読んだ本の感想や紹介したい部分を書いたものです。


過去ログ　（その１６）　５３冊

平成２８年１月２日～平成２９年４月９日




Ｎｏ 読んだ日 書　　　　　　　名 著　　　者 おすすめ度
2091 2017-04-10 三鬼　三島屋変調百物語四之続 宮部　みゆき ★★★★
2090 2017-03-20 反社会品 久坂部　羊 ★★★
2089 2017-02-02 沈黙法廷 佐々木　譲堂 ★★★★
2088 2017-01-21 壁の男 貫井　徳郎 ★★★★
2087 2017-01-08 サーベル警視庁 今野　敏 ★★★
2086 2017-01-02 ロンテクスト・オブ・ザ・デット 羽田　圭介 ★★★
2085 2016-12-24 脇坂副署長の長い1日 真保　裕一 ★★★★
2084 2016-12-10 継続捜査 今野　敏 ★★★★
2083 2016-11-10 裸の華 桜木　紫乃 ★★★
2082 2016-10-30 女神 藤田　宜永 ★★★★
2081 2016-10-23 ヒポラテスの憂鬱 中山　七里 ★★★★★
2080 2016-10-12 ラストナイト 薬丸　岳 ★★★★★
2079 2016-10-07 黒い紙 堂場　瞬一 ★★★★
2078 2016-09-08 虚ろな十字架 東野　圭吾 ★★★★
2077 2016-08-19 ブラージュ 譽田　哲也 ★★★★
2076 2016-08-04 赤毛のアン 真保　裕一 ★★★★
2075 2016-07-30 KUHANA 秦　建日子 ★★★
2074 2016-07-23 代体 山田　宗樹 ★★★★★
2073 2016-07-18 わが心のジェニファー 浅田　次郎 ★★★
2072 2016-07-10 眩 朝井　まかて ★★★★
2071 2016-07-03 坂の途中の家 角田　光代 ★★★★
2070 2016-06-30 鍵の掛かった男 有栖川　有栖 ★★★★
2069 2016-06-23 蛮政の秋 堂場　瞬一 ★★★★
2068 2016-06-16 流 東山　彰良 ★★
2067 2016-06-10 聖母 秋吉　理香子 ★★★★
2066 2016-06-02 天空の蜂 東野　圭吾 ★★★★
2065 2016-05-31 臥龍　横浜みなとみらい署暴対室 今野　敏 ★★★★
2064 2016-05-25 ミッドナイト・ジャーナル 本城　雅人 ★★★★
2063 2016-05-18 土佐堀川　女性実業家広岡浅子の生涯 古川　智映子 ★★★★
2062 2016-05-08 満願 米澤　穂信 ★★★★
2061 2016-04-23 ガラパゴス　上・下 相場　英雄 ★★★★
2060 2016-04-15 Aではない君と 薬丸　岳 ★★★★
2059 2016-04-07 人魚の眠る家 東野　圭吾 ★★★★
2058 2016-04-07 バラカ 桐野　夏生 ★★★★★
2057 2016-03-21 真犯人 翔田　寛 ★★★★
2056 2016-03-14 天才 石原　慎太郎 ★★★★
2055 2016-03-09 運命の花びら　上・下 森村　誠一 ★★★
2054 2016-03-06 ナオミとカナコ 奥田　英朗 ★★★★★
2053 2016-03-01 森は知っている 吉田　修一 ★★★★
2052 2016-02-26 当確師 真山　仁 ★★★★
2051 2016-02-14 孤狼の血 柚木　裕子 ★★★★★
2050 2016-02-10 うそつき、うそつき 清水　杜氏彦 ★★★★
2049 2016-02-04 あなたが消えた夜に 中村　文則 ★★★
2048 2016-02-01 総理にされた男 中山　七里 ★★★★★
2047 2016-01-29 THE　BLACK COMPANY 江上　剛 ★★★
2046 2016-01-27 砂の街路図 佐々木　譲 ★★★★
2045 2016-01-25 アルテーミスの采配 真梨　幸子 ★★★
2044 2016-01-22 水曜日の凱歌 乃南　アサ ★★★
2043 2016-01-20 琥珀のまたたき 小川　洋子 ★★★★★
2042 2016-01-14 ナイルパーチの女子会 柚木　麻子 ★★★★
2041 2016-01-10 闘う君の唄を 中山　七里 ★★★★
2040 2016-01-06 ヒポクラテスの誓い 中山　七里 ★★★★
2039 2016-01-02 虚栄 久坂部　羊 ★★★★


2054 ナオミとカナコ )
Date: 2016-03-06

おすすめ度　★★★★★

奥田　英朗　　幻冬舎　　発行：２０１４年１１月

　小田直美２８歳は葵百貨店に勤務して７年。外商部にいる。大学の友人の加奈子は昨年秋に３１歳の銀行員服部達郎と結婚し、専業主婦になった。だが、加奈子の夫はＤＶで加奈子に暴力を振るう男だった。
　直美が仕事で行った池袋の中国人の店で達郎にそっくりの中国人林に出会う。
久しぶりに会った加奈子が顔に青あざを作っていた。このままでは加奈子は殺されてしまう。直美はある計画を練る。直美の顧客に７９歳の金持ちの女性がいる。お金の出し入れも直美に頼みたい様子。ネットバンキングにすれば自分も手伝えるとそれをすすめる。
　直美は達郎にその顧客を紹介する。そして、達郎と二人で一人暮らしの未亡人の斉藤家に行く。隙を見てネットバンキングの斉藤婦人の口座から達郎の妻の加奈子の口座へ１千万円を振り込む。
　直美と加奈子は達郎をロープで絞め殺し、三国峠の山中に埋める。金曜日から土曜日朝までに埋めて車で戻ってきた。
　あらかじめ、林さんに頼んでいた通りＡＴＭで預金を１００万円ずつ下ろしてもらう。そして林に謝礼２００万円を払って中国に帰す。
　その後達郎のパスポートがなくなっていると失踪届けを出す。達郎の両親や義妹も急に失踪することに疑問を持つ。
　直美は死体が見つからなければ大丈夫だと言う。やがて加奈子は達郎の子を身ごもっていることを知る。
　達郎を心配した両親は探偵を雇い失踪当日の足取りを調べ始める。
ＡＴＭでおろす兄の姿に妹の陽子は疑問を持つ。雰囲気が違うと言う。達郎はノイローゼのところもあったと加奈子が言うが、銀行側は顧客の金を元の未亡人に戻すことで口外はしないでほしいと加奈子に釘を刺す。
　林に渡した２００万円は持ち出しになったが、自分の金と達郎の金も自分のものになる。何よりもＤＶの恐怖心から解放された加奈子。
　陽子は加奈子が達郎を殺したのではないかと疑い始めるが加奈子はシラを切る。
警察も加奈子に出頭を要請する。自宅に戻ると言うが加奈子を警察は拒む。直美が依頼した弁護士が中に入り、自宅に戻れた。
　直美と加奈子は追い詰められ、とうとう中国へ行くことにする。成田空港へ向かう途中、庸子につけられるが、地下鉄に乗り換えて羽田から出港する。
2053 森は知っている
Date: 2016-03-01

おすすめ度　★★★★

吉田　修一　　幻冬舎　　発行：２０１５年４月

　南蘭島は沖縄県石垣島の南西６０キロに浮かぶ孤島だ。そこで育った鷹野一彦は１８歳のときからAN通信で働く。仕事はスパイ活動だった。与えられたファイルを覚え、それをキーワードにパソコンで情報を探す。シンガポールのニューウォーター計画にヒットした。　
　一彦は１２歳になる前に富美子に引き取られる。風間は「私が連れてくる子の母親になるわけではない」と富美子に言う。
　一彦の情報は４歳のとき、母親に置き去りにされ、２歳の弟は餓死したが一彦は無事救出された。その後父親に引き取られるが、虐待を受け児童養護施設で育った。そこで、施設内で死亡したことにされ、秘密裏に別の施設に移され、鷹野一彦という新しい名前が与えられた。母親は遺棄したことにより懲役３０年が確定していた。
　一彦は修学旅行で上京した夜、東京駅に近い和倉地所ビルに忍び込み、パソコンモニターから「Ｖ．Ｏ．エキュ」関連の資料を探し、「ぶるー、プラネット、プロジェクト・・・」をコポーして盗み出す。その際、警備に見つかりとっさに街路樹に飛び降り歩道に飛び降りた。足首を負傷する。このことは夜寝ぼけて木に登って落ちたと言うことになっていた。
　アジアの情報はNHKが、アメリカのニュースはアメリカ放送局が、ヨーロッパはヨーロッパがそれぞれ８時間ずつ分担すれば２４時間ワールドニュースが完成する。これを「GNN計画」と名づけた。このときGNN計画にために設立されたある企業の海外隠し口座の存在を風間が耳にする。その額が１０億円とも１００億円とも言われた。一発打ち上げておき、あとは徐々に暴露していく予定だったが、風間はAN通信に移ってしまった。
　AN通信で働くのはほとんどが孤児であった。産業スパイとして働いていた。
鷹野は宮崎に飛ぶ。東洋エナジーの榎並と泉谷を追っていた。行き先は五瀬ダムだ。「こっちの情報が漏れている可能性がある」という。男２人は放水ゲートの上に立っていた。ダムへ１台の車が来た。柳が運転していた。徳永と鷹野の乗った車はそれにぶつかりそうになり、車は水の中に。車ごと落下して行った。
　富美子は鷹野が任務を失敗して死んだと風間から伝えられた。風間は事故を伝える小さな新聞記事を見せた。鷹野の名前は佐藤明１９歳になっていた。宮崎県警が五瀬ダムでガードレールを超えてダム内に落下したと報じていた。
しかし、鷹野は生きていた。強く掴まれ引っ張られた。潜水服の男が援けてくれた。気が付いたら徳永とキムがいた。キムが潜水服の男だった。船の中だ。
　柳は弟寛太と離れて暮らせない。今、手元の情報を東洋エナジーに１０億で売ろうと思っていた。東洋エナジーはこちらの言い値で買うという。
　北朝鮮との国境近くで米ドルと情報を交換したが、川の対岸に渡る途中、再び氷の割れた川へ。鷹野らは徳永に裏切られる。風間が鷹野を救ける。
2052 当確師
Date: 2016-02-26

おすすめ度　★★★★

真山　仁　　中央公論新社　発行：２０１５年１２月

　選挙は戦争だと当確師聖達磨は断言する。一世一代の大博打だ。敗れたら社会的地位も私財も失う。
　いくら人脈やカネガあってもそれだけでは勝てない。確実に票を積みあげる「軍師」が必要だ。選挙コンサルタントは、勝てそうにない選挙で当選させる」当確師として、その名をとどろかせているのが聖である。
　聖のもとに新たな依頼人が訪れた。高天市の弁護士嶋岡俊介だ。高天市は人口179万人の政令指定都市だ。市長選が行われるのが現在の鏑木次郎市長は当時の市長を糺すと出馬したのは7年前だ。
　かつて平成市では友田泰が市長に立候補した。県立高校教諭だった。投票日まであと4日しかないのに１０％票が足りない。聖達磨は鹿鳴亭に行く。
　健司は兄の健一に電話する。兄は市長の腰ぎんちゃくである。聖が山井議長と会い、次に副市長の小島に会い、三人目は市長派の県会議員と会った。それを健司が写真に撮る。
　翌日「安田陣営に綻び　幹部が次々密会　お相手は敵陣営の参謀」とネット記事が出回る。投票日の前日、安田市長を支持していた副市長、議長、市職員組合が友田支持を表明した。友田は二倍以上の大差で当選した。
　さて、高天市長選まであと350日。市長に相応しい人物アンケートでは鏑木次郎７８％、鏑木瑞穂１１％、黒松幸子９％、蓑田琢磨２％であった。
　鏑木は養護施設でそだった天涯孤独であったが、少年の時、すでにヤクザから足を洗っていた養父の下で育てられた。
　黒松幸子は「鏑木市長を倒したい」という聖の訪問を受ける。鏑木市長の義弟で小早川一族の御曹司というブランドを利用するため、小早川選に手話通訳を依頼した。選が黒松幸子の声になることを幸子が切望した。そして、市長選で対立候補の専属通訳となる。
「日本で一番住みたい都市高天市の闇　生活保護受給者の隔離政策へ」とインターネットで批判記事が出る。
　市長と幸子との「市長と語る会」が開催される。市長がまだ公にしていない生活支援を必要とする人を一箇所に集め市民サービスをするコンパクトシティについて、支援する施設では市が指定した場所以外では許可が下りない。ホームレスの問題も住む場所が暗に限定されていく仕組みを幸子は暴いていく。そして幸子は１１月に告示される市長選に立候補しようと決めたと宣言する。
　選挙まであと２５にちでは、現市長は５７％、黒松幸子は４０％だった。
市長が沼島ハイランド構想開発で発掘を行ったところ、紀元二世紀ごろのものとみられる出土品が発見された。が、市長は計画が進まなくなるのを懸念し遺構は破壊されてしまった。しかし、出土品の一部は学芸員の篠原の手元に保管されていた。それが表面化した。
　重松幸子は８２万票、現市長は１５万票に足りない結果で新市長が誕生した。
2052 犬の掟
Date: 2016-02-20

おすすめ度　★★★

佐々木　譲　　新潮社　発行：２０１５年９月

　 蒲田駅東口近くの稲森会系小橋組の幹部深沢隆光55歳、組のナンバー２であった人物が死んだ。死因は射殺による失血死。死体は手錠が掛けられていた。
　波多野は門司と組んで捜査に当たる。死体が載せられていた銀色のベンツを調べる。
　鎌田にはヤブイヌと呼ぶ半グレグループのボス薮田雄平34歳がいる。蒲田駅東口でガールズバーを経営している。裏で闇金融や振り込め詐欺がしのぎだ。
　松本は2年前のファイルを見せられた。諸橋謙三52歳の酔って運河に転落死して溺死した。両手首に擦過あと、金属による拘束？と書かれてあった。品川署のものだ。まだ、刑事部内部に悟られていない。解剖医、一課長、伏島だけが知っている。松本と綿引に隠密の捜査を命じられる。
①平成23年、大内惠子が飛び降りた事件　品川署
②平成25年、室橋謙三の変死体事件　大森署
③平成25年、女性死体遺棄事件　大森署
④今年、深沢隆光射殺事件　蒲田署
隠密の二人は、この事件に関わった警察内部の人間を当たる
そして、波多野を疑った門司は、波多野から４人を殺したことを告白される。直後、波多野は引き金を引く。門司孝夫は殺された。
波多野は拳銃を持ったまま失踪する。
綿引は内田と波多野で室橋と深沢の件は結びつく。門司は波多野に気づいたのだろう。二つの事件とも関連している可能性もある。
内田と波多野は高校の同級生だ。波多野は7年前に殺人犯に膝を打たれ、後頭部を怪我した。それからリハビリと治療で回復できたが、死んだようになった。
　波多野は7年前に死んだも同然だったのだ。その場所に波多野は来ると松本は感じた。新木場の倉庫の群れに波多野はいた。
松本は波多野に出頭するように言う。波多野は門司を含めて5人を殺したといった。そして、お前が俺を殺してくれと松本に言う。しかし、松本は撃てないという。
だが、銃声がして波多野は倒れた。綿引が拳銃を構えていた。
2051 孤狼の血
Date: 2016-02-14

おすすめ度　★★★★★

柚木　裕子　　ＫＡＤＯＫＡＷＡ　発行：２０１５年８月

　呉原東署の管内で暴力犯罪が多発している。拳銃不法所持、大麻、覚せい剤、違法賭博などだ。課長は「各自、防弾チョッキを装着するように」と指示があり家宅捜査の手はずを念入りに説明した。朝６時５０分、７時出発だ。日岡秀一２５歳は交番１年、機動隊２年、広島大をでてキャリアにはならず、平巡査からのスタートだ。日岡は今日、呉原東署に赴任したばかりだ。捜査二課だ。今年で４４歳になる班長の大上章吾が直属の上司だ。大上は受賞歴もトップだが、訓戒処分もワーストだと言う男だった。署内で「ガミさん」と呼ばれる。
　上早稲二郎３３歳が今年の春から行方がわからない。呉原金融に勤めていた男だ。家出人捜査願いを出したのは上早稲の妹潤子３１歳で美容師だ。３月末に呉原金融を無断欠勤でクビになっていた。
　稲二郎は高校卒業後、信用金庫に就職したが、５年でクビになっている。ギャンブル好きで勤務態度も悪く退職を勧告された。その後、マルチ商法に加担し会社が摘発され２年の刑を努め、その後、呉原金融に就職していた。
　大上は加古林組の吉田滋に的を絞り強引なやり方で口を割らせる。大上が５００万円の束をエサに。それによると、組員が上早稲から金を引き出させていたが加古村が金庫を確認すると言う。組員は加古村の逆りんに触れるのを恐れ、上早稲が持ち逃げしたと報告する。案の定、加古村から上早稲を連れて来いと言われる。そこで、上早稲を殺し首だけ加古村に確認させた。上早稲の身体はどこにあるかわからないと言う。
　吉田は５００万円を持ち、大上に何度も頭を下げながらどこかへ消えた。
日岡は大上のやり方を見ていた。そして「わしらの役目はヤクザが堅気に迷惑をかけんように目を光らせることだ」という。
　令状を取って上早稲が殺された金庫の捜査をする。ルミノール反応が出た場所を調べる。
上早稲は無人島の赤松島の一本松のそばに布団袋にくるまれて埋められていた。直後、大上に自宅待機の命が下る。吉田に渡した５００万円は元尾谷組の野津が一之瀬に純忠見舞いに渡そうとしたものだった。
　苗代逮捕で上早稲拉致事件、殺害事件、発砲事件など一連の襲撃事件が解決した。しかし、大上はまだ事件を追っていた。
　大上が水死体で多島港から発見される。この一ヶ月一緒にいた日岡が確認する。犯人は五十子会の関係者だろう。遺体は睡眠薬を飲ませて海に放り込む手口だった。大上は睡眠薬に頼る奴ではない。間違いなく殺しだ。
　日岡は晶子の店に行き、大上の死を知らせなければと思った。晶子はすでに他のものから電話ですでに知っていた。そして、冷蔵庫の裏から出した風呂敷包みをみせ、日岡に渡す。「何かあったら、日岡に渡してくれと頼まれた」という。大学ノートと現金２千万円が入っていた。
　ノートには警察の不祥事が警察上層部の醜聞やもみ消し汚行がつづられていた。署長が異動になる度に受け取った暴力団からの餞別金が詳細につづられていた。
　このノートがあったから、上層部は大上に手を出せなかったのだ。だが、大上の死には二階級特進も功績者に認められた賞恤もない。酔いつぶれて海に落ちたとされている。
　日岡は４月に上司から呉原東署の大上巡査部長の動向を探れと命令をされたのだ。スパイだった。しかし、晶子から見せられたノートから、大上はそのことに気づいていたと知った。
　大上の行動を記したノートを黒く塗りつぶし、それを上司に渡す。上司の嵯峨は激怒するが日岡は決心していた。大上の血を受け継ぐ覚悟に揺るぎはなかった。
2050 うそつき、うそつき 2月23日(火)
Date: 2016-02-10

おすすめ度　★★★★

清水　杜氏彦　　早川書房　　発行：２０１５年１１月

　フラノは１８歳。この国では誰も彼も首輪をつけている。央官が国民に義務として首輪をつけた。つけない人間は処刑罰の対象になる。
　首輪を除去使用とする動きを探知すれば破壊試行を探知し、急速に締め付けを開始し、装着者を窒息させる構造になっている。装着者は最大１３ヶ月前まで遡って過去の発言を確認することができる。
　フラノは２年前ユリイという８歳の少女の首輪の除去を担当した。ユリイは母親から虐待されて育った。
　首輪は装着者からランプの色は確認できないが、うそをつけば赤く発色する。赤と青が交互に点滅するときは心が不安定な時だ。
　フラノは師匠のところで首輪の除去を学んだ。首輪の構造も社によって違う。いろいろ収集して除去の勉強をした。外国からの入国者も首輪をはめられる。それをしなければ入国できない。
　央官は首輪を外したがる人は犯罪者に違いないと考えている。首輪は時々、サイズ調整もされるし、バッテリーの交換も必要だった。それは６週間持つものもあれば２週間のものもある。そのたびに「まごころ保全センター」でバッテリーを交換する。バッテリー交換にこないと違反者として手配の対象になる。
　フラノは首輪の除去の依頼を受ける。その人とは事前に対面するようにしている。そして、質問をして首輪のランプの色を見ていた。赤が出るものには死んでも仕方がないと思ったりする。
　除去作業はバッテリーカバーを外してから４分２０秒以内に終了させないといけない。
　　３０歳後半の医師は地下倉庫で首輪を外すことにした。首輪を外したい理由は訴訟対応だった。自分の見た患者の妻は医師にたった２千円を握らせた。この夫婦が経済的に困っていることも知っていた。でも２千円で医師を買収しようとした。だが患者は死んだ。発作を起こした処置を当直医師に任せっぱなしにしたという。
　フラノは話を聞きながら作業をとめてしまった。「今の僕はあなたがこれ以上生きなければいいと思っている」と告げる。あと２０秒で首輪は締まるだろう。
　これで人を死に至らしめたのは４人目だった。最初のユリイも失敗した。かつての友人のハルノも死に至らしめた。ビルの屋上で首輪を外してやった男も「外した後、ダミーを取り付けるのを忘れた。いずれ抹殺されるだろう。
　ハルノはユリイの首輪を外してから３ヵ月後にやった。その間に８人の除去に成功していた。１０人目がハルノだった。フラノが１６歳のときだ。
　ハルノは１６歳で前科もあった。両親は亡くなって、１４歳の妹と暮らしていた。父が生前に設けた大きな家に住んでいた。首輪除去しようとしたが、外すための空白を捉えることができず、戸惑った。もう時間がない。ハルノの悲鳴が呼び声が、逃げるフラノに覆いかぶさるが、ハルノは父親と同じようにはずされない首輪に締め付けられていった。
2049 あなたが消えた夜に
Date: 2016-02-04

おすすめ度　★★★

中村　文則　　毎日新聞社　　発行：２０１５年５月

　火事の夢を見た。そこへ係長から「死体が出た」と連絡が入る。市高署強行犯捜査係の中島は現場に駆けつける。
「コートの男」とは連続通り魔事件のマスコミがつけた名前である。最初の被害は竹林結城４０歳がコンビニからの帰りに刺された。一週間後、主婦の３６歳が切りつけられた。悲鳴を上げたことから途中で犯行をやめ犯人はゆっくりその場を後にした。マスクをしグレーのコートを着ていた。コートの男とはこのときついた。
　そして今回だ。被害者は真田浩二４１歳はスポーツクラブなど三店舗を所有する社長だ。
２０代の若い女性刑事の小橋とコンビとなって中島は現場エリアの聞き込みに回る。小橋のほうが道を聞くような言葉を書け男に近づく。男は足元をみるとスニーカーの紐に血がついていた。
　コートの男だと遺書を残して精神科医の米村辻彦４５歳が服毒自殺した。遺書は彼らを殺した凶器のありかを書いてあった。自殺した医師はコートの男とは風貌がかけ離れていた。
　診療報酬明細書の記録と保険証を提示した記録、カルテを見ていて初川綱紀がうかびあがる。真田が経営していたバーの従業員だ。カルテは破棄されていた。
2048 総理にされた男
Date: 2016-02-01

おすすめ度　★★★★★

中山　七里　　ＮＨＫ出版　　発行：２０１５年８月

　　内閣総理大臣真垣統一郎の真似をする加納慎策は、演説のたびに慣習が喜ぶことに手ごたえを感じていた。
　憲政史上初めての政権をもぎ取った野党民生党だったが、高価なオモチャを与えられた幼児よろしくまともに機能せず、国民から失笑と非難が集中した。
　衆議員選では予想通り国民党が返り咲きその国民総裁が真垣統一郎だった。父親は総理大臣を務めた政治家だったが、数年前に急逝し、その秘書だった統一郎が地盤を引き継いだ。父親以上のカリスマ性を持ち、あれよあれよと時代の寵児ともてはやされた。
　真垣は加納慎策は瓜二つだった。慎策は劇団の主宰から真垣のものまねで公演の前説をしないかと持ちかけられた。そして喝采を浴びるようになった。これが予想外にあたった。慎策は前説が終われば、大道具の仕事がまっている。下落合の！ＤＫで医療職をしている珠緒を暮らす。その前説はノーギャラだった。
　その慎策が男に連れ去られる。連れて来られたのは首相官邸だった。
内閣官房長官樽見政純が対応した「国家の一大事だ。しばらく真垣総理を演じてほしい」と言う。総理は意識が回復していない。真垣には家族と呼べる人はいない。
　慎策が記者会見するが記者たちは偽者と気が付かない。その直前にあった党三役でさえも疑いを持つことなく、総理の早い回復を喜んだ。
　そして先日失言した議員を処分と称して、久我山議員は少子化担当副大臣に、橋爪議員は消費者担当副大臣にした。それには記者も驚く。そして「二人が真に国民のために骨をおっているのか、それとも信義をおろそかにしていないか見極めるのもあなたたちの役であると思います」と言う。誰も異論は唱えなかった。その後の財務大臣との会合も何とか切り抜けた。慎策は真実を知る樽見一人では不安であった。もうひとり参謀か相談役をつけてほしいと城都大学の風間歴彦を指名する。
　風間は総理官邸に連れてこられた。６年ぶりにであうも風間は慎策がわからない。そして「役者志望の慎策だ」と言うと「何で真垣総理の格好をしているのだ」と驚く。
　樽見は風間のことを調べたが、見てくれは野卑だが学内および斯界での評判も悪くない。言ってみれば野に賢人ありを体現する人物だった。
　しかも樽見が驚いたのは慎策の機転の早さだった。不祥事を逆手に取り、２議員のクビを繋ぎとめたばかりか、あの現場処理能力に秀でた人間にしかできない度胸を持っていた。これは思わぬ拾い物かもしれないと思った。
　アルジェリアの日本大使館がテロリストにより占拠される。２７人の法人がテロの脅威にさらされている。慎策はその対策を講じようとする矢先、樽見が心筋梗塞に見舞われ死亡する。
　慎策は自衛隊特殊部隊による大使館強行突入を行う。「総理は既成事実の積み重ねで平和憲法を無効化しようと目論んでいる」と報道される。
　大使館で拘束されていた人質たちは帰国した。しかし自分の判断で６人もの人が死んでしまった。これについて総理として記者会見をした際に「ＮＨＫ総合のチャンネルを借り、このままわたしを内閣総理大臣として信任されるなら青ボタン、不信任なら赤ボタンを押す。翌朝８時で締め切り、その時点での数値を最終とする」この会見にキャスターも冷静さを失っていた。
　数は不支持が微妙に多かったが、最後は支持票が不支持票を倍近く退けて真垣の信任が明らかになる。

2047　 THE　BLACK COMPANY
Date: 2016-01-29

おすすめ度　★★★

江上　剛　　　光文社　　発行：２０１５年１１月

　　母親は自分が中二のときに離婚したが、高校ばかりか音楽の専門学校まで通わせてくれた。感謝している。だが自分は非正規職員でおまけに昨日から無職だ。勤務していたコンビには閉店した。
　父親からは離婚後連絡がない。専門学校を卒業してまともな職に就けない。卒業して５年が経っている。
　新しい店がオープンした。ふらりと入るとハンバーガー店だった。そこへ高級車で乗りつけた男が入店する。店員の態度が固まっている。男はサングラスをはずし、接客を始めた。きびきびとそつがない。やがて「ご来店ありがとうございます。社長の尾関克也です」と挨拶し、客のそばにやってきて「何かご要望はありませんか」と聞いて回っている。自分のところにもやって来た。そして正規社員募集の張り紙を指し「失礼ですがご関心はありませんか」と話しかける。そして外に止めてある車も見せる。３８００万円だそうだ。「あなたも頑張ればこんな車の一台、二台・・・」と言う。水野恒太はすぐに応募の書類を送付する。面接は新宿にある高層ビルの中にあった。ヤンキーバーガーチェーン店本社だ。とりあえず３ヶ月試用期間で採用になった。月給は２１万６４００円。８０時間の固定残業性だという。どういうことかは説明は受けなかった。
　研修はスパルタで始まった。間違うと指示棒で尻をビシッとたたかれる。そしてＡ駅前店に配属になった。１ヵ月後、大溝店長が倒れた。店長はそのまま死亡した。急性左心機能不全だった。夜の十時の閉店後も仕事をしていた。家にも帰らず店に寝泊りしていた。
　店長は大学を出て高校の講師をしていた。その後ヤンキーバーガーに入社した。３ヶ月はアパートに帰っていなかった。
　そして、水野が店長となった。まだ試用期間中だった。Ｂ駅前店に配属されていた一緒に研修を受けた如月雅也が水野のアシスタントマネージャーとしてＡ駅前店に配属された。
　店長になってわかったが、人件費を売り上げの２０パーセント以内に収めるように指示されていた。指示を守らなければ店長は首だ。何でもかんでも店長にしわ寄せがくる。店長は３０万の給与からバイトの人件費の超過分を負担していた。それだけではない、回数券も店長は買わされる。強制収容所のようだ。
　店長になって５ヶ月、計画達成で表彰された。亡くなった大溝の母の来訪を受ける。過労死として裁判を起こしたという。如月は大溝の裁判をひそかに応援していた。
　１２月アイスケーキのノルマ達成がならず、３００個が売れ残った。１５０個買っても３０万だ。店長は結局５０個を買った。
　そこにヤンキーバーガーＡ駅前店で買った虫歯入りバーガー販売中というツイッターがスマホの画面に飛び込んできた。数十人の若者が見せの前で写真を撮っている。これを見て水の店長は半額サービスタイムを呼びかけ、客を呼び込む。客足は戻った。
　Ｋ町通りの店長が賃金の立替などで消費者金融に金を借り、立替がかさんでレジの売上金を盗んで失踪した。水野も店長になって１日も休んでいなかった。
　異物混入の件で尾関社長と研修を案内した菊川玲子がテレビで謝罪していた。その場で大溝店長の月３００時間を越える残業とほとんど１年中店舗に泊り込んで過酷労働を強いたというビラを手に記者からの質問が飛んだ。「大溝は普段から健康状態が悪く、うつ病を発症していた」と社長は切り返す。
　後日、如月は裁判で大溝の様子を証言する。テレビ局が取材に来る。ブラック企業、ブラックチキンをあげているとまたしてもツイッターをにぎわす。ブラックチキンは大人気で行列までできていた。考案したのは異物混入をツィートした倉田だった。倉田はヤンキーバーガーの水野店長を応援していた。
　社長の尾関はこのブラック企業とたたかれ失業する。社長もまたアメリカの本社からのロボットだった。
　水野は喜ばれるバーガー屋にと意気込んで仕事をする。
2046　 砂の街路図
Date: 2016-01-27

おすすめ度　★★★★

佐々木　譲　　　小学館　　発行：２０１５年８月

　岩崎俊也は石造りの西洋建築が多く残る明治期の港町、大正時代の亡命ロシア人が多く移り住んだ港町に着く。
　１２歳のとき父が北海道の地方都市に行き死んだ。酒も飲まないロシア文学を読むが大きな断念を抱えて生きていたように見えなかった。酔って運河に転落したと警察から連絡があった。母は以来口数が少なくなった。明るさが消えた。それが２０年間続いた。母の４９日をすると父が事故を起こした運河に囲まれた小都市にやって来た。運河町ホテルに泊まる。
　かつて父は郡府法科大学漕艇部にいた。その場所にも足を運ぶ。そして大学図書館である資料年鑑の１９６８年版に父の名前を見つける。岩崎裕二。１９７０年出版にはない。
　市立図書館に行き２０年前の縮刷版とマイクロフィルムを見る。短い文で死亡を報じられていた。父が死の直前に酒を飲んだという店に行ってみた。店長の佐久間は３０年以上この店をやっている。父の溺死のことも覚えていた。そして母もこの街の法科大学の卒業生だと教えられる。父と母はこの佐久間と同期生だった。父は店長の妻の葬儀にでるためにやって来たという。そして夜、この店で流しのバイオリンをリクエストし２０曲をひいてもらったという。
　俊也は私立高校の国語の教師だ。バイオリンを弾いてくれた野口にも会う。父のことを聞いてみるが思うほどの情報は得られなかった。
　郡府日日新聞社を訪ねる。父に佐久間の妻の死を知らせたのは誰だろう。父と佐久間はあまり親しくなかったという。佐久間の妻美加はうつ病だった。
　法科大学で教授だった牧野邦彦に会う。８０歳には見えないかくしゃくとしていた。
　美加は集団レイプを受けていた。そして父は保身のためにつまり犯罪の成立に手を貸し、一人の女学生の人格崩壊させた。誰かが偽証したのではない。父が沈黙していた。父はそんな自分をずっと許せなかったのだろう。
　美加の投身自殺を聞いて自分のせいだと責めたことだろう。
　父へのわだかまりは薄れ、たった二日しかいないのにこの街にもっといたいと、これほどまでに真剣に願うのだろう。なぜこうも惹かれてしまうのだろうと思った。
2045　 アルテーミスの采配
Date: 2016-01-25

おすすめ度　★★★

真梨　幸子　　　幻冬舎　　発行：２０１５年９月

ＡＶ女優になるきっかけで一番多いのはお金だ。中にはセックス中毒と言うのもある。それは性依存症で立派な精神疾患だ。ＡＶ女優も最初は羞恥心を見せるも慣れてしまう。スカウトマンにだまされて連れて来られる者もいるが自らすすんでドアをノックする者もいる。
　マルチタレントの西園寺ミヤビは元はＡＶ女優だ。５年ほど前からテレビに出まくっている。官能小説の出版もいきなり１０万部を出版する。
　今回の企画は「アルテーミスの采配（仮称）」で５人の女優さんをインタビューし、ライターが書き起こす。それを元に西園寺ミヤビがエッセイを書く。諸般は３万部だ。
　その一人に元女優の鮫川しずかに依頼した。５０歳を超えた女性だ。最初は三人のおじさんにレイプされ強姦で３Ｐプレイをビデオに撮られ一万円をもらった。誰にもこの話はできなかった。二本目にも出た。そして三本目と。抵抗感がなくなった。
　東城ゆなは企画単体女優で日当３０万から８０万だ。２４歳で１５８センチの小柄。二重まぶたを手術したばかりのような痛々しさだ。毛染めを繰り返し髪も痛み、声もしわがれてかすれていた。並玉のＡＶ女優だ。ＡＶに入った動機はエッチが好きだからだという。ゆなは歯科衛生士の国家試験に３年前に受かったという。今は男性でもなれる資格だ。３年生の歯科衛生士の学校に通った。本名はヤマダサオリだと言った。母は熊本で暮らし父はいない。離婚したのだ。母は看護師で自分は奨学金と教育ローンで学校へ行ったと。今はその二つの返済で歯科医に勤めるだけでは生活できない。ＡＶの道に入った。
　ところがインタビューを受けた１ヵ月後に東城ゆなが死体で発見された。新聞報道では本名は馬場映子となっていた。
　井草明日香も元ＡＶ女優だ。彼女は１万本も売れればヒットといわれるなか、５万本を売り上げた。出演本数は１６本で売り上げは百万本を越える。ＡＶ引退後はマルチタレントとして芸能界へ進出した。「夏休み少女組」というアイドルで売り出したのが１７歳のとき。３年目に２０歳なのに、本当は２６歳とうわさを流され、スキャンダルの暴露合戦で家出少女だと完全にはめられた。そして３ヵ月後、アスカは井草明日香と名を変えＡＶ女優になった。ＡＶ１本は１千万円。「アスカという人」という本を出し１２０万部が発行された。明日香はＡＶを引退し、ワイドショー番組のＭＣに抜擢された。れきっとした芸能人の仲間入りを果たした。
　「アルテーミスの采配」という企画はＡＶ女優のインタビュー集ではない「アルテーミス」という名前の闇サイトに迫るのが目的だった。この闇サイトはクライアントは主にＡＶ女優の家族または関係者らしい。ターゲットはＡＶ女優。つまり家族によって殺しのターゲットにされていた。殺すというのが消えてもらうことだ。
　そして西園寺ミヤビも遺体で発見される。
2044　 水曜日の凱歌
Date: 2016-01-22

おすすめ度　★★★

乃南　アサ　　　新潮社　　発行：２０１５年７月

　東京は広かった。今となっては木だったか電柱だったかも区別がつかない。ほこりっぽかった。鉄さびみたいな匂いがする。焦げ臭いにおいもしていた。
　二宮鈴子は母と住んでいた家のあたりに行った。地獄さながらの光景が広がっている。煙がくすぶって異臭が漂っていた。死体もころがっていた。鈴子には５歳の妹千鶴子がいたが母の背で人ごみにまみれもみくちゃにされながら逃げ惑ううちに背中が軽くなっていた。千鶴子を探した。それから何日も掛けて探した。見つからなかった。
　父は戦争が激しくなる前に事故で死んだ。光子姉は生まれたばかりの子と一緒にあっさりと逝ってしまい、肇兄は満州で戦死した。匡兄はどこで戦っているともわからない。
　宮下のおしさまが目黒で借家を見つけてくれた。
二宮鈴子は昭和６年８月１５日生まれだ。東京の空襲が本格的になったのは昭和１９年の秋ごろからだ。鈴子が１３歳のときだ。２０年の３月には家も妹も失った。暑い夏の日、「日本が負けた」と母が言った。鈴子の１４歳の誕生日だった。水曜の昼下がりだった。
　母つたゑは宮下の叔父が見つけてくれた大森海岸に引っ越した。そこは大きな工場のような寮だった。
　日本女性を守るための防波堤になる女性たちの寮だ。アメリカ兵たちを迎えるための。母は英語ができた。そんな女たちとアメリカ兵が問題を起こしたら英語のわかる者が必要だった。叔父が見つけた仕事だった。女たちは百人まで増やすそうだ。
　鈴子は母によって男の子のような格好をさせられた。アメリカ兵がやって来た。鈴子たちはまた引っ越した。寮の女性たちは昨日だけで多い人は２６人も相手にしたそうだ。それが初めてだった女の子は鉄道に飛び込んで自殺した。
　また引っ越した。もとは小さい町工場だった二階の四畳半と六畳が新しい部屋になった。大家は老夫婦だった。しかし、すぐまた引っ越した。今度は熱海だ。大森海岸のあたりはガラが悪くなったのだ。引越しは１１月の半ばだった。大森海岸には３ヶ月しかいなかった。
　熱海も昼夜関係なく男の人に声をかけたり、腕を引っ張る商売女がいた。熱海は空襲を受けていなかった。母は鈴子のことより自分のことに夢中になっていた。鈴子は学校へ行くのをやめる。母はディヴィット・グレイ中佐と付き合っていた。母が勤めていた慰安所は閉鎖された。原因はＧＩたちが性病にかかるということだった。
　鈴子は箱根の女学校へ通うことになる。鈴子は学校の寮に入る。買い物に出た東京で、偶然本所に住んでいたころの友達の母に会う。勝子の母だ。勝子宛に鈴子は懐かしくて手紙を書く。そして勝子が訪ねてくる。勝子は右腕を失くしていた。再会に喜ぶ二人。
　勝子の母は芸者をしていた。一緒に熱海に来て、温泉に入るとお座敷の仕事を見つけ、熱海で暮らし始める。鈴子の家に居候する。母は勝子にブラウスとカーディガンを買ってやる。落ち着き先が見つかるまで離れに住むことになった。
2043　 琥珀のまたたき
Date: 2016-01-20

おすすめ度　★★★★★

小川　洋子　　　講談社　　発行：２０１５年９月

　大きな声を出すこと、余計な物音を立てることは「ママの禁止事項」だった。彼の声はとても小さい。遠くに誰かいるときは近くに来るまで待っている。
　「今日限り、前の名前は忘れなさい」とママから言われた。それまで住んでいた家を引き払い父の古い別荘に越した。姉の名前はオパール。弟は瑪瑙、自分は琥珀となった。
オパールは１１歳、弟は５歳で琥珀は８歳だった。
　母親は父親とは正式に結婚せず、一度も一緒に暮らしていない。父親はクモ膜下出血で倒れた。父親は出版社を経営していた。倒産の痛手から立ち直れなかった。別荘が手切れ金代わりだった。
　ママは門を鍵で閉ざし「外には出られない」と言った。子どもたちは魔犬のせいだと思った。弟より小さかった妹が犬になめられた翌日死んだことがあった。
　電話もテレビも新聞も知らず、学校へも行かない生活が始まった。ママが作った時間割どおり、規則正しく課題をこなして行った。教科書は父親の書斎に残っていた大量の図鑑だ。ママは温泉療養施設で付添婦として働いてママだけが壁の外に出られた。
　ある日、ママはボイラーマンさんから借りたロバを連れてきた。庭の草を食べてもらうためだ。期待以上にロバはよく働いて約束の期間で食べ終えた。庭は全くの別世界になった。ママはロバを連れて行った。ロバは毎年やって来た。
　三人は１４歳、１１歳、７歳になった。弟が水疱瘡になった。苦しんだあと完治した。
夏には庭が沼に変化した。大量の雨が降り自然の池ができた。子どもたちはその中に入って遊んだ。池の中で小石を見つけた。乳白色の石はオパールだといった。琥珀色の石や縞模様の医師も見つけた。
　アンバー氏の部屋に入った人はみな知っていた。窓辺に小石が並んでいることを。何の変哲もないただの石だが、誰もそれをぞんざいに扱うものはいない。
　庭の内側に来て何年も過ぎたが彼らはいつしか計算するのをやめていた。子どもたちは大きくなった。
　オパールは１６歳、琥珀は１３歳、瑪瑙は９歳だった。３人のとって一番の恐怖は１ヶ月に１度か２度押される門の呼び鈴だ。まさに魔犬の叫びだった。足音を忍ばせてテーブルの下に身体を寄せた。玄関から一番遠く視界をさえぎる書斎に集まった。
　ある日、ヘリコプターが上級を通過した。その後、自転車の物売りがやって来た。野菜や魚を自転車に積んでいた。それが、子どもたちとよろず屋ジョーとの出会いだった。子どもたちは「ママがいるときは絶対に来ないでください」と言った。ジョーは承知した。
　子どもたちはお金を持たずその上、母親に会えないから品物が売れる見込みがないがジョーは来た。ロバ以外誰も入らなかった庭に。
　そして、「古びた別荘に６年８ヶ月もの間、実の母親に監禁された兄弟。１７歳の姉は行方不明、１４歳の兄と坊やがいた。母親は階段の手すりで首をつっていた」と報道される。
　姉は母に殺され、庭に埋められたとされたが、庭には何もなかった。
　何年か経ち、「昨年病死された弟さんの遺言により生き別れたお兄様を気にかけて、この石を兄のもとに返してほしいとの遺志でした・・・」と小石が送られた。
2042　 ナイルパーチの女子会
Date: 2016-01-14

おすすめ度　★★★★

柚木　麻子　　　文芸春秋　　発行：２０１５年３月

　ナイルパーチとはスズキ目アカメ科アカメ属の淡水魚だ。強暴性を持った要注意外来生物でアフリカ原産の魚だ。最大２メートル、２００キロにもなる。
　商社に勤務する志村栄利子は入社８年目の３０歳。実家から仕事に行く。始業一時間前には出社してメールのチェックや準備をする。この部署で女性の正社員は１０歳年上の主任と２人だけだ。あとは非正規の職員だ。栄利子はナイルパーチの担当だ。
　栄利子は「おひょうのダメ奥さん日記」というブログが気に入ってよく見ていた。どうやら近くに住んでいるようだ。
　丸尾翔子は３０歳。月に２回しか休みが取れないスーパーの店長の賢介と結婚している。おひょうというネームでブログをやっている。そう栄利子が見ているブログだ。
　翔子のブログを出版社の花井里子が訪ねてくる。ブログが自然体でいいという。書籍化しないかと言う話である。栄利子は出版者と話すおひょうさんを耳にして、とっさに名刺を差し出していた。いつも見ているブログの本人に渡した。
　後日、ファミレスで二人で会う。翔子と栄利子。翔子の話を聞きながら栄利子はするすると心が解き放たれていくような気がした。
　今度は「にっこりずし」で会う事にした。
　翔子の母は翔子が高校のときに男と出て行った。翔子は家に帰らないで男友達の同級生宅を転々とした。弟はコンビに弁当、兄は外食、父は一人で酒を飲んで、自然に一家はばらばらになった。翔子は大学に入学と同時に家を出た。入れ替わりにホステスだった５０歳半ばの麗美さんが家に来てくれた。兄は再婚に反対し出て行った。
　栄利子は出勤前に翔子に会いに行った。たった３回しかあっていないのに、しかも住所も教えていないのに栄利子の訪問に驚く。夫の賢介も栄利子を警戒していた。
　１０日ほどして栄利子は翔子と回転寿司であった。栄利子はマンションに行ったことをわび、翔子は黙って東京を離れたことを謝った。翔子の田舎へ帰っていたのだ。
　父の愛人の麗美さんが出て行ったという。実家の中はゴミだらけだった。けれど、その話はしなかった。翔子は栄利子を激しすぎると、どう考えてもストーカーそのものだと思った。友達になれると思ったが重い。
　そんなことは気が付かない栄利子は翔子が行くであろうファミレスの前で待っていた。そしてブログに張り付いて自分のプライベートを盗み見していると思っている。一方栄利子は全世界に自らブログを発信しているくせに危機感が希薄なのだろうと思っていた。
　栄利子は翔子にずけずけとものを言う。翔子は「もう連絡しないで」と店を出て行く。
　栄利子は同性に疎まれているのも事実だ。二人っきりで過ごすと相手が急によそよそしくなる。
　栄利子を訪ねた翔子は、そのマンションで小学校から同級生だったと言う栄利子の幼馴染の圭子と会う。圭子に栄利子の事を聞いてもらう。栄利子はタンザニアに行っているという。
　タンザニアから戻った栄利子は翔子に「もう一度親友になってやり直したい」と言う。そして１泊二日で箱根に行く。しかし、栄利子は翔子と親友になるのはやめようと思った。携帯の情報を消す。この先も友達はできないだろうと思った。
　翔子は栄利子から解放された。田舎へ行き、手のつけられない家を便利屋に頼もう、父を施設に入れようと思った。
2041 闘う君の唄を
Date: 2016-01-10

おすすめ度　★★★★

中山　七里　　　朝日新聞出版　　発行：２０１５年１０月

　埼玉県秩父郡神室町の私立神室幼稚園に赴任してきた喜多嶋凜。７０歳前後の京塚正隆園長に迎えられる。
　凜は年少組の担当だ。早速に遠足の目的地が不満とのクレームの電話が入っていた。年少組は４０人で２０人ずつ２組になった。
　保護者会に出席した。遠足は羊山公園から自然博物館に変更された。凜は開いた口がふさがらなかった。全面降伏ではないか。遊具の増設費用も英語教育の導入費用に変更された。保育のほかに英語教育だ。教員の負担は増える。こうした保護者会が力を得たのは１５年前の当園の園児３人殺された。３人目の犠牲者を土中に埋めるところを現行犯逮捕された運転手の上条は死刑判決を受けた。以来円の運営は保護者会の管理下におかれ、園の決定事項は保護者会の承諾が必要になった。
　凜は藍斗が瑛太を顔面パンチしているのをやめさせようと平手で藍斗の頬をたたいた。泣き喚く藍斗に言い聞かせる凜。しかし、母親は「ウチの藍斗に何をした？」と食って掛かった。園長とほかの教員が間に入ってその場は納まった。
　秋になった。保護者会から劇の演目は「白雪姫」をお願いしますと言う。凜は白雪姫役とお妃役の負担を思って口を挟むが、白雪姫は４人、お妃は３人、王子様３人、魔法の鏡３人、小人が７人で２０人のキャストを保護者が用意して台本までできていた。この執念に凜は驚く。凜は別の方法で白雪姫をやる。凜は登場人物全員を主役として扱う。役のない７人のスタッフにもステージで一人ひとり紹介し、全員に見せ場を作った。
　１５年前の事件で刑事が聞きに来る。園長は上条運転手は子ども好きで子煩悩に見えたという。上条死刑囚は２００４年８月に拘置所内で病死した。多臓器不全だった。
　新しい年度の入園説明会で、教員を紹介している際に、凜に向かって「嘘よっ」と言う声。凜の同級生の美穂だった。「彼女は本名が上条凜です。上条運転手の娘だ」と言う。説明会は一転紛糾の場となった。
　保護者会臨時総会が始まり、凜は辞任を要求される。園長は「本人とは関係のない係累の事情での人事権の行使は裁判でも負けてしまう」と凜をかばう。保護者は当分登園を見送ると言う。凜は「わたしは辞めません」と言う。
　そこへ刑事がやってくる。犯人は女の子をさらって凌辱すると口封じのために殺した。２回目は返り血の始末が大変なのを学習し、首を絞めたと言う。
　刑事からその話を聞き、凜は父親が犯人ではないと言う。園児の大河くんを探しているとき物置小屋に古い黒い血のあとが残っていた。犯人は京塚園長だと刑事は言う。
　体液と延長の毛髪がＤＮＡで一致したと言う。刑事は凜に「再審請求をするのか？」と聞く。「母と相談して決めるが、私はやる気満々です」と言う。私はもう逃げることはしたくないと凜は言った。
2040　 ヒポクラテスの誓い
Date: 2016-01-06

おすすめ度　★★★★

中山　七里　　　祥伝社　　発行：２０１５年５月
　
　研修医栂野真琴は、法医学教室光崎藤次郎教授に師事する。真琴に厳しい言葉を浴びせる。「選り好みをするな、患者の生命を背負う覚悟もなく検体を見て吐くな」という。
　キャシー准教授は死体を好きになれと言う。真琴はその言葉に驚く。
教授は浦和の河川敷に連れて行き、５４歳の被害者の死体を検死する。死体は解剖することになった。血液は凝固していない。急死した特徴だ。
　古手川刑事は真琴をみて「両先生みたいに死体がすきと言うタイプではない、なんで法医学者になったのか」と聞かれる。被害者宅に行く。二階建ての瀟洒な邸宅だった。死ぬ前夜、中学の同級生二人と一緒だった。二人は被害者から百万と五十万を借りていた。被害者は中学時代一緒だった。いじめられてパシリなどをさせられていた。それが、一代で建設会社の社長になった被害者は、４０年ぶりに地元に戻った。地元農家は崖っぷち。被害者から「貸した金はくれてやる。そのかわり犬になれ、三回まわってワンと言えと。それでキレた二人は睡眠薬を入れた酒を飲ませ、河川敷に放置した。夜半に雨が降り続いていた。被害者の気管ついていた花粉のＤＮＡから犯人が特定された。
2039　 虚栄
Date: 2016-01-02

おすすめ度　★★★★

久坂部　羊　　　角川書店　　発行：２０１５年９月
　
　人間歌舞伎俳優の嵐富十郎が５６歳で亡くなった。死因は胃がん。毎年９月に人間ドックを受けていた。１０月半ば胃痛を訴え、胃がんと診断された。１２月始めに入院したが、肝臓と腹膜に転移しており、すでに末期の状態であった。手術不能だった。強力に行われた抗がん剤治療も受けたが、こん睡状態のまま帰らぬ人となった。
　凶悪化するがんに対する「最適化治療」を決める政策会議プロジェクトＧ４が発足した。がん治療の４つの方法（手術、抗がん剤、放射線、免疫療法）に、阪都大学、東帝大学、京御大学、慶陵大学が選ばれ、一致協力してがん撲滅を目指すのが目的である。
　日本人の死因トップはがんだ。がんが治るようになると死因のトップは心疾患になる。脳血管疾患が次になる。
　消化器外科が勢力を誇っていられるのはがんがあるからだ。プロジェクトＧ４はがん撲滅を目指すはずが野良犬の縄張り争いと同じだった。
　がん治療は放射線治療こそが最終解決だという青柳京御大学教授、がんの免疫療法はペプチドワクチン以外にもさまざまな治療法があると慶陵大学白江教授、自然免疫を活性化させる方法も有望視されていると言う秋吉准教授。
　ところが「ペプチドワクチン重篤な有害事象」と新聞一面トップに載った。
手術ですべてのがんは治せるわけではないと朱川東帝大学教授はいう。手術で早期がんなら治せるという黒木阪都大学准教授。「抗がん剤ではがんは治らないが手術ではみえる部分を取り除いているだけだ」という朱川教授。
　がん治療プロジェクトＧ４を推し進めていた泉水新太郎総理が逝去した。総理官邸で意識不明で救急搬送されるもクモ膜下出血だった。６８歳だ。
　プロジェクトＧ４に集まった人材は日本トップレベルの医師たちだったが、そのほとんどが「虚栄」にからめ捕られた人たちだった。
　プロジェクトＧ４は中止になった。
　阪都大学病院で黒木潤准教授を相手取り、胃がんの診断のもと手術支援ロボットＨＡＬにより手術を受け、すい臓の損傷により急性膵炎で手術後６日目に亡くなった遺族からの訴えだった。
　放射線大規模治療センター「レイトピア」を敦賀市に建設する計画だったが、地元住民が反対した。「放射性物質漏洩の危険」も新聞で報道され放射線グループはダメージが大きい。
　東帝大学では「がんの凶悪化、電磁波原因説がねつ造」と新聞に大きく報じられる。研究していた赤崎は記者会見するもマウスを恣意的に入れ替えたと言われ、不正だと決め会見に臨んでいる報道陣たち。立腹した赤崎は途中で会見を中止するも、ますます批判は高まってしまった。赤崎は病院の屋上から飛び降りて自殺する。