹していた。
 帰りに、佐伯は仁志に背広を買いなさいと20万円をくれる。夜、佐伯のために仁志は痛むというひざのためにお灸をしてあげる。
 佐伯は因業な金貸しではなさそうだ。佐伯は75歳だ。仁志は30歳。
ひょんなことから千満子の息子虎雄と仁志の部屋で同居することになった。虎雄は焼き物を作る陶芸の仕事をしていた。30年というときに自分で商売をしたいと思っていた。
 佐伯の共で三浦に会う。佐伯は妻と子を火事で失ってからこの京都の小路の奥の家に引っ越してきた。35年前だ。佐伯が39歳のときである。同じ街の同い年の乾物屋の三浦と親しくなった。三浦の取引先が現金が必要になり、店の品物を500万円で全部買い取ってほしいといってきた。三浦はあちこち聞くが金の都合が付かない。そこで佐伯が400万を出した。買い取った品物は2ヶ月ですべて売れ、700万近い利益があった。三浦はその700万円を佐伯に受け取ってくれと持ってきた。
 小料理屋で働く月子は博打好きの亭主がいたがうまい料理を作った。三浦は月子に100万円を出資し店を出した。スパゲティの店だった。
 このようにお金を貸した人は35年で25人、完済がまだなのは5人。20人は完済してくれた。健康を害したり、いたし方のない理由で返せない2人を除いてあとの3人の返済の取立てを君に任すと佐伯は仁志に言う。
 仁志はその一軒に行き、毎月3千円か5千円の返済した場合の数字を書き交渉した。3千円渡してくれ、返済は始まった。
 母を介護して必死になっている女性には、仁志は一人で動かないで誰か立てる人を立てて役所で相談するよう話す。女性は議員の口利きで母を施設に入れ、仕事を始めた。返済も始まった。佐伯は正直な仁志を見抜いていたのだ。仁志も月子から教わった味で店を持つ。
1659 異境
Date: 2011-6-27

おすすめ度 ★★★★

  堂場 瞬一 著  小学館  発行:2011年6月

 日報の記者で社会部の甲斐は東京本社から横浜支社に飛ばされた。突然経済部長が急死し、玉突き的に人事が行われ、甲斐と肌の合わない織田社会部長は素直に動かない甲斐を放り出した形になった。38歳の誕生日の前日にも口論したばかりだった。
 横浜支社では記者の数は25人、県政、県警、市役所で3〜4名ずつ配置し、残りで遊軍や通信局をカバーしていた。甲斐は当面、遊軍にあたる。
 パソコンの設定が終わったころ、甲斐の前に現れたのが入社2面目の二階という若い男だった。昼食をともにしながら、二階の人懐っこさと粘り強さを見抜く。今はちょっと大きな事件を追っていると話していたが内容は語らなかった。
 ところが、後日この二階が失踪した。何かを感じた甲斐は二階の部屋を訪れる。パソコンやメモの類がない。何か不信に感じた。再び3時間後に訪れると、今度は部屋中荒らされていた。液晶テレビも壊れ、ベッドまで切り裂かれている。覚せい剤との関連があるのか。支局と警察を呼ぶ。
 二階の両親も九州から上京してきた。
 県警の浅羽祥子に1週間張り付くという仕事をした二階。その浅羽にも会ってみるがめがねをかけたやや非協力的な態度であった。
 二階の知り合いの彼女にもあってみるが、3日前から連絡が取れないという。大学も一緒だったという美春は付き合って3、4年になるという。仕事の話もしていなかったようだ。
 やがて、防犯カメラに写る男たちの百合のような花。この花を調べに図書館に行く。そこでカルロスというブラジル人の男から花は「イペー」でブラジルの国花だという。カルロスと何度か会ううちにイペーはグループの印みたいなものだという。そのグループが集まる店もわかった。
 時松刑事が運河に浮かんでいた。自殺とされたが、甲斐は入水自殺するやつが靴を脱ぐかと不審に思う。
 甲斐にわざわざ身辺に気をつけろと進言してくるものがいた。その後、甲斐は車の中にいた折、当て逃げに会い運河に車ごと突っ込む。死ぬかと思ったがやっとの思いで助かる。
 浅羽が「ヤード」を調べに行く。甲斐も同行する。ところが、ここで木の間から光るものを見つけ、それが二階のカメラだった。カメラは動かなかったが、カードを抜き取る。そこにカルロスがいた。甲斐に「知りすぎた」と銃を向ける。二階もここまで追求していたのだろう。
 警察がヤードを包囲し、甲斐と浅羽は助かる。カルロスも逮捕される。
二階は殺され、この土地の斜面に埋められていた。
1658 ナニワ・モンスター
Date: 2011-6-25

おすすめ度 ★★★★

  海堂 尊 著  新潮社  発行:2011年4月

 浪速診療所の菊間は、今は40歳半ばの息子に診療所を任せているが、多忙のときだけ手伝っている。この地に開業してもう40年が過ぎた。
 診療所に新型インフルエンザ・キャメルが発症した。患者は渡航暦のない8歳の少年だった。すぐ保健所と医師会に連絡をする。その時点ですでに聞きつけた新聞社がやってきた。診療所は入院設備がなかったが特別に隔離した。菊間は新聞社にコメントを求められても応じなかった。翌日はテレビも報道を始めた。患者の通っている学校長は報道の前に頭を下げていた。菊間はばかばかしいと怒った。
 患者が出たことでいつもは大勢が詰め掛けるユニバーサル・シーホースは待ち時間がゼロであらゆるアトラクションが利用できるがらがら状態になった。
 患者の野呂一家は熱も下がり、息子を連れて九州の嫁の実家に引っ越していった。キャメルは3日後に軽快したが、垂れ流された風評と盲従した市民が一家をアーケード街から追い出したのだ。
 東京地検特捜部のエース鎌形雅史は浪速地検特捜部へ異動になった。すぐに鎌形は厚生労働省老健局ならびに医政局を強制捜査を執行した。目的外に使用されると知りながら補助金の交付を行ったということだった。しかし、特別養護老人ホーム浪速園からの個人的な収賄容疑もあった。
 浪速の村雨府知事は九州の太宰空港から舎人町保健福祉センターにいく。この町は解剖率百パーセントの町である。浪速では12パーセントである。個人検診をもれなく行い、それを電子カルテ化していた。人口1万5000人の町である。人間ドックのような検査を全員にすると軽く15億円かかるが、舎人町では常勤医3人と試薬代で年間2億ですむ。事務は町役場から出向という形で行う。それで賄えるという。住民カードを渡すと開業医でもデータが見られる。15年経過した今、15年分の住民の受診データや病歴が入っている。この舎人町に政治の初心があると村雨府知事に説明した。そして、この舎人町にAiセンターを併設するという。CTとMRIをすでに導入していた。
 Aiセンターの方向性が司法と医療で衝突している。
 村雨は鎌形に浪速大学医学部Aiセンターの方向性に検察庁の役人が介入する方向に約束させられていた。もはや後戻りできない獣の道へ踏み入れてしまった。
1657 札幌方面中央警察署 南支部 誇りあれ
Date: 2011-6-19

おすすめ度 ★★★

  東 直己 著  双葉社  発行:2011年5月

 ススキノで発砲事件があり、キャバレーの呼び込みをしていた男が撃たれた。札幌方面中央警察署南支部の早矢仕刑事と梅津康晴巡査(キゼツ)は捜査に向かう。
 一方、寺内町長が銃撃された。4発の銃弾を受けた。右耳下から貫通した銃弾は左肩甲骨にあたり背中に抜けた。もう一発は左胸に入り助骨で止まった。右足大腿部にも弾丸が止まっている。犯人は3人であったという。
 すぐさま捜査本部が設けられた。寺内町長には愛人がいた。その愛人が妊娠しているという。正妻の座を狙っているわけでもない。町長は68歳。妻は62歳、愛人は32歳だ。
町長愛人の交友関係、恨みを抱いていたものを捜査中だった。
 寺内町長は産業廃棄物処理場については絶対反対を訴えて当選した。その後、猫の足4本を入れられた小包が届くなど嫌がらせを受けていた。
 寺内の妻は秘書や後援会幹部らと町長復帰のシナリオを作っていた。妻は愛人に養子縁組をして生まれてくる子は戸籍上、自分(妻)と寺内の養女の子供としたらどうかと提案された。
 町長は再襲撃をされるが無事だった。1回目の襲撃後入院をしていたが3ヶ月ぶりに退院し家に戻るところを襲われた。今回はナイフで襲ってきたが警備員が代わりに刺された。
 犯人の映像を見たキゼツはその男に記憶があった。
1656 東京難民
Date: 2011-6-19

おすすめ度 ★★★★

  福澤 徹三 著  光文社  発行:2011年5月

 時枝修は都心から電車で30分ほど行ったところにある大学の3年生である。九州の両親から15万円の仕送りをしてもらい、家賃6万円のマンションに住んでいた。
 同級生の雄介と雅樹や綾香と友達だった。担任に呼び出され、授業料が半年分未払いですでに除籍処分になっていると聞かされる。後期の授業料もそろそろ納める時期だ。とりあえず綾香に金を借りて九州に帰ってみると、父のやっていた会社は閉まっており、自宅ももぬけの殻だった。電柱をよじ登って自分の部屋に入ってみると何もなかった。おまけに黒服の怖そうな男に追いかけられた。両親は夜逃げしたのだろうか。
 マンションの家賃の支払いができない。早速内容証明郵便が来る。すぐに明け渡すように書いてあった。勧められて作ったカードでキャッシングして2か月分の家賃を作ったが、金をとられた上に、すでに聞き入れられなく原状回復云々であと15万を要求される。
 面接の時間が迫っていたので出かけるが、もどると鍵が取り替えられていた。荷物を返してくれるよう不動産屋に言うが、原状回復費を払えば返すという。おまけに保管料がつくという。
 やむなく、同級生の雄介のアパートに転がり込む。4畳半のアパートは狭かった。仕事を探すが思うように行かない。長引くほど二人の間は気詰まりになってきた。ある日、戻ってくると綾香と雄介が楽しそうに食事をしていた。それを見て、綾香とは別れ、そのアパートも引き払った。しかし、行くところがない。ネットカフェに行く。テッキッシュの配布やポスタリングなどをして日当をもらう。
 新宿でホストとして働き始めたが、同僚の女の子と飲んだときにボッタクリに会いまたしても無一文になる。中国行きの船の乗せられるところを逃げた。声をかけられて建築現場で働くが、思いのほかきつく体が付いていけない。2日で飛び出す。不良の中学生にはなけなしの金を巻き上げられるし、とうとうブルーテントで暮す人々に助けられる。
 ホームレスの人たちが拾い集めた雑誌を駅でブルーシートを広げ売る仕事につく。ホームレスの人たちは助け合って暮していた。
 そこへ父親が尋ねてきた。もらった手形が不渡りになり、町金から借りたお金が払えなくなった。両親は離婚して母は実家に戻っているという。父は学校に連絡し自分を探してくれていた。東京で頑張ると父にいい、ホームレスの仲間から一緒に帰るべきだと言われる。そこへ不良中学生がやってきて修はかっとなって中学生を殴り倒してしまう。こちらに非がなくても一般人の言うことの方が正しい。ホームレスは不利だという。修はこの場所を立ち去ることにした。
1655 トッカンVS勤労商工会
Date: 2011-6-18

おすすめ度 ★★★

  高殿 円 著  早川書房  発行:2011年5月

  唐川詠子は買い物から帰ったら夫が自宅で首をつって死んでいた。傍にあった手帳には昨日税務署に行き怒鳴られたとメモしてあった。京橋の中央署に。店のリニューアルのために借りた金の返済のメドもたたないばかりか、税金も滞納していた。きっと税務署で脅されて自殺したんだ。あの鏡という税務署の特官にと詠子は思い込んだ。
 鏡を訪ねて弁護士の吹雪敦がやってきた。チワワに似た顔をしていた。鏡特官に長期間にわたっていわれのない脅迫、恐喝を受けた、それが原因で夫が自殺した。公式な謝罪と損害賠償を求めるという訴えがあったという。吹雪は地元の勤労商工会で顧問弁護士をしていた。中央区人形町のあたりである。
 グー子は心配した。鏡特官はその朝、さして動揺していなかった。
鏡特官が出張中に不正に計画倒産を申請しようとしている株式会社ホツマを調査をしていたグー子は、ドロップショピング詐欺の疑いがあった。インターネット上の店舗で注文者に売るという。ホツマはインターネットショップを開くに当たって手数料を取る仲介業をしていた。儲かると思っていたが思うように儲からない。ホツマは何もしないまま逃げたとしたら税金は払わない。タレコミの真意を確かめるべく会社に出向く。金になるのはノートパソコンぐらいだった。
 グー子は署長を拝み倒して銀行へ連れていく。700万円の預金があった。その足で裁判所に行き破産手続き中のホツマの申請を決定前にもう一度調査することになった。
 グリーンフーズの滞納400万円。すでに廃業している。が、まだ高価な時計を身につけている。国民年金以外収入はないというが、週に1度銀座や六本木で豪華な食事をしている。
鏡とグー子はこのグリーンフーズに出向き、堂柿老人の妻の眠る墓を差し押さえた。なんと墓は隠し金庫になっていた。中から1千万円が出てきた。
 唐川詠子の自宅を差し押さえようとするも、親戚の名義になっていた。しかし、調べると親戚は金の貸借はなかったという。鏡が脅したとされた件は、コンビニのモニターから夫が鏡に土下座している姿が映っていた。これは脅したということはいいかがりだと証明できる。
1654 赦し
Date: 2011-6-17

おすすめ度 ★★★

  矢口 敦子 著  幻冬舎  発行:2010年7月

10年前まで脳外科医をしていた日高は、一人息子をインフルエンザ脳症失い、妻もその後、自殺した。そこへ医療ミスの問題が起き、自暴自棄になって日高も医師を辞め自宅も売り払ってホームレスをしていた。建築現場で働くようになり、解体場所と間違えて入り込んだ敷地で、金属バットで自衛するハナに出会った。ハナは離れに高齢者夫婦などを無料で住まわせていた。日高もその1室を借り、5年ほど落ち着いて住んでいる。
 5年の間に、一緒に住んでいた高齢者夫婦も亡くなり、足の不自由な男も死んだ。離れは日高一人である。大家のハナは85歳。
 ハナが誘った食事に日高が応じた。食事の途中にハナの様子がおかしい。脳梗塞を起こしていた。救急車を手配し、病院に行く。その後は、日高がハナの家に行き連絡しなければならないものに連絡をした。
 離れに住まわせていたのは父の子で、腹違いの兄弟だったという。ハナはそのことを本人たちにつげもせず暮らしていた。あくまでも大家として。
 やがて、息子や娘たちが病院にやってくる。そのうちにハナの遺産の問題に巻き込まれていく。
 5歳ぐらいの男の子がチョコレートを盗むのを見た日高。その男の子が翌日自宅のアパートのドアの前で死んでいた。虐待かと警察が調べる。その事件にも日高は巻き込まれる。
1653 炎天の雪 上・下
Date: 2011-6-16

おすすめ度 ★★★★

  諸田 玲子 著  集英社  発行:2010年8月

 
 多美は16歳のとき、簪や刀のつば、ふすまの取っ手を作る白金屋与左衛門と駆け落ちをした。与左衛門の庇護者である親方の下に身を寄せた。
 多美の実家は高岡町のお馬廻り役を務める二五〇石の前波家だった。父が亡くなり兄があとを継いでいた。前波家はすぐさま娘が神隠しにあったとし体面をつくろった。
 多美と与左衛門はすでにお腹に子がいたため兄も認めた。夫婦仲むつましく暮らしていた。多美は男の子を出産した。当吉と名づけた。
 たみという女を訪ねている者がいた。佐七は金沢城下で小鳥商をしていたが足掛け9年流刑の沙汰を受け、薄暗い牢獄に押し込められていた。出獄し、すぐさま恩のある大槻伝蔵の妻たみを探していた。大槻は七代藩主宗辰が病死した。22歳であった。先代の藩主が亡くなって1年半だった。大槻はやがて藩主に毒を持った大悪党として囚われる。流刑地で7年後に自害した。
 多美を訪ねて佐七は驚く。亭主の与左衛門は伝蔵によく似ていた。不覚にも多美の家で佐七は倒れてしまう。多美夫婦は介抱し、佐七の体力が回復し、多美はさがしているたみではないことがわかる。佐七の話を聞いて与左衛門も意気投合したみを探し始めた。まず、大槻の遺児の猪三郎を探し出すことだ。
 佐七はやがて大橋のところで団子屋を手伝い始める。やがて、猪三郎は庄田家に引き取られていた。
 佐七は文次郎からたみがあるお寺にいることを聞くが心を病んでいるという。
 仕事が減り生活が苦しくなった多美は、兄に彫り物の仕事を回してほしいと頼む。やがて息子の当吉も武家屋敷に奉公に出す。
 舜昌寺の庫裏から出火した火事は城下の四方に広がり大火となった。
 大槻と真如院を死に追いやり前田土佐守は政争に勝利したが、相次ぐ藩主の死にあい、大槻を大悪党に仕上げることで己の正当性を維持しようとしたが、またしても大火で痛手を受けた。町民は大槻の祟りだとうわさした。
 多美もなんとか部屋をかり、元の暮らしに戻ったと見えたが、夫与左衛門が遊郭に通いつめているようだ。多美が遊郭で対峙した相手はなんと隣に住んでいた娘のちよであった。
与左衛門は彫金の腕を見込んで鍵をつくり、盗賊になっていた。武家蔵に入り盗品を売りちよの元へ通っていたのである。
 多美は夫の相手がちよと知り、自分には佐七が力になってくれると身を引くつもりでいた。
 多美は兄に呼ばれた。大盗賊白銀屋与左衛門がお縄になったという。当吉も兄の家に呼び戻された。与左衛門は生吊首、息子当吉は刎首になった。兄の家も蟄居となった。
1652 カササギたちの四季
Date: 2011-6-10

おすすめ度 ★★★

  道尾 秀介 著  光文社  発行:2010年2月

 日暮と華沙々木はさいたま市のはずれでリサイクルショップ・カササギをしている。28歳だ。他に菜美という女の子がアルバイトでいる。開業は2年、同居も2年だが赤字状態。
 寺の和尚からカビの生えた上に落書きをしてある桐の箪笥を7000円で引き取らされる。次に文机を6000円で引き取った。長時間に及ぶ折衝で負けてしまった。あの強欲和尚め。
 ブロンズ像放火事件というのがあった。店の予約済みと張ってあった鳥のブロンズ像が焦げて転がっていた。燃えカスがあった。ところが、このブロンズ像を15000円で買っていった人がいた。そいつのあとをつけた。加賀田銅器に入って行った。その前に、店にやってきた小学生の男の子もこのうちの子だった。ブロンズ像が燃えたと思われたとき、明からに誰かが店に入った様子だった。
 後でわかったことだが、ブロンズ像はもともとはこの家にあったもので盗まれたのだという。像の中に秘密のもの入れがあったのだ。それは遺言状だったと華沙々木は菜美に探偵のごとく伝える。菜美はすっかり信じ華沙々木を天才のごとく尊敬さえしている。本当は日暮が細工したとも知らず。
沼澤木工店からテレビや箪笥、炊飯器などの大量注文が入った。秩父までであるが車で配達に行く。職人の中に女性が一人いた。オカマだというが早知子という。今度、本弟子になれるということで親方が家財道具を用意してくれた。しかし、早知子は逃げようと考えていた。半年先輩の宇佐美は早知子が男であることを見抜いていた。逃げ出せる機会を作ってくれていた。隠して生きるのはつらいのだろうと。
1651 天網 TOKAGE 2 -特殊遊撃捜査隊
Date: 2011-6-6

おすすめ度 ★★★★

  今野 敏 著  朝日新聞出版  発行:2010年2月

 東日新報東京本社の社会部遊軍記者湯浅は、大阪本社から転勤になった木島を伴って新宿署に向かう。
 バスがバスジャックされたという情報だ。それも同時に3台。1台は、16時30分東京駅発東名高速経由の名古屋行き高速バスである。2台目は、16時10分新宿発中央自動車道経由で名古屋の名鉄バスセンターに向かうバス。3台目は、16時10分同じく新宿発で渋谷を経由して東名に入り東静岡駅南口に向かうバス。犯人は110番で「バスをジャックした」と伝えただけだ。
 トカゲとよばれる特殊犯捜査係はすぐ出動する。東央交通本社に出向く。2台のバスが同時に乗っ取られた。犯人からの要求は何もないが、運転手からの応答もない。3台目はJL関東バスの車だ。
 バスの位置もGPS装置を切っているのでわからない。Nシステムにもひかからない。トカゲを3人ずつ3つの班に分けた。トカゲの涼子と上野はJL関東バス本社に送られる。本社の周りに不審者もいない。
 湯浅は連れの木島がスマートフォンからネットライターたちがバスは首都高速の都心環状線を周回しているようだと伝える。若い人はネットでニュースを見る。目の前をトカゲのバイクが新宿署に向かった。湯浅たちも向かう。
 和美と加賀美はウエブサイトを見ていた。犯人が情報をアップしていないかチェックする。そして、リアルタイムで棒グラフが伸びている。一般人が投票しているようだ。どのバスが最後までつかまらないかと。
 警察発表より先にネットに出ていることに湯浅は、犯人がサイトに情報を流しているとみた。それを自分の名刺の裏に書き、警察に託す。
 海老名サービスエリアを通過したバスは怪我をしたと思われる男をおろす。しかし、男は死んでいた。後のバスも東北自動車道に向かったバスとまだ周回しているバスとがある。
首都高にいたバスはガス欠で停車とネットで確認する。
 停車したバスが出てきて、まもなくサイトは閉じられた。バスの乗っ取り犯と思われる2人を確保した。一人は頼まれただけだという。黙秘を続ける男は30代の男だ。
 湯浅は牧之原サービスエリアで逮捕される男の画像を撮ることができた。しかし、喜んだのも束の間、テレビ中継車も来ていた。夜中の3時13分だった。
 3件のバスジャックをし、それをゲームに仕立てた。実名で投稿した男は羽田空港の駐車場で逮捕された。
1650 苦節23年、夢の弁護士になりました
Date: 2011-6-3

おすすめ度 ★★★

  神山 昌子 著  いそっぷ社  発行:2011年2月

 司法試験に挑戦すること23回。59歳で司法試験に合格。61歳から弁護士になったシングルマザーの神山昌子の物語。
 30歳を過ぎて結婚。しかし、4ヶ月で離婚というか、婚家を出てしまう。妊娠していた。生後4ヶ月で高熱がでて「急性髄膜炎」と診断され、障害が残るかもしれないと告げられると、争っていた離婚問題が一気に解決。「障害のある子は要らない」といわれた。
 こどもは後遺症もなく障害にもならなかった。離婚後は実家に身を寄せるが、父は3年後になくなった。
 司法試験を受けようと思い立ち、受験のための予備校の夜学に入る。息子は学童保育に行っていた。大学を卒業していたので、一次試験は免除になる。10年たったが受からない。試験は1年に1回。
 法律は覚えるだけではだめだ。法律が作られた目的が大切なわけで、@前提の決まりを作り、Aそれに事実を合わせて、B答えを出す理論をいうと三段論法で覚えようと考えた。「原則」をきちんと把握しておく必要もある。
 やめようと思ったこともあったが、「お母さんの夢なんでしょう」と息子に背中を押される。母も介護が必要になった。朝7時におき、朝食と弁当を作り、8時になったら母を起こしインシュリンの注射をする。そして仕事に出かける。夕方6時に買い物に行き、夕食を作り入浴をして、洗濯をし、10時ごろから予習、体力が残っていれば2時ごろまで勉強をする。12時ごろにはくたくたになってくる。
 仕事はパートで着物学院の受付、居酒屋のレジ、市役所の税務課の事務、生命保険の外交、クリーニングの受付、予備校の答案の採点、お中元の配達、ポスタリングとあらゆる仕事に就いた。
 いつの間にか息子は26歳になっていた。司法試験が近づいたころ母が死亡。1週間後に試験だった。そして合格。59歳になっていた。
1649 たまゆらに
Date: 2011-6-2

おすすめ度 ★★★★

  山本 一力 著  潮出版社  発行:2011年4月

 江戸の明け六ツ(午前6時)海辺橋の中ほどで愛犬のごんが縞柄の財布を見つけた。そろそろ大工などの職人がそろそろこの橋を通るはずであった。朋乃は竹ざると天秤棒を担いで青物野菜を売る仕事をしていた。
 自身番に届けた。誰もがこの届出を嫌がった。あれこれと詮議を受けるからだ。南六間堀町の目明し五作が対応した。財布には三井両替店の封紙にくるまれた25両包みが2つと日本橋室町 堀塚屋庄八郎商店の書付も入っていた。
 朋乃は「その店を知っている」という。堀塚屋という店は朋乃の生まれた家である。朋乃の母は嫁いでもなかなか男子に恵まれなかった。子は朋乃一人であった。跡取りがほしい姑は、息子が外で作っためかけが男子を産んだことから、朋乃が4歳、母が29歳のとき、めかけと子が突然、同居することになった。夫も姑も承知のことだった。母と子は500両を手切れ金にして離縁された。ところが、その金を駕籠屋に脅し取られてしまう。
それでも駕籠屋は50両だけは手元に持たせてくれた。
 深川の長屋で針仕事をして母子は暮らした。翌年、堀塚屋の姑が尋ねてきた。二度と顔を合わせたくない姑がわざわざ足を運んでくれた。そのわずか1ヵ月後姑は亡くなったという。初七日を終えた足で頭取番頭の久右衛門が尋ねてきた。姑は母子が質素に暮らしていたのをとても喜んでいたという。
 朋乃の話を聞く番屋の五作は朋乃と下引き2人を連れて、べっ甲細工の塚堀屋を訪れる。この家を出たのは4歳。朋乃は21歳になっていた。久右衛門も16年前にあったきりだ。
八代目庄八郎と久右衛門の間もうまく行っていた。が、跡取り息子の正悟は商いには無関心で飲む・打つ・買うはことのほか熱心であった。
 正悟と久右衛門の前で、拾った財布を見せるが自分のではないという。中の書付を示しても違うと言い張る。奥の部屋で番頭と正悟が向き合うが頑として自分のではないと言い張る。目明しも朋乃も待たされる。番頭は正悟の正直にいえないわけを思った。この様子に母親のおさきが「正悟がうそをついているといわんばかりではないか」と反論する。「てまえの承知していない掛取りに手代を差し向けている」と久右衛門はおさきに告げる。
 拓二郎という手代が昨日、金を落としたことを正悟は知っていた。目明しは拓二郎の財布を出すようにいうが「てまえは存じません」という。
 このやり取りを見て朋乃は「拾ったお金は私がいただきます」といった。「どうせこの50両は正悟と拓二郎がつるんで店からくすねようとした金だろう。本気でこのことに白黒つけるなら奉行所のお白洲で答えを出してもらえばいい」という。
 あえて不祥事に目を瞑ることでお店の安泰を保つことができるならと思った。
1648 サランヘヨ北の祖国よ
Date: 2011-6-1

おすすめ度 ★★★★

  森村 誠一 著  光文社  発行:2011年4月

 小説家永井順一の妻は、バックをひったくられた拍子に駅ホームから転落し命を落とした。結婚をしたのは8年前であった。永井の小説は数年前に出したきりであまり売れていなかった。雑誌記者としての妻のおかげで暮らしてきた。
 永井は妻と韓国旅行に行こうと言っていたことを思い出し、思い切って韓国旅行のツアーに参加した。5人の日本人とともにオプショナルツアーの老斤里事件のあった場所に行く。釜山から北へ240キロのノグンリにおいて朝鮮戦争当時、米軍が3日間にわたり先頭を繰り返し村民400人が犠牲になった地である。
 韓国旅行から帰ったころ、永井のもとにひったくり犯から妻のバックが郵送されてきた。「中身はそのままだということと、自分は奥さんを突き落としてはいない」という内容が書かれていた。永井はすぐ警察に相談した。犯人はひったくり犯ではなく別にいると鉄道警察隊新宿分駐所も動いてくれた。
 韓国に行った5人は同窓会を開いた。入社間もないOLのような城原涼子はセクハラが下で製薬会社を辞めたという。最上みゆきは銀座でクラブを経営していた。みゆきのもとにツアーで一緒だった自殺防止のボランティアをしている見目広信が尋ねてきた。二人は付き合うようになった。そのほかに60歳を超える若槻は会社を辞めて毎日図書館に通っているという男だった。
 ほどなくひったくり犯と思われた薮塚を棟居がつきとめる。神田川と中野近くのアパートに薮塚を訪ねると突き落としたと思われる犯人は目が光っていたという。義眼の男だ。永井の妻の遺品のカメラに写っていた医信大学付属病院の湯村等教授。永井がくれた写真に湯村教授の写真があったことに城原涼子は本能的に不吉な予感を感じる。
 湯村は涼子に電話をかけてきた。マンションに湯村を訪ねると彼は殺されていた。
 永井由理は朝鮮の南北戦争に興味を持って取材していたようだ。湯村教授は製薬会社との癒着事件を永井由理に調べられていた。
 ひったくり犯だった薮塚の死体が奥多摩山中から見つかる。
1647 蒼い猟犬
Date: 2011-5-31

おすすめ度 ★★★★

  堂場 瞬一 著  幻冬舎  発行:2011年4月

 都知事が急死し選挙が行われる予定であった。江上亨は25歳で刑事になった。駅前で恩師の福岡先生に出会った。福岡は45歳であった。江上は特別捜査第三係に配属になった。
 練馬中央小学校で給食を食べた児童が苦しんでいるという。不調を訴える子は100人を超える。そのうち20人が重症だ。桜台小学校でも50人ほどが不調を訴えているという。給食センターの捜査も行われた。愛知県警本部長から東京都副知事になった森永が1年前に就任している。序列からすると2番目だった。現在は実質的なナンバーワンになっていた。しかし、都庁に尋ねてみると国松副知事が中央に座っていた。国松は都知事選に出馬予定であった。
 毒物混入事件の犯人と思われる男から5億円を要求する電話が都庁に入る。東京都は警視庁と連絡を取りながら5億円を用意する。しかし、犯人は1億円ずつ5箇所に分けて持ってくるよう要求した。
 江上はオートバイで犯人の車と思われるワゴン車に突っ込んでいく。20歳前半の男が捕まる。しかし、男は便乗犯だったことがわかる。
 福祉保険局を歩いてきた国松は肝が据わっていない。この事件で相当疲労しているようだ。財政立て直しが叫ばれる都庁で、これからの数年間毅然と立ち向かえるのか。
 1億円だけが奪われる。再び5億円の要求が都庁に送られる。
 恩師の福岡の娘は2年前に亡くなっている。瑠奈は急性硬膜下血腫で救急車で運ばれるが、たらいまわしにされいくつもの病院で断られ、やっと配送された病院に着いたときは手遅れだった。娘がなくなり、その後、妻も自殺した。
 福岡は都の保健局に抗議した。ようやく面会できたのは娘の死後5ヶ月たってからだった。そのときの保健局長が国松だった。福岡の怒りは国松に向けられた。しかし、国松は謝罪ではなかった。国松が都知事選に出ると知り、あんな無責任な男がとどうしても追い落としてやりたかったそうだ。
 給食への毒物混入は申し訳ないと福岡は言う。福岡は江上の父親もこの件は知っていたという。
 都知事選の立候補を取り下げた国松。犯人は福岡だと報道されるが、さらにもうひとりかかわっている男がいた。
1646 さらば銀行の光
Date: 2011-5-26

おすすめ度 ★★★★

  江上 剛 著  新潮社  発行:2011年4月

 上杉健は昭和52年大洋栄和銀行に入行した。梅田支店だった。大学で1年先輩の中島からの誘いだった。銀行に入るといったとき、「銀行員になったら一生あたまを下げて暮らせ。5円玉を拾う気になって頭を下げろ」と父から言われた。
 窓口の預金や振込みを受け付ける係になりたいと、ほこりをかぶった使わなくなったテラーマシンで練習し、入行1年でテラー係になった。1年半で外為に、4年で東京の」芝支店に転勤になった。その前に27歳で3歳年下の女性と結婚した。母親の知人の知り合いからの見合い結婚だった。
 配属が融資係になった。融通手形を割り引いてほしいという顧客に、「今なら誰にも迷惑をかけないで事業を閉められる」と助言する。他行や税務署が動く前に不動産を清算し、銀行に完済してくれた。
 女子行員の不審な対応に閉行後、ロッカーを調べる。解約に来た顧客の定期預金がすでに引き出されていた。女子行員の不正の裏に男の影があった。懲戒免職にするが警察には届けなかった。
 銀行は栄和派と大洋派に分かれていて、双方が均等に役員配分されていた。大洋栄和になって採用された上杉はどっちにも属さないと決めた。入行20年たっても昇進しない男がいた。その木所はまじめそうな男だった。ところが自殺してしまう。死ぬ間際、誰かの電話で取り乱していたという。上杉が調べると上司から株を勧められ自分が自分に500万円を融資した形で銀行から金を借り、上司の言う銘柄を買っていた。上司の言うことを信じなければ転勤させるといったようだ。
 上杉はその上司の支店長や副支店長と対峙する。その場に木所の妻を同席させる。「夫の不名誉な事実が明らかになっても自殺の真意を知りたい。徹底的な調査を望んでいる」と話す。
 上杉は広報部になった。朝毎新聞の記者の訪問を受ける。大野証券と総会屋大池勇一との関係をかぎつけている。昭和47年からの取引で滞納を取り繕うための追加融資で300億円。上杉が調べた現在の残高は75億円。その差は返済不能として償却してあった。
融資の欄には引退したエリートたちの名が並んでいた。現在も副頭取や専務の名も。銀行がつぶれるかもしれない。総会屋の癒着を断ち切らなければならない。この事件で銀行は11人が逮捕され、1人が自殺した。
 総会屋や右翼の団体500件に今後一切の取引を絶つという短い文書を送る。押し寄せる窓口への対応をモニター画面で捕らえならが、上杉は毅然として「これらのやり取りをすべて録画、録音させてもらう」という。
 上杉は「銀行は金を貸して設けているんだから、その人の気持ちになって仕事をしろ」といった父の言葉を思い出す。
1645 花の鎖
Date: 2011-5-24

おすすめ度 ★★★★

  湊 かなえ 著  文芸春秋  発行:2011年3月

 梨花の祖母が入院した。梨花の勤務する英会話学校が経営破たんした。退職金も最後の給料も振り込まれないまま夜逃げのように閉鎖してしまった。無職になった梨花は入院費を心配しなければならない。梨花は3年前に両親を亡くしていた。
 梨花の家には毎年大きな花束が届く。花屋の話だと8万円ぐらいする花束だという。送り主は「Kより」である。祖母も梨花もこのKさんに礼状を書いたことがない。両親が亡くなったとき、Kの秘書という方が援助を申し出てくれたが断った。今は、このKさんにお願いしようと手紙を書く。住所はわからない。中継してくれる花屋をたどってKさんに届くようにお願いした。山本生花店ではフラワー・エンジェルの本社に問い合わせてくれたが教えてくれない。
 昔、和弥に自転車乗りを教えてもらった美雪。伯父のすすめで美雪は和弥と見合い結婚する。和弥と陽介は二人で会社を立ち上げる。和弥が設計の仕事をするためだったが、陽介は和弥を営業にする。陽介は設計図が引けても頭を下げることができない。陽介には夏美という妻がいた。美雪と陽介はいとこ同士だった。
 5年ぶりに会った希美子は子供ができたことを紗月に話した。紗月は聞きたくなかった。紗月が別れた浩一との間にできた子供だった。浩一は倉田先輩と同じ急性骨髄性白血病だった。紗月は父がいなく母と二人きりだった。紗月の生まれる前に父は亡くなっていた。

 県が美術館の設計コンベンションに出品する。しかし、和弥が応募したのに応募者が書き換えられ、陽介になっていた。そのことが許せなくて和弥の妻美雪は、陽介のうちを尋ねる。すると、和弥の設計では受からなかった。土壌のゆるい地盤に災害の強い設計が必要で、和弥のものを直し、会社名義に書き換えただけだという。そして最終的にその設計が選ばれた。和弥はその後、山に登って事故死した。それを自殺だったのではないかということばに美雪は許せなかった。設計図を盗まれても必死になってその建物を作るために協力していた故人を貶めるなんて許せなかった。

 祖母と同じぐらいの年齢の男性が病室にお見舞いに来ていた。梨花の知らない人だった。
梨花はHグランドホテルに行く。Kさんと連絡がとれた。ホテルでKさんの秘書という人が来ていた。「100万円を貸してほしい」と梨花が頼む。すると秘書は「その程度のお金が工面できなくてまったく縁のないものを頼ろうとするのか」といわれる。「あなたの要求額を工面し、今後花束は贈らない」とも。そこへ秘書をぼっちゃんとよぶ専務が現れた。あの病室にいた男であった。梨花は母宛におくる秘書の父親との関係を知りたかった。が秘書は知らない。専務も祖母のことは知っているが母のことは知らない。おまけに互いに名乗りあわなかった。名前も知らないで分かれた。

浩一と紗月が別れたのは互いが親のことを知ったからだった。しかし、紗月は母に浩一へのドナー提供を申し出る。

梨花はもうひとりのKから連絡を受け、別荘に出向く。梨花の母紗月と浩一との関係を浩一の妻の希美子から聞く。浩一は祖母のいとこの陽介と夏美の息子だった。援助の申し出は夏美からだったのだ。
梨花は再就職先も決まり、援助を断り花も贈らないでほしいと頼む。
1644 眠れ、悪しき子よ 上・下
Date: 2011-5-22

おすすめ度 ★★★★★

  丸山 健二 著  文芸春秋  発行:2011年4月

  55歳で早期退職した男は実家のある砂洲町が眼下に見える天野村の村営住宅に移り住んだ。村営住宅は5軒あり、北側の端っこに吉野さん老夫婦が家の前を菜園にして老後を楽しんでいた。南端に住むことにした。真ん中に「津美都生」と表札がかかっていた。25歳の青年が住んでいるという。「ツミト イキル」かどうかわからない。イキルと勝手に呼ぶことにした。
 イキルはバイクに乗って帰ってきた。笑顔で挨拶はする。自分は読もうと思って買った本を多くのダンボールに入れて持ってきた。これから自由だ。かつて結婚はしたことがあるが、自分には一人での巣篭もり似合っている。伴侶は本だけでたくさんだ。
 実家にも挨拶に行く。高校教師だった父は死に、太った母親は認知症がでて兄夫婦を煩わしていた。口だけは達者だった。その母から「お前はお父さんの子だが、自分の子ではない」といわれた。父が亡くなって自分は実家と縁が切れたものと思っていたようだ。教師だった父は教え子に手を出し、妊娠させた。寺の娘だった自分の母は、自分を産んだあとは父に子を託した。父は教師を辞めることもなく続けていた。父と同じように教師になった兄は肩身が狭かっただろう。実の母に会いたいと寺に訪ねたが留守だった。
 町で因縁をつけられた男をぼこぼこに殴った。アメリカ車に乗った男だった。その男が村営住宅に訪ねてきた。多額の金を要求した。地面に頭をつけて詫びたが脅された。イキルが札束をもって出てきた。けりをつけるために銀行から金を下ろして要求額を渡すとイキルはアメ車の男と連れ立ってくるまで出て行った。
 翌日、イキルからは何も言われなかったが、乙女池で沈んだアメ車を見つける。車の中にあの男が死んでいた。イキルがやったのだろう。
 妹が村に帰り実家とは別に、人の住まなくなった工場の傍の古い町営住宅で暮らしている。50歳で妊娠したようだ。派手で水商売でもやっているとすぐわかる格好をしていた。
 兄から妹の様子を見てくれるように頼まれる。町営住宅の荷物はそのまま、浜のほうの別荘で暮らしていた。車も買ったようだ。同じ町営住宅で都会から帰った男の自殺幇助で大金を得たのだろう。自分も男から頼まれたが断った。
 妹が出産をしたと聞き、浜の別荘に訪ねると、なんと妹は自分の実の親、寺の娘だった女性と暮らしていた。楽しそうに笑っていた。
 兄夫婦に悪態をつき、腐臭の撒き散らしていた母は亡くなった。窒息死の疑いがあり、警察が調べに来たが、兄たちへの疑惑の証拠が得られなかった。
 やがて、妹と自分の実の親が村の人々をだましてお金を集めているらしいことで兄夫婦からやめるように金を渡される。どうしたものかと思案しているうちに、赤子も含め彼女ら3人は手に赤い紐をつけてボートが転覆して死んだのだろう。入り江にボートがひっくり返っていた。
 トンネルからすごい勢いでバイクが飛び出してきた。イキルだった。トンネル内で黒い煙が上がっていた。その様子を車の中から見た自分はこの事故がイキルが起こしたと直感した。村営住宅でバイクのナンバープレートに張られてはがされたガムテープの後が残っていた。自分はイキルに対して息子のような感情を持っていた。守らなければと思った。証拠となるバイクは夜中に処分するために山中に隠した。
 イキルは新しいバイクを買った。バイクについては何も言わなかった。
乙女池の車を片付けるという小林さんを手伝う。クレーンで引き上げた後、バーナーで焼ききって小さくして、穴を掘って埋めた。車の中には死体がなかった。
 母の死も、妹たちの死ももしかしたらイキルの仕業かもしれないと思い始めた。イキルのバイクにあの赤い糸がついていたからだ。
 イキルががけの途中のイヌワシの巣のある棚にいた。山の上から岩を落とした。棚が崩れイキルも大きな岩とともに谷底へ落ちていった。
 イキルのバイクを乙女池に投げ入れた。ところが、バイクに絡まっていた赤い糸が自分の手に絡まり固結びになっていた。外れない。バイクとともに自分も池の中に沈んでいった。たぶん死ぬだろう。
1643 トンイ 上・下
Date: 2011-5-20

おすすめ度 ★★★★★

  キム・イヨン  チョン・ジェイン 著  キネマ旬報社  発行:2011年4月

 崔同伊は、父と兄が何者かの陰謀で無実の罪で処刑され、崔同伊自身も追われるが、英達が宮女の下で働くものを探していると教えてくれた。王宮の内部に入ることを決意した。父が生前教えてくれた論語が功をなし、王宮に入ることができた。ある日、使いを頼まれた医院で薬に毒が入っていたとして罠にはめられる。しかし、調べをした粛宗を王と知らず崔同伊は「薬は医員が目の前で調合した。あなたも私が卑しい官奴だから信じられないという了見の狭いあんぽんたんですか」という。そして、死体の傍にあった手紙が医員の触ったものと同じではないことを証明してみせる。
 玉貞は崔同伊に監察宮女になる試験を受けるチャンスを与えた。玉貞自身は奴婢の出であった。玉貞は天性の美貌と才能で、呉太錫の援助で宮廷に入り、粛宗の寵愛を受けるようになった。そして男の子を生んだ。
 崔同伊は監察宮女になり、宮女の白粉に含まれる鉛中毒を突きとめ、また清の使臣の死に関する事件では犯人の履物で解決させたことで、ほとんどの宮女を崔同伊の味方につけてしまった。
 玉貞は大妃殿との葛藤、後宮の問題で心を痛ませていると粛宗に思わせながら、崔同伊と粛宗との言動に目を光らせていた。大妃殿を中毒死させたのも玉貞だった。
 崔同伊は粛宗の命により、6年前の剣契が両班殺人は真犯人がいると突き止める。そのことを粛宗に伝える前に玉貞の罠によりがけから落ちる。大妃殿の死で中宮を疑った粛宗は中宮を廃位した。中宮は王宮に入り8年を過ごした。崔同伊は中宮から王宮に残り真実を明らかにするよう頼まれていた。
 しかし、崔同伊は出かけた先で胸を矢で打たれがけから落ちる。幸い、漁夫の老夫婦に助けられるが、迷惑をかけられないとさらに遠くへ逃げた。義州の商人の家で女婢として働きながら時を待った。諺文で書かれた書物を見つけ夢中で読んだ。人の気配でとっさに懐に隠す。兵が来てその部屋を改めていった。部屋の主に文字が読めることを驚かれる。主は沈雲澤であった。西人の中心人物だった。清との通訳として同伊を同行させる。しかしそれは、世子の誥命受けるための賄賂、つまり清との裏取引で機密文書を差し出すというものだった。裏で玉貞が動いているという証でもあった。
 同伊たちは平壌に着く。別の日の夜出かけた同伊は襲われるが、天寿に助けられる。
同伊は玉貞が持っていた証拠の身分証をとりに王宮に忍び込んだ。そこで粛宗に出会う。同伊は玉貞が機密文書を清に渡したこと、父や兄が殺された剣契の事件に玉貞がかかわっているという身分証を見せる。
 同伊に心惹かれている粛宗は、すでに玉貞への気持ちは遠のいていた。粛宗は同伊と婚礼の儀式を行う。まもなく同伊は懐妊し、王子が生まれる。
 しかし、玉貞の命により同伊を調べていたものから、同伊が死んだ剣契の頭の娘と知った。そしてそれは粛宗の耳にも入る。生まれた王子は21日目も生きることなく死亡する。
 酔って同伊を尋ねたが、二度と同伊を尋ねまいと粛宗は思った。だが、同伊は二人目を妊娠していた。村で同伊と二人目の王子延?君が生まれる。中宮から同伊に王宮に戻るように言われる。
 粛宗は延?君がほかの子と比べて賢いことに関心を持つ。また天寿から剣契の事件の真相を聞き、賞の変わりに賤民のいない世を願った。
同伊は玉貞に捕まり、かめの中から下着姿で発見される。粛宗は玉貞の父がこの国を富強にするための努力をしたことを思った。
 粛宗と延?君が墓参りの際に襲われる。命じたのは玉貞だった。玉貞は服毒による自害をさせられる。
 粛宗の死後、景宗が世を告ぐが程亡くなる。延?君と景宗は6つ違いだった。二人は仲がよかった。延?君が王位に着く。とうとう同伊の子が王位を継いだのだった。
1642 麒麟の翼
Date: 2011-5-18

おすすめ度 ★★★★

  東野 圭吾 著  講談社  発行:2011年3月

 男は酔っ払っているように見えた。日本橋の中ほどの麒麟像の台座のあたりにもたれかかった。巡査は泥酔していると思って近づいた。男の胸に何かが刺さってワイシャツにしみが広がっていた。
 殺されたのは、青柳武明は建築部品メーカーのカネセキ金属の製造本部長であった。同じころ、トラックに接触した26歳の男八島冬樹が病院に運ばれた。八島が持っていたのは青柳の鞄と財布であった。
 警察は青柳を殺したのは八島で逃走途中で事故にあったとみた。八島は福島の出身で養護施設で育った。同棲中の香織は妊娠していた。八島は死んだ。香織は八島が人を殺すような人ではないと警察に言う。八島は青柳の会社で最近、派遣義理切りにあい求職中だった。
 青柳を調べるうちに最近、鶴を折り水天宮の賽銭箱に奉納していたことがわかった。何のために水天宮にお参りしていたのだろう。それは香織の妊娠よりもずっと前のころからだった。
 八島が勤務していたころ、カネセキ金属で労災事故があった。仕事中に八島が倒れ頭を強打する。5日ほど休んで復帰したが、首が痛いといっていた。これが元で派遣義理になった可能性がある。労災事故を隠蔽したのは青柳だった。
 青柳は息子がパソコンで「東京のハナコ」という名で「キリンノツバサ」ブログに投稿しているのをみた。その行為をあわてる息子。それには、息子悠人は眠り続けるキリン君を励ますものだった。
 悠人は、中学のときほかの3人の友人と学校に忍び込みプールで泳いでいた。うち一人がおぼれ命は取り留めたが、目を覚ますことはなかった。吉永は眠り続けていた。
 偶然見たネットで、キリンノツバサの検索にひかかったブログに、吉永が軽井沢に引越しまだ生きていることを知る。まだ眠り続けていたのだ。
 青柳はそれを知って、真相を知ろうとしたとき、勘違いした息子の仲間に刺されたのだった。八島が犯人ではなかった。
1641 刑事魂
Date: 2011-5-16

おすすめ度 ★★★★★

  松浪 和夫 著  講談社  発行:2011年4月

本部長の娘遥15歳が誘拐された。三島は今は警察学校の教官をしている。その三島が福島署に呼ばれた。
 8時24分犯人から遥を誘拐したとの電話が入った。捜査会議は犯人の逮捕を最優先にするという。人質の命を失うことがあっても私は抗議しないと村井県警本部長は言い切った。交渉役に三島が命令された。本部長命令であった。
 犯人と本部長夫人との電話交渉が始まる。三島はそばに付き添う。犯人は身代金1億円を要求していた。しかし、夫人には3500万の預金しかない。夫人の父親から2000万円が借りられるという。あわせても要求額の半分である。三島は本部長に予算の執行を願い出た。しかし、拒否される。私的に公金を流用できないという。三島は裏金の持ち出しを打診するが、これも拒否される。人名最優先を拒否した本部長である。
 8ヶ月前、三島は裏金つくりの協力を求められたが拒否した。30歳で刑事になり、順調に昇格してきた三島はこれが元で刑事から教官に左遷させられた。三島の父は犯人立てこもり事件で殉職した。被疑者の妻をかばってたてになったのだ。
 村井は自宅を担保にいれ銀行から借金をして5000万円を借りる。夫人が金を持って犯人の支持した場所に行く。犯人は逢瀬中学の方へ行く。犯人は「早く見つけてやれ、凍死するぞ」という。夫人と三島は犯人の支持に従い信夫山の山肌を下りていった。途中で枝が夫人の右足にささり大量に出血を起こしている。三島は限界だと本部長に伝える。三島は夫人の元に駆け寄り止血する。そして、犯人に直接交渉する。本部長は、人質が戻ってきても犯人を逃がしたら何の意味もないと言い切る。そのときは、三島は捜査妨害で逮捕、免職にすると言い渡される。唯一、服部課長だけは三島を励ました。
1640 保身
Date: 2011-5-14

おすすめ度 ★★★★★

  小杉 健治 著  双葉社  発行:2011年2月

 捜査一課管理官蓮見は藤浦警部補の送別会を中座し、愛人宅に向かう途中に人をはねた。
このままでは3年前に買った家のローンも払えない。検察庁長官になる夢もついえる。そればかりか、警官の酔っ払い運転で本部長や副部長が並んで謝罪するというマスコミ対応と幹部クラスの処罰にまで発展しかねないことが頭をよぎった。思い余って翌日は体調不良で欠勤はしたものの、村瀬県警本部長の自宅を訪ねた。村瀬は話を聞き、事件を隠すことを告げる。事故を起こした車は翌日綺麗に治って戻ってきた。
 同じ日、野島ダイアナマンションに忍び込んだ金谷は、タンスから預金通帳と印鑑、封筒に入った現金を盗み、あろうことか部屋の風呂に入り冷蔵庫のものを食べ、住人のベッドで寝た。住人は旅行に出かけるのを見た。2,3日は大丈夫だろうとゆっくりしていたが、1泊で帰宅してしまった。住人は50代の女性。会社の同僚が電話に出ないことを不審に思い尋ねてきて死体を発見した。
 金谷は、出所後女を訪ねたが引っ越していなかった。その時、この住人が旅行に行くところを見かけた。殺害後、度々鳴る電話で誰か尋ねてくることを恐れ、やむなくそのマンションを出た。そこで人がはねられるのを見た。はねた車のナンバーを記憶していた。
 死んだ女性の口座から引き出す男の姿が前科のある金谷に似ていることから事情徴収をされていた。そして、知った顔を見た。それとなく知り合いの刑事に名前を聞く。車のナンバーも誰のものか教えてもらい、人をはねたのが警察の偉いやつだということを知った。
 宮下は、金谷が車のナンバーを口にしたこと、ひき逃げの押収物がなくなったことに疑問を持つ。
 ひき逃げされた被害者田畑には妻と娘がいた。が、殺された野島マンションの住人の部屋から田畑の名刺が出て来た。妻は刑事の口から発せられる言葉が信じられなかった。ひき逃げされた上に、女性を殺した殺人犯にされていた。
 宮下は、退職した藤浦とあった。金谷が口にしたことは言えなかった。ところが、その金谷も建築中のビルから落ちて死ぬ。
1639 いねむり先生
Date: 2011-5-12

おすすめ度 ★★★

  伊集院 静 著  集英社  発行:2011年4月

 2年ほど前、ボクは若い女性と所帯を持ったが、妻が癌であることがわかり、200日目に死んだ。嘱望された女優でもあった。ボクは半年後アルコール依存症になった。30歳半ばにして心身共にボロボロになった。強制的に入院させられた。そして、退院できた。
 浅草でお世話になったKさんにあった。合わせたい人がいるという。新宿の飲み屋で、はじめて先生に会った。先生はどこでもよく寝る人だった。ジャズ喫茶でも。公園でも。
 先生は小説家であった。神楽坂の宿屋まで送った。先生は練馬に自宅があった。先生とボクは1泊2日の競輪の旅にでた。迷惑をかけないから連れて行ってほしいと先生に頼まれた。小田原を過ぎると先生の様子がおかしい。Kさんに電話すると「先生は富士山とか円錐形のものを見るとおかしくなる」という。一宮の競輪場を出て、岡山に向かいフェリーで松山に向かった。松山競輪である。庭に天皇陛下御植樹の木がある立派な旅館に泊まった。そのとき、先生はボクの小説も読んだという。チヌのことを書いた作品がいいと褒めてくれた。
 先生は競輪場でも、松山に向かうタクシーの中でも寝ていた。
 先生は弥彦に行こうという。弥彦神社に村営競輪場があるという。暖かくなったらと約束した。
 青森で待ち合わせをして先生と競輪場に行った。先生は元気がなかった。
先生と新宿のゲイバーにも行った。女装じゃないほうのバーである。先生に会えてよかったというと、先生もそうだといった。先生は小説で文学賞を受賞した。
 Nさんが先生の死を知らせてきた。信濃町の斎場で行われた盛大な式に参列しボクは東京を去った。先生との日々が夢であろうと思い込むようにしていた。
1638 リラを揺らす風
Date: 2011-5-10

おすすめ度 ★★★★

  谷村 志穂 著  実業之日本社  発行:2011年3月

 はるは小樽の女子高校に、光代は小樽の工業高校に通った。卒業後、はるは美容師になるために札幌に行き美容専門学校へ、光代は祖父母がやっているアパートの管理と小料理屋の手伝いをするつもりだった。
 光代は7歳のころ、両親が離婚した。光代が自分を男の子だと思っていることに母親が異常だといい診察を受けた。このことが、父親との葛藤となり、母は出て行った。以来、光代は祖父母の家で育てられた。
 夏休みになり、はるが光代のところに来た。家を出てきたという。親から授業料20万円を持っていた。それを光代に取り上げられた。1日千円ずつを渡される生活になった。
 光代は男として振る舞い、はるはしぐさがのろいことから、悪態を疲れながらも光代が好きだったので一緒に暮らした。キャバレーに勤めるようになったはるは妊娠をした。客との間にできた子だった。すぐさま、光代は相手にお金を出させた。子供は堕胎させた。
100万円が手に入ったことで、光代は車を買った。600万円の車をローンにした。車を持ったことでますます生活が苦しくなった。
 光代ははるに客を取らせるようになった。裏ビデオにもでるようになり、キャバレーの支配人が心配してくれた。でも、光代が好きだったのではるは別れられなかった。
 とうとう金に困った二人は医者の娘小学1年生を誘拐してしまう。特に子供に恐怖心を与えたりはしなかった。車で動物園に行き、アイスクリームを食べ、海を見に行った。
 光代が医師と金の話をしていた。金ができたら、これまでの借金を清算するつもりだった。しかし、二人は捕まってしまう。身代金目的誘拐の罪に問われ懲役6年になった。
1637 天魔ゆく空
Date: 2011-5-9

おすすめ度 ★★★★

  真保 裕一 著  講談社  発行:2011年4月

 戦国時代の武将,室町幕府管領の父細川勝元の子聡明丸は、父の死後、尼寺に幽閉されていた腹違いの姉安喜を訪ね父の死を知らせた。聡明丸が8歳のときである。聡明丸は父の葬儀の喪主を兄勝之に譲った。
 聡明丸は、腹違いの姉安喜を迎えにいき葬儀に参列させた。わずか8歳で父のあとを継いだ聡明丸は朋友と呼べるものがいなかった。時折、姉を訪ねた。父のように内衆のいうように山名から嫁をもらい、うとまれると尼寺に送る契りのない夫婦にはなるまいと誓った。
 聡明丸は政元となのり、山名との和睦をまとめるために南禅寺に赴く。一門がひとつにまとまり今の繁栄があると信じていた。政元は内衆がひた隠す不信の芽をとうに見抜いていた。「自分は父勝元の実の子ではないが、山名の和睦を飲むため不承不承当主を認めざるを得なかった」と兵の前で言う。
 政元は公方様に。「眠りや酒に逃げるのではなく己の進む道を見据えてはどうか。酒と女を勧め、甘言をささやくしか能がないものを遠ざけるべきと考えます」と顔色も変えず言った。あの大乱が武士に志を地に落とし、いまや将軍家に志があるとは思えなかった。
 あちこちで一揆が起こったが大半は細川がまとめたことがわかった。一揆の裏に政元の影がちらついた。
 富子はわざと兵を集めて洛中を不安の種を撒き散らし、騒ぎをあおり、病に逃げたがる義政の尻を叩いた政元のやり方に唸りを漏らした。政元は政には一切口を挟まず、将軍があっての細川家と心得ていると見抜く。
 義政は死に、政元と同い年の義材が将軍につく。しかし、人の心は将軍から心が離れていた。いずれ将軍家は立ち行かなくなるだろう。
 20数年尼寺ですごした安喜はいったん細川家の屋敷に戻った。政元が姉に勧める縁談が持ち上がったからである。相手は待所の頭人で内裏や御所の警固を司る赤松左京太夫政則であった。しかし、赤松はたった3年で鷹狩りの先で倒れ帰らぬ人となった。安喜には3歳の娘まつがいた。安喜は法衣をつけ再び仏門に入った。名を洞松院と変えた。
 政元は将軍を思うままに操って半将軍と呼ばれていた。九条家から九郎(のちの澄之)を細川阿波国守護家から、六郎(のちの澄元)を養子に迎える。しかし家督争いが始まり、入浴中に警固役の竹田孫七によって殺される。
1636 人質の朗読会
Date: 2011-5-8

おすすめ度 ★★★

  小川 洋子 著  中央公論新社  発行:2011年2月

 旅行会社が企画したツアーで参加した7人と添乗員は外国の山岳地帯でゲリラに拉致された。2000メートル級の高地であった。事件の詳細ははっきりしないまま百日が過ぎたころ、突然事件は最悪の方法で解決した。人質8人は全員死亡した。
 人質となった8人は拉致されている間に、朗読をしていたテープが残されていた。
「杖」では、鉄工所の工員が骨折した。アキレス腱も切っているようだ。11歳だった少女は自分が杖の代わりになって男を支えるが役に立たない。上代わりに渡した傘も曲がってしまう。思い余って、庭のクヌギの枝を切って杖を作ってあげたという話。
「やまびこビスケット」では、大家さんがなくなった。大家さんは「整理整頓」という言葉が好きだった。心臓発作で死んだのだが、テーブルにビスケットのアルファベットでSEIRISEITONと並べられていた。
「B談話室」では、集会所になっていたB談話室。或る時は、危機言語を救う会であったり、事故で子をなくした親の会で梔子の会であったり、運針倶楽部だったりした。そこにいるときは自分の本音を語ることができた。久しぶりに訪ねたB談話室。受付の長い髪の女性ではなく別の小父さんがいた。尋ねると「そのような者は居りません。もう40年受付は私一人です」窓はぴしりと閉められた。
 「花束」では、派遣の紳士服の店員は今日が最後の日だった。よく来るおなじみの課長さんはトイレを掃除しているときでさえ、わざわざ呼び出して声をかけてくれた。君のおかげでいい買い物ができたと花束をくれた。葬祭典礼の課長さんは男の人が亡くなると、手を通していない新品のスーツ、ワイシャツ、ネクタイを棺に入れるという。すぐに燃やされてしまうスーツでも、丁寧に選んだ。
花束を持って帰るのは目立った。人の死を思った。ふと目に付いた道路わきの花束。急いでコンビニで水を買い、持っていた花束を新たにたむけた。捨てないでよかった。
 ほか5話。
1635 ジェノサイド
Date: 2011-5-7

おすすめ度 ★★★★

  高野 和明 著  角川書店  発行:2011年3月

 イエーガーは、息子が肺胞上皮細胞硬化症という難病で余命は永くないだろうと宣告されていた。世界の要人を護衛する任務をバクダットで終え、1ヶ月の休暇がもらえるが、次に任務の仕事が入った。イエーガーはアフリカのコンゴ共和国の東部ジャングル地帯に向かう。
 日本では厚木市で古賀研人が、急死した父の葬儀立ち会っていた。父は大動脈瘤破裂であった。研人は大学院薬学部で研究を続けていた。父も大学教授であった。その父からメールが届いていた。葬式の後である。そのメールによって開いた本には、父が町田市に秘密の研究室を持っていることや他人名義の預金のキャッシュカードやデータの入ったパソコンのありかが記されていた。それらは決して他人に他言しないようにとあった。おまけに、今後は盗聴や尾行に注意するようにと書かれていた。
 早速、研人に警察が訪ねてきた。母のところにも来たようだ。身の危険を感じた研人は、町田の隠れ家に向かう。研究室にも警察が来たという。しばらく身を隠すことにした。
 町田では父のやりかけた研究が残っていた。オーファン受容体のアゴニストをデザインし合成することだった。ハイズマン・レポートと走り書きされたメモ。そのレポートの内容を探し始める。世田谷の民間の雑誌図書館でレポートの内容を読むことができた。
 ハイズマン・レポートは「人類の絶滅要因の研究と政策への提言」が正式なタイトルだった。1.宇宙規模の災害、2.地球規模の環境変動、3.核戦争、4.疫病・ウイルスの脅威および生物兵器、5.人類の進化、それらが書かれていた。
 ルーペンスもこのハイズマン・レポートを興味深く読んだ。NSAからの報告で最近、日本からこのレポートに検索がかかったという報告を受けた。検索したのは古賀研人である。
 研人は父から1ヶ月以内に肺胞上皮細胞硬化症の特効薬を開発せよとのメモを読んだ。イエーガーは息子の命を助ける薬を日本で開発中だと聞いた。
研人は援軍が必要だった。超越した能力の持ち主韓国の李正勲に連絡をする。肺胞上皮細胞硬化症の薬を待っているのは小林舞花もあと1ヶ月の余命しかない。
そして、薬は出来上がる。研人ができあがった薬を瀕死の舞花の下へ届けるが、担当医は迷った挙句、舞花の父親に舞花の退院手続きを取らせ薬を服用させる。一方、イエーガーの息子も助かる。
1634 ジョン・マン 波濤編
Date: 2011-4-27

おすすめ度 ★★★★

  山本 一力 著  講談社  発行:2010年12月

 
 幼少のころから14歳の万次郎が遭難し、島にたどり着いて143日目やっと大きな船が通りかかり小船が島に向かってくるまでの物語。
 万次郎は母ひとりの稼ぎで大勢の家族を養っていた。おまけに亭主の残した借金もある。12歳で漁師として働いた万次郎。土佐の国中の浜で遠目が聞くことを自慢したこともなかったが、万次郎をよく思わない者がいた。せっかく教えた万次郎の魚の群れの来たことを教えるも、ぐずぐずと起きない。起きたときには既に群れは去ったあとで、ウソをついたことになった。おまけに母の悪口を言われ万次郎はけんかをしてしまう。夜、母のところに帰った。帰る日ではない日に帰ってきたことに母は庄屋に相談に行き、船に乗る金200文を用意してきた。
 万次郎は土佐の国宇佐浦の網元徳右衛門の元で働くようになる。20人の漁師と一緒である。万次郎の目利きと、やきおにぎりのうまい作り方で喜ばれる。
 ところが、漁に出てしけにあい船は大破し、5人が島に流れ着く。万次郎は14歳だった。
1839年、米国東部ニューベットフォード港では、この町は鯨で持っていた。27歳から船長をやって今、36歳のウィリアム・ホイットフィールドは300トン級の捕鯨船でジャパンから610キロほど離れた海域に向けて出航した。水夫は25人、そのほかの職人16人を連れていた。江戸・徳川のサコクという政策も承知していた。船の名はジョン・ハウランド号である。
1633 ポリティコン 上・下
Date: 2011-4-25

おすすめ度 ★★★★

  桐野 夏生 著  文芸春秋  発行:2011年2月

 真矢の小学校のころは、自宅に母の仲間が入れ替わり立ち替わり訪ねてきていた。狭い部屋に数日泊まっていくこともしばしばだった。それが、いきなり追われるようにマンションを出て仙台の安アパートに移った時は誰も来なくなって、その部屋を世話してくれたクニタと母と真矢の三人でトイレの脇の部屋に住んだ。誰も訪ねてこなくてこれが普通の生活なんだと思った。
 4年後、マンションに移り、自分の部屋もできたら再び母の仲間が来るようになった。その人たちは決して裕福という生活はしていなかったが優しかった。マンションに越したと同時にクニタは出て行ってしまった。
 ところが、高校2年生の時、母が旅行に行き予定を過ぎても帰らなかった。そこへクニタが数年ぶりに訪ねてきた。国境で捕まったという情報が入ったという。母は北朝鮮に行ったようだ。
 クニタに連れられて「唯腕村」に行った。その時、スオンとアキラという子どもも連れてである。
 「唯腕村」は80年前にできた理想郷で村人は農業で暮らしを立てていたが、高齢化が進んでいるという。「唯腕村」は彫刻家の高浪素峰と小説家の羅我誠が一緒に庄内平野の奥、山形県馬淵町にあった。農地を開拓してコミュニティを作ったのだ。
 高浪東一は自分がこの村に住むヤイ子を母、素一を父と思って暮らしてきたが、村のアリスから本当の母は創始者の娘の羅我和子だと言う。今は川島和子と名乗っているが東京の目黒に住んでいると教えてくれた。
 東一は真矢に興味を持ったが上京し和子に会う。飲み屋をやっていた。和子がやっていたもう一軒の店をライブハウスにして東一がやり始めた。赤字続きだった。
 そこへ父親の唯腕村理事長の高浪素一が死んだと知らせがあった。唯腕村に帰る。父の代わりに理事長を継ぐと決意する。
 東一は真矢に進学するお金を出す代わりに大学を卒業したら村に戻ってくると一筆書かす。同時に東一と真矢は結婚を約束するが、東一はホアと浮気してしまう。東一やり方や今後に不安を持つ村人から東一に異を唱える者が出てきた。
 金に困った東一は高級クラブのオーナーの小杉にあろうことか真矢を200万円で売り渡す。
 真矢が唯腕村を出て10年がたった。27歳になっていた。この十年、キャバクラで働いたり、妻子のある男と付き合っていた。
 偶然、スオンに伊勢佐木町で会う。村は今は若い子や観光客が来て変わったという。家もきれいになった。
 このところクニタの体の調子が悪いと聞く。入院先の最上病院に見舞う。やがてクニタも亡くなる。病院に東一もやってきた。久しぶりに会ったが、東一を「お父さん」と呼ぶ基一という男の子がいた。基一の下にまだ三人の子もいると言う。東一は手当たり次第若い子に手を出しているようだ。
 クニタの葬式の日、久しぶりに真矢は母の情報を聞いた。あと数年待ってほしい。数年すれば北の体制が変わるかもしれないからと。母は助けなければならない人を助けていたのだ。
1632 砂上のファンファーレ
Date: 2011-4-22

おすすめ度 ★★★★

  早見 和真 著  幻冬舎  発行:2011年3月
 
 東京都と神奈川と山梨が入り組むニュータウン「コスモタウン三好」に新築の一戸建て住宅を買ってもう17年になる。当初夫の年収は八百万だったが、今は六百万に目減りしている。44歳で買ったローンは79歳まで支払わなければならない。おまけに6年目と11年目に年収が上がるものとしてローンの返済額も上がる仕組みになっていた。現在は25万円が住宅ローンの支払額である。
 夫は61歳。退職後は退職金をつぎ込んで授業を始めていた。妻の玲子はノンバンクにも手を出し、やりくりをしてきたがもう限界であった。夫に相談するも、「俺から仕事を奪う気か。死ねということか」と取り合わない。
 そこへ自分がアルツハイマーではないかと思うような記憶の戻らないことがある。思い切って医者に行った。ピンポン玉ぐらいの腫瘍が脳にあると言われた。「この1週間が山かもしれない」と。緊急に入院した玲子。
 息子二人がいる。長男浩介は大学を出て大手電機メーカーに勤め24歳で結婚した。弟の俊平はまだ大学生。
 母の入院で、長男の浩介は自分の家が火の車であることを知る。健康保険料は1年近く滞納していた。ノンバンクのカードが続々と出てくる。計算すると月に60万ないと生活していけない。奨学金の督促まである。父の会社の浩介の保証人分が1200万円分あるという。これだけでも返さないといけない。家を買うためにためた1200万円を出すか。妻の深雪がどういうかと考えた。
 母の玲子は、もう手の施しようがないという三好の病院を退院しなければならない。浩介は別の病院を探し始めた。そして日本女子医大で母は手術を受けた。悪性のリンパ腫だった。その後は築地のがんセンターで1週間入院、1週間自宅を5回繰り返し抗がん剤を投与するという。
 その間に、生活基盤を見直し、三好の家を引っ越すことにした。築地にも大江戸線で1本で通えることから練馬の家賃9万8千円の3KDKのマンションに越すことにした。
 1週間と言われた母の命、今、54か月たった。二男の俊平も不動産屋で働く梓と結婚をした。母も安定している。 
1631 再会
Date: 2011-4-20

おすすめ度 ★★★★★

  横関 大 著  講談社   発行:2010年8月

 息子の正樹が万引きをした。母の万季子はその店のスーパーに駆けつける。店長はモニターに写っている画像を見せながら「今日中に30万」という。万季子は別れた夫清原圭介に連絡をする。夜、二人で金を渡しに行く。しかし、店長の佐久間は万季子の身体を要求して来た。
 100万円で何とかしてもらおうと再び二人で店長を訪ねると店長はすでに死んでいた。
拳銃で撃たれていた。
 万季子と圭介、直人、淳一は何をするのも一緒の小学校の同級生だった。佐久間は直人の腹違いの兄だった。淳一は5年前から刑事課勤務になり、今年の春地元の警察署に配属された。
 佐久間の事件で淳一と後輩の南良刑事と30年ぶりに直人の家に出向く。被害者の家だ。
佐久間は2ヶ月前から離れに住んでいたという。
 やがて、淳一は万季子の息子が万引きをしたことを知る。そして、タイムカプセルに埋めた23年前の拳銃を掘ってみようと圭介と直人を呼び出す。しかし、カプセルに拳銃はなかった。
 23年前、圭介の父清原巡査が銀行強盗犯人大島伸和を森の中で射殺し、清原巡査も死んでいた。清原の拳銃と犯人が盗んだ3千万円が亡くなっていた。その現場に偶然、小学6年生だった4人の子供が入り込んだ。拳銃の音がしたからだ。倒れていた清原の父を見た淳一は振り返った犯人をめがけて清原の父の持っていた拳銃を撃った。犯人が倒れた。
 ほかの仲間が警察に知らせるために走っているはずだ。直人は森を抜ける手前で警官に会ったという。4人は銃声を5発聞いていた。
 万季子が失踪した。南良は、23年前の事件を圭介、淳一、直人らと現場で検証をした。
15メートル離れた距離で犯人を撃てることは小学生では無理だ。胸を撃たれた巡査は即死である。犯人が最初に1発巡査に向けて発砲、巡査は2発の威嚇をして、巡査の胸に当たった1発で絶命している。巡査が最後の力を振り絞って犯人を撃ったとあるが無理だ。誰が5発目を撃ったか。別に犯人がいる。その犯人がかねも持ち去ったのである。
 万季子が捕まった。拳銃を持っていた。残りは3発であった。弾は5発しか入らない。淳一は発砲していなかった。
 万季子は事前に佐久間に会った。佐久間が持っていた銃で脅したが、もつれあって暴発した銃で佐久間が死んだ。銃はタイムカプセルからずっと以前に直人が掘り起こしていた。
 そしてまもなく、直人が持っている銃は佐久間に取り上げられた。
 23年前の事件、南良刑事の検分により金を持ち去った犯人がわかった。なんと淳一の上司だった。
1630 誰でもよかった
Date: 2011-4-17

おすすめ度 ★★★★★

  五十嵐 貴久 著  講談社   発行:2011年3月

 「今、渋谷これから人を殺します」という掲示板に書き込んだ男は軽トラックのアクセルを踏んだ。車は信号を無視して交差点に突っ込んできた。澁谷のスクランブル交差点はパニックになった。軽トラックは向きを変え再び人々に向かっていく。そしてセンターが街入口で止まった。男は車から降りるとダガーナイフをもって倒れた人を刺して行った。
 男は喫茶店ボヘミアンに入り、10人の客や店員を人質に立てこもった。交差点での死者は10人だった。
 警視庁捜査一課と特殊捜査班が現場に向かった。12時45分、現場に集まった警察官の数は60人を超えていた。
 軽トラックがレンタカーだったことから借主の名前が割れた高橋浩二でコンビニのアルバイト店員だった。すぐさま両親に連絡が入る。
 コンビニでは高橋が陰気で人とあまり話さないことから店員など親しいものがいなかった。高橋は一人でアパートに住んでいた。
 渡瀬警部補が陣頭に当たった。
 掲示板には犯人が投降したとみられるスレッドがたっていた。現場に母親を連れていく。警察の指示で高橋と母親は電話で話をするが、高橋は母親を現場に連れてきたことをいかった。根気よく説得を続ける渡瀬警部補。10時前、犯人は要求した車に乗り込む際に、最後の一人の人質を車に押し込んだ後、運転席に回り込む瞬間に狙撃され、胸に2発の銃弾を浴びて即死する。
 渡瀬警部補はこの処理に憤慨する。横川課長からの命令だった。死亡した被害者は12人に増えていた。渡瀬警部は課長に食ってかかる。課長は余裕がなかったを繰り返した。しかし事件の動機や真相を知るために射殺は避けるべきだったと、課長の命令は殺人と同じだという。無差別殺人犯は射殺されるというコンセンサスがほしかったのか。犯人は犠牲者は誰でもよかったと言った。課長にとっても犯人は誰でもよかったのではないか。
1629 ちょちょら
Date: 2011-4-10

おすすめ度 ★★★★

  畠中 恵 著  新潮社   発行:2011年3月

江戸留守居役とは、藩主不在の折に藩を守る身分の高い役職と、聞番やお城使いという中程度の藩士がなる藩の外交を引き受ける役とがあった。
 兄の急死の後、太多良木藩江戸留守居役となった新之介は自分に務まるかと心配していた。兄の許嫁だった入江千穂も突然いなくなってしまった。
 太多良木藩は五万五千五区の武士であったが、財政は逼迫していた。兄はお手伝い普請という幕府が諸大名にいいつける大規模工事を命じられることがある。命じられれば五千両にも及ぶ普請費用を捻出しなければならない。どこにそういう金があると言うのか。
 おまけに、表坊主衆という者たちに江戸城内で幕府の情報を掴むのに気を使わなければならなかった。付き合いを疎かにすると何千両もの出費を幕府から仰せつかることもあった。
 兄は刀で腹を刺して血だまりの中で死んでいた。婚礼を前に何があったと言うのだ。
料亭で表坊主衆との接待の席に札差の青戸屋をよんでいた時、偶然仲居をしていたのが兄の許嫁だった千穂である。新之介はびっくりする。聞けば父上は病死し青戸屋から千穂へ妾の話が持ち上がっていると言う。青戸屋は五十を超えた町人。千穂は武家育ち。なかなか返事ができないでいる。千穂の母は病に伏して母子で長屋暮らしという。
 新之介は兄ほど剣も上手くないが、兄が命を縮めた真相を知りたいと思うが、留守居役の仕事の多忙にまかせてままならなかった。
 そこへ西の書院番の松平外記が表坊主の良順を切りかかったが、良順は難を逃れたが、外記は切腹したという。そのことを一刻も早く松平家に知らせねばと新之介は駕籠を飛ばして告げに行く。ところが、松平家はそれに聞く耳を持たないばかりか、新之介に刀を向けてきた。騒ぎに千穂に似た奥方が出てきた。
 その帰り、新之介は何者かに狙われたものを助けた。それが青戸屋の手代であった。新之介は青戸屋に千穂の妾の話を妾ではなく本妻にするという件を本気で考えてほしいと頼む。
 印旛沼の干拓普請のうわさが出る。新之介はこの普請を受ける財力がない。そこで、一計を案じて、二百六十五藩がすべてお手伝い普請から逃れてしまえばいいと考える。
その案に千穂は青戸屋にも助けてほしいと頼む。青戸屋は千穂への妻としてとの申し込みが受諾され、新之介のお手伝い普請の総抜けに手を貸そうと答える。
1628 密航屋
Date: 2011-4-8

おすすめ度 ★★★

  野村 宏之 著  新潮社   発行:2009年6月

タイ語、中国語、日本語で「馬」とよばれる裏稼業がある。「人間の運び屋」である。「馬」には特定のエージェントと契約しているのも、一人でフリーランスに行っているものがいる。密航者を「子豚」とよぶのは中国人のこと。「ニワトリ」とよぶのはタイ人の事である。
「馬」は「子豚」や「ニワトリ」の夫婦を装ったり、親を装ったりしながら空港警察や出入国管理局、エアライン職員の目をかいくぐってアメリカや日本などに入国させる。
 中国のパスポートは信用性が低いため、目的地まで使うことができない。「子豚」は台湾人、タイ人、シンガポール人、日本人などに化けなければならない。インド洋上で中国人女性が消えてタイ人女性に変わっていることもしばしばだ。ヨーロッパ方面の運び料は二千ドルが相場であるが、安く押しつけられることもある。「ニワトリ」は二、三百万円を用意し出国を企てる。目的地に潜り込めば倍返しが相場である。早く借金を返すために日本男性を次々と手玉に取ると言う。
 「馬」はホテルで中国女を日本の漢字で名前が書けるように練習させたり、失敗したときには自分も捕まる可能性が高いから、寸でのところで「ニワトリ」や「子豚」とは関わりのないふりを装う。しかし、捕まることもある。入国審査の甘い空港の情報を得て遠回りして目的地に行くことがほとんどであった。
1627 ウツボカズラの夢
Date: 2011-4-5

おすすめ度 ★★★★★

  乃南 アサ 著  双葉社   発行:2008年3月

 未芙由は高校を卒業したあと、4月の初めに母の妹の叔母を頼って上京した。渋谷の高級住宅街に叔母の家はあった。叔母の尚子は未芙由を1カ月程度引き受けるつもりでいたが、未芙由の父が母の死後すぐ再婚をしたため帰るところがないと不安を訴えるとその覚悟をしてくれた。尚子の家は夫の両親との二世帯住宅であった。
 階下に老父母が2階部分が尚子の家だった。1階にも2部屋の空き部屋があり、そこを未芙由に与えた。
 尚子の夫の鹿嶋田雄太郎は若い女性と援助交際をしていた。妻の尚子はあまりきれい好きではなくよく出歩いていた。長男の隆平は大学に行きアルバイトをしていた。娘は高校生になったばかりである。
 未芙由は与えられた部屋で半月以上のほとんどを寝て過ごした。よく寝ていた。5月5日になって、快適に目が覚めた。やっと雄太郎や娘の美緒と顔を合わせた。未芙由も家事を尚子と交代ですることになった。長男の隆平は未芙由の料理を上手いとほめてくれた。
 未芙由は料理が好きだったことから、厨房の仕事をしようかと考えるようになった。雄太郎は援助交際の女の子と別れた。未芙由に興味を示した。が九州に転勤になる。その頃、娘の妊娠が発覚する。母親の尚子も家に帰らなくなった。出会い系で男を捕まえたようだ。隆平は未芙由と親しくなった。
 階下で祖母が転倒をし車いすになる。未芙由が介助する。
 やがて、未芙由と隆平の結婚が決まりホテルで行われた。出て行った尚子も転勤先から雄太郎も駆けつける。父も来た。しかし、お通屋のような盛り上がりに欠ける結婚式だった。そればかりか、自分の事ばかりを優先する人々。閉会をするまえにてんでに会場を去ってしまった。祖母は未芙由に「いざというときにしゃしゃり出てくる人たち、あれだけの人たちに見せておけば後で何を言っても無駄だと分かったでしょう。プラスにならないと思ったら関わらないことがあなたたちへのプレゼントだ」という。
 祖父母と未芙由と隆平の4人の生活があの家で始まる。
1626 誇り
Date: 2011-4-1

おすすめ度 ★★★★

  今野 敏ほか 著  双葉社   発行:2010年11月

「常習犯」今野敏著 
 空き巣の手口から48歳の萩尾警部補は牛丼の松だと分かった。「早い、上手い、安い」で大金は盗まない、半分置いていく。仕事は早い。荒らさないので家人も気がつかない。
ところが3日後強盗殺人が空き巣の現場から近いところで起こった。牛丼の松が捕まる。殺しも松のせいにされたが、萩尾はちがうとにらむ。牛丼の松は殺しはしない。本人もやっていないと言い張っている。やがて真犯人が見つかる。牛丼の松はやっていなかった。

「猫バスの先生」東直己著
 幼稚園の送迎バスの運転手になった元警官の槙谷であるが、園児の中村迅英翔(ナカムラジェット)の父親らしい男の事が気になった。お泊まり会の行事の際、男が乱入し槙谷は男に腹を刺される。3ヶ月後、退院できた。男は警察学校長の息子であった。小さいころから手あたり次第悪事を重ねていた。いつも父親がもみ消した。最後に父親が見放したところで事件が起きた。

「去来」堂場瞬一著
 家宅捜査が失敗に終わった。押収したい資料すべてが棚から消え、パソコンのデータもなかった。誰かが事前に情報を漏らしたと思われる。菅谷はその報告を部長室で聞いた。
菅谷も部下に任せず、自分でも調べ始めた。そして部下に一人に焦点を当てる。菅谷はその部下に辞表を書かす。記者会見をし、その責任をとって自ら辞職すると告げる。娘が刑事になりたいのだと知った。
1625 軽井沢令嬢物語
Date: 2011-3-30

おすすめ度 ★★★★

  諸田 玲子 著  祥伝社   発行:2010年3月

 満智子と麻由子は軽井沢で生まれた。父がホテルを経営しており、2人は朝霧ホテルのお人形ちゃん姉妹と言われていた。
 戦時下で物資も少なく、軽い沢の周りはスコットランドの気候に似ていると外交官や文化人がこぞって別荘を建てた。それ以前に英国人をはじめドイツ、スイス、ロシア人が別荘暮らしをしていた。満智子が女学校4年の時の夏、母は亡くなった。
 半年後に父は再婚した。満智子は西荻の叔母に、麻由子は阿佐ヶ谷の叔母に引き取られた。昭和20年3月麻由子は女学校を卒業すると再び軽井沢に戻った。軽井沢は疎開してきた人でごった返していた。
 そして終戦、ホテルはアメリカの占領下で進駐軍が止まるようになり、やがて接収されたが、ホテルに住むことが許された。
 昭和22年夏、父が満智子に縁談を持ち込んだ。京都の呉服屋の息子だと言う。しかし、満智子は10月の挙式間近になって突然断ってしまう。12月に立教大学のジャズバンドでピアノを引いている青年と結婚することになった。直前のキャンセル事件も承知してのことだった。
 麻由子はダンスパーティで知り合った銀行家の御曹司で早稲田大学のOBの吉村公夫に結婚を申し込まれた。父は反対したが、父の知人を中に話を進め結婚をすることに決まった。父は反対であった。麻由子が19歳、公夫は24歳だった。東京の南麻布で暮らし始める。しかし、結婚2年で麻由子の夫の会社は不渡りを出した。建てたばかりの家を売った。市川に住んでいる姉の満智子の家に厄介になる。その後、青山に新居を構える。
 物資は不足しており、軽井沢で親しくしていた日系2世のトミーから譲ってもらった品物を売りながら生計を立てた。夫の公夫は父の紹介した会社で働くようになっていた。
 昭和27年、麻由子は恵比寿に移り住んだ。そして4年ぶりに娘を連れ軽井沢に祖父を見舞った。夏を軽井沢で過ごし、美容師になろうと決心する。
 途中で一旦恵比寿の家によってみると、なんと夫の公夫は別の女性と寝ているではないか。麻由子は公夫の制止も振り切って軽井沢に舞い戻る。
 翌年、麻由子は美容師の国家試験に合格し、青山のビルの1階で美容室を開店させる。
1624 ししゃも
Date: 2011-3-27

おすすめ度 ★★★

  仙川 環 著  祥伝社   発行:2007年7月

 恭子は日本の三大商事のひとつである五菱商事を辞めたのは三月末だった。四月の辞令が発表された翌日であった。部署が消滅することになり食品会社への出向だった。三十前なら再起もできると言われた。故郷の三宅町に帰ってきた。
 父が倒れて入院したという知らせにすぐその足で病院に駆けつける。父はこの町で30年以上自転車屋をやっている。狭心症だった。
 三宅町をなんとかしようと、恭子は三宅水産試験場で見た虹色のししゃもを本格的に地元産業としてやっていかないかと役場に掛け合う。北海道産のししゃもを超える虹色のししゃもを世に広めたいと思った。 虹色のししゃもを研究しているのは池野勇介という。しかし、池野は恭子の話に乗り気ではない。東日新聞に葉書大で記事も載った直後、池野は試験場からいなくなってしまった。
 池野が出たという大学に連絡するが、池野はタイにわたり研究していたという。しかし、池野は3年前に亡くなっていた。ここにいた池野は偽名だった。
 柴田建設の正岡晋という人物がこの池野によく似ていると言う。人工湧昇の研究をしている人物だと言う。その正岡も2年ほど前に自殺したという。
 新聞にししゃもが出たことで正岡の妻がやってきた。主人は生きているのではと思っていた。自殺で見つかった時は白骨化していた。遺書と靴から正岡とされた。
 これには正岡のいた研究室の教授も関わっているのではないか。
 虹色ししゃもは3年後の出荷に向けて動き出した。
1623 苦役列車
Date: 2011-3-23

おすすめ度 ★★★

  西村 賢太 著  新潮社   発行:2011年1月

 貫多は19歳の日雇い人足で働いていた。毎日ではない。金が底をつきそうにならないと身体が動かなかった。行けば日当五千五百円がもらえる。マイクロバスで連れて行かれ、イカだかタコだかの固まりを木製のパレットに移すだけの仕事を延々と8時半から5時まで働くのである。昼食には弁当があてがわれる。
 貫多が小学校の5年の時、父が性犯罪で捕まりテレビのウイークエンダーで大々的に取り上げられたことで母と中学生の姉の3人で船橋に越した。両親は離婚し、母の姓を名乗るようになった。貫多も中学を卒業すると母親から金を巻き上げ家を飛び出した。
 中卒では職に就くのも苦労した。結局、山手線の駅からでるマイクロバスに乗って運ばれていく日雇いの仕事しかなかったのである。
 人と垣根を作ることに慣れてしまった生活であったが、ある時、同じ荷役会社のマイクロバスに乗り込んだ若い男に声をかけられた。男は初めてこの仕事に就いたようだった。
 昼飯も一緒に食べるようになり、会話をするようになった。男は専門学校へ行っていると言う同じ年の日下部という。
 日当をもらった帰りに飲んだりするようになった。貫多は日下部と知り合ってから、毎日仕事に出るようになった。上野で飲んだ勢いで貫多が誘ってのぞき部屋にも行った。日下部は躊躇していたが、付き合ってくれた。
 やがて、日下部に彼女ができた。3人で飲んだ時に貫多の卑猥な言葉に日下部が彼女に誤っている様子を見た。日下部との仲も少し距離ができた。貫多は部屋代を滞納しアパートを追い出される。日下部に同居をさせてくれるよう頼むが断られる。その代わり五万円を借りた。それを元手に板橋で部屋を借りる。
 日下部が今週でやめると言った。貫多は倉番の仕事をさせられていた時、不機嫌が態度に表れ、それを指摘されると担当者を殴ってしまいクビになる。
 日下部から彼女と入籍し、郵便局に勤めていると知らせがあった。貫多は相変わらず別の荷役会社に移ったものの日払いの仕事から抜け出せなかった。
1622 パラドック13
Date: 2011-3-20

おすすめ度 ★★★★

  東野 圭吾 著  朝日新聞社   発行:2009年4月

 宝石店を狙う中国人窃盗グループの犯人の一人に手錠をかけようとした冬樹巡査はわき腹に激痛を感じた。それでも逃げる犯人を追った。兄の久我誠哉は胸を打たれ血を流していた。何かが体を貫通する感覚があった。逃げる犯人の車にしがみついていた。
 そして気がついた時、自分の周りから人々がいなくなっていた。無人のデパート。電気はついている。エスカレータも動いている。ビルの屋上で母子を発見した。母親は倒れていたが冬樹の呼び掛けに目を開ける。ミオという子と白木栄美子だ。
 銀座の寿司店に男がいた。フグのように太った男だった。新藤太一だ。八重洲口でコミネと言う男と女子高生明日香と老人夫婦山西繁雄と春子と20代の女性看護師富田菜々美などがいた。そこへなんと兄の誠哉もいた。
 コンビニのモニターを見る。13時13分、この瞬間に人が消えている。カゴを持った女性もカゴだけが床に落ちていた。人間だけが消えている。地震のような余震が続いている。
 誠哉は警視庁に向かう。誰もいない。刑事部長の机から「P-13現象への対応」という書類を見つける。対象時間内に総理官邸に対策本部が設置される見込みとある。誠哉は総理官邸に行く。
 誠哉は仲間のところに戻ると皆で総理官邸を目指した。途中、日比谷公園の近くのホテルで身体に入れ墨のある男が倒れていた。インフルエンザにかかっているようだ。皆を隔離した方がいい。タミフルを探しに出た。探しに出たものも感染していたが、数日後熱が下がり終息する。
 この誰もいない現象が13秒の数学的矛盾(パラドックス)は、存在していたものは13秒後に存在しているとは限らない。13秒間の間に死んだものは元の時間には戻れない。
そうだ。自分はあの時殺されていたのではないかと誠哉は思った。それなのに今、死んでいないことに不思議を感じていた。他のものも、鉄骨の直撃を受けたもの、運転中にトラックに突っ込まれたもの、マンションで見つかった赤ちゃんも母親に殺されていた。親子もビルから自殺しようと飛び降りていた。そこにいる12人は、その時死んでいたのだった。
 小峰が資料を読み、36日目の4月18日13時13分にあの現象を引き起こした波が再び地球を襲うと出ていた。あの時と同じ状態つまり死んでいたら元の世界に戻れる可能性がある。官邸に地震が来た。建物が破壊されていく。冬樹たちは元の世界に戻れるのか。
1621 ほかげ橋夕景
Date: 2011-3-17

おすすめ度 ★★★★

  山本 一力 著  文芸春秋   発行:2010年10月

五ノ橋というのは味気ないからというおすみの母親おきちが火影橋というのはどうかというのでつけた名前だ。傳次郎の親子三人しか知らない名前だった。
 おきちが心臓の発作で9歳のおすみを残して死んだ。傳次郎は後添えを紹介されても耳を貸さなかった。おすみが20歳の時、大工の浩太郎が年始に来た。初めての客におすみも快くもてなす。酒もまわった傳次郎は二人で富岡八幡宮に行くように言う。2月、浩太郎は傳次郎におすみと所帯を持ちたいと話す。傳次郎は浩太郎に所帯を持ったら、傳次郎の住む深川からなるべく遠くで暮らし、早く自分たちの家族の土台を築けと言う。親元に気をかけるのはしっかりと基礎が固まってからだと約束させる。
 結婚が決まってからおとっつあんの機嫌が悪い。おすみは気にしていたが、飲み屋の彦八が傳次郎はこの結婚を喜んでいたと教える。ほか7篇
1620 世界でいちばん長い写真
Date: 2011-3-11

おすすめ度 ★★★★

  誉田 哲也 著  光文社   発行:2010年8月

 中学生の宏伸のおじいちゃんは鉄工所をしていたが辞めてリサイクルショップをしている。
壊れた家電を修理して売る仕事だ。
 おじいちゃんの留守にジュラルミンのケースに入った写真機を見つけた。早速宏伸は近所の写真やさんに行き見てもらう。 
 すると、それは360度を写せる回転式のカメラだった。写真部だった宏伸はさっそく友達を連れて撮りに行く。1回目は失敗だったが、2回目にひまわり畑を撮った。
 ひまわり畑は自分でも驚くほどよく撮れた。写真屋さんもほめてくれた。
 そして、卒業記念にこの長い写真を撮ることを提案する。ギネスでは50.2メートルが世界一長い写真だ。360度回転で13回転する予定だ。
 クラブをしていない帰宅組に協力をお願いして各クラブが活躍するところをそれぞれにとる。18メートルの半径の円に並んでもらい25組のクラブがそれぞれがリハーサルをして備えた。
 音が写らないが、生徒の輪がギュッと凝縮したように感じた。撮れた!
 ギネスからは連絡はないが世界一長い写真は自分のカメラで人々が笑ってくれたり、楽しんでくれたことがうれしかった。
1619  リミット
Date: 2011-3-10

おすすめ度 ★★★★★

  五十嵐 貴久 著  祥伝社   発行:2011年3月

 オールナイトジャパンという深夜ラジオ番組あてにメールが届いた。パーソナリティを務めるのはお笑い芸人のパセリセロリの奥田雅志だ。高校を出て上京して12年がたっていた。奥田は8年前にテレビの放言がもとで一時各テレビ局から干されていたが、ラジオ番組は30分枠であったがデレクターの安岡が起用し続けた。6、7年前からコンビは頭角を現し毎日テレビで見ない日はないぐらいの人気者になっていた。
 自殺予告メールは「一番好きだった奥田さんのオールナイトジャパンを聞いてから死のうと思います」と文面の一部に書かれていた。
 奥田はオールナイトジャパンで5周年の記念日となる日に、このメールを送られた。このことは伏せるようにスタッフに言われるが、枠にとらわれない奥田は番組の冒頭で暴露してしまう。「お前にはお前の生き方があるだろう。どの道を選ぶかはお前の判断だ。好きにしたらええ。だが、番組に迷惑をかけた申し訳ありませんと電話かけてこい。それが筋と言うもだ」と奥田は自分の携帯番号を番組中に伝える。
 警察も動いた。送られたメールが携帯ではなくパソコンからのものとわかった。そしてそれはマンガ喫茶からのものだった。防犯カメラから利用者のおぼろげな姿が見えてくる。
番組は午前3時までの2時間。奥田はメールのお前にこだわった。それはスタッフとの打ち合わせに反していた。そして、番組は終了時間を迎えるが、次の時間帯も奥田が出演して続行した。夜中に集結した若者たちが自殺予告者を放送局近辺で捜した。ラジオを聴いている1メートル70センチぐらいの若者。
 そして放送局から数百メートルの歩道橋にいる者を見つける。漫画喫茶の映像では赤のパーカーを着ていたが、目の前には黒だった。しかも女だった。しかし、足元を見て安岡の表情が変わった。こいつだ。案の定彼女のパーカーの裏は赤だった。見つけた!
 中野に住む圭子は20歳。4歳上の兄は高校2年から不登校になった。そして家庭内暴力が始まった。その上、2週間前に圭子が兄から乱暴を受けそうになった。もう家庭ではない。うろたえる両親。崩壊した家族、絶望した圭子は自殺をしようと思ったという。
1618  ダークゾ−ン
Date: 2011-3-9

おすすめ度 ★★★★

  貴志 祐介 著  祥伝社   発行:2011年2月

 暗い部屋に男女18人がいる。塚田裕史20歳もいた。塚田はプロの予備軍である新進棋士奨励会の三段だった。大学3年生でもある。塚田は赤の王将だ。暗い部屋で唐突に声が響いた。「私は一つ眼だ。15分以内に青の敵軍が来る。青の王将を4度殺すことができれば我々の勝利だ」 その時、なつかしい理紗の声が聞こえた。彼女は赤いオーロラに包まれて見えた。青の王将は奥本博樹、自分と同じ三段であろう。
 この場所は長崎の沖合の端島つまり軍艦島である。闇の情景から34人がいることが分かった。塚田はこのまま戦わなければ負けてしまう。攻撃を仕掛けてきたら損失が出ても反撃すべきと考えた。しかし敵が見えない。島を探す。塚田は敵の包囲網へと進んでいく。口から発した炎の柱が青の王将を捕え消えた。
 始祖鳥と呼ばれる女を塚田はジャーナリストの嫌な女高柳弘美ではないか。青軍は日給社宅付近が根城だった。一つ眼はテレパシーが使える。
 探検部の部長正岡ら7人は軍艦島にやってきた。塚田も理紗もいた。塚田は理紗と同棲していた。そして妊娠していると告げられる。神社の石段の下でうずくまる理紗。出血している。鮮血が滴った。医師から理紗が亡くなったことを告げられた。
 塚田が眼を開けた。古いアパートの中だった。新聞に2010年9月2日軍艦島で白骨死体発見のニュースが載っていた。あのダークゾーン修羅の世界だった。車の泊まる音、来るべき日が来たと塚田はとっさに逃げた。そしてRV車の車体が迫ってきた。すべて闇に閉ざされてしまった。
 端島の死体は3年前失踪した奥本博樹のものだった。理紗は10年前に同じ端島で亡くなっていた。
1617  殺気!
Date: 2011-3-8

おすすめ度 ★★★★

  雫井 脩介 著  角川書店   発行:2009年9月

 ましろは小学校6年生の時に連れ去り事件に会っていた。建設途中のビルに連れ込まれ脅された。詳細は忘れたが、以来ましろには殺気を感じると言う不思議な力がついた。
 コンビニ強盗が店に入るなり、あやしい男と感じた。男はレジの金を奪って逃げた。とっさにましろはカラーボールを犯人にぶつけた。犯人は捕まった。
 友達とファッションコンテストをしている最中に、殺気を感じとっさによけたが火炎瓶が飛んできた。
 理美子の父は山菜とりで事故にあって死んだとされていたが、実際は仕事中、資材が倒れて事故死したことを無資格で重機を動かしていた人間がみていた。会社側がそれがわかると公共事業の指名停止にされることから、自然公園に遺体を運び山菜とりの事故とした。
 ましろの不思議な力に興味を持ったタウン誌の記者次美はましろの過去を探し始める。
ましろは同じころに連れ去り事件に遭遇していた。
 ましろの父が病死して、あのころ理美子がどんな思いだったか心のうちを察することが出来るが、9年前はわからなかった。
 ましろと理美子は偶然、駅で起こった階段の転落事故で再会する。
ましろの封印した連れ去られ事件と理美子の父の事件がつながった。
1616  カルテット3 指揮官
Date: 2011-3-7

おすすめ度 ★★★★

  大沢 在昌 著  角川書店   発行:2011年1月

 ミドリ町から帰ってからホウは思った。日本人は軟弱で根性のない奴ばかりだと思っていたが、タケルをみて、あんな奴が日本人にいると驚いた。
 タケルはカスミを見る目が変わった。カスミを頭にチームの結束力が強まった。
 カスミが栃木と福島の境の山奥にある寺を訪ねた。タケルもホウも一緒だった。郡山という坊さんに会いに行った。郡山は寺で薬をやっていた人々をヤク抜きにさせるボランティアをしていた。郡山はカスミの父藤堂の片腕と言われた男だ。カスミの父は外国をまたにかけて活動をしていた。ある国ではテロリストと言われ、ある国ではコンピュータ犯罪の集団としていわば海賊のような存在であった。
 郡山の寺に賊が入った。寺は炎上し、カスミたちは逃げ延びた。
 東京に戻ったカスミたちは、クチナワに会い8年前タケルの家族を皆殺しにした犯人たちがダッカナイフを用いていたと知る。一木会という暴力団が発足したのはその事件の後だった。
 タケルの一家を殺した犯人と郡山を殺した犯人は同じだろうとクチナワは言う。
 タケルハ一木会に一人で出向いていく。グルカキラーというプロの殺し屋集団の行方を知るために。
 案の定つかまり、拷問を受けるがクチナワに助けられる。
 カスミは父の率いる集団がタケルの一家を殺したのではないかと心配する。
 カスミも藤堂の娘として会うべき人がいた。
1615  アリアドネの弾丸
Date: 2011-3-5

おすすめ度 ★★★★

  海堂 尊 著  宝島社   発行:2010年9月

 桜宮岬に建つ東城大エーアイセンターのセンター長に任命された田口公平。エーアイセンターとは、死後画像診断センターのことである。このエーアイセンターは司法解剖も含むとして、副センター長やオブザーバーに警察関係者が入っていた。
 田口も厚生労働省の白鳥をオブザーバーに、房総救命救急センターの彦根新吾医師を副センター長にしてくれるように頼んだ。結果、副センター長は7名、オブザーバーは4名もいると言う変な組織になった。
 エーアイ情報をすべて公開するという意見に元警察側が自白の信ぴょう性を裏付ける有効性が消失すると反対する。また、エーアイの症例が実績不足と言う意見に白鳥が碧翠院の崩壊時に桜宮巌雄院長から託された2千近い症例があるという。
 3回目のエーアイセンター運営連絡会議が開催される前日、MRI技術者の友野が画像診断ユニットの片隅で死んでいた。外傷がないことから故障個所の修理中の事故死かと思われた。遺族は司法解剖を拒否した。医師たちはそれならCTかMRIを受けるように言う。
 CTは3割、MRIで6割が原因の究明が出来ていた。
そして、北山元局長が殺され、高階病院長が拳銃を手にして倒れていた。高階病院長は逮捕される。北山元局長の頭部に弾丸がとどまっていることが分かる。弾丸がとどまる位置は300メートル先から売った場合で、大抵は貫通してしまうはずだ。北山元局長は左目を打ち砕かれていた。
 やがて、高階病院長は誰かに仕組まれたものではないかと思われる。
1614  歌舞伎町セブン
Date: 2011-3-3

おすすめ度 ★★★★

  誉田 哲也 著  中央公論新社   発行:2010年11月

歌舞伎町を可視化したプロジェクトチームの歌舞伎町一丁目町会長の高山が鬼王神社で死んでいるのが見つかった。検視の結果急性心不全とされた。前日まで元気であった。
 小川幸彦は四谷警察署の刑事であったが、突然新宿署地域課に異動になった。交番勤務である。小川の父はかつて新宿区長をやっていた。その父の死によく似ていた。
 町会長は歌舞伎町のあちこちにビルを持っていた。地上げに絡んで円勇社という組が動いていた。
 小川は歌舞伎町セブンという70万で人殺しを請け負う組織があったことを耳にする。父が亡くなったころだ。
 小川は密かに高山の死の事件を調べ始めた。そして、上岡と言うフリーライターに出会う。14年前に死んだ小川区長のことを調べてくれた。父は死んだ当時63歳。しかも9月23日で気温は20度で動脈硬化の心配もなかった。
 陣内陽一がやっている「エポ」と言う店で小川は上岡と会っていた。歌舞伎町セブンには欠伸のリュウと言う男がいたそうだ。陣内も知らないという。エポによく来ていた斎藤吉郎が消えた。孫娘の杏奈もいなくなった。ところが、突然陣内の所に杏奈から、祖父の腕を送ってきたやつに復讐したいという。
 小川と上岡が関根組の組長市村から聞かされた14年前のこと。父の小川は議員の河井を自殺にみせて殺した。河井の妻は400万を持って歌舞伎町セブンに小川区長の殺害を依頼した。
 現区長三田静江は元の姓は河井と言う。死んだ亭主のコネを使って新宿区長に当選した。歌舞伎町を日本一儲からない町にするために。歌舞伎町を崩壊させるために立候補した。
しかし、陣内は許さなかった。またしても急性心不全にするには不審がられる。これまでと同様、口から差し込んだ針で脳幹を破壊させ出血も少なく死に至らしめた。そして風呂に付け、死体に無理やり風呂水を押し込んだ。
1613  阿修羅
Date: 2011-3-1

おすすめ度 ★★★★

  玄侑 宗久 著  講談社   発行:2009年10月

 結婚して3年の智彦は、妻美佐子の病気に直面していた。美佐子には友美という別の人格が住みついていて、おとなしい美佐子に対し、友美は派手で気が強かった。解離性同一障害の二重人格だという。
 美佐子から島へ行きたいと持ちかけられ、智彦も10日間の休暇をもらい行くことにした。島に着くと開放的になった美佐子はワンピース型の水着を脱ぎ捨て、ビキニをつけて海に向かった。友美が出現していたのだ。友美と名づけたのも誰かもわからない。
 智彦は医師の杉本に相談する。この島に来たのも、霊媒者に会いたいという美佐子の念願であった。杉本はそれはやめたほうがいいといい、杉本も島へ来てくれることになった。
 毎夜遅くまでホテルに戻らない妻を智彦は心配しながらも容認していた。そして、智彦がみた美佐子はずっと以前に出逢っていた絵里と言う人懐こい人格だった。ちょうど居合わせた杉本医師もびっくりしていた。3人目の人格が出たのである。智彦が結婚を決意したのは絵里の人格だった。
 美佐子は自分の知らない所で記憶が途切れ、頭に何かいるとわかっていた。友美が直接話しかけてくる。
 絵里について杉本は催眠療法で生育歴を聞く。絵里は祖母と育ったという。美佐子も24年前に海の事故で絵里と言う子と一緒だったという。絵里は見つからなかったが、美佐子が4、5才の頃だった。その話をした時、祖母はすごい怖い顔をした。
 日本に帰って、美佐子は本格的に杉本からカンファレンスを受けることになった。杉本は他にも協力を求め他の医師2人とチームを作り、3人の人格の少女期の生活史をたどった。その内容を美佐子に話したりモニターを見せた。
 やがて、友美と絵里は姿を消したが、新しい美佐子が現れた。当然夫のこともまだ知らない。
1612  京大芸人
Date: 2011-2-25

おすすめ度 ★★★

  菅 広文 著  講談社   発行:2008年10月

小中高一貫教育の国立校に通っていた菅広文は、高校の時に宇治原史規と知り合う。菅は中学1年の1学期の後、長野から大阪に越してきた。大阪の国立の中学校へ編入できた。長野で10番以内が、大阪では下から10番ぐらいになっていた。
 高校の時、宇治原が入ってきた。宇治原は特待生であった。普通に入っても国立高校は偏差値72で驚いた。宇治原のことを高性能ロボと呼んでいた。バスケに入り、宇治原となんでもない友達になった。宇治原が「僕のほうが面白い」と近づいてきたからだ。二人は仲好くなった。バスケでは宇治原はレギュラーになったが、菅は3年になっても補欠だった。
宇治原は京大法学部を受験する。滑り止めも受けていなかった。1発で合格する。
菅は大阪府立大学を落ち、一浪して大阪府立大学に入学できた。
 浪人しているときに吉本興業の竹中さんが予備校に講演に来た。「大学に受かったら吉本に行こうと思っている」と言うと「受かったら電話しておいで」と名刺をくれた。
 大学に入り、宇治原と菅はふたりで部屋を借りた。吉本に電話をし、NSCにも入っていないが、オーデションを受けた。毎週オーデションはやっていた。1年半ほどずっと落ちっぱなしだった。そして、合格した。プロフィールで大学に行っていることが分かると関西のスポーツ紙で取り上げられ、ワイドショーにも出た。宇治原の家は芸人になることを反対であった。芸人になって売れることでしか納得してもらう方法はない。
1611  婢伝五稜郭
Date: 2011-2-23

おすすめ度 ★★★★

  佐々木 譲 著  朝日新聞出版   発行:2011年1月

朝倉志乃は武家の娘であったが17歳の時、蘭方医の高松凌雲のもとで働くようになり、看護技術を身に付けた。凌雲はフランス医学を学んでいた。
 箱館の町に京都政権軍と追討軍の戦いが繰り広げられた。志乃の働く病院といっても寺であったが、そこにも追討軍はやってきて、負傷してベットに寝ている者でも敵とみなせば刀を向けた。また味方も敵に手当てを受けるとは武士の風上にも置けぬと刺殺されてしまった。志乃はその様子に憤りを感じた。
 病院に戻ったが、そこへ以前に手伝いをしていた小春から松前藩兵隊の内田剛三が遊女屋に来るという情報を得る。内田は志乃の恋人である医師の井上青雲を目の前で殺した男である。患者に刀を向ける兵隊を止めに入った井上は賊医者として刺殺されてしまった。
 志乃は内田を待ち伏せ、遊女屋の帰りに酔って気を抜いている内田にメスで血管を切り死に至らしめた。検視をした者から筋のような切り口を見てメスだとわかり、病院の者が調べられる。志乃は脱出して偶然出会った商人の仁兵衛の蔵の2階にかくまわれる。そこからロシア人のガルトネルの農場に匿われ、船で外国へ逃げる予定を立てた。
 ところが、志乃の手配書を配り、見つけたものに銀20枚を与えるとしたため、仁兵衛のところの番頭がその金欲しさに口差しする。仁兵衛は取り調べの途中で死んだ。そのことを農場で聞いた志乃は心を痛める。
 農場にも役人が来るが見つからなかった。志乃は軍服を着て馬にまたがり、樺太を目指すことにした。途中でアイヌのものが役人に捕えられているのを見る。
 自分を追ってきている人物は内田剛三と行動を共にしていた酒田虎之助であった。志乃は酒田の負傷を見捨て、自分のやる道は樺太ではなく手当てをすればまだ救われるアイヌの人々の伝染病や病を治すことだと考えた。
1610  カルテット2 イケニエのマチ
Date: 2011-2-19

おすすめ度 ★★★★

  大沢 在昌 著  角川書店   発行:2010年12月

 ホウは友人のリンを亡くしてから落ち込んでいた。自分が生きる価値があるかと自問していた。ホウはアツシという日本の名前があるが、日本人を嫌っていたが日本で暮らしていた。
 グリーンと言う店の地下を貸してくれるとカスミが鍵を持ってきた。ホウは地下の部屋に暮らし始めた。筋肉トレーニングは欠かさなかった。店のまわりとトイレを早朝掃除をすることを日課にした。
 そこへクチナワから仕事の依頼が来た。クチナワは刑事だった。クチナワは犯罪捜査を手掛けていた。タケルとホウとカスミは川崎市川崎区にある通称ミドリ町という中国人が集まって住むようになった一角を捜査する様に依頼する。この3カ月、7、8歳の女の子が首を絞められて殺されている。しかも、4人も。ミドリ町の住人の子らしいが住民たちは知らないという。日本人の行方不明を聞いていない。性的な虐待は受けていなかった。
 中国人のふりをしてこのミドリ町へ乗り込んだ。5日間で50万円を前金として取られた。元は化学工業の工業団地だった。旧ソビエト連邦向けに取引をしていた。ソビエト連邦の崩壊とともに廃業した。一部は産業廃棄物処理場になったものの他は手つかずで荒れていた。そこへ中国人が移り住んだ。地権者が複雑すぎて誰もどうすることもできないまま、中国人が増えて行った。推定2千人が暮らしているという。
 ミドリ町に入った3人は社宅だった1室を与えられた。この部屋の中は監視カメラが仕掛けてあるようだ。3人は中の様子を探った。この地域内で違法な植物を生産している。中国人の「無限」という組織がこの中を仕切っていた。ここで暮らす人々は無限にさからえない。無限に怯えていた。
 ここで作った薬をカスミがもらい、外で分析してみると九州で売られているものと一致した。
 カスミは薬の効き目を試すために薬を注射される。ふわっとした気持ちにさせられ自由が奪われる。すんでのところでタケルたちに助けられる。日本の機動隊が突入する。
 本当のボスは日本人の塾講師敦学勇だった。
1609  月下天使
Date: 2011-2-17

おすすめ度 ★★★★

  高橋 克彦 著  角川書店   発行:2008年9月

 恒一郎の経営する「ドールズ」という喫茶店に最近は行った聖夜は、元は警察学校で防御方法を教えていたらしい。聖夜の親は3人の中学生の無免許運転で20年前に両親ともに亡くしていた。中学生たちはわずか1年で少年院から解放されたが、聖夜は失った両親の事を調べているようだった。
 恒一郎には怜と言う娘がいる。小学生である。しかし、怜には江戸時代の回向院門前町で人形作りをしていた泉目吉が転生していた。恒一郎も承知していた。
 花巻の山奥で千葉の産業廃棄物業者の社長が殺された。これで4人目だ。モンスター屋敷の会場で死体が見つかった。そしてホテルでも死体があった。
 恒一郎は聖夜が飲んでいる薬に目をつけた。結構な量を服用している。白血病の治療薬だった。余命が短いことを悟った。
 怜に転生していた目吉は聖夜に疑惑を持つ。殺しが聖夜によるものだと思った。そして、怜の姿で自分が転生していることを聖夜に話す。200年前の人間だと。聖夜は驚く。そして自分の余命が少ないことと神が与えた剣を使ったと話す。
 怜の通う学校に女優椿有子の原画展が開かれる予定で本人も来るという。名わき役の女優である。怜と恒一郎が学校へ行くと、54人の生徒を人質に立てこもった犯人グループがいた。怜と聖夜が協力して事件を解決する。影の首謀者は女優だった。
 聖夜は両親が死んだあと、施設に預けられた。諏訪の小父さんがときどき訪ねてくれた。両親が死んだ場所に向かう。岩手の岩泉海道だった。
 門屋の本家で狐憑きの騒動がおこり、1年で5人が亡くなっていた。娘の体を借りて魔物が住んでいた。目吉と恒一郎、聖夜がこの娘と対峙する。
 聖夜は残り少ない命をかけてこの娘の魔物に立ち向かう。聖夜の両親はこの魔物が殺したことだった。聖夜の最期は微笑んでいた。
1608  Y氏の妄想録
Date: 2011-2-12

おすすめ度 ★★★★

  梁 石日 著  幻冬舎   発行:2010年12月

 Y氏は37年間勤めた食品会社を定年退職した。退職金2400万円で家のローンの残債1200万円を払ったら1200万しか残らない。5200万円の家を月々18万円のローンを払ってきた。それもまだ5年も残っていたのである。それも一括返済した。
 Y氏は前日送別会をしてくれている最中に席を立ち、新宿青梅街道沿いの飲み屋で一人飲みなおした。33年も通っている。小さな飲み屋だ。
 翌日、ふらふらとでかけたデパートでブルゾンとパンツを買った。75万円だった。前日、1万円と誘われた飲み屋でぼったくられた。75万円をカードで支払った金額と同じだった。
 家に戻ると妻が堤に気がつき、激怒してデパートに返品に行った。返金が聞かず妻の毛皮のコートと代わって戻ってきた。
 何もすることがないのでまたふらふらと新宿に出かけて行った。柿崎と言う男に連れられてゴールデン街に行った。あかねのママが3万円で客をとっていると教えてくれた。ちょうど客のいない日、ママに誘われ2階で性交した。5万円を請求され、かっとなってママの首を絞めた。ぐったりなったママを見て怖くなって逃げた。殺したと思った。
 後日、別の男がママを殺した犯人として逮捕された。悪い夢を見ていた。柿崎も重要参考人で締めあげられたという。殺されたママの娘がやっていると言うのでまた、あかねに行く。ママを殺害したのは夫だという。いまのママの父親だという。
 Y氏は具合が悪くなった。医師と妻が精神病院に入れる相談をしていると思った。
公園で老人に会った。ついていくと古い家の床下に4体の白骨死体があった。老人が殺したという。こわくなって戻ってきた。
 後日もう一度老人の家に行った。老人は首をつって死んでいた。逃げた。10日ほどして老人の遺体は犬に発見されて大々的に報道された。
 Y氏の息子に捜査の手が伸びていた。何かわからない。娘も家を出ていかがわしい仕事についているようだ。Y氏はうなされるようになった。天井の隅に蜘蛛を見るようになった。妄想にとらわれていると妻は娘と電話で相談した。それを聞いたY氏は「お前たちは俺をゴミみたいに扱う」と激怒する。そして8階建てのビルから飛び降りる。Y氏の顔は笑っているようだった。
1595 烙印
Date: 2011-1-25

おすすめ度 ★★★★

 天野 節子 著  幻冬舎   発行:2010年12月

 豊島区千早の小さな公園で男が死んでいた。当初自殺と思われたが、男は散髪をしていた。
 品川のホテルで2泊の予定の男がいた。殺された男はそこに荷物を置いていた。免許証から兵庫県の北部の養父市が住まいだった。久保田和夫61歳だった。妻の話によると東京には30代のころ不動産屋に4、5年勤めてすぐ養父市に戻ったという。
 養父市の崖の下で白骨化した遺体が見つかった。死後30年から35年たった男性のものだった。畑の中にアパートがあったが十数年前に壊された。そこには土地の人間ではないものも住んでいたという。
 同じ養父市で30年以上前にある夫婦が金髪碧眼の子を産んだ。母親の佳代子は長崎の人で父親は養父市のものだった。その子供が4,5才の頃父親は死に、その後母親はうつ病になり子どもは小学校3年生で養護施設に入ったという。その子が生きていれば36、7歳になる。
 関ヶ原の戦いの9年後、千葉の御宿の港にスペイン船が難破した。外国人は317名の男たちを村人が助けた。1か月ほどその村にいて城下町へ移っていった。その時、村の娘ミヅキ17歳はニックと言う男と仲良くなり、男たちが去った後、ミヅキは男の子を産んだ。その子はまだ子どもの頃、長崎に連れて行かれたという。
 養父市の金髪碧眼の子は隔世遺伝というのか、日本人同士の両親から何年かのちに産まれてきた。
 久保田の持っていた雑誌の折ってある個所に鈴木太郎と言う写真家の撮ったものが載っていた。鈴木太郎はペンネームで本名は掃部昌樹。碧い眼の子は秋津直哉で阪神淡路大震災の際に亡くなったという。
 ところが、鈴木太郎はじつは、秋津直哉であることが判明した。
殺された久保田が泊まろうとしたホテルの出入りを調べる。久保田のその日の行動を防犯カメラから確認をする。出て行った気配がないことからやがて、外国人風の男に注目する。
 直哉が施設に残した宝物のビニールからの指紋。そして、養父市で見つかった白骨死体のDNAを調べる。秋津直哉と親子関係であることがわかるのだろうか。
1594 首都感染
Date: 2011-1-24

おすすめ度 ★★★★

 高嶋 哲夫 著  講談社   発行:2010年12月

 医師の優司はWHOが発表しているH5N1型の強毒性の鳥インフルエンザが流行し始めたことをパソコンからの情報で見ていた。ベトナム、タイ、インドネシアのあたりである。全世界ですでに200人を超える死者が出いている。
 中国では北京でワールドカップを開催中である。中国雲南省ではすでに死亡者が出ている。今日中に死者は2千人を超える勢いだ。
 優司の元義父は厚生労働大臣の高城明は「新型インフルエンザ対策室」を立ち上げる。ついては優司にも参加してほしいと言ってきた。荷が重すぎると断った。
 優司の勤める黒木総合病院には同僚の王光裕がいた。彼もベトナムとの国境辺りがあわただしいと中国の友人からの情報を得ていた。
 中国はワールドカップ中止を発表した。12時間前にインフルエンザが発生したことを発表した。北京はすでに12000人の死者が出た。日本でも第一号の患者が出た。14人が発症している。政府は外国からの流入を止めようと24時間以内に国内5か所の国際空港の閉鎖を決めた。中野に次いで品川でも患者が出た。そして次々と広がっていくが、いまのところ山の手線の中とその周辺である。
 優司は感染対策室に参加する。総理を筆頭に各大臣が集まっていた。総理は都心封鎖を決めた。新幹線はじめ長距離列車もストップした。東京への流入も流出も止める。道路や橋を封鎖する。車、徒歩での移動も封鎖した。封鎖地区内の移動は自由である。バス、地下鉄、JRも止まった。
 タミフルとリレンザを買い求める人で殺到した。数は十分確保しているので闇で買う必要はないと報道した。
 封鎖から1週間で感染者20万人を超えていた。死者は5万人である。都内の火葬場だけでは間に合わない。他県に移動も許されない。冷凍庫にマイナス40度で保存することにした。そして遺体は10万体を超えた。
 黒木院長は細胞培養でワクチンを作った。王光裕も研究室でワクチンの治験に当たっていた。しかし、院長は過労が原因の心筋梗塞で亡くなる。
 優司は出来上がったワクチンを一刻も早く量産するために、これまでのワクチンの製造をとめ、大量の生産を総理に提示する。
 封鎖後、1か月たった。車は走るもののほとんど人影は見られなかった。
 優司のもとに相田と名乗る男がデータとM−128の薬を持ってきた。かなり重症化した患者にも改善がみられた。優司は相田を厚生労働大臣に会わす。治験は終わっていなかったが、100人の患者に改善がみられた。M−128の新薬は和田博士のチームが作っていた。直ぐに量産の体制に入る。黒木のワクチンと和田のM−128ができれば世界は救われる。
 封鎖ラインが3カ月と19日ぶりに撤去された。封鎖地区の720万人のうち感染者420万人、うち死亡者は58万人にとどまった。世界では22パーセントに当たる11億7千8百万人が死亡した。
1593 江 上・中・下
Date: 2011-1-22

おすすめ度 ★★★★

 田淵 久美子 著  日本放送出版協会   発行:2010年11月

 浅井長政の妻市は三人の娘茶々・初・江を連れ小谷城を離れた。長政は織田の軍に滅ぼされた。長政は29歳のときであった。
 江は織田信長が父の敵と知らずに育ったが、母の兄織田信長が安土に城を構えたと聞き、招かれて母とともに三姉妹が伯父を見舞う。安土城で初めて江は父の敵が信長だと聞かされるが、信長に直接真意を問う。同時に父や兄の死に関わった秀吉のことを知った。江は本当は信長を憎むべきかもしれないが姪として誇ってよいものを持っていると感じた。
 本能寺で信長が死した後、母が柴田勝家と再婚した。秀吉はそのことに驚く。秀吉は市の嫁いだ北庄城に軍を向かわせる。市は秀吉に託した手紙をもたせ三人の娘を城から出す。市と勝家は城とともに滅びる。
 三姉妹は天守閣の朽ちた安土城に身を寄せる。1年後、江は秀吉の決めた嫁ぎ先、姉たちより先に12歳で16歳の織田一門の佐治一成に嫁いだ。ほどなく「姉上が病気ゆえ見舞いに戻られよ」という手紙で大阪城に向かう。しかし、それは秀吉が出した偽の手紙だった。佐治一成は、家康を援助したとして秀吉によって滅ぼされるが、一成は伊勢に逃れていた。江の結婚は1年にも満たなかった。
 二十歳になった茶々は秀吉と夫婦になった。江は驚くが時が人を変える。北庄から5年半がたっていた。そして、茶々は懐妊し、秀吉の用意した淀城に移る。茶々を改め淀と呼ばれる。子は男の子で捨、のちに拾と呼ばれるがのちに、鶴松と改名する。
 初は近江の京極高次に嫁ぐ。茶々が京極に気をひかれる初を思って秀吉に進言し叶った結果であった。
 江は20歳になり、豊臣秀勝24歳と婚礼を挙げた。秀勝は朝鮮の戦に出た。江はその間に完子を産んだ。しかし、子を見ぬ間に秀勝が唐島で死す。母子で大阪城に身を寄せた江にまたしても縁談がきた。江が6つ年上になるが徳川秀忠17歳のもとへ嫁ぐ。完子は姉が引き取った。完子が5歳の時、江は千姫を産む。千姫は間もなく秀頼の許嫁となった。
 翌年秀吉が伏見城で死す。62歳だった。
 江戸に住む江のもとに家康から手紙が来た。産まれたばかりの二子ねねを前田利常の許嫁にすると言う。江は激怒する。
 秀吉の死後、家康が軍勢を動かし豊臣と徳川の間で戦が起こっている。初はその間で翻弄された。高次が三成を背いた。関ヶ原の合戦の後、家康が天下人となった。
 江は3人目の子も女の子だった。勝姫と名づけた。そして千姫と秀頼の婚礼が行われた。11歳と7歳の幼い夫婦だった。完子も14歳になり、摂家の九条忠栄に嫁ぐことになった。江は5子目でようやく男子を産んだ。竹千代、のちの家光である。産んですぐにお福という乳母に託された。
 家康は将軍職を秀忠に譲る。そして江はまたしても男児を産む。今度は自分の手元に置き育てる。国松のちの駿河大納言忠長である。
 淀47歳、秀頼23歳で大阪城は爆音とともに滅びる。大阪の陣であった。
家康が75歳の終焉を迎えた時、江は44歳、秀忠は38歳であった。
1592 獅子のごとく
Date: 2011-1-20

おすすめ度 ★★★★

 黒木 亮 著  講談社   発行:2010年11月

 大手都市銀行東立銀行上野支店に勤める入江は後輩のラグビー部の見学の際にみた獅子ジャージーと呼ばれる小柄な逢坂丹(おうさかあかし)を知った。S学院大学の15番である。山中湖の合宿でも地獄の特訓としてS学院大学は自分の大学より数倍の特訓を重ねていた。
 翌年、逢坂は入江のいる東立銀行に入行する。そして数年後、留学試験に受かりアメリカのイリノイ州ノースウエスタン大学ビジネススクールに通った。入江が人事部に異動して間もなく、銀行を辞めると言ってきた。もちろん、研修中の留学費用は返すという。入江は逢坂に会い、逢坂がエイブラハム・ブラザーズにオファーをもらっている。金持ちになって自分の家を取り戻したいと言った。逢坂の家はかつて貿易会社をやっていた。
 逢坂は、エイブラハム・ブラザーズに入る。米国進出企業や不動産投資のアドバイザーとなった。ろくに休みも取らず必死に働いた。逢坂は上司には高い評価を得るが、部下には不評であった。厳しすぎるのだ。
 逢坂は東京支店に勤務を命じられる。1987年、日本はバブルの真っただ中だった。
逢坂は麻布台の7階建てのビルを見上げた。かつてはこれが自宅であった。
 33歳の逢坂は三國ウイスキーの2百億円の増資を引き受け6億円の手数料をもらっていた。吉永部長とも親しくなった。増資の成功で逢坂は昇格した。
 オリビア興産に出向していた入江は逢坂と会い、オリビア興産のゴルフ場支配人となった吉永春男に出会う。ゴルフ場は民事再生手続きを申請し受理されていた。スポンサー選びに逢坂は任せてもらいたいと話す。そして吉永の約5千万円の使い込みを刑事告発した。吉永は自宅を売却して3千万円だけ返すが逆恨みをした。
 逢坂は馬主にもなっていた。所沢の帝都鉄道の檜垣社長は新たなビジネスとして京阪電鉄をねらっていた。それをねらう浪速電鉄との交渉に逢坂が加わっていた。
 檜垣は留学から帰った逢坂が辞表を叩きつけた人事部長だった。24年ぶりの再会であった。逢坂は檜垣に圧勝したのである。買収が承認された後、檜垣は辞任した。
 逢坂は数百億の個人資産を作った。癌も克服した。ヒューロン湖の猟場で逢坂は吉永に匕首で刺される。
1591 エチュード
Date: 2011-1-17

おすすめ度 ★★★★

 今野 敏 著  集英社   発行:2010年11月

 渋谷のハチ公前で死傷事件が起こった。死者1名負傷者2名。協力者がいて犯人を捕まえ立ち去った男がいた。犯人とされた男は「俺じゃない」と言っているが返り血を浴びている。
 新宿に家族と出かけた碓井警部補は新宿駅前の広場アルタ前で、通り魔事件に遭遇する。。捕まった男は「俺じゃないんだ」と言っている。市民の協力もあったという。
 模倣犯かと思われた。警察庁刑事局から藤森紗英がきた。心理捜査官だという。特殊事案を専門に捜査している。犯人確保の仕方が似ていること、人が大勢いるところでの事件、凶器がすぐそばに落ちていた、犯人はいずれも自分ではないと言っている点を重視した。
 そして、またしても渋谷で事件が起こる。今回は市民の協力者も事情を聴くために署に来てもらった。協力者は日野亮一で32歳だった。藤森は日野と対峙する。落ち着いた日野に疑惑は湧かなかったが、血のついた服を着ていたのでパトカーで送ることになった。日野は途中で降りたという。日野の住所には別の同名の男が実在していた。日野があやしい。
 日野の警察での様子、パトカーから降りるときに発した「エチュード」(フランス語で勉強という意味)という言葉を藤森は分析する。そして、もう一度、本番が待っていると読んだ。捜査官たちは、藤森の予想に伴い渋谷に配備される。そこへ、日野と名乗ったあの男が来た。しかも警官の服装で。
 この藤森の予想は、犯人が反社会的な者たちを取り締まるべき警察に挑戦しているという。犯人は高度な技術を持ったもので、反社会的な暴力のせいで高度の技術を果たせなくなったものの犯行だ。10年ほど前からの事件の被害者から日野と名乗る男は、顔から桐山渉32歳を割り出す。音楽研究室に籍を置く人物だった。
 捕まった時、桐山は何が起きたか分からないような様子だった。自分が捕まるとは予想もしていなかったという。
 
1590 廃院のミカエル
Date: 2011-1-16

おすすめ度 ★★★★

 篠田 節子 著  集英社   発行:2010年11月

 食品専門商社に勤めていた美貴は勤務12年目にレバノンに飛ばされた。ところが、会社は現地法人になり、やがて紛争に巻き込まれ、日本に戻ったところでもう本社には籍がない。ここでひと踏ん張りして独立しようと思ったが、危険を感じアテネに向かう。
 アテネで通訳の綾子に会い、蜂蜜に似た雲南省で僅かにとれる硬蜜を振舞われた。その味を気にいった美貴は日本にもって帰りたいとその産地へ行きたいと申し出る。手に入れたのはギリシャ中部のビントスと言う山中だと言う。
 綾子の夫はギリシャ人だったが事故で3年前に亡くしている。タクシーに乗車拒否されて困っている日本人青年を連れ、美貴は綾子とレンタカーを借りてその村に行く。青年は吉園といい、アギオス・イオアニス修道院を探していた。村には誰もいなかった。蜂箱は黒くなってすでに蜂はいなかった。修道院も人がいなかった。廃院になっているようだ。タクシーが乗車拒否した理由が分かるような気がした。
 村に男が一人いた。自分たちを見ておびえていた。もう一つの修道院を見つけた。内部の絵は受胎告知から聖母の昇天までが書かれていた。
 アギオス・イオアニス修道院はメサポタモス修道院の事で3年前に廃院になったという。だが、その理由は他の村人も口にしなかった。
 ミカエル・ダマスキノスはクレタからきた偉大な聖像画家で、人間そっくりの触れば人の肌までの柔らかさまで感じられる生々しい絵を描いた。十数年かけて壁画を埋め尽くした。蜂の採取もその男が教えた。人々の病気も癒した。予言も後世にことごとくあたっていた。しかし、司教はあってはならない絵だとその絵を塗りつぶさせたという。ミカエルはこの世が続く限り旅を続けると言い残し忽然と消えた。
 漆喰の下に隠れた黒くかびたような壁。吉園はその時、この村を襲った病原体に侵される。生き残ったあの村の男とあの男が守っていた蜂は、あの村で復活させられないだろうかと美貴は考えた。
1589 逃亡者
Date: 2011-1-14

おすすめ度 ★★★★★

 折原 一 著  文芸春秋   発行:2009年8月

 金融業の林田浩之43歳が自宅キッチンでうつぶせで倒れていた。すでに死んでいた。狭山東署の安岡刑事は取調室で友竹智恵子から事情を聴いていた。智恵子の話では林田の妻から夫を殺してくれと頼まれた。林田の妻と智恵子は一時期同じクラブで働いていた。智恵子は夫から暴力をふるわれていた。交換で夫を殺そうと話したという。
 林田の家に残された指紋や遺留品から智恵子はすぐに連行された。しかし、拘留中に体調を崩し智恵子は入院する。その際に、警察の目を盗んで逃走した。
 直ぐに母親に電話し、着替えとお金を用意してもらい東北に逃げる。刑事たちが気がついたときはすでに数時間がたっていた。逃げる前に母親が髪を短くカットしてくれた。おかげで手配の写真より若く見えた。新潟についた智恵子は赤い薔薇というキャバレーで働き始めた。半年後には洋品店に移った。洋品店の若旦那とその母に気に入られたが、智恵子の夫の洋司が新潟にやってきた。洋品店の母がテレビに出た夫の賞金を出すという言葉にひかれて連絡をしたようだ。智恵子は逃げる。青森に行きホテルに泊まった。ホテルに1か月10万円で泊まる契約をした。数カ月するとドラッグストアの勤務だけではお金が底をつき始め、初めて金を下ろす。母の預金からだった。それを機に刑事がやってくる。
 そこもいられなくなって直ぐに逃走した。大阪で美容整形をする。前よりもひどい顔になってしまったが、これなら誰かもわからなくなった。天王寺で夫に出会うが気がつかれなかった。天王寺でもお金をおろした。そして、福山に逃げた。それからあちこち転々としてが、事件から7年たった時、林田の妻を訪ねた。しかし、夫の洋司に連絡を取られ危うく捕まるところだったが逃げた。
 自分を追っていた安岡刑事は定年ですでに退職していた。
 智恵子には娘がいた。戸籍上は母の子になっていたが、母の再婚相手と智恵子は二十歳になる前に強姦され妊娠した。すぐ、母の子として育てられた。再婚相手はそれを機に出ていった。母は美容師だった。智恵子の子奈美江は、自分の実母が指名手配されていることを知っていた。ネットで「友竹智恵子は捕まらない」というサイトを見つけた。時効を待っていた。
 時効が過ぎた時、智恵子は洋司と対峙していた。洋司は「本当に殺したのは自分だ」という。自分の時効も成立したと馬鹿笑いする。智恵子は目の前で夫が首を切られ出血しているのを見ていた。自分は時効を迎えたのに殺人を犯したのだろうか。
そこへ元刑事の安岡が来る。
1588 告解者
Date: 2011-1-13

おすすめ度 ★★★★★

 大門 剛明 著  中央公論新社   発行:2010年9月

 自販機の前で40歳ぐらいの男が殺された。男は能崎という。 
さくらは鶴来寮という厚生施設で働いていた。無期懲役の刑で服役し仮釈放になった久保島が入寮してきた。久保島は43歳になっていた。22年間を刑務所で過ごした。23年前に牧野兄弟を殺した。
 出所後、牧野の家に謝りに行ったが父親は不在で姉がいたが興奮して謝罪のできる状態ではなかった。さくらは久保島の就職の手伝いをする。ところが、牧野の父親が会社をやっていて久保島を雇ってくれるという。久保島は牧野の会社で働き始める。
 刑事の梶は、自販機の前で殺された能崎をやったのは久保島ではないかと見当をつける。
聞き込みで若い男がたむろしていたとの情報もあった。
 久保島にだんだんひかれていくさくら。さくらの母も殺人を犯した。母の留守に母と付き合いのあった男がさくらを犯そうとした。母が戻ってそれに気づき男を刺殺した。母は懲役7年を経て出所後亡くなった。
 さくらは久保島には自分の過去を正直に話せた。さくらは久保島に一緒に生きていこうと言うが久保島は返事を避けた。
 久保島が殺しにいたった原因は、当時付き合っていた岡本深雪が牧野兄弟に犯され、それが原因で自殺したことだった。怒った久保島は牧野兄弟を殺した。牧野社長はその事を知っていた。告解室で久保島はもう一つ罪を犯すと告白する。さくらは久保島が深雪の墓参りに行く姿を知っていた。そこでもう一度事件が起こるような気配で梶とともに向かう。
梶は自分の勘が外れたことを知った。能崎を殺した犯人が先ほど自首してきたばかりだったのだ。久保島の復讐はまだ終わっていなかった。
1587 罪火
Date: 2011-1-12

おすすめ度 ★★★★

 大門 剛明 著  角川書店   発行:2009年12月

 花火大会の日、若宮はかおりが来るのを待っていたが、携帯で神社に来てほしいと呼び出される。真犯人が誰かだわかったという。
 中村富雄は20年以上前に弟をシンナー遊びで喧嘩をして少年に殺されていた。花歩と理絵は中村に会った。中村は10年たっても20年たっても一生許すことが出来ないという。彼は謝罪して義務を果たしたと思っているだけだと。少年とは中学生のころの若宮だった。
 若宮は35歳になった。派遣として働いたが、今は塾の教師をしている。かおりは教員採用試験に受かった。若宮は残念ながら落ちた。
 宮川花火大会の日、若宮は花歩と言い合いになり、マイナスドライバーで首を衝いてしまった。おびただしい血が流れていた。
 花歩を殺したのは若宮であったが、なぜか23歳の新卒教師の佐久間が捕まった。花歩の体には乱暴をされた痕跡が残っていた。遺体を発見したが、情欲を催し姦淫をしたに違いないと若宮は思った。しかし、佐久間は花歩の殺害を否定した。小学校長の理絵は娘花歩を殺した犯人が中学校の担任教諭だと知った。
 若宮は理絵の家に入り込み花歩の日記を盗んだ。日記には自分の名前があちこちにあった。花歩が自分に好意を寄せていた。日記は一旦自分の家の仏壇の引き出しに入れてあった。
 かおりは、その隠された日記を見つけてしまう。
理絵は花歩の月命日に花を供える若宮に疑問を持った。犯人しか知らない場所であった。佐久間は否定している。真犯人は若宮ではないか。
 理絵はかおりにその思いを伝え、協力を願った。
1586 ラティスの逆鱗
Date: 2011-1-11

おすすめ度 ★★★★

 唯川 恵 著  文藝春秋   発行:2010年11月

 篠子は女子大のころ、バラエティのトーク番組に応募して合格した。その後、所属事務所から誘われて芸能界に入った。その時鼻を整形した。順調に売れ、30歳を過ぎたころは女優になった。今47歳になる今は美貌を生かし美容本も出版した。今度はヌードを撮りたいと思った。
 多岐江は4歳になる子がいる。妊娠線と肉割れが気になった。美容整形で治す。今は夫以外の愛人もいる。
莉子は21歳、六本木のキャバクラに勤めている。3歳の時に母が死に、父は行方不明になった。父方の祖母に育てられた。高校卒業と同時に上京した。最初は二重瞼にした。花を直し胸も大きくした。
 涼香は29歳。もう何度も整形をしている。父の再婚を機に家を出た。整形を繰り返す娘に父は何も言わなくなった。
 美容整形外科医になった昌世は、当初大学病院や綜合病院の経験を経て卒業から5年後、美容整形を始めた。5千万円を融資してくれた不動産会社の畑中と言う男がいた。あれから10年、病院は順調であった。
 莉子の店に高校時代に自分をブスと振った雄太がやってきた。整形をしているから莉子のことに気づかない。それを機に、莉子は雄太に気があるようにメールをした。雄太も徐々に莉子のことを好きになっていった。しばらく会わないと待ち伏せする様になっていた。莉子は雄太に「高校時代に蔑まれた莉子だ」という。そして復讐するつもりで近寄ったことを明かす。後日、莉子は雄太から劇薬をかけられる。
 昌世は度を越した涼香の手術の繰り返しの要望や篠子の金払いはいいが無理難題の手術要求に困惑していた。
 姪の秋美が自殺を図った。人工呼吸器で生命を維持しているが、もう手の施しようがない。
昌世はあの4人の繰り返しの手術の度を超えた患者たちが迫ってくるような気配を感じた。あのバケモノたちを作ったのは自分なのだ。
1585 カウントダウン
Date: 2011-1-10

おすすめ度 ★★★★

 佐々木 譲 著  毎日新聞社   発行:2010年9月

 北海道幌岡市に住む市議会議員兼司法書士の森下直樹は、訪ねてきた男から次期市長選に立候補するようにすすめられる。幌岡市は夕張市と隣接し双子市と呼ばれるぐらい似ていた。夕張市は今年の6月650億円の負債を抱え財政破たんした。幌岡市長は5期20年近く勤めた大田原は当時45歳で初当選した。6期目も当選し24年間も大田原の好きにさせていられない。それでなくても、幌岡市は人口の減少、第三セクターでの遊園地にはリピータもなく閑古鳥が鳴いていた。映画祭りもいまいちであった。
 突然言われた森下は、「あんたで勝てなければ、町はもう一度死ぬ」といわれ、男は多津美はいい、行政広報と選挙のプロだという。大田原に勝つことが自分のビジネスの実績になるという。市議の中で松下しかいないとにらんでやってきた。
 森下は、市の職員江藤も森下を推した。妻の美由紀にも相談する。妻は生活のことは心配しないでと応援してくれた。 高校時代の担任の田所も実は候補に森下を推した。決意を決めた。
 市議会は財政難を示す報告書はない。健全であることを強調していた。しかし、今回の議題に第三セクターへの二千万円の緊急融資が盛り込まれていた。森下はそこを衝こうと思った。その前に共産党の女性議員がそれを質問したがはぐらかされた。
 森下は「金融機関からの融資に頼ることが出来ないという経営状態を懸念する。幌岡市は財政的余裕があるということか」と質問するが、程よい回答は得られず、議会は終了した。融資は可決された。その後の、メディアのインタビューで森下は「市長の答弁は市財政が危機であることを物語っている。議会が監査役になっていない」と答えた。
 しかし、ほどなく北海道庁の視察が入った。大田原は財政が赤字であったことを認め、新聞には百二十億の赤字であると出た。
 大田原も立候補を表明し、いよいよ選挙運動に入った。他に立候補者も出た。嫌がらせもあったが、森下は大田原を抜いて市長に当選する。
1584 だいじょうぶ3組
Date: 2011-1-8

おすすめ度 ★★★★

 乙武 洋求@著  講談社   発行:2010年9月

 4月から松浦西小学校に赴任した赤尾慎之介は「見ての通り、先生には手と足がありません。先生にはできないことがたくさんあります。先生困っているなと感じた時は、ぜひお手伝いをしてください」と挨拶する。子どもたちは「気持ち悪い」と正直な感想を漏らす。赤尾は介助員として小学校の同級生で今は地元松浦市役所に就職した。教育委員会事務局に異動した時、市独自で教員を採用できる準備を進めていた。そして、赤尾を誘った。赤尾は大学卒業後、プログラマーとして働いていた。大学時代に小学校の教師をやってみたいと教員免除も取った。白石はそれを覚えていた。
 機械に載ると170センチぐらいはあるが手も20センチしかない。足も途中でない。特注の電動車いすが足代わりだ。松浦市は白石を介助員とすることで赤尾を教員採用した。
小学校5年3組の担任になった。
 最初の日、生徒全員の名前を名簿を見ないで言って驚かせた。そして、サクラの下のホームルームで「みんなが笑顔のクラス」と目標を立てた。
 げた箱から上履きが消えるという事件が2件続いた。同じ5年生の担任が大抵は見つけたと言ってくる子が犯人である場合が多いと教えるが、なかなかみつからない。赤尾は「上履きが見つからない子だけじゃない。上履きを持って行ってしまった子の気持ちを気づいてあげられなくてごめんな」とあやまる。上履きは戻された。
 運動会でクラス全員が一位をとると先生が坊主になるという。子どもたちは興奮した。そして、運動会当日。先生は走りの早い最後のレースに合図が鳴ると同時に飛び出せと教える。だが、ゴール直前で抜かれる。一位にはなれなかった。でも先生は皆に頭をバリカンで刈らせる。
 水泳が苦手な子。赤尾も手足がないのに、5メートル泳ぐと宣言する。その姿にデブの子も奮闘するが、大量の水を飲んでしまう。保健室でその子の父に「ここまで頑張る必要があったか」と言われるが、母親はクラスの様子を楽しそうに話す息子を知っていた。父は夏休みに市民プールで一緒に泳ごうと約束する。
 高尾山への遠足。赤尾は下見をするが迷惑になるので行かないことにすると決めた。しかし、子どもたちは署名を持って校長先生に渡す。先生がいないのなら5年3組ではない。先生と一緒に遠足に行かせてほしいと書いてあった。車いすでも行ける1号路を選び学年で協力して参加することになった。子どもたちも車いすを押した。全員で山頂まで登った。
 3月、20歳になったら、5年3組のクラス会をやりたいと学級委員の陽介が言った。
1583 トリック・シアター
Date: 2011-1-7

おすすめ度 ★★★★

 遠藤 武文 著  講談社   発行:2010年6月

 富樫は早稲田大学シネマ研究会のOB会に出席の後、妻の泰代を伴って佐々岡のマンションで飲んだ。その時、争いになり、富樫も刺されたが佐々岡も刺してしまった。最初にナイフを持ち出したのは佐々岡だった。虫の息の佐々岡を置いて妻と逃げた。
 泰代は奈良に戻った後、古墳の前で命を絶った。妻の泰代が夫の富樫に頼んでのことだった。
 佐々岡は出勤しないことを不審に思った上司によって自室で死体を発見された。血で書かれたトガシと書かれていた。
 佐々岡と富樫の関係も、妻を殺したことも判明した。富樫は東京と奈良で殺人を犯していたのだ。早稲田の映画サークルの仲間たちが次々に3月21日に死んでいる事実に警察は目を付けた。
 刑事の矢木警部補と多田巡査は情報分析支援第二室に行くように言われる。通称裏店と呼ばれている。ようやくその部署が見つかり出向くと我孫子警視正がいた。刑事と言うより水素エンジンのことをとうとうとしゃべり、局長に「片足を棺桶に突っ込んでいる爺がよく来たものだ」と言ってのける姿勢に二人は驚く。
 我孫子は富樫の起こした事件に、3月21日という同じ日に年は次々と死亡することに、法要と関係があると見る。2001年に山谷の路上でトラックにひかれた浜崎、2002年に飛び降りて死んだ美香、2003年に清洲橋で首をつって死んだ広田。2007年に水天宮で低体温症で死んだ依田。この4人とも富樫と早稲田時代に映画を作っていた。
 我孫子は矢木と多田を連れて奈良へ行く。桜井署からも刑事が来ていた。ところが、花巻署から富樫が病院の閉鎖病棟で亡くなったので妻の泰代に来るように要請してきた。妻の死を知らないようだ。我孫子たちは花巻まで行く。病院で間違って案内された死体に「マルエスハーイチヨン」と理事官が答えた。我孫子の眉根が動いた。矢木と多田は初めて耳にする言葉だった。マルエスハーイチヨンに関わったら懲戒免職になった後も一生監視がつくという。
 富樫は1年前から閉鎖病棟に入っていた。奈良と東京の殺しは富樫ではないと思われた。
富樫を見舞った者を洗った。映画サークルにはもう一人いた。清水国明である。我孫子はこれまでの4人が死んだ場所の頭文字が清洲、水天宮、国立科学博物館、明治通りという偶然も不審に思った。その推理も我孫子が解決させる。マルエスハーイチヨンはSをまるで囲んだ字につづいてH14のことだ。つまり、サクラやチヨダと呼ばれる特殊な人間。存在さえも隠されたものだった。それが、清水国明。その清水も花巻の病院で死亡していた。
 多田は事件が解決し、手記でも書こうとした時、人の気配を感じる。
翌日、警官の自殺が報じられる。
1582 ええもんひとつ とびきり屋見立て帖
Date: 2011-1-6

おすすめ度 ★★★★

 山本 兼一  講談社   発行:2010年6月

 真之介とゆずがこの春から開いたとびきり屋は番頭と4人の手代と丁稚とおなご衆がいて、いまのところ順調な商いをしていた。
 ゆずの勘が骨董を確かな商いにしていた。丁稚は主人の真之介よりもゆずの目利きに信頼を寄せ、そのコツを聞いた。ゆずはええ道具は金のにおいがすると言う。
 真之介が大きな農家を回って仕入れてきた虎の絵の徳利はゆずが磨くとたちまち芹沢の目にとまった。芹沢は大丙で虎の徳利を30両では高いとゴネていた。真之介は李朝の品を買ってくれた家を紹介してもらう代わりに虎の徳利を芹沢に与える格好になった。行った先は名字帯刀をゆるされた郷士であろう。立派な屋敷に蔵があった。母屋は式台がついている。この家の主の清左衛門は13個の壺を300両の値段を言ったが、30両で買った。本当は3両で買いたいものだった。
 持って帰ったものをゆずがみると、壺の1つが大きくて李朝の官窯のものか竜の絵が描かれて丁寧に足の指と爪まで書かれていた。この壺は金のにおいがした。竜の足は5本の爪があるのが王様が使い家臣は4本の爪だと父から教わったのを思い出した。壺は200両で売れた。
 ゆずは19歳の時、お見合いを勧められたが、真之介と道具の話をしているのが楽しかった。好みも似ていた。ゆずの父に1年の間に店を構えて結納金を用意すれば、ゆずとの結婚を許すと言われた。真之介は懸命に働き4軒間口の店を構えた。千両の結納金をもってゆずを迎えに来た。

 
1581 砂の王国 上・下
Date: 2011-1-4

おすすめ度 ★★★★★

 荻原 浩 著  講談社   発行:2010年11月

 山崎遼一は、かつては証券会社にいた。妻が出ていき、仕事もうまくいかず、ホームレスになって1か月近くになっていた。空腹と寝不足に悩まされた。自販機の釣銭探しをした。路上に寝ることを当初、ためらったものの、ついに段ボールハウスを作って寝るようになった。ペンネーム錦織龍斎という占い師にサクラとして雇われて1回105円をもらうようになった。龍斎の占いは初対面の人には相談者の後ろに見えるものがあると、的を得た回答をして相談者を驚かせた。しかし、そんな能力は鼻からない。相談者への観察により雰囲気からじわじわと当てていくように話していったのだ。占い師の留守に相談に乗った者からの五万円の金を基に競馬に行った。最後に競馬は当たった。
 競馬で手にしたお金で、この龍斎と長身の仲村を誘ってある事業をしようと山崎は企んでいた。大田区の本門寺に近い場所に古いビルを借り、新興宗教のような会「大地の会東京ヒヤリングセンター」を立ち上げた。
立ち上げと同時に会員はネズミ算式に増えていった。
山崎は、事務局長木島礼次と名乗った。ヨガの道場も借りた。ヨガは本格的なものではないヒーリング体操である。
身長180センチのホームレスの仲村は33歳。高校を出て自動車工場で働いていたが、あとの10年は不明である。仲村には女性を引き付ける整った顔立ちをしていた。仲村を教祖大城健人と名乗らせた。
 会員は一年足らずで千数百人に膨らんだ。木島一人では手に負えなくなり、会員にも手伝わせた。日本維新党の衆議院議員の藤原が新たに立てる新人候補者のことで相談に来た。
大城にも身辺警護のためのスタッフがついた。大城はだんだん教祖らしくなって木島を呼び捨てにするようになった。女優吉江香椰も入会した。
 木島は吉江には自分がかつてホームレスをしていたことを話した。大城も会合の際に、ホームレスをして見えてきたものがあると自分の過去を暴露していた。
 DVDや講話集、そして本も出版した。ホームページから会員も募った。もう木島の思惑を超え大地の会は膨らんでいった。そして木島は吉江との記事が週刊誌のグラビアに載った。このことがさらに入会者を呼んだ。木島はあの会は自分が作ったと吉江に言うが「教祖が木島がこの会を作ったと妄想を抱いている」と言っていたことが本当だったのですねと言われる。木島は逃れたかった。会員は四千人にもなっていた。木島の裏切りを許さない。木島は東京を脱出した。3か月経過した。
 木島は大地の会を罷免されたというニュースが会のホームページで発表された。自分が作った会であったが大きくなりすぎた。木島は再び金のない生活に戻ってしまった。